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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105494
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】超音波接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
B23K20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006356
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】518347587
【氏名又は名称】株式会社LINK-US
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光行 潤
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA01
4E167AA29
4E167BE02
4E167BE03
4E167BE05
4E167BE07
4E167BE09
4E167BE10
4E167BE11
4E167DC02
(57)【要約】
【課題】ワークの種類によらず、確実に接合を行うことができる超音波接合装置を提供する。
【解決手段】超音波接合装置1は、ホーンチップ6とアンビル7との間に重ねられた複数のワークWを超音波複合振動によって接合する。制御装置13は、ホーンチップ6の移動速度に基づいてホーンチップ6を制御する。制御装置13は沈み込みの目標値M3を設定し、ワークWを接合するため超音波振動を開始してから目標値M3に到達するまでの間、当該移動速度を一定に保持することでホーンチップ6の高さを制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、当該第1部材と対向する位置に配置された第2部材との間に重ねられた複数のワークを接合する際、前記第1部材が押圧する方向に垂直な第1方向の振動成分と、当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該第1部材を振動させる超音波接合装置であって、
前記第1部材の前記ワークに対する沈み込み量の目標値に到達するまで、当該第1部材の移動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記ワークを接合するため前記超音波振動を開始した後、前記第1部材が前記目標値に到達するまで移動速度を一定に保持することを特徴とする超音波接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波接合装置において、
前記目標値に応じた複数段階の設定を有し、
前記制御部は少なくとも、前記超音波振動の開始直後の第1設定の目標値に到達するまでの第1移動速度から、その後の第2設定の目標値に到達するまでの第2移動速度へ速度変化させることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波接合装置において、
前記第1移動速度は、前記第2移動速度よりも高速であることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の超音波接合装置において、
前記制御部は、前記設定毎に前記第1部材の振幅を変更可能であることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の超音波接合装置において、
前記第1部材は、ホーンチップであり、
前記第2部材はアンビルであり、前記ワークに接する側の面に先端部が所定の曲率を有する又は先端部が平坦形状の複数の凸部を備えていることを特徴とする超音波接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動により金属、プラスチック等のワークを接合する超音波接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品パック等に用いられるプラスチックや電池部品の電極当を接合するため、超音波接合(超音波溶接)が利用されている。一般的な超音波接合装置は、接合用チップの先端を超音波振動させ、接合対象物に繰り返し圧力を加えることにより接合する。
【0003】
例えば、下記の特許文献1の半導体装置(製造方法)では、上面に金属板が設けられた絶縁層をワーク搬送して台座に載せ、さらに金属板上に金属端子を載せ、超音波ツールをZ軸方向に下降する座標を決めるための認識工程を実行する。
【0004】
次に、超音波ツールをZ軸方向に下降させて金属端子に押し付けて圧力を加え、金属端子と金属板を平行状態に固定し、一度超音波ツールをZ軸方向に上昇させて金属端子から離す。認識工程を再び実行した後、超音波ツールをZ軸方向に下降させて金属端子に押し付けて圧力を加えつつ、超音波振動を与えて金属端子と金属板を接合する(特許文献1/段落0011~0013、図1図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-221527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の製造方法は、超音波接合の際、超音波ツールが金属端子(ワーク)に与える圧力をモニタして制御する。しかしながら、接合開始時に圧力が一瞬低下する現象(いわゆる、静圧抜け)が生じた場合、圧力制御で対応することは難しかった。静圧抜けにより超音波ツールとワークの密着度が低下するとそれぞれが一体で振動せず、超音波ツールがワーク表面を削り、パーティクルが発生するだけでなく、上部ワークと下部ワークとの相対運動(擦れ)が小さくなり、うまく接合できないという問題があった。
【0007】
また、一定の静圧及び振幅のもとで超音波ツールがワークに深く沈み込むと、超音波ツールとワークの接触面積が増加し、それに伴い超音波出力が上昇する。このとき、ワークにそのエネルギーが伝わるが、エネルギーの大きさによってはワークの温度上昇やワーク表面にかかる応力が大きくなり、ワークが破損してしまうことがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ワークの破損等を防止しつつ、確実に超音波接合を行うことができる超音波接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1部材と、当該第1部材と対向する位置に配置された第2部材との間に重ねられた複数のワークを接合する際、前記第1部材が押圧する方向に垂直な第1方向の振動成分と、当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該第1部材を振動させる超音波接合装置であって、
前記第1部材の前記ワークに対する沈み込み量の目標値に到達するまで、当該第1部材の移動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記ワークを接合するため前記超音波振動を開始した後、前記第1部材が前記目標値に到達するまで移動速度を一定に保持することを特徴とする。
【0010】
本発明の超音波接合装置は、第1部材により接合対象の複数のワークを押圧し、第1部材を超音波振動(複合振動)させて当該ワークを接合する。このとき、制御部が第1部材の移動を制御するので、第1部材の位置(高さ)が決定する。
【0011】
制御部は、ワークに対する沈み込み量の目標値に到達するまで、第1部材の移動速度を一定に保持する。そのため、接合時に第1部材が徐々にワークに押し込まれる。従来の圧力一定制御の場合、接合開始直後に圧力が一瞬低下する現象(静圧抜け)が生じることがある。本発明では、例えば接合開始時の移動速度を高速で保持することにより徐々に圧力が増加するため、静圧抜けを防止することができる。接合時に第1部材とワークとが常に接触した状態となるので、本装置はワークを確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る超音波接合装置の全体構成を説明する図。
図2A】実施形態に係る超音波接合装置のアンビルの斜視図。
図2B】(a)図2Aのアンビルの凸部を説明する図。(b)凸部の変更形態を説明する図。
図3】(a)時間に対する静圧力の関係(従来方式)。(b)時間に対する沈み込み量の関係(従来方式)。
図4】(a)時間に対するホーンチップの沈み込み量の関係(本発明)。(b)時間に対するホーンチップの振幅の関係(本発明)。
図5】(a)時間に対する静圧力の関係。(b)時間に対するホーンチップの沈み込み量の関係。
図6】(a)時間に対する静圧力の関係(変更形態)。(b)時間に対するホーンチップの沈み込み量の関係(変更形態)。
図7】(a)変更形態1の第1期間におけるホーンチップの振動軌跡。(b)変更形態1の第2期間におけるホーンチップの振動軌跡。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の超音波接合装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
初めに、図1を参照して、本発明の実施形態に係る超音波接合装置1の全体構成を説明する。超音波接合装置1は、金属板等の接合対象物(ワーク)を後述する超音波複合振動を利用して溶接する装置である。超音波接合装置1は、主にリチウムイオン電池や半導体素子の電極、同種又は異種の金属の接合に用いられる。
【0015】
超音波接合装置1は、超音波振動子(Langevin Type)2と、超音波拡大ホーン3と、超音波LTホーン4と、ホーンチップ6と、アンビル7とで構成されている。また、発振装置8、加圧装置10、センサ12、制御装置13、表示装置14も超音波接合装置1の一部である。
【0016】
電源(図示省略)から発振装置8に電源電圧を印加すると、超音波振動子2の+電極及び-電極に電圧信号が伝達され、超音波振動子2が振動し、超音波振動(約20KHz)が発生する。超音波振動子2で発生した超音波振動は、超音波振動子2の一端部に取り付けられた円筒状の超音波拡大ホーン3に伝達され、振動振幅が拡大される。さらに、超音波振動は、超音波拡大ホーン3の一端部(超音波振動子2でない側の端部)に取り付けられた円筒状の超音波LTホーン4に伝達される。
【0017】
超音波振動子2で発生した超音波振動は、超音波拡大ホーン3と超音波LTホーン4の長軸方向に伝達されるが(超音波の縦振動)、超音波LTホーン4の複数の斜めスリット4aにより、縦振動から横振動に変換した振動成分が生じる。そして、超音波振動(複合振動)は、超音波LTホーン4の一端部(超音波拡大ホーン3でない側の端部)にネジ止めされたホーンチップ6(本発明の「第1部材」)に伝達される。
【0018】
ホーンチップ6は、円錐台状の基体部6aと、接合時にワークW(上部ワークWa及び下部ワークWb)と接触する先端部6bとからなる。すなわち、発振装置8で超音波振動の位相を調整することにより、超音波LTホーン4の一端部で複合振動(例えば、楕円振動)が生じ、ホーンチップ6の先端部6bがワークWaの表面を楕円軌道を描いて振動する。
【0019】
この振動はワークWの表面の不純物を排除し、さらにワークWの表面の塑性変形を促進する。なお、ホーンチップ6はワークWの種類に応じて交換可能であるが、今回、図示するような先端部6bが長い円柱状のホーンチップを用いる。
【0020】
複合振動について補足すると、ホーンチップ6の先端部6bがワークW(上部ワークWa)を押圧したとき、押圧の方向に垂直な第1方向の振動成分と、第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた振動である。第1方向の振動成分と第2方向の振動成分が1:1であれば円形振動、2:1ならば楕円振動となる。
【0021】
また、超音波拡大ホーン3のフランジ部3aに剛性の高い加圧用ブロック(図示省略)が接触している。このため、制御装置13(本発明の「制御部」)により加圧装置10を制御し、昇降動作する加圧用ブロックを介して超音波接合装置1を垂直方向に移動させることができる。
【0022】
そして、台座であるアンビル7(本発明の「第2部材」)上にワークWを載置することで、ホーンチップ6の先端部6bがワークW(上部ワークWa)に接触して、先端部6bがワークWを押す静圧力(接合時は200~800[N])が加わるようになっている。
【0023】
一般に、静圧力を高くすると接合強度が高まるが、静圧力を高くし過ぎるとワークWが損傷し、破壊、ひび割れの原因となる。一方、接合開始時の静圧力が低いと、ホーンチップ6が上部ワークWaを掴めず、上部ワークWaが滑ってうまく接合することができない。静圧力を発生させる方法としては、エアーシリンダ、ばね等により下部ワークWbを下方から押し上げる方法と、サーボモータによりホーンチップ6を制御し、上部ワークWaの上方から押し下げる方法とがあるが、本実施形態では後者を採用している。
【0024】
また、詳細は後述するが、アンビル7の下部ワークWbに接する側の面には、先端部が所定の曲率を有する凸部7aが設けられている。凸部7aは、接合時に、ホーンチップ6が最下部のワークWに対して滑り難くなるという効果がある。
【0025】
なお、図1では、凸部7aを実際より大きく示している。凸部7aの先端部は、所定の曲率を有する形状、又は先端部が平坦形状になっており(図2B参照)、エッジがほとんどない。このため、接合時にワークWが削られることがなく、パーティクルの発生を抑えることができる。
【0026】
さらに、加圧用ブロックの変位を検出するセンサ(ストロークセンサ)12があり、ホーンチップ6のワークWの押し込み量(沈み込み量)を取得している。センサ12は、接合時のホーンチップ6の垂直方向の座標変化を制御装置13にフィードバック(破線は帰還信号)することで、押し込み量が一定に保持される。このため、加圧装置10には、応答速度が速いアクチュエータが用いられている。
【0027】
押し込み量は、超音波接合装置1の作業者が表示装置14から予め設定することができる。このように、ワークの接合時には、押し込み量や静圧力を調整しながら複合振動を与えることで確実に接合(固相接合)が促進される。
【0028】
固相接合について補足すると、例えば、金属原子はその表面が油脂や酸化被膜で覆われ、原子同士の接近が妨げられた状態となっている。超音波接合では、金属に超音波振動を与えて、金属表面に強力な摩擦力を発生させる。これにより、金属表面の酸化被膜等が除去され、接合面に清浄かつ活性化した金属原子が現れる。
【0029】
この状態で、さらに金属表面に超音波振動を与えることにより、摩擦熱による温度上昇で原子の運動が活発となり、原子間の相互引力が発生し、固相接合の状態が生成される。
【0030】
次に、図2A図2Bを参照して、超音波接合装置1のアンビル7について説明する。
【0031】
図2Aは、本実施形態のアンビル7の斜視図である。アンビル7には、円錐状かつ同じ高さの凸部7aが複数設けられている。図2B(a)に示すように、凸部7aは、上方(下部ワークWbに接する側)に所定の曲率を有している。アンビル7は接合時に下部ワークWbを支持するが、エッジがないためほとんど削られることがなく、パーティクルが発生しない。
【0032】
また、図2B(b)に示す変更形態では、凸部7bの先端部が平坦形状となっている。凸部7bは、例えば、凸部7aの円錐頂点を切り落として平面状にした円錐台状である。凸部7bの構造では、円形平面の周縁以外にエッジがないため、接合時に下部ワークWbがほとんど削られることがない。
【0033】
凸部7a,7bの高さは、せいぜい1mm程度である。凸部7a,7bをラバー状の材料で形成してもよい。これにより、接合時にワークWbの滑りが低減され、ラバーの弾力によりパーティクルの発生を抑えることができる。
【0034】
ここで、図3を参照して、時間Tに対する静圧力Pの関係、及び時間T[s]に対する静圧力P[N/m2]、また、時間T[s]に対するホーンチップ6の沈み込み量M[mm]の関係(従来方式)について説明する。
【0035】
従来、ワークWの接合時にホーンチップ6を下降させ、ホーンチップ6が上部ワークWaに加える静圧力P[N/m2]を設定値P0に設定しておき、上部ワークWaからの反発力が設定値P0に到達したとき、沈み込みが止まる制御(静圧力優先制御)としていた。しかし、この制御では、設定値P0を高くすると沈み込み量Mが増加するため、上部ワークWaに傷が付いたり、破損したりすることがあった。
【0036】
図3(a)において、時間T=t0~t1は、静圧力Pの接合開始前の状態である。制御装置13は時間T=t1からサーボモータを駆動し、ホーンチップ6を上部ワークWaに当接する位置まで下降させる。このとき、図3(b)に示すように、沈み込み量M[mm]は0からM0に変化する。なお、沈み込み量M0は、ホーンチップ6と上部ワークWaとが当接したときのホーンチップ6の位置である。
【0037】
その後の時間T=t2~t3は、与圧工程である。与圧工程では、ホーンチップ6の先端部が上部ワークWaに対して僅かに沈み込み、沈み込み量MがM0からM1(>M0)に変化する。なお、これは制御によるものではなく、自然発生する沈み込みであるため、下降速度は極めて遅い。
【0038】
その後の時間T=t3~t6は、本発振工程である。本発振工程においては、静圧力Pを設定値P0に保持した状態で、ホーンチップ6を超音波振動させ、ワークWの接合を行う。
【0039】
図3(a)において、静圧力Pの制御による設定値を実線で示す。また、実際の静圧力Pの値を一点鎖線で示しているが、設定値とは乖離していることが分かる。本発振工程の期間(A)(時間T3~T4)は、ワークWの接合開始直後の期間であるが、静圧力P(実際の値)が急激に低下している。ここでは、超音波振動により上部ワークWaが削られ、ホーンチップ6が上部ワークWaに潜り込み易くなるため、期待する静圧力Pがかからない。
【0040】
本発振工程の期間(B)(時間T4~T5)では、沈み込み量MがおおよそM1からM2(>M1)に変化する。そして、沈み込み量Mの増加と共に静圧力Pが上昇していく。その後の本発振工程の期間(C)(時間T5~T6)では、静圧力Pが設定値P0に戻り、その時点から沈み込み量Mがほとんど変化しなくなる。なお、沈み込み量Mに上限を設定した場合はそれが優先され、そのときの静圧力Pは設定値P0に到達しない。
【0041】
時間T=t6~t7では、超音波振動の発振を停止するため、静圧力Pが徐々に低下していく。また、沈み込み量MがM2から0に変化する。その後、時間T=t7で接合を終了する。
【0042】
次に、図4を参照して、ホーンチップ6の速度優先制御(新規方式)について説明する。
【0043】
図4(a)は、本発振工程における、時間T[s]に対するホーンチップ6の沈み込み量M[mm]の関係を示している。
【0044】
超音波接合装置1は、ホーンチップ6のワークに対する沈み込み量M[mm]についての5段階の設定を有している。設定1のとき、本発振工程において、ホーンチップ6を沈み込み量M1(目標値)まで変化させる。このとき、制御装置13がサーボモータを制御し、移動速度(下降速度)V1が一定となるように制御する。ここで、時間(t1-t0)は、ホーンチップ6が初期位置から沈み込み量M1に到達するまでにかかる時間である。なお、ホーンチップ6の沈み込み量Mは移動速度V1と時間(t1-t0)の積となるが、サーボモータのエンコーダでも測定することができる。
【0045】
設定2では、沈み込み量M1から沈み込み量M2(目標値)までホーンチップ6を変化させる。このとき、制御装置13がサーボモータを制御し、移動速度V2を保持するように制御する。なお、時間(t2-t1)は、ホーンチップ6が沈み込み量M1から沈み込み量M2に到達するまでの時間である。
【0046】
設定3では沈み込み量M3までホーンチップ6を変化させ(移動速度V3)、設定4ではさらに沈み込み量M4までホーンチップ6を変化させ(移動速度V4)、設定5ではさらに沈み込み量M5までホーンチップ6を変化させる(移動速度V5)。これは、ワークWの硬さによらず移動速度を保持する制御であるため、硬いワークは、柔らかいワークよりも大きな静圧力がかかる。
【0047】
図4(a)の各ステップにおける移動速度は一例に過ぎず、ワークの種類や接合条件によって適宜、移動速度を変更することができる。また、設定は5段階に限られるものではなく、本発振工程において複数段階の設定のうちの一部のみを使用してもよい。
【0048】
図4(b)は、本発振工程における、時間Tに対する、ホーンチップ6の振幅Ampの関係を示している。
【0049】
ホーンチップ6の振幅Amp[%]は、時間T=t0において、設定1用の「Amp1」にセットされ、時間(t1-t0)の間、保持される。また、時間T=t1の次ステップにおいて、設定2用の「Amp2」にセットされ、時間(t2-t1)の間、保持される。その後も、各ステップの設定に応じた振幅Ampにセットされる。
【0050】
超音波接合装置1は、ステップ毎に異なる振幅Ampに変更可能であるため、ワークWの種類に応じて接合のやり方を変える等、接合の調整を行うことができる。以上のような速度優先制御により、上部ワークWaの破損を防止しつつ、ホーンチップ6が上部ワークWaを確実に捉えることができる。
【0051】
次に、図5を参照して、時間T[s]に対する静圧力P[N/m2]の関係、また、時間T[s]に対する沈み込み量M[mm]の関係(設定2の場合)について説明する。ここで、制御対象はホーンチップ6の移動速度である。
【0052】
本発振工程の期間(A)(時間t3~t4:第1期間)では、静圧抜け(静圧力Pが急激に低下する現象)を抑える必要がある。そのため、図5(b)の実線(設定)に示すように制御装置13がサーボモータを制御し、沈み込み量MをM1からM2(>M2)に素早く変化させる。
【0053】
図5(b)中の一点鎖線は、実際の沈み込み量Mの変化を示す。第1期間では、ホーンチップ6のワークWに対する接触面積が小さいため、ホーンチップ6の移動速度を高速で保持することで、静圧抜けを防止することができる。また、静圧力Pが高い状態で保たれているとき(第2期間)、複合振動の楕円率は増加するため(図7(a)参照)、接合時のコンタミネーション(パーティクルの発生等)を抑えることができる。なお、沈み込みの移動速度は等速変化に限らず、指数関数的な変化(加速度変化)に設定することもできる。
【0054】
図5(a)に示すように、実際の静圧力P(一点鎖線)は、P0からP0+P1(間隔ΔP)に上昇する。ここでホーンチップ6の下降を行わないと、実線で示すように静圧力Pが下がってしまうためである。
【0055】
その後の時間T=t4~t6は、第1期間に続くワークWを超音波接合するための期間(第2期間)である。ここでは、ホーンチップ6をさらに下降させ、沈み込み量MをM2からM3(>M2)に変化させる。
【0056】
第2期間においては、ホーンチップ6を第1期間よりも遅い速度で移動させる。第1期間でホーンチップ6の沈み込み量Mが大きくなると、チップ先端の突起とワークWの接触面積が増加する。接触面積が増加した状態で初期の速度で沈み込みを続けると、超音波振動により大きなパワーが必要となる。そこで、第1期間に続く第2期間において、沈み込みを第1期間よりも遅い速度に設定することで、超音波振動に必要な電力を低減させることができる。
【0057】
また、遅い速度での移動は、接合時にワークWの損傷を低減させることにもつながる。特にワークWがセラミック等の場合、大きなパワーの超音波振動をワークWに加えるとワークWの表面応力が大きくなり、損傷を引き起こす。そのため、パワーを抑えてホーンチップ6が沈み込むように、沈み込み速度を複数段階に設定する。沈み込み速度が対数関数的に変化するように設定してもよい。これにより、静圧力Pは徐々に小さく変化することになる。
【0058】
図5(b)に示すように、制御装置13は、時間T=t4からホーンチップ6を等速度で制御する。時間T=t4~t6は、ワークWの接合開始直後に続く期間であり、第1期間の移動速度(第1移動速度)よりも遅い所定の移動速度(第2移動速度)でホーンチップ6を下降させる。その結果、ホーンチップ6が沈み込み、実際の静圧力Pは徐々に増加していくので(一点鎖線参照)、静圧抜けを防止し、ワークWの接合時の静圧力Pを設定値P0以上に保持することができる(図5(a)参照)。
【0059】
最後に、図6図7を参照して、時間T[s]に対する静圧力P[N/m2]の関係、及び時間T[s]に対する沈み込み量M[mm]の関係(本発明の変更形態)について説明する。ここでも、実際の静圧力Pの値を一点鎖線で示すが、制御対象はホーンチップ6の移動速度である。
【0060】
図6において、本発振工程の期間(A)(時間t3~t4:第1期間)では、静圧抜けを抑える必要がある。そのため、制御装置13がサーボモータを制御し、沈み込み量MをM1からM2(>M2)に変化させる(図6(b)参照)。このとき、実際の静圧力PはP0からP0+ΔP’に上昇する(図6(a)参照)。
【0061】
与圧工程におけるホーンチップ6の下降速度と比較して第1期間の下降速度を高速に設定することにより複合振動の楕円率が高まるため、接合時のパーティクルの発生を低減することができる。
【0062】
なお、第1期間において、ホーンチップ6の振動軌跡は、図7(a)のようになる。第1期間では楕円率の高い(真円に近い)複合振動となるため、ホーンチップ6の先端部6bが上部ワークWaに潜り込むように沈み、確実に上部ワークWaを捉える。このため、接合時における上部ワークWaからのパーティクルの発生を抑えることができる。
【0063】
時間T=t4~t6は、ホーンチップ6によりワークWを超音波接合するための期間(第2期間)である。このとき、ホーンチップ6の下降を中止(沈み込み量M2で保持)することにより、実際の静圧力PはP0に戻る(図6(a)参照)。これにより、複合振動の楕円率が低下するが、ホーンチップ6が上部ワークWaに食い込み捉えているため、接合時のパーティクルの発生は小さい。
【0064】
第2期間(静圧力PがP0に戻った後)において、ホーンチップ6の振動軌跡は、図7(b)に示すようになる。第2期間では楕円率の低い(直線に近い)複合振動となるが、ホーンチップ6が上部ワークWaを捉えているため、両者が一緒に振動する。従って、上部ワークWaと下部ワークWbとの間に効率良く擦れが生じ、接合強度が向上する。
【0065】
このように、超音波接合装置1の制御装置13は、ワークWの種類、そして接合時の各種条件により、接合時のホーンチップ6の沈み込み速度(移動速度)を制御する。これにより、超音波接合装置1は、接合時のコンタミネーションを抑えつつ、ワークWを確実に接合することができる。
【0066】
図4図6では、ホーンチップ6の下降速度は等速(直線状)であったが、曲線で表されることもある。また、アンビル7の凸部7aの構造も、コンタミネーションの抑制に寄与する。凸部7aは、アンビル7上面の所定領域(例えば、中央部)にのみ設けられていてもよい。この場合、凸部7aは、アンビル7の所定領域以外(平面)に対して僅かに突出する高さとなっていることが好ましい。
【符号の説明】
【0067】
1…超音波接合装置、2…超音波振動子、3…超音波拡大ホーン、3a…フランジ部、4…超音波LTホーン、4a…斜めスリット、6…ホーンチップ、6a…基体部、6b…先端部、7…アンビル、7a,7b…凸部、8…発振装置、10…加圧装置、12…センサ、13…制御装置、W…ワーク、Wa…上部ワーク、Wb…下部ワーク。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7