(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105519
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】車上通信装置及び車上通信装置における自己診断方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/40 20060101AFI20230724BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230724BHJP
【FI】
B60L15/40 A
B60L3/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006394
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 修
(72)【発明者】
【氏名】森田 和貴
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CC05
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】車上通信装置において、車上子近傍に地上子や渡り板が存在した場合でも、電力波モニタの正常な自己診断を可能にする。
【解決手段】軌道を走行する車両に搭載される車上通信装置は、軌道上に設置されている地上子に対して電力波を送信し、地上子から情報波を受信する車上子と、車上子によって受信された情報波を復調したデータを制御部へ送信する情報波受信部と、制御部から出力された電力波送信指示に従って車上子へ電力波を送信する電力波送信回路と、電力波送信回路の電力波レベルに基づく電力波モニタ信号を出力する電力波モニタと、電力波モニタ信号に基づいて電力波モニタの健全性診断を行う制御部と、を有する。車上通信装置は、車上子と等価なインピーダンスを持つ模擬負荷と、前記電力波送信回路の接続先を、車上子と模擬負荷との間で切り替える負荷切替回路とを備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道を走行する車両に搭載される車上通信装置であって、
前記軌道上に設置されている地上子に対して電力波を送信し、前記地上子から情報波を受信する車上子と、
前記車上子によって受信された前記情報波を復調したデータを制御部へ送信する情報波受信部と、
前記制御部から出力された電力波送信指示に従って前記車上子へ電力波を送信する電力波送信回路と、
前記電力波送信回路の電力波レベルに基づく電力波モニタ信号を出力する電力波モニタと、
前記電力波モニタ信号に基づいて前記電力波モニタの健全性診断を行う制御部と、を有し、
前記車上子と等価なインピーダンスを持つ模擬負荷と、
前記電力波送信回路の接続先を、前記車上子と前記模擬負荷との間で切り替える負荷切替回路と
を備えたことを特徴とする車上通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車上通信装置であって、
前記負荷切替回路と前記模擬負荷の間の電力波レベルに基づく第2の電力波モニタ信号を出力する第2の電力波モニタを有し、
前記制御部は、
前記電力波モニタ信号と、前記第2の電力波モニタ信号と、に基づいて、前記負荷切替回路の故障検知を行うことを特徴とする車上通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車上通信装置であって、
前記制御部は、
前記電力波モニタ信号と、前記第2の電力波モニタ信号と、が一致する場合に、前記負荷切替回路は正常と診断し、
前記電力波モニタ信号と、前記第2の電力波モニタ信号と、が一致せず、これらがゼロにならない場合に、前記負荷切替回路は前記車上子と前記模擬負荷の両方に接続する故障と診断し、
前記電力波モニタ信号と、前記第2の電力波モニタ信号と、が規定レベルに達しない場合に、前記負荷切替回路は前記車上子と前記模擬負荷の両方の接点の接触不良の故障と診断することを特徴とする車上通信装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の車上通信装置であって、
前記負荷切替回路は、
前記車上通信装置の起動時に前記電力波送信回路を前記模擬負荷に接続し、
前記健全性診断の終了後に、前記電力波送信回路の接続先を前記模擬負荷から前記車上子に切り替えることを特徴とする車上通信装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車上通信装置であって、
前記制御部は、
前記電力波送信回路の電力波レベルを、第1の所定強度に設定した際に前記電力波モニタによって検知される電力波モニタ信号のレベルが閾値未満の第1の値と、前記第1の所定強度より大きい第2の所定強度に設定した際に前記電力波モニタによって検知される電力波モニタ信号のレベルが前記閾値以上の第2の値とに基づく電力波出力特性が、正常時の電力波出力特性と一致する場合に、前記電力波モニタは正常であると診断することを特徴とする車上通信装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の車上通信装置であって、
前記制御部は、
前記健全性診断の終了後に、前記電力波送信回路の接続先を前記模擬負荷から前記車上子に切り替えた際に、前記電力波送信回路の故障を検知した場合に、前記電力波送信回路の故障を示す故障検知信号の出力を無効化し、
前記制御部に入力される速度情報に基づいて所定距離だけ前記車両が走行したことを検知した後に、前記故障検知信号の出力を有効化することを特徴とする車上通信装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車上通信装置であって、
前記所定距離は、前記車上子と、前記車上子の所定近傍に存在し得る、前記電力波モニタによる前記電力波送信回路の正常な故障検知を妨害する妨害物と、の前記車両の進行方向の長さの合計に基づいて決定されることを特徴とする車上通信装置。
【請求項8】
軌道を走行する車両に搭載される車上通信装置が行う自己診断方法であって、
前記車上通信装置は、
前記軌道上に設置されている地上子に対して電力波を送信し、前記地上子から情報波を受信する車上子と、
前記車上子によって受信された前記情報波を復調したデータを制御部へ送信する情報波受信部と、
前記制御部から出力された電力波送信指示に従って前記車上子へ電力波を送信する電力波送信回路と、
前記電力波送信回路の電力波レベルに基づく電力波モニタ信号を出力する電力波モニタと、
前記電力波モニタ信号に基づいて前記電力波モニタの健全性診断を行う制御部と、
前記車上子と等価なインピーダンスを持つ模擬負荷と、
前記電力波送信回路の接続先を前記車上子から前記模擬負荷に切り替える負荷切替回路と、を有し、
前記負荷切替回路が、
前記電力波モニタの健全性診断を行うために前記電力波送信回路を前記模擬負荷に接続し、
前記健全性診断の終了後に、前記電力波送信回路の接続先を前記模擬負荷から前記車上子に切り替える
ことを特徴とする車上通信装置の自己診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車上通信装置及び車上通信装置における自己診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたトランスポンダ車上装置は、軌道に設置された地上通信装置と電文情報の送受信を行う。ここで地上通信装置から得た車両の速度制限や位置情報などのデータは、車両の速度制御など、車両運行の重要な制御に用いられる。地上通信装置は、地上装置から電力給電される有電源地上通信装置と、トランスポンダ車上装置からの電力波により電力を受電して起動する無電源地上通信装置がある。どちらの地上通信装置も、車上通信装置に向かって電力波とは異なる周波数の電文情報を送信する。ここで、車上通信装置と地上通信装置との通信は、前述したように車両運行上の安全に関わる場合もあるため、車上通信装置は、地上通信装置と確実に通信をすることが求められる。
【0003】
特に、無電源地上通信装置を起動して地上通信装置と確実に通信するためには、トランスポンダ車上装置から地上通信装置に向け安定した電力を送信することが必須である。そのため、電力波送信回路の自己診断を行い、故障時に確実に検知することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力波の自己診断は、電力波送信レベルを監視するモニタ機能により実施している。モニタ機能は、電力波送信出力を計測し、地上子の起動が可能なレベルを出力しているかを常時確認する。また、このモニタ機能自体の自己診断も必要であり、電力波出力レベルをあえて低下させた状態とし、モニタ機能が電力波レベル低下を検知し故障検知することを確認する。このモニタ機能の自己診断は、電力波送信レベルを変化させるため、走行中にはできず、トランスポンダ車上装置起動時に実行する。
【0006】
ここで、トランスポンダ車上装置近傍に地上子や車両基地ピット内に設置された金属製渡り板が存在する場合、地上子との結合、もしくは渡り板で発生する渦電流の影響により車上子の共振周波数がずれることでインピーダンスが高くなる。そのため電力波電流が流れにくくなりモニタ値が低下し、車上装置には異常が無いにもかかわらず故障判定してしまうことがある。
【0007】
そこで、特許文献1には、地上子近傍で車上装置を起動した際に、走行時と同じレベルの電力波を出力することで地上子を起動し情報波を送信させ、地上子からの情報波を検知した場合に、電力波モニタ値の閾値を通常より低下させることで診断する方法が示されている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の上記方法によると、地上子を検知した際の電力波モニタ値の低下閾値をあらかじめ設定しておく必要があり、車上子の設置高さが異なる場合に、地上子による影響度が変わるために設置高さに合わせた閾値設定が必要となる。さらに、渡り板は情報波を送信しないため渡り板近傍にあることを検知することができず、電力波モニタ値の閾値を変えることができないという課題がある。
【0009】
そこで本発明では、上記を考慮してなされたものであり、車上通信装置において、車上子近傍に地上子や渡り板が存在した場合でも、電力波モニタの正常な自己診断を可能にすることを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様では、軌道を走行する車両に搭載される車上通信装置であって、前記軌道上に設置されている地上子に対して電力波を送信し、前記地上子から情報波を受信する車上子と、前記車上子によって受信された前記情報波を復調したデータを制御部へ送信する情報波受信部と、前記制御部から出力された電力波送信指示に従って前記車上子へ電力波を送信する電力波送信回路と、前記電力波送信回路の電力波レベルに基づく電力波モニタ信号を出力する電力波モニタと、前記電力波モニタ信号に基づいて前記電力波モニタの健全性診断を行う制御部と、を有し、前記車上子と等価なインピーダンスを持つ模擬負荷と、前記電力波送信回路の接続先を、前記車上子と前記模擬負荷との間で切り替える負荷切替回路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、車上通信装置において、車上子近傍に地上子や渡り板が存在した場合においても、電力波モニタの正常な自己診断が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る車上通信装置の構成例を概略的に示す図。
【
図2】実施形態1に係る車上通信装置の構成例を詳細に示す図。
【
図3】実施形態1に係る車上通信装置の負荷切替回路の構成例を示す図。
【
図4】電力波出力特性イメージを説明するための図。
【
図5】渡り板の直上での車上装置の起動時の電力波故障検知信号の出力の無効化を解除する際の走行距離を説明するための図。
【
図6】実施形態2に係る車上通信装置の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、本願開示の実施形態について説明する。この実施形態により本願開示が限定されるものではない。なお、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。また、同一符号に枝番を付与して、複数の同一の構成要素を区別する。また、後出の実施形態の説明において、既出の実施形態との差分を中心に説明し、重複説明を省略する。
【0014】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る車上通信装置1の構成例を概略的に示す図である。車上通信装置1は、鉄道等の軌道を走行する車両に搭載される。車上通信装置1は、制御部2から受信する電力波送信命令に応じて電力波送信回路10で電力波を生成し、この電力波を負荷切替回路12と車上子13を介して、軌道上に設置されている地上子3に送信する。このとき、出力制御部11は、電力波送信回路10の出力を監視し、出力レベルが規定範囲を外れた場合は、電力波送信回路10又は負荷である車上子13が故障したと判断して制御部2に故障検知信号を送信する。
【0015】
また、車上通信装置1は、電力波送信回路10の出力先として車上子13と、車上子13と等価なインピーダンスを持つ模擬負荷14を有する。電力波送信回路10は、車上子13もしくは模擬負荷14のいずれかに接続する負荷切替回路12を備える。負荷切替回路12は、負荷切替信号118に従い車上子13もしくは模擬負荷14を電力波送信回路に接続する。
【0016】
図2は、実施形態1に係る車上通信装置1の構成例を詳細に示す図である。電力波送信回路10は、発振器101と、発振器101の出力を増幅するプリアンプ102と、プリアンプ102の出力を減衰してレベル調整する可変アッテネータ103と、可変アッテネータ103でレベル調整した電力波を増幅する出力段アンプ104と、出力段アンプ104の出力波形の歪みを除去するローパスフィルタ(LPF)105を有する。
【0017】
出力制御部11は、制御部2から受信する電力波送信命令に応じて電力波の周波数設定および出力ON/OFFを制御する電力波制御部111と、電力波送信回路10の出力電流を測定し、出力電流に基づく電力波レベルに応じた電力波送信回路10の電力波モニタ信号117aを出力する電力波モニタ113aと、電力波モニタ113aの出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ112aと、可変アッテネータ103を制御するために電力波制御部111から出力された電力波出力レベル制御信号116をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ114を有する。出力制御部11は、電力波モニタ信号117aが規定範囲を外れた場合に、制御部2に故障検知信号115を送信する。
【0018】
情報波受信部15は、車上子13から受信する情報波の不要周波数を除去するバンドパスフィルタ151と、バンドパスフィルタ151の出力を増幅するプリアンプ152と、プリアンプ152の出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ112と、変換したデジタル信号を復調して地上子から受信した電文を制御部2に送信する情報波制御部153を有する。
【0019】
また、車上通信装置1は、電力波送信回路10と車上子13との間に、絶縁および平衡不平衡変換用のトランス16と、車上子13と模擬負荷14のいずれかを電力波送信回路10に接続するための負荷切替回路12を備える。
【0020】
ここで、電力波制御部111は、車上通信装置1の起動直後に電力波送信回路10の負荷が模擬負荷14となるように負荷切替回路12を制御する。さらに電力波制御部111は、電力波モニタ113aの自己診断のために電力波出力レベル制御信号116を変化させ、電力波送信回路10の出力レベルが規定範囲外となる電力波出力レベル制御信号116のとき、電力波モニタ信号117aも規定範囲外となることを確認する。電力波制御部111は、電力波モニタ113aの自己診断終了後に、電力波送信回路10の負荷が車上子13となるように負荷切替回路12を切替え、通常の運用に移行する。
【0021】
図3は、実施形態1に係る車上通信装置1の負荷切替回路12の構成例を示す図である。負荷切替回路12は、負荷切替信号118に従い電力波送信回路10の負荷として、車上子13もしくは模擬負荷14のいずれかを接続する。負荷切替回路12は、通常の運用時は負荷を車上子13に、電力波モニタ113aの自己診断時は模擬負荷14に接続する。
【0022】
図4は、電力波出力特性イメージを説明するための図であり、横軸は電力波出力レベル制御信号116の強度、縦軸は電力波モニタ信号117の強度である。電力波送信回路10、出力制御部11、及び電力波送信回路10の負荷が正常なとき、すなわち車上子13近傍に地上子3や渡り板4等がない、もしくは模擬負荷14を接続した状態のときは、
図4に示す電力波出力特性51となる。渡り板4は、車上子13の所定近傍に存在し得る、電力波モニタ113aによる電力波送信回路10の正常な故障検知を妨害する妨害物の一例である。
【0023】
電力波レベルが低下した際に故障として検知されるかを確認するには、実際に電力波レベルを低下させて試験を実施する。これは電力波出力レベル制御信号116を所定の強度54に設定した際に、電力波モニタ信号117aが電力波下限閾値55未満となることで確認できる。また、電力波出力レベル制御信号116を通常動作時の電力波出力レベル設定値53に設定した際に、電力波モニタ信号117aのモニタ値56が電力波下限閾値55以上であれば、電力波出力特性51が正常であることを確認できる。これら電力波モニタ113aの健全性確認は、電力波レベル設定値を変えて試験するため、装置起動直後の装置運用前に実施する必要がある。
【0024】
車上子13近傍に地上子3や渡り板4がある状態は、電力波出力特性52のようになり、正常時の電力波出力特性51と一致せず、電力波モニタ113aの健全性確認ができない。すなわち、電力波出力レベル制御信号116を所定の強度54に設定した際の電力波モニタ信号117aのレベルと、電力波出力レベル制御信号116を通常動作時の電力波出力レベル設定値53に設定した際の電力波モニタ信号117aのレベルとに基づく、電力波出力特性52が、正常時の電力波出力特性51と異なることが確認される。
【0025】
そのため、電力波送信回路10を模擬負荷14に接続して電力波モニタ信号117aの健全性を確認し、健全性確認終了後に負荷を車上子13に切り替える。車上子13が地上子3もしくは渡り板4直上にある場合、電力波送信回路10の負荷を車上子13に切り替えると、故障検知信号115を出力することがあるため、次の方法で回避する。
【0026】
車上子13が地上子3の直上の場合、車上子13が送信する電力波により地上子3が起動し情報波を送信する。情報波受信部15は情報波を検知すると、情報波検知情報と情報波電文を制御部2に送信する。制御部2は、情報波検知情報を受信した場合、故障検知信号115の出力を無効化し、故障判定となることを防ぐ。車両が走行を開始すると地上子3を離脱し情報波が受信できなくなるため情報波検知信号が停止し、制御部2は無効化していた故障検知信号115の出力を有効化することで、電力波送信回路10が出力する電力波に基づく電力波送信回路10の故障診断を再開する。
【0027】
車上子13が渡り板4の直上の場合、制御部2に入力される速度情報21を利用し、車両が停車している場合に故障検知信号115の出力を無効化し、故障判定となることを防ぐ。車両が走行を開始し、所定距離の走行を検知したら、制御部2は、無効化していた故障検知信号115の出力を有効化することで、電力波送信回路10が出力する電力波に基づく電力波送信回路10の故障診断を再開する。
【0028】
図5は、渡り板の直上での車上装置の起動時の電力波故障検知信号の出力の無効化を解除する際の走行距離を説明するための図である。
図5は、車上子13a、13b、渡り板4の車両の進行方向(紙面に向かって左右方向)及び鉛直方向(紙面に向かって上下方向)の相対的な位置関係を示す。
【0029】
車上通信装置1の制御部2は、車上子13が渡り板4近傍の車上子13aの位置から車上子13bの位置にあるときに、故障検知信号115の出力を無効化する。制御部2は、車上子13と渡り板4との位置関係を検知出来ないため、渡り板4の影響を受ける車上子13aの位置から車上子13bの位置への移動距離を故障検知信号115の解除に用いればよい。
【0030】
具体的には、車上子13の車両進行方向の長さ113をL1、渡り板4の車両進行方向の長さ41をL2とすると、電力波故障検知信号の出力の無効化を解除する距離134はL1+L2で表される。したがって、制御部2は、故障検知信号115の出力の無効化後に、速度情報21から求めた走行距離が、あらかじめ登録されたL1+L2を超えた場合に故障検知信号115の出力の無効化を解除(すなわち故障検知信号115の出力を有効化)することで、故障誤検知を防ぎかつ運行に移行することが可能となる。
【0031】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係る車上通信装置1Bの構成例を示す図である。車上通信装置1Bの構成は、実施形態1の車上通信装置1(
図2)の構成に対し、出力制御部11に代えて出力制御部11Bを有する。出力制御部11Bは、負荷切替回路12と模擬負荷14との間の電力波レベルを検出するための電力波モニタ113b、A/Dコンバータ112b、電力波モニタ信号117bを追加したものである。
【0032】
負荷切替回路12が正常であり、電力波送信回路10の負荷として模擬負荷14が選択されている場合、電力波送信回路10の出力が全て模擬負荷14に供給されるため、電力波モニタ信号117aと電力波モニタ信号117bは一致する。また、電力波送信回路10の負荷として車上子13が選択されている場合、電力波送信回路10の出力が模擬負荷14に供給されないため、電力波モニタ信号117bはゼロとなる。これらのとき制御部2は、負荷切替回路12は正常と診断する。
【0033】
また、負荷切替回路12の接点が固渋し、電力波送信回路10の負荷として車上子13と模擬負荷14の両方が接続された場合、電力波モニタ信号117bは電力波モニタ信号117aと一致せず、かつゼロにならない状態となり、異常として検知できる。このとき制御部2は、負荷切替回路12は故障(車上子13と模擬負荷14の両方とに接続の個渋)と診断する。
【0034】
同様に、負荷切替回路12の接点が全て接触不良となった場合、電力波モニタ信号117aが規定のレベルに到達せず、これを検知できる。このとき制御部2は、負荷切替回路12は故障(車上子13と模擬負荷14の全接点の接触不良)と診断する。
【0035】
上述の実施形態によれば、車両基地からの出庫の際などの車両の起動時に、車上通信装置1、1Bの起動時に電力波送信回路10の負荷を模擬負荷14に接続する。これにより、車上子13の近傍に地上子3や渡り板4が存在しても電力波送信回路10の負荷インピーダンスが変動せず、電力波モニタ113aの自己診断を安定した条件にて実行できる。このため、車上通信装置1、1Bが正常に機能しているにもかかわらず、地上子3や渡り板4の影響により故障と誤検知してしまうことを防ぐことができる。
【0036】
なお、可変アッテネータ103、電力波モニタ113a、113b、A/Dコンバータ112a、112b、D/Aコンバータ114は、上述の実施形態を実現する手段の一つであり、上述の実施形態ではこれらの構成を限定するものではない。例えば、可変アッテネータ103の代わりに可変アンプを用いて電力波レベルを制御しても良いし、電力波モニタ113aを介さずに電力波電圧を分圧してD/Aコンバータ114に入力しても良い。
【0037】
また、プリアンプ102、出力段アンプ104、ローパスフィルタ105、トランス16は、上述の実施形態に必須の構成ではないため、不要であれば削除しても良い。また、
図2や
図6に記載した以外に、必要に応じて信号変換回路やフィルタなどを追加しても良い。
【0038】
さらに、負荷切替回路12の制御は、電力波制御部111からではなく制御部2から実施しても良い。
【0039】
開示の技術は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本願開示の技術的思考の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能であり、様々な変形例が含まれる。また、上述した実施形態は開示の技術を分かりやすく説明するために挙げた例であり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上述した実施形態の構成の一部について、他の実施形態又は変形例の構成の追加や置換、あるいは削除をすることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1、1B:車上通信装置、2:制御部、3:地上子、4:渡り板、10:電力波送信回路、11:出力制御部、12:負荷切替回路、13、13a、13b:車上子、14:模擬負荷、15:情報波受信部。