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特開2023-105525接合装置、接合方法および接合構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105525
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】接合装置、接合方法および接合構造体
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K20/12 368
B23K20/12 346
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006404
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】成山 達也
(72)【発明者】
【氏名】林 興平
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167BG02
4E167BG25
4E167BG28
(57)【要約】
【課題】薄板部材の周方向エッジの対象部材に対する接合時に薄板部材の位置がずれることを容易に抑制する。
【解決手段】接合装置1では、中心軸J1を中心とする筒状の外周面911を有する対象部材91が保持回転機構3により回転される。接合ヘッド4は、周方向に沿って対象部材の外周面に巻き付けられる薄板部材92の周方向に沿う一の周方向エッジに接触することにより、対象部材の回転に伴って薄板部材の周方向エッジを、対象部材の外周面に摩擦攪拌接合する。対象部材の回転により対象部材の外周面に対して相対的に回転する接合ヘッドの相対回転方向の前側において、接合ヘッドに近接した対象部材の外周面上の位置を第1注目位置とし、中心軸に平行な軸方向に第1注目位置から離れた外周面上の位置を第2注目位置として、押付ローラ部6が、少なくとも第1注目位置および第2注目位置にて薄板部材を対象部材に対して押し付ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合装置であって、
中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材を保持しつつ、前記中心軸を中心として前記対象部材を回転する保持回転機構と、
前記中心軸を中心とする周方向に沿って前記対象部材の前記外周面に巻き付けられる薄板部材の、前記周方向に沿う一の周方向エッジに接触することにより、前記対象部材の回転に伴って前記薄板部材の前記周方向エッジを、前記対象部材の前記外周面に摩擦攪拌接合する接合ヘッドと、
前記対象部材の回転により前記対象部材の前記外周面に対して相対的に回転する前記接合ヘッドの相対回転方向の前側において、前記接合ヘッドに近接した前記対象部材の前記外周面上の位置を第1注目位置とし、前記中心軸に平行な軸方向に前記第1注目位置から離れた前記外周面上の位置を第2注目位置として、少なくとも前記第1注目位置および前記第2注目位置にて前記薄板部材を前記対象部材に対して押し付ける押付ローラ部と、
を備えることを特徴とする接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の接合装置であって、
前記押付ローラ部が、前記第1注目位置から前記軸方向に延びる押付ローラを有することを特徴とする接合装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接合装置であって、
前記押付ローラ部の押付ローラが、前記接合ヘッドとは独立して支持されることを特徴とする接合装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の接合装置であって、
前記接合ヘッドの前記相対回転方向の後側に配置され、前記押付ローラ部と同様の構造を有するもう1つの押付ローラ部をさらに備えることを特徴とする接合装置。
【請求項5】
請求項4に記載の接合装置であって、
前記接合ヘッドを前記軸方向に前記対象部材に対して相対的に移動する軸方向移動機構をさらに備え、
前記薄板部材の前記軸方向に沿う各軸方向エッジを含む部位を軸方向エッジ部として、前記対象部材の前記外周面上において一方の軸方向エッジ部上に他方の軸方向エッジ部が重ねられ、
前記接合ヘッドを前記他方の軸方向エッジ部の前記軸方向エッジに接触させた状態で、前記軸方向移動機構が前記接合ヘッドを前記軸方向に相対移動することにより、前記他方の軸方向エッジ部の前記軸方向エッジを前記一方の軸方向エッジ部に摩擦攪拌接合することを特徴とする接合装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の接合装置であって、
前記薄板部材の前記対象部材に対する巻き付けと、前記薄板部材の前記周方向エッジの前記対象部材に対する接合とが同時に行われることを特徴とする接合装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の接合装置であって、
前記軸方向に沿って見た場合に、前記対象部材の前記外周面における所定位置での接線方向に前記接合ヘッドを前記対象部材に対して相対的に移動する接線方向移動機構をさらに備え、
前記接合ヘッドに設けられる接合ツールの回転軸が、前記所定位置における前記外周面の法線に平行であり、前記接線方向において前記所定位置からずれた位置に、前記接線方向移動機構が前記接合ヘッドを配置することにより、前記軸方向に沿って見た場合に、前記接合ツールが対向する前記対象部材の前記外周面の位置の法線に対して前記回転軸が所定角度だけ傾斜することを特徴とする接合装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の接合装置であって、
前記軸方向に沿って見た場合に、前記軸方向に垂直かつ互いに交差する2方向において、前記押付ローラ部の押付ローラの位置が変更可能であることを特徴とする接合装置。
【請求項9】
接合装置であって、
中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材を保持しつつ、前記中心軸を中心として前記対象部材を回転する保持回転機構と、
前記中心軸を中心とする周方向に沿って前記対象部材の前記外周面に巻き付けられる薄板部材の、前記周方向に沿う一の周方向エッジに接触することにより、前記対象部材の回転に伴って前記薄板部材の前記周方向エッジを、前記対象部材の前記外周面に摩擦攪拌接合する接合ヘッドと、
前記中心軸に平行な軸方向に沿って見た場合に、前記対象部材の前記外周面における所定位置での接線方向に前記接合ヘッドを前記対象部材に対して相対的に移動する接線方向移動機構と、
を備え、
前記接合ヘッドに設けられる接合ツールの回転軸が、前記所定位置における前記外周面の法線に平行であり、前記接線方向において前記所定位置からずれた位置に、前記接線方向移動機構が前記接合ヘッドを配置することにより、前記軸方向に沿って見た場合に、前記接合ツールが対向する前記対象部材の前記外周面の位置の法線に対して前記回転軸が所定角度だけ傾斜することを特徴とする接合装置。
【請求項10】
接合方法であって、
a)中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材を、前記中心軸を中心として回転する工程と、
b)前記中心軸を中心とする周方向に沿って前記対象部材の前記外周面に巻き付けられる薄板部材の、前記周方向に沿う一の周方向エッジに接合ヘッドを接触させることにより、前記対象部材の回転に伴って前記薄板部材の前記周方向エッジを、前記対象部材の前記外周面に摩擦攪拌接合する工程と、
c)前記対象部材の回転により前記対象部材の前記外周面に対して相対的に回転する前記接合ヘッドの相対回転方向の前側において、前記接合ヘッドに近接した前記対象部材の前記外周面上の位置を第1注目位置とし、前記中心軸に平行な軸方向に前記第1注目位置から離れた前記外周面上の位置を第2注目位置として、前記b)工程に並行して、押付ローラ部により少なくとも前記第1注目位置および前記第2注目位置にて前記薄板部材を前記対象部材に対して押し付ける工程と、
を備えることを特徴とする接合方法。
【請求項11】
接合構造体であって、
中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材と、
前記対象部材の前記外周面に巻き付けられた薄板であり、前記中心軸に平行な軸方向に沿う各軸方向エッジを含む部位を軸方向エッジ部として、前記対象部材の前記外周面上において一方の軸方向エッジ部上に他方の軸方向エッジ部が重ねられ、前記他方の軸方向エッジ部の前記軸方向エッジが前記一方の軸方向エッジ部に摩擦攪拌接合された軸方向接合部を有する第1薄板部材と、
前記第1薄板部材と同様の構造であり、前記軸方向において前記第1薄板部材と連結される第2薄板部材と、
を備え、
前記中心軸を中心とする周方向に沿う各周方向エッジを含む部位を周方向エッジ部として、前記第1薄板部材の周方向エッジ部上に前記第2薄板部材の周方向エッジ部が重ねられ、前記第2薄板部材の前記周方向エッジ部の前記周方向エッジが、前記第1薄板部材の前記周方向エッジ部に摩擦攪拌接合されており、
前記周方向において、前記第1薄板部材の前記軸方向接合部の位置と、前記第2薄板部材の軸方向接合部の位置とが相違することを特徴とする接合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合装置、接合方法および接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋鋼構造物の飛沫・干満部は腐食環境が厳しいため、信頼性の高い防食を施す必要がある。防食工法の1つとしてSUSライニング工法が知られている。SUSライニング工法の一例では、板厚0.4mmのスーパーオーステナイト系ステンレス鋼SUS312Lがジャケットの主管や枝管等の飛沫・干満部へライニングされる。当該ステンレス鋼は鋼管にTIG溶接等の溶融溶接で主に溶接される。特許文献1では、鋼管の外面に配置された被覆材に対して、複数の帯状の締付け部材を周方向に巻付けて結束することにより、当該被覆材を鋼管の外面に固定し、その後、当該被覆材を鋼管の外面に溶接する手法が開示されている。
【0003】
また、近年、摩擦攪拌接合が様々な部材の接合に利用されている。特許文献2では、二つの被接合部材の突合せ部の摩擦攪拌接合を行う接合装置が開示されている。当該装置では、突合せ部の両側の被接合部材に対して、それぞれ転動しつつ押圧力を作用せしめ、それら被接合部材の拘束を行なう二つの別個のローラ手段が設けられる。
【0004】
なお、特許文献3では、円筒形の被溶接物を複数のローラにより回転可能に支持するローラ装置を傾動台に設け、傾動台を傾斜させた状態で被溶接物を回転し、被溶接物の円周隅肉溶接部分に溶接ロボットにより溶接を行う手法が開示されている。特許文献4では、鋼管または鋼管杭への耐食性金属薄板の被覆方法が開示されている。当該方法では、広幅耐食性金属薄板の先端を鋼管または鋼管杭の外周面に固定して直巻きで巻き付け、一回巻きしてから巻き付け開始端と所定幅で重なる重なり部を形成し、この重なり部でインダイレクト抵抗溶接が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4619942号公報
【特許文献2】特開2007-54851号公報
【特許文献3】特開平8-25088号公報
【特許文献4】特許第3545544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のSUSライニング工法において摩擦攪拌接合を用いる場合、鋼管等の対象部材の外周面に薄板部材が巻き付けられ、薄板部材の周方向エッジが当該対象部材に摩擦攪拌接合される。この場合に、対象部材の外周面に対する薄板部材の位置がずれることを抑制するために、特許文献1のように、帯状の締付け部材を巻付けることが考えられるが、位置ずれの抑制には十分ではない。
【0007】
特許文献4のようにインダイレクト抵抗溶接を行って薄板部材を対象部材に仮固定してから、薄板部材の周方向エッジを対象部材に溶接することも考えられるが、処理が煩雑となってしまう。したがって、薄板部材の周方向エッジの対象部材に対する接合時に薄板部材の位置がずれることを容易に抑制する手法が求められている。また、摩擦攪拌接合を行う接合装置では、接合ツールの回転軸を対象部材の外周面の法線に対して容易に傾斜させることも求められている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、薄板部材の周方向エッジの対象部材に対する接合時に薄板部材の位置がずれることを容易に抑制することを目的としている。また、接合ツールの回転軸を対象部材の外周面の法線に対して容易に傾斜させることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、接合装置であって、中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材を保持しつつ、前記中心軸を中心として前記対象部材を回転する保持回転機構と、前記中心軸を中心とする周方向に沿って前記対象部材の前記外周面に巻き付けられる薄板部材の、前記周方向に沿う一の周方向エッジに接触することにより、前記対象部材の回転に伴って前記薄板部材の前記周方向エッジを、前記対象部材の前記外周面に摩擦攪拌接合する接合ヘッドと、前記対象部材の回転により前記対象部材の前記外周面に対して相対的に回転する前記接合ヘッドの相対回転方向の前側において、前記接合ヘッドに近接した前記対象部材の前記外周面上の位置を第1注目位置とし、前記中心軸に平行な軸方向に前記第1注目位置から離れた前記外周面上の位置を第2注目位置として、少なくとも前記第1注目位置および前記第2注目位置にて前記薄板部材を前記対象部材に対して押し付ける押付ローラ部とを備える。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の接合装置であって、前記押付ローラ部が、前記第1注目位置から前記軸方向に延びる押付ローラを有する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の接合装置であって、前記押付ローラ部の押付ローラが、前記接合ヘッドとは独立して支持される。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の接合装置であって、前記接合ヘッドの前記相対回転方向の後側に配置され、前記押付ローラ部と同様の構造を有するもう1つの押付ローラ部をさらに備える。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の接合装置であって、前記接合ヘッドを前記軸方向に前記対象部材に対して相対的に移動する軸方向移動機構をさらに備え、前記薄板部材の前記軸方向に沿う各軸方向エッジを含む部位を軸方向エッジ部として、前記対象部材の前記外周面上において一方の軸方向エッジ部上に他方の軸方向エッジ部が重ねられ、前記接合ヘッドを前記他方の軸方向エッジ部の前記軸方向エッジに接触させた状態で、前記軸方向移動機構が前記接合ヘッドを前記軸方向に相対移動することにより、前記他方の軸方向エッジ部の前記軸方向エッジを前記一方の軸方向エッジ部に摩擦攪拌接合する。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の接合装置であって、前記薄板部材の前記対象部材に対する巻き付けと、前記薄板部材の前記周方向エッジの前記対象部材に対する接合とが同時に行われる。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の接合装置であって、前記軸方向に沿って見た場合に、前記対象部材の前記外周面における所定位置での接線方向に前記接合ヘッドを前記対象部材に対して相対的に移動する接線方向移動機構をさらに備え、前記接合ヘッドに設けられる接合ツールの回転軸が、前記所定位置における前記外周面の法線に平行であり、前記接線方向において前記所定位置からずれた位置に、前記接線方向移動機構が前記接合ヘッドを配置することにより、前記軸方向に沿って見た場合に、前記接合ツールが対向する前記対象部材の前記外周面の位置の法線に対して前記回転軸が所定角度だけ傾斜する。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の接合装置であって、前記軸方向に沿って見た場合に、前記軸方向に垂直かつ互いに交差する2方向において、前記押付ローラ部の押付ローラの位置が変更可能である。
【0017】
請求項9に記載の発明は、接合装置であって、中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材を保持しつつ、前記中心軸を中心として前記対象部材を回転する保持回転機構と、前記中心軸を中心とする周方向に沿って前記対象部材の前記外周面に巻き付けられる薄板部材の、前記周方向に沿う一の周方向エッジに接触することにより、前記対象部材の回転に伴って前記薄板部材の前記周方向エッジを、前記対象部材の前記外周面に摩擦攪拌接合する接合ヘッドと、前記中心軸に平行な軸方向に沿って見た場合に、前記対象部材の前記外周面における所定位置での接線方向に前記接合ヘッドを前記対象部材に対して相対的に移動する接線方向移動機構とを備え、前記接合ヘッドに設けられる接合ツールの回転軸が、前記所定位置における前記外周面の法線に平行であり、前記接線方向において前記所定位置からずれた位置に、前記接線方向移動機構が前記接合ヘッドを配置することにより、前記軸方向に沿って見た場合に、前記接合ツールが対向する前記対象部材の前記外周面の位置の法線に対して前記回転軸が所定角度だけ傾斜する。
【0018】
請求項10に記載の発明は、接合方法であって、a)中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材を、前記中心軸を中心として回転する工程と、b)前記中心軸を中心とする周方向に沿って前記対象部材の前記外周面に巻き付けられる薄板部材の、前記周方向に沿う一の周方向エッジに接合ヘッドを接触させることにより、前記対象部材の回転に伴って前記薄板部材の前記周方向エッジを、前記対象部材の前記外周面に摩擦攪拌接合する工程と、c)前記対象部材の回転により前記対象部材の前記外周面に対して相対的に回転する前記接合ヘッドの相対回転方向の前側において、前記接合ヘッドに近接した前記対象部材の前記外周面上の位置を第1注目位置とし、前記中心軸に平行な軸方向に前記第1注目位置から離れた前記外周面上の位置を第2注目位置として、前記b)工程に並行して、押付ローラ部により少なくとも前記第1注目位置および前記第2注目位置にて前記薄板部材を前記対象部材に対して押し付ける工程とを備える。
【0019】
請求項11に記載の発明は、接合構造体であって、中心軸を中心とする筒状の外周面を有する対象部材と、前記対象部材の前記外周面に巻き付けられた薄板であり、前記中心軸に平行な軸方向に沿う各軸方向エッジを含む部位を軸方向エッジ部として、前記対象部材の前記外周面上において一方の軸方向エッジ部上に他方の軸方向エッジ部が重ねられ、前記他方の軸方向エッジ部の前記軸方向エッジが前記一方の軸方向エッジ部に摩擦攪拌接合された軸方向接合部を有する第1薄板部材と、前記第1薄板部材と同様の構造であり、前記軸方向において前記第1薄板部材と連結される第2薄板部材とを備え、前記中心軸を中心とする周方向に沿う各周方向エッジを含む部位を周方向エッジ部として、前記第1薄板部材の周方向エッジ部上に前記第2薄板部材の周方向エッジ部が重ねられ、前記第2薄板部材の前記周方向エッジ部の前記周方向エッジが、前記第1薄板部材の前記周方向エッジ部に摩擦攪拌接合されており、前記周方向において、前記第1薄板部材の前記軸方向接合部の位置と、前記第2薄板部材の軸方向接合部の位置とが相違する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1ないし8、並びに、請求項10の発明では、薄板部材の周方向エッジの対象部材に対する接合時に薄板部材の位置がずれることを容易に抑制することができる。請求項7および9の発明では、接合ツールの回転軸を対象部材の外周面の法線に対して容易に傾斜させることができる。請求項11の発明では、好ましい接合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】接合装置を示す正面図である。
図2】接合装置の断面図である。
図3】一対の押付ローラ部の近傍を拡大して示す図である。
図4】鋼管に薄板部材を巻き付けて接合する処理の流れを示す図である。
図5】鋼管に巻き付けられた薄板部材を示す図である。
図6】薄板部材の周方向エッジを鋼管に接合する処理の流れを示す図である。
図7】周方向エッジの鋼管に対する接合を説明するための図である。
図8】周方向エッジの鋼管に対する接合を説明するための図である。
図9】軸方向エッジ部同士の接合を説明するための図である。
図10】第1薄板部材と第2薄板部材との連結を説明するための図である。
図11】接合構造体を示す斜視図である。
図12】接合装置の断面図である。
図13A】押付ローラの他の例を示す図である。
図13B】押付ローラの他の例を示す図である。
図13C】押付ローラの他の例を示す図である。
図13D】押付ローラの他の例を示す図である。
図14】押付ローラの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る接合装置1を示す正面図である。図2は、図1中のII-IIの位置における接合装置1の断面図である。接合装置1は、筒状の外周面を有する対象部材の外周面に、薄板部材を巻き付けて接合する装置である。本実施の形態では、対象部材が鋼管91であり、薄板部材92がステンレス鋼により形成される薄板である。図1および図2では、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を矢印にて示している(他の図において同様)。以下の説明では、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向であるものとするが、X方向およびY方向が水平方向に対して傾斜し、Z方向が鉛直方向に対して傾斜していてもよい。
【0023】
接合装置1は、ベース部21と、保持回転機構3と、接合ヘッド4と、ヘッド移動部5と、一対の押付ローラ部6とを備える。保持回転機構3は、保持部31と、回転機構32とを備える。保持部31は、3個のチャック爪311と、チャック爪移動機構312とを備える。3個のチャック爪311は、Y方向に延びる所定の中心軸(後述するように、保持回転機構3が保持する鋼管91の中心軸J1と一致するため、以下、鋼管91の中心軸J1と同じ符号を付す。)を中心とする周方向において等角度間隔にて配置される。図2では、3個のチャック爪311を破線にて示し、保持回転機構3の他の構成の図示は省略している。なお、チャック爪311の個数は、3個には限定されず、例えば、4~8個であってもよい。
【0024】
チャック爪移動機構312は、例えばエアシリンダを有し、3個のチャック爪311を中心軸J1を中心とする径方向に移動する。3個のチャック爪311は、チャック爪移動機構312により中心軸J1を中心とする同じ半径位置に配置される。後述するように、鋼管91の内周面に対して3個のチャック爪311を押し当てることにより、鋼管91が保持部31により保持される。鋼管91が保持部31に保持された状態では、鋼管91の中心軸J1は、保持回転機構3の中心軸と一致する。回転機構32は、例えばモータを有し、中心軸J1を中心として保持部31および鋼管91を一定の速度にて回転する。以下の説明では、中心軸J1に平行なY方向を「軸方向」とも呼ぶ。
【0025】
ベース部21は、X方向およびY方向に広がっており、Z方向に沿って見た平面視において略矩形である。既述の保持回転機構3は、ベース部21の(-Y)側の端部に設けられた回転機構支持部25に支持されている。ベース部21上には、Y方向に延びる一対のレール211が設けられる。一対のレール211は、X方向に隙間を空けて互いに平行に配置される。一対のレール211上には、鋼管支持部22が設けられる。鋼管支持部22の下部には、複数の車輪221が取り付けられる。各車輪221がレール211上を転がることにより、鋼管支持部22を一対のレール211に沿って移動することが可能である。
【0026】
鋼管支持部22は、一対のローラ222を有する。一対のローラ222はそれぞれY方向に延びており、X方向に隙間を空けて互いに平行に配置される。各ローラ222は、Y方向に延びる軸を中心として回転可能である。各ローラ222は、図2のリンク機構223を介して鋼管支持部22の本体に支持される。リンク機構223には加圧用シリンダ224が取り付けられ、加圧用シリンダ224におけるピストンロッドの進退によりローラ222の位置をZ方向に移動可能である(後述の図12参照)。一対のローラ222は、鋼管91の外周面911の下部((-Z)側の部位)に接触し、鋼管91を下方から支持する。鋼管支持部22の構造は適宜変更されてよく、複数の鋼管支持部22が軸方向に並べられてもよい。また、鋼管支持部22におけるローラ222の個数も適宜変更されてよく、ローラ222をZ方向に移動する機構も様々に変更されてよい。
【0027】
図1の例では、鋼管支持部22の(+Y)側および(-Y)側のそれぞれに、搬送用支持部23が設けられる。図2では、搬送用支持部23の図示を省略している。各搬送用支持部23も一対のレール211に沿って移動可能である。また、搬送用支持部23では、複数のローラ231がX方向に隙間を空けて設けられる。搬送用支持部23は、鋼管支持部22に連結される。後述するように、搬送用支持部23は、鋼管91を接合装置1にセットする際、および、鋼管91を接合装置1から取り出す際に用いられる。以下の接合装置1の説明では、単に「鋼管91」という場合は、保持回転機構3により保持された鋼管91を意味するものとする。
【0028】
ベース部21には、2個の第1支柱26が直立して設けられる。2個の第1支柱26は、保持部31により保持された鋼管91の(+Y)側において、X方向におけるベース部21の両端部に配置される。各第1支柱26の上部には、Y方向に延びる梁部28の一端が接続され、梁部28の他端は回転機構支持部25の上部に接続される。また、2個の第1支柱26の上部の間にも、X方向に延びる梁部28aが設けられる。ベース部21には、さらに4個の第2支柱27が直立して設けられる。4個の第2支柱27のうち2個の第2支柱27は、鋼管91の(+X)側において回転機構支持部25と第1支柱26との間に配置され、残りの2個の第2支柱27は、鋼管91の(-X)側において回転機構支持部25と第1支柱26との間に配置される。各第2支柱27の上部はY方向に延びる梁部28に接続される。第1支柱26および第2支柱27の個数は適宜変更されてよく、第2支柱27が省略されてもよい。
【0029】
図2に示すように、接合ヘッド4は、鋼管91の上方((+Z)側)に配置され、接合ツール41と、主軸モータ42と、加圧シリンダ43とを備える。接合ツール41は、回転軸J2を中心とする略円柱状の先端部である。接合ツール41の直径は、例えば20mmである。接合ツール41の端面は、鋼管91の外周面911と対向する。主軸モータ42は、例えばトルクモータであり、接合ツール41を回転軸J2を中心として回転する。加圧シリンダ43は、主軸モータ42の上方に配置され、接合ツール41を主軸モータ42と共に下方((-Z)側)に向けて加圧する。接合ヘッド4では、X軸に平行な回動軸K1(図1参照)を中心として接合ツール41を主軸モータ42および加圧シリンダ43と共に回動することも可能である。なお、接合ヘッド4では、Y軸に平行な回動軸を中心として、接合ツール41を回動することも可能である。
【0030】
接合装置1では、鋼管91の回転により、接合ヘッド4が鋼管91の外周面911に対して相対的に回転すると捉えることができる。以下の説明では、鋼管91の外周面911に対する接合ヘッド4の相対的な回転方向を、「接合ヘッド4の相対回転方向」という。なお、相対回転方向の前側とは、後述する、薄板部材92の周方向エッジの鋼管91に対する接合において、周方向エッジが接合ヘッド4を通過する前に位置する方向(接合ヘッド4に対して周方向エッジの未接合部位が位置する方向)を指し、相対回転方向の後側とは、周方向エッジが接合ヘッド4を通過した後に位置する方向(接合ヘッド4に対して周方向エッジの接合済みの部位が位置する方向)を指す。
【0031】
図2のヘッド移動部5は、第1支持フレーム51と、第2支持フレーム52と、ヘッドY方向移動機構53と、ヘッドX方向移動機構54と、ヘッドZ方向移動機構55とを備える。第1支持フレーム51は、平面視において矩形の枠状部材であり、Y方向に延びる一対の梁部28の上面に設けられた一対のレール部511によりY方向に移動可能に支持される。ヘッドY方向移動機構53は、ラックアンドピニオン531およびモータ等を有し、第1支持フレーム51をY方向に移動する。第2支持フレーム52は、平面視において矩形の枠状、かつ、Z方向に延びる部材であり、第1支持フレーム51においてX方向に延びる各部位の上面に設けられたレール部521によりX方向に移動可能に支持される。ヘッドX方向移動機構54は、モータ541およびボールねじ等を有し、第2支持フレーム52をX方向に移動する。ヘッドZ方向移動機構55は、モータ551およびボールねじ等を有し、接合ヘッド4を支持しつつZ方向に移動する。
【0032】
以上のように、接合装置1では、接合ヘッド4は、ヘッド移動部5により支持される。ヘッドY方向移動機構53は、接合ヘッド4を既述の軸方向に移動する軸方向移動機構である。また、軸方向に沿って見た場合に、鋼管91の外周面911における最上位置(すなわち、最も(+Z)側の位置)での接線方向とX方向は平行であるため、ヘッドX方向移動機構54は、当該接線方向に接合ヘッド4を移動する接線方向移動機構である。
【0033】
一対の押付ローラ部6は、接合ヘッド4の(+X)側および(-X)側にそれぞれ配置される。一対の押付ローラ部6は、互いに同様の構造を有する。具体的には、各押付ローラ部6は、1つの押付ローラ61と、ローラ支持ユニット62とを備える。図1に示すように、押付ローラ61は、Y方向に延びており、鋼管91に巻き付けられる薄板部材92のY方向の幅よりも長い。押付ローラ61の外周面は、例えば金属、または、ゴム等の弾性部材により形成される。押付ローラ61の長さは、薄板部材92の当該幅よりも短くてもよい。
【0034】
図3は、図2中の一対の押付ローラ部6の近傍を拡大して示す図である。図3に示すように、一対の押付ローラ部6の押付ローラ61は、接合ヘッド4の相対回転方向の前側および後側において接合ヘッド4に近接する。各押付ローラ61は、ローラ支持ユニット62により支持される。ローラ支持ユニット62は、1つの支持ベース部63と、複数のローラ支持部64とを備える。支持ベース部63は、Y方向に延びる部材であり、両端部が取付部631を介して第2支柱27に固定される。詳細には、第2支柱27においてY方向を向く両面には、それぞれがZ方向に延びる複数の溝部が形成される。支持ベース部63の各端部に固定された取付部631は、溝部を利用して第2支柱27に固定される。取付部631は、第2支柱27に対して着脱可能であり、Z方向における支持ベース部63の位置を変更することが可能である。
【0035】
複数のローラ支持部64は、Y方向に等間隔に配列され、支持ベース部63に固定される。押付ローラ61の両端部は、Y方向における両端のローラ支持部64により回転可能に支持される。図1の例では、押付ローラ61の両端部間における複数の部位も、残りのローラ支持部64により回転可能に支持される。図3に示すように、各ローラ支持部64は、先端部641と、回動部642と、エアシリンダ643と、回動支持部644とを備える。
【0036】
回動支持部644は、支持ベース部63に固定される。回動部642は、L字状の部材であり、Z方向に延びる縦部と、X方向に延びる横部とを有する。回動支持部644は、縦部と横部との交差位置を中心として、回動部642を回動可能に支持する。先端部641は、回動部642の横部に固定される。詳細には、回動部642の横部にはX方向に沿って延びる孔部が設けられており、先端部641は、当該孔部に挿入されたボルトおよびナットを用いて回動部642に固定される。ローラ支持ユニット62では、当該孔部内にボルトが配置される範囲内で、X方向における先端部641の位置を変更することが可能である。先端部641では、回動部642とは反対側の部位が下方に向かって屈曲しており、当該部位の先端において押付ローラ61が回転可能に支持される。エアシリンダ643のピストンロッドは回動部642の縦部に接続される。
【0037】
押付ローラ部6では、複数のローラ支持部64におけるエアシリンダ643がピストンロッドを押し出すことにより、押付ローラ61が下方に移動し、図3中に実線にて示すように鋼管91の外周面911に対して押し付けられる。すなわち、押付ローラ61が、鋼管91の外周面911を加圧する押付位置に配置される。また、エアシリンダ643がピストンロッドを引き込むことにより、図3中に二点鎖線にて示すように、押付ローラ61が上方に移動して鋼管91の外周面911から離れる。すなわち、押付ローラ61が待機位置に配置される。
【0038】
図2に示すように、接合装置1は、上ローラ部71と、横ローラ部72とをさらに備える。上ローラ部71は、上ローラ711と、ローラ支持部712と、エアシリンダ713とを備える。上ローラ711は、例えば、押付ローラ部6の押付ローラ61と略同じ範囲にてY方向に延びる。ローラ支持部712は、上ローラ711の軸を支持するとともに、エアシリンダ713に接続される。上ローラ部71では、エアシリンダ713がピストンロッドを引き込むことにより、上ローラ711が鋼管91の外周面911に対して押し付けられる。エアシリンダ713がピストンロッドを押し出すことにより、上ローラ711が鋼管91の外周面911から離れる。
【0039】
横ローラ部72は、横ローラ721と、エアシリンダ723とを備える。横ローラ721は、例えば、押付ローラ部6の押付ローラ61と略同じ範囲にてY方向に延びる。横ローラ721の軸は、エアシリンダ723のピストンロッドに接続される。横ローラ部72では、エアシリンダ723がピストンロッドを押し出すことにより、横ローラ721が鋼管91の外周面911に対して押し付けられる。エアシリンダ723がピストンロッドを引き込むことにより、横ローラ721が鋼管91の外周面911から離れる。上ローラ部71および横ローラ部72は、必要に応じて利用される。
【0040】
次に、接合装置1が鋼管91の外周面911に薄板部材92を巻き付けて接合する(SUSライニング)処理の流れについて、図4を参照して説明する。接合処理では、まず、鋼管91が準備される(ステップS10)。鋼管91の準備では、長尺の鋼管を所望の長さで切断することにより対象部材である鋼管91が得られ、必要に応じて余盛のグラインダー研磨が施される。その後、鋼管91の外周面911に対して、薄板部材92を巻き付ける位置を示すマーキングが行われる。マーキングは、鋼管91が接合装置1にセットされた後に行われてもよい。
【0041】
また、薄板部材92が準備される(ステップS11)。薄板部材92の準備では、ステンレス鋼の薄板から、略矩形の薄板部材92が切り出される(切断)。続いて、薄板部材92に対して、鋼管91の曲率に合わせて曲げ加工が施される。曲げ加工により薄板部材92が予め湾曲した状態となる。さらに、鋼管91に巻き付けた際に軸方向に沿うエッジ(以下、「軸方向エッジ」という。)に沿って、薄板部材92に両面テープが貼着される。なお、作業手順等によっては、両面テープの貼着が省略されてもよい。
【0042】
鋼管91および薄板部材92が準備されると、鋼管91が接合装置1にセットされる(ステップS12)。具体的には、図1中に二点鎖線にて示す位置に、鋼管支持部22および搬送用支持部23が移動され、外部の搬送装置により、搬送用支持部23の複数のローラ231上に鋼管91が載置される。続いて、鋼管支持部22の一対のローラ222を上昇させて鋼管91を持ち上げることにより、鋼管91の中心軸J1が保持回転機構3の中心軸に一致する。その後、鋼管支持部22および搬送用支持部23を鋼管91と共に(-Y)方向に移動することにより、保持回転機構3の近傍に鋼管91が配置される。このとき、予め各チャック爪移動機構312がチャック爪311を径方向内側に移動することにより、チャック爪311が鋼管91と干渉することが避けられる。そして、各チャック爪移動機構312がチャック爪311を径方向外側に移動し、鋼管91の内周面に対して押し当てることにより、鋼管91が保持回転機構3により保持される。なお、チャック爪311を鋼管91の外周面に対して押し当てることにより、鋼管91が保持されてもよい。
【0043】
続いて、図3の各押付ローラ部6では、複数のローラ支持部64におけるエアシリンダ643がピストンロッドを押し出すことにより、押付ローラ61が鋼管91の外周面911に対して所定の力で押し付けられる。すなわち、押付ローラ61が押付位置に配置される(ステップS13)。本実施の形態では、一対の押付ローラ部6が鋼管91を押し付ける力は略同じである。また、必要に応じて、図2中の上ローラ部71の上ローラ711、および、横ローラ部72の横ローラ721が鋼管91の外周面911に対して押し付けられる。
【0044】
そして、薄板部材92が鋼管91の外周面911に巻き付けられる(ステップS14)。具体的には、鋼管91の外周面911上のマーキングが示す位置に、薄板部材92が配置され、薄板部材92の一の軸方向エッジ近傍の部位が外周面911に重ねられる。このとき、当該軸方向エッジに沿って貼着された両面テープにより、当該軸方向エッジ近傍の部位が外周面911に仮固定される。その後、保持回転機構3が鋼管91の回転を開始する。これにより、当該軸方向エッジを先頭として、薄板部材92の各部位が押付ローラ部6の押付ローラ61を順に通過する。このとき、薄板部材92と鋼管91の外周面911との隙間を押付ローラ61により潰しながら、薄板部材92が鋼管91に巻き付けられる。先頭の軸方向エッジが押付ローラ61の位置まで戻ると、薄板部材92の巻き付けが完了し、鋼管91の回転が停止される。
【0045】
図5は、鋼管91に巻き付けられた薄板部材92を示す図であり、軸方向に沿って見た薄板部材92の一部を示している。薄板部材92において各軸方向エッジ941を含む部位(すなわち、軸方向エッジ941およびその近傍の部位)を軸方向エッジ部942と呼ぶと、図5に示すように、鋼管91の外周面911上において一方の軸方向エッジ部942上に他方の軸方向エッジ部942が重ねられる。両軸方向エッジ部942が重なる幅は、例えば5~40mmである。以下の説明では、当該一方の軸方向エッジ部942および当該他方の軸方向エッジ部942をそれぞれ「内側の軸方向エッジ部942」および「外側の軸方向エッジ部942」とも呼ぶ。なお、外側の軸方向エッジ部942にも両面テープを貼着しておき、外側の軸方向エッジ部942が押付ローラ部6の押付ローラ61を通過する直前に、剥離紙を剥がすことにより、外側の軸方向エッジ部942が内側の軸方向エッジ部942に貼着されてもよい。
【0046】
薄板部材92が鋼管91に巻き付けられると、薄板部材92における周方向に沿う各エッジ(以下、「周方向エッジ」という。)が、鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合される(ステップS15)。図6は、図4中のステップS15にて行われる処理の流れを示す図であり、薄板部材92の周方向エッジ931を鋼管91に接合する処理を示す。図7および図8は、周方向エッジ931の鋼管91に対する接合を説明するための図である。図7では、X方向に沿って見た接合ヘッド4の接合ツール41および薄板部材92を示し、図8では、軸方向に沿って見た接合ツール41および薄板部材92を示している。
【0047】
周方向エッジ931の鋼管91に対する接合では、予めヘッド移動部5のヘッドY方向移動機構53、ヘッドX方向移動機構54およびヘッドZ方向移動機構55が接合ヘッド4を移動することにより、接合ツール41の端面が薄板部材92の一方の周方向エッジ931に対向する位置に配置されている(図7参照)。接合装置1では、回転軸J2を中心とする接合ツール41の回転が開始され(ステップS151)、続いて、ヘッドZ方向移動機構55が接合ヘッド4を下降することにより、図7に示すように、接合ツール41の端面が当該周方向エッジ931に接触する(ステップS152)。このとき、図8に示すように、鋼管91の外周面911における最上位置P1からX方向にずれた位置に接合ツール41が配置される。図8では、最上位置P1に配置された場合の接合ツール41等を二点鎖線にて示している。
【0048】
ここで、接合装置1では、接合ヘッド4に設けられる接合ツール41の回転軸J2が、鋼管91の最上位置P1における外周面911の法線に平行(すなわち、Z方向に平行)である。一方、摩擦攪拌接合では、接合対象の部材において接合すべき位置の法線に対して接合ツールの回転軸が所定角度(例えば、1~5°であり、好ましくは3°である。)だけ傾斜することが好ましい。そこで、既述のように、外周面911における最上位置P1での接線方向(すなわち、X方向)において最上位置P1からずれた位置に、接合ヘッド4の接合ツール41が配置される。これにより、軸方向に沿って見た場合に、接合ツール41が接触する鋼管91の外周面911の位置の法線(図8中にて符号N1を付す破線にて示す。)に対して、回転軸J2が所定角度だけ傾斜する。なお、図8の例では、後述の鋼管91の回転における回転方向が時計回りであるため、接合ツール41の端面において、接合ヘッド4の相対回転方向の前側の部位が、薄板部材92の表面から僅かに浮いた状態となる。
【0049】
接合装置1では、中心軸J1を中心とする鋼管91の回転を開始することにより、鋼管91の回転に伴って薄板部材92の周方向エッジ931が鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合される(ステップS153)。このとき、図4のステップS13から継続して、一対の押付ローラ部6の押付ローラ61が押付位置に配置されている(すなわち、ステップS15の前から鋼管91の外周面911を加圧している。)。したがって、周方向エッジ931の外周面911に対する摩擦攪拌接合に並行して、接合ヘッド4の相対回転方向の前側および後側において、押付ローラ61により薄板部材92が鋼管91に対して押し付けられている(すなわち、薄板部材92がクランプされている。)。
【0050】
既述のように、各押付ローラ61は軸方向に延びており、接合ツール41に近接した鋼管91の外周面911上の位置のみならず、当該位置から軸方向に離れた外周面911上の位置までの広範囲に亘って、押付ローラ61が薄板部材92を鋼管91に対して押し付ける。これにより、鋼管91の外周面911に対する薄板部材92の位置がずれることが抑制される。薄板部材92の周方向エッジ931が、周方向の全体に亘って鋼管91に接合されると、鋼管91の回転、および、接合ツール41の回転が停止され、周方向エッジ931の外周面911に対する接合が完了する(ステップS154,S155)。
【0051】
接合装置1では、薄板部材92の他方の周方向エッジ931に対して、上記ステップS151~S155と同様の処理が行われ、当該他方の周方向エッジ931が外周面911に摩擦攪拌接合される。このようにして、薄板部材92の各周方向エッジ931が鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合された周方向接合部93(後述の図11参照)が形成される。
【0052】
両側の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合が完了すると、接合ヘッド4が所定の退避位置に配置される。続いて、図1の回動軸K1を中心として接合ツール41が所定角度だけ回動される(図1中の二点鎖線にて示す接合ツール41参照)。また、ヘッド移動部5のヘッドY方向移動機構53、ヘッドX方向移動機構54およびヘッドZ方向移動機構55が接合ヘッド4を移動することにより、接合ツール41の端面が薄板部材92の軸方向エッジ941に対向する位置に配置される(図9参照)。そして、接合ツール41の回転が開始され、ヘッドZ方向移動機構55が接合ヘッド4を下降することにより、図9に示すように、接合ツール41の端面が当該軸方向エッジ941に接触する。既述のように、内側の軸方向エッジ部942上に外側の軸方向エッジ部942が重ねられているため、接合ツール41の端面は、外側の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941に接触する。また、X方向に沿って見た場合に、接合ツール41が対向する鋼管91の外周面911の位置の法線に対して、接合ツール41の回転軸J2が所定角度だけ傾斜している。なお、軸方向エッジ941を接合する本動作において、当該法線に対する接合ツール41の回転軸J2の傾斜は、Y軸に平行な回動軸を中心とする傾斜であってもよい。
【0053】
接合装置1では、ヘッドY方向移動機構53が接合ヘッド4を軸方向に連続的に移動することにより、外側の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が内側の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合される(図4:ステップS16)。このとき、ステップS13から継続して、一対の押付ローラ部6の押付ローラ61が押付位置に配置されている。したがって、外側の軸方向エッジ941の内側の軸方向エッジ部942に対する摩擦攪拌接合に並行して、X方向における接合ヘッド4の両側において、押付ローラ61により薄板部材92が鋼管91に対して押し付けられる。これにより、内側および外側の軸方向エッジ部942が浮き上がることが防止され、外側の軸方向エッジ941が内側の軸方向エッジ部942に対して適切に接合される。以下の説明では、外側の軸方向エッジ941の内側の軸方向エッジ部942に対する接合を、軸方向エッジ部942同士の接合とも表現する。
【0054】
外側の軸方向エッジ941の全体が内側の軸方向エッジ部942に接合されると、ヘッドY方向移動機構53による接合ヘッド4の移動、および、接合ツール41の回転が停止され、軸方向エッジ部942同士の接合が完了する。これにより、外側の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が内側の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合された軸方向接合部94(後述の図11参照)が形成される。なお、軸方向エッジ部942に貼着された両面テープは、摩擦攪拌接合にて生じる熱により消失する。
【0055】
その後、図3の各押付ローラ部6では、複数のローラ支持部64におけるエアシリンダ643がピストンロッドを引き込むことにより、押付ローラ61が鋼管91の外周面911から離れる。すなわち、押付ローラ61が待機位置に配置される(ステップS17)。
【0056】
他の薄板部材92を鋼管91に接合する場合(ステップS18)、上記ステップS13~S17が当該他の薄板部材92に対して繰り返される。ここで、既に鋼管91に接合されている薄板部材92を第1薄板部材92と呼び、当該他の薄板部材92を第2薄板部材92と呼ぶ。第2薄板部材92は、第1薄板部材92の(+Y)側に配置されるものとする。また、各薄板部材92において各周方向エッジ931を含む部位(すなわち、周方向エッジ931およびその近傍の部位)を周方向エッジ部932と呼ぶ。
【0057】
ステップS14において第2薄板部材92を鋼管91に巻き付ける際には、図10に示すように、(-Y)側の第1薄板部材92の(+Y)側の周方向エッジ部932上に、(+Y)側の第2薄板部材92の(-Y)側の周方向エッジ部932が重ねられる。そして、ステップS15では、第2薄板部材92の当該周方向エッジ部932の周方向エッジ931が、第1薄板部材92の周方向エッジ部932に摩擦攪拌接合される。これにより、第1薄板部材92の周方向エッジ部932と第2薄板部材92の周方向エッジ部932とが、軸方向において互いに連結される。第1薄板部材92と第2薄板部材92とが重なる幅は、例えば5~40mmである。一方、(+Y)側の第2薄板部材92の(+Y)側の周方向エッジ931は、鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合される。以上のように、第2薄板部材92の一方の周方向接合部93(図11参照)では、周方向エッジ931と第1薄板部材92の周方向エッジ部932とが摩擦攪拌接合され、他方の周方向接合部93では、周方向エッジ931と鋼管91とが摩擦攪拌接合されている。
【0058】
また、第2薄板部材92においても両端の軸方向エッジ部942が互いに重ねられる。そして、ステップS16において、外側の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が、内側の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合され、軸方向接合部94が形成される。このとき、周方向において、第1薄板部材92の軸方向接合部94の位置と、第2薄板部材92の軸方向接合部94の位置とが相違する。換言すると、ステップS14において第2薄板部材92を鋼管91に巻き付ける際に、周方向における第2薄板部材92の軸方向エッジ部942の位置が、第1薄板部材92の軸方向接合部94の位置からずらされる。
【0059】
第2薄板部材92に対するステップS13~S17が完了すると、他の薄板部材92を鋼管91に接合するか否かが確認される。互いに連結された複数の薄板部材92が軸方向に所望の長さ(ライニング長)となっておらず、さらに他の薄板部材92を鋼管91に接合する場合には(ステップS18)、上記ステップS13~S17が繰り返される。
【0060】
互いに連結された複数の薄板部材92が軸方向に所望の長さとなっており、他の薄板部材92を鋼管91に接合しない場合(ステップS18)、鋼管91が接合装置1から取り出される(ステップS19)。具体的には、図1の各チャック爪移動機構312がチャック爪311を径方向内側に移動し、鋼管91の内周面からチャック爪311が離される。また、鋼管支持部22の一対のローラ222を下降させて鋼管91を下ろすことにより、搬送用支持部23の複数のローラ231上に鋼管91が載置される。その後、鋼管支持部22および搬送用支持部23と共に鋼管91が移動され、図1中に二点鎖線にて示す位置に配置される。そして、外部の搬送装置により鋼管91が接合装置1から取り出される。以上の処理により、鋼管91に薄板部材92が接合された接合構造体90(後述の図11参照)が得られる。
【0061】
接合構造体90は、必要に応じて補修される。例えば、外側から視認可能な周方向接合部93および軸方向接合部94が検査され、接合の不良が発見された場合に、溶接等により当該不良が補修される。また、ミニグラインダやブラスト処理等により、ばり(不要な突起)等が除去される。さらに、必要に応じて酸洗処理等が行われる。
【0062】
図11は、接合構造体90を示す斜視図である。接合構造体90は、鋼管91と、第1薄板部材92と、第2薄板部材92とを備える。鋼管91は、中心軸J1を中心とする筒状の外周面911を有する。鋼管91の直径は、例えば0.3~2mである。中心軸J1に平行な軸方向における鋼管91の長さは、例えば20m以下である。第1薄板部材92および第2薄板部材92は、ステンレス鋼により形成される薄板である。各薄板部材92の厚さは、例えば0.1~1mmであり、本実施の形態では、0.4mmである。軸方向における1つの薄板部材92の長さは、例えば0.5~2mであり、本実施の形態では、1.2mである。なお、薄板部材92の個数は、2個には限定されず、1個または3個以上であってもよい。
【0063】
第1薄板部材92は、鋼管91の外周面911に巻き付けられている。第1薄板部材92では、鋼管91の外周面911上において一方の軸方向エッジ部942上に他方の軸方向エッジ部942が重ねられ、当該他方の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が当該一方の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合されている(図9参照)。すなわち、第1薄板部材92は、外側の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が内側の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合された軸方向接合部94を有する。
【0064】
第2薄板部材92は、第1薄板部材92と同様の構造であり、鋼管91の外周面911に巻き付けられている。第2薄板部材92では、鋼管91の外周面911上において一方の軸方向エッジ部942上に他方の軸方向エッジ部942が重ねられ、当該他方の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が当該一方の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合されている(図9参照)。すなわち、第2薄板部材92は、外側の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が内側の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合された軸方向接合部94を有する。図11に示すように、中心軸J1を中心とする周方向において、第1薄板部材92の軸方向接合部94の位置と、第2薄板部材92の軸方向接合部94の位置とが互いに相違する。
【0065】
また、軸方向において第1薄板部材92と第2薄板部材92とが連結されている。具体的には、第1薄板部材92の周方向エッジ部932上に第2薄板部材92の周方向エッジ部932が重ねられ、第2薄板部材92の当該周方向エッジ部932の周方向エッジ931は、第1薄板部材92の周方向エッジ部932に摩擦攪拌接合されている(図10参照)。このように、第1薄板部材92と第2薄板部材92との間には、第2薄板部材92の周方向エッジ931が、第1薄板部材92の周方向エッジ部932に摩擦攪拌接合された周方向接合部93が設けられる。
【0066】
第1薄板部材92において第2薄板部材92とは反対側の端部では、周方向エッジ931が鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合された周方向接合部93が設けられる(図7参照)。第2薄板部材92においても第1薄板部材92とは反対側の端部では、周方向エッジ931が鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合された周方向接合部93が設けられる。
【0067】
ここで、周方向における第1薄板部材の軸方向接合部94の位置と、第2薄板部材の軸方向接合部94の位置とが同じである比較例の接合構造体を想定する。既述のように、軸方向接合部94では、両端の軸方向エッジ部942が互いに重なる(図9参照)。したがって、比較例の接合構造体では、第1薄板部材の周方向エッジ部932と第2薄板部材の周方向エッジ部932とが重なる領域において(図10参照)、周方向における軸方向接合部94の位置では、薄板部材が4層となる。当該位置では、摩擦攪拌接合を適切に行うことができず、接合不良が発生する場合がある。
【0068】
これに対し、図11の接合構造体90では、周方向において、第1薄板部材92の軸方向接合部94の位置と、第2薄板部材92の軸方向接合部94の位置とが相違する。これにより、薄板部材が4層となることを避けて接合不良の発生を抑制する、すなわち、接合構造体90を適切に製造することができる。その結果、好ましい接合構造体90を提供することができる。
【0069】
上記接合装置1では、様々な直径の鋼管91に対して薄板部材92を接合することが可能である。例えば、直径が比較的小さい鋼管91に対して薄板部材92を接合する際には、図12に示すように、鋼管支持部22の一対のローラ222が上昇することにより、鋼管91の中心軸J1が保持回転機構3の中心軸に一致する。また、各押付ローラ部6において、取付部631の第2支柱27に対する固定位置を下方にずらすことにより、押付ローラ61が鋼管91の外周面911を押し付けることが可能な位置に配置される。押付ローラ部6では、回動部642の横部に対する先端部641の位置がX方向にずらされて、X方向における押付ローラ61の位置が変更されてもよい(図3参照)。必要に応じて、上ローラ部71の上ローラ711、および、横ローラ部72の横ローラ721も鋼管91の外周面911に対して押し付けられる。
【0070】
さらに、ヘッドZ方向移動機構55が接合ヘッド4を下降することにより、接合ツール41の端面が鋼管91の外周面911近傍に配置される。以上のように、接合装置1では、軸方向に沿って見た場合に、鋼管支持部22の一対のローラ222の位置、押付ローラ部6の押付ローラ61の位置、接合ツール41の位置等を変更することにより、図12の鋼管91に対して薄板部材92を接合することが可能となる。
【0071】
図12中に二点鎖線にて示すように、鋼管91の外周面911と一のローラ(図12では、押付ローラ61)との間に薄板部材92を送り込む薄板部材受け台73が、接合装置1に設けられてもよい。薄板部材受け台73には、軸方向に対して薄板部材92の周方向エッジ931が垂直となるように、周方向エッジ931と接触する位置決めレールが設けられる。
【0072】
以上に説明したように、接合装置1は、鋼管91の中心軸J1を中心として鋼管91を回転する保持回転機構3と、鋼管91の外周面911に巻き付けられる薄板部材92の周方向エッジ931を、鋼管91の回転に伴って鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合する接合ヘッド4と、接合ヘッド4の相対回転方向の前側において接合ヘッド4に近接した位置から軸方向に延びる押付ローラ61を有し、当該押付ローラ61により薄板部材92を鋼管91に対して押し付ける押付ローラ部6とを備える。
【0073】
ここで、接合ヘッドの相対回転方向の前側において接合ヘッドに近接した位置に、幅の狭いローラ(軸方向の長さが短いローラ)を設ける比較例の接合装置を想定する。比較例の接合装置では、摩擦攪拌接合が行われる直前の薄板部材92の部位を当該ローラにより鋼管91に密着させることができ、薄板部材92と鋼管91とを適切に接合することが可能となる。しかしながら、当該ローラにより狭い領域のみで薄板部材92を押し付けるため、当該領域を中心として薄板部材92が僅かに回転し、鋼管91の外周面911における中心軸J1に垂直な円周に対して、薄板部材92の周方向エッジ931が傾きやすくなる。また、薄板部材92がねじれたり、部分的に膨らむ(外周面911から浮き上がる)こともある。このようにして、周方向エッジ931の鋼管91に対する接合時に、薄板部材92の位置がずれてしまう。
【0074】
これに対し、軸方向に延びる押付ローラ61を有する接合装置1では、押付ローラ61が軸方向の広範囲にて薄板部材92を鋼管91に押し付けるため、外周面911における中心軸J1に垂直な円周に対して、薄板部材92の周方向エッジ931が傾きにくくなる。また、薄板部材92がねじれたり、部分的に膨らむことも抑制される。その結果、薄板部材92の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合時に、薄板部材92の位置がずれることを容易に抑制することができる。
【0075】
好ましくは、押付ローラ部6の押付ローラ61が、接合ヘッド4とは独立して支持される。これにより、押付ローラ61が鋼管91から受ける反力が、接合ヘッド4に影響を及ぼすことを防止することができ、薄板部材92の周方向エッジ931を鋼管91の外周面911に安定して接合することが可能となる。接合装置1の設計によっては、押付ローラ61が接合ヘッド4に固定される等、押付ローラ61と接合ヘッド4とが実質的に同じ支持部により支持されてもよい。
【0076】
好ましくは、接合ヘッド4の相対回転方向の後側に配置され、上記押付ローラ部6と同様の構造を有するもう1つの押付ローラ部6をさらに備える。これにより、薄板部材92の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合時に、薄板部材92の位置がずれることをより確実に抑制することができる。また、摩擦攪拌接合が行われた直後の薄板部材92の部位に生じる膨らみを、当該押付ローラ部6の押付ローラ61により潰すことができ、好ましい周方向接合部93を形成することができる。さらに、鋼管91をいずれの回転方向に回転する場合でも、周方向エッジ931の接合を適切に行うことができる。
【0077】
好ましくは、接合装置1が、接合ヘッド4を軸方向に移動する軸方向移動機構(上述の例では、ヘッドY方向移動機構53)をさらに備える。また、鋼管91の外周面911上において一方の軸方向エッジ部942上に他方の軸方向エッジ部942が重ねられる。そして、接合ヘッド4を当該他方の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941に接触させた状態で、軸方向移動機構が接合ヘッド4を軸方向に移動することにより、当該他方の軸方向エッジ部942の軸方向エッジ941が当該一方の軸方向エッジ部942に摩擦攪拌接合される。このとき、周方向における接合ヘッド4の両側において、軸方向に延びる押付ローラ61により薄板部材92が鋼管91に押し付けられるため、薄板部材92の軸方向エッジ部942同士を適切に接合することができる。
【0078】
好ましくは、接合装置1が、軸方向に沿って見た場合に、鋼管91の外周面911における所定位置(上述の例では、最上位置P1)での接線方向に接合ヘッド4を移動する接線方向移動機構(上述の例では、ヘッドX方向移動機構54)を備える。また、接合ヘッド4に設けられる接合ツール41の回転軸J2が、当該所定位置における外周面911の法線に平行である。そして、当該接線方向において当該所定位置からずれた位置に、接線方向移動機構が接合ヘッド4を配置することにより、軸方向に沿って見た場合に、接合ツール41が対向する鋼管91の外周面911の位置の法線に対して回転軸J2が所定角度だけ傾斜する。このように、接合装置1では、接合ヘッド4を直線的に移動する移動機構を用いて、接合ツール41の回転軸J2を外周面911の法線に対して容易に傾斜させることができる。
【0079】
なお、外周面911における当該所定位置は、最上位置P1以外であってもよい。また、接合装置1の設計によっては、軸方向に平行な軸を中心として接合ツール41を傾斜させる機構が採用されてもよい。薄板部材92を鋼管91に適切に接合することが可能である場合には、接合ツール41の回転軸J2を外周面911の法線に対して傾斜させなくてもよい。
【0080】
好ましくは、接合装置1を軸方向に沿って見た場合に、軸方向に垂直な2方向(上述の例では、X方向およびZ方向)において、押付ローラ部6の押付ローラ61の位置が変更可能である。これにより、様々な直径の鋼管91に対して押付ローラ61を利用して、薄板部材92の接合を行うことができる。接合装置1では、モータ等を有する機構により、押付ローラ61のX方向およびZ方向の位置が変更可能とされてもよい。軸方向に沿って見た場合に、押付ローラ61の位置が変更可能な2方向は、必ずしも互いに直交する必要はなく、互いに交差する方向であればよい。
【0081】
上述の接合方法は、鋼管91の中心軸J1を中心として鋼管91を回転する工程(ステップS153)と、鋼管91の外周面911に巻き付けられる薄板部材92の周方向エッジ931を、鋼管91の回転に伴って接合ヘッド4により鋼管91の外周面911に摩擦攪拌接合する工程(ステップS151,S152)と、接合ヘッド4の相対回転方向の前側において接合ヘッド4に近接した位置から軸方向に延びる押付ローラ61により、薄板部材92を鋼管91に対して押し付ける工程(ステップS13)とを備える。これにより、薄板部材92の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合時に、薄板部材92の位置がずれることを容易に抑制することができる。
【0082】
上記処理例では、鋼管91の外周面911に薄板部材92を巻き付けた後(ステップS14)、薄板部材92の周方向エッジ931が鋼管91に接合されるが(ステップS15)、薄板部材92の鋼管91に対する巻き付けと、薄板部材92の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合とが同時に行われてもよい。これにより、薄板部材92の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合を効率よく行うことができる。この場合に、軸方向エッジ部942における両面テープの貼着が省略されてもよい。
【0083】
図13Aないし図13Dは、押付ローラ部6の押付ローラ61の他の例を示す図であり、(+Z)側から(-Z)方向を向いて見た押付ローラ部6、鋼管91および薄板部材92を示している。好ましい接合装置1では、図13Aのように、軸方向における薄板部材92の全長に亘って延びる押付ローラ61が設けられる。当該押付ローラ61は、複数のローラ支持部64により支持および加圧される。図13Bのように、軸方向の長さが薄板部材92よりも短い複数の押付ローラ61が軸方向に配列されてもよい。各押付ローラ61は、2個のローラ支持部64により支持および加圧される。
【0084】
図13Cのように、芯部611に対して、複数の円筒部材612が嵌め込まれた押付ローラ61が用いられてもよい。芯部611は、軸方向における薄板部材92の全長に亘って延びており、複数の円筒部材612は隙間を空けて軸方向に配列される。芯部611は、複数のローラ支持部64により支持および加圧される。図13Dのように、比較的短い2個の押付ローラ61が、軸方向に離れて配置されてもよい。図13Dの例では、当該2個の押付ローラ61は、薄板部材92の両側の周方向エッジ931にそれぞれ重なる。各押付ローラ61は、2個のローラ支持部64により支持および加圧される。
【0085】
ここで、接合ヘッド4の相対回転方向の前側において、接合ヘッド4に近接した鋼管91の外周面911上の位置を第1注目位置とする。接合装置1では、押付ローラ61が当該第1注目位置にて薄板部材92を鋼管91に対して押し付けることにより、摩擦攪拌接合が行われる直前の薄板部材92の部位を鋼管91に密着させることができ、薄板部材92と鋼管91とを適切に接合することが可能となる。
【0086】
このとき、押付ローラ61が薄板部材92を大きい荷重にて鋼管91に対して押し付ける場合でも、仮に既述の比較例の接合装置のように、押付ローラ61の幅が狭く、押付ローラ61の薄板部材92に対する接触面が小さすぎると、薄板部材92が傾く、ねじれる、第1注目位置以外の部位が膨らむ等して、薄板部材92の位置がずれてしまう。これに対し、接合装置1では、第1注目位置から軸方向に離れた外周面911上の位置を第2注目位置として、押付ローラ部6が少なくとも第1注目位置および第2注目位置にて薄板部材92を鋼管91に対して押し付ける。これにより、薄板部材92の周方向エッジ931の鋼管91に対する接合時に、薄板部材92の位置がずれることを抑制することが可能となる。
【0087】
押付ローラ部6が薄板部材92を鋼管91に対して押し付ける軸方向の範囲を、押付範囲とすると、押付範囲は大きいほど好ましい。押付範囲は、軸方向における薄板部材92の全長の1/4以上であることが好ましく、薄板部材92の全長の1/2以上であることがより好ましい。図13Bおよび図13Dのように、複数の押付ローラ61が軸方向に並ぶ場合、押付範囲は、複数の押付ローラ61が薄板部材92に接触する軸方向の長さの和である(図13Bでは、L1+L2+L3であり、図13Dでは、L1+L2である。)。図13Cのように、複数の円筒部材612が軸方向に並ぶ場合、押付範囲は、複数の円筒部材612が薄板部材92に接触する軸方向の長さの和である(図13Cでは、L1+L2+L3である。)。
【0088】
なお、周方向エッジ931の接合時に、薄板部材92の位置がずれることを抑制する点のみに着目する場合には、図14のように、軸方向において周方向エッジ931から離れた位置において、軸方向に延びる押付ローラ61により、薄板部材92が鋼管91に対して押し付けられてもよい。
【0089】
上記接合装置1、接合方法および接合構造体90では様々な変形が可能である。
【0090】
接合装置1の設計によっては、接合ヘッド4の相対回転方向における後側の押付ローラ部6が省略されてもよい。
【0091】
接合装置1において、2個の接合ヘッド4を設けることにより、薄板部材92の両側の周方向エッジ931が同時に接合されてもよい。また、鋼管91に薄板部材92を巻き付けた後、周方向エッジ931の接合前に、軸方向エッジ部942同士が接合されてもよい。
【0092】
鋼管91が大型である場合には、軸方向に移動可能な門型の支持部に接合ヘッド4および押付ローラ部6が取り付けられてもよい。この場合、当該支持部が保持回転機構3とは分離して設けられ、当該支持部が保持回転機構3から軸方向に離れた状態で、鋼管91が搬入されて保持回転機構3に取り付けられる。その後、当該支持部を保持回転機構3側に移動することにより、鋼管91の外周面911に対向する位置に接合ヘッド4および押付ローラ部6が配置される。
【0093】
鋼管91を軸方向(Y方向)に移動する軸方向移動機構により、接合ヘッド4が鋼管91に対して軸方向に相対的に移動してもよい。同様に、鋼管91を上述の接線方向(X方向)に移動する接線方向移動機構により、接合ヘッド4が鋼管91に対して接線方向に相対的に移動してもよい。接合装置1では、軸方向移動機構および接線方向移動機構が省略されてもよい。
【0094】
保持回転機構3は、チャック爪311以外により鋼管91を保持するものであってもよい。例えば、複数のローラにより鋼管91が下方から支持(保持)され、一部のローラが回転することにより、鋼管91が回転してもよい。
【0095】
接合ヘッド4および押付ローラ部6は、必ずしも鋼管91の上方に配置される必要はない。例えば、鋼管91の下方に、接合ヘッド4および押付ローラ部6が配置されてもよい。
【0096】
薄板部材92は、防食性等の所定の性能を有する、ステンレス鋼以外の材料により形成されてもよい。鋼管91の外周面911は、必ずしも円筒面である必要はなく、中心軸J1を中心とする円錐台面等であってもよい。薄板部材92が接合される対象部材は、中心軸J1を中心とする筒状の外周面を有するものであるならば、鋼管91以外であってもよい。
【0097】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0098】
1 接合装置
3 保持回転機構
4 接合ヘッド
6 押付ローラ部
41 接合ツール
53 ヘッドY方向移動機構
54 ヘッドX方向移動機構
61 押付ローラ
90 接合構造体
91 鋼管
92 薄板部材
94 軸方向接合部
911 (鋼管の)外周面
931 周方向エッジ
932 周方向エッジ部
941 軸方向エッジ
942 軸方向エッジ部
J1 (鋼管の)中心軸
J2 (接合ツールの)回転軸
P1 (鋼管の)最上位置
S10~S19,S151~S155 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図14