(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105535
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006422
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】荻原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA02
5H032AS01
5H032CC12
5H032CC16
5H032EE09
5H032HH05
(57)【要約】
【課題】 空気が通過する通気路への電解液の漏出を防止する空気二次電池を提供する。
【解決手段】 空気二次電池は、セパレータ50を介して重ね合わされた空気極40及び負極60を含む電極群と、電極群を電解液と共に内部に収容する筐体とを備える。筐体は、空気極と反応する空気が流れる通気路22を一方の面に有する流路板20と、通気路を閉塞して電解液の通気路への漏出を防止する撥水膜30と、液密通気膜を流路板に対して固定して空気極を包囲する導電性の枠体32とを備える。通気路は、一方の面上にて枠体の枠内領域に形成される溝であり、空気の流れる方向における通気路の一端部及び他端部は、領域内に位置する。流路板は、枠体の外側に形成されて外部と連通する流路23、24と、通気路の一端部を流路に連通させる連通路27とを含む。連通路は、流路板内に暗渠状に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群を電解液と共に内部に収容する筐体と、を備えた空気二次電池であって、
前記筐体は、
前記空気極と反応する空気が流れる通気路を一方の主面に有する流路板と、
前記通気路を閉塞して前記電解液の前記通気路への漏出を防止する液密通気膜と、
前記液密通気膜を前記流路板に対して固定すると共に前記空気極を包囲する導電性の枠体と、
を備え、
前記通気路は、前記一方の主面上において前記枠体の枠内に画定される領域に形成される溝であり、前記空気の流れる方向における前記通気路の一端部及び他端部は、前記領域内に位置し、
前記流路板は、前記枠体の外側に形成されて外部と連通する流路と、前記通気路の一端部を前記流路に連通させる連通路と、を有し、
前記連通路は、前記流路板内に暗渠状に形成される、空気二次電池。
【請求項2】
前記流路は、前記流路板の一方の主面において前記枠体の固定面と対向する枠状の領域から離間している、請求項1記載の空気二次電池。
【請求項3】
前記流路板は、2枚以上の金属板を互いの厚み方向に積層することによって設けられ、
前記流路は、前記流路板を厚み方向に貫通する貫通孔であり、
前記連通路は、空気の流れる方向における一端部が前記通気路の一端部に連通し、他端部が前記流路の側面部に開口する、請求項1または2記載の空気二次電池。
【請求項4】
複数の空気二次電池セルが互いに積層されて直列接続される空気二次電池であって、
前記複数の空気二次電池セルの各々は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群を電解液と共に内部に収容する筐体と、を備え、
前記筐体は、
前記空気極と反応する空気が流れる通気路を一方の主面に有すると共に、厚み方向に貫通する2つの流路を有する流路板と、
前記通気路を閉塞して前記電解液の前記通気路への漏出を防止する液密通気膜と、
前記液密通気膜を前記流路板に対して固定して前記空気極を包囲する導電性の枠体と、
前記負極に対し前記セパレータとは反対側に位置して前記負極と電気的に接続されて、隣接する空気二次電池と接続される負極集電体と、
を備え、
前記通気路は、前記枠体の内枠にて包囲される前記一方の主面上の領域に形成された溝であり、前記空気の流れる方向における前記通気路の両端部は、前記領域内に位置し、
前記2つの流路は、それぞれ前記枠体の外側に位置して外部と連通し、
前記流路板は、前記通気路の両端部をそれぞれ対応する流路に連通させる連通路を有し、
前記連通路は、前記流路板内に暗渠状に形成されて前記流路の側面部に開口する、空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に、Li、Zn、Al、Mg等の金属を負極に用いる電池である。正極活物質を電池内に備える必要がないため、エネルギ密度が高く、小型化・軽量化が容易であることから注目を集めている。また、空気二次電池は、繰り返し充放電可能なため、電動車両などの駆動用電源や、自然エネルギの蓄電用途としての利用が期待されている。このような空気電池を電池セルとして例えば絶縁性の枠体内に直列接続させて組電池にする場合、それぞれの電池セルに空気を供給することが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、空気二次電池では、空気極と反応する空気が液密通気膜に沿って流れる通気路は、電池セルの流路板の一方の主面内に形成される。この通気路は、通気路の開口部が液密通気膜によって閉塞されるため、通気路内への電解液の漏出が防止されている。一方、電池セルの直列接続のために積層する場合、各電池セルに空気を供給するために、外気と連通する流路は、流路板をその厚み方向に貫通して隣接する電池セルの流路に連通するように構成されている。このため、流路から通気路に連通させるための分岐路が電池セル毎に形成される。
【0005】
このとき、液密通気膜の縁部が分岐路の上に被ると、枠によって液密通気膜を流路板に固定することができない部分が生じるため、充放電サイクルに伴う極板の膨張・収縮や、過充電時のガス発生に伴う内圧上昇により、電解液が通気路へ漏出してしまうことがあった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みて、通気路への電解液の漏出を防止する空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の空気二次電池は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群を電解液と共に内部に収容する筐体と、を備えた空気二次電池であって、前記筐体は、前記空気極と反応する空気が流れる通気路を一方の主面に有する流路板と、前記通気路を閉塞して前記電解液の前記通気路への漏出を防止する液密通気膜と、前記液密通気膜を前記流路板に対して固定すると共に前記空気極を包囲する導電性の枠体と、を備え、前記通気路は、前記一方の主面上において前記枠体の枠内に画定される領域に形成される溝であり、前記空気の流れる方向における前記通気路の一端部及び他端部は、前記領域内に位置し、前記流路板は、前記枠体の外側に形成されて外部と連通する流路と、前記通気路の一端部を前記流路に連通させる連通路と、を有し、前記連通路は、前記流路板内に暗渠状に形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施の形態に係る空気二次電池によれば、セパレータに含まれる電解液の通気路への漏出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る空気二次電池の断面図を示す。
【
図2】(A)は、流路板に固定された撥水膜及び枠体の平面図を示し、(B)は、(A)におけるB-B方向から見た流路板の断面の概略図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る流路板の断面を示す概略図である。
【
図4】第3の実施の形態に係る流路板の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態に係る空気二次電池について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に、実施の形態に係る空気二次電池の断面図を示す。空気二次電池は、2つの空気二次電池セル(以下、電池セルと称す)1,1が積層されて直列接続され、電池ケース10に収容されている。各電池セル1には、正極側から負極側に向けて、順に、流路板20、撥水膜30、空気極(正極)40、セパレータ50、負極60、負極集電板70が配列される。空気極(正極)40は、セパレータ50を介して負極60と対向する。
【0012】
流路板20は、導電性を呈する矩形の平板からなり、
図2(A)に示すように、空気極40に対向する一方の主面21に、空気極40と反応する空気が流れる面内方向に沿って流れる通気路22と、通気路22に空気を導入する導入路23と、通気路22を流れた空気を外部に導出する導出路24とが形成されている。導入路23及び導出路24は、それぞれ流路として、流路板20を厚み方向に貫通する。流路板20は、電池ケース1の正極端子板側に位置する。
【0013】
さらに、撥水膜30が、流路板20の主面21に対し、矩形の枠体32によってガス拡散膜31を介して固定される。撥水膜30は、通気路22の主面21上の開口を閉塞しながらも、導入路23及び導出路24を被覆せずに流路板20に固定される。すなわち、通気路22は、枠体32によって画定された枠内領域25に位置し、導入路23及び導出路24は、どちらも枠外領域26に位置する。
【0014】
通気路22は、流路板20の主面21において、一端部22Bから空気が通過する方向に他端部22Cまで延びる溝として形成され、平面視形状が全体として1本のサーペンタイン形状をなす。通気路22の一端部22Bは、導入路23近傍に位置して後述する連通路27を介して互いに連通する。通気路22の他端部22Cは、導出路24近傍に位置して、連通路27を介して互いに連通する。通気路22は、放電時に空気極40へ空気中の酸素を供給するとともに、充電時に空気極40から生じた酸素を外部へ排出する。通気路22は、空気極40に向けて開口し、空気の通過方向に交差する方向の断面は、矩形などの適宜の形状に形成されている。なお、
図2(A)に示す通気路22の一方の主面21上、すなわち平面視における形状は、一例であり、サーペンタイン形状の折り返す数は、特に限定されるものではない。他の実施の形態では、電池セル1の特性や規格に応じて適宜の形状をとり得る。
【0015】
ガス拡散膜31は、例えば多孔質基材からなり、空気極40の充放電反応に必要な空気と水素とを、効率良く拡散させる機能を備える。
【0016】
撥水膜30は、液密通気膜として、微多孔性樹脂フィルムからなり、通気路22を流れる空気を空気極40へ通過させると共に、空気極40側にある電解液の通気路22への漏出を防止する。撥水膜30は、通気路22の開口22Aを、一端部22Bから空気流の通過方向に沿う他端部22Cまでの全長を閉塞しながらも、導入路23及び導出路24を閉塞しない形状及び大きさを有する。
【0017】
枠体32は、導電性材料にて矩形に形成され、撥水膜30に対向する枠面34が平面状であり、撥水膜30を流路板20に固定すると共に、枠体32の内側に空気極40を包囲する。
【0018】
空気極40は、多数の空孔を有する導電性の極板基材と、空孔内及び極板基材の表面に保持される空気極合剤(正極合剤)とからなる。このような極板基材としては、例えば、発泡ニッケルやニッケルメッシュが用いられる。空気極合剤は、酸化還元触媒、導電剤及びフッ素樹脂を含む。酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものであれば特に限定されない。好ましい酸化還元触媒としては、パイクロア型のビスマスルテニウム酸化物が用いられる。
【0019】
セパレータ50は、空気極40及び負極60の間に配置されて空気極40及び負極60を電気的に絶縁する。セパレータ50は、例えば、ポリアミド繊維製の不織布又はポリオレフィン繊維製の不織布にて作成され、アルカリ電解液を内部に含む。本実施の形態において、セパレータ50は、全体として矩形状をなし、平面視形状は、空気極40の平面視形状及び負極60の平面視形状よりも大きく形成されている。
【0020】
負極60は、多数の空孔を有する導電性の負極基材と、空孔内及び負極基材の表面に保持された負極合剤とからなる。負極基材としては、例えば、発泡ニッケルが用いられる。負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末と、導電剤と、結着剤とを含む。導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができる。水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が用いられる。
【0021】
負極集電板70は、導電性部材からなり、一方の面が負極60に電気的に接続され、多方の面が直列接続される隣接する電池セル1の正極側に、または電池ケース1の負極端子板12に電気的に接続される。
【0022】
空気極40、セパレータ50及び負極60は、電極群100を構成し、ガスケット33により流路板20に固定され、一の電池セル1を構成する。
【0023】
さらに、流路板20の導入路23及び導出路24は、それぞれ一の電池セル1内において、流路板20から負極集電板70にかけて線条に延びて、電池セル1内の吸気路81及び排気路82をそれぞれ形成する。吸気路81では、吸い込まれた空気が吸気路81を経て通気路22に向けて流れる。一方、排気路82では、通気路22を流れた空気流が外部に向けて排出される。
【0024】
2つの上記電池セル1,1が直列接続されて組電池を構成し、電池ケース10に収納される。電池ケース10の一端に正極端子板11が、他端に負極端子板12が電気的に接続される。
【0025】
次に、流路板20における、通気路22、導入路23及び導出路24の連通構造について説明する。まず、通気路22と導入路23との連通構造を説明する。
図2(A)に示すように、平面視で、流路板20の空気極40と対向する主面21に撥水膜30が枠体32によって取り付けられ、通気路22全体が枠体32の内部に位置する。すなわち、通気路22は、空気極40と対向する主面21において、撥水膜30を固定する枠体32によって囲まれた枠内領域25に形成される。導入路23は、枠体32の外側の領域26に、流路板20を厚み方向に貫通して形成される。
【0026】
導入路23は、連通路27を介して通気路22と連通する。連通路27は、流路板20の内部に暗渠状に形成され、一端部が通気路22の一端部22Bと連通し、他端部が導入路23の側面部23Aに開口する。本実施の形態では、
図2(B)に示すように、流路板20は、2枚の金属板、第1金属板201及び第2金属板202を一体化されて形成される。連通路27は、第1金属板201の他方の主面に、線条の溝として形成され、長手方向の一端部が導入路23の側面部23Aに開口し、他端部が、第1金属板201の厚み方向に貫通して通気路22と連通する。そして、第1金属板201の溝が第2金属板202に塞がれることによって、連通路27は暗渠になる。2枚の金属板201,202に対して切削、フォトエッジング加工を行って一体化させることにより、連通路27を容易に流路板20内で暗渠にすることができる。
【0027】
また、上記構成により、流路板20と枠体32とで挟み込まれた撥水膜30の部分は、流路板20の厚み方向において通気路22とは重畳しない。従って、流路板20主面21上における通気路22の開口22A全体が、撥水膜30によって閉塞されるので、電極群100側からの通気路22への電解液の漏出を防止することができる。なお、通気路22と導出路24との連通構造は、流路板20における導出路24の位置が導入路23と異なり、且つ空気の流れる方向が逆になるのみなので、詳細な説明については省略する。
【0028】
図3に、第2の実施の形態の電池セル1を構成する流路板120を示す。第2の実施の形態において、流路板120以外の構成は、上記実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0029】
流路板120は、2枚の金属板、第1金属板121及び第2金属板122を一体化されて形成される。通気路22は、第1金属板121の空気極40と対向する主面121Aにおいて、撥水膜30を固定する枠体32によって囲まれた枠内領域125に形成され、通気路22の一端部が厚み方向に貫通する貫通孔123となる。一方、第2金属板122の第1金属板121に固定される主面122A側に、線条の溝124が形成され、溝124の一端部は、導入路23の側面部23Aに開口し、他端部は、第1金属板121の貫通孔123に相当する箇所に位置する。第1金属板121及び第2金属板122が一体化されると、貫通孔123および溝124が連通路27を構成する。
【0030】
図4に、第3の実施の形態の電池セル1を構成する流路板220を示す。第3の実施の形態において、流路板220以外の構成は、既述の実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0031】
流路板220は、3枚の金属板、第1金属板221、第2金属板222及び第3金属板223を一体化されて形成される。通気路22は、第1金属板221の空気極40と対向する主面221Aにおいて、撥水膜30を固定する枠体32によって囲まれた枠内領域225に形成され、また、通気路22の一端部が厚み方向に貫通する貫通孔226を有する。第2金属板222には、貫通孔226と導入路23の側面部23Aに開口する細長い開口227が形成される。第3金属板223には、導入路23の一部となる貫通孔228が形成される。第1金属板221から第3金属板223が順に一体化されたときに、通気路22と導入路23とを連通させる連通路27が設けられ、暗渠となる。
【0032】
空気二次電池は、いずれの実施の形態の流路板20、120、220を用いた電池セル1であっても、撥水膜30を流路板20、120、220の主面に固定する枠体32と流路板20、120、220との間に、通気路22の一部が位置したり、通気路22が交差したりしないので、電極群100に含まれる電解液の通気路22への漏出は、確実に防止される。
【0033】
また、導入路23及び導出路24は、いずれも積層された電池セル1を各部品の厚み方向に線条に貫通する。従って、複数の電池セル1を直列接続するために積層したときに、各電池セル1の導入路23及び導出路24が、線条に連通される。このようにして、空気二次電池において線条に延びる吸気路81および排気路82が設けられるので、各電池セル1への空気の供給及び排出を、均一に行うことができる。
【0034】
さらに、流路板20は、少なくとも2枚の金属板を各々加工してから一体化させて作製している。従って、連通路27は、一の金属板において空気極とは反対側の面に溝を形成し、他方の金属板によって、かかる溝の開口部を閉塞することによって作製することができる。従って、流路板内にて、連通路を容易に暗渠状とすることができる。
【0035】
また、実施の形態に係る流路板は、単一の電池セルからなる空気二次電池の流路板としても用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 電池セル
10 電池ケース
20 流路板
23、24 流路
22 通気路
27 連通路
30 撥水膜
32 枠体
40 空気極
50 セパレータ
60 負極