(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010555
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】コラーゲンゲル収縮促進作用を有するオリゴペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/06 20060101AFI20230113BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230113BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230113BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230113BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230113BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20230113BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20230113BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61K38/06
A61K8/64
A61Q19/00
A61P17/00
A61P43/00 111
A23L33/17 ZNA
C07K5/10
C07K7/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033998
(22)【出願日】2022-03-06
(62)【分割の表示】P 2021544714の分割
【原出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】311002702
【氏名又は名称】前田 憲寿
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲寿
(72)【発明者】
【氏名】宋 権宮
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018MD71
4B018ME14
4B018MF12
4B018MF14
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA15
4C084BA23
4C084MA52
4C084MA63
4C084NA11
4C084NA14
4C084ZA89
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045CA43
4H045EA01
4H045EA28
4H045FA10
4H045FA16
(57)【要約】
【課題】 コラーゲンゲル収縮促進作用を有するオリゴペプチド及びその誘導体、並びにオリゴペプチド及びその誘導体を有効成分とする肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤を提供する。
【解決手段】 TAVのアミノ酸配列からなるトリペプチドを含む、肌におけるコラーゲン収縮促進剤。TAVのアミノ酸配列からなるトリペプチドを含む、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤。これらの剤は、外用組成物又は食品組成物とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TAVのアミノ酸配列からなるトリペプチドを含む、肌におけるコラーゲン収縮促進剤。
【請求項2】
外用組成物又は食品組成物である、請求項1に記載の肌におけるコラーゲン収縮促進剤。
【請求項3】
TAVのアミノ酸配列からなるトリペプチドを含む、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤。
【請求項4】
外用組成物又は食品組成物である、請求項3に記載の肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンゲル収縮促進作用又は線維芽細胞活性化作用を有するオリゴペプチド及びその誘導体に関する。また、本発明は、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤、コラーゲンゲル収縮促進剤、及び線維芽細胞活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、年代や性別に限らず、美容に関心を持つ人が増えている。特にアンチエイジングのために、肌(以下、「皮膚」とも呼称する)のシワ、たるみ、ハリのなさを改善して肌質又は肌理を滑らかにする外科的治療、外用薬、機能性成分を配合した化粧品が人気を集めている。
【0003】
外科的治療としては、極細の吸収糸を皮下筋膜層に挿入して皮膚および筋肉のリフトアップを図る治療が用いられているが、対症療法であるにも拘わらず、侵襲的な治療であり、また医師の管理下で行われるため、患者の負担が大きい。
【0004】
また、保湿剤によって目じりの小ジワを一時的に目立たなくする化粧品も市販されているが、その使用を止めると時間が経つにつれて再び小ジワが目立つようになる。このため、日々の使用により長期にわたり肌のシワ、たるみ、ハリのなさを改善できる外用薬、機能性化粧品、又は美容のための食品組成物が強く要望されている。
【0005】
皮膚には水分保持や粘性に関与する細胞外マトリックスの1つとしてヒアルロン酸が存在している。ヒアルロン酸には保水作用があり、肌に塗布すると長時間角層の水分量を増加させて肌のハリを改善するため、ヒアルロン酸を含む外用薬や、ヒアルロン酸を含む化粧品が用いられてきた。しかし、ヒアルロン酸は代謝が非常に早く、皮膚中では1日に約半分のヒアルロン酸が分解されていると言われている。そのため、毎日ヒアルロン酸を肌に塗布しても、常に代謝されてしまい、肌のハリ改善を十分には実感できない。
また、皮膚に塗布することで、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの細胞外マトリックスの生成を促進する成分や、細胞外マトリックスであるエラスチンの分解を抑制する成分を、肌のハリ改善のために外用剤に配合することが知られているが、これらの成分は炎症を惹起したり、皮膚を刺激したりする難点がある。
【0006】
一方、ペプチドは、代謝が比較的遅く、また皮膚刺激がないことから、外用剤の有効成分として望ましい。肌のハリ改善作用が期待されるペプチドとして、ウシラクトフェリンとその部分ペプチドが知られている。
【0007】
例えば、非特許文献1は、ウシラクトフェリンが、線維芽細胞のミオシン軽鎖のリン酸化を亢進させ、そのコラーゲンゲル収縮活性を上昇させることを報告している。
ラクトフェリンは、母乳、涙、汗、唾液などの外分泌液中に含まれる鉄結合性の糖タンパク質で、1939年に牛乳中に含まれる「赤色タンパク質 (レッド・プロテイン)」として初めて報告された。その後、1960年にヒトとウシの乳より精製され、アミノ酸配列が決定され、ウシの場合689個のアミノ酸、ヒトの場合692個のアミノ酸からなっており、それぞれNローブ、Cローブと呼ばれる球状の2つのドメインが一本のポリペプチドで連結された構造を持ち、各ローブは1個の鉄イオンと強力に結合することが判明した。ラクトフェリンは、コラーゲンゲル収縮促進作用の他に、抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用、細胞増殖の調節作用などの様々な機能を有することが明らかにされている。
【0008】
また、非特許文献2は、ウシラクトフェリンをモル比1/200のトリプシンで45分間、37℃で分解して得られるC末端断片が、ラクトフェリン全長よりも顕著に強いコラーゲンゲル収縮促進活性、及び線維芽細胞のミオシン軽鎖のリン酸化促進活性を有することを報告している。このウシラクトフェリンC末端断片のうち、p44断片はウシラクトフェリンの341~689番目のアミノ酸からなる部分に相当し、p36断片はウシラクトフェリンの1~284番目のアミノ酸からなる部分に相当し、p51断片はウシラクトフェリンの285~689番目のアミノ酸からなる部分に相当し、それらの断片の分子量は、それぞれ44,000、36,000、51,000である。
【0009】
皮膚は表皮、真皮、皮下組織に分けられ、そのうち真皮は、皮膚構造の維持に極めて重要なコラーゲン線維がその70%以上を占めており、柔軟で弾力性のある真皮組織を形成している。コラーゲンなどの線維を構成するタンパク質は、線維芽細胞が産生しており、線維芽細胞がコラーゲン線維と相互作用することで柔軟で弾力性のある真皮組織を形成している。
コラーゲンゲル収縮は、線維芽細胞がコラーゲン線維を引っ張り、収縮する現象である。組織から抽出したコラーゲンを、37℃、中性かつ生理的イオン強度の下におくとコラーゲン線維が再構成される。これをコラーゲンゲルというが、コラーゲンゲル内で線維芽細胞を培養すると、線維芽細胞がコラーゲン線維を引っ張って収縮することで、コラーゲン線維を配向させ、再構成コラーゲンゲルは柔軟性、弾力性、強度が増して、真皮類似構造をとる。従って、線維芽細胞のコラーゲンゲル収縮により得られる収縮ゲルは真皮組織のモデルとされている(非特許文献3)
【0010】
老齢者由来の線維芽細胞は若年者由来の線維芽細胞よりコラーゲンゲルの収縮活性が低下していることが報告されており、老化によって線維芽細胞のゲル収縮活性が低下すると考えられている(非特許文献4)。このことより、老化によってコラーゲンゲルの収縮活性が低下すると、若いときのように真皮組織を収縮させて、引き締まった状態に維持できなくなることが示唆されている(特許文献1)。
すなわち、老化に伴う肌のシワ、たるみ、ハリのなさは、真皮線維芽細胞の組織収縮力が低下し、柔軟性、弾力性、強度を失うことで生じるため、真皮線維芽細胞のコラーゲン線維収縮活性を高めることで、皮膚のシワ、たるみ、ハリのなさを改善することが期待できると報告されている(特許文献2)
【0011】
しかし、非特許文献1が教えるウシラクトフェリン、非特許文献2が教えるウシラクトフェリンの部分ペプチドは、何れも分子量が大きいため経皮吸収され難く、また免疫原性が強いためアレルギーを引き起こす恐れがある。従って、外用剤の成分としては、分子量が小さいオリゴペプチドであって、コラーゲンゲル収縮作用又は線維芽細胞活性化作用を有するものが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5923410号
【特許文献2】特許第4225588号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Takayama Y, Mizumachi K. Effects of lactoferrin on collagen gel contractile activity and myosin light chain phosphorylation in human fibroblasts. FEBS lett. 2001, 508 (1) : 111-116.
【非特許文献2】Takayama Y, Mizumachi K, Takezawa T. The bovine lactoferrin region responsible for promoting the collagen gel contractile activity of human fibroblasts. Biochem Biophys Res Comn. 2002, 299 (5) : 813-817.
【非特許文献3】Bell E, Sher S, Hull B et al. The reconstitution of living skin. J Invest Dermatol. 1983, 81 : 2s-10s.
【非特許文献4】Yamato M, Yamamoto K, Hayashi T. Age-related changes in collagen gel contraction by cultured human lung fibroblasts resulting in cross-over of contraction curves between young and aged cells. Mech Ageing Dev. 1993, 67(1-2): 149-158.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、コラーゲンゲル収縮促進作用を有するオリゴペプチド及びその誘導体、並びにオリゴペプチド及びその誘導体を有効成分とする肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するために、ラクトフェリンに着目し、ウシラクトフェリンをトリプシンで限定分解して、その限定分解物を分取型ODSカラムで分画し、コラーゲンゲル収縮促進活性を有する画分をさらにゲルろ過で分画し、コラーゲンゲル収縮促進作用を有する8アミノ酸からなる2つのオリゴペプチドと5アミノ酸からなる1つのオリゴペプチドを見出した。
また、これらのオリゴペプチドのN末又はC末から一つずつアミノ酸残基を除いたペプチドを合成して、それらの合成ペプチドのコラーゲンゲル収縮促進作用を確認することにより、AV、DGの各ジペプチドが、コラーゲンゲル収縮促進作用を奏する核となるアミノ酸配列であることを見出した。また、これにより、AV又はDGのアミノ酸配列を含む限り8アミノ酸までのオリゴペプチドであればコラーゲンゲル収縮促進作用を有することが示唆されたが、中でも、AVを含むNo.2~10の各オリゴペプチド、及びDGを含むNo.12~24の各ペプチドがコラーゲンゲル収縮促進作用を有することを確認した。各番号のオリゴペプチドは、「発明を実施するための形態」の「オリゴペプチド」の項目に示した通りである。
さらに、これらのオリゴペプチドはエステル体などの修飾体としても、コラーゲンゲル収縮促進作用が消失しないことを見出した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記〔1〕~〔29〕を提供する。
〔1〕 下記(a)、(b)、(c)、及び(d)の何れかのオリゴペプチド又はその誘導体。
(a)AV、SCHTAVDR、CHTAVDR、CHTAVD、HTAVD、CHTAV、TAVD、HTAV、TAV、又はAVDのアミノ酸配列からなるオリゴペプチド
(b)AV、SCHTAVDR、CHTAVDR、CHTAVD、HTAVD、CHTAV、TAVD、HTAV、TAV、又はAVDにおいて1アミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり(但し、AVを含む)、かつコラーゲン収縮促進作用を有するオリゴペプチド。
(c)DG、LLCLDGTR、LCLDGTR、CLDGTR、LDGTR、LDGT、DGTR、LDG、DGT、SVDGK、SVDG、VDGK、DGK、又はVDGのアミノ酸配列からなるオリゴペプチド
(d)DG、LLCLDGTR、LCLDGTR、CLDGTR、LDGTR、LDGT、DGTR、LDG、DGT、SVDGK、SVDG、VDGK、DGK、又はVDGにおいて1アミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり(但し、DGを含む)、かつコラーゲン収縮促進作用を有するオリゴペプチド
〔2〕 誘導体がオリゴペプチドのN末端の修飾体である、〔1〕に記載のオリゴペプチド又はその誘導体。
〔3〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種を含む、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤。
〔4〕 外用組成物又は食品組成物である、〔3〕に記載の肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤。
〔5〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種を含む、コラーゲンゲル収縮促進剤。
〔6〕 外用組成物又は食品組成物である、〔5〕に記載のコラーゲンゲル収縮促進剤。
〔7〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種を含む、線維芽細胞活性化剤。
〔8〕 外用組成物又は食品組成物である、〔7〕に記載の線維芽細胞活性化剤。
【0017】
〔9〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種の、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤の製造のための使用。
〔10〕 肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤が外用組成物又は食品組成物である、〔9〕に記載の使用。
〔11〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種の、コラーゲンゲル収縮促進剤の製造のための使用。
〔12〕 コラーゲンゲル収縮促進剤が外用組成物又は食品組成物である、〔11〕に記載の使用。
〔13〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種の、線維芽細胞活性化剤の製造のための使用。
〔14〕 線維芽細胞活性化剤が外用組成物又は食品組成物である、〔13〕に記載の使用。
【0018】
〔15〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種を含む組成物の、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤としての非治療的使用。
〔16〕 上記組成物が外用組成物又は食品組成物である、〔15〕に記載の使用。
〔17〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種を含む組成物の、コラーゲンゲル収縮促進剤としての非治療的使用。
〔18〕 コラーゲンゲル収縮促進剤が外用組成物又は食品組成物である、〔17〕に記載の使用。
〔19〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種を含む組成物の、線維芽細胞活性化剤としての非治療的使用。
〔20〕 上記組成物が外用組成物又は食品組成物である、〔19〕に記載の使用。
【0019】
〔21〕 肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善における使用のための、〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド又はその誘導体。
〔22〕 コラーゲンゲル収縮促進における使用のための、〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド又はその誘導体。
〔23〕 線維芽細胞活性化における使用のための、〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド又はその誘導体。
【0020】
〔24〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種の有効量をヒトに適用する工程を含む、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善方法。
〔25〕 適用が皮膚への塗布、塗擦、噴霧、若しくは貼付、又は経口投与である、〔24〕に記載の方法。
〔26〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種の有効量をヒトに適用する工程を含む、皮膚のコラーゲン収縮促進方法。
〔27〕 適用が皮膚への塗布、塗擦、噴霧、若しくは貼付、又は経口投与である、〔26〕に記載の方法。
〔28〕 〔1〕又は〔2〕に記載のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種の有効量をヒトに適用する工程を含む、皮膚の線維芽細胞活性化方法。
〔29〕 適用が皮膚への塗布、塗擦、噴霧、若しくは貼付、又は経口投与である、〔28〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、コラーゲンゲル収縮促進作用又は線維芽細胞活性化作用を有する。真皮中では、線維芽細胞がコラーゲン線維を収縮させて、引き締まった状態を保っているため、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、ヒトの肌に適用した場合に真皮中で線維芽細胞によるコラーゲン収縮を促進することにより、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下を予防又は改善できると考えられる。
また、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、タンパク質と異なり分子量が小さいため、経皮吸収され易く、経口投与した場合は消化管から吸収され易い。ヒトラクトフェリン及びウシラクトフェリンの分子量は、それぞれ約83,000であり、肌に塗布しても皮表に留まり、角層を通過して表皮及び真皮まで浸透することはなく、また経口投与した場合も吸収効率が低いが、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、ヒトラクトフェリン及びウシラクトフェリンと比べて、表皮及び真皮への浸透並びに消化管からの吸収効率が格段に高い。
また、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、タンパク質と異なり、免疫原性が小さいため、アレルギーを引き起こし難い点でも優れている。
さらに、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、グリコサミノグリカンといった細胞外マトリックス自体を皮膚に塗布する場合と異なり、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体を皮膚に塗布、塗擦、噴霧、若しくは貼付する場合は、皮膚に吸収された後に代謝消失し難い。また、従来の成分と異なり、皮膚刺激性がない又は小さい。本発明のオリゴペプチドは、これらの点でも、肌のシワ改善又はハリ改善のために用いられている従来の成分より優れている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
オリゴペプチド
本発明のオリゴペプチドは、下記(a)、(b)、(c)、及び(d)の何れかのオリゴペプチドである。
(a)No.1~10のアミノ酸配列からなるオリゴペプチド
(b)No.2~10のアミノ酸配列において1アミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり(但し、AVを含む)、かつコラーゲン収縮促進作用を有するオリゴペプチド。
(c)No.11~24のアミノ酸配列からなるオリゴペプチド
(d)No.12~24のアミノ酸配列において1アミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり(但し、DGを含む)、かつコラーゲン収縮促進作用を有するオリゴペプチド
【0023】
(b)及び(d)のオリゴペプチドがコラーゲン収縮促進作用を有することは、実施例1に記載の方法で確認し、コントロールに比べてコラーゲンゲル面積が小さい場合にコラーゲン収縮促進作用を有すると判定する。
【0024】
本発明のオリゴペプチドの番号を以下に示す。
No.1:AV
No.2:SCHTAVDR(配列番号1)
No.3:CHTAVDR(配列番号2)
No.4:CHTAVD(配列番号3)
No.5:HTAVD(配列番号4)
No.6:CHTAV(配列番号5)
No.7:TAVD(配列番号6)
No.8:HTAV(配列番号7)
No.9:TAV
No.10:AVD
No.11:DG
No.12:LLCLDGTR(配列番号8)
No.13:LCLDGTR(配列番号9)
No.14:CLDGTR(配列番号10)
No.15:LDGTR(配列番号11)
No.16:LDGT(配列番号12)
No.17:DGTR(配列番号13)
No.18:LDG
No.19:DGT
No.20:SVDGK(配列番号14)
No.21:SVDG(配列番号15)
No.22:VDGK(配列番号16)
No.23:DGK
No.24:VDG
【0025】
No.2~10、12~24のオリゴペプチドのアミノ酸置換は、類似の構造又は性質を有するアミノ酸の間で行うことができ、置換してもコラーゲンゲル収縮促進作用を有することが合理的に予測される。
互いに置換可能なアミノ酸としては、酸性アミノ酸であるE(Glu)とD(Asp)、塩基性アミノ酸であるR(Arg)とK(Lys)とH(His)、中性アミノ酸では、アルキル鎖を有するG(Gly)とA(Ala)とV(Val)とL(Leu)とI(Ile)(中でも、直鎖アルキル鎖を有するG(Gly)とA(Ala)、分岐アルキル鎖を有するV(Val)とL(Leu)とI(Ile))、ヒドロキシ基を有するS(Ser)とT(Thr)、硫黄原子を有するC(Cys)とM(Met)、アミド基を有するN(Asn)とQ(Gln)、芳香族環を有するF(Phe)とY(Tyr)とW(Trp)が挙げられる。
例えば、HTAVがコラーゲンゲル収縮促進作用を有することが実証されていることから、HTALも同様にコラーゲンゲル収縮促進作用を有することが合理的に予測される。
【0026】
実施例の項目に示す通り、本発明のオリゴペプチドは、ウシラクトフェリンの部分アミノ酸配列に基づき見出されたものであるが、AVを含むSCHTAVDRのアミノ酸配列(No.2)は、ウシラクトフェリンの475~482番目に存在する他、ヒトラクトフェリンの458~465番目にも存在することが確認された。即ち、No.1~10は、ウシラクトフェリンとヒトラクトフェリンに存在するアミノ酸配列である。
また、DGを含むLLCLDGTRのアミノ酸配列(No.12)は、ウシラクトフェリンの590~597番目には存在するが、ヒトラクトフェリンには存在しないことが確認された。即ち、No.11~19は、ウシラクトフェリンに存在するアミノ酸配列である。
また、DGを含むSVDGKのアミノ酸配列(No.20)は、ウシラクトフェリンに存在するが、ヒトラクトフェリンには存在しないことが確認された。即ち、No.20~24は、ウシラクトフェリンに存在するアミノ酸配列である。
従って、本発明のオリゴペプチドのうちヒト又はウシラクトフェリンに存在するアミノ酸配列からなるものは、ヒト又はウシラクトフェリンをトリプシン消化することにより調製できる。ラクトフェリンは乳清(ホエイ)に多く含まれることから、ウシラクトフェリンに存在するアミノ酸配列からなるオリゴペプチドは、牛乳、チーズ、ヨーグルトをトリプシン消化して得ても良いし、ミルクホエイ、チーズホエイ、ヨーグルトホエイ等のホエイをトリプシン消化して得ても良い。
また、本発明の各オリゴペプチドは合成によっても調製できる。
【0027】
オリゴペプチドの誘導体
本発明のオリゴペプチドは、塩などの誘導体(修飾体)であってもよい。
塩としては、ナトリウム、カリウムのようなアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウムのようなアルカリ土類金属との塩、亜鉛、アルミニウムのような金属との塩、アンモニウム塩、塩基性アミノ酸塩、トリエタノールアミンのようなアミンの塩などが挙げられる。
また、無機酸又は有機酸との塩であってもよい。
無機酸塩としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの塩が挙げられる。
有機酸塩としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、イソブタン酸、6-ヘプタン酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)のような脂肪族モノカルボン酸の塩(脂肪酸塩)、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、マロン酸のような脂肪族多価カルボン酸の塩、乳酸、酒石酸、クエン酸のような脂肪族オキシカルボン酸の塩、ニコチン酸のような芳香族カルボン酸の塩、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トシル酸、ナパジシル酸のような有機スルホン酸の塩などが挙げられる。
誘導体は、本発明のオリゴペプチドのN末端、C末端、側鎖の何れが修飾されたものであってもよく、或いはこれらの2以上が修飾されたものであってもよい。何れの部分が修飾されていてもコラーゲンゲル収縮促進活性を有するが、経皮吸収性が良い点で、N末端の修飾体が好ましい。
【0028】
組成物
本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善剤、コラーゲンゲル収縮促進剤、又は線維芽細胞活性化剤(以下、「本発明の剤」と略称することもある。)の有効成分とすることができる。
これらの剤は、外用組成物(化粧品組成物、医薬部外品組成物)、又は食品組成物とすることができる。組成物は、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体の少なくとも1種と、必要に応じて配合される添加物やその他の生理活性又は薬理活性成分とを混合して調製することができる。
【0029】
組成物中の本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体の濃度は、組成物の全量に対して、0.00001重量%以上、0.0001重量%以上、0.001重量%以上、0.01重量%以上、又は0.1重量%以上とすることができ、また10重量%以下、1重量%以下、0.1重量%以下、又は0.01重量%以下とすることができる。この範囲であれば、コラーゲンゲル収縮促進作用が十分に得られる。
【0030】
外用組成物
外用組成物は、特に皮膚外用組成物であり得る。皮膚には頭皮も含まれる。また、本発明では粘膜も皮膚に含まれる。
外用組成物の性状は、固形状、液状の何れであってもよい。固形状には、力を加えることにより変形する塑性を有する性状や凍結乾燥状も含まれる。液状には、流動状などの粘性を有する性状も含まれる。
剤型としては、ローション剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、軟膏剤、液剤、溶液剤、懸濁液剤、スプレー剤又は噴霧剤、フォーム剤、これらを基材に含浸させた又は塗布した貼付剤、粉剤、粉末を固めた剤形などが挙げられる。クリーム剤、乳剤などの乳化組成物は、O/W型、W/O型、W/O/W型、O/W/O型などであり得る。
外用組成物が化粧品である場合は、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、日焼け止め用化粧料、パック、マスク、ハンドクリーム、ボディローション、ボディークリームといった基礎化粧品の他に、ファンデーション、口紅、頬紅といったメークアップ化粧品とすることもできる。
【0031】
外用組成物の添加物としては、基剤、界面活性剤、増粘剤、防腐剤又は保存剤、pH調整剤、安定化剤又はキレート剤、紫外線吸収剤又は紫外線散乱剤、酸化防止剤、刺激緩和剤、着色剤、香料などが挙げられる。添加物は、1種又は2種以上を配合できる。
【0032】
また、その他の生理活性又は薬理活性成分としては、本発明のオリゴペプチド又はその誘導体以外の、皮膚のハリを改善する成分を好ましく配合できる。
皮膚のハリを改善する成分としては、コラーゲンゲル収縮促進作用を有する成分の他、細胞外マトリックス(ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、グルコサミノグリカンなど)の生成促進作用を有する成分、細胞外マトリックスの分解抑制作用を有する成分、線維維芽細胞増殖促進作用を有する成分、角化細胞のターンオーバー促進作用を有する成分などが挙げられる。
このような作用を有する成分として、ラクトフェリン、アーチチョーク、アルガニアスピノザ、アロエベラ、イラクサ、ウコン、ウチワサボテン、オクラ、オタネニンジン、カッコン、カバノアナタケ、キイチゴ、キンギンカ、クズ、クチナシ、クワ、クロレラ、ゲットウ、ゴレンシ、サクラ、ザクロ、サンショウ、シコン、シャクヤク、シラカバ、スターフルーツ、セージ、ダイズ、タイソウ、チョウジ、ツボクサ、トウキ、トウモロコシ、トチュウ、ナツメ、ニンジン、パッションフルーツ、ハトムギ、ヒオウギ、ビルベリー、ビワ、ブドウ、ブナ、ボタン、ボタンボウフウ、ホップ、マグワ、ムラサキ、メマツヨイグサ、モモ、ヤグルマギク、ユーカリ、ユズ、ヨーロッパブナ、レンゲソウ、ローズマリー、ローマカミツレ、ワレモコウのような植物の抽出物、真珠タンパク質加水分解物、加水分解コンキオリン、γ-オリザノール、米ぬか油、ヘマトコッカスプルビアリスエキス、グリシルグリシン、アスタキサンチン、グリチルリチン酸ジカリウム、β-シトステロール、幹細胞培養上清、加水分解卵殻膜、サイタイエキス、セラミド、ヒドロキシプロリン、アセチルヒドロキシプロリン、メバロノラクトン、γ-アミノ酪酸、エクトイン、アセチルグルコサミン、トリペプチド-1銅などが挙げられる。
また、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、グルコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン類似物質、プロテオグリカンや、これらの分解物、誘導体、塩を配合することもでき、これらも皮膚のハリを改善することができる。
【0033】
また、生理活性又は薬理活性成分として、美白成分、免疫賦活剤、収斂剤、抗酸化剤、血行促進剤、抗菌剤、温感剤、ビタミン類、アミノ酸、創傷治癒促進剤、細胞賦活剤、酵素なども挙げられる。
このような成分として、レチノール、ビタミンA及びその誘導体、ビタミンC及びその誘導体、サリチル酸及びその誘導体、レゾルシノール及びその誘導体、フォスファチジルセリン、フォスファチジン酸、環状フォスファチジン酸のようなリン脂質、トラネキサム酸及びその誘導体、ナイアシンアミド、ヒドロキノン及びその誘導体、トレハロース、トレハロース硫酸塩などが挙げられる。
本発明のオリゴペプチド又はその誘導体以外の生理活性又は薬理活性成分は、1種又は2種以上を配合できる。
【0034】
食品組成物
食品組成物は、いわゆるサプリメントと称される経口投与製剤とすることができる。
固形状の経口投与製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)などが挙げられる。固形製剤には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、着色剤、矯味剤、甘味剤、香料、保存剤又は防腐剤などの添加物の1種又は2種以上を配合することができる。
液体状の経口投与製剤としては、液剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤、シロップ剤などが挙げられる。液体製剤には、pH調整剤、緩衝剤、増粘剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤、着色剤、香料などの添加物の1種又は2種以上を配合することができる。
また、経口投与製剤には、本発明のオリゴペプチド又はその誘導体以外の生理活性又は薬理活性成分の1種又は2種以上を配合できる。このような生理活性又は薬理活性成分としては、外用組成物について例示したものが挙げられる。
【0035】
また、食品組成物は、一般食品に本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体を配合した組成物であってもよい。例えば、ゼリー、寒天菓子、ガム、飴、焼き菓子(クッキー、ビスケットなど)のような固形食品や、ドリンク剤、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果物や野菜などのジュース、清涼飲料のような液体食品に本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体を配合したものとすることができ、これらは本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体を気軽に摂取できるものである。
【0036】
食品組成物は、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などとして使用してもよい。
【0037】
使用方法
本発明は、上記説明した本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体の有効量をヒトに適用する工程を含む、(i)肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、又は弾力性低下の予防又は改善方法、(ii)皮膚のコラーゲン収縮促進方法、及び(iii)皮膚の線維芽細胞活性化方法をそれぞれ提供する。
有効量は、(i)肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、若しくは弾力性低下の予防又は改善、(ii)皮膚のコラーゲン収縮促進、及び(iii)皮膚の線維芽細胞活性化のそれぞれに有効な量である。
【0038】
本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体は、上記説明した本発明の剤(外用組成物又は食品組成物)としてヒトに適用すればよい。「適用」は、外用組成物では、剤型に応じて、皮膚への塗布、塗擦、噴霧、又は貼付とすることができる。対象となる皮膚は、顔、首、腕、手指、足、足指、胴体部などとすることができ、これらの中でもシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、及び/又は弾力性低下が生じている部分やその前段階にある部分とすることができる。また、「適用」は、食品組成物では、経口投与又は摂取である。
【0039】
本発明の剤の適用対象となるヒトは、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、及び/又は弾力性低下を有するヒト、その前段階にあるヒト、健常な肌を有するヒトの何れであってもよい。ここでの肌は、顔、首、腕、手指、足、足指、胴体部の何れも含むが、特に、顔及び/又は首の肌にシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、及び/又は弾力性低下を有するヒト、及びその前段階にあるヒトが好適である。
【0040】
本発明の剤が外用組成物である場合、本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体の1日、皮膚1cm2当たりの適用量が、0.0001mg以上、0.001mg以上、0.01mg以上、0.1mg以上、又は1mg以上で、100mg以下、10mg以下、1mg以下、又は0.1mg以下となるように、外用組成物を皮膚に適用することができる。
本発明の剤が食品組成物である場合、本発明のオリゴペプチド及び/又はその誘導体の1日投与又は摂取量が、0.05mg以上、0.5mg以上、5mg以上、50mg以上、又は500mg以上で、50000mg以下、5000mg以下、500mg以下、又は50mg以下となるように、食品組成物を投与又は摂取することができる。
上記の皮膚への1日適用量、及び1日投与量又は摂取量は、(i)肌のシワ、下がり、たるみ、ハリ低下、若しくは弾力性低下の予防又は改善、(ii)皮膚のコラーゲン収縮促進、及び(iii)皮膚の線維芽細胞活性化のそれぞれに有効な量である。
また、1日の適用回数は、1~5回、1~4回、1~3回、1~2回、又は1回とすることができる。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1(オリゴペプチドの調製・コラーゲンゲル収縮促進活性の評価)
(ウシラクトフェリンのトリプシン限定分解物の作製)
ウシラクトフェリン1gとトリプシン0.01 gをpH8.0の緩衝液20 mLに溶解し、50 ℃で16時間静置させ限定分解した。この分解産物を100℃で20分間加熱して酵素を失活させ、ウシラクトフェリン分解物液を得た。ウシラクトフェリン分解物液をODSカラムで40分画し、凍結乾燥した。各分画の凍結乾燥物の濃度5 mg/mLのリン酸塩緩衝液(pH7.4)溶液を調製し、コラーゲンゲル収縮促進活性を評価した結果、No.36とNo.37の分画にコラーゲンゲル収縮促進活性が認められたので、これらをゲルろ過カラムで分画して、おおよその分子量を推定した。その結果、4つの候補配列(SCHTAVDR(No.2)、LLCLDGTR(No.12)、SVDGK(No.20)、DLLFK(No.25)(配列番号17))が考えられたので、これらのペプチドを合成して、溶媒(DMSO:PBS=1:1)を用いて、濃度5 mg/mLの溶液を調製した。これらの溶液のコラーゲンゲル収縮促進活性を評価した結果、SCHTAVDR(No.2)、LLCLDGTR(No.12)、SVDGK(No.20)の各ペプチドにコラーゲンゲル収縮促進活性が認められたので、さらにそれらのペプチドのN末又はC末から一つずつアミノ酸を除いたペプチドを合成して、それらのコラーゲンゲル収縮促進活性を評価した。
【0042】
(コラーゲンゲル収縮促進活性の評価)
24ウェルプレートの各ウェルに、メーカー既定濃度の5倍濃度の培地{純水にMinimum Essential Medium(MEM)0.94g、1 mol/L NaHCO3 500 μL、L-グルタミン 29.2 mg、ウシ血清1 mLを加えて20 mLに調製}100 μL、5mg/mLに調製した被検サンプル2.5 μL、I型コラーゲン(IAC-30)365 μL、1 mol/L NaHCO3 12.5 μL、ヒト線維芽細胞(250万cells/mL)20 μLを、この順に添加した。次いでウェルプレートを37℃で1時間培養してコラーゲンゲルを作製した。ウェルプレートの壁に付着しているゲルを剥がしてウェル内に置き、ゲルの上から5mg/mLに調製した被検サンプルを含む1%FBS含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)を500 μLずつ添加した。さらにこれを37℃で培養し、培養開始3日後のゲルの面積を、デジタルノギスでゲルの直径を測定することで計測した。
【0043】
コントロールサンプルとして、被検サンプルに代えて、被検サンプルの調製に用いた溶媒を用いた他は、上記と同様にして培養および観察を行った。
陽性対照サンプルとして、ウシラクトフェリンを用いた。
各サンプルについて3つのゲルを調製、培養し(n=3)、ゲル面積を計測し、平均値と標準偏差を求めた。
被検サンプルのゲル面積がコントロールより小さければ、その被検サンプルに培養ヒト線維芽細胞のコラーゲンゲル収縮促進活性があることが分かる。従って、上記方法でゲル面積を計測することで、被検サンプルが肌のシワ、たるみ、ハリのなさの改善作用を有するか否かを評価できる。
【0044】
結果を表1に示す。表1中のコラーゲンゲル面積比は、コントロールのコラーゲンゲル面積を1としたときの相対値である。
【表1】
【0045】
SCHTAVDR(No.2)又はLLCLDGTR(No.12)のオリゴペプチドを添加することにより、コントロールに比べて、有意にコラーゲンゲルの面積の減少、すなわちコラーゲンゲルの収縮促進が確認されたため、これらのオリゴペプチドに肌のシワ、たるみ、ハリのなさの改善効果があることが確認された。陽性対照のウシラクトフェリンもコントロールに比べて有意にコラーゲンゲルの収縮を促進した。また、No.2及びNo.12の各オリゴペプチドのコラーゲンゲルの収縮促進活性とウシラクトフェリンのコラーゲンゲルの収縮促進活性との間に有意差は認められなかった。
No.2、No.12の各オリゴペプチドのN末端又はC末端から1アミノ酸ずつ除くことにより得られたアミノ酸配列を有するオリゴペプチドの多くはコントロールに比べて有意にコラーゲンゲルの収縮を促進したが、有意なコラーゲンゲル収縮促進活性を有さないものもあった。
【0046】
SVDGK(No.20)のオリゴペプチドは、コラーゲンゲルの収縮を促進した。また、No.20のオリゴペプチドのN末端又はC末端から1アミノ酸ずつ除くことにより得られたアミノ酸配列を有するオリゴペプチドはコントロールに比べて有意にコラーゲンゲルの収縮を促進した。
ウシラクトフェリンの316~320番目のアミノ酸配列からなるDLLFK(No.25)には、コラーゲンゲルの収縮促進活性は確認されなかった。
【0047】
実施例2(オリゴペプチドのコラーゲンゲル収縮促進活性の有効濃度)
24ウェルプレートの各ウェルに、メーカー既定濃度の5倍濃度の培地{純水にMEM 0.94g、1 mol/L NaHCO3 500 μL、L-グルタミン 29.2 mg、ウシ血清1 mLを加えて20 mLに調製}100 μL、各濃度に調製したTAV(No.9)のオリゴペプチド2.5 μL、I型コラーゲン(IAC-30)365 μL、1 mol/L NaHCO3 12.5 μL、ヒト線維芽細胞(250万cells/mL)20 μLを、この順に添加した。次いでウェルプレートを37℃で1時間培養してコラーゲンゲルを作製した。ウェルプレートの壁に付着しているゲルを剥がしてウェル内に置き、ゲルの上から各濃度に調製したTAVのオリゴペプチドを含む1%FBS含有DMEMを500 μLずつ添加した。さらにこれを37℃で培養し、培養開始3日後のゲルの面積を、デジタルノギスでゲルの直径を測定することで計測した。
【0048】
コントロールサンプルとして、被検サンプルに代えて、被検サンプルの調製に用いた溶媒を用いた他は、上記と同様にして培養および観察を行った。
陽性対照サンプルとして、ウシラクトフェリンを用いた。
各サンプルについて3つのゲルを調製、培養し(n=3)、ゲル面積を計測し、平均値と標準偏差を求めた。
【0049】
結果を表2に示す。表2中のオリゴペプチド濃度は、ウェル内の培養液の最終濃度である。
【表2】
0.1 μg/mL、1 μg/mL、10 μg/mL、25 μg/mL、50 μg/mL、及び100μg/mLのTAVのオリゴペプチドをそれぞれ添加することにより、コントロールに比べて、有意なコラーゲンゲルの面積の減少、すなわちコラーゲンゲルの収縮促進効果が認められた。このオリゴペプチドを0.1~100μg/mLの濃度範囲で含む組成物は、肌のシワ、たるみ、ハリのなさの改善効果があることが確認された。
【0050】
実施例3(オリゴペプチドの修飾体のコラーゲンゲル収縮促進活性の評価)
CHTAVDR(No.3)のオリゴペプチドのN末端アセチル修飾体、N末端スクシニル修飾体、及びN末端パルミトイル修飾体(それぞれ、株式会社バイオロジカ)のコラーゲンゲル収縮促進活性を評価した。
24ウェルプレートの各ウェルに、メーカー規定濃度の5倍濃度の培地{純水にMEM 0.94g、1 mol/L NaHCO3 500 μL、L-グルタミン 29.2 mg、ウシ血清1 mLを加えて20 mLに調製}100 μL、20 mg/mLに調製した被検サンプル2.5 μL、I型コラーゲン(IAC-30)365 μL、1 mol/L NaHCO3 12.5 μL、ヒト線維芽細胞(250万cells/mL)20 μLをこの順に添加した。次いでウェルプレートを37℃で1時間培養してコラーゲンゲルを作製した。ウェルプレートの壁に付着しているゲルを剥がしてウェル内に置き、ゲルの上から20 mg/mLに調製した被検サンプルを含む1%FBS含有DMEMを500 μLずつ添加した。さらにこれを37℃で培養し、培養開始3日後のゲルの面積を、デジタルノギスでゲルの直径を測定することで計測した。
【0051】
コントロールサンプルとして、被検サンプルに代えて、被検サンプルの調製に用いた溶媒を用いた他は、上記と同様にして培養および観察を行った。
各サンプルについて3つのゲルを調製、培養し(n=3)、ゲル面積を計測し、平均値と標準偏差を求めた。
【0052】
結果を表3に示す。
【表3】
CHTAVDRのオリゴペプチドのN末端アセチル修飾体、N末端スクシニル修飾体、及びN末端パルミトイル修飾体を、最終濃度100 μg/mLとなるようにそれぞれ添加することにより、コントロールに比べて有意なコラーゲンゲルの面積の減少、すなわちコラーゲンゲルの収縮促進が確認されたため、これらの修飾体に肌のシワ、たるみ、ハリのなさの改善効果があることが確認された。
【0053】
実施例4(他のシワ、たるみ、ハリ改善剤とのコラーゲンゲル収縮促進活性の比較)
シワ改善効果が既に確認されているナイアシンアミド(シグマ アルドリッチ社)とパルミトイルトリペプチド-5「(Pal)-Lys-Val-Lys-[OH]」(株式会社ピーエイチジャパン)のコラーゲンゲル収縮促進活性とAVD(No.10)のオリゴペプチドのコラーゲンゲル収縮促進活性を比較した。
24ウェルプレートの各ウェルに、メーカー既定濃度の5倍濃度の培地{純水にMEM 0.94g、1 mol/L NaHCO3 500 μL、L-グルタミン 29.2 mg、ウシ血清1 mLを加えて20 mLに調製}100 μL、20 mg/mLに調製した被検サンプル2.5 μL、I型コラーゲン(IAC-30)365 μL、1 mol/L NaHCO3 12.5 μL、ヒト線維芽細胞(250万cells/mL)20 μLをこの順に添加した。次いでウェルプレートを37℃で1時間培養してコラーゲンゲルを作製した。ウェルプレートの壁に付着しているゲルを剥がしてウェル内に置き、ゲルの上から20 mg/mLに調製した被検サンプルを含む1%FBS含有DMEMを500 μLずつ添加した。さらにこれを37℃で培養し、培養開始3日後のゲルの面積を、デジタルノギスでゲルの直径を測定することで計測した。
【0054】
コントロールサンプルとして、被検サンプルに代えて、被検サンプルの調製に用いた溶媒を用いた他は、上記と同様にして培養および観察を行った。
陽性対照サンプルとして、ウシラクトフェリンを用いた。
各サンプルについて3つのゲルを調製、培養し(n=3)、ゲル面積を計測し、平均値と標準偏差を求めた。
【0055】
結果を表4に示す。
【表4】
最終濃度100 μg/mLのAVDのオリゴペプチド、最終濃度100 μg/mLのナイアシンアミドの添加により、コントロールに比べて有意なコラーゲンゲルの面積の減少、すなわちコラーゲンゲルの収縮促進が確認されたため、これらには肌のシワ、たるみ、ハリのなさの改善効果があることが確認された。また、AVDのオリゴペプチドによるコラーゲンゲルの面積の減少変化とナイアシンアミドによるコラーゲンゲルの面積の減少変化との間には有意差があり、AVDのオリゴペプチドによるコラーゲンゲルの収縮促進効果はナイアシンアミドによるコラーゲンゲルの収縮促進効果よりも有意に大きいことが確認された。一方、最終濃度100 μg/mLのパルミトイルトリペプチド-5にコラーゲンゲルの収縮促進効果は認められなかった。
【0056】
以上の結果より、本発明のオリゴペプチド及びその誘導体をヒトに適用することによって、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリの低下、弾力性の低下の改善効果が得られることが示唆された。
【0057】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。
本発明のオリゴペプチド及びその誘導体は、経皮吸収性に優れ、また皮膚刺激が少ない成分でありながら、肌のシワ、下がり、たるみ、ハリの低下、弾力性の低下を効果的に改善できる点で、非常に有用なものである。