(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105593
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】調湿材および装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20230724BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230724BHJP
C07D 249/04 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
B01D53/28
C09K3/00 110C
C07D249/04 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006519
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】596049164
【氏名又は名称】公益財団法人豊田理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】安藤 達弥
(72)【発明者】
【氏名】池上 周司
【テーマコード(参考)】
4D052
【Fターム(参考)】
4D052AA08
4D052CF00
4D052GA04
4D052GB00
4D052HA09
4D052HA49
4D052HB01
(57)【要約】
【課題】 外気との接触において水蒸気交換能が高く、低粘性であり、金属腐食性が低い調湿材を提供する。
【解決手段】
特定のトリアゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(N1)で表されるトリアゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【化1】
(式(N1)中、XおよびYは窒素原子またはメチン基を表す。ただし、XおよびYのいずれか一方が窒素原子であり、他方がメチン基である。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5は、それぞれ独立して、無置換、水素原子、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5は、互いに異なっていても同一であってもよい。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5のすべてが水素原子または無置換であることはなく、五員環を構成する窒素原子に置換する1つ以上のR
N1、R
N2、R
N3、R
N4は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。)
【請求項2】
式(N1)中、Xが窒素原子のとき、RN1およびRN3はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、RN2は無置換となる、請求項1に記載の調湿材。
【請求項3】
式(N1)中、Yが窒素原子のとき、RN1およびRN2はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、このときRN4は無置換となる、または、Yが窒素原子のとき、RN1およびRN4はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、このときRN2は無置換となる、請求項1に記載の調湿材。
【請求項4】
下記式(1-1)~(1-3)のいずれかで表されるトリアゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の調湿材。
【化2】
(式(1ー1)において、R
11およびR
12は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
13は、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
11とR
12とR
13とは、互いに異なっていても同一であってもよい。
式(1-2)において、R
21およびR
22は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
21とR
22とは、互いに異なっていても同一であってもよい。
式(1-3)において、R
31およびR
32はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
31とR
32とは、互いに異なっていても同一であってもよい。)
【請求項5】
前記リン酸エステルアニオンが、式(2)で表されるアニオンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の調湿材。
【化3】
(式(N2)中、R
4は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基であり、R
5は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
【請求項6】
前記トリアゾリウムカチオンが、下記式(1)~(8)、(34)、(35)のいずれかで表される、請求項1~5のいずれか1項に記載の調湿材。
【化4】
【化5】
【請求項7】
前記リン酸エステルアニオンが下記式(9)または(10)で表される、請求項1~6のいずれか1項に記載の調湿材。
【化6】
【請求項8】
トリアゾリウムカチオンとリン酸アニオンとから構成される塩の水溶液の粘度が25℃で50mPa・s以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の調湿材。
【請求項9】
25℃での平衡水蒸気圧が100hPa以下であり、50℃での平衡水蒸気圧が200hPa以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の調湿材。
【請求項10】
50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)が50hPa以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の調湿材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の調湿材を含む装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空調機や吸収冷凍機に用いられる調湿材、および、空調機や吸収冷凍機等の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デシカント式の空調機においては、空気中の水蒸気を吸収する特性をもつ液体状の調湿材が使用される。非特許文献1~2には、塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、トリエチレングリコールを用いた液体状の調湿材が開示されている。特許文献1~5および非特許文献3~7には、イオン液体を用いた液体状の調湿材が開示され、上記イオン液体として、臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート、リン酸ジメチル陰イオン、メチル硫酸陰イオンと、イミダゾリウムカチオン、アルキルホスホニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオンとの塩が開示されている。非特許文献8、9にはリン酸ジメチル陰イオンとコリニウムカチオン、ジカチオン性および環状第4級アンモニウムカチオンとの塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-505586号公報
【特許文献2】特開2017-221940号公報
【特許文献3】特開2017-154076号公報
【特許文献4】特開2016-052614号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L. Mei, Y. I. Dai, A technical review on use of liquid-desiccant dehumidification for air-conditioning application, Renewable and Sustainable Energy Reviews, 2008,12,662-689.
【非特許文献2】R. 0. Singh, V. K. Mishra, R. K. Das, Desiccant materials for air condition in applications: A review, lop Conference Series. Materials Science and Engineering, 404 (2018),012005.
【非特許文献3】L. E. Ficke, J. F. Brennecke, Interactions of Ionic Liquids and Water, J. Phy. Chem. B 114 (2010) 10496-10501.
【非特許文献4】L. Jing, Z. Danxing, F. Lihua, W. Xianghong, D. Li, Vapor Pressure Measurement of the Ternary Systems H20 + LiBr + [Dmim]Cl, H20 + LiBr + [Dmim]BF4, H20 + LiCl + [Dmim]Cl, and H20 + LiCl + [Dmim]BF4, J. Chem. Eng. Data 56 (2011) 97-101.
【非特許文献5】Y. Luo, S. Shao, H. Xu, C. Tian, Dehumidification performance of [EMIM]BF4, Appl. Thermal Eng. 31 (2011) 2722-2777.
【非特許文献6】Y. Luo, S. Shao, F. Qin, C. Tian, H. Yang, Investigation on feasibility of ionic liquids used in solar liquid desiccant air conditioning system, Solar Energy 86 (2012) 2718-2724.
【非特許文献7】Watanabe, H. ; Komura, T.; Matsumoto, R.; Ito, K.; Nakayama, H.; Nokami, T.; Itoh, T. Design of Ionic Liquids as Liquid Desiccant for an Air Conditioning System, Green Energy & Environment, 4 (2019), 139-145.
【非特許文献8】Maekawa, S.; Matsumoto, R.; Ito, K.; Nokami, T.; Li, J-X.; Nakayama, H.; Itoh, T.* Design of Quaternary Ammonium Type-Ionic Liquids as Desiccants for an Air-Conditioning System, Green Chemical Engineering, 1 (2020), 109-116.
【非特許文献9】Dicationic Type Quaternary Ammonium Salts as Candidates of Desiccants for an Air-Conditioning System, Itoh, T.; Hiramatsu, M.; Kamada, K.; Nokami, T.; Nakayama, H.; Yagi, K.; Yan, F.; Kim, H-J. ACS Sustainable Chem. Eng., 9 (2021), 14502-14514.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1~2に開示される塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液は、安定して低湿度の空気を得ることができるという利点がある。しかしながら、一般に、これらハロゲン化物イオンのアルカリ金属の水溶液およびアルカリ土類金属の水溶液は、金属腐食性を有している。そのため、これらの物質を調湿材に適用した場合には、空調機や吸収冷凍機等の装置における調湿材が接する部分に、チタン等の耐食性の高い材料を用いなければならないという問題がある。
特許文献1ではコリニウムカチオンと乳酸アニオンからなるイオン液体の吸湿性が高いことが報告されているが、乳酸アニオンは不安定で長期の使用に耐えない。
また、特許文献2~4および非特許文献4~5に開表される調湿材は、イミダゾリウムカチオンからなるイオン液体と構成アニオンとして、臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート陰イオンが用いられている。臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート陰イオンは、金属腐食性を有している点に加えて、取り扱いが難しいという問題もある。
非特許文献3ではイミダゾリウム塩イオン液体の吸湿性は主としてアニオンに依存することが報告されており、アセタートアニオンの吸水性が良いことも報告している。しかし,カチオンはイミダゾリウムカチオンしか検討されておらず、イミダゾリウムイオン液体の水溶液は銅などの金属腐食性が大きい(非特許文献7)。また,アセタートアニオンのイオン液体は不安定で長期の使用に耐えないことがわかっている(非特許文献7)。このような問題を解決するために,非特許文献7から9ではアニオンをジメチルリン酸やメチル硫酸に注目してイオン液体の選択が行われ,非特許文献7ではホスホニウムカチオンとジメチルリン酸アニオンの組み合わせからなるイオン液体が優れた吸湿性を示すことを明らかにしており、非特許文献8ではコリニウムカチオンとジメチルリン酸アニオンの組み合わせからなるイオン液体水溶液は吸湿性が大きく、金属腐食性が低いことを報告している。さらに非特許文献9では第4級アンモニウム=ジメチルリン酸塩、なかでもジカチオン性アンモニウムが従来報告されている調湿材に較べて高い吸湿性を示すことが報告されている。しかし、ジカチオン性アンモニウム=ジメチルリン酸塩の水溶液は粘性が比較的高いことがわかった(非特許文献9)。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な吸湿性(吸湿能、水蒸気交換能)と低粘性を示し金属腐食性の低い調湿材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者らが検討を行った結果、特定の構造を有するトリアゾリウムカチオンと、リン酸エステルアニオンから構成される塩を含む調湿材を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>下記式(N1)で表されるトリアゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【化1】
(式(N1)中、XおよびYは窒素原子またはメチン基を表す。ただし、XおよびYのいずれか一方が窒素原子であり、他方がメチン基である。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5は、それぞれ独立して、無置換、水素原子、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5は、互いに異なっていても同一であってもよい。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5のすべてが水素原子または無置換であることはなく、五員環を構成する窒素原子に置換する1つ以上のR
N1、R
N2、R
N3、R
N4は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。)
<2>式(N1)中、Xが窒素原子のとき、R
N1およびR
N3はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、R
N2は無置換となる、<1>に記載の調湿材。
<3>式(N1)中、Yが窒素原子のとき、R
N1およびR
N2はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、このときR
N4は無置換となる、または、Yが窒素原子のとき、R
N1およびR
N4はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、このときR
N2は無置換となる、<1>に記載の調湿材。
<4>下記式(1-1)~(1-3)のいずれかで表されるトリアゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する<1>~<3>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化2】
(式(1ー1)において、R
11およびR
12は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
13は、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
11とR
12とR
13とは、互いに異なっていても同一であってもよい。
式(1-2)において、R
21およびR
22は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
21とR
22とは、互いに異なっていても同一であってもよい。
式(1-3)において、R
31およびR
32はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
31とR
32とは、互いに異なっていても同一であってもよい。)
<5>前記リン酸エステルアニオンが、式(N2)で表されるアニオンを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化3】
(式(N2)中、R
4は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基であり、R
5は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
<6>前記トリアゾリウムカチオンが、下記式(1)~(8)、(34)、(35)のいずれかで表される、<1>~<5>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化4】
【化5】
<7>前記リン酸エステルアニオンが下記式(9)または(10)で表される、<1>~<6>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化6】
<8>トリアゾリウムカチオンとリン酸アニオンとから構成される塩の水溶液の粘度が25℃で50mPa・s以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の調湿材。
<9>25℃での平衡水蒸気圧が100hPa以下であり、50℃での平衡水蒸気圧が150hPa以上である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の調湿材。
<10>50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP
50-25)が100hPa以上である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の調湿材。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の調湿材を含む装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、吸湿性が高く、水溶液の粘性が低く、金属腐食性の低い調湿材が提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】特定塩(11)の水蒸気吸収能の測定結果を示すグラフである。
【
図2】特定塩(11)の平衡水蒸気圧測定試験の結果を示すグラフである。
【
図3】特定塩(11)の金属腐食性測定試験の結果を示す写真である。
【
図4】各サンプルの温度可変粘性測定結果を示すグラフである。
【
図5】ΔVP
50-25をサンプルごとに示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の調湿材は、下記式(N1)で表されるトリアゾリウムカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩(以下、特定塩と記載する。)を含有することを特徴とする。
<式(N1)で表されるトリアゾリウムカチオン>
本実施形態で用いる式(1)で表されるトリアゾリウムカチオンについて述べる。
【化7】
(式(N1)中、XおよびYは窒素原子またはメチン基を表す。ただし、XおよびYのいずれか一方が窒素原子であり、他方がメチン基である。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5は、それぞれ独立して、無置換、水素原子、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5は、互いに異なっていても同一であってもよい。R
N1、R
N2、R
N3、R
N4、およびR
N5のすべてが水素原子または無置換であることはなく、五員環を構成する窒素原子に置換する1つ以上のR
N1、R
N2、R
N3、R
N4は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。)
【0011】
XおよびYは窒素原子またはメチン基を表す。ただし、XおよびYのいずれか一方が窒素原子であり、他方がメチン基である。換言すると、XおよびYの両者が窒素原子であることはなく、その両者がメチン基であることもない。
RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、それぞれ独立して、無置換、水素原子、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基(以下、この基を特定アルキル基と呼ぶことがある)である。RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1、RN2、RN3、RN4、およびRN5のすべてが水素原子または無置換であることはなく、五員環を構成する窒素原子に置換する1つ以上のRN1、RN2、RN3、RN4は、特定アルキル基である。特に好ましくは、窒素原子に置換するRN1、RN2、RN3、RN4の2つが特定アルキル基である。
式(N1)中、Xが窒素原子のとき、RN1およびRN3はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、RN2は無置換となることが好ましい。
式(N1)中、Yが窒素原子のとき、RN1およびRN2はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、このときRN4は無置換となる、または、Yが窒素原子のとき、RN1およびRN4はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、このときRN2は無置換となることも好ましい。
【0012】
上記の式(N1)で表されるトリアゾリウムカチオンは式(1-1)~(1-3)のいずれかで表されるトリアゾリウムカチオンであることが好ましい。
【化8】
(式(1ー1)において、R
11およびR
12は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
13は、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
11とR
12とR
13とは、互いに異なっていても同一であってもよい。
式(1-2)において、R
21およびR
22は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
21とR
22とは、互いに異なっていても同一であってもよい。
式(1-3)において、R
31およびR
32はヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~10のアルキル基である。R
31とR
32とは、互いに異なっていても同一であってもよい。)
【0013】
RN1、RN2、RN3、RN4、RN5、R11、R12、R13、R21、R22、R31およびR32(以下、これらの基の総称として単にRと表記することがある。)において、Rは、上述の通り、ヒドロキシ基を有してもよく炭素数1~10のアルキル基の鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい。鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよいとは、アルキル基が-(アルキル鎖-O)n-アルキル基(nは0または正の整数であり、0~2の整数が好ましい)であってもよいことを意味する。すなわち、アルキル鎖の末端が酸素原子であることはない。このとき、各置換基はヒドロキシ基を有してもよい。例えば、式中の末端のアルキル基がヒドロキシ基をともなっていてもよい。あるいは、中間のアルキル鎖(アルキレン基)の任意の箇所にヒドロキシ基を有していてもよい。
Rにおいて、特定アルキル基が-(アルキル鎖-O)n-アルキル基で、nが1である場合、炭素数2~10のアルコキシアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基で置換された炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましい。
本実施形態において、Rは、それぞれ独立に、水素原子、-(CH2)n1CH3(n1は0~9の整数である)、および、-(CH2)n2O(CH2)n3CH3(n2は1~4の整数であり、n3は0~2の整数である)が好ましい。
【0014】
各式中において、Rの少なくとも1つは特定アルキル基である。また、置換基Rは性能を大きく悪化させるものでなければ、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、スルファニル基(チオール基)等)を有していてもよい。あるいは、性能を大きく悪化させない範囲で、トリアゾールの母核の炭素原子に上記置換基や特定アルキル基等を有していてもよい。
本実施形態で用いられるトリアゾリウムカチオンの分子量は、110~500であることが好ましい。
【0015】
以下に、本実施形態で用いられるトリアゾリウムカチオンの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものでは無いことは言うまでもない。
【化9】
【化10】
【0016】
<リン酸エステルアニオン>
本実施形態で用いるリン酸エステルアニオンは、式(N1)で表されるトリアゾリウムカチオンと塩が形成できる限り、その種類等特に定めるものではない。
【0017】
本実施形態においては、リン酸エステルアニオンが、式(N2)で表されるアニオンであることが好ましい。このようなリン酸エステルアニオンを用いることにより、式(1)で表されるトリアゾリウムカチオンと安定な塩を構成し、臭気の発生を効果的に抑制できる。なお、本発明においてリン酸エステルアニオンの語は、リン酸エステルのアニオンに加え、ホスホン酸(亜リン酸)エステルのアニオンあるいはホスフィン酸(次亜リン酸)エステルのアニオンも含む意味である。
【化11】
(式(N2)中、R
4は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基であり、R
5は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
【0018】
式(N2)中、R4は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基であり、炭素数1~6のアルキル基、および、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがさらに好ましく、メトキシ基およびエトキシ基が一層好ましい。
式(N2)中、R5は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または、炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基であり、炭素数1~6のアルキル基、および、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがさらに好ましく、メトキシ基およびエトキシ基が一層好ましい。
【0019】
本実施形態で用いるリン酸エステルの分子量は、64~650であることが好ましい。
【0020】
以下に、本実施形態で用いられるリン酸エステルアニオンの具体例を示す。本実施形態におけるリン酸エステルアニオンがこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【化12】
【化13】
【0021】
<トリアゾリウムカチオン塩>
特定塩であるトリアゾリウム=リン酸アルキルは、式(N31)で表され、具体的には式(31)、(32)、(33)で表される塩であることが好ましい。
【0022】
【0023】
式中、R(RN1、RN2、RN3、RN4、RN5、R11、R12、R13、R21、R22、R31およびR32)は、式(N1)、(1-1)、(1-2)、(1-3)における各基(R)と同義であり、好ましい範囲も同様である。
式中、R4およびR5は、式(N2)におけるR4およびR5と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0024】
例えば、前記トリアゾリウムカチオンとリン酸ジメチルまたはリン酸ジエチルアニオンとから構成される塩の典型的な例は下記に示した化学式(11)から(18)、(36)、(37)である。
【化15】
【化16】
Meはメチル基を表す。
【0025】
式(N1)で言うと、上記トリアゾリウムからRN1、RN2、RN3、RN4のいずれか一つが省かれた構造のトリアゾールにトリアルキルリン酸エステルを作用させてオニウム化することにより、特定塩を合成できる。この合成プロセスは、容易に反応が進むため、極めて簡易に特定塩を合成できる。また、メタル交換反応やイオン交換樹脂を用いるアニオン交換を必要としないため、腐食の原因となるハロゲンの混入を抑制できる。
なお、特定塩は、常温で固体であってもよいし、液体(所謂、常温溶融塩(イオン液体))であってもよい。
【0026】
<調湿材>
調湿材は、1種の特定塩を含有するものであってもよいし、上記カチオンおよび上記アニオンの一方または両方が異なる2種以上の特定塩を含有するものであってもよい。
調湿材は、本実施形態の効果を阻害しない範囲内において、通常、調湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
【0027】
調湿材は、水溶液であってもよい。この場合、特定塩は、上記カチオンおよび上記アニオンの状態で含有される。
本実施形態の調湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に適用できる。なお、本実施形態の調湿材は、開放系および密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸アニオンである調湿材が特に適している。
【0028】
また、別の実施形態では、前記塩は、イオン液体であることが好ましい。イオン液体とは、1気圧で100℃以下の融点を持つものを意味する。特に、本実施形態の調湿材は、少なくとも、0~5℃の範囲で液体であることが好ましい。
本実施形態の調湿材は、上記のとおり、水溶液であってもよく、水溶液であることが好ましい。この場合、先にも述べた通り、特定塩は、上記カチオンおよび上記アニオンの状態で含有される。水の量は、前記塩(イオン液体)と水の合計量に対し10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、水の量が95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
さらに、本実施形態の調湿材は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、通常、調湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
【0029】
本実施形態の調湿材は、空調機や吸収冷凍機等の装置に用いることができる。このような装置の例としては、特開2006-142121号公報、特開2018-144029号公報、特開2020-30004号公報等の記載を参酌できる。特に、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
本実施形態の調湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に好ましく適用できる。なお、本実施形態の調湿材は、開放系および密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸エステルアニオンである調湿材が特に適している。
【0030】
本実施形態の調湿材を構成するトリアゾリウムリン酸塩溶液は低粘性であることが好ましい。その水溶液の粘度(例えば、70質量%の水溶液)は25℃の粘度でいうと、75mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以下であることがさらに好ましい。トリアゾリウムリン酸塩の粘度が低いことで、調湿材水溶液の移送効率が向上すると共に,外気との接触による水蒸気交換効率が向上すると期待される。下限値は特にないが10mPa・s以上であることが実際的である。
【0031】
本実施形態の調湿材は、亜鉛、銅、アルミニウム、ステンレス等の種々の金属に対して腐食性の低い調湿材となる。
【0032】
上記構成によれば、吸湿率の高い調湿材が得られる。また、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
【実施例0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
本実施例は、特に述べない限り、23℃、相対湿度40%の環境下で行った。
【0034】
<トリアゾリウム塩の合成>
【0035】
実施例1:4-ブチル-1-エチル-3-メチル-1,2,3-トリアゾリウム=リン酸ジメチル(11)の合成
【化17】
【0036】
ジムロートコンデンサーと100 ML円筒型滴下ロートを装着した1L 三口ナスフラスコにアジ化ナトリウム(NaN3)(26.0 g, 400 mmol) をはかり取り,アルゴン置換したのち室温でDMF 50 mLを加えた(完全には溶解しない)。これに室温で臭化エチル (21.8 g, 200 mmol) のDMF(25mL)溶液を30分かけて滴下し,滴下修了後80℃で24時間攪拌すると反応系内に白色沈殿が析出した。放冷して室温になったところで,側管からヨウ化銅(CuI)(3.81 g, 20 mmol)を投入したところオレンジ色に着色した。ついで,滴下ロートから1-ヘキシン(19) (19.7g, 240 mmol) のDMF (25 mL)溶液を30分かけて滴下し,ついで80℃で24時間攪拌した。なお1-ヘキシン(19)の滴下と共にオレンジ色が消え灰白色懸濁液に変化した。放冷して反応液が室温になったことを確認後に酢酸エチル(100 mL)で希釈し,セライト濾過してヨウ化銅を除去した。濾過を行うと濾液は暗緑色に着色した。この濾液をロータリーエバポレータ(70℃)でDMFを除いた。残渣を酢酸エチル(100mL)とジエチルエーテル(20 mL)に溶解後,水洗(3回)したところ。有機層を無水MgSO4で乾燥し,ロータリーエバポレータ,ついで真空乾燥すると褐色液体(42.36g)が得られた。これを減圧条件(4.8 hPa)でクライゼン蒸留すると1-エチル-4-ブチル-1,2,3-トリアゾール(21) (26.2g,171 mmol,bp 97°C/ 4.6 hPa)が無色液体として収率85%で得られた。
【0037】
トリアゾール(21) (26.2g, 171 mmol)を500mL一口ナスフラスコに取り,室温で直接リン酸トリメチル(9) (205 mmol, 28.70 g)を加え,アルゴン雰囲気で120℃,24時間攪拌した。室温まで放冷した後,ヘキサンでデカント洗浄(3回)したのち,メタノール100 mLを加えて溶解し,活性炭(5.0g)を加えて50℃で1時間攪拌した。セライト濾過して活性炭を除去した後,5時間真空乾燥(65°C, 5.5 hPa)を行い,4-ブチル-1-エチル-3-メチル-1,2,3-トリアゾリウム=リン酸ジメチル (11) (45.74 g, 156 mmol)を淡褐色液体として収率91%で得た。このトリアゾリウムイオン塩は室温で液体であり,その水溶液は中性を示す。
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3-DMSO-d6) δ 0.98 (3H, t,J= 7.3 Hz), 1.47-1.49 (2H, m), 1.67 (3H, t, J= 6.7 Hz), 1.75-1.85 (2H, m), 2.89 (2H, t, J= 7.8 Hz), 3.58 (6H, s), 4.22 (3H, s), 4.83 (2H, q, J= 7.1 Hz), 9.70 (1H, s) ; 13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3-DMSO-d6) δ 13.6, 14.7, 22.2, 23.1, 29.1, 37.6, 49.3, 52.5, 130.3, 144.3; ESI-MS m/z (M+) calcd for C9H18N3
+ 168.1502, found 168.1486, m/z (X-) calcd for C2H6O4P-125.0004, found 124.9990.
【0038】
同様の手法で合成した特定塩であるトリアゾリウム塩の構造と化学式番号は上記化合物(12)、(13)および(14)で表される。
【0039】
実施例2:1-ブチル-3-メチル-1,2,3-トリアゾリウム=リン酸ジメチル (16)の合成
【化18】
ジムロートコンデンサーと円筒形滴下ロート(100mL)を装着した500 mL 三ツ口フラスコに水素化ナトリウム(NaH, ca. 60% in 鉱物油)(4.00 g, 100 mmol) をはかり取り,アルゴン置換したのち室温でdry hexaneを加え生じた懸濁液の上澄みを2回シリンジで取り出して被覆用鉱物油を除去した。ついでdryTHF 50mLを加えた。生じた懸濁液に1H-1,2,3-トリアゾール(25)(6.91 g, 100 mmol) のdry THF(25 mL)溶液を0℃で40分かけて滴下し,ついで室温で1時間攪拌した。滴下と共に水素ガスが発生し灰白色懸濁液が得られた。この懸濁液に室温で1-ヨードブタン (20.2 g, 110 mmol) のTHF(25mL)溶液を30分かけて滴下し,滴下修了後,アルゴンガス雰囲気下,70℃で48時間攪拌すると溶液は灰白色懸濁液から白色懸濁液に変化した。放冷して室温になったところで,水(1.80g, 100 mmol)を0℃で加え過剰の水素化ナトリウムを分解すると淡褐色透明の溶液が得られた。これに無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌して脱水し,濾液をエバポレータで濃縮したのちシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーを行い(ヘキサン-酢酸エチル10:1~1:2)1-ブチル-1H-1,2,3-トリアゾール(26)(9.45g,75.5 mmol)を収率76%で得た。
【0040】
トリアゾール(26) (9.45 g, 75.5 mmol)を300mL一口ナスフラスコに取り,室温で直接リン酸トリメチル(21) (11.63 g, 83.0 mmol)を加え,アルゴン雰囲気で120℃,48時間攪拌した。室温まで放冷した後,ヘキサンでデカント洗浄(3回)したのち,酢酸エチル100 mLを加えて溶解し,活性炭(5.0g)を加えて40℃で1時間攪拌した。セライト濾過して活性炭を除去,濾液をロータリーエバポレータで濃縮,ついで真空乾燥して、1-ブチル-3-メチル-1,2,3-トリアゾリウム=リン酸ジメチル(16) (16.47g, 62.1 mmol)を収率83%で得た。1H NMR (80MHz, ppm, CDCl3) δ1.07 (3H, t, J= 6.4 Hz), 1.25-1.73 (2H, m), 1.92-2.08 (2H, m), 3.61 (3H, s), 3.74 (3H, s), 4.58 (3H, s), 4.84 (2H, t, J= 6.4 Hz), 9.90 (2H, s); 13C NMR (20 MHz, ppm, CDCl3) δ13.4, 19.5, 31.7, 40.1, 52.4, 52.7, 53.6, 132.5, 133.3; HRMS (ESI) C7H14N3
+140.11883;found 140.1189;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P-125.000382;found 124.9995.
【0041】
同様の手法で合成した特定塩であるトリアゾリウム塩の構造と化学式番号は上記例示化合物(16),(17)および(18)で表される。
【0042】
<吸湿試験,実施例3>
実施例1の特定塩(11)1.0038gを分注したシャーレを、湿度計(株式会社T&D製 照度・紫外線・温度・湿度データロガー TR-74Ui)と共にチャック付き内容量1,110 cm
3のポリ袋(旭化成ホームプロダクツ株式会社製 ジップロック(登録商標)、273mm×268mm)に入れて、ポリ袋を封止した。これを30℃の恒温槽に入れて静置し、ポリ袋内の湿度が平衡状態に達するまでのポリ袋内の湿度変化を測定した。その結果をグラフ
図1に示す。[
図1]に示すように、時間経過とともに湿度が低下しており、特定塩(11)は、吸湿性を有していることが分かる。
【0043】
同様の方法で特定塩(12),(13),(14),(15),(16)について真空乾燥後の1.000gをシャーレに取り,特定塩(11)と同様の吸湿試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0044】
典型的な特定塩(11),(12),(13),(14),(15), (16)ならびに市販乾燥剤2種(シリカゲル,塩化リチウム),非特許文献9に記載の[HMC6][DMPO4]2,および現在調湿材に使用されている塩化リチウム30質量%水溶液の吸湿性能比較
【表1】
[a]非特許文献9記載
【0045】
表1に示した乾燥用シリカゲルを用いた比較例3-1および塩化リチウムを用いた比較例3-2と比較して、特定塩(11)~特定塩(16)は高い吸湿率を示した。ただし,特定塩(11)等の吸湿率,吸湿速度は表1,比較例3-3で示した非特許文献9記載のN1,N1,N1,N6,N6,N6-ヘキサメチルヘキサン-1,6-ジアミニウム=リン酸ジメチル([HMC6][DMPO4]2)に及ばなかった。
【0046】
特定塩(11)は,現在,広く調湿材に使用されているシリカゲル(表1,比較例3-1)に較べるとモル当たり7倍,グラム当たり1.4倍の吸湿力を示した。特定塩(11)から特定塩(16)のなかでは特定塩(14)が最も吸湿力が高く,シリカゲル(表1,比較例3-1)に較べるとモル当たり10倍を示したが,グラム当りでは同等の吸湿力であった。
【0047】
特定塩(12)~(16)のモル当たり吸湿率は,現在,広く調湿材に使用されているシリカゲル(表1,比較例3-1)に較べるとモル当たり4倍から10倍高いことがわかった。特定塩(11)~(16)のモル当たり吸湿性は(14)>(13)>(11)>(12)>(15)>(16)の順番であり,グラム当たり吸湿性は(11)>(13)>(12)>(15)>(14)>(16)の順になった。イオン液体の吸湿性はカチオン部分が小さい方が高いという報告があるが(非特許文献3),トリアゾリウム塩イオン液体である特定塩(11)~(16)に関してはこのルールで予測できないことがわかった。
【0048】
<平衡水蒸気圧測定,実施例4>
実施例1で合成した特定塩(11)の80質量%,60質量%,40質量%水溶液を調製し,20℃から60℃まで,各温度における平衡水蒸気圧を測定した。その結果を
図2に示す。
【0049】
同様の方法で特定塩(12),(13),(14),(15),および(16)の80質量%,60質量%,40質量%水溶液を調製し,20℃から60℃まで,各温度における平衡水蒸気圧を測定した。特定塩(11)~(16)の25℃と50℃における平衡水蒸気圧を表2に示す。
【0050】
特定塩(11)~(16)の25℃と50℃における平衡水蒸気圧
【表2】
[a] 非特許文献7記載,
[b]非特許文献9記載
【0051】
表2の実施例4-1で示したように,特定塩(11)の80質量%水溶液の平衡水蒸気圧は25℃で17hPaと非常に低い値を示し,40質量%水溶液においても25℃における平衡水蒸気圧は22hPaであり,さらに,特定塩(11)および(14)の40質量%水溶液においても25℃における平衡水蒸気圧は表2の比較例4-3で示した30質量%塩化リチウム水溶液より幾分低いことがわかった。
【0052】
液式デシカント空調機用の調湿材は接触させる外気との間で円滑に水蒸気を吸放出させることが必要であり,このためには低温で平衡水蒸気圧が低く,高温で平衡水蒸気圧が高いことが望ましい。かかる観点から、25℃での平衡水蒸気圧は100hPa以下であることが好ましく、70hPa以下であることがより好ましく、50hPa以下であることがさらに好ましい。下限値は特にないが10hPa以上であることが実際的である。50℃での平衡水蒸気圧は150hPa以上であることが好ましく、200hPa以上であることがより好ましく、250hPa以上であることがさらに好ましく、300hPa以上であることが一層好ましい。上限値は特にないが800hPa以下が実際的である。
【0053】
表2の実施例4-1,4-2で示した結果は,特定塩(11)の調湿材としての機能は,80,60質量%水溶液では30質量%塩化リチウム水溶液よりも優れていることを示している。表2の実施例4-3で示した特定塩(11)の40質量%水溶液の平衡水蒸気圧は30質量%塩化リチウム水溶液と同等であり,50℃においては30質量%塩化リチウム水溶液よりも平衡水蒸気圧が高く,外気との接触で円滑に水蒸気交換ができることを示している。
【0054】
表2の実施例4-4~4-6で示した実験結果は特定塩(12)の80質量%水溶液の調湿材としての機能は30質量%塩化リチウム水溶液よりも優れていることを示している。ただし,特定塩(12)の60,40質量%水溶液の調湿材の機能は30質量%塩化リチウム水溶液よりも劣ることを示している。ただし,50℃における平衡水蒸気圧が高く,外気との接触で容易に水蒸気交換ができる調湿材であることを示している。
【0055】
表2の実施例4-7で示した実験結果は特定塩(13)の80質量%水溶液の調湿材としての機能は30質量%塩化リチウム水溶液と同等であることを示している。一方,特定塩(13)の60,40質量%水溶液の調湿材としての水蒸気吸収機能は30質量%塩化リチウム水溶液よりも劣るが、50℃における平衡水蒸気圧が高く、外気との接触で容易に水蒸気交換ができる調湿材であることを示している。
【0056】
表2の実施例4-10で示した実験結果は特定塩(16)の80質量%水溶液の調湿材としての機能は30質量%塩化リチウム水溶液よりわずかに劣るがほぼ同等であることを示している。また,特定塩(16)の60,40質量%水溶液の調湿材としての25℃における水蒸気吸収機能は30質量%塩化リチウム水溶液より劣るが,50℃における平衡水蒸気圧が高く、外気との接触で容易に水蒸気交換ができる調湿材であることを示している。
【0057】
<金属に対する腐食溶解性試験,実施例5>
空調機に使用する調湿材は金属パイプに使用されている金属に対して腐食性が低いことが好ましい。現在,調湿材に使用されている30質量%塩化リチウム水溶液は鉄,銅などの金属に対して激しい腐食性を示す。このため配管はすべてチタンコーティングが必要となり,結果的に現在市販の液式で弛緩と空調機の価格を押し上げ,普及を妨げる要因になっていた。
空調機に一般的に使用される金属である以下の4種類の金属材料からなる金属片(縦10mm×横15mm×厚さ2mm)を用意した。
【0058】
Fe-Zn:溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(商品名:SPHC鋼板)
Al:耐食アルミニウムA5052
Cu:タフピッチ銅C1100P
SUS:ステンレス鋼SUS304
【0059】
実施例1の特定塩(11)の80質量%水溶液9.0 mlが入ったサンプル管に金属片を入れて80℃で2日間、保持した。その後、脱イオン水で金属片を5回洗浄し、減圧乾燥を行った。上記処理を行う前および上記処理を行った後の金属片の質量を電子天秤で測定し、上記処理の前後における金属片の質量変化を求めた。また、比較試験として、塩化リチウム30質量%水溶液,[HMC6][DMPO
4]
280質量%水溶液について同様の金属溶解性試験を実施した。その結果を[
図3]および表3に示す。なお,特定塩(11)を合成する際に使用するアルキル化剤であるリン酸トリメチルは吸湿性があるため,保存中に吸水して加水分解がおきてリン酸を生成する。この際にもメチル化反応は円滑に進行して特定塩(11)が得られるが,生じた特定塩中に微量のリン酸が不純物として残るために金属腐食性を示す場合がある。このため,腐食試験の際には特定塩80質量%水溶液の酸性度を確認したのちに腐食試験を行う必要がある。もし酸性を呈した場合には特定塩をアセトンに溶解した後,特定塩(11)30gあたり無水炭酸カリウム5gを加えて攪拌後に12時間静置し,ついで濾過して無水炭酸カリウムを除去した後,減圧してアセトンを溜去すればリン酸を除くことができる。
【0060】
特定塩(11)および(13)の80質量%水溶液の金属溶解性実験の結果
【表3】
【0061】
表3の実施例5-1で示したように特定塩(11)を用いて腐食実験を行った結果、試験したいずれの金属においても質量減少が認められず,特定塩(11)の80質量%水溶液は,本実験条件においては金属腐食性を示さないことがわかった。一方,表3,比較例5-1の[HMC6][DMPO4]2 80質量%水溶液は銅のみ,わずかに腐食が認められ,表3,比較例5-2の塩化リチウム30質量%水溶液では全ての金属について腐食が起こっていることがわかる。
【0062】
表3の実施例5-2で示したように特定塩(13)を用いて腐食実験を行った結果、Fe-Znについては腐食実験を行ったあとの水溶液が着色し,Fe-ZnおよびCuにおいても質量減少が認められ,本実験条件においては,特定塩(13)はこれらの金属に対してわずかに金属腐食性を示すことがわかった。ただし,AlとSUSについては全く腐食性を示さなかった。なお,特定塩(13)の80質量%水溶液はpH試験紙では中性を呈するが,pHメータを用いて酸性度を測定するとpH4.6と酸性を呈する現象が観察された。特定塩(13)中に微量に残存しする不純物がpHメータの電極に影響を及ぼした可能性が示差され,この不純物とFe-Znとの間に化学反応が生じた可能性があるが,その不純物の詳細は未特定である。
【0063】
<粘度試験,実施例6>
液式デシカント空調機用の調湿材はなるべく粘性が低いことが望まれる。グラフ
図4に示すように、特定塩(11)ならびに特定塩(12)の70質量%水溶液は比較例に使用した[HMC6][DMPO
4](表1,比較例3-3,非特許文献9)の70質量%水溶液と比較して低粘性を示した。いずれの温度においても、特定塩(11)と特定塩(12)の70質量%水溶液の粘性は比較例よりも低いことがわかった。液式デシカント空調機においては,外気と調湿材水溶液を接触させて外気の調湿と空調温度制御を行う。また,調湿材水溶液の配管中の抵抗を減らし,外気との接触効率を向上させるためには調湿材水溶液の粘性が低いことが好ましい。[HMC6][DMPO
4]70質量%水溶液に較べると吸湿性は特定塩(11)(12)は劣るが,70質量%水溶液の各温度における粘性は低く,外気と接触で効率的な調湿が可能になる。
【0064】
<平衡水蒸気圧、実施例7>
トリアゾリウム塩である特定塩(11),(12),(13),(14),(15),および(16)の50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP
50-25)を算出し,既知の調湿材である塩化リチウム30質量%水溶液, [P
1,4,4,4][DMPO
4] 77質量%水溶液(P1444:非特許文献7),および[HMC6][DMPO
4]
2 80質量%水溶液([HMC6][DMPO
4]
2:非特許文献9)の値を比較した。なお,特定塩(11),(12),(13),(14),(15)および(16)の平衡水蒸気圧は80質量%水溶液の値を使用した。結果のグラフを
図5に示した。グラフの縦軸は平衡水蒸気圧の差(単位:hPa)である。
【0065】
図5で示されるように,トリアゾリウム塩である特定塩(11)~(16)はΔVP
50-25が大きく,なかでも特定塩(14),(15),および(16)では大きなΔVP
50-25を示した。これら特定塩のモル吸湿能およびグラム吸収率(表1)は[HMC6][DMPO
4]
2(表1,比較例3-3)に較べると劣るが,ΔVP
50-25の値は大きく,なかでも特定塩(15)のΔVP
50-25は塩化リチウム30質量%水溶液や[HMC6][DMPO
4]
280質量%水溶液の約2倍のΔVP
50-25を示した。この結果は,特定塩(14)~(16)の水溶液を外気と接触させることで,既知の調湿材である塩化リチウム,[HMC6][DMPO
4]
2および[P
1,4,4,4][DMPO
4]に較べて効率的な水蒸気交換ができることを示している。かかる観点から、ΔVP
50-25は50hPa以上であることが好ましく、100hPa以上であることがより好ましく、150hPa以上であることがさらに好ましい。上限は特にないが、500hPa以下であることが実際的である。