(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105605
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】めっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/02 20060101AFI20230724BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20230724BHJP
B21D 1/05 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C25D5/02 H
C25D7/06 H
B21D1/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006537
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】303028734
【氏名又は名称】オーエム産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】剣持 仁志
【テーマコード(参考)】
4E003
4K024
【Fターム(参考)】
4E003AA02
4E003BA11
4E003EA01
4K024AA03
4K024AA10
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024BC01
4K024CB03
4K024CB21
4K024DA01
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA09
4K024EA02
4K024FA11
4K024FA12
(57)【要約】
【課題】均一な厚さのめっき層を安定して形成することが可能なめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材を提供する。
【解決手段】帯板材の表面にめっき層が形成されためっき付き帯板材の製造方法であって、コイル状に巻き取られた前記帯板材をめっき槽へ搬送する前に、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷し、長手方向の基準長さ300mm当たりの反り量を10mm以下に矯正することを特徴とする。前記帯板材の表面にマスキングテープを1MPa以下の押圧力で貼り付け、その後、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯板材の表面にめっき層が形成されためっき付き帯板材の製造方法であって、
コイル状に巻き取られた前記帯板材をめっき槽へ搬送する前に、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷し、長手方向の基準長さ300mm当たりの反り量を10mm以下に矯正することを特徴とするめっき付き帯板材の製造方法。
【請求項2】
前記帯板材の表面にマスキングテープを1MPa以下の押圧力で貼り付け、その後、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷することを特徴とする請求項1に記載のめっき付き帯板材の製造方法。
【請求項3】
前記帯板材の板厚が3mm以上とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のめっき付き帯板材の製造方法。
【請求項4】
前記帯板材が、銅または銅合金で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のめっき付き帯板材の製造方法。
【請求項5】
帯板材の表面にめっき層が形成されためっき付き帯板材であって、
前記めっき層の最大厚さtmaxと前記めっき層の最小厚さtminの差(tmax-tmin)と、前記めっき層の平均厚さtaveとの比(tmax-tmin)/taveが0.4以下であること特徴とするめっき付き帯板材。
【請求項6】
前記帯板材の板厚が3mm以上とされていることを特徴とする請求項5に記載のめっき付き帯板材。
【請求項7】
前記帯板材の両面に前記めっき層が形成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のめっき付き帯板材。
【請求項8】
前記めっき層がストライプ状に形成されていることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のめっき付き帯板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯板材の表面にめっき層を形成するめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子・電気機器用部品であるコネクタや端子等においては、金属部材の表面にめっき層が形成された構造のものが用いられている。
ここで、電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品の大型化、厚肉化が図られている。
【0003】
例えば、電気自動車のモーターとインバーターとバッテリー間をつなぐハーネスには、数十Aから数百A程度の大電流が流れるため、ハーネスとインバーター等と接続するコネクタは、大電流に耐えうる大型のものが用いられている。
電気自動車のモーターも大出力化、バッテリーの高容量化が進むにつれ、コネクタもより大型化が進み、コネクタ製造に使用される端子材として、肉厚が3mm以上のものが求められるようになってきている。
【0004】
ここで、電子・電気機器用部品であるコネクタや端子等を成形する際に用いられる素材としては、例えば、銅または銅合金からなる帯板材の表面にSnやAgからなるめっき層が形成されためっき付き帯板材が一般に用いられている。
また、金属板からなる帯板材の表面に、NiやCuの下地めっき層を形成し、この下地めっき層に積層するように、SnやAgからなる表層めっき層を形成したものも提供されている。
【0005】
さらに、帯板材の幅方向の一部にのみめっき層を形成した、いわゆるストライプめっきを施したものも提供されている。
例えば、電気自動車のインバーター等に接続するコネクタは、流れる電流値が100Aを超える場合、一般的に接点部にはAgめっきが施される。これは、CuやSnめっきでは接触抵抗が大きく、大電流が流れた場合ジュール熱が発生し温度上昇してしまうためである。ただし、Agは高価なため、コネクタ全体ではなく、接点部周辺のみAgめっきとし、他の部分はCuもしくはSnめっきすることが多い。この場合、端子材は、Agがストライプ状にめっき処理される。
【0006】
ここで、上述のようなめっき付き帯板材は、例えば特許文献1に示すように、コイル状に巻かれた銅もしくは銅合金からなる帯板材をアンコイラー(送り出し機)からめっき装置に送り出し、めっき槽中にてめっき処理が施された後、リコイラー(巻き取り機)にて巻き取ることにより製造されている。
【0007】
ストライプ状にめっき処理する場合、Agめっきする前に、予め、Agめっき部以外はマスキングテープを貼り付けてから、めっき処理を行う。
ここで、帯板材にマスキングテープを貼り付ける際は、例えば樹脂製のロールを用いて、帯板材にマスキングテープを押し付けることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、通常のめっき装置においては、コイル状の帯板材の先端部にダミー材を取り付け、ダミー材先端部をリコイラーに取り付け、アンコイラーとリコイラー間で一定の張力をかけながらリコイラーで巻き取ることにより、帯板材の巻き癖を解消し、めっき槽に搬送される。
しかしながら、帯板材の厚みが厚くなると、アンコイラーとリコイラー間の張力だけでは、巻き癖を矯正することができず、帯板材が反った状態で送り出されるため、めっき槽に搬送することができないおそれがあった。また、めっき槽に搬送できた場合でも、反り量が大きく、長手方向で安定していないため、めっき槽内において、負極である帯板材と陽極との距離が安定せず、めっき厚が不均一となるおそれがあった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、均一な厚さのめっき層を安定して形成することが可能なめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明のめっき付き帯板材の製造方法は、帯板材の表面にめっき層が形成されためっき付き帯板材の製造方法であって、コイル状に巻き取られた前記帯板材をめっき槽へ搬送する前に、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷し、長手方向の基準長さ300mm当たりの反り量を10mm以下に矯正することを特徴としている。
【0012】
この構成のめっき付き帯板材の製造方法によれば、コイル状に巻き取られた前記帯板材をめっき槽へ搬送する前に、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷し、長手方向の基準長さ300mm当たりの反り量を10mm以下に矯正しているので、めっき槽に反り量の少ない平坦な状態で帯板材を搬入することができ、厚さの均一なめっき層が形成されためっき付き帯板材を製造することができる。
【0013】
ここで、本発明のめっき付き帯板材の製造方法においては、前記帯板材の表面にマスキングテープを1MPa以下の押圧力で貼り付け、その後、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷する構成としてもよい。
ストライプめっきを行うためにマスキングテープを帯板材に貼り付ける場合には、めっき処理時に、マスキングテープと帯板材との間にめっき液が侵入することを抑制するために、マスキングテープを帯板材に強く密着させる必要がある。一方、マスキングテープを貼り付ける際に強く押圧すると、マスキングテープの位置ずれが生じてしまうおそれがある。
【0014】
本発明では、前記帯板材の表面にマスキングテープを1MPa以下の押圧力で貼り付けているので、マスキングテープを貼り付ける際に、マスキングテープの位置ずれの発生を抑制でき、マスキングテープを位置精度良く貼り付けすることができる。
そして、マスキングテープを貼り付けた後、レベラーによって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷しているので、帯板材に反りが生じていた場合でも、反りを十分に矯正することができるとともに、マスキングテープを帯板材の表面に強く密着させることができ、マスキングテープと帯板材との間にめっき液が侵入することを抑制することが可能となる。
【0015】
また、本発明のめっき付き帯板材の製造方法においては、前記帯板材の板厚が3mm以上とされていることが好ましい。
この場合、前記帯板材の板厚が3mm以上とされているので、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。また、板厚が3mm以上であっても、レベラーで反り量を十分に低減でき、厚さの均一なめっき層を安定して形成することができる。
【0016】
さらに、本発明のめっき付き帯板材の製造方法においては、前記帯板材が、銅または銅合金で構成されていることが好ましい。
この場合、帯板材が銅または銅合金で構成されているので、導電性に優れており、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0017】
本発明のめっき付き帯板材は、帯板材の表面にめっき層が形成されためっき付き帯板材であって、前記めっき層の最大厚さtmaxと前記めっき層の最小厚さtminの差(tmax-tmin)と、前記めっき層の平均厚さtaveとの比(tmax-tmin)/taveが0.4以下であることを特徴としている。
【0018】
この構成のめっき付き帯板材によれば、前記めっき層の最大厚さtmaxと前記めっき層の最小厚さtminの差(tmax-tmin)と、前記めっき層の平均厚さtaveとの比(tmax-tmin)/taveが0.4以下とされているので、厚さの均一なめっき層が形成されており、コネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0019】
ここで、本発明のめっき付き帯板材においては、前記帯板材の板厚が3mm以上とされていてもよい。
この場合、板厚が3mm以上であっても、レベラーで反り量を十分に低減され、厚さの均一なめっき層が安定して形成されているので、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0020】
また、本発明のめっき付き帯板材においては、前記帯板材の両面に前記めっき層が形成されていてもよい。
この場合、前記帯板材の両面に前記めっき層が形成されていても、めっき層の厚さが均一となり、コネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0021】
また、本発明のめっき付き帯板材においては、前記めっき層がストライプ状に形成されていてもよい。
この場合、前記めっき層がストライプ状に形成されているので、例えばめっき層が形成された箇所を接点部とし、めっき層が形成されていない箇所を通電部として、コネクタや端子を形成することができる。これにより、めっき層が必要な部分にのみ形成されることになり、コネクタや端子を低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、均一な厚さのめっき層を安定して形成することが可能なめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態であるめっき付き帯板材の幅方向の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態であるめっき付き帯板材の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の一実施形態であるめっき付き帯板材の製造方法に使用されるマスキング装置の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態であるめっき付き帯板材の製造方法に使用されるめっき装置の一例を示す概略図である。
【
図5】実施例において反り量を評価する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の一実施形態であるめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材について説明する。
【0025】
まず、本実施形態であるめっき付き帯板材10について説明する。本実施形態であるめっき付き帯板材10は、電子・電気機器用部品であるコネクタや端子等の素材として使用されるものである。
本実施形態であるめっき付き帯板材10は、
図1に示すように、帯板材11と、帯板材11の表面に形成されためっき層15と、を備えている。
【0026】
帯板材11は、強度および導電性に優れた金属で構成されており、例えば、銅又は銅合金、鉄又は鉄合金等で構成されている。本実施形態では、帯板材11は、銅又は銅合金で構成されたものとされている。
なお、この帯板材11は、長手方向に十分に長いため、コイル状に巻き取られて搬送される。
ここで、本実施形態においては、帯板材11の板厚は3mm以上とされている。なお、帯板材11の板厚の上限に特に制限はないが、6mm以下とすることが好ましい。
【0027】
めっき層15は、帯板材11に表面に各種特性を付与するために形成されるものであり、要求される特性に応じた組成のめっき層15が形成されることになる。具体的には、めっき層15は、Sn,Cu,Ni,Ag等で構成されている。
また、めっき層15は、帯板材11の片面のみに形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。本実施形態では、
図1に示すように、めっき層15は、帯板材11の両面に形成されたものとされている。
【0028】
さらに、めっき層15は、帯板材11の幅方向全体に形成されていてもよいし、幅方向の一部に部分的に形成されていてもよい。本実施形態では、
図1に示すように、帯板材11の幅方向の一部にめっき層15が形成されており、いわゆるストライプめっきとされている。
【0029】
また、めっき層15は、一層のみでなく、二層以上の複層構造としてもよい。本実施形態では、
図1に示すように、めっき層15は、下地めっき層15Aと表層めっき層15Bの二層構造とされている。
なお、本実施形態では、下地めっき層15AがNiで構成され、表層めっき層15BがAgで構成されたものとされている。
【0030】
そして、本実施形態のめっき付き帯板材10においては、めっき層15の最大厚さtmaxとめっき層15の最小厚さtminの差(tmax-tmin)と、めっき層15の平均厚さtaveとの比(tmax-tmin)/taveが0.4以下とされている。
なお、本実施形態では、上述のように、下地めっき層15Aおよび表層めっき層15Bの二層構造とされており、下地めっき層15Aおよび表層めっき層15Bのぞれぞれの厚さが上述の関係を満足するものとされている。
【0031】
次に、本実施形態であるめっき付き帯板材の製造方法について、
図2から
図4を参照して説明する。
【0032】
(マスキング工程S01)
まず、帯板材11の表面のめっき層15を形成しない部分にマスキングテープ20を貼り付ける。
このマスキング工程S01においては、矯正工程S11とラミネート工程S12を有しており、本実施形態では、例えば、
図3に示すマスキング装置30を用いて実施される。
【0033】
マスキング装置30は、
図3に示すように、コイル状に巻き取られた帯板材11を送り出すアンコイラー31と、マスキングテープ20が貼り付けられた帯板材11をコイル状に巻き取るリコイラー32と、アンコイラー31から繰り出された帯板材11の巻き癖を矯正するレベラー33と、帯板材11の表面にマスキングテープ20を貼り付けるラミネータ35と、を備えている。
【0034】
レベラー33は、複数のレベラーロール34を有しており、本実施形態では、
図3に示すように、帯板材11の上側に位置する上側ロール34Aを3つ、帯板材11の下側に位置する下側ロール34Bを4つ、備えており、隣接する下側ロール34Bの間に上側ロール34Aが配置されている。
【0035】
矯正工程S11においては、上述のレベラー33の上側ロール34Aと下側ロール34Bとによって、通過する帯板材11に対して板厚方向に押圧することにより、帯板材11の巻き癖を矯正する。
ここで、レベラー33における帯板材11の板厚方向への押圧力は10MPa以上とすることが好ましい。
【0036】
ラミネータ35は、
図3に示すように、マスキングテープ20が繰り出されるマスキングテープ供給部36と、繰り出されたマスキングテープ20を抑える抑えロール37と、マスキングテープ20を帯板材11の表面に押し付けるラミネートロール38と、を備えている。
ラミネートロール38は、例えばポリプロピレン等の樹脂からなる樹脂ロールとされている。
【0037】
ラミネート工程S12においては、上述のラミネータ35を用いて、マスキングテープ供給部36から繰り出されたマスキングテープ20をラミネートロール38で帯板材11の表面に押し付けることで、帯板材11の表面にマスキングテープ20を貼り付ける。
【0038】
ここで、ラミネートロール38における帯板材11への押圧力は1MPa以下とされている。このように、ラミネートロール38における帯板材11への押圧力を1MPa以下とすることにより、マスキングテープ20の位置ずれを抑制することができる。
なお、ラミネートロール38における帯板材11への押圧力は、0.8MPa以下とすることがさらに好ましい。
また、ラミネートロール38における帯板材11への押圧力の下限に特に制限はないが、マスキングテープ20を帯板材11に確実に貼り付けるためには、0.1MPa以上とすることが好ましく、0.2MPa以上とすることがさらに好ましい。
【0039】
(めっき工程S02)
まず、マスキングテープ20が貼り付けられた帯板材11の表面にめっき層15を形成する。
このめっき工程S02においては、矯正工程S21と第一めっき処理工程S22と第二めっき処理工程S23を有しており、本実施形態では、例えば、
図4に示すめっき装置40を用いて実施される。
【0040】
めっき装置40は、
図4に示すように、コイル状に巻き取られた帯板材11を送り出すアンコイラー41と、めっき層15が形成された帯板材11(めっき付き帯板材10)をコイル状に巻き取るリコイラー42と、アンコイラー41から繰り出された帯板材11の巻き癖を矯正するレベラー43と、帯板材11の表面に下地めっき層15Aを形成する第一めっき槽45と、下地めっき層15Aの上に表層めっき層15Bを形成する第二めっき槽47と、を備えている。
なお、
図4では省略されているが、めっき槽の前後に脱脂、酸洗、水洗、ストライクめっき、乾燥ゾーン等が配設されていてもよい。
【0041】
レベラー43は、複数のレベラーロール44を有しており、本実施形態では、
図4に示すように、帯板材11の上側に位置する上側ロール44Aを3つ、帯板材11の下側に位置する下側ロール44Bを4つ、備えており、隣接する下側ロール44Bの間に上側ロール44Aが配置されている。
【0042】
矯正工程S21においては、レベラー43の上側ロール44Aと下側ロール44Bとによって、通過する帯板材11に対して板厚方向に押圧することにより、帯板材11の巻き癖を矯正する。
ここで、レベラー43における帯板材11の板厚方向への押圧力は10MPa以上とする。
【0043】
このレベラー43によって、帯板材11において長手方向の基準長さ300mm当たりの反り量を10mm以下に矯正する。
また、このレベラー43によって、強く押圧することで、マスキングテープ20が強固に帯板材11に固定されることになる。
【0044】
第一めっき槽45は、形成する下地めっき層15Aに応じた下地めっき液25Aが貯留されており、この下地めっき液25Aの漏れ出しを抑制する液抜けロール45aと、第一めっき槽45を通過する帯板材11の一方の面側および他方の面側にそれぞれ配設された電極45bとを、備えている。
第一めっき処理工程S22においては、マスキングテープ20が貼り付けられた帯板材11を第一めっき槽45に通過させることにより、帯板材11の表面に下地めっき層15Aが形成される。
【0045】
第二めっき槽47は、形成する表層めっき層15Bに応じた表層めっき液25Bが貯留されており、この表層めっき液25Bの漏れ出しを抑制する液抜けロール47aと、第二めっき槽47を通過する帯板材11の一方の面側および他方の面側にそれぞれ配設された電極47bとを、備えている。
第二めっき処理工程S23においては、下地めっき層15Aが形成された帯板材11を第二めっき槽47に通過させることにより、下地めっき層15Aの上に表層めっき層15Bが形成される。
【0046】
このようにして、本実施形態であるめっき付き帯板材10が製造されることになる。
【0047】
以上のような構成とされた本実施形態であるめっき付き帯板材10の製造方法によれば、コイル状に巻き取られた帯板材11を、レベラー43によって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷し、長手方向の基準長さ300mm当たりの反り量を10mm以下に矯正し、その後、第一めっき槽45および第二めっき槽47に搬送しているので、第一めっき槽45および第二めっき槽47に反り量の少ない平坦な状態で帯板材11を搬入することができ、厚さの均一なめっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)が形成されためっき付き帯板材10を製造することができる。
【0048】
本実施形態においては、帯板材11の表面にマスキングテープ20を1MPa以下の押圧力で貼り付けるマスキング工程S01を有し、その後、レベラー43によって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷し、めっきを形成する構成としているので、マスキングテープ20を貼り付ける際に、マスキングテープ20の位置ずれを抑制でき、マスキングテープ20を位置精度良く貼り付けすることができる。そして、マスキングテープ20を貼り付けた後、レベラー43によって板厚方向に10MPa以上の圧力を負荷しているので、帯板材11に反りが生じていた場合でも、反りを十分に矯正することができるとともに、マスキングテープ20を帯板材11の表面に強く密着させることができ、マスキングテープ20と帯板材11との間にめっき液(下地めっき液25Aおよび表層めっき液25B)が侵入することを抑制することが可能となる。よって、ストライプめっきを精度良く行うことができる。
【0049】
また、本実施形態において、帯板材11の板厚が3mm以上とされている場合には、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
なお、帯板材11の板厚が6mm以下とされている場合には、帯板材11を安定してコイル状に巻き取ることができ、めっきを安定して実施することができる。
【0050】
さらに、本実施形態において、帯板材11が、銅または銅合金で構成されている場合には、帯板材11が銅または銅合金で構成されているので、導電性に優れており、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0051】
本実施形態であるめっき付き帯板材10においては、めっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)の最大厚さtmaxとめっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)の最小厚さtminの差(tmax-tmin)と、めっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)の平均厚さtaveとの比(tmax-tmin)/taveが0.4以下とされているので、厚さの均一なめっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)が形成されており、コネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0052】
さらに、本実施形態においては、帯板材11の板厚が3mm以上と比較的に厚くても、厚さの均一なめっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)が形成されており、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、帯板材11の両面にめっき層15が形成されているが、めっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)の厚さが均一となり、大電流用途のコネクタや端子用の素材として好適に使用することができる。
【0054】
また、本実施形態では、めっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)がストライプ状に形成されているので、例えばめっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)が形成された箇所を接点部とし、めっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)が形成されていない箇所を通電部として、コネクタや端子を形成することができる。これにより、めっき層15(下地めっき層15Aおよび表層めっき層15B)が必要な部分にのみ形成されることになり、コネクタや端子を低コストで製造することができる。
【0055】
以上、本発明の一実施形態であるめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、帯板材を銅又は銅合金、下地めっき層をNi,表層めっき層をAgで構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の材質で形成されたものであってもよい。
【0056】
また、本実施形態では、ストライプめっきを形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、幅方向全体にめっき層が形成されていてもよい。
さらに、本実施形態では、
図3および
図4に示すように、帯板材の板面が上下方向を向くようにして搬送するものとして説明したが、これに限定されることはなく、帯板材の板面が左右方向を向くようにして搬送する構成としてもよい。
【実施例0057】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
まず、無酸素銅からなり、表1に示す厚みで、幅150mm、長さ50mの帯板材を準備した。
この帯板材に、めっき層を形成する領域(幅40mm)以外の部分に、実施形態で示したマスキング装置(
図3参照)によってマスキングテープを貼り付け、コイル状に巻き取った。なお、マスキングを実施する前にレベラーで押圧した。このときのレベラーの押圧力は、帯板材の厚さが5mmの場合は100MPaとし、帯板材の厚さが3mmの場合は40MPaとした。
また、マスキングテープとして、昭和電工マテリアルズのK-3940Bを用いた。さらに、ラミネートロールによる押圧力を表1に示す値とした。
【0058】
次に、マスキングテープを貼り付けた帯板材を、実施形態で示しためっき装置(
図4参照)のアンコイラーに装着した。アンコイラーから送り出した帯板材を、レベラーにて表1に示す押圧力で板厚方向に押圧し、巻き癖を矯正した。
巻き癖を矯正した帯板材の反り量を以下のように測定した。すなわち、銅及び銅合金条の反り及びねじれ測定方法(JCBA T324)をベースに、
図5に示すように、自由端部よりL=300mmを固定端としたときの板状の圧延方向の湾曲で、底面とその板上の自由端の間の距離hを反り量とした。測定結果を表1に示す。
【0059】
レベラーで巻き癖を矯正した後、めっき槽(第一めっき槽および第二めっき槽)へ搬送し、脱脂、酸洗、ストライクめっき等、素材及びめっきする金属に応じて適切な前処理を実施した上で、下地めっき層(Niめっき層)、表層めっき層(Agめっき層)を成膜した。その後、リコイラーで巻き取った。
以上のようにして、本発明例1~15および比較例1,2のめっき付き帯板材を得た。
【0060】
具体的には、無酸素銅の帯板材をアルカリ脱脂液に入れ電解脱脂し、次いで10mol%硫酸溶液に入れ酸洗浄した。
次に、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lを含むめっき浴を用い、表1に示す厚さのニッケル層を帯板材上に形成した。なお、浴温は45℃、電流密度は3A/dm2とした。
次に、シアン化銀2g/L、シアン化カリウム100g/Lを含むめっき浴を用い、Niめっき層上にAgストライクめっき層を形成した。なお、浴温は25℃、電流密度は1A/dm2とした。
次に、シアン化銀40g/L、シアン化カリウム120g/L 、炭酸カリウム15g/Lを含むめっき浴を用い、Agストライクめっき層上に表1に示す厚さのAgめっき層を形成した。なお、浴温は30℃、電流密度4A/dm2とした。ここで、Agストライクめっき層は、極めて薄い層であり、更にその上にAgめっき層を積層していることから、断面観察において、Agストライクめっき層を確認することは困難である。
【0061】
得られためっき付き帯板材について、帯板材の幅方向のめっき領域部中央部の膜厚について5mおきに蛍光X線を用いて測定した。上下両面にめっきした場合は、上下各面のめっき層(下地めっき層および表層めっき層)の厚みを測定し、各面別に平均値を算出した。そして、上下面の平均値のうち大きい方をtmax、小さい方をtmin、上下面全体の平均をtaveとした。
片面めっきとした場合は、測定した値の中で最も大きな値をtmax、小さな値をtmin、全体の平均値をtaveとした。
【0062】
また、目視にて全長にわたりマスキングテープへのめっき液の浸み込みの有無について調査し、1m当たりの浸みこみ数を評価した。
さらに、マスキングテープの位置ずれについて評価した。マスキングテープの帯板材の端部からの距離を、ノギス(1/10mmまで測定可能)を用いて、5m毎に3箇所測定し、目標値とのずれを測定した。その平均値を表1に示す。
【0063】
【0064】
比較例1においては、レベラー矯正しないため、アンコイラーから送り出した段階で巻き癖が大きく、めっき槽に搬送することができなかった。コイル材の先端に厚み0.5mm、幅150mmのステンレスからなるダミー材を接続し、ダミー材をリコイラーにセットして、アンコイラーとリコイラー間で張力をかけたが、曲げ癖を矯正できず、やはり、反りが50mm以上と大きいため、めっき槽に搬送することができなかった。
【0065】
比較例2においては、レベラー矯正したが、その圧力が5MPaであるので反り量が10mmを超えており、めっき槽へ搬送してめっき層は形成できたが、表裏でめっき層の厚さが大きく異なり、めっき層の厚さのばらつきが大きくなった。
【0066】
これに対して、本発明例1~15においては、レベラーで反り量を10mm以下に矯正したため、めっき層の厚さを比較的均一に形成することができた。特に反り量を5mm以下にすると、めっき層の厚さをさらに均一化することができた。
【0067】
以上の実験結果から、本発明例によれば、均一な厚さのめっき層を安定して形成することが可能なめっき付き帯板材の製造方法、および、めっき付き帯板材を提供可能であることが確認された。