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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105611
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】保持装置および保持装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006548
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 翔太
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131CA03
5F131CA06
5F131EA03
5F131EB12
5F131EB13
5F131EB18
5F131EB54
5F131EB79
5F131EB84
(57)【要約】
【課題】絶縁膜を通じての不活性ガスのリークを抑制することができる保持装置およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】複数のガス孔16に連通する円環流路17及び導入流路18を備える板状部材10と、導入流路18に連通する貫通孔26とを備える金属製のベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合するとともに、導入流路18と貫通孔26とを連通させる中間貫通孔36が形成された接合層30とを備え、板状部材10の保持面11上に半導体ウエハWを保持する静電チャック1において、ベース部材20の上面21には、気孔を備える絶縁膜24が設けられており、接合層30は、ベース部材20側に位置する第1接合層31と、板状部材10側に位置する第2接合層32とを備え、第1接合層31は、絶縁膜24を被覆し、その少なくとも一部が絶縁膜24の気孔内に充填されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガス吐出孔が形成された第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記ガス吐出孔に連通する第1ガス流路とを備える板状部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第1ガス流路に連通する第2ガス流路とを備える金属製のベース部材と、
前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合するとともに、前記第1ガス流路と前記第2ガス流路とを連通させる貫通孔が形成された接合層とを備え、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記ベース部材の前記第3の面には、気孔を備える絶縁膜が設けられており、
前記接合層は、前記ベース部材側に位置する第1接合層と、前記板状部材側に位置する第2接合層とを備え、
前記第1接合層は、前記絶縁膜を被覆し、その少なくとも一部が前記気孔内に充填されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記第1接合層と前記第2接合層は、材料組成が異なる熱硬化性樹脂により形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項2に記載する保持装置において、
前記第2接合層は、前記板状部材を形成する材料の粉末を含んでいる
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記第1接合層は、少なくとも前記貫通孔の周囲全周にわたって配置されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記絶縁膜内に前記第1接合層が入り込んでいる
ことを特徴とする保持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5に記載するいずれか1つの保持装置の製造方法において、
前記ベース部材の前記絶縁膜上に、硬化前の前記第1接合層を塗布した後、真空引きを行って硬化前の前記第1接合層を前記絶縁膜内に含浸させる含浸工程と、
前記絶縁膜上に塗布し含浸させた前記第1接合層を硬化させた後、前記第1接合層の表面を前記絶縁膜が出現するまで研磨する研磨工程と、
研磨後の前記第1接合層上に硬化前の前記第2接合層を配置した後、前記第2接合層上に前記板状部材を積層して、前記第2接合層を硬化させて前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合工程と、
を含むことを特徴とする保持装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置および保持装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置に関する従来技術として、例えば、特許文献1に、対象物を保持面に保持する誘電体基板(板状部材)と、金属プレート(ベース部材)と、誘電体基板と金属プレートとを接合する絶縁性接着材(接合層)とを備える静電チャック(保持装置)が開示されている。この静電チャックでは、絶縁信頼性を高めるために、金属プレートの表面(保持面)に、溶射によって絶縁体膜(絶縁膜)を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-243139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、保持装置内にガス流路を設けて、ガス流路を介して誘電体基板の保持面に不活性ガス(例えばヘリウム等)を供給する場合、絶縁体膜には多数の気泡が存在するため、絶縁体膜にも不活性ガスが流れてしまう。すなわち、ガス流路から絶縁体膜を通じて、不活性ガスがリークしてしまう。そうすると、不活性ガスの流量制御の精度が低下して、必要とされる流量のガスを誘電体基板の保持面に供給することができず、保持面における温度制御を精度良く行うことができなくなるおそれがある。また、不活性ガスがリークすることにより、保持装置が組み込まれる製造装置(例えば半導体製造装置など)内へのコンタミが生じるおそれもある。また、絶縁体膜の気泡がさらに多ければ、空気が流れてしまうことにより、装置を真空引きできないおそれもある。
【0005】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、絶縁膜を通じての不活性ガスや空気のリークを抑制することができる保持装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
複数のガス吐出孔が形成された第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記ガス吐出孔に連通する第1ガス流路とを備える板状部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第1ガス流路に連通する第2ガス流路とを備える金属製のベース部材と、
前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合するとともに、前記第1ガス流路と前記第2ガス流路とを連通させる貫通孔が形成された接合層とを備え、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記ベース部材の前記第3の面には、気孔を備える絶縁膜が設けられており、
前記接合層は、前記ベース部材側に位置する第1接合層と、前記板状部材側に位置する第2接合層とを備え、
前記第1接合層は、前記絶縁膜を被覆し、その少なくとも一部が前記気孔内に充填されていることを特徴とする。
【0007】
この保持装置では、接合層に備わる第1接合層の一部が絶縁膜の気泡内に充填された状態で、第1接合層によって絶縁膜が被覆される。そのため、絶縁膜を通じてのガスや空気のリークを抑制することができる。従って、不活性ガスの流量制御の精度が向上するため、第1の面における温度制御を精度良く行うことができる。また、保持装置が組み込まれる製造装置(例えば半導体製造装置など)内へのコンタミも防止することができる。
【0008】
上記した保持装置において、
前記第1接合層と前記第2接合層は、材料組成が異なる熱硬化性樹脂により形成されていることが好ましい。
【0009】
ここで、第1接合層と第2接合層は、ともに熱硬化性樹脂で同種の材料であるが、例えば、第1接合層には添加物を入れないのに対し、第2接合層には添加物を入れることにより、第1接合層と第2接合層とで材料組成を変えることができる。また、第1接合層では樹脂の分子量を変えて硬化前の粘度を低くして、第1接合層と第2接合層とで材料組成を変えることもできる。
【0010】
このようにすることにより、第1接合層では絶縁膜の気泡内への充填を促進することができる一方、第2接合層では熱伝導を向上させることができる。その結果として、絶縁膜を通じてのガスリークの抑制効果と第1の面における温度制御性とを向上させることができる。
【0011】
上記した保持装置において、
前記第2接合層は、前記板状部材を形成する材料の粉末を含んでいることが好ましい。
【0012】
第1接合層には樹脂の他に絶縁膜が存在する一方、第2接合層は樹脂のみとなるため、第1接合層に比べて第2接合層の熱伝導が悪くなる。そこで、第2接合層に、板状部材を形成する材料の粉末(フィラー)を混入することにより、第2接合層の熱伝導を良くすることができる。これにより、接合層全体における熱伝導が向上して、ベース部材と板状部材との間における熱移動が促進されるため、第1の面における温度制御の精度を向上させることができる。
【0013】
上記した保持装置において、
前記第1接合層は、少なくとも前記貫通孔の周囲全周にわたって配置されていることが好ましい。
【0014】
これにより、接合層に備わる貫通孔(より正確には、第2ガス流路の第3の面における開口付近)の周りに、第1接合層が確実に配置されるため、貫通孔の周囲を第1接合層で取り囲むことができる。そのため、絶縁膜を通じてのガスリークを無くすことができる。これにより、ガスの流量制御を精度良く行うことができるため、第1の面における温度制御をより精度良く行うことができる。また、保持装置が組み込まれる製造装置(例えば半導体製造装置など)へのコンタミを確実に防止することができる。
【0015】
上記した保持装置において、
前記絶縁膜内に前記第1接合層が入り込んでいることが好ましい。
【0016】
これにより、絶縁膜の気泡内に第1接合層が確実に充填されるため、絶縁膜を通じてのガスや空気のリークを確実に無くすことができる。
【0017】
そして、上記の保持装置の製造方法において、
前記ベース部材の前記絶縁膜上に、硬化前の前記第1接合層を塗布した後、真空引きを行って硬化前の前記第1接合層を前記絶縁膜内に含浸させる含浸工程と、
前記絶縁膜上に塗布し含浸させた前記第1接合層を硬化させた後、前記第1接合層の表面を前記絶縁膜が出現するまで研磨する研磨工程と、
研磨後の前記第1接合層上に硬化前の前記第2接合層を配置した後、前記第2接合層上に前記板状部材を積層して、前記第2接合層を硬化させて前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
上記の保持装置の製造方法として、このような含浸工程を設けることにより、第1接合層を絶縁膜の気孔内に確実に充填することができる。そのため、気孔孔が第1接合層によって確実に塞がれるので、絶縁膜を通じてのガスや空気のリークを確実に無くすことができる。これにより、不活性ガスの流量制御を精度良く行うことができる。
【0019】
また、接合工程の前に研磨工程を実施することにより、絶縁膜の最表面と第2接合層とを接触させることができるため、第2接合層によるベース部材と板状部材との接合強度を向上させることができる。これにより、ベース部材と板状部材との熱膨張差によって生じる接合層の損傷を防止することができるため、接合層を介してのベース部材と板状部材との間における熱移動がスムーズに行われる。
【0020】
このような製造方法によって上記の保持装置を製作することにより、不活性ガスの流量制御を精度良く行うことができるとともに、接合層を介してのベース部材と板状部材との間における熱移動がスムーズに行うことができる保持装置を得ることができる。そして、このようにして製造された保持装置では、第1の面における温度制御を精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、絶縁膜を通じての不活性ガスや空気のリークを抑制することができる保持装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
図2】実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
図3】実施形態の静電チャックの概略平面図である。
図4】塗布工程を説明するための図である。
図5】含浸工程を説明するための図である。
図6】第1接合層を硬化させた状態を示す図である。
図7】研磨工程を説明するための図である。
図8】接合工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示に係る実施形態である保持装置およびその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置など)やエッチング装置(プラズマエッチング装置など)といった半導体製造装置に使用される静電チャックを例示する。
【0024】
本実施形態の静電チャック1について、図1図3を参照しながら説明する。本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層30とを有する。
【0025】
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。
【0026】
板状部材10は、図1に示すように、円盤状の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0027】
また、板状部材10の直径は、例えば150mm~350mm程度である。板状部材10の厚さは、例えば2mm~6mm程度である。なお、板状部材10の熱伝導率は、10W/mK~50W/mK(より好ましくは、18W/mK~30W/mK)の範囲内が望ましい。
【0028】
図1図2に示すように、板状部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0029】
板状部材10の保持面11は、凹凸形状をなしている。具体的には、保持面11には、図2図3に示すように、その外縁付近に環状の環状凸部13が形成され、環状凸部13の内側に複数の独立した柱状の凸部14が形成されている。このようにして、保持面11には、複数の凸部14のすべてを囲むように配置された環状凸部13が形成されている。なお、環状凸部13は、シールバンドとも呼ばれる。環状凸部13の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。環状凸部13の高さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、10μm~20μm程度である。また、環状凸部13の幅(X軸方向の寸法)は、例えば、0.5mm~5.0mm程度である。
【0030】
各々の凸部14は、図3に示すように、Z軸方向視(平面視)で略円形をなしており、略均等間隔で配置されている。また、各々の凸部14の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。凸部14の高さは、環状凸部13の高さと略同一であり、例えば、10μm~20μm程度である。また、凸部14の幅(Z軸方向視での凸部14の最大径)は、例えば、0.5mm~1.5mm程度である。なお、板状部材10の保持面11における環状凸部13より内側において、凸部14が形成されていない部分は、凹部15となっている。
【0031】
そして、半導体ウエハWは、板状部材10の保持面11における環状凸部13と、複数の凸部14に支持されて、静電チャック1に保持される。半導体ウエハWが静電チャック1に保持された状態では、半導体ウエハWの表面(下面)と、板状部材10の保持面11(詳細には、保持面11の凹部15)との間に、空間Sが存在することとなる(図2参照)。この空間Sには、静電チャック1内に形成されたガス流路40を介して、保持面11に開口するガス孔16から不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が供給されるようになっている。本実施形態では、ガス孔16が、円周状に等間隔で6個設けられている。なお、ガス孔16は、本開示の「ガス吐出孔」の一例である。
【0032】
また、板状部材10の内部には、図2図3に示すように、ガス流路40の一部を構成する円環流路17と導入流路18とが設けられている。円環流路17は、各ガス孔16同士を接続する流路である。導入流路18は、Z軸方向に延びて設けられており、一端が下面12に開口し、他端が円環流路17に連通する流路である。これにより、導入流路18から円環流路17に供給された不活性ガスが各ガス孔16を介して空間Sに排出されるようになっている。
【0033】
ベース部材20は、図1図2に示すように、上面21と、ベース部材20の厚さ方向(Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22とを備え、円柱状に形成されている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、チタン等)により形成されている。そのため、静電チャック1の絶縁信頼性を高めるために、上面21に溶射によって形成したセラミックス(例えば、アルミナやイットリア等)の絶縁膜(溶射被膜)24が設けられている。この絶縁膜24には、多数の微小な気孔(溶射ポア)が形成されている。
【0034】
このベース部材20の直径は、例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm程度)であり、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~40mm程度である。
【0035】
そして、ベース部材20には、図2に示すように、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されており、この冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層30を介して板状部材10が冷却されるようになっている。
【0036】
また、ベース部材20には、上面21と下面22との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の貫通孔26が形成されている。本実施形態では、貫通孔26が2個設けられている。なお、貫通孔26は、本開示の「第2ガス流路」の一例である。この貫通孔26は、Z軸方向視で、板状部材10の導入流路18と重なる(流路の中心軸が一致する)位置に配置されている。そして、貫通孔26は、板状部材10の導入流路18に連通して、ガス流路40の一部を構成している。
【0037】
接合層30は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層30を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。
【0038】
この接合層30は、ベース部材20側に位置する第1接合層31と、板状部材10側に位置する第2接合層32とを備えている。第1接合層31は、ベース部材20の絶縁膜24内に入り込んでいる。すなわち、第1接合層31は、絶縁膜24の気孔内に充填されて絶縁膜24を被覆している。一方、第2接合層32は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。
【0039】
第1接合層31と第2接合層32は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の熱硬化性接着材により構成されているが、それぞれの材料組成が異なっている。つまり、第1接合層31と第2接合層32は、材料組成が異なる熱硬化性樹脂により形成されている。具体的には、第1接合層31には添加物が入っていないのに対し、第2接合層32には板状部材10を形成する材料(例えば、アルミナ等)の粉末が添加されている。
【0040】
このような接合層30の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~5.0mm程度である。なお、第1接合層31と第2接合層32とはほぼ同じ厚さである。また、接合層30の熱伝導率は、例えば1.0W/mKである。なお、接合層30(シリコーン系樹脂を想定)の熱伝導率は、0.1~2.0W/mK(好ましくは、0.5~1.5W/mK)の範囲内が望ましい。
【0041】
この接合層30には、図2に示すように、導入流路18と貫通孔26とを連通させる中間貫通孔36が形成されている。つまり、導入流路18と貫通孔26との間に、円筒形状の中間貫通孔36が形成されている。中間貫通孔36は、導入流路18及び貫通孔26と同軸上に配置されている。すなわち、導入流路18と中間貫通孔36と貫通孔26とは、Z軸方向に連なって直線状に配置されている。これにより、図2に示すように、板状部材10内のガス孔16、円環流路17、及び導入流路18と、中間貫通孔36と、ベース部材20の貫通孔26とによって、静電チャック1内にガス流路40が形成されている。
【0042】
続いて、上記の構成を有する静電チャック1の製造方法について、図4図8を参照しながら説明する。なお、図4図8は、製造工程をわかりやすく説明するための模式図であるため、ベース部材20や板状部材10の構成を一部省略している。
【0043】
まず、図4に示すように、絶縁膜24や貫通孔26などが形成されたベース部材20に対し、絶縁膜24上に第1接合層31を塗布する(塗布工程)。この状態では、第1接合層31はまだ硬化していない。本実施形態では、絶縁膜24のほぼ全域(板状部材10との接合面全域)に第1接合層31を塗布しているが、第1接合層31の塗布は、絶縁膜24全域に対して行う必要は無く、第1接合層31が貫通孔26の周囲を取り囲むように、少なくとも貫通孔26の周囲全周にわたって行われていればよい。
【0044】
次に、図5に示すように、硬化前の第1接合層31が塗布されたベース部材20を減圧装置50内に設置し、真空引きを行って硬化前の第1接合層31を絶縁膜24内に含浸させる(含浸工程)。このとき、硬化前の第1接合層31が絶縁膜24内に含浸されている状態では、絶縁膜24上で第1接合層31が発砲する。そのため、この第1接合層31の発砲がなくなったことを確認して真空引きを終了することにより、絶縁膜24の気孔内に硬化前の第1接合層31を確実に充填することができる。その後、第1接合層31を硬化させる。第1接合層31を硬化させた状態では、図6に示すように、絶縁膜24は第1接合層31に完全に覆われている。
【0045】
続いて、第1接合層31を備えるベース部材20の上面21を研磨する。具体的には、図7に示すように、第1接合層31の表面を絶縁膜24が出現するまで研磨する(研磨工程)。これにより、絶縁膜24の最表面が露出する。
【0046】
そして、図8に示すように、ベース部材20の上面21(正確には第1接合層31と絶縁膜24の最表面とが混在する面)と板状部材10の下面12との間に、硬化前の第2接合層32を配置し、加熱して第2接合層32を硬化させることにより、板状部材10とベース部材20とを接合する(接合工程)。このとき、研磨工程により、ベース部材20の上面21に絶縁膜24の最表面を露出させているため、絶縁膜24の最表面と第2接合層32とを接触させることができる。そのため、第2接合層32によるベース部材20と板状部材10との接合強度を向上させることができる。従って、静電チャック1において、ベース部材20と板状部材10との熱膨張差によって生じる接合層30の損傷を防止することができるため、接合層30を介してのベース部材20と板状部材10との間における熱移動をスムーズに行うことができる。
【0047】
このようにして製造された本実施形態の静電チャック1は、半導体製造装置に組み込まれて使用される。そして、静電チャック1の使用時には、ベース部材20の下面22側から供給される不活性ガスが、静電チャック1内に設けられたガス流路40を介して、保持面11に形成される空間Sに充填されることになる。
【0048】
ここで、本実施形態のように、ベース部材20の上面21に絶縁膜24が形成されていると、絶縁膜24には多数の気孔(溶射ポア)が存在するため、絶縁膜24内にも不活性ガスが流れてしまい、ガス流路40から絶縁膜24を通じて、不活性ガスが外部にリークしてしまうおそれがある。このようなガスリークが発生すると、保持面11の空間Sへ供給する不活性ガスの流量制御の精度が低下して、必要とされる流量の不活性ガスを空間Sへ供給することができなくなる。その結果、保持面11における温度制御を精度良く行うことができなくなってしまう。また、ガスリークの発生により、静電チャック1が組み込まれた半導体製造装置内へのコンタミが生じるおそれもある。
【0049】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、接合層30を第1接合層31及び第2接合層32により構成し、絶縁膜24内に第1接合層31が入り込むように、第1接合層31を絶縁膜24の気孔内に充填して、第1接合層31でベース部材20の絶縁膜24を被覆している。そのため、接合層30に備わる第1接合層31の一部が絶縁膜24の気孔内に充填された状態で、第1接合層31によって絶縁膜24が被覆されるので、絶縁膜24を通じてのガスリークを抑制することができる。
【0050】
そして、静電チャック1の製造時に、ベース部材20の絶縁膜24上に、硬化前の第1接合層31を塗布した後、真空引きを行って硬化前の第1接合層31を絶縁膜24内に含浸させる含浸工程を実施している。そのため、硬化前の第1接合層31を絶縁膜24の気孔内に確実に充填することができる。
【0051】
このようにして本実施形態の静電チャック1では、絶縁膜24の気孔内に充填された第1接合層31が、貫通孔26の周囲を取り囲むように、貫通孔26の周囲全周にわたって配置されている。つまり、絶縁膜24において、貫通孔26の周囲に存在する気孔内には第1接合層31が充填されているため、貫通孔26と外部を連通させる絶縁膜24の気孔がなくなる。そのため、ガス流路40を流れる不活性ガスが、絶縁膜24を通じて外部へリークすることを確実に無くすことができる。
【0052】
従って、静電チャック1において、不活性ガスの流量制御を精度良く行うことができるため、保持面11における温度制御を精度良く行うことができる。また、静電チャック1が組み込まれた半導体製造装置へのコンタミも確実に防止することができる。
【0053】
また、本実施形態の静電チャック1では、接合層30を、材料組成が異なる熱硬化性樹脂で形成された第1接合層31と第2接合層32で構成している。具体的には、第2接合層32に板状部材10を形成する材料(例えばアルミナ)の粉末(フィラー)を添加して材料組成を変えている。これにより、添加物が入っていない第1接合層31では、絶縁膜24の気孔内への充填を促進することができる一方、第2接合層32では熱伝導を向上させることができる。従って、絶縁膜24を通じてのガスリークの抑制効果と保持面11における温度制御性を共に向上させることができる。さらに、樹脂の他に絶縁膜24が存在する第1接合層31に比べ、熱伝導が悪い第2接合層32にフィラーを混入して第2接合層32の熱伝導を良くしているため、接合層30全体における熱伝導が向上する。従って、ベース部材20と板状部材10との間における熱移動を促進することができるので、保持面11における温度制御の精度を一層向上させることができる。
【0054】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、材料組成が異なる熱硬化性樹脂により形成されている第1接合層31と第2接合層32とで接合層30を構成し、第1接合層31を絶縁膜24の気孔内に充填して第1接合層31で絶縁膜24を被覆している。これにより、ガス流路40の一部を構成する貫通孔26と外部を連通させる絶縁膜24内の気孔が存在しなくなるため、絶縁膜24を通じてのガスリークをなくすことができる。従って、空間Sへ供給する不活性ガスの流量制御の精度が向上して保持面11における温度制御を精度良く行うことができるとともに、静電チャック1が組み込まれた半導体製造装置内へのコンタミを防止することができる。
【0055】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、第2接合層32にフィラーを添加することにより、第1接合層31と第2接合層32とで材料組成を変えているが、例えば、第1接合層31において樹脂の分子量を変えて硬化前の粘度を低くすることで、第1接合層31と第2接合層32との材料組成を変えることもできる。このように第1接合層31の粘度を低くすることにより、絶縁膜24の気孔内への第1接合層31の充填を効率良く行うことができ、静電チャック1の生産性を高めることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
16 ガス孔
17 円環流路
18 導入流路
20 ベース部材
21 上面
22 下面
24 絶縁膜
26 貫通孔
30 接合層
31 第1接合層
32 第2接合層
36 中間貫通孔
W 半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8