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特開2023-105620消化性判定システム及び消化性判定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105620
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】消化性判定システム及び消化性判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/40 20060101AFI20230724BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20230724BHJP
   G01N 33/10 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C12Q1/40
C12Q1/37
G01N33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006563
(22)【出願日】2022-01-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名 日本醸造学会大会一般講演要旨 掲載日 令和3年9月1日 掲載アドレス 集会の会期が終了したためリンクは削除されている。(リンク元:https://www.jozo.or.jp/gakkai/competition/y2021/) 2.開催日 令和3年10月1日 集会名 「令和3年度日本醸造学会大会」 開催場所 オンライン開催 集会の会期が終了したためリンクは削除されている。(リンク元:https://www.jozo.or.jp/gakkai/competition/y2021/)
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 理奈
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 章
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ16
4B063QR15
4B063QR16
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価可能な消化性判定システムを提供する。
【解決手段】生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬手段と、糊化溶液に浸漬された生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影手段と、撮影手段で撮影した画像データを取得する画像データ取得手段11と、画像データを基に、米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出手段15と、指標値算出手段15で算出した指標値と、予め定められた指標値と消化性との相関関係とを基に、米の消化性を判定する消化性判定手段16とを備え、指標値算出手段15は、所定の撮影タイミングでの画像データを解析して得られる、生米に対応する領域と生米から溶出した成分が占める領域とからなる第1領域に関する情報、又は、生米から溶出した成分が占める領域のみからなる第2領域に関する情報を指標値として算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米の消化性を判定するシステムであって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬手段と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影した画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定手段と、を備え、
前記指標値算出手段は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データを解析して得られる、前記生米に対応する領域と前記生米から溶出した成分が占める領域とからなる第1領域に関する情報、又は、前記生米から溶出した成分が占める領域のみからなる第2領域に関する情報を前記指標値として算出する消化性判定システム。
【請求項2】
前記相関関係は、予め定められた前記指標値と、前記消化性としてのBrix値又は老化速度との相関関係である請求項1に記載の消化性判定システム。
【請求項3】
予め定められた前記指標値は、前記糊化溶液に浸漬させた前記生米の変化に基づいて予め定められた値であり、
前記消化性は、酒造用原料米全国統一分析法に基づいて測定された前記生米を蒸した状態のBrix値又は老化速度である請求項1又は2に記載の消化性判定システム。
【請求項4】
前記画像データから輝度データを取得する輝度データ取得手段と、
前記輝度データ取得手段で取得した前記輝度データを基に、前記第1領域及び前記第2領域を前記画像データから抽出する抽出処理手段と、を備える請求項1~3のいずれか一項に記載の消化性判定システム。
【請求項5】
前記抽出処理手段は、前記第1領域を画定するとともに、前記生米に対応する領域を画定し、前記第1領域から前記生米に対応する領域を差し引いた残りの領域を前記第2領域として抽出する請求項4に記載の消化性判定システム。
【請求項6】
前記画像データから輝度データを取得する輝度データ取得手段を備え、
前記指標値算出手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を起点として、前記第1領域又は前記第2領域に関する輝度増加量及び輝度増加率の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する請求項1~5のいずれか一項に記載の消化性判定システム。
【請求項7】
前記消化性判定手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記第1領域に関する前記輝度増加量と所定時間老化時のBrix値或いは老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する請求項6に記載の消化性判定システム。
【請求項8】
前記消化性判定手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記第2領域に関する前記輝度増加量又は前記輝度増加率と未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する請求項6又は7に記載の消化性判定システム。
【請求項9】
前記指標値算出手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を起点として、前記第2領域に関する面積増加量を前記指標値として算出する請求項1~8のいずれか一項に記載の消化性判定システム。
【請求項10】
前記消化性判定手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させる時点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記第2領域に関する前記面積増加量と所定時間老化時のBrix値又は老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する請求項9に記載の消化性判定システム。
【請求項11】
前記糊化溶液は、アルカリ溶液である請求項1~10のいずれか一項に記載の消化性判定システム。
【請求項12】
米の消化性を判定する方法であって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出工程と、
前記指標値算出工程で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定工程と、を備え、
前記指標値算出工程は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データを解析して得られる、前記生米に対応する領域と前記生米から溶出した成分が占める領域とからなる第1領域に関する情報、又は、前記生米から溶出した成分が占める領域のみからなる第2領域に関する情報を前記指標値として算出する消化性判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の消化性を判定するシステム及び方法に関し、特に、アルカリ崩壊法を用いて、米の消化性を判定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本酒の製造において、米の老化は製品の品質を決める重要な要因である。日本酒の製造工程では、原料となる酒米を蒸した米(蒸米)が酵素に分解されることにより生成した糖を利用して、アルコール発酵が進行する。ここで、酵素による蒸米の分解され易さを消化性と呼ぶが、この消化性は、アルコール発酵の程度や最終的な酒質にも影響を及ぼすことが知られている。また、蒸した米をある程度放置することで、蒸米の結晶構造が変化していき蒸米が硬くなる現象を米の老化と呼ぶが、発酵工程で酵素により分解される蒸米は、発酵前にある程度老化させることで、蒸米の消化性を制御している。したがって、蒸米の消化性(Brix値や老化速度)を評価することは、酒の品質管理を行う上で重要である。そのため、現在は、日本酒を製造する前に、3時間老化させた蒸米の消化性を酒造用原料米全国統一分析法にしたがって分析している。しかしながら、当該分析法は、測定前の準備が必要であること、測定時間が長いこと、通常20日程度を要する発酵工程での米の消化性を正確に反映できていないことが知られている。
【0003】
そこで、米の消化性を評価する別の手法として、米を水に浸漬した後に蒸すという工程を、米をアルカリ溶液や尿素溶液に浸漬するという工程に置き換え、測定時間を短縮する手法が提案されている。このような手法として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載された手法がある。
【0004】
特許文献1に記載された手法は、評価対象米を尿素水溶液又はアルカリ水溶液に浸漬し、これら水溶液中での崩壊性を評価し、この評価した崩壊性を指標として、蒸米の酵素消化性等の特性を評価するものである。
【0005】
また、特許文献2に記載された手法は、米類をアルカリ溶液や尿素溶液に浸漬して米類を糊化させる糊化工程や、糊化工程後に溶液と未溶解の米類とを分離する分離工程、分離工程で得られる溶液中のヨウ素デンプン呈色反応を利用して溶出デンプン量を検出したり、当該反応後の溶液の吸光度を検出する検出工程、検出工程で検出した溶出デンプン量や吸光度と、米類の物性値(蒸米消化性等)との相関関係に基づき米類の評価する評価工程とを行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-161399号公報
【特許文献2】特許第6472001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、日本酒の製造現場においては、作業者の負担軽減や評価のばらつき抑制という観点から、米の消化性を評価する手法に対して、(1)複雑な操作を要さない、(2)測定に要する時間が短い、(3)消化性を数値化できる、(4)高度に精米されている米(精米歩合の低い米)でも消化性を評価できるという4つの条件を満たすことが求められるようになっている。
【0008】
ところが、上記特許文献1記載の手法では、評価対象米の崩壊性を評価するために、少なくとも3時間程度は各種溶液に浸漬させる必要がある。そのため、上記(2)の条件に関して十分であるとは言えない。また、特許文献1記載の手法では、水溶液中の評価対象米の崩壊性を評価する際に、崩壊の程度を目視で判断したり、溶出したデンプンを染色して染色された溶液の色を目視で判断したりしている。そのため、評価した崩壊性を指標として蒸米の酵素消化性を評価すると、数値化できたとしても精度の面で問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2記載の手法では、分離工程を行ったり、検出工程においてヨウ素デンプン呈色反応を利用する必要があるため、複雑な操作が必要になる。
【0010】
更に、日本酒の製造においては、精米歩合の低い米を使用する機会も多いが、精米歩合の低い米を各種溶液に浸漬し、米の状態を観察することで消化性を評価する場合においては、米に亀裂が生じることや、米が割れたり砕けたりすることで二以上の細粒に分裂することに起因して、消化性を精度よく評価できない場合がある。
【0011】
即ち、特許文献1や特許文献2に記載された従来の手法は、上記4つの条件を全て満たす手法としては不十分である。
【0012】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価可能な消化性判定システムの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る消化性判定システムの特徴構成は、
米の消化性を判定するシステムであって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬手段と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影した画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定手段と、を備え、
前記指標値算出手段は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データを解析して得られる、前記生米に対応する領域と前記生米から溶出した成分が占める領域とからなる第1領域に関する情報、又は、前記生米から溶出した成分が占める領域のみからなる第2領域に関する情報を前記指標値として算出する点にある。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明に係る消化性判定方法の特徴構成は、
米の消化性を判定する方法であって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出工程と、
前記指標値算出工程で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定工程と、を備え、
前記指標値算出工程は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データを解析して得られる、前記生米に対応する領域と前記生米から溶出した成分が占める領域とからなる第1領域に関する情報、又は、前記生米から溶出した成分が占める領域のみからなる第2領域に関する情報を前記指標値として算出する点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、糊化溶液に浸漬させた生米を撮影し、所定の撮影タイミングでの画像データを解析して得られる、第1領域に関する情報、又は、第2領域に関する情報を指標値として算出する。
【0016】
ここで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ある所定の撮影タイミングで撮像された画像の画像データを解析して得られる第1領域に関する情報や第2領域に関する情報と、米の消化性との間に相関関係があり、この相関関係を利用することで米の消化性を判定できるという知見を得て本発明を完成させた。尚、「第1領域に関する情報」及び「第2領域に関する情報」とは、これらの領域の輝度増加量や輝度増加率、面積増加量である。
【0017】
即ち、上記特徴構成では、消化性判定手段(消化性判定工程)によって、指標値算出手段(指標値算出工程)で算出した指標値(第1領域に関する情報や第2領域に関する情報)と、予め定められた指標値と消化性との相関関係とを基に、米の消化性を判定できる。尚、本願において「消化性」とは、Brix値や老化速度であって数値化できるものである。
【0018】
このように、上記特徴構成によれば、生米を糊化溶液に浸漬させて糊化させながら、生米を撮影して、撮影した画像を基に指標値を算出でき、更に、算出した指標値と上記相関関係とから容易に米の消化性を数値化して判定できる。
【0019】
また、上記特徴構成によれば、酒造用原料米全国統一分析法と比較して、酒米を水に長時間浸漬させたり、浸漬後の酒米を蒸したりといった煩雑な操作を行う必要がなく、特許文献2記載の手法と比較して操作が簡単であるという利点がある。更に、上記特徴構成では、生米を撮影した画像を基に指標値を算出し、この指標値を使って消化性を数値化する。そのため、消化性を評価するための指標を目視で判断する特許文献1記載の手法よりも精度を高めやすいという利点がある。
【0020】
また、指標値として一粒の米の膨張率や面積増加量などの画像データ中の一粒の米の面積から得られる情報を使用する場合、観察途中で米が割れたり砕けたりすることで二以上の細粒に分裂し、指標値を算出できない、或いは、算出できたとしても適当でない場合があり、結果的に消化性を精度よく評価できない場合がある。しかしながら、上記特徴構成では、指標値として第1領域や第2領域に関する情報を使用するため、米が細粒に分裂するような場合であっても、適当な指標値を算出でき、消化性を精度よく評価できる。観察途中における米の分裂は、とりわけ精米歩合が低い米の場合に生じ易いが、上記特徴構成によれば、消化性を精度よく評価できる。
【0021】
以上のように、上記特徴構成を備えた消化性判定システム及び消化性判定方法によれば、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価できる。また、精米歩合の低い米であっても消化性を精度よく評価できる。
【0022】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記相関関係は、予め定められた前記指標値と、前記消化性としてのBrix値又は老化速度との相関関係である点にある。
【0023】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、予め定められた指標値(第1領域や第2領域に関する情報)と、米のBrix値又は老化速度との間に相関関係があるという知見を得ることに成功し、当該相関関係を基にして米の消化性を判定できることを見出した。
【0024】
即ち、上記特徴構成によれば、予め定められた指標値とBrix値又は老化速度との相関関係を基に、米の消化性をBrix値又は老化速度として数値化できる。
【0025】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
予め定められた前記指標値は、前記糊化溶液に浸漬させた前記生米の変化に基づいて予め定められた値であり、
前記消化性は、酒造用原料米全国統一分析法に基づいて測定された前記生米を蒸した状態のBrix値又は老化速度である点にある。
【0026】
本願発明者は、予め定められた指標値が、生米を糊化溶液に浸漬させた際の当該生米の変化に基づいて予め定められたものであり、消化性が、酒造用原料米全国統一分析法に基づいて測定された前記生米を蒸した状態のBrix値又は老化速度である場合に、両者の間に相関関係があることを見出した。
【0027】
即ち、上記特徴構成によれば、予め定められた指標値と消化性との相関関係を基に、米の消化性を判定できる。
【0028】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記画像データから輝度データを取得する輝度データ取得手段と、
前記輝度データ取得手段で取得した前記輝度データを基に、前記第1領域及び前記第2領域を前記画像データから抽出する抽出処理手段と、を備える点にある。
【0029】
上記特徴構成によれば、輝度データを基に画像データから第1領域及び第2領域を精度よく抽出でき、第1領域に関する情報や第2領域に関する情報を指標値として精度よく算出できる。
【0030】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記抽出処理手段は、前記第1領域を画定するとともに、前記生米に対応する領域を画定し、前記第1領域から前記生米に対応する領域を差し引いた残りの領域を前記第2領域として抽出する点にある。
【0031】
上記特徴構成によれば、第1領域を抽出した後、この抽出した第1領域を利用して、第2領域を抽出することができる。
【0032】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記画像データから輝度データを取得する輝度データ取得手段を備え、
前記指標値算出手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を起点として、前記第1領域又は前記第2領域に関する輝度増加量及び輝度増加率の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する点にある。
【0033】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、指標値としての第1領域又は第2領域に関する輝度増加量及び輝度増加率に関して、反応開始点を起点としてこれらを算出した際に、算出した指標値を基に、米の消化性を精度よく判定できることを見出した。
【0034】
即ち、上記特徴構成によれば、反応開始点を起点として算出した第1領域又は第2領域に関する輝度増加量及び輝度増加率を指標値とし、この指標値を基にして、米の消化性を判定できる。
【0035】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記消化性判定手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記第1領域に関する前記輝度増加量と所定時間老化時のBrix値或いは老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する点にある。
【0036】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、反応開始点を起点とする予め定められた第1領域に関する輝度増加量(指標値)と未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化速度との間に特に強い相関があるという知見を得ることに成功し、当該相関関係を基にして米の消化性を判定できることを見出した。
【0037】
即ち、上記特徴構成によれば、反応開始点を起点とする予め定められた指標値(第1領域に関する輝度増加量)と未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化時間との相関関係と、算出した第1領域に関する輝度増加量とを基にして、米の消化性を未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化速度として数値化できる。
【0038】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記消化性判定手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記第2領域に関する前記輝度増加量又は前記輝度増加率と未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する点にある。
【0039】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、反応開始点を起点とする予め定められた第2領域に関する輝度増加量及び輝度増加率と、未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化速度との間に特に強い相関があるという知見を得ることに成功し、当該相関関係を基にして米の消化性を判定できることを見出した。
【0040】
即ち、上記特徴構成によれば、反応開始点を起点とする予め定められた指標値(第2領域に関する輝度増加量及び輝度増加率)と未老化時又は所定時間老化時のBrix値或いは老化時間との相関関係と、算出した第2領域に関する輝度増加量又は輝度増加率とを基にして、米の消化性を未老化時又は所定時間老化時のBrix値又は老化速度として数値化できる。
【0041】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記指標値算出手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させた時点を起点として、前記第2領域に関する面積増加量を前記指標値として算出する点にある。
【0042】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、指標値としての第2領域に関する面積増加量に関して、反応開始点を起点としてこれらを算出した際に、算出した指標値を基に、米の消化性を精度よく判定できることを見出した。
【0043】
即ち、上記特徴構成によれば、反応開始点を起点として算出した第2領域に関する面積増加量を指標値とし、この指標値を基にして、米の消化性を判定できる。
【0044】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記消化性判定手段は、前記生米を糊化溶液に浸漬させる時点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記第2領域に関する前記面積増加量と所定時間老化時のBrix値又は老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する点にある。
【0045】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、反応開始点を起点とする予め定められた第2領域に関する面積増加量(指標値)と所定時間老化時のBrix値又は老化速度との間に特に強い相関があるという知見を得ることに成功し、当該相関関係を基にして米の消化性を判定できることを見出した。
【0046】
即ち、上記特徴構成によれば、反応開始点を起点とする予め定められた指標値(第2領域に関する面積増加量)と所定時間老化時のBrix値又は老化時間との相関関係と、算出した第2領域に関する面積増加量とを基にして、米の消化性を所定時間老化時のBrix値又は老化速度として数値化できる。
【0047】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記糊化溶液は、アルカリ溶液である点にある。
【0048】
本願発明者は、糊化溶液としてアルカリ溶液を使用した場合、指標値と消化性との関係が高い相関を有することを実験により確認している。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】実施形態に係る消化性判定システムの概略構成を示す図である。
図2】制御装置を示す機能ブロック図である。
図3】第1領域を示す図である。
図4】第2領域を示す図である。
図5】第1領域に関する輝度と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
図6】第2領域に関する輝度と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
図7】第2領域に関する面積と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
図8】第1領域に関する輝度増加量と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
図9】第2領域に関する輝度増加量と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
図10】第2領域に関する面積増加量と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
図11】Brix値と老化時間との関係をまとめたグラフである。
図12】第1領域に関する反応開始点から10分経過した時点での輝度増加量とBrix-3hとの関係を示すグラフである。
図13】第1領域に関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量とBrix-6hとの関係を示すグラフである。
図14】第1領域に関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量と老化速度との関係を示すグラフである。
図15】第2領域に関する反応開始点から20分経過した時点での輝度増加量とBrix-6hとの関係を示すグラフである。
図16】第2領域に関する反応開始点から20分経過した時点での面積増加量とBrix-6hとの関係を示すグラフである。
図17】第2領域に関する反応開始点から35分経過した時点での輝度増加量と老化速度との関係を示すグラフである。
図18】第2領域に関する反応開始点から40分経過した時点での面積増加量と老化速度との関係を示すグラフである。
図19】第2領域に関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加率とBrix-0hとの関係を示すグラフである。
図20】第1領域に関するBrix-3hの予測値と実測値との関係を示すグラフである。
図21】第1領域に関するBrix-6hの予測値と実測値との関係を示すグラフである。
図22】第1領域に関する老化速度の予測値と実測値との関係を示すグラフである。
図23】第2領域に関するBrix-6hの予測値と実測値との関係を示すグラフである。
図24】第2領域に関するBrix-6hの予測値と実測値との関係を示すグラフである。
図25】第2領域に関する老化速度の予測値と実測値との関係を示すグラフである。
図26】第2領域に関する老化速度の予測値と実測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る消化性判定システム及び消化性判定方法について説明する。
【0051】
図1は、本実施形態に係る消化性判定システム1の概略構成を示す図である。同図1に示すように、消化性判定システム1は、生米Rを糊化溶液に浸漬する浸漬装置2(浸漬手段)と、糊化溶液に浸漬された生米Rの画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影装置5(撮影手段)と、後述する各種機能部で構成される制御装置10とを備えている。尚、本実施形態において、消化性の判定対象となる生米Rは、酒造用原料米である。
【0052】
本実施形態において、浸漬装置2は、測定ボックスB内に配設した載置台3や、この載置台3上に載置した容器4などから構成される。したがって、浸漬装置2は、容器4内に生米R及び糊化溶液を投入することで、生米Rを糊化溶液に浸漬できるようになっている。具体的に、本実施形態においては、糊化溶液としてアルカリ溶液を使用し、より具体的には、水酸化カリウム溶液を使用する。尚、糊化溶液としてアルカリ溶液を使用する場合、当該アルカリ溶液の濃度は、0.1M~3Mが好ましく、0.1M~0.6Mがより好ましく、本実施形態において使用する水酸化カリウム溶液の濃度は、0.35Mである。また、生米Rを糊化溶液に浸漬する際の温度は、10℃~50℃が好ましく、20℃~40℃がより好ましく、本実施形態では30℃である。
【0053】
撮影装置5は、載置台3の上方に配設されており、容器4内の生米Rを所定の撮影タイミングで撮影する。尚、本実施形態において、撮影装置5は、下方に向けて光を照射するリング照明5aと当該リング照明5aの環内に配設されたカメラ5bとから構成されており、下方に向けて照射した光が容器4や容器4内の生米R、糊化溶液の液面で反射し、この反射光がカメラ5bで受光され反射画像が撮影される。撮影装置5は、容器4内の生米Rに向けてリング照明5aから光を照射した状態で、生米Rの反射画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影するように構成されている。尚、撮影装置5が生米Rを撮影する撮影タイミングは、容器4内に生米Rと水酸化カリウム溶液とを投入して浸漬を開始した時点から所定時間経過するまでの30秒おきのタイミング(浸漬開始時、浸漬開始後30秒、浸漬開始後1分、浸漬開始後1分30秒・・・)である。
【0054】
制御装置10は、図2に示すように、画像データ取得部11(画像データ取得手段)と、指標値算出部15(指標値算出手段)と、消化性判定部16(消化性判定手段)とを備えている。また、本実施形態における制御装置10は、輝度データ取得部13(輝度データ取得手段)と、抽出処理部14(抽出処理手段)とを備えている。更に、本実施形態における制御装置10は、画像処理部12や、予め定められた指標値と消化性との相関関係(以下、「指標値-消化性相関関係」ともいう)や取り扱う各種情報等が記憶される記憶部17を備えている。
【0055】
画像データ取得部11は、撮影装置5によって撮影された生米Rの画像データを取得する機能部である。具体的に、本実施形態においては、撮影装置5から送信される画像データに係る信号を受信して、生米Rの画像データを取得する。尚、画像データ取得部11が取得した画像データは、記憶部17に適宜記憶される。
【0056】
画像処理部12は、画像データ取得部11で取得した画像データを処理する機能部である。具体的に、本実施形態における画像処理部12は、画像データ取得部11が取得した画像データを、明領域を255、暗領域を0とする256階調の画像データ(グレースケール化画像データ)に変換する処理を行う。
【0057】
輝度データ取得部13は、画像データから輝度データを取得する機能部である。本実施形態においては、上記画像処理部12での処理により、撮影装置5によって撮影された画像データがグレースケール化画像データに変換される。したがって、本実施形態における輝度データ取得部13は、上記画像処理部12における処理により得られるグレースケール化画像データから輝度データを取得する。
【0058】
抽出処理部14は、輝度データ取得部13で取得した輝度データを基に、画像データ中の生米Rに対応する領域と生米Rから溶出した成分が占める領域とからなる第1領域X(図3参照)、及び生米Rから溶出した成分が占める領域のみからなる第2領域Y(図4参照)を抽出する処理を実行する機能部である。本実施形態において、抽出処理部14は、第1領域Xを画定するとともに、第1領域X中の生米Rに対応する領域を画定し、第1領域Xから生米Rに対応する領域を差し引いた残りを第2領域Yとして抽出する。具体的に、各領域の画定は、既知の手法を用いて行うことができる。例えば、第1領域Xについては、所定の撮影タイミングで撮影した画像データの画像全体の輝度データを基に、これら輝度データの中で最も低い値(最も低い輝度値)を閾値として設定し、値が閾値以上である輝度データのピクセルを含む閉じられた領域を第1領域Xとして画定できる。また、第2領域Yについては、例えば、浸漬開始時に撮影した画像データの画像全体の輝度データを基に、これら輝度データの中で最も低い値(最も低い輝度値)を閾値として設定し、値が閾値以上である輝度データのピクセルを含む閉じられた領域を生米Rに対応する領域として画定する。その上で、所定の撮影タイミングで撮影した画像データにおいて画定した第1領域Xから、生米Rに対応する領域を差し引き、残った領域を第2領域Yとして画定できる。
【0059】
指標値算出部15は、生米Rを糊化溶液に浸漬させた時点(反応開始点)を起点とする、所定の撮影タイミングでの輝度データから得られる、第1領域Xに関する情報及び第2領域Yに関する情報を指標値として算出する。具体的に、本実施形態の指標値算出部15は、反応開始点を起点とする、所定の撮影タイミング経過時点での第1領域Xに関する輝度増加量、第2領域Yに関する輝度増加量、輝度増加率、面積増加量を算出する。尚、輝度増加量及び輝度増加率の算出は、例えば、反応開始点に相当する撮影タイミングで撮影された画像中の第1領域Xや第2領域Yの輝度の平均値と、所定の撮影タイミングで撮影された画像中の第1領域Xや第2領域Yの輝度の平均値とを比較することで算出できる。また、面積増加量の算出は、例えば、反応開始点に相当する撮影タイミングで撮影された画像中の第1領域Xや第2領域Yのピクセル数と、所定の撮影タイミングで撮影された画像中の第1領域Xや第2領域Yのピクセル数とを比較することで算出できる。
【0060】
消化性判定部16は、指標値算出部15で算出した指標値(第1領域Xに関する輝度増加量、並びに、第2領域Yに関する輝度増加量、輝度増加率及び面積増加量)と、予め定められた指標値と消化性との相関関係(指標値-消化性相関関係)とを基に、米の消化性を判定する機能部である。
【0061】
ここで、本実施形態における指標値-消化性相関関係について説明する。本実施形態の指標値-消化性相関関係における「消化性」とは、酒造用原料米全国統一分析法を参考にして測定された生米Rを蒸した状態のBrix値又は老化速度である。より具体的には、複数の品種の生米Rについて、生米Rを所定時間水に浸漬した後に蒸し、その後、老化時間を変えて後述する酒造用原料米全国統一分析法を参考にして測定したBrix値及び測定したBrix値から算出した老化速度である。また、当該指標値-消化性相関関係における「予め定められた指標値」とは、糊化溶液に浸漬させた生米Rの変化に基づいて予め定められた値である。より具体的には、酒造用原料米全国統一分析法に供した生米Rと同じロットの複数の品種の生米Rについて、上記のように算出した、反応開始点から所定時間経過した時点での第1領域Xに関する輝度増加量、並びに第2領域Yに関する輝度増加量、輝度増加率及び面積増加量である。つまり、指標値-消化性相関関係は、複数の品種の生米Rについて、ある所定時間老化させた場合のBrix値や老化速度と、反応開始点からある所定時間経過した時点での第1領域Xや第2領域Yの輝度増加量や輝度増加率、面積増加量との関係をプロットしたグラフの近似式となる。例えば、複数の品種の生米Rについて、老化時間6時間で測定したBrix値と反応開始点から20分経過した時点での輝度増加量との関係をプロットしたグラフの近似式が、指標値-消化性相関関係の一つである。
【0062】
尚、このような指標値-消化性相関関係の中でも、指標値が第1領域Xに関するものである場合には、老化時間3時間のBrix値と反応開始点から10分経過した時点での輝度増加量との関係、老化時間6時間のBrix値と反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量との関係、老化速度と反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量との関係に強い相関が見られた(表1参照)。
【0063】
また、指標値が第2領域Yに関するものである場合には、老化時間6時間のBrix値又は老化速度と、反応開始点から5~45分経過した時点での輝度増加量との関係、老化時間6時間のBrix値又は老化速度と、反応開始点から5~45分経過した時点での面積増加量との関係に強い相関が見られ(表2及び表3参照)、更に、老化時間0時間(即ち、未老化)のBrix値と反応開始点から5分経過した時点での輝度増加率との関係にも強い相関が見られた。
【0064】
したがって、強い相関が見られたこれらの関係を指標値-消化性相関関係として用いることで、指標値算出部15で算出した指標値から消化性を精度良く判定できる。
【0065】
記憶部17は、消化性判定システム1で取り扱う各種情報等を記憶する機能部である。具体的に、本実施形態においては、上記指標値-消化性相関関係の他、各種機能部で取得、算出した情報(輝度データなど)を記憶できるようになっている。尚、指標値-消化性相関関係は、近似式として記憶部17に記憶されていてもよいし、近似式の作成に必要なデータが記憶部17に記憶されており、消化性を判定する際に、これらのデータを基に近似式が適宜作成され使用されるようにしてもよい。
【0066】
次に、以上のような構成を備えた消化性判定システム1を用いて、米の消化性を判定する方法について説明する。
【0067】
まず、測定ボックスB内の載置台3上に載置した容器4の中に60粒程度の生米Rを入れ、ついで、アルカリ溶液としての水酸化カリウム溶液を容器4内に投入することで、生米Rを水酸化カリウム溶液に浸漬させる(浸漬工程)。
【0068】
次に、リング照明5aから下方に向けて光を照射し、照射した光が容器4や容器4内の生米R、糊化溶液の液面で反射した状態で、生米Rの浸漬を開始した時点から所定時間経過するまでの30秒おきのタイミングでの生米Rの反射画像を撮影装置5により撮影する(撮影工程)。
【0069】
ついで、撮影装置5により撮影された生米Rの画像が画像データ取得部11により取得され(画像データ取得工程)、画像処理部12において、取得された画像データがグレースケール化画像データに変換される。
【0070】
次に、グレースケール化画像データから輝度データが輝度データ取得部13により取得される(輝度データ取得工程)。
【0071】
ついで、取得された輝度データを基に、グレースケール画像データ中の第1領域X及び第2領域Yが抽出処理部14により抽出される(抽出処理工程)。
【0072】
ついで、所定の撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第1領域Xや第2領域Yに関する輝度増加量や輝度増加率、面積増加量が指標値算出部15によって算出される(指標値算出工程)。尚、上記のように、指標値-消化性相関関係の中でも、特に高い相関を示す関係がある。そこで、本例では、反応開始点から10分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第1領域Xに関する輝度増加量、反応開始点から20分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第2領域Yの輝度増加量、反応開始点から40分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第2領域Yの面積増加量、反応開始点から5分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第2領域Yの輝度増加率を算出するようにしている。
【0073】
次に、消化性判定部16において、指標値算出部15でされた指標値と、指標値-消化性相関関係とを基に、米の消化性が判定される(消化性判定工程)。即ち、本実施形態では、未老化時のBrix値と、反応開始点から5分経過した時点での反応開始点を起点とする第2領域Yの輝度増加率との関係を基に、米の消化性を未老化時のBrix値として数値化する。また、老化時間3時間のBrix値と、反応開始点から10分経過した時点での反応開始点を起点とする第1領域Xの輝度増加量との関係を基に、米の消化性を老化時間3時間のBrix値として数値化する。更に、老化時間6時間のBrix値と、反応開始点から20分経過した時点での反応開始点を起点とする第2領域Yの輝度増加量との関係を基に、米の消化性を老化時間6時間のBrix値として数値化する。また、老化速度と、反応開始点から40分経過した時点での反応開始点を起点とする第2領域Yの面積増加量との関係を基に、米の消化性を老化速度として数値化する。
【0074】
以上のように、本実施形態に係る消化性判定システム及び消化性判定方法によれば、煩雑な操作を要することなく、比較的短時間で米の消化性をBrix値や老化速度として数値化して判定することができる。また、指標値が第1領域X、第2領域Yに関するものであり、1粒の生米Rのみを含む領域に関するものでないため、精米歩合の低い米でもあっても消化性を精度よく評価できる。
【0075】
以下、指標値-消化性相関関係を得るために行った実験について説明する。
【0076】
〔指標値(輝度増加量、輝度増加率及び面積増加率)の算出〕
令和元年度産及び令和2年度産の精米歩合が50%である山田錦、五百万石、美山錦及び雄町の計8種類のサンプルを用意し、これら各サンプル60粒ずつを、30℃の水酸化カリウム溶液(0.35M)に浸漬させ、30秒毎に画像を撮影し、撮影した画像を基に、第1領域X及び第2領域Yに関する輝度の平均値を取得した。また、撮影した画像を基に、第2領域Yに関する面積を取得した。
【0077】
図5及び図6は、各サンプルに関する輝度の平均値と反応開始時からの経過時間との関係を示すグラフであり、図5は第1領域X、図6は第2領域Yに関するものである。また、図7は、各サンプルに関する第2領域Yの面積と反応開始時から経過時間との関係を示すグラフである。
【0078】
図5から分かるように、第1領域Xに関する輝度の平均値は、全てのサンプルにおいて、反応開始時から数分間は徐々に増加し、その後減少に転じている。一方、図6から分かるように、第2領域Yに関する輝度の平均値は、全てのサンプルにおいて、反応開始時から徐々に増加している。また、図7から分かるように、第2領域Yに関する面積は、全てのサンプルにおいて、反応開始時から徐々に増加している。
【0079】
次に、取得した第1領域X及び第2領域Yの輝度の平均値を基に、各サンプルに関する反応開始点を起点とした輝度増加量を算出するとともに、取得した第2領域Yの面積を基に、各サンプルに関する反応開始点を起点とした面積増加量を算出した。また、取得した第2領域Yの輝度の平均値を基に、各サンプルに関する反応開始点を起点とした輝度増加率を算出した。尚、各輝度増加量、面積増加量及び輝度増加率は、各サンプル中の60粒の生米Rそれぞれの第1領域X又は第2領域Yについて算出したものの平均値である。図8及び図9は、算出した輝度増加量と反応開始点からの経過時間との関係を示すグラフであり、図8は第1領域X、図9は第2領域Yに関するものである。また、図10は、第2領域Yに関する算出した面積増加量と反応開始点からの経過時間との関係を示すグラフである。
【0080】
図8から分かるように、第1領域Xの輝度増加量に関しては、いずれのサンプルも反応開始点から数分間は徐々に増加し、その後減少に転じている。一方、図9及び図10から分かるように、第2領域Yの輝度増加量及び面積増加量に関しては、いずれのサンプルも反応開始時から徐々に増加している。
【0081】
以上のようにして、各サンプルについて、第1領域Xに関する輝度増加量、第2領域Yに関する輝度増加量、第2領域Yに関する面積増加量を算出した。また、第2領域Yの輝度の平均値を基に輝度増加率も別途算出した。算出したこれらのものが指標値-消化性相関関係における「予め定められた指標値」に対応している。
【0082】
〔消化性(Brix値及び老化速度)の測定〕
上記8種類のサンプルについて、酒造用原料米全国統一分析法に則して、老化時間を変えて消化性としてのBrix値を算出するとともに、算出したBrix値を基に老化速度を算出した。具体的には、以下の手順で行った。
まず、上記8種類のサンプル各10g×3セットを水に浸漬させて15~20時間吸水させた後、これを45分間蒸した。
また、0.1Mコハク酸溶液と0.1Mコハク酸ナトリウム溶液を混合し、pH4.3の0.1Mコハク酸緩衝液を調製した。次に、このコハク酸緩衝液にα-アミラーゼを60u/mL、プロテアーゼを3000u/mL含むように混合することで、酵素緩衝液を得た。
次に、上記3セットのうち、1セットについては蒸しあがり、米の温度が室温まで低下した後、酵素緩衝液50mLを加え、10秒間激しく振とうした後、15℃で24時間静置して消化を行った。尚、必要に応じて防腐剤として0.5mLのトルエンを加えた。一方、他の2セットについては、それぞれ蒸しあがり直後から6時間又は3時間経過するまで老化させた後に、上記と同様に消化させた。
消化後、消化液を遠心分離にかけてろ液を得て、このろ液のBrix値を測定し、未老化時のBrix値(Brix-0h)、3時間老化させた際のBrix値(Brix-3h)及び6時間老化させた際のBrix値(Brix-6h)を得た。また、各サンプルそれぞれのBrix値(Brix-0h、Brix-3h、Brix-6h)を基に、各サンプルそれぞれの老化速度を算出した。
尚、老化速度は、下記式1に基づいて算出した。
老化速度=100-(Brix-6h/Brix-3h)×100 (式1)
図11は、測定した各サンプルのBrix値と老化時間との関係をまとめたグラフである。また、各サンプルの老化速度は、令和元年度産の山田錦が20.9%、五百万石が22.5%、美山錦が26.0%、雄町が2.1%であり、令和2年度産の山田錦が21.6%、五百万石が16.7%、美山錦が9.1%、雄町が8.0%であった。
【0083】
〔指標値と消化性との相関関係〕
指標値-消化性相関関係は、上記のようにして算出した指標値と消化性とを基に得ることができる。
即ち、反応開始点からの経過時間ごとに、反応開始点を起点とする第1領域Xの輝度増加量や第2領域Yの輝度増加量、第2領域Yの面積増加量、第2領域Yの輝度増加率を横軸、Brix値(Brix-0h、Brix-3h、Brix-6h)や老化速度を縦軸として、各サンプルのデータをプロットしたグラフの近似式が指標値-消化性相関関係となる。
図12図19は、各サンプルのデータをプロットしたグラフの一例である。図12において、第1領域Xに関する反応開始点から10分経過した時点での輝度増加量が横軸、Brix-3hが縦軸である。図13において、第1領域Xに関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量が横軸、Brix-6hが縦軸である。図14において、第1領域Xに関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量が横軸、老化速度が縦軸である。図15において、第2領域Yに関する反応開始点から20分経過した時点での輝度増加量が横軸、Brix-6hが縦軸である。図16において、第2領域Yに関する反応開始点から20分経過した時点での面積増加量が横軸、Brix-6hが縦軸である。図17において、第2領域Yに関する反応開始点から35分経過した時点での輝度増加量が横軸、老化速度が縦軸である。図18において、第2領域Yに関する反応開始点から40分経過した時点での面積増加量が横軸、老化速度が縦軸である。図19において、第2領域Yに関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加率が横軸、Brix-0hが縦軸である。
【0084】
表1は、第1領域Xに関する反応開始点を起点とした輝度増加量と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものである。表2は、第2領域Yに関する反応開始点を起点とした輝度増加量と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものであり、表3は、第2領域Yに関する反応開始点を起点とした面積増加量と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものである。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表1から分かるように、反応開始点から10分経過した時点での輝度増加量とBrix-3hとの関係、反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量とBrix-6h及び老化速度との関係に非常に強い相関がある。
【0089】
また、表2から分かるように、反応開始点から5~45分経過するまでの輝度増加量とBrix-6h及び老化速度との関係に非常に強い相関がある。
【0090】
また、表3から分かるように、反応開始点から5~45分経過するまでの面積増加量とBrix-6hとの関係、反応開始点から10~45分経過するまでの面積増加量と老化速度との関係に強い相関がある。
【0091】
尚、図19から分かるように、第2領域Yに関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加率とBrix-0hとの間にも強い相関があり、相関係数は-0.7であった。
【0092】
このように、上記のような関係は、指標値-消化性相関関係の中でも特に有意なものである。したがって、米の消化性をより精度よく判定する必要がある場合には、消化性判定システム1において、上記のような特に有意な関係を指標値-消化性相関関係として用いることが好ましい。
【0093】
〔実測値との関係性評価〕
上記各サンプルについて、消化性判定システムによって判定した予測値(予測Brix-3h値、予測Brix-6h値、予測老化速度)に関して、酒造用原料米全国統一分析法に則して算出した実測値(実測Brix-3h値、実測Brix-6h値、実測老化速度)との関係性を評価した。
【0094】
図20図26は、異なる相関関係を用いた際の予測値と実測値との関係性を示すグラフである。図20は、第1領域Xに関する反応開始点から10分経過した時点での輝度増加量を用い、Brix-3hを予測した場合のグラフである。図21は、第1領域Xに関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量を用い、Brix-6hを予測した場合のグラフである。図22は、第1領域Xに関する反応開始点から5分経過した時点での輝度増加量を用い、老化速度を予測した場合のグラフである。図23は、第2領域Yに関する反応開始点から20分経過した時点での輝度増加量を用い、Brix-6hを予測した場合のグラフである。図24は、第2領域Yに関する反応開始点から20分経過した時点での面積増加量を用い、Brix-6hを予測した場合のグラフである。図25は、第2領域Yに関する反応開始点から35分経過した時点での輝度増加量を用い、老化速度を予測した場合のグラフである。図26は、第2領域Yに関する反応開始点から40分経過した時点での面積増加量を用い、老化速度を予測した場合のグラフである。
【0095】
これらの図から分かるように、予測値と実測値とがよく一致しており、本消化性判定システムによれば、米の消化性を精度よく数値評価できる。
【0096】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、糊化溶液として水酸化カリウム溶液を使用する態様としたが、これに限られるものではない。糊化溶液としては、水酸化ナトリウム溶液や水酸化リチウム溶液、水酸化ルビジウム溶液、水酸化セシウム溶液、水酸化カルシウム溶液、水酸化ストロンチウム溶液、チオシアン酸カリウム溶液、ヨードカリウム溶液、硝酸アンモニア溶液、塩化カルシウム溶液、塩酸グアニジン溶液、ジメチルスルホキシド溶液、尿素溶液などを用いることができる。
【0097】
〔2〕上記実施形態では、特に前工程等を行うことなく、生米Rを糊化溶液に浸漬させる態様としたが、これに限られるものではない。例えば、浸漬装置2は、生米Rを水に浸漬させ、その後に当該生米Rを糊化溶液に浸漬させるように構成されていてもよい。
【0098】
〔3〕上記実施形態では、撮影装置5が生米Rの画像を30秒おきのタイミングで連続的に撮影する態様としたが、これに限られるものではない。撮影装置5による撮影間隔は、適宜設定すればよい。
【0099】
〔4〕上記実施形態では、第1領域Xや第2領域Yに関する指標値として、反応開始点を起点とする輝度増加量や面積増加量、輝度増加率を指標値として用いる態様としたが、これに限られるものではない。これらのうち、いずれか一つを用いる態様であってもよい。また、上記実施形態では反応開始点から10分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第1領域Xに関する輝度増加量、反応開始点から20分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第2領域Yの輝度増加量、反応開始点から40分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第2領域Yの面積増加量、及び反応開始点から5分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする第2領域Yの輝度増加率を算出する態様としたが、これに限られるものではない。
【0100】
〔5〕上記実施形態では、画像処理部12や記憶部17を備える態様としたが、これに限られるものではなく、これらを備えていない態様であってもよい。尚、記憶部17を備えていない態様を採用した場合、指標値-消化性相関関係は、例えば、電気通信回線等を通じて外部のサーバから適宜取得すれば、消化性を判定することができる。
【0101】
〔6〕上記実施形態では、消化性の判定対象となる生米Rが酒造用原料米である態様としたが、これに限られるものではない。
【0102】
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価可能な消化性判定システムに利用できる。
【符号の説明】
【0104】
1 :消化性判定システム
2 :浸漬装置(浸漬手段)
5 :撮影装置(撮影手段)
11 :画像データ取得部(画像データ取得手段)
13 :輝度データ取得部(輝度データ取得手段)
14 :抽出処理部(抽出処理手段)
15 :指標値算出部(指標値算出手段)
16 :消化性判定部(消化性判定手段)
R :生米
X :第1領域
Y :第2領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26