(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105621
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】飛沫汚れ検知装置および飛沫汚れ検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3577 20140101AFI20230724BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20230724BHJP
G01N 21/47 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/359
G01N21/47 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006564
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤山 毅
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB08
2G059BB13
2G059CC12
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE02
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG03
2G059HH01
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM09
2G059MM10
(57)【要約】
【課題】金属等の被測定物に付着する水分あるいは糖類を検知し、被測定物における唾液痕による汚れを高精度に推定する。
【解決手段】飛沫汚れ検知装置は、参照光を金属板に向けて順次走査しながら照射する第1光源と、測定光を金属板に向けて順次走査しながら照射する第2光源と、金属板の表面に付着する水分あるいは糖類を含む唾液痕による汚れを検知する検知部と、唾液痕が付着していない金属板により反射された参照光の反射光量、唾液痕が付着していない金属板により反射された測定光の反射光量を記憶するメモリと、を備える。検知部は、金属板により反射された参照光の反射光量と、金属板により反射された測定光の反射光量と、唾液痕が付着していない金属板により反射された参照光の反射光量と、唾液痕が付着していない金属板により反射された測定光の反射光量と、に基づいて、唾液痕による汚れを検知する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OH基に吸収され難い特性を有する参照光を金属板に向けて順次走査しながら照射する第1光源と、
OH基に吸収され易い特性を有する測定光を前記金属板に向けて順次走査しながら照射する第2光源と、
前記OH基を有する水分あるいは糖類を含む、前記金属板の表面に付着する唾液痕による汚れを検知する検知部と、
前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量を記憶するメモリと、を備え、
前記検知部は、
前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、に基づいて、前記唾液痕による汚れを検知する、
飛沫汚れ検知装置。
【請求項2】
前記検知部は、
前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量とに基づいて、前記参照光の波長に対応する第1の吸光度を算出し、
前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量とに基づいて、前記測定光の波長に対応する第2の吸光度を算出し、
前記第1の吸光度および前記第2の吸光度に基づいて、前記唾液痕による汚れを検知する、
請求項1に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項3】
前記検知部は、
(前記第1の吸光度-前記第2の吸光度)/(前記第1の吸光度+前記第2の吸光度)
という算出式の算出結果により、前記唾液痕による汚れを検知する、
請求項2に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項4】
前記検知部は、
前記算出結果が所定範囲の値となる場合に、前記唾液痕による汚れを検知する、
請求項3に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項5】
前記所定範囲の値は、-0.4~0.6である、
請求項4に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項6】
前記検知部は、
前記算出式の算出結果に基づいて、前記唾液痕の形状を抽出する、
請求項3に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項7】
前記参照光の波長は905nmであり、
前記測定光の波長は1550nmである、
請求項1に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項8】
前記金属板により反射された前記参照光および前記測定光の撮像により、前記金属板の所定範囲を被写体とした前記唾液痕による汚れの有無を示す検知結果画像を生成する画像生成部、をさらに備え、
前記画像生成部は、前記飛沫汚れ検知装置と接続された外部端末に前記検知結果画像を出力する、
請求項1に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項9】
前記画像生成部は、n(n:2以上の整数)階調の色情報を用いて、前記唾液痕による汚れを段階的に示す前記検知結果画像を生成する、
請求項8に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項10】
前記金属板の所定範囲を同じ前記被写体とした可視光の撮像により、前記被写体のカラー画像を生成する可視カメラ部、をさらに備え、
前記可視カメラ部は、前記被写体のカラー画像上に前記検知結果画像を重畳した重畳画像を前記外部端末に出力する、
請求項8に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項11】
前記第1光源は、レーザ光による前記参照光を照射し、
前記第2光源は、レーザ光による前記測定光を照射する、
請求項1に記載の飛沫汚れ検知装置。
【請求項12】
OH基を有する水分あるいは糖類を含む、金属板の表面に付着する唾液痕による汚れを検知する飛沫汚れ検知方法であって、
前記OH基に吸収され難い特性を有する参照光を金属板に向けて順次走査しながら照射するステップと、
前記OH基に吸収され易い特性を有する測定光を前記金属板に向けて順次走査しながら照射するステップと、
前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量をメモリに記憶するステップと、
前記金属板の表面に付着する唾液痕による汚れを検知するステップと、を有し、
前記唾液痕による汚れを検知するステップは、
前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、に基づいて、前記唾液痕による汚れを検知するステップを含む、
飛沫汚れ検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛沫汚れ検知装置および飛沫汚れ検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、近赤外分光分析は、試料に特別な操作を行う必要が無く、非破壊で迅速な計測ができることが知られている。この近赤外分光分析の一例として、特許文献1には、近赤外領域における光の吸収を利用して生体組織中あるいは体液中のグルコース濃度の定量を行う定量装置が開示されている。この定量装置は、近赤外光として800~1100nmの波長範囲のものを用い、グルコース分子のCH基由来の吸収を測定するための第1の波長域と、生体成分のOH基由来の吸収を測定するための第2の波長域と、生体成分のNH基由来の吸収を測定するための第3の波長域の少なくとも3つの波長域における測定結果に基づいてグルコースの定量を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-178813号公報
【特許文献2】特許第5984075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、グルコース(言い換えると、糖類)の定量を分析することは可能であるが、分析に少なくとも3種類の異なる波長域の使用が避けられず、分析技術の普及に困難が生じる可能性があった。
【0005】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、金属等の被測定物に付着する水分あるいは糖類を検知し、被測定物における唾液痕による汚れを高精度に推定する飛沫汚れ検知装置および飛沫汚れ検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、OH基に吸収され難い特性を有する参照光を金属板に向けて順次走査しながら照射する第1光源と、OH基に吸収され易い特性を有する測定光を前記金属板に向けて順次走査しながら照射する第2光源と、前記OH基を有する水分あるいは糖類を含む、前記金属板の表面に付着する唾液痕による汚れを検知する検知部と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量を記憶するメモリと、を備え、前記検知部は、前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、に基づいて、前記唾液痕による汚れを検知する、飛沫汚れ検知装置を提供する。
【0007】
また、本開示は、OH基を有する水分あるいは糖類を含む、金属板の表面に付着する唾液痕による汚れを検知する飛沫汚れ検知方法であって、前記OH基に吸収され難い特性を有する参照光を金属板に向けて順次走査しながら照射するステップと、前記OH基に吸収され易い特性を有する測定光を前記金属板に向けて順次走査しながら照射するステップと、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量をメモリに記憶するステップと、前記金属板の表面に付着する唾液痕による汚れを検知するステップと、を有し、前記唾液痕による汚れを検知するステップは、前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記参照光の反射光量と、前記唾液痕が付着していない前記金属板により反射された前記測定光の反射光量と、に基づいて、前記唾液痕による汚れを検知するステップを含む、飛沫汚れ検知方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、金属等の被測定物に付着する水分あるいは糖類を検知でき、被測定物における唾液痕による汚れを高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】飛沫汚れ検知装置が飛沫のほぼ無い時の下地層に向けて近赤外光を照射する使用状況例を模式的に示す図
【
図1B】飛沫汚れ検知装置が飛沫の付着している時の下地層に向けて近赤外光を照射する使用状況例を模式的に示す図
【
図2】飛沫汚れ検知装置の内部構成例を詳細に示すブロック図
【
図3】飛沫汚れ検知装置の受光処理部の内部構成例を詳細に示すブロック図
【
図4A】飛沫汚れ検知装置の制御部による初期設定動作例を示すフローチャート
【
図4B】飛沫汚れ検知装置の非可視センサ部によるOH基の検知原理の一例を示す図
【
図5】非可視センサ部によるOH基の検知動作手順例を詳細に示すフローチャート
【
図6】
図5の非可視センサ画像データの生成処理の動作手順例を詳細に示すフローチャート
【
図7】飛沫汚染度(総和)および飛沫汚染度の平均値の概念を示す図
【
図8】OH基に対する近赤外光の分光特性例を示すグラフ
【
図9】第1の実験例(唾液痕に含まれるOH基を検知する)の概要例を示す図
【
図10】下地層がプラスチック、金属板である場合の唾液痕の分光分析例を示す図
【
図11】第2の実験例(下地層が金属板である場合のエリアごとの正規化吸光度比NARの画素分布ならびに画素平均の時間推移を比較する)の概要例を示す図
【
図12】第3の実験例(一定量の飛沫を最大で10回噴き付けて所定時間乾燥させた金属板の正規化吸光度比NARの範囲ごとの占有画素数を比較する)の概要例を示す図
【
図13】第3の実験例による非可視センサ画像データの噴き付け回数ごとの比較例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に係る実施の形態に至る経緯)
上述した特許文献2には、2つの異なる波長域を有する近赤外光を参照光、測定光として用い、参照光および測定光の反射光の強度比に基づいて植物に含まれる水分量を検知する水分量観察装置が開示されている。特許文献2では特許文献1のようなグルコース(糖類)の検知は想定されていないものの、特許文献1と違って2つの異なる波長域を有する近赤外光を用いて水分を検知するので、使用する波長域は2つで済むという点で改善の余地が見込まれる。
【0011】
一方で、昨今、新型コロナウイルス等の感染症が世界的に流行している。このような新型コロナウイルス等のウイルスは、人から人へ感染することが知られている。感染の経路としては次のものが知られている。なお、ここでは人から人へ感染が広がる感染症の例として、新型コロナウイルスを例示して説明しているが、他の感染症(例えばインフルエンザ感染症)においても同様である。
【0012】
例えば、新型コロナウイルス等のウイルスに感染した人物(つまり感染者)がくしゃみ等をすると、その感染者の唾液中あるいは体液中に含まれるウイルスが飛沫(例えばエアロゾル)として空気中を伝搬(例えばエアロゾル感染)し、そのウイルスを健常者が目、鼻、口等の器官を介して吸収するという経路である。この経路はあくまで一例であって、感染の経路が限定されることを意図するものでは無い。したがって、感染者から放出される飛沫が物体等のモノに付着した場合、そのモノに付着した飛沫の有無が適切に検知され、検知された場合に飛沫が多く堆積した飛沫痕を適宜清掃(拭掃)することで衛生を保つことができれば感染の拡大防止に向けた有意義な対策が可能となると期待されている。
【0013】
ここで、人の唾液は殆ど(およそ99.5%)が水分であり、残り0.5%は唾液痕(つまり飛沫痕)により構成される。飛沫痕は、グルコース等のブドウ糖、ATP(アデノシン三リン酸)等の成分により構成される。このような成分や水分にはいずれにしてもOH基(ヒドロキシ基)が含まれることが知られている。本件発明者は、このような水分や飛沫痕にOH基(ヒドロキシ基)が含まれることに着目した。上述した特許文献2においても、人の唾液中に含まれる水分や飛沫痕(例えばグルコース等のブドウ糖、ATP)を検知することは想定されておらず、植物と人の唾液とでは膜厚もかなり相違するので特許文献2の技術を適用しようとしても唾液中のOH基を高精度に検知することは困難であるという課題が生じる。
【0014】
そこで、以下の実施の形態1では、金属等の被測定物に付着する水分あるいは糖類を検知し、被測定物における唾液痕による汚れを高精度に推定する飛沫汚れ検知装置および飛沫汚れ検知方法の例を説明する。
【0015】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る飛沫汚れ検知装置および飛沫汚れ検知方法を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0016】
(実施の形態1)
図1Aは、飛沫汚れ検知装置1が飛沫のほぼ無い時の下地層BS1に向けて近赤外光を照射する使用状況例を模式的に示す図である。
図1Bは、飛沫汚れ検知装置1が飛沫の付着している時の下地層BS1に向けて近赤外光を照射する使用状況例を模式的に示す図である。実施の形態1に係る飛沫汚れ検知装置1は、金属板等の下地層BS1に付着した水分あるいは糖類(例えばOH基)を含む人の飛沫SLV1(例えば人がせき、くしゃみ等をして出した細かい唾液)の有無を検知したり、その飛沫(唾液)が乾燥して残った飛沫痕(唾液痕)による汚れを検知したりする。
【0017】
飛沫汚れ検知装置1は、下地層BS1から例えば50cm~1m以上程度離して配置される。下地層BS1により反射した反射光の強度(光量)を抑えるため、下地層BS1は、飛沫汚れ検知装置1に対して少し斜めに(例えば照射された近赤外光の照射方向に直交する向きから約10度程度)傾けられて配置される。
【0018】
図1Aでは下地層BS1が人の手により拭掃された(例えばアルコール消毒剤が噴霧されて布で拭かれた)直後の様子が図示されており、下地層BS1には飛沫SLV1はほぼ存在していない。飛沫汚れ検知装置1は、2つの異なる波長(λ1,λ2)を有する近赤外光を時分割に下地層BS1に向けて照射する第1投光光源13,第2投光光源15と、下地層BS1により反射して拡散した光(つまり、反射光である拡散反射光RV1(戻り光I0),拡散反射光RV2(戻り光I0)を戻り光I0として入射する撮像光学部21(例えばレンズ)と、その撮像光学部21を介して戻り光I0を受光する受光部23とを備える。戻り光I0は、下地層BS1が拭掃された直後の拡散反射光RV1および拡散反射光RV2のうちいずれか1つでもよいし、それら両方を含んでもよい概念である。なお、飛沫汚れ検知装置1の詳細な構成の説明は
図2および
図3を参照して後述する。第1投光光源13および第2投光光源15は例えばレーザダイオード(LD)により構成され、照射される近赤外光はレーザ光である。受光部23は例えばフォトダイオード(PD)あるいはイメージセンサ(IMS)のいずれにより構成されてもよいが、フォトダイオードの場合はミラー(例えば後述する投光光源走査用光学部17)を走査して受光位置が異なるように制御が必要だが、イメージセンサの場合は受光位置が異なるようにミラー(上述参照)を走査する制御は不要となる。以下、
図1Aのタイミング(つまり、下地層BS1が拭掃された直後のタイミング)に照射される参照光が下地層BS1で反射した拡散反射光を「拡散反射光RV1(戻り光I0)」と称し、
図1Aのタイミング(つまり、下地層BS1が拭掃された直後のタイミング)に照射される測定光が下地層BS1で反射した拡散反射光を「拡散反射光RV2(戻り光I0)」と称する。
【0019】
図1Bでは下地層BS1が人の手により拭掃されてから一定時間が経過した時の様子が図示されており、下地層BS1には一定量の飛沫SLV1が存在(付着)している。
図1Aの状態と同様に、飛沫汚れ検知装置1は、2つの異なる波長(λ1,λ2)を有する近赤外光を時分割に下地層BS1に向けて照射し、下地層BS1で反射して拡散した光(つまり、反射光である拡散反射光RV1,RV2)を戻り光I1として入射して受光する。戻り光I1は、下地層BS1が拭掃されてから一定時間が経過した後(言い換えると、下地層BS1に飛沫SLV1が付着している時)の拡散反射光RV1および拡散反射光RV2のうちいずれか1つでもよいし、それら両方を含んでもよい概念である。詳細は後述するが、波長λ1を有する近赤外光(参照光)は飛沫SLV1での吸収はされ難い特性を有するが、波長λ2を有する近赤外光(測定光)は飛沫SLV1での吸収がされ易い特性を有する。このため、戻り光I0の強度(光量)は参照光の強度(光量)と測定光の強度(光量)とで異ならないが、戻り光I1の強度(光量)は参照光の強度(光量)と、測定光の強度(光量)とで異なる。以下、
図1Bのタイミング(つまり、下地層BS1が拭掃されてから一定時間が経過したタイミング)に照射される参照光が下地層BS1で反射した拡散反射光を「拡散反射光RV1(戻り光I1)」と称し、
図1Aのタイミング(つまり、下地層BS1が拭掃された直後のタイミング)に照射される測定光が下地層BS1で反射した拡散反射光を「拡散反射光RV2(戻り光I1)」と称する。
【0020】
図2は、飛沫汚れ検知装置1の内部構成例を詳細に示すブロック図である。
図3は、飛沫汚れ検知装置1の受光処理部20の内部構成例を詳細に示すブロック図である。
図2に示すように、飛沫汚れ検知装置1は、非可視センサ部5と、可視カメラ部30とを含む構成である。非可視センサ部5は、制御部7と、投光処理部10と、受光処理部20とを含む構成である。投光処理部10は、第1投光光源13と、第2投光光源15と、投光光源走査用光学部17とを有する。受光処理部20は、撮像光学部21と、受光部23と、信号加工部25と、検知処理部27と、表示処理部29とを有する。可視カメラ部30は、撮像光学部31と、受光部33と、撮像信号処理部35と、表示制御部37とを有する。通信端末MTは、ユーザ(例えば下地層BS1に飛沫SLV1が付着しているか否かを検査する人物。以下同様。)により携帯される。
【0021】
先ず、制御部7について説明する。
【0022】
制御部7は、例えばCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等のプロセッサを用いて構成される。制御部7は、非可視センサ部5および可視カメラ部30の動作の同期制御、非可視センサ部5および可視カメラ部30の各部の動作制御を全体的に統括するための信号処理、他の各部との間のデータの入出力処理、データの演算処理およびデータの記憶処理を行う。また、制御部7は、後述するタイミング制御部7aを含む(
図3参照)。
【0023】
制御部7は、非可視センサ部5の検知対象となる飛沫SLV1を検知するための閾値N,Mを後述する検知処理部27に設定する。制御部7の動作の詳細については、
図4Aを参照して後述する。
【0024】
タイミング制御部7aは、投光処理部10における第1投光光源13および第2投光光源15の投光タイミングを制御する。具体的には、タイミング制御部7aは、第1投光光源13あるいは第2投光光源15にレーザ近赤外光を投光させる場合に、光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを第1投光光源13あるいは第2投光光源15に送る。つまり、タイミング制御部7aは、光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを、第1投光光源13あるいは第2投光光源15に所定の投光周期ごとに交互(時分割)に送る。具体的には、タイミング制御部7aは、奇数番目の投光周期の開始時に光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを第1投光光源13に送り、偶数番目の投光周期の開始時に光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを第2投光光源15に送る。
【0025】
次に、非可視センサ部5の各部について説明する。
【0026】
第1投光光源13(第1光源の一例)は、奇数番目の投光周期(既定値)ごとにタイミング制御部7aから送られる光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを受けると、所定の波長(例えば905nm)を有する近赤外光(非可視光)のレーザ光である参照光LS1を、投光光源走査用光学部17を介して下地層BS1に向けて投光する。
【0027】
第2投光光源15(第2光源の一例)は、偶数番目の投光周期(既定値)ごとにタイミング制御部7aから送られる光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを受けると、所定の波長(例えば1550nm)を有する近赤外光(非可視光)のレーザ光である測定光LS2を、投光光源走査用光学部17を介して下地層BS1に向けて投光する。実施の形態1では、第2投光光源15から投光される測定光LS2は、下地層BS1に付着した飛沫SLV1に含まれる水分あるいは糖類の検知の有無の判定に用いられる。測定光LS2の波長1550nmは、水分あるいは糖類に含まれるOH基が吸収され易い特性を有する波長である(
図7参照)。
【0028】
投光光源走査用光学部17は、例えば変位可能なミラーと、制御部7からの駆動信号(図示略)に基づいてミラーを駆動可能に変位させるミラー駆動部(図示略)とにより構成される。投光光源走査用光学部17は、制御部7からの制御の下で、非可視センサ部5の画角(言い換えると、視野範囲)に配置された下地層BS1に向けて、第1投光光源13から投光される参照光LS1あるいは第2投光光源15から投光される測定光LS2を2次元的に走査する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、参照光LS1および測定光LS2の下地層BS1による反射光(つまり、戻り光I0,I1)の強度(光量)を基に、下地層BS1に付着した飛沫SLV1の有無を検知できたり、その飛沫SLV1に基づく唾液痕による汚れを検知できたりする。なお、投光光源走査用光学部17は、参照光LS1および測定光LS2の下地層BS1による反射光(つまり、戻り光I0,I1)を透過してもよいし(
図1A、
図1Bおよび
図2参照)、透過しなくてもよい。
【0029】
撮像光学部21は、例えばレンズを用いて構成され、投光光源走査用光学部17を透過した光あるいは投光光源走査用光学部17を透過せずに直接に入射した光(例えば拡散反射光RV1(戻り光I0),拡散反射光RV2(戻り光I1))を集光し、拡散反射光RV1(戻り光I0),拡散反射光RV2(戻り光I1)を受光部23の所定の撮像面(受光面)に結像させる。
【0030】
受光部23は、参照光LS1および測定光LS2の両方の波長に対する分光感度のピークを有するイメージセンサであり、例えばCCD(Charge Coupled Device)あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)により構成される。受光部23は、撮像面(受光面)に結像した拡散反射光RV1(戻り光I0),拡散反射光RV2(戻り光I1)の光学像を電気信号に変換する。受光部23の出力は、電気信号(電流信号)として信号加工部25に入力される。なお、撮像光学部21および受光部23は、非可視センサ部5における非可視センサ画像データ(後述参照)を撮像するための撮像部としての機能を有する。
【0031】
信号加工部25は、I/V変換回路25aと、増幅回路25bと、コンパレータ・ピークホールド処理部25cとを有する。I/V変換回路25aは、受光部23の出力信号(アナログ信号)である電流信号を電圧信号に変換する。増幅回路25bは、I/V変換回路25aの出力信号(アナログ信号)である電圧信号のレベルを、コンパレータ・ピークホールド処理部25cにおいて処理可能なレベルまで増幅する。
【0032】
コンパレータ・ピークホールド処理部25cは、増幅回路25bの出力信号(アナログ信号)と所定の閾値(既定値)との比較結果に応じて、増幅回路25bの出力信号を2値化して閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aに出力する。コンパレータ・ピークホールド処理部25cは、ADC(Analog Digital Converter)を含み、増幅回路25bの出力信号(アナログ信号)のAD(Analog Digital)変換結果のピークを検知して保持し、さらに、ピークの情報を閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aに送る。
【0033】
検知処理部27は、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aと、メモリ27bと、検知結果フィルタ処理部27cとを有する。閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、予め度数分布データ(例えば非可視センサ画像データ(後述参照)の1フレームの全画素における正規化吸光度比NAR(後述参照)の度数分布データ)を作成して登録する。閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、後述するように、この度数分布データを用いて、下地層BS1(例えば金属板)の形状を識別するための正規化吸光度比NARの閾値Shを算出して設定する。なお、非可視センサ部5の画角(視野範囲)がほぼ下地層BS1全体の領域に相当するように飛沫汚れ検知装置1と下地層BS1との間の距離が定められる場合、この度数分布データを用いた閾値Shの算出および設定は不要としてもよい。
【0034】
また、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、拡散反射光RV1(戻り光I0)および拡散反射光RV1(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)と、拡散反射光RV2(戻り光I1)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれにおけるコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)とを基に、参照光LS1および測定光LS2の照射位置における飛沫SLV1の有無を検知する。
【0035】
具体的には、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、拡散反射光RV1(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV1(戻り光I0)の強度(光量))と、拡散反射光RV2(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV2(戻り光I0)の強度(光量))とをメモリ27bに一時的に保存しておく。次に、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、拡散反射光RV1(戻り光I1)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV1(戻り光I1),拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれの強度(光量))が得られるまで待機する。閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、拡散反射光RV1(戻り光I1)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)が得られた後、メモリ27bに保存されている拡散反射光RV1(戻り光I0)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)を参照して、非可視センサ画像データの画角内に含まれる下地層BS1の同一ラインを構成する画素ごとの正規化吸光度比NARを式(1)にしたがって算出する。
【0036】
ここで、式(1)において、分母の項を設けて正規化しているのは、飛沫汚れ検知装置1の配置箇所に照明(外部光源の一例)を使用した場合に、拡散反射光RV1および拡散反射光RV2の強度(光量)が測定対象物(例えば下地層BS1)と飛沫汚れ検知装置1との角度によって変化するため、この変化による影響を抑圧することに基づく。
【0037】
【0038】
式(1)において、ln(I0/I1)905は、{(拡散反射光RV1(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報))/(拡散反射光RV1(戻り光I1)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報))}の自然対数を示す。同様に、ln(I0/I1)1550は、{(拡散反射光RV2(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報))/(拡散反射光RV2(戻り光I1)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報))}の自然対数を示す。
【0039】
例えば飛沫SLV1に含まれる水分あるいは糖類を構成するOH基が存在する照射位置では、1550nmの波長を有する測定光LS2がOH基により吸収され易い。このため、その照射位置における反射効率が低下し、拡散反射光RV2(戻り光I1)の強度(光量)が減衰する。したがって、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、飛沫汚れ検知装置1の非可視センサ部5の画角(視野範囲)内に含まれる下地層BS1の同一ラインごとの正規化吸光度比NARの算出結果(式(1)参照))を基に、参照光LS1および測定光LS2の照射位置における飛沫SLV1の有無を検知できる。
【0040】
なお、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、拭掃直後および拭掃から一定時間経過後の各タイミングにおいて、拡散反射光RV1の振幅VAと拡散反射光RV2の振幅VBとの振幅差分(VA-VB)と振幅VAとの比RTと所定の閾値との大小の比較に応じて、下地層BS1の参照光LS1および測定光LS2の照射位置における飛沫SLV1の有無を検知しても良い(
図4B参照)。
【0041】
さらに、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、画角(視野範囲)内に含まれる下地層BS1の同一ラインを構成する画素ごとの正規化吸光度比NARの算出結果(式(1)参照))が所定範囲の値(例えば閾値Nから閾値M)となる画素数(占有画素数)をカウントし、そのカウント結果に相当する占有画素数分の正規化吸光度比NARの総和を下地層BS1の飛沫汚染度として算出する。この飛沫汚染度の算出結果を用いて、下地層BS1にどの程度の飛沫SLV1が付着しているかを定量的に示す非可視センサ画像データが生成される。なお、非可視センサ画像データを構成する画素数は、飛沫汚れ検知装置1の可視カメラ部30により生成されるカラー画像データの1フレームを構成する画素数と同一となる。
【0042】
メモリ27bは、例えばRAM(Random Access Memory)を用いて構成され、拡散反射光RV1(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV1(戻り光I0)の強度(光量))と、拡散反射光RV2(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV2(戻り光I0)の強度(光量))を一時的に保存する。
【0043】
検知結果フィルタ処理部27cは、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aの出力を基に、飛沫SLV1の検知結果からノイズ等の不要成分をフィルタリングした上で抽出する。検知結果フィルタ処理部27cは、抽出結果のデータを表示処理部29に送る。例えば検知結果フィルタ処理部27cは、下地層BS1への参照光LS1および測定光LS2の照射位置における飛沫SLV1の検知結果(例えば、フィルタリング後の画角(視野範囲)内に含まれる下地層BS1の画素ごとの正規化吸光度比NARの算出結果、下地層BS1の飛沫汚染度の算出結果)を表示処理部29に送る。
【0044】
表示処理部29は、検知結果フィルタ処理部27cの出力を用いて、下地層BS1にどの程度の飛沫SLV1が付着しているかを定量的に示す非可視センサ画像データを生成する。表示処理部29は、下地層BS1の非可視センサ画像データと下地層BS1の飛沫汚染度の算出結果のデータとを可視カメラ部30の表示制御部37に出力する。
【0045】
次に、可視カメラ部30の各部について説明する。
【0046】
撮像光学部31は、例えばレンズを用いて構成され、飛沫汚れ検知装置1の可視カメラ部30の画角内からの環境光RV0を集光し、環境光RV0を受光部33の所定の撮像面(受光面)に結像させる。
【0047】
受光部33は、可視光の波長(例えば400nm~700nm)に対する分光感度のピークを有するイメージセンサであり、例えばCCDあるいはCMOSにより構成される。受光部33は、撮像面(受光面)に結像した光学像を電気信号に変換する。受光部33の出力は、電気信号(例えば電流信号あるいは電圧信号)として撮像信号処理部35に入力される。なお、撮像光学部31および受光部33は、可視カメラ部30におけるカラー画像データ(後述参照)を撮像するための撮像部としての機能を有する。
【0048】
撮像信号処理部35は、受光部33の出力である電気信号を用いて、人が認識可能なRGB(Red Green Blue)あるいははYUV(輝度・色差)等により規定される下地層BS1を被写体としたカラー画像データを生成する。これにより、下地層BS1を被写体としたカラー画像データが生成される。撮像信号処理部35は、可視光画像データを表示制御部37に送る。
【0049】
表示制御部37は、撮像信号処理部35から送られたカラー画像データと、表示処理部29から送られた非可視センサ画像データとを用いて、ほぼ透明な飛沫SLV1がカラー画像データ中のいずれかの位置で検知されたかをユーザが視認可能となるように、カラー画像データの対応する画素に非可視センサ画像データの対応する同一の画素を重畳した重畳画像データ(図示略)、あるいは、カラー画像データと非可視センサ画像データとを対比可能に表した画像データを表示データとして生成する。表示制御部37は、表示データを、例えばネットワークを介して接続されたデータロガーDLあるいは通信端末MTに送信して表示を促す。
【0050】
データロガーDLは、表示制御部37から出力された表示データを通信端末MTあるいは1つ以上の外部接続機器(不図示)に送信し、通信端末MTあるいは1つ以上の外部接続機器(例えば監視ルーム内のモニタ)の表示画面における表示データの表示を促す。なお、データロガーDLは、各種のフィードバック制御の要否を制御部7に判断させるために、表示データを飛沫汚れ検知装置1の制御部7に送ってもよい。制御部7は、データロガーDLから送られた表示データに基づいて、各種のフィードバック制御を実行してもよい(
図6参照)。
【0051】
通信端末MTは、例えばユーザ個人が用いる携帯用の通信用端末であり、ネットワーク(不図示)を介して、表示制御部37から送信された表示データを受信し、通信端末MTの表示画面(不図示)に表示データを表示する。なお、通信端末MTは、各種のフィードバック制御の要否を制御部7に判断させるために、表示データを飛沫汚れ検知装置1の制御部7に送ってもよい。制御部7は、通信端末MTから送られた表示データに基づいて、各種のフィードバック制御を実行してもよい(
図6参照)。
【0052】
次に、実施の形態1に係る飛沫汚れ検知装置1の非可視センサ部5の制御部7における初期動作の一例について、
図4Aを参照して説明する。
図4Aは、飛沫汚れ検知装置1の制御部7による初期設定動作例を示すフローチャートである。
【0053】
図4Aにおいて、制御部7は、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aに対し、下地層BS1の形状を識別するための正規化吸光度比NARの閾値Shの設定を指示する。この指示には、例えば正規化吸光度比NARの閾値Shが含まれる。閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、制御部7からの指示に応じて、閾値Shを設定する(St1)。なお、非可視センサ部5の画角(視野範囲)が下地層BS1全体のみを覆うように設置される場合には、このステップSt1の処理は省略されてもよい。
【0054】
制御部7は、非可視センサ部5の検知処理部27における正規化吸光度比NARの閾値N,Mを閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aに設定する(St2)。閾値Nは、例えば-0.4である(
図12参照)。閾値Mは、例えば0.6である(
図12参照)。
【0055】
ステップSt2の処理後、制御部7は、下地層BS1の可視光に基づく撮像処理を開始させるための制御信号を可視カメラ部30の各部に出力する(St3-1)。さらに、制御部7は、第1投光光源13に参照光LS1あるいは第2投光光源15に測定光LS2の投光を開始させるための光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを、非可視センサ部5の第1投光光源13あるいは第2投光光源15に送る(St3-2)。なお、ステップSt3-1の動作とステップSt3-2の動作との実行タイミングはどちらが先でもよく、同時でもよい。
【0056】
図4Bは、飛沫汚れ検知装置1の非可視センサ部5によるOH基の検知原理の一例を示す図である。
図4Bにおいて、VAは、下地層BS1が拭掃された直後および拭掃されてから一定時間が経過した時点のいずれのタイミングでの、OH基により吸収され難い特性を有する波長905nmの拡散反射光RV1(
図2参照)の振幅を示す。VBは、下地層BS1が拭掃された直後および拭掃されてから一定時間が経過した時点のいずれのタイミングでの、OH基により吸収され易い特性を有する波長1550nmの拡散反射光RV2(
図2参照)の振幅を示す。RTは、例えば検知処理部27によって(VA-VB)/VAにより算出される値である。閾値は、例えば検知処理部27のメモリ27bに保存される。
【0057】
図4Bにおいて、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、例えばRT>閾値であれば下地層BS1においてOH基(例えば飛沫SLV1)を検知したと判定し、RT≦閾値であれば下地層BS1においてOH基(例えば飛沫SLV1)を検知しないと判定してもよい。このように、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、振幅差分(VA-VB)と振幅VAとの比RTと閾値との比較結果に応じて、下地層BS1におけるOH基(例えば飛沫SLV1)の有無を検知することで、ノイズ(例えば外乱光)の影響を排除でき、OH基(例えば飛沫SLV1)の有無を高精度に検知できる。
【0058】
図8は、OH基に対する近赤外光の分光特性例を示すグラフである。
図8の横軸は波長[nm]であり、
図8の縦軸は透過率[%]を示す。
図8に示すように、波長λ1(例えば中心波長905nmの波長域)の参照光LS1は、OH基の透過率がほぼ100%に近く、OH基に吸収され難い特性を有することがわかる。同様に、波長λ2(例えば中心波長1550nmの波長域)の測定光LS2は、OH基の透過率が10%に近く、OH基に吸収され易い特性を有することがわかる。そこで、実施の形態1では、第1投光光源13から投光される参照光LS1の波長を905nm、第2投光光源15から投光される測定光LS2の波長を1550nmとしている。
【0059】
次に、飛沫汚れ検知装置1の非可視センサ部5におけるOH基の検知に関する詳細な動作手順について、
図5を参照して説明する。
図5は、非可視センサ部5によるOH基の検知動作手順例を詳細に示すフローチャートである。
図5に示すフローチャートの説明の前提として、タイミング制御部7aは、光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFを第1投光光源13あるいは第2投光光源15に時分割に送り、飛沫汚れ検知装置1から参照光LS1および測定光LS2のそれぞれが時分割に下地層BS1に向けて照射される。
【0060】
図5において、現在時刻が奇数番目の投光周期の開始時点である場合(St11、YES)、第1投光光源13は、タイミング制御部7aから送られた光源走査用タイミング信号TRおよび光源発光信号RFに基づいて、波長λ1の参照光LS1を投光する(St12)。投光光源走査用光学部17は、飛沫汚れ検知装置1の画角内に含まれる下地層BS1のX方向(例えば横方向)のライン上に参照光LS1を1次元的に照射する(St14)。参照光LS1が照射されたX方向のライン上のそれぞれの照射位置において、参照光LS1が拡散反射したことで生じた拡散反射光RV1が撮像光学部21を介して受光部23により受光される(St15)。
【0061】
信号加工部25では、拡散反射光RV1の受光部23における出力(電気信号)が電圧信号に変換され、この電圧信号のレベルがコンパレータ・ピークホールド処理部25cにおいて処理可能なレベルまで増幅される(St16)。コンパレータ・ピークホールド処理部25cは、増幅回路25bの出力信号と所定の閾値(既定値)との比較結果に応じて、増幅回路25bの出力信号を2値化して閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aに送る。コンパレータ・ピークホールド処理部25cは、増幅回路25bの出力信号のピークの情報を閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aに送る。この後、ステップSt17の処理が検知処理部27において実行される。
【0062】
具体的には、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、参照光LS1の拡散反射光RV1に対するコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)をメモリ27bに一時的に保存する(St17-1)。閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、メモリ27bに保存された前回の投光周期(具体的には、奇数番目の投光周期あるいは偶数番目の投光周期)のフレームにおける拡散反射光RV1あるいは拡散反射光RV2の同一ラインを対象としたコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力をメモリ27bから読み出す(St17-2)。
【0063】
閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、同一ラインにおける拡散反射光RV1(戻り光I0)および拡散反射光RV1(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)と、同一ラインにおける拡散反射光RV2(戻り光I1)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれにおけるコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)と、所定の閾値N,M(
図4A参照)とを基に、参照光LS1および測定光LS2の照射位置における飛沫SLV1の有無を検知する。
【0064】
具体的には、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、同一ラインにおける拡散反射光RV1(戻り光I1)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)と、ステップSt17-1でメモリ27bに保存された同一ラインにおける拡散反射光RV1(戻り光I0)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報)とを参照して、非可視センサ画像データの画角内に含まれる下地層BS1の同一ラインを構成する画素ごとの正規化吸光度比NARを上述した式(1)にしたがって算出する(St17-3)。さらに、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、画角(視野範囲)内に含まれる下地層BS1の同一ラインを構成する画素ごとの正規化吸光度比NARの算出結果(式(1)参照))が所定範囲の値(例えば閾値Nから閾値M)となる画素数(占有画素数)をカウントし、そのカウント結果に相当する占有画素数分の正規化吸光度比NARの総和を下地層BS1の飛沫汚染度として算出する(St17-3)。この下地層BS1の飛沫汚染度の算出処理の詳細については、
図6を参照して後述する。
【0065】
また、閾値設定/飛沫汚染度検知処理部27aは、ステップSt17-3で算出された正規化吸光度比NARが閾値Nから閾値Mまでの間の値となる領域(つまり、参照光LS1および測定光LS2の照射位置全体に対応する画素全体の中で、飛沫SLV1が付着していると推定される画素の集合体)を飛沫SLV1による汚れ部として検出する(St17-4)。
【0066】
表示処理部29は、画角(視野範囲)内を覆う全てのライン(1フレーム全体)分のステップSt17での検知処理部27の処理結果を用いて、飛沫SLV1(具体的には、OH基)の検知位置を示す非可視センサ画像データを生成する。表示制御部37は、撮像信号処理部35により生成されたカラー画像データと、表示処理部29により生成された非可視センサ画像データとをデータロガーDL、通信端末MT等に送信する(St18)。なお、下地層BS1の非可視センサ画像データおよびカラー画像データは、制御部7にフィードバックするように表示制御部37から送られてもよい。
【0067】
上述したステップSt14~ステップSt17の各動作は、1回のフレーム(投光周期)の検知エリア内のラインごとに実行される。つまり、1つのX方向(例えば横方向)のラインに対するステップSt14~ステップSt17の各動作が終了すると、次のX方向のラインに対するステップSt14~ステップSt17の各動作が行われ(St19、NO)、以降、1フレーム分のステップSt14~ステップSt17の各動作が終了するまで、ステップSt14~ステップSt17の各動作がラインごとに繰り返される。
【0068】
一方、1フレームの全てのラインに対してステップSt14~St17の各動作の実行が終了した場合には(St19、YES)、参照光LS1および測定光LS2の投光走査が継続する場合には(St20、YES)、非可視センサ部5の動作はステップSt11に戻る。なお、この時、制御部7は、下地層BS1の拭掃(リセット)と拡散反射光RV1(戻り光I0)および拡散反射光RV2(戻り光I0)の強度(光量)の測定の実行とを含む指示を、例えばユーザが所持する通信端末MT等に外部出力してもよい。一方、参照光LS1および測定光LS2の投光走査が継続しない場合には(S20、NO)、
図5に示す非可視センサ部5の動作は終了する。
【0069】
図6は、
図5の非可視センサ画像データの生成処理の動作手順例を詳細に示すフローチャートである。
図6の処理は、主に非可視センサ部5の表示処理部29により実行される。
図6の説明の前提として、検知処理部27には、拡散反射光RV1(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV1(戻り光I0)の強度(光量))と、拡散反射光RV2(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV2(戻り光I0)の強度(光量))がメモリ27bに一時的に保存される。さらに、検知処理部27には、拡散反射光RV1(戻り光I1)および拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれに基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV1(戻り光I1),拡散反射光RV2(戻り光I1)のそれぞれの強度(光量))を信号加工部25から入力する。
【0070】
図6において、表示処理部29は、画角(視野範囲)内を覆う全てのライン(1フレーム全体)分(つまり、非可視センサ画像データを構成する全ての画素分)の正規化吸光度比NARの検知処理部27による算出結果を取得する(St21)。表示処理部29は、画素ごとの正規化吸光度比NARが閾値N(例えば-0.4、
図12参照)から閾値M(例えば0.6、
図12参照)までの範囲の値であるか否かを判定する(St22)。正規化吸光度比NARが閾値Nから閾値Mまでの範囲の値でないと判定された場合(St22、NO)、表示処理部29は、その正規化吸光度比NARに対応する画素について、その画素を非可視センサ画像データ中の飛沫SLV1以外の背景(言い換えると、ユーザの観測対象とならない部分)として単色(例えば青色、黒色)で表示するよう非可視センサ画像データを生成する(St24)。
【0071】
一方、表示処理部29は、画素ごとの正規化吸光度比NARが閾値Nから閾値Mまでの範囲の値であると判定した場合(St22、YES)、その正規化吸光度比NARに対応する画素について、その画素を飛沫汚れ(言い換えると、ユーザの観測対象となる部分)として任意のn階調による色で表示するよう非可視センサ画像データを生成する(St23)。ここで、nは既定の整数であり、例えばn=5である場合、最も飛沫汚れが多い画素は赤色、その次に飛沫汚れが多い画素は橙色、その次に飛沫汚れが多い画素は黄色、その次に飛沫汚れが多い画素は緑色、その次に飛沫汚れが多い画素は水色のように色が定められる。なお、nの値も使用される色も上述した例に限定されないことは言うまでもない。
【0072】
表示処理部29は、閾値Nから閾値Mまでの範囲の値となっている正規化吸光度比NARに対応する画素数に基づいて、正規化吸光度比NARが閾値Nから閾値Mまでの範囲の値となっている画素空間(つまり、飛沫汚れが占有している領域)として任意のA×B画素(A,B:非可視センサ画像データの最大縦,横の画素数未満となる整数値)の領域を設定する(St25)。表示処理部29は、ステップSt25で設定された領域(A×B画素)の中で、ステップSt17でのラインを構成する画素ごとの飛沫汚染度の算出結果を用いて、閾値Nより大きい正規化吸光度比NARが得られる画素ごとの正規化吸光度比NARの総和(Σ(各正規化吸光度比NAR×占有画素数))である飛沫汚染度、領域A×B画素の飛沫汚染度の平均値を算出する(St26)。さらに、表示処理部29は、飛沫汚染度(総和)、あるいは飛沫汚染度(総和)およびその平均値のいずれかの算出結果の大小(例えばその算出結果と所定の閾値との比較)から、下地層BS1の拭掃の要否を示すフィードバック信号を生成して制御部7に送る(St26)。
【0073】
なお、制御部7は、表示処理部29からのフィードバック信号に基づいて、人あるいはロボット(図示略)に下地層BS1の拭掃の指示を実行してもよいし(St27)、その拭掃が完了したことの入力信号を受信した場合に、検知処理部27のメモリ27bに保存されている拡散反射光RV1(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV1(戻り光I0)の強度(光量))と、拡散反射光RV2(戻り光I0)に基づくコンパレータ・ピークホールド処理部25cの出力(ピークの情報で、つまり拡散反射光RV2(戻り光I0)の強度(光量))の自動リセットあるいはユーザによる手動(データ削除)を通信端末MT等に外部指示する。この後、拡散反射光RV1(戻り光I0)および拡散反射光RV2(戻り光I0)の測定が行われる。
【0074】
図7は、飛沫汚染度(総和)および飛沫汚染度の平均値の概念を示す図である。
図7の例では、飛沫SLV1の汚れ部Pt1と飛沫SLV1の汚れ部Pt2とは同一面積であり、汚れ部Pt1の正規化吸光度比NARの平均値は汚れ部Pt2の正規化吸光度比NARの平均値より高いので汚れ部Pt1の方が汚れ部Pt2よりも汚れている(つまり、同一面積における飛沫汚染度が相対的に高い)。また、汚れ部Pt1では、画素ごとの正規化吸光度比NARの値が汚れ部Pt1の領域全体にわたってほぼ均一になっている。同様に、汚れ部Pt2でも、画素ごとの正規化吸光度比NARの値が汚れ部Pt2の領域全体にわたってほぼ均一になっている。このように、汚れ部Pt1,Pt2のように、領域全体にわたってほぼ均一に飛沫SLV1が金属板等の下地層BS1に付着しているのは、飛沫SLV1が付着して間もない頃のタイミングが該当する。
【0075】
ところが、金属板等の下地層BS1に飛沫SLV1(例えば細かい唾液)が付着し始めてから一定時間が経過すると、飛沫SLV1をほぼ構成する水分が蒸発するとともに濃縮が起こる。このため、飛沫SLV1が金属板等の下地層BS1に付着して間もない頃には下限の閾値N以上であった同じ画素の正規化吸光度比NARが時間の経過に伴って下限の閾値N未満となり、飛沫SLV1による汚れ部の領域(占有画素数)が徐々に減少してくる。したがって、例えば汚れ部Pt1が汚れ部Pt3のように、水の表面張力が大きい(つまり、水分が多い)汚れ部Pt1の周辺部分から蒸発、乾燥が進行して飛沫SLV1の膜厚が徐々に小さくなる(時刻t=T1)。さらに、時間の進行度合いによって、周辺部分の水分が蒸発して飛沫痕Pt3a,Pt3b,Pt3cのいずれかが形成される(時刻t=T2)。つまり、時刻t=T2では、時刻t=T1に比べて汚れ部の領域周辺部分では水分の蒸発により正規化吸光度比NARが小さくなってくるが、濃縮によって汚れ部(例えば飛沫痕Pt3a,Pt3c)の中心付近の正規化吸光度比NARは大きくなってくる。なお、飛沫SLV1の付着状態によっては周辺部分と中心部分とがほぼ同様な正規化吸光度比NARが得られる汚れ部Pt3bも検知されて構わない。
【0076】
したがって、
図6のステップSt26において、表示処理部29は、飛沫汚染度(総和)の平均値だけでフィードバック信号を生成するのではなく、飛沫汚染度(総和)、あるいは飛沫汚染度(総和)およびその平均値のいずれかの算出結果の大小(例えばその算出結果と所定の閾値との比較)から、下地層BS1の拭掃の要否を示すフィードバック信号を生成することが好ましい。
【0077】
次に、実施の形態1に係る飛沫汚れ検知装置1を用いた複数の実験例について、図面を参照して説明する。
図9は、第1の実験例(唾液痕に含まれるOH基を検知する)の概要例を示す図である。
図10は、下地層がプラスチック、金属板である場合の唾液痕の分光分析例を示す図である。
【0078】
図9に示すように、第1の実験例では、アルミニウム板等の金属板からなる下地層BS1に、人が指FG1の先端部につけた唾液SLV0を付着させ、例えば「CNS」というアルファベット3文字を描字して乾燥させる。飛沫汚れ検知装置1は、この下地層BS1に向けて近赤外光(例えば波長λ1の参照光LS1および波長λ2の測定光LS2)を交互に時分割に照射する。
【0079】
すると、飛沫汚れ検知装置1は、「CNS」というアルファベット3文字の部分SPL1がユーザにとって視認可能となる程度にn階調(
図6参照)の色が着色された非可視センサ画像データIMG1を生成する。
図9の例では、「CNS」というアルファベット3文字の部分SPL1は白色に近い薄灰色で示され、その他の背景部分は黒色に近い濃灰色で示されている。なお、唾液SLV0はほぼ水分により構成されて無色透明であって色味成分の検出が本来的に困難であるため、例えば市販されている公知の色差計で観測したところ、指FG1で描字した以降の時間経過に伴う「CNS」というアルファベット3文字の部分SPL1における観測値の差は見られなかった。
【0080】
また、第1の実験例では、下地層がアルミニウム板等の金属板の場合だけでなくプラスチックとした場合の唾液痕の分光分析も行った。ユーザは、プラスチック材料からなる下地層BS0に、同様に指F1で唾液(例えば飛沫SLV1)を付着させて指定された文字(例えば「IC」)を描字した。飛沫汚れ検知装置1は、この下地層BS0に向けて近赤外光(例えば波長λ1の参照光LS1および波長λ2の測定光LS2)を交互に時分割に照射する。すると、飛沫汚れ検知装置1は、「IC」というアルファベット2文字の部分がユーザにとって視認可能となる程度にn階調(
図6参照)の色が着色できない非可視センサ画像データIMG2を生成した。これは、下地層BS0がプラスチック材料からなる場合に、唾液SLV0に含まれるOH基による測定光LS2の吸収が非常に少なかったことに起因すると推察される。
【0081】
特許文献2の植物に存在する水分の膜厚(数mmオーダ)とは異なり、下地層BS0に付着された唾液SLV0の膜厚は数μmオーダであって膜厚が非常に薄い。また、波長λ2の測定光LS2はプラスチック材料に浸透し易く(言い換えると、測定光LS2の光学的深さが大きく)こともあり、波長λ2と同程度の数μmオーダの膜厚では測定光LS2の吸収が非常に少なくなる。このため、下地層BS0に情報(例えば唾液SLV0が付着しているか否かを示す情報)が埋没してしまい、下地層BS0では「IC」というアルファベット2文字の部分がうまく検知されなかった。
【0082】
また、ユーザは、セラミックス材料からなる下地層に、同様に指F1で唾液SLV0を付着させて指定された文字(例えば「P」)を描字した。なお、セラミックス材料からなる下地層とアルミニウム板等の金属板からなる下地層BS1とは材質的に異なるものである。飛沫汚れ検知装置1は、このセラミックス材料からなる下地層に向けて近赤外光(例えば波長λ1の参照光LS1および波長λ2の測定光LS2)を交互に時分割に照射する。すると、飛沫汚れ検知装置1は、「P」というアルファベット1文字の部分がユーザにとって視認可能となる程度にn階調(
図6参照)の色が着色できない非可視センサ画像データIMG3を生成した。これは、下地層がプラスチック材料だけでなくセラミックス材料からなる場合も同様に、唾液SLV0に含まれるOH基による測定光LS2の吸収が非常に少なかったことに起因すると推察される。
【0083】
一方、下地層がアルミニウム板等の金属板からなる下地層BS1である場合に、飛沫汚れ検知装置1は、「CNS」というアルファベット3文字の部分SPL1がユーザにとって視認可能となる程度にn階調(
図6参照)の色が着色された非可視センサ画像データIMG1を生成できた(上述参照)。これは、下地層がアルミニウム板等の金属板からなる場合、少なくとも測定光LS2の下地層BS1での反射時に、金属板において特有に生じる定常波のうなりが発生することで唾液SLV0の膜厚が同じ数μmオーダであっても測定光LS2の吸収量が多くなることに起因すると推察される。つまり、測定光LS2の垂直偏光成分は下地層BS1への入射光と下地層BS2からの反射光とで打ち消し合うが、測定光LS2の平行偏光成分は下地層BS1への入射光と下地層BS2からの反射光とが互いに重ね合うことで定常波(うなり現象)が生じることが知られている。したがって、この金属板が下地層BS1である場合に特有のうなり現象により、数μmオーダの膜厚しかない唾液SLV0に含まれるOH基によって測定光LSが多く吸収される。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、「CNS」というアルファベット3文字の部分SPL1がユーザにとって視認可能となる程度にn階調(
図6参照)の色が着色された非可視センサ画像データIMG1を生成できる。
【0084】
図11は、第2の実験例(下地層が金属板である場合のエリアごとの正規化吸光度比NARの画素分布ならびに画素平均の時間推移を比較する)の概要例を示す図である。第2の実験例では、第1の実験例と同様にアルミニウム板等の金属板からなる下地層BS1に指定された文字(例えば「P」というアルファベット1文字)がユーザの指FG1についた唾液SLV0が付着されて描字された。第2の実験例では、下地層BS1の複数箇所(具体的には、領域AR1,AR2,AR3)のそれぞれにおける2つのタイミング(時刻t=T3,T4)での正規化吸光度比NARの経時変化を観測した。なお、第2の実験例では、正規化吸光度比NARの算出式は、式(2)となっている。式(1)との違いは、分子の項の符号(+および-)が逆になっている点である。つまり、実施の形態1において、画素ごとの正規化吸光度比NARは、式(1)および式(2)のいずれにより算出されてもよい。
【0085】
【0086】
時刻t=T3は、例えば「P」というアルファベット1文字が下地層BS1の領域AR1,AR2,AR3のそれぞれに唾液(例えば飛沫SLV1)で描字される前の状態を示す。飛沫汚れ検知装置1は、時刻t=T3の時点で、下地層BS1に照射した近赤外光(波長λ1の参照光LS1および波長λ2の測定光LS2)の受光結果に基づいて、非可視センサ画像データIMG4を生成した。時刻t=T4は、例えば「P」というアルファベット1文字が下地層BS1の領域AR1,AR2,AR3のそれぞれに唾液(例えば飛沫SLV1)で描字されて一定時間が経過した時の状態を示す。飛沫汚れ検知装置1は、時刻t=T4の時点で、下地層BS1に照射した近赤外光(波長λ1の参照光LS1および波長λ2の測定光LS2)の受光結果に基づいて、非可視センサ画像データIMG5を生成した。
【0087】
第2の実験例では、非可視センサ画像データの生成時に用いるn階調として10階調(10段階)の色表示を用いた。nは10として示しているが、10に限定されないことは言うまでもない。非可視センサ画像データIMG4に示されるように、時刻t=T3では、唾液SLV0が下地層BS1に付着する前の状態であるため、領域AR1,AR2,AR3のいずれにおいても正規化吸光度比NARは高い値になっている。ところが、時刻t=T4では、唾液SLV0が下地層BS1に付着して一定時間が経過した状態であるため、領域AR1,AR2,AR3のいずれにおいても唾液SLV0に含まれるOH基により測定光LS2が吸収されて拡散反射光RV2が時刻t=T3に比べて小さくなっているので、正規化吸光度比NARは相対的に小さい値になっていることが分かった。
【0088】
図12は、第3の実験例(一定量の飛沫を最大で10回噴き付けて所定時間乾燥させた金属板の正規化吸光度比NARの範囲ごとの占有画素数を比較する)の概要例を示す図である。
図13は、第3の実験例による非可視センサ画像データの噴き付け回数ごとの比較例を示す図である。第3の実験例では、アルミニウム板等の金属板からなる下地層BS1に人工的に生成された唾液SLV0を最大10回(50mg/1回)噴き付け、15分の乾燥後に参照光LS1および測定光LS2の照射に基づく画素ごとの正規化吸光度比NARを算出した。
【0089】
図12に示すテーブルTBL1およびグラフGPH1は、噴霧ごとの測定値(正規化吸光度比NAR)の任意の範囲における占有画素数を示す。噴霧の回数の増加(つまり、飛沫SLV1の増加)にしたがって、正規化吸光度比NARが-0.4から0.6までの範囲PTS1の値をとる画素(占有画素数)の増加が見られた。また、噴霧の回数の増加(つまり、飛沫SLV1の増加)にしたがって、正規化吸光度比NARが-1から-0.4までの範囲の値をとる画素(占有画素数)の減少が見られた。つまり、噴霧の回数が増加しても正規化吸光度比NARが-1から-0.4までの範囲の値をとる画素は増えないことが分かった。さらに、噴霧の回数の増加(つまり、飛沫SLV1の増加)にしたがって、正規化吸光度比NARが0.6から2.0までの範囲の値をとる画素(占有画素数)の減少も見られた。つまり、噴霧の回数が増加しても正規化吸光度比NARが0.6から2.0までの範囲の値をとる画素は増えないことが分かった。したがって、噴霧の回数の増加にしたがって占有画素数の増加が見られた範囲PTS1に対応する正規化吸光度比NARの範囲(-0.4から0.6)の下限値-0.4を下限の閾値Nとして採用し、その同じ範囲の上限値0.6を上限の閾値Mとして採用することで、噴霧に応じて飛沫SLV1の有無の検知が高精度に判定可能となる閾値N,Mが得られることが分かった。
【0090】
さらに、第3の実験例では、飛沫汚れ検知装置1は、噴霧前(0回)を含めた噴霧の回数ごとに飛沫汚れをn階調で示した非可視センサ画像データIMG10,IMG11,IMG12,IMG13,IMG14,IMG15,IMG16,IMG17,IMG18,IMG19,IMG20をそれぞれ生成した。非可視センサ画像データIMG10,IMG11,IMG12,IMG13,IMG14,IMG15,IMG16,IMG17,IMG18,IMG19,IMG20のそれぞれの領域ATT1は、噴霧の回数が増加するにしたがって、3階調の階調表示のうち汚れが徐々に増加するような階調で表示されることが分かった。なお、領域ATTの枠線は分かりやすく示すために白色で示しているが、この白色は、3段階の階調表示のうち最も汚れが大きいことを示すものではないことに留意されたい。
【0091】
以上により、実施の形態1に係る飛沫汚れ検知装置1は、OH基に吸収され難い特性を有する参照光LS1を金属板(例えば下地層BS1)に向けて順次走査しながら照射する第1光源(例えば第1投光光源13)と、OH基に吸収され易い特性を有する測定光LS2を金属板に向けて順次走査しながら照射する第2光源(例えば第2投光光源15)と、OH基を有する水分あるいは糖類を含む、金属板の表面に付着する唾液痕(例えば飛沫SLV1)による汚れを検知する検知部(例えば非可視センサ部5)と、唾液痕が付着していない金属板により反射された参照光の反射光量、唾液痕が付着していない金属板により反射された測定光の反射光量を記憶するメモリ27bと、を備える。検知部は、金属板により反射された参照光の反射光量と、金属板により反射された測定光の反射光量と、唾液痕が付着していない金属板により反射された参照光の反射光量と、唾液痕が付着していない金属板により反射された測定光の反射光量と、に基づいて、唾液痕による汚れを検知する。
【0092】
これにより、飛沫汚れ検知装置1は、金属板に唾液痕が付着していない時の参照光および測定光のそれぞれの反射光量と金属板に唾液痕が付着している時の参照光および測定光のそれぞれの反射光量とを用いるので、金属等の被測定物に付着する水分あるいは糖類を検知でき、被測定物における唾液痕による汚れを高精度に推定できる。
【0093】
また、検知部(例えば非可視センサ部5)は、金属板(例えば下地層BS1)により反射された参照光LS1の反射光量と唾液痕(例えば飛沫SLV1)が付着していない金属板により反射された参照光LS1の反射光量とに基づいて、参照光LS1の波長に対応する第1の吸光度(例えばLn(I0/I1)905)を算出し、金属板により反射された測定光LS2の反射光量と唾液痕が付着していない金属板により反射された測定光の反射光量とに基づいて、測定光LS2の波長に対応する第2の吸光度(例えばLn(I0/I1)1550)を算出し、第1の吸光度および第2の吸光度に基づいて、唾液痕による汚れを検知する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、OH基による吸収がされ易い特性を有する測定光が金属板に付着した唾液痕(例えば飛沫SLV1)により吸収されたか否か(言い換えると、金属板に唾液痕(例えば飛沫SLV1)が付着しているか否か)を定量的に算出できる。
【0094】
また、検知部(例えば非可視センサ部5)は、(第1の吸光度-第2の吸光度)/(第1の吸光度+第2の吸光度)という算出式の算出結果により、唾液痕による汚れを検知する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、唾液痕による汚れの有無を前述した比率(正規化吸光度比NAR)によって簡易に判定できる。
【0095】
また、検知部は、上述した(第1の吸光度-第2の吸光度)/(第1の吸光度+第2の吸光度)という算出式の算出結果が所定範囲の値となる場合に、唾液痕による汚れを検知する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、明らかにノイズとなるような不要成分を排除して唾液痕による汚れの有無を高精度に判定できる。
【0096】
また、所定範囲の値は、-0.4~0.6である。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、金属板(例えば下地層BS1)に付着している飛沫SLV1の有無を、正規化吸光度比NARの比較時に使用する適切な閾値を設定できる。
【0097】
また、検知部(例えば非可視センサ部5)は、(第1の吸光度-第2の吸光度)/(第1の吸光度+第2の吸光度)という算出式の算出結果に基づいて、唾液痕の形状を抽出する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、可視光による撮像では形状判定が困難なほぼ無色透明な飛沫SLV1の付着している範囲を簡易に抽出して特定できる。
【0098】
また、参照光LS1の波長は905nmであり、測定光LSの波長は1550nmである。これにより、飛沫SLV1を構成する主成分である水分あるいはその他の成分である糖類のいずれにもOH基が含まれることに鑑みて、飛沫汚れ検知装置1は、OH基による吸収がされ易い測定光LS2とOH基による吸収がされ難い参照光LS1の両方を用いることで、分光感度の特性の差分に応じて唾液痕による汚れの有無を簡易に判定できる。
【0099】
また、飛沫汚れ検知装置1は、金属板により反射された参照光LS1および測定光LS2の撮像により、金属板の所定範囲を被写体とした唾液痕による汚れの有無を示す検知結果画像(例えば非可視センサ画像データ)を生成する画像生成部(例えば表示処理部29)、をさらに備える。画像生成部は、飛沫汚れ検知装置1と接続された外部端末(例えばデータロガーDL、通信端末MT)に検知結果画像を出力する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、画角(視野範囲)内に唾液痕(例えば飛沫SLV1)の有無が判明可能となる非可視センサ画像データをユーザあるいは外部端末に提示できる。
【0100】
また、画像生成部(例えば表示処理部29)は、n(n:2以上の整数)階調の色情報を用いて、唾液痕による汚れを段階的に示す検知結果画像(例えば非可視センサ画像データ)を生成する。これにより、飛沫汚れ検知装置1は、非可視センサ画像データにおいて唾液痕(例えば飛沫SLV1)の付着している量の違い(大小関係)を定量的に提示できる。
【0101】
また、飛沫汚れ検知装置1は、金属板の所定範囲を同じ被写体とした可視光の撮像により、被写体のカラー画像(例えばカラー画像データ)を生成する可視カメラ部30、をさらに備える。可視カメラ部30は、被写体のカラー画像上に検知結果画像を重畳した重畳画像を外部端末(例えばデータロガーDL、通信端末MT)に出力する。これにより、唾液痕はほぼ無色透明で人には見え難いので、飛沫汚れ検知装置1は、カラー画像データと非可視センサ画像データとの重畳により唾液痕の位置をユーザに対して直感的に把握させ易くできる。
【0102】
また、第1光源(例えば第1投光光源13)は、レーザ光による参照光LS1を照射する。第2光源(例えば第2投光光源15)は、レーザ光による測定光LS2を照射する。これにより、レーザ光を用いることで参照光LS1および測定光LS2の直進性が高くなり、飛沫汚れ検知装置1は、拡散反射光RV1,RV2の強度(光量)を高精度に得ることができる。
【0103】
以上、図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示は、金属等の被測定物に付着する水分あるいは糖類を検知し、被測定物における唾液痕による汚れを高精度に推定する飛沫汚れ検知装置および飛沫汚れ検知方法として有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 飛沫汚れ検知装置
5 非可視センサ部
7 制御部
7a タイミング制御部
10 投光処理部
13 第1投光光源
15 第2投光光源
17 投光光源走査用光学部
20 受光処理部
21、31 撮像光学部
23、33 受光部
25 信号加工部
25a I/V変換回路
25b 増幅回路
25c コンパレータ・ピークホールド処理部
27 検知処理部
27a 閾値設定/飛沫汚染度検知処理部
27b メモリ
27c 検知結果フィルタ処理部
29 表示処理部
30 可視カメラ部
35 撮像信号処理部
37 表示制御部
BS1 下地層
DL データロガー
MT 通信端末
SLV1 飛沫