(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105628
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】修飾ナノダイヤモンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/28 20170101AFI20230724BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230724BHJP
【FI】
C01B32/28
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006575
(22)【出願日】2022-01-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイト https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-19H02495/19H024952019jisseki/, ウェブサイトの掲載日 令和3年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】田村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】多田 薫
(72)【発明者】
【氏名】大澤 六合豊
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AA15
4G146AA17
4G146AB04
4G146AC16B
4G146AC25B
4G146AD15
4G146AD19
4G146AD26
4G146AD40
4G146BA01
4G146BA04
4G146BA09
4G146CB11
4G146CB12
4G146CB13
4G146CB23
4G146CB35
4G146DA25
4G146DA31
4G146DA41
(57)【要約】
【課題】ナノダイヤモンド表面への化学修飾を効率良くでき、処理コストや環境負荷を低減可能な修飾ナノダイヤモンドの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】超臨界条件下の二酸化炭素中で、ナノダイヤモンドと修飾剤とを反応させて得られる修飾ナノダイヤモンドの製造方法であって、前記ナノダイヤモンドは表面に水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、前記修飾剤は水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、前記ナノダイヤモンドと修飾剤のうち一方の水酸基と他方のカルボキシル基とを反応させるものであることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界条件下の二酸化炭素中で、
ナノダイヤモンドと修飾剤とを反応させて得られる修飾ナノダイヤモンドの製造方法であって、
前記ナノダイヤモンドは表面に水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、
前記修飾剤は水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、
前記ナノダイヤモンドと修飾剤のうち一方の水酸基と他方のカルボキシル基とを反応させるものであることを特徴とする修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項2】
前記修飾剤は脂肪酸又は芳香族カルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載の修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸は飽和脂肪酸であることを特徴とする請求項2に記載の修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族カルボン酸はアミノ基又は複数のカルボキシル基を有していることを特徴とする請求項2に記載の修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノダイヤモンドの表面に化学修飾を施した修飾ナノダイヤモンドに関し、超臨界条件下の二酸化炭素を用いた修飾ナノダイヤモンドの製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物理的・化学的に極めて安定で、高い機械的強度を有し、熱伝導性や光学特性、生体親和性に優れる。
そのため、ダイヤモンドのナノマテリアルの一種であるナノダイヤモンドは、ナノコンポジットや光学材料等の機能性材料として、さらに医療分野におけるドラッグデリバリーシステムのキャリアとしてなど、様々な分野でその応用が期待されている。
ナノダイヤモンドの有する機能を発現させるためには、その凝集を抑制し、溶媒や高分子中への良好な分散が要求されるが、分散性を向上する方法として表面化学修飾法が知られている。
【0003】
特許文献1に、有機溶媒を用いたカーボンナノチューブの表面化学修飾方法を開示するが、同公報の方法は不活性ガス等の雰囲気下で有機溶媒中にカーボンナノチューブを分散させ、その後に有機金属化合物を添加してカーボンナノチューブと有機金属化合物を反応させている。
ナノダイヤモンドに対して、このように有機溶媒を用いて表面化学修飾を施すと、有機溶媒中にナノダイヤモンドを分散させた段階で、液相表面張力によってナノダイヤモンドが凝集してしまう。
また、有機溶媒の廃液処理や乾燥処理が必要となり、処理コストや環境負荷が増大する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ナノダイヤモンド表面への化学修飾を効率良くでき、処理コストや環境負荷を低減可能な修飾ナノダイヤモンドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る修飾ナノダイヤモンドの製造方法は、超臨界条件下の二酸化炭素中で、ナノダイヤモンドと修飾剤とを反応させて得られる修飾ナノダイヤモンドの製造方法であって、前記ナノダイヤモンドは表面に水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、前記修飾剤は水酸基及び/又はカルボキシル基を有し、前記ナノダイヤモンドと修飾剤のうち一方の水酸基と他方のカルボキシル基とを反応させるものであることを特徴とする。
例えば、爆轟法により得られたナノダイヤモンドは、粒子表面に水酸基やカルボキシル基等の多数の酸素系官能基を有する。
本発明は、このようなナノダイヤモンドと水酸基及び/又はカルボキシル基を有する修飾剤とを超臨界条件下の二酸化炭素中で反応させ、ナノダイヤモンドの表面を化学修飾することで修飾ナノダイヤモンドを製造する。
【0007】
本発明において、前記修飾剤は脂肪酸又は芳香族カルボン酸であってもよい。
前記脂肪酸は飽和脂肪酸であることが好ましく、例えばステアリン酸などが挙げられる。
一方、前記芳香族カルボン酸はアミノ基又は複数のカルボキシル基を有していることが好ましく、例えばパラアミノ安息香酸やテレフタル酸などが挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機溶媒を使用しないで修飾ナノダイヤモンドの製造が可能で、処理コストや環境負荷を低減できる。
また、二酸化炭素を回収することでその再利用が可能であり、ナノダイヤモンドの表面化学修飾を効率良くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ステアリン酸の修飾率と修飾条件の関係を示す。
【
図3】パラアミノ安息香酸の修飾率と修飾条件の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る修飾ナノダイヤモンドの製造方法を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0011】
<ナノダイヤモンド>
本実施例においては、爆轟法により得られた粒子径約5nmのナノダイヤモンド(東横化学株式会社製)を用いた。
なお、爆轟法により得られるナノダイヤモンドは、ニトロ基を含む火薬により合成され、200nm~10μmの凝集体から得た4nm~6nmの一次粒子である。
本発明においては、粒子表面に水酸基やカルボキシル基等の多数の酸素系官能基を有するナノダイヤモンドであればよく、ナノダイヤモンドの製法に特に制限はない。
【0012】
<修飾剤>
本発明において、修飾剤としては脂肪酸又は芳香族カルボン酸が挙げられる。
脂肪酸としては、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、EPA、DHA等の不飽和脂肪酸が挙げられるが、飽和脂肪酸であることがより好ましい。
飽和脂肪酸としては、例えば炭素数8~11であるカプリル酸、カプリン酸等の中鎖脂肪酸や、炭素数12以上であるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の長鎖脂肪酸が挙げられるが、ナノダイヤモンドの表面に疎水基を導入する観点から長鎖脂肪酸であることがさらに好ましい。
一方、芳香族カルボン酸としては、例えば安息香酸、アントラニル酸、メタアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、サリチル酸、メタヒドロキシ安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸等が挙げられるが、アミノ基又は複数のカルボキシル基を有していることがより好ましい。
例えば、ナノダイヤモンド表面の水酸基とパラアミノ安息香酸のカルボキシル基が反応し、さらにパラアミノ安息香酸のアミノ基を介して他の修飾剤を修飾できれば、ナノダイヤモンド表面への化学修飾が効率良く可能である。
例えば、ナノダイヤモンド表面の水酸基とテレフタル酸の一方のカルボキシル基が反応し、さらにテレフタル酸の他方のカルボキシル基と他の修飾剤が、あるいはナノダイヤモンド表面のカルボキシル基とパラヒドロキシ安息香酸の水酸基が反応し、さらにパラヒドロキシ安息香酸のカルボキシル基と他の修飾剤が反応してもよい。
本実施例においては、修飾剤としてステアリン酸(東京化成工業株式会社製、純度98%)、パラアミノ安息香酸(関東化学株式会社製、純度99%)を例として選択した。
【0013】
<修飾ナノダイヤモンドの製造方法>
セル内にナノダイヤモンド400mgと、ステアリン酸2.0g又はパラアミノ安息香酸2.0gを量り取り、
図1に示す装置にセットした。
次に、セル内に二酸化炭素を流入し、修飾条件として温度条件(50℃、80℃、100℃、120℃)と圧力条件(10MPa、15MPa,20MPa)を設定し、90分間攪拌した。
その後、ゆっくり減圧し、装置から修飾ナノダイヤモンドを取り出した。
なお、二酸化炭素の臨界点は約31℃(304.13K)、7.3MPaであり、上記修飾条件のいずれにおいても二酸化炭素は超臨界状態である。
本発明においては、超臨界条件下の二酸化炭素中でナノダイヤモンドと修飾剤を反応できればよく、使用する装置に制限はない。
また、本実施例においてはナノダイヤモンド:修飾剤=1:5で反応させたが、ナノダイヤモンドと修飾剤の割合が1:8でも同様の結果を得ており、ナノダイヤモンドと修飾剤は1:4~9で反応させるのが好ましい。
本実施例は、温度条件を50℃~120℃、圧力条件を10MPa~20MPa、反応時間90分として修飾条件を設定したが、修飾剤の種類によって温度条件、圧力条件、反応時間にその修飾量は依存する。
【0014】
<修飾率の算出>
容器内に上記製造方法によって得られた修飾ナノダイヤモンドを入れ、ステアリン酸を修飾した場合にはエーテル45mlを、パラアミノ安息香酸を修飾した場合にはエタノール45mlをそれぞれ加えて5000rpmで20分間遠心分離し、未反応の修飾剤を除去した。
次に、真空オーブンで100℃、60分間真空乾燥してエーテルやエタノール、水分を除去した後、さらに80℃、30分間真空乾燥し、デシケーターで30分間静置後に質量A(ナノダイヤモンド表面に修飾剤が結合している状態の質量)を測定した。
その後、さらに80℃、60分間真空乾燥した後、焼却炉で450℃、90分間焼成してナノダイヤモンド表面に結合している修飾剤を熱分解し、焼成後常温になった状態で質量B(ナノダイヤモンド表面に結合した修飾剤を熱分解した後の質量)を測定した。
修飾ナノダイヤモンドの修飾率を、計算式「(質量A-質量B)/質量B×100」により算出した。
その結果を、
図2,3に示す。
なお、
図2,3中には、それぞれ比較例1,2として有機溶媒(ジエチルエーテル又はエタノール)を使用した溶液反応場での修飾率についても示す。
比較例1では、ジエチルエーテル(富士フィルム和光純薬株式会社製、99.5%)100mlを加えたビーカー内に、ナノダイヤモンド400mgとステアリン酸2.0gを量り取り、温度条件25℃、圧力条件約0.101MPaで24時間攪拌してナノダイヤモンドを修飾した。
また、修飾剤にパラアミノ安息香酸を用いた比較例2では、エタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製、99%)100mlを加えたビーカー内に、ナノダイヤモンド400mgとパラアミノ安息香酸2.0gを量り取り、温度条件25℃、圧力条件約0.101MPaで24時間攪拌してナノダイヤモンドを修飾した。
比較例1、2についても、上記修飾率の算出方法により修飾率を求めた。
【0015】
図2にステアリン酸の修飾率を、
図3にパラアミノ安息香酸の結果を示す。
ステアリン酸を修飾した修飾ナノダイヤモンドは、温度や圧力によって修飾率にバラツキがあったものの、だいたい修飾率が15%程度であり、本修飾条件における最大修飾量は温度条件が50℃、圧力条件が15MPaで得られた。
一方、パラアミノ安息香酸を修飾した修飾ナノダイヤモンドは、温度や圧力の増加とともに修飾率が増大し、温度条件が100℃、圧力条件が20MPaで最大修飾量を得た。
本実施例における超臨界条件下の二酸化炭素中での最大修飾量は、それぞれ比較例1,2での修飾量に比べて大きかった。
ここで、ステアリン酸の融点は約0.101MPa(1atm)で約70℃(343K)、パラアミノ安息香酸の融点は約0.101MPa(1atm)で約190℃(463K)である。
そのため、ステアリン酸は上記圧力条件下においては50℃で固体状態、80℃及び100℃では液体状態であった。
一方、パラアミノ安息香酸は、上記温度及び圧力条件下においては固体状態であった。
【0016】
次に、ステアリン酸を例に、ナノダイヤモンド表面にステアリン酸が修飾しているかを、TEM分析、EDS分析、FT-IR分析、TG-DTA測定により確認した。
【0017】
<TEM分析>
上記製造方法によって得られた修飾ナノダイヤモンド(修飾剤:ステアリン酸、温度条件:100℃、圧力条件:15MPa)のTEM分析結果を、
図4(b)に示す。
なお、
図4(a)は試料であるナノダイヤモンド(未処理)の結果である。
【0018】
<EDS分析>
上記修飾ナノダイヤモンドのEDS分析結果を、
図5(b)に示す。
結果から、修飾ナノダイヤモンドはC,Oの分散が均一であった。
【0019】
<FT-IR分析>
上記修飾ナノダイヤモンドと、未処理のナノダイヤモンドのFT-IR分析結果を
図6に示す。
結果から、修飾ナノダイヤモンドは未処理のナノダイヤモンドに比べて、OHピークが減少し、CH
2ピーク及びC=Oピークが増加した。
このことから、ナノダイヤモンド表面でOH基(水酸基)とCOOH基(カルボキシル基)の化学結合が存在していることが確認された。
【0020】
<TG-DTA測定>
上記修飾ナノダイヤモンドと、未処理のナノダイヤモンドのTG-DTA測定結果を
図7に示す。
図7(a)はTG(熱重量測定)の結果であり、修飾ナノダイヤモンドは250℃付近で重量が急激に減少した。
また、
図7(b)はDTA(示差熱分析)の結果であり、70℃と250℃で吸熱ピークが見られた。
このことから、ナノダイヤモンド表面へのステアリン酸の結合が確認された。