(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105646
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】セパレータ、及び、水電解デバイス
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20230724BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20230724BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230724BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230724BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20230724BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20230724BHJP
【FI】
C25B9/00 A
H01M8/0258
C25B15/08 302
C25B1/04
C25B13/02 302
C25B9/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006607
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】常木 達也
(72)【発明者】
【氏名】河村 将史
(72)【発明者】
【氏名】櫛 拓人
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021CA07
4K021CA08
4K021CA09
4K021DB04
4K021DB16
4K021DB28
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
5H126AA08
5H126EE04
5H126EE11
5H126EE25
5H126EE27
(57)【要約】
【課題】水やガスなどの流体の供給、拡散を良好に行うことができるセパレータ、及び、このセパレータを用いた水電解デバイスを提供する。
【解決手段】セパレータ26は、導電性を有する板状のセパレータ本体27と、セパレータ本体27の一端部に形成された流体供給口28Aと、セパレータ本体27の他端部に形成された流体排出口28Bと、流体供給口28Aと流体排出口28Bの間にセパレータ本体27と一体的に形成され、流体を通過させる流路領域40と、流路領域40において、流体供給口28Aに隣接する流路一端部及び流体排出口28Bに隣接する流路他端部に形成され、流体供給口28Aからの流体供給方向Xの流路抵抗を大きくする抵抗大流路部42と、流路領域40において、流体供給口28A及び流体排出口28Bと非隣接の位置に形成され、流体供給方向Xの流路抵抗が前記抵抗大流路部42よりも小さい抵抗小流路部44と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する板状のセパレータ本体と、
前記セパレータ本体の一端部に前記セパレータ本体を貫通して形成された流体供給口と、
前記セパレータ本体の他端部に前記セパレータ本体を貫通して形成された流体排出口と、
前記流体供給口と前記流体排出口の間に前記セパレータ本体と一体的に形成され、流体を通過させる流路領域と、
前記流路領域において、前記流体供給口に隣接する流路一端部及び前記流体排出口に隣接する流路他端部に形成され、前記流体供給口からの流体供給方向の流路抵抗を前記流体供給口と直交する方向の流路抵抗よりも大きくする抵抗大流路部と、
前記流路領域において、前記流体供給口及び前記流体排出口と非隣接の位置に形成され、前記流体供給方向の流路抵抗が前記抵抗大流路部よりも小さい抵抗小流路部と、
を備えた、セパレータ。
【請求項2】
前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部は、前記セパレータ本体の一方面の凹状が他方面で凸状となる凹凸パターンで形成されている、
請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記流体供給口と前記流路領域の間に前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部と隣接して形成され、流体を前記流路領域へ送り出す供給ヘッダと、
前記流体排出口と前記流路領域の間に前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部と隣接して形成され、流体を前記流路領域から排出させる排出ヘッダと、
を備えた、請求項1または請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部は、厚み方向からみて、基準部と、前記基準部よりも一方面側に凹となる第1凹部と、前記基準部よりも他方面側に凹となる第2凹部と、を有し、前記基準部に前記流体供給口及び前記流体排出口が形成されている、
請求項3に記載のセパレータ。
【請求項5】
前記供給ヘッダ及び前記排出ヘッダは、厚み方向からみて、前記基準部と面一に形成されている、
請求項4に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記セパレータ本体の板面の一方面と他方面の両面に前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部が形成された、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項7】
前記抵抗大流路部は、前記流体供給方向と交差する方向に延出される凹状で形成され、前記抵抗小流路部は、前記抵抗大流路部の延出方向と直交する方向に延出される凹状で形成されている、
請求項1~6のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記抵抗小流路部は、前記抵抗大流路部よりも前記流体供給方向と交差する方向に短尺の凹状とされている、
請求項7に記載のセパレータ。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のセパレータを備えた、水電解デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ、及び、このセパレータを用いた水電解デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーの活用として、水素を生成する水電解デバイスや、水素を用いて発電する燃料電池デバイスが注目されている。再生可能エネルギーから得た電力により水電解デバイスで水素を生成して貯留し、必要に応じて水素を用いて燃料電池で発電することにより、安定しない再生可能エネルギーによる場合でも、継続的に電力を供給することができる。
【0003】
このような、水電解デバイスや燃料電池デバイスについては、セルスタックの構成についても開発が行われており、電解質膜、アノード、カソード、セパレータを含むセル構造についても、様々な技術が提案されている。(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、水電解デバイスや燃料電池デバイスにおいては、水やガスなどの流体を供給したり拡散させたりする流路を構成するためにセパレータが用いられる。当該セパレータにより、水やガスなどの流体の供給、拡散が良好に行われると発電効率や水電解効率が向上するため、セパレータ流路の改良が求められている。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して成されたものであり、水やガスなどの流体の供給、拡散を良好に行うことができるセパレータ、及び、このセパレータを用いた水電解デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係るセパレータは、導電性を有する板状のセパレータ本体と、前記セパレータ本体の一端部に前記セパレータ本体を貫通して形成された流体供給口と、前記セパレータ部材の他端部に前記セパレータ本体を貫通して形成された流体排出口と、前記流体供給口と前記流体排出口の間に前記セパレータ本体と一体的に形成され、流体を通過させる流路領域と、前記流路領域において、前記流体供給口に隣接する流路一端部及び前記流体排出口に隣接する流路他端部に形成され、前記流体供給口からの流体供給方向の流路抵抗を前記流体供給口と直交する方向の流路抵抗よりも大きくする抵抗大流路部と、前記流路領域において、前記流体供給口及び前記流体排出口と非隣接の位置に形成され、前記流体供給方向の流路抵抗が前記抵抗大流路部よりも小さい抵抗小流路部と、を備えている。
【0008】
請求項1に係るセパレータは、セパレータ本体と一体的に、流体供給口と流体排出口の間に、流体を通過させる流路領域が形成されている。流路領域には、流体供給口と流体排出口に隣接して、抵抗大流路部が形成され、流体供給口と流体排出口に非隣接の位置に抵抗小流路部が形成されている。抵抗大流路部は、流体供給方向の流路抵抗が、この方向と直交する方向よりも大きい。したがって、流体供給口から供給された液体やガスなどの流体は、流体排出口へ直線的に流れにくくなり、抵抗小流路部へ流れやすくなる。これにより、流体供給口から供給された流体が直線的に流体排出口へ流れることが抑制され、セパレータの流体供給口及び流体排出口から遠い部分へ拡散させ流体を流すことができ、流体の供給、拡散を良好に行うことができる。
【0009】
請求項2に係るセパレータは、前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部が、前記セパレータ本体の一方面の凹状が他方面で凸状となる凹凸パターンで形成されている。
【0010】
請求項2に係るセパレータによれば、比較的厚みの薄い板に容易に流路を形成することができる。
【0011】
請求項3に係るセパレータは、前記流体供給口と前記流路領域の間に前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部と隣接して形成され、流体を前記流路領域へ送り出す供給ヘッダと、前記流体排出口と前記流路領域の間に前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部と隣接して形成され、流体を前記流路領域から排出させる排出ヘッダと、を備えている。
【0012】
請求項3に係るセパレータによれば、供給ヘッダから抵抗大流路部及び抵抗小流路部の両方へ流体を送り出すことができ、流体供給口と隣接しない領域へスムーズに流体を拡散させることができる。また、排出ヘッダで流路領域からスムーズに流体を排出させることができる。
【0013】
請求項4に係るセパレータは、前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部は、厚み方向からみて、基準部と、前記基準部よりも一方面側に凹となる第1凹部と、前記基準部よりも他方面側に凹となる第2凹部と、を有し、前記基準部に前記流体供給口及び前記流体排出口が形成されている。
【0014】
請求項4に係るセパレータによれば、一つのセパレータの一方面と他方面の両面において、流体供給口及び流体排出口を凹凸パターンの凹と容易に連通させることができる。
【0015】
請求項5に係るセパレータは、前記供給ヘッダ及び前記排出ヘッダは、厚み方向からみて、前記基準部と面一に形成されている。
【0016】
請求項5に係るセパレータによれば、供給ヘッダ及び排出ヘッダを容易に形成することができる。
【0017】
請求項6に係るセパレータは、前記セパレータ本体の板面の一方面と他方面の両面に前記抵抗大流路部及び前記抵抗小流路部が形成されている。
【0018】
請求項6に係るセパレータによれば、一つのセパレータの一方面と他方面に、別々の流体を流す流路を形成することができる。
【0019】
請求項7に係るセパレータは、前記抵抗大流路部は、前記流体供給方向と交差する方向に延出される凹状で形成され、前記抵抗小流路部は、前記抵抗大流路部の延出方向と直交する方向に延出される凹状で形成されている。
【0020】
請求項7に係るセパレータによれば、凹状を流体供給方向と交差する方向に延出させることにより、簡易に流体供給方向と異なる方向へ流体を流れやすくすることができる。
【0021】
請求項8に係るセパレータは、前記抵抗小流路部は、前記抵抗大流路部よりも前記流体供給方向と交差する方向に短尺の凹状とされている。
【0022】
請求項8に係るセパレータによれば、凹状を抵抗大流路部よりも短尺とすることにより、簡易に抵抗大流路部よりも流路抵抗が小さい抵抗小流路部を形成することができる。
【0023】
請求項9に係る水電解デバイスは、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のセパレータを備えている。
【0024】
請求項9に係る水電解デバイスによれば、セパレータにより、水やガスなどの流体の供給、拡散が良好に行われるので、水電解効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るセパレータによれば、水やガスなどの流体の供給、拡散を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係る水電解装置に用いられるセパレータのアノード側の平面図である。
【
図2】第1施形態に係る水電解装置の
図1の2-2線に対応する部分のセル断面図である。
【
図3】第1施形態に係る水電解装置の
図1の3-3線に対応する部分の断面図である。
【
図7】(A)は抵抗大流路部の
図4のA-A線の断面図であり、(B)は抵抗小流路部の
図5のB-B線の断面図であり、(C)は抵抗中流路部の
図6のC-C線の断面図である。
【
図8】第1実施形態に係る水電解装置に用いられるセパレータのカソード側の平面図である。
【
図9】(A)は抵抗大流路部の断面図であり、(B)は抵抗小流路部の断面図であり、(C)は抵抗中流路部の断面図である。
【
図10】(A)は、本実施形態の流路領域における水の流れを示す説明図であり、(B)は比較例の流路領域における水の流れを示す説明図である。
【
図11】変形例に係る抵抗小流路部の一部平面図である。
【
図12】第1施形態に係る水電解装置の
図1の3-3線に対応する部分のスタック断面図である。
【
図13】第2実施形態に係る水電解装置に用いられるセパレータのアノード側の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
本発明の水電解デバイスの第1実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態では、固体高分子電解質膜型(PEM)の水電解装置10Aを例に説明する。
図1には、水電解装置10Aのセル20のセパレータ26の平面図が示され、
図2、3には、セル20の一部概略断面が示されている。
【0028】
図2及び
図3に示されるように、セル20は、電解質層22を備え、電解質層22の一方面側に、アノード触媒層24、アノードガス拡散層25、及び、セパレータ26が、この順に積層されている。また、電解質層22の他方面側に、カソード触媒層34、カソードガス拡散層35、及び、セパレータ36が、この順に積層されている。
【0029】
電解質層22は、方形状とされ、炭素-フッ素系高分子膜や炭素-フッ素系高分子膜などを用いることができる。電解質層22の一方面に積層されるアノード触媒層24は、電解質層22の一方面の外周よりも狭い内周側を覆っており、Ir系触媒などを用いることができる。電解質層22の他方面に積層されるカソード触媒層34は、電解質層22の他方面の外周よりも狭い内周側を覆っており、Pt/カーボン系触媒などを用いることができる。
【0030】
アノードガス拡散層25は、アノード触媒層24に積層されている。アノードガス拡散層25は、平面視でアノード触媒層24と略同一形状とされている。アノードガス拡散層25は、多孔質体、粉末焼結体、繊維焼結体、金属メッシュ、フェルトなどの、層内を流体が流通可能とする物質を用いることができる。
【0031】
アノードガス拡散層25には、セパレータ26が積層されている。セパレータ26の詳細については後述する。
【0032】
カソードガス拡散層35は、カソード触媒層34に積層されている。カソードガス拡散層35は、平面視でカソード触媒層34と略同一形状とされている。カソードガス拡散層35は、多孔質体、粉末焼結体、繊維焼結体、金属メッシュ、フェルトなどの、層内を流体が流通可能とする物質を用いることができる。
【0033】
カソードガス拡散層35には、セパレータ36が積層されている。セパレータ36の詳細については後述する。セパレータ26とセパレータ36の間に、電圧印加手段11により電圧が印加される。
【0034】
図1に示されるように、セパレータ26は、長方形板状とされたセパレータ本体27で構成されており、セパレータ本体27に、流体用開口28、流路領域40が形成されている。なお、
図1は、
図2、3の断面の下側からみた平面図となっている。
【0035】
流体用開口28は、セパレータ本体27の4つの角の各々に形成されており、一方面から見たとき、一端側の一の流体用開口28が流体供給口28Aとなり、一の流体供給口28Aと対角線上にある他端側の流体用開口28が流体排出口28Bとなる。平面視で、流体供給口28Aから流路領域40へ流体が供給される方向を流体供給方向Xとする。ここでは、流体供給口28Aから流路領域40の最短距離となる方向を流体供給方向Xとする。一方面側のその他の2個の流体用開口28周りには、開口シール部材56が設けられ、セパレータ本体27と電解質層22の間がシールされている。
【0036】
流路領域40は、流体を通過させる領域である。流路領域40は、平面視で、流体供給口28Aと流体排出口28Bの間に、アノードガス拡散層25と対応する形状でセパレータ26と一体的に形成されている。流路領域40には、抵抗大流路部42、抵抗小流路部44、抵抗中流路部46が形成されている。
【0037】
図1に示されるように、抵抗大流路部42は、流路領域40を縦横に4分割して、領域A1、B1、C1、D1とした時の、流体供給口28Aに隣接する流路一端部(領域A1)、及び、流体排出口28Bに隣接する流路他端部(領域D1)、に形成されている。
図4に示されるように、抵抗大流路部42は、平面視において、流体供給方向Xと直交するY方向に長尺の長孔42Aと、同方向に長尺の凸状42Bが、流体供給方向X及びY方向に交互に並べられて形成されている。抵抗大流路部42は、流体供給方向Xの流路抵抗が大となり、Y方向の流路抵抗が小となっている。
【0038】
抵抗小流路部44は、流路領域40において、流体供給口28A及び流体排出口28Bと非隣接の領域B1及び領域C1に形成されている。
図5に示されるように、抵抗小流路部44は、平面視において、抵抗大流路部42を90°回転させた構成とされており、流体供給方向Xに長尺の長孔44Aと、同方向に長尺の凸状44Bが、流体供給方向X及びY方向に交互に並べられて形成されている。抵抗小流路部44は、流体供給方向Xの流路抵抗が小となり、Y方向の流路抵抗が大となっている。
【0039】
抵抗中流路部46は、流路領域40の中央部分に配置されている。
図6に示されるように、抵抗中流路部46は、平面視において、流体供給方向Xと直交するY方向に長尺の長孔46Aと、同方向に長尺の凸状46Bが、流体供給方向X及びY方向に交互に並べられて形成されている。長孔46A及び凸状46Bの流体供給方向Xの長さは、長孔42A及び凸状42Bの同方向の長さよりも短く設定されている。抵抗中流路部46は、流体供給方向Xの流路抵抗が中となり、Y方向の流路抵抗が小となっている。
【0040】
抵抗大流路部42、抵抗中流路部46、抵抗小流路部44における、流体供給方向Xの流路抵抗は、抵抗大流路部42が最も大きく、抵抗小流路部44が最も小さく、抵抗中流路部46は、抵抗大流路部42よりも小さく抵抗小流路部44よりも大きくなっている。
【0041】
図7(A)(B)(C)に示されるように、抵抗大流路部42、抵抗小流路部44、抵抗中流路部46は、厚み方向からみて(断面視で)、セパレータ本体27の一方面側の凹状が他方面で凸状となる凹凸パターンで形成されている。当該凹凸パターンは、厚み方向の中央に位置する、基準部αと、基準部αよりも一方面側に凹となる第1凹部βと、基準部αよりも他方面側に凹となる第2凹部γと、を有している。第1凹部βと第2凹部γの深さは同じに設定されている。
【0042】
図7(A)に示されるように、一方面側(アノードガス拡散層25に対向する側)において、抵抗大流路部42の長孔42Aは、第1凹部βで形成され、隣り合う長孔42A同士の間に第2凹部γ及び基準部αが形成されている。また、一方面側において、抵抗小流路部44の長孔44Aは、第1凹部βで形成され、隣り合う長孔44A同士の間に第2凹部γ及び基準部αが形成されている。また、一方面側において、抵抗中流路部46の長孔46Aは、第1凹部βで形成され、隣り合う長孔46A同士の間に第2凹部γ及び基準部αが形成されている。第1凹部β、第2凹部γは、一方面側と他方面側で凹凸が逆になる、すなわち、第1凹部βは一方面側で凹、他方面側で凸となり、第2凹部γは一方面側で凸、他方面側で凹となる。このように両面に凹凸となるパターンは、両面プレスで容易に形成することができる。
【0043】
図1に示されるように、セパレータ本体27の流路領域40を挟んで一方側には、流体用開口28以外の部分に、抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44と連続して供給ヘッダ50が形成されている。供給ヘッダ50は、
図3に示されるように基準部αと面一の平坦面で形成されている。
【0044】
セパレータ本体27の流路領域40を挟んで他方側には、流体用開口28以外の部分に、抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44と連続して、排出ヘッダ52が形成されている。排出ヘッダ52は、供給ヘッダ50と同様に、基準部αと面一の平坦面で形成されている。
【0045】
セパレータ本体27の外周部分には、外周シール層54が形成されている。
図2に示されるように、外周シール層54は、電解質層22とセパレータ26の間をシールしている。また、
図1に示されるように、開口シール部材56と連結されている。外周シール層54、開口シール部材56は、樹脂、ゴム材料で形成することができる。
【0046】
図2に示されるように、セパレータ本体27は、第2凹部γの底部がアノードガス拡散層25と接触するように配置されている。そして、アノードガス拡散層25と第1凹部β及び基準部αの間に空間が構成され、流体の通路となる。
【0047】
セパレータ26は、導電性材料で形成されており、電圧印加手段11により電圧が印加される。
【0048】
セパレータ36は、セパレータ26と同一形状とされている。
図8において、セパレータ36は、
図2、3の断面の上側からみた平面図となっている。セパレータ36は、セパレータ本体37で構成されており、セパレータ26と同様に、セパレータ本体37に、流体用開口28、流路領域40が形成されている。そして、流路領域40には、抵抗大流路部42、抵抗小流路部44、抵抗中流路部46が形成されている。
【0049】
流体用開口28のうち、排出ヘッダ52に設けられたものが、カソード側において、カソード流体排出口28Cとなる。一方面側のカソード流体排出口28C以外の3個の流体用開口28周りには、開口シール部材56が設けられ、セパレータ本体37と電解質層22の間がシールされている。
【0050】
図9(A)に示されるように、一方面側において、抵抗大流路部42の長孔42Aは、第2凹部γで形成され、隣り合う長孔42A同士の間に第1凹部β及び基準部αが形成されている。また、一方面側において、抵抗小流路部44の長孔44Aは、第2凹部γで形成され、隣り合う長孔44A同士の間に第1凹部β及び基準部αが形成されている。また、一方面側において、抵抗中流路部46の長孔46Aは、第2凹部γで形成され、隣り合う長孔46A同士の間に第1凹部β及び基準部αが形成されている。すなわち、凹凸パターンにおいて、セパレータ26の他方面側が、セパレータ36において一方面側となる。
【0051】
図2に示されるように、セパレータ36では、セパレータ本体37は、第1凹部βの底部がカソードガス拡散層35と接触するように配置されている。そして、カソードガス拡散層35と第2凹部γ及び基準部αの間に空間が構成され、流体の通路となる。
【0052】
図8に示されるように、セパレータ本体37の流路領域40を挟んで一方側には、供給ヘッダ50が基準部αと面一の平坦面で形成されている。また、セパレータ本体27の流路領域40を挟んで他方側には、排出ヘッダ52が基準部αと面一の平坦面で形成されている。
【0053】
セパレータ本体27の外周部分には、外周シール層54が形成されている。
図2に示されるように、外周シール層54は、電解質層22とセパレータ26の間をシールしている。また、開口シール部材56と連結されている。外周シール層54、開口シール部材56は、樹脂、ゴム材料で形成することができる。
【0054】
セパレータ36は、導電性材料で形成されており、電圧印加手段11により電圧が印加される。
【0055】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0056】
流体供給口28Aから供給された水は、供給ヘッダ50へ流入し、供給ヘッダ50から流路領域40へ流入する。流路領域40には、流体供給口28Aと供給ヘッダ50を介して隣接するように領域A1に抵抗大流路部42が設けられているので、領域Aと領域Bが同じ流路抵抗の場合と比較して、領域A1への水の流入が抑制される。一方、流体供給口28Aと非隣接の領域B1に抵抗小流路部44が設けられているので、領域B1への水の流入は促進される。これにより、水が流体供給口28Aから直線的に流体排出口28Bへ流れる量が抑制され、流路領域40において、供給された水を良好に拡散させることができる。
【0057】
水電解装置10Aでは、セパレータ26とセパレータ36間への電圧印加により、アノード触媒層24の表面では、以下の反応(1)が生じる。
【0058】
H2O → 2H+ + 0.5O2 + 2e- (1)
【0059】
酸素O2は、アノードガス拡散層25で拡散され、後述の未反応の水(H2O)と共に流体排出口28Bへ排出される。
【0060】
水素イオンH+は、電解質層22を通ってカソード側へ移動し、外部配線で供給される電子e-を得て(反応(2))水素H2となり、カソードガス拡散層35で拡散され、排出ヘッダ52を通ってカソード流体排出口28Cから送出される。
【0061】
2H+ + 2e- → H2 (2)
【0062】
流路領域40の領域A1、領域B1へ流入した水は、流路領域40の流体供給方向Xにおいて、領域C1、領域D1へ各々向かい、一部が中央部の抵抗中流路部46を通過する。領域A1で流体供給方向Xに流れ難かった水は、領域C1で流れやすくなり、領域B1で流体供給方向Xに流れやすかった水は、領域D1で流れ難くなる。また、中央部の抵抗中流路部46では、中程度の流体抵抗で水が流れ、領域C1、領域D1を経て排出ヘッダ52へ流入し、流体排出口28Bへ排出される。
【0063】
図10には、流路領域40の流体抵抗をすべて同じに設定した場合の流体の流れ(B)と、本実施形態のように流体抵抗の異なる領域を設けた場合の流体の流れ(A)が示されている。流路領域40の流体抵抗をすべて同じに設定した場合、
図10(B)に示すように、流体供給口28Aから直線的に流体排出口28Bへ流れる量が多くなる。一方、本実施形態のように流体抵抗の異なる領域を設けることにより、
図10(A)に示すように、流路領域40における流体の流れが均等化され、流路領域40全体への拡散を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、供給ヘッダ50、排出ヘッダ52を有しているので、供給ヘッダ50から抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44の両方へ流体を送り出すことができ、流体供給口28Aと隣接しない領域へスムーズに水を拡散させることができる。また、排出ヘッダ52で流路領域40からスムーズに水を排出させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、抵抗大流路部42、抵抗小流路部44、抵抗中流路部46が、セパレータ本体27、37の一方面の凹状が他方面で凸状となる凹凸パターンで形成されている。したがって、比較的厚みの薄い板に容易に流路を形成することができ、セパレータ26、37の厚みを薄くすることができる。
【0066】
また、本実施形態では、基準部αに流体供給口28A及び流体排出口28Bが形成されている。したがって、一つのセパレータ26、36の一方面と他方面の両面において、流体供給口28A、及び流体排出口28Bを、第1凹部β、第2凹部γと容易に連通させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、供給ヘッダ50及び排出ヘッダ52が、厚み方向からみて、基準部αと面一に形成されている。したがって、供給ヘッダ50及び排出ヘッダ52を容易に形成することができる。
【0068】
また、本実施形態では、セパレータ本体27、37の板面の一方面と他方面の両面に抵抗大流路部42、抵抗小流路部44、抵抗中流路部46を有する流路領域40が形成されている。したがって、一つのセパレータ26、36の一方面と他方面に、別々の流体を流す流路を形成することができる。
【0069】
また、本実施形態では、抵抗大流路部42を、流体供給方向Xと直交する方向に延出される長孔で形成し、抵抗小流路部44を、抵抗大流路部42の長孔延出方向と直交する方向に延出される長孔で形成している。したがって、簡易に流体供給方向と異なる方向へ、流体を流れやすくすることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、抵抗大流路部42、抵抗小流路部44を、長孔延出方向を変えることにより流路抵抗を異ならせたが、長孔延出長さを変えることにより流路抵抗を異ならせてもよい。例えば、抵抗小流路部44の長孔延出長さを抵抗大流路部42よりも短くすることにより、流路抵抗を小さくすることができる。また、
図11に示されるように、平面視で円形の凹凸パターンとすることにより、流路抵抗を小さくすることができる。
【0071】
また、本実施形態のセル20を、
図12に示されるように、複数積層してセルスタック20Sとすることもできる。この場合には、一のセパレータ26の一方面側をアノードガス拡散層25に対向させ、他方面側をカソードガス拡散層35に対向させてセパレータ36の一方面側と同様に用いることができる。
【0072】
また、本実施形態のセパレータ26を水電解装置10Aに用いることにより、一方面側を水を供給するアノード側に利用し、他方面側をカソード側で水素ガスの回収に用いることができる。したがって、セパレータ26の凹と凸が一方面側と他方面側で逆になる場合でも、一枚のセパレータ26の表裏に好適に異なる流体を流すことができる。
【0073】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様の部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0074】
本実施形態の水電解装置10Bは、セパレータの平面形状、流路領域に形成されたパターン、及び、流体用開口の配置のみ第1実施形態と異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0075】
図13に示されるように、本実施形態のセパレータ66は、一方面側に平面視で、長方形板状の短辺に凸部66A、66Bが突出形成されている。凸部66Aには、流体供給口28Aが形成され、凸部66Bには流体排出口28Bが形成されている。本実施形態の説明では、流体供給口28A、流体排出口28B以外の流体用開口は省略している。
【0076】
流路領域40には、抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44が形成されている。抵抗大流路部42は、流路領域40を縦に4分割して、一方端を領域A2、真ん中の2つを領域B2、他方端を領域C2とした時の、流体供給口28A及び流体排出口28Bに隣接する流路一端部(領域B2)に形成されている。抵抗小流路部44は、流路領域40において、流体供給口28A及び流体排出口28Bと非隣接の領域A2及び領域C2に形成されている。
【0077】
セパレータ本体27の流路領域40を挟んで一方側には、流体用開口28以外の部分に、抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44と連続して供給ヘッダ50が形成されている。セパレータ本体27の流路領域40を挟んで他方側には、流体用開口28以外の部分に、抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44と連続して、排出ヘッダ52が形成されている。
【0078】
本実施形態のセパレータ66を用いた場合でも、流路領域40の全体に流体を流すことができる。
【0079】
なお、前述の各実施形態では、水電解装置10A、10Bにアノードガス拡散層25、カソードガス拡散層35を設けたが、アノードガス拡散層25、カソードガス拡散層35は省略してもよい。
【0080】
また、前述の各実施形態では、セパレータ26、36の流路領域40の抵抗大流路部42及び抵抗小流路部44を、セパレータ本体27、37の一方面の凹状が他方面で凸状となる凹凸パターンで形成したが、片面のみに凹凸が形成されるパターンとしてもよい。
【0081】
また、前述の各実施形態では、セパレータ26、36に供給ヘッダ50、排出ヘッダ52を形成したが、供給ヘッダ50、排出ヘッダ52の領域に、別途シール部材を配置して形成することもできる。
【0082】
また、前述の各実施形態では、セパレータ26、36の第1凹部βと第2凹部γの深さを同じに設定したが、用途に応じて深さを変えてもよい。例えば、本実施形態のように水電解装置のアノード側の流路を構成するセパレータ26では、一方面側の第1凹部βを他方面側の第2凹部γよりも深くすることができる。このように設定することにより、流体の流量に応じてセパレータの裏表で効率的に流体を通過させることができる。
【0083】
また、前述の各実施形態では、固体高分子電解質膜型(PEM)の水電解装置を例に説明したが、本発明は、アニオン交換膜型(AEM)の水電解装置に用いることもできる。
【符号の説明】
【0084】
10A、10B 水電解装置(水電解デバイス)
26、66 セパレータ
27 セパレータ本体
28A 流体供給口
28B 流体排出口
40 流路領域
42 抵抗大流路部
44 抵抗小流路部
50 供給ヘッダ
52 排出ヘッダ
α 基準部
β 第1凹部
γ 第2凹部
X 流体供給方向