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特開2023-105648電動弁制御装置および電動弁制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105648
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】電動弁制御装置および電動弁制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20230724BHJP
   H02P 8/26 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
F16K31/04 K
F16K31/04 A
H02P8/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006610
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 亮直
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖明
【テーマコード(参考)】
3H062
5H580
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB05
3H062BB33
3H062CC02
3H062CC15
3H062DD01
3H062EE06
3H062FF01
3H062GG02
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
5H580BB06
5H580CA02
5H580CA12
5H580FA04
5H580FB03
5H580FD17
5H580HH09
(57)【要約】
【課題】電動弁固有の基準位置(原点)を適切に探索しやすくする。
【解決手段】電動弁制御装置は、軸線運動がストップ機構によって制限される方向にステップを進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、センサからロータの感知角を取得する回転検出部と、取得された感知角を記録データとして保持する記憶部と、取得された感知角に基づいて、ロータの停止状態を検出する停止検出部と、記録データにおいて、停止状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、停止状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、差分が所定値より大きいステップから進行方向へ所定数進んだステップをロータの回転の原点として判別する原点判別部と、を備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、前記弁体の前記軸線運動を制限する第2機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、
前記軸線運動が前記第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する回転検出部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する記憶部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの停止状態を検出する停止検出部と、
前記記録データにおいて、前記停止状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、前記停止状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該遡ったステップにおける前記感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、前記差分が前記所定値より大きいステップを特定し、特定された前記ステップから進行方向へ所定数進んだステップを前記ロータの回転の原点として判別する原点判別部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項2】
前記ロータの前記角度として所定幅で循環するパラメータを用い、
前記原点判別部は、前記停止状態が検出された前記ステップにおける前記感知角から前記所定値だけ正方向に回転した角度を最大角とし、前記停止状態が検出された前記ステップにおける前記感知角から前記所定値だけ負方向に回転した角度を最小角とする基準範囲を設定し、前記遡ったステップにおける前記感知角が当該基準範囲を逸した場合に、前記差分が前記所定値より大きいと判定し、
前記基準範囲が前記パラメータの境界を含み前記最大角が前記最小角より小さい値を示す場合に、前記基準範囲の前記最小角から前記所定幅の上限までの範囲と、前記所定幅の下限から前記基準範囲の前記最大角までの範囲とを、前記基準範囲として判断する論理演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動弁制御装置。
【請求項3】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、
ステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する回転検出部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する記憶部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの脱調状態を検出する脱調検出部と、
前記記録データにおいて、前記脱調状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、前記脱調状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該遡ったステップにおける前記感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、前記差分が前記所定値より大きいステップを特定し、特定された前記ステップから進行方向へ所定数進んだステップを脱調の契機位置として判別する契機位置判別部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項4】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、前記弁体の前記軸線運動を制限する第2機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、
前記軸線運動が前記第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する機能と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの停止状態を検出する機能と、
前記記録データにおいて、前記停止状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、前記停止状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該遡ったステップにおける前記感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、前記差分が前記所定値より大きいステップを特定し、特定された前記ステップから進行方向へ所定数進んだステップを前記ロータの回転の原点として判別する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【請求項5】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、
ステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する機能と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの脱調状態を検出する機能と、
前記記録データにおいて、前記脱調状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、前記脱調状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該遡ったステップにおける前記感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、前記差分が前記所定値より大きいステップを特定し、特定された前記ステップから進行方向へ所定数進んだステップを脱調の契機位置として判別する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【請求項6】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、前記弁体の前記軸線運動を制限する第2機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、
前記軸線運動が前記第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する回転検出部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する記憶部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの停止状態を検出する停止検出部と、
前記記録データにおいて、前記ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、前記停止状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該判定対象のステップにおける前記感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、前記差分が前記所定値以下であると最初に判定された前記判定対象のステップを前記ロータの回転の原点として判別する原点判別部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項7】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、
ステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する回転検出部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する記憶部と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの脱調状態を検出する脱調検出部と、
前記記録データにおいて、前記ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、前記脱調状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該判定対象のステップにおける前記感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、前記差分が前記所定値以下であると最初に判定された前記判定対象のステップを脱調の契機位置として判別する契機位置判別部と、を備えることを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項8】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、前記弁体の前記軸線運動を制限する第2機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、
前記軸線運動が前記第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する機能と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの停止状態を検出する機能と、
前記記録データにおいて、前記ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、前記停止状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該判定対象のステップにおける前記感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、前記差分が前記所定値以下であると最初に判定された前記判定対象のステップを前記ロータの回転の原点として判別する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【請求項9】
ロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、前記ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、
ステップを1つずつ進行させるように、前記ステッピングモータに指示角を指示する機能と、
1ステップ毎に、前記センサから前記ロータの前記感知角を取得する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角を記録データとして保持する機能と、
1ステップ毎に、取得された前記感知角に基づいて、前記軸線運動の制限による前記ロータの脱調状態を検出する機能と、
前記記録データにおいて、前記ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、前記脱調状態が検出された前記ステップにおける前記感知角と当該判定対象のステップにおける前記感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、前記差分が前記所定値以下であると最初に判定された前記判定対象のステップを脱調の契機位置として判別する機能と、を発揮させることを特徴とする電動弁制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁に関し、特にロータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁として、弁開度を検出するための磁気センサを備えるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。ロータとともに回転する作動ロッドの一端に弁体が設けられ、他端にマグネット(センサマグネット)が設けられる。そのセンサマグネットと軸線方向に対向するように磁気センサが設けられる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構により弁体の軸線運動に変換される。ロータの回転に伴う磁束の変化を磁気センサで捉えることによりセンサマグネットの回転角度ひいては弁体の軸線方向位置を検出でき、弁開度を算出できる。
【0004】
電動弁内において上下動する弁体には、制御の基準となる基準位置が設定される。ロータが弁閉方向への回転を続けて「原点」ともよばれる基準位置に至ったとき、ロータはストッパにより回転を制限される(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
同タイプの電動弁であっても、基準位置には個体差が生じる。電動弁ごとに基準位置を一律に定めることは適切ではない。このため、電動弁の製造時においては、電動弁ごとに固有の基準位置を検出し、記録しておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-135908号公報
【特許文献2】特開2020-204344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロータがストッパによる回転制限を受けるとき、ロータを駆動するステッピングモータの逆起電力が低下する。そこで、ロータを弁閉方向に回転させつつ、ステッピングモータの逆起電力が大きく変化する地点を探ることで基準位置を特定する方法が考えられる。このとき、ロータを高速回転させる場合、基準位置においてストッパに強い衝撃が加わるため好ましくない。一方、ロータを低速回転させる場合には、逆起電力の変化を検出しづらくなる。また、ストッパではなく、金属屑など異物によりロータの動きが制限された場合、基準位置が誤認識されてしまう可能性もある。
【0008】
本発明の主たる目的は、電動弁固有の基準位置(原点)を適切に探索するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様における電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、弁体の軸線運動を制限する第2機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御し、軸線運動が第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する回転検出部と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する記憶部と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの停止状態を検出する停止検出部と、記録データにおいて、停止状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、停止状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、差分が所定値より大きいステップを特定し、特定されたステップから進行方向へ所定数進んだステップをロータの回転の原点として判別する原点判別部と、を備える。
【0010】
本発明の別の態様における電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御し、ステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する回転検出部と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する記憶部と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの脱調状態を検出する脱調検出部と、記録データにおいて、脱調状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、脱調状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、差分が所定値より大きいステップを特定し、特定されたステップから進行方向へ所定数進んだステップを脱調の契機位置として判別する契機位置判別部と、を備える。
【0011】
本発明のある態様における電動弁制御プログラムは、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、弁体の軸線運動を制限する第2機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、軸線運動が第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する機能と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの停止状態を検出する機能と、記録データにおいて、停止状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、停止状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、差分が所定値より大きいステップを特定し、特定されたステップから進行方向へ所定数進んだステップをロータの回転の原点として判別する機能と、を発揮させる。
【0012】
本発明の別の態様における電動弁制御プログラムは、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、ステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する機能と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの脱調状態を検出する機能と、記録データにおいて、脱調状態が検出されたステップの方からステップの遡りを繰り返し、脱調状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定し、差分が所定値より大きいステップを特定し、特定されたステップから進行方向へ所定数進んだステップを脱調の契機位置として判別する機能と、を発揮させる。
【0013】
本発明の別の態様における電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、弁体の軸線運動を制限する第2機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御し、軸線運動が第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する回転検出部と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する記憶部と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの停止状態を検出する停止検出部と、記録データにおいて、ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、停止状態が検出されたステップにおける感知角と当該判定対象のステップにおける感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、差分が所定値以下であると最初に判定された判定対象のステップをロータの回転の原点として判別する原点判別部と、を備える。
【0014】
本発明の別の態様における電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御し、ステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する回転指示部と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する回転検出部と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する記憶部と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの脱調状態を検出する脱調検出部と、記録データにおいて、ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、脱調状態が検出されたステップにおける感知角と当該判定対象のステップにおける感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、差分が所定値以下であると最初に判定された判定対象のステップを脱調の契機位置として判別する契機位置判別部と、を備える。
【0015】
本発明の別の態様における電動弁制御プログラムは、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる第1機構と、弁体の軸線運動を制限する第2機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、軸線運動が第2機構によって制限される方向にステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する機能と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの停止状態を検出する機能と、記録データにおいて、ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、停止状態が検出されたステップにおける感知角と当該判定対象のステップにおける感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、差分が所定値以下であると最初に判定された判定対象のステップをロータの回転の原点として判別する機能と、を発揮させる。
【0016】
本発明の別の態様における電動弁制御プログラムは、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構と、ロータの角度を計測して感知角を得るセンサと、を有する電動弁を制御するコンピュータに、ステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角を指示する機能と、1ステップ毎に、センサからロータの感知角を取得する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角を記録データとして保持する機能と、1ステップ毎に、取得された感知角に基づいて、軸線運動の制限によるロータの脱調状態を検出する機能と、記録データにおいて、ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、脱調状態が検出されたステップにおける感知角と当該判定対象のステップにおける感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、差分が所定値以下であると最初に判定された判定対象のステップを脱調の契機位置として判別する機能と、を発揮させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電動弁固有の基準位置(原点)を適切に探索しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
図2】ステータおよびその周辺の構成を表す図である。
図3】ロータの構成を表す図である。
図4】磁気センサとセンサマグネットおよびセンサマグネットから発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図5】センサマグネットの平面図である。
図6】センサマグネットのセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
図7】角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
図8】ロータの移動範囲の模式図である。
図9】原点検出の動作におけるステップとロータ角度の遷移を示すグラフである。
図10図10(A)は、理想的な挙動におけるステップとロータ角度の遷移を示すグラフである。図10(B)は、現実的な挙動におけるステップとロータ角度の遷移を示すグラフである。
図11図11(A)は、理想的な挙動を前提として原点の判別方法を説明するためのグラフである。図11(B)は、現実的な挙動を前提として原点の判別方法を説明するためのグラフである。
図12図12(A)は、誤差範囲が角度の境界をまたがない例を示すグラフである。図12(B)は、誤差範囲の上側が角度の境界をまたぐ例を示すグラフである。図12(C)は、誤差範囲の下側が角度の境界をまたぐ例を示すグラフである。
図13】誤差範囲の内外を判定するための真理値表である。
図14】電動弁制御装置の機能ブロック図である。
図15】メイン処理過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0020】
図1は、実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その冷凍サイクルの膨張弁として機能する。
【0021】
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、「バルブボディ」として機能する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。第1ボディ6および第2ボディ8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。第2ボディ8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。第1ボディ6は第2ボディ8よりも溶接性に優れ、第2ボディ8は第1ボディ6よりも加工性に優れている。
【0022】
第1ボディ6は、外径が下方に向けて段階的に縮径する段付円筒状をなす。第1ボディ6の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。第1ボディ6の下部外周面には、電動弁1を図示しない配管ボディに組み付けるための雄ねじ10が形成されている。なお、配管ボディには、凝縮器側から延びる配管や、蒸発器につながる配管などが接続されるが、その詳細については説明を省略する。第1ボディ6における雄ねじ10のやや上方の外周面には、環状溝からなるシール収容部12が形成され、シールリング14(Oリング)が嵌着されている。
【0023】
第1ボディ6の下部には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。第2ボディ8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に圧入されている。第2ボディ8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0024】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0025】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が第1ボディ6の上部中央に圧入され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。
【0026】
作動ロッド32における弁体34のやや上方にばね受け42が設けられ、ガイド部材36の底部にもばね受け44が設けられている。ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0027】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0028】
キャン66は、非磁性金属(本実施形態ではSUS)からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が制限される。キャン66の下端と第1ボディ6との境界に沿って全周溶接が施されることにより(図示略)、ボディ5とキャン66との固定およびシールが実現されている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0029】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。これらコイル73およびボビン74により「コイルユニット75」が構成される。本実施形態では、三相電流を供給するためのモータユニット3つのコイルユニット75が、積層コア70の中心軸に対して120度ごとに設けられている(詳細後述)。
【0030】
ステータ64は、モータユニット3のケース76と一体に設けられている。すなわち、ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」または「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を「ステータユニット78」とも称する。
【0031】
ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられている。第1ボディ6における係止部52のやや下方の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0032】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。ロータマグネット104およびセンサマグネット106は、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られたものであるが、その詳細については後述する。
【0033】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。ねじ送り機構109は、「ロータ60の回転運動を弁体34の軸線運動に変化させる第1機構」の例である。
【0034】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0035】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。本実施形態では、回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0036】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0037】
それぞれのボビン74からはコイル73につながる一対の端子117が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子81」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部79が一体に設けられ、そのコネクタ部79の内方に接続端子81が配置されている。
【0038】
ロータ60の下方にはストッパ90が形成される。特許文献2に示すようにストッパ90の構成は既知である。作動ロッド32が弁閉位置に至ると、ロータ60にはスプリング116による弾性反力がかかり、弁閉が安定維持される。最終的には、ストッパ90がガイド部材36の一部として形成される図示しない突部(係止部)に当接することにより、ロータ60の弁閉方向への回転が完全に制限される。以下、ストッパ90が突部と当接したときのステップをステップの「原点」とする。また、本実施形態においてはステップの原点において弁体34が「基準位置」にあるものとする。
【0039】
図2は、ステータ64およびその周辺の構成を表す図である。図2(A)は図1のA-A矢視断面に対応し、ステータユニット78の断面図である。図2(B)はステータ64のみ(樹脂モールド前の状態)を表す図である。なお、図2(A)には参考のため、キャン66およびロータ60を示している(二点鎖線参照)。
【0040】
モータユニット3が三相のモータであるため、図2(A)に示すように、ロータ60の軸線Lの周りに等間隔でコイルユニット75が設けられている。図2(B)にも示すように、積層コア70の内周部に軸線Lに対して120度の間隔でスロット120a~120c(これらを特に区別しないときは「スロット120」と総称する)が設けられている。各スロット120には、その中央から半径方向内向きに突出する突極122a~122c(「突極122」と総称する)が形成され、それぞれU相コイル73a、V相コイル73b、W相コイル73c(「コイル73」と総称する)が組み付けられている。互いに隣接するスロット120の間にも、横断面U字状のスリット124が形成され、磁路の最適化が図られている。
【0041】
ロータマグネット104は、キャン66を介して突極122a~122cと対向する。本実施形態では図2(A)に示すように、ロータマグネット104が雄ねじ10極に磁化されているが、その極数については適宜設定できる。
【0042】
次に、ロータ60におけるマグネットの構成について詳細に説明する。
図3は、ロータ60の構成を表す図である。図3(A)は斜視図、図3(B)は正面図、図3(C)は平面図、図3(D)は図3(C)のB-B矢視断面図である。図中の「N」はN極、「S」はS極を示す。なお、同図においては、説明の便宜上、回転軸62(図1参照)の表記を省略している。
【0043】
ロータ60は、ロータコア102の外周面に沿ってロータマグネット104を有し、ロータコア102の軸端部にセンサマグネット106を有する(図3(A),図3(D))。ロータマグネット104は円筒状をなし、外周面10極着磁とされている(図3(B),図3(C))。一方、センサマグネット106は環状をなし、平面2極着磁とされている。
【0044】
図3(D)に示したように、ロータマグネット104の内周面が環状溝140に嵌合し、センサマグネット106の下面が環状溝144に嵌合している。すなわち、環状溝140は、ロータコア102からのロータマグネット104の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。同様に、環状溝144は、ロータコア102からのセンサマグネット106の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。
【0045】
以上の構成を前提として、次に、磁気センサ119がロータ60の回転角度を検出する方法について説明する。なお、以下においては、図1の上下方向を「開閉方向」または「上下方向」とよぶ。
【0046】
図4は、磁気センサ119とセンサマグネット106およびセンサマグネット106から発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図4は、磁気センサ119およびセンサマグネット106を側面から見たときの模式図である。図4に示すようにセンサマグネット106(永久磁石)のNからSに磁力線が発生する。センサマグネット106の直上に位置する磁気センサ119は、センサマグネット106から発生する磁力線を検出する既知構成のロータリーセンサである。磁気センサ119は、磁力線の方向に基づいて、センサマグネット106(ロータ60)の回転角を検出する(詳細後述)。なお、本実施形態において、磁気センサ119はセンサマグネット106の回転角を検出可能であるが、磁気センサ119により、センサマグネット106までの距離、いいかえれば、作動ロッド32の開閉方向における移動量を直接検出することはできないものとして説明する。
【0047】
図5は、センサマグネット106の平面図である。
ステータ64のコイル73に後述の方法にて駆動電流を流すことにより、ロータ60に回転駆動力が与えられる。ロータ60を閉弁方向(下方向)に回転させると(以下、「下降回転」とよぶ)、ロータ60に連動して作動ロッド32(弁体34)は閉弁方向、すなわち、図1の図面下方向に移動する。ロータ60を開弁方向に回転させると(以下、「上昇回転」とよぶ)、ロータ60と連動して作動ロッド32(弁体34)は開弁方向、すなわち、図1の図面上方に移動する。
【0048】
ロータ60の回転に連動して、センサマグネット106も回転する。センサマグネット106の回転にともなって、センサマグネット106の磁界方向MAも変化する。図5に示すようにXY座標系(図1における水平面に対応)を設定したとき、磁界方向MAがX軸となす角度をθとする。磁気センサ119は、特許文献1の角度センサに示す既知の方法にて、センサマグネット106の回転角度θを検出する。
【0049】
図6は、センサマグネット106のセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
横軸は、磁気センサ119の計測対象であるセンサマグネット106の回転角度θを示す(以下、「感知角」とよぶことがある)。縦軸は、磁気センサ119のセンサ値である。この例におけるセンサ値は、アークタンジェント値である。図6に示すように、磁気センサ119は感知角に対応してノコギリ型の波形を示すセンサ値を検出する。磁気センサ119は、アナログ信号であるセンサ値を、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)によってパルスのデューティー比に置き換えて、変調されたデジタル信号を示す電流を出力する。このとき、センサ値を「下限値DA~上限値TA」に正規化して、パルスにおけるデューティー比が定められる。下限値DA、上限値TAは任意に設定可能である。下限値DAは、0であってもよい。以下、パルスのデューティー比を「角度値」とよぶことがある。制御回路は、磁気センサ119の仕様に則って、デジタル信号のパルスから読み取られるデューティー比(角度値)に基づき、実際のロータ角度(感知角)を特定できる。
【0050】
図7は、角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
本実施形態において、弁体34を最上位点から最下位点まで移動させるとき、ロータ60は合計4回転する。詳細は後述するが、制御回路は3相のコイル73に供給する駆動電流を変化させることにより、各コイル73の磁界方向を変化させることでロータ60を回転させる。本実施形態においては、制御回路はロータ60をu1度単位で回転させる(詳細後述)。以下、この単位回転量のことを「ステップ」とよぶ。360度×4回転÷u1度=1440/u1=SM4より、制御回路は作動ロッド32の動作範囲においてロータ60に合計SM4ステップ分の回転を指示することになる。ロータ60の4回転に対応して、角度値はDA~TAの間で4回変化する。
【0051】
ステップ0が原点に相当し、ステップnは、原点から数えてn番目のステップを表す。図示したSM1は、機械角が1周したときのステップの順番を表し、SM2は、機械角が2周したときのステップの順番を表し、SM3は、機械角が3周したときのステップの順番を表し、SM4は、機械角が4周したときのステップの順番を表す。機械角は、ロータ60などの回転体の実空間における角度を指す。
【0052】
制御回路はU相コイル73aに所定レベルの駆動電流を流す。このとき、V相コイル73bおよびW相コイル73cについても同様に所定レベルの駆動電流が流される。各コイル73に駆動電流を流すことによりコイル73における磁界を変化させ、ロータ60を回転させる。U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに与える駆動電流の電流値の組み合わせを「励磁パターン」とよぶ。本実施形態における励磁パターンはN種類である。ある励磁パターンP1を1つ隣りの励磁パターンP2に変化させることが「1ステップ」の回転、いいかえれば、単位回転量分の回転指示に対応する。
【0053】
励磁パターンの変化により、いいかえれば、1ステップずつ励磁パターンを変更することにより、指示角α(理想的なロータ角度)が制御される。指示角αの変化に同期して、ロータ60が回転し、感知角θも変化する。励磁パターンを変化させたあと、磁気センサ119により検出される角度値から感知角θを算出することで、制御回路は、感知角θ(実際のロータ角度)が指示角αに追従している状態であるか否かを判定する。感知角θが指示角αに追従している状態を「同調」といい、感知角θが指示角αに追従できていない状態を「脱調」という。
【0054】
N種類の励磁パターンにはそれぞれパターンIDが付与される。パターンID=N1の励磁パターン(以下、「励磁パターン(N1)」のように表記する)におけるU相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれの駆動電流値をIU(N1)、IV(N1)、IW(N1)とする。すなわち、励磁パターン(N1)とは[IU(N1)、IV(N1)、IW(N1)]の組み合わせを意味する。駆動電流IU(N1)、IV(N1)およびIW(N1)により各コイル73に磁界を生じさせて、ロータ60を励磁パターン(N1)に応じた指示角αへ誘導する。
【0055】
N種類のパターンIDは、電気角の1周分のN個のステップに対応している。電気角は、N個のパターンIDを0~360度の範囲に均等に割り当てた理論値である。原点から最上位までの各ステップnは、循環して順次パターンIDに対応付けられる。たとえば、nをNで除した剰余としてパターンIDが定められる。また、連続するパターンIDは、連続的に変化する励磁パターンに対応する。
【0056】
制御回路が、ステップnからステップn+1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1+1)へ切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1+1)、IV(N1+1)、IW(N1+1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ上昇回転させる。反対に、制御回路が、ステップnからステップn-1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1-1)に切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1-1)、IV(N1-1)、IW(N1-1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ下降回転させる。
【0057】
図3に示した構造のロータ60の場合、ロータマグネット104がN極とS極の対を5個有するので、ロータ60の1周(機械角の360度)において電気角は5周する。つまり、電気角の1周は、機械角の72度に相当する。また、電気角の1周にはN個のステップが含まれるので、1ステップの変化で回転する機械角は、u1=72/N度となる。また、図7に関連して説明したように、弁体34を最上位点から原点まで移動させる間にロータ60を4周させる場合、全域にわたる移動で4×5×N個だけステップを進めることになる。つまり、図7に示したSM4は、4×5×Nである。同様にSM1は、5×Nであり、SM2は、2×5×Nであり、SM3は、3×5×Nである。
【0058】
本実施形態においては、ストッパ90がガイド部材36(より厳密にはガイド部材36の突部)と当接するときのロータ60の位置を原点(基準位置)とし、制御回路はこのときの角度値および励磁パターンを「原点情報(基準情報)」として記録する。電動弁1の製造時において、電動弁1に固有の原点情報(基準情報)が回路基板118の不揮発性メモリに記録される。そして、制御回路は、原点(弁閉位置)を基準するステップnにより、作動ロッド32の移動量、すなわち、電動弁1の弁開度を調整する。
【0059】
図8は、ロータ60の移動範囲の模式図である。
図8の右方向はロータ60の弁開方向(上昇方向)、左方向は弁閉方向(下降方向)を示す。ステップ0の原点は、ストッパ90が回転制限を受け、ロータ60がそれ以上の下降回転をできなくなる限界位置である。ステップMは、ロータ60が上昇回転した弁開点である。Mの値は、所定の共通値でもよいし、電動弁1毎に異なる固有値でもよい。固有値を用いる場合には、弁開点のステップを示すMの値を回路基板118の不揮発性メモリに記憶しておく。原点から弁開点までの範囲では、スプリング116の弾性反力により弁体34が弁座24に押し付けられるため、弁閉状態は維持される。ロータ60が原点0から上昇回転を続け、弁開点Mを超えたとき弁体34は弁座24から離脱し、開弁状態となる。弁開点を超えたあともロータ60の上昇回転が続くと弁開度は徐々に拡大し、入口ポート26から出口ポート28への流量が増加する。
【0060】
本実施形態は、主に製造段階で、回路基板118によって実現される電動弁制御装置を含めて組み立てが完了した電動弁1について、電動弁1によって固有の原点を検出する技術に関する。
【0061】
図9は、原点検出の動作におけるステップとロータ角度の遷移を示すグラフである。
原点検出を始める時点で、当然ながら原点に相当するステップは未知であって、原点情報は未だない。ここで示す位置(ステップ)は、図8で説明した原点を基準とするステップのことではなく、暫定的なステップを意味する。
【0062】
始点500は、原点検出のための回転動作を始める位置(ステップ)とその位置におけるロータ角度を示している。始点500におけるロータ角度は、角度センサによって計測可能である。図示した理想挙動線502は、始点500を起点として、ステッピングモータの動作に従ってロータ60が理想的に作動したときの位置(ステップ)と理想的なロータ角度の関係を示している。つまり、ステップとそのステップに対応する励磁パターンにより指示される指示角αの関係を示していると言える。ロータ60の動きを抑制する力がかからず、ステップに対応する励磁パターンによる設計通りのロータ角度が実現された場合には、理想挙動線502上に計測点が表われる。
【0063】
図中、理想挙動線502の上方に同調上限線504を示し、理想挙動線502の下方に同調下限線506を示す。同調下限線506と同調上限線504に挟まれた範囲は、同調範囲505である。同調範囲505は、ステッピングモータが同調していると推定される範囲である。つまり、あるステップで計測されたロータ角度(感知角)が同調範囲505の中にあれば、そのステップにおいてステッピングモータが同調状態であると推定可能である。同調範囲505以外は、脱調範囲である。脱調範囲は、ステッピングモータの脱調状態が検出される範囲である。つまり、あるステップで計測されたロータ角度が脱調範囲の中にあれば、そのステップにおいてステッピングモータが脱調状態であると推定可能である。
【0064】
なお、逆転領域507では、同調上限線504が同調下限線506の下方にある。従って、同調上限線504と同調下限線506の間が脱調範囲であり、同調上限線504より下方と、同調下限線506より上方とが、同調範囲505である。
【0065】
図に示した矢印は、原点検出の動作における遷移の方向を示している。具体的には、ストッパ90がガイド部材36(より厳密にはガイド部材36の突部)と当接する位置に弁体34が向かうようにロータ60を回転させる。この例では、ロータ60を下降回転させることになる。ステッピングモータは、1ステップずつ回転する。1ステップ進めたときの電動弁1の動作を、単位動作という。
【0066】
電動弁制御装置は、単位動作毎に計測されたロータ角度(感知角)を記録しておく。ロータ角度の記録については、後に詳述する。
【0067】
また、電動弁制御装置は、単位動作毎に、計測されたロータ角度(感知角)に基づいて、ストッパ90がガイド部材36に当接したことによってロータ60が停止状態になっているか否かを判定する。実際にストッパ90がガイド部材36に当接した直後は、計測されたロータ角度(感知角)の値から停止状態になったことを判断することは難しい。計測されたロータ角度(感知角)が理想のロータ角度(指示角)からずれていたとしても、停止状態であるのか、あるいは回転中に生じ得るぶれに過ぎないのかを判別できないからである。従って、電動弁制御装置は、実際のロータ角度(感知角)が理想のロータ角度(指示角)から或る程度乖離した段階で、ロータ60が停止状態であることを確定させる。
【0068】
電動弁制御装置は、脱調判定のロジックを応用してロータ60の停止状態を検出する。ストッパ90がガイド部材36と当接することにより弁体34の軸線運動を制限するストップ機構(「弁体の軸線運動を制限する第2機構」の例)は、脱調を生じさせる仕組みでもあるとも言える。従って、ストップ機構によるロータ60の停止を、脱調の判定と同じロジックで検出できることは、或る意味で当然である。従って、ここで例示する方法以外の脱調判定の方法によってロータ60の停止状態を検出することは、明らかに可能である。また、そのような脱調判定の方法を適用することは、本実施形態の変形例として十分に想定し得る事項である。
【0069】
図10(A)は、理想的な挙動におけるステップとロータ角度の遷移を示すグラフである。
ここでは、回転中のロータ角度のぶれや磁気センサ119における誤差などが生じないと想定する。
【0070】
ステップが弁閉方向へ進行するとき、図中の右上から左下に向かって、ステップとロータ角度を示す計測点415、計測点414、・・・計測点405が表われる。計測点415から計測点405までロータ60は回転しており、これらの計測点は理想挙動線502と重なる。
【0071】
計測点404は、ストッパ90がガイド部材36と当接し、ロータ60の回転が止まったステップを表している。さらに計測点404、計測点403、計測点402、計測点401の順にステップが進行するが、この間ロータ角度は変わらない。計測点404から計測点401までは、理想挙動線502上の理想のロータ角度との乖離が小さく、同調範囲505内に留まるので、未だ停止状態と判断されない。
【0072】
計測点400に至ると、同調範囲505の外に出る。つまり、計測点400が脱調範囲内に移ったので、ロータ60が既に停止状態になっていると判断される。この段階で、電動弁制御装置は、ステップの進行を停止させる。ここまでの処理で、計測点415~計測点400におけるロータ角度が記録されている。
【0073】
電動弁制御装置は、記録されているロータ角度のデータを用いて、実際にロータ60が停止したときの計測点404を特定する。ロータ60が停止したときのステップを特定する方法については、後述する。
【0074】
図10(B)は、現実的な挙動におけるステップとロータ角度の遷移を示すグラフである。
ここでは、回転中のロータ角度のぶれや磁気センサ119における誤差などが生じるものと想定する。
【0075】
実際には、異物の挟み込み、電動弁1にかかる振動あるいは外力の影響などによって、回転中のロータ角度にぶれが生じることがある。従って、回転中のロータ角度(感知角)は、計測点314から計測点305に示すように、理想のロータ角度(指示角)からわずかにずれることがある。
【0076】
また、磁気センサ119による計測において誤差が生じるので、停止状態におけるロータ角度(感知角)は、計測点304から計測点300に示すように、一定にはならない。
【0077】
図11(A)は、理想的な挙動を前提として原点の判別方法を説明するためのグラフである。
図11(A)は、図10(A)の一部を拡大している。この例で、電動弁制御装置は、ロータ60の停止状態と判断された計測点400を基準として、実際にロータ60が停止した計測点404を特定する。
【0078】
電動弁制御装置は、実際にロータ60が停止した計測点404を特定するために、その前回の計測点405、つまり最後の回転状態であった計測点405を判別する。具体的には、停止状態であると判断された計測点400におけるロータ角度(感知角)と、計測点405のロータ角度(感知角)を比較することによって、計測点405が最後の回転状態であったと判断できる。このロータ角度(感知角)の差分が大きければ、磁気センサ119の誤差によらず、ロータ60が回転していたことを意味する。
【0079】
磁気センサ119の計測誤差として表れるロータ角度(感知角)のずれの最大値を「誤差角度」という。誤差角度は、最後の回転状態にあったステップ(計測点405)を判別する際にロータ角度(感知角)の差分による判定の閾値(「所定値」の例)として用いられる。
【0080】
ロータ60の停止状態と判断された計測点400のロータ角度(感知角)をY(0)と表す。Y(0)を中央値として誤差範囲515が設定される。誤差範囲515の最大角Ymaxは、Y(0)に誤差角度を加えた角度である。誤差範囲515の最小角Yminは、Y(0)から誤差角度を減じた角度である。誤差範囲515は、ロータ60の停止状態と判断された計測点におけるロータ角度(感知角)を基準として磁気センサ119の誤差の範囲を示す。つまり、誤差範囲515は、計測されたロータ角度(感知角)が停止状態に当たるか否かを判定するための基準範囲になる。基準範囲は停止状態に当たる範囲であって、誤差範囲515は基準範囲の例である。
【0081】
図11(B)は、現実的な挙動を前提として原点の判別方法を説明するためのグラフである。
ロータ60が停止している計測点300~計測点304において計測されたロータ角度(感知角)には、磁気センサ119による計測誤差が含まれる。そのため、実際には図中の上下に少し振れる。但し、いずれの計測点300~計測点304も、誤差範囲515におさまる。一方、回転状態にあった計測点305は、誤差範囲515の外にある。この点に着目して、電動弁制御装置は、計測点300の記録からステップの進行順を遡って、各計測点におけるロータ角度(感知角)が誤差範囲515に含まれるか否かを判断する。そして、誤差範囲515におさまらないロータ角度(感知角)を示す計測点305を見つける。遡り順で最初に見つかった計測点305が、実際には最後に回転状態であったステップに相当する。最初に誤差範囲515の外にあると判断された計測点305は、「ロータ角度(感知角)の差分が所定値(この例では、誤差角度)より大きい直近のステップ」に相当する。
【0082】
電動弁制御装置は、遡り順で最初にロータ角度(感知角)が誤差範囲515の外にあると判断した計測点305を特定した後に、その計測点305からステップの進行順で次の計測点304が、実際にロータ60が停止したステップに当たると判断する。そして、このステップを、ストップ機構によって停止する原点として判別する。
【0083】
原理的には、このようにして原点検出が可能となる。ただし、実装段階で、ロータ角度(感知角)を0~360(deg)のパラメータを表す場合には数値処理として留意する点がある。360(deg)と0(deg)の境界の扱いの問題である。
【0084】
0~360の範囲で表される角度(deg)は、所定幅(この例では、360)で循環するパラメータの一種である。誤差範囲515が360(deg)と0(deg)の境界をまたぐ場合には、単純な大小比較だけでは対処できない。
【0085】
図12(A)は、誤差範囲515が角度の境界をまたがない例を示すグラフである。
ロータ60の停止状態と判断された計測点300aのロータ角度(感知角):Y(0)に誤差角度を加えた和の値が360(deg)を超えず、更にY(0)から誤差角度を減じた差の値が負の値とならなければ、図示するように誤差範囲515の最大角Ymax>誤差範囲515の最小角Yminの関係が成立する。
【0086】
このケースでは、たとえば遡った計測点301a~305aのロータ角度(感知角)をY(n)で表すと、以下のように事象を整理できる。なお、nは遡り数を表し、この例では1~5を示す。
(事象1)Y(n)がYminより小さく、かつYmaxより大きい事象は発生しない。
(事象2)Y(n)がYminより小さく、かつYmaxより小さい場合には、Y(n)は誤差範囲515の外にある。
(事象3)Y(n)が Yminより大きく、かつYmaxより大きい場合には、Y(n)は誤差範囲515の外にある。
(事象4)Y(n)が Yminより大きく、かつYmaxより小さい場合には、Y(n)は誤差範囲515の内にある。
【0087】
図12(B)は、誤差範囲515の上側が角度の境界をまたぐ例を示すグラフである。
ロータ60の停止状態と判断された計測点300bのロータ角度(感知角):Y(0)に誤差角度を加えた和の値が360(deg)を超える場合には、その和の値から360(deg)を減じて得られる値、つまり0より少し大きい値が、誤差範囲515の最大角Ymaxを示すことになる。この場合には、図示するように誤差範囲515の最大角Ymax<誤差範囲515の最小角Yminの関係が成立する。
【0088】
このケースでは、以下のように事象を整理できる。
(事象5)Y(n)がYminより小さく、かつYmaxより大きい場合には、Y(n)は誤差範囲515の外にある。
(事象6)Y(n)がYminより小さく、かつYmaxより小さい場合には、Y(n)は誤差範囲515の内にある。
(事象7)Y(n)がYminより大きく、かつYmaxより大きい場合には、Y(n)は誤差範囲515の内にある。
(事象8)Y(n)がYminより大きく、かつYmaxより小さい事象は発生しない。
【0089】
図12(C)は、誤差範囲515の下側が角度の境界をまたぐ例を示すグラフである。
ロータ60の停止状態と判断された計測点300cのロータ角度(感知角):Y(0)に誤差角度を減じた差の値が負の値になる場合には、その差の値に360を加えて得られる値、つまり360(deg)より少し小さい値が、誤差範囲515の最小角Yminを示すことになる。この場合には、図示するように誤差範囲515の最大角Ymax<誤差範囲515の最小角Yminの関係が成立する。この場合にも、上述した(事象5)~(事象8)が成立する。
【0090】
これらの事象を整理して、以下の流れで原点判別の処理を行うこととする。
【0091】
第1ステップ:ロータ60の停止状態と判断された計測点300のロータ角度(感知角):Y(0)と誤差角度とに基づいて、誤差範囲515の最大角Ymaxと誤差範囲515の最小角Yminを算出する。
【0092】
具体的には、ロータ60の停止状態と判断された計測点300のロータ角度(感知角):Y(0)に誤差角度を加えた和の値が360(deg)を超えなければ、その和の値を誤差範囲515の最大角Ymaxとする。一方、Y(0)に誤差角度を加えた和の値が360(deg)を超えた場合には、その和の値から360(deg)を引いた値を誤差範囲515の最大角Ymaxとする(図12(B)参照)。
【0093】
また、ロータ60の停止状態と判断された計測点300のロータ角度(感知角):Y(0)から誤差角度を減じた差の値が負の値とならなければ、その差の値を誤差範囲515の最小角Yminとする。一方、Y(0)から誤差角度を減じた差の値が負の値である場合には、その差の値に360(deg)を加えた値を誤差範囲515の最小角Yminとする(図12(C)参照)。
【0094】
第2ステップ:誤差範囲515の最大角Ymaxと誤差範囲515の最小角Yminとの大小関係を判定する。具体的には、以下の判定式Aの真偽を判定する。
判定式A:判定結果A=Ymax>Ymin
【0095】
第3ステップ:遡った計測点301~305のロータ角度(感知角)をY(n)と誤差範囲515の最小角Yminの大小関係を判定する。具体的には、以下の判定式Bの真偽を判定する。
判定式B:判定結果B=Ymin<Y(n)
【0096】
第4ステップ:遡った計測点301~305のロータ角度(感知角)をY(n)と誤差範囲515の最大角Ymaxの大小関係を判定する。具体的には、以下の判定式Cの真偽を判定する。
判定式C:判定結果C=Y(n)<Ymax
【0097】
第5ステップ:第2ステップから第4ステップの判定結果を用いて、以下の判定式Zの真偽を判定する。
判定式Z:判定結果Z=判定結果A xor 判定結果B xor 判定結果C
【0098】
図13は、誤差範囲の内外を判定するための真理値表である。
判定式A、判定式Bおよび判定式Cの判定結果に基づいて、判定式Zを判定できる。そして、判定式Zの判定結果Zが真(1)であれば、たとえば遡った計測点301~305のロータ角度(感知角):Y(n)が誤差範囲515の内にあり、判定式Zの判定結果Zが偽(0)であれば、Y(n)が誤差範囲515の外にあると判定できる。
【0099】
図14は、電動弁制御装置200の機能ブロック図である。
電動弁制御装置200の各構成要素は、回路基板118上における制御回路(マイクロコンピュータ)、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェア(制御回路)と、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバおよびアプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0100】
電動弁制御装置200は、データ処理部202、通信部204、基準情報記憶部206、記録データ記憶部230およびロータインタフェース部208を含む。
通信部204は、接続端子81を介して外部装置に対するインタフェースとして機能する。ロータインタフェース部208は、磁気センサ119およびコイルユニット75に対するインタフェースとして機能する。基準情報記憶部206は、原点情報(基準情報)を記憶する。基準情報記憶部206は、不揮発性メモリに構成される記憶領域である。記録データ記憶部230は、各計測点301~315におけるロータ角度(感知角)、ステップおよび励磁パターンを記録データとして記憶可能である。記録データ記憶部230は、揮発性メモリに構成される記憶領域であってもよいし、不揮発性メモリに構成される記憶領域であってもよい。保持される計測点の記録の数は、任意であるが、たとえば最新のステップの記録を含めて2のn乗の数(8個、16個あるいは32個など)とし、古いステップのデータは破棄する。つまり、ロータ角度(感知角)の記録を記憶する領域は、リングバッファであってもよい。ステッピングモータの駆動方式(ハーフステップ、1/4マイクロステップあるいは1/8マイクロステップなど)の特性に応じて、記録の数を決めてもよい。データ処理部202は、基準情報および通信部204、ロータインタフェース部208から取得された各種データに基づいて各種処理を実行する。データ処理部202は、通信部204、ロータインタフェース部208、基準情報記憶部206および記録データ記憶部230のインタフェースとしても機能する。
【0101】
通信部204は、外部装置からデータおよびコマンドを受信する受信部210と、外部装置にデータを送信する送信部212を含む。
【0102】
ロータインタフェース部208は、回転指示部214および回転検出部216を含む。回転指示部214は、励磁パターンに応じて、U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに駆動電流を出力する。回転検出部216は、磁気センサ119から受けた電流のパルスからデューティー比(角度値)を読み取る。
【0103】
データ処理部202は、回転制御部218、停止検出部220および原点判別部222を含む。回転制御部218は、原点検出におけるロータ回転を実行するために回転指示部214を制御する。停止検出部220は、ロータ60の停止状態を検出する。原点判別部222は、記録データに基づいて計測点に相当するステップの中から原点を判別する。
【0104】
図15は、メイン処理過程を示すフローチャートである。
回転指示部214は、回転制御部218の制御によって、数ステップ、たとえば、Nステップ程度、ロータ60を上昇回転させる(以下、「確認上昇」とよぶ)(S10)。そのあと、回転指示部214は、回転制御部218の制御によって、ロータ60を下降回転させる。確認上昇により、ロータ位置と励磁の位置を合わせてステッピングモータを同調させることができる。また、ロータ60の回転開始時において、ガイド部材36とロータ60の間のねじ送り機構109に金属屑のような異物が挟まっている可能性がある。確認上昇にともなうロータ60の逆回転により、ロータ60による異物の噛み込みを解くことができる。このほか、確認上昇を行うことでねじ送り機構109に適度な振動を与え、異物のねじ送り機構109からの脱落を促すことができる。
【0105】
回転制御部218は、所定の回転速度で下降回転させるように、回転指示部214を制御する。回転指示部214は、回転制御部218の制御によって、所定の間隔でロータ60を1ステップずつ下降回転させる(S12)。つまり、回転指示部214は、弁体34の軸線運動がストップ機構によって制限される方向(この例では、ストッパ90がガイド部材36と当接する下方向)にステップを1つずつ進行させるように、ステッピングモータに指示角度を指示する。
【0106】
回転検出部216は、1ステップ毎に、磁気センサ119から受けた電流のパルスから読み取られたデューティー比(角度値)に基づいてロータ角度(感知角)を取得する。(S14)。
【0107】
回転制御部218は、1ステップ毎に、ロータ角度(感知角)、ステップおよび励磁パターンを記録データに加えて、記録データ記憶部230に保持させる(S16)。
【0108】
停止検出部220は、図9図10(A)に関連して説明したように、実際のロータ角度(感知角)と理想のロータ角度(指示角)の差分が、基準値(同調状態であると推定可能なロータ角度の乖離幅)を超えた場合に、ロータの停止状態を検出する(S18のY)。実際のロータ角度(感知角)と理想のロータ角度(指示角)の差分が基準値以下であれば、ロータ60の停止状態は検出されない(S18のN)。
【0109】
ロータ60の停止状態が検出されない場合には(S18のN)、S12の処理に戻って上述した処理を繰り返す。ロータ60の停止状態が検出された場合には(S18のY)、原点判別部222が原点判別処理を行う(S20)。原点判別部222は、図11(B)に関連して説明したように、記録データにおいて、停止状態が検出されたステップから1ステップずつ遡り、停止状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値(この例では、誤差角度)より大きいか否かを判定する。そして、原点判別部222は、その差分が所定値より大きい直近のステップを特定し、特定された直近のステップから進行方向への次のステップをロータ60の回転の原点として判別する。なお、所定値として誤差角度よりも大きい値を用いて、直近のステップから進行方向への次の次のステップ(所定回進んだステップの例)をロータ60の回転の原点として判別してもよい。
【0110】
より具体的には、原点判別部222は、上述した第1ステップ~第5ステップおよび真理値表(図13)に従って、遡った各計測点が誤差範囲515の内にあるか、あるいは外にあるかを判定する。誤差範囲515の外にある計測点305については、停止状態が検出されたステップにおける感知角と遡ったステップにおける感知角との差分が所定値(この例では、誤差角度)より大きいと判定されたことになる。
【0111】
つまり、原点判別部222は、停止状態が検出されたステップにおける感知角から所定値(この例では、誤差角度)だけ正方向に回転した角度を最大角とし、停止状態が検出されたステップにおける感知角から所定値だけ負方向に回転した角度を最小角とする誤差範囲515を設定する。そして、原点判別部222は、遡ったステップにおける感知角が誤差範囲515を逸した場合に、感知角の差分が所定値より大きいと判定する。また、ロータ60の角度として所定幅(この例では、360)で循環するパラメータ(この例では、「度」(deg))を用いる場合に、原点判別部222は、誤差範囲515の内外を判定する処理において上述した論理演算を行う。この論理演算によれば、原点判別部222は、誤差範囲515(基準範囲の例)がパラメータの境界を含み最大角が最小角より小さい値を示す場合(図12(B)および図12(C)参照)に、誤差範囲515の最小角から所定幅の上限(この例では、360(deg))までの範囲と、所定幅の下限(この例では、0(deg))から誤差範囲515の最大角までの範囲とを、誤差範囲515として判断することになる。なお、ロータ60の角度を表すパラメータとしてデューティー比を用いる場合にも、この考え方で対応できる。
【0112】
そして、原点判別部222は、原点と判別された計測点の励磁パターンを原点情報(基準情報)として基準情報記憶部206に記憶させる(S22)。原点判別部222は、その励磁パターンに対応するロータ角度(感知角)及び/又はデューティー比(角度値)を原点情報(基準情報)に加えるようにしてもよい。
【0113】
なお、図12(B)および図12(C)に示したように誤差範囲515が角度範囲の境界(0(deg)と360(deg))をまたぐことを避けられるように、電動弁1の組み立て工程において機械部品の向きあるいは位置を調整することも考えられる。ただし、組み立て工程において機械部品の向きあるいは位置を調整する作業は、煩わしい。本実施形態によれば、機械部品の向きあるいは位置を調整しなくても電動弁1内の計算処理によって対処できるので、組み立て作業の負荷を減ずることができる。
【0114】
[変形例1]
本実施形態では、原点、つまり弁体34の軸線運動を制限するストップ機構による停止位置を判別する例を示したが、原点以外の要因による脱調を対象として、脱調の契機となった位置(以下、「脱調契機位置」という)を判別するようにしてもよい。その場合には、停止検出部220に代えて、1ステップ毎に、計測されたロータ角度(感知角)に基づいて、軸線運動の制限(たとえば、金属屑の挟み込みなど)によるロータ60の脱調状態を検出する脱調検出部(不図示)を電動弁制御装置200に設ける。脱調検出部における処理の内容は、本実施形態で説明した停止検出部220の処理と同等である。また、原点判別部222に代えて契機位置判別部(不図示)を電動弁制御装置200に設ける。契機位置判別部は、記録データにおいて、脱調状態が検出されたステップから1ステップずつ遡り、脱調状態が検出されたステップにおける感知角と当該遡ったステップにおける感知角との差分が所定値(この例では、誤差角度)より大きいか否かを判定する。そして、契機位置判別部は、その差分が所定値より大きい直近のステップを特定し、特定された直近のステップから進行方向への次のステップを脱調契機位置として判別する。つまり、本実施形態では原点として判別される計測点(ステップ)が、変形例1では脱調契機位置と判別される。変形例1では脱調の原因が、ストップ機構であるとは限らない。
【0115】
[変形例2]
本実施形態では、弁体34が弁閉方向へ向かう軸線運動を制限するストップ機構による停止位置、つまり下側のストッパ90がガイド部材36と当接する位置を原点とする例を示した。ただし、弁体34が弁開方向へ向かう軸線運動を制限するストップ機構による停止位置を原点とするようにしてもよい。その場合には、回転制御部218は、上昇回転させるように回転指示部214を制御する。停止検出部220は、ロータ角度(感知角)が同調下限線506よりも下方になった場合に、停止状態を検出する。原点判別部222が、遡ったステップにおいてロータ角度(感知角)が誤差範囲515の外にある計測点を見つけ、進行方向(上昇方向)への次の計測点を原点と判断する。
【0116】
[変形例3]
本実施形態に示した電動弁制御装置は、計測点300の記録からステップの進行順を遡って、誤差範囲515におさまらないロータ角度(感知角)を示す計測点305を見つける。但し変形例として、電動弁制御装置は、回転中の計測点(例えば、計測点315)の記録からステップの進行順に従って、誤差範囲515におさまるロータ角度(感知角)を示す計測点304を見つけるようにしてもよい。ステップの進行順で最初に見つかった計測点304が、実際にロータ60が停止したステップに当たると判断する。そして、このステップを、ストップ機構によって停止する原点として判別する。つまり、原点判別部222は、記録データにおいて、ステップの進行順に従って判定対象のステップを特定し、停止状態が検出されたステップにおける感知角と判定対象のステップにおける感知角との差分が所定値以下であるか否かを判定し、その差分が所定値以下であると最初に判定された判定対象のステップをロータの回転の原点として判別するようにしてもよい。あるいは、変形例1における契機位置判別部が、同様にその差分が所定値以下であると最初に判定された判定対象のステップを脱調契機位置として判別するようにしてもよい。変形例2においても同様である。
【0117】
[変形例4]
本実施形態では、停止状態が検出されたステップから1ステップずつ遡って、停止状態が検出されたステップにおける感知角と遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きいか否かを判定する例を示した。但し変形例として、原点判別部222は、停止状態が検出されたステップ近辺のステップにおける判定を省いて、途中のステップから遡って判定を行うようにしてもよい。たとえば、原点判別部222は、停止状態が検出されたステップの直前の2ステップ目(図11(B)の計測点302)までは判定を行わず、3ステップ目(同じく計測点303)から1ステップずつ遡って判定を行うようにしてもよい。つまり、原点判別部222は、停止状態が検出されたステップ(同じく計測点300)の方の途中から原点の方へ向かってステップの遡りを繰り返すようにしてもよい。変形例1の場合に、契機位置判別部は、同様に停止状態が検出されたステップの方の途中から脱調契機位置の方へ向かってステップの遡りを繰り返すようにしてもよい。変形例2においても同様である。
【0118】
[変形例5]
本実施形態では、停止状態が検出されたステップにおける感知角と遡ったステップにおける感知角との差分が所定値より大きい直近のステップを特定し、特定された直近のステップから進行方向への次のステップをロータの回転の原点として判別する例を示した。但し、原点判別部222によって感知角の差分が所定値より大きいとして特定されるステップは、直近のものだけに限られない。原点判別部222は、たとえば感知角の差分が所定値よりも大きいステップが2回連続したことを検出して、2回目のステップから進行方向への次の次のステップを原点として判定してもよい。つまり、原点判別部222は、感知角の差分が所定値より大きいステップを特定し、特定されたステップから進行方向へ所定数進んだステップを原点として判別してもよい。変形例1の場合に、契機位置判別部は、同様に感知角の差分が所定値より大きいステップを特定し、特定されたステップから進行方向へ所定数進んだステップを脱調契機位置として判別してもよい。変形例2においても同様である。
【0119】
[変形例6]
本実施形態では、電動弁1の制御における基準位置として、弁体34が弁閉方向へ向かう軸線運動を制限するストップ機構による停止位置(原点)を用いる例を示したが、基準位置は、原点に限られない。たとえば、原点をオフセットして、停止位置(原点)よりも所定数だけ弁開方向にずれたステップを基準位置と定めてもよい。
【0120】
[変形例7]
本実施形態では、製造段階で検出された原点(基準点)の情報を基準情報記憶部206に記録しておき、車両搭載後などの運用段階でその情報を利用する例を説明した。本実施形態以外の方式として、製造段階で原点(基準点)の検出と記録を行わずに、運用段階で電動弁1の使用を始める都度(たとえば、車両から電力が供給される都度)、本実施形態と同様の方法で原点判別部222が原点(基準点)を検出するようにしてもよい。
【0121】
[その他の変形例]
3相式のステッピングモータの例を示したが、3相式以外のステッピングモータを用いてもよい。たとえば、2相式のステッピングモータを用いるようにしてもよい。
【0122】
上記実施形態では、磁気センサ119をセンサマグネット106と軸線方向に対向させる構成を例示した(図1参照)。変形例においては、センサマグネットの側方(径方向外側)に磁気センサを配置してもよい。すなわち、両者を径方向に対向させてもよい。センサマグネットの外周面に着磁してもよい。その極数については、例えば弁本体2極とするなど適宜設定できる。
【0123】
上記実施形態では、ロータマグネット104とセンサマグネット106とが軸線方向に離隔する構成を例示した。変形例においては、ロータマグネットとセンサマグネットとを一体に構成してもよい。マグネット部成形工程において、ロータマグネット部とセンサマグネット部とを一体成形してもよい。その場合、磁気センサが磁束を確実に検出できるよう、センサマグネットの面積(外径)を大きくしてもよい。センサマグネットがロータコアの外周にはみ出すことになるため、センサマグネットとロータマグネットを射出成形しやすくなる。
【0124】
各実施形態では、ステータのコアとして積層コア(積層磁心)を例示した。変形例においては、圧粉コアその他のコアを採用してもよい。圧粉コアは、「圧粉磁心」とも呼ばれ、軟磁性材料を粉末にし、非導電性の樹脂等でコーティングした紛体と、樹脂バインダとを混練し、圧縮成型・加熱することで得られる。
【0125】
各実施形態では、回路基板の下面に駆動回路、制御回路、通信回路および電源回路が実装される構成を例示したが、実装される回路については適宜変更できる。例えば、駆動回路および電源回路を実装する一方、制御回路を電動弁の外部に設置してもよい。また、各回路を回路基板の上面に実装してもよい。電動弁制御装置200の一部または全部を電動弁の外部に設置しても良い。
【0126】
各実施形態では、モータユニットとして、PM型ステッピングモータを採用したが、ハイブリッド型ステッピングモータを採用してもよい。また、上記実施形態では、モータユニットを三相モータとしたが、二相,四相、五相などその他のモータとしてもよい。ステータにおける電磁コイルの数も3つや6つに限らず、モータの相数に合わせて適宜設定してよい。
【0127】
各実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0128】
各実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁や流量制御弁として構成してもよい。
【0129】
各実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成することもできる。
【0130】
本実施形態における1は電気自動車に限らず、各種の自動車に応用可能である。
【0131】
センサマグネット106を両面4極着磁(片面弁本体2極の両面着磁)としてもよい。上面と下面で磁極の極性を反転させることで磁束を強化できる。この場合、ロータ60が閉弁方向に変位してセンサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きくなっても、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【0132】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0133】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、6 第1ボディ、8 第2ボディ、10 雄ねじ、12 シール収容部、14 シールリング、16 凹状嵌合部、18 シール収容部、20 シールリング、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、36 ガイド部材、38 雄ねじ、40 大径部、42 ばね受け、44 ばね受け、46 スプリング、52 係止部、60 ロータ、62 回転軸、64 ステータ、66 キャン、70 積層コア、73 コイル、73a U相コイル、73b V相コイル、73c W相コイル、74 ボビン、75 コイルユニット、76 ケース、77 蓋体、78 ステータユニット、79 コネクタ部、80 シール収容部、81 接続端子、82 シールリング、90 ストッパ、102 ロータコア、104 ロータマグネット、106 センサマグネット、108 雌ねじ、109 ねじ送り機構、110 縮径部、112 底部、114 ストッパ、116 スプリング、117 端子、118 回路基板、119 磁気センサ、120 スロット、122 突極、124 スリット、140 環状溝、144 環状溝、200 電動弁制御装置、202 データ処理部、204 通信部、206 基準情報記憶部、208 ロータインタフェース部、210 受信部、212 送信部、214 回転指示部、216 回転検出部、218 回転制御部、220 停止検出部、222 原点判別部、230 記録データ記憶部
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