(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105662
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】涙道施術トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20230724BHJP
G09B 23/30 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B23/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006631
(22)【出願日】2022-01-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年7月24日及び25日にフォーサム21(第9回日本涙道・涙液学会総会器械展示、仙台国際センター(仙台市青葉区青葉山無番地))にて展示
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 克也
(72)【発明者】
【氏名】松本 美沙
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA02
(57)【要約】
【課題】涙道に対する操作の訓練を容易に行えるようにする。
【解決手段】涙道施術用トレーニング装置は、頭蓋骨モデル101、皮膚モデル102及び涙道モデル103を備えている。涙道モデル103は、頭蓋骨モデル101及び皮膚モデル102に保持され、涙嚢部131と、鼻涙管部132と、上涙小管部133及び下涙小管部134とを有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋骨モデルと、前記頭蓋骨モデルの外側を覆う皮膚モデルと、前記頭蓋骨モデル及び前記皮膚モデルに保持された涙道モデルとを備え、
前記涙道モデルは、涙嚢部と、前記涙嚢部から下方に延びる鼻涙管部と、前記涙嚢部から側方に延びる上涙小管部及び下涙小管部とを有する、涙道施術トレーニング装置。
【請求項2】
前記涙道モデルは、前記上涙小管部の末端に形成された上側被保持部と、前記下涙小管部の末端に形成された下側被保持部とを有し、
前記頭蓋骨モデルは、眼窩開口部と、前記上側被保持部を保持する上側保持部と、前記下側被保持部を保持する下側保持部と、前記鼻涙管部を保持する鼻涙管保持部とを有し、
前記皮膚モデルは、眼状部を有し、
前記眼状部は、前記上涙小管部を保持する上涙小管保持部と、前記下涙小管部を保持する下涙小管保持部と、前記上涙小管部の末端開口と連通する上涙点開口及び前記下涙小管部の末端開口と連通する下涙点開口とを有している、請求項1に記載の涙道施術トレーニング装置。
【請求項3】
前記上涙小管保持部及び前記下涙小管保持部は、、前記上涙小管部及び前記下涙小管部がそれぞれ挿入される、前記皮膚モデルの裏面に沿って延びる貫通孔である、請求項2に記載の涙道施術トレーニング装置。
【請求項4】
前記上側被保持部は、前記上涙小管部の末端から上方に向かって突出し、
前記下側被保持部は、前記下涙小管部の末端から下方に向かって突出し
前記上側保持部は、前記眼窩開口部の上部から下方に突出し、
前記下側保持部は、前記眼窩開口部の下部から上方に突出している、請求項2又は3に記載の涙道施術トレーニング装置。
【請求項5】
前記鼻涙管保持部は、上顎骨部の裏面側に、前記鼻涙管部を囲む筒状に形成され、
挿入された前記鼻涙管部の下端は、前記頭蓋骨モデルに形成された鼻腔開口部に達する、請求項2~4のいずれか1項に記載の涙道施術トレーニング装置。
【請求項6】
前記涙道モデルは、前記頭蓋骨モデル及び前記皮膚モデルに着脱可能に保持されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の涙道施術トレーニング装置。
【請求項7】
頭蓋骨モデル及び皮膚モデルを有する涙道施術トレーニング装置に取り付けられる涙道モデルであって、
前記涙道モデルは、涙嚢部と、前記涙嚢部から下方に延びる鼻涙管部と、前記涙嚢部から側方に延びる上涙小管部及び下涙小管部とを備え、
前記頭蓋骨モデル及び前記皮膚モデルに保持される、涙道モデル。
【請求項8】
前記上涙小管部に形成された上側被保持部及び前記下涙小管部に形成された下側被保持部を有し、
前記上側被保持部及び前記下側被保持部は、前記頭蓋骨モデルに形成された上側保持部及び下側保持部に保持され、前記鼻涙管部は、前記頭蓋骨モデルに形成された鼻涙管保持部に保持され、
前記上涙小管部及び前記下涙小管部は、前記皮膚モデルに形成された上涙小管保持部及び下涙小管保持部に保持される、請求項7に記載の涙道モデル。
【請求項9】
前記上涙小管部及び前記下涙小管部は、前記涙嚢部及び前記鼻涙管部よりも透明度が高い、請求項7又は8に記載の涙道モデル。
【請求項10】
開通可能な閉塞部を有している、請求項7~9のいずれか1項に記載の涙道モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、涙道施術トレーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
涙は、涙道を経て鼻腔に排泄される。涙道が閉塞した場合には、例えば、涙道の閉塞箇所を開通させた後、涙道チューブと呼ばれる細いチューブを涙道内に一定期間留置する治療が行われる。
【0003】
涙道を開通させる操作や涙道チューブを留置する操作は、ブジーと呼ばれる細い金属棒により手探りで行われている。近年では、涙道内視鏡と呼ばれる細い内視鏡を用いて観察しながら行う方法も用いられつつある(例えば、特許文献1を参照。)。いずれにしても、熟練を必要とする高度で複雑な施術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、献体を用いる以外にこのような施術の訓練を行う方法はほとんど存在していない。軟質の素材により形成された顔のモデルに、涙道の形状を模した開口部が設けられた訓練器具等は存在する。しかし、涙道は、骨や皮膚によって複雑に支えられており、その力学的特性は位置によって大きく変化する。このため、涙道を開通させたり、涙道チューブを留置したりする際には、力の強さや方向を細かく調整して操作をする必要がある。しかし、軟質の材料に開口部を設けただけの練習器具では、このような複雑な施術の訓練を十分に行うことができない。涙道チューブの留置だけでなく、診断のために涙道内の組織を採取したり、涙道に治療のための薬液を注入したりする等の涙道に対する他の施術においても同様である。
【0006】
本開示の課題は、涙道に対する種々の施術の訓練を容易に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の涙道施術トレーニング装置の一態様は、頭蓋骨モデルと、頭蓋骨モデルの外側を覆う皮膚モデルと、頭蓋骨モデル及び皮膚モデルに保持された涙道モデルとを備え、涙道モデルは、涙嚢部と、涙嚢部から下方に延びる鼻涙管部と、涙嚢部から側方に延びる上涙小管部及び下涙小管部とを有する。
【0008】
涙道施術トレーニング装置の一態様は、涙道モデルが、頭蓋骨モデル及び皮膚モデルに保持されている。このため、涙道モデルの保持された部分に、変形しやすい部分と変形しにくい部分とが生じるので、現実の涙道により近い状態を再現でき、高度な訓練を行うことができる。
【0009】
涙道施術トレーニング装置の一態様において、涙道モデルは、上涙小管部に形成された上側被保持部と、下涙小管部に形成された下側被保持部とを有し、頭蓋骨モデルは、眼窩開口部と、上側被保持部を保持する上側保持部と、下側被保持部を保持する下側保持部と、鼻涙管部を保持する鼻涙管保持部とを有し、皮膚モデルは、眼窩開口部を覆う眼状部を有し、眼状部は、上涙小管部を保持する上涙小管保持部と、下涙小管部を保持する下涙小管保持部と、上涙小管部の末端開口と連通する上涙点開口と、下涙小管部の末端開口と連通する下涙点開口とを有している。
【0010】
このような構成とすることにより、比較的柔らかく変形しやすい涙小管と、しっかりした鼻涙管を有する現実の涙道の力学的な特性を再現できるため、より現実に近い環境で訓練を行うことができる。
【0011】
涙道施術トレーニング装置の一態様において、上涙小管保持部及び下涙小管保持部は、上涙小管部及び下涙小管部がそれぞれ挿入される、皮膚モデルの裏面に沿って延びる貫通孔とすることができる。このような構成とすることにより、筋肉組織に囲まれた現実の涙小管により近い状態を再現することができる。
【0012】
涙道施術トレーニング装置の一態様において、上側被保持部は、上涙小管部の末端から上方に向かって突出し、下側被保持部は、下涙小管部の末端から下方に向かって突出し、上側保持部は、眼窩開口部の上部から下方に突出し、下側保持部は、眼窩開口部の下部から上方に突出するようにできる。このような構成とすることにより、被保持部と保持部との接続が容易にできると共に、現実の涙小管により近い動きや変形性を再現できる。
【0013】
涙道施術トレーニング装置の一態様において、鼻涙管保持部は、上顎骨部の裏面側に、鼻涙管部を囲む筒状に形成され、挿入された鼻涙管部の下端は、頭蓋骨モデルに形成された鼻腔開口部に達するようにできる。このような構成とすることにより、骨性鼻涙管に囲まれた現実の鼻涙管により近い状態を再現することができる。
【0014】
涙道施術トレーニング装置の一態様において、涙道モデルは、頭蓋骨モデル及び皮膚モデルに着脱可能に保持されている構成とすることができる。このような構成とすることにより、損耗した涙道モデルを付け換えて使用できるので経済的である。また、様々な病態を模した涙道モデルに交換して使用することができる。
【0015】
本開示の涙道モデルの一態様は、頭蓋骨モデル及び皮膚モデルを有する涙道施術トレーニング装置に取り付けられる涙道モデルを対象とし、涙道モデルは、涙嚢部と、涙嚢部から下方に延びる鼻涙管部と、涙嚢部から側方に延びる上涙小管部及び下涙小管部とを備え、頭蓋骨モデル及び皮膚モデルに保持される。
【0016】
涙道モデルの一態様は、現実の涙道に近い形状を有していると共に、頭蓋骨モデル及び皮膚モデルに保持されることにより、現実の涙小管により近い動きや変形性を再現できる。
【0017】
涙道モデルの一態様において、上涙小管部に形成された上側被保持部及び下涙小管部に形成された下側被保持部を有し、上側被保持部及び下側被保持部は、頭蓋骨モデルに形成された上側保持部及び下側保持部に保持され、鼻涙管部は、頭蓋骨モデルに形成された鼻涙管保持部に保持され、上涙小管部及び下涙小管部は、皮膚モデルに形成された上涙小管保持部及び下涙小管保持部に保持されるようにできる。このような構成とすることにより、現実の涙道により近い特性を再現できる。
【0018】
涙道モデルの一態様において、上涙小管部及び下涙小管部は、涙嚢部及び鼻涙管部よりも透明度を高くすることができる。このような構成とすることにより、内視鏡の見え方を現実の涙道により近づけることができる。
【0019】
涙道モデルの一態様において、涙道モデルは、開通可能な閉塞部を有していてもよい。このような構成とすることにより、涙道が閉塞した病態を再現し、涙道を開通する操作の訓練を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の涙道施術トレーニング装置によれば、涙道を開通させる操作及び涙道チューブを留置する操作等の涙道に対する種々の施術の訓練を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る涙道モデルを示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係る頭蓋骨モデルを示す正面図である。
【
図3】一実施形態に係る頭蓋骨モデルを示す背面図である。
【
図8】頭蓋骨モデルに涙道モデル及び皮膚モデルを装着した状態の保持部の周辺を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の涙道施術トレーニング装置は、頭蓋骨モデル101と、頭蓋骨モデル101に着脱可能な皮膚モデル102及び涙道モデル103とを有している。以下において、上下及び左右方向をいう場合には、ヒトが起立した状態での上下及び左右方向とする。
【0023】
図1に示すように、涙道モデル103は、ヒトの涙道の形状を模して、シリコーン樹脂等の軟質の材料により形成されている。涙道モデル103は、涙嚢部131と、涙嚢部131から下方に延びる鼻涙管部132と、涙嚢部131から側方に延びる涙小管部とを有している。涙小管部は、上側の上涙小管部133と、下側の下涙小管部134とを有している。上涙小管部133の末端には上涙小管部末端開口133aが形成され、下涙小管部134の末端には下涙小管部末端開口134aが形成されている。上涙小管部末端開口133aは、上涙小管部133の下面側に形成されており、下涙小管部末端開口134aは、下涙小管部134の上面側に形成されている。
図1には、右目の涙道に対応する涙道モデルを示している。左目の涙道に対応する涙道モデルは右目の涙道に対応する涙道モデルと鏡面対称である。
【0024】
上涙小管部末端開口133a及び下涙小管部末端開口134aと、鼻涙管部132の末端に形成された鼻涙管末端開口132aとは、上涙小管部133及び下涙小管部134と、涙嚢部131及び鼻涙管部132を介して連通している。上涙小管部末端開口133a及び下涙小管部末端開口134aと、鼻涙管末端開口132aとの間の種々の位置に、開通可能な閉塞部を設けることもできる。開通可能な閉塞部を設けることにより、閉塞部を開通させるトレーニングを行うことができる。開通可能な閉塞部は、真空注型法等により容易に形成することができる。
【0025】
涙道モデル103は、その一部が、頭蓋骨モデル101及び皮膚モデル102に保持される。涙道モデル103の一部のみが頭蓋骨モデル101及び皮膚モデル102に保持されることにより、現実の涙道と同様に力を加えられた際に涙道モデル103が変形する状態を生み出すことができ、よりリアルなトレーニングを行うことができる。
【0026】
上涙小管部133の末端及び下涙小管部134の末端には、それぞれ涙道モデル103を頭蓋骨モデル101に保持させるための上側被保持部135及び下側被保持部136が形成されている。上側被保持部135は、上涙小管部133の末端よりも外側(鼻涙管部132と反対側)に延びて棒状体が上方に突出するL字状の形状を有しており、下側被保持部136は、下涙小管部134の末端よりも外側に延びて棒状体が下方に突出する逆L字状の形状を有している。また、上側被保持部135及び下側被保持部136の棒状体は、それぞれ大径部135a及び136aを有している。
【0027】
頭蓋骨モデル101は、ヒトの頭蓋骨の目及び鼻の周辺部の形状を模して、発泡ポリウレタン等の硬質の材料により形成されている。
図2及び
図3に示すように、頭蓋骨モデル101は、上顎骨を模した上顎骨部141、頬骨を模した頬骨部142、下顎骨の一部を模した下顎骨部143及び前頭骨の一部を模した前頭骨部144を有し、左右の眼窩開口部111及び鼻腔開口部112が形成されている。
【0028】
頭蓋骨モデル101は、外表面側はヒトの頭蓋骨の形状をほぼ完全に有しているが、頭蓋腔側は、涙道モデル103の取付を容易にするために、一部の骨を省略したり、形状を変形したりしている。また、頭蓋骨モデル101は、実際の頭蓋骨には存在しない涙道モデル103を保持するための頭蓋骨側保持部を有している。頭蓋骨側保持部は、上側被保持部135を保持する上側保持部113、下側被保持部136を保持する下側保持部114、及び鼻涙管部132を保持する鼻涙管保持部115を含む。保持部は、左右の涙道モデル103のそれぞれに対応して形成されている。
【0029】
図4に示すように、上側保持部113は、前頭骨部144の眼窩開口部111となる部分から下方に突出する筒状であり、上涙小管部133の末端から上方に突出した棒状の上側被保持部135が挿入される。下側保持部114は、上顎骨部141の眼窩開口部111となる部分から上方に突出する筒状であり、下涙小管部134の末端から下方に突出した棒状の下側被保持部136が挿入される。鼻涙管保持部115は、上顎骨部141の裏面側に形成された筒状の通路であり、挿入された鼻涙管部132を押し潰さないようにして、下端部が鼻腔開口部112に達するように保持する。鼻涙管保持部115は、涙嚢窩及び上顎洞周辺の骨の一部を簡略化及び変形して形成している。
【0030】
図5及び
図6に示すように、皮膚モデル102は、ヒトの顔の皮膚及び筋肉の形状を模してシリコーン樹脂等の軟質の材料により形成されており、眼窩開口部111を覆う位置には、左右の目を模した眼状部121を有し、鼻腔開口部112を覆う位置には鼻を模した鼻状部122を有している。眼状部121の目頭付近には、上涙点を模した上涙点開口121a及び下涙点を模した下涙点開口121bが形成されている。鼻状部122には、裏面側に貫通する鼻腔通路122aが形成されている。
【0031】
皮膚モデル102の裏面側は、頭蓋骨モデル101の表面とほぼ相補的な形状になっている。また、皮膚モデルの上端部には、頭蓋骨モデル101の上端部を挿入できる溝部127が形成されている。このため、皮膚モデル102を頭蓋骨モデル101の表面に被せて容易にずれないようにすることができる。しかし、皮膚モデル102は頭蓋骨モデル101に接着等はされていないため、現実の筋肉及び皮膚と同様に、皮膚モデル102に力を加えた場合に、頭蓋骨モデル101に対してある程度の変形や移動が生じる状態を再現することができる。
【0032】
皮膚モデル102の眼状部121の裏面側には、眼窩開口部111に挿入される眼窩挿入凸部123が形成されている。眼窩挿入凸部123には、涙道モデル103を保持する皮膚モデル側保持部が形成されている。本実施形態において、皮膚モデル側保持部として、上涙小管部133が挿通される上涙小管保持部125及び下涙小管部134が挿入される下涙小管保持部126が形成されている。上涙小管保持部125は、眼窩挿入凸部123の鼻状部122側(内側)の側面に形成された窪み部123cと、眼窩挿入凸部123の上部に形成された上部切欠123aとの間を接続する貫通孔である。下涙小管保持部126は、窪み部123cと、眼窩挿入凸部123の下部に形成された下部切欠123bとの間を接続する貫通孔である。
【0033】
図7に示すように、上涙小管部133及び下涙小管部134を上涙小管保持部125及び下涙小管保持部126に挿入することにより、涙道モデル103は皮膚モデル102の裏面側に保持される。上側被保持部135は上部切欠123aに配置され、下側被保持部136は下部切欠123bに配置され、涙嚢部131は窪み部123cに配置される。この状態において、上涙小管部末端開口133aは、上涙点開口121aと連通し、下涙小管部末端開口134aは、下涙点開口121bと連通する。
【0034】
図8に示すように、涙道モデル103を取り付けた皮膚モデル102の眼窩挿入凸部123を眼窩開口部111に挿入すると、上側保持部113が、上部切欠123aに挿入された状態で上側被保持部135と連結され、下側保持部が、下部切欠123bに挿入された状態で下側被保持部136と連結される。涙嚢部131は、眼窩挿入凸部123と涙嚢窩周辺の骨との間に挟まれた状態となる。なお、
図8では左側にだけ涙道モデル103を取り付けた状態を示している。
【0035】
上涙小管部133及び下涙小管部134は、筋肉組織を模した皮膚モデル102の眼窩挿入凸部123に囲まれて保持されており、硬い頭蓋骨モデル101には当接していない。このため、上涙小管部133及び下涙小管部134に力を加えると、周りを囲む比較的軟質の眼窩挿入凸部123の部分と共に変形し得る。また、上涙小管部133及び下涙小管部134は、上涙小管保持部125及び下涙小管保持部126に対して接着等されておらず摩擦係合しているだけなので、上涙小管保持部125及び下涙小管保持部126に対して摺動することもできる。このため、上涙小管部133及び下涙小管部134は、弾力のある皮膚モデル102に支えられつつ、柔軟に変形することができる。
【0036】
一方、上涙小管部133及び下涙小管部134のそれぞれ設けられた上側被保持部135及び下側被保持部136が、皮膚モデル102ではなく、頭蓋骨モデル101に固定されている。また、上涙小管部133及び下涙小管部134よりも内側の涙嚢部131側は頭蓋骨モデル101と少なくとも一部で当接している。従って、上涙小管部133及び下涙小管部134の摺動範囲は、頭蓋骨モデル101により制限されており、現実の上涙小管及び下涙小管と同程度の変形性を再現できる。上側被保持部135及び下側被保持部136は、上涙小管部133及び下涙小管部134に設けることができるが、現実の涙小管の状態により近くする観点から、上涙小管部133及び下涙小管部134の末端部に設けることが好ましい。
【0037】
鼻涙管保持部115に挿入された鼻涙管部132は、骨を模した比較的硬い鼻涙管保持部115に囲まれている。このため、鼻涙管部132に力を加えても、回りを囲む鼻涙管保持部115はほとんど変形しないので、鼻涙管部132は、涙小管部と比べて変形や移動が生じにくい。これにより、骨性鼻涙管に囲まれ、変形が生じにくい現実の鼻涙管をよりよく再現することができる。
【0038】
このように、本実施形態の涙道施術トレーニング装置は、単に涙道の形状を再現するだけでなく、比較的柔らかく変形しやすい上涙小管及び下涙小管と、比較的しっかりした鼻涙管とを有するという涙道の力学的な特性も再現することができる。このため、より現実に近い高度なトレーニングを行うことができる。
【0039】
本実施形態において、上側被保持部135及び下側被保持部136は、鍔状に膨らんだ大径部135a、136aを有する棒状であり、上側保持部113及び下側保持部114は、それぞれ側面にスロット113a、114aを有し、内面にこの大径部135a、136aを挟み込む凹凸を有する筒状に形成されている。このような構成とすることにより、被保持部135、136がそれぞれ配置された切欠部分123a、123bに、対応する保持部113、114を嵌め込むことにより、保持部113、114の側方のスロット113a、114aから被保持部135、136が挿入される。このため、保持部113、114と被保持部135、136との連結が容易にできる。但し、上側及び下側の被保持部並びに保持部はこのような構成に限らず、上涙小管部133及び下涙小管部134を保持できる種々の構成を採用することができる。
【0040】
上側被保持部135及び下側被保持部136は、上涙小管部末端開口133a及び下涙小管部末端開口134aよりも、外側において頭蓋骨モデル101に保持されることが好ましい。また、上側被保持部135は、上涙小管部133の位置よりも上方において頭蓋骨モデル101に保持され、下側被保持部136は、下涙小管部134の位置よりも下方において頭蓋骨モデル101に保持されることが好ましい。このような構成とすることにより、上涙点開口121a及び下涙点開口121bから、涙道チューブ等を上涙小管部133及び下涙小管部134に挿入する際に、現実の上涙小管及び下涙小管に近い感覚を生じさせることができる。
【0041】
本実施形態においては、鼻涙管保持部115が鼻涙管部132の側面を完全に覆っておらず、開口窓が存在している。これにより、鼻涙管部132の挿入が容易となる。また、鼻涙管保持部115が鼻涙管部132を押圧しすぎないようにすることもできる。但し、このような開口窓が存在していない構成とすることもできる。また、鼻涙管保持部115は、鼻涙管部132を挿入できる筒状の構造に限らず、鼻涙管末端開口132aを鼻腔開口部112付近に誘導できる種々の構成とすることができる。例えば、溝状の通路としたり、複数の突起の間に挟み込む構成としたり、複数のクリップ等により構成したりすることもできる。
【0042】
本実施形態において、皮膚モデル側保持部を、上涙小管保持部125及び下涙小管保持部126を眼窩挿入凸部123の側面に開口する貫通孔とした。このような構成とすることにより、筋肉組織に囲まれた現実の上涙小管及び下涙小管の構成を再現することができる。但し、皮膚モデル側保持部はこのような構成に限らず、上涙小管部133及び下涙小管部134を皮膚モデル102に保持できる種々の構成を採用することができる。例えば、上涙小管保持部125及び下涙小管保持部126を皮膚モデル102の裏面側に形成され、上涙小管部133及び下涙小管部134を挿入できる溝部とすることができる。溝部とすることにより上涙小管部133及び下涙小管部134の取り付けが容易となる。
【0043】
本実施形態において、上涙小管部133及び下涙小管部134は、透明又は半透明とし、涙嚢部131及び鼻涙管部132は、涙小管部よりも透明度を低くすることが好ましく、筋肉組織に近い色に着色することがより好ましい。このようにすれば、涙道内視鏡を挿入した際に、現実の涙道に近い見え方を再現することができる。また、皮膚モデル102も現実の筋肉組織に近い色に着色することが好ましい。
【0044】
本実施形態において、頭蓋骨モデル101及び皮膚モデル102は、上顎骨、前頭骨及び頬骨までの部分を再現している。このように顔面の比較的広い範囲を再現することにより、現実に近い条件で操作の訓練を行うことができる。但し、涙道モデル103を配置できる範囲が再現されていれば、トレーニングを行うことができる。また、本実施形態では左右両方の涙道を再現しているが、一方のみを再現したモデルとすることもできる。
【0045】
本実施形態の涙道施術トレーニング装置は、涙道の形状だけでなく力学的な特性も再現しているため、ブジーや涙道内視鏡を用いて涙道チューブを挿入する操作をよりリアルにシミュレートしてトレーニングすることができる。また、頭蓋骨モデル101、皮膚モデル102及び涙道モデル103が独立しているので、涙道モデル103を閉塞していないものから、閉塞しているものに交換すれば、涙道を開通させる操作のトレーニングをすることもできる。閉塞部は種々の位置に設けることができるで、様々な病態をシミュレートしてトレーニングをすることができる。さらに、本開示の涙道施術トレーニング装置は、涙道チューブを抜去するトレーニング、涙道内視鏡下において組織検体を採取するトレーニング、及び涙道に薬液を投与するトレーニング等の、涙道に対する種々の施術のトレーニングに用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示の涙道施術トレーニング装置は、涙道の開通操作や涙道チューブの留置操作等の涙道に対する種々の施術の訓練を容易に行うことができ、医療の分野において有用である。
【符号の説明】
【0047】
101 頭蓋骨モデル
102 皮膚モデル
103 涙道モデル
111 眼窩開口部
112 鼻腔開口部
113 上側保持部
113a スロット
114 下側保持部
114a スロット
115 鼻涙管保持部
121 眼状部
121a 上涙点開口
121b 下涙点開口
122 鼻状部
122a 鼻腔通路
123 眼窩挿入凸部
123a 上部切欠
123b 下部切欠
123c 窪み部
125 上涙小管保持部
126 下涙小管保持部
127 溝部
131 涙嚢部
132 鼻涙管部
132a 鼻涙管末端開口
133 上涙小管部
133a 上涙小管部末端開口
134 下涙小管部
134a 下涙小管部末端開口
135 上側被保持部
135a 大径部
136 下側被保持部
136a 大径部
141 上顎骨部
142 頬骨部
143 下顎骨部
144 前頭骨部