(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105674
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ハンガーロープ防錆処理方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/16 20060101AFI20230724BHJP
E01D 11/02 20060101ALI20230724BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
E01D19/16
E01D11/02
E01D22/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006650
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】505440631
【氏名又は名称】本州四国連絡高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592185585
【氏名又は名称】本四高速道路ブリッジエンジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】村上 博基
(72)【発明者】
【氏名】光畑 英樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 拓実
(72)【発明者】
【氏名】明石 良男
(72)【発明者】
【氏名】江原 祐史
(72)【発明者】
【氏名】岩井 頼造
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA47
2D059EE00
2D059GG02
2D059GG22
2D059GG23
2D059GG39
(57)【要約】
【課題】ハンガーロープのソケットを主桁から外す必要が無く、より汎用性を高めて様々な長大橋の防錆処理を行う。
【解決手段】ソケットが主桁を支持している状態において、カッタを用いて防錆処理対象部を研磨すると共に、ハンガーロープに束ねられた複数のストランドの間に沿ってカッタをなぞり、充填用隙間を複数箇所に形成する工程と、ソケットと主桁との間の隙間に充填材を充填する工程と、上下方向に沿って複数の注入口が形成された分割型を用いて防錆処理対象部の下端から所定高さまでを覆う工程と、分割型の内部にヒータにより加熱・乾燥させた空気を流通させ、防錆処理対象部を乾燥させる工程と、複数の注入口において下側から順次、分割型の内部に防錆剤を圧入する工程と、分割型の内部を加熱して防錆剤を充填用隙間からハンガーロープ内に浸透させると共に防錆処理対象部の表面に防錆剤を塗布する工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊橋の主桁を吊り下げるハンガーロープの下端部に設けられたソケットの上側の防錆処理対象部のハンガーロープ防錆処理方法であって、
前記ソケットが前記主桁を支持している状態において、カッタを用いて前記防錆処理対象部を研磨すると共に、前記ハンガーロープに束ねられた複数のストランドの間に沿って前記カッタをなぞり、充填用隙間を複数箇所に形成する工程と、
前記ソケットと前記主桁との間の隙間に充填材を充填する工程と、
上下方向に沿って複数の注入口が形成された分割型を用いて前記防錆処理対象部の下端から所定高さまでを覆う工程と、
前記分割型の内部にヒータにより加熱・乾燥させた空気を流通させ、前記防錆処理対象部を乾燥させる工程と、
前記複数の注入口において下側から順次、前記分割型の内部に防錆剤を圧入する工程と、
前記分割型の内部を加熱して前記防錆剤を前記充填用隙間から前記ハンガーロープ内に浸透させると共に前記防錆処理対象部の表面に前記防錆剤を塗布する工程と、
を備える、
ハンガーロープ防錆処理方法。
【請求項2】
前記分割型を前記ハンガーロープから取り外す工程と、
前記防錆処理対象部の表面に付着した余分な前記防錆剤を払拭する工程と、
前記防錆処理対象部の下端から前記防錆剤が付着した所定高さにおいて前記ハンガーロープの周囲を覆うと共に、下面に前記ハンガーロープと間の隙間を塞ぐパッキンが設けられた分割容器を取り付ける工程と、
前記分割容器内に所定温度に加熱された熱可塑性樹脂を注入し、前記所定高さから前記分割容器を前記下端まで下降させ前記防錆処理対象部の表面に前記熱可塑性樹脂をコーティングする工程と、
前記下端において前記分割容器を分割し、前記防錆処理対象部の下部と前記主桁との間を残存する前記熱可塑性樹脂によりコーティングする工程と、
を備える請求項1に記載のハンガーロープ防錆処理方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、防錆油が含侵されている、
請求項2に記載のハンガーロープ防錆処理方法。
【請求項4】
前記分割容器には、前記熱可塑性樹脂を所定温度に加熱するヒータが設けられている、
請求項2又は3に記載のハンガーロープ防錆処理方法。
【請求項5】
前記カッタは超音波カッタ或いはレーザカッタである、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載のハンガーロープ防錆処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊橋に用いられるハンガーロープを維持するためのハンガーロープ防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設の構造物が将来的に老朽化することが懸念されている。既設の構造物を長寿命化するためには、定期的な管理と適切なメンテナンスが必要である。例えば、ワイヤーロープを用いて桁が支持された吊橋は、海上等の厳しい自然環境で風雨に曝されてワイヤーロープに腐食が生じる。吊橋は、特にワイヤーロープの定期的な点検を行い、腐食を早期に発見し、小さな損傷のうちに適切な補修を施すという予防的な維持管理を行うことが求められる。吊橋の点検対象となるワイヤーロープは、タワー間に懸架されたメインケーブル及びメインケーブルから鉛直方向に吊下げられた主桁を支持するためのハンガーロープである。
【0003】
このうち、ハンガーロープは鋼製のワイヤーが複数本束ねられて形成されている。ハンガーロープの表面は、塗装やメッキ処理が施されており、塗膜面等が経年劣化により剥離し、剥離部分のワイヤーの金属表面が露出して腐食する。このためハンガーロープを定期的に点検して腐食部分を発見し、腐食度合に応じた対策を施す必要がある。ハンガーロープは、下端部にソケットと呼ばれる主桁を支持するための支持部材が設けられている。ハンガーロープは、ソケットの上側の所定長さ範囲に錆が発生しやすいため、防錆処理が行われている。
【0004】
ハンガーロープの防錆処理について、例えば、特許文献1に記載された方法が知られている。特許文献1には、ソケットから上部を筒状体で覆い、筒状体の内部に防錆剤を圧入し、ソケットの上部を防錆処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハンガーロープの端部には、主桁のデッキ下面を支持するソケットが設けられている。ソケットとデッキ下面との間には、板状に形成された支圧板等が設けられている場合がある。従来の工法によれば、防錆剤を圧入するためにハンガーソケットの上方に直接容器をセットするように構成されていたため、ソケットを主桁から外し、支圧板等を撤去する必要があった。発明者らは、ハンガーロープの防錆処理について鋭意研究を重ね、改良を続けてきた。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ハンガーロープのソケットを主桁から外す必要が無く、より汎用性を高めて様々な長大橋の防錆処理を行うことができるハンガーロープ防錆処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、吊橋の主桁を吊り下げるハンガーロープの端部に設けられたソケットの上側の防錆処理対象部のハンガーロープ防錆処理方法であって、前記ソケットが前記主桁を支持している状態において、カッタを用いて前記防錆処理対象部を研磨すると共に、前記ハンガーロープに束ねられた複数のストランドの間に沿って前記カッタをなぞり、充填用隙間を複数箇所に形成する工程と、前記ソケットと前記主桁との間の隙間に充填材を充填する工程と、上下方向に沿って複数の注入口が形成された分割型を用いて前記防錆処理対象部の下端から所定高さまでを覆う工程と、前記分割型の内部にヒータにより加熱・乾燥させた空気を流通させ、前記防錆処理対象部を乾燥させる工程と、前記複数の注入口において下側から順次、前記分割型の内部に防錆剤を圧入する工程と、前記分割型の内部を加熱して前記防錆剤を前記充填用隙間から前記ハンガーロープ内に浸透させると共に前記防錆処理対象部の表面に前記防錆剤を塗布する工程と、を備えるハンガーロープ防錆処理方法である。
【0009】
本発明によれば、ハンガーロープのソケットを主桁から外す必要が無く、直接ハンガーロープの防錆処理を行うことができ、様々な長大橋へ適用することができる。また、本発明によれば、分割型の内部にヒータにより加熱・乾燥させた空気を流通させることで、ハンガーロープの防錆処理対象部の内部に浸透した水を乾燥除去することができる。本発明によれば、ハンガーロープにカッタを用いて充填用隙間を形成することによりハンガーロープの内部に防錆剤を浸透させることができる。
【0010】
また、本発明は、前記分割型を前記ハンガーロープから取り外す工程と、前記防錆処理対象部の表面に付着した余分な前記防錆剤を払拭する工程と、前記防錆処理対象部の下端から前記防錆剤が付着した所定高さにおいて前記ハンガーロープの周囲を覆うと共に、下面に前記ハンガーロープと間の隙間を塞ぐパッキンが設けられた分割容器を取り付ける工程と、前記分割容器内に所定温度に加熱された熱可塑性樹脂を注入し、前記所定高さから前記分割容器を前記下端まで下降させ前記防錆処理対象部の表面に前記熱可塑性樹脂をコーティングする工程と、前記下端において前記分割容器を分割し、前記防錆処理対象部の下部と前記主桁との間を残存する前記熱可塑性樹脂によりコーティングする工程と、を備えていてもよい。
【0011】
本発明によれば、防錆剤を浸透させたハンガーロープの表面に付着した余分な防錆剤を払拭することで、コーティングの密着性を向上することができる。本発明によれば、分割型の内部に注入された熱可塑性樹脂により浸漬式にハンガーロープの表面にコーティング層を形成することができる。本発明によれば、薄くて略均一なコーティング層をハンガーロープの表面に形成することができる。
【0012】
また、本発明の前記熱可塑性樹脂は、防錆油が含侵されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、熱可塑性樹脂により形成されたコーティング層は、施工後も防錆油がハンガーロープの表面に浸透して防錆効果を継続することができる。
【0014】
また、本発明の前記分割容器には、前記熱可塑性樹脂を所定温度に加熱するヒータが設けられていてもよい。
【0015】
本発明によれば、ハンガーロープの表面にコーティング層を形成する際に、ヒータにより分割容器が融点以上の所定温度に保持されることにより、熱可塑性樹脂を溶融した状態に保持することができる。
【0016】
また、本発明の前記カッタは超音波カッタ或いはレーザカッタであってもよい。
【0017】
本発明によれば、超音波カッタやレーザカッタにより、ハンガーロープの表面の錆や汚れの除去における作業の負担を軽減すると共に、ハンガーロープに充填用隙間を形成する際の負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハンガーロープのソケットを主桁から外す必要が無く、より汎用性を高めて様々な長大橋の防錆処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の維持管理対象となる吊橋の構成を示す図である。
【
図2】ハンガーロープの端部の構成を示す図である。
【
図3】ハンガーロープの防錆処理対象部の錆を除去し、充填用隙間を形成する工程を示す図である。
【
図4】ハンガーロープの防錆処理対象部の錆を除去し、充填用隙間を形成する工程を示す拡大図である。
【
図5】ソケットと主桁との間の隙間に充填材を充填する工程を示す図である。
【
図6】分割型を用いて防錆処理対象部の下端から所定高さまでを覆う工程を示す図である。
【
図7】分割型の内部にヒータにより加熱・乾燥させた空気を流通させ、防錆処理対象部を乾燥させる工程を示す図である。
【
図8】分割型の複数の注入口において下側から順次、内部に防錆剤を圧入する工程を示す図である。
【
図9】分割型をハンガーロープから取り外す工程を示す図である。
【
図10】防錆処理対象部の下端から所定高さにおいて分割容器を取り付ける工程を示す図である。
【
図11】所定高さから分割容器を下端まで下降させ防錆処理対象部の表面に熱可塑性樹脂をコーティングする工程を示す図である。
【
図12】下端において分割容器を分割し、防錆処理対象部の下部と主桁との間を残存する熱可塑性樹脂によりコーティングする工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明のハンガーロープ防錆処理方法の実施形態について説明する。ハンガーロープ防錆処理方法は、吊橋の主桁を吊り下げるハンガーロープを定期的に防錆処理し、吊橋を長寿命化させるものである。
【0021】
図1に示されるように、吊橋Bは、主桁160がワイヤーロープで吊り下げられる構造を有する橋梁である。吊橋Bは、2本の主塔100(タワー)がスパン間に構築される。主塔100は、海中に設けられた基礎140の上に構築される。2本の主塔100間には、主塔100の上端に支持されたメインケーブル120が懸架される。メインケーブル120は、複数の鋼製のワイヤーが平行に束ねられて形成されている。
【0022】
メインケーブル120の両端は、地上に設置されたアンカレッジ130に接続される。アンカレッジ130は、コンクリート製の重量物であり、メインケーブル120を地表に連結させる。メインケーブル120からは、複数のハンガーロープ150が吊り降ろされている。複数のハンガーロープ150の張力により主桁160が支持される。
【0023】
ハンガーロープ150は、複数のワイヤーロープが撚られて形成されている。ハンガーロープ150は、剥き出しの状態であり、防食対策として表面が塗装やメッキ処理されている。ハンガーロープ150は、海上の風雨に曝されつつ、日中の温度変化や主桁160の荷重変化等の影響を受け、膨張、収縮、伸縮、振動等を繰り返すため、表面の塗膜等の一部が剥がれ落ちる。塗膜等が剥がれ落ちた部分は、ワイヤーロープの金属地の表面が風雨に直接曝されて錆が発生し、腐食が進行する。
【0024】
図2に示されるように、ハンガーロープ150の下端部には、主桁160を支持するためのソケット151が設けられている。ソケット151は、ハンガーロープ150の径に比して太い径の円柱状に形成されている。ソケット151は、ハンガーロープ150の下端部に強固に固定されハンガーロープ150の下端部から逸脱が防止されている。ソケット151は、主桁160のデッキ下面161を支持している。ソケット151とデッキ下面161との間には、下方から順に板状に形成された調整プレート152、ロックプレート153、支圧板154が設けられている。
【0025】
デッキ下面161の上方に離間してデッキ上面162が対向して配置されている。デッキ上面162の上面側には、ハンガーロープ150を固定するためのハンガーカラー155が設けられている。ハンガーカラー155は、分割式の固定治具であり、ハンガーロープ150を挟持してデッキ上面162に固定するように形成されている。ハンガーカラー155は、デッキ上面162にボルト及びナットにより着脱自在に固定されている。ハンガーカラー155の上部においてハンガーロープ150との接触部分には、例えば、充填材が充填され、デッキ上面162に降った雨がハンガーロープ150を伝わってデッキ下面161まで到達することを防止している。
【0026】
図3に示されるように、ハンガーロープ150は、ソケット151の上部の特に約2m以下の所定範囲の内部に水が溜まり、錆が発生しやすい。ハンガーロープ防錆処理方法においては、この所定範囲を防錆処理対象部Sとして防錆処理を行う。防錆処理において、先ず、ハンガーロープ150からハンガーカラー155が撤去される。次に、ソケット151がデッキ下面161(主桁)を支持している状態において、作業者は、超高圧水等により防錆処理対象部Sを洗浄し、汚れや錆を除去する。作業者は、更にカッタ180を用いて防錆処理対象部Sを研磨し、洗浄工程で残留した錆を削り取る。カッタ180は、例えば、刃に超音波の振動を与える超音波カッタである。カッタ180は、レーザカッタが用いられてもよい。
【0027】
図4に示されるように、ハンガーロープ150は、複数のストランド150Aにより束ねられている。作業者は、カッタ180の刃をストランド150Aの間に沿ってカッタ180の刃をなぞり、充填用隙間150Bを複数箇所に形成する。隣接するストランド150Aの間は、塗膜、錆、コーティング剤等で埋まっている場合があるからである。カッタ180にレーザカッタを用いる場合、作業者は、レーザをストランド150Aの間に沿ってなぞり、塗膜、錆、コーティング剤等を除去し、充填用隙間150Bを複数箇所に形成する。
【0028】
図5に示されるように、作業者は、ソケット151とデッキ下面161(主桁)との間の隙間163に充填材を充填する。充填材は、例えば、コーキングガン190等の充填用工具を用いて充填材を充填する。
【0029】
図6に示されるように、作業者は、上下方向に沿って複数の注入口T1が形成された分割型Tを用いて防錆処理対象部Sの下端から所定高さまでを覆う。分割型Tは、例えばハンガーロープ150の径に比して若干大きい径の内部空間を有する分割式の筒状体T2と、筒状体T2を筒状に保持する複数の留具T3とを備える。分割型Tは、支圧板154、ソケット151をデッキ下面161から外さずにデッキ下面161を支持した状態において防錆処理対象部Sに固定される。
【0030】
図7に示されるように、分割型Tには、内部に加熱・乾燥させた空気を流通させるためのヒータHが接続される。作業者は、分割型Tの内部をヒータHにより加熱し、防錆処理対象部Sを乾燥させる。ヒータHは、例えば、空気を供給するコンプレッサH1を備える。コンプレッサH1には、異物を除去するフィルタH2が配管HTを介して接続されている。フィルタH2の下流側には、配管HTを介して空気中の水分を除去するドライフィルタH3が接続されている。ドライフィルタH3の下流側には、配管HTを介して配管HTを通過する空気を加熱するためのラインヒータH4が接続されている。ラインヒータH4には、電力を供給する電源装置H5が電気的に接続されている。ラインヒータH4には、例えば、電熱線が設けられている。電熱線には、電源装置H5から電力が供給され、電気抵抗により発熱する。
【0031】
コンプレッサH1から吐出された空気は、フィルタH2を通過し異物が除去される。フィルタH2を通過した空気は、ドライフィルタH3を通過し、水分が除去され乾燥空気となる。ドライフィルタH3を通過した空気は、ラインヒータH4内部において加熱される。ラインヒータH4を通過した空気は、例えば、最下部の注入口T1に配管HTを介して供給される。注入口T1から供給された空気は、分割型Tの内部空間に供給される。
【0032】
分割型Tの内部に供給された空気は、ハンガーロープ150の表面を流通しながらハンガーロープ150を加熱する。ハンガーロープ150の内部の水分は、ハンガーロープ150に伝達した熱により加熱され、蒸発する。蒸発した水分は、充填用隙間150Bから排出され、分割型Tの内部空間を流通し、分割型Tの上部から大気中に排出される。
【0033】
図8に示されるように、作業者は、ヒータHの配管HTを上部の注入口T1に移動すると共に、注入器Gを用いて複数の注入口T1において下側から順次、分割型Tの内部に防錆剤を圧入する。防錆剤は、例えば、粘性を有するグリスである。このとき、分割型Tの内部は、ヒータHにより継続して加熱される。分割型Tの内部やハンガーロープ150は、ヒータHにより加熱されているので、防錆剤は、流動性が高まり、充填用隙間150Bからハンガーロープ150内に浸透する。
【0034】
図9に示されるように、作業者は、分割型Tをハンガーロープ150から取り外す。作業者は、防錆処理対象部Sの表面に付着した余分な防錆剤を払拭する。
【0035】
図10に示されるように、作業者は、防錆処理対象部の下端から防錆剤が付着した所定高さにおいてコーティングのための分割容器Rを取り付ける。分割容器Rは、ハンガーロープの周囲を覆うように分割可能に形成されている。分割容器Rの下面には、ハンガーロープ150と間の隙間を塞ぐパッキンR1が設けられている。パッキンR1は、弾力性を有する弾性体により板状に形成されている。パッキンR1には、ハンガーロープ150の断面形状と略同じ穴が形成されている。
【0036】
分割容器Rには、例えば、内部を所定温度に加熱するためのヒータが設けられている。分割容器Rには、ヒータに電力を供給する電源装置R3が電気的に接続されている。分割容器Rの内部には、ハンガーロープ150のコーティング用に、所定温度に加熱された熱可塑性樹脂が注入される。熱可塑性樹脂は、例えば、防錆油が含侵された樹脂材料(例えば、エンバイロピール)である。分割容器Rには、電力が供給され、熱可塑性樹脂を溶融した状態に保つ。溶融した熱可塑性樹脂は、粘性があるため、パッキンR1からは漏出しない。
【0037】
図11に示されるように、作業者は、所定高さから分割容器を下端まで下降させ防錆処理対象部Sの表面に熱可塑性樹脂をコーティングする。即ち、ハンガーロープ150の表面は、分割容器Rに貯留された熱可塑性樹脂に浸漬された状態で分割容器Rが下方に移動することで、熱可塑性樹脂が付着する。付着した熱可塑性樹脂は、重力の作用を受け、一部が分割容器R内に戻り、付着した状態の熱可塑性樹脂は、ハンガーロープ150の表面において融点以下に冷却されて凝固する。これにより、ハンガーロープ150の防錆処理対象部Sの表面には、略均一な熱可塑性樹脂のコーティング層が形成される。
【0038】
図12に示されるように、作業者は、防錆処理対象部Sの下端において分割容器Rを分割して外す。このとき、分割容器Rに残存する熱可塑性樹脂は、ハンガーロープ150を中心にデッキ下面161上において円形に広がる。これにより、防錆処理対象部Sの下部と主桁との間の隙間は、残存する熱可塑性樹脂によりコーティングされる。
【0039】
上述したように、ハンガーロープ防錆処理方法によれば、ソケット151を主桁160から外さずにハンガーロープ150に防錆処理を行うことができる。ハンガーロープ防錆処理方法によれば、ハンガーロープ150は、分割型Tの内部をヒータHにより加熱することにより内部の水が乾燥、除去されると共に、内部に防錆剤を浸透させることができる。ハンガーロープ防錆処理方法によれば、防錆剤を浸透させたハンガーロープ150の表面に防錆油が含侵された熱可塑性樹脂をコーティングすることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、維持管理方法は、吊橋Bのハンガーロープ150の防錆方法を例示したが、ワイヤーロープを用いた他の綱状構造体の維持管理に適用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
100 主塔、120 メインケーブル、130 アンカレッジ、140 基礎、150 ハンガーロープ、150A ストランド、150B 充填用隙間、151 ソケット、152 調整プレート、153 ロックプレート、154 支圧板、155 ハンガーカラー、160 主桁、161 デッキ下面、162 デッキ上面、163 隙間、180 カッタ、190 コーキングガン、B 吊橋、G 注入器、H ヒータ、H1 コンプレッサ、H2 フィルタ、H3 ドライフィルタ、H4 ラインヒータ、H5 電源装置、HT 配管、R 分割容器、R1 パッキン、R3 電源装置、S 防錆処理対象部、T 分割型、T1 注入口、T2 筒状体、T3 留具