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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105727
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】面状発熱材、及び面状発熱体
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20230724BHJP
   D02G 3/12 20060101ALI20230724BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20230724BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20230724BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
H05B3/20 348
D02G3/12
D02G3/36
D04B1/00 B
D04B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006722
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】竹内 廉貴
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 幸輔
(72)【発明者】
【氏名】杉原 茂一
【テーマコード(参考)】
3K034
4L002
4L036
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034AA05
3K034AA12
3K034BA08
3K034BB08
3K034BB15
3K034BC10
3K034JA09
4L002AA00
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC03
4L002AC07
4L002BA01
4L002BB01
4L002EA00
4L002EA05
4L002FA06
4L036MA04
4L036MA34
4L036RA24
4L036UA07
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】導電糸に金属線を用いたものであっても、加熱対象物への表面追従性が良好でありながら、速暖性に優れた面状発熱材を提供する。
【解決手段】伸縮性を有する基材と、導電糸100とを含む面状発熱材10であって、導電糸100は、絶縁性樹脂で被覆された金属線であり、基材の単位長さLsに対して、導電糸100の長さLaが2.5倍以上に設定され、JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される3Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率が20%以上となるように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する基材と、導電糸とを含む面状発熱材であって、
前記導電糸は、絶縁性樹脂で被覆された金属線であり、
前記基材の単位長さに対して、前記導電糸の長さが2.5倍以上に設定され、
JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される3Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率が20%以上となるように構成されている面状発熱材。
【請求項2】
前記導電糸は、前記基材に対して10mm以下の間隔で縫い付けられている請求項1に記載の面状発熱材。
【請求項3】
前記導電糸は、前記基材に対して直接的に縫い付けられている請求項2に記載の面状発熱材。
【請求項4】
前記基材に対して直接的に縫い付けられる絶縁糸をさらに含み、
前記絶縁糸の縫い目と前記基材との隙間に前記導電糸が通されることにより、前記導電糸は、前記基材に対して間接的に縫い付けられている請求項2に記載の面状発熱材。
【請求項5】
前記導電糸は、直径が100μm以下である請求項1~4の何れか一項に記載の面状発熱材。
【請求項6】
前記基材は、二層以下の編物で構成されている基布である請求項1~5の何れか一項に記載の面状発熱材。
【請求項7】
前記基材は、JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される3Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率が50%以上である請求項1~6の何れか一項に記載の面状発熱材。
【請求項8】
前記導電糸は、5×10-5Ω・m以下の電気抵抗率を有する請求項1~7の何れか一項に記載の面状発熱材。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の面状発熱材に電極を設けた面状発熱体であって、
前記面状発熱材における前記電極の設置領域において、前記導電糸は前記金属線が露出するように処理されている面状発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有する基材と、導電糸とを含む面状発熱材、及び当該面状発熱材を用いた面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は、例えば、車輛の内装品、衣料品、健康・介護・医療器具、家具等において広く利用されている。
【0003】
この種の面状発熱体として、従来、ポリエステルフィルム等を基材に用い、この基材に発熱体を貼り付けたシート状の製品が一般に広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
近年、面状発熱体の用途が多様化し、加熱対象物の平坦な表面だけでなく、湾曲部や凹凸部の表面にも面状発熱体が設置されることが増え、これに伴って、面状発熱体には種々の形状の表面に追従することができる表面追従性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/024610号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の面状発熱体では、柔軟性はあっても伸縮性に乏しく、加熱対象物の湾曲部や凹凸部に対する表面追従性が不十分である。
【0007】
また、導電糸に金属線を用いた面状発熱体には、短時間で発熱すること(速暖性)も要求されている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、導電糸に金属線を用いたものであっても、加熱対象物への表面追従性が良好でありながら、速暖性に優れた面状発熱材、及び面状発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る面状発熱材の特徴構成は、
伸縮性を有する基材と、導電糸とを含む面状発熱材であって、
前記導電糸は、絶縁性樹脂で被覆された金属線であり、
前記基材の単位長さに対して、前記導電糸の長さが2.5倍以上に設定され、
JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される3Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率(以下、「3N定荷重伸長率」ともいう)が20%以上となるように構成されていることにある。
【0010】
本構成の面状発熱材によれば、伸縮性を有する基材と、絶縁性樹脂で被覆された金属線である導電糸とを含む構成とし、基材の単位長さに対して、この単位長さの基材に含まれる導電糸の長さが2.5倍以上に設定されていることにより、導電糸において、基材の単位長さに対して長くなる余剰長さの部分、すなわち伸び代を十分に存在させることができる。基材が伸長されると、導電糸の伸び代が減少するように導電糸が引き延ばされる。一方、基材の伸長が解除されると、基材の収縮に伴って減少していた導電材の伸び代が回復する。このように、面状発熱材は全体として伸縮性を有するものとなる。そして、この伸縮性は、面状発熱材の3N定荷重伸長率を20%以上とすることにより、面状発熱材を加熱対象物の形状に良好に追従させて変形させることができる。また、導電糸の伸び代の分だけ、それに含まれる金属線が長くなるため、加熱対象物を短時間で効率よく加熱することが可能となり、速暖性に優れるものとなる。よって、本発明の面状発熱材は、導電糸に金属線を用いたものであっても、加熱対象物への表面追従性が良好でありながら、速暖性に優れるものとなる。また、上記単位長さに対する導電糸の長さを2.5倍以上に設定し、かつ、3N定荷重伸長率を20%以上に設定することにより、面状発熱材は、伸縮性に優れるだけでなく、屈曲耐久性にも優れるものとなる。
【0011】
本発明に係る面状発熱材において、
前記導電糸は、前記基材に対して10mm以下の間隔で縫い付けられていることが好ましい。
【0012】
本構成の面状発熱材によれば、導電糸が基材に対して10mm以下の間隔で縫い付けられていることにより、面状発熱材における単位面積当たりの導電糸の本数が増えるため、面状発熱材は、速暖性が向上したものとなる。
【0013】
本発明に係る面状発熱材において、
前記導電糸は、前記基材に対して直接的に縫い付けられていることが好ましい。
【0014】
本構成の面状発熱材によれば、導電糸が基材に対して直接的に縫い付けられていることにより、他の部材を介する必要がない点で、面状発熱材は、製造し易いものとなる。また、導電糸が基材に対してより確実に固定されるため、面状発熱材は、耐久性に優れるものとなる。
【0015】
本発明に係る面状発熱材において、
前記基材に対して直接的に縫い付けられる絶縁糸をさらに含み、
前記絶縁糸の縫い目と前記基材との隙間に前記導電糸が通されることにより、前記導電糸は、前記基材に対して間接的に縫い付けられていることが好ましい。
【0016】
本構成の面状発熱材によれば、基材に対して直接的に縫い付けられる絶縁糸の縫い目と、基材との隙間に導電糸が通されることにより、導電糸を基材に対して任意の方向に間接的に縫い付けることができるようになる。その結果、面状発熱材の表面に位置する導電糸を増加させることができ、面状発熱材の速暖性を向上することができる。
【0017】
本発明に係る面状発熱材において、
前記導電糸は、直径が100μm以下であることが好ましい。
【0018】
本構成の面状発熱材によれば、導電糸の直径が100μm以下であることにより、導電糸が折れ曲がり易くなるため、面状発熱材は、表面追従性、及び屈曲耐久性が向上したものとなる。
【0019】
本発明に係る面状発熱材において、
前記基材は、二層以下の編物で構成されている基布であることが好ましい。
【0020】
本構成の面状発熱材によれば、基材が、二層以下の編物で構成されている基布であることにより、基材の伸縮性が向上したものとなり、これに伴って、面状発熱材も、表面追従性が向上したものとなる。
【0021】
本発明に係る面状発熱材において、
前記基材は、JIS L1096の伸び率(D法)に準拠して測定される3Nの荷重を付与したときの定荷重伸長率(3N定荷重伸長率)が50%以上であることが好ましい。
【0022】
本構成の面状発熱材によれば、基材における3N定荷重伸長率が50%以上であることにより、基材は、十分な伸縮性を有し、これに伴って、面状発熱材も、十分な伸縮性を有するものとなる。
【0023】
本発明に係る面状発熱材において、
前記導電糸は、5×10-5Ω・m以下の電気抵抗率を有することが好ましい。
【0024】
本構成の面状発熱材によれば、導電糸として5×10-5Ω・m以下の電気抵抗率を有するものを用いることで、導電糸の温度上昇速度が大きくなり、速暖性に優れた面状発熱材を実現することができる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明に係る面状発熱体の特徴構成は、
上記の何れか一つの面状発熱材に電極を設けた面状発熱体であって、
前記面状発熱材における前記電極の設置領域において、前記導電糸は前記金属線が露出するように処理されていることにある。
【0026】
本構成の面状発熱体によれば、本発明の面状発熱材を使用しているため、加熱対象物への表面追従性が良好で、且つ短時間で発熱する速暖性にも優れた面状発熱体を実現することができる。ここで、面状発熱体は、面状発熱材における電極の設置領域において、導電糸の金属線が露出するように処理されているため、電極と導電糸との通電状態を確保しながら、隣に位置する導電糸どうしの短絡が絶縁性樹脂によって防止され、優れた速暖性と高い安全性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る面状発熱体を概略的に示した斜視図である。
図2図2は、本発明の第一実施形態に係る面状発熱体に使用する面状発熱材の断面図であり、基材に対する導電糸の縫い付け状態を模式的に示す。
図3図3は、導電糸の直径を示す説明図である。
図4図4は、本発明の第一実施形態に係る面状発熱体に使用する面状発熱材の平面図であり、荷重が付与されていない状態を示す。
図5図5は、本発明の第一実施形態に係る面状発熱体に使用する面状発熱材の平面図であり、荷重が付与されている状態を示す。
図6図6は、本発明の第二実施形態に係る面状発熱体に使用する面状発熱材の平面図であり、荷重が付与されていない状態を示す。
図7図7は、本発明の第二実施形態に係る面状発熱体に使用する面状発熱材の平面図であり、荷重が付与されている状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の面状発熱材、及び面状発熱体について、図面を参照しながら説明する。ただし、各図に示した構成(基材に対する導電糸の縫い付け状態)は、説明を容易にするため適宜誇張又は簡略化してあり、基材に縫い付けられる導電糸のサイズ関係、縮尺関係は、実際の面状発熱材、及び面状発熱体を正確に反映したものとは限らない。
【0029】
[第一実施形態]
<面状発熱体>
図1は、本発明の第一実施形態に係る面状発熱体1を概略的に示した斜視図である。面状発熱体1は、後に詳述する面状発熱材10において、コース方向(緯方向)に離間する二つの設置領域10aの夫々に電極20を設けたものである。面状発熱材10は、基材(表基材200及び裏基材300)に導電糸100がコース方向(緯方向)に沿って縫い付けられたものであり、表基材200及び裏基材300の伸縮性により加熱対象物の形状に良好に追従して変形することができる。後述するように、導電糸100は、絶縁性樹脂で被覆された金属線を含んでおり、設置領域10aでは、レーザー除去加工といった物理的処理、又は薬品処理等により絶縁性樹脂が除去され、金属線が露出するように処理されている。
【0030】
電極20は、夫々の設置領域10aにおいて、ウェル方向(経方向)に並列する複数の導電糸100と電気的に接続されている。面状発熱体1は、二つの電極20間に電圧が印加されることによって、電極間を導通する導電糸100においてジュール熱を発生させ、加熱対象物を加熱、保温することができる。なお、加熱対象物としては、例えば、ハンドルやシート等の車輛の内装品が代表的である。面状発熱体1は、加熱対象物の表面を覆うように配して用いられる。
【0031】
電極20は、例えば、ポリイミドフィルム等の樹脂フィルムの表面に、金属を蒸着した導電性フィルム、又は、金属箔を貼付したフィルムとして構成される。電極20は、面状発熱材10において、緯方向に間隔を開けて設けられた二つの設置領域10aの夫々に取り付けられる。設置領域10aでは、導電糸100は、レーザー除去加工等により導電糸100の表面の絶縁性樹脂120が除去され、金属線110が露出するように処理されている。従って、設置領域10aにおいて、電極20は、導電糸100と電気的に接続されている。樹脂フィルムに蒸着する金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、クロム、マンガン、ケイ素、鉛、ビスマス、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、及びコバルト等の単体金属、並びにこれらの合金を用いることができ、これらのなかでも、銅や錫を用いることが好ましい。
【0032】
面状発熱体1は、速暖性の指標として、表面温度を25℃に保持した状態で通電したとき、表面温度が65℃に達するまでに要する時間が90秒以内である速暖性を有することが好ましく、70秒以内に65℃に達するとより好ましい。この程度の速暖性を有するものであれば、特に、ハンドルヒーターやシートヒーター等の車輛の内装品に好適に利用することができる。
【0033】
<面状発熱材>
図2は、第一実施形態に係る面状発熱体1に使用する面状発熱材10の断面図である。この断面図では、基材(表基材200及び裏基材300)に対する導電糸100の縫い付け状態を模式的に示してある。面状発熱材10は、例えば絶縁性の表基材200と、絶縁性の裏基材300とを有する多重基材として構成される。面状発熱材10は、表基材200と裏基材300との間に他の基材を有する三重以上の多重基材として構成してもよいが、加熱対象物の表面形状に追従する柔軟性を得るために、二重基材であることが好ましい。
【0034】
導電糸100は、表基材200及び裏基材300の少なくとも一方に縫い付けられていればよく、図2の例示においては、これらの双方に縫い付けられている。表基材200及び裏基材300の少なくとも一方のコース方向又はウェル方向(ここではウェル方向)において、導電糸100は、隣接しないように配置されることが好ましい。図2の例示においては、導電糸100は、表基材200及び裏基材300を貫通し、表基材200及び裏基材300の内部においてループ(環)を形成するように直接的に縫い付けられている。
【0035】
後述する図4に示すような無荷重状態の面状発熱材10において、例えば、緯方向に荷重が付与されると、後述する図5に示すように表基材200及び裏基材300が伸長され、その際、表基材200及び裏基材300の内部における導電糸100のループ(伸び代)が小さくなり、その分、導電糸100の露出部分が長くなる。このように、表基材200及び裏基材300の伸長に追従して、導電糸100の露出部分が荷重方向に長くなる(見かけの長さが大きくなる)ため、面状発熱材10が荷重方向に伸長されることになる(図4の状態から図5の状態になる)。
【0036】
一方、面状発熱材10に付与された荷重が解除されると、表基材200及び裏基材300が収縮し、その際、表基材200及び裏基材300の内部にて小さくなっていた導電糸100のループが回復し、その分、導電糸100の露出部分が短くなる。このように、表基材200及び裏基材300の収縮に追従して、導電糸100の露出部分が荷重方向に短くなる(見かけの長さが小さくなる)ため、面状発熱材10が緯方向に収縮することになる(図5の状態から図4の状態に戻る)。
【0037】
このように、表基材200及び裏基材300に、これらの内部でループを形成するように導電糸100が縫い付けられることにより、面状発熱材10は、伸縮性を有するものとなる。
【0038】
<基材>
基材としての表基材200及び裏基材300は、伸縮性を有する基材である。表基材200及び裏基材300としては、伸縮性を有するものであれば特に限定されず、具体的には、編物、織物、フィルム、不織布、ウレタンスポンジ等が挙げられる。これらのうち、伸縮性の観点から、編物が好ましい。編物としては、伸縮性の観点から、緯編が好ましく、生産性、経済性の観点から、丸編が好ましい。表基材200及び裏基材300が編物である場合、面状発熱材10は、表基材200としての表編物と、裏基材300としての裏編物との間を連結する連結糸(図示せず)を用いた多重編地として編成することができる。このように、面状発熱材10の基材(表基材200及び裏基材300)が、二層以下の編物で構成されることにより、基材(表基材200及び裏基材300)が比較的伸縮性に優れたものとなり、面状発熱材10は、表面追従性が向上したものとなる。
【0039】
表基材200及び裏基材300の3N定荷重伸長率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。上記3N定荷重伸長率が50%以上であることにより、表基材200及び裏基材300は、十分な伸縮性を有し、これに伴って、面状発熱材10も、十分な伸縮性を有するものとなる。なお、表基材200及び裏基材300の3N定荷重伸長率は、これら全体としての3N定荷重伸長率として評価される。
【0040】
表基材200及び裏基材300が編物である場合、これらの構成地糸の形態としては、紡績糸(短繊維糸)、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸等が挙げられる。マルチフィラメント糸は、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚り加工や流体攪乱処理などの加工を施してもよい。地糸の繊度(総繊度)は、330dtex以下が好ましく、167dtex以下がより好ましく、84dtex以下がさらに好ましい。地糸の繊度(総繊度)は、56dtex以上が好ましい。地糸として用いる糸条の総繊度が330dtex以下であれば、表基材200及び裏基材300の地組織が柔軟なものとなり、面状発熱材10が優れた表面追従性を有するものとなる。また、地糸の繊度(総繊度)が56dtex以上であれば、面状発熱材10が優れた屈曲耐久性を有するものとなる。
【0041】
地糸を構成する繊維の素材は、特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等を挙げることができる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、優れた強度を有する点から、合成繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維が好ましく、カチオン可染型ポリエステル繊維(CDP)がより好ましい。繊維の形状は、特に限定されるものではなく、長繊維、短繊維の何れであってもよい。また、繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平型、楕円型、三角型、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0042】
<導電糸>
図3は、導電糸100の詳細な構成を示す説明図である。導電糸100は、金属線110と、金属線110を被覆する絶縁性樹脂120とを有する。
【0043】
導電糸100は、その直径Rが小さくなる程、導電糸100が折れ曲がり易くなるため、縫い付けが容易となり(縫製性が向上し)、表面追従性が向上する一方、導電糸100が断線し易くなり、それゆえ縫い付け自体が困難となる(縫製性が劣る)傾向にある。また、導電糸100は、その直径Rが大きくなる程、速暖性が向上し、導電糸100が断線し難くなる一方、導電糸100が折れ曲がり難くなり、それゆえ縫い付け自体が困難となり、また、屈曲耐久性が低下する傾向にある。これらの傾向を考慮すると、導電糸100の直径Rは、100μm以下が好ましく、20~80μmがより好ましく、20~50μmがさらに好ましい。導電糸100の直径Rが上記の範囲内であれば、面状発熱材10は、速暖性、表面追従性、屈曲耐久性、及び縫製性を兼ね備えたものとなる。ここで、導電糸100の直径Rは、最大径を意味し、具体的には、金属線110の直径と、絶縁性樹脂120の厚み(×2)との和として算出される。
【0044】
金属線110の直径は、上述した導電糸100の直径Rが上記範囲となるように適宜設定し得る。この観点を考慮すると、金属線110の直径は、20~80μmが好ましく、20~50μmがより好ましい。ここで、金属線110の直径は、最大径を意味する。
【0045】
金属線110の材料は、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、クロム、マンガン、ケイ素、鉛、ビスマス、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、及びコバルト等の単体金属、並びにこれらの合金を用いることができ、これらのなかでも、適切な抵抗値、及び経済性の観点から、銅及びニッケル、銅及びケイ素、銅及びマンガンや、銅及び錫の合金、ニクロムといった合金を用いることが好ましい。なお、導電糸100には、絶縁性樹脂120により被覆された金属線110に代えて、炭素繊維を採用することも可能である。
【0046】
絶縁性樹脂120は、金属線110を保護し、絶縁性を確保し、屈曲等による金属線110の断線を防止するものである。絶縁性樹脂120は、面状発熱材10の設置領域10aにおいて、金属線110と電極20とを電気的に導通可能とするために、レーザー除去加工等によって容易に除去可能な素材(加熱溶融可能な素材)が使用される。そのような絶縁性樹脂120の素材としては、合成樹脂が好ましく、耐屈曲性、耐油性、耐摩耗性、強靭性の観点から、熱可塑性エラストマー(TPE:ThermoPlastic Elastomer)がより好ましく、エステルイミドがさらに好ましい。絶縁性樹脂120の厚みは、4~8μmが好ましい。絶縁性樹脂120の厚みが上記の範囲内であれば、導電糸100の屈曲耐久性、柔軟性が好適なものとなる。特に、絶縁性樹脂120の厚みが4μm以上であることにより、金属線110の保護が十分なものとなる。また、絶縁性樹脂120の厚みが8μm以下であることにより、導電糸100が硬くなり過ぎることを抑制することができるため、面状発熱材10の表面追従性が向上し、レーザー除去加工等による絶縁性樹脂120の完全な除去が容易になる。
【0047】
導電糸100は、5×10-5Ω・m以下の電気抵抗率を有することが好ましく、5×10-7Ω・m以下の電気抵抗率を有することがより好ましい。導電糸100の電気抵抗率が5×10-5Ω・m以下であることにより、ハンドルヒーターやシートヒーター等として車輛の内装品に使用される緯方向に40cm程度のサイズの面状発熱材10において、車載バッテリーによる例えば13Vの電圧を印加したときに、適度なジュール熱を発生することで面状発熱材10の温度上昇速度が大きくなり、速暖性に優れたものとなる。
【0048】
図4は、面状発熱材10の平面図であり、荷重が付与されていない状態を示す。図2及び図4に示すように、導電糸100は、編物である表基材200及び裏基材300(図2参照)に、これらの内部にループを形成するように、緯方向に沿って直接的に縫い付けられている。ループを形成する縫製方法としては、特に限定されず、公知の縫製方法を採用することができる。
【0049】
このように、導電糸100がループを形成するように直接的に縫い付けられていることにより、導電糸100の長さLaは、表基材200及び裏基材300(図2参照)の単位長さLsに対して、2.5倍以上の長さに設定されている(La/Ls≧2.5)。すなわち、単位長さLsの表基材200及び裏基材300に含まれる導電糸100の長さLaが、単位長さLsに対して2.5倍以上の長さに設定されている。導電糸100の長さLaが単位長さLsに対して2.5倍以上の長さに設定されていることにより、導電糸100において、表基材200及び裏基材300の単位長さLsに対して長くなる余剰長さの部分、すなわち伸び代を十分に存在させることができる。表基材200及び裏基材300が伸長されると、図5に示すように、導電糸100の伸び代が減少するように導電糸100が引き延ばされる。一方、表基材200及び裏基材300の伸長が解除されると、表基材200及び裏基材300の収縮に伴って減少していた導電糸100の伸び代が回復する。このように、面状発熱材10は全体として伸縮性を有するものとなる。また、導電糸100の伸び代の分だけ、それに含まれる金属線110が長くなるため、加熱対象物を短時間で効率よく加熱することが可能となり、面状発熱材10は、速暖性に優れるものとなる。面状発熱材10の3N定荷重伸長率をより大きくし、速暖性をより向上させるという観点から、導電糸100の長さLaが単位長さLsに対して4倍以上に設定されていることが好ましい。導電糸100の長さLaの上限は、面状発熱材10として取り扱いが困難にならない範囲であればよく、例えば単位長さLsに対して7倍以下に設定することができる。
【0050】
導電糸100は、表基材200及び裏基材300に対して10mm以下の間隔Sで(ここでは直接的に)縫い付けられていることが好ましく、4mm以下の間隔Sで縫い付けられていることがより好ましい。導電糸100が表基材200及び裏基材300に対して10mm以下の間隔Sで縫い付けられていることにより、面状発熱材10における単位面積当たりの導電糸100の本数が増えるため、面状発熱材10は、速暖性が向上したものとなる。なお、導電糸100は、面状発熱材10が3Nの荷重を付与された状態、又は無荷重の状態において、10mm以下の間隔Sで縫い付けられていることが好ましい。導電糸100の間隔Sは、隣に位置する導電糸100の最も離れた間隔を意味する。
【0051】
図4の例示においては、導電糸100の露出部分は、互いに平行に配置されているが、その配置、及びパターンは、特に限定されるものではなく、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となるように適宜設定すればよい。
【0052】
無荷重時における導電糸100の露出部分の長さ、及びループを形成している部分の長さは、表基材200及び裏基材300の単位長さLsに対する導電糸100の長さLaが2.5倍以上の所望の値となるように、かつ、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となるように、適宜設定し得る。
【0053】
<面状発熱材の3N定荷重伸長率>
図5は、面状発熱材10の平面図であり、荷重が付与されている状態を示す。面状発熱材10は、3N定荷重伸長率が20%以上となるように構成されている。面状発熱材10の3N定荷重伸長率は、40%以上がより好ましい。3N定荷重伸長率の上限は、特に限定されず、適宜設定することができ、例えば100%とすることができる。
【0054】
ここで、荷重Fが3Nであるときの面状発熱材10の3N定荷重伸長率(%)は、荷重が付与されていない状態での面状発熱材10の長さK1と、3Nの荷重が付与された状態での面状発熱材10の長さK2とを用いて、下記式(1)で表される。
3N定荷重伸長率(%)={(K2-K1)/K1}×100 ・・・(1)
【0055】
面状発熱材10の3N定荷重伸長率を20%以上とすることにより、面状発熱材10を加熱対象物の形状に良好に追従させて変形させることができる。さらに、上述したように、導電糸100の伸び代の分だけ、それに含まれる金属線110が長くなるため、加熱対象物を短時間で効率よく加熱することが可能となり、速暖性に優れるものとなる。よって、面状発熱材10は、導電糸100に金属線110を用いたものであっても、加熱対象物への表面追従性が良好でありながら、速暖性に優れるものとなる。また、上述したように上記単位長さLsに対する導電糸100の長さLaを2.5倍以上に設定し、かつ、面状発熱材10の3N定荷重伸長率を20%以上に設定することにより、面状発熱材10は、伸縮性に優れるだけでなく、屈曲耐久性にも優れるものとなる。
【0056】
<面状発熱材の特性>
面状発熱材10のJIS L1096 8.21 剛軟度A法(45°カンチレバー法)に準拠して測定される剛軟度は、50mm以下が好ましい。面状発熱材10の剛軟度が50mm以下であることで、面状発熱材10の追従性が向上する。
【0057】
<面状発熱材の製造方法>
面状発熱材10は、例えば表基材200及び裏基材300(図2参照)を一方向(ここでは緯方向)に伸長させ、この状態で表基材200及び裏基材300に、これらの内部にループが形成されるように導電糸100を縫い付けた後、荷重の付与を解除することにより、製造することができる。縫い付け時における表基材200及び裏基材300の伸長の程度は、表基材200及び裏基材300の単位長さLsに対する導電糸100の長さLaが2.5倍以上の所望の値となり、かつ、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となるように適宜設定すればよい。
【0058】
[第二実施形態]
<面状発熱体>
図6及び図7は、本発明の第二実施形態に係る面状発熱体に使用する面状発熱材10の平面図である。これらの平面図では、荷重が付与されていない状態(図6)、及び荷重が付与されている状態(図7)を夫々示してある。本発明の第二実施形態に係る面状発熱体は、第一実施形態に係る面状発熱体1において、面状発熱材10に含まれる導電糸100が表基材200及び裏基材300に直接的に縫い付けられている(図2参照)代わりに、絶縁糸400が直接的に縫い付けられ、この絶縁糸400を介して導電糸100が間接的に縫い付けられている。それ以外の構成(電極20等)は、第一実施形態に係る面状発熱体1と同じ構成である。また、第二実施形態に係る面状発熱体の特性も、第一実施形態に係る面状発熱体1と同様である。
【0059】
<面状発熱材>
図6に示すように、本実施形態の面状発熱材10においては、上述した第一実施形態にて使用するものと同様の表基材200及び裏基材300(図2参照)に、絶縁糸400が、公知の縫製方法によって、一方向(ここでは緯方向)に沿って伸縮自在に直接的に縫い付けられている。絶縁糸400は、互いに平行に位置するよう表基材200及び裏基材300に縫い付けられている。複数の導電糸100は、面状発熱材10の露出面(ここでは表基材200(図2参照)の表面)上において、各導電糸100が経方向に波を打ちつつ緯方向に延びる波形に配置され、かつ、隣に位置する導電糸100は、波形の突出端部どうしが交差するように位相がずらされた状態となるように、絶縁糸400の縫い目と、表基材200(図2参照)との隙間に通されている。各導電糸100は、一の絶縁糸400の緯方向(図6の左右方向)において互いに隣に位置する2つの縫い目に通されることにより湾曲され、次いで、上記一の絶縁糸400に経方向(図6の上下方向)において隣に位置する絶縁糸400における、緯方向(図6の左右方向)において互いに隣に位置する2つの縫い目に通されることにより湾曲され、これが繰り返されることにより、波形の形状とされている。
【0060】
図6に示すような無荷重状態の面状発熱材10に荷重が付与されると、後述する図7に示すように、表基材200及び裏基材300が伸長され、その際、導電糸100の波形の振幅が小さくなると共に周期が大きくなり(伸び代が減少し)、その分、導電糸100が緯方向に長くなる。このように、表基材200及び裏基材300の伸長に追従して、導電糸100が荷重方向に長くなる(見かけの長さが大きくなる)ため、面状発熱材10が荷重方向に伸長されることになる。
【0061】
一方、面状発熱材10に付与された荷重(図7参照)が解除されると、表基材200及び裏基材300が収縮し、その際、導電糸100の波形の小さくなっていた振幅及び大きくなっていた周期が回復し(伸び代が回復し)、その分、導電糸100が緯方向に短くなる。このように、表基材200及び裏基材300の収縮に追従して、導電糸100が荷重方向に短くなる(見かけの長さが小さくなる)ため、面状発熱材10が荷重方向に収縮することになる(図6参照)。
【0062】
このように、表基材200及び裏基材300に、波形を形成するように導電糸100が間接的に縫い付けられることにより、面状発熱材10は、伸縮性を有するものとなる。
【0063】
<基材>
基材としては、上述した第一実施形態にて使用する基材と同様のものを使用することができる。また、上述した第一実施形態と同様、基材としては、伸縮性の観点から、二層以下の編物で構成されている基布が好ましく、このような基布として、上述した図2に示すように、表基材200としての表編物と、及び裏基材300としての裏編物とを用いた多重編地として構成されるものを使用することができる。
【0064】
<絶縁糸>
表基材200及び裏基材300に直接的に縫い付けられる絶縁糸400としては、特に限定されず、適宜設定することができる。絶縁糸400としては、例えばポリエチレンテレフタレート糸が挙げられる。絶縁糸400の太さは、30番手より細番手が好ましく、60番手より細番手がより好ましく、80番手より細番手がさらに好ましい。絶縁糸400の太さは、例えば120番手より太番手とすることができる。絶縁糸400の太さが30番手より細番手であることにより、表基材200及び裏基材300に絶縁糸400を縫い付け易くすることができる。また、絶縁糸400の太さが120番手より太番手であることにより、絶縁糸400の耐久性を向上させることができる。
【0065】
絶縁糸400は、表基材200及び裏基材300の伸縮に追従し、かつ、この追従により、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となることを実現することができるように、公知の縫製方法を用いて、表基材200及び裏基材300に直接的に縫い付けられている。
【0066】
<導電糸>
導電糸100としては、上述した第一実施形態にて使用する導電糸100と同様のものを使用することができる(図3参照)。
【0067】
導電糸100は、上述したように、絶縁糸400の縫い目と表基材200(図2参照)との間に貫通されることにより、経方向に波を打ち、緯方向に延びる波形に配置され、かつ、隣に位置する導電糸100どうしは、波形の突出端部において交差するように波形の位相がずれた状態で配置されている。
【0068】
このように、導電糸100が波形を形成するように間接的に縫い付けられることにより、上述した第一実施形態と同様、導電糸100の長さLaは、表基材200及び裏基材300(図2参照)の単位長さLsに対して2.5倍以上の長さに設定されている(La/Ls≧2.5)。すなわち、単位長さLsの表基材200及び裏基材300に含まれる導電糸100の長さLaが、単位長さLsに対して2.5倍以上の長さに設定されている。導電糸100の長さLaが単位長さLsに対して2.5倍以上の長さに設定されていることにより、導電糸100において、表基材200及び裏基材300の単位長さLsに対して長くなる余剰長さの部分、すなわち伸び代を十分に存在させることができる。表基材200及び裏基材300が伸長されると、図7に示すように、導電糸100の伸び代が減少するように導電糸100が引き延ばされる。一方、表基材200及び裏基材300の伸長が解除されると、表基材200及び裏基材300の収縮に伴って減少していた導電糸100の伸び代が回復する。このように、面状発熱材10は全体として伸縮性を有するものとなる。また、導電糸100の伸び代の分だけ、それに含まれる金属線110が長くなるため、加熱対象物を短時間で効率よく加熱することが可能となり、面状発熱材10は、速暖性に優れるものとなる。面状発熱材10の3N定荷重伸長率をより大きくし、速暖性をより向上させるという観点から、導電糸100の長さLaが単位長さLsに対して4倍以上に設定されていることが好ましい。導電糸100の長さLaの上限は、第一実施形態と同様に、例えば単位長さLsに対して7倍以下に設定することができる。
【0069】
上述した第一実施形態と同様、導電糸100は、表基材200及び裏基材300に対して10mm以下の間隔Sで間接的に縫い付けられていることが好ましく、4mm以下の間隔Sで間接的に縫い付けられていることがより好ましい。導電糸100が表基材200及び裏基材300に対して10mm以下の間隔Sで間接的に縫い付けられていることにより、面状発熱材10における単位面積当たりの導電糸100の本数が増えるため、面状発熱材10は、速暖性が向上したものとなる。なお、導電糸100は、面状発熱材10が3Nの荷重を付与された状態、又は無荷重の状態において、10mm以下の間隔Sで間接的に縫い付けられていることが好ましい。導電糸100の間隔Sは、隣に位置する導電糸100の最も離れた間隔を意味する。具体的には図6に示すように、本実施形態においては、導電糸100の間隔Sは、互いに隣に位置する導電糸100の波形の最も離れた突出端部の間隔である。また、絶縁糸400の間隔を調整することにより、導電糸100の間隔Sを調整することができる。
【0070】
導電糸100における波形の振幅、及び周期は、表基材200及び裏基材300の単位長さLsに対する導電糸100の長さLaが2.5倍以上の所望の値となるように、かつ、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となるように、適宜設定し得る。
【0071】
面状発熱材10の露出面における導電糸100の配置、及びパターンは、図6の例示に限定されるものではなく、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となるように適宜設定すればよい。
【0072】
<面状発熱材の3N定荷重伸長率>
図7は、面状発熱材10に荷重が付与されている状態を示す平面図である。上述した第一実施形態と同様、面状発熱材10は、3N定荷重伸長率が20%以上となるように構成されている。3N定荷重伸長率は、40%以上がより好ましい。3N定荷重伸長率の上限は、特に限定されず、適宜設定することができ、例えば100%とすることができる。
【0073】
なお、荷重Fが3Nであるときの面状発熱材10の定荷重伸長率(%)は、第一実施形態で説明した式(1)と同様に表される。
【0074】
<面状発熱材の特性>
上述した第一実施形態と同様、面状発熱材10のJIS L1096 8.21 剛軟度A法(45°カンチレバー法)に準拠して測定される剛軟度は、50mm以下が好ましい。面状発熱材10の剛軟度が50mm以下であることで、面状発熱材10の追従性が向上する。
【0075】
<面状発熱材の製造方法>
面状発熱材10は、例えば表基材200及び裏基材300(図2参照)に絶縁糸400を、この絶縁糸400が表基材200及び裏基材300の内部又は裏面側において伸縮自在に構成されるように、かつ、表基材200に縫い付ける際に、導電糸100を縫い目で覆う(縫い目と表基材200との間に導電糸100を貫通させる)ようにしながら、緯方向に向けて順次縫い付けることにより、製造することができる。縫い付け時における絶縁糸400の縫い目の長さ、並びに導電糸100の波形の振幅、及び周期は、表基材200及び裏基材300の単位長さLsに対する導電糸100の長さLaが2.5倍以上の所望の値となり、かつ、面状発熱材10の3N定荷重伸長率が20%以上の所望の値となるように適宜設定すればよい。
【実施例0076】
本発明の特徴構成を有する面状発熱材(実施例1~17)を作製し、各種測定及び評価を行った。また、比較のため、本発明の特徴構成を有しない面状発熱材(比較例1、2)を作製し、同様の測定及び評価を行った。測定及び評価項目は、3N定荷重伸長率、剛軟度、速暖性、表面追従性、屈曲耐久性、及び縫製性とした。各項目について、以下、説明する。
【0077】
[3N定荷重伸長率]
「JIS L1096 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.1 伸び率」のD法(編物の定荷重法)に準拠して3N定荷重伸長率を測定した。具体的には、基材、又は面状発熱材から経40mm×緯70mmの試験片を採取し、試験片の緯方向の一端(幅40mm)をクリップで挟んで固定し、チャック間隔50mmで他端をバネばかりを用いて3Nで引っ張った(3Nの定荷重を付与した)ときのチャック間隔(mm)を測定し、下記式に基づいて3N定荷重伸長率(%)を算出した。
3N定荷重伸長率(%)={(3N荷重付与時のチャック間距離)/50}×100
【0078】
[剛軟度]
「JIS L1096 織物及び編物の生地試験方法」の「8.21 剛軟度」のA法(45°カンチレバー法)に準拠して剛軟度を測定した。面状発熱材から20mm×150mmの試験片を経方向及び緯方向から夫々採取し、45°の斜面を持つカンチレバー形試験機に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置き、斜面の方向に緩やかに滑らせた。試験片の一端の中央点が斜面と接したとき他端の位置をスケールによって読み、試験片が移動した長さ(mm)を剛軟度として求めた。
【0079】
[速暖性]
速暖性の測定は、以下の手順で実施した。面状発熱材から経方向3.5cm、緯方向11cmの試験片を採取し、緯方向の両端2cmの領域にレーザー除去加工を施すことで、絶縁性樹脂を除去し、金属線が露出した設置領域を形成した。設置領域の夫々に5cm×2cmの導電性フィルムからなる電極を取り付け、面状発熱体とした。合成皮革(商品名:レザービー B-1000 マスダ株式会社製、厚み:0.78ミリメートル)で試験片を覆い、サーモグラフィ(FLIR社製 品番:FLIR C2)で合成皮革表面の温度を測定した。この試験片を25℃の環境下に設置して電極間に5Vの電圧を印加し、サーモグラフィによる測定温度が65℃になるまでの時間を計測した。そして、速暖性を下記の評価基準により評価した。
++:70秒未満
+ :70秒以上、90秒未満
- :90秒以上
【0080】
[表面追従性]
台形の箱の表面に面状発熱材を沿わせて固定し、箱の表面からの生地の浮き、及びしわの有無を目視にて観察した。そして、表面追従性を下記の評価基準により評価した。
++:生地の浮き、及びしわが無い。
+ :しわが有るが、生地の浮きは無い。
- :箱の表面から生地が浮き上がった。
【0081】
[屈曲耐久性]
面状発熱材から経方向25mm、緯方向200mmの試験片を採取し、試験片の緯方向両端を合わせるように緯方向中央において繰り返し折り曲げた。試験片を1000回折り曲げる毎に、通電試験により金属線の断線の有無を確認した。そして、屈曲耐久性を下記の評価基準により評価した。
+:屈曲回数が10000回において断線が発生しなかった。
-:屈曲回数が10000回未満で断線が発生した。
【0082】
[縫製性]
基材に対する導電糸の直接的、又は間接的な縫い付け時に、導電糸の断線が生じて導電糸の縫い付けが不可能であるか否か、及び導電糸が折れ曲がらずに導電糸の縫い付けが不可能であるか否かを目視にて観察した。そして、縫製性を下記の評価基準により評価した。
+:導電糸の断線が発生せず、かつ、導電糸が折れ曲がり、導電糸の縫い付けが可能であった。
-:導電糸の断線が発生し、又は、導電糸が折れ曲がらず、導電糸の縫い付けが不可能であった。
【0083】
<実施例1>
表組織の地糸、裏組織の地糸、及び連結糸として、絶縁性の84dtex/36fのポリエチレンテレフタレート糸(東レ株式会社製)を用い、26ゲージ/33インチの編機(福原精機製作所製)により、コース密度45(コース/25.4mm)、ウェル密度34(ウェル/25.4mm)の両面天竺二重編(丸編み)を、基材(具体的には基布)として編成した。表1に示すように、得られた基材の3N定荷重伸長率は100%であった。
【0084】
導電糸として、エステルイミド(厚み:6μm)で被覆された直径20μmのCu/Si合金製の金属線を用いた。この導電糸を、上記で得られた基材に、図4に示すように直接的に縫い付ける(縫製1)ことにより、実施例1の面状発熱材を得た。この縫製1において、表1に示すように、基材の単位長さLs(ここでは50mm)に含まれる導電糸の長さLaを281mm、これらの比(La/Ls)を5.62倍、導電糸の間隔S(図4参照)を4mm、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を42%に設定した。
【0085】
<実施例2~5>
導電糸における金属線の直径、基材の3N定荷重伸長率、基材の単位長さLs(ここでは50mm)に含まれる導電糸の長さLa、これらの比(La/Ls)、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~5の面状発熱材を得た。
【0086】
<実施例6>
基材の3N定荷重伸長率を95%に設定すること以外は実施例1と同様にして得られた基材(基布)を用いた。導電糸として、エステルイミド(厚み:6μm)で被覆された直径50μmのCu/Si合金製の金属線を用いた。縫い付け用の絶縁糸として、太さ60番手のポリエチレンテレフタレート糸を用いた。これら基材、導電糸、及び縫い付け用の絶縁糸を用い、図6に示すように、基材に縫い付け用の絶縁糸を直接的に縫い付け、縫い目と基材との隙間に導電糸を通すことにより、基材に間接的に縫い付け(縫製2)、これにより、実施例6の面状発熱材を得た。この縫製2において、表2に示すように、基材の単位長さLs(ここでは50mm)に含まれる導電糸の長さLaを130mm、これらの比(La/Ls)を2.60倍、導電糸の間隔S(図6参照)を4mm、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を62%に設定した。
【0087】
<実施例7~12>
導電糸における金属線の直径、基材の3N定荷重伸長率、基材の単位長さLsに含まれる導電糸の長さLa、これらの比(La/Ls)、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を表2及び3に示すように変更したこと以外は実施例6と同様にして、実施例7~12の面状発熱材を得た。
【0088】
<実施例13~17>
導電糸における金属線の素材、導電糸の電気抵抗率、基材の素材、基材の3N定荷重伸長率、基材の単位長さLsに含まれる導電糸の長さLa、これらの比(La/Ls)、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を表3及び4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例13~17の面状発熱材を得た。なお、実施例17においては、基材として、ウレタンエラストマーフィルム(商品名:シルクロン(登録商標) SNCS90 大倉工業株式会社製 厚み:100μm)を用いた。
【0089】
<比較例1>
導電糸における金属線の直径、基材の3N定荷重伸長率、基材の単位長さLs(ここでは50mm)に含まれる導電糸の長さLa、これらの比(La/Ls)、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を表4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の面状発熱材を得た。
【0090】
<比較例2>
基材の3N定荷重伸長率、基材の単位長さLs(ここでは50mm)に含まれる導電糸の長さLa、これらの比(La/Ls)、及び面状発熱材の3N定荷重伸長率を表4に示すように変更したこと以外は実施例6と同様にして、比較例2の面状発熱材を得た。
【0091】
実施例1~17の面状発熱材、比較例1及び2の面状発熱材の構成、並びに、測定結果、及び評価結果を表1~4に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
基材に導電糸が直接的に縫い付けられ、基材の単位長さLsに対する導電糸の長さLaの比(La/Ls)が2.5倍以上であり、かつ、3N定荷重伸長率が20%以上である実施例1~5の面状発熱材は、何れも、測定温度が65℃になるまでの時間が90秒未満であり、速暖性が優れるものであった。実施例1~5の面状発熱材は、何れも、台形の箱に沿わせて固定した際、生地の浮きが確認されず、表面追従性が優れるものであった。実施例1~5の面状発熱材は、何れも、屈曲回数が10000回において断線が発生せず、屈曲耐久性に優れるものであった。実施例1~5の面状発熱材は、何れも、基材に導電糸を直接的に縫い付ける際に、導電糸の断線が発生せず、かつ、導電糸が折れ曲がり、導電糸の縫製性に優れるものであった。
【0097】
基材に導電糸が絶縁糸を介して間接的に縫い付けられ、基材の単位長さLsに対する導電糸の長さLaの比(La/Ls)が2.5倍以上であり、かつ、3N定荷重伸長率が20%以上である実施例6~12の面状発熱材は、何れも、測定温度が65℃になるまでの時間が90秒未満であり、速暖性が優れるものであった。実施例6~12の面状発熱材は、何れも、生地の浮きが確認されず、表面追従性が優れるものであった。実施例6~12の面状発熱材は、何れも、屈曲回数が10000回において断線が発生せず、屈曲耐久性に優れるものであった。実施例6~12の面状発熱材は、何れも、基材に導電糸を間接的に縫い付ける際に、導電糸の断線が発生せず、かつ、導電糸が折れ曲がり、導電糸の縫製性に優れるものであった。
【0098】
このように、基材に対する導電糸の縫い付けが直接的であるか、間接的であるかによらず、基材の単位長さLsに対する導電糸の長さLaの比(La/Ls)が2.5倍以上であり、かつ、3N定荷重伸長率が20%以上である実施例1~12の面状発熱材は、何れも、速暖性、表面追従性、屈曲耐久性、及び縫製性が優れるものであることが示された。また、金属線の素材(及び導電糸の電気抵抗率)を変更した実施例13、14、及び15の面状発熱材、並びに基材の素材を変更した実施例16、及び17の面状発熱材は、実施例1~12の面状発熱材と同様、速暖性、表面追従性、屈曲耐久性、及び縫製性が優れるものであった。
【0099】
これに対し、3N定荷重伸長率が20%以上である一方、基材の単位長さLsに対する導電糸の長さLaの比(La/Ls)が2.5倍未満である比較例1の面状発熱材は、表面追従性、屈曲耐久性、及び縫製性に優れるものの、測定温度が65℃になるまでの時間が90秒以上であり、速暖性が劣るものであることが示された。
【0100】
また、基材の単位長さLsに対する導電糸の長さLaの比(La/Ls)が2.5倍以上である一方、3N定荷重伸長率が20%未満である比較例2の面状発熱材は、速暖性、屈曲耐久性、及び縫製性に優れるものの、台形の箱に沿わせて固定した際、生地の浮きが確認され、表面追従性が劣るものであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の面状発熱材、及び面状発熱体は、例えば、ハンドルヒーター、シートヒーター等の車輛の内装品、上着、ズボン、手袋等の衣料品、マッサージチェア、介護ベッド等の健康・医療器具、椅子、ソファー等の家具などにおいて利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 面状発熱体
10 面状発熱材
10a 電極の設置領域
20 電極
100 導電糸
110 金属線
120 絶縁性樹脂
200 表基材(基材)
300 裏基材(基材)
400 絶縁糸
Ls 基材の単位長さ
La 導電糸の長さ
R 導電糸の直径
K1 無荷重時の面状発熱材の長さ
K2 荷重付与時の面状発熱材の長さ
F 荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7