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特開2023-105742海水ウラン捕集用配位子、海水ウラン捕集方法及びウラン原料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105742
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】海水ウラン捕集用配位子、海水ウラン捕集方法及びウラン原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 215/48 20060101AFI20230724BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20230724BHJP
   C02F 1/62 20230101ALI20230724BHJP
   C01G 43/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C07C215/48
C08F8/30
C02F1/62 Z
C01G43/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006748
(22)【出願日】2022-01-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、令和3年度、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」、「ウラニル錯体化学に基づくテーラーメイド型新規海水ウラン吸着材開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】鷹尾 康一朗
(72)【発明者】
【氏名】水町 匠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】竹山 知志
(72)【発明者】
【氏名】津島 悟
【テーマコード(参考)】
4D038
4G048
4H006
4J100
【Fターム(参考)】
4D038AA03
4D038AB77
4D038AB86
4D038AB87
4G048AA01
4G048AB08
4H006AA01
4H006AB82
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BU32
4H006BU38
4J100AB08P
4J100BA03H
4J100BA27H
4J100BA28H
4J100BC43H
4J100CA31
4J100HA25
4J100HA61
4J100HC20
4J100HC45
4J100JA15
4J100JA18
(57)【要約】
【課題】海水のpH条件である8付近でも高い効率で海水中ウランを選択的に捕集できる、海水ウラン捕集用配位子、それを用いた海水ウラン捕集方法及びウラン原料を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の海水ウラン捕集用配位子は、海水中のウランと、選択的に金属錯体を形成し、前記ウランを捕集する配位子であり、以下の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上であり、前記金属錯体の海水中の錯体安定度定数(logβ11)が10以上である海水ウラン捕集用配位子。
[化1]
(一般式(1)中、R~R13は、本文中の記載通りである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水中のウランと、選択的に金属錯体を形成することによって、前記ウランを捕集する配位子であって、
以下の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上であり、
前記金属錯体の海水中の錯体安定度定数(logβ11)が21以上である海水ウラン捕集用配位子。
【化1】
(一般式(1)中、R~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ニトロ基、炭素原子数1~5で構成するパーフルオロアルキル基、ハロゲン基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ハロゲン基を表し;R11~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基を表す、請求項1に記載の海水ウラン捕集用配位子。
【請求項3】
上記一般式(1)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R11~R13は、水素原子を表す、請求項1又は2に記載の海水ウラン捕集用配位子。
【請求項4】
前記ウランは、UO 2+として存在する請求項1~3の何れか1項に記載の海水ウラン捕集用配位子。
【請求項5】
海水中のウランと、
以下の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上と、
選択的に金属錯体を形成することによって、前記ウランを捕集する海水ウラン捕集方法であって、
前記金属錯体の海水中の錯体安定度定数(logβ11)が21以上である海水ウラン捕集方法。
【化2】
(一般式(1)中、R~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ニトロ基、炭素原子数1~5で構成するパーフルオロアルキル基、ハロゲン基を表す。)
【請求項6】
請求項5に記載の海水ウラン捕集方法を用いて、海水からウランを捕集する工程と、
pHを調整して、ウランを放出する放出工程と、を含むウラン原料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水ウラン捕集用配位子、海水ウラン捕集方法及びウラン原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ウラン資源の中で、海洋が鉱物資源として推定される量のほぼ1000倍である約45億トンの溶解ウランを含んでいることから、海水中のウラン資源が非常に注目されている。しかしながら、海水中のウラン濃度は極めて低く、かつ、海水中のナトリウム塩など他の金属イオンの濃度が高い。そのため、海水から、効率的かつ効果的に、ウランを捕集する技術の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アミドキシムなどの複数のウラン捕集用配位子を有する、官能化多孔質有機ポリマーが開示され、廃水、海水、または他の水源等から効率的にウランを抽出するための組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-510624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ウラン捕集用配位子としてのアミドキシム基を有するアミドキシム樹脂は、ウラン捕集の最適な条件がpH4~6であるのに対し、海水のpHは8付近である。その結果、海水中のウランを捕集する場合、捕集性能が著しく低下することが避けられない。そのため、樹脂中に導入したアミドキシム基のウラン捕集における利用効率は1%未満であり、ウラン捕集樹脂としての性能を満足するものではなかった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、海水のpH条件である8付近でも高い効率で海水中ウランを選択的に捕集できる、海水ウラン捕集用配位子を提供することを目的とする。また、海水ウラン捕集用配位子を用いた海水ウラン捕集方法、及びウラン原料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 海水中のウランと、選択的に錯体を形成することによって、前記ウランを捕集する配位子であって、
以下の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上であり、
前記錯体の海水中での錯体安定度定数の常用対数(logβ11)が21以上である海水ウラン捕集用配位子。
【化1】
(一般式(1)中、R~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ニトロ基、炭素原子数1~5で構成するパーフルオロアルキル基、ハロゲン基を表す。)
[2] 上記一般式(1)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ハロゲン基を表し;R11~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基を表す、[1]に記載の海水ウラン捕集用配位子。
[3] 上記一般式(1)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R11~R13は、水素原子を表す、[1]又は[2]に記載の海水ウラン捕集用配位子。
[4] 前記ウランは、UO 2+として存在する[1]~[3]の何れかに記載の海水ウラン捕集用配位子。
[5] 海水中のウランと、以下の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上と、選択的に錯体を形成することによって、前記ウランを捕集する海水ウラン捕集方法であって、
前記金属錯体の海水中の錯体安定度定数(logβ11)が21以上である海水ウラン捕集方法。
【化2】
(一般式(1)中、R~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ニトロ基、炭素原子数1~5で構成するパーフルオロアルキル基、ハロゲン基を表す。)
[6] [5]に記載の海水ウラン捕集方法を用いて、海水からウランを捕集する工程と、
pHを調整して、ウランを放出する放出工程と、を含むウラン原料を製造する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、海水のpH条件である8付近でも高い効率で海水中ウランを選択的に捕集できる、海水ウラン捕集用配位子、海水ウラン捕集方法及びウラン原料の製造方法を提供することを目的とする。また、海水ウラン捕集用配位子を用いた海水ウラン捕集方法、及びウラン原料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ウラン錯体(UO(saldian))の紫外・可視光吸収スペクトルを示す図である。
図2】UO 2+-saldian2-系錯体分布図である。
図3】各種官能基を導入した場合のΔE(電子供与性の強さ→錯体安定度定数の大きさ)の予測値をプロットした図である。
図4】クロロメチルポリスチレン樹脂、Hsaldian、Hsaldian(-(CH-NH)樹脂、Hsaldian樹脂の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(海水ウラン捕集用配位子)
本発明の一実施形態の海水ウラン捕集用配位子(以後、「本実施形態のウラン捕集用配位子」、あるいは「本実施形態の配位子」と言うことがある。)は、海水中のウランと、選択的に錯体を形成することによって、前記ウランを捕集する配位子である。以下の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上である。前記錯体の海水中の錯体安定度定数の常用対数(logβ11)が21以上である。
【0012】
【化3】
(一般式(1)中、R~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ニトロ基、炭素原子数1~5で構成するパーフルオロアルキル基、ハロゲン基を表す。)
【0013】
<一般式(1)に表す化合物>
本実施形態に係る上記一般式(1)に表す化合物において、上記一般式(1)中、前記R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数1~5のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ハロゲン基を表すことが好ましく;それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、炭素原子数1~3のアルキルで構成するジアルキルアミノ基、ハロゲン基を表することがより好ましく;それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが更に好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
【0014】
本実施形態に係る上記一般式(1)に表す化合物において、上記一般式(1)中、前記R11~R13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~5のアルキル基を表すことが好ましく;それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基を表すことがより好ましく;それぞれ独立に、水素原子、メチル基を表すことがより好ましい。
【0015】
すなわち、本実施形態のウラン捕集用配位子は、上記一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上であって、上記一般式(1)中、R~Rは水素原子を表し;R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す配位子であることが好ましい。
【0016】
本実施形態に係る上記一般式(1)に表す化合物具体例としては、以下の式(2)で表す化合物(Ia~Ig)及び以下の式(3)で表す化合物(IIa~IIg)が挙げられる。
【0017】
【化4】
【0018】
【化5】
【0019】
上記化合物(Ia~Ig)及び化合物(IIa~IIg)の中で、化合物(Ia)(化合物名:N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)ジエチレントリアミン(N,N’-bis(2-hydroxybenzyl)diethylenetriamine、「Hsaldian」と言うことがある。)又は、化合物(IIa)が好ましい。
【0020】
<一般式(1)に表す化合物から由来のイオン>
本実施形態に係る一般式(1)に表す化合物から由来のイオン(以後、本実施形態のイオンと言うことがある。)としては、例えば、上記一般式(1)に表す化合物の2つのフェノール性水酸基から水素イオンを脱離してなる、以下式(4)で表す2つのフェノキシイオン(phenoxy ion)基を有する2価アニオンが挙げられる(式(4)のイオンということがある)。
【0021】
【化6】
【0022】
(式(4)中、R~R13は、上記一般式(1)中のR~R13と同じ意味である。)
【0023】
上記式(4)で表す本実施形態のイオンにおいて、式(4)中のR~R13の好ましい例は、上記一般式(1)中のR~R13と同じである。
【0024】
本実施形態に係る上記式(4)に表すイオンの具体例としては、以下の式(5)で表すイオン(IIIa~Ig)及び以下の式(6)で表すイオン(IVa~IVg)が挙げられる。
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
<一般式(1)に表す化合物の合成方法>
本実施形態に係る一般式(1)に表す化合物の合成方法は、上記式(2)で表す化合物(Ia~Ig)を合成する方法を用いて説明する。
上記式(2)で示す化合物(Ia~Ig)は、例えば、以下の式(7)で表す化合物(Va~Vg)を経由で合成することができる。
【0028】
【化9】
【0029】
例えば、以下のスキーム1で示すように、化合物7経由で化合物2を合成することができる。
【化10】
【0030】
式(7)で表す化合物は、以下のスキーム2で示すように、以下の非特許文献1で開示された方法で化合物8(サリチルアルデヒド(salicylaldehyde))誘導体と化合物9(ジエチレントリアミン(diethylenetriamine))を反応させて合成することができる。
(非特許文献1:T.Takeyama et al., Effects of Substituents on the Molecular Structure and Redox Behavior of Uranyl(V/VI) Complexes with N-Donating Schiff Base Ligands, Inorg. Chem. 2021, 60, 11435-11449.)
【0031】
【化11】
【0032】
また、中間生成物である化合物7を単離せず、前記スキーム1と2の反応を同時に進行してもよい。
【0033】
<一般式(1)に表す化合物もしくそのイオンの構造を有するポリマー>
本実施形態に係る一般式(1)に表す化合物もしくそのイオンに由来する構造を一部に有する高分子化合物(以後、本実施形態のポリマー又は樹脂と言うことがある。)としては、例えば上記一般式(1)に表す化合物のいずれかの部位がポリマー主鎖又は側鎖に結合した高分子化合物である。例えば、一般式(1)に表す化合物に由来する構造を有する、以下一般式(10)で表すポリマーが挙げられる(一般式(10)のポリマーと言うことがある)。
【0034】
【化12】
【0035】
(式(10)中、R~R13は、上記一般式(1)中のR~R13と同じ意味であり、ただし、R~R13中の1つの置換基が単結合又は2価置換基である。Lは、単結合又は2価の連結基を表す。上記Polymer(ポリマー)は、線状ポリマー又は架橋(分岐)ポリマーである。)
【0036】
式(10)中のR~R13の好ましい例は、一般式(1)に表す化合物で記載した好ましい例と同じである。
【0037】
上記連結基が、好ましくは-CO-、-O-、-NH-、2価の脂肪族基;2価の芳香族基及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる連結基である。2価の脂肪族基としては、アルキレン基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10)が挙げられ、2価の芳香族基としては、フェニレン基、キシリレン基などのアリーレン基(好ましくは炭素数6~15、より好ましくは6~10)が挙げられる。Lは、例えば、-(CH)n―NH-(CH)m-(n=1~3,m=1~3)が挙げられる。
【0038】
上記ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのオレフィン樹脂;ポリメチルメタアクレート、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;ポリイミド;ナイロンなどのポリアミド;ポリアセタールなどのポリエーテル;ポリカーボネート、ポチエチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリフェニレンスルフィドなどの結晶性プラスチックなどが挙げられる。
【0039】
本実施形態のポリマーの合成方法としては、例えば、各種ポリマーの原料に本実施形態の上記一般式(1)の化合物由来の構造を含む置換基を導入する工程と、従来のポリマー合成法で重合する工程を含む合成法が挙げられる。また、本実施形態のポリマーの合成方法としては、例えば、従来のポリマーの主鎖又は側鎖に、上記一般式(1)の化合物由来の構造を含む置換基を導入する工程を含む合成法が挙げられる。
【0040】
例えば、後述合成例7および8において、後述式(14)で表すHsaldian(-(CH-NH)樹脂および後述式(15)で表すHsaldian樹脂が合成された。上記Hsaldian(-(CH-NH)樹脂およびHsaldian樹脂は、上記一般式(10)において、Polymerがポリスチレンであり、Lが-CH-NH-(CH-もしくは-CH-であり、Compound-1が、上記式(2)で表す化合物(Ia)であるHsaldianである。
【0041】
<錯体>
海水中において、本実施形態のウラン捕集用配位子と、ウランとの間に選択的に錯体を形成することができる。本実施形態のウラン捕集用配位子が、上記化合物(Ia)あるいはその化合物のイオンである場合、上記イオン(IIIa)とウランとの間に、錯体を形成する例を用いて、説明する、
以下のスキーム3で示すように、化合物(Ia)とUO(CO 4-との反応物として、錯体(UO(saldian))が得られる。錯体(UO(saldian))は、上記化合物(Ia)の2価イオン(IIIa)と2価イオンUO 2+との錯体である。
【0042】
【化13】
【0043】
後述の実施例で示す通り、模擬海水条件下(0.5M NaCl)でのUO 2+とsaldian2-の錯形成が確認された。0.5M NaCl中、以下式(I)、(II)で示す金属錯体(UO(saldian))の錯体安定度定数の常用対数値(logβ11)は27.5である。logβ11を求める方法は、実施例で説明する。
UO 2+ + saldian2-= UO(saldian) (I)
logβ11= 27.5 (II)
【0044】
本実施形態の上記一般式(1)で表す化合物を用いて、同様に、その化合物のイオンである式(4)に示すイオンとUO 2+との錯体が形成され、それらの錯体安定度定数の常用対数値(logβ11)が21以上である。
【0045】
また、後述の実施例で示す通り、化合物(Ia)とその他の金属イオン、例えば、Al3+,VO 、Ni2+,Cu2+、Zn2+、Cd2+との金属錯体は、それらの錯体安定度定数の常用対数値(logβ11)がいずれも21未満である。
また、化合物(Ia)或いはそのイオン(IIIa)と、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンとは、錯形成しないことが好ましい。
【0046】
すなわち、化合物(Ia)或いはそのイオン(IIIa)を用いる場合、他の金属イオンとの錯形成に比べて、ウラン(UO 2+)との錯形成が、少なくとも1x106.5倍(27.5-21=6.5)容易である。
従って、海水中でも、高い選択性でウラン(UO 2+)錯体を形成することができる。
【0047】
また、以下の非特許文献2で報告された配位子とウラン(UO 2+)とを形成する金属錯体の安定度定数Logβが以下に示す通り、何れも21以下である。
ベンズアミドキシム:12.4
アセトアミドキシム:13.6
1,10-フェナントロリン-2,9-ジカルボン酸:16.5
グルタルイミドジオキシム:17.8
2,6-ビス[ヒドロキシ(メチル)アミノ]-4-モルホリノ-1,3,5-トリアジン:17.47
(非特許文献2:Polyhedron 2016, 109, 81-91; Dalton Trans. 2012, 41, 11579-11586; Nat. Commun. 2019, 10, 819.)
【0048】
(海水ウラン捕集方法)
本実施形態の海水ウラン捕集方法(以後、本実施形態の捕集方法ということがある)は、海水中のウラン(例えば、UO 2+)と、上記の一般式(1)に表す化合物、前記化合物由来のイオン、及び前記化合物もしく前記イオンの構造を有するポリマーからなる群から選択される1種以上と、選択的に金属錯体を形成することによって、前記ウランを捕集する方法である。
【0049】
【化14】
【0050】
上記の一般式(1)に表す化合物又はその化合物から由来のイオンの好ましい実施形態は、「海水ウラン捕集用配位子」において、説明したものと同じである。
【0051】
本実施形態の捕集方法は、上記の一般式(1)に表す化合物又はその化合物から由来のイオンを直接に用いることができるが、上記の一般式(1)に表す化合物又はその化合物から由来のイオンを、一部構造として有する化合物であってもよい。例えば、上記の一般式(1)に表す化合物又はその化合物から由来のイオンを、一部構造として有するポリマー(樹脂)が挙げられる。本発明では、一般式(1)に表す化合物又はその化合物から由来のイオンを用いて得られたポリマー(樹脂)は、本実施形態の海水ウラン捕集用配位子を有する海水ウラン捕集材ということがある。
本実施形態の海水ウラン捕集方法は、本実施形態の海水ウラン捕集用配位子が、海水中のウラン(例えば、UO 2+)を錯形成により捕促する工程と、ウラン(例えば、UO 2+)と錯形成した錯体(金属錯体)を回収する工程とを含むことが好ましい。
【0052】
(ウラン原料の製造方法)
本実施形態の、ウラン原料の製造方法(以後、本実施形態の製造方法)は、海水中のウラン(例えば、UO 2+)を捕集・放出し、海水中のウラン(例えば、UO 2+)濃度より100倍以上濃縮したウラン濃縮液を製造する方法である。本実施形態の製造方法は、上記説明した本実施形態の海水ウラン捕集方法を用いて、海水からウランを捕集する工程と、pHを調整してウラン(例えば、UO 2+)と錯形成した錯体(金属錯体)からウランを放出させる工程と、を含む。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
(評価方法)
<錯体安定度定数の測定方法>
ウラン捕集用配位子を溶解した模擬海水(0.5M NaCl+2.3mM HCO /CO 2-、pH 8.0)に各種金属イオン(UO 2+、Al3+、VO 、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zr4+)を金属イオン:配位子濃度比が0~1.5となるように順次添加し、その都度紫外可視吸収スペクトルをAgilent Cary3500紫外可視分光光度計を用いて測定した。各金属イオンについて得られた紫外可視吸収スペクトル群を平衡解析プログラムで解析することにより、錯体安定度定数の常用対数値(logβ11)を求めた。
【0055】
<分離係数の測定方法>
UO 2+のlogβ11から各金属イオンのlogβ11を減ずることにより、各金属イオンに対するUO 2+の分離係数を求めた。
【0056】
H NMRの測定方法>
ウラン捕集用配位子をCDClに溶解し、日本電子JNM-ECX400核磁気共鳴装置を用いてH NMRスペクトルを測定した。
【0057】
13C NMRの測定方法>
ウラン捕集用配位子をCDClに溶解し、日本電子JNM-ECX400核磁気共鳴装置を用いて13C NMRスペクトルを測定した。
【0058】
(合成例1)
「化合物(Va):N,N’-disalicylidene-diethylenetriaminate(Hsaldien)の合成」
ジエチレントリアミン(0.55g、関東化学工業製)とサリチルアルデヒド(1.66g、フルカ製)をエタノール(40mL)に混合した。混合物を40分間還流し、次いで室温に冷却した。冷却した反応混合物を減圧下でほぼ乾燥するまで蒸発させ、淡黄色油状物を得た。
【0059】
(合成例2)
「Hsaldian(化合物(Ia)):N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)ジエチレントリアミンの合成」
室温で良く撹拌しながら、サリチルアルデヒド(2mL,2.33g,19.1mmol)を溶解したTHF溶液(60mL)にジエチレントリアミン(1.04mL,0.984g,9.54mmol)を滴下した。この黄色溶液を1時間還流し、次いで氷浴で冷却した。良く撹拌しながら、NaBH(OAc)(6.50g,30.7mmol)を徐々に添加した。黄色懸濁液を0℃で30分間撹拌し、次いでさらに室温で1.5時間撹拌した。ほぼ無色の懸濁液に水(10mL)を注ぎ、反応を停止させた後、さらに15分間撹拌し、蒸発によりTHFを除去した後、この水性混合物に7.2M NaOH水溶液を滴下してpH8~9とし、この水性混合物から油層を分離した。この油性物質をCHCl(50mL)で抽出し、塩基性飽和食塩水(20mL+7.2MNaOH水溶液3滴)で洗浄し、分取したCHCl相をMgSO上で乾燥した。濾液を蒸発させて、淡黄色油状物としてHsaldianを得た(1.92g、6.09mmol、64%収率)。
【0060】
得られたHsaldianのH NMR及び13C NMRを測定し、その結果を以下に示す。
【0061】
1H NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 7.15 (td, 2 H, Ph-H), 6.98 (dd, 2 H, Ph-H), 6.81 (dd, 2 H, Ph-H), 6.77 (td, 2 H, Ph-H), 4.00 (s, 4 H, Ph-CH2-N), 2.77 (m, 8 H, N-CH2CH2-N).
【0062】
13C NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 158.28, 128.84, 128.48, 122.49, 119.08, 116.47, 52.49, 48.47, 48.18.
【0063】
(合成例3)
「Hacetdian(化合物(IIa)):N,N’-ビス(2-ヒドロキシフェニルエチル)ジエチレントリアミンの合成」
ジエチレントリアミン(63μL、61mg、0.59mmol)を、室温で良く撹拌しながら、2-ヒドロキシアセトフェノン(142μL、159mg、1.17mmol)を溶解しているTHF溶液(3mL)に滴下した。この黄色溶液を2時間還流した。蒸発によりTHFを除去した後、残渣をAcOH(1mL)に溶解した。室温で良く撹拌しながら、NaBH(89mg,2.35mmol)を徐々に添加した。淡黄色の懸濁液を室温で1時間撹拌した。反応混合物にメタノール(1mL)を添加することによって反応を停止した。蒸発により揮発物を除去した後、NaCO(0.926g,8.74mmol)を溶解した水(15mL)を加え、次いでCHCl(50mL)で抽出した。飽和食塩水(20mL)で洗浄した後、分離した有機層をMgSO上に乾燥した。ろ液を蒸発させて、淡黄色油状物としてHacetdianを得た(137mg、0.401mmol、収率68%)。
【0064】
acetdianには2つの不斉炭素原子が存在する。その模式図を下に示す。したがって,ここで得られた生成物は(R,R)‐,(S,S)‐および(R,S)‐異性体を含む。その結果,ジアステレオマ中の類似の環境に浸された核から生じる信号の重合せにより,Hおよび13CNMRスペクトルにいくつかの多重線が観測された。
【0065】
【化15】
【0066】
得られたHacetdianのH NMR及び13C NMRを測定し、その結果を以下に示す。
【0067】
1H NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 7.13 (td, 2 H, Ph-H), 6.96 (d, 2 H, Ph-H), 6.75-6.82 (m, 4 H, Ph-H), 3.90 (quartet, 2 H, Ph-*CHCH3-N), 2.64-2.82 (m, 8 H, N-CH2CH2-N), 1.40-1.54 (m, 6 H, -CH3).
【0068】
13C NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 157.1-157.4, 127.9-128.6, 126.5-126.9, 118.5-119.8, 116.0-117.6, 59.0-59.5, 48.3-49.0, 46.9-47.5, 22.2-23.9.
【0069】
(合成例4)
「Hsaldian-Me(上記式(12)の化合物)の合成」
35mLの1,2-ジクロロエタン中のHsaldian(1.92g,6.09mmol)および30%ホルムアルデヒド水溶液(2.55mL,27.5mmol)の混合物を、室温で30分間よく撹拌した。NaBH(OAc)(6.71g,31.7mmol)を反応混合物に徐々に添加し、続いて室温で1.5時間、さらに撹拌を行った。反応液に水(10mL)の添加により停止した。次いで、水層のpHを7.2M NaOH水溶液を用いてpH8~9に調整した。水相を除去した後、有機相を塩基性飽和食塩水(20mL+7.2MNaOH水溶液3滴)で洗浄した。分離した有機層をMgSO上で乾燥し、濾過し、蒸発して乾燥した。得られたHsaldian‐Meの褐色油は室温(1.67g、4.67mmol、77%収率)で放置すると白色固体に結晶化した。
【0070】
saldian-Meには、以下式(13)で示すように2つの不斉中心が存在する。したがって、ここで得られた生成物はcis-(S,R)、trans-(R,R)、trans-(S,S)、およびtrans-(R,S)異性体を含んでいる。
【0071】
得られたHsaldian-MeH NMR及び13C NMRを測定し、その結果を以下に示す。
【0072】
1H NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 7.14 (td, 2 H, Ph-H), 6.94 (dd, 2 H, Ph-H), 6.80 (dd, 2 H, Ph-H), 6.75 (td, 2 H, Ph-H), 3.66 (s, 4 H, Ph-CH2-N), 2.59 (m, 8 H, N-CH2CH2-N), 2.26 (s, 6 H, N-CH3), 2.23 (s, 3 H, N-CH3).
【0073】
13C NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 157.93, 128.78, 128.72, 122.31, 118.98, 116.22, 60.88, 55.31, 54.39, 42.30, 42.00.
【0074】
【化16】
【0075】
(合成例5)
「Hsaldian(p-OMe)(上記式(2)で表す化合物(Ic))の合成」
テトラヒドロフラン溶液(10mL)中、2-ヒドロキシ-5-メトキシベンズアルデヒド(0.430mL,3.45mmol、東京化成製)、ジエチレントリアミン(0.187mL,1.725mmol、東京化成製)を加え、1時間還流した。その後、氷冷下で6等量のトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムを加え、室温にて一晩撹拌した。蒸留水(5mL)と25wt%水酸化ナトリウム水溶液(5mL)を加え、pH11~12付近に調整した。ロータリーエバポレータによって減圧濃縮したのち、ジクロロメタンで抽出した。分離した有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、そのろ液をロータリーエバポレータで減圧濃縮することにより黄色オイル状のHsaldian(p-OMe)を得た(90%収率)。
【0076】
得られたHsaldian(p-OMe)のH NMRを測定し、その結果を以下に示す。
【0077】
1H NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 6.80 (d, 2 H, Ph-H), 6.72 (dd, 2 H,Ph-H), 6.60 (d, 2 H, Ph-H), 3.99 (s, 4 H, Ph-CH2-N), 3.71 (s, 6 H, -OCH3), 2.80 (s, 8 H, N-CH2-CH2-N).
【0078】
(合成例6)
「Hsaldian(p-CF)(上記式(2)で表す化合物(If))の合成」
5-トリフルオロメチルサリチルアルデヒド(0.62mmol、東京化成製)とジエチレントリアミン(0.31mmol、東京化成製)をメタノール(5mL)に溶解し、2時間還流した。室温まで放冷した後、水素化ホウ素ナトリウムを少量ずつ加え、一晩撹拌した。反応溶液に蒸留水(5mL)を加え、ロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮した後、ジクロロメタンで抽出した。分離した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、そのろ液をロータリーエバポレータで減圧濃縮することにより、淡黄色固体のHsaldian(p-CF)を得た(57%収率)。
【0079】
得られたHsaldian(p-CF)のH NMR及び19F NMRを測定し、その結果を以下に示す。
【0080】
1H NMR (δ/ppm vs. TMS, CDCl3) 7.43 (s, 2 H, Ph-H), 7.38 (d, 2 H, Ph-H), 6.80 (d, 2 H, Ph-H), 3.86 (s, 4 H, Ph-CH2-N), 2.63 (m, 8 H, N-CH2-CH2-N).
【0081】
19F NMR (δ/ppm, CDCl3) -59 (s, CF3).
【0082】
(合成例7)
「Hsaldian(-(CH-NH)樹脂(一般式(1)に表す化合物もしくそのイオンの構造を有するポリマー)の合成」
アルゴン雰囲気下、クロロメチルポリスチレン樹脂(2.08g、東京化成製、ジビニルベンゼン架橋度:1%、クロロ含有率:2.0mmol/g、粒径:100-200メッシュ)とトリス(アミノエチル)アミン(3.04g,20.8mmol、東京化成製)をN,N-ジメチルホルムアミド(15mL、富士フィルム和光純薬製)中で混合し、この懸濁液を65℃にて12時間撹拌した。室温まで冷却後、吸引ろ過により固体成分を濾別し、2-プロパノールで洗浄した後に減圧下で乾燥した。得られた固体(2.60g)をメタノール(30mL)に懸濁し、サリチルアルデヒド(2.34g,19.2mmol、東京化成製)及び酢酸(2mL,8.74mmol、関東化学製)を加えた後、室温で4時間撹拌した。吸引ろ過により固体成分を濾別し、メタノール及びテトラヒドロフランで洗浄した後に減圧下で乾燥した。得られた固体を新しいメタノール(30mL)に懸濁し、ボラン-2-ピコリン錯体(1.03g,9.61mmol)と酢酸(2mL)を加えて室温で5時間撹拌した。吸引ろ過により濾別した固体をメタノールで洗浄し、減圧乾燥した。得られた固体をpH2の塩酸水溶液に懸濁した後に吸引ろ過を行い、ろ紙上の固体を蒸留水(30mL)で10回洗浄した。さらに水酸化ナトリウムを用いて調整したpH6の水溶液(30mL)で洗浄した後に、蒸留水(30mL)で5回洗浄した。得られた固体を減圧乾燥したところ、淡黄色樹脂粉末のHsaldian(-(CH-NH)樹脂(2.16g)を得た。
【0083】
得られたHsaldian(-(CH-NH)樹脂の赤外吸収スペクトルを測定した。その結果を図4に示す。基材として用いたクロロメチルポリスチレン樹脂及びHsaldian(化合物Ia)それぞれの赤外吸収スペクトルとの比較において、Hsaldianに由来する1252cm―1及び1588cm-1のピークがHsaldian(-(CH-NH)樹脂でも確認されていることから、下記式(14)に表す高分子(ポリマー)であることが分かった。Hsaldian(-(CH-NH)樹脂中、Hsaldian構造の導入率:1.2mmol/g。
【0084】
【化17】
【0085】
(合成例8)
「Hsaldian樹脂(一般式(1)に表す化合物もしくそのイオンの構造を有するポリマー)の合成」
アルゴン雰囲気下、クロロメチルポリスチレン樹脂(4.76g、東京化成製、ジビニルベンゼン架橋度:1%、クロロ含有率:2.0mmol/g、粒径:100-200メッシュ)と合成例2と同様の操作で得られたHsaldian(3.04g,9.64mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(30mL、富士フィルム和光純薬製)中で混合し、この懸濁液を90℃にて12時間撹拌した。室温まで冷却後、吸引ろ過により固体成分を濾別し、2-プロパノール及び蒸留水で洗浄した。得られた固体を0.5M NaCO及び0.5M NaHCOを含むpH9の水溶液(30mL)に懸濁し、室温において2時間撹拌した。吸引ろ過により固体成分を濾別し、ろ液が中性になるまで蒸留水で繰り返し洗浄した。更にエタノールによる洗浄を行い、得られた固体を減圧乾燥したところ、淡黄色樹脂粉末のHsaldian樹脂(5.96g)を得た。
【0086】
得られたHsaldian樹脂の赤外吸収スペクトルを測定した。その結果を図4に示す。基材として用いたクロロメチルポリスチレン樹脂及びHsaldian(化合物Ia)それぞれの赤外吸収スペクトルとの比較において、Hsaldianに由来する1252cm―1及び1588cm-1のピークがHsaldian樹脂でも確認されていることから、下記式(15)に表す高分子(ポリマー)であることが分かった。Hsaldianにはポリマーに結合可能な窒素原子が2種類存在するため、下記式(15)に示した通り2種類の形態でHsaldianが導入され得る。Hsaldian樹脂中、Hsaldian構造の導入率:1.2mmol/g。
【0087】
【化18】
【0088】
(実施例1)
「ウラン錯体(UO(saldian))の合成」
合成例2で得られたHsaldian(0.138g,0.438mmol)を2-プロパノール(3mL)に溶解し、次いで、ホットスターラー上で加熱した。よく撹拌しながら、2-プロパノール(500μL)に溶解したUO(NO・6HO(0.219g,0.438mmol)をこの反応溶液に滴下した。混合物を-18°Cに冷却した後、オレンジ色の微結晶を濾取し、冷ジイソプロピルエーテルで洗浄してUO(saldian)(0.212g、0.364mmol、83%収率)を得た。
【0089】
上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、ウラン錯体(UO(saldian)の錯体安定度定数の常用対数値(logβ11)を測定した。その結果、logβ11=27.5であった。表1に示す。
【0090】
(実施例2)
模擬海水条件下(0.5M NaCl+2.3mM HCO /CO 2-、pH 8.0)で、合成例2で得られた化合物(Ia)とUO(NO・6HOとの溶液の紫外・可視光吸収スペクトルを測定した。化合物(Ia)の濃度0.1mMに対してUO 2+の濃度が0~0.15mM(UO 2+:Ia濃度比=0~1.5)になるように、UO(NO)2・6HOを徐々に添加して、溶液を調製した。それらの溶液の紫外・可視光吸収スペクトルを図1に示す。
【0091】
(実施例3)
「UO 2+-saldian2-系錯体分布図」
上記UO(saldian)のlogβ11に基づき平衡計算プログラムを用いてpH0~14の範囲における各種UO 2+錯体のモル分率を求めた。その結果を図2に示す。但し、図2中の[X]TOTはXで表される化学種の総濃度である。
水溶液の各組成と濃度:
0.5M NaCl+2.3mM HCO /CO 2-
0.10mM saldian2-
14.00nM UO 2+
測定温度:室温
【0092】
(実施例4)
「ウラン錯体(UO(acetdian))の合成」
合成例3で得られた化合物(IIa)(Hacetdian)をエタノール中でUO(NO・6HOと反応させた。その結果,UO(acetdian)のオレンジ色の微結晶粉末が83%の収率で得られた。
【0093】
上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、ウラン錯体(UO(acetdian)のlogβ11を測定した。その結果、logβ11=27.9であった。表1に示す。
【0094】
(実施例5)
「ウラン錯体(UO(saldian-Me))の合成」
合成例4で得られたHsaldian‐Me(0.087g,0.24mmol)をエタノール(3mL)に溶解し,続いてホットスターラーで加熱した。よく撹拌しながら、エタノール(400μL)に溶解したUO(NO・6HO(0.118g,0.23mmol)およびトリエチルアミン(34μL,0.24mmol)をこの高温溶液に滴下した。85℃で30分間撹拌した後、混合物を-18℃に冷却した。オレンジ色の微結晶を濾別し、冷エタノールおよびメチルtert-ブチルエーテルで洗浄して、UO(saldian-Me)(0.147g、0.24mmol、99%収率。)を得た。高温DMSOからの再結晶により,UO(saldian‐Me)の板状結晶が得られた。
【0095】
上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、ウラン錯体(UO(saldian‐Me)のlogβ11を測定した。その結果、logβ11=26.2であった。
【0096】
(実施例6)
「ウラン錯体(UO(saldian(p-OMe))の合成」
合成例5で得られたHsaldian(p-OMe)(0.086g,0.23mmol)をエタノール(3mL)に溶解し,続いてホットスターラーで加熱した。よく撹拌しながら、エタノール(400μL)に溶解したUO(NO・6HO(0.118g,0.23mmol)およびトリエチルアミン(34μL,0.24mmol)をこの高温溶液に滴下した。85℃で30分間撹拌した後、混合物を-18℃に冷却した。オレンジ色の微結晶を濾別し、冷エタノールおよびメチルtert-ブチルエーテルで洗浄して、黄橙色結晶性粉末のUO(saldian(p-OMe)(0.13g、0.20mmol、88%収率。)を得た。
【0097】
上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、ウラン錯体(UO(saldian(p-OMe))のlogβ11を測定した。その結果、logβ11=24.81であった。表2に示す。
【0098】
(実施例7)
「ウラン錯体(UO(saldian(p-CF))の合成」
合成例6で得られたHsaldian(p-CF)(0.10g,0.23mmol)をエタノール(3mL)に溶解し,続いてホットスターラーで加熱した。よく撹拌しながら、エタノール(400μL)に溶解したUO(NO・6HO(0.118g,0.23mmol)およびトリエチルアミン(34μL,0.24mmol)をこの高温溶液に滴下した。85℃で30分間撹拌した後、混合物を-18℃に冷却した。オレンジ色の微結晶を濾別し、冷エタノールおよびメチルtert-ブチルエーテルで洗浄して、黄橙色結晶性粉末のUO(saldian(p-CF)(0.081g、0.18mmol、78%収率。)を得た。
【0099】
上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、ウラン錯体(UO(saldian(p-CF))のlogβ11を測定した。その結果、logβ11=23.5であった。表2に示す。
【0100】
(実施例8)
「量子化学計算による、一般式(1)のRとR(p-置換)、RとR(m-置換)の置換基効果の検討」
上記一般式(1)に表す化合物(1)において、RとR(p-置換)、RとR(m-置換)が-CH、-OMe、-Cl、-CF、-NOである場合、以下の式(16)で示す脱プロトンエネルギーΔEを量子化学計算で求めた。各種官能基を導入した場合のΔEの予測値をプロットした図が得られた。結果を図3に示す。
なお、量子化学計算は以下の条件で行った。
計算コード:Gaussian16/B01,手法:B3LYPハイブリッド密度汎関数法,基底関数:6-311G(d),溶媒効果:SCRF=WATER。
【0101】
【化19】
【0102】
図3の各符号の意味は以下に示す。
ΔE:フェノキシイオン基に対する水素イオンの結合エネルギー(電子供与性の強さ→錯体安定度定数の大きさ)
σ:パラ位(R,R)に導入した官能基の電子求引性
σ:メタ位(R,R)に導入した官能基の電子求引性
p-CH:RとR=-CH、その以外のR~R13=H
p-OMe:RとR=-OMe、その以外のR~R13=H
p-Cl:RとR=-Cl、その以外のR~R13=H
p-CF:RとR=-CF、その以外のR~R13=H
p-NO:RとR=-NO、その以外のR~R13=H
m-CH:RとR=-CH、その以外のR~R13=H
m-OMe:RとR=-OMe、その以外のR~R13=H
m-Cl:RとR=-Cl、その以外のR~R13=H
m-CF:RとR=-CF、その以外のR~R13=H
m-NO:RとR=-NO、その以外のR~R13=H
【0103】
(比較例1)
「ウラン以外の金属錯体の合成」
合成例2で得られた化合物(Ia)(Hsaldian)とアルカリ金属イオン(Na、K)、アルカリ土類金属(Mg2+、Ca2+,Sr2+,Ba2+)、Zr4+,MoO 2-の塩と混合させたが、錯形成は観測されなかった。
【0104】
(比較例2)
「ウラン以外の金属錯体の合成」
合成例3で得られた化合物(IIa)(Hacetdian)とアルカリ金属イオン(Na、K)、アルカリ土類金属(Mg2+、Ca2+,Sr2+,Ba2+)、Al3+、Zr4+,MoO 2-の塩と混合させたが、錯形成は観測されなかった。
【0105】
(比較例3)
「ウラン以外の金属錯体の合成」
合成例2で得られた化合物(Ia)(Hsaldian)と種々の金属(M)イオン:Al3+,VO 、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+と混合させ、金属錯体が得られた。上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、それぞれの錯体のlogβ11及びこれら各金属イオンに対するウランの分離係数を測定した。その結果を表1に示す。
【0106】
(比較例4)
「ウラン以外の金属錯体の合成」
合成例3で得られた化合物(IIa)(Hacetdian)と種々の金属(M)イオン:VO 、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+と混合させ、金属錯体が得られた。上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、それぞれの錯体のlogβ11及びこれら各金属イオンに対するウランの分離係数を測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
(比較例5)
「ウラン以外の金属錯体の合成」
合成例5で得られた化合物(Ic)(Hsaldian(p-OMe))と種々の金属(M)イオン:Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+と混合させ、金属錯体が得られた。上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、それぞれの錯体のlogβ11及びこれら各金属イオンに対するウランの分離係数を測定した。その結果を表2に示す。
【0108】
(比較例6)
「ウラン以外の金属錯体の合成」
合成例3で得られた化合物(If)(Hsaldian(p-CF))と種々の金属(M)イオン:Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+と混合させ、金属錯体が得られた。上記錯体安定度定数の測定方法を用いて、それぞれの錯体のlogβ11及びこれら各金属イオンに対するウランの分離係数を測定した。その結果を表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
(比較例7)
「従来の海水ウラン捕集用配位子とウラン(UO 2+)との錯形成と錯体安定度定数logβ11
<配位子化合物の合成>
非特許文献2と同様な方法で、従来の海水ウラン捕集用配位子の化合物:ベンズアミドキシム、アセトアミドキシム、1,10-フェナントロリン-2,9-ジカルボン酸、グルタルイミドジオキシム、2,6-ビス[ヒドロキシ(メチル)アミノ]-4-モルホリノ-1,3,5-トリアジンを合成した。
【0112】
<錯体の合成>
実施例1と同様な方法で、上記合成で得た配位子とウラン(UO 2+)との錯体を合成した。
【0113】
<錯体安定度定数の常用対数値(logβ11)の測定>
実施例1と同様な方法で、上記得た錯体の安定度定数logβ11を測定した。その結果は以下である。
ベンズアミドキシム:12.4
アセトアミドキシム:13.6
1,10-フェナントロリン-2,9-ジカルボン酸:16.5
グルタルイミドジオキシム:17.8
2,6-ビス[ヒドロキシ(メチル)アミノ]-4-モルホリノ-1,3,5-トリアジン:17.47
【0114】
(考察)
実施例1~7いずれにおいてもUO 2+との錯形成が確認されており、これは一般式(1)で表される化合物が平面5座配位というUO 2+の特徴的性質によくフィットする構造を有するためであると考えられる。各UO 2+錯体のlogβ11においても、実施例1及び4で求めたlogβ11は比較例7に示す従来の海水ウラン捕集用配位子と比べて10桁以上大きな値であることから、海水条件下であっても非常に安定なウラン錯体を形成することが実証された。このことから、高効率で海水からのウラン捕集が可能となる。また、実施例1及び4、比較例1~4の各結果を表1にまとめた通り、他の夾雑イオンに対するウラン分離係数はAl3+、VO 以外については10万倍から1000億倍もの値であり、選択性の点でも非常に優れる。Al3+はHacetdianと錯形成しないため、これを用いることでUO 2+の選択的分離が可能となる。また、VO についてもHsaldianをHacetdianに代えることで分離係数の改善が見られている。以上の結果から、一般式(1)に示すように官能基の導入などにより適切な分子設計を施すことによりウラン捕集性能及び分離性能のさらなる向上が十分期待される。また、実施例8、図3及び表2に示す結果から、一般式(1)で表される化合物のR~R13に電子求引性もしくは電子供与性の官能基を導入することにより他の夾雑イオンに対する選択性を保持しつつUO 2+との錯体安定度定数を制御することが可能であることが明らかとなった。さらに、合成例7、合成例8、図4においてHsaldian構造を導入したポリマーが合成できることも確認しており、これを海水ウラン吸着材として適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、海水のpH条件である8付近でも高い効率で海水中のウランを選択的に捕集できる、海水ウラン捕集用配位子、それを用いた海水ウラン捕集方法及びウラン原料の製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4