(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105767
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】水及び水の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 6/00 20060101AFI20230724BHJP
C02F 1/22 20230101ALI20230724BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20230724BHJP
A23F 5/24 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
B01J6/00 102
C02F1/22 A
A23F3/16
A23F5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006785
(22)【出願日】2022-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】507206435
【氏名又は名称】宮下製氷冷蔵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】今村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 真一
【テーマコード(参考)】
4B027
4D037
4G068
【Fターム(参考)】
4B027FB13
4B027FB24
4B027FC01
4B027FC02
4B027FE06
4B027FP72
4B027FP85
4B027FP90
4B027FQ06
4B027FQ19
4B027FQ20
4D037AA01
4D037AA02
4D037AA03
4D037AA05
4D037AA06
4D037AB18
4D037BA21
4D037BB05
4D037CA02
4G068CA08
4G068CB15
(57)【要約】
【課題】おいしいコーヒーを淹れることができる水、おいしい茶を淹れることができる水、おいしいコーヒー飲料や茶飲料が製造することができる水を提供する。
【解決手段】コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、純氷の融解水である水。コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水の凍結融解水である水であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、
純氷の融解水であることを特徴とする水。
【請求項2】
コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、
カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水の凍結融解水であることを特徴とする水。
【請求項3】
コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、
カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水を原料とした純氷の融解水であることを特徴とする水。
【請求項4】
コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、
ナトリウムの濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲内にある精製水であることを特徴とする水。
【請求項5】
コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、
カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が1ppm以下であり、かつ、ナトリウムの濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲内にある精製水であることを特徴とする水。
【請求項6】
金属容器に原水を入れる工程と、
前記原水中に空気をブローしながら、前記金属容器を-1℃~-20℃のブラインを含むブライン槽に浸漬し、純氷を得る製氷工程と、
前記金属容器に、凍結していない原水と純氷とが共存している状態で前記製氷工程を終了し、前記金属容器内の前記凍結していない原水を除去する工程と、
前記純氷を融解する融解工程と、
を含むことを特徴とする、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水の製造方法。
【請求項7】
金属容器に原水を入れる工程と、
前記原水中に10~40kPaの圧力の空気をブローしながら、前記金属容器をボーメ度3~30に調整された-1℃~-20℃の塩化カルシウム水溶液を含むブライン槽に6時間以上浸漬し、純氷を得る製氷工程と、
前記金属容器に、凍結していない原水と純氷とが共存している状態で前記製氷工程を終了し、前記金属容器内の前記凍結していない原水を除去する工程と、
前記純氷を破砕する破砕工程と、
前記破砕した純氷を融解する融解工程と、
を含み、
前記原水は、井戸水、水道水またはミネラル水であることを特徴とする、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水及び水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーを精製度の高い水で抽出したときの抽出量や味覚の変化については過去にいくつかの文献で報告されている。例えば、コーヒーを超純水で抽出するとその総抽出量が大きく変わることは、シグマアルドリッチ社のホームページで紹介されている(非特許文献1)。また、超純水で抽出したエスプレッソコーヒーは泡の量が減ることが報告されている(非特許文献2)。また、蒸留水でコーヒーを抽出すると酸味が増すことが報告されており、蒸留水に塩類を混ぜてコーヒーを抽出した実験ではNaClを750ppm添加した蒸留水で抽出したコーヒーは塩味がわずかに増すが、CaCl2やMgCl2を添加したものとは大きな差が認められなかったことが報告されている(非特許文献3)。
【0003】
しかしながら、純氷の融解水を用いてコーヒーを淹れると、おいしいコーヒーが得られることは知られていない。また、純氷の融解水を用いて茶を淹れると、おいしい茶が得られることは知られていない。また、純氷の融解水をコーヒー飲料や茶飲料の原料水に用いると、おいしいコーヒー飲料や茶飲料が製造できることも知られていない。
【0004】
本発明の発明者らは、鋭意努力を重ねることにより、純氷の融解水を用いてコーヒーを淹れるとおいしいコーヒーが得られること、純氷の融解水を用いて茶を淹れるとおいしい茶が得られること、そして、純氷の融解水をコーヒー飲料や茶飲料の原料水に用いるとおいしいコーヒー飲料や茶飲料が製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“超純水と硬水でこんなに抽出効率が違う! お茶・コーヒーの抽出で比較”、サイエンス系お役立ちメディア、M-Hub(シグマアルドリッチ社の技術紹介サイト)、[online]、2020年11月2日、シグマアルドリッチ社、[2021年9月7日検索]、インターネット、<URL:https://m-hub.jp/water/4250/300>
【非特許文献2】Luciano Navarini, et. al., Water Quality for Espresso Coffee., Food Chemistry. 2010, 122, 424-428.
【非特許文献3】Rose Marie Pangborn, et al., Analysis of Coffee, Tea and Artificially Flavored Drinks Prepared from Mineralized Waters., Journal of Food Science. 1971, 36, 355-362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、おいしいコーヒーを淹れることができる水、おいしい茶を淹れることができる水、おいしいコーヒー飲料や茶飲料を製造することができる水を提供すること、そのような水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明の水は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、純氷の融解水である。
【0008】
[2]本発明の水は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水の凍結融解水である。
【0009】
[3]本発明の水は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水を原料とした純氷の融解水である。
【0010】
[4]本発明の水は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、ナトリウムの濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲内にある精製水である。
【0011】
[5]本発明の水は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が1ppm以下であり、かつ、ナトリウムの濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲内にある精製水である。
【0012】
[6]本発明の水の製造方法は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水の製造方法であって、金属容器に原水を入れる工程と、前記原水中に空気をブローしながら、前記金属容器を-1℃~-20℃のブラインを含むブライン槽に浸漬し、純氷を得る製氷工程と、前記金属容器に凍結していない原水と純氷とが共存している状態で前記製氷工程を終了し、前記金属容器内の前記凍結していない原水を除去する工程と、前記純氷を融解する融解工程と、を含む。
【0013】
[7]本発明の水の製造方法は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水の製造方法であって、金属容器に原水を入れる工程と、前記原水中に10~40kPaの圧力の空気をブローしながら、前記金属容器をボーメ度3~30に調整された-1℃~-20℃の塩化カルシウム水溶液を含むブライン槽に6時間以上浸漬し、純氷を得る製氷工程と、前記金属容器に凍結していない原水と純氷とが共存している状態で前記製氷工程を終了し、前記金属容器内の前記凍結していない原水を除去する工程と、前記純氷を破砕する破砕工程と、前記破砕した純氷を融解する融解工程と、を含み、前記原水は、井戸水、水道水またはミネラル水である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水によりコーヒーを淹れるとおいしいコーヒーが得られる。また、本発明の水により茶を淹れるとおいしい茶が得られる。さらに、本発明の水を原料水に用いてコーヒー飲料や茶飲料を製造するとおいしいコーヒー飲料や茶飲料を製造することができる。さらにまた、本発明の水の製造方法によれば、おいしいコーヒー若しくは茶を淹れることができる水又はおいしいコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】純氷の製造に好適な製造装置の模式図である。
【
図3】実施例1及び比較例1~5の官能試験の結果を示す図である。
【
図4】実施例1及び比較例1~3の味認識装置による分析結果を示す図である。
【
図5】実施例1及び比較例1~3のカチオン分析の結果を示す図である。
【
図6】実施例1及び比較例6~9の味認識装置による分析結果を示す図である。
【
図7】実施例1及び比較例6の官能試験の結果を示す図である。
【
図8】実施例2及び比較例10の官能試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と記す。)を説明する。以下に記載する実施形態は、発明を実施するための好適な形態を示すものであって、本発明は以下に記す実施形態に何ら限定されるものではない。また、各実施形態において説明が重複する場合は、説明を省略することがある。
【0017】
1.実施形態1
実施形態1は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、純氷の融解水である水に関する。
【0018】
本明細書において「純氷」とは、原料となる水(以下、「原水」と記す。)に、原水に挿入した金属管を通じて送った空気をブローしながら、原水を-1℃~-20℃に冷却し、製氷速度10mm/hr以下で製氷した氷のことをいう。
【0019】
「純氷」の例として、製氷工場等で製造される氷であって、原水をアイス缶といわれる金属容器に入れ、アイス缶を約-10℃のブライン槽に浸漬させ、空気をブローしながら、原水を48時間以上かけて凍らせた氷を例示することができる。製氷速度は、2~3mm/hrである。このように、時間をかけて凍結させた氷は、原水に溶け込んでいる空気を含む不純物が、製氷の過程で氷の結晶から追い出され、不純物をほとんど含まない、純度が高い結晶から構成されている。すなわち、純氷に含まれる不純物の量は、は、原料である原水に含まれる不純物の量に比べ格段に少ない。
【0020】
1-1.純氷の融解水の製造方法
図1は、実施形態1に係る純氷の融解水の製造工程を示す工程フロー図である。以下、実施形態1に係る純氷の融解水の製造方法を、
図1を参照して説明する。
【0021】
(原水を準備する工程)
まず、原水を準備する。原水として用いられる水に制限はなく、水道水、井戸水、河川水、海水、ミネラルウォーター、イオン交換水、純水、超純水、等の各種の水を使用することが可能である。なかでも、水道水、井戸水及びミネラル水は、これらを原水として用いた純氷の融解水によりコーヒー又は茶を淹れると、おいしいコーヒーや茶が得られ、これらを原水として用いた純氷の融解水をコーヒー飲料や茶飲料の原料水に用いるとおいしいコーヒー飲料や茶飲料が製造できること、また、水道水、井戸水及びミネラル水は、比較的容易かつ安価に入手できること、等の理由で好ましい。
【0022】
(濾過工程)
原水は濾過を行い、原水に含まれる不純物を取り除く。濾過工程11は、活性炭濾過や、イオン交換膜法、逆浸透膜法などによる濾過を行い、原水に含まれる不純物取り除く工程である。濾過工程11は必須の工程ではないが、原水として水道水を使用する場合は、濾過を行ってから、次の製氷工程12に進むことが好ましい。水道水には、次亜塩素酸カルシウム、いわゆるカルキが含まれている。次亜塩素酸カルシウムに由来する塩化物イオンが、コーヒー、茶等の飲料に持ち込まれると、香り、味を損なう原因になることが知られている。このため、濾過工程11を行い、水道水に含まれる塩化物イオンをできる限り取り除くことが好ましい。
【0023】
(製氷工程)
製氷工程12では、濾過を行った原水を用いて製氷を行う。
図2は、製氷工程12で使用する製氷装置の概略断面図である。製氷工程12は、金属容器、例えばJIS規格のアイス缶21(高さ1050mm×幅560mm×奥行260mm)に、濾過を行った原水24を充填する。原水24の充填量は、例えば146Lである。なお、上記した製氷に使用する容器の材質や大きさ、原水24の充填量は例示であり、アイス缶21を-1℃~-20℃のブライン槽23に浸漬したとき、10mm/hr程度の速度で製氷が可能である限り、上記したものに限定されない。
【0024】
原水24を充填したアイス缶21は、ブライン27で満たされたブライン槽23に浸漬する。ブライン27の好適な例として、水に塩化カルシウムを混ぜボーメ度を3~30に調整したものを例示することができる。このようなブライン27を使用することにより、ブライン槽23の温度を-1℃~-20℃の範囲の所望の温度に調整することができ、好ましい製氷速度である10mm/hr以下の速度で製氷を行うことができる。
【0025】
原水24を充填したアイス缶21を、-1℃~-20℃のブライン槽23に6時間以上浸漬することにより、原水24を凍らせる。凍結は、アイス缶21の側面及び底面からはじまり、アイス缶21の中央に向かって、10mm/hr以下の速度で進む。このように長い時間をかけて製氷を行うことにより、原水24に溶け込んでいる不純物が、凍結の過程で純氷25の結晶から追い出され、不純物をほとんど含まない、純度が高い結晶から構成される純氷25を得ることができる。
【0026】
さらに、原水24に挿入したエアー管22に10kPa~40kPaの圧力の空気を送り、気泡26をブローさせる。原水24に気泡26をブローすることにより、アイス缶21の中の原水24を攪拌、対流させることができる。このとき、エアー管22の先端を、アイス缶21の底に近い位置に配置することが好ましい。これにより、原水24を効率よく攪拌し、対流させることができる。
【0027】
製氷の過程で純氷25の結晶から排出され、原水24と純氷25との境界に貼り付いている気体は、対流の勢いで剥がし取られる。さらに、ブロワーによる攪拌の勢いで、水面は常に波打ち、凍らない。対流によって剥がし取られた気体は、水面から大気中に排出される。
【0028】
製氷工程12においては、10mm/hr以下の速度で凍結が進行する。このように長い時間をかけて製氷を行うことにより、原水24に含まれていた不純物は、純氷25の結晶から追い出され、結晶中には取り込まれない。すなわち、不純物は凍結していない原水24に濃縮されることになる。
【0029】
原水24の凍結が一定程度進んだところで、アイス缶21の中の凍結していない原水24を吸い取って除去し、新しい原水24を補充してもよい。製氷工程12において、原水24に溶けていた不純物は、純氷25の結晶から追い出されることから、原水24の中に存在する不純物の濃度は、製氷の進行に伴って高くなる。製氷が一定程度進行したところで、凍結していない原水24を除去し、新しい原水24を補充することにより、凍結していない原水24の不純物濃度を下げることができ、ひいては純氷25における不純物濃度が徐々に高くなることを防止する。
【0030】
これにより、不純物の濃度が、原水24より格段に小さい純氷25を得ることができる。アイス缶21から凍結前の原水24を除去し、新しい原水24を補充するという工程は、製氷工程12において、複数回繰り返してもよい。
【0031】
上記した、製氷が一定程度進行したところで、アイス缶21の中の凍結していない原水24を除去し、新しい原水24を補充するという工程は、必須の工程ではない。実施形態1に係る純氷の融解水は、純氷25の製氷過程において、原水24に含まれる不純物が純氷25の結晶から追い出され、凍結していない原水24の中に残っていれば十分である。凍結していない原水24を除去し、得られた純氷25を融解して、融解水を得ればよい。
【0032】
このとき、凍結していない原水24を除去する前にアイス缶21の中に存在する、純氷25と原水24の割合は、製氷前の原水24のうち、30重量%~95重量%が製氷されて純氷25になった状態であることが好ましく、45重量%~70重量%が製氷されて純氷25になった状態であることがより好ましい。アイス缶21の中に存在する純氷25を上記範囲内とすることにより、おいしいコーヒーや茶を淹れることができる程度に不純物を除去することができる。
【0033】
製氷工程12の終了後、製氷した純氷25をアイス缶21から取り出す。純氷25をアイス缶21から取り出す方法は、特に問わない。例えば、ブライン槽23から引き上げたアイス缶21を室温の水に浸漬し、または室温の水をアイス缶21の側面にかけることにより、純氷25のアイス缶21の内壁に接触している部分を融解させることができる。これにより、純氷25をアイス缶21から短時間で取り出すことができる。
【0034】
(破砕工程)
破砕工程13では、アイス缶21から取り出した純氷25を、クラッシャーを用いて破砕する。破砕後の純氷25の大きさは特に限定されないが、例えば20mm以下、好ましくは10mm以下である。純氷25を上記した大きさに破砕することにより、後で説明する融解工程14において、短い時間で純氷25を融解させて純氷25の融解水を得ることができる。なお、融解に要する時間を短縮するため、破砕後の純氷25をメッシュにかけ、所定サイズより小さい純氷25だけを選別してもよい。
【0035】
(融解工程)
破砕した純氷25は、室温に放置して融解させ、純氷の融解水を得る。
【0036】
(純水の融解水)
上記した製造方法により得られた純氷25の融解水は、製氷工程12において、原水24に含まれている不純物が、純氷25の結晶から追い出される。これにより、純氷25の融解水に含まれる不純物の濃度が、原水24の不純物濃度より格段に小さくなる。
【0037】
この結果、実施形態1に係る純氷25の融解水によりコーヒーを淹れるとおいしいコーヒーを得ることができる。また、実施形態1に係る純氷25の融解水により茶を淹れるとおいしい茶を得ることができる。さらに、実施形態1に係る純氷25の融解水を原料水として用いてコーヒー飲料若しくは茶飲料を製造すると、おいしいコーヒー飲料若しくは茶飲料を製造することができる。
【0038】
実施形態1に係る純氷25の融解水は、コーヒーの抽出水として好適に用いられる。本明細書においてコーヒーとは、アカネ科コヒア族のコーヒーノキの種子、いわゆるコーヒー豆を原料とする飲料を指すが、一般的にコーヒーと称されるものであれば、産地、焙煎、配合、粉砕等、何ら制限されるものではない。さらに、コーヒーの抽出方法として、ドリップ式、サイホン式、バーコレーター式等、各種の方式が知られているが、いずれの方法においても実施形態1に係る純氷25の融解水を好適に適用することができる。
【0039】
また、実施形態1に係る純氷25の融解水は、茶の抽出水として好適に用いられる。茶とは、チャノキの葉や茎から作られる飲料であり、例えば、緑茶、白茶、黄茶、烏龍茶、紅茶、紅茶、花茶等を例示することができる。さらに、実施形態1における茶には、茶葉以外の植物の葉や茎、果実、花びらなどを乾燥させて製造した麦茶、ハトムギ茶、熊笹茶、そば茶、甘茶等の茶を含む。
【0040】
また、実施形態1に係る純氷25の融解水は、炭酸ガスを融解させた炭酸水やビール、日本酒、ウイスキー、焼酎等のアルコール飲料の原料水として用いたときに、おいしい炭酸水やアルコール飲料を製造することができる。さらに、実施形態1に係る純氷25の融解水は、これを用いて料理を作ったときや米を炊いたとき、おいしい料理を作ることができまたは御飯を炊くことができる。
【0041】
以上説明したように、実施形態1に係る純氷25の融解水によりコーヒー又は茶を淹れると、おいしいコーヒー又は茶を得ることができる。特に、実施形態1に係る純氷25の融解水によりコーヒー又は麦茶を淹れるとおいしいコーヒー又は麦茶を得ることができる。
【0042】
2.実施形態2
実施形態2は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、ミネラル水の凍結融解水である水に関する。実施形態2のミネラル水の凍結融解水は、原水24としてカルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水を使用した凍結融解水である。以下、実施形態2のミネラル水の凍結融解水の説明においては、実施形態1の純氷の融解水の説明と異なる事項について説明し、重複する事項は説明を省略する。
【0043】
なお、本明細書において「凍結融解水」とは、原水に挿入した金属管を通じて送った空気を原水にブローしながら、原水を-1℃~-20℃に冷却し、10mm/hr以下の速度で凍結させた氷を、融解させた水のことをいう。
【0044】
実施形態2のミネラル水の凍結融解水は、原水24としてミネラル水を使用し、ミネラル水は、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内である。さらに、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計は、10ppm~100ppmであることが好ましく、15ppm以上50ppm以下であることがより好ましい。
【0045】
ミネラル水のカルシウムの濃度とマグネシウム濃度の合計が上記数値の上限以下であることにより、当該ミネラル水の凍結融解水を用いてコーヒーや茶を淹れたとき、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、ミネラル水のカルシウムの濃度とマグネシウム濃度の合計が上記数値の下限以上であることにより、ミネラル水の凍結融解水を用いてコーヒーや茶を淹れたとき、苦み、雑味等の、コーヒー、茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制される。これにより、おいしいコーヒー又は茶を淹れることができる、という効果を奏する。
【0046】
3.実施形態3
実施形態3は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、ミネラル水を原料とした純氷の融解水である水に関する。実施形態3のミネラル水を原料とした純氷の融解水は、原水24としてカルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水を原料とした純氷の融解水である。以下、実施形態3のミネラル水を原料とした純氷の融解水の説明においては、実施形態1の純氷の融解水の説明と異なる事項について説明し、重複する事項は説明を省略する。
【0047】
実施形態3のミネラル水を原料とした純氷の融解水は、原水24としてミネラル水を使用し、ミネラル水は、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内である。さらに、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計は、10ppm~100ppmであることが好ましく、15ppm以上50ppm以下であることがより好ましい。
【0048】
ミネラル水のカルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が上記範囲内であることによる効果は、実施形態2のミネラル水の凍結融解水と同様である。すなわち、ミネラル水のカルシウムの濃度とマグネシウム濃度の合計が上記数値の上限以下であることにより、当該ミネラル水の凍結融解水を用いてコーヒーや茶を淹れたとき、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、ミネラル水のカルシウムの濃度とマグネシウム濃度の合計が上記数値の下限以上であることにより、ミネラル水の凍結融解水を用いてコーヒーや茶を淹れたとき、苦み、雑味等の、コーヒー、茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制される。これにより、おいしいコーヒー又は茶を淹れることができる。
【0049】
4.実施形態4
実施形態4は、コーヒー若しくは茶を淹れるのに用いる水又はコーヒー飲料若しくは茶飲料の原料水に用いる水であって、ナトリウム濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲にある精製水である水に関する。
【0050】
実施形態4における精製水は、ナトリウム濃度が0.1ppm以下である。精製水のナトリウム濃度が上記範囲内にあることにより、この精製水を使用してコーヒーを淹れると、おいしいコーヒーを得ることができる。具体的には、「クリーン」な味わいのコーヒーを淹れることができる。また、この精製水を使用して茶を淹れると、おいしい茶を淹れることができる。
【0051】
実施形態4における精製水は、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲である。電気伝導率が上記数値の上限以下であることにより、実施形態4の精製水を用いてコーヒー又は茶を淹れたとき、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、電気伝導率が上記数値の下限以上であることにより、苦み、雑味等のコーヒー、茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制することができる。
【0052】
さらに、実施形態4における精製水は、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が1ppm以下であることが好ましい。カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が上記範囲内にあることにより、実施形態4の精製水を用いてコーヒー又は茶を淹れたとき、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。
【0053】
(実施例)
(純氷の融解水の作製)
原水24として長野県飯田市で採水した井戸水146Lを、JIS規格のアイス缶21(高さ1050mm×幅560mm×奥行260mm)に入れた。前記アイス缶21を、塩化カルシウムによりボーメ度26に調整した-14℃のブライン槽23に浸漬した。原水24にエアー管22を挿入して、30kPaの空気を送り、空気をブローして原水24を攪拌、対流させながら、12時間かけて製氷を行った。製氷後、凍結していない原水24を吸い出して廃棄し、純氷25を得た。得られた純氷25の重量は、125~130kgであった。
【0054】
アイス缶21からブロック形状の純氷25を取り出し、クラッシャーにかけて破砕した。10mmのメッシュにかけてφ10mm未満の破砕氷を得た。破砕氷を集めて容器に入れ、室温で一晩融解して、純氷25の融解水を得た。
【0055】
(コーヒーの抽出)
レギュラーコーヒー(キーコーヒー、モカブレンド、生豆産地:エチオピア、ブラジル他) 28gに対し、抽出水515gを用いて、コーヒーメーカーでコーヒーの抽出を行った。抽出温度は78℃とした。レギュラーコーヒーとして、使用した抽出水を、以下に示す。
・実施例1 純氷の融解水
・比較例1 井戸水(飯田市)
・比較例2 水道水(飯田市)
・比較例3 純氷の融解水に次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を0.5ppm添加した水
・比較例4 純氷の融解水に次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)2)を0.5ppm添加した水
・比較例5 超純水
表1に、実施例1及び比較例1~5の水の電気伝導率及びpHを示す。
【0056】
【0057】
(官能試験)
得られたコーヒーを、コーヒーインストラクター検定の評価用語に従い、6名のパネラーにより、官能試験を行った。なお、パネラーには、評価対象がどのコーヒーであるかは伏せて評価してもらった。評価項目は、「丸み」、「クリーン」、「甘味」及び「渋み」(以上、4項目「プラス評価」)、並びに、「ハード」、「雑味」及び「渋み」(以上、3項目「マイナス評価」)である。官能試験は、プラス評価を+1、マイナス評価を-1として、6名のパネラー全員の点数を合計して評価点数とした。結果を表2及び
図3に示す。
【0058】
【0059】
図3は、実施例1及び比較例1~5の官能試験の結果を示す図である。具体的には、表2の評価結果を棒グラフに示したものである。横軸は、評価項目、条件を示し、左から評価項目ごとに、実施例1、比較例1、2、3、4及び5の順に配列している。縦軸は、6名のパネラー全員の点数の合計を示す。
【0060】
官能試験の結果、純氷の融解水を使って抽出した実施例1のコーヒーが、最も高い評価となった。また、評価項目ごとのポイントを比較すると、実施例1は、プラス評価の「クリーン」において、比較例1~5に比べて顕著に高い結果になっている。
【0061】
純氷の融解水を用いてコーヒーを作製した実施例1と超純水を抽出水として用いてコーヒーを作製した比較例5とを比較する。実施例1は、合計が11ポイントであるのに対し、比較例5は4ポイントであり、実施例1の方が高い結果となった。
【0062】
評価項目ごとにみると、「クリーン」の項目については、実施例1はパネラー6名全員が「クリーン」と判定したが、比較例5は「クリーン」と判定したパネラーは3名に留まった。さらに、マイナス評価に関して、実施例1は「ハード」、「渋み」を感じたパネラーはいなかったが、比較例5はそれぞれ2名のパネラーが「ハード」、「渋み」を感じている。
【0063】
超純水でコーヒーを抽出すると、コーヒーに由来する成分の抽出物濃度が上がる。比較例5は、「苦み」成分等も多く抽出されてしまったため、全体として味のバランスが悪くなったと考えられる。
【0064】
(味認識装置による分析)
味認識装置TS-5000Z(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)を用いて、各味覚を定量化した。
【0065】
図4は、実施例1及び比較例1~3の味認識装置による分析結果を示す図である。横軸には、分析対象とした味覚を配列した。左から順に、「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「渋味」、「苦味コク」である。それぞれの味覚においては、左から実施例1、比較例1、2及び3の順に配列した。縦軸は、味覚の感受性を表すファクターを示す。数字が大きいほど、感受性が高い、すなわちその味を強く感じることを示す。
【0066】
味認識装置により各味覚を定量化した結果によると、純氷の融解水で抽出した実施例1のコーヒーは、比較例1~3のコーヒーより、「塩味」が低い傾向が認められた。
【0067】
純氷の融解水で抽出した実施例1のコーヒーが、官能試験の「クリーン」の項目において高い結果が得られ、味認識装置による分析で塩味の感受性が低くなった理由を調べるため、コーヒーの苦み成分であるクロロゲン酸とカフェインの含有量を分析した。
【0068】
(クロロゲン酸の分析)
実施例1及び比較例1~3で得られたコーヒーサンプル6.0mlにアセトン3.0mlを加えて撹拌し、分析用サンプルとした。分析は高速液体クロマトグラフィーを用いて行った。移動相は、メタノール:水:酢酸=30:70:1、流速は、0.5ml/分、YMC-Pack pro C18 カラムを用いてUV/VIS 330nm で検出を行い、サンプル注入量は10μlとした。結果を表3に記す。
【0069】
(カフェインの分析)
カフェインの分析は、高速液体クロマトグラフィーを用いて行った。移動相Aは、0.1%H3PO4、移動相Bはアセトン:0.1%H3PO4=40:60(v/v)として、分析時間0~10分が移動相Bの0~20%のリニアグラジエント、分析期間10~60分が移動相Bの20~75%のリニアグラジエントとした。流速は1.0ml/分、Inert Sustain C-18カラムを用いてUV/VIS 272nm、40℃で検出を行い、サンプル抽出量は10μlとした。結果を表3に記す。
【0070】
【0071】
表3に示すように、コーヒーに含まれるクロロゲン酸とカフェインの濃度に、実施例1と比較例1~3との間で有意差は認められなかった。このことより、実施例1のコーヒーが、官能試験の「クリーン」において高い結果が得られ、味認識装置による分析で塩味の感受性が低くなる理由は、コーヒーに含まれるクロロゲン酸やカフェインではないと言える。
【0072】
(カチオン分析)
実施例1及び比較例1~3のコーヒーに含まれるカチオン量を、原子吸光分光法により測定した。ナトリウムイオンの分析は、コーヒーサンプルに、添加後のHCl濃度が1%となるようにHClを添加し、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの分析は、コーヒーサンプルに、添加後のSrCl
2濃度が0.5%となるように、また、添加後のHCl濃度が1%となるように、SrCl
2及びHClをそれぞれ添加した。原子吸光分析光度計は、AA-6200(島津製作所)を用い、ホロカソードランプは、ナトリウムランプL233.L733-202NB(浜松ホトニクス)を用いて分析を行った。結果を表4及び
図5に示す。
【0073】
マグネシウムイオンの濃度及びカルシウムイオンの濃度は、実施例1及び比較例1~3との間で有意差は認められなかったが、ナトリウムイオンの濃度は実施例1、比較例3と比較例1~2との間で有意差が認められた。
【0074】
さらに、原水24に含まれるカチオン量を測定し、表4に記した。原水24に含まれるカチオン量の測定は、コーヒーに含まれるカチオン量の測定と同じ方法により行った。なお、原水24に含まれるカチオンのうち、マグネシウムイオンの濃度とカルシウムイオンの濃度は、両者の和として示す。
【0075】
【0076】
実施例1及び比較例1~3のコーヒーにおいては、原水24のナトリウムイオンの濃度とコーヒーのナトリウムイオンの濃度との間に、一定の関係性が認められる。原水24に含まれるナトリウムイオンの濃度がコーヒーに含まれるナトリウムイオンの濃度に反映していると認められる。
【0077】
一方、コーヒーのマグネシウムイオンの濃度とカルシウムイオンの濃度は、原水24に含まれるマグネシウムイオンの濃度とカルシウムイオンの濃度に依存することなく、ほぼ一定である。このことから、コーヒーに含まれるマグネシウムイオンとカルシウムイオンは、コーヒー豆から抽出された成分に依存すると考えられる。
【0078】
(アニオン分析)
実施例1及び比較例1~3のコーヒーについて、液体クロマトグラフィーICS-3000(日本ダイオネクス)を用いて、アニオン分析を行った。溶離液は、14mM水酸化カリウム溶液を用い、流速0.25ml/分で、カラムはIon Pack AS20(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、検出は電気伝導度検出器を用いて、注入量は10μlとした。結果を表5に記す。
【0079】
【0080】
実施例1及び比較例1~3において、原水24の塩化物イオン濃度に約11ppmを加えると、コーヒーの塩化物イオン濃度になる。すなわち、コーヒーに含まれる11ppm相当の塩化物イオンは、コーヒー豆に由来していると考えられる。
【0081】
なお、比較例1は、実施例1や他の比較例に比べ硝酸イオン濃度が高い。比較例1は、原水24に含まれる硝酸イオン濃度が高いために、コーヒー中の硝酸イオン濃度も高くなったと考えられる。
【0082】
(ナトリウムイオン等を添加した凍結融解水を用いて抽出したコーヒーの評価)
実施例1の純氷25の融解水により作製したコーヒーは、コーヒー中のナトリウムイオン濃度及び塩化物イオン濃度が低くなっていることがわかった。そこで、純氷25の融解水に、ナトリウムイオン又は塩化物イオンを加え、コーヒーの味覚に与える影響を評価した。ナトリウムイオンとしてクエン酸ナトリウムを、塩化物イオンとして塩化マグネシウムを、純氷25の融解水に加えることで、ナトリウムイオン、塩化物イオンの濃度を調整した。
【0083】
(コーヒーの抽出)
以下に記す抽出水を用いて、上記したコーヒーの抽出と同様の方法で、実施例1及び比較例6~9のコーヒーを抽出した。また、使用したコーヒーも、上記したレギュラーコーヒーと同じものとした。
・実施例1 純水の融解水
・比較例6 純水の融解水にクエン酸ナトリウムを0.2ppm添加した水
・比較例7 純水の融解水にクエン酸ナトリウムを0.4ppm添加した水
・比較例8 純水の融解水に塩化マグネシウムを0.2ppm添加した水
・比較例9 純水の融解水に塩化マグネシウムを0.4ppm添加した水
【0084】
実施例1及び比較例6~9の水を用いて抽出したコーヒーのpHを表6に示す。
【0085】
【0086】
実施例1及び比較例6~9のコーヒーについて、コーヒー中のナトリウムイオン、クエン酸イオン、マグネシウムイオン、塩化物イオンの濃度を分析した。結果を表7に記す。
【0087】
【0088】
実施例1と比較例6及び7との比較より、コーヒー中のナトリウムイオン濃度は、原水24へのクエン酸ナトリウムの添加量に応じて、増加していることがわかる。また、実施例1と比較例8及び9との比較より、コーヒー中の塩化物イオン濃度は、原水24への塩化マグネシウムの添加量に応じて、増加していることがわかる。
【0089】
一方、クエン酸イオンとマグネシウムイオンは、原水24に添加したクエン酸ナトリウム又は塩化マグネシウムの量に関係なく、コーヒーに含まれるクエン酸イオン、マグネシウムイオンの濃度はほぼ一定であった。これは、コーヒーから抽出されるクエン酸イオン、マグネシウムイオンの量が、抽出水に含まれるクエン酸イオン、マグネシウムイオンの量に比べて多いことが原因と考えられる。
【0090】
実施例1と比較例6~9のコーヒーについて、コーヒーの味覚を味認識装置TS-5000Z(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)で調べた。
【0091】
図6は、実施例1及び比較例6~9の味認識装置による分析結果を示す図である。横軸に、分析対象とした味覚を、左から「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「渋味」、「苦味コク」の順に配列した。それぞれの味覚においては、左から実施例1、比較例6、7、8及び9の順に配列した。縦軸は、味覚の感受性を表すファクターである。
【0092】
味認識装置による分析では、「塩味」について、ナトリウムイオンの濃度を高くした比較例6、7のコーヒー、及び、塩化物イオンの濃度を高くした比較例8、9コーヒーにおいて、感受性の値が大きくなっている。この結果は、純氷25の融解水に次亜塩素酸ナトリウムを添加した抽出水によりコーヒーを作製した比較例3のコーヒーの分析結果と一致する。すなわち、コーヒーの「塩味」には、ナトリウムイオン、塩化物イオンがともに影響を与えていることがわかる。
【0093】
実施例1のコーヒーと比較例6のコーヒーとを用いて、パネラー5名による官能試験を行った。なお、パネラーには、評価対象がどちらのコーヒーであるかは伏せて評価してもらった。評価項目は、「丸み」、「クリーン」、「甘味」及び「渋み」(以上、4項目「プラス評価」)、並びに、「ハード」、「雑味」及び「渋み」(以上、3項目「マイナス評価」)である。結果を、表8及び
図7に示す。
【0094】
【0095】
図7は、実施例1及び比較例6の官能試験の結果を示す図である。具体的には、表8に記した評価結果を、棒グラフに示したものある。横軸は、評価項目、条件を示し、左から評価項目ごとに、実施例1、比較例6の順に配列している。縦軸は、5名のパネラー全員の点数の合計を示す。
【0096】
比較例6のナトリウムイオンを添加した抽出水により作製したコーヒーは、実施例1のコーヒーと比較して、評価ポイントの合計は低下した。特に、比較例6は「クリーン」と感じるパネラーの数が減っており、このことは、比較例1の井戸水で抽出したコーヒーや比較例2の水道水で抽出したコーヒーと同じ傾向であった。
【0097】
(茶の抽出)
市販の麦茶8.5gに対し、抽出水1Lを用いて麦茶を抽出した。抽出温度は4℃とした。抽出時間は一晩(14時間)とした。使用した抽出水を、以下に示す。
・実施例2 純氷の融解水
・比較例10 井戸水(飯田市)
【0098】
(官能試験)
得られた麦茶を、全国茶品評会による普通煎茶の審査基準に従い、6名のパネラーによる官能試験を行った。パネラーには、評価対象がどちらの麦茶であるかは伏せて評価してもらった。評価項目は、「甘味、渋み、苦味とうまみが適当な濃さで調合」、「舌にまろやかに当たる喉越しが良い」及び「口の中に清涼感を与える」(以上、3項目「プラス評価」)、並びに、「かぶせ味、青臭味、硬葉味、茎味」、「苦味、苦渋味、渋味、淡泊、雑味」、「火入れ味、こげ味、むれ味、萎凋味」、「葉傷み味、湿り味、変質味、煙草臭味」及び「油臭味、移り味、異臭」(以上、5項目「マイナス評価」)である。官能試験は、プラス評価を+1、マイナス評価を-1として、6名全員の点数を合計して評価点数とした。結果を表9及び
図8に示す。
【0099】
【0100】
図8は、実施例2及び比較例10の官能試験の結果を示す図である。具体的には、表9に記した評価結果を、棒グラフに示したものである。横軸は、評価項目、条件を示し、左から評価項目ごとに、各評価項目においては、実施例2、比較例10の順に配列した。縦軸は、7名のパネラー全員の点数の合計を示す。
【0101】
なお、
図8において、横軸に示す評価項目は、「甘味、渋み、苦味とうまみが適当な濃さで調合」を「甘味」と、「舌にまろやかに当たる喉越しが良い」を「まろやか」と、「口の中に清涼感を与える」を「清涼感」と、「かぶせ味、青臭味、硬葉味、茎味」を「かぶせ味」と、「苦味、苦渋味、渋味、淡泊、雑味」を「苦味」と、「火入れ味、こげ味、むれ味、萎凋味」を「火入れ味」と、「葉傷み味、湿り味、変質味、煙草臭味」を「葉傷み味」と、「油臭味、移り味、異臭」を「油臭味」と、それぞれ簡略化した表記とした。
【0102】
実施例2の純氷25の融解水を使った麦茶は、プラス評価の「舌にまろやかに当たり喉越しが良い」と感じたパネラーが多く、マイナス評価の「苦味、苦渋み、渋み、淡泊、雑味」を感じないパネラーが多かった。
【0103】
以上説明したように、本発明に係る、純氷の凍結融解水を用いてコーヒー又は茶を淹れると、おいしいコーヒー又は茶が得られる。また、純氷の凍結融解水を原料水に用いてコーヒー飲料や茶飲料を製造すると、おいしいコーヒー飲料や茶飲料が製造できる。
【0104】
本発明に係る、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水の凍結融解水を用いてコーヒー又は茶を淹れると、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、雑味等のコーヒー又は茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制される。これにより、おいしいコーヒー又は茶を淹れることができる。
【0105】
本発明に係る、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が5ppm~300ppmの範囲内にあるミネラル水を用いた純氷の融解水を用いてコーヒー又は茶を淹れることにより、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、雑味等のコーヒー又は茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制される。これにより、おいしいコーヒー又は茶を淹れることができる。
【0106】
本発明に係る、ナトリウムの濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲内にある精製水を用いてコーヒー又は茶を淹れることにより、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、雑味等のコーヒー又は茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制される。これにより、おいしいコーヒー又は茶を淹れることができる。
【0107】
本発明に係る、カルシウムの濃度とマグネシウムの濃度の合計が1ppm以下であり、かつ、ナトリウムの濃度が0.1ppm以下であり、電気伝導率が0.1μS/cm~10μS/cmの範囲内にある精製水を用いてコーヒー又は茶を淹れることにより、コーヒー又は茶由来の抽出物濃度を高めることができる。また、雑味等のコーヒー又は茶の味に好ましくない成分が抽出されることが抑制される。これにより、おいしいコーヒー又は茶を淹れることができる。
【0108】
本発明に係る、水の製造方法によれば、おいしいコーヒー若しくは茶を淹れることができる水又はおいしいコーヒー飲料もしくは茶飲料を製造することができる原料水の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0109】
11…濾過工程、12…製氷工程、13…破砕工程、14…融解工程、21…アイス缶、22…エアー管、23…ブライン槽、24…原水、25…純氷、26…気泡、27…ブライン