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特開2023-105786有機金属錯体コーティング液と近赤外線吸収フィルム
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  • 特開-有機金属錯体コーティング液と近赤外線吸収フィルム 図1
  • 特開-有機金属錯体コーティング液と近赤外線吸収フィルム 図2
  • 特開-有機金属錯体コーティング液と近赤外線吸収フィルム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105786
(43)【公開日】2023-07-31
(54)【発明の名称】有機金属錯体コーティング液と近赤外線吸収フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230724BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230724BHJP
   C09D 123/02 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 169/00 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
C09D123/02
C09D167/00
C09D169/00
C09D133/00
C09D183/04
C09D179/08 A
C09D5/32
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178591
(22)【出願日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】111102215
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】516210676
【氏名又は名称】白金科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 鳳玲
(72)【発明者】
【氏名】成 詩宋
(72)【発明者】
【氏名】楊 棠皓
(72)【発明者】
【氏名】趙 子▲令▼
(72)【発明者】
【氏名】朱 柏勳
(72)【発明者】
【氏名】林 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】李 國禎
(72)【発明者】
【氏名】林 長均
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB001
4J038CB111
4J038CG001
4J038DD001
4J038DE001
4J038DJ021
4J038DL031
4J038DL101
4J038JC20
4J038JC38
4J038KA06
4J038NA19
4J038PB09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】触媒を別途で添加しなくても、基材上に塗布してベーキングすることにより成膜することができ、また、成膜工程の温度及び時間も低減する有機金属錯体コーティング液、および優れる光学性能を有し、薄肉であっても可視光域で高透過率を有し、また、近赤外線域では非常に低い透過率を有し、非常に良い近赤外線遮断効果を備える近赤外線吸収フィルムを提供する。
【解決手段】有機金属錯体、リン含有分散剤、および光学樹脂を含む、有機金属錯体コーティング液による。前記光学樹脂は、熱可塑性樹脂、光硬化樹脂、または両方の混合物であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ポリエステル、及びポリシクロオレフィンから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属錯体、リン含有分散剤、および光学樹脂
を含む、有機金属錯体コーティング液。
【請求項2】
前記光学樹脂が、熱可塑性樹脂を含む、
請求項1に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項3】
前記光学樹脂が、光硬化樹脂を含む、
請求項1に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項4】
前記光学樹脂が、熱可塑性樹脂と光硬化樹脂を含む、
請求項1に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ポリエステル、及びポリシクロオレフィンから選ばれる少なくとも1つである、
請求項2に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項6】
前記ポリカーボネートは、
の構造を有し、
a及びbは、独立して4~9の整数であり、
前記ポリエステルは、
の構造を有し、
前記ポリシクロオレフィンは、
の構造を有し、
ここで、Rは炭素数4~8のアルキレン基または炭素数6~30のアリーレン基であり、
前記アルキレンは、直鎖、分岐鎖、環状またはそれらの組合わせであることができ、
n及びmは20~30の整数である、
請求項5に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂はポリエステルであり、Rは、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、シクロプロピレン、フェニレン、フェニレンビニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ビスフェノレンA、9,9-ジフェニルフルオレンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、
請求項6に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項8】
前記光硬化樹脂は、アクリル系樹脂、シロキサン系樹脂及びイミド系樹脂から選ばれる少なくとも1つである、
請求項3に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項9】
前記シロキサン系樹脂は、
[RSiO3/2の構造を有し、
ここで、R
xは3~40の整数である、
請求項8に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項10】
前記有機金属錯体及びリン含有分散剤の、熱可塑性樹脂に対する重量比は、0.5/9.5~7.5/2.5である、
請求項2に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項11】
前記有機金属錯体及びリン含有分散剤の、光硬化樹脂に対する重量比は、1.0/9.0~6.5/3.5である、
請求項3に記載の有機金属錯体コーティング液。
【請求項12】
請求項1に記載の有機金属錯体コーティング液からなる、
近赤外線吸収フィルム。
【請求項13】
厚さは10μm~100μmとの間にあり、400nm~700nm波長範囲の光に60%~90%の平均透過率を有し、800nm~1100nm波長範囲の光に40%以下の平均透過率を有する、
請求項12に記載の近赤外線吸収フィルム。
【請求項14】
半透過波長は700nm以上にある、
請求項12に記載の近赤外線吸収フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は有機金属錯体コーティング液に関し、特に、前記有機金属錯体コーティング液からなる近赤外線吸収フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの携帯性に重視する発展傾向に伴い、電子デバイスの各部品について、軽量化、薄型化、短縮化、小型化に対するリクエストも厳しくなっている。吸収型近赤外線遮断フィルターとして、ガラス基材は、薄肉化と赤外線吸収とのバランスに問題があり、そこで、吸収型近赤外線遮断フィルターとして、ガラス基材では、薄肉化と赤外線吸収とのバランスに問題があるので、樹脂タイプ吸収型近赤外線遮断フィルターは勢いよく発展している。当該樹脂タイプ吸収型近赤外線遮断フィルターは、有機金属錯体の分散液と樹脂成分とを混合して、コーティング液とし、さらに基材上に塗布して、近赤外線吸収フィルムに形成するものである。特定の配合により、近赤外線吸収フィルムの光学性能を大幅に向上することができ、例えば、波長が800nm~1100nmとの間の近赤外線を強く吸収し、特に、波長が940nmである近赤外線を良好に吸収することができるので、優れる遮断効果を有する近赤外線遮断フィルターが得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機金属錯体コーティング液を基材に塗布する工程において、通常、チタン触媒を添加し、85℃及び140℃で硬化成膜することが知られている。しかしながら、添加される触媒は、高温ベーキングで近赤外線吸収フィルムを劣化させる可能性があり、例えば、カブリ(blushing)により可視光透過率が低下する。一方、高温で硬化反応を行っても、所要時間は依然として数時間以上であり、生産効率は良くないので、大量生産に向かず、コストも高い。そのため、近赤外線吸収フィルムの優れる光学性能を維持しつつ、触媒を添加することなく、コーティング成膜の温度及び時間をさらに改善することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記解決しようとする課題について、本開示は、
有機金属錯体、
リン含有分散剤、および
光学樹脂
を含む有機金属錯体コーティング液を提供する。
【0005】
上記の光学樹脂は、熱可塑性樹脂、光硬化樹脂、または両方の混合物である。上記の熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ポリエステル、及びポリシクロオレフィンから選ばれる少なくとも1つである。具体的には、ポリカーボネートは、
の構造を有し、
前記ポリエステルは、
の構造を有し、
前記ポリシクロオレフィンは、
の構造を有し、
ここで、Rはアルキレン基またはアリーレン基であり、
前記アルキレンは、直鎖、分岐鎖、環状またはそれらの組合わせであることができ、また、a及びbは独立して、4~9の整数であり、n及びmは20~30である。
【0006】
上記光硬化樹脂は、アクリル系樹脂、シロキサン系樹脂及びイミド系樹脂から選ばれる少なくとも1つである。一つの具体実施例において、上記シロキサン系樹脂は[RSiO3/2の構造を有し、ここで、R
であり、また、xは3~40の整数である。
【0007】
本開示は、また、本開示に記載の有機金属錯体コーティング液からなる近赤外線吸収フィルムを提供する、即ち、上記近赤外線吸収フィルムは、有機金属錯体、リン含有分散剤、および光学樹脂を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の有機金属錯体コーティング液は、触媒を別途で添加しなくても、基材上に塗布してベーキングすることにより成膜することができ、また、成膜工程の温度及び時間も従来技術より著しく低減する。生産量の向上、省エネルギーおよび炭素低減、コストの削減、利益の向上、および品質の改善という有利な効果があり、関連産業の日々厳しくなる環境認証の合格、市場の拡大に寄与する。
【0009】
有機金属錯体コーティング液からなる近赤外線吸収フィルムは、優れる光学性能を有し、薄肉であっても、可視光域で高透過率を有し、また、近赤外線域では非常に低い透過率を有し、非常に良い近赤外線遮断効果を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施例1の近赤外線吸収フィルムにおける熱可塑性樹脂の含有量が異なる場合、異なる波長の光に対する透過率の曲線図である。
【0011】
図2】本開示の実施例2の近赤外線吸収フィルム(光硬化樹脂含有)における膜の厚さが異なる場合、異なる波長の光に対する透過率の曲線図である。
【0012】
図3】本開示の実施例2の近赤外線吸収フィルムにおける光硬化樹脂の含有量が異なる場合、異なる波長の光に対する透過率の曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、特定の具体実施例により本開示の実施方式を説明し、本開示の当業者は、本開示の記載内容により、本開示の範囲及び効果を容易に理解することができる。しかしながら、本明細書に記載される具体実施例は、本開示を限定するものではなく、列挙されている各技術的特徴または考案は、互いに組み合わせることができる。また、本開示は、他の異なる実施方式によって実現または応用することができる。本明細書に記載の各詳細事項は、本開示から逸脱することなく、異なる観点と応用に応じて、さまざまな変更または修正を与えることもできる。
【0014】
本明細書において、特定の要件を「備える」、「含む」、または「有する」と記載する場合、特に説明のない限り、他の素子、組成成分、構造、領域、部位、装置、システム、工程または連接関係などの要件を含んでもよく、それらのほかの要件を排除することではない。
【0015】
本明細書において、特に明記しない限り、本明細書に記載の単数形の「一」及び「当該」というのは、複数形も含み、また、本明細書に記載の「または」と「及び/または」は、交換可能に使用される。
【0016】
本明細書に記載の数値範囲は、包括的で、組み合わせ可能であり、本明細書に記載の数値範囲に入る任意の値は、最大値または最小値としてサブ範囲を導き出すことができる。例えば、「1.5/8.5~0.5/9.5」という数値範囲は、端点1.5/8.5及び0.5/9.5との間のすべてのサブ範囲、例えば、1.4/8.6~0.5/9.5、1.5/8.5~0.6/9.4、及び、1.4/8.6~0.6/9.4などのサブ範囲を含むことと理解される。また、ある数値は本明細書に記載の各範囲内(例えば、最大値と最小値との間)にある場合、本開示の範囲内の含まれるとみなされるべきである。
【0017】
本開示の第一の態様は、有機金属錯体、リン含有分散剤、および光学樹脂
を含む有機金属錯体コーティング液である。
【0018】
上記有機金属錯体は、例えば、銅化合物とホスホン酸からなる有機金属錯体である。一つの具体実施例において、銅化合物は銅塩であり、酢酸銅、塩化銅、ギ酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅の無水物または水和物が挙げられる。一つの具体実施例において、ホスホン酸の構造はRPO(OH)で表示することができ、そのうち、Rは、アルキル基、ハロアルキル基、フェニル基、ハロフェニル基、ニトロフェニル基、ヒドロキシルフェニル基、アルキルフェニル基、ハロ化アルキルフェニル基、ニトロアルキルフェニル基、またはヒドロキシルアルキルフェニル基である。もう一つの具体実施例において、銅化合物は酢酸銅であり、ホスホン酸はブチルホスホン酸である。上記有機金属錯体は、近赤外線吸収剤の一種である。
【0019】
上記リン含有分散剤は、リン酸誘導体、亜リン酸誘導体及び次亜リン酸誘導体から選ばれる少なくとも1つであってもよい。一つの具体実施例において、リン含有分散剤はアルキル基及び/またはポリオキシアルキル基を有する。もう一つの具体実施例において、リン含有分散剤としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のPlysurf A208N(ポリオキシエチレンアルキルC12、C13エーテルリン酸エステル)、Plysurf A208F(ポリオキシエチレンアルキル基(C8、2-エチルヘキシル)エーテルリン酸エステル)、Plysurf A208B(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル)、Plysurf A219B(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル)、Plysurf AL(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル)、Plysurf A212C(ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、及びPlysurf A215C(ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、日光化学株式会社製のNIKKOL DDP-2(ジC12-C15鎖状アルカノールポリエーテル-2リン酸エステル)、NIKKOL DDP-4(ジC12-C15鎖状アルカノールポリエーテル-4リン酸エステル)、及びNIKKOL DDP-6(ジC12-C15鎖状アルカノールポリエーテル-6リン酸エステル)、およびビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸などがある。上記リン含有分散剤は、近赤外線吸収剤を適切に分散し、その近赤外線吸収効果を向上するために用いられる。リン含有分散剤は、有機金属錯体を合成する段階で添加し、反応に関与したので、本開示では、リン含有分散剤と有機金属錯体とを一つの有機金属錯体として見なし、すなわち、リン含有分散剤と有機金属錯体の合計含有量は、有機金属錯体全体の総重量を表す。
【0020】
具体的には、本開示は、上述有機金属錯体及びリン含有分散剤を含む有機金属錯体の分散液と、光学樹脂とを混合することにより、有機金属錯体コーティング液を形成する。
【0021】
一つの具体実施例において、上記有機金属錯体の分散液は、溶剤をさらに含み、また、溶剤として、通常周知の溶剤が選択され、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、ハロ化炭化水素類、ジメチルカルボキサミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを含むが、これらに限らない。具体的には、上記アルコール類として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどがある。上記エステル類として、例えば、ギ酸アルキル、酢酸アルキル、プロピオン酸アルキル、酪酸アルキル、乳酸アルキル、アルコキシ酢酸アルキル、3-アルコキシプロピオン酸アルキル、2-アルコキシプロピオン酸アルキル、2-アルコキシ-2-メチルプロピオン酸アルキル、ピルビン酸アルキル、アセチル酢酸アルキル、2-オキソ酪酸アルキルなどがある。上記エーテル類として、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどが挙げられる。上記ケトン類として、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノンなどがある。上記芳香族炭化水素類として、例えば、トルエン、キシレンなどがある。
【0022】
本開示の光学樹脂について、一つの具体実施例においては、熱可塑性樹脂、光硬化樹脂、または両方の混合物である。
【0023】
一つの具体実施例において、上記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ポリエステル、及びポリシクロオレフィンから選ばれる少なくとも1つである。
【0024】
上記ポリカーボネートはジカルボン酸構造単位とジオール構造単位を有する。一つの具体実施例において、ジカルボン酸構造単位には、9,9-ジフェニルフルオレニル基を有してもよく、また、前記9,9-ジフェニルフルオレニルのベンゼン環は、置換基を有してもよく、当該置換基はC1-C10アルキル基及びハロゲンを含むが、これらに限らない。ジオール構造単位は、ビスフェノールA基(2,2-ジ(4-ヒドロキシルフェニル基)プロパン)を有してもよく、また、当該ビスフェノールA基のベンゼン環は、置換基を有してもよく、当該置換基はC1-C4アルキル基、ハロゲン及びフェニル基を含むが、これらに限らない。一つの具体実施例において、上記ポリカーボネートは、下記の構造を有する。
ここで、a及びbは、それぞれ独立して、4~9の整数である。
【0025】
上記ポリエステルについて、一つの具体実施例においては、下記の構造を有する。
ここで、Rは炭素数4~8のアルキレン基または炭素数6~30のアリーレン基であり、前記アルキレンは、直鎖、分岐鎖、環状またはそれらの組み合わせであってもよい。アルキレン基として、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基及びシクロプロピレン基であり、アリーレン基として、例えば、フェニレン基、フェニレンビニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ビスフェノレンA基及び9,9-ジフェニルフルオニレン基である。構造の中に、nは20~30の整数である。
【0026】
上記ポリシクロオレフィンは、シクロオレフィン誘導構造(例えば、テトラシクロドデセン)を含み、また、上記ポリシクロオレフィンは、さらにオレフィン誘導構造(例えば、エチレン、プロピレン及びブテンなど)を含んでもよい。一つの具体実施例において、上記ポリシクロオレフィンは下記の構造を有する。
ここで、n及びmは20~30の整数である。
【0027】
一つの具体実施例において、本開示の光硬化樹脂は、アクリル(アクリル系樹脂)、シロキサン系樹脂及びイミド系樹脂から選ばれる少なくとも1つである。上記アクリル系樹脂のモノマーとして、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、ビスフェノールAジメタクリレート、ビスフェノールA-グリシジルジメタクリレート、ビスフェノールA-エトキシ化グリシジルジメタクリレートであり、一種類のモノマー又は多種類のモノマーを含んでもよい。一つの具体実施例において、上記シロキサン系樹脂は、アクリル酸エステル基またはメタクリル酸エステル基を含むシロキサンであり、具体には、下記の構造を有する。
[RSiO3/2
ここで、R
であり、また、xは3~40の整数である。さらにもう一つの具体実施例において、上記シロキサン系樹脂は、ハーフケージ構造を有し。
ここで、Rは
である。一つの具体実施例において、上記イミド系樹脂として、例えば、ETERNAL CHEMICLA CO., LTDからの型番ETERFLEX(TM)EPD-3500の低温感光型ポリイミドフォトレジストである。
【0028】
光硬化樹脂を使用する場合、光硬化成膜を容易にするために、有機金属錯体コーティング液に光硬化剤をさらに添加することもできる。
【0029】
使用される光学樹脂は、粉末型、粒子型、液体型のものであってもよく、例えば、熱可塑性樹脂を粒子の形態で、有機金属錯体の分散液に添加されることができ、また、例えば、光硬化樹脂を液体の形態で、有機金属錯体の分散液と混合することができる。
【0030】
一つの具体実施例において、有機金属錯体全体(即ち、有機金属錯体及びリン含有分散剤の両方の含有量の合計)の、熱可塑性樹脂に対する重量比は、0.5/9.5~7.5/2.5、0.5/9.5~6.0/4.0、或いは0.5/9.5~5.0/5.0であり、例えば、有機金属錯体全体の、熱可塑性樹脂に対する重量比は、0.5/9.5、1.0/9.0、1.5/8.5、2.0/8.0、2.5/7.5、3.0/7.0、3.5/6.5、4.0/6.0、4.5/5.5、5.0/5.0、5.5/4.5、6.0/4.0、6.5/3.5、7.0/3.0または7.5/2.5である。
【0031】
一つの具体実施例において、有機金属錯体全体(有機金属錯体及びリン含有分散剤の両方の含有量の合計)の、光硬化樹脂に対する重量比は、1.0/9.0~6.5/3.5、1.0/9.0~6.0/4.0、或いは1.0/9.0~5.0/5.0であり、例えば、有機金属錯体全体の、光硬化樹脂に対する重量比は、1.0/9.0、1.5/8.5、2.0/8.0、2.5/7.5、3.0/7.0、3.5/6.5、4.0/6.0、4.5/5.5、5.0/5.0、5.5/4.5、6.0/4.0または6.5/3.5である。本開示において、有機金属錯体は、より少ない使用量で赤外線吸収効果を効果的に発揮できる。
【0032】
本開示の第二の態様は、有機金属錯体、リン含有分散剤、および光学樹脂を含む、近赤外線吸収フィルムを提供する。
【0033】
上記近赤外線吸収フィルムは、第一の態様の有機金属錯体コーティング液から形成され、例えば、上記有機金属錯体コーティング液を基材上に塗布し、そして加熱ベーキングして、溶剤を除去することで、近赤外線吸収フィルムを形成する。
【0034】
一般的には、近赤外線吸収フィルムの厚さが増えると、近赤外線遮断能も増加するが、それは薄肉化の要求に満たさない。一方、近赤外線吸収フィルムの厚さを削減すると、近赤外線遮断能も低下する。本開示の近赤外線吸収フィルムは、厚さがわりと小さい場合であっても、優れた近赤外線遮断能を実現することができ、優れる光学性能を有する。上記厚さがわりと小さい場合というのは、厚さが10μm~100μmとの間にあり、或いは、20μm~90μm、50μm~100μmとの間にあるを示し、例えば、厚さは10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm、55μm、60μm、65μm、70μm、75μm、80μm、85μm、90μm、95μmまたは100μmであることを示し得る。厚さおよび成分とも、フィルムの光学性能に影響を及ぼし、厚さの増加又は減少により、併せて成分の配合比率を調整する必要がある可能性があり、例えば、厚さをさらに薄くなると、近赤外線吸収剤とする有機金属錯体の含有量を増加する必要がある場合があり、適用状態に応じて調整することができる。
【0035】
本開示の近赤外線吸収フィルムは、400nm~700nm波長範囲の光に60%~90%の平均透過率を有し、好ましくは、70%~90%、75%~90%の平均透過率を有してもよく、例えば60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%を有する。一方、近赤外線吸収フィルムは、800nm~1100nm波長範囲の光にも40%以下の平均透過率を有し、好ましくは、35%以下、30%以下の平均透過率を有してもよく、例えば40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、2.5%、2%以下の平均透過率を有する。
【0036】
本開示の近赤外線吸収フィルムは、その半透過波長は近赤外線域に近い波長にあることにより、可視光域内の平均透過率を高いレベルに維持させる。上記の半透過波長は、入射光の近赤外線吸収フィルムに対する透過率が50%となる場合の入射光波長を示す。複数の半透過波長を有する場合、本開示の半透過波長は、特に近赤外線域に近い半透過波長を示し、より具体的には、可視光域と近赤外線域との間の半透過波長を示す。具体的には、半透過波長が700nm以上、或いは710nm、720nm以上にあることができ、例えば、半透過波長が700nm、705nm、710nm、715nm、720nm、725nm、730nmにあることができる。
【0037】
一方、本開示の近赤外線吸収フィルムは、現在広く使われている940nm波長であるバイオメトリック認証光源に対しても、極めて優れる遮断能を発揮することができる。具体的には、940nm波長の光に対して、40%以下の透過率を有し、より好ましくは、35%以下、30%以下の透過率を有し、例えば、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、2.5%、2%以下の透過率を有してもよい。
【0038】
以下、下記の実施例を参考しながら本開示を詳細に説明するが、本開示の範囲はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0039】
実施例1
【0040】
まず、酢酸銅とエタノールを1g/100gの割合で混合した後、室温で1.5時間攪拌し、第一混合液を形成した。別途で0.5gのPlysurf A208F(第一工業製薬株式会社、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテルリン酸エステル)、0.25gのPlysurf A212C(第一工業製薬株式会社、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、0.2gのNIKKOL DDP-6(日光化学株式会社、ジポリオキシエチレン(C12-C15)アルキル基エーテルリン酸エステル)、および0.2gのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸と10gのエタノールとを混合して、第二混合液を形成する。上記第一混合液と第二混合液とを混合し、室温で1時間攪拌し、さらに0.6gのブチルホスホン酸を添加して、室温で3時間攪拌し、その後、85℃のオーブンに12時間入れて、有機金属錯体全体を得て、それをトルエンに入れて、分散液とする。続いて、光学樹脂として、熱可塑性樹脂ポリカーボネート(三井化学から購入、APEL 401C)を使用して、光学樹脂と分散液を、表1に記載の6つの割合で混合して、有機金属錯体コーティング液を形成し、そして、透明ガラス基材上に塗布し、70℃の温度で30分間ベーキングする。前記熱可塑性樹脂と分散液から得る6つの有機金属錯体コーティング液は、いずれも硬化して近赤外線吸収フィルムを形成していることが觀察される。また、製造された近赤外線吸収フィルムのヘーズを測定して、結果は下記の表1に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
上記の表から明らかなように、本開示の有機金属錯体コーティング液は、触媒を添加せず、低温、短時間という厳しい条件で成膜することができる。ただし、ヘーズ値は有機金属錯体及びリン含有分散剤と熱可塑性樹脂粒子の重量比に影響されるので、適用する際には必要に応じて調整することができる。一般的には、ヘーズ値は60%以下であれば許容される。もっともよい場合では、ヘーズ値をより低くして、全体の光透過性を増加することができる。
【0043】
図1は、有機金属錯体全体(即ち、有機金属錯体及びリン含有分散剤の両方の含有量の合計)の、熱可塑性樹脂ポリカーボネートAPEL 401Cに対する重量比は7.5/2.5、6.5/3.5、5.0/5.0及び2.5/7.5である有機金属錯体コーティング液からなる近赤外線吸収フィルムの、同一厚さの場合の透過率曲線図を示す。図1の結果によれば、重量比が2.5/7.5である近赤外線吸収フィルムの800nm~1100nm波長範囲の光に対する平均透過率は、約32%であり、40%以下に達することができるため、製品への要求を満足することができることを示す。有機金属錯体全体の量がより多くなると、近赤外線吸収フィルムの800nm~1100nm波長範囲の光に対する平均透過率をより低下させ、10%以下、5%以下にすることができ、さらに、約3%、2%までにすることもできるので、赤外線ろ過により高い要求がある製品に適用される。有機金属錯体は赤外線の吸収に使用されるが、その使用量が増加すると、可視光域の透過率も影響され、実際に応用する際には、組成成分の配合比率や膜の厚さを調整することで、必要の透過率に制御することができる。また、ここでは、ポリカーボネート(三井化学から購入、APEL 401C)を熱可塑性樹脂とするものを例とするが、他の実施例には、ポリエステル(帝人化成から購入、P-3810)、ポリシクロオレフィン(ZEONから購入、ZEONEX K22R)、または上記の三種類の熱可塑性樹脂うちのいずれか2種類または3種類を混合して使用してもよく、成膜の光学性質に影響を及ぼさない。
【0044】
実施例2
【0045】
実施例1と同様な方法で分散液を製備し、光硬化樹脂:
を分散液に加えて、0.2wt%~10wt%の光硬化剤であるomnirad 1173(IGM Resins会社から購入)を添加して、有機金属錯体コーティング液を形成する。続いて、それを透明ガラス基材上に塗布し、70℃の温度で5分間ベーキングして、紫外線を60秒間照射して、成膜の可能性を観察した。
【0046】
【表2】
【0047】
その結果から、本開示の有機金属錯体コーティング液に光硬化樹脂を用いた場合、所要成膜時間は比較的短いことが分かる。
【0048】
図3は、有機金属錯体全体(すなわち、有機金属錯体及びリン含有分散剤の両方の含有量の合計重量)の、光硬化樹脂に対する重量比は6.5/3.5及び5.0/5.0である有機金属錯体コーティング液からなる近赤外線吸収フィルムの、同一厚さの場合の透過率曲線図を示す。図3の結果は、重量比が5.0/5.0である近赤外線吸収フィルムの400nm~700nm波長範囲の光に対しては、相当高い(85%以上も達する)平均透過率を有する。一方、800nm~1100nm波長範囲の光に対しては、相当低い(約2%までに達する)の平均透過率を有することを示した。重量比が6.5/3.5の例において、800nm~1100nm波長範囲の光に対する平均透過率は一層に低下したが、400nm~700nm波長範囲の光の平均透過率にも影響を及ぼされ、低下した。実際の適用では、実施例1と同様に、組成成分の配合比率および膜の厚さを調整することで、必要の透過率に制御することができる。
【0049】
特に、本開示の近赤外線吸収フィルムは、厚さが小いであっても、優れる光学性能を有する。図2に示すように、有機金属錯体全体及び光硬化樹脂(重量比は5.0/5.0)を含有する近赤外線吸収フィルムは、厚さが僅か90μmである場合に、非常に優れる近赤外線遮断能を有し、400nm~700nm波長範囲の光に対する平均透過率は、88%以上に達することができ、800nm~1100nm波長範囲の光に対する平均透過率は、約2%に達することができる。厚さをさらに削減し、例えば、50μmとする場合に、近赤外線遮断能は低下する傾向にあるものの、800nm~1100nm波長範囲の光に対しては、10%以下の平均透過率を有するので、多種多様な製品に適用することができる。また、厚さをさらなる削減して、例えば、25μmとしても、800nm~1100nm波長範囲の光に対して40%以下の平均透過率を有する。さらに、厚さが薄いである場合では、有機金属錯体(全体)及び光硬化樹脂の配合比率を調整することで、近赤外線の吸収効果をさらに促進することができる。
【0050】
従来の有機金属錯体コーティング液では、近赤外線吸収を強化するために、通常、コーティング液中の有機金属錯体及び分散剤の割合が高くなっており、一般的には、75wt%、65wt%である。これに対して、本開示は、コーティング液への改良により、特定組成成分の光学樹脂を採用して、そして、有機金属錯体全体の使用量がより少い情況で、赤外線を効果的に吸収する効果を到達できることが見出された。例えば、実施例1において、光学樹脂組分(熱可塑性樹脂)に対する有機金属錯体全体の重量比はわずか2.5/7.5であるが、その波長800nm~1100nmの光の透過率は40%以下も低減することができるので、赤外線吸収が実現され、製品への適用が可能となる。また、有機金属錯体全体の使用量を多くすると、例えば、重量比が5.0/5.0または7.5/2.5の場合、赤外線吸収効果が一層向上して、赤外線フィルタリングにより高い要求がある製品に適用される。
【0051】
本開示で使用される光学樹脂は、コーティング液中で担体として機能するだけで、成膜する際に有機金属錯体(全体)と架橋重合の反応を行わないので、従来の成膜反応とは異なり、成膜性に影響を与えることなく、熱可塑性樹脂と光硬化性樹脂を混合して光学樹脂に用いることができる。また、重合・架橋反応を伴わないため、有機金属錯体(全体)のロスがなく、ゆえに、有機金属錯体(全体)の含有量を大幅に削減することができる。
【0052】
また、本開示で開示される光学樹脂の成膜プロセスでは、70℃、30分間しかかからないので、従来技術のような、より高い温度、且つ、異なる温度での多段階ベーキングする必要があるプロセス(例えば、80℃で30分間ベーキングして、140℃で2時間ベーキングするプロセス)に比べて、省エネルギーと生産の早いという利点があり、非常に大量生産に向いている。このような優れた効果は、同様に、選択される光学樹脂が有機金属錯体(全体)との重合・架橋反応を起こさず、担体としてのみ機能するので、より低い温度・短い時間でよいと推測される。

図1
図2
図3