(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105829
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】コバルト基合金材料およびコバルト基合金製造物
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20230725BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230725BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230725BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230725BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230725BHJP
B22F 12/41 20210101ALN20230725BHJP
B33Y 10/00 20150101ALN20230725BHJP
【FI】
C22C19/07 H
C22C19/07 Z
B22F1/00 M
B33Y80/00
B33Y70/00
B22F10/28
B22F12/41
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006796
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】王 玉艇
(72)【発明者】
【氏名】太田 敦夫
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018BA04
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】析出強化Ni基合金材料と同等以上の機械的特性を有するCo基合金製造物、およびその製造に好適なCo基合金材料を提供する。
【解決手段】Co基合金製造物は、質量%で、0.08~0.25%のCと、0.003~0.2%のNとを含み、CおよびNの合計が0.083~0.4%であり、0.1%以下のBと、10~30%のCrとを含み、Feを5%以下でNiを30%以下で含み、FeおよびNiの合計が30%以下であり、Wおよび/またはMoを含み、WおよびMoの合計が4%以上5%未満であり、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種以上を含み、Ti、Zr、NbおよびTaの合計が1.5~5%であり、0.5質量%超2質量%以下のAlと、0.5質量%以下のSiと、0.5%以下のMnとを含み、残部がCoと不純物とからなる化学組成を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co基合金材料からなる製造物であって、
前記Co基合金材料は、
0.08質量%以上0.25質量%以下のCと、0.003質量%以上0.2質量%以下のNとを含み、前記Cおよび前記Nの合計が0.083質量%以上0.4質量%以下であり、
0.1質量%以下のBと、
10質量%以上30質量%以下のCrとを含み、
Feを5質量%以下でNiを30質量%以下で含み、前記Feおよび前記Niの合計が30質量%以下であり、
Wおよび/またはMoを含み、前記Wおよび前記Moの合計が4質量%以上5質量%未満であり、
Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種以上を含み、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taの合計が1.5質量%以上5質量%以下であり、
0.5質量%超2質量%以下のAlと、
0.5質量%以下のSiと、
0.5質量%以下のMnとを含み、
残部がCoと不純物とからなり、
前記不純物は、0.04質量%以下のOを含む、化学組成を有し、
前記製造物は、母相結晶粒の多結晶体であり、
前記母相結晶粒の中に、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび/または前記TaをM成分とするMC型炭化物相、M(C,N)型炭窒化物相および/またはMN型窒化物相の粒子が分散析出している、
ことを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項2】
請求項1に記載のコバルト基合金製造物において、
前記MC型炭化物相、前記M(C,N)型炭窒化物相および/または前記MN型窒化物相の粒子は、0.13μm以上2μm以下の平均粒子間距離で分散析出している、
ことを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のコバルト基合金製造物において、
前記化学組成は、前記Nが0.04質量%超0.2質量%以下であり、
前記Cおよび前記Nの合計が0.12質量%超0.4質量%以下である、
ことを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のコバルト基合金製造物において、
前記化学組成は、
前記Tiを含む場合、該Tiは0.2質量%以上2質量%以下であり、
前記Zrを含む場合、該Zrは0.5質量%以上1.5質量%以下であり、
前記Nbを含む場合、該Nbは0.15質量%以上1.5質量%以下であり、
前記Taを含む場合、該Taは0.25質量%以上1.5質量%以下である、
ことを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のコバルト基合金製造物において、
前記化学組成は、前記Tiおよび前記Zrを必須とすることを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のコバルト基合金製造物において、
前記化学組成は、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taのうちの3種以上を必須とすることを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のコバルト基合金製造物において、
前記製造物は、高温部材であることを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項8】
請求項7に記載のコバルト基合金製造物において、
前記高温部材は、タービン静翼、タービン動翼、タービン燃焼器ノズルまたは熱交換器であることを特徴とするコバルト基合金製造物。
【請求項9】
コバルト基合金材料であって、
0.08質量%以上0.25質量%以下のCと、0.003質量%以上0.2質量%以下のNとを含み、前記Cおよび前記Nの合計が0.083質量%以上0.4質量%以下であり、
0.1質量%以下のBと、
10質量%以上30質量%以下のCrとを含み、
Feを5質量%以下でNiを30質量%以下で含み、前記Feおよび前記Niの合計が30質量%以下であり、
Wおよび/またはMoを含み、前記Wおよび前記Moの合計が4質量%以上5質量%未満であり、
Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種以上を含み、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taの合計が1.5質量%以上5質量%以下であり、
0.5質量%超2質量%以下のAlと、
0.5質量%以下のSiと、
0.5質量%以下のMnとを含み、
残部がCoと不純物とからなり、
前記不純物は、0.04質量%以下のOを含む、化学組成を有する、
ことを特徴とするコバルト基合金材料。
【請求項10】
請求項9に記載のコバルト基合金材料において、
前記化学組成は、前記Nが0.04質量%超0.2質量%以下であり、
前記Cおよび前記Nの合計が0.12質量%超0.4質量%以下である、
ことを特徴とするコバルト基合金材料。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のコバルト基合金材料において、
前記化学組成は、
前記Tiを含む場合、該Tiは0.2質量%以上2質量%以下であり、
前記Zrを含む場合、該Zrは0.5質量%以上1.5質量%以下であり、
前記Nbを含む場合、該Nbは0.15質量%以上1.5質量%以下であり、
前記Taを含む場合、該Taは0.25質量%以上1.5質量%以下である、
ことを特徴とするコバルト基合金材料。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれか一項に記載のコバルト基合金材料において、
前記化学組成は、前記Tiおよび前記Zrを必須とすることを特徴とするコバルト基合金材料。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれか一項に記載のコバルト基合金材料において、
前記化学組成は、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taのうちの3種以上を必須とすることを特徴とするコバルト基合金材料。
【請求項14】
請求項9乃至請求項13のいずれか一項に記載のコバルト基合金材料において、
前記合金材料は、粉末であり、該粉末の粒子径が5μm以上100μm以下の範囲にあることを特徴とするコバルト基合金材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性に優れたコバルト(Co)基合金の技術に関し、特に、付加造形法に好適なCo基合金材料および該合金材料から製造したCo基合金製造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Co基合金材料は、ニッケル(Ni)基合金材料とともに代表的な耐熱合金材料であり、超合金とも称されて高温部材(高温環境下で使用される部材、例えば、ガスタービンや蒸気タービンの部材)に広く用いられている。Co基合金材料は、Ni基合金材料と比べて材料コストは高いものの耐食性や耐摩耗性が優れており、固溶強化し易いことから、タービン静翼やタービン燃焼器部材などとして用いられてきた。
【0003】
耐熱合金材料において、現在までに行われてきた種々の合金組成の改良および製造プロセスの改良によって、Ni基合金材料では、γ’相(例えばNi3(Al,Ti)相)の析出による強化が開発され現在主流になっている。一方、Co基合金材料においては、Ni基合金材料のγ’相のような機械的特性向上に大きく寄与する金属間化合物相が析出しづらいことから、炭化物相による析出強化が研究されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1(特開昭61-243143)には、結晶粒径が10μm以下であるコバルト基合金の基地に、粒径が0.5から10μmである塊状及び粒状の炭化物を析出させてなることを特徴とするCo基超塑性合金が開示されている。また、前記コバルト基合金は、重量比でC:0.15~1%、Cr:15~40%、W及び又はMo:3~15%、B:1%以下、Ni:0~20%、Nb:0~1.0%、Zr:0~1.0%、Ta:0~1.0%、Ti:0~3%、Al:0~3%、及び残部Coからなること、が開示されている。
【0005】
ところで、近年、複雑形状を有する最終製品をニアネットシェイプで製造する技術として、付加造形法(AM法)などの三次元造形技術が注目され、該三次元造形技術を耐熱合金部材へ適用する研究開発が活発に行われている。
【0006】
特許文献2(特開2019-049022)については後述する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-243143号公報
【特許文献2】特開2019-049022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
AM法による合金部材の製造は、タービン翼のような複雑形状を有する部材であっても直接的に造形できることから、製造ワークタイムの短縮や製造歩留まりの向上の観点(すなわち、製造コストの低減の観点)で有用な技術である。
【0009】
一方、Co基合金材料は、Ni基合金材料のγ’相のような金属間化合物相の析出を前提としないことから、酸化し易いAlやTiをNi基合金材料のように多く含有させておらず、大気中での溶解・鋳造プロセスが利用可能である。そのため、AM法用の合金粉末の作製やAM体の作製に有利であると考えられる。また、Co基合金材料は、Ni基合金材料と同等以上の耐食性や耐摩耗性を有する利点がある。
【0010】
しかしながら、特許文献1のようなCo基合金材料は、γ’相析出強化Ni基合金材料に比して機械的特性が低いという弱点を有する。言い換えると、γ’相析出強化Ni基合金材料と同等以上の機械的特性を達成することができれば、Co基合金AM体は、高温部材に適した材料となりうる。
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、析出強化Ni基合金材料と同等以上の機械的特性を有するCo基合金製造物、およびその製造に好適なCo基合金材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(I)本発明の一態様は、Co基合金材料からなる製造物であって、
前記Co基合金材料は、
0.08質量%以上0.25質量%以下のC(炭素)と、0.003質量%以上0.2質量%以下のN(窒素)とを含み、前記Cおよび前記Nの合計が0.083質量%以上0.4質量%以下であり、
0.1質量%以下のB(ホウ素)と、
10質量%以上30質量%以下のCr(クロム)とを含み、
Fe(鉄)を5質量%以下でNi(ニッケル)を30質量%以下で含み、前記Feおよび前記Niの合計が30質量%以下であり、
W(タングステン)および/またはMo(モリブデン)を含み、前記Wおよび前記Moの合計が4質量%以上5質量%未満であり、
Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)およびTa(タンタル)のうちの1種以上を含み、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taの合計が1.5質量%以上5質量%以下であり、
0.5質量%超2質量%以下のAl(アルミニウム)と、
0.5質量%以下のSi(ケイ素)と、
0.5質量%以下のMn(マンガン)とを含み、
残部がCoと不純物とからなり、
前記不純物は、0.04質量%以下のO(酸素)を含む、化学組成を有し、
前記製造物は、母相結晶粒の多結晶体であり、
前記母相結晶粒の中に、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび/または前記TaをM成分とするMC型炭化物相、M(C,N)型炭窒化物相および/またはMN型窒化物相の粒子が分散析出している、
ことを特徴とするCo基合金製造物を提供するものである。
なお、本発明において、MC型、M(C,N)型およびMN型におけるCは炭素を意味し、Nは窒素を意味する。
【0013】
(II)本発明の他の一態様は、Co基合金材料であって、
0.08質量%以上0.25質量%以下のCと、0.003質量%以上0.2質量%以下のNとを含み、前記Cおよび前記Nの合計が0.083質量%以上0.4質量%以下であり、
0.1質量%以下のBと、
10質量%以上30質量%以下のCrとを含み、
Feを5質量%以下でNiを30質量%以下で含み、前記Feおよび前記Niの合計が30質量%以下であり、
Wおよび/またはMoを含み、前記Wおよび前記Moの合計が4質量%以上5質量%未満であり、
Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種以上を含み、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taの合計が1.5質量%以上5質量%以下であり、
0.5質量%超2質量%以下のAlと、
0.5質量%以下のSiと、
0.5質量%以下のMnとを含み、
残部がCoと不純物とからなり、
前記不純物は、0.04質量%以下のOを含む、化学組成を有する、
ことを特徴とするコバルト基合金材料を提供するものである。
【0014】
本発明は、上記のCo基合金製造物(I)および/またはCo基合金材料(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記MC型炭化物相、前記M(C,N)型炭窒化物相および/または前記MN型窒化物相の粒子は、0.13μm以上2μm以下の平均粒子間距離で分散析出している。
(ii)前記化学組成は、前記Nが0.04質量%超0.2質量%以下であり、前記Cおよび前記Nの合計が0.12質量%超0.4質量%以下である。
(iii)前記化学組成は、
前記Tiを含む場合、該Tiは0.2質量%以上2質量%以下であり、
前記Zrを含む場合、該Zrは0.5質量%以上1.5質量%以下であり、
前記Nbを含む場合、該Nbは0.15質量%以上1.5質量%以下であり、
前記Taを含む場合、該Taは0.25質量%以上1.5質量%以下である。
(iv)前記化学組成は、前記Tiおよび前記Zrを必須とする。
(v)前記化学組成は、前記Ti、前記Zr、前記Nbおよび前記Taのうちの3種以上を必須とする。
【0015】
また、本発明は、上記のCo基合金製造物(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(vi)前記Co基合金製造物は、高温部材である。
(vii)前記高温部材は、タービン静翼、タービン動翼、タービン燃焼器ノズルまたは熱交換器である。
【0016】
さらに、本発明は、上記のCo基合金材料(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(viii)前記Co基合金材料は、粉末であり、該粉末の粒子径が5μm以上100μm以下の範囲にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、析出強化Ni基合金材料と同等以上の機械的特性を有するCo基合金製造物、およびその製造に好適なCo基合金材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るCo基合金製造物の製造方法の工程例を示すフロー図である。
【
図2】選択的レーザ溶融工程で得られるCo基合金付加造形体の微細組織の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察像である。
【
図3】第2熱処理工程で得られるCo基合金製造物の微細組織の一例を示すSEM観察像である。
【
図4】本発明に係るCo基合金製造物の一例であり、高温部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。
【
図5】本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、高温部材としてのタービン動翼を示す斜視模式図である。
【
図6】本発明に係る高温部材を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。
【
図7】本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、高温部材としての熱交換器を示す斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本発明の基本思想]
前述したように、Co基合金材料では、遷移金属の炭化物相の析出による強化が種々研究開発されてきた。析出しうる炭化物相としては、例えば、MC型、M2C型、M3C型、M6C型、M7C型、およびM23C6型の炭化物相が挙げられる。
【0020】
合金における析出強化は、析出物同士の平均間隔に反比例することが一般的に知られており、析出強化が有効になるのは、析出物同士の平均間隔が2μm程度以下の場合と言われている。しかしながら、特許文献1のような従来技術では、析出物同士の平均間隔がそのレベルに達しておらず、十分な析出強化の作用効果が得られていなかった。これが、析出強化Ni基合金材料に比して、Co基合金材料は機械的特性が不十分と言われてきた主な要因である。
【0021】
本発明者等は、Co基合金材料において、析出強化に寄与する炭化物相粒子を母相結晶粒内に分散析出させることができれば、Co基合金材料の機械的特性を飛躍的に向上させることができると考え、遷移金属の炭化物相を母相結晶粒内に分散析出させる方法を鋭意研究した。
【0022】
その結果、特許文献2(特開2019-049022)に記載されているように、所定の合金組成を用いると共にAM法(特に、選択的レーザ溶融法)における局所溶融・急速凝固のための入熱量を所定の範囲に制御することにより、Co基合金AM体の母相結晶粒内に、特定成分(合金強化に寄与する炭化物相を形成する成分)が偏析した微小サイズの偏析セルが形成されることを見出した。また、当該AM体に所定の熱処理を施すことにより、偏析セルの境界の三重点/四重点だったと思われる箇所に、析出強化炭化物相の粒子が分散析出することを見出した。そして、そのようなCo基合金材料は、析出強化Ni基合金材料と同等以上の機械的特性を有することが確認された。
【0023】
一方、機械装置を構成する部材(例えば高温部材)において、もしも要求される熱的・機械的特性を犠牲にすることなく部材を軽量化することができれば、当該機械装置の効率向上に大きく貢献することができる。そこで、本発明者等は、特許文献2の後も合金組成の最適化について鋭意研究し続けた。
【0024】
その結果、特許文献2の研究当時では母相の固溶強化のために必要と考えられていたWおよびMoの含有率を減少させる一方で、析出強化相を構成するM成分の含有率を高めた合金組成において、Co基合金材料の機械的特性を犠牲にすることなく軽量化できる(比強度が向上する)ことを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を製造手順に沿って説明する。
【0026】
[Co基合金製造物の製造方法]
図1は、本発明に係るCo基合金製造物の製造方法の工程例を示すフロー図である。本発明に係るCo基合金製造物の製造方法は、概略的に、Co基合金粉末を用意する合金粉末用意工程S1と、用意したCo基合金粉末を用いて所望形状のAM体を形成する選択的レーザ溶融工程S2と、形成したAM体に対して第1熱処理を施す第1熱処理工程S3と、第1熱処理を施したAM体に対して第2熱処理を施す第2熱処理工程S4とを有する。工程S1で得られる合金粉末は、本発明に係るCo基合金材料の一形態であり、工程S4で得られるAM体(AM-熱処理物品)は、本発明に係るCo基合金製造物の一形態となる。
【0027】
なお、工程S3を行ったが工程S4を行っていないAM体をそのまま高温部材として使用した場合であっても、使用環境の温度が工程S4の温度条件と同等であると、使用に伴って工程S4を行った場合と同じ状態になると考えられる。言い換えると、工程S4は、高温部材の使用によって経験する熱履歴を含むものとする。そして、本発明は、そのような高温部材も本発明に係るCo基合金製造物の一形態と見なす。
【0028】
また、必要に応じて、工程S3~S4で得られたAM体に対して、熱遮蔽被覆(TBC)を形成したり表面仕上げをしたりする仕上工程S5を更に行ってもよい。工程S5は、必須の工程ではないが、Co基合金製造物の形状や使用環境を考慮して適宜行えばよい。工程S5を経たAM体も、本発明に係るCo基合金製造物の一形態となる。TBCの形成が熱処理を伴うものであり、かつ当該熱処理温度が工程S4の温度条件に合致する場合は、工程S4と工程S5とを同時に行うことに相当する。
【0029】
図1に示した製造工程は、基本的に特許文献2のそれと類似であるが、Co基合金の化学組成において、特許文献2の製造方法と異なる。また、合金組成のN含有率を高めるように制御する場合、合金粉末用意工程S1中の雰囲気におけるN原子の量(存在率)を制御する点において、特許文献2の製造方法と異なる。
【0030】
以下、各工程をより詳細に説明する。
【0031】
(合金粉末用意工程)
本工程S1は、所定の化学組成を有するCo基合金粉末を用意する工程である。該化学組成は、0.08質量%以上0.25質量%以下のCと、0.003質量%以上0.2質量%以下のNとを含み、CおよびNの合計が0.083質量%以上0.4質量%以下であり、0.1質量%以下のBと、10質量%以上30質量%以下のCrとを含み、Feを5質量%以下でNiを30質量%以下で含み、FeおよびNiの合計が30質量%以下であり、Wおよび/またはMoを含み、WおよびMoの合計が4質量%以上5質量%未満であり、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種以上を含み、それらTi、Zr、NbおよびTaの合計が1.5質量%以上5質量%以下であり、0.5質量%超2質量%以下のAlと、0.5質量%以下のSiと、0.5質量%以下のMnとを含み、残部がCoと不純物とからなることが好ましい。不純物としては、0.04質量%以下のOを含んでもよい。
【0032】
C:0.08質量%以上0.25質量%以下
C成分は、析出強化相となるMC型炭化物相(Ti、Zr、NbおよびTaの一種以上の遷移金属の炭化物相)および/またはM(C,N)型炭窒化物相(Ti、Zr、NbおよびTaの一種以上の遷移金属の炭窒化物相)を構成する重要な成分である。C成分の含有率は、0.08質量%以上0.25質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.12質量%以上0.18質量%以下が更に好ましい。C含有率が0.08質量%未満になると、析出強化相(MC型炭化物相および/またはM(C,N)型炭窒化物相)の析出量が不足し、機械的特性向上の作用効果が十分に得られない。一方、C含有率が0.25質量%超になると、MC型炭化物相以外の炭化物相が過剰析出したり、過度に硬化したりすることで、合金材料の靱性が低下する。
【0033】
N:0.003質量%以上0.2質量%以下
N成分は、析出強化相の安定生成に寄与する成分であると共に、M(C,N)型炭窒化物相および/またはMN型炭化物相(Ti、Zr、NbおよびTaの一種以上の遷移金属の窒化物相)を構成する重要な成分である。N成分の含有率は、0.003質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.04質量%超0.19質量%以下がより好ましく、0.13質量%以上0.18質量%以下が更に好ましい。N含有率が0.003質量%未満になると、N成分の作用効果が十分に得られない。また、N含有率0.04質量%以下は、M(C,N)型炭窒化物相やMN型炭化物相の生成による作用効果が得られないだけであり、特段の問題はない。一方、N含有率が0.2質量%超になると、機械的特性の低下要因になる。
【0034】
従来よりも高N含有率でCo基合金材料の機械的特性が向上するメカニズムは、現段階で解明されていないが、C成分とN成分とをそれぞれ有意な量で共存させることにより、MC型炭化物相、M(C,N)型炭窒化物相および/またはMN型炭化物相がバランス良く安定的に生成して分散析出に寄与している可能性が考えられる。CおよびNの合計含有率は、0.083質量%以上0.4質量%以下が好ましく、0.12質量%超0.35質量%以下がより好ましく、0.16質量%以上0.3質量%以下が更に好ましい。
【0035】
B:0.1質量%以下
B成分は、結晶粒界の接合性の向上(いわゆる粒界強化)に寄与する成分である。B成分は必須成分ではないが、含有させる場合、0.1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。B含有率が0.1質量%超になると、AM体形成時に割れ(例えば、凝固割れ)が発生し易くなる。
【0036】
Cr:10質量%以上30質量%以下
Cr成分は、耐食性や耐酸化性の向上に寄与する成分である。Cr成分の含有率は、10質量%以上30質量%以下が好ましく、13質量%以上27質量%以下がより好ましく、15質量%以上24質量%以下が更に好ましい。Co基合金製造物の最表面に耐食性被覆層を別途設けるような場合は、Cr成分の含有率は10質量%以上18質量%以下でもよい。Cr含有率が10質量%未満になると、作用効果(耐食性や耐酸化性の向上)が十分に得られない。一方、Cr含有率が30質量%超になると、脆性のσ相が生成したりCr炭化物相が過剰生成したりして機械的特性(靱性、延性、強さ)が低下する。なお、本発明においては、Cr炭化物相の生成自体を拒否する(好ましくないものとする)ものではない。
【0037】
Ni:30質量%以下
Ni成分は、Co成分と類似した特性を有しかつCoに比して安価なことから、Co成分の一部を置き換えるかたちで含有させることができる成分である。Ni成分は必須成分ではないが、含有させる場合、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。Ni含有率が30質量%超になると、Co基合金の特徴である耐摩耗性や局所応力への耐性が低下する。これは、Coの積層欠陥エネルギーとNiのそれとの差異に起因すると考えられる。
【0038】
Fe:5質量%以下
Fe成分は、Niよりもはるかに安価でありかつNi成分と類似した性状を有することから、Ni成分の一部を置き換えるかたちで含有させることができる成分である。すなわち、FeおよびNiの合計含有率は30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。Fe成分は必須成分ではないが、含有させる場合、Ni含有率よりも少ない範囲で5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。Fe含有率が5質量%超になると、耐食性や機械的特性の低下要因になる。
【0039】
Wおよび/またはMo:合計4質量%以上5質量%未満
W成分およびMo成分は、母相の固溶強化に寄与する成分である。W成分および/またはMo成分(W成分およびMo成分の1種以上)の合計含有率は、4質量%以上5質量%未満が好ましく、4.5質量%以上4.9質量%以下がより好ましい。W成分とMo成分との合計含有率が4質量%未満になると、母相の固溶強化が不十分になる。一方、W成分とMo成分との合計含有率が5質量%以上になると、軽量化の達成が困難になる。
【0040】
Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種以上:合計1.5質量%以上5質量%以下
Ti、Zr、NbおよびTaは、単純立方晶系のMC型炭化物相を形成しうるM成分である。これらM成分のMC型炭化物相(例えば、TiC、ZrCなどの単金属元素炭化物相や、(Ti,Zr)C、(Ti,Zr,Ta)Cなどの複合金属元素炭化物相)は析出強化相になりえる。また、Ti、Zr、NbおよびTaは、MN型窒化物相を形成しうるM成分であり、これらM成分のMN型窒化物相も析出強化相になりえる。さらに、Ti、Zr、NbおよびTaは、析出強化相のM(C,N)型炭窒化物相を形成しうるM成分でもある。
【0041】
本発明においては、特許文献2に比して、母相の固溶強化を担うWおよびMoの含有率を減少させる一方で、析出強化相を構成するM成分の含有率を高めている。M成分となるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有率は、1.5質量%以上5質量%以下が好ましく、1.7質量%以上4.5質量%以下がより好ましく、2質量%超4質量%以下が更に好ましい。合計含有率が1.5質量%未満になると、析出強化相(MC型炭化物相、M(C,N)型炭窒化物相および/またはMN型炭化物相)の析出量が不足し、WおよびMo含有率を減らした分を十分に補填できない(機械的特性向上の作用効果が十分に得られない)。一方、当該合計含有率が5質量%超になると、析出強化相粒子が粗大化したり脆性相(例えばσ相)の生成を促進したり析出強化に寄与しない酸化物相粒子を生成したりして機械的特性が低下する。
【0042】
また、Co基合金製造物の機械的強度の観点からは、TiおよびZrを必須とすることが好ましい。析出強化相粒子の分散析出(析出強化相粒子の粗大化の抑制)の観点からは、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの3種以上を含むことがより好ましい。
【0043】
より具体的には、Tiを含有させる場合の含有率は、0.2質量%以上2質量%以下が好ましく、0.25質量%以上1.8質量%以下がより好ましい。
【0044】
Zrを含有させる場合の含有率は、0.5質量%以上1.5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.3質量%以下がより好ましい。なお、Co基合金製造物の靭性を優先する場合はZr成分を含有成分としないことが好ましい。
【0045】
Nbを含有させる場合の含有率は、0.15質量%以上1.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以上1.3質量%以下がより好ましい。
【0046】
Taを含有させる場合の含有率は、0.25質量%以上1.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.3質量%以下がより好ましい。
【0047】
Al:0.5質量%超2質量%以下
Al成分は、従来技術において不純物の一種と考えられており、意図的に含有させる成分ではなかった。これに対し、本発明において、Al成分を従来よりも高含有率で意図的に添加したところ、2質量%までの添加量であれば、機械的特性に大きな悪影響を及ぼさないことが判明した。Al含有率が2質量%超になると、酸化物や窒化物(例えばAl2O3やAlN)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0048】
Si:0.5質量%以下
Si成分は、脱酸素の役割を担って機械的特性の向上に寄与する成分である。Si成分は必須成分ではないが、含有させる場合、0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。Si含有率が0.5質量%超になると、酸化物(例えばSiO2)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0049】
Mn:0.5質量%以下
Mn成分は、脱酸素・脱硫の役割を担って機械的特性の向上や耐腐食性の向上に寄与する成分である。Mn成分は必須成分ではないが、含有させる場合、0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。Mn含有率が0.5質量%超になると、硫化物(例えばMnS)の粗大粒子を形成して機械的特性や耐食性の低下要因になる。
【0050】
残部:Co成分+不純物
Co成分は、本合金の主要成分の一つであり、最大含有率の成分である。前述したように、Co基合金材料は、Ni基合金材料と同等以上の耐食性や耐摩耗性を有する利点がある。
【0051】
O成分は、本合金の不純物の一つであり、意図的に含有させる成分ではない。ただし、0.04質量%以下のO含有率であれば、Co基合金製造物の機械的特性に大きな悪影響を及ぼさないことから許容される。O含有率が0.04質量%超になると、各種酸化物(例えば、Ti酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、Al酸化物、Si酸化物)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0052】
合金粉末用意工程S1は、所定の化学組成を有するCo基合金粉末を用意する工程である。合金粉末を用意する方法・手法としては、基本的に従前の方法・手法を利用できる。例えば、所望の化学組成となるように原料を混合・溶解・鋳造して母合金塊(マスターインゴット)を作製する母合金塊作製素工程(S1a)と、該母合金塊から合金粉末を形成するアトマイズ素工程(S1b)とを行えばよい。
【0053】
N含有率を制御する場合、当該制御をアトマイズ素工程S1bで行うことは好ましい。アトマイズ方法は、基本的に従前の方法・手法を利用できる。例えば、N含有率を制御する場合、アトマイズ雰囲気中の窒素量(窒素分圧)を制御しながらのガスアトマイズ法や遠心力アトマイズ法を好ましく用いることができる。
【0054】
また、必要に応じて、アトマイズ素工程S1bの後に、合金粉末に対して浸窒素熱処理(例えば、アンモニアガス雰囲気中、300℃以上520℃以下の熱処理)を行う浸窒素熱処理素工程(S1c、図示せず)を行ってもよい。アンモニアガス雰囲気としては、アンモニア(NH3)ガスとN2ガスとの混合ガスや、NH3ガスと水素(H2)ガスとの混合ガスを好適に利用できる。
【0055】
合金粉末の粒径は、次工程の選択的レーザ溶融工程S2におけるハンドリング性や合金粉末床の充填性の観点から、5μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上70μm以下がより好ましく、10μm以上50μm以下が更に好ましい。合金粉末の粒径が5μm未満になると、次工程S2において合金粉末の流動性が低下し(合金粉末床の形成性が低下し)、AM体の形状精度が低下する要因となる。一方、合金粉末の粒径が100μm超になると、次工程S2において合金粉末床の局所溶融・急速凝固の制御が難しくなり、合金粉末の溶融が不十分になったりAM体の表面粗さが増加したりする要因となる。
【0056】
上記のことから、合金粉末の粒径を5μm以上100μm以下の範囲に分級する合金粉末分級素工程(S1d)を行うことは、好ましい。なお、本発明においては、得られた合金粉末の粒径分布を測定した結果、所望の範囲内にあることを確認した場合も、本素工程S1dを行ったものと見なす。合金粉末用意工程S1によって得られた合金粉末は、本発明に係るCo基合金材料の一形態となる。
【0057】
(選択的レーザ溶融工程)
選択的レーザ溶融工程S2は、用意したCo基合金粉末を用いて選択的レーザ溶融(SLM)法により所望形状のAM体を形成する工程である。具体的には、Co基合金粉末を敷き詰めて所定厚さの合金粉末床を用意する合金粉末床用意素工程(S2a)と、合金粉末床の所定の領域にレーザ光を照射して該領域のCo基合金粉末を局所溶融・急速凝固させるレーザ溶融凝固素工程(S2b)と、を繰り返してAM体を形成する工程である。
【0058】
本工程S2においては、最終的なCo基合金製造物で望ましい微細組織を得るために、合金粉末床の局所溶融・急速凝固を制御してAM体の微細組織を制御する。
【0059】
より具体的には、合金粉末床の厚さh(単位:μm)とレーザ光の出力P(単位:W)とレーザ光の走査速度S(単位:mm/s)との関係において、「15 <h< 150」かつ「67(P/S)-3.5 <h< 2222(P/S)+13」を満たすように、合金粉末床の厚さhとレーザ光出力Pとレーザ光走査速度Sとを制御することが好ましい。当該制御条件を外れると、望ましい微細組織を有するAM体が得られない。
【0060】
なお、レーザ光の出力Pおよびレーザ光の走査速度Sは、基本的にレーザ装置の構成に依存するが、例えば「10 ≦P≦ 1000」および「10 ≦S≦ 7000」の範囲内で選定すればよい。
【0061】
図2は、SLM工程S2で得られるCo基合金AM体の微細組織の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察像である。
図2に示したように、SLM工程S2で得られるCo基合金AM体は、基本的に特許文献2のそれと同様の微細組織を有している。
【0062】
該AM体は、母相結晶粒の多結晶体であり、該多結晶体の結晶粒の中には、平均サイズが0.13μm以上2μm以下の偏析セルが形成している。偏析セルの平均サイズは、機械的強度の観点から0.15μm以上1.5μm以下がより好ましい。偏析セルの境界領域上の一部には、析出強化相の粒子が析出する場合があることが確認される。また、数多くの実験から、母相結晶粒の平均結晶粒径は5μm以上150μm以下が好ましいと確認された。
【0063】
なお、本発明において、偏析セルのサイズとは、基本的に長径と短径との平均と定義するが、長径と短径とのアスペクト比が3以上の場合は、短径の2倍を採用するものとする。また、本発明における析出強化相の粒子の平均間隔は、当該粒子が偏析セルの境界領域上に析出することから、偏析セルのサイズで代表すると定義する。
【0064】
走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(STEM-EDX)を用いて、さらに詳細に微細組織観察を行ったところ、当該偏析セルは、微小セル間の境界領域(偏析セルの外周領域、細胞壁のような領域)に析出強化相を形成する成分(Ti、Zr、Nb、Ta、C、N)が偏析していることが確認された。また、偏析セルの境界領域上に析出した粒子は、析出強化相(Ti、Zr、NbおよびTaの一種以上の遷移金属を含むMC型炭化物相、M(C,N)型炭窒化物相および/またはMN型炭化物相)の粒子であることが確認された。
【0065】
本AM体は、母相結晶粒の粒界上にも析出強化相を形成する成分の偏析や析出強化相粒子の析出がある。
【0066】
(第1熱処理工程)
第1熱処理工程S3は、形成したCo基合金AM体に対して第1熱処理を施す工程である。第1熱処理の温度は、1100℃以上1200℃以下が好ましい。第1熱処理における保持時間に特段の限定はなく、被熱処理体の体積/熱容量や温度を考慮して適宜設定すればよい。熱処理後の冷却方法にも特段の限定はなく、水冷、油冷、空冷、炉冷のいずれでも構わない。
【0067】
第1熱処理を施すことにより、AM体内で母相結晶粒の再結晶が生じ、前工程S2の急速凝固の際に生じる可能性のあるAM体の内部ひずみを緩和することができる。再結晶の際に、母相結晶粒の平均結晶粒径を20μm以上150μm以下の範囲に粗大化制御することが好ましい。該平均結晶粒径が20μm未満または150μm超であると、最終的な製造物のクリープ特性が不十分になり易くなる。
【0068】
また、母相結晶粒の再結晶の際に、先の偏析セルの境界領域に偏析していた成分が凝集して析出強化相を形成し始め、その結果、偏析セルが消失する(より正確に言うと、微細組織観察で偏析セルの境界を確認できなくなる)。析出強化相を形成し始める凝集点は、元偏析セルの境界上(例えば、元偏析セル境界の三重点/四重点の位置)と考えられ、母相結晶粒の全体(結晶粒内および結晶粒界上)に微細に分布した状態になる。
【0069】
(第2熱処理工程)
第2熱処理工程S4は、第1熱処理を施したCo基合金AM体に対して第2熱処理を施す工程である。第2熱処理の温度は、600℃以上1100℃未満が好ましく、700℃以上1050℃以下がより好ましく、800℃以上1000℃以下が更に好ましい。第2熱処理における保持時間に特段の限定はなく、被熱処理体の体積/熱容量や温度を考慮して適宜設定すればよい。熱処理後の冷却方法にも特段の限定はなく、水冷、油冷、空冷、炉冷のいずれでも構わない。
【0070】
第2熱処理を施すことにより、母相結晶粒の過剰粗大化を抑制しながら、第1熱処理工程S3で形成し始めた析出強化相を粒子の形態まで成長させることができる。析出強化相粒子は、元偏析セルの境界上で析出することから、平均粒子間距離は、実質的に元偏析セルの平均サイズと一致する。すなわち、工程S2で得られるAM体における偏析セルの平均サイズが0.13μm以上2μm以下である場合、工程S4で得られるAM-熱処理物品における析出強化相粒子の平均粒子間距離も0.13μm以上2μm以下となる。
【0071】
工程S4の結果、母相結晶粒の平均結晶粒径が20μm以上150μm以下であり、各結晶粒内に析出強化相粒子が微細分散析出しており、該析出強化炭化物相粒子の平均粒子間距離が0.13μm以上2μm以下であるAM-熱処理物品が得られる。なお、当然のことながら、母相結晶粒の粒界上にも析出強化相粒子が分散析出している。そして、工程S4で得られるAM-熱処理物品は、本発明に係るCo基合金製造物の一形態となる。
【0072】
図3は、第2熱処理工程S4で得られるCo基合金製造物の微細組織の一例を示すSEM観察像である。
図3に示したように、母相結晶粒の中に析出強化相粒子が分散析出している様子が確認される。
【0073】
(仕上工程)
前述したように、仕上工程S5は、工程S3または工程S4を経たAM-熱処理物品に対して、熱遮蔽被覆(TBC)を形成したり表面仕上げをしたりする工程である。本工程S5は必須の工程ではないが、Co基合金製造物の用途・使用環境に応じて適宜行えばよい。TBCの形成や表面仕上げに特段の限定はなく、従前の方法を適宜利用できる。本工程S5を経たAM-熱処理物品も、本発明に係るCo基合金製造物の一形態となる。
【0074】
[Co基合金製造物]
図4は、本発明に係るCo基合金製造物の一例であり、高温部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。
図4に示したように、タービン静翼100は、概略的に、翼部110と内輪側エンドウォール120と外輪側エンドウォール130とから構成される。翼部110の内部には、しばしば冷却構造が形成される。
【0075】
図5は、本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、高温部材としてのタービン動翼を示す斜視模式図である。
図5に示したように、タービン動翼200は、概略的に、翼部210とシャンク部220とルート部(ダブティル部とも言う)230とから構成される。シャンク部220は、プラットホーム221とラジアルフィン222とを備えている。翼部210の内部には、しばしば冷却構造が形成される。
【0076】
図6は、本発明に係る高温部材を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。
図6に示したように、ガスタービン300は、概略的に、吸気を圧縮する圧縮機部310と燃料の燃焼ガスをタービン翼に吹き付けて回転動力を得るタービン部320とから構成される。本発明の高温部材は、タービン部320内のタービンノズル321やタービン静翼100やタービン動翼200として好適に用いることができる。
【0077】
本発明の高温部材は、ガスタービン用途に限定されるものではなく、他のタービン用途(例えば、蒸気タービン用途)であってもよいし、他の機械/装置における高温環境下で使用される部材であってもよい。
【0078】
図7は、本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、高温部材としての熱交換器を示す斜視模式図である。
図7に示した熱交換器400は、プレートフィン型熱交換器の例であり、基本的にセパレート層410とフィン層420とが交互に積層された構造を有している。フィン層420の流路幅方向の両端は、サイドバー部430で封じられている。隣接するフィン層420に高温流体と低温流体とを交互に流通させることにより、高温流体と低温流体との間で熱交換がなされる。
【0079】
本発明に係る熱交換器400は、従来の熱交換器における構成部品(例えば、セパレートプレート、コルゲートフィン、サイドバー)をろう付け接合や溶接接合することなしに一体形成されることから、従来の熱交換器よりも耐熱化や軽量化することができる。また、流路表面に適切な凹凸形状を形成することにより、流体を乱流化して熱伝達効率を向上させることができる。熱伝達効率の向上は、熱交換器の小型化につながる。
【実施例0080】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
【0081】
[実験1]
(発明合金材料IM-1および参照合金材料RM-1の用意)
表1に示す化学組成を有するCo基合金材料を用意した。発明合金材料IM-1は、本発明に係る化学組成を有するCo基合金材料であり、参照合金材料RM-1は、特許文献2に係る化学組成を有するCo基合金材料である。
【0082】
具体的には、まず、原料を混合した後、真空高周波誘導溶解法により溶解・鋳造して母合金塊(質量:約2 kg)を作製する母合金塊作製素工程S1aを行った。次に、該母合金塊を再溶解して、ガスアトマイズ法により合金粉末を形成するアトマイズ素工程S1bを行った。参照合金材料RM-1は、アトマイズ素工程S1bをアルゴンガス雰囲気中で行った。発明合金材料IM-1は、アトマイズ素工程S1bを窒素ガス雰囲気中で行った。
【0083】
次に、得られた各合金粉末に対して、合金粉末の粒径を制御するための合金粉末分級素工程S1dを行って粉末粒径を5~25μmの範囲に分級した。
【0084】
【0085】
[実験2]
(選択的レーザ溶融工程におけるSLM条件の検討)
実験1で用意したIM-1を用いてSLM法によりAM体(直径8 mm×長さ10 mm)を形成した(選択的レーザ溶融工程S2)。SLM条件は、レーザ光の出力Pを85 Wとし、合金粉末床の厚さhおよびレーザ光の走査速度S(mm/s)を種々変更することによって局所入熱量P/S(単位:W・s/mm=J/mm)を制御した。局所入熱量P/Sの制御は、冷却速度の制御に相当する。
【0086】
上記で作製した各AM体に対して、微細組織観察を行って偏析セルの平均サイズを測定した。微細組織観察はSEMにより行った。また、得られたSEM観察像に対して画像処理ソフトウェア(ImageJ、米国National Institutes of Health(NIH)開発のパブリックドメインソフトウェア)を用いた画像解析により、偏析セルの平均サイズを測定した。
【0087】
偏析セルの平均サイズが0.13~2μmの範囲にあるものを「合格」と判定し、それ以外のものを「不合格」と判定した結果、選択的レーザ溶融工程S2におけるSLM条件は、合金粉末床の厚さh(単位:μm)とレーザ光の出力P(単位:W)とレーザ光の走査速度S(単位:mm/s)との関係が「15 <h< 150」かつ「67(P/S)-3.5 <h< 2222(P/S)+13」を満たすように制御することが好ましいことを確認した。なお、
図2はIM-1を用いたAM体のSEM観察像である。
【0088】
[実験3]
(発明合金製造物IP-1および参照合金製造物RP-1の作製)
実験1で用意したIM-1およびRM-1を用いて、SLM法によりAM体(直径10 mm×長さ50 mm)を形成した(SLM工程S2)。SLM条件は、合金粉末床の厚さhを100μmとし、レーザ光の出力Pを100 Wとし、レーザ光の走査速度S(mm/s)を制御することによって局所入熱量P/S(単位:W・s/mm=J/mm)を制御して、実験2の合格条件を満たすように調整した。
【0089】
つぎに、工程S2上がりのAM体(微細組織観察用の試験片を採取した残部)に対し、1150℃で4時間の第1熱処理(第1熱処理工程S3)と900℃で4時間の第2熱処理(第2熱処理工程S4)とを行って、発明合金製造物IP-1および参照合金製造物RP-1を作製した。
【0090】
[実験4]
(密度測定、微細組織観察、および機械的特性試験)
実験3で作製したIP-1およびRP-1から、微細組織観察用、機械的特性試験用の試験片をそれぞれ採取し、密度測定、微細組織観察、および機械的特性試験をした。
【0091】
微細組織観察用の試験片を用いて密度測定を行った。その結果、RP-1の8.73 g/cm3に対して、IP-1は8.40 g/cm3と約4%の軽量化が確認された。
【0092】
微細組織観察は、実験2と同様のSEM観察およびSEM観察像に対する画像解析を行って、母相結晶粒内での析出強化相粒子の平均粒子間距離を調査した。その結果、IP-1およびRP-1共に、析出強化相粒子の平均粒子間距離が0.13~2μmの範囲にあることが確認された。なお、
図3はIP-1のSEM観察像である。
【0093】
機械的特性試験としては、室温引張試験を行って0.2%耐力と引張強さとを測定し、クリープ試験(温度900℃、応力157 MPaの条件下)を行ってクリープ破断時間を測定した。機械的特性試験の結果を、密度測定の結果と共に表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示したように、IP-1は、RP-1と同等以上の機械的特性(0.2%耐力、引張強さ、クリープ破断時間)を有することが確認された。RP-1は、析出強化Ni基合金材と同等以上の機械的特性を有すると見なせることから(特許文献2参照)、本発明の合金製造物も析出強化Ni基合金材と同等以上の機械的特性を有すると言える。また、比強度(引張強さ/密度)の観点で見ると、IP-1は、RP-1に対して約9%向上している。
【0096】
上述した実施形態や実験例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。