(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105834
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】余剰汚泥処理方法、及び余剰汚泥処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 11/02 20060101AFI20230725BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20230725BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20230725BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C02F11/02 ZAB
C02F3/34 Z
C02F3/12 V
C12N1/20 F
C12N1/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006803
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】日下 潤
【テーマコード(参考)】
4B065
4D028
4D040
4D059
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065CA56
4D028AB00
4D028BB06
4D028BE08
4D040DD03
4D040DD12
4D059AA05
4D059BA25
4D059BE31
4D059BE46
4D059BE49
4D059BE51
4D059CA28
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】環状エーテルを含む余剰汚泥の処理方法と処理システムを提供する。
【解決手段】活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を、余剰汚泥処理槽において、N23株により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理する余剰汚泥処理方法、及び、環状エーテルと他の有機化合物を含む汚染水を活性汚泥により主に他の有機化合物を処理する活性汚泥処理槽と、活性汚泥処理槽の下流に位置する環状エーテルを処理する環状エーテル処理槽と、活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を処理する余剰汚泥処理槽と、を有し、余剰汚泥処理槽において、N23株により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理する余剰汚泥処理システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を、
余剰汚泥処理槽において、N23株(受託番号NITE BP-02032)により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理することを特徴とする余剰汚泥処理方法。
【請求項2】
前記余剰汚泥処理槽における余剰汚泥濃度が、1,000mg/L以上30,000mg/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の余剰汚泥処理方法。
【請求項3】
前記活性汚泥処理槽の下流に位置する環状エーテル処理槽で発生するN23株含有汚泥の形態で、前記余剰汚泥処理槽にN23株を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の余剰汚泥処理方法。
【請求項4】
前記環状エーテルが、1,4-ジオキサンを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の余剰汚泥処理方法。
【請求項5】
環状エーテルと他の有機化合物を含む汚染水を、活性汚泥により主に他の有機化合物を処理する活性汚泥処理槽と、
前記活性汚泥処理槽の下流に位置する、環状エーテルを処理する環状エーテル処理槽と、
前記活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を処理する余剰汚泥処理槽と、を有し、
前記余剰汚泥処理槽において、N23株(受託番号NITE BP-02032)により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理することを特徴とする余剰汚泥処理システム。
【請求項6】
前記環状エーテル処理槽が、前記N23株による生分解処理を行う槽であり、
前記環状エーテル処理槽で発生するN23株含有汚泥を、前記余剰汚泥処理槽に供給することを特徴とする請求項5に記載の余剰汚泥処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状エーテルを含む余剰汚泥の処理方法と処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、下記式(1)で表される環状エーテルである。1,4-ジオキサンは、水や有機溶媒との相溶性に優れており、主に有機合成の反応溶剤として使用されている。
【化1】
【0003】
2010年度の日本国における1,4-ジオキサンの製造・輸入量は、約4500t/年であり、約300t/年が環境中へ放出されたと推測される。1,4-ジオキサンは、水溶性であるため、水環境中へ放出されると広域に拡散してしまう。また、揮発性、固体への吸着性、光分解性、加水分解性、生分解性がいずれも低いため、水中からの除去が困難である。1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされている。
【0004】
非特許文献1には、1,4-ジオキサンを含む産業廃水には、1,4-ジオキサンの他に1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソランといった多様な環状エーテル化合物が含まれている場合があることが報告されている。特に1,3-ジオキソランは、急性毒性等の毒性が確認されており、1,3-ジオキソランを含む汚染水等は適切に処理しなければならない。
ここで、1,4-ジオキサン等の環状エーテルは、促進酸化法においてのみ、処理の有効性が確認されている。しかし、促進酸化法はイニシャルコスト及びランニングコストが高いことから普及に至っていない。また、非特許文献2には、他の有機化合物が存在すると、促進酸化法による1,4-ジオキサンの処理効率が低下することが報告されている。
【0005】
低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテル化合物を含む水を処理する方法が求められており、非特許文献3では、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されている。
本発明者らは、特許文献1において、構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株(受託番号NITE BP-02032)を報告している。N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で、最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を示し、1,4-ジオキサンを始めとする環状エーテル化合物の生分解に非常に有望である。また、本発明者らは、特許文献2において、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を、主として他の有機化合物の濃度を低くする前処理工程と1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程とをこの順で行うことによる、効率的な汚染水処理方法を提案している。
【0006】
特許文献2に記載された発明の方法により、環状エーテルと他の有機化合物の処理を行うに際し、前処理工程を活性汚泥により行うと、余剰汚泥が発生する。余剰汚泥は、沈殿・脱水等されて脱水ケーキ(脱水汚泥)となり、産業廃棄物として処理される。活性汚泥による処理では、環状エーテルを生分解処理することは困難なため、余剰汚泥中には環状エーテルが高濃度で含まれる場合がある。そして、余剰汚泥が環状エーテルを高濃度で含む場合、脱水後に得られる脱水ケーキも環状エーテルを高濃度で含むため、通常の産業廃棄物ではなく特別管理産業廃棄物として処理する必要があり、通常の産業廃棄物と比較して処分コストが大きく増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6117450号公報
【特許文献2】特開2019-084498号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】CD. Adams, PA. Scanlan and ND. Secrist: Oxidation and biodegradability enhancement of 1,4-dioxane using hydrogen peroxide and ozone, Environ. Sci. Technol., 28(11), pp.1812-1818, 1994.
【非特許文献2】K. KOSAKA, H. YAMADA, S. MATSUI, and K. SHISHIDA: The effects of the co-existing compounds on the decomposition of micropollutants using the ozone/hydrogen peroxide process. Water Sci. Technol., 42, pp.353-361, 2000.
【非特許文献3】清和成、池道彦:1,4-ジオキサン分解菌を用いた汚染地下水の生物処理・浄化の可能性,用水と廃水,Vol.53, No.7, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
環状エーテルと他の有機化合物を含む汚染水を活性汚泥処理する際に発生する環状エーテルを含む余剰汚泥の処理方法と処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を、
余剰汚泥処理槽において、N23株(受託番号NITE BP-02032)により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理することを特徴とする余剰汚泥処理方法。
2.前記余剰汚泥処理槽における余剰汚泥濃度が、1,000mg/L以上30,000mg/L以下であることを特徴とする1.に記載の余剰汚泥処理方法。
3.前記活性汚泥処理槽の下流に位置する環状エーテル処理槽で発生するN23株含有汚泥の形態で、前記余剰汚泥処理槽にN23株を供給することを特徴とする1.または2.に記載の余剰汚泥処理方法。
4.前記環状エーテルが、1,4-ジオキサンを含むことを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の余剰汚泥処理方法。
5.環状エーテルと他の有機化合物を含む汚染水を、活性汚泥により主に他の有機化合物を処理する活性汚泥処理槽と、
前記活性汚泥処理槽の下流に位置する、環状エーテルを処理する環状エーテル処理槽と、
前記活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を処理する余剰汚泥処理槽と、を有し、
前記余剰汚泥処理槽において、N23株(受託番号NITE BP-02032)により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理することを特徴とする余剰汚泥処理システム。
6.前記環状エーテル処理槽が、前記N23株による生分解処理を行う槽であり、
前記環状エーテル処理槽で発生するN23株含有汚泥を、前記余剰汚泥処理槽に供給することを特徴とする5.に記載の余剰汚泥処理システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の余剰汚泥処理方法は、余剰汚泥に由来する他の微生物が多く存在する条件下でありながらも、他の微生物の活動を抑えてN23株を活動させることにより、環状エーテルを効率的に処理することができる。環状エーテル濃度を低くすることにより、余剰汚泥を脱水して得られる脱水ケーキを通常の産業廃棄物として処理することができるため、処理コストを抑えることができる。
環状エーテルをN23株により生分解処理することで、N23株含有汚泥が発生するが、このN23株含有汚泥を余剰汚泥処理槽に供給し、余剰汚泥処理槽中の環状エーテルをN23株含有汚泥により処理することにより、N23株含有汚泥を有効活用することができ、余剰汚泥処理槽に培養したN23株を直接供給する場合と比較して、N23株の培養にかかるコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施態様である余剰汚泥処理システムの構成図。
【
図2】余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)と、ジオキサン分解速度(相対値)との関係を示すグラフ。
【
図3】開始時の菌体濃度200mg/Lにおける、異なるBOD濃度でのジオキサン濃度の経時変化を示すグラフ。
【
図4】開始時の菌体濃度1,000mg/Lにおける、異なるBOD濃度でのジオキサン濃度の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の余剰汚泥処理方法は、活性汚泥処理槽で発生する環状エーテルを含む余剰汚泥を、
余剰汚泥処理槽において、N23株(受託番号NITE BP-02032)により、BOD350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で環状エーテルを生分解処理する。なお、本明細書において、「A~B」(A、Bは数値)との表記は、A、Bの値を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
【0014】
本発明の余剰汚泥処理方法を、
図1に示す一実施態様である余剰汚泥処理システムを例に説明する。
一実施態様である余剰汚泥処理システムは、活性汚泥処理槽1、環状エーテル処理槽2、余剰汚泥処理槽3、脱水機4を有する。
【0015】
本発明が処理する汚染水は、環状エーテルと他の有機化合物を含む。
環状エーテルとしては、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等が挙げられる。これらの中で、1,4-ジオキサンを含む汚染水を処理することが好ましい。
他の有機化合物は、活性汚泥による生分解が可能な有機化合物であれば制限されず、汚染水が発生する化学工場、工場跡地、埋立処分場等によりその種類は異なる。
【0016】
環状エーテルと他の有機化合物を含む汚染水は、活性汚泥処理槽1により主に他の有機化合物が処理される。活性汚泥処理槽1での他の有機化合物の処理は、定法に従って行うことができる。活性汚泥処理槽1では、他の有機化合物を、30wt%以上取り除くことが好ましく、40wt%以上取り除くことがより好ましく、50wt%以上取り除くことがさらに好ましく、60wt%以上取り除くことが最も好ましい。
活性汚泥処理では環状エーテルの処理はあまり進行しないため、汚染水は活性汚泥処理槽1で処理されて環状エーテルを含む一次処理水となり、環状エーテル処理槽2に移送される。
【0017】
一次処理水は、環状エーテル処理槽2においてN23株により環状エーテルが処理される。
N23株(Pseudonocardia sp.N23)は、受託番号NITE BP-02032として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2015年4月10日付で国際寄託されている。
N23株は、構成型1,4-ジオキサン分解菌であり、常時、分解酵素を生産している。N23株は、0.216mg-1,4-ジオキサン/mg-protein・hという、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で、最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有する。N23株は、1,4-ジオキサンを0.017mg/L以下の極低濃度まで分解することができ、約5200mg/Lという高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。N23株は、至適pHはpH6~8の中性付近ではあるが、酸性条件下での活動性の低下が小さく、pH7.0における分解活性に対して、pH5.0で9割以上、pH3.8で8割以上の分解活性を維持することができる。そのため、N23株は、1,4-ジオキサンの生分解処理工程に好適に利用することができる。
【0018】
一次処理水は、他の有機化合物濃度が低いため、N23株による環状エーテル処理を効率的に行うことができる。環状エーテル処理槽2におけるN23株による環状エーテル処理は、pH4以上8以下で行うことが好ましく、pH4.5以上5.5以下で行うことがより好ましい。pHをこの範囲内とすることにより、N23株による分解性のレベルを一定以上に保ちながらも、雑菌の繁殖を抑えることができる。
【0019】
活性汚泥処理槽1では余剰汚泥が発生するが、活性汚泥処理槽1内では環状エーテルの生分解はあまり進行しないため、余剰汚泥は環状エーテルを含む。この環状エーテルを含む余剰汚泥と、環状エーテル処理槽2で発生するN23株含有汚泥は、余剰汚泥処理槽3に送られる。そして、余剰汚泥中に含まれる環状エーテルは、N23株含有汚泥中のN23株により、BOD(生物化学的酸素要求量)350mg/L以下、かつ、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)0.008~0.17の条件下で処理される。
【0020】
余剰汚泥処理槽3中には、余剰汚泥由来の多様な微生物と、N23株含有汚泥由来のN23株が生息している。N23株は、他の微生物と比較すると活動性、増殖性に劣るが、BOD350mg/L以下では他の微生物の活動は抑制される。N23株は、BOD350mg/L以下でも環状エーテルを代謝して活動することができるため、他の微生物よりも優先的に活動して環状エーテルの分解を行うことができる。BODは、320mg/L以下であることが好ましく、300mg/L以下であることがより好ましい。
【0021】
また、その理由は不明であるが、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)が0.008以上0.17以下のときに、N23株は、余剰汚泥なしの場合に対して50%以上の環状エーテル分解速度を維持することができ、効率的に環状エーテルを生分解処理することができる。余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)は、0.01以上であることが好ましく、0.012以上であることがより好ましく、0.015以上であることがさらに好ましい。また、この比は0.15以下であることが好ましく、0.14以下であることがより好ましく、0.12以下であることがさらに好ましい。
【0022】
余剰汚泥処理槽3中で、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)は、活性汚泥処理槽1から引き込む余剰汚泥の量と、環状エーテル処理槽2から引き込むN23株含有汚泥の量により調整することができる。この際、余剰汚泥処理槽3中の余剰汚泥濃度は、1,000mg/L以上30,000mg/L以下であることが、処理効率の点から好ましい。なお、本発明において、N23株の供給は、N23株含有汚泥の形態に限定されず、培養液からろ別した菌体、凍結保存した菌体、乾燥保存した菌体、凍結乾燥した菌体、N23株を樹脂等に固定化した固定化担体、あるいは培養液やその濃縮液等のN23株を含む懸濁液等の任意の形態で供給することができる。
【0023】
余剰汚泥処理槽3において、環状エーテルが所定の濃度以下となるまで処理された後に、汚泥は沈殿され、処理済みの上澄水は処理水として排水される。沈殿した汚泥は引き抜かれ、公知の脱水機4により脱水され、脱水ケーキと脱離水とに分離される。脱水ケーキは、環状エーテル等の汚染物質濃度が十分に低いため、一般産業廃棄物として処理することができる。
図1に示すシステムでは、脱離水は、活性汚泥処理槽1に返送される。脱離水は、環状エーテル処理槽2や余剰汚泥処理槽3に返送することもでき、汚染物質の濃度が十分に低い場合は処理水として排水することもできる。
【実施例0024】
・余剰汚泥
活性汚泥処理法の余剰汚泥を種汚泥として培養した汚泥を余剰汚泥とした。
蒸留水で2回洗浄した余剰汚泥を、500mg/Lの1,4-ジオキサンを含む無機塩培地溶液(培地組成:K2HPO4:1g/L、(NH4)2SO4:1g/L、NaCl:50mg/L、MgSO4・7H2O:200mg/L、FeCl3:10mg/L、CaCl2:50mg/L、pH:7.3)に懸濁させ、環状エーテルを含む余剰汚泥を作成した。
【0025】
・N23株
N23株は、500mg/Lになるようにジオキサンを加えたMGY培地(Malt Extract:10g/L、グルコース:4g/L、Yeast Extract:4g/L、pH7.3)を用いて7日間回転振盪培養(28℃、120rpm)した。この培養液を、10000×g、4℃、10分間遠心分離して集菌し、炭素源を含まない無機塩培地(培地組成:K2HPO4:1g/L、(NH4)2SO4:1g/L、NaCl:50mg/L、MgSO4・7H2O:200mg/L、FeCl3:10mg/L、CaCl2:50mg/L、pH:7.3)を用いて二回洗浄した後、菌体濃度が4000mg-dry cell/Lになるように同無機塩培地に懸濁し、これをN23株植菌液として用いた。
【0026】
・菌体濃度
N23株の菌体タンパク濃度は、既報(Meyers et al., Novel method for rapid measurement of growth of mycobacteria in detergent-free media, J. Clin. Microbiol., 36 (9) 2752~2754 (1998))に準じて測定した。N23株の乾燥菌体重量及び微生物濃度は、ガラス繊維濾紙GF/B(粒子保持能 1.0μm、Whatman)を用いて試料をろ過し、105℃にて2時間乾燥した後の重量から、ろ過前のフィルター重量を差し引いて求めた。
【0027】
実験1:余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)
環状エーテルを含む余剰汚泥の懸濁液に対して、N23株植菌液を、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)が、0.01、0.02、0.05、0.10、0.25となるように添加し、25℃にて回転振盪培養を行った。また、コントロールとして、1000mg/Lの1,4-ジオキサンを含む無機塩培地溶液にN23株の菌体濃度が200、1,000及び5,000mg/Lになるように調整した以外は同様にして、ブランク試験(余剰汚泥0mg/L)を行った。
試験期間中にジオキサン濃度を適宜、ヘッドスペースGC/MS(QP2010PLUS、TURBOMATRIX HS40)で測定し、ジオキサン分解速度(mg/L/日)を算出した。また、N23株と汚泥の濃度比がジオキサン分解速度に及ぼす影響を評価するために、濃度比0.01~0.25におけるジオキサン分解速度に対してブランクのジオキサン分解速度を除することで、ジオキサン分解速度の相対値を算出した。結果を表1、2、
図2に示す。
【0028】
【0029】
【0030】
余剰汚泥に対するN23株の濃度比が大きくなりすぎると、N23株の菌体量が増えているにもかかわらず分解速度が低下した。このことから、余剰汚泥濃度に対するN23株濃度の比(N23株/余剰汚泥)は最適値が存在し、
図2に示す通り、この濃度比が0.008~0.17の範囲内において、ジオキサン分解速度はブランク(余剰汚泥なし)の場合に対して50%以上の相対値を維持できることが確かめられた。
【0031】
実験2:余剰汚泥処理時のBOD濃度の影響
環状エーテルを含む余剰汚泥の懸濁液(余剰汚泥の終濃度:10,000mg/L)に、N23株植菌液とBOD成分としてグルコース溶液を所定量添加し、25℃にて回転振盪培養を行った。N23株の菌体濃度は200mg/L及び1000mg/Lとした。また、グルコース終濃度は94~936mg/Lとし、各グルコース濃度の全酸素要求量の56%をBOD濃度とした(久大芳夫、TOD、TOCの測定法、環境技術、1980)。
試験期間中に、溶液中のジオキサン濃度をヘッドスペースGC/MS(QP2010PLUS、TURBOMATRIX HS40)で測定した。菌体濃度200mg/L、1000mg/Lの結果をそれぞれ
図3、4に示す。
【0032】
N23株の菌体濃度が200mg/L、1000mg/Lの実験系のいずれも、BOD濃度が低いほどジオキサン分解が早く進むことが確かめられた。このことから、BOD濃度が高くなると余剰汚泥中の微生物が優先的に活動するため、N23株の活動が抑制されて環状エーテルの生分解が進行しにくくなることが確かめられた。