(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105837
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230725BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M7/48 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006810
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】足利 亨
(72)【発明者】
【氏名】堀邊 隆介
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770AA05
5H770DA01
5H770DA44
5H770EA01
5H770FA01
5H770GA17
5H770HA01Y
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】負荷容量の異なる容量性負荷に対応することができるインバータ装置を提供する。
【解決手段】直流の入力電圧Vinから変換した矩形波状のPWM波形にフィルタ処理を施した交流の出力電圧Voutで接続された容量性負荷CLを駆動するインバータ装置20であって、容量性負荷CLとでPWM波形を平滑化するLCフィルタを構成するリアクトルLfと、容量性負荷CLに並列に接続されたコンデンサC_addとスイッチ素子SW3とからなる直列回路と、容量性負荷CLの負荷容量を検出する負荷容量検出部21と、負荷容量検出部21によって検出された負荷容量の大小を判定し、負荷容量が大きいと判定した場合にスイッチ素子SW3をオフ状態に制御し、負荷容量が小さいと判定した場合にスイッチ素子SW3をオン状態に制御する負荷容量判定部22とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流の入力電圧から変換した矩形波状のPWM波形にフィルタ処理を施した交流の出力電圧で接続された容量性負荷を駆動するインバータ装置であって、
前記容量性負荷とで前記PWM波形を平滑化するLCフィルタを構成するリアクトルと、
前記容量性負荷に並列に接続されたコンデンサとスイッチ素子とからなる直列回路と、
前記容量性負荷の負荷容量を検出する負荷容量検出部と、
前記負荷容量検出部によって検出された前記負荷容量の大小を判定し、前記負荷容量が大きいと判定した場合に前記スイッチ素子をオフ状態に制御し、前記負荷容量が小さいと判定した場合に前記スイッチ素子をオン状態に制御する負荷容量判定部と、を具備することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記負荷容量検出部は、前記出力電圧のリプル電圧もしくは前記容量性負荷に流れる出力電流のリプル電流に基づいて前記負荷容量を検出することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記負荷容量検出部は、前記リプル電圧もしくは前記リプル電流を検出するハイパスフィルタで構成され、
前記負荷容量判定部は、前記負荷容量検出部によって検出された前記リプル電圧もしくは前記リプル電流に応じた制御電圧を出力する積分回路で構成され、
前記スイッチ素子は、前記負荷容量判定部から出力される前記制御電圧に応じてオン・オフ制御される半導体素子で構成されていることを特徴とする請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
起動開始時に所望の前記出力電圧よりも低い検出用電圧を出力する検出期間を設け、前記検出期間の経過後に所望の前記出力電圧の出力を開始することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインバータ装置。
【請求項5】
起動開始時に前記スイッチ素子を強制的に前記オン状態に制御する強制オン回路を具備することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流を交流に変換するインバータ装置に関し、特に、誘電エラストマアクチュエータ等の容量性負荷を交流で駆動するインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
容量性負荷である誘電エラストマアクチュエータの駆動方法(電圧の印加方法)として、周期的な直流電圧を印加する周期的駆動方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。周期的駆動方法は、誘電エラストマアクチュエータを波形に追従させて周期的に変位させることができ、ハプティクス(触覚技術)等の用途に適している。誘電エラストマアクチュエータはコンデンサ構造であり、印加電圧に応じた変位が発生する。従って、発生させたい変位に応じた電圧を印加する必要があるため、電圧を任意に制御できる電源が必要となる。
【0003】
容量性負荷CLである誘電エラストマアクチュエータを駆動する電源システム例を
図12(a)に示す。
図12(a)に示す電源システムは、DC/DCコンバータであるコンバータ装置1とDC/ACインバータであるPWM方式のインバータ装置2の2段構成であり、正の任意の交流電圧を出力電圧Voutとして出力する。
【0004】
インバータ装置2は、2個のスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2と、リアクトルLfと、コンデンサC0とを備えたハーフブリッジインバータである。
図12(b)を参照すると、コンバータ装置1から入力される直流の入力電圧は、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2のオン・オフ制御によって矩形波状のPWM波形に変換される。そして、変換されたPWM波形は、リアクトルLf及びコンデンサC0で構成されるLCフィルタを用いて平滑化され、交流の出力電圧Voutとして出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘電エラストマアクチュエータ等の容量性負荷CLをインバータ装置2に接続したときの回路は、
図13(a)のようになり、コンデンサC0と容量性負荷CLとが並列に接続され、(Cf+CL)の値がLCフィルタのフィルタ容量として動作することになる。
【0007】
容量性負荷CLの負荷容量が十分に大きい場合、容量性負荷CLがLCフィルタのフィルタ容量として十分に動作し、
図14(a)に示すように、出力電圧Voutのリプルを小さくすることができる。従って、実動作において、コンデンサC0は、無くても良い。
【0008】
しかし、容量性負荷CLの負荷容量が小さい場合、コンデンサC0が十分に大きくないと、
図14(b)に示すように、出力電圧Voutのリプルが増大してしまう。そのため、実際の設計では、無負荷時(容量性負荷CL=0pF)や軽負荷時(容量性負荷CLが小さい)を考慮して、コンデンサC0の容量を十分に大きく設計することになる。
【0009】
ところが、コンデンサC0の容量を十分に大きくした場合、無駄な内部電流I_Cfが増加してしまい、出力電流Ioutとして取り出せる電流量が減ってしまう。また、無駄な内部電流I_Cfによって、スイッチング素子SW1、SW2やリアクトルLfの損失の増大や部品定格が高くなってしまう。
【0010】
図13(b)に示すように、インバータ装置2の出力電圧Voutが振幅Va、周波数f(=1/T)であるとすると、容量性負荷CLに流れる出力電流Ioutは、
Iout=Va/Z_CL=2πf・CL・Va (式A)
となる。
【0011】
また、コンデンサC0に流れる内部電流I_Cfも同様に下記で表せ、
I_Cf=Va/Z_Cf=2πf・Cf・Va (式B)
となる。
【0012】
そして、リアクトルLfを流れる電流I_Lfは、出力電流Ioutと内部電流I_Cfとの和なので、
I_Lf=Iout+I_Cf=2πf・(CL+Cf)・Va (式C)
となる。
【0013】
式Aより、出力電流IoutにコンデンサC0の値は関与しない。しかし、式CからわかるようにコンデンサC0の値が大きいほどリアクトルLfを流れる電流I_Lfが大きくなる。当然、スイッチング素子SW1、SW2に流れる電流も電流I_Lfに応じで大きくなる。
【0014】
すなわち、コンデンサC0が大きいほどスイッチング素子SW1、SW2、リアクトルLfなど出力電流Ioutに関与しない内部電流I_Cfでの電流損失が大きくなってしまう。そして、コンデンサC0が大きく内部電流I_Cfが大きいほど入力電流Iinも大きくなってしまうため、同じVinの電源容量が同じであれば、コンデンサC0に流れる内部電流I_Cfのぶんだけ出力電流Ioutとして出力できる電流量が減ってしまうことになる。だからといってコンデンサC0をむやみに小さく設計してしまうと、リアクトルLfとコンデンサC0で構成されるLCフィルタのカットオフ周波数があがってしまい、出力電圧Voutのリプルが大きくなってしまう。
【0015】
本発明は斯かる問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、負荷容量の異なる容量性負荷に対応することができるインバータ装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るインバータ装置は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
本発明に係るインバータ装置は、直流の入力電圧から変換した矩形波状のPWM波形にフィルタ処理を施した交流の出力電圧で接続された容量性負荷を駆動するインバータ装置であって、前記容量性負荷とで前記PWM波形を平滑化するLCフィルタを構成するリアクトルと、前記容量性負荷に並列に接続されたコンデンサとスイッチ素子とからなる直列回路と、前記容量性負荷の負荷容量を検出する負荷容量検出部と、前記負荷容量検出部によって検出された前記負荷容量の大小を判定し、前記負荷容量が大きいと判定した場合に前記スイッチ素子をオフ状態に制御し、前記負荷容量が小さいと判定した場合に前記スイッチ素子をオン状態に制御する負荷容量判定部と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインバータ装置は、容量性負荷の容量が大きい場合に、無駄な内部電流を低減させて、損失の低減、出力容量の増大の効果を得ることができる共に、容量性負荷の容量が小さい場合に、リプル電圧やリプル電流を低減することができるため、負荷容量の異なる容量性負荷に対応することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るインバータ装置の実施の形態の構成を示す回路図である。
【
図2】
図1に示すインバータ装置の回路構成を説明する回路図である。
【
図3】
図1に示すインバータ装置の特性を示す図である。
【
図4】
図1に示すインバータ装置の動作を示す波形図である。
【
図5】
図1に示すインバータ装置の動作の改良例を示す波形図である。
【
図6】本発明に係るインバータ装置の第1の変形例を示す回路図である。
【
図7】
図6に示すインバータ装置の動作を示す波形図である。
【
図8】本発明に係るインバータ装置の第2の変形例を示す回路図である。
【
図9】本発明に係るインバータ装置の第3の変形例を示す回路図である。
【
図10】
図1に示す負荷容量検出部及び負荷容量判定部の変形例を示す図である。
【
図11】
図9に示す負荷容量算出部による算出方法を説明する波形図である。
【
図12】従来の電源装置の構成例を示す回路図である。
【
図13】
図12に示すインバータ装置を流れる電流を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施の形態のインバータ装置20は、
図1を参照すると、高電位側入力端子Tin
+と低電位側入力端子Tin
-との間に接続された直流の入力電圧Vinを交流の出力電圧Voutに変換し、変換した出力電圧Voutを高電位側出力端子Tout
+と低電位側出力端子Tout
-との間に接続された誘電エラストマアクチュエータ等の容量性負荷CLに出力する。
【0021】
本実施の形態のインバータ装置20は、2個のスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2と、リアクトルLf、コンデンサC0と、コンデンサC_addと、スイッチ素子SW3と、負荷容量検出部21と、負荷容量判定部22とを備えている。
【0022】
スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2は、高電位側入力端子Tin+と低電位側入力端子Tin-との間に直列に接続されている。本実施の形態では、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2は、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)で構成される。
【0023】
上アームスイッチとして機能するスイッチング素子SW1は、ドレインが高電位側入力端子Tin+に接続されていると共に、ソースが下アームスイッチとして機能するスイッチング素子SW2のドレインに接続され、スイッチング素子SW2のソースが低電位側入力端子Tin-に接続されている。
【0024】
インバータ制御装置30によってスイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2のオン・オフ制御(PWM制御)することで、スイッチング素子SW1のソースとスイッチング素子SW2のドレインとの接続点の電圧Vrは、矩形波状のPWM波形となる。
【0025】
リアクトルLfは、一端がスイッチング素子SW1のソースとスイッチング素子SW2のドレインとの接続点に、他端が高電位側出力端子Tout+にそれぞれ接続されている。そして、コンデンサC0は、一端がリアクトルLfの他端と高電位側出力端子Tout+との接続点に、他端が低電位側入力端子Tin-と低電位側出力端子Tout-とを接続する低電位側電源ラインGにそれぞれ接続されている。
【0026】
コンデンサC_addとスイッチ素子SW3とは、直列に接続され、コンデンサC0と並列に接続されている。スイッチ素子SW3は、MOSFETで構成され、ドレインがコンデンサC_addを介してリアクトルLfの他端と高電位側出力端子Tout+との接続点に、ソースが低電位側電源ラインGにそれぞれ接続されている。
【0027】
これにより、
図2(a)に示すように、スイッチ素子SW3がオン状態では、リアクトルLfと、並列に接続されたコンデンサC0、コンデンサC_add及び容量性負荷CLとが電圧Vr(矩形波状のPWM波形)を平準化するLCフィルタ(ローパスフィルタ)として機能する。すなわち、コンデンサC0+コンデンサC_add+容量性負荷CLがLCフィルタの容量成分となる。
【0028】
図2(b)に示すように、スイッチ素子SW3がオフ状態では、リアクトルLfと、並列に接続されたコンデンサC0及び容量性負荷CLとが電圧Vr(矩形波状のPWM波形)を平準化するLCフィルタとして機能する。すなわち、コンデンサC0+容量性負荷CLがLCフィルタの容量成分となる。なお、コンデンサC0は、十分に小さな値、あるいは0pF(無:OPEN)に設定され、実質的に容量性負荷CLがLCフィルタの容量成分となる。
【0029】
負荷容量検出部21は、容量性負荷CLの容量を検出し、検出結果を負荷容量判定部22に出力する。負荷容量検出部21は、例えば、出力電圧Voutにおけるリプル電圧の大小に基づいて容量性負荷CLの容量を検出する。すなわち、容量性負荷CLの容量が小さいほど、出力電圧Voutにおけるリプル電圧が大きくなるため、出力電圧Voutにおけるリプル電圧の大小に基づいて、容量性負荷CLの容量を検出することができる。
【0030】
図1に示す回路例において、負荷容量検出部21は、コンデンサC1と抵抗R1とが直列に接続されたハイパスフィルタで構成されている。コンデンサC1は、一端が高電位側出力端子Tout
+に、他端が抵抗R1の一端にそれぞれ接続され、抵抗R1の他端が低電位側出力端子Tout
-に接続されている。コンデンサC1と抵抗R1との接続点が検出結果の負荷容量判定部22への出力端子となり、負荷容量検出部21は、出力電圧Voutのリプル電圧に応じて、リプル電圧が大きいほど高い検出電圧を検出結果として出力する。
【0031】
負荷容量判定部22は、負荷容量検出部21の検出結果に基づいて容量性負荷CLの容量を判定し、判定結果に応じて、容量性負荷CLの容量が十分に大きい場合にスイッチ素子SW3をオフ状態とし、容量性負荷CLの容量が小さい場合にスイッチ素子SW3をオン状態とする。
【0032】
図1に示す回路例おいて、負荷容量判定部22は、抵抗R2とコンデンサC2と備えた積分回路で構成され、ダイオードD2を介して負荷容量検出部21の検出結果が入力される。ダイオードD2は、アノードが負荷容量検出部21の出力端子(コンデンサC1と抵抗R1との接続点)に接続され、カソードが抵抗R2を介してスイッチ素子SW3のゲートにそれぞれ接続されている。そして、コンデンサC2は、抵抗R2とスイッチ素子SW3のゲートとの接続点と、低電位側電源ラインGとの間に接続されている。抵抗R2とコンデンサC2との接続点がスイッチ素子SW3のゲートへの出力端子となり、負荷容量判定部22は、負荷容量検出部21の検出電圧が高いほど高い制御電圧を出力し、負荷容量判定部22から出力される制御電圧がゲート電圧Vgとしてスイッチ素子SW3のゲートに印加される。なお、コンデンサC2は、スイッチ素子のゲート寄生容量で代用しても良い。その場合は、コンデンサC2は省略できる。
【0033】
図3(a)を参照すると、容量性負荷CLが予め設定された負荷容量C
aよりも小さい場合、LCフィルタのカットオフ周波数が高くなるので、出力電圧Voutのリプル電圧が大きくなってしまう。なお、
図3(a)は、負荷容量-リプル電圧特性であり、実線は本実施の形態のインバータ装置20のものを、点線は従来のインバータ装置2のものをそれぞれ示す。
【0034】
リプル電圧が大きいと高調波成分が多くなり、ハイパスフィルタで構成された負荷容量検出部21から出力される検出電圧も高くなる。そして、積分回路で構成された負荷容量判定部22から出力される制御電圧(ゲート電圧Vg)がスイッチ素子SW3の閾値電圧Vthより十分に高くなって、
図2(a)に示すように、スイッチ素子SW3がオン状態となり、コンデンサC0+コンデンサC_add+容量性負荷CLがLCフィルタの容量成分となる。スイッチ素子SW3をMOSFETで構成した場合、オン状態のスイッチ素子SW3は、電流電圧特性における線形領域で動作することになる。
【0035】
すなわち、容量性負荷CLが小さい場合には、コンデンサC_addによってLCフィルタの容量値を増やし(LCフィルタのカットオフ周波数を下げて)、コンデンサC0と容量性負荷CLでLCフィルタを構成した従来回路(インバータ装置2)に比べて、リプル低減効果を増すことができる。
【0036】
図3(a)を参照すると、容量性負荷CLが予め設定された負荷容量C
b(>負荷容量Ca)よりも大きい場合、LCフィルタのカットオフ周波数が低くなるので、出力電圧Voutのリプル電圧が小さく抑えられる。
【0037】
リプル電圧が小さいと高調波成分が少なくなり、ハイパスフィルタで構成された負荷容量検出部21から出力される検出電圧も低くなる。そして、積分回路で構成された負荷容量判定部22から出力される制御電圧(ゲート電圧Vg)がスイッチ素子SW3の閾値電圧Vthより十分に低くなって、
図2(b)に示すように、スイッチ素子SW3がオフ状態となり、コンデンサC0+容量性負荷CLがLCフィルタの容量成分となる。スイッチ素子SW3をMOSFETで構成した場合、オフ状態のスイッチ素子SW3は、電流電圧特性における遮断領域で動作することになる。
【0038】
すなわち、容量性負荷CLが大きく、LCフィルタの容量成分として容量性負荷CLのみで充分リプル除去効果が得られる場合、コンデンサC_addを切り離すことにより、出力に関係のないコンデンサC_addの流れる無効電流を減らすことができる。
【0039】
なお、容量性負荷CLが負荷容量Caと負荷容量Cbとの間の値の場合、MOSFETで構成されたスイッチ素子SW3は、
図2(c)に示すように、負荷容量判定部22から出力される制御電圧(ゲート電圧Vg)に依存した抵抗状態となる。抵抗状態のスイッチ素子SW3は、電流電圧特性における飽和領域で動作することになる。
【0040】
抵抗状態では、リプル電圧が大きくなると、負荷容量判定部22から出力される制御電圧(ゲート電圧Vg)が高くなり、制御電圧(ゲート電圧Vg)が高くなると、リプル電圧が小さくなるという負帰還制御によって、スイッチ素子SW3の状態が安定する。この結果、抵抗状態の区間では、リプル電圧が一定制御されることになる。
【0041】
図3(b)は、負荷容量-入力電流特性であり、実線は本実施の形態のインバータ装置20のものを、点線は従来のインバータ装置2のものをそれぞれ示す。コンデンサC0のみでLCフィルタを構成した従来回路(インバータ装置2)において、インバータ装置20の入力電流Iinは、
図3(b)に点線で示すように、容量性負荷CLの負荷容量に比例して上がる。そして、入力電流Iinは、入力電源Vinの電流供給能力で制限され、負荷容量をC
Cで入力電源Vinから出力できる最大の入力電流Iin(max)となる。
【0042】
これに対し、本実施の形態のインバータ装置20では、コンデンサC0を十分に小さな値、あるいは0pF(無:OPEN)に設定することで、容量性負荷CLが大きい場合、実質的に容量性負荷CLのみをLCフィルタの容量成分とすることができ、内部電流I_Cfを減らすもしくは無くして、入力電流Iinを減らすことができる。減らせた電流分は出力に使うことができるため、本実施の形態のインバータ装置20は、負荷容量CCより大きい容量値Cdの容量性負荷CLまで駆動できることになる。また、無効電流が減ることで部品の電流定格を下げられるため、価格や外形にメリットがだせる。
【0043】
本実施の形態のインバータ装置20では、出力電圧Voutのリプル電圧が大きいことを検出し、積分回路で構成した負荷容量判定部22が出力する制御電圧(ゲート電圧Vg)を上昇させ、スイッチ素子SW3をオン状態とすることで、リプル電圧を抑制している。従って、
図4に示すように、起動開始時刻taからスイッチ素子SW3がオン状態となるまでに遅延時間Txが発生する。この遅延時間Txの間は、リプル電圧が大きい状態となり、場合によっては問題になる。
【0044】
そこで、インバータ制御装置30は、
図5に示すように、起動開始時刻tbから所望の出力電圧Voutの出力を開始するまでに、所望の出力電圧Voutよりも低い検出用電圧を出力する検出期間Tyを設けると良い。検出期間Tyは、負荷容量検出部21が容量性負荷CLの負荷容量を検出し、負荷容量判定部22が容量性負荷CLの負荷容量の大小を判定する時間を確保するための期間である。低い検出用電圧でもリプル電圧は発生するため、検出期間Tyの間に負荷容量判定部22が出力する制御電圧(ゲート電圧Vg)を上昇させ、スイッチ素子SW3をオン状態とさせる。これにより、容量性負荷CLが小さい場合でも、所望の出力電圧Voutの出力開始からリプル電圧の少ない出力電圧Voutを容量性負荷CLに供給することが可能となる。
【0045】
また、
図6に示すインバータ装置20Aのように、起動時にゲート電圧Vgを上昇させ、強制的にスイッチ素子SW3をオン状態にさせる強制オン回路23を設けても良い。インバータ装置20Aは、インバータ制御装置30に起動を指示する起動信号Vsの入力を受け付ける起動信号入力端子Tstartを有し、強制オン回路23は、
図7に示すように、起動時(時刻Tc)にハイレベルとなる起動信号Vsを用いて起動時にゲート電圧Vgを上昇させる。強制オン回路23は、起動信号入力端子Tstartと接地端子との間に接続されたコンデンサC3と抵抗R3とからなる直列回路を備え、コンデンサC3と抵抗R3との接続点がダイオードD3を介してスイッチ素子SW3のゲートに接続されている。
【0046】
インバータ装置20Aでは、容量性負荷CLの負荷容量が大きい場合もスイッチ素子SW3がオン状態で起動されるため、起動時に無駄な内部電流(コンデンサC_addに流れる電流)が短期間発生するが、容量性負荷CLの負荷容量が小さいときに起動時に発生する大きなリプル電圧を抑制することができる。
【0047】
本実施の形態のインバータ装置20では、出力電圧Voutのリプル電圧の大きさを検出してスイッチ素子SW3をオン状態、抵抗状態、オフ状態に連続的に遷移させているため、広い容量範囲の容量性負荷CLにおいて安定した制御を得ることができる。しかし、スイッチ素子SW3が抵抗状態の場合において、スイッチ素子SW3に流れる電流により発生する損失が無視できない場合がある。すなわち、電流が大きいアプリケーションの場合、スイッチ素子SW3のゲートでの損失が大きくなってしまう。
【0048】
この場合、
図8(a)に示すインバータ装置20Bのように、積分回路で構成した負荷容量判定部22の後段にコンパレータCPを設け、コンパレータCPの出力をスイッチ素子SW3のゲートに印加するゲート電圧Vgとすると良い。コンパレータCPを設けることで、スイッチ素子SW3をオン状態とオフ状態の2つに限定でき、スイッチ素子SW3が抵抗状態にならないため損失を回避できる。
【0049】
ただし、負荷容量判定部22がコンパレータCPのしきい値付近になってしまう場合、スイッチ素子SW3がオン状態とオフ状態との間の遷移を繰り返してしまい、不安定な制御になってしまう虞がある。そのため、コンパレータCPを設ける手法は、容量性負荷CLの負荷容量が限定されている場合に特に有利である。例えば、
図8(b)に示すように、容量性負荷CLの負荷容量が容量値C
d、容量値C
eの2つに限定されているアプリケーションの場合、容量値C
dと容量値C
eとの間の容量値C
fでコンパレータCPの出力が切り替わるように、コンパレータCPのしきい値を設定すれば良い。
【0050】
本実施の形態のインバータ装置20では、出力電圧Voutの高調波成分であるリプル電圧の大小によって容量性負荷CLの負荷容量が推定しているが、
図9に示すインバータ装置20Cのように、出力電流Ioutの高調波成分であるリプル電流の大小によって容量性負荷CLの負荷容量が推定しても良い。
【0051】
インバータ装置20Cは、出力電流Ioutを検出するセンス抵抗Rsを備え、センス抵抗Rsで電圧に変換された出力電流Ioutをハイパスフィルタで構成された負荷容量検出部21の入力にしている。
【0052】
負荷容量検出部21及び負荷容量判定部22は、
図10に示すように、マイコン40で構成しても良い。
図10に(a)示すマイコン40は、負荷容量検出部21を電圧測定部211と負荷容量算出部212とで構成している。電圧測定部211は、抵抗R41、R42を備えた電圧検出回路24で分圧された出力電圧値VAを出力電圧Voutとして検出する。負荷容量算出部212は、電圧測定部211によって検出された出力電圧値VAのリプル電圧を測定し、測定したリプル電圧から予め設定された変換式や変換テーブルを用いて容量性負荷CLの負荷容量を算出する。
【0053】
図10(b)に示すマイコン40は、負荷容量検出部21を電流測定部213と負荷容量算出部212とで構成している。電圧測定部211は、センス抵抗Rsで電圧に変換された出力電流値IAを出力電流Ioutとして検出する。負荷容量算出部212は、電流測定部213によって検出された出力電流値IAのリプル電圧を測定し、測定したリプル電流から予め設定された変換式や変換テーブルを用いて容量性負荷CLの負荷容量を算出する。
【0054】
負荷容量算出部212によるリプル電圧(電流)の測定は、
図11(a)に示すように、リプル電圧(電流)の振動の幅を測定しても良く、
図11(b)に示すように、リプル電圧の振幅を測定しても良い。また、
図11(c)に示すように、リプル電圧(電流)のハイパスフィルタ処理した後の振幅を測定しても良い。なお、
図11に示す点線は、出力電圧値VA(出力電流値IA)の目標値である。
【0055】
負荷容量判定部22をマイコン40で構成した場合、負荷容量判定部22は、負荷容量検出部21で算出された容量性負荷CLの負荷容量と予め設定された閾値とを比較し、容量性負荷CLの負荷容量が閾値を上回る場合にスイッチ素子SW3をオフ状態とし、容量性負荷CLの負荷容量が閾値以下の場合にスイッチ素子SW3をオン状態とする。
【0056】
なお、容量性負荷CLの負荷容量は、出力電圧Voutのリプル電圧や出力電流Ioutのリプル電流を用いることなく、他の方法を用いて測定しても良い。例えば、起動時に容量性負荷CLを定電流で充電し、設定電圧までの到達時間や電圧の上昇角度によって容量性負荷CLの負荷容量を測定することができる。この場合、負荷容量判定部22は、容量性負荷CLの負荷容量の判定結果を起動中は保持することで、スイッチ素子SW3のオン状態もしくはオフ状態を維持すると良い。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態は、直流の入力電圧Vinから変換した矩形波状のPWM波形にフィルタ処理を施した交流の出力電圧Voutで接続された容量性負荷CLを駆動するインバータ装置20であって、容量性負荷CLとでPWM波形を平滑化するLCフィルタを構成するリアクトルLfと、容量性負荷CLに並列に接続されたコンデンサC_addとスイッチ素子SW3とからなる直列回路と、容量性負荷CLの負荷容量を検出する負荷容量検出部21と、負荷容量検出部21によって検出された負荷容量の大小を判定し、負荷容量が大きいと判定した場合にスイッチ素子SW3をオフ状態に制御し、負荷容量が小さいと判定した場合にスイッチ素子SW3をオン状態に制御する負荷容量判定部22とを備えている。
この構成により、容量性負荷CLの容量が大きい場合に、無駄な内部電流を低減させて、損失の低減、出力容量の増大の効果を得ることができる共に、容量性負荷CLの容量が小さい場合に、リプル電圧やリプル電流を低減することができるため、負荷容量の異なる容量性負荷に対応することができる。
【0058】
さらに、本実施形態において、負荷容量検出部21は、出力電圧Voutのリプル電圧もしくは容量性負荷CLに流れる出力電流Ioutのリプル電流に基づいて負荷容量を検出する。
この構成により、容量性負荷CLの負荷容量を簡単に検出することができる。
【0059】
さらに、本実施形態において、負荷容量検出部21は、リプル電圧もしくはリプル電流を検出するハイパスフィルタで構成され、負荷容量判定部22は、負荷容量検出部21によって検出されたリプル電圧もしくはリプル電流に応じた制御電圧(ゲート電圧Vg)を出力する積分回路で構成され、スイッチ素子SW3は、負荷容量判定部22から出力される制御電圧(ゲート電圧Vg)に応じてオン・オフ制御される半導体素子であるMOSFETで構成されている。
この構成により、簡易な少ない部品点数で負荷容量検出部21及び負荷容量判定部22を構成できる。
【0060】
さらに、本実施形態において、起動開始時に所望の前記出力電圧よりも低い検出用電圧を出力する検出期間Tyを設け、検出期間Tyの経過後に所望の出力電圧Voutの出力を開始する。
この構成により、容量性負荷CLが小さい場合でも、所望の出力電圧Voutの出力開始からリプル電圧の少ない出力電圧Voutを容量性負荷CLに供給することが可能となる。
【0061】
さらに、本実施形態において、起動開始時にスイッチ素子SW3を強制的にオン状態に制御する強制オン回路23を備えている。
この構成により、容量性負荷CLの負荷容量が小さいときに起動時に発生する大きなリプル電圧を抑制することができる。
【0062】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、同一構成要素には、各図において、同一符号を付している。
【符号の説明】
【0063】
1 コンバータ装置
2、20、20A、20B、20C インバータ装置
21 負荷容量検出部
22 負荷容量判定部
23 強制オン回路
24 電圧検出回路
30 インバータ制御装置
40 マイコン
211 電圧測定部
212 負荷容量算出部
213 電流測定部
C0、C1、C2、C3、C_add コンデンサ
CL 容量性負荷
CP コンパレータ
D2、D3 ダイオード
Lf リアクトル
R1、R2、R3、R41、R42 抵抗
Rs センス抵抗
SW1、SW2 スイッチング素子
SW3 スイッチ素子