(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105838
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ハイブリッド顕微鏡装置及び顕微鏡システム
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20230725BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230725BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20230725BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20230725BHJP
【FI】
G02B21/00
H01J37/28 B
H01J37/22 502L
H01J37/22 502A
G01N23/2251
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006812
(22)【出願日】2022-01-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520374612
【氏名又は名称】NanoSuit株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】針山 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 直人
(72)【発明者】
【氏名】大野 輝昭
【テーマコード(参考)】
2G001
2H052
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001AA07
2G001BA05
2G001BA07
2G001BA15
2G001CA01
2G001CA03
2G001DA05
2G001JA14
2G001LA01
2G001PA07
2G001QA01
2H052AC05
2H052AC09
2H052AC31
2H052AC33
2H052AD03
2H052AF10
2H052AF14
2H052AF25
5C101AA03
5C101KK01
(57)【要約】
【課題】別個の顕微鏡を用いることなく、単一の顕微鏡装置において、同一試料の同一箇所を、透過光による光学顕微鏡観察と走査型電子顕微鏡観察することができる装置を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置100は、観察対象試料に対して電子線照射するのと同じ側に光学顕微鏡観察のための光源122を備え、観察対象試料の透過光像を取得する光学像ディテクター121が観察対象試料に対して電子線照射側と反対側に配置されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象試料に対して電子線照射するのと同じ側に光学顕微鏡観察のための光源を備え、観察対象試料の透過光像を取得する光学像ディテクターが観察対象試料に対して電子線照射側と反対側に配置されていることを特徴とする、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡のハイブリッド顕微鏡装置。
【請求項2】
光学像ディテクターがCCD及びCMOSから選ばれるディテクターであり、当該ディテクターが実質的に観察対象試料を載せる試料台の機能を有することを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド顕微鏡装置。
【請求項3】
光学像ディテクターの受光面積が、観察対象試料の面積よりも大きく、光学像ディテクターと観察対象試料との間に光学像ディテクターを構成する光学部品とは別個の集光型の光学系を有さない、請求項1または2に記載のハイブリッド顕微鏡装置。
【請求項4】
光学像ディテクターを構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を走査型電子顕微鏡による観察対象試料の拡大観察に際しての位置合わせのために利用可能に構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド顕微鏡装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド顕微鏡装置と、分析装置を備え、
当該分析装置は、
ハイブリッド顕微鏡装置の動作を制御する制御部と、
ハイブリッド顕微鏡装置により得られた走査型電子顕微鏡像及び光学顕微鏡像に関する画像情報を取得する画像取得部と、
制御部及び画像取得部からのデータを処理するデータ処理部と、
データ処理部での処理結果を出力する出力部を備え、
ハイブリッド顕微鏡装置の試料室内に配置された試料を走査型電子顕微鏡観察及び光学顕微鏡観察する、
ハイブリッド顕微鏡システム。
【請求項6】
分析装置は、ハイブリッド顕微鏡装置の光学像ディテクターを構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を取得し、当該座標情報を利用して走査型電子顕微鏡による観察対象試料の拡大観察に際しての位置合わせのためにハイブリッド顕微鏡装置の動作を制御可能に構成されている、請求項5に記載のハイブリッド顕微鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド顕微鏡装置及び顕微鏡システムに関し、特に、光学顕微鏡の機能と走査型電子顕微鏡の機能を備えた、多目的型の顕微鏡装置及び顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病理組織の研究や診断などのために、光-電子相関顕微鏡法(Correlative Light and Electron Microscopy:CLEM)が使用されるようになってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光学顕微鏡で観察するのに使用したスライドグラスを用いて走査電子顕微鏡観察を実行可能な走査電子顕微鏡が開示されている。
また、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡による同一箇所の観察を容易にするCLEM用システムとして、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いたCLEM解析を支援するシステムが開発され、市販されている(株式会社日立ハイテク、MirrorCLEM)。
【0004】
また、特許文献2及び非特許文献1には、走査型電子顕微鏡の観察試料上方からの蛍光顕微鏡観察が可能なような反射型光学系を配したハイブリッド顕微鏡が提案されている。
【0005】
しかしながら、一般的にスライドグラス上の病理組織標本を光学顕微鏡観察する場合は透過光による観察であることが多く、透過光による光学顕微鏡観察と走査型電子顕微鏡観察を組み合わせるCLEMに際しては別々な顕微鏡を使用せざるを得ず、観察操作が煩雑であるとの課題が残っていた。
【0006】
特許文献2には、発明が解決しようとする課題の項において、透視像観察等を行うことも可能な顕微鏡を提供することを目的とすることが記載されているが、発明の詳細な説明には、透視像観察を行うための機構は記載されていない。
【0007】
透過光による光学顕微鏡観察と走査型電子顕微鏡観察を組み合わせたものとしては特許文献3に例示があるが、この装置は大気圧SEMという特殊用途の顕微鏡である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-109171号公報
【特許文献2】特開2014-211448号公報
【特許文献3】特開2018―26197号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】金丸孝昭 ほか,「光子・電子ハイブリッド顕微鏡開発-「FL-SEM」による観察-」,顕微鏡 Vol.46,No.1(2011),p.66-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、病理研究等のためにスライドグラス上の標本を簡易にCLEM観察するニーズは存在するものの、現在までに提供される光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡の併用、またはこれまでに提案されたハイブリッド顕微鏡においては、未だ実用上の課題は解決されていなかった。
【0011】
これに対して本発明者らは、簡易な構造でCLEM観察を可能にする新たなハイブリッド顕微鏡の機構を着想した。
【0012】
本発明の目的は、別個の顕微鏡を用いることなく、単一の顕微鏡装置において、同一試料の同一箇所を、透過光による光学顕微鏡観察と走査型電子顕微鏡観察することができる装置、及び、当該装置を備えるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記課題は、以下の態様を有するハイブリッド顕微鏡装置及び顕微鏡システムにより解決可能となった。
【0014】
[1] 観察対象試料に対して電子線照射するのと同じ側に光学顕微鏡観察のための光源を備え、観察対象試料の透過光像を取得する光学像ディテクターが観察対象試料に対して電子線照射側と反対側に配置されていることを特徴とする、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡のハイブリッド顕微鏡装置。
[2] 光学像ディテクターがCCD及びCMOSから選ばれるディテクターであり、当該ディテクターが実質的に観察対象試料を載せる試料台の機能を有することを特徴とする、[1]のハイブリッド顕微鏡装置。
[3] 光学像ディテクターの受光面積が、観察対象試料の面積よりも大きく、光学像ディテクターと観察対象試料との間に光学像ディテクターを構成する光学部品とは別個の集光型の光学系を有さない、[1]または[2]のハイブリッド顕微鏡装置。
[4] 光学像ディテクターを構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を走査型電子顕微鏡による観察対象試料の拡大観察に際しての位置合わせのために利用可能に構成されている、[1]から[3]のいずれかのハイブリッド顕微鏡装置。
[5] [1]から[4]のいずれかのハイブリッド顕微鏡装置と、分析装置を備え、当該分析装置は、ハイブリッド顕微鏡装置の動作を制御する制御部と、ハイブリッド顕微鏡装置により得られた走査型電子顕微鏡像及び光学顕微鏡像に関する画像情報を取得する画像取得部と、制御部及び画像取得部からのデータを処理するデータ処理部と、データ処理部での処理結果を出力する出力部を備え、ハイブリッド顕微鏡装置の試料室内に配置された試料を走査型電子顕微鏡観察及び光学顕微鏡観察する、ハイブリッド顕微鏡システム。
[6] 分析装置は、ハイブリッド顕微鏡装置の光学像ディテクターを構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を取得し、当該座標情報を利用して走査型電子顕微鏡による観察対象試料の拡大観察に際しての位置合わせのためにハイブリッド顕微鏡装置の動作を制御可能に構成されている、[5]のハイブリッド顕微鏡システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スライドグラス上の病理組織標本等の観察対象試料を簡易にCLEM観察できるハイブリッド顕微鏡装置が提供される。
また、本発明によれば、上記ハイブリッド顕微鏡装置を備えるハイブリッド顕微鏡システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図。
【
図2】本発明の別の実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図。
【
図3】本発明の別の実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図。
【
図4】本発明の別の実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図。
【
図5】本発明の一実施形態に係るハイブリッド顕微鏡システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して説明する。
【0018】
[ハイブリッド顕微鏡装置の構成及び機能]
本発明のハイブリッド顕微鏡装置は、光学顕微鏡の機能と走査型電子顕微鏡の機能を備え、単一の顕微鏡装置により、透過光による光学顕微鏡観察と走査型電子顕微鏡観察の両方を実行可能な、顕微鏡装置である。即ち、本発明の顕微鏡装置は、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡のハイブリッド顕微鏡装置である。
【0019】
本発明のハイブリッド顕微鏡装置は、観察対象試料に対して電子線照射するのと同じ側に光学顕微鏡観察のための光源を備え、観察対象試料の透過光像を取得する光学像ディテクターが観察対象試料に対して電子線照射側と反対側に配置されていることを特徴とする。
【0020】
<実施の形態1>
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態のハイブリッド顕微鏡装置100(以下、単に顕微鏡装置100とも称する。)は、走査型電子顕微鏡部110と、光学顕微鏡部120と、試料室130と、試料室底部材140と、真空排気手段150a、150bを備える。これにより、本実施形態の顕微鏡装置100は、走査型電子顕微鏡機能と、光学顕微鏡機能を具備する。
【0022】
走査型電子顕微鏡部110は、鏡筒111と、対物レンズ112と、電子線ディテクター113を備える。
【0023】
鏡筒111の内部には、電子銃(電子線発生部)が配置されている。電子銃が電子線を発生する原理はいかなるものでも良く、典型的には、熱電子放出型、フィールドエミッション型、ショットキー型が挙げられる。このうち、熱電子放出型を用いることが、装置全体の小型化の点で好ましい。なお、鏡筒111の内部に配置される電子銃及び電子光学部品の構成については、従来の走査型電子顕微鏡と同様の構成を採用することができるので、本明細書では詳細な説明は省略する。
【0024】
対物レンズ112は、鏡筒111の下部末端に配置されている。鏡筒111内の電子銃から放出される電子線は、対物レンズ112によってビーム幅がコントロールされて観察対象試料に照射される。
【0025】
なお、
図1には示していないが、観察対象試料は、後述する光学像ディテクターの上部に載置された状態で、試料室130の底部側から試料室130の内部に導入される。言い換えると、
図1に示す顕微鏡装置100では、観察対象試料は、装置外部の大気圧条件下から試料室130の内部に導入されるように構成されている。但し、試料室130内に観察対象試料を導入する様式はこれに限定されない。
【0026】
電子線ディテクター113は、観察対象試料に電子線が照射されることで発生する反射電子、二次電子を検知し、観察対象試料の走査型電子顕微鏡観察像を与える。ここで、電子線ディテクター113は、蛍光X線を検知する機能を有するものであっても良い。
【0027】
即ち、本実施形態の顕微鏡装置100において、観察対象試料を走査型電子顕微鏡観察する様式はいかなるものでも良く、電子顕微鏡観察における一般的な様式である反射電子モード、二次電子モード、または蛍光X線を検出する様式であっても良い。このうち、本発明においては、反射電子モードまたは二次電子モードによる検出様式が好ましい。
【0028】
光学顕微鏡部120は、光学像ディテクター121と、光源122を備える。
【0029】
光学像ディテクター121は、観察対象試料の透過光像を取得するためのものであり、観察対象試料に対して電子線照射側と反対側に配置されている。
【0030】
光学像ディテクター121としては、CMOS及びCCDが一般的であり、本発明にはいずれも好ましく使用できる。ここで、本実施形態の顕微鏡装置100では、光学像ディテクター121が実質的に観察対象試料を載せる試料台の機能を有することが好ましい。例えば、
図1において、光学像ディテクター121は、試料室底部材140の一部分を構成しており、試料室底部材140は、光学像ディテクター121が位置する部分の上部に、観察対象試料を載置可能に構成されている。
【0031】
また、本実施形態の顕微鏡装置100では、光学像ディテクター121の受光面積が、観察対象試料の面積よりも大きいことが好ましい。例えば、観察対象試料が一般的な病理組織標本である態様では、光学像ディテクター121の受光面積(縦×横のサイズ)は、縦3.5mm×横4.5mm以上が好ましく、より好ましくは縦4.5mm×横5.5mm以上であり、さらに好ましくは縦5.5mm×横7mm以上である。
【0032】
さらに、
図1に示す顕微鏡装置100において、観察対象試料は、光学像ディテクター121上に直接載置することができる。このように、本実施形態の顕微鏡装置100では、光学像ディテクター121と観察対象試料との間に光学像ディテクター121を構成する光学部品とは別個の集光型の光学系を有さないことが好ましい。かかる光学像ディテクターの構成としては、例えば、特開2018-42283号公報に記載のものを採用することができる。
【0033】
光源122は、光学像ディテクター121による観察対象試料の光学顕微鏡観察を行うためのものであり、観察対象試料に対して電子線照射するのと同じ側に配置されている。具体的には、
図1に示す顕微鏡装置100では、光源122は、対物レンズ112の下部末端に配置されている。
【0034】
光源122としてはいかなるものを使用しても良く、例えば、LED(ライト・エミッティング・ダイオード)、水銀ランプ、キセノンランプ等を使用することができるが、LEDが好ましい光源として挙げられる。この場合、LEDは青色光と黄色光を混合した白色LED、または、青色光と緑色光と赤色光を混合した3色混合型白色LEDが好ましく、より好ましくは3色混合型である。また、光源は白色光としてだけでなく、青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ単独で照射できる構成であることが好ましい。また、LEDとは別に、紫外線を照射するUV-LEDを光源122として備える構成も好ましい。
【0035】
図1では、光源122が対物レンズ112の下部両側に配置される例を示しているが、上述したLEDは導光板を介していかなる形状の光源とすることも可能であることは周知であるので、光源122の形状としては、対物レンズ112を囲むようにドーナツ状の形状を有している方が、観察対象試料の光学顕微鏡観察像の取得に際しての光の不均一性を低減する観点で好ましい。
【0036】
鏡筒111及び試料室130には、それぞれ、真空排気手段150a、150bが取り付けられており、観察対象試料の走査型電子顕微鏡観察に際して矢印方向への排気によって鏡筒111内及び試料室130内を所定の真空度に調整可能とされている。真空排気手段150a、150bは、真空ポンプで構成されている。
【0037】
本実施形態の顕微鏡装置100の好ましい一態様では、走査型電子顕微鏡観察は、特許文献3に記載されるような大気圧下で行われるのではなく、鏡筒111内及び試料室130内が所定の真空度に調整された真空条件で行われる。その真空度は100パスカル以下が好ましく、10パスカル以下がより好ましく、10-2パスカル以下が最も好ましい。ここで、真空条件での走査型電子顕微鏡観察をより短時間で効率的に実行する観点から、鏡筒111内の電子銃が予め所定の真空度に調整された真空管内に配置されている構成を採用しても良い。
【0038】
また、本実施形態の顕微鏡装置100の好ましい一態様では、光学像ディテクター121を構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を走査型電子顕微鏡による観察対象試料の拡大観察に際しての位置合わせのために利用可能に構成されていることが好ましい。これにより、例えばスライドグラス上の病理組織標本を光学顕微鏡観察し、目的の観察部位もしくは観察領域が発見された際に、走査型電子顕微鏡観察するにあたっての拡大操作の精度が向上し、より短時間で効率的に観察することができる。また、各病理組織標本について取得した座標情報を記録しておくことで、一旦試料を装置外部に取り出した後に再び観察に供する場合にも、当該記録された座標情報を基に、目的の観察部位もしくは観察領域に位置合わせすることができるので、観察操作がより簡略化される。
【0039】
<実施の形態2>
図2は、本発明の別の実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図である。なお、
図2において、
図1に示す顕微鏡装置100と同様の構成には同一の符号を付し、以下ではその詳細な説明は省略する。
【0040】
図2に示すように、本実施形態のハイブリッド顕微鏡装置200(以下、単に顕微鏡装置200とも称する。)では、
図1に示す顕微鏡装置100における電子線ディテクター113と光源122の配置が入れ替わっている。即ち、
図2に示す顕微鏡装置200では、電子ディテクター113は、対物レンズ112の下部末端に配置されている。
【0041】
ここで、
図2では、光源122が電子線ディテクター113の下部側方に配置される例を示しているが、上述したLEDは導光板を介していかなる形状の光源とすることも可能であることは周知であるので、光源122の形状としては、電子線ディテクター113を囲むようにドーナツ状の形状を有している方が、観察対象試料の光学顕微鏡観察像の取得に際しての光の不均一性を低減する観点で好ましい。
【0042】
<実施の形態3>
図3は、本発明の別の実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図である。なお、
図3において、
図1に示す顕微鏡装置100または
図2に示す顕微鏡装置200と同様の構成には同一の符号を付し、以下ではその詳細な説明は省略する。
【0043】
図3に示すように、本実施形態のハイブリッド顕微鏡装置300(以下、単に顕微鏡装置300とも称する。)では、光学顕微鏡部120は、光学像ディテクター121と、光源122と、可動式ミラー123を備える。
【0044】
本実施形態の顕微鏡装置300では、光源122は、鏡筒111の内部に配置されている。また、鏡筒111の内部には、光源122から光が発せられる方向に可動式のミラー123が配置されており、光源122から発せられた光は、可動式ミラー123により鏡筒111の下部方向に反射され、対物レンズ112を通過して観察対象試料に照射される。
【0045】
可動式ミラー123としては、上述した機能が発揮される限りにおいてその材質や大きさ等は特に制限されない。また、可動式ミラー123は、顕微鏡装置300による走査型電子顕微鏡観察の際に鏡筒111内の電子銃から放出される電子線の進路を妨げない位置に退避可能とされており、そのための移動機構については、従来公知の構成を採用することができる。
【0046】
<実施の形態4>
図4は、本発明の別の実施形態に係るハイブリッド顕微鏡装置の構成を示す模式図である。なお、
図4において、
図1に示す顕微鏡装置100と同様の構成には同一の符号を付し、以下ではその詳細な説明は省略する。
【0047】
図4に示すように、本実施形態のハイブリッド顕微鏡装置400(以下、単に顕微鏡装置400とも称する。)では、光学顕微鏡部120は、光学像ディテクター121と、光源122と、光透過性の試料台124と、光学レンズ125を備える。
【0048】
光透過性試料台124及び光学レンズ125は、試料室130内に配置されている。本実施形態の顕微鏡装置400では、観察対象試料は、光透過性試料台124の上部に載置される。言い換えると、本実施形態の顕微鏡装置400では、光源122は、観察対象試料に対して電子線照射側と同じ側に配置されており、光透過性試料台124、光学レンズ125、及び光学像ディテクター121は、観察対象試料に対して電子線照射側と反対側に配置されている。そして、光学レンズ125は、光源122から発せられて観察対象試料及び光透過性試料台124を透過した光を集光し、その下側に配置された光学像ディテクター121が受光する。
【0049】
このように、本発明のハイブリッド顕微鏡装置においては、光学像ディテクター121と観察対象試料との間に光学像ディテクター121を構成する光学部品とは別個の集光型の光学系を有する構成としても良い。
【0050】
なお、光透過性試料台124及び光学レンズ125としては、上述した機能が発揮される限りにおいてその材質や大きさ等は特に制限されず、従来公知の構成を採用することができる。
【0051】
また、光透過性試料台124に観察対象試料を載置する様式としては、例えば、試料室130の側壁部を構成する部材の一部分を開放可能な構成とし、試料室130の側部から観察対象試料を試料室130の内部に導入するとともに、光透過性試料台124の上部に載置する構成とすることができる。このような構成は、従来の走査型電子顕微鏡においても採用されている。但し、本実施形態の顕微鏡装置400において、試料室130内に観察対象試料を導入する様式及び光透過性試料台124に観察対象試料を載置する様式はこれに限定されない。
【0052】
[ハイブリッド顕微鏡装置を用いた試料の観察方法]
次に、本発明のハイブリッド顕微鏡装置を用いた試料の観察方法の好適な一実施形態として、観察対象試料がスライドグラス上の病理組織標本である態様について説明する。
【0053】
従来、病理診断及び病理診断法の研究においては、採取した病理組織標本を染色剤(ヘマトキシン・エオジン染色(HE染色))や他の免疫染色法(特定の抗体を用いて所望の抗原を染色する方法)で染色して光学顕微鏡観察することは良く行われている。この際、病理組織標本はスライドグラス上にパラフィン包埋剤を用いて固定されることが多い。近年、そうしたパラフィン固定染色病理組織標本について、光学顕微鏡観察に加えて走査型電子顕微鏡を組み合わせて観察して、特定の位置を拡大し、組織学的な形状観察する方法論が取られる。しかしながら、従来の走査型電子顕微鏡観察技術においてかかる病理組織標本を観察する場合は、試料への静電気チャージアップを避けるために予め金属蒸着を施すことが必要であった。そして、一旦金属蒸着を施した病理組織標本は、再度光学顕微鏡観察で染色像を観察することは不可能になる。
【0054】
しかしながら、例えば国際公開第2013/035866号に記載の技術(NanoSuit(登録商標)技術)によれば、上述した金属蒸着を行って試料の光透過性を損なうことなく病理組織標本の走査型電子顕微鏡観察が可能になった。この技術を用いれば、観察対象の病理組織標本を一旦走査型電子顕微鏡観察に供したのちに再び光学顕微鏡観察することに何ら障害は無い。しかるに光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡が別個体であるため、目的の観察位置を精密に一致させてのCLEM観察は未だ煩雑な操作を要していた。
【0055】
即ち、本発明のハイブリッド顕微鏡装置は、NanoSuit技術との併用によるスライドグラス上の病理組織標本の観察において、使用者に大きな利便性を与えるものである。
【0056】
本発明のハイブリッド顕微鏡装置を用いるCLEM観察には、国際公開第2013/035866号に記載されるような観察補助液(以下、NanoSuit溶液という。)を用いることが好ましい。
【0057】
NanoSuit溶液は、本発明のハイブリッド顕微鏡装置の走査型電子顕微鏡機能による観察において、観察像の鮮明性を改善する。NanoSuit溶液は、必須成分として、グリセリン及びグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、及び、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の界面活性性化合物を含み、任意成分として、単糖類、二糖類、塩類、及び、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる。
【0058】
グリセリンは3価のアルコール(いわゆる多価アルコール)であり、水酸基を分子内に有し、低蒸気圧物質である。また、グリセリンは粘性を有している。これらの特徴を有する物質は、グリセリンの代替成分としてNanoSuit溶液に含めることができる。具体的には、グリセリン代替物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、トリグリセリド、ポリレゾルシノール、ポリフェノール、タンニン酸、ウルシオール、サポニンなどが挙げられる。グリセリン及びグリセリン代替物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0059】
本明細書において、「ポリソルベート類」とは、ソルビタン脂肪酸エステル(非イオン性界面活性剤)にエチレンオキシドを反応させて作製されたものを意図する。現在一般に入手可能なポリソルベート類としては、ポリソルベート20(Tween 20)、ポリソルベート40(Tween 40)、ポリソルベート60(Tween 60)、ポリソルベート65(Tween 65)、ポリソルベート80(Tween 80)、ポリソルベート85(Tween 85)が挙げられるが、NanoSuit溶液に含めることができるポリソルベート類はこれらに限定されない。また、ポリソルベート類と同様に非イオン性界面活性剤に分類される物質は、ポリソルベート類の代替成分としてNanoSuit溶液に含めることができる。具体的には、ポリソルベート類代替物としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-メチルアルキルグルカミドなどが挙げられる。ポリソルベート類及びポリソルベート類代替物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0060】
単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトースなどが挙げられる。
二糖類としては、例えば、スクロース、トレハロースなどが挙げられる。
塩類としては、例えば、例えば、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類、ピペリジニウム塩類、ピロリジニウム塩類、四級アンモニウム塩類などが挙げられる。
緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝液(酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液)、リン酸緩衝液(リン酸・リン酸ナトリウム緩衝液)、クエン酸緩衝液(クエン酸・クエン酸ナトリウム緩衝液)、クエン酸リン酸緩衝液(クエン酸・リン酸ナトリウム緩衝液)、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。
これらの単糖類、二糖類、塩類、及び、緩衝液は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0061】
グリセリン、グリセリン代替物、ポリソルベート類、及び、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる必須成分は、NanoSuit溶液中に0.01重量パーセントから10重量パーセント含む態様が好ましく、0.1重量パーセントから2重量パーセント含む態様がより好ましい。
【0062】
ここで、本発明のハイブリッド顕微鏡装置を用いる、スライドグラス上の病理組織標本のCLEM観察の手順について説明する。なお、本発明の具体的な態様は、以下に記載する手順に限られるものではない。
【0063】
(1)スライドグラス上にパラフィン固定された病理組織標本を予め脱パラフィン処理し、さらに親水化処理を行って、観察対象試料を準備する。
(2)(1)の観察対象試料にNanoSuit溶液を適用し、病理組織標本の表面にNanoSuit溶液からなる液膜を形成する。
(3)(2)の観察対象試料を本発明のハイブリッド顕微鏡装置の試料室に導入する。(例えば、
図1に示す顕微鏡装置100では、観察対象試料を、試料室底部材140の、光学像ディテクター121が位置する部分の上部に載置する。)
(4)顕微鏡装置の光学顕微鏡機能により、観察対象試料を光学顕微鏡観察し、光学顕微鏡像を取得する。
(5)(4)の光学顕微鏡観察ののち、走査型電子顕微鏡で高倍率観察を行う位置(範囲)を決定する。この際、顕微鏡装置は、光学像ディテクターを構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を利用して、当該高倍率観察を行う位置(範囲)を選択可能に構成されていることが好ましい。
(6)顕微鏡装置の真空排気手段(真空ポンプ)を作動させ、走査型電子顕微鏡観察が可能なように、鏡筒内及び試料室内を所定の真空度に調整する。
(7)顕微鏡装置の機能を走査型電子顕微鏡機能に切り替え、(5)で決定した位置(範囲)を所定の高倍率で走査型電子顕微鏡観察し、走査型電子顕微鏡観察像を取得する。
(8)走査型電子顕微鏡部の電子線ディテクターが蛍光X線を検知する機能を有する場合、必要に応じて、蛍光X線像を取得する。
【0064】
[ハイブリッド顕微鏡システム]
上述した、本発明のハイブリッド顕微鏡装置を用いる、スライドグラス上の病理組織標本のCLEM観察に使用するのに好適な、本発明のハイブリッド顕微鏡システムは、ハイブリッド顕微鏡装置と、分析装置を備える。ここで、当該分析装置は、ハイブリッド顕微鏡装置の光学像ディテクターを構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報を取得し、当該座標情報を利用して走査型電子顕微鏡による観察対象試料の拡大観察に際しての位置合わせのためにハイブリッド顕微鏡装置の動作を制御可能に構成されていることが好ましい。
【0065】
図5は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド顕微鏡システムの構成を示すブロック図である。
【0066】
図5に示すように、本実施形態に係るハイブリッド顕微鏡システム700(以下、単に顕微鏡システム700とも称する。)は、ハイブリッド顕微鏡装置500(以下、単に顕微鏡装置500とも称する。)と、分析装置600を備える。
【0067】
顕微鏡装置500としては、
図1~
図4を参照して説明した実施の形態1~4に係る顕微鏡装置100、200、300、400を用いることができる。
【0068】
分析装置600は、制御部610と、画像取得部620と、データ処理部630と、出力部640を備える。
【0069】
制御部610は、顕微鏡装置500の動作を制御する。具体的には、制御部610は、顕微鏡装置500の、少なくとも走査型電子顕微鏡部110、光学顕微鏡部120、試料室130、及び試料室底部材140の動作を制御可能に構成されている。制御部610による顕微鏡装置500の制御に関する情報(データ)は、データ処理部630に送信可能とされている。
【0070】
画像取得部620は、顕微鏡装置500により得られた走査型電子顕微鏡像及び光学顕微鏡像に関する画像情報を取得する。言い換えると、画像取得部620は、顕微鏡装置500の走査型電子顕微鏡部110及び光学顕微鏡部120により得られた画像情報を取得する。画像取得部620によって取得された画像情報(画像データ)は、データ処理部630に送信可能とされている。
【0071】
データ処理部630は、制御部610及び画像取得部620からのデータを処理し、その処理結果を出力部640に送信可能とされている。
【0072】
出力部640は、データ処理部630での処理結果を出力する。出力部640としては、例えば、液晶表示装置、プリンタ等が用いられる。なお、出力部640には、データ処理部630での処理結果をUSBメモリ等の記録媒体に記録する記録装置を用いても良い。
【0073】
このような構成を備える顕微鏡システム700により、観察対象試料の走査型電子顕微鏡観察及び光学顕微鏡観察が行われる。ここで、画像取得部620には、上述したような、スライドグラス上の病理組織標本のCLEM観察を実行するためのコンピュータプログラム(観察対象試料のCLEM観察プログラム)が記憶されているとともに、プログラム実行中に格納及び参照される種々の分析データの記憶領域が確保されている。分析データには、顕微鏡装置500の光学像ディテクター121を構成する各画素の受光素子全体に対する座標情報等が含まれる。
【0074】
このように、本実施形態の顕微鏡システム700では、簡易な装置構成により、観察対象試料のCLEM観察、即ち、走査型電子顕微鏡観察及び光学顕微鏡観察を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0075】
100、200、300、400、500 ハイブリッド顕微鏡装置
110 走査型電子顕微鏡部
111 鏡筒
112 対物レンズ
113 電子線ディテクター
120 光学顕微鏡部
121 光学像ディテクター
122 光源
123 可動式ミラー
124 光透過性試料台
125 光学レンズ
130 試料室
140 試料室底部材
150a、150b 真空排気手段
600 分析装置
610 制御部
620 画像取得部
630 データ処理部
640 出力部
700 ハイブリッド顕微鏡システム