(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105855
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ
(51)【国際特許分類】
F04B 1/22 20060101AFI20230725BHJP
F03C 1/253 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
F04B1/22
F03C1/253
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006842
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトフルードパワーシステム
(72)【発明者】
【氏名】花井 真樹
(72)【発明者】
【氏名】大鶴 諒
(72)【発明者】
【氏名】小林 義宜
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宣尚
【テーマコード(参考)】
3H070
3H084
【Fターム(参考)】
3H070AA03
3H070BB04
3H070BB06
3H070CC06
3H070CC21
3H070CC31
3H070EE02
3H070EE03
3H070EE08
3H070EE09
3H084AA08
3H084AA16
3H084BB07
3H084BB16
3H084BB23
3H084CC14
3H084CC33
3H084CC59
(57)【要約】 (修正有)
【課題】斜板とシューとの摺接個所からの漏れ量を低減する斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを提供する。
【解決手段】回転軸6と回転方向に係合して本体1へ回転自在に軸支したシリンダブロック8と、シリンダブロック8に軸方向へ往復摺動自在に配置した複数のピストン16と、シリンダブロック8より突出した各ピストン16の先端部に枢着したシュー19と、本体1に配置し各シュー19が摺接して各ピストン16の往復動量を設定する斜板13とを備える。シュー19はピストン16に枢着するシュー本体20と斜板13に摺接する摺接部材21とから構成する。シュー本体20はステンレス鋼から形成して凸部を有する。摺接部材21は樹脂材から円環状に形成し、シュー本体20の凸部に外嵌して先端面を斜板13と摺接する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体内へ収装して回転軸と回転方向に係合したシリンダブロックと、シリンダブロックに軸方向へ往復摺動自在に配置した複数のピストンと、各ピストンとシリンダブロックとにより区画形成して作動水を吸排する複数の作動室と、シリンダブロックより突出した各ピストンの先端部に枢着したシューと、本体に配置し各シューが摺接して各ピストンの往復動量を設定する斜板とを備え、シューはピストンに枢着するシュー本体と斜板に摺接する摺接部材とから構成し、シュー本体はステンレス鋼から形成して凸部を有し、摺接部材は樹脂材から円環状に形成し、シュー本体の凸部に外嵌して先端面を斜板と摺接したことを特徴とする斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ。
【請求項2】
前記シュー本体は、前記摺接部材と略同一形状の外周を有して前記先端面と対向する背面が当接する背面部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動水を使用してシリンダブロックに複数のピストンを軸方向へ往復摺動自在に配置し、ピストンの往復動量を斜板で設定する斜板式アキシャルピストンポンプ・モータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータは、本体へ回転軸を回転自在に軸支し、回転軸にシリンダブロックをスプラインで係合し、シリンダブロックには複数のピストンを軸方向へ往復動自在で周方向へ等間隔に配置し、ピストンには先端にシューを枢着し、シューを本体に固定した円板状の斜板に摺接してピストンの往復摺動量を設定している。作動は、ポンプ作動では、回転軸でシリンダブロックを回転駆動することでピストンが往復摺動して作動水の吸入吐出が行われる。また、モータ作動では、供給される作動水の水圧によりピストンが往復動することでシリンダブロックとともに回転軸が回転する。そして、ステンレス鋼から成るシューと摺接する円板状の斜板を樹脂材から成し、シューと斜板との焼き付き防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかる従来の斜板式アキシャルピストンポンプ・モータでは、円板状の斜板を樹脂材から形成しているため、斜板はシューが摺接する傾斜面の平面精度を高精度に製作することが難しく、斜板とシューとの摺接個所から作動水が漏れる漏れ量が増加する問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、斜板とシューとの摺接個所からの漏れ量を低減する斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
本体内へ収装して回転軸と回転方向に係合したシリンダブロックと、シリンダブロックに軸方向へ往復摺動自在に配置した複数のピストンと、各ピストンとシリンダブロックとにより区画形成して作動水を吸排する複数の作動室と、シリンダブロックより突出した各ピストンの先端部に枢着したシューと、本体に配置し各シューが摺接して各ピストンの往復動量を設定する斜板とを備え、シューはピストンに枢着するシュー本体と斜板に摺接する摺接部材とから構成し、シュー本体はステンレス鋼から形成して凸部を有し、摺接部材は樹脂材から円環状に形成し、シュー本体の凸部に外嵌して先端面を斜板と摺接したことを特徴とする斜板式アキシャルピストンポンプ・モータがそれである。
【0007】
この場合、前記シュー本体は、前記摺接部材と略同一形状の外周を有して前記先端面と対向する背面が当接する背面部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、シューはピストンに枢着するシュー本体と斜板に摺接する摺接部材とから構成し、シュー本体はステンレス鋼から形成して凸部を有し、摺接部材は樹脂材から円環状に形成し、シュー本体の凸部に外嵌して先端面を斜板と摺接した。このため、斜板と摺接するシューの摺接部材を樹脂材から形成し、摺接部材は斜板より小形状で容易に高精度に製作できるから、斜板は金属材で形成してシューが摺接する傾斜面の平面精度を高精度に製作することができ、斜板とシューとの摺接個所からの漏れ量を低減することができる。また、摺接部材は円環状に形成し、シュー本体の凸部に外嵌した。このため、摺接部材は外径寸法の制約を受け難くできるから、先端面を大きな面積に形成して面圧を低減することが可能にできる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、シュー本体は、摺接部材と略同一形状の外周を有して先端面と対向する背面が当接する背面部を形成した。このため、摺接部材の背面全体をシュー本体の背面部で支持することができるから、摺接部材を斜板に良好に摺接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を示した斜板式アキシャルピストンポンプ・モータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを斜板式アキシャルピストンポンプとした本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、1は本体で、円筒状の筒部材2の両端開口を前蓋部材3と後蓋部材4とで閉塞して構成し、内部に空間Fを形成する。本体1は両蓋部材3、4間に筒部材2を挟持して両蓋部材3、4を複数のボルト部材5で締結して構成し、筒部材2、両蓋部材3、4、ボルト部材5をステンレス鋼から形成している。6は本体1の前蓋部材3へ回転自在に軸支した回転軸で、前蓋部材3を貫通して先端を外部に突出すると共に、後端を空間Fに突出している。回転軸6は先端に図示しない電動機と結合するキー7を有すると共に、後端に後述詳記するシリンダブロック8と回転方向に係合するスプライン9を形成している。
【0012】
本体1の前蓋部材3には、回転軸6を回転自在に軸支する二つの軸受10、11を軸方向の外方と内方に離間して配置している。軸方向の外方に配置する軸受10はラジアル玉軸受で、外部に露呈している。軸方向の内方に配置する軸受11は樹脂材から筒状に形成したすべり軸受で、先端に有したつば部11Aを前蓋部材3の段部3Aに係合して軸方向に位置決めしている。12はメカニカルシールで、ラジアル玉軸受10とすべり軸受11との間に配置して回転軸6を挿通して挿通個所を密封している。メカニカルシール12は両軸受10、11で挟持して軸方向に位置決めしている。
【0013】
前蓋部材3は、空間Fに面する内方端面を傾斜面3Bに形成して斜板13を構成している。斜板13の軸心には回転軸6が遊嵌している。斜板13の傾斜面3Bは回転軸6の軸線と直交する線Lに対して一定の角度α傾斜している。後蓋部材4には支持軸14を固定して設け、支持軸14は空間Fに向けて突出している。支持軸14には樹脂材から筒状に形成したすべり軸受15を外嵌して備えている。シリンダブロック8は一端面に開口して軸心に支持孔8Aを形成し、支持孔8Aには支持軸14を嵌挿している。シリンダブロック8は、すべり軸受15で支持軸14へ回転自在に軸支している。
【0014】
シリンダブロック8はステンレス鋼から形成し、一端面と対向する他端面に開口して軸心にスプライン溝8Bを形成すると共に、軸心より径方向の外周側で他端面に開口して周方向へ等間隔に複数のピストン孔8Cを形成している。スプライン溝8Bには回転軸6のスプライン9を係合し、シリンダブロック8を回転軸6で回転駆動している。各ピストン孔8Cにはステンレス鋼から形成したピストン16を軸方向へ往復摺動自在に嵌挿し、作動室17を区画形成している。各ピストン16は軸心に軸方向へ貫通して流通孔18を形成すると共に、先端を球状の凹部に形成してシュー19を枢動自在に枢着している。
【0015】
シュー19はピストン16に枢着するシュー本体20と斜板13の傾斜面3Bに摺接する摺接部材21とから構成している。
図2に示す如く、シュー本体20はステンレス鋼から形成し、ピストン16の凹部に枢着する球状の枢着部20Aと、枢着部20Aに連設した円柱状の胴部20Bと、胴部20Bに連設して胴部20Bより大径で円板状の背面部20Cと、背面部20Cに連設して胴部20Bより小径で先端に向けて突出する円柱状の凸部20Dより構成し、軸心に軸方向へ貫通して通孔20Eを形成している。
【0016】
摺接部材21は樹脂材から円環状に形成し、シュー本体20の凸部20Dに圧入で外嵌して先端面21Aを斜板13の傾斜面3Bに摺接している。摺接部材21はシュー本体20の背面部20Cと外周を略同一形状に設け、先端面21Aと対向する背面21Bを背面部20Cに当接している。摺接部材21の厚み寸法をシュー本体20の凸部20Dの突出寸法より大きく設け、凸部20D先端にポケット室22を凸部20Dと摺接部材21と斜板13とにより区画形成している。ポケット室22は通孔20E、流通孔18を介して作動室17と連通し、作動室17の作動水を導入している。作動室17の圧力に基づく作用力とポケット室22の圧力に基づく作用力とがピストン16、シュー19に対向作用し、摺接部材21を斜板13に過度に押付けないようにしている。
【0017】
斜板13は傾斜した角度αに基づき各ピストン16の往復動量を設定する。各シュー19はばね23のばね力がリテーナ24、リテーナ板25を介して付与され、斜板13に押し付けられる。作動室17は、各ピストン16の
図1右方向への往動で容積が増加して作動水を吸入すると共に、各ピストン16の
図1左方向への複動で容積が減少して作動水を吐出している。各作動室17には接続孔26を接続し、各接続孔26はシリンダブロック8の一端面に周方向へ等間隔に開口している。シリンダブロック8の一端面と摺接する側板27は、樹脂材から形成して後蓋部材4の空間Fに面する内方端面に固定し、軸心を支持軸14が挿通する。側板27には一対の吸排ポート28A、28Bを貫通形成し、両吸排ポート28A、28Bは半円弧状で側板27の軸心に対して対称位置に配置している。
【0018】
一方の吸排ポート28Aはピストン16の往動で容積が増加する作動室17に連通し、作動室17に吸入する作動水を流通する吸入ポートとして機能している。他方の吸排ポート28Bはピストン16の復動で容積が減少する作動室17に連通し、作動室17から吐出する作動水を流通する吐出ポートとして機能している。29A、29Bは後蓋部材4に形成した一対の吸排流路で、一方の吸排流路29Aは吸入ポートとして機能する一方の吸排ポート28Aに接続し、他方の吸排流路29Bは吐出ポートとして機能する他方の吸排ポート29Bに接続している。
【0019】
次にかかる構成の作動を説明する。
図1の状態で、回転軸6を回転駆動すると、シリンダブロック8が回転軸6とともに回転する。シリンダブロック8の回転に伴い、各ピストン16は先端のシュー19が斜板13の傾斜面3Bに沿って摺接することで斜板13の傾斜角度αに応じた往復動量で往復動し、各作動室17の容積を増減する。
【0020】
シリンダブロック8の回転により容積が増加する作動室17には、吸排流路29Aより吸排ポート28Aを流通して作動水が吸入される。また、シリンダブロック8の回転により容積が減少する作動室17の作動水は、吸排ポート28Bを流通して吸排流路29Bより吐出される。このように、シリンダブロック8の回転に伴い作動水の吸入と吐出を連続して行うポンプ作動をする。そして、回転軸6の回転駆動を停止すると、ポンプ作動を停止する。
【0021】
かかる作動において、シュー19はピストン16に枢着するシュー本体20と斜板13に摺接する摺接部材21とから構成し、シュー本体20はステンレス鋼から形成して凸部20Dを有し、摺接部材21は樹脂材から円環状に形成し、シュー本体20の凸部20Dに外嵌して先端面21Aを斜板13と摺接した。このため、斜板13と摺接するシュー19の摺接部材21を樹脂材から形成し、摺接部材21は斜板13より小形状で容易に高精度に製作できるから、斜板13は金属材で形成してシュー19が摺接する傾斜面3Bの平面精度を高精度に製作することができ、斜板13とシュー19との摺接個所からの漏れ量を低減することができる。
【0022】
また、摺接部材21は円環状に形成し、シュー本体20の凸部20Dに外嵌した。このため、摺接部材21は外径寸法の制約を受け難くできるから、先端面21Aを大きな面積に形成して面圧を低減することが可能にできる。
【0023】
また、シュー本体20は、摺接部材21と略同一形状の外周を有して先端面21Aと対向する背面21Bが当接する背面部20Cを形成した。このため、摺接部材21の背面21B全体をシュー本体20の背面部20Cで支持することができるから、摺接部材21を斜板13に良好に摺接することができる。
【0024】
なお、前述の一実施形態では、ピストン16の先端に形成した球状の凹部に、シュー19の球状の枢着部20Aを枢動自在に枢着したが、ピストンの先端に球状の凸部を形成し、この凸部をシューに形成した球状の凹部に枢動自在に枢着してもよい。また、斜板式アキシャルピストンポンプ・モータを斜板式アキシャルピストンポンプとしたが、斜板式アキシャルピストンモータとしてもよい。この場合には、外部から供給された作動水によりシリンダブロック8が回転駆動され、シリンダブロック8で回転軸6を回転する。また、斜板13の傾斜角度を一定の角度αとした定容量型としたが、斜板の傾斜角度を変更可能とした可変容量型としてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0025】
1:本体
6:回転軸
8:シリンダブロック
13:斜板
16:ピストン
17:作動室
19:シュー
20:シュー本体
20D:凸部
21:摺接部材
21A:先端面