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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105881
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ヒートシール紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/20 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
D21H19/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006883
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】兼子 了
(72)【発明者】
【氏名】松本 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】名越 応昇
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG27
4L055AG50
4L055AG51
4L055AG63
4L055AG71
4L055AG75
4L055AG89
4L055AH02
4L055AH09
4L055AH10
4L055AJ01
4L055AJ03
4L055AJ04
4L055BE08
4L055BE09
4L055FA14
4L055FA30
4L055GA04
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】透湿バリア性を有するヒートシール紙を提供することである。
【解決手段】課題は、紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対してヒートシール性樹脂を含有するヒートシール層を有し、前記ヒートシール性樹脂が、下記の単量体を重合して成るアクリル系樹脂であるヒートシール紙によって解決できる。
単量体は、(A)メチルメタクリレート、(B)2-エチルヘキシルアクリレート、(C)ブチルアクリレート及び(D)スチレンである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対してヒートシール性樹脂を含有するヒートシール層を有し、前記ヒートシール性樹脂が、下記の単量体を重合して成るアクリル系樹脂であるヒートシール紙。
単量体:
(A)メチルメタクリレート
(B)2-エチルヘキシルアクリレート
(C)ブチルアクリレート
(D)スチレン
【請求項2】
前記アクリル系樹脂が、下記の単量体を重合して成るかつ樹脂の各単量体組成が下記質量%の範囲である請求項1に記載のヒートシール紙。
単量体組成:
(A)メチルメタクリレート:26質量%以上46質量%以下
(B)2-エチルヘキシルアクリレート:23質量%以上43質量%以下
(C)ブチルアクリレート:13質量%以上45質量%以下
(D)スチレン:3質量%以上16質量%以下
【請求項3】
前記ヒートシール層が、パラフィンワックスを含有する請求項1又は2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
前記紙基材と前記ヒートシール層との間に下塗り層を有し、前記下塗り層が、板状無機顔料及び熱可塑性樹脂を含有する請求項1~3のいずれかに記載のヒートシール紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品に対する包装用紙、紙袋、紙容器、紙箱、紙カップ及び蓋材等の包装用途に使用するヒートシール性を有するヒートシール紙に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等に対する包装用紙、紙袋、紙容器、紙箱、紙カップ及び蓋材等の包装用途に使用する紙製の包装材料は、封止及び包装形態等の加工を達成するためにヒートシール性を有する。
このような包装材料として、例えば、紙基材上にスチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有する包装用途に好適なヒートシール紙(例えば、特許文献1参照)、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも2層以上の塗工層を有し、かつ前記塗工層の最表面がヒートシール層であり、前記ヒートシール層と紙基材の間に少なくとも1層のポリヒドロキシウレタンを含むバリア層を有する包装用紙(例えば、特許文献2参照)、及び紙基材上に、水蒸気バリア層及びガスバリア層を有する紙製バリア原紙の少なくとも該ガスバリア層上に、さらにヒートシール層を有する紙製バリア材料(例えば、特許文献3参照)等が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-070171号公報
【特許文献2】特開2021-138434号公報
【特許文献3】特開2020-163675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被包装物の劣化を抑制及び包装体の取り扱い易さの観点から、特に、被包装物が食品である場合に衛生的観点から、ヒートシール性だけでなく水分の浸透を抑えた透湿バリア性を有するヒートシール紙が必要である。
従来は、特許文献2に記載されるバリア層を、並びに特許文献3に記載される水蒸気バリア層及びガスバリア層のようなバリア専用の層を、ヒートシール層とは別に設ける構成が多い。しかしながら、バリア専用の層を設ける構成は、材料コスト及び製造コストを増加する。また、特許文献3に記載されるが如くの紙製バリア材料でも、例えば、水蒸気透過度が180g/m・day~200g/m・dayであって、透湿バリア性は十分といえない。
特許文献1に記載されるが如くのヒートシール紙では、ヒートシール性及びリサイクル時の離解性を良好にすることが目的であるために、透湿バリア性を考慮しない。また、特許文献1に記載されるが如くのヒートシール紙では、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層であるものの、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂の単量体構成を開示しない。
特許文献2に記載されるが如くの包装用紙では、プラスチックの使用量を低減しつつ酸素バリア性を有することを目的とするために、透湿バリア性が十分といえない。特許文献2の実施例に記載する包装用紙では、水蒸気透過度が53.8g/m・day~247.8g/m・dayの範囲である。
【0005】
本発明の目的は、ヒートシール性及び透湿バリア性を有するヒートシール紙を提供することである。詳しくは、ヒートシール性を有しながら透湿バリア性を有するヒートシール性樹脂を見出し、紙基材に対して前記ヒートシール性樹脂を含有するヒートシール層を設けることによって、ヒートシール性及び透湿バリア性を有するヒートシール紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ヒートシール性樹脂の単量体について種々検討を重ねた結果、特定の単量体から成る本発明に係るヒートシール性樹脂を見出して、本発明の完成に至った。すなわち、本発明の目的は以下によって達成される。
【0007】
[1]紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対してヒートシール性樹脂を含有するヒートシール層を有し、前記ヒートシール性樹脂が、下記の単量体を重合して成るアクリル系樹脂であるヒートシール紙。
単量体:
(A)メチルメタクリレート
(B)2-エチルヘキシルアクリレート
(C)ブチルアクリレート
(D)スチレン
【0008】
[2]上記アクリル系樹脂が、下記の単量体を重合して成るかつ樹脂の各単量体組成が下記質量%の範囲である上記[1]に記載のヒートシール紙。
単量体組成:
(A)メチルメタクリレート:26質量%以上46質量%以下
(B)2-エチルヘキシルアクリレート:23質量%以上43質量%以下
(C)ブチルアクリレート:13質量%以上45質量%以下
(D)スチレン:3質量%以上16質量%以下
【0009】
[3]上記ヒートシール層が、パラフィンワックスを含有する上記[1]又は[2]に記載のヒートシール紙。
【0010】
[4]上記紙基材と上記ヒートシール層との間に下塗り層を有し、前記下塗り層が、板状無機顔料及び熱可塑性樹脂を含有する上記[1]~[3]のいずれかに記載のヒートシール紙。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヒートシール紙は、ヒートシール性樹脂を含有するヒートシール層を紙基材に対して設けることによって、ヒートシール性及び透湿バリア性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ヒートシール紙は、紙基材と、前記紙基材の少なくとも片面に対してヒートシール層を有する。いくつかの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材の両面にヒートシール層を有する。この理由は、表裏関係なく取り扱いに優位であるからである。いくつかの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材の片面に対してのみヒートシール層を有する場合、ヒートシール層を有する側に対する紙基材の反対面に印刷適性のための従来公知のコート層又は寸法安定性のための従来公知のバックコート層を有する。また、いくつかの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材とヒートシール層との間に、例えば特許文献3に記載されるが如くの従来公知のガスバリア層を有する。
【0013】
いくつかの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材とヒートシール層との間に下塗り層を有する。この理由は、紙基材が有する空隙を下塗り層が目止めして、結果的に紙基材の空隙に起因してヒートシール層にできる欠陥の発生を抑制できるからである。例えば、ヒートシール層に欠陥が存在する場合は、透湿バリア性が悪化する傾向を示す。また、ヒートシール層に欠陥が存在することによってヒートシール紙のヒートシール層どうしの密着に悪影響する場合は、ヒートシール性も悪化する傾向を示す。
【0014】
下塗り層は、無機顔料及びバインダーを含有する従来公知の塗工層である。
いくつかの実施態様において、前記無機顔料は従来公知の板状無機顔料である。この理由は、紙基材の空隙に起因してヒートシール層にできる欠陥の発生をより抑制できるからである。無機顔料の例としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、クレー、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウム等であって従来公知のものを挙げることができる。板状無機顔料の例としては、マイカ、カオリン、パイロフィライト、タルク、ベントナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、緑泥石、セプテ緑泥石、蛇紋石及びスチルプノメレーン等であって従来公知のものを挙げることができる。
【0015】
いくつかの実施態様において、上記バインダーは従来公知の熱可塑性樹脂である。この理由は、紙基材の空隙に起因してヒートシール層にできる欠陥の発生をより抑制できるからである。バインダーの例としては、澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、両性澱粉、ジアルデヒド化澱粉、燐酸エステル化澱粉及び尿素燐酸エステル化澱粉等のエステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシブチル化澱粉、メラミン樹脂及び尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性エラストマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン及び大豆蛋白等の天然高分子樹脂並びにその誘導体等であって従来公知のものを挙げることができる。熱可塑性樹脂の例としては、スチレンブタジエン系共重合樹脂及びアクリロニトリルブタジエン系共重合樹脂等の共役ジエン系樹脂、アクリル酸エステル系重合樹脂及びメタクリル酸エステル系重合樹脂並びにメタクリル酸エステルブタジエン系共重合樹脂等のアクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系共重合樹脂及び塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂等のビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリエステル系樹脂及びこの各種共重合樹脂のカルボキシル基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及びその各種変性ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、並びにポリエチレングリコール等であって従来公知のものを挙げることができる。
【0016】
いくつかの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材とヒートシール層との間に無機顔料及びバインダーを含有する下塗り層を有し、該下塗り層において無機顔料100質量部に対してバインダーが50質量部以上200質量部以下である。この理由は、紙基材の空隙に起因してヒートシール層にできる欠陥の発生をより抑制できるからである。
【0017】
少なくとも一つの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材とヒートシール層との間に無機顔料及びバインダーを含有する下塗り層を有し、前記無機顔料が板状無機顔料及び前記バインダーが熱可塑性樹脂である。さらに、少なくとも一つの実施態様において、ヒートシール紙は、紙基材とヒートシール層との間に無機顔料及びバインダーを含有する下塗り層を有し、前記無機顔料がカオリン及び前記バインダーがスチレンブタジエン系共重合樹脂である。これらの理由は、紙基材の空隙に起因してヒートシール層にできる欠陥の発生をより抑制できるからである。
【0018】
いくつかの実施態様において、下塗り層は、必要に応じて、塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、界面活性剤、分散剤、増粘剤、流動性改良剤、有機顔料、カチオン化剤、滑剤、耐水化剤、消泡剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤及びバリア剤等を挙げることができる。
いくつかの実施態様において、下塗り層は、下塗り層を形成する乾燥固形分に対して無機顔料及びバインダーが80質量%以上である。また、いくつかの実施態様において、下塗り層の塗工量は、紙基材の片面あたり乾燥固形分で6g/m以上20g/m以下である。これらの理由は、材料コストを抑えながら、紙基材の空隙に起因してヒートシール層にできる欠陥の発生をより抑制できるからである。
【0019】
ヒートシール層のヒートシール性樹脂は、下記の単量体を重合して成るアクリル系樹脂である。
単量体:
(A)メチルメタクリレート
(B)2-エチルヘキシルアクリレート
(C)ブチルアクリレート
(D)スチレン
いくつかの実施態様において、前記ヒートシール性樹脂は、下記の単量体を重合して成るかつ樹脂の各単量体組成が下記質量%の範囲であるアクリル系樹脂である。この理由は、ヒートシール性樹脂の単量体組成が前記質量%の範囲を満足すると、ヒートシール紙は、ヒートシール性及び/又は透湿バリア性が良化するからである。
単量体組成:
(A)メチルメタクリレート:26質量%以上46質量%以下
(B)2-エチルヘキシルアクリレート:23質量%以上43質量%以下
(C)ブチルアクリレート:13質量%以上45質量%以下
(D)スチレン:3質量%以上16質量%以下
【0020】
ヒートシール性樹脂は、上記単量体(A)~(D)を配合した単量体組成物を、所定の反応容器に入れて乳化重合及びラジカル重合等の従来公知の重合方法によって重合反応させて得ることができる。また、樹脂の単量体組成が上記であるヒートシール性樹脂は、上記単量体(A)~(D)を上記質量%で配合した単量体組成物を、所定の反応容器に入れて乳化重合及びラジカル重合等の従来公知の重合方法によって重合反応させて得ることができる。
【0021】
いくつかの実施態様において、ヒートシール性樹脂は、上記(A)~(D)の単量体以外に、これら単量体と共重合可能な他単量体を上記単量体組成物に配合してヒートシール性樹脂中に含有することができる。他単量体の例としては、上記(A)、(B)及び(C)以外の(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン及びプロピレン等を挙げることができる。
また、いくつかの実施態様において、ヒートシール性樹脂は、上記(A)~(D)の単量体の合計が樹脂を構成する単量体に対して95質量%以上である。少なくとも一つの実施態様において、ヒートシール性樹脂は、上記(A)~(D)の単量体以外の他単量体を含有しない。これらの理由は、ヒートシール性及び透湿バリア性をバランス良く両立して有することができるからである。
【0022】
各単量体の組成及び質量%は、例えば、FT-IR分析(フーリエ変換赤外分光光度分析)、GC-MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)及びNMR分析(核磁気共鳴分析)によってヒートシール性樹脂から解析することができる。
【0023】
ヒートシール層は、上記のヒートシール性樹脂以外に、必要に応じて従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、無機顔料、上記ヒートシール性樹脂以外のヒートシール性樹脂、ヒートシール性樹脂以外の各種樹脂、澱粉類及びセルロース類等の多糖類、界面活性剤、分散剤、増粘剤、流動性改良剤、有機顔料、カチオン化剤、滑剤、耐水化剤、消泡剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤及び防バイ剤等を挙げることができる。
【0024】
いくつかの実施態様において、ヒートシール層は、パラフィンワックスを含有する。この理由は、ヒートシール紙の透湿バリア性が良化するからである。少なくとも一つの実施態様において、ヒートシール層中のパラフィンワックスの含有量は、紙基材の片面あたりヒートシール層中のヒートシール性樹脂100質量部に対して3質量部以上15質量部以下である。この理由は、パラフィンワックスの含有量がこの範囲であると、ヒートシール紙のヒートシール性を阻害せずに透湿バリア性を良化することができるからである。
また、いくつかの実施態様において、ヒートシール層中のパラフィンワックスは、融点が50℃以上である。少なくとも一つの実施態様において、ヒートシール層中のパラフィンワックスは、融点が50℃以上80℃以下である。これらの理由は、ヒートシール紙のヒートシール性を阻害せずに透湿バリア性が良化することができるからである。
【0025】
パラフィンワックスは、いわゆる石油ワックスに属し、石油精製において減圧蒸留留出油から分離及び精製して製造される。石油ワックスは、JIS K2235:1991によって、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムの3種に大別される。同様に分離及び精製されるマイクロクリスタリンワックスが分子量500~800で炭素数30~60程度、大きい主鎖に側鎖を持つ分岐炭化水素(イソパラフィン)又は環状炭化水素(シクロパラフィン)が主成分であるのに対し、パラフィンワックスは、分子量が300~550と狭く、直鎖状炭化水素が主成分で炭素数が大体20~40の範囲である。パラフィンワックスは、例えば、中京油脂社、日本精蝋社及びビックケミー・ジャパン社等から市販される。
【0026】
いくつかの実施態様において、ヒートシール層は、ヒートシール層を形成する乾燥固形分に対して上記ヒートシール性樹脂が85質量%以上である。また、いくつかの実施態様において、ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり乾燥固形分として5g/m以上25g/m以下である。これらの理由は、ヒートシール性及び透湿バリア性が良化するからである。
【0027】
ヒートシール紙の実施形態では、被包装物と対向するヒートシール紙の面がヒートシール紙のヒートシール層を有する側である。ヒートシール紙は、被包装物が食品等を包装した一次包装体であって、前記一次包装体を1つ又は2つ以上を包装する二次包装材料に好適である。
【0028】
紙基材は、木材パルプ及び/又は非木材パルプから成るスラリーに対して填料、サイズ剤、バインダー、定着剤、歩留り剤及び紙力剤等の各種添加剤を必要に応じて添加した紙料を、酸性、中性又はアルカリ性の条件で、従来公知の抄紙方法によって抄造した抄造紙、前記抄造紙をサイズプレス液でサイズプレス処理した原紙、前記抄造紙を表面処理液で表面処理した原紙、又は前記抄造紙若しくは前記原紙に対してカレンダー処理を施した普通紙である。上記紙料には、その他の添加剤として顔料分散剤、嵩高剤、増粘剤、流動性改良剤、ピッチコントロール剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、保湿剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤及び乾燥紙力増強剤等から選ばれる一種又は二種以上を、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜添加することができる。
加えて紙基材は、例えば、前記抄造紙、前記原紙又は前記普通紙に塗工層を設けた塗工紙、クラフト紙、片艶紙及びトレーシングペーパー等を挙げることができる。
【0029】
カレンダー処理とは、ロール間に紙を通すことによって平滑性及び厚みを平均化する処理である。カレンダー処理の装置は、例えば、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等を挙げることができる。
【0030】
木材パルプは、製紙分野で従来公知のものである。木材パルプは、例えば、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)及びNBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)等の化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)及びCGP(ChemiGroundwood Pulp)等の機械パルプ、並びにDIP(DeInked Pulp)等の古紙パルプを挙げることができる。
非木材パルプは、製紙分野で従来公知の非木材繊維からなるパルプである。非木材繊維の原料は、例えば、コウゾ、ミツマタ及びガンピ等の木本靭皮、亜麻、大麻及びケナフ等の草本靭皮、マニラ麻、アバカ及びサイザル麻等の葉繊維、イネわら、ムギわら、サトウキビバカス、タケ及びエスパルト等の禾本科植物、並びにワタ及びリンター等の種毛を挙げることができる。
紙基材の木材パルプ及び/又は非木材パルプは、前記木材パルプ及び前記非木材パルプから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0031】
填料は、製紙分野で従来公知の顔料である。顔料は、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、シリカ、珪酸アルミニウム、珪藻土、活性白土、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウム等の無機顔料を挙げることができる。さらに、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂及びマイクロカプセル等の有機顔料を挙げることができる。
紙基材の填料は、前記無機顔料及び前記有機顔料から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0032】
いくつかの実施態様において、紙基材は、填料を実質的に含有しない。この理由は、ヒートシール紙の透湿バリア性が良化するからである。ここで、「填料を実質的に含有しない」とは、填料を含有することによって紙の透気性が増大する程の含有量未満を指す。例えば、填料は、紙基材中のパルプ100質量部に対して0.5質量%未満である。
【0033】
いくつかの実施態様において、紙基材の灰分は3質量%以下である。この理由は、紙基材の灰分が3質量%以下であれば紙基材自身の透気性が抑えられて、得られるヒートシール紙の透湿バリア性に有利になるからである。紙基材の灰分は、ISO1762:2001「Paper, board and pulps - Determination of residue(ash) on ignition at 525 degree C」に準拠して求められる値である。
【0034】
サイズ剤は、製紙分野で従来公知の内添サイズ剤である。内添サイズ剤は、例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤及びカチオン性スチレンアクリル系サイズ剤等を挙げることができる。
また、サイズプレス液に用いる表面サイズ剤は、製紙分野で従来公知のものである。表面サイズ剤は、例えば、澱粉系サイズ剤、セルロース系サイズ剤、ポリビニルアルコール系サイズ剤、スチレンアクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレンマレイン酸系サイズ剤、及びアクリルアミド系サイズ剤等を挙げることができる。
【0035】
サイズプレスは、製紙分野で従来公知のサイズプレス装置である。サイズプレス装置は、例えば、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、フィルムトランスファー方式としてロッドメタリングサイズプレス、ロールメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスを、ロッドメタリングサイズプレスとしてシムサイザー、オプティサイザー、スピードサイザーを、ロールメタリングサイズプレスとしてゲートロールコーター、ビルブレードコーター、ツインブレードコーター、ベルバパコーター、タブサイズプレス、及びカレンダーサイズプレス等を挙げることができる。
【0036】
紙基材に対してヒートシール層を設ける方法、紙基材に対して下塗り層を設ける方法及び下塗り層に対してヒートシール層を設ける方法は、特に限定されない。設ける方法は、例えば、製紙分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いてヒートシール層塗工液又は下塗り層塗工液を塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、フィルムプレスコーター、ロッドコーター、エアーナイフコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、Eバーコーター、フィルムトランスファーコーター等を挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等の各種乾燥装置を挙げることができる。実験室における試作では、紙基材に対して下塗り層塗工液を、又は紙基材若しくは下塗り層に対してヒートシール層塗工液を、手塗用ワイヤーバーで塗工及び簡易熱風乾燥機で乾燥する方法を採用することができる。
【0037】
ヒートシール層塗工液がヒートシール性樹脂を含有すること並びに下塗り層塗工液が無機顔料及びバインダーを含有することによって、ヒートシール層がヒートシール性樹脂を含有並びに下塗り層が無機顔料及びバインダーを含有することができる。
【実施例0038】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。ここで「質量部」及び「質量%」は、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」及び「質量%」を表す。塗工層の塗工量は乾燥固形分量を表す。
【0039】
<紙基材>
以下の紙料を調成した。
LBKP(濾水度350~480mlcsf) 50質量部
NBKP(濾水度350~480mlcsf) 50質量部
硫酸バンド 1質量部
ロジン系サイズ剤(CC1404、星光PMC社) 0.4質量部
紙力剤 0.9質量部
【0040】
上記配合の紙料を長網抄紙機で抄造し、表面サイズ剤として酸化澱粉をサイズプレスで片面当たり1g/m付与して、坪量65g/mの原紙を得た。これに、マシンカレンダーを用いて温度60℃・処理速度500m/分の条件でカレンダー処理して紙基材を得た。紙基材の灰分量は1.5質量%であった。
【0041】
<下塗り層塗工液>
水を媒体として以下の下塗り層塗工液を調製した。
カオリン 100質量部
スチレンブタジエン系共重合樹脂 150質量部
【0042】
<ヒートシール層塗工液>
水を媒体として以下のヒートシール層塗工液を調製した。
ヒートシール性樹脂 単量体組成は表1及び2に記載/100質量部
パラフィンワックス(PW) 配合部数は表1及び2に記載
【0043】
各樹脂は、表1及び2に記載する各単量体を含む単量体組成物から乳化重合して調製した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
<下塗り層>
下塗り層を設ける場合では、紙基材の片面に対して、下塗り層塗工液をエアーナイフコーターで塗工及び熱風乾燥機で乾燥した。下塗り層の塗工量は、10g/mになるようにコーター条件を調整した。
【0047】
<ヒートシール層>
下塗り層を有しない場合では紙基材の片面に対して、下塗り層を有する場合では下塗り層に対して、ヒートシール層塗工液をロッドコーターで塗工及び熱風乾燥機で乾燥した。ヒートシール層の塗工量は、10g/mになるようコーター条件を調整した。
【0048】
紙基材に対してヒートシール層を設けたヒートシール紙について、下記項目の評価を行った。
【0049】
<透湿バリア性>
透湿バリア性の評価は、JIS Z0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準じて実施した水蒸気の透湿度に関する測定結果から行った。測定は、ヒートシール層を有する側を内側にして測定した。温湿度の条件は、40±0.5℃,90±2%とした。本発明において、ヒートシール紙は、A、B、C又はDの評価であれば透湿バリア性を有するものとする。
A:透湿度7g/m・24h以下。
B:上記Aより劣るものの、透湿度15g/m・24h以下。
C:上記Bより劣るものの、透湿度25g/m・24h以下。
D:上記Cより劣るものの、透湿度50g/m・24h以下。
E:上記Dより劣るものの、透湿度80g/m・24h以下。
F:上記Eより劣り、透湿度80g/m・24h超。
【0050】
<ヒートシール性>
同じ構成の2枚のヒートシール紙を用いて、ヒートシール紙のヒートシール層を有する側の面どうしを対向させてヒートシーラーにより圧力0.5MPa、130℃、1秒間の条件によってヒートシールを施した。
ヒートシールしたヒートシール紙を15mm幅で切り出し、温度23℃、相対湿度50%で24時間静置後、引張り試験機を用い、引張り速度300mm/分、引張り角度180度でヒートシール箇所の剥離強度を測定することによってヒートシール性を評価した。測定は、サンプル数5部で行い、5部の平均値とした。測定値から、ヒートシール性を下記の基準で評価した。本発明において、ヒートシール紙は、評価A、B又はCであればヒートシール性を有するものとする。
A:値が、6N/15mm以上。
B:値が、4N/15mm以上6N/15mm未満。
C:値が、2N/15mm以上4N/15mm未満。
D:値が、2N/15mm未満。
【0051】
評価結果を表1及び2に示す。
【0052】
表1及び2から、本発明のヒートシール紙に該当する実施例1~22は、ヒートシール性及び透湿バリア性を有すると分かる。一方、本発明のヒートシール紙の構成を満足しない比較例1~3は、ヒートシール性及び/又は透湿バリア性を満足できないと分かる。
【0053】
主に、実施例2、3、4、7、8、11、12、15及び16と実施例1、5、6、9、10、13、14及び17との対比から、ヒートシール性樹脂の単量体組成が、(A)メチルメタクリレート:26質量%以上46質量%以下、(B)2-エチルヘキシルアクリレート:23質量%以上43質量%以下、(C)ブチルアクリレート:13質量%以上45質量%以下及び(D)スチレン:3質量%以上16質量%以下の範囲であると、ヒートシール紙は、ヒートシール性及び/又は透湿バリア性が良化すると分かる。
【0054】
主に、実施例3と実施例18との対比から、ヒートシール層がパラフィンワックスを含有すると、ヒートシール紙は、透湿バリア性が良化すると分かる。
【0055】
主に、実施例3と実施例19との対比から、板状無機顔料及び熱可塑性樹脂を含有する下塗り層を有すると、ヒートシール紙は、透湿バリア性及びヒートシール性が良化すると分かる。