(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105916
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】土系舗装材
(51)【国際特許分類】
E01C 7/36 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
E01C7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006946
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505195384
【氏名又は名称】国立大学法人奈良国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】505225348
【氏名又は名称】学校法人足利大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】根本 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 航
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】掛札 さくら
(72)【発明者】
【氏名】下館 満葉
【テーマコード(参考)】
2D051
【Fターム(参考)】
2D051AF01
2D051AF14
2D051AF17
(57)【要約】
【課題】環境に配慮しつつ、景観性に優れ、高強度・高耐久の土系舗装材を提供する。
【解決手段】少なくとも土及び固化材、水が混練される土系舗装材であって、前記固化材として、酸化マグネシウム及び塩化マグネシウム、第一リン酸カルシウムが添加されセメント系固化材は添加されないことを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも土及び固化材、水が混練される土系舗装材であって、
前記固化材として、酸化マグネシウム及び塩化マグネシウム、第一リン酸カルシウムが添加され
セメント系固化材は添加されない
ことを特徴とする土系舗装材。
【請求項2】
さらに、細骨材及び/又は粗骨材が混練される
請求項1に記載の土系舗装材。
【請求項3】
前記第一リン酸カルシウムの添加量は、前記酸化マグネシウムの添加量の3重量%以上である
請求項1又は2に記載の土系舗装材。
【請求項4】
前記第一リン酸カルシウムの添加量は、前記酸化マグネシウムの添加量の3~7重量%である
請求項1又は2に記載の土系舗装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土系の材料を固化材によって固化することが可能であるとともに、環境に配慮した高耐久な土系舗装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、真砂土などの土系の材料を固化し、自然と調和した色合いによって景観性に優れた土系舗装があり、例えば、特許文献1には、真砂土や陶器殻をセメント系固化材で固化した土系舗装の発明が開示されている。この他、これまで土系舗装の機能や耐久性の向上を図るために、アスファルト系や樹脂系の固化材も種々検討されて使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の土系舗装は経年劣化によるクラックの発生や、摩耗の問題があった。また、強度を高めて車道対応とするために、固化材を多く使用し、これによって環境に対する負荷が高くなったり、固化材によって土系舗装が白っぽくなって色合いが損なわれたりと、種々の問題を抱えていた。
【0005】
そこで本願発明は、環境に配慮しつつ、景観性に優れ、高強度・高耐久の土系舗装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)に係る発明は、少なくとも土及び固化材、水が混練される土系舗装材であって、前記固化材として、酸化マグネシウム及び塩化マグネシウム、第一リン酸カルシウムが添加されセメント系固化材は添加されないことを特徴とする土系舗装材である。
【0007】
(2)に係る発明は、さらに、細骨材及び/又は粗骨材が混練される上記(1)に記載の土系舗装材である。
【0008】
(3)に係る発明は、前記第一リン酸カルシウムの添加量は、前記酸化マグネシウムの添加量の3重量%以上である上記(1)又は(2)に記載の土系舗装材である。
【0009】
(4)に係る発明は、前記第一リン酸カルシウムの添加量は、前記酸化マグネシウムの添加量の3~7重量%である上記(1)又は(2)に記載の土系舗装材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント系固化材を添加することなく、固化材として、酸化マグネシウム及び塩化マグネシウム、第一リン酸カルシウムを添加しているので、六価クロムの排出がなく、景観性に優れ、高強度・高耐久の土系舗装材を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの配合割合ごとの強度等の比較表である。
【
図2】本発明の実施例における酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの配合割合であって、(a)は湿潤土に対する配合割合、(b)は乾燥土に対する配合割合である。
【
図3】第一リン酸カルシウムと他の添加材の硬化速度の比較表である。
【
図4】第一リン酸カルシウムと他の添加材の強度の比較表である。
【
図5】第一リン酸カルシウムと他の添加材の長さ変化率の比較表である。
【
図6】第一リン酸カルシウムと他の添加材の長さ変化率を評価した比較表である。
【
図7】第一リン酸カルシウムと他の添加材における各評価及び総評を示した比較表である。
【
図9】本発明の実施例における曲げ強度を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例における土系舗装材について説明する。
【0013】
本実施例の土系舗装材は、少なくとも母材となる土と、固化材、水が混練される土系舗装材であり、土として真砂土を使用し、固化材として酸化マグネシウム(MgO)及び塩化マグネシウム(MgCl2)、第一リン酸カルシウムが添加されている。したがって、本実施例の土系舗装材は、セメント系固化材が添加されておらず、環境に悪影響を与える六価クロムを溶出することがない。
【0014】
固化材として添加される酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの添加量を決定するにあたっては、
図1に示されるように、複数の配合により供試体を作製して検証を行っている。なお、供試体の強度試験では、供試体を20℃の環境下で6日間気中養生し、その後、1日間水浸して試験に供した。また、各配合における加水量は、流動性がほぼ同一となるように設定している。
【0015】
(酸化マグネシウムの添加量について)
図1に示される酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの添加量と加水量の関係を見ると、酸化マグネシウムの添加量が同一の場合、塩化マグネシウムの添加量を増やすことによって、ほぼ同一の流動性にする際の加水量を減らせることが判る。またこれにともない、一軸圧縮強度も向上することが判る。
【0016】
一方で、基本的に粉体状の塩化マグネシウムを使用する場合は特に問題とならないが、フレーク状の塩化マグネシウムを使用した場合、その添加量が湿潤土に対する質量比で0.15倍を超えると、粉体状の塩化マグネシウムに比べて溶解するのに時間を要することから、フレークが溶け切った際に、土系舗装材に急激な流動性の変化が起こり、流動性の調整が困難となることも明らかとなった。
【0017】
また、塩化マグネシウムの添加量を湿潤土に対する質量比で0.03倍及び0.05倍とした場合は、当該塩化マグネシウムを加えたことによる強度の増加が見込めない。したがって、塩化マグネシウムの添加量は湿潤土に対する質量比で0.05倍より多く0.15倍より少ない範囲が好ましい範囲となる。
【0018】
(酸化マグネシウムの添加量について)
続いて、酸化マグネシウムの添加量であるが、前述した塩化マグネシウムの好適な添加量の範囲(検証実験では、湿潤土に対する質量比で0.1倍とした)において、酸化マグネシウムの添加量を、湿潤土に対する質量比で0.1倍、0.15倍、0.2倍の3水準で供試体(30cm×30cm×5cm)を作成して暴露試験を行った。
【0019】
暴露1ヶ月後の供試体の状況を確認すると、酸化マグネシウムの添加量が増えるほど、反り・ひび割れの発生が顕著となり、追加調査の結果、酸化マグネシウムの添加量が多いほど、膨張が大きくなることが判った。
【0020】
また、塩化マグネシウムの添加量を酸化マグネシウムに対する質量比で1倍、1.5倍とした配合では、1.5倍のとき大きな膨張が見られ、水浸養生3日目で供試体表面にひび割れが現れた。さらに、酸化マグネシウムの添加量が多いほど、7日間の気中養生後の強度は大きくなるが、酸化マグネシウムの添加量を湿潤土に対する質量比で0.2倍とした場合、水浸日数の経過とともに強度低下が続き、14日水浸後には10%程度まで強度が低下する。酸化マグネシウムの添加量を湿潤土に対する質量比で0.05倍、0.1倍とした配合では、水浸3日程度まで強度低下が続き、その後大きな変動はなく、14日水浸後には50~60%程度まで強度が低下する。
【0021】
上記検証結果から、酸化マグネシウムの添加量が多いと、水浸時に膨張を引き起こして強度低下につながることが明らかになったことなどから、酸化マグネシウムの添加量は塩化マグネシウムの添加量と同等程度とするのが好ましい。
【0022】
なお、
図2には、上記した酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの添加量の検証結果を踏まえ、母材に対する質量比で酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの添加量を0.1倍とした配合の一例が示されている。すなわち、
図2(a)には、湿潤土に対する、塩化マグネシウム及び酸化マグネシウムの添加量と、加水量が示され、
図2(b)には、乾燥土に対する、塩化マグネシウム及び酸化マグネシウムの添加量と、加水量が示されている。
【0023】
(第一リン酸カルシウムの適用について)
前述したように、本発明の実施例では固化材として第一リン酸カルシウムを添加することが最大の特徴となっている。前述した塩化マグネシウム及び酸化マグネシウムのみを固化材として添加した場合、加水量が変化しても翌日には脱型可能であった。また
図3には、上記第一リン酸カルシウムと、他のリン酸化合物を添加材として使用した場合の土系舗装材の硬化速度に関する検証結果が示されている。
【0024】
検証結果から、過リン酸石灰を添加した場合、酸化マグネシウムに対する質量比20%の添加量では、翌日に脱型することが可能であるが、土系舗装材が硬く、打設作業が非常に難しい。また過リン酸石灰を30%及び50%添加した場合、脱型が可能となるのは打設後2日経過してからとなってしまう。
【0025】
リン酸二水素ナトリウム及び第一リン酸カルシウムを添加した場合、酸化マグネシウムに対する質量比10%の添加量では翌日の脱型が不可能となってしまうが、3%及び5%の添加量であれば翌日の脱型が可能となる。リン酸二水素ナトリウム及び第一リン酸カルシウムいずれも添加量が増えるほど、硬化が遅くなる傾向にあり、硬化の遅れは、土系舗装の交通開放が遅れる要因となってしまう。
【0026】
続いて、
図4には各添加材による土系舗装材の耐水性を評価した検証結果が示されている。土系舗装材の耐水性は強度と密接に関係することから、土系舗装の供試体を作製し、強度試験を行っている。具体的には、20℃の環境下における7日間の気中養生後の曲げ強度と、7日間の気中養生の後、さらに3日間水浸したときの曲げ強度、7日間の気中養生の後、さらに14日間水浸したときの曲げ強度をそれぞれ測定している。なお、
図4では、添加材を添加していない(固化材が酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムのみ)供試体の曲げ強度を超えたものに「○」印を記載している。
【0027】
検証結果から、添加材を添加していない(固化材が酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムのみ)供試体の水浸3日及び14日の強度及び残留強度率を超える添加材は、図に示されるように、過リン酸石灰、リン酸二水素ナトリウムの添加量5~10%、第一リン酸カルシウムの添加量3~10%である。
【0028】
また、水浸3日後から14日後までで、添加材なしの場合よりも強度の増加割合が大きかったのは、第一リン酸カルシウムの添加量5~10%、第二リン酸カルシウム5%の場合のみである。さらに、第一リン酸カルシウムと第二リン酸カルシウムを比較すると、同じ添加量でも第一リン酸カルシウムの方が強度及び残留強度率が高い。すなわち、土系舗装材の耐水性の観点からすると、第一リン酸カルシウムを添加する方が好ましく、さらにその添加量を5~10%(対MgO%)としたものがより好ましい。
【0029】
続いて、各添加材による膨張への影響について検証を行った。添加材を添加しない(固化材が酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムのみ)場合、含水比が大きいほど膨張量が大きくなり、所定の含水比を超えると、水浸養生2日目で供試体表面にひび割れが現れる。
【0030】
また、
図5には第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸三カルシウムの水浸日数における長さ変化率の調査結果が示され、
図6には膨張に関する評価結果をまとめたものが示されている。図示されるように、リン酸三カルシウムを添加した場合、添加材を添加しないものよりも大きな膨張を生じ、水浸養生1日で供試体表面にひび割れが生じる。これ以外の添加材においては、添加材を添加しない場合よりも膨張量は小さくなっていたが、過リン酸石灰については、水浸日数の経過とともに膨張量が大きくなる傾向にある。また、リン酸二水素ナトリウムでは、添加量5%で収縮の傾向が確認されている。さらに第一リン酸カルシウムにあっては、添加量が多いほど膨張が抑えられる傾向にある。
【0031】
また
図5に示されるように、リン酸のカルシウム塩においては、カルシウム含有量が多いほど膨張量が大きくなる傾向にある。この要因として、カルシウムイオンの水和反応によって体積膨張が生じている可能性があり、これによりリン酸三カルシウムにおいて著しい強度低下を招いたものと考えられる。
【0032】
以上のようにして、硬化速度、耐水性(強度)、膨張の影響について各添加材の評価を行った結果を
図7にまとめて示している。図示されるように、添加材としては第一リン酸カルシウムを好適に使用することができる。なお、前述したように、第二リン酸カルシウムを添加した場合、比較的に高強度となるが、膨張量が大きいため、土系舗装材の添加材としては不向きである。
【0033】
また、第一リン酸カルシウムの添加量の範囲としては、酸化マグネシウムに対する質量比3%以上の添加量で水浸時の曲げ強度・残留強度率の増加が見られること、添加量5%以上で水浸3日から14日の間で強度増加が見られること、及び、添加量が多いほど膨張を抑えて強度低下が抑制されること、添加量が増えるほど硬化時間が遅くなり、供試体作製時に7%で翌日の脱型が可能であったこと、これらを踏まえると、第一リン酸カルシウムの添加量は3%(対MgO%)以上とするのが好ましく、より好ましくはその添加量を3~7%(対MgO%)とするとよい。
【0034】
次に、加水量について説明する。7日間の気中養生+水浸3日の強度試験結果から、曲げ強度3MPa(管理用車両程度が通行可能なコンクリート舗装による道路の舗装材に求められる強度に相当)を満たすことができる水固化材比は0.64であった。さらに曲げ強度5MPa(大型車が通行可能なコンクリート舗装による道路の舗装材に求められる強度に相当)を満たすことができる水固化材比は0.42であった。すなわち、要求される強度に応じて、上記した水固化材比を満たす固化材量と加水量とすることが好ましい。
【0035】
また、土系舗装材の母材として、真砂土などの保水しやすい細粒分を多く含む土のほかに、砕石や砂利、砂などを添加することで、少ない加水量で施工可能な流動性を得ることができる。これにより、水固化材比を低減させることができ、高強度の土系舗装材を得ることが可能となる。
【0036】
続いて、
図8には本実施例におけるA~Eの5つの土系舗装材の配合例が示され、
図9にはこれらA~Eの配合における強度試験の結果が示されている。いずれも良好な耐水性(強度)と品質を確保することが可能となっている。そして本発明では、セメント系固化材を使用することなく高強度の土系舗装材を製造できるため、六価クロムの排出がなく、環境負荷を大幅に低減することが可能である。
【0037】
例えば、土系舗装材の母材の30%をイエローチャートに置き換えた場合(
図8番号E)、図示されるように、酸化マグネシウム・塩化マグネシウムともに母材に対する質量比0.11倍で曲げ強度5MPa(大型車が通行可能な道路の舗装材に相当)を発現させることができる。また、図示していないが、酸化マグネシウム・塩化マグネシウムともに母材に対する質量比0.08倍で曲げ強度3MPa(管理用車両程度が通行可能な道路の舗装材に相当)を発現させることができる。
【0038】
なお、固化材の添加量が増えるほど、土系舗装の表面がコンクリートに近い白さになるので、土の風合いを残す場合には、固化材(酸化マグネシウム及び塩化マグネシウム)の添加量を、母材に対する質量比で0.08倍までとするのが好ましい。
【0039】
(その他)
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明の土系舗装材を使用した舗装の施工に際しては、コンクリートと同様に扱うことができる。例えば、通常の土系舗装のように転圧施工ではなく、振動バイブレータなどを使用してコテ仕上げすることが可能である。これにより、ローラ系の建設機械を使用することなく、狭い場所でも施工することが可能である。また、通常の土系舗装ではできなかった、舗装表面のショットブラスト仕上げや、研磨仕上げも可能である。
【0040】
以上、本発明の実施形態について図面にもとづいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施例に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。