(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105932
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】マンガンナノ粒子触媒を利用した有機シラン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20230725BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230725BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C07F7/08 C
B01J35/02 H
B01J31/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006967
(22)【出願日】2022-01-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】形山 暢紀
(72)【発明者】
【氏名】永田 達己
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【テーマコード(参考)】
4G169
4H049
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BD01B
4G169BD02B
4G169BD04B
4G169BD06B
4G169BE07B
4G169BE19B
4G169BE37B
4G169CB25
4G169CB80
4G169DA05
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB19
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ07
4H049VR24
4H049VS07
4H049VT15
4H049VU36
4H049VV05
4H049VV06
4H049VV12
4H049VV14
4H049VV19
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】貴金属触媒及び複雑な製造手順を要する金属錯体を用いることなく、アルケン化合物及びヒドロシラン化合物から有機シラン化合物を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】ヒドロシリル化触媒の存在下で、アルケン化合物とヒドロシラン化合物とを反応させるヒドロシリル化工程を含み、前記ヒドロシリル化触媒が、マンガンナノ粒子の表面に配位性有機溶媒が配位してなるマンガンナノ粒子触媒である、有機シラン化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロシリル化触媒の存在下で、アルケン化合物とヒドロシラン化合物とを反応させるヒドロシリル化工程を含み、
前記ヒドロシリル化触媒が、マンガン元素含有ナノ粒子の表面に配位性有機溶媒が配位してなるマンガンナノ粒子触媒である、有機シラン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルケン化合物が、一般式(A)で表される化合物である、請求項1に記載の有機シラン化合物の製造方法。
【化1】
(一般式(A)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基を表し;R
1及びR
2がともに前記炭化水素基である場合、R
1及びR
2は互いに連結して環を形成していてもよく;R
3及びR
4がともに前記炭化水素基である場合、R
3及びR
4は互いに連結して環を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記ヒドロシラン化合物が、一般式(B)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の有機シラン化合物の製造方法。
Si(R6)nH4-n (B)
(一般式(B)中、R6は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素オキシ基を表し;nは、0以上3以下の整数を表し;nが2又は3である場合、R6同士は互いに連結して環を形成していてもよい。)
【請求項4】
前記一般式(B)中のnが、3である、請求項3に記載の有機シラン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記配位性有機溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、ジグリム、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される1種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機シラン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記反応が、エーテル溶媒中又は無溶媒で行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機シラン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンナノ粒子触媒を利用した有機シラン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロシリル化反応は、炭素-ケイ素結合を形成するという有機化学反応の中で最も重要な反応のひとつであり、工業的に広く利用されている。一般的に、ヒドロシリル化反応には白金触媒、ルテニウム触媒(特許文献1参照)等が用いられている。しかしながら、これらのような高価な貴金属を含む触媒を用いると、製造コストの低減が難しいという問題があった。そこで、近年では、ヒドロシリル化反応の触媒として汎用金属を含む触媒が開発されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、マンガン錯体をナトリウムtert-ブトキシドのような塩基で予備活性化し、アルケンとヒドロシランとのヒドロシリル反応の触媒として用いる技術が開示されている。また、非特許文献2には、マンガン錯体を水素化トリエチルホウ素ナトリウムのような還元剤で予備活性化し、ヒドロシリル反応の触媒として用いる技術が開示されている。
さらに、特許文献2及び非特許文献3には、表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子の存在下でアルケンとヒドロシランとのヒドロシリル化反応を行うことで有機シランを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-123545号公報
【特許文献2】特開2015-129103号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Stephen P. Thomas, et.al., Angew. Chem., Int. Ed., 2018, 57, 10620-10624
【非特許文献2】Ryan J. Trovitch, et.al., Chem. Sci., 2018, 9, 7673-7680
【非特許文献3】Yasushi Obora, et.al., ChemCatChem, 2018, 10, 2378-2382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び非特許文献2におけるヒドロシリル化反応においては、マンガン錯体の予備活性化に用いた塩基又は還元剤が副反応の要因となり、目的物の収率低減を招く場合がある。加えて、予備活性前のマンガン錯体は、錯体構造が複雑であるため、その製造には煩雑な手順を踏む必要があるという問題もある。
また、特許文献2及び非特許文献3に記載の鉄触媒は、ヒドロシラン化合物として第2級ヒドロシランを用いた場合には収率が低く、第3級ヒドロシランを用いた場合には反応がほとんど進行しないという問題があり、改善の余地がある。
【0007】
従って、本発明の課題は、貴金属触媒及び複雑な製造手順を要する金属錯体を用いることなく、アルケン化合物及びヒドロシラン化合物から有機シラン化合物を効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、マンガン元素含有
ナノ粒子の表面に配位性有機溶媒が配位したマンガンナノ粒子触媒の存在下において、アルケン化合物とヒドロシラン化合物とのヒドロシリル化反応が進行し、有機シラン化合物が得られることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕
ヒドロシリル化触媒の存在下で、アルケン化合物とヒドロシラン化合物とを反応させるヒドロシリル化工程を含み、
前記ヒドロシリル化触媒が、マンガン元素含有ナノ粒子の表面に配位性有機溶媒が配位してなるマンガンナノ粒子触媒である、有機シラン化合物の製造方法。
〔2〕
前記アルケン化合物が、一般式(A)で表される化合物である、〔1〕に記載の有機シラン化合物の製造方法。
【化1】
(一般式(A)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基を表し;R
1及びR
2がともに前記炭化水素基である場合、R
1及びR
2は互いに連結して環を形成していてもよく;R
3及びR
4がともに前記炭化水素基である場合、R
3及びR
4は互いに連結して環を形成していてもよい。)
〔3〕
前記ヒドロシラン化合物が、一般式(B)で表される化合物である、〔1〕又は〔2〕に記載の有機シラン化合物の製造方法。
Si(R
6)
nH
4-n (B)
(一般式(B)中、R
6は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素オキシ基を表し;nは、0以上3以下の整数を表し;nが2又は3である場合、R
6同士は互いに連結して環を形成していてもよい。)
〔4〕
前記一般式(B)中のnが、3である、〔3〕に記載の有機シラン化合物の製造方法。〔5〕
前記配位性有機溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、ジグリム、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の有機シラン化合物の製造方法。
〔6〕
前記反応が、エーテル溶媒中又は無溶媒で行われる、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の有機シラン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貴金属触媒及び複雑な製造手順を要する金属錯体を用いることなく、アルケン化合物及びヒドロシラン化合物から有機シラン化合物を効率よく製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例で得たマンガンナノ粒子触媒のXPS測定の結果を示す図である。
【
図2】実施例で得たマンガンナノ粒子触媒のSTEM像である(図面代用写真)。
【
図3】実施例で得たマンガンナノ粒子触媒の熱重量測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細を説明するにあたり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
なお、本明細書において、数値範囲の下限値及び上限値を分けて記載する場合、当該数値範囲は、それらのうち任意の下限値と任意の上限値とを組み合わせたものとすることができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る有機シラン化合物の製造方法は、ヒドロシリル化触媒の存在下で、アルケン化合物とヒドロシラン化合物とを反応(ヒドロシリル化反応)させるヒドロシリル化工程を含む。
【0014】
1.ヒドロシリル化工程
1-1.マンガンナノ粒子触媒
本実施形態に係る製造方法において、ヒドロシリル化反応は、マンガン元素含有ナノ粒子の表面に配位性有機溶媒が配位してなるマンガンナノ粒子触媒(以下、単に「マンガンナノ粒子触媒」と称することがある。)の存在下で行われる。
【0015】
本明細書において、「ナノ粒子の表面に配位性有機溶媒が配位してなる」とは、マンガン元素含有ナノ粒子の表面に配位性有機溶媒の分子が配位していることを意味する。
マンガン元素含有ナノ粒子に配位する配位性有機溶媒は、目的の触媒反応に応じて適宜選択することができる。また、配位性有機溶媒がマンガン元素含有ナノ粒子に配位しているか否かは、分散剤等による表面処理を施すことなく、マンガンナノ粒子触媒が当該配位性有機溶媒又は当該配位性有機溶媒と親和性のある他の配位性有機溶媒中に安定的に分散するか否かで判断することができる。すなわち、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)がマンガン元素含有ナノ粒子の表面に配位してなるマンガンナノ粒子触媒は、DMFと親和性のある配位性有機溶媒中に安定的に分散し得る。
【0016】
マンガン元素含有ナノ粒子は、マンガンを構成元素として含むものであれば具体的な組成は特に限定されず、マンガン単体のナノ粒子の他、マンガン合金のナノ粒子;マンガン単体のナノ粒子に酸素原子、炭素原子等のその他の原子がドープされているナノ粒子;酸化マンガン等の無機マンガン化合物のナノ粒子;等も含まれる。なお、マンガン元素含有ナノ粒子は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0017】
配位性有機溶媒としては、例えばN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド溶媒;1,4-ジオキサン、ジグリム、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、DMFは、マンガンナノ粒子触媒の製造において、配位性有機溶媒、反応溶媒及び還元剤として作用し、1ステップでの製造が可能であるため、特に好適である。なお、配位性有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0018】
マンガンナノ粒子触媒の粒子径は、特に限定されず、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは0.8nm以上であり、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以
下、特に好ましくは5nm以下である。なお、本明細書において、マンガンナノ粒子触媒の粒子径は、個数基準の算術平均径を意味し、環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(ADF-STEM)により測定することができる。具体的には、ADF-STEMによりマンガンナノ粒子触媒を撮影し、得られた画像から無作為に100個程度(例えば95~105個)の粒子を選出して粒径を測定し、その算術平均値をマンガンナノ粒子触媒の粒子径とする。
【0019】
マンガンナノ粒子触媒は、毒性の低いマンガンを含み、粒子状であり、かつ、空気及び水に対して安定である。そのため、マンガンナノ粒子触媒は、取り扱いが容易であり、反応後にろ過等により容易に回収することもできる。そして、回収されたマンガンナノ粒子触媒は、ヒドロシリル化触媒として再利用することができる。したがって、本実施形態に係る製造方法は、安全性及び環境調和性に優れる。
【0020】
さらに、マンガンナノ粒子触媒は、それ自体がアルケン化合物とヒドロシラン化合物とのヒドロシリル化触媒として活性であるため、ヒドロシリル化反応に先立って塩基、還元剤等を用いて予備活性化することを要しない。加えて、本実施形態におけるヒドロシリル化工程では、本発明の効果を阻害しない範囲で助触媒等の添加剤を添加してもよいが、マンガンナノ粒子触媒は単独でも高い触媒活性を示すため、そのような添加剤を添加する必要もない。そのため、本実施形態におけるヒドロシリル化工程の操作手順は、簡便なものとすることができる。
【0021】
なお、本実施形態において、ヒドロシリル化触媒であるマンガンナノ粒子触媒は、白金、ルテニウム等の貴金属を含有しない。ここで、本明細書において、「貴金属を含有しない」とは、ヒドロシリル化触媒に意図的に貴金属を含有させたものでないことを意味し、ヒドロシリル化触媒に不純物として極微量の貴金属が含まれることまで排除するものではない。なお、ここでいう「極微量」は、マンガンナノ粒子触媒の質量に対して、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下をいう。
【0022】
マンガンナノ粒子触媒の製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開2015-129103号公報、国際公開第2018/131430号等に記載されている方法に準じた製造方法を採用することができる。具体的には、マンガン元素を含んだ前駆体と配位性有機溶媒を含む溶媒とを混合し、加熱還流する方法により、マンガンナノ粒子触媒を製造することができる。
【0023】
1-2.アルケン化合物
アルケン化合物の具体的種類は、特に限定されず、例えば下記一般式(A)で表される化合物(以下、「アルケン化合物(A)」と称することがある。)が挙げられる。なお、アルケン化合物は、公知であるか、公知の製造方法に準じた方法により容易に製造し得るものである。
【0024】
【0025】
(R1~R4)
一般式(A)中、R1~R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は置
換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基を表す。R1及びR2がともに前記炭化水素基である場合、R1及びR2は互いに連結して環を形成していてもよい。また、R3及びR4がともに前記炭化水素基である場合、R3及びR4は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0026】
なお、本明細書において、炭化水素基には、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状の炭化水素基に限られず、分岐構造を有していてもよく、炭素-炭素不飽和結合を有していてもよく、環状構造を有していてもよい。また、芳香族炭化水素基は、単環式、多環式、又は縮合環式であってよく、複素環式の芳香族炭化水素基であってもよい。
【0027】
R1~R4で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0028】
R1~R4で表される炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、炭化水素基が脂肪族炭化水素基である場合、通常1以上であり、また、通常40以下、好ましくは32以下、より好ましくは24以下、さらに好ましくは16以下である。また、炭化水素基が芳香族炭化水素基である場合、その炭素数は、通常3以上であり、また、通常40以下、好ましくは32以下、より好ましくは24以下、さら好ましくは16以下である。なお、本明細書において、炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数として示した数には置換基の炭素数が含まれるものとする。
【0029】
R1~R4で表される無置換の炭素数1以上40以下の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基等の直鎖又は分岐の飽和脂肪族炭化水素基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基等の環状構造を有する飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基、アリル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;等が挙げられる。
【0030】
R1~R4で表される無置換の炭素数3以上40以下の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、フルオレニル基、インデニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、カルバゾリル基、フリル基、ジベンゾフラニル基、チオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基等が挙げられる。なお、これらの基において結合手の位置は特に限定されない。
【0031】
R1~R4で表される炭素数1以上40以下の炭化水素基が置換基を有する場合、当該置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1以上6以下のアルキル基;ビニル基、アリル基、3-ブテニル基等の炭素数3以上6以下のアルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3以上6以下のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアリールアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、iso-プロピルオキシ基、グリシジルオキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、iso-イソブトキシ基、tert-ブトキシ
基、n-ヘキシルオキシ基等の炭素数1以上6以下のアルコキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、3-ブテニルオキシ基等の炭素数3以上6以下のアルケニルオキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3以上6以下のシクロアルキルオキシ基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアリールアルキルオキシ基;アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基等のα,β-不飽和カルボニルオキシ基;アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等の第1~3級アミノ基;ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、カルバゾリル基、モルホリノ基、オキシラニル基、オキセタニル基、オキシラニル基、テトラヒドロフリル基、フリル基、チエニル基等の炭素数3以上12以下の複素環基;等が挙げられる。
【0032】
R1及びR2は互いに連結して環を形成する場合、及びR3及びR4は互いに連結して環を形成する場合、これらの基は直接結合で連結されていてもよく、連結基を介して連結されていてもよい。当該連結基としては、-S-、-O-、―CO-、-COO-、-OCO-、-SO2-、-NR5-、-CONR5-、-NR5CO-、-OCONR5-等が挙げられる。R5は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上8以下の炭化水素基を表す。炭素数1以上8以下の炭化水素基としては、R1~R4で表される炭化水素基として示したもののうち、炭素数1以上8以下のものが挙げられる。
【0033】
R1~R4は、水素原子又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、水素原子又は無置換の炭素数1以上24の脂肪族炭化水素基であることがさらに好ましい。
また、アルケン化合物(A)は、末端アルケンであることが好ましい。従って、R1及びR2がいずれも水素原子であること、並びに/又はR3及びR4がいずれも水素原子であることが好ましい。
【0034】
具体的なアルケン化合物(A)としては、1-プロペン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-フェニル-1-ブテン、6,6-ジメチル-1-ヘプテン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、スチレン、N,N-ジメチルアリルアミン等が挙げられる。
【0035】
1-3.ヒドロシラン化合物
ヒドロシラン化合物の具体的種類は、特に限定されず、製造目的である有機シラン化合物に応じて適宜選択することができる。ヒドロシラン化合物としては、例えば下記一般式(B)で表される化合物(以下、「ヒドロシラン化合物(B)」と称することがある。)が挙げられる。なお、ヒドロシラン化合物は、公知であるか、公知の製造方法に準じた方法により容易に製造し得るものである。
Si(R6)nH4-n (B)
【0036】
(n)
式(B)中、nは、0以上3以下の整数を表す。nは、好ましくは1以上3以下の整数であり、より好ましくは2又は3、さらに好ましくは3である。本実施形態においては、nが3、すなわち、ヒドロシリル化合物が第3級ヒドロシラン化合物である場合でも、ヒドロシリル化反応が速やかに進行し、工業的に有用性の高い第3級有機シラン化合物を効率よく製造することが可能である。
【0037】
(R6)
一般式(B)中、R6は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換の炭素数1以上40
以下の炭化水素基又は置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素オキシ基を表す。nが2又は3である場合、R6同士は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0038】
R6で表される置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基は、それぞれ、R1~R4で表される置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基(ただし、脂肪族二重結合を含む基を除く。)と同様に定義される。
また、R6で表される置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素オキシ基中の置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基は、R1~R4で表される置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基(ただし、脂肪族二重結合を含む基を除く。)と同様に定義される。
【0039】
R6同士は互いに連結して環を形成する場合、R6同士は直接結合で連結されていてもよく、連結基を介して連結されていてもよい。当該連結基としては、R1とR2とを連結するための連結基(ただし、脂肪族二重結合を含む基を除く。)と同様のものを採用することができる。
【0040】
R6は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換の炭素数1以上40以下の炭化水素基であることが好ましく、置換若しくは無置換の炭素数1以上40の脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の炭素数3以上40の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
【0041】
具体的なヒドロシラン化合物(B)としては、メチルシラン、エチルシラン、プロピルシラン等のモノアルキルシラン化合物;ジメチルシラン、ジエチルシラン、エチルメチルシラン等のジアルキルシラン化合物;トリメチルシラン、トリエチルシラン等のトリアルキルシラン化合物;フェニルシラン、ナフチルシラン等のモノアリールシラン化合物;ジフェニルシラン、ジナフチルシラン等のジアリールシラン化合物;トリフェニルシラン、トリナフチルシラン等のトリアリールシラン化合物;ジフェニルメチルシラン、ジフェニルエチルシラン等のジアリールアルキルシラン化合物;フェニルジメチルシラン、フェニルジエチルシラン等のアリールジアルキルシラン化合物;等が挙げられる。
これらのうち、ヒドロシラン化合物(B)は、トリアルキルシラン化合物、トリアリールシラン化合物、ジアリールアルキルシラン化合物、アリールジアルキルシラン化合物であることが好ましく、ジアリールアルキルシラン化合物であることがより好ましい。
【0042】
1-4.有機シラン化合物
本実施形態に係る製造方法で製造される有機シラン化合物は、アルケン化合物とヒドロシラン化合物とのヒドロシリル化反応生成物であれば、具体的な構造は特に限定されず、幅広い有機シラン化合物であってよい。具体的には、アルケン化合物(A)とヒドロシラン化合物(B)との反応により得られる、一般式(C1)又は一般式(C2)で表される有機シラン化合物(以下、「有機シラン化合物(C1)」又は「有機シラン化合物(C2)」と称することがある。)が挙げられる。
【0043】
【0044】
一般式(C1)及び(C2)中、R1~R4は、それぞれ、一般式(A)中のR1~R4と同義である。また、一般式(C1)及び(C2)中、R6及びnは、それぞれ、式(B)中のR6及びnと同義である。
【0045】
1-5.反応条件
(触媒量)
ヒドロシリル化工程に用いるマンガンナノ粒子触媒の量(仕込量)は、特に限定されないが、マンガンナノ粒子触媒の触媒回転数が高いため、少量でも十分な触媒活性を確保することができる。
具体的には、マンガンナノ粒子触媒の使用量は、アルケン化合物の脂肪族二重結合に対して総金属換算(マンガン換算)で通常0.001mol%以上、好ましくは0.005mol%以上、より好ましくは0.01mol%以上、さらに好ましくは0.03mol%以上、特に好ましくは0.05mol%以上であり、また、通常5.0mol%以下、好ましくは1.0mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、さらに好ましくは0.1mol%以下であり、特に好ましくは0.08mol%以下である。
【0046】
(基質のモル比)
アルケン化合物の使用量(仕込量)に対するヒドロシラン化合物の使用量(仕込量)は、特に限定されないが、アルケン化合物の脂肪族二重結合に対して通常1.0当量以上、好ましくは2.0当量以上、より好ましくは3.0当量以上、さらに好ましくは5.0当量以上であり、また、通常50.0当量以下、好ましくは20当量以下、より好ましくは10.0当量以下である。アルケン化合物の脂肪族二重結合に対するヒドロシラン化合物の使用量が上記範囲内とすることにより、有機シラン化合物の収率を向上することができ、反応後の精製も容易となる。
【0047】
(反応溶媒)
ヒドロシリル化工程は、無溶媒で行ってもよく、反応溶媒中で行ってもよい。反応溶媒としては、特に限定されず、例えばヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ジグリム、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶媒;1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;酢酸、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等のプロトン性極性溶媒;アセトン、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒;等が挙げられる。なお、反応溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0048】
ヒドロシリル化工程は、ヒドロシラン化合物の転化率向上及び有機シランの収率向上の観点から、エーテル溶媒中又は無溶媒で行うことが好ましく、ジグリム中又は無溶媒で行うことがより好ましい。また、反応溶媒は、脱水脱酸素化して用いることも好ましい。
【0049】
(反応温度)
反応温度は、触媒の耐熱性、基質の反応性、反応溶媒の種類、反応時間等の反応条件に応じて適宜選択すればよい。具体的には、反応温度の下限は、有機シラン化合物の収率の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。また、反応温度の上限は、触媒の分解又は不活性化を抑制する観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
【0050】
(反応時間)
反応時間は、特に限定されず、触媒の種類、基質の反応性、反応溶媒の種類、反応温度等の反応条件に応じて適宜選択すればよい。具体的には、反応時間は、有機シラン化合物
の収率向上の観点から、好ましくは4時間以上、より好ましくは10時間以上、さらに好ましくは15時間以上である。また、反応時間は、副反応抑制の観点から、好ましくは60時間以下、より好ましくは48時間以下、さらに好ましくは36時間以下である。
【0051】
(雰囲気ガス等)
ヒドロシリル化工程は、常圧下で行ってもよく、加圧下で行ってもよい。
また、ヒドロシリル化工程は、厳密な禁水条件は必要としない。したがって、ヒドロシリル工程は、空気雰囲気下で行ってもよく、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行ってもよいが、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。なお、これらの不活性ガスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
2.その他工程
本実施形態に係る有機シラン化合物の製造方法は、上記ヒドロシリル化工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、有機シラン化合物の純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。
【実施例0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0054】
<GC測定>
ガスクロマトグラフィー(GC)によるアルケン化合物の転化率、ヒドロシラン化合物の転化率、及び有機シラン化合物の収率の測定条件は、以下の通りである。
装置名:GC-2010(株式会社島津製作所)
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
カラム:BP-5(Trajan Scientific and Medical)
キャリアガス:窒素
データ処理:分析データシステムLab Solutions LC/GC Ver.5.99(株式会社島津製作所)
【0055】
<XPS測定>
X線光電子分光法(XPS)によるマンガンナノ粒子触媒の分析条件は、以下の通りである。
装置名:Ulvac-PHI 5000 VersaProbe III(アルバック・ファイ株式会社)
線源:Al Kα線
試料マウント:Ag板(株式会社ニラコ,板厚さ0.2mm)
【0056】
<粒子径測定>
環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(ADF-STEM)によるマンガンナノ粒子触媒の粒子径の測定条件は、以下の通りである。
装置名:JEM-ARM200F(日本電子株式会社)
加速電圧:200 kV
【0057】
<熱重量測定>
マンガンナノ粒子触媒の熱重量測定(TG)の条件は、以下の通りである。
装置名:TGA 4000(PerkinElmer)
測定温度:50℃~500℃
昇温速度:10℃/1min
保持時間:10min
雰囲気:窒素
【0058】
<合成例1:ヒドロシリル化触媒の合成>
スクリュー管に塩化マンガン四水和物1.0mmol(0.1258g)、水9.0mL、及び36%塩酸1.0mLを加え、塩化マンガン四水和物が完全に溶解するまで静置することで、塩化マンガン水溶液を得た。
次いで、撹拌子を備えた三ツ口丸底フラスコにDMF50mLを加え、このDMFを1500rpmで攪拌しながら140℃で5分間予備加熱した。この際、三ツ口フラスコ、攪拌子等の器具は、DMFで共洗いしてから使用した。
続いて、三ツ口丸底フラスコに塩化マンガン水溶液500μLを加え、24時間加熱還流することにより、マンガンナノ粒子触媒(以下、「Mn NPs」と称することがある。)の分散液を得た。塩化マンガンが全てマンガンナノ粒子に変換されたと仮定すると、得られた分散液のマンガン元素の濃度は、1.0mmol/Lとなる。
【0059】
得られたマンガンナノ粒子触媒の分散液から、真空下で分散媒を留去した。得られた残渣をさらに真空下、80℃で乾燥し、マンガンナノ粒子に配位していないDMFを厳密に除去することで、マンガンナノ粒子触媒の物性測定用サンプルを得た。このサンプルを用い、マンガンナノ粒子触媒のXPS測定、粒子径測定、及び熱重量測定を行った。
【0060】
マンガンナノ粒子触媒のXPS測定の結果を
図1に示す。
図1中、MnOに帰属されるメインピーク及びサテライトピークが確認できる。このことから、マンガンナノ粒子触媒の製造過程で塩化マンガンが酸化マンガンに変換されたと考えられる。
【0061】
環状暗視野走査型透過型電子顕微鏡(ADF-STEM)による観察の結果を
図2に示す。ADF-STEMにより算出したマンガンナノ粒子触媒の平均粒子径(粒子98個の平均値)は、約2.9nmであった。
【0062】
マンガンナノ粒子触媒の熱重量測定の結果を
図3に示す。
図3より、マンガンナノ粒子触媒は、5%重量減少温度が137℃であり、高い耐熱性を有することがわかった。
【0063】
<有機シラン化合物の製造>
(実施例1-1:反応溶媒の検討)
【化4】
【0064】
シュレンク管に、合成例1で得たマンガンナノ粒子触媒分散液50μL(Mn換算で0.05μmol)を加え、真空下で分散媒を留去した。マンガンナノ粒子に配位していないDMFを厳密に除去するため、得られた残渣をさらに真空下、80℃で乾燥し、マンガンナノ粒子触媒を得た。
【0065】
マンガンナノ粒子触媒の入ったシュレンク管に撹拌子を入れ、シュレンク管を二方コック及びゴム栓により密閉した。シュレンク管をアルゴンで置換した後、シュレンク管にジグリム1mL、1-ドデセン0.5mmol(0.0842g)及びジフェニルメチルシラン2.5mmol(0.496g)加えた。反応液を130℃で加熱しながら24時間
攪拌した後、得られた反応混合物を氷浴にて冷却し、ヘキサン10mLと混合することで反応を停止させた。
【0066】
その後、内部基準物質としてノナンを用い、GC測定を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表1に示す。
【0067】
(実施例1-2~実施例1-4:反応溶媒の検討)
反応溶媒を表1の通りに変更した以外は実施例1-1と同様の方法でヒドロシリル化反応を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1から、反応溶媒としてジグリムを用いた場合(実施例1-1)及び反応溶媒を用いなかった場合(実施例1-4)には、アルケン化合物の転化率及び有機シラン化合物の収率が向上することがわかる。ジグリム溶媒中で反応を行った場合には(実施例1-1)、特に高収率で有機シラン化合物が得られることもわかる。一方、反応溶媒としてp-キシレン又はDMFを用いた場合(実施例1-2、実施例1-3)には、アルケン化合物の転化率及び有機シラン化合物の収率は実施例1-1及び実施例1-4よりも低かったものの、ヒドロシリル化反応が進行することが確認された。
【0070】
【0071】
まず、実施例1-1と同様にしてシュレンク管中にマンガンナノ粒子触媒を得た。次いで、マンガンナノ粒子触媒の入ったシュレンク管に撹拌子を入れ、シュレンク管を二方コック及びゴム栓により密閉した。このシュレンク管にジグリム1mL、1-ドデセン0.5mmol(0.0842g)及びジフェニルメチルシラン2.5mmol(0.496g)加えた。反応液を130℃で加熱しながら24時間攪拌した後、得られた反応混合物を氷浴にて冷却し、ヘキサン10mLと混合することで反応を停止させた。
【0072】
その後、内部基準物質としてノナンを用い、GC測定を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表2に示す。
【0073】
(実施例2-2:反応雰囲気の検討)
シュレンク管を密閉しなかった以外は実施例2-1と同様の方法でヒドロシリル化反応を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表2に示す。
【0074】
(実施例2-3:反応雰囲気の検討)
シュレンク管にジグリム、1-ドデセン及びジフェニルメチルシランを加える前にシュレンク管をアルゴン置換した以外は実施例2-1と同様の方法でヒドロシリル化反応を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表2に示す。
【0075】
【0076】
表2から、空気雰囲気下でも不活性雰囲気下でもヒドロシリル化反応が進行し、特に不活性雰囲気下でヒドロシリル化反応を行うと高収率で有機シラン化合物が得られることがわかった。
【0077】
【0078】
まず、実施例1-1と同様にしてシュレンク管中にマンガンナノ粒子触媒を得た。次いで、マンガンナノ粒子触媒の入ったシュレンク管に撹拌子を入れ、シュレンク管を二方コック及びゴム栓により密閉した。シュレンク管をアルゴンで置換した後、シュレンク管に1-ドデセン0.5mmol(0.0842g)及びジフェニルメチルシラン2.5mmol(0.496g)加えた。反応液を130℃で加熱しながら16時間攪拌した後、得られた反応混合物を氷浴にて冷却し、ヘキサン10mLと混合することで反応を停止させた。
【0079】
その後、内部基準物質としてノナンを用い、GC測定を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表3に示す。
【0080】
(実施例3-2:反応時間の検討)
反応時間を表3の通りに変更した以外は実施例3-1と同様の方法でヒドロシリル化反応を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表3に示す。
【0081】
【0082】
表3から、反応温度130℃では、触媒の分解による反応の停止は生じず、反応時間の経過とともに基質の転化率及び有機シラン化合物の収率が向上することがわかる。
【0083】
【0084】
まず、実施例1-1と同様にしてシュレンク管中にマンガンナノ粒子触媒を得た。次いで、マンガンナノ粒子触媒の入ったシュレンク管に撹拌子を入れ、シュレンク管を二方コック及びゴム栓により密閉した。シュレンク管をアルゴンで置換した後、シュレンク管に1-ドデセン0.5mmol(0.0842g)及びジフェニルメチルシラン2.5mmol(0.496g)加えた。反応液を100℃で加熱しながら24時間攪拌した後、得られた反応混合物を氷浴にて冷却し、ヘキサン10mLと混合することで反応を停止させた。
【0085】
その後、内部基準物質としてノナンを用い、GC測定を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表4に示す。
【0086】
(実施例4-2:反応温度の検討)
反応温度を表4の通りに変更した以外は実施例4-1と同様の方法でヒドロシリル化反応を行った。GC測定結果より算出した基質の転化率及び生成物の収率を表4に示す。
【0087】
【0088】
表4から、反応温度を100℃から130℃に高めることにより、反応速度が上昇し、基質の転化率及び有機シラン化合物の収率が向上することがわかる。