(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105934
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】Snを含むはんだの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 25/06 20060101AFI20230725BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230725BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C22B25/06
C22B7/00 F
B09B5/00 Z ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006969
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】上田 早紀
(72)【発明者】
【氏名】川村 茂
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敦
(72)【発明者】
【氏名】中川原 聡
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宏満
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
【Fターム(参考)】
4D004AA24
4D004BA05
4D004CA29
4D004CB31
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4K001AA24
4K001BA22
4K001CA02
4K001CA09
4K001DA05
(57)【要約】
【課題】Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板からSnを含むはんだを安価且つ効率的に回収することができる、Snを含むはんだの回収方法を提供する。
【解決手段】Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板から部品を除去した後、基板を(PbとSnの含有量(質量%)の比がPb:Sn=10~90:90~10である)Pb-Sn合金の溶湯(温度190~320℃)に浸漬することにより、Snを含むはんだをPb-Sn合金の溶湯中に回収する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板から部品を除去した後、基板をPb-Sn合金の溶湯に浸漬することにより、Snを含むはんだをPb-Sn合金の溶湯中に回収することを特徴とする、Snを含むはんだの回収方法。
【請求項2】
前記Pb-Sn合金中のPbとSnの含有量(質量%)の比がPb:Sn=10~90:90~10であることを特徴とする、請求項1に記載のSnを含むはんだの回収方法。
【請求項3】
前記Pb-Sn合金の溶湯の温度が190~320℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載のSnを含むはんだの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Snを含むはんだの回収方法に関し、特に、Snを含むはんだにより電子部品などの部品がはんだ付けされた電子基板などの基板からSnを含むはんだを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品が基板上に搭載された電子基板では、電子部品がはんだにより基板上に固定されており、電子部品の固定に使用するはんだとして、近年、人体や環境などへの負荷を考慮して、従来の(Pb-Sn系合金などからなる共晶はんだなどの)鉛を含むはんだから(鉛を含まない)鉛フリーはんだへの移行がなされている。
【0003】
このような鉛フリーはんだとして、Sn-Ag-Cu系、Sn-Zn-Bi系、Sn-Cu系、Sn-Ag-In-Bi系、Sn-Zn-Al系などの鉛フリーはんだがあり、電子基板中のSn含有量が増加する傾向にある。
【0004】
そのため、廃電子基板から貴金属などの種々の金属を効率的に回収するために、廃電子基板を銅精錬炉などの精錬炉で処理する前に、予めSnを含むはんだを回収することが望まれており、廃電子基板からはんだを回収する方法として、溶剤を用いて廃電子基板からはんだを化学的に溶解させる方法(例えば、特許文献1照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-508658号公報(段落番号0032)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法によりはんだを回収すると、溶剤を用いてはんだを化学的に溶解させるために長時間を要し、また、廃液処理などにより回収コストが増大して、効率的にはんだを回収することができない。また、溶剤で浸出中にはんだのSn相の表面に酸化物が形成され、浸出率が低下して、はんだの回収率が低下する。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板からSnを含むはんだを安価に且つ効率的に回収することができる、Snを含むはんだの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板から部品を除去した後、基板をPb-Sn合金の溶湯に浸漬することにより、Snを含むはんだをPb-Sn合金の溶湯中に回収すれば、Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板からSnを含むはんだを安価に且つ効率的に回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によるSnを含むはんだの回収方法は、Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板から部品を除去した後、基板をPb-Sn合金の溶湯に浸漬することにより、Snを含むはんだをPb-Sn合金の溶湯中に回収することを特徴とする。
【0010】
このSnを含むはんだの回収方法において、Pb-Sn合金中のPbとSnの含有量(質量%)の比がPb:Sn=10~90:90~10であるのが好ましく、Pb-Sn合金の溶湯の温度が190~320℃であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板からSnを含むはんだを安価に且つ効率的に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるSnを含むはんだの回収方法の実施の形態では、Snを含むはんだにより部品がはんだ付けされた基板から部品を除去した後、基板をPb-Sn合金の溶湯に浸漬することにより、Snを含むはんだをPb-Sn合金の溶湯中に回収する。このように基板をPb-Sn合金の溶湯に浸漬することにより、基板中のSnがPb-Sn合金として溶湯中に短時間で吸収され、Snを含むはんだの回収率を飛躍的に向上させることができる。
【0013】
このSnを含むはんだの回収方法において、Pb-Sn合金中のPbとSnの含有量(質量%)の比は、Pb:Sn=10~90:90~10であるのが好ましく、Pb:Sn=30~70:70~30であるのがさらに好ましく、Pb:Sn=40~60:60~40であるのが最も好ましい。また、Pb-Sn合金の溶湯の温度は、190~320℃であるのが好ましく、200~300℃であるのがさらに好ましく、230~270℃であるのが最も好ましい。このような低温の溶湯を使用することができるため、メタルポンプを使用することもできる。なお、Pb-Sn合金の溶湯に代えて、Pb溶湯(Pbを100質量%含む溶湯)を使用することも理論的には可能であるが、基板がガラスエポキシ基板である場合には、Pbの融点で熱分解反応が起こり、大気雰囲気中では燃焼することもあるため、Pb溶湯を使用するのは好ましくない。
【0014】
Pb-Sn合金の溶湯への浸漬は、Pb-Sn合金を黒鉛坩堝に入れて190~320℃に加熱して得られた溶湯中に、基板を入れた(ステンレス網などの)かごを10~60分間、好ましくは15~30分間浸漬する操作を繰り返すことによって行うことができる。この浸漬後のPb-Sn合金の溶湯は、鉛精錬の原料として使用することができる。また、この浸漬後のPb-Sn合金の溶湯を循環して浸漬に使用することによりSn含有量を増大させた後に、Snを回収して精製することもできる。
【0015】
また、上記のSnを含むはんだの回収方法において、基板から部品を除去した後、基板をPb-Sn合金の溶湯に浸漬する前に、基板を加熱して振動させるのが好ましい。この加熱の温度が250~300℃であるのが好ましく、振動を30~100Hzで行うのが好ましい。また、基板のはんだ付けされた面が、水平方向に延び且つ鉛直方向の下向きになるときの基板の傾きの角度を0°とし、鉛直方向に延びるときの基板の角度を90°とすると、基板を加熱して振動させる際に、基板を0~90°の角度になるように配置するのが好ましい。
【実施例0016】
以下、本発明によるSnを含むはんだの回収方法の実施例について詳細に説明する。
【0017】
[実施例1]
まず、Snを含むはんだにより電子部品がはんだ付けされたガラスエポキシ基板を用意し、この基板から電子部品を除去した。この電子部品を除去したガラスエポキシ基板について、重量を測定し、蛍光X線分析により組成分析したところ、重量は404.03gであり、86g(21質量%)のSnと81g(20質量%)のCuを含有していた。
【0018】
また、Pb-Sn合金を用意し、その重量を測定し、蛍光X線分析により組成分析したところ、重量は2630gであり、1311g(49.84質量%)のSnと1282g(48.745質量%)のPbを含有していた。
【0019】
このPb-Sn合金を黒鉛坩堝に入れて250℃に加熱して得られた溶湯中に、上記の電子部品を除去したガラスエポキシ基板を入れたステンレス網のかごを20分間浸漬した。
【0020】
この浸漬後のPb-Sn合金について、重量を測定し、蛍光X線分析により組成分析したところ、重量は2530gであり、1397g(55.20質量%)のSnと6g(0.25質量%)のCuを含有していた。
【0021】
この結果から、浸漬後のPb-Sn合金中のSnの含有量が5.36質量%(=55.20質量%-49.84質量%)上昇していることがわかる。
【0022】
[実施例2]
まず、Snを含むはんだにより電子部品がはんだ付けされたガラスエポキシ基板を用意し、この基板から電子部品を除去した。この電子部品を除去したガラスエポキシ基板について、重量を測定し、蛍光X線分析により組成分析したところ、重量は406.72gであり、43g(11質量%)のSnと81g(20質量%)のCuを含有していた。
【0023】
また、Pb-Sn合金を用意し、その重量を測定し、蛍光X線分析により組成分析したところ、重量は2630gであり、1379g(52.43質量%)のSnと1165g(44.29質量%)のPbを含有していた。
【0024】
このPb-Sn合金を黒鉛坩堝に入れて250℃に加熱して得られた溶湯中に、上記の電子部品を除去したガラスエポキシ基板を入れたかごを20分間浸漬した。
【0025】
この浸漬後のPb-Sn合金について、重量を測定し、蛍光X線分析により組成分析したところ、重量は2530gであり、1422g(56.21質量%)のSnと5g(0.21質量%)のCuを含有していた。
【0026】
この結果から、浸漬後のPb-Sn合金中のSnの含有量が3.78質量%(=56.21質量%-52.43質量%)上昇していることがわかる。
【0027】
[実施例3]
実施例1と同様のPb-Sn合金を黒鉛坩堝に入れて250℃に加熱して得られた溶湯中に、実施例1と同様の電子部品を除去したガラスエポキシ基板を入れたかごを1分間浸漬した後、3分間浸漬した後、5分間浸出した後に、基板から抜けたはんだの数(基板に空いた穴の数)を数えて、はんだの回収率(%)(=(基板から抜けたはんだの数)×100/(浸出前の基板上のはんだの数)を産出したところ、1分間浸漬した基板では、浸出前の基板上のはんだの数が90個、基板から抜けたはんだの数が78個、はんだの回収率が86.7%であり、3分間浸漬した基板では、浸出前の基板上のはんだの数が101個、基板から抜けたはんだの数が81個、はんだの回収率が80.2%であり、5分間浸漬した基板では、浸出前の基板上のはんだの数が180個、基板から抜けたはんだの数が157個、はんだの回収率が87.2%であった。
【0028】
この結果から、浸出時間が非常に短時間(1~5分間)でも、非常に高い回収率(80%以上)ではんだを回収することができることがわかる。
本発明によるSnを含むはんだの回収方法は、Snを含むはんだにより電子部品などの部品がはんだ付けされた電子基板などの基板からSnを含むはんだを回収する方法として使用することができる。