(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105944
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】多層膜の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20230725BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230725BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20230725BHJP
B05D 1/38 20060101ALI20230725BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230725BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230725BHJP
B05C 5/02 20060101ALI20230725BHJP
B05C 9/06 20060101ALI20230725BHJP
B05C 9/12 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D7/00 A
B05D3/12 C
B05D1/38
B05D1/36 B
B05D3/00 C
B05D7/00 B
B05C5/02
B05C9/06
B05C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006987
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
(72)【発明者】
【氏名】宮本 英昌
(72)【発明者】
【氏名】藤内 俊平
【テーマコード(参考)】
4D075
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC02
4D075AC05
4D075AC72
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC93
4D075AC95
4D075AE06
4D075BB05X
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4D075DA04
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4D075DC13
4D075DC15
4D075DC18
4D075DC19
4D075EA05
4D075EA07
4D075EA10
4D075EA13
4D075EC30
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA12
4F041CA02
4F042AA22
4F042AB00
4F042DC00
4F042DF23
4F042ED02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】どのような物性の多孔質体であっても、その両面に塗膜を精度よく形成しつつ、塗液を多孔質体に含浸させることが可能な多層膜の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】連続して搬送されるシート状の支持体の一方の面に第1の塗液を塗布して第1の塗膜を形成する工程と、第1の塗膜が未乾燥の状態で、第1の塗膜の上にシート状の多孔質体を積層する工程と、第1の塗膜が未乾燥の状態で、多孔質体の第1の塗膜に接していない側の面に第2の塗液を塗布して第2の塗膜を形成する工程であって、スリット状の吐出口が形成された吐出面を有するダイから第2の塗液を吐出し、第2の塗液を介して吐出面を多孔質体に押し付けることで支持体1および多孔質体3を湾曲または屈曲させながら第2の塗液を塗布しつつ、第1の塗膜と第2の塗膜の少なくとも一方を多孔質体に含浸させる工程と、第1および第2の塗膜を同時に乾燥させる工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して搬送されるシート状の支持体の一方の面に第1の塗液を塗布して第1の塗膜を形成する工程と、
次いで、前記第1の塗膜が未乾燥の状態で、当該第1の塗膜の上にシート状の多孔質体を積層する工程と、
次いで、前記第1の塗膜が未乾燥の状態で、前記多孔質体の前記第1の塗膜に接していない側の面に第2の塗液を塗布して第2の塗膜を形成する工程であって、スリット状の吐出口が形成された吐出面を有するダイから前記第2の塗液を吐出し、当該第2の塗液を介して前記吐出面を前記多孔質体に押し付けることで前記支持体および前記多孔質体を湾曲または屈曲させながら前記第2の塗液を塗布しつつ、前記第1の塗膜と前記第2の塗膜の少なくとも一方を前記多孔質体に含浸させる工程と、
次いで、前記第1および第2の塗膜を同時に乾燥させる工程と、
を有する多層膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1の塗膜と前記第2の塗膜の少なくとも一方を前記多孔質体に含浸させる前記工程において、前記第1の塗膜または前記第1の塗膜と前記第2の塗膜の両方を前記多孔質体に含浸させる、請求項1の多層膜の製造方法。
【請求項3】
前記ダイとして、前記吐出面が、前記吐出口よりも搬送方向上流側の部分で、搬送方向下流側の部分よりも前記多孔質体から離れる方向に引っ込んでいるものを使用する、請求項1または2の多層膜の製造方法。
【請求項4】
前記ダイとして、前記吐出面のうち前記吐出口よりも搬送方向下流側の部分が、前記吐出口よりも塗布幅方向の外側の両端部分で、当該両端部分以外の部分よりも前記多孔質体から離れる方向に引っ込んでいるものを使用する、請求項1から3のいずれかの多層膜の製造方法。
【請求項5】
前記支持体を挟んで前記ダイの吐出面に対向する位置から当該吐出面を観察して、
前記吐出面と前記多孔質体との間に形成される前記第2の塗液の溜りが、観察視野内において前記吐出口を完全に覆うように、前記吐出面を前記多孔質体に押し付ける深さを調整する、
請求項1から4のいずれかの多層膜の製造方法。
【請求項6】
前記支持体を挟んで前記ダイの吐出面に対向する位置から当該吐出面の塗布幅方向の全体を観察して、
前記第2の塗液の溜りが、前記吐出口を塗布幅方向の全体で完全に覆うように、前記吐出面を前記多孔質体に押し付ける深さ、および前記支持体の搬送方向を回転軸とした前記ダイの傾きを調整する、
請求項5の多層膜の製造方法。
【請求項7】
シート状の支持体を連続して搬送する支持体搬送装置と、
前記搬送装置により連続して搬送される前記支持体の一方の面に第1の塗液を塗布して第1の塗膜を形成する第1の塗布装置と、
前記第1の塗布装置よりも搬送方向の下流側で前記第1の塗膜の上にシート状の多孔質体を積層するように、当該多孔質体を連続して供給する多孔質体供給装置と、
前記多孔質体を積層する位置よりも搬送方向の下流側で、当該多孔質体の前記第1の塗膜に接していない側の面に第2の塗液を塗布して第2の塗膜を形成する第2の塗布装置と、
前記第2の塗布装置よりも搬送方向下流側で、前記第1および第2の塗膜を同時に乾燥させる乾燥装置と、を有し、
前記第2の塗布装置が、スリット状の吐出口が形成された吐出面を有するダイであって、 前記支持体を挟んで前記吐出面とは反対側から当該支持体を支持するものを有さず、前記吐出面を前記多孔質体に押し付けながら前記第2の塗液を塗布するものである、
多層膜の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の両面に塗膜を形成した多層膜の製造方法に関し、特にどのような物性の多孔質体であっても、塗液を効率よく含浸可能な多層膜の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布や布、繊維、メッシュ、紙、スポンジなどのシート状の多孔質体の両面に塗膜を形成した多層膜は、繊維強化プラスチック(プリプレグ)や離型紙、エアバッグ、バッテリーセパレータ、電極など、さまざまな分野に用いられている。これらにおいては、多孔質体の両面に塗液を精度よく塗布しつつ、塗液を多孔質体に含浸させることが求められる。
【0003】
多孔質体の両面に塗膜を形成しつつ、塗液を多孔質体に含浸させる方法としては、例えば特許文献1のように、多孔質体を搬送しつつ、その両面に塗工用ダイを押し付けて塗布する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、多孔質体を単体で搬送しつつ、塗工ダイを押し付けて塗布を行うため、多孔質体に高い張力を付与する必要があり、例えば厚みの薄い多孔質体や空孔率の高い多孔質体など、強度の低い多孔質体では伸びやシワ、破断を生じる問題があった。
【0006】
そこで本発明は、どのような物性の多孔質体であっても、その両面に塗膜を精度よく形成しつつ、塗液を多孔質体に含浸させることが可能な多層膜の製造方法および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の多層膜の製造方法は、
連続して搬送されるシート状の支持体の一方の面に第1の塗液を塗布して第1の塗膜を形成する工程と、
次いで、上記第1の塗膜が未乾燥の状態で、当該第1の塗膜の上にシート状の多孔質体を積層する工程と、
次いで、上記第1の塗膜が未乾燥の状態で、上記多孔質体の上記第1の塗膜に接していない側の面に第2の塗液を塗布して第2の塗膜を形成する工程であって、スリット状の吐出口が形成された吐出面を有するダイから上記第2の塗液を吐出し、当該第2の塗液を介して上記吐出面を上記多孔質体に押し付けることで上記支持体および上記多孔質体を湾曲または屈曲させながら上記第2の塗液を塗布しつつ、上記第1の塗膜と上記第2の塗膜の少なくとも一方を上記多孔質体に含浸させる工程と、
次いで、上記第1および第2の塗膜を同時に乾燥させる工程と、を有する。
【0008】
上記課題を解決する本発明の多層膜の製造装置は、
シート状の支持体を連続して搬送する支持体搬送装置と、
上記搬送装置により連続して搬送される上記支持体の一方の面に第1の塗液を塗布して第1の塗膜を形成する第1の塗布装置と、
上記第1の塗布装置よりも搬送方向の下流側で上記第1の塗膜の上にシート状の多孔質体を積層するように、当該多孔質体を連続して供給する多孔質体供給装置と、
上記多孔質体を積層する位置よりも搬送方向の下流側で、当該多孔質体の上記第1の塗膜に接していない側の面に第2の塗液を塗布して第2の塗膜を形成する第2の塗布装置と、
上記第2の塗布装置よりも搬送方向下流側で、上記第1および第2の塗膜を同時に乾燥させる乾燥装置と、を有し、
上記第2の塗布装置が、スリット状の吐出口が形成された吐出面を有するダイであって、 上記支持体を挟んで上記吐出面とは反対側から当該支持体を支持するものを有さず、上記吐出面を上記多孔質体に押し付けながら上記第2の塗液を塗布するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層膜の製造方法および製造装置によれば、張力を付与した支持体と多孔質体を第1の塗膜を介して接着しつつ搬送することで、多孔質体に高い張力を付与せずに搬送することができ、多孔質体の伸びやシワ、破断を防止できる。さらに第2の塗膜を、ダイの吐出面を多孔質体に押し付けながら形成することで、多孔質体に塗液を押し込む効果を得られ、多孔質体に塗液を効率よく含浸させることができる。その結果、どのような物性の多孔質体と塗液であっても、その両面に塗膜を精度よく形成しつつ、塗液を多孔質体に含浸させることができ、多層膜の生産性が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態の多層膜の製造方法を示す概略図である。
【
図2】
図1の実施形態のダイ4の先端部Aを拡大した、詳細断面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態の多層膜の製造方法を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の別の実施形態の多層膜の製造方法を示す概略図である。
【
図5】本発明の別の実施形態の多層膜の製造方法を示す概略断面図である。
【
図6】
図6の実施形態におけるカメラ8の観察視野の例を示す図である。
【
図7】支持体の搬送方向を回転軸としたダイ4の傾きを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の望ましい実施形態について、以下で説明する。なお、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0012】
図1は本発明の一実施形態の多層膜の製造方法を示す概略図である。本実施形態の多層膜の製造方法では、支持体巻き出し装置11、巻き取り装置61、および複数の搬送ローラから成る支持体搬送装置により搬送される支持体1の一方の面に、第1の塗布装置2から第1の塗液を吐出して第1の塗膜(図示せず)を形成し、次いで第1の塗膜が未乾燥(未固化)の状態で、第1の塗膜の上に、多孔質体供給装置31から連続して供給されるシート状の多孔質体3を積層する。次いで第1の塗膜が未乾燥の状態で、第2の塗布装置であるダイ4を用いて、多孔質体3の第1の塗膜に接していない側の面(
図1では上面)に第2の塗液を吐出して第2の塗膜を形成する。このとき、支持体1をダイ4の反対側から支持しない状態で、先端にスリット状の吐出口を有するダイ4から第2の塗液を吐出し、第2の塗液を介してダイ4の吐出面を多孔質体3に押し付けて支持体1および多孔質体3を湾曲または屈曲させながら第2の塗膜を形成することで、第1の塗膜または第1の塗膜と第2の塗膜の両方を多孔質体3に含浸させる。最後に、乾燥装置5で第1の塗膜および第2の塗膜を同時に乾燥(または固化)させて多層膜6とし、巻き取り部61で巻き取る。
【0013】
本実施形態の多層膜の製造方法では、支持体搬送装置により張力を付与して搬送される支持体1に、多孔質体3を第1の塗膜を介して接着することで、多孔質体3に高い張力を付与せずに搬送することができる。このとき多孔質体3には、多孔質体供給装置31から積層ローラ32まで搬送するための最低限の張力のみを付与すればよい。その結果、シワや伸び、破断の発生しやすい多孔質体、具体的には厚みが薄い、空孔率が高い、材料強度が低い多孔質体であっても、シワや伸び、破断を発生させずに安定して搬送することができる。
【0014】
次にダイ4の効果について説明する。
図2は
図1の実施形態のダイ4の先端部Aを拡大した、詳細断面図である。支持体1には第1の塗膜101および多孔質体3が積層されており、ダイ4の先端部にはスリット状の吐出口41が開口している。吐出口41から吐出された第2の塗液は、ダイ4の先端と多孔質体3の間に塗液溜り7を形成しながら、多孔質体3の表面に塗布されて第2の塗膜102を形成する。このとき、ダイ4の先端は、塗液溜り7を介して多孔質体3、第1の塗膜101、および支持体1に押し付けられており、塗液溜り7には高い圧力が生じる。この圧力によって、第2の塗膜102が多孔質体3に含浸する作用、および塗液溜り7に押された多孔質体3に第1の塗膜101が含浸する作用を得られ、塗液が多孔質体3に効率よく含浸する。特に、多孔質体3が第1の塗膜101に毛細管力や重力などで自然に含浸しにくい場合、具体的には塗液の粘度が高い、塗液と多孔質体の親和性が低い、含浸時間が短いなどの場合であっても、塗液を多孔質体3に効率よく含浸することができる。その結果、支持体1、第1の塗膜101、塗液が十分に含浸した多孔質体103、第2の塗膜102の積層体を得ることができる。
【0015】
また、支持体1をダイ4の反対側から支持していないので、ダイ4で押し付けられる力によって、支持体1と多孔質体3は湾曲するか、さらに押し付ける力が大きければ、屈曲と呼べる程度まで曲がった状態となる。
【0016】
なお、支持体1を挟んでダイ4に対向する位置にサポートローラなどを設け、支持体1を湾曲または屈曲させない状態でダイ4の先端を支持体1に近づけながら塗液を吐出しても、塗液溜り7に高い圧力が発生するので、塗液を多孔質体3に含浸させることはできる。しかし、サポートローラが偏心すると、その偏心の影響により、ダイ4の先端部と多孔質体3との隙間が変動するため、塗液溜り7の圧力が変動して、多孔質体3への塗液の含浸状態が不安定になるだけでなく、場合によってはダイ4の先端部と多孔質体3が接触して多孔質体3にシワや伸び、破断を生じる。あるいは、支持体1に厚みムラがあると、その厚みムラがそのままダイ4の先端部と多孔質体3との隙間の変動につながるため、同様の不具合を生じてしまう。そのため、支持体1を挟んでダイ4に対向する位置にはサポートローラを設けないことが好ましい。支持体1の搬送の安定化のため、サポートローラなどを設ける場合は、支持体1を挟んでダイ4に対向する位置を避け、ダイ4より上流側または下流側に設けることが好ましい。
【0017】
支持体1の材質や形状は特に限定されず、たとえばPETフィルムなどの樹脂フィルムや、金属箔など、多孔質体3を支持して搬送できるものであればよい。
【0018】
多孔質体3の材質や形状も特に限定されず、不織布や布、繊維、メッシュ、紙、スポンジなどを用いることができる。
【0019】
塗液の種類も特に限定されず、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液や、熱硬化・光硬化性の液体ポリマー、スラリー、エマルジョンなどを用いることができる。また第1の塗液と第2の塗液は同じでもよいし、異なっていてもよい。第1の塗液と第2の塗液が異なり、第2の塗液が多孔質体により含浸しやすく、ダイ4の吐出面を多孔質体3に押し付ける力が弱くて支持体1および多孔質体3の湾曲または屈曲する程度が小さいような場合には、第1の塗液が多孔質体に含浸せず、第2の塗液のみが多孔質体に含浸することがある。
【0020】
塗布部2の塗布方法も特に限定されず、ダイやスプレー、バー、ブレード、ナイフ、コンマ、ディップなど、種々の塗布方法を選択することができる。ダイ4の材質も特に限定されず、ステンレスなどの金属やセラミック、樹脂などを用いることができる。
【0021】
本実施形態では塗膜を固化させる方法として乾燥装置5を例示したが、これに限定されず、塗膜を固化できるものであればよい。例えば、塗液が光硬化性の液体ポリマーであれば、乾燥装置5の代わりに露光装置を用いることができる。
【0022】
図3は本発明の別の実施形態の多層膜の製造方法を示す概略断面図で、
図1のダイ4に相当するダイの先端部Aを拡大した図である。支持体1、第1の塗膜101および多孔質体3は
図3のX方向に搬送されている。以下では特に断らない限り、搬送方向とは支持体1の搬送方向Xを表すものとする。
図3の実施形態では、ダイ4の吐出面のうち、吐出口41よりも搬送方向上流側の部分42が、搬送方向下流側の部分43よりも、多孔質体3から離れる方向に引っ込んでいる。
【0023】
本実施形態では、ダイ4の吐出面のうち搬送方向上流側の部分42の角部Bが、塗液溜り7を介さずに多孔質体3に接触しにくいため、第2の塗布膜102の形成中に多孔質体3に傷やシワ、破断が生じるのを防止し、多層膜6の品質を向上させることができる。
【0024】
このとき、搬送方向上流側の部分42と搬送方向下流側の部分43の段差Hの大きさは特に限定されず、多孔質体3の状態と第2の塗膜102の形成状態に応じて決定すればよい。搬送方向上流側の部分42と搬送方向下流側の部分43の段差Hが大きいほど、搬送方向上流側の部分42が多孔質体3と接触しにくいが、段差Hが大きすぎると塗液溜り7が搬送方向上流側の部分42よりもさらに上流側にあふれて第2の塗膜102の厚みが不安定になるため、段差Hは大きくしすぎない方が好ましい。
【0025】
図4は本発明の別の実施形態の多層膜の製造方法を示す概略図で、
図2または
図3のダイ4に相当するダイをY方向から見た図である。
図4の実施形態では、支持体1、第1の塗膜101、多孔質体103、および第2の塗膜102は紙面の手前方向に搬送されている。ダイ4内の破線44は塗液の吐出流路を示しており、吐出口(図示せず)の支持体1の幅方向の長さはW、すなわち第2の塗膜の塗布幅はWである。さらにダイ4の吐出面のうち、吐出口よりも搬送方向下流側の部分43が、塗布幅Wよりも外側の両側部分43bで、塗布幅Wよりも内側の部分43aよりも、多孔質体103から離れる方向に引っ込んでいる。
【0026】
本実施形態では、ダイ4の吐出面の搬送方向下流側の部分43のうち、第2の塗膜102が形成されない部分43bが多孔質体103と接触しにくいため、第2の塗布膜102の形成中に多孔質体3に傷やシワ、破断が生じるのを防止し、多層膜6の品質を向上させることができる。
【0027】
このとき、搬送方向下流側の部分43のうち、塗布幅Wの内側の部分43aと、塗布幅Wの外側の部分43bの段差は特に限定されず、多孔質体3の状態に応じて決定すればよい。また搬送方向上流側の部分42も、搬送方向下流側の部分43と同様に、塗布幅Wよりも外側の両側部分で、塗布幅Wの内側の部分よりも、多孔質体3から離れる方向に引っ込んでいると、多孔質体への傷、シワ、破断防止の観点から好ましい。
【0028】
図5は本発明の別の実施形態の多層膜の製造方法を示す概略断面図である。
図5の実施形態では、支持体1を挟んでダイ4の吐出面に対向する位置から、カメラ8で吐出面を観察しており、吐出面と多孔質体3との間に形成される第2の塗液溜り7が、観察視野内において吐出口41を完全に覆うように、ダイ4の吐出面を多孔質体3に対して、
図5のZ方向に押し付ける深さを調整している。具体的には、吐出面と多孔質体3との間に形成される第2の塗液溜り7が、観察視野内において吐出口41を完全に覆っていない場合は、ダイ4の吐出面を多孔質体3により深く押し付ければよい。
【0029】
図6に本実施例におけるカメラ8の観察視野の例を示す。
図6(a)は、吐出面と多孔質体3との間に形成される第2の塗液溜り7が、観察視野内において吐出口41を完全に覆っている場合の例である。
図6の破線81はカメラの観察視野、ダイ4の吐出面のうち矢印の範囲41が吐出口、矢印の範囲42が搬送方向上流側の部分、矢印の範囲43が搬送方向下流側の部分、塗り潰し範囲が塗液溜り7を表しており、簡単のため支持体、第1の塗膜101、多孔質体3は省略してある。支持体は
図6のX方向に搬送されている。
図6(a)の例では、塗液溜り7がダイ4の吐出口41を完全に覆っており、塗液溜り7の搬送方向上流側の界面71が吐出口41よりも搬送方向上流側に位置している。次に
図6(b)は、吐出面と多孔質体3との間に形成される第2の塗液溜り7が、観察視野内において吐出口41を完全に覆わない場合の例である。塗液溜り7の搬送方向上流側の界面71の一部が、吐出口41にかかっている。
【0030】
観察視野81が
図6(b)の状態では、塗液溜り7の搬送方向上流側の界面71から、ダイ4の吐出口41に気泡が侵入し、第2の塗膜102に気泡や塗布スジが発生してしまう。観察視野81が
図6(b)の状態になっている場合は、
図6(a)の状態になるまで、ダイ4の吐出面を多孔質体3に深く押し付けることで、第2の塗膜102の気泡や塗布スジを解消し、多層膜の品質を向上させることができる。また、観察視野81が
図6(a)の状態であっても、塗液溜り7の搬送方向上流側の界面71が吐出口41に近い場合には、ダイ4の吐出面を多孔質体3に深く押し付けることで、塗液溜り7の搬送方向上流側の界面71を吐出口41から遠ざけ、第2の塗膜102に気泡や塗布スジが発生することを予防でき、より好ましい。
【0031】
さらに、カメラ8をダイ4の塗布幅方向に複数設置、またはカメラ8をダイ4の塗布幅方向に走査することで、ダイ4の吐出面の塗布幅方向の全体を観察すると、より好ましい。具体的には、塗液溜り7が吐出口41を塗布幅方向の全体で完全に覆うように、ダイ4の吐出面を多孔質体3に押し付ける深さ、および支持体の搬送方向を回転軸としたダイ4の傾きを調整すると、第2の塗膜102の塗布幅方向の全体で気泡や塗布スジの発生を防止することができる。ここで支持体の搬送方向を回転軸としたダイ4の傾きとは、
図7において支持体1の搬送方向をXとしたとき、矢印Rの向きのダイ4の回転状態を表す。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の多層膜の製造方法および製造装置は、繊維強化プラスチック(プリプレグ)や離型紙、エアバッグ、バッテリーセパレータ、電極など、さまざまな用途に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 支持体
2 第1の塗布装置
3 多孔質体
4 ダイ(第2の塗布装置)
5 乾燥装置
6 多層膜
7 第2の塗液溜り
8 カメラ
11 支持体巻き出し装置
31 多孔質体供給装置
32 積層ローラ
41 吐出口
42 ダイの吐出面のうち吐出口より搬送方向上流側の部分
43、43a、43b ダイの吐出面のうち吐出口より搬送方向下流側の部分
44 ダイの吐出流路
61 巻き取り装置
71 第2の塗液溜りの上流側の界面
81 カメラの観察視野
101 第1の塗膜
102 第2の塗膜
103 塗液が含浸した多孔質体
A ダイの先端
B 搬送方向上流側の部分の角部
H 段差
R ダイの傾き方向(回転方向)
W 第2の塗膜の塗布幅
X 支持体の搬送方向
Z ダイの押し付け方向