IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スタンレー電気株式会社の特許一覧

特開2023-105952単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法
<>
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図1
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図2
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図3
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図4
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図5
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図6
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図7
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図8
  • 特開-単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105952
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20230725BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20230725BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C30B29/38 C
H01L33/32
H01L29/86 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007010
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 亨
【テーマコード(参考)】
4G077
5F241
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB02
4G077BE13
5F241AA41
5F241AA43
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA74
(57)【要約】
【課題】
信頼性の高い半導体デバイスを高い歩留まりで製造し得る単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の単結晶AlN基板は、Al極性面である平坦面及び前記平坦面の外縁から側面にかけて形成されている傾斜面を有する第1の面と、前記第1の面の反対側の面でありかつN極性面である第2の面と、を有する単結晶AlN基板であって、前記傾斜面は、前記平坦面に沿った方向において、前記単結晶AlN基板の端部からの距離が0.45mm以上でありかつ0.75mm以下である位置にまで形成され、かつ、前記平坦面に垂直な方向において前記平坦面からの距離が0.2mm以上でありかつ0.3mm以下である位置にまで形成されていることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al極性面である平坦面及び前記平坦面の外縁から側面にかけて形成されている傾斜面を有する第1の面と、前記第1の面の反対側の面でありかつN極性面である第2の面と、を有する単結晶AlN基板であって、
前記傾斜面は、前記平坦面に沿った方向において、前記単結晶AlN基板の端部からの距離が0.45mm以上でありかつ0.75mm以下である位置にまで形成され、かつ、前記平坦面に垂直な方向において前記平坦面からの距離が0.2mm以上でありかつ0.3mm以下である位置にまで形成されていることを特徴とする単結晶AlN基板。
【請求項2】
炭素濃度が5×1017cm-3以下であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶AlN基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記単結晶AlN基板上に、AlN層と、AlGa1-xN(0.5≦X≦1)層とがこの順で積層された積層膜を含むことを特徴とする半導体ウェハ。
【請求項4】
前記AlGa1-xN(0.5≦X≦1)層は、前記単結晶AlN基板から遠ざかる方向に、Al組成Xの値が小さくなる組成傾斜層であることを特徴とする請求項3に記載の半導体ウェハ。
【請求項5】
Al極性面である平坦面及び前記平坦面の外縁から側面にかけて形成されている傾斜面を有する第1の面と、前記第1の面の反対側の面でありかつN極性面である第2の面と、を有する単結晶AlN基板であって、
PVT法により形成され、下面を前記第2の面とするPVT-AlN層と、
HVPE法により前記PVT-AlN層の上面上に形成され、上面を前記第1の面とするHVPE-AlN層と、を含み、
前記単結晶AlN基板の端面において、前記HVPE-AlN層の層厚は、前記PVT-AlN層の層厚の1/5以下であることを特徴とする単結晶AlN基板。
【請求項6】
前記傾斜面と、前記平坦面とのなす角は、23°以上でありかつ29°以下であることを特徴とする請求項5に記載の単結晶AlN基板。
【請求項7】
前記傾斜面は、前記平坦面に沿った方向において、前記単結晶AlN基板の端部からの距離が0.45mm以上でありかつ0.75mm以下である位置にまで形成され、かつ、前記平坦面に垂直な方向において前記平坦面からの距離が0.2mm以上でありかつ0.3mm以下である位置にまで形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の単結晶AlN基板。
【請求項8】
前記単結晶AlN基板の端部における前記HVPE-AlN層の層厚は、100μm以下であることを請求項5乃至7のいずれか1つに記載の単結晶AlN基板。
【請求項9】
前記単結晶AlN基板の端部における前記HVPE-AlN層の層厚は50μm以下であることを請求項5乃至8のいずれか1つに記載の単結晶AlN基板。
【請求項10】
請求項5乃至9に記載の前記単結晶AlN基板上に、AlN層と、AlGa1-xN(0.5≦X≦1)層がこの順で積層された積層膜を含むことを特徴とする半導体ウェハ。
【請求項11】
前記AlGa1-xN(0.5≦X≦1)層は、前記単結晶AlN基板から遠ざかる方向に、Al組成Xの値が小さくなる組成傾斜層であることを特徴とする請求項10に記載の半導体ウェハ。
【請求項12】
単結晶AlN基板の製造方法であって、
PVT法により形成されたPVT-AlN層上に、HVPE法によりHVPE-AlN層を成長し、上面がAl極性面であるテンプレート基板を形成する工程(A)と、
前記HVPE-AlN層の上面の周縁部に面取り加工を施して、Al極性面である平坦面の外縁から前記単結晶AlN基板の側面にかけて傾斜する傾斜面を形成する面取り工程(B)と、を含み、
前記面取り工程(B)の後、前記単結晶AlN基板の側面において、前記HVPE-AlN層の層厚は、前記PVT-AlN層の層厚の1/5以下であることを特徴とする単結晶AlN基板の製造方法。
【請求項13】
単結晶AlN基板上に半導体層が形成された半導体ウェハの製造方法であって、
PVT法により形成されたPVT-AlN層上に、HVPE法によりHVPE-AlN層を成長し、上面がAl極性面であるテンプレート基板を形成する工程(A)と、
前記HVPE-AlN層の上面の周縁部に面取り加工を施して、Al極性面である平坦面の外縁から前記単結晶AlN基板の側面にかけて傾斜する傾斜面を形成する面取り工程(B)と、
前記面取り工程(B)の後、前記HVPE-AlN層の上面を酸溶液に浸漬する浸漬処理工程(C)と、
前記浸漬処理工程(C)の後、MOCVD法により前記HVPE-AlN層上にAlN層と、AlGa1-xN(0.5≦X≦1)層とがこの順で積層された積層膜を形成する工程(D)と、を含み、
前記面取り工程(B)の後、前記単結晶AlN基板の側面において、前記HVPE-AlN層の層厚は、前記PVT-AlN層の層厚の1/5以下であることを特徴とする半導体ウェハの製造方法。
【請求項14】
前記浸漬処理工程(C)において、前記PVT-AlN層の下面は、前記酸溶液から露出していることを特徴とする請求項13に記載の半導体ウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(Light Emitting Diode(LED))、半導体レーザ(Laser Diode(LD))等の発光素子を含む半導体デバイスの作製に適用可能な単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlGaN系半導体を用いた深紫外発光素子等の半導体デバイスを製造する際の、AlGaN系半導体層を積層するための基板としては、格子整合のしやすさ等の観点から、AlN基板が適している。
【0003】
例えば、特許文献1には、AlN単結晶基板と格子整合したn型AlGa1-XN(0.5≦X<1)層を、AlN単結晶基板上に有するIII族窒化物積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018-051772号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、AlN基板上にAlGaN系半導体層を成長させる場合、結晶成長の前処理として自然酸化膜をエッチング液によって除去する際に、AlN基板の表面のみをエッチング液に接触させようとしても、当該エッチング液が側面に這い上がり、裏面にまで回り込んでしまうという問題があった。このようなエッチング液の裏面への回り込みによってAlN基板の裏面側がエッチングされてしまうと、半導体デバイスを形成するためにAlN基板表面にAlGaN系半導体層を積層する際に基板温度の面内均一性が低下し、半導体デバイスを形成した際の信頼性や歩留まりに影響することが問題となっていた。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、信頼性の高い半導体デバイスを高い歩留まりで製造し得る単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による単結晶AlN基板は、Al極性面である平坦面及び前記平坦面の外縁から側面にかけて形成されている傾斜面を有する第1の面と、前記第1の面の反対側の面でありかつN極性面である第2の面と、を有する単結晶AlN基板であって、前記傾斜面は、前記平坦面に沿った方向において、前記単結晶AlN基板の端部からの距離が0.45mm以上でありかつ0.75mm以下である位置にまで形成され、かつ、前記平坦面に垂直な方向において前記平坦面からの距離が0.2mm以上でありかつ0.3mm以下である位置にまで形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明による単結晶AlN基板は、Al極性面である平坦面及び前記平坦面の外縁から側面にかけて形成されている傾斜面を有する第1の面と、前記第1の面の反対側の面でありかつN極性面である第2の面と、を有する単結晶AlN基板であって、PVT法により形成され、下面を前記第2の面とするPVT-AlN層と、HVPE法により前記PVT-AlN層の上面上に形成され、上面を前記第1の面とするHVPE-AlN層と、を含み、前記単結晶AlN基板の端面において、前記HVPE-AlN層の層厚は、前記PVT-AlN層の層厚の1/5以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明による単結晶AlN基板の製造方法は、PVT法により形成されたPVT-AlN層上に、HVPE法によりHVPE-AlN層を成長し、上面がAl極性面であるテンプレート基板を形成する工程(A)と、前記HVPE-AlN層の上面の周縁部に面取り加工を施して、Al極性面である平坦面の外縁から前記単結晶AlN基板の側面にかけて傾斜する傾斜面を形成する面取り工程(B)と、を含み、前記面取り工程(B)の後、前記単結晶AlN基板の側面において、前記HVPE-AlN層の層厚は、前記PVT-AlN層の層厚の1/5以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明による半導体ウェハの製造方法は、単結晶AlN基板上に半導体層が形成された半導体ウェハの製造方法であって、PVT法により形成されたPVT-AlN層上に、HVPE法によりHVPE-AlN層を成長し、上面がAl極性面であるテンプレート基板を形成する工程(A)と、前記HVPE-AlN層の上面の周縁部に面取り加工を施して、Al極性面である平坦面の外縁から前記単結晶AlN基板の側面にかけて傾斜する傾斜面を形成する面取り工程(B)と、前記面取り工程(B)の後、前記HVPE-AlN層の上面を酸溶液に浸漬する浸漬処理工程(C)と、前記浸漬処理工程(C)の後、MOCVD法により前記HVPE-AlN層上にAlN層と、AlGa1-xN(0.5≦X≦1)層とがこの順で積層された積層膜を形成する工程(D)と、を含み、前記面取り工程(B)の後、前記単結晶AlN基板の側面において、前記HVPE-AlN層の層厚は、前記PVT-AlN層の層厚の1/5以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係る半導体ウェハの上面図である。
図2】実施例1に係る半導体ウェハ端部の構造を示す断面図である。
図3】実施例1の半導体ウェハの積層構造を模式的に示す断面図である。
図4】実施例1の単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハの製造工程の概要を示すフローチャートである。
図5】実施例1の半導体ウェハの製造工程における酸溶液による前処理工程を示す図である。
図6図5の前処理工程を示す図の部分拡大図である。
図7】実施例2に係る半導体ウェハ端部の構造を示す断面図である。
図8】実施例2の変形例に係る単結晶AlN基板端部の構造を示す断面図である。
図9】実施例3に係る半導体ウェハ端部の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例0013】
[単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハの構成]
図1図3を参照しつつ、本実施例の半導体ウェハ100の構成について説明する。本実施例において、半導体ウェハ100は、紫外半導体発光素子である紫外発光ダイオード(紫外LED)となる半導体層が単結晶AlN基板11上に形成されたものである。
【0014】
図1は、本実施例の半導体ウェハ100の上面図である。半導体ウェハ100は、単結晶AlN基板11上に半導体層13が積層されて構成されている。図1では、単結晶AlN基板11の構造を明確にするため、半導体層13を仮想線(二点鎖線)で示している。図示の都合上、半導体層13の外縁が基板11の外縁の内側に描かれているが、半導体層13は基板11の上面全体に亘って積層されていると理解されたい。以下、基板11から見て半導体層13が存在している方向を半導体ウェハ100の上方として説明する。
【0015】
図1に示すように、単結晶AlN基板11は、上面視において点Cを中心とする略円形の平面形状を有している円盤状の基板である。単結晶AlN基板11の外周上の一か所には、単結晶AlN基板11の結晶方位を示すオリエンテーションフラットOFが形成されている。
【0016】
単結晶AlN基板11は、半導体層13が形成されている面である第1の面S1に、平坦面FSと、平坦面FSの外縁から単結晶AlN基板11の端部にかけて、すなわち上面視においては外縁にかけて傾斜するように形成されている傾斜面RPとを有している。
【0017】
図1に示すように、傾斜面RPは、一定の幅d1を有するように形成されている。言い換えれば、傾斜面RPは、単結晶AlN基板11の端部と当該端部から半径方向内側に距離d1離れた位置との間の領域に形成されている。さらに言い換えれば、傾斜面RPは、上面視において、単結晶AlN基板11の端部から内側に距離d1だけ延在している。
【0018】
図2は、半導体ウェハ100を図1に示す中心Cを通る2-2線で切断した断面のうち、半導体ウェハ100の端部付近の形状を示す部分拡大断面図である。
【0019】
図2に示すように、単結晶AlN基板11は、物理気相輸送(physical vapor transport, PVT)法により作製されたAlN種基板であるPVT-AlN層11Aと、PVT-AlN層11A上にハイドライド気相成長(hydride vapor phase epitaxy,HVPE)法で成長されたAlN厚膜であるHVPE-AlN層11Bとからなる2層構造を有している。
【0020】
図2に示すように、単結晶AlN基板11は、上面である第1の面S1の他に、第1の面の反対側の面、すなわち下面である第2の面S2と、側面S3と、を有している。
【0021】
上記したように、第1の面S1は、平坦面FSと傾斜面RPを有している。
【0022】
平坦面FSは、化学機械研磨(CMP)などの公知の研磨手法で研磨されることで平坦化された面である。平坦面FSは、C面であり、Al極性面である。従って、表面の自然酸化膜をエッチングする、例えばリン酸と硫酸との混合溶液やフッ化水素酸等のエッチング液に対して耐性がある。また、平坦面FSは、C面から微傾斜した、いわゆるOFF角度を持った結晶面であってもよい。OFF角度は、特に限定されるものではないが、0.1~0.5°の範囲に設定することで、S1面上にAlGaN層を積層した場合、良好な平滑性が得られやすくなる。また、微傾斜させる方向も適宜決定すればよいが、直線的なステップ-テラス構造が得られるM軸方向であることが好ましい。
【0023】
傾斜面RPは、平坦面FSの外縁から単結晶AlN基板11の端部、すなわち側面S3に向かうにつれて下方に、言い換えれば第2の面S2に向かう方向に傾斜するように形成されている。すなわち、傾斜面RPは、基板11の外方に向かって下り傾斜の傾斜面である。
【0024】
傾斜面RPは、単結晶AlN基板11の表面と端面との間の角部を面取りした面取り部であるともいえる。
【0025】
さらに、傾斜面RPは、単結晶AlN基板11の平坦面FSと側面S3との間に形成されたテーパー形状を有するテーパー部であるともいえる。
【0026】
上述のように、傾斜面RPは、平坦面FSの外縁又は終端から平坦面FSに沿った方向において距離d1だけ延在している。すなわち、傾斜面RPの幅はd1である。幅d1は、平坦面FSの外縁又は終端から測定される距離である。
【0027】
また、傾斜面RPは、側面視において平坦面FSから平坦面FSに垂直な方向において距離d2だけ延在している。すなわち、傾斜面RPの深さまたは高さはd2である。高さd2は、側面視において単結晶AlN基板11の側部における平坦面FSに対して垂直な面の上端すなわち側面S3の上端から測定される距離である。
【0028】
なお、傾斜面RPは、曲面を含んでいてもよく、丸みを帯びた(Rがついた)断面形状を有していてもよい。丸みを帯びた断面形状を有する場合の傾斜面RPの幅d1は、丸みを帯びていない場合と同様に、平坦面FSの外縁又は終端から測定する。丸みを帯びた断面形状を有する場合の傾斜面RPの高さd2についても、平坦面FSに対して垂直な面の上端すなわち側面S3の上端から測定するものとする。
【0029】
本実施例において、単結晶AlN基板11の端部からの距離d1が0.45mm以上でありかつ0.75mm以下である(0.45≦d1≦0.75)の位置にまで形成されている。言い換えれば、傾斜面RPの上面視における幅d1は、0.45mm以上0.75mm以下である。
【0030】
また、傾斜面RPは、平坦面FSに垂直な方向において平坦面FSからの距離d2が0.2mm以上でありかつ0.3mm以下であるの位置にまで形成されている。言い換えれば、傾斜面RPの高さd2は、0.2mm以上0.3mm以下(0.2≦d2≦0.3)である。
【0031】
上記した寸法d1、d2を有する傾斜面RPは、平坦面FSに対して23°以上29°以下の角度で傾斜することとなる。換言すれば、傾斜面RPと、平坦面FSとのなす角は、23°以上でありかつ29°以下である(図2中、23°≦θa≦29°)。
【0032】
本実施例における単結晶AlN基板11は、まず種基板を種にして円盤状の単結晶AlN基板を成長させることで生成し、当該生成された円盤状の基板の主面のうちの単結晶AlN基板11の第1の面S1、すなわち素子成長面の外縁を研削して傾斜面RPを形成することで形成される。種基板を用いて生成した円盤状の基板は、半導体層の成長時の温度変化を受けると成長面の周縁部の残留応力に依るスリップ転位が生じ易い。上記した傾斜面RPはこのスリップ転位が生じやすい部分を取り除くことで生ずる部分である。
【0033】
言い換えれば、本実施例における傾斜面RPを有する単結晶AlN基板11は、上記スリップ転位が生じやすい部分を取り除いた基板となっている。
【0034】
第2の面S2は、化学機械研磨などの公知の研磨手法で研磨されることで平坦化された平坦面であってもいいし、機械研磨面、いわゆるラップ面であってもよい。第2の面S2は、-C面であり、N極性面である。従って、表面の自然酸化膜をエッチングする、例えばリン酸と硫酸との混合溶液やフッ化水素酸等のエッチング液に対して耐性がなく、当該エッチング液によってエッチングされる性質を有する。そのため、エッチングの進行を遅くするという観点からは、平坦化された面であることが好ましい。
【0035】
側面S3は、単結晶AlN基板11の側端面であり、基板面に対して垂直な面、平坦面FSに対して垂直な面である。側面S3は、第1の面S1や第2の面S2と比較して粗面であってもよい。
【0036】
半導体層13は、単結晶AlN基板11の第1の面S1上に、エピタキシャル成長によって活性層を含む複数のAlGaN系半導体層が積層されて形成されている。
【0037】
ここで、図3を参照しつつ、半導体層13の層構成について説明する。図3は、図2中の破線で囲まれた部分Aの拡大図である。
【0038】
図3に示すように、半導体層13は、単結晶AlN基板11上に、順次、n型AlGaN層14(以下、n型AlGa1-xN(0≦x≦1)層14とも記載する)、活性層15、AlGaN層16、p型AlGaN層17及びp型GaN層18がエピタキシャル成長によって積層されて形成されている。
【0039】
n型AlGaN層14は、Si(シリコン)ドープされたn型導電層である。n型AlGaN層14のAl組成は、所望とする紫外光の発光波長に対して十分な透過性が得られるように適宜決定することができる。例えば、半導体ウェハ100を用いた紫外半導体発光素子において、発光層から放出された紫外光は、n型AlGaN層14と単結晶AlN基板11を透過して外部に放出される。また、n型AlGaN層14のAl組成が大きくなるにつれて、n型AlGaN層のバンドギャップは大きくなり、それに応じて、より短波長の紫外光を透過することができるようになる。
【0040】
また、n型AlGa1-xN(0≦x≦1)層14は、Al組成の異なる複数の層から形成されていてもよい。例えば、n型AlGa1-xN(0≦x≦1)層14は、AlN層と、AlGa1-xN(0.5≦x≦1)層とがこの順で積層された積層膜を含んでいてもよい。
【0041】
また、単結晶AlN基板11とn型AlGaN層14との間に、AlNバッファ層を設けてもよい。
【0042】
さらに、n型AlGa1-xN(0≦x≦1)層14を積層方向に、すなわち単結晶AlN基板11から遠ざかる方向にAl組成が傾斜する組成傾斜層とすることもできる。例えば、n型AlGaN層14は、図3に示すように、第1のn型AlX1Ga1-X1N層14A及び第2のn型AlX2Ga1-X2N層14Bからなる。第1のn型AlX1Ga1-X1N層14Aは、積層方向にAl組成X1が1.0から0.75に減じる組成傾斜層であり、第2のn型AlX2Ga1-X2N層14Bは、Al組成X2が0.75から0.70に減じる組成傾斜層とすることができる。
【0043】
また、n型AlGaN層14の膜厚は、特に限定されるものではなく適宜決定される。
例えば、n型AlGaN層14の膜厚は、0.5μm以上2μm以下とすることが好ましい。n型AlGaN層の抵抗値を下げる観点からは、n型AlGaN層の膜厚が厚い方が好ましいが、単結晶AlN基板11を用いる場合、n型AlGaN層の膜厚が厚くなりすぎると、n型AlGaN層が格子緩和を起こして転位が発生しやすくなるためである。
【0044】
例えば、n型AlGaN層14を上記した第1のn型AlX1Ga1-X1N層14A及び第2のn型AlX2Ga1-X2N層14Bからなる積層構造として形成した場合は、第1のn型AlX1Ga1-X1N層14Aは200nmの層厚を有し、第2のn型AlX2Ga1-X2N層14Bは1000nmの層厚とすることができる。また、これら第1のn型AlX1Ga1-X1N層14A及び第2のn型AlX2Ga1-X2N層14Bの膜厚は例示した数字に限定されるものではなく、総膜厚が2.0μm以下になるように適宜決定することができる。
【0045】
また、n型AlGaN層14にドーピングするSi濃度は、所望のn型導電性が得られるように適宜決定すればよいが、n型AlGaN層14の抵抗値を下げる観点からは、1×1018~1×1020cm-3であることが好ましく、更には5×1018~5×1019cm-3であることが好ましい。またSiドーピング濃度は、n型AlGaN層14内の膜厚方向で一定であってもいいし、膜厚方向でSi濃度の異なる変調ドーピングにすることもできる。
【0046】
活性層(ACT)15は、AlA1Ga1-A1N層からなる障壁層とAlA2Ga1-A2N層からなる井戸層で構成される量子井戸構造である。活性層15の発光ピーク波長は210~300nmの範囲内にある。活性層15から放出される光の波長は井戸層のAl組成と膜厚によって決まるため、Al組成と膜厚は、上記の波長範囲において所望の発光波長が得られるように適宜決定することができる。
【0047】
例えば、井戸層の膜厚は2~10nmの範囲で設定し、所望の発光波長が得られるようにAl組成を決定することができる。また、障壁層のAl組成と膜厚についても、特に限定されるものではないが、例えば、Al組成はA2<A1≦1.0、膜厚は2~15nmの範囲内で設定することができる。
【0048】
また、井戸層や障壁層は、Siがドープされたn型層とすることもできる。井戸層と障壁層ともにSiドーピング層であってもよいし、井戸層のみ、もしくは障壁層のみにSiがドーピングされた構造であってもよい。ドーピングされるSi濃度は、特に限定されるものではないが、1×1017~5×1018cm-3の範囲が好ましい。
【0049】
また、量子井戸の層数も特に限定されるものではなく、複数の井戸層が形成された多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造であってもよいし、単一量子井戸(SQW:Single Quantum Well)であってもよい。井戸層の数は、1~5の範囲で適宜決定することが好ましい。
【0050】
AlY1Ga1-Y1N層16は、活性層15上に隣接して設けられた層である。AlY1Ga1-Y1N層16は、活性層15に注入された電子がp型AlY2Ga1-Y2N層17へオーバーフローすることを抑制するための電子ブロック層(EBL:Electron Blocking Layer)として機能する。そのため、AlY1Ga1-Y1N層16は、活性層15、および後述するp型AlY2Ga1-Y2N層17よりも大きなバンドギャップを有し、AlY1Ga1-Y1N層16のAl組成Y1は0.8<Y1≦1.0の範囲で決定される。
【0051】
発光波長の短波長化に伴って、基板11上にエピタキシャル成長するAlGaN層のAl組成は高くなり、発光波長が270nmよりも短い場合では、電子ブロック層としての機能を十分に発現させるため、Al組成Y1は0.9≦Y1≦1.0であることが好ましい。なお本実施例においては、AlY1Ga1-Y1N層16としてAlN(Y1=1)を用いている。
【0052】
また、AlY1Ga1-Y1N層16は、電子ブロック層としての機能を発現できる限りは、アンドープ層であってもよく、またはp型ドーパントがドーピングされていてもよい。AlY1Ga1-Y1N層16におけるp型のドーパント材料としてはMg(マグネシウム)、Zn(亜鉛),Be(ベリリウム)、C(炭素)等を用いることができる。特に、AlGaN層のp型ドーパント材料として一般的に用いられているMgを用いることが好ましい。
【0053】
p型ドーパント材料は、AlY1Ga1-Y1N層16の積層方向において、一様にドーピングされていてもよいし、積層方向でドーパント材料の濃度を変えることもできる。例えば、活性層と接する側から、アンドープのAlN層16A(Y1=1)及びMg(マグネシウム)ドープされたp型AlN層16Bからなる積層構造などとすることもできる。
【0054】
AlY1Ga1-Y1N層16におけるp型ドーパント濃度は、特に限定されるもので
はないが、電子ブロック層としての機能を得るためには、5×1018~1×1020cm-3であることが好ましく、発光層へのキャリアの注入効率を高められるという観点から、1×1019~8×1019cm-3であることが特に好ましい。
【0055】
本発明のAlY1Ga1-Y1N層16は、n型ドーパントを含まないか、もしくは後述するp型AlY2Ga1-Y2N層17に含まれるn型ドーパント未満の濃度でn型ドーパントを含むことができる。具体的には、AlY1Ga1-Y1N層16中のn型の不純物濃度は、1×1018cm-3以下であることが好ましい。本発明者らの知見によれば、p型AlY2Ga1-Y2N層17の成長中には、隣接するAlY1Ga1-Y1N層16との間でドーパントの拡散が起こることが分かっている。そのため、AlY1Ga1-Y1N層16中のn型ドーパント濃度が、p型AlY2Ga1-Y2N層17のそれよりも高い場合、AlY1Ga1-Y1N層16中からp型AlY2Ga1-Y2N層17へn型ドーパントが拡散し、p型AlY2Ga1-Y2N層17中のn型ドーパント濃度の精密な制御が困難になる場合がある。この拡散によるp型AlY2Ga1-Y2N層17中のn型ドーパントの濃度変化を防ぐためには、少なくとも、AlY1Ga1-Y1N層16中のn型ドーパントは、p型AlY2Ga1-Y2N層17に含まれるn型ドーパント以下の濃度未満である必要がある。
【0056】
また、AlY1Ga1-Y1N層16の膜厚は、電子ブロック層としての機能、およびp型AlY2Ga1-Y2N層17からホールを活性層に効率よく注入できるように適宜決定すればよいが、1~30nmの範囲が好ましい。膜厚が1nmを下回ると電子がトンネリングしてしまうため電子ブロック層としての機能が低下し、一方で膜厚が30nmを上回ると、p型AlY2Ga1-Y2N層17からホールが活性層に注入されにくくなる。これらを勘案すると、AlY1Ga1-Y1N層16の膜厚は2~20nmであることが好ましく、さらに好ましくは5~15nmである。
【0057】
また、上述したように、AlY1Ga1-Y1N層16中にドーピングされるMgは積層方向で濃度差を設けることもできる。例えば、活性層15に接する側にアンドープのAlN層16Aを1~5nmの層厚で積層し、さらにMgドープのp型AlN層16Bを5~15nm積層した構造とすることもできる。この際のMgドーピング濃度は、上述と同様に、5×1018~1×1020cm-3であることが好ましく、1×1019~8×1019cm-3であることが特に好ましい。
【0058】
本発明のp型AlY2Ga1-Y2N層17は、前記AlY1Ga1-Y1N層16上に形成され、p型クラッド層として機能する。p型AlY2Ga1-Y2N層17にはアクセプタとなるp型不純物とドナーとなるn型不純物がコドーピングされている。
【0059】
p型AlY2Ga1-Y2N層17にドーピングされるp型不純物には、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛),Be(ベリリウム)、C(炭素)等が使用され得る。中でも、AlGaN半導体のp型ドーパント材料として一般的に用いられているMgを用いることが好ましい。またn型不純物には、Si、Ge(ゲルマニウム)、Se(セレン)、S(硫黄)、O(酸素)等を使用することができる。中でも、n型ドーパント材料として一般的に用いられているSiを用いることが好ましい。
【0060】
また、p型AlY2Ga1-Y2N層17にドーピングされるp型不純物量は、1×1017~1.2×1020cm-3であることが好ましい。また、J. Applmaru Physmaru, Volmaru 95, No. 8, 15 April (2004)において理論的に示されているように、p型AlY2Ga1-Y2N層17中のp型不純物量に伴って、劣化の要因と考えられる窒素欠陥量も増加すると考えられる。そのため、p型不純物量が1.2×1020cm-3を超える場合、初期に形成される窒素欠陥量が多くなりすぎて、高い出力維持率を得ることが困難になる。
【0061】
また、p型不純物濃度が低くなると、特にAl組成Y2が一定であるときは、ホール濃度の低下と少数キャリア(電子)移動度増加により、Al組成Y2が傾斜している場合には少数キャリア(電子)移動度増加により、出力が低下して高い発光効率を得ることが困難となる。従って、p型不純物濃度は、このようなトレードオフを勘案して、上記の範囲内で適宜決定することができるが、より高い出力維持率と高出力を得るためには、1×1019~5×1019cm-3であることが好ましく、さらに好ましくは、1×1019~4×1019cm-3である。
【0062】
p型AlY2Ga1-Y2N層17にドーピングされるn型不純物量は、1.1×1018以上9.0×1018cm-3以下であることが好ましく、さらに好ましくは、1.8×1018以上8.0×1018cm-3以下である。これらn型不純物量において、高い発光効率の発光素子を得ることができる。
【0063】
また、p型AlY2Ga1-Y2N層17にドーピングされるp型不純物とn型不純物は、それらの濃度が層内で一定であってもよいし積層方向で濃度差を設けてもよい。例えば、AlY1Ga1-Y1N層16に接する側をコドーピング層として、残りのp型AlY2Ga1-Y2N層17層は、n型不純物をドーピングしない層にすることもできる。
【0064】
p型AlY2Ga1-Y2N層17のAl組成Y2は、0.5以上1.0以下で、かつAlY1Ga1-Y1N層16のAl組成Y1以下である。
【0065】
p型AlY2Ga1-Y2N層17のAl組成Y2は、積層方向でY2が一定の値である構造の場合、活性層の障壁層のAl組成を超え、かつAlY1Ga1-Y1N層16のAl組成Y1以下であることが好ましい。p型AlY2Ga1-Y2N層17のAl組成Y2を上記の範囲にすることにより、紫外発光素子の注入電流量が多い場合においても、高いキャリアオーバーフローの抑制効果が得られる。より高い効果を得るためには、活性層の障壁層のAl組成とp型AlY2Ga1-Y2N層17のAl組成Y2の差が、0.5以上であることが好ましい。また、p型AlY2Ga1-Y2N層17のAl組成Y2は、n型AlGaN層14のAl組成よりも大きいことが好ましく、これによってp型層へのキャリアオーバーフローの抑制効果が高まり、紫外発光素子の発光効率を高めることができる。以上のことより、p型AlY2Ga1-Y2N層17のAl組成Y2は、積層方向でY2が一定の値である構造の場合は、0.6以上0.9以下であることが好ましい。
【0066】
また、p型AlY2Ga1-Y2N層17は、Al組成Y2が積層方向で変化する組成傾斜層であってもよい。特に、AlY1Ga1-Y1N層16に接する側から、Al組成Y2が積層方向に小さくなる構造であることが好ましい。これによって、p型AlY2Ga1-Y2N層17内で分極ドーピング効果が得られるため、より高いホール濃度が得られやすくなり、その結果、活性層へのホールの注入効率が高くなる。例えば、発光波長が270nm以下の場合、AlY1Ga1-Y1N層16に接する側のAl組成は0.95~1.0であることが好ましく、反対側のp型AlY2Ga1-Y2N層17の表層におけるAl組成は0.60~0.85であることが好ましい。このような構造を採用することで、上述した分極ドーピング効果を高め、かつ発光波長に対して透明性を維持できるため、高い発光効率が得られやすくなる。
【0067】
また、p型AlY2Ga1-Y2N層17の膜厚は、特に制限されるものではないが、10~150nmの範囲で適宜決定すればよい。p型AlY2Ga1-Y2N層17の膜厚が10nm未満になると、上述したキャリアオーバーフローの抑制効果が得られにくくなり、一方で、膜厚が厚くなり、150nmを超える場合、p型AlY2Ga1-Y2N層17の抵抗値が大きくなり、結果として紫外発光素子の動作電圧の上昇を招いてしまう。このような観点から、p型AlY2Ga1-Y2N層17の膜厚は、40~120nmであることが好ましく、特に好ましくは50~100nmである。
【0068】
p型AlY2Ga1-Y2N層17上には、電極との接触抵抗を下げる目的で、p型ドーパントがドーピングされたp型GaN層18が形成されていてもよい。p型ドーパント材料としては上述した公知のp型ドーパント材料を用いることができるが、同様の理由によりMgを用いることが好ましい。p型GaN層18中のMgドーピング濃度は、特に制限されるものではないが、p型GaN層中の抵抗値を下げ、かつ電極との接触抵抗を下げるためには、1×1018~2×1020cm-3であることが好ましい。また、p型GaN層18の膜厚も特に制限されるものではなく、5~500nmの範囲で適宜決定すればよい。
【0069】
なお、p型GaN層18を除き、AlGaN層14,15,16,17の全層は単結晶AlN基板11と格子整合した状態で結晶成長されているため、単結晶AlN基板11と同等の低い転位密度を有している。
【0070】
本発明において、単結晶AlN基板11は、特に制限されるものではないが、単結晶AlN基板11上に成長させられる半導体層13の品質に鑑みて、低転位密度であることが好ましい。具体的には、単結晶AlN基板11の転位密度は、10cm-2以下であることが好ましく、さらに好ましくは10cm-2以下である。単結晶AlN基板11を低転位密度とすることによって、単結晶AlN基板11上に形成されるAlGaN層中の転位密度も低くできる。それによって、例えば単結晶AlN基板11を用いた紫外発光素子の特性を向上できる。
【0071】
なお、上記の平坦面FSの表面粗さが大きいと、平坦面FS上に成長するAlGaN層での異常成長などの要因となる。そのため、単結晶AlN基板11の平坦面FSの表面粗さ(RMS)は5.0nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0nm以下であり、さらに好ましくは0.5nm以下である。
【0072】
また、単結晶AlN基板11を用いた紫外発光素子において、活性層から放射される紫外光に対する基板の吸収係数が大きいと、外部へ取り出せる紫外光の総量が減少して発光効率の低下を招く懸念がある。そのため、単結晶AlN基板11の吸収係数は、好ましくは20cm-1以下であり、さらに好ましくは10cm-1以下である。単結晶AlN基板11の吸収係数を10cm-1以下にすることで、例えば単結晶AlN基板11の板厚が100μmであっても、90%以上の直線透過率を確保することができる。
【0073】
例えば、単結晶AlN基板11中の炭素等の不純物の含有量を低く抑えることで、吸収係数を下げて光透過性を確保することができる。例えば、吸収係数を十分に下げるためには、単結晶AlN基板11中の炭素濃度は、5×1017cm-3以下であることが好ましい。
【0074】
[製造方法]
図4図6を参照しつつ、単結晶AlN基板11及びこれを用いた半導体ウェハ100の製造工程について説明する。
【0075】
図4は、半導体ウェハ100の製造工程の概要を示すフローチャートである。
【0076】
まず、単結晶AlN基板11を作製するためのテンプレート基板を準備する(ステップS101)。ステップS101において、PVT法によってPVT-AlN層11Aを作製し、これを種基板として、PVT-AlN層11A上に、HVPE法によってHVPE-AlN層11Bを成長させて2層構造の単結晶AlN基板をテンプレート基板とする。
【0077】
PVT-AlN層11Aの上面はAl極性面であり、当該上面上にHVPE-AlN層11Bが積層されている。従って、テンプレート基板の上面であるHVPE-AlN層11Bの上面はAl極性面であり、テンプレート基板の下面であるPVT-AlN層11Aの下面はN極性面である。
【0078】
例えば、PVT法によって単結晶AlNを成長すると、不純物に起因する着色が生じやすく、所望の光透過性が得られない場合がある。一方、HVPE法によって単結晶AlNを成長すると、不純物が混入し難く、光透過性を確保しやすい。そこで、本実施例においては、PVT法によって形成した単結晶AlN上に、HVPE法によって単結晶AlNを形成して単結晶AlN基板11を作製するための基板とする。例えば、発光素子を形成した後に、単結晶AlN基板11のうちPVT法によって形成された部分を除去してもよい。このようにすることで、発光素子の形成後における基板の光透過性を確保することができる。
【0079】
ステップS101において、HVPE-AlN層11Bの上面がAl極性面であり、PVT-AlN層11Aの下面がN極性面となる。
【0080】
次に、ステップS101で準備した単結晶AlN基板に対して、表面側の外周部に面取り加工を施して、単結晶AlN基板11を作製する(ステップS102)。ステップS102において、図2に示した傾斜面RPを形成するように面取り加工が施される。
【0081】
具体的には、上述したように、傾斜面RPは、平坦面FSに沿った方向において、単結晶AlN基板11の端部からの距離が0.45mm以上でありかつ0.75mm以下である位置にまで形成され、かつ、平坦面FSに垂直な方向において平坦面FSからの距離が0.2mm以上でありかつ0.3mm以下である位置にまで形成される。
【0082】
言い換えれば、傾斜面RPは、図2中に示した単結晶AlN基板11の端部からの距離d1が0.45mm以上0.75mm以下(0.45≦d1≦0.75)となり、かつ、平坦面FSに垂直な方向における平坦面FSからの距離d2が0.2mm以上0.3mm以下(0.2≦d2≦0.3)となるように形成される。
【0083】
ステップS102において、面取り加工は、例えば公知の面取り機による研削加工により行う。例えば、オリエンテーションフラット又はノッチが形成されている部分も同様に傾斜面RPを有するように研削する。
【0084】
その後、化学機械研磨を行って、平坦面FS及び第2の面S2を形成する(ステップS103)。例えば、面取り加工後のステップS103における化学機械研磨によって、傾斜面RPが丸みを帯びた面となってもよい。
【0085】
ステップS101~ステップS103によって、単結晶AlN基板11が作製される。
【0086】
その後、単結晶AlN基板11上に、紫外発光素子を形成するための結晶成長の前処理として、単結晶AlN基板11の表面に形成された自然酸化膜を除去するため、単結晶AlN基板11の平坦面FSを酸溶液に浸漬する(ステップS104)。ステップS104において、例えば、酸溶液としてリン酸:硫酸=1:3の混合溶液を用いて、処理温度70℃で10分間処理する。
【0087】
ステップS104において、単結晶AlN基板11の平坦面FSのみを酸溶液に接触させ、単結晶AlN基板11の裏面、すなわち図2中の第2の面S2は酸溶液から露出させた状態で所定の処理時間保持する。
【0088】
平坦面FSは、上記したように、Al極性面であるため、自然酸化膜のみが酸溶液によってエッチングされ、AlNの表面はエッチングされにくい。これに対して、第2の面S2はN極性面であるため、酸溶液によってエッチングされ易い。そこで、ステップS104において、第2の面S2が自然酸化膜を除去するエッチング液である酸溶液によってエッチングされないようにするため、単結晶AlN基板11の第2の面S2を酸溶液から露出させた状態で、平坦面FSのみを処理する。
【0089】
図5は、上記の製造工程のステップS104において、単結晶AlN基板11の平坦面FSのみをテフロン(登録商標)製の治具TLを用いて酸溶液ACに浸漬している様子を示す断面図である。図5中、LLは、酸溶液ACの液面の高さを示している。
【0090】
図5に示すように、治具TLは、液体を収容する容器部分CTと、当該容器部分に固定されてウェハを支える支持部分SPとを有している。当該支持部分SPは、下に凸の底面形状を有する基板受け面TRSを備える受け部TRを有する。受け部TRは、単結晶AlN基板11の平坦面FSと傾斜面RPとの境界部分と接触する基板受け面TRSを介して単結晶AlN基板11を支持している。当該受け部は、例えば、メッシュ状の部材からなっており、容器部分CT内の酸溶液ACは当該メッシュ状の部材を通過して単結晶AlN基板11の平坦面FSに到達する。
【0091】
酸溶液ACは、酸溶液ACの液面LLが、ちょうど平坦面FSに接する高さとなるように、治具TL内に注入されている。
【0092】
図6は、図5中の破線で囲まれた部分Bを拡大して示す図である。図6において、治具TLを省略している。
【0093】
上記したように、酸溶液ACの液面LLが平坦面FSに接する高さとなるように酸溶液ACを注入すると、酸溶液ACは、平坦面FS全体に濡れ広がる。その際に、図6に示すように、表面張力の影響により、酸溶液ACが側面S3に向かって這い上がろうとする。
【0094】
仮に、側面S3に酸溶液ACが這い上がる場合の、酸溶液ACと側面S3が接する点から液面に引いた接線と側面S3とのなす角度θ(図示せず、接触角θ)と比較すると、酸溶液ACと傾斜面RPが接する点から液面に引いた接線と、傾斜面RPとのなす角度θb(傾斜面RPと酸溶液ACとの接触角θb)の方が大きくなる。
【0095】
ここで、液体が固体表面を這い上がろうとする力がcosθに比例することを考慮すると、cosθ > cosθbとなり、酸溶液ACが傾斜面RPを這い上がろうとする力は、側面S3のような垂直面を這い上がろうとする力よりも小さくなる。つまり、酸溶液ACは、側面S3よりも傾斜面RPにおいて這い上がり難いといえる。この点に鑑みて、RPが形成されていることで、基板11の側面を介して第2の面S2に酸溶液ACが回り込みにくくなっているといえる。
【0096】
本実施例では、傾斜面RPの寸法に関して、単結晶AlN基板11の端部からの距離d1(幅)や平坦面FSからの垂直方向の距離d2(高さ)を、従来なされていた単なる面取り加工の場合よりも十分に大きく設定しているため、酸溶液ACの這い上がりは、傾斜面RPの範囲内で停止し、側面S3には到達しない。このように、傾斜面RPは、平坦面FSに濡れ広がった酸溶液ACが側面S3に到達することを防止する役割を果たしている。
【0097】
例えば、傾斜面RPの幅や高さが足りなければ、酸溶液ACは、側面S3に到達し、さらに、側面S3を這い上がって第2の面S2まで到達してしまう。その場合、第2の面S2の酸溶液ACが到達した部分だけがエッチングされ、単結晶AlN基板11基の厚みや表面粗さが不均一となる。具体的には、第2の面S2の外周に沿った領域が部分的にエッチングされ、凹凸や表面粗さの大きい部分が出来てしまう。
【0098】
第2の面S2は、基板11上に半導体層13を成長する際に基板11を加熱するサセプタが接する面である。この面に上記したような凹凸や表面粗さの大きい部分が出来てしまうと、単結晶AlN基板11上にAlGaN層を形成する際の結晶成長温度が不均一となり、このような半導体ウェハから半導体デバイスを形成した際には、当該形成された半導体デバイスの信頼性が低下し、半導体デバイスの歩留まりが低下する。
【0099】
本実施例においては、傾斜面RPを設けることで、酸溶液ACの裏面への回り込みを防止している。具体的には、図2に示したように、単結晶AlN基板11の端部からの距離d1を0.45mm以上でありかつ0.75mm以下(0.45≦d1≦0.75)とし、かつ、平坦面FSに垂直な方向における平坦面FSからの距離d2を0.2mm以上でありかつ0.3mm以下(0.2≦d2≦0.3)とした傾斜面RP設けている。
【0100】
このような傾斜面RPの寸法は、単結晶AlN基板11の第2の面S2への酸溶液ACの回り込みを防止することができる寸法でありながら、半導体デバイスを形成した際に、傾斜面RPを設けることによる単結晶AlN基板11の平坦面FSの面積が小さくなり、デバイスとして採用できなくなる部分を最小限に抑えた寸法である。従って、歩留まりを低下させることなく信頼性の高い半導体デバイスが得られる。
【0101】
図4の説明に戻ると、ステップS104の後、純水リンス及び乾燥後の単結晶AlN基板11をMOCVD装置に導入し、半導体層13の結晶成長を行う(ステップS105)。ステップS105において、図3に示したn型AlGaN層14、活性層15、AlGaN層16、p型AlGaN層17及びp型GaN層18を成長させて、半導体ウェハ100を得る。
【0102】
ステップS105の半導体層13の結晶成長においてはIII属原料ガス(Al、Ga)原料ガス、V族(N)原料ガスを、水素および/又は窒素などのキャリアガスと共に単結晶AlN基板11上に供給する。ここで使用するIII族(Al、Ga)原料ガス、V族(N)原料ガスには、特に制限なく公知の原料ガスを使用できる。
【0103】
例えば、III族原料ガスとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム等のガスを使用できる。またV族原料ガスとしては、通常アンモニアが用いられる。
【0104】
また、Mg、Siのドーパント原料ガスも、公知の材料が制限なく使用でき、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム、モノシラン、テトラエチルシランなどを使用できる。
【0105】
III族原料ガスとV族原料ガスの供給量比(V/III比)は、所望の特性が得られるように適宜決定すればよいが、500~10000の範囲内で設定することが好ましい。
【0106】
また、半導体層13を構成する各層の成長温度については、特に制限されるもので
はなく所望とする、各層の特性、および紫外LEDの特性が得られるように適宜決定すればよいが、1000~1200℃で成長することが好ましく、より好ましくは1000~1150℃である。
【0107】
なお、半導体層13は、MOCVD法の他、分子線エピタキシー(MBE)法などの公知の結晶成長法によって製造することができる。中でも、生産性が高く、工業的に広く採用されているMOCVD法が好ましい。
【0108】
以上の製造工程により、単結晶AlN基板11上に半導体層13を形成し、半導体ウェハ100を得た。
【0109】
ウェハ100の製造における酸溶液ACの回り込み防止効果及びウェハ100の半導体層13におけるスリップ欠陥発生の防止効果を検証した。
【0110】
具体的には、半導体ウェハ100の傾斜面RPを以下の寸法とした第1の実施例サンプル及び第2の実施例サンプルを作製した。
第1の実施例サンプル:d1=0.47mm, d2=0.20mm
第2の実施例サンプル:d1=0.69mm, d2=0.31mm
また、比較例として、傾斜面RPに対応する位置にありかつ傾斜面RPよりも高さ及び幅が小さい面取り部を備えた従来の面取り構造を有し、その他の点においては半導体ウェハ100と同様の第1の比較例サンプル及び第2の比較例サンプルを作製した。
【0111】
従来の面取り部の寸法は、平坦面FSに沿った方向において平坦面FSの外縁又は終端から測定される距離d1と、側面視において単結晶AlN基板の側部における平坦面FSに対して垂直な面の上端から測定される距離d2と、によって表される。
【0112】
第1の比較例サンプル及び第2の比較例サンプルは、以下の寸法を有する。
第1の比較例サンプル:d1=0.34mm, d2=0.17mm
第2の比較例サンプル:d1=0.28mm, d2=0.17mm
従って、第1の比較例サンプル及び第2の比較例サンプルは、0.45≦d1≦0.75かつ0.2≦d2≦0.3という傾斜面RPとしての要件を満たしておらず、d1<0.45、d2<0.2である。従って、比較例は、実施例の傾斜面RPよりも小さい寸法の面取り部を有している。
【0113】
第1の実施例サンプル及び第2の実施例サンプルには、酸溶液ACの第2の面S2すなわち裏面への回り込みによる痕はみられなかった。
【0114】
一方、第1の比較例サンプル及び第2の比較例サンプルの半導体ウェハの裏面には、外周から内側に向かって液体が移動した痕跡が観察される場合があった。第1の比較例サンプル及び第2の比較例サンプルの場合、半導体層の成長前の酸溶液ACによる前処理の際に、酸溶液ACが側面に到達することを防止することができず、酸溶液ACは、従来の面取り構造を有する基板の側面に到達し、さらに裏面まで到達したものと考えられる。
【0115】
また、傾斜面RPを有さず、従来の面取り部を備えた第1の比較例サンプル及び第2の比較例サンプルにおいては、半導体層13の外周部付近を起点とした直線状の線状欠陥(スリップ欠陥)が発生し易かった。
【0116】
比較例の単結晶AlN基板は、当該単結晶AlN基板を製造する際の結晶成長時等に生じた歪を有している。従って、その上に半導体層を成長させると、成長時の昇温等の影響で応力が解放される際に主に基板外周部で結晶が一部移動し、基板表面に段差が生じることで線状欠陥が生じたと考えられる。
【0117】
さらに、本実施例のように、PVT法によって形成した単結晶AlN層上にHVPE法によって単結晶AlN層を形成して2層構造とすると、HVPE-AlN層に歪が残留し易い傾向がみられ、それによってM面に沿ったスリップが発生しやすい。
【0118】
線状欠陥が素子内に含まれる場合、当該素子の信頼性が低下するため、線状欠陥を含む素子は不良として取り扱われる。そのため、線状欠陥の発生は、歩留まりの低下に繋がる。
【0119】
本実施例の傾斜面RPを有する半導体ウェハ100には、外周部を起点とする線状欠陥は、見られなかった。具体的には、上記の第1の実施例サンプル及び第2の実施例サンプルのいずれにも、線状欠陥は発生しなかった。
【0120】
本実施例では、傾斜面RPを設けていることにより、歪がある部分が除去されているか、歪が残っていたとしても緩和されやすくなり、線状欠陥が生じにくくなったものと推測される。
【0121】
以上のことから、本実施例の傾斜面RPの寸法は、上記線状欠陥を生ずる原因となる歪を十分に緩和できる寸法であるといえる。
【0122】
以上、詳細に説明したように、本実施例の半導体ウェハ100における単結晶AlN基板11は、第1の面S1と、第1の面の反対側の面である第2の面S2と、側面S3と、を有している。第1の面S1は、平坦面FSと、平坦面FSの外縁から側面S3にかけて第2の面S2に向かって傾斜するように形成されている傾斜面RPと、を有している。平坦面FSはAl極性面であり、第2の面S2はN極性面である。
【0123】
傾斜面RPは、平坦面FSに沿った方向において、単結晶AlN基板11の端部から0.45mm以上でありかつ0.75mm以下mmの位置にまで形成されている。また、傾斜面RPは、平坦面FSに垂直な方向において平坦面FSから0.2mm以上でありかつ0.3mm以下の位置にまで形成されている。
【0124】
本実施例の半導体ウェハ100は、単結晶AlN基板11の第1の面S1上に、半導体層13が形成されている。
【0125】
このような構成により、本実施例によれば、半導体層13を形成する際の前処理として平坦面FSのみを酸溶液に浸漬した際に、当該酸溶液が側面S3及び第2の面S2まで広がることを防止することができる。半導体層13の成長時の温度ムラ等に起因するデバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0126】
また、本実施例によれば、単結晶AlN基板11上に半導体層13を形成した半導体ウェハ100に線状欠陥が生じることを防止できる。この点においても、デバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0127】
本実施例の傾斜面RPの上記寸法は、回り込みの防止のために十分に大きい寸法であるといえる。また、本実施例の傾斜面RPの上記寸法は、単結晶AlN基板11の歪を緩和して線状欠陥を防止するために十分に大きい寸法であるといえる。
【0128】
従って、本実施例によれば、信頼性の高い半導体デバイスを高い歩留まりで形成し得るAlN単結晶基板、AlN単結晶基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法を提供することができる。
【実施例0129】
図7を参照しつつ、実施例2に係る半導体ウェハ200の構成について説明する。半導体ウェハ200は、傾斜面RPの代わりに傾斜面RP2を有している点において実施例1の半導体ウェハ100と異なり、その他の点においては半導体ウェハ100と同様に構成されている。
【0130】
傾斜面RP2は、単結晶AlN基板11の第1の面S1に、平坦面FSの外縁から単結晶AlN基板11の端部にかけて傾斜するように形成されている。
【0131】
傾斜面RP2は、側面S3、すなわち単結晶AlN基板11の端部において、HVPE-AlN層11Bの層厚d3が、PVT-AlN層11Aの層厚d4の1/5(五分の一)以下となるように形成されている。
【0132】
本実施例において、PVT-AlN層11Aの層厚は、例えば、0.25mmであり、0.1~0.37mmであってもよく、平均0.23mmであってもよい。HVPE-AlN層11Bの層厚は、例えば、0.25mmであり、0.15~0.43mmであってもよく、例えば平均0.27mmであってもよい。
【0133】
本実施例の半導体ウェハ200についても、実施例1の場合と同様に、酸溶液ACの第2の面S2すなわち裏面への回り込みの痕はみられなかった。
【0134】
また、半導体ウェハ200には、実施例1において説明したような線状欠陥は、見られなかった。
【0135】
上記したように、PVT法によって形成した単結晶AlN層(以下、PVT-AlN層とも称する)上にHVPE法によって単結晶AlN層(以下、HVPE-AlNとも称する)を形成して2層構造とすると、HVPE-AlN層に歪が残留し易い。より詳細には、PVT-AlN層上にHVPE法でAlN厚膜を成長すると、C面が下に凸の状態で結晶格子面の反りが発生し、HVPE-AlN層に引っ張り歪がかかる。このように残留歪を持ったHVPE-AlN層上に、MOCVD法によって半導体層13を成長すると、成長時の昇降温過程でHVPE-AlN層中の歪を解消するためにスリップ欠陥が生じると考えられる。また、比較例の基板の外周部付近において、HVPE-AlN層の層厚が大きい程歪が解消されにくく、スリップ欠陥が発生しやすいと考えられる。
【0136】
本実施例においては、側面S3におけるHVPE-AlN層11Bの層厚をPVT-AlN層11Aの層厚の1/5以下まで薄くすることによって、歪が特に残留し易い箇所を除去することができ、線状欠陥の発生を抑制できると考えられる。
【0137】
なお、側面S3におけるHVPE-AlN層11Bの層厚をPVT-AlN層11Aの層厚の1/5以下とするという上記条件にかかわらず、側面S3におけるHVPE-AlN層11Bの層厚は、スリップ欠陥を抑制すべく歪の残留を十分に少なくする観点から、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。
【0138】
また、傾斜面RP2は、平坦面FSに対して23°以上29°以下の角度で傾斜していることが好ましい。換言すれば、傾斜面RP2と、平坦面FSとのなす角は、23°以上でありかつ29°以下である(図7中、23°≦θa≦29°)。例えば、傾斜面RP2の幅を0.5mm~0.6mmとし、高さを0.25mmとした場合に、23°≦θa≦29°となる。
【0139】
また、傾斜面RP2は、単結晶AlN基板11の端部からの距離d1を0.45mm以上でありかつ0.75mm(0.45≦d1≦0.75)とし、かつ、平坦面FSに垂直な方向における平坦面FSからの距離d2を0.2mm以上でありかつ0.3mm以下(0.2≦d2≦0.3)とするように形成されていることが好ましい。
【0140】
このように、傾斜面RP2を、平坦面FSに対して23°以上29°以下傾斜するか又は0.45≦d1≦0.75かつ0.2≦d2≦0.3となるように形成することで、傾斜面RP2の幅及び高さを確保することができる。それによって、半導体ウェハ200の半導体層13を成長する際の前処理として単結晶AlN基板11の平坦面FSのみを酸溶液に浸漬した際に、当該酸溶液が側面S3を這い上がり第2の面S2まで回り込むことを傾斜面RP2によって防止することができると考えられる。それによって、半導体層13の成長時の温度ムラ等に起因するデバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0141】
具体的には、PVT-AlN層11Aの層厚d4=0.33mm、HVPE-AlN層11Bの層厚0.22mm、d1=0.47mm、d2=0.20mm、d3=0.02mm(PVT-AlN層11Aの層厚の6%)の第3の実施例サンプルを作成したところ、第2の面S2には凹凸が形成されておらず酸溶液の第2の面S2への回り込みを抑制することができたことが確認できた。また、半導体層13における線状欠陥の発生も見られなかった。
【0142】
一方、PVT-AlN層11Aの層厚d4=0.25mm、HVPE-AlN層11Bの層厚0.23mm、d1=0.28mm、d2=0.17mm、d3=0.06mm(PVT-AlN層11Aの層厚の24%)の第3の比較例サンプルを作成したところ、第2の面の縁部にはピラミッド状の凹凸が形成されており、酸溶液の第2の面S2への回り込みが生じていることが確認された。また、半導体層13における線状欠陥が発生した。
【0143】
以上、説明したように、本実施例によれば、傾斜面RP2を有する半導体ウェハ200に線状欠陥が生じることを防止できる。従って、デバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0144】
従って、実施例2によれば、信頼性の高い半導体デバイスを高い歩留まりで製造し得る単結晶AlN基板、単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法を提供することができる。
【0145】
[変形例]
図8を参照しつつ、実施例2の変形例に係る半導体ウェハ200Aの構成について説明する。図8は、本変形例に係る半導体ウェハ200Aの端部の構造を示す断面図である。
【0146】
半導体ウェハ200Aは、傾斜面RP2が、単結晶AlN基板11の側面S3においてHVPE-AlN層11Bの層厚d3がゼロとなるように形成されている。言い換えれば、半導体ウェハ200Aは、単結晶AlN基板11の側面S3において、HVPE-AlN層11Bが完全に除去されており、研削面がPVT-AlN層11Aまで到達している。その他の点において、半導体ウェハ200Aは、半導体ウェハ200と同様に構成されている。
【0147】
上記したように、HVPE-AlN層11Bの成長時に、外周部に歪が生じ易い。本実施例によれば、HVPE-AlN層11Bの歪が特に残留している可能性が高い箇所をより確実に除去することができ、半導体ウェハ200Aにおける線状欠陥の発生を抑制できると考えられる。
【0148】
さらに、本変形例においても、傾斜面RP2は、平坦面FSに対して23°以上29°以下の角度で傾斜していることが好ましい。換言すれば、傾斜面RP2と、平坦面FSとのなす角は、23°以上でありかつ29°以下である(図7中、23°≦θa≦29°)。
【0149】
また、本変形例においても、傾斜面RP2は、単結晶AlN基板11の端部からの距離d1を0.45mm以上でありかつ0.75mm以下(0.45≦d1≦0.75)とし、かつ、平坦面FSに垂直な方向における平坦面FSからの距離d2を0.2mm以上でありかつ0.3mm以下(0.2≦d2≦0.3)とするように形成されていることが好ましい。
【0150】
それによって、半導体ウェハ200Aについても、半導体層13を成長する際の前処理時に酸溶液が第2の面S2まで回り込むことを傾斜面RP2によって防止することができ、半導体層13の成長時の温度ムラ等に起因するデバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0151】
具体的には、PVT-AlN層11Aの中心部層厚0.26mm、端部層厚d4=0.20mm、HVPE-AlN層11Bの層厚0.25mm、d1=0.69mm、d2=0.31mm、d3=0mmの第4の実施例サンプルを作成したところ、酸溶液の第2の面S2への回り込みを抑制することができるとともに、半導体層13における線状欠陥の発生も抑制することができた。
【実施例0152】
図9を参照しつつ、実施例3に係る半導体ウェハ300の構成について説明する。図9は、実施例3に係る半導体ウェハ300の端部の構造を示す断面図である。
【0153】
半導体ウェハ300は、複層構造を有する単結晶AlN基板11の代わりに、単層構造を有する単結晶AlN基板21を有している点で実施例1の半導体ウェハ100と同様に構成されている。
【0154】
単結晶AlN基板21は、例えばPVT法によって形成された単層の単結晶AlN基板である。単結晶AlN基板21は、単層構造である点を除いては、実施例1の単結晶AlN基板21と同様に構成されている。
【0155】
従って、単結晶AlN基板21は、上面である第1の面S1と、下面である第2の面S2と、側面S3と、を有している。第1の面S1は、平坦面FSと傾斜面RPを有している。平坦面FSはAl極性面であり、第2の面S2はN極性面である。
【0156】
傾斜面RPは、平坦面FSの外縁から単結晶AlN基板11の端部、すなわち側面S3に向かうにつれて下方に、言い換えれば第2の面S2に向かう方向に傾斜するように形成されている。
【0157】
本実施例において、傾斜面RPは、実施例1と同様の寸法で形成されている。具体的には、単結晶AlN基板11の端部から0.45mm以上でありかつ0.75mm以下の位置にまで形成されている。言い換えれば、傾斜面RPの上面視における幅d1、すなわち図9中に示す単結晶AlN基板11の端部からの距離d1は、0.45mm以上0.75mm以下(0.45≦d1≦0.75)である。
【0158】
また、傾斜面RPは、平坦面FSに垂直な方向において平坦面FSから0.2mm以上でありかつ0.3mm以下の位置にまで形成されている。言い換えれば、傾斜面RPの高さd2、すなわち、図9中に示す平坦面FSに垂直な方向における平坦面FSからの距離d2は、0.2mm以上0.3mm以下(0.2≦d2≦0.3)である。
【0159】
上記した寸法d1、d2を有する傾斜面RPは、平坦面FSに対して23°以上29°以下の角度で傾斜することとなる。換言すれば、傾斜面RPと、平坦面FSとのなす角は、23°以上でありかつ29°以下である(図9中、23°≦θa≦29°)。
【0160】
このような構成により、本実施例の半導体ウェハ300によれば、半導体層13を形成する際の前処理として平坦面FSのみを酸溶液に浸漬した際に、当該酸溶液が側面S3及び第2の面S2まで回り込むことを傾斜面RPによって防止することができる。従って、第2の面S2の一部がエッチングされて半導体層13の成長時の温度ムラ等に起因するデバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0161】
また、本実施例によれば、単結晶AlN基板21上に半導体層13を形成した半導体ウェハ300に線状欠陥が生じることを防止できる。単結晶AlN基板21は単層構造であり、例えばPVT-AlN層とHVPE-AlN層からなる2層構造の方が顕著ではあるものの、単結晶AlN基板21の製造時に生じた歪が外周部に残留する場合がある。従って、傾斜面RPを設けることによって、歪の生じている可能性のある部分を除去することができる。この点においても、デバイスの信頼性低下を防止することができる。
【0162】
従って、本実施例によれば、信頼性の高い半導体デバイスを高い歩留まりで形成し得るAlN単結晶基板、AlN単結晶基板を用いた半導体ウェハ、及びこれらの製造方法を提供することができる。
【0163】
上述した実施例及び製造方法における構成は例示に過ぎず、用途等に応じて適宜変更可能である。
【0164】
例えば、上記の実施例による単結晶AlN基板を用いた半導体ウェハは、紫外半導体発光素子として、紫外発光ダイオード(紫外LED)の製造に適用可能である場合について説明したが、これに限られない。上記の実施例による半導体ウェハは、紫外半導体レーザ素子(紫外LD:Laser Diode)向けの半導体ウェハとして構成されていてもよい。また、上記の実施例による単結晶AlN基板及び半導体ウェハは、発光素子の他に、ショットキーバリアダイオードやHEMTなどの電子デバイスにも適用可能である。
【0165】
また、上記の実施例において、単結晶AlN基板の直径は、一例として、45~100mm程度とすることができるが、これに限られない。例えば、100mmよりも大きい直径としてもよく、直径に合わせて適した厚みを決定すればよい。
【0166】
なお、上記の実施例において、単結晶AlN基板を作製する際に有機金属気相成長法(metal organic chemical vapor phase deposition, MOCVD法)を用いてもよいが、成長速度の観点からは、PVT法やHVPE法を用いることが現実的である。
【符号の説明】
【0167】
11、21 単結晶AlN基板
13 半導体層
S1 第1の面
S2 第2の面
S3 側面
FS 平坦面
RP、RP2 傾斜面
100、200、300 半導体ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9