(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023105976
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】航空機格納庫向け泡消火設備
(51)【国際特許分類】
A62C 3/08 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
A62C3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007046
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牧野 徹
(72)【発明者】
【氏名】白山 宜弘
(57)【要約】
【課題】泡消火剤は高価な航空機や付近に保管している機材に水損や汚損によるダメージを与えることがあり、機体や付近に保管の機材に泡消火剤が付着することがないようにしたいという要望があった。
【解決手段】航空機格納庫内に泡消火剤を放出するノズルを有し、ノズルは泡消火剤生成装置と所定の配管で結合され、航空機格納庫内側壁面に所定の高さ、且つ床面を向く所定の泡消火剤放出角度になるように設置されていることを特徴とする泡消火システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機格納庫に設置される泡消火設備において、
前記泡消火設備は、消火剤に圧力をかける加圧送水装置、泡消火原液タンク、混合装置、起動弁と、を具備し、
該加圧送水装置、該泡原液タンク、該混合装置、該起動弁と、を所定の配管で連結し、
更に泡消火剤を放出するノズルを有し、前記所定の配管と前記ノズルは配管で結合され、前記ノズルは、前記航空機格納庫内側壁面に所定の高さ、床面を向く所定の泡消火剤放出角度になるように設置されていることを特徴とする泡消火設備。
【請求項2】
前記ノズルは、先端部が格納庫内の床面より2mから3mの高さとなる設置高であることを特徴とする請求項1の泡消火設備。
【請求項3】
前記ノズルの放出方向が垂直面に対し、下向きに40°から60°の角度で設置されることを特徴とする請求項1または2のいずれかの泡消火設備。
【請求項4】
前記ノズルから消火剤を放出する圧力は、0.1MPaから0.3MPaであることを特徴とする請求項1乃至3の泡消火設備。
【請求項5】
前記ノズルから消火剤を放出する放出量は、ノズル1個あたり6.5L/min/m2以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの泡消火設備。
【請求項6】
前記ノズルから消火剤を放出する消火剤の発泡率は8倍から10倍であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの泡消火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
航空機格納庫の火災を消火する泡消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機格納庫には、高価な航空機や関係する高価な機材が置いてある。航空機にはジェット燃料等可燃性物質も多量に搭載されている。時には、航空機から燃料が漏れて床面に広がり火災の原因となる。その様なときに備え、航空機格納庫には油火災に効果のある泡消火設備が設置されている。泡消火設備は格納庫天井面に設置され、作動時には消火剤が大量の高発泡の泡となり、格納庫に降り注ぎ泡状の消火剤を格納庫内と機体全体を包み込む様にして消火を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
格納庫内の火災は、航空機そのものが火災になることより、漏れた燃料に静電気等の原因で引火して火災になることがある。この場合、漏れた燃料は床面にあり、消火対象は床面である。しかし、床面火災が延焼することにより航空機内の燃料に燃え移ることになり、危険度、想定する被害ともに大きくなる。従って、床面のみの火災である内に消火すべきである。
そして、天井に設置している泡消火装置の場合、降り注いだ泡消火剤は、機体を包み込むと同時に、格納庫内全面を覆い消火を行う。しかし、泡消火剤は高価な航空機や付近に保管している機材に水損や汚損によるダメージを与えることがあり、機体や付近に保管の機材に泡消火剤が付着することがないようにしたいという要望があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、泡消火剤が放出される際に高価な航空機や付近に保管している機材に水損や汚損によるダメージを与えないようにし、かつ確実に消火を実施することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、航空機格納庫に設置される泡消火設備において、
前記泡消火設備は、消火剤に圧力をかける加圧送水装置、泡消火原液タンク、混合装置、起動弁と、を具備し、
該加圧送水装置、該泡原液タンク、該混合装置、該起動弁と、を所定の配管で連結し、
更に泡消火剤を放出するノズルを有し、前記所定の配管と前記ノズルは配管で結合され、前記ノズルは、前記航空機格納庫内側壁面に所定の高さ、床面を向く所定の泡消火剤放出角度になるように設置されていることを特徴とする。
【0007】
ノズルは、前記壁面に所定の高さで、床面を向く所定の泡消火剤放出角度になるように設置されているので、高価な航空機等を泡消火薬剤による水損や汚損等のダメージを最小にして確実に床面の火災を消火できる。
【0008】
ここで、望ましくは、前記ノズルは、先端部が格納庫内の床面より2mから3mの高さとなる設置高であることを特徴としてもよい。
【0009】
ノズルの先端部が格納庫内の床面より2mから3mの高さで設置されるので、格納庫内の通常作業に支障を与えない。
【0010】
また、望ましくは、前記ノズルの放出方向が垂直面に対し、下向きに40°から60°の角度で設置されることを特徴としてもよい。
【0011】
ノズルの放出方向が垂直面に対し、下向きに40°から60°の角度で設置されるので、泡消火剤が床面に放出されるときに、泡消火剤の飛び跳ねを最小にして航空機等への付着を最小としダメージを減らしつつ、泡消火剤を床に確実に広げることができる。
【0012】
前記ノズルから消火剤を放出する圧力は、0.1MPaから0.3MPaであることを特徴としてもよい。
【0013】
ノズルから消火剤を放出する圧力は、0.1MPaから0.3MPaであるため、泡消火剤が床面に放出されるときに、泡消火剤の飛び跳ねを最小にして航空機等のダメージをへらしつつ、泡消火剤を床に確実に広げることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記ノズルから消火剤を放出する放出量は、ノズル1個あたり6.5L/min/m2以上であることを特徴としてもよい。
【0015】
ノズルから消火剤を放出する放出量は、6.5L/min/m2以上であるため、泡消火剤を床に短時間で広げることができる。
【0016】
さらに、望ましくは、前記ノズルから消火剤を放出する消火剤の発泡率は8倍から10倍であることを特徴としてもよい。
【0017】
ノズルから消火剤を放出する消火剤の発泡率は8倍から10倍であるため、床面に短時間で消火剤を広げることができ、消火効率を向上させ、機体への付着も最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、壁面に設置された泡放水ノズルにより、低発泡の泡消火剤が床面に低い層をなして広がるので、機体に付着する泡消火剤を最小にとどめつつ、床面に短時間で広げ床面火災に対して有効な消火が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】格納庫に設置した消火設備の従来の構成例を示す図である。
【
図2】格納庫に設置した消火設備の本願の構成例を示す図である。
【
図3】格納庫に設置した消火設備のノズルの取付に関する構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[
図1の説明]
従来の泡消火設備S0を
図1に示す。(A)は真上から見下ろした図で、(B)は真横から見た図である。
図1(A)および(B)は、格納庫壁1で囲まれた空間内に航空機2が格納されている。
格納庫内の天井部(A)には、泡消火剤を放出するノズル9が所定の間隔で複数個設置されており、垂直に泡状の消火剤10が放出できるようになっている。加圧送水装置3、泡消火剤を収納している泡消火剤タンク4、混合装置5、起動弁6が格納庫の別室に設置されており、所定の配管7で接続されている。配管7は屋内配管8と接続され屋内に導かれる。更に屋内配管8はノズル9と接続されている。起動弁6を操作すると、加圧送水装置3が起動し、図示しない水槽よりくみ上げた消火水を混合装置5に送る。混合装置5は流入口側と出力口側のそれぞれに発生する圧力の差圧により泡消火剤タンク4内の泡消火剤を所定量排出し、消火水と所定の濃度で混合し、混合装置5の出力口側より排出され、起動弁6を経由して、配管7、配管8を通り、ノズル9に達する。ノズル9で泡状消火剤が排出される際、ノズル9の噴射口付近で泡消火剤と外気が混合されることで泡が形成され、泡状となった泡状消火剤10が放出される。
【0021】
放出された泡状消火剤10は、格納庫内の航空機2の上部や格納庫床面Gを覆い、消火する。なお、起動弁6は、火災に気がついた人が操作しても良いし、格納庫内に設置した火災感知器の信号に連動して起動しても良い。
【0022】
泡状消火剤が航空機2の上部と格納庫の床面11を覆い尽くすように溜まってゆくため、航空機2は泡消火剤にまみれてしまい、水損、汚損を引き起こしてしまうことがある。
【0023】
[
図2の説明]
本発明の実施例の一態様である泡消火設備S1を
図2に示す。(A)は真上から見下ろした図で、(B)は、真横から見た図である。
図1と同様に、起動弁6が作動すると、加圧送水装置3が起動し、泡消火剤タンク4内の泡消火剤が混合装置5により消火水と所定の濃度で混合し、配管7、配管8を通り、ノズル9に達し、ノズル9で泡状消火剤が放出される。
【0024】
図2が
図1と異なる点は、ノズル9の設置位置である。
図2(B)では、ノズル9は、航空機2の下部側すなわち、航空機2下面と床面11の間の高さに設置されている。従って、ノズル9から放出される泡消火剤は航空機2に降りかかることなく格納庫の床面を覆い尽くすように溜まってゆく。
【0025】
泡消火剤が格納庫の床面を覆い尽くすように溜まってゆくため、泡消火剤が航空機2に触れる部分はごく僅かであり、航空機2の水損、汚損を最小限にして、消火を実施できる。
【0026】
[
図3の説明]
図3はノズル9の設置方法を説明する真横から見た図である。本発明の実施形態で使用されるノズル9Cの効果をより分かりやすく説明するために、従来の9A、9Bを便宜的に本実施形態に描いたものである。
ノズル9A、9Bは、
図1の従来の実施例S0の場合の設置位置を示している。天井部に設置し、機体の上面や床面に泡消火剤が降りかかる様にした設置方法である。但し、9Bはダクト11の下面側に設置してている様子を表している。この場合、当然ダクトの上面側には設置できないため下面側に設置したのであるが、ダクトの高さ分ノズル9Bの高さは低くなり、航空機2に接近するため、航空機2を格納庫1に搬入する際、ノズル9Bと航空機2の衝突リスクが伴うことになるし、ダクト11とノズル9Bの保守にも支障を来す恐れがある。
【0027】
図2の実施例であるヘッド9Cは、格納庫内部の壁面に設置され、所定の高さhと角度θで設置される。発明者は実験を繰り返した結果、設置高hすなわち放出口先端部と床面間を2~3mとしたとき、設置角度θすなわち放出口の向きが垂直面に対して、40°~60°、更に、放出圧力と流量がそれぞれ、0.1MPa~0.3MPa、6.5L/min/m2程度の時が最適となる結果を得た。
【0028】
最適とは、ノズル9Cが放出する泡状となった消火剤が、床面に落下接地する際に、床面に拡散してゆく量および時間と付近へ飛び散る量を鑑みたものである。特に床面に拡散してゆく量および時間は消火時間に影響し、付近へ飛び散る量は航空機2に付着する量を最小限にする事に関係する。
【0029】
ノズル9Cの設置高hは、低いほど泡消火剤の飛び散る量を小さくできるが、格納庫1内を利用する人員の身長や壁面付近に置かれる物品の高さを考慮した安全値とする必要がある。
【0030】
設置角度θが大きいく水平に近づく程、航空機2とノズル9Cとの距離Lを大きく取る必要が生じ、格納庫1内の使用できる有効面積が減り使用効率が落ちてしまう。角度が小さく垂直に近づく程、付近へ飛び散る量が増大し航空機2への付着量が増すことになるので、設置角度θの設定には考慮が必要となる。
なお、2Aは航空機用機材を床上に置く際には、設置台2Bの上に載せることで、泡消火剤が床面に広がっても、水損、汚損を防止できることを示している。
【0031】
泡消火剤の発泡率について、発明者は実験を重ねたところ、発泡率が8倍から10倍程度が望ましいとの結果を得ている。前記倍率より発泡率が高いと床面での泡消火剤の広がりに時間が掛かり、効率的に消火ができず、発泡率が低いとノズルより放出後床面に衝突したときの飛び散る量が増えてしまい、機体に付着する量が増える結果となっている。
【0032】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態
に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例
えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成する
ことができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の
形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の
効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0033】
1 格納庫
2 航空機
2A 航空機用機材
2B 設置台
3 加圧送水装置
4 泡消火原液タンク
5 混合装置
6 起動弁
7 配管
8 屋内配管
9 ノズル
9A ノズル(天井面設置の状態)
9B ノズル(ダクト下設置の状態)
9C ノズル(壁面設置の状態)
10 泡状消火剤(垂直落下放出している状態)
10A 泡状消火剤(垂直落下放出している状態)
10B 泡状消火剤(棒状放出している状態)
10C 泡状消火剤(床面に溜まった状態)
11 ダクト
S0 従来の泡消火設備
S1 本発明の泡消火設備
θ ノズル設置角
h ノズル設置高
L ノズルと航空機との間隔
GL 地面レベル