(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001060
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】積層フィルム、フレキシブル金属張積層板、及び、フレキシブル金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20221222BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20221222BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221222BHJP
C08G 73/12 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B15/08 J
H05K1/03 630H
H05K1/03 670
H05K1/03 630D
C08G73/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093736
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021101576
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】安井 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】内田 徳之
(72)【発明者】
【氏名】川原 良介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 良一
(72)【発明者】
【氏名】出口 英寛
【テーマコード(参考)】
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB01D
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK41B
4F100AK49A
4F100AK49C
4F100AS00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100EJ08A
4F100EJ08C
4F100GB43
4F100JA02
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4F100JG05A
4F100JG05C
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4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4J043PA04
4J043PA19
4J043PB03
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA05
4J043RA34
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4J043SA06
4J043SA46
4J043SB01
4J043TA22
4J043TA70
4J043TA72
4J043TB01
4J043UA082
4J043UA132
4J043UA672
4J043UB402
4J043XA19
4J043XB03
4J043YA06
4J043YA23
4J043ZA42
4J043ZB47
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】低誘電正接、低線膨張係数、及び、接着性を備えた積層フィルム、並びに、該積層フィルムを用いてなるフレキシブル金属張積層板、及び、フレキシブル金属張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表面樹脂フィルムと基材樹脂フィルムとを有する積層フィルムであって、前記表面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含み、前記基材樹脂フィルムは、線膨張係数が30ppm/K以下である、積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面樹脂フィルムと基材樹脂フィルムとを有する積層フィルムであって、
前記表面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含み、
前記基材樹脂フィルムは、線膨張係数が30ppm/K以下である、積層フィルム。
【請求項2】
前記表面樹脂フィルムの含水率が0.3質量%以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記表面樹脂フィルムに含まれる、すべての原子のうち、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合が85質量%以上である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記ビスマレイミド化合物の硬化物が、炭素数が24個以上の飽和の2価の炭化水素基を有する構成単位を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記ビスマレイミド化合物の硬化物が、少なくとも2つのイミド結合を有する2価の構成単位を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記少なくとも2つのイミド結合を有する2価の構成単位が、下記式(A)又は(B)で表される、請求項5に記載の積層フィルム。
【化1】
【化2】
【請求項7】
前記基材樹脂フィルムの線膨張係数が20ppm/K以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項8】
更に、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含む裏面樹脂フィルムを含み、
前記表面樹脂フィルム、前記基材樹脂フィルム、前記裏面樹脂フィルムの順に積層された、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項9】
積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、20%以上である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項10】
積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、40%よりも大きい、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項11】
前記基材樹脂フィルムが、ポリイミド又は液晶ポリマーを含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項12】
前記積層フィルム全体の20GHzでの誘電正接が0.015以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項13】
少なくとも表面樹脂フィルム、基材樹脂フィルム及び裏面樹脂フィルムを有し、前記表面樹脂フィルム、前記基材樹脂フィルム、前記裏面樹脂フィルムの順に積層された積層フィルムであって、
前記表面樹脂フィルム及び前記裏面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含み、
前記基材樹脂フィルムは、線膨張係数が30ppm/K以下であり、
前記積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、20%以上である、積層フィルム。
【請求項14】
前記ビスマレイミド化合物の硬化物が、炭素数が24個以上の飽和の2価の炭化水素基を有する構成単位を含む、請求項13に記載の積層フィルム。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の積層フィルムと、金属層と、を有する、フレキシブル金属張積層板。
【請求項16】
前記金属層は、前記積層フィルムの前記表面樹脂フィルムの面に、直接又は別の層を介して積層されている、請求項15に記載のフレキシブル金属張積層板。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の積層フィルムの前記表面樹脂フィルムの面に、直接又は別の層を介して金属層を積層させる、フレキシブル金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関する。また、本発明は、該積層フィルムを用いてなるフレキシブル金属張積層板、及び、フレキシブル金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる配線基板として、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)がある。フレキシブルプリント基板は、絶縁性のベースフィルム上に銅箔を積層した銅張積層板(CCL)等の金属張積層板を用い、例えば、銅箔のエッチング処理等を行うことにより銅配線を形成し、銅配線の保護を目的として更にカバーレイフィルムを貼り合わせること等により作製される。金属張積層板に用いられるベースフィルムには、一般的にポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)等が用いられている(例えば、特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-188339号公報
【特許文献2】特開2016-205967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の分野ではより大容量のデータをより高速に送受信することが求められ、いわゆる第5世代移動通信システム(5G通信)の実用化も進められており、これに伴い、伝送信号の高周波数化が進められている。しかしながら、高周波数化により、伝送信号の減衰量(「伝送損失」という)が大きくなるという問題が生じている。伝送損失は周波数に比例して大きくなるため、伝送信号が高周波数化すると、伝送損失が大きくなることは避けられない。金属張積層板に用いられるベースフィルムとして、このような伝送損失を抑えることができ、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用できる新たなフィルムが求められている。
【0005】
しかしながら、従来、ベースフィルムに用いられているLCPやポリイミドは、5G通信等の高速通信における伝送損失を小さくするために求められる誘電正接の低さが不充分であった。一方で、誘電正接の低い樹脂を用いると線膨張係数が高く耐熱性が不充分となり、金属張積層板を製造する際に反りが生じることがあった。また、金属張積層板を製造する場合、誘電正接の低い樹脂フィルムを用いると、接着層との接着力が不充分となることがあった。
【0006】
本発明は、低誘電正接、低線膨張係数、及び、接着性を備えた積層フィルム、並びに、該積層フィルムを用いてなるフレキシブル金属張積層板、及び、フレキシブル金属張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示1は、少なくとも表面樹脂フィルムと基材樹脂フィルムとを有する積層フィルムであって、前記表面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含み、前記基材樹脂フィルムは、線膨張係数が30ppm/K以下である、積層フィルムである。
本開示2は、前記表面樹脂フィルムの含水率が0.3質量%以下である、本開示1の積層フィルムである。
本開示3は、前記表面樹脂フィルムに含まれる、すべての原子のうち、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合が85質量%以上である、本開示1又は2の積層フィルムである。
本開示4は、前記ビスマレイミド化合物の硬化物が、炭素数が24個以上の飽和の2価の炭化水素基を有する構成単位を含む、本開示1、2又は3の積層フィルムである。
本開示5は、前記ビスマレイミド化合物の硬化物が、少なくとも2つのイミド結合を有する2価の構成単位を含む、本開示1、2、3又は4の積層フィルムである。
本開示6は、前記少なくとも2つのイミド結合を有する2価の構成単位が、下記式(A)又は(B)で表される、本開示5の積層フィルムである。
【0008】
【0009】
【0010】
本開示7は、前記基材樹脂フィルムの線膨張係数が20ppm/K以下である、本開示1、2、3、4、5又は6の積層フィルムである。
本開示8は、更に、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含む裏面樹脂フィルムを含み、前記表面樹脂フィルム、前記基材樹脂フィルム、前記裏面樹脂フィルムの順に積層された、本開示1、2、3、4、5、6又は7の積層フィルムである。
本開示9は、積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、20%以上である、本開示1、2、3、4、5、6、7又は8の積層フィルムである。
本開示10は、積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、40%よりも大きい、本開示1、2、3、4、5、6、7、8又は9の積層フィルムである。
本開示11は、前記基材樹脂フィルムが、ポリイミド又は液晶ポリマーを含む、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の積層フィルムである。
本開示12は、前記積層フィルム全体の20GHzでの誘電正接が0.015以下である、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11の積層フィルムである。
本開示13は、少なくとも表面樹脂フィルム、基材樹脂フィルム及び裏面樹脂フィルムを有し、前記表面樹脂フィルム、前記基材樹脂フィルム、前記裏面樹脂フィルムの順に積層された積層フィルムであって、前記表面樹脂フィルム及び前記裏面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含み、前記基材樹脂フィルムは、線膨張係数が30ppm/K以下であり、前記積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、20%以上である、積層フィルムである。
本開示14は、前記ビスマレイミド化合物の硬化物が、炭素数が24個以上の飽和の2価の炭化水素基を有する構成単位を含む、本開示13の積層フィルムである。
本開示15は、本開示1~14のいずれかの積層フィルムと、金属層と、を有する、フレキシブル金属張積層板である。
本開示16は、前記金属層が、前記積層フィルムの前記表面樹脂フィルムの面に、直接又は別の層を介して積層されている、本開示15のフレキシブル金属張積層板である。
本開示17は、本開示1~16のいずれかに記載の積層フィルムの前記表面樹脂フィルムの面に、直接又は別の層を介して金属層を積層させる、フレキシブル金属張積層板の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、伝送損失はベースフィルムの表面部分における誘電正接が関係することに着目し、少なくとも表面樹脂フィルムと基材樹脂フィルムとを有する積層構造とし、表面樹脂フィルムの誘電正接を一定値以下に調整するとともに、基材樹脂フィルムの線膨張係数を一定値以下に調整することによって、低誘電正接及び低線膨張係数(耐熱性)の両立を図ることを検討した。そして、本発明者らは、更に鋭意検討した結果、表面樹脂フィルムの材質として、ビスマレイミド化合物の硬化物を用いることによって、20GHzでの誘電正接を0.002以下としつつ、接着剤層に対する接着性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の積層フィルムは、少なくとも表面樹脂フィルムと基材樹脂フィルムとを有する。
上記表面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下である。このような表面樹脂フィルムを有することで、高周波数帯(例えば、1~80GHz付近)での伝送損失を抑えることができる積層フィルムとなる。積層フィルムにより生じる伝送損失は、積層フィルムを構成する各フィルムの誘電正接が均等に寄与するものではなく、積層フィルムを構成するフィルムのうちで表面近くに位置するフィルムの誘電正接が大きく寄与することから、上記表面樹脂フィルムの誘電正接を規定することにより、積層フィルム全体としての誘電正接を小さくし、伝送損失を低減することができる。上記表面樹脂フィルムの誘電正接の好ましい上限は0.0015、より好ましい上限は0.001である。
上記表面樹脂フィルムの誘電正接の下限は特に限定されず、小さいほど、積層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接が小さくなるため好ましい。上記表面樹脂フィルムの誘電正接の好ましい下限は0である。
なお、誘電正接は、例えば、CR-720(関東電子応用開発社製、スプリットシリンダ共振器20GHz)、及び、N5224A(キーサイトテクノロジー社製、ネットワークアナライザー)を用い、JIS R 1641に準拠して、50mm角の表面樹脂フィルムのサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により測定することができる。
【0013】
上記表面樹脂フィルムは、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むものである。ビスマレイミド化合物としては、上記表面樹脂フィルムの誘電正接が上記範囲を満たすものであれば特に限定されず、例えば、下記式(1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0014】
【0015】
上記式(1)中、Aは、飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を表し、Bは、少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を表し、nは、0以上の整数を表し、好ましくは1~10の整数である。
【0016】
上記ビスマレイミド化合物の硬化物は、炭素数が24個以上の飽和の2価の炭化水素基を有する構成単位を含むことが好ましい。このような構成単位を含むことにより、上記表面樹脂フィルムの誘電正接が上記範囲に調整されやすくなる。上記炭化水素基の炭素数の好ましい下限は30であり、好ましい上限は64である。
上記炭素数が24個以上の飽和の2価の炭化水素基としては、例えば、下記式(2)で表される構造が挙げられる。上記式(1)に示す構造を有する化合物において、Aが下記式(2)で表される構造を有するものであってもよい。
【0017】
【0018】
上記ビスマレイミド化合物の硬化物は、少なくとも2つのイミド結合を有する2価の構成単位を含むことが好ましい。このような構成単位を含むことにより、上記表面樹脂フィルムの誘電正接が上記範囲に調整されやすくなる。
上記少なくとも2つのイミド結合を有する2価の構成単位としては、下記式(A)、(B)又は(C)で表される構造が挙げられ、なかでも、下記式(A)又は(B)で表される構造が好ましい。上記式(1)に示す構造を有する化合物において、Bが下記式(A)、(B)又は(C)で表される構造を有するものであってもよい。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
上記ビスマレイミド化合物の市販品として、例えば、BMI-3000Gel、DMI-7015、DMI-7018、BMI-6100、DMI-7009、DMI-7009A、FM51-95、BMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-2500(いずれもDesigner Molecules社製)等が挙げられる。
【0023】
上記ビスマレイミド化合物の硬化物は、ビスマレイミド化合物の硬化物に含まれる、すべての原子のうち、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合が、85質量%以上であることが好ましい。炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合が85質量%以上であれば、上記表面樹脂フィルムの誘電正接が上記範囲に調整されやすくなる。炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合のより好ましい下限は87質量%、更に好ましい下限は89質量%である。上記ビスマレイミド化合物の硬化物に含まれる、炭素原子、水素原子及びフッ素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子が挙げられる。
【0024】
上記表面樹脂フィルムにおける上記ビスマレイミド化合物の硬化物の含有量は特に限定されない。上記ビスマレイミド化合物の硬化物の含有量は、好ましい下限が50質量%である。上記ビスマレイミド化合物の含有量が50質量%以上であれば、上記表面樹脂フィルムの誘電正接が上記範囲に調整されやすくなる。上記ビスマレイミド化合物の硬化物の含有量のより好ましい下限は60質量%、更に好ましい下限は70質量%である。
上記ビスマレイミド化合物の硬化物の含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよいが、上記表面樹脂フィルムは他の成分を含有してもよく、上記ビスマレイミド化合物の硬化物の含有量の好ましい上限は99.8質量%である。上記ビスマレイミド化合物の含有量が99.8質量%以下であれば、上記表面樹脂フィルムに他の樹脂、他の成分等を配合することで、上記表面樹脂フィルムの誘電正接を小さく保ちながら更なる性能を付与することもできる。
【0025】
上記表面樹脂フィルムに含まれる、すべての原子のうち、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合は、85質量%以上であることが好ましい。炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合が85質量%以上であれば、上記表面樹脂フィルムの誘電正接が上記範囲に調整されやすくなる。炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合のより好ましい下限は87質量%、更に好ましい下限は89質量%である。上記表面樹脂フィルムに含まれる、炭素原子、水素原子及びフッ素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子が挙げられる。
【0026】
上記表面樹脂フィルムは、ビスマレイミド化合物の硬化に用いられる重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤としては、熱重合開始剤を用いても、光重合開始剤を用いてもよい。熱重合開始剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、2-ブタノンパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエイト、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルヒドロパーオキシド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブタンニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0027】
上記表面樹脂フィルムは、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等を挙げることができる。上記無機充填剤は、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記表面樹脂フィルムにおける上記無機充填剤の含有量は、フレキシブル金属張積層板に求められる柔軟性を確保する観点から、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
上記表面樹脂フィルムは、含水率が0.3質量%以下であることが好ましい。上記表面樹脂フィルムの含水率が0.3質量%以下であると、吸湿によって伝送損失が増加することを充分に防止することができる。上記表面樹脂フィルムの含水率の好ましい上限は0.2質量%、より好ましい上限は0.1質量%である。上記表面樹脂フィルムの含水率の下限は特に限定されず、小さいほど、吸湿による伝送損失の増加を防止できるため好ましい。上記表面樹脂フィルムの含水率の好ましい下限は0質量%である。なお、含水率は、例えば、13×40mmの表面樹脂フィルムのサンプルについて、23℃50%で3日以上保持した後の質量、及びカールフィッシャー法による微量水分測定装置(HIRANUMA社製、AQ-2200AF、EV-2000(水分気化装置))を用いて120℃1時間加熱した際に発生した水分検出量を測定し、下記式(1)により求めることができる。
含水率(質量%)=水分検出量/サンプルの質量×100 (1)
【0029】
上記表面樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は50μmである。上記表面樹脂フィルムの厚みが5μm以上であれば、積層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接を充分に小さくすることができる。上記表面樹脂フィルムの厚みが50μm以下であれば、積層フィルム全体としての線膨張係数が高くなりすぎることを防ぐことができる。上記表面樹脂フィルムの厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は40μmである。
【0030】
上記基材樹脂フィルムは、線膨張係数の上限が30ppm/Kである。このような基材樹脂フィルムを有することで、積層フィルム全体としての線膨張係数が低くなるので、金属張積層板から配線基板を作製する過程で行われるはんだリフロー工程等で高温に晒されても変形しづらくなり、配線基板に反りを生じさせにくい積層フィルムとなる。積層フィルム全体の線膨張係数は、積層フィルムを構成する各フィルムの線膨張係数を単純に平均したものではなく、積層フィルムを構成するフィルムのうちで最も線膨張係数が低いフィルムが大きく寄与することから、上記基材樹脂フィルムの線膨張係数を規定することにより、積層フィルム全体の線膨張係数を制御することができる。上記基材樹脂フィルムの線膨張係数の好ましい上限は20ppm/K、より好ましい上限は18ppm/Kである。
上記基材樹脂フィルムの線膨張係数の下限は特に限定されず、低いほど、積層フィルム全体の線膨張係数が低くなるため好ましい。上記基材樹脂フィルムの線膨張係数の好ましい下限は8ppm/Kである。
なお、線膨張係数は、例えば、熱機械分析装置(TA Instruments Japan社製、TMA Q400)等を用い、幅4mm×長さ32mmの基材樹脂フィルムのサンプルについて、昇温速度10℃/分で25℃から200℃まで測定を行い、下記式(2)により求めることができる。
線膨張係数(ppm/K)=ΔL/(L・ΔT) (2)
(ΔLは変位量、Lはサンプル長さ、ΔTは変位温度を表す。)
【0031】
上記基材樹脂フィルムを構成する樹脂は、上記基材樹脂フィルムの線膨張係数が上記範囲を満たすものであれば特に限定されず、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。なかでも、上記基材樹脂フィルムは、ポリイミド又は液晶ポリマーを含むことが好ましい。本明細書では、線膨張係数を低くするのに好適なポリイミド及び液晶ポリマーを「低線膨張係数樹脂」ともいう。
【0032】
上記ポリイミド(PI)とは、主鎖にイミド骨格を有するポリマーである。
上記ポリイミドは特に限定されず、例えば、ジアミン化合物と、芳香族酸無水物とからなるポリイミド等が挙げられる。上記ジアミン化合物は特に限定されず、脂肪族ジアミン化合物であってもよく、芳香族ジアミン化合物であってもよい。上記芳香族酸無水物は特に限定されず、例えば、ピロメリット酸等が挙げられる。上記ポリイミドは1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記ポリイミドとは、上述したようなポリイミドにフッ素樹脂等の低極性材料を配合した変性ポリイミド(MPI)であってもよい。低極性材料を配合することにより、誘電率を改善することができる。
【0034】
上記ポリイミドは、非熱可塑性ポリイミドであることが好ましい。ここで、非熱可塑性ポリイミドとは、250℃以下の温度では、加熱しても溶融又は軟化しないポリイミドを意味する。
【0035】
上記ポリイミドを含むフィルムの市販品として、例えば、カプトン50EN、カプトン100EN、カプトン200EN、カプトン50V、カプトン100V、カプトン200V(いずれも東レ・デュポン社製)等が挙げられる。
【0036】
上記液晶ポリマー(LCP)は、ある特定の温度範囲で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーであることが好ましい。
上記液晶ポリマーは特に限定されず、例えば、液晶性芳香族ポリエステル樹脂、液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂、これら液晶性芳香族ポリエステル樹脂又は液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂を同一分子鎖中に部分的に含むポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの液晶ポリマーは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記液晶性芳香族ポリエステル樹脂は特に限定されず、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル樹脂が挙げられる。
上記芳香族ヒドロキシカルボン酸は特に限定されず、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0038】
また、上記液晶性芳香族ポリエステル樹脂としては、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族又は脂環式ジカルボン酸と、芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂も挙げられる。
上記芳香族又は脂環式ジカルボン酸は特に限定されず、上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記脂環式ジカルボン酸としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の炭素数8~12のジカルボン酸、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0039】
上記芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールは特に限定されず、上記芳香族ジオールとしては、例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記脂環式ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、アダマンタンジオール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。上記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、重合時の反応性に優れ、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0040】
上記液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂は特に限定されず、例えば、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンとからなるポリエステルアミド樹脂が挙げられる。
上記芳香族ヒドロキシアミンは特に限定されず、例えば、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記芳香族ジアミンは特に限定されず、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
また、上記液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂としては、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、上述したような芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンと、上述したような芳香族又は脂環式ジカルボン酸と、上述したような芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールとからなるポリエステルアミド樹脂も挙げられる。
【0042】
上記液晶ポリマー(LCP)の市販品として、例えば、JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標)、東レ社製のシベラス(登録商標)、ポリプラスチックス社製の商品名ラペロス等が挙げられる。上記液晶ポリマーを含有するフィルム(液晶ポリマー含有フィルム)の市販品として、例えば、クラレ社製のベクスターCTQ-50等が挙げられる。
【0043】
上記基材樹脂フィルムにおける上記低線膨張係数樹脂の含有量(即ち、ポリイミド及び液晶ポリマーの含有量の総和)は特に限定されないが、好ましい下限が50質量%である。上記低線膨張係数樹脂の含有量が50質量%以上であれば、上記基材樹脂フィルムの線膨張係数が上記範囲に調整されやすくなるため、積層フィルム全体としての線膨張係数がより低くなり、高温に晒されても配線基板に反りを生じさせにくい積層フィルムとなる。上記低線膨張係数樹脂の含有量のより好ましい下限は70質量%、更に好ましい下限は80質量%である。
上記低線膨張係数樹脂の含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよいが、好ましい上限は99質量%である。上記低線膨張係数樹脂の含有量が99質量%以下であれば、上記基材樹脂フィルムに他の樹脂、他の成分等を配合することで、上記基材樹脂フィルムの線膨張係数を低く保ちながら更なる性能を付与することもできる。具体的には例えば、上記基材樹脂フィルムに上記表面樹脂フィルムを構成する樹脂を配合するとともに共押出成形により積層フィルムを製造することで、上記基材樹脂フィルムの線膨張係数を低く保ちながら、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとの間の密着性を高め、層間強度を上げることができる。上記低線膨張係数樹脂の含有量のより好ましい上限は98質量%、更に好ましい上限は95質量%である。
【0044】
上記基材樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は60μmである。上記基材樹脂フィルムの厚みが上記範囲内であれば、積層フィルム全体としての線膨張係数を充分に低くすることができる。上記基材樹脂フィルムの厚みのより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は50μmである。
【0045】
本発明の積層フィルムは、必要に応じて、更に、難燃剤、反応型相溶化剤、その他の樹脂等の添加剤を含有してもよい。なお、上記添加剤は、上記表面樹脂フィルムに配合されてもよく、上記基材樹脂フィルムに配合されてもよい。
【0046】
本発明の積層フィルムは、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとをそれぞれ少なくとも1つ有していればその層構造は特に限定されず、上記基材樹脂フィルムの片面に上記表面樹脂フィルムが積層された2つのフィルムの積層体であってもよく、上記基材樹脂フィルムの一方の面に上記表面樹脂フィルムが積層され、他方の面に裏面樹脂フィルムが積層された3つのフィルムの積層体であってもよい。上記裏面樹脂フィルムは、上記表面樹脂フィルムと同じ組成を有するものであってもよいし、上記表面樹脂フィルムとは異なる組成を有するものであってもよい。なかでも、本発明の積層フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含む裏面樹脂フィルムを含み、上記表面樹脂フィルム、上記基材樹脂フィルム、上記裏面樹脂フィルムの順に積層されたものであることが好ましい。上記基材樹脂フィルムの両面に、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含む樹脂フィルムを有することで、積層フィルムの両側の表面に銅配線を形成する場合にも伝送損失をより抑えることができ、より好適に使用できる積層フィルムとなる。また、本発明の積層フィルムは、4つ以上のフィルムを含むものであってもよい。
【0047】
本発明の積層フィルムは、積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、20%以上であることが好ましい。このような積層フィルムであれば、伝送損失をより効果的に低減することができる。また、本発明の積層フィルムは、積層フィルム全体の厚みに対する、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むフィルムの厚み割合が、40%よりも大きいことがより好ましく、60%よりも大きいことが更に好ましい。このような積層フィルムであれば、伝送損失を特に効果的に低減することができる。
【0048】
本発明の積層フィルムは、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとの間に他の層を有していてもよいし、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとの間に他の層を有さなくてもよい。
上記他の層は特に限定されず、例えば、接着剤層等が挙げられる。上記表面樹脂フィルムは、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むことから、接着剤層に対して優れた接着性を有し、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとの間の層間強度を高くすることができる。一方、接着剤層は一般的に高周波数帯での誘電正接が大きいため、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとの間に接着剤層等の他の層を有さないことで、積層フィルム全体としての高周波数帯での誘電正接をより小さくすることができる。
【0049】
本発明の積層フィルム全体の20GHzでの誘電正接は特に限定されないが、好ましい上限は0.015である。このような積層フィルムであれば、伝送信号が高周波数化した場合にもより好適に使用できる。本発明の積層フィルムの誘電正接のより好ましい上限は0.010、更に好ましい上限は0.006である。
本発明の積層フィルムの誘電正接の下限は特に限定されず、小さいほど好ましいが、例えば0.001であってもよい。
【0050】
本発明の積層フィルム全体の線膨張係数は特に限定されないが、好ましい上限は50ppm/Kである。このような積層フィルムであれば、高温に晒されても変形しにくく、配線基板に反りを生じさせにくい。本発明の積層フィルムの線膨張係数のより好ましい上限は30ppm/K、更に好ましい上限は20ppm/Kである。
本発明の積層フィルムの線膨張係数の下限は特に限定されず、低いほど、積層フィルム全体の線膨張係数が低くなるため好ましい。上記積層フィルムの線膨張係数の好ましい下限は8ppm/Kである。
【0051】
本発明の積層フィルム全体としての厚みは特に限定されないが、好ましい下限は25μm、好ましい上限は75μmであり、より好ましい下限は35μm、より好ましい上限は65μmである。
【0052】
本発明の積層フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、上記基材樹脂フィルム上に、ビスマレイミド化合物を含有する熱硬化性樹脂組成物溶液を塗工し、加熱乾燥させて熱硬化性樹脂層からなる表面樹脂フィルムを形成してもよい。また、本発明の積層フィルムを製造する方法としては、上記表面樹脂フィルムと上記基材樹脂フィルムとをそれぞれ別々に作製し、接着剤層を用いることなく直接積層(単純積層)したり、接着剤層を用いて積層したりする方法を採用してもよい。更に、共押出成形により積層フィルムを製造する方法を用いてもよい。
【0053】
また、本発明の積層フィルムを製造する際には、上記基材樹脂フィルムの線膨張係数が上記範囲を満たすためには、積層フィルムに延伸、アニール処理等を行ってもよい。延伸、アニール処理等を行うことで、上記基材樹脂フィルムの結晶化度が上がり、線膨張係数がより低下する。
【0054】
本発明の積層フィルムの用途は特に限定されないが、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用することができ、また、線膨張係数が低く、高温に晒されても配線基板に反りを生じさせにくいことから、配線基板、特にフレキシブルプリント基板を作製するための銅張積層板等の金属張積層板に用いられるベースフィルムとして好適に用いられる。
【0055】
本発明の積層フィルムと金属層とを有するフレキシブル金属張積層板もまた、本発明の1つである。金属層の材質としては、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト、タンタル、タングステン等の金属又はこれらの金属成分を含有する各種合金が挙げられ、なかでも銅が好適に用いられる。金属層は、所定のパターンに加工された金属配線であることが好ましい。
【0056】
上記金属層は、本発明の積層フィルムの上記表面樹脂フィルムの面に積層されていることが好ましい。低誘電正接の上記表面樹脂フィルムと積層されることにより、高周波数の伝送信号が金属層を通る際の伝送損失を効果的に低減することができる。また、上記金属層は、上記表面樹脂フィルムの面に直接積層されていてもよいし、別の層を介して積層されていてもよい。
上記他の層は特に限定されず、例えば、接着剤層等が挙げられる。上記表面樹脂フィルムは、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むことから、接着剤層に対して優れた接着性を有し、上記表面樹脂フィルムと上記金属層との間の層間強度を高くすることができる。一方、接着剤層は一般的に高周波数帯での誘電正接が大きいため、上記表面樹脂フィルムと上記金属層との間に接着剤層等の他の層を有さないことで、金属張積層板の高周波数帯での伝送損失をより小さくすることができる。
上記金属層は、本発明の積層フィルムの上記表面樹脂フィルムの面だけでなく、上記裏面樹脂フィルムの面に積層されていてもよい。この場合、上記裏面樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接が0.002以下であり、かつ、ビスマレイミド化合物の硬化物を含むものであることが好ましい。
【0057】
本発明の積層フィルムの上記表面樹脂フィルムの面に、直接又は別の層を介して金属層を積層させる、フレキシブル金属張積層板の製造方法もまた本発明の一つである。上記金属層を直接積層させる方法としては、例えば、上記表面樹脂フィルムの面にめっきして金属層を形成する方法が挙げられる。また、上記金属層を別の層を介して積層させる方法としては、上記表面樹脂フィルムの面に接着剤を塗工して金属層を接着させる方法が挙げられる。積層された金属層は、フォトリソグラフィ法等を用いて所定のパターンに加工され、金属配線として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、低誘電正接、低線膨張係数、及び、接着性を備えた積層フィルム、並びに、該積層フィルムを用いてなるフレキシブル金属張積層板、及び、フレキシブル金属張積層板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0060】
(実施例1)
(1)積層フィルムの製造
BMI-3000Gel(Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物)100質量部と、パークミルD-40(日油社製、熱重合開始剤)2質量部とを、固形分55%になるようにアニソールに溶解させて、充分に撹拌し、熱硬化性樹脂組成物溶液Aを得た。BMI-3000Gelは、下記式(1)の構造を有するビスマレイミド化合物である。
【0061】
【0062】
上記式(1)中、Aは、下記式(2)で表され、Bは、下記式(C)で表され、nは1~10の整数である。
【0063】
【0064】
【0065】
得られた熱硬化性樹脂組成物溶液Aを、アプリケーターを用いて、カプトン200V(樹脂フィルムB、東レ・デュポン社製、ポリイミドフィルム、厚さ50μm)上に塗工し、加熱乾燥(温度150℃)させて厚さ6μmの熱硬化性樹脂層Aを形成した。その後、得られた熱硬化性樹脂層A上にSP3000(東洋クロス社製、離型PETフィルム、厚さ75μm)の離型面をラミネートし、熱硬化性樹脂層を1層有する熱硬化性積層フィルムXを得た。
【0066】
続いて、得られた熱硬化性積層フィルムXの、熱硬化性樹脂層Aが形成された面と反対側の面の、樹脂フィルムB上に、上記熱硬化性樹脂組成物溶液Aを、アプリケーターを用いて塗工し、加熱乾燥(温度150℃)させて厚さ6μmの熱硬化性樹脂層Cを形成した。その後、得られた熱硬化性樹脂層C上にSP3000の離型面をラミネートし、熱硬化性樹脂層を2層有する熱硬化性積層フィルムYを得た。
【0067】
更に、得られた熱硬化性積層フィルムYを、175℃で1時間加熱して、熱硬化性樹脂層A及び熱硬化性樹脂層C中のビスマレイミド化合物を硬化させた。これにより、熱硬化性樹脂層Aが表面樹脂フィルムを、樹脂フィルムBが基材樹脂フィルムを、熱硬化性樹脂層Cが裏面樹脂フィルムを構成する実施例1の積層フィルムを得た。
【0068】
(2)誘電正接の測定
表面樹脂フィルムを50×50mmの大きさに裁断して作製した測定サンプルについて、CR-720(関東電子応用開発社製、スプリットシリンダ共振器20GHz)、及び、N5224A(キーサイトテクノロジー社製、ネットワークアナライザー)を用いて、温度23℃、周波数20GHzの条件で、空洞共振法により誘電正接を測定した。その結果、実施例1の表面樹脂フィルムの誘電正接は、0.0018であった。
【0069】
(3)含水率の測定
表面樹脂フィルムを13×40mmの大きさに裁断して作製したサンプルについて、23℃50%で3日以上保持した後の質量、及びカールフィッシャー法による微量水分測定装置(HIRANUMA社製、AQ-2200AF、EV-2000(水分気化装置))を用いて120℃1時間加熱した際に発生した水分検出量から算出した。
【0070】
(4)炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合の算出
熱硬化性樹脂層Aの形成に使用した材料の組成から、表面樹脂フィルムに含まれる、すべての原子のうち、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合を計算したところ、86質量%であった。
【0071】
(5)線膨張係数の測定
表面樹脂フィルムを4×32mmの大きさに裁断して作製した測定サンプルについて、TMA Q400(TA Instruments Japan社製、熱機械分析装置)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で線膨張係数を測定し、25~200℃の温度範囲での平均線膨張係数を測定した。その結果、実施例1の表面樹脂フィルムの平均線膨張係数は、180ppm/Kであった。
【0072】
(実施例2~14、比較例1~4)
下記表1の通りに、表面樹脂フィルムの厚み及び組成や、基材樹脂フィルムの厚み及び組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。使用した材料の詳細を以下に示す。
【0073】
<使用材料>
DMI-7015:Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物
DMI-7018:Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物
BMI-6100:Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物
DMI-7009:Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物
DMI-7009A:Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物
FM51-95:Designer Molecules社製、ビスマレイミド化合物
オーラムPL450C:三井化学社製、熱可塑性ポリイミド樹脂
カプトン50EN:東レ・デュポン社製、ポリイミドフィルム
カプトン100EN:東レ・デュポン社製、ポリイミドフィルム
カプトン200EN:東レ・デュポン社製、ポリイミドフィルム
ベクスターCTQ-50:クラレ社製、液晶ポリマー含有フィルム
東洋紡スペースクリーンS7053:東洋紡社製、ポリエチレンテレフタレートフィルム
【0074】
(BMI-αの合成方法)
撹拌子を装備した1000mlの丸底フラスコに、300mlのトルエン、及び100mlのN-メチル-2-ピロリドンを投入した。112g(0.21モル)のPriamine1075(クローダ・インターナショナル社製、ダイマージアミン)、及びビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物34.8g(0.14モル)をフラスコに加え、次いで無水メタンスルホン酸6.72g(0.07モル)を加えた。ディーン・スターク装置と冷却管をフラスコに取り付けた後、混合物を2時間加熱還流させ、アミン末端のポリイミドを形成した。反応混合物を室温まで冷却した後、14.4g(0.15モル)の無水マレイン酸をフラスコに加え、混合物を9時間加熱還流させた。反応混合物を1000mlの分液漏斗に移し、次いで80mlの10質量%エタノール水溶液を加えて振った後、水相を除去する工程を10回繰り返した。得られた反応混合物の溶液を真空下で除去し、BMI-αを得た。
【0075】
得られたBMI-αは、上記式(1)の構造を有するものの、Bが下記式(A)で表される点でBMI-3000Gelとは異なる構造を有するビスマレイミド化合物である。
【0076】
【0077】
なお、BMI-αを用いた実施例2、4及び12では、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合は86質量%であった。
【0078】
(BMI-βの合成方法)
合成例1のビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物に代えて、ジフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物41.2g(0.14モル)を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、BMI-βを得た。
【0079】
得られたBMI-βは、上記式(1)の構造を有するものの、Bが下記式(B)で表される点でBMI-3000Gelとは異なる構造を有するビスマレイミド化合物である。
【0080】
【0081】
なお、BMI-βを用いた実施例3及び5では、炭素原子、水素原子及びフッ素原子が占める割合は87質量%であった。
【0082】
<評価>
実施例及び比較例で得られた積層フィルムについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0083】
(誘電正接の測定)
得られた積層フィルムを、50×50mmの大きさに裁断した後、すべての離型PETフィルム(SP3000)を剥離したものを測定サンプルとした。測定サンプルについて、CR-720(関東電子応用開発社製、スプリットシリンダ共振器20GHz)、及び、N5224A(キーサイトテクノロジー社製、ネットワークアナライザー)を用いて、温度23℃、周波数20GHzの条件で、空洞共振法により誘電正接を測定した。
【0084】
(線膨張係数の測定)
得られた積層フィルムを、4×32mmの大きさに裁断した後、すべての離型PETフィルム(SP3000)を剥離したものを測定サンプルとした。測定サンプルについて、熱機械分析装置(TA Instruments Japan社製、TMA Q400)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で線膨張係数を測定し、25~200℃の温度範囲での平均線膨張係数を測定した。
【0085】
(接着層との接着力の測定)
得られた積層フィルムの、すべての離型PETフィルム(SP3000)を剥離した後、表面樹脂フィルム上に、SAFV(ニッカン工業社製、接着層、厚さ40μm)及びCF-T4X-SV-12(福田金属箔粉工業社製、銅箔、厚さ12μm)を、この順に積層し、加熱圧着(温度:160℃、時間:40分、圧力:4MPa)させた。その後、得られた積層体を100×10mmの大きさに裁断して測定サンプルを作製した。得られた測定サンプルを引張試験機により、50mm/分の速度で引き剥がし、JIS C 6481に準拠して接着力を測定し、得られた引き剥がし力を接着層との接着力とした。
【0086】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、低誘電正接、低線膨張係数、及び、接着性を備えた積層フィルム、並びに、該積層フィルムを用いてなるフレキシブル金属張積層板、及び、フレキシブル金属張積層板の製造方法を提供することができる。