(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106011
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ニッケル水素蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/30 20060101AFI20230725BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/32 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20230725BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M10/30 Z
H01M10/30 A
H01M4/52
H01M4/38 A
H01M4/32
H01M4/24 J
H01M50/491
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007099
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇祐
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021EE04
5H021HH02
5H028AA05
5H028AA06
5H028HH01
5H050AA07
5H050BA14
5H050CA04
5H050CB16
5H050CB17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】ニッケル水素蓄電池において、コバルトのセパレータにおける析出を抑制すること
【解決手段】ニッケル水素蓄電池は、水酸化ニッケルを主体とする正極活物質にコバルト(Co)を含有する正極と、コバルト(Co)とマンガン(Mn)とを含有する水素吸蔵合金を有する負極と、前記正極と前記負極を隔離するセパレータと、充填されたアルカリ電解液とを備えたニッケル水素蓄電池であって、(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)が0.85以上、1.61以下であり、前記セパレータの空孔率が64%以上であり、前記負極のCo/Mnが、0.26以下である。このため、Mnによりコバルトのセパレータにおける析出を抑制し、Coによる導通路の生成を抑制する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルを主体とする正極活物質にコバルト(Co)を含有する正極と、コバルト(Co)とマンガン(Mn)とを含有する水素吸蔵合金を有する負極と、前記正極と前記負極を隔離するセパレータと、充填された電解液とを備えたニッケル水素蓄電池であって、
(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)が0.85以上、1.61以下であり、
前記セパレータの空孔率が64%以上であり、
前記負極のCo/Mnが、0.26以下であることを特徴とするニッケル水素蓄電池。
【請求項2】
前記電解液が含有するWの量が、0.48%以上である請求項1に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項3】
前記電解液が含有するWの量が、0.72%以下である請求項1に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項4】
前記セパレータの空孔率が70%以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニッケル水素蓄電池に係り、詳しくは自己放電を抑制したニッケル水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を搭載した電気自動車(ハイブリッド自動車等も含む)は、二次電池に蓄えられた電力により、電動機を駆動している。このような二次電池において例えばニッケル水素蓄電池は、安全で大電流の充放電が可能であることから車両用として広く普及している。
【0003】
このようなニッケル水素蓄電池では、正極活物質として導電性の低い水酸化ニッケル(Ni(OH)2)に導電性の高い水酸化コバルト(Co(OH)2)が添加されるのが一般的である。この水酸化コバルトが最初の充電で酸化されオキシ水酸化コバルト(CoOOH)に変化して正極の導電性を高めている。
【0004】
ここで、特許文献1に開示された発明では、セパレータ中に析出するコバルト、亜鉛、マンガンの析出量と、出力特性や自己放電特性の低下の間に高い相関があることが示されている。その理由として、正極に含まれる亜鉛やコバルト、また、負極活物質である水素吸蔵合金中のマンガンは、充放電サイクルの経過に伴って、アルカリ電解液中に極僅かながらも徐々に溶出するようになるからである。より詳しくは、セパレータ上の正極側ではコバルト-マンガン化合物が正極と接触した状態で析出し、負極側では亜鉛-マンガン化合物が析出する。そして、これらの析出物の析出量が増加するに伴って、実質上の正、負極間の距離が短くなる。
【0005】
そこで特許文献1では、このような問題に着目することでセパレータに析出する亜鉛量、コバルト量およびマンガン量を規制することにより、高出力特性と、低自己放電率を長期間にわたって維持できるニッケル-水素蓄電池を提供することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、さらにコバルトのセパレータにおける析出を抑制することが望まれる。
本発明のニッケル水素蓄電池が解決しようとする課題は、コバルトのセパレータにおける析出を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のニッケル水素蓄電池では、水酸化ニッケルを主体とする正極活物質にコバルト(Co)を含有する正極と、コバルト(Co)とマンガン(Mn)とを含有する水素吸蔵合金を有する負極と、前記正極と前記負極を隔離するセパレータと、充填された電解液とを備えたニッケル水素蓄電池であって、(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)が0.85以上、1.61以下であり、前記セパレータの空孔率が64%以上であり、前記負極のCo/Mnが、0.26以下であることを特徴とする。
【0009】
前記電解液が含有するWの量が、0.48%以上であることが好ましい。また、前記電解液が含有するWの量が、0.72%以下であることも望ましい。
さらに、前記セパレータの空孔率が70%以下であることも望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニッケル水素蓄電池が解決しようとする課題は、コバルトのセパレータにおける析出を抑制することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のニッケル水素蓄電池に設けられる電極群1の断面図である。
【
図2】
図2(a)セパレータに析出するCoが多い場合の自己放電を示す模式図である。
図2(b)セパレータに析出するMnが多いため、Coの析出が抑制された場合の自己放電を示す模式図である。
【
図3】セパレータに析出するCo/Mnの比率と、自己放電量[Ah]の関係を示すグラフである。
【
図4】電解液に溶出するCoの量とMnの量の比率REと自己放電量SD[Ah]との関係を示すグラフである。
【
図5】セパレータの空孔率[%]と、セパレータに析出するCo/Mnの比率と自己放電量[Ah]の関係を示すグラフである。
【
図6】負極におけるCo/Mnの比率と自己放電量[Ah]の関係を示すグラフである。
【
図7】電解液中にWが存在しないときの反応を示す模式図である。
【
図8】電解液中にWが存在するときの反応を示す模式図である。
【
図9】電解液が含有するWの量とセパレータに析出するCo/Mnの比率の関係を示すグラフである。
【
図10】本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をニッケル水素蓄電池の実施形態により
図1~
図10を参照して説明する。
(本実施形態の概略)
<本実施形態のニッケル水素蓄電池>
本実施形態のニッケル水素蓄電池は、電気自動車などの駆動用の車載のニッケル水素蓄電池の電池パックに収容された電池モジュールである。各電池モジュールには複数(例えば8個)の電槽を備えた電池ケースに、電池要素である正極板2及び負極板3を備えた電極群1がそれぞれ収容される。ここに、電解液が充填され電池セルを構成している。複数の電池セルは、直列に接続され、外部端子を介して電力の入出力を行っている。
【0013】
<電極群1>
図1は、本実施形態のニッケル水素蓄電池に設けられる電極群1の断面図である。図においてDが厚み方向(積層方向)で、Wが水平な幅方向である。
図1に示すように、電極群1は、矩形状の正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して積層して構成されている。このとき、正極板2、負極板3及びセパレータ4が積層された方向が厚み方向Dである。
【0014】
電極群1の正極板2及び負極板3は、極板の面方向であって互いに反対側の側部に突出されることで構成されるリード部21,31を備える。正極板2のリード部21の側端縁に正極集電板27がスポット溶接等により接合される。また、負極板3のリード部31の側端縁に負極集電板37がスポット溶接等により接合されている。
【0015】
正極板2と負極板3の間にはセパレータ4が配置され、電解液5が含侵されている。
<正極板2>
正極板2は、発泡ニッケルなどの多孔質の基板を備え、この基板により正極板2の形状を保つ。多孔質の基板に正極合材層が充填されている。また、基板は充填された正極活物質からの電気を集電する集電体として機能を有する。正極合剤層は、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を主体とする正極活物質、導電材、増粘材、結着材等を含んでいる。正極活物質の粒子は、水酸化ニッケル粒子の表面に設けられた被覆層を有している。この被覆層は、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)を主成分とする。なお、正極合剤に含まれるコバルトは、ニッケル水素二次電池が初めて充電されると、含有する水酸化コバルト(Co(OH)2)が電気化学的に酸化されてオキシ水酸化コバルトとして析出する。充電前に形成された被覆層と、充電後に析出したオキシ水酸化コバルトにより、高密度な層が形成される。
【0016】
<負極板3>
負極板は、基板となるパンチングメタルなどに、負極合材層が塗工されている。負極合材層は、負極活物質である水素吸蔵合金(MH)が含有されている。この水素吸蔵合金は、Coの他マンガン(以下「Mn」と表記する場合がある。)も含有されている。負極板3については後に詳しく説明する。
【0017】
<セパレータ4>
セパレータ4は、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、もしくは必要に応じてこれにスルホン化などの親水処理を施したものである。セパレータ4には、正極板2と負極板3を隔離して短絡を防止するという機能がある。さらに、セパレータ4には、電解液5を貯留させて電極における反応を生じさせるという機能がある。
【0018】
このセパレータ4には、電解液5に溶出したCoやMnなどが析出するという現象が生じる。このような金属の析出は、電極間の距離を実質的に縮め、自己放電量SD[Ah]を増大させる。
【0019】
<本実施形態の構成>
従来技術で述べたように、セパレータ4において導電性の高いCoが析出すると、実質的に極間距離が小さくなり自己放電量SD[Ah]が大きくなる。しかしながら、Coは、正極において導電性を高めるために必要であり、これを無くすことは難しい。本発明者らは、そのような状況を鑑み、電極内のCoの存在を許容するとともに、その一方でセパレータ4におけるCoの析出を抑制する方法を見出した。これを達成するための条件について説明する。
【0020】
<第1の条件>
第1の条件は、RE=(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)としたとき、比率REを0.85以上、かつ比率REを1.61以下とすることである。
【0021】
この第1の条件は、電解液5に溶出するCoの量とMnの量の比率REである。本発明者らは、MnがCoの析出を抑制するとともに内部抵抗(DC-IR)の改善に寄与することを見出した。
【0022】
ここで、電解液5中に溶出する正極のCoの量は、正極に含有されたCoの量に依存するが、それだけでなく溶出量は正極の多孔度にも依存する。同様に、電解液5中に溶出する負極のCoの量は、負極に含有されたCoの量に依存するが、それだけでなく溶出量は負極の多孔度にも依存する。また、電解液5中に溶出する負極のMnの量は、負極に含有されたMnの量に依存するが、それだけでなく溶出量は負極の多孔度にも依存する。
【0023】
そこで、これらの知見から正極から溶出するCoの量を「正極Co量×正極多孔度」とし、負極から溶出するCoの量を「負極Co量×負極多孔度」とする。一方、負極から溶出するMnの量を「負極Mn量×負極多孔度」とする。ここで、本願では、電解液5に溶出するCoの量とMnの量の比率を「Co/Mn」と略記することがある。そして、以下の式で、電解液5に溶出するCoの量とMnの量の比率(Co/Mn)である比率REを求めた。
【0024】
RE=(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)
この場合、溶出Co/Mnの比率REが、セパレータ4におけるCoの析出の抑制の条件となることを見出した。
【0025】
具体的には、第1の条件として、比率REが0.85以上、かつ比率REが1.61以下である場合に、有効にセパレータ4におけるCoの析出を抑制する。
<溶出Co/Mnの比率REと自己放電量SDの関係>
図2(a)は、セパレータ4に析出するCoが多い場合の自己放電を示す模式図である。
図2(b)セパレータ4に析出するMnが多いため、Coの析出が抑制された場合の自己放電を示す模式図である。
【0026】
ここで、
図2(a)で示すように、溶出Co/Mnの比率REが、1.61を超す場合では、セパレータ4において破線矢印で示すMnによる導通路Cp2とともに、実線矢印で示すようなCoの導通路Cp1が多数生じる。Coは電導性が高いため電気抵抗が小さく電流が流れやすい。このため、正極と負極の間で近接して電流が流れやすい経路が形成されるため、自己放電量SD[Ah]が大きくなる。
【0027】
一方、
図2(b)に示すように溶出Co/Mnの比率REが、0.85以上、かつ比率REが1.61以下である場合では、セパレータ4において、Mnの析出の割合が多くなるので、実線矢印で示すようなCoによる導通路Cp1の発生が抑制される。電導性の高いCoの導通路Cp1と比較すると、破線矢印で示すMnによる導通路Cp2は比較的電導性が低いため電気抵抗が大きく電流が流れにくい。このため、自己放電量SD[Ah]が小さく抑制される。
【0028】
<溶出Co/Mnの比率REと自己放電量SDのグラフ>
図3は、セパレータ4に析出するCo/Mnの比率RPと、自己放電量SD[Ah]の関係を示すグラフである。
【0029】
セパレータに析出する析出Co/Mnの比率RPは電解液5の溶出Co/Mnの比率REに依存することがわかっている。
図3に示すように、セパレータ4に析出する析出Co/Mnの比率RPが大きくなると、
図2(a)で説明したようにセパレータ4におけるCoにより形成される導通路Cp1が多くなり、自己放電量SD[Ah]が大きくなる。一方、
図3に示すように、セパレータ4に析出する析出Co/Mnの比率RPが小さくなると、
図2(b)で説明したようにセパレータ4におけるCoにより形成される導通路Cp1が少なくなり、自己放電量SD[Ah]が小さく抑制される。
図3に示すプロット点においても、セパレータ4に析出するCo/Mnの比率RPと、自己放電量SD[Ah]の関係には強い相関性があることが確認できる。このため、セパレータ4に析出するCo/Mnの比率RPと、自己放電量SD[Ah]の関係は、グラフに示されるような関係があるものといえる。
【0030】
<電解液の溶出Co/Mnの比率REと自己放電量SD[Ah]の関係>
図4は、本実施形態の電解液に溶出するCo/Mnの比率REと自己放電量SD[Ah]との関係を示すグラフである。前述のとおり、電解液5の溶出Co/Mnの比率は、「RE=(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)」により導き出せる。なお、溶出Co/Mnの比率REは、前述のとおり、セパレータに析出するCo/Mnの比率RPと強く関連している。
【0031】
本実施形態では、自己放電量SD[Ah]が、概ね1.03[Ah]より小さくなるように設定する。
ここで、溶出Co/Mnの比率REが、1.61を超えると、
図2(a)に示すセパレータ4上のCoによる導通路Cp2が多く生成され、自己放電量SD[Ah]が概ね1.03[Ah]より増大する。一方、溶出Co/Mnの比率REが、0.85未満になると、
図2(a)に示すセパレータ4上のCoによる導通路Cp2が減少するが、その代わりにMnによる導通路Cp1が多く生成され、自己放電量SD[Ah]が概ね1.03[Ah]よりが増大する。
【0032】
このため、本実施形態において溶出Co/Mnの比率REが、0.85以上、1.61以下であることが、望ましい範囲となる。
<第2の条件>
第2の条件は、セパレータ4の空孔率P[%]が64%以上であることである。ここで「空孔率P[%]」とは、物質の全体積に占める孔の体積の割合を100分率で示すものと定義される。測定方法は、例えば光学的方法や、液浸法、水銀圧入法などが用いられるが、本実施形態では、水銀圧入法で測定し、細孔径分布頻度におけるメディアン径(d50)とした。
【0033】
<セパレータ4の空孔率P[%]と析出Co/Mnの比率RPと自己放電量SD[Ah]の関係>
図5は、セパレータ4の空孔率P[%]と、セパレータに析出するCo/Mnの比率RPと自己放電量SD[Ah]の関係を示すグラフである。ここでグラフL1は、析出するCo/Mnの比率RPを示し、グラフL2は、自己放電量SD[Ah]を示す。
【0034】
<空孔率P[%]の下限>
セパレータ4の空孔率P[%]が大きいと、セパレータ4の電解液5の保液量自体が大きくなる。そうすると、極板の界面に接触する電解液5の量が増加するため反応ムラを抑制するものと考えられる。
【0035】
負極の水素吸蔵合金は水素の吸蔵放出による結晶格子体積変化により微粉化する。微粉化により表面積が増加し電解液5との反応性が向上しCoやMnなどの元素が溶出しやすくなる。
【0036】
セパレータ4の空孔率P[%]が大きいと反応ムラが抑制されることで負極板3が均一に使用される。そのため、負極全体で均一に水素を吸蔵放出するため、負極において、水素吸蔵合金が一様に微粉化し合金由来のMn溶出量が増加する。つまり、電池全体の析出Co/Mnの比率RPが大きくなる。つまりMnの析出量の比率が高くなる。これは、特にセパレータに析出するCo/Mnの比率RPの低い合金で影響が大きい。
【0037】
その結果、
図5に示すように、空孔率P[%]が64%未満の場合、析出Co/Mnの比率PRが大きくなる。すなわち、セパレータ4におけるMnの溶出が小さくなる。これは、上記の理由のように、負極の溶出Co/Mnの比率RAが小さくなったのに対し、正極のCoの溶出量は負極ほど変化していないためである。そのため、空孔率P[%]が64%未満の場合、
図3に示す溶出Co/Mnの比率REの関係が変わってしまい、本発明の前提を欠くことになる。
【0038】
よって、第2の条件を満たすことで、第1の条件である比率REを0.85以上、かつ比率REを1.61以下とすることができる。
<空孔率P[%]の上限>
なお、本実施形態では、セパレータの空孔率P[%]を70%を上限に設定している。この理由は、セパレータ4の空孔率P[%]が70%を超えると、セパレータ4自体の機械的な強度が低下して、潰れやすくなったり、微小短絡を阻止する能力が悪化したりするからである。そのため、本実施形態の特徴である第1~4の条件とは直接関係しない。
【0039】
<第3の条件>
第3の条件は、負極の溶出Co/Mnの比率RAが、0.26以下であることを条件とする。ここで、まず負極板3の構成について詳細に説明する。
【0040】
<負極板3>
負極板3は、基板と、基板に設けられた負極合剤層とを備えている。
水素吸蔵合金は、水素の吸蔵と放出とを可逆的に進行させる合金であって、「A」を水素化物を形成する元素、「B」を水素化物を形成しない元素としたとき、AB型、AB5型、AB2型、A2B7型のいずれか1つ又はそれらの組み合わせを用いることができる。AB型の水素吸蔵合金は、TiCo,ZrCo等を用いることができる。AB5型の水素吸蔵合金は、MmNi5等を用いることができる。なお、「Mm」は、複数の希土類元素が含まれる合金であるミッシュメタルを指す。特に、MmNi5としては、ニッケル(Ni)の一部をCo,Mn,Al等で置換を行ったMmNi5-x(Co,Mn,Al)x系合金、MmNi5-x(Co,Mn,Al,Fe)x系合金を好適に用いることができる。ミッシュメタルは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等の少なくとも一つを含む。また、上記した合金に替えて若しくは加えて、バナジウム(V)系、マグネシウム(Mg)系を用いてもよい。
【0041】
本実施形態の水素吸蔵合金は、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を含む。
負極板3は、水素吸蔵合金に、カーボンブラック等の増粘材、スチレン-ブタジエン共重合体の結着材を添加してペースト状に加工した負極合剤を、金属材料からなる基板に付着させて、乾燥、圧延、及び切断することによって製造される。
【0042】
<負極におけるCo/Mn溶出の比率RA>
図6は、負極におけるCo/Mn溶出の比率RAと自己放電量SD[Ah]の関係を示すグラフである。
【0043】
図6に示すように、負極の溶出Co/Mnの比率RAが0.26を超えると、自己放電量SD[Ah]が急激に高くなる。これは、負極からのCoの溶出割合が高くなるためである。正極には、基本Mnが含有されていないため、負極からのCoの溶出割合が高くなると、電解液の溶出Co/Mnの比率REが高くなる。そうすると、正極からのCoの溶出量は変化しにくいため、自己放電量SD[Ah]を1.03以下に抑制する電解液の溶出Co/Mnの比率REである1.61以下とすることが困難となる。そのため、本実施形態の目的の達成が困難となる。
【0044】
よって、第3の条件を満たすことで、第1の条件である比率REを0.85以上、かつ比率REを1.61以下とすることができる。
<第4の条件>
第4の条件は、電解液5が含有するWの量が、0.48%以上であることである。ここで、まず電解液5について説明する。なお、第1の条件~第3の条件までは、本実施形態の必須の構成要素であるが、第4の条件は、好ましい任意の条件となる。
【0045】
<電解液5>
電解液5は、セパレータ4に保持される。セパレータ4の材料は特に限定されないが、例えば不織布、多数の微細な孔が設けられた樹脂製の膜、その他の液体を保持可能なシート、又はそれらの組み合わせである。上述のように、その空孔率P[%]が64%以上、70%以下に構成されている。
【0046】
電解液は、水酸化カリウム(KOH)を溶質の主成分とするアルカリ性水溶液であり、少なくともタングステン元素(以下「W」と略記することがある。)を含んでいる。タングステン元素は、溶質であるタングステン化合物に含有されるものである。
【0047】
溶質であるタングステン化合物は、WO2、WO3、W2O5などのタングステン酸化物(WxOy、x、yは実数)、WO3・H2O、W2O5・H2Oなどのタングステン酸化物の水和物を用いることができる。ほかにも、ZrW2O8、Al2(WO4)3、WC、CaWO4、FeWO4、MnWO4、WCl6、WBr6、WCl2F4、W(CO)6、WO2Cl2、Li2WO2、H2WO4、K2WO4、Na2WO4、Li2WO4・2H2O、H2WO4・2H2O、K2WO4・2H2O、Na2WO4・2H2O、(NH4)3PO4・12WO3・3H2O、Na3(PO4・12WO3)・xH2O、WF5、WF6などを用いることができる。
【0048】
<電解液5中のタングステン元素W>
図7は、電解液5中にWが存在しないときの反応を示す模式図である。
図7に示すようにWが存在しない電解液5中では、利用できる水酸基が少なく、電子授受しやすい部位のみ反応が促進される。
【0049】
前述のとおり、Coの含有量が多いと、セパレータ4上に析出して、自己放電量SD[Ah]が大きくなるという問題があった。しかし、水素吸蔵合金に含有されるCoの割合を低下させ、Wが存在しない電解液5中では、利用できる水酸基が少なく、電子授受しやすい部位のみ反応が促進される。このような場合、水素吸蔵合金の表面において反応にムラが生じ、ニッケル以外の金属元素を由来とする水酸化物、ニッケルを由来とするニッケル金属が析出して分相する。このように水素吸蔵合金の表面に水酸化物や金属の被膜が形成されると、その反応性が局所的に低下する。また、この被膜は表面に部分的に生成される。一方、被膜が形成されていない部分においては、反応性が高いため電子が集中し、局所的な過充電や過放電が発生する。その結果、負極板3内で反応ムラが生じ、負極全体として内部抵抗が上昇する。また、局所的な過充電や過放電が発生した部分においては、水素の吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮により微粉化が進行する。この傾向は、Coを合金として含む水素吸蔵合金においては、合金の組成に関係なく同様に見受けられる。
【0050】
負極で部分的に被膜が形成されると、被膜が形成された部分においてもある程度反応が可能であるにも関わらず、被膜が無い部分に電子が集中してしまう。このように、電解液中のWが存在しない場合には、負極における反応ムラが生じるという問題があった。
【0051】
<電解液5中のタングステン元素Wの作用>
図8は、電解液中にWが存在するときの反応を示す模式図である。これに対し、タングステン元素を電解液5に含有させると、タングステン元素を中心金属とし、水酸基を配位子とする錯体が形成される。配位子である水酸基は、電子の授受を円滑に進行させる。正極板2と負極板3との間に多数の錯体が均一に存在すると、電子が錯体から隣接する錯体へと移動して、負極板3に偏りなく到達する。このため、電解液5にタングステン元素を含まない点だけが異なるニッケル水素二次電池に比べ、負極における反応ムラを抑制することができる。
【0052】
また、負極の水素吸蔵合金は水素の吸蔵放出による結晶格子体積変化により微粉化する。そして、微粉化により表面積が増加し電解液との反応性が向上し元素が溶出しやすくなる。ここで、電解液中のタングステン元素により反応ムラが抑制されることで負極板が均一に使用されるため、水素の吸蔵放出による微粉化も負極において均一に行われる。このため、負極の水素吸蔵合金は、第3の条件に従って、負極の溶出Co/Mnの比率RAが、0.26以下に設定されている。このため、負極の微粉化が均一に進めば電解液中に溶出するMnの比率が上昇することになる。
【0053】
<電解液中のW量とセパレータに析出するCo/Mnの関係>
図9は、電解液5が含有するWの量とセパレータ4に析出するCo/Mnの比率の関係を示すグラフである。
図9に示すように、Wの含有量が少ないと析出Co/Mn比が大きく、Wの含有量が多いと析出Co/Mn比が小さくなる。
【0054】
この理由は、電解液5中のWの含有量が多い場合では、負極のCo/Mnの溶出量が、Coに対してMnの割合が大きくなるのに対し、正極のCoの溶出量は負極ほどは変化していない。このため、析出Co/Mnの比率RPが小さくなる。
【0055】
逆に、電解液5中のWの含有量が少ない場合では、負極のCo/Mnの溶出量が、Coに対してMnの割合が小さくなるのに対し、正極のCoの溶出量は負極ほどは変化していない。このため、析出Co/Mnの比率RPが大きくなる。
【0056】
<Wの量の下限値>
具体的には、電解液5中のWの含有量が0.48%以上の場合では、析出Co/Mnの比率RPが概ね0.039を下回るが、電解液5中のWの含有量が0.48%未満の場合では、析出Co/Mnの比率RPが概ね0.039を超える。
【0057】
よって、このような理由から、第4の条件である、電解液5が含有するWの量が、0.48%以上とすることで、第1の条件である比率REを0.85以上、かつ比率REを1.61以下とすることをより容易に達成することができる。なお、以上述べたとおり、第4の条件は、より好ましい条件であり、本実施形態の必須の要件ではない。
【0058】
<Wの量の上限値>
なお、好ましい条件として電解液5が含有するWの量が0.72%以下である。この理由は、電解液5が含有するWの量が0.72%を超えると、Wが抵抗となって、導電率が低下するからである。このため、本実施形態において好ましい態様ではあるが、第1の条件である比率REを0.85以上、かつ比率REを1.61以下とすることをより容易に達成することには寄与しない。そのため、本実施形態の特徴である第1~4の条件とは直接関係しない。
【0059】
<ニッケル水素蓄電池の製造方法>
図10は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法の手順を示すフローチャートである。以下、
図10のフローチャートにしたがって、本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法の手順を説明する。本実施形態では、上述したような第1の条件~第4の条件に適合するようにニッケル水素蓄電池を製造する。そのため各工程では、以下のような調整がなされる。
【0060】
ニッケル水素蓄電池は、まず、源泉工程として、正極板2、負極板3、セパレータ4、電解液5のそれぞれを作成する。そして、これらを積層して電極群1を作成する。
まず、正極板2は、正極合材層の原料となる正極活物質、Coを含む導電材、これらを結着する結着材などを、水などを用いて行う練合の工程(S1)で、正極合材層のペーストを作成する。このとき、Coの投入量を調節して、規定の混合率となるようにする。
【0061】
次に、練合の工程(S1)で作製した正極合材層のペーストを塗工機により多孔質の発泡ニッケル製の正極の基板に充填する。これを乾燥する。そしてプレス機で圧延して厚さを調整する充填/圧延の手順(S2)を行う。このとき、正極合材層のペーストの充填量で正極のCo量を調整する。また、充填量、プレス圧力で多孔度[%]の調整を行う。
【0062】
その後、単板加工の手順(S3)で、正極板2として寸法調整などを行い、正極板2として完成させる。
その後、単板加工の手順(S3)で作製した正極板2にセパレータ4をセパシールの手順(S4)において積層する。
【0063】
一方、負極板3は、粉砕の手順(S7)において、Co,Mnを含有する水素吸蔵合金からなる負極活物質を設定した粒径まで粉砕する。
アルカリ処理の手順(S8)では、粉砕の手順(S7)において設定した粒径まで粉砕した負極活物質のアルカリ処理を行う。
【0064】
アルカリ処理の手順(S8)でアルカリ処理を行った負極活物質は、導電材、結着材などを配合して溶媒を加えて練合し、負極合材層のペーストを作成する。作成した負極合材層のペーストを負極の基板に所定の目付量で塗着する。このときの目付量で、負極のCo量及びMn量を調整する。
【0065】
そして、負極合材層のペーストを負極の基板に所定量塗着した負極板3をプレス機で設定したプレス圧力で圧延して、設定した厚さ及び設定した多孔度[%]に整形する。その後、単板加工の手順(S10)で、負極板3として寸法調整などを行い、負極板3として完成させる。
【0066】
さらに電解液5については、正極板2、負極板3、セパレータ4の製造と並行して電解液5の液調整の手順(S11)を行う。電解液5の液調整の手順(S11)では、水酸化カリウム溶液に設定した量のWを投入する。
【0067】
セル組立の手順(S5)では、以上のような手順で作製した正極板2、負極板3、セパレータ4を積層して電極群1を作成する。この電極群を、ニッケル水素蓄電池の電池モジュールの電池ケースに設けられた複数の電槽に収容しセルを組み立てる。このように組み立てられたセルの電極群1を電気的に直列に接続し、外部端子と導通させる。
【0068】
注液の手順(S6)では、セル組立の手順(S5)で組み立てられた各セルに電解液を設定した量を注液する。
以上のような手順で、本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュールが完成する。上述のとおり、本実施形態では、上述したような第1の条件~第4の条件に適合するようにニッケル水素蓄電池を製造する。また、セパレータの空孔率[%]上限値や、電解液に含有されるWの上限値も併せて調整される。
【0069】
このようにして、各条件を具備した本実施形態のニッケル水素蓄電池を製造することができる。
(本実施形態の作用)
本実施形態のニッケル水素蓄電池は、第1の条件~第3の条件を満たすことで、セパレータ4に析出するMnの量を増大させることで、セパレータ4に析出するCoの量を抑制することができる。
【0070】
Coがセパレータ4に多く析出すると、
図2(a)に示すような正極板2と負極板3の間に導電率の高いCoの導通路Cp1が多く形成される。このような導電率の高いCoの導通路Cp1が多く形成されると、ここを経由して自己放電量[Ah]が大きくなる。
【0071】
しかし、セパレータ4のCoの析出を抑制することで、
図2(b)に示すように正極板2と負極板3の間に導電率の高いCoの導通路Cp1の形成を抑制する。このことで、自己放電量[Ah]を効果的に抑制することができる。
【0072】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のニッケル水素蓄電池では、Coのセパレータ4における析出を抑制することができる。このため、自己放電量[Ah]を抑制することができる。また、内部抵抗(DC-IR)を増大させることもない。
【0073】
(2)第1の条件である比率RE=(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)を0.85以上、かつ比率REが1.61以下としため、自己放電量[Ah]を、10.3[Ah]以下とすることができる。
【0074】
(3)第2の条件であるセパレータ4の空孔率P[%]を64%以上としたため、極板表面の反応のムラを抑制するとともに、Mnの溶出を促進して、第1の条件の達成を担保することができる。
【0075】
(4)第3の条件である、負極の溶出Co/Mnの比率RAを、0.26以下としたため、負極からのMnの供給を確保することにより、第1の条件の達成を担保することができる。
【0076】
(5)第4の条件である、電解液5が含有するWの量を、0.48%以上としたため、電解液中のWにより、タングステン元素を中心金属とし、水酸基を配位子とする錯体が形成される。配位子である水酸基は、電子の授受を円滑に進行させる。正極板2と負極板3との間に多数の錯体が均一に存在すると、電子が錯体から隣接する錯体へと移動して、負極板3に偏りなく到達する。このため、極板表面の反応のムラを抑制するとともに、Mnの溶出を促進して、第1の条件の達成を容易にすることができる。
【0077】
(6)なお、本実施形態では、セパレータの空孔率P[%]を70%を上限に設定している。このため、セパレータ4自体の機械的な強度が低下して、潰れやすくなったり、微小短絡を阻止する能力が悪化したりすることを抑制することができる。
【0078】
(7)また、電解液5が含有するWの量が0.72%以下とした。このため、Wが抵抗となって、導電率が低下することを抑制することができる。
(8)本実施形態では、以上のように電解液5のCo・Mn・Wの量や、正極板2・負極板3の多孔度や、セパレータの空孔率[%]を調整するだけで、ニッケル水素蓄電池の自己放電量[Ah]を抑制することができる。
【0079】
(9)このため、特別の装置や、特別な処理、特別な材料なしで、既存のニッケル水素蓄電池に適用することができる。
(別例)
本発明は、上記実施形態に拘わらず、以下のようにして実施することができる。
【0080】
○本実施形態のニッケル水素蓄電池は、車両の駆動用の電池モジュールを例に説明したが、電池の用途は限定されず、航空機や船舶のほか、定置用にも使用することができる。
○各図面は、本実施形態のニッケル水素蓄電池を説明するために模式的に示す図もあり、必ずしも構成要素の数量、寸法のバランスは、誇張されたものもあり正確ではない場合がある。
【0081】
○
図10に示すフローチャートは例示であり、その手順を付加し削除し入れ替え、又は変更することができる。
○本実施形態に記載された数値及び範囲は、実施形態における例示であり、本発明がこれらの数値や範囲に限定されることを意図するものではない。当業者によりニッケル水素蓄電池の構成に合わせて最適化ができる。
【0082】
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加し削除し又は変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1…電極群
2…正極板
3…負極板
4…セパレータ
5…電解液
SD[Ah]…自己放電量
RE…(電解液の)溶出Co/Mnの比率(正極Co量×正極多孔度+負極Co量×負極多孔度)/(負極Mn量×負極多孔度)
RP…(セパレータの)析出Co/Mnの比率
RA…(負極の)溶出Co/Mnの比率
Cp2…(Mnによる)導通路
Cp1…(Coによる)導通路Cp1
P[%]…(セパレータの)空孔率