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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106016
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20230725BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230725BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20230725BHJP
【FI】
H02M1/00 H
H02M7/48 M
H02M7/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007106
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘
(72)【発明者】
【氏名】三好 智之
(72)【発明者】
【氏名】古川 智康
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB05
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM11
5H770BA12
5H770DA03
5H770DA23
5H770DA41
5H770DA44
5H770GA01
5H770GA13
5H770GA16
5H770GA17
5H770HA02X
5H770HA03X
5H770HA03Y
5H770JA17X
5H770LA02X
5H770LA05X
5H770LB05
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い電力変換装置を提供する。
【解決手段】第1の判定結果CP1が肯定である場合に第1の方向(T1→T2)に流れる電流を減少させ、第2の判定結果CP2が肯定である場合にダイオード機能Dに第2の順方向電圧・電流特性PHを適用する保護部60と、前記第1の判定結果CP1または前記第2の判定結果CP2が肯定になると、前記保護部60が動作した後に一対の前記入出力端子T1,T2の間をバイパスするバイパス装置2と、を電力変換装置に設けた。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の入出力端子の間に接続され、第1の方向に流れる電流をスイッチングするスイッチング機能と、前記第1の方向とは逆方向の第2の方向を順方向とするダイオード機能と、を有する半導体装置と、
前記スイッチング機能のオン/オフ状態を制御するとともに、前記ダイオード機能に対して、第1の順方向電圧・電流特性、または、同一の順方向電流に対して前記第1の順方向電圧・電流特性よりも順方向電圧が低くなる第2の順方向電圧・電流特性のうち何れかを適用する駆動回路と、
前記第1の方向に流れる電流が第1の過電流状態であるか否かの第1の判定結果と、前記第2の方向に流れる電流が第2の過電流状態であるか否かの第2の判定結果と、を出力する過電流判定部と、
前記第1の判定結果が肯定である場合に前記第1の方向に流れる電流を減少させ、前記第2の判定結果が肯定である場合に前記ダイオード機能に前記第2の順方向電圧・電流特性を適用する保護部と、
前記第1の判定結果または前記第2の判定結果が肯定になると、前記保護部が動作した後に一対の前記入出力端子の間をバイパスするバイパス装置と、を備える
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記スイッチング機能は、ゲート端子を有する電圧制御型の半導体素子によって実現され、
前記保護部は、前記第1の判定結果が肯定である場合に前記ゲート端子に印加するゲート電圧を低下させることによって前記半導体素子に流れる電流を減少させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、正側電圧と負側電圧との間に順次直列接続されたPMOSFETと、第1の抵抗器と、第1のNMOSFETと、を備え、前記第1の抵抗器と前記第1のNMOSFETとの接続点を前記ゲート端子に接続したものであり、
前記保護部は、前記接続点と前記負側電圧との間に順次直列接続された第2の抵抗器と第2のNMOSFETとを備え、前記PMOSFETと前記第2のNMOSFETとを所定時間だけ同時にオン状態にし、前記第1および第2の抵抗器の各抵抗値に応じた電圧を前記ゲート端子に印加することにより、前記ゲート電圧を低下させる
ことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記スイッチング機能は、独立して制御可能な第1のゲート端子と第2のゲート端子とを有する電圧制御型の半導体素子によって実現され、
前記保護部は、前記第1の判定結果が肯定である場合に前記第2のゲート端子を遮断することによって前記半導体素子に流れる電流を減少させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記過電流判定部は、
前記半導体装置の低電位側に存在する寄生インダクタンスに生じる逆起電力を時間積分した積分信号を出力する積分信号出力部と、
前記積分信号の極性と大きさとに基づいて前記第1および第2の判定結果を出力する判定部と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記バイパス装置は、
双方向に電流を流せるバイパスサイリスタまたは機械式スイッチを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
直列接続された複数のセルと、各々の前記セルに接続された複数の前記バイパス装置と、を各々が有する複数のアームと、
複数の前記セルを制御する制御装置と、を備え、
複数の前記セルは、それぞれ、前記半導体装置と、前記駆動回路と、前記過電流判定部と、前記保護部と、を備える
ことを特徴とする請求項1ないし6の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
各々の前記アームにおけるバイパス状態になった前記バイパス装置の数に基づいて、各々の前記アームにおいて正常な前記セルの1個あたりの印加電圧を算出するセル電圧算出部と、
前記印加電圧が所定の規定電圧以下になるように、各々の前記アームに印加されるシステム直流電圧を設定するシステム電圧設定部と、を備える
ことを特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、下記特許文献1の要約には、「モジュラーマルチレベル変換器を備えた電力変換装置では複数のスイッチング素子と直流コンデンサを組み合わせたセルが数多く使用されるため、スイッチング素子による導通損失が問題であり、複数のセルのそれぞれの端子間にバイパス回路を接続し、前記スイッチング素子を開閉するように制御すると共に、ゼロ電圧出力に制御されている前記セルに接続された前記バイパス回路を短絡するように制御して、導通損失を低減した。」と記載されている。
【0003】
また、下記特許文献2の要約には、「IGBT5aと主ダイオード5bが逆並列に接続された半導体チップ5に、主ダイオード5bに流れる電流をモニタするためのダイオード5cを搭載し、外部抵抗9を介して主ダイオード5bと並列接続する。還流モード判定手段7は、外部抵抗9の両端の電圧が所定の基準電圧値よりも低い場合、電流が主ダイオード5bを還流する還流モードであると判定する。そして、遮断回路3は、入力回路2から駆動回路4へ送出された駆動信号を遮断する。これにより、還流モードである場合には、IGBT5aがオンしないので、主ダイオード5bの順方向降下電圧の上昇を抑えることができる。」と記載されている。
【0004】
また、下記特許文献3の要約には、「低導通損失と低リカバリー損失を両立した性能を有し低消費電力化が可能な半導体装置及びそれを用いた電力変換装置を提供する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/077983号
【特許文献2】特開2008-72848号公報
【特許文献3】特開2018-117044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した技術において、電力変換装置の信頼性を一層高めたいという要望がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、信頼性の高い電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の電力変換装置は、一対の入出力端子の間に接続され、第1の方向に流れる電流をスイッチングするスイッチング機能と、前記第1の方向とは逆方向の第2の方向を順方向とするダイオード機能と、を有する半導体装置と、前記スイッチング機能のオン/オフ状態を制御するとともに、前記ダイオード機能に対して、第1の順方向電圧・電流特性、または、同一の順方向電流に対して前記第1の順方向電圧・電流特性よりも順方向電圧が低くなる第2の順方向電圧・電流特性のうち何れかを適用する駆動回路と、前記第1の方向に流れる電流が第1の過電流状態であるか否かの第1の判定結果と、前記第2の方向に流れる電流が第2の過電流状態であるか否かの第2の判定結果と、を出力する過電流判定部と、前記第1の判定結果が肯定である場合に前記第1の方向に流れる電流を減少させ、前記第2の判定結果が肯定である場合に前記ダイオード機能に前記第2の順方向電圧・電流特性を適用する保護部と、前記第1の判定結果または前記第2の判定結果が肯定になると、前記保護部が動作した後に一対の前記入出力端子の間をバイパスするバイパス装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性の高い電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態による電力変換装置の概略的な構成を示す回路図である。
図2】コンピュータのブロック図である。
図3】セルの一つの構成例の回路図である。
図4】セルの他の構成例の回路図である。
図5】ゲートドライブ回路およびその周辺の回路図である。
図6図5における各部の電圧等の関係を示す図である。
図7】スイッチング素子のゲート電圧および電流の波形の例を示す図である。
図8】還流ダイオードの順方向電圧/電流特性の例を示す図である。
図9】スイッチング素子の短絡発生時における各部の波形図の一例である。
図10】還流ダイオードにサージ電流が流れた場合の各部の波形図の一例である。
図11】第2実施形態におけるゲートドライブ回路およびその周辺の回路図である。
図12】スイッチング素子のゲート電圧、補助ゲート電圧、および電流の波形の例を示す図である。
図13】スイッチング素子の短絡発生時における各部の波形図の一例である。
図14】第3実施形態におけるゲートドライブ回路およびその周辺の要部の回路図である。
図15】各アームと、異常セル数と、印加電圧と、の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
洋上風力や太陽光など再生可能エネルギーによる分散型発電の導入にともない、発電電力を安定的かつ効率的に送電するために高圧直流送電(HVDC; High Voltage Direct Current)が適用されている。近年HVDC向けの交直変換器には、モジュラーマルチレベル変換器(MMC; Modular Multilevel Converter)が適用されることが多い。MMCにおいては、図1(詳細は後述する)に示すように、多数のセル1が直列接続されている。なお、セル1は、サブモジュールあるいは単位変換器とも称される。各セル1にはスイッチング素子としてパワー半導体モジュールが適用されている。
【0011】
パワー半導体としてはサイリスタに加え、低損失なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ;Insulated Gate Biporlar Transistor)を適用したものが近年増えつつある。システム直流電圧が数百kVになるHVDCでは、できるだけ定格耐圧の高いパワー半導体でMMCのセルを構築し、セルの直列数を少なくして低コスト化することが望ましい。一方、パワー半導体を高耐圧化すると故障が発生した時の破壊規模も大きくなる。特に、セル内にて開放故障が起こると、システム直流電圧が故障セルに集中することで、当該セルでのアーク発生や、電気伝導性を含むガスの噴出が生じる。
【0012】
これにより、セルに絶縁破壊が起こると、破裂・火災等の事象に繋がりかねない。そこで、開放故障に至る前に、故障したセルを短絡(バイパス)処理し、MMCシステム全体としては運転を継続できるように構成することが一般的である。このように、MMCにはセルの高信頼化とシステムの継続運転が求められる。
【0013】
例えば、特許文献1に記載の技術を応用すると、セルの故障時にバイパス回路をオンしてパワー半導体に過大な電流が流れないように保護することが可能であると考えられる。しかし、特許文献1には、セルの故障を検知する方法やセル自体の信頼性を確保する手段については、特に言及されていない。また、特許文献2に記載の技術を応用すると、パワー半導体に流れる電流を検知できると考えられる。すなわち、電流モニタ用ダイオードに流れる電流値を検知して、パワー半導体に流れる電流の方向と大きさを検知できると考えられる。しかし、この方法では、主ダイオードとは別に、電流モニタ用ダイオードを設ける必要が生じる。
【0014】
そこで、後述する各実施形態は、パワー半導体モジュール等の半導体装置が開放故障に至る前に、その旨を検知して防爆し、MMCのセルを高信頼化できるようにした。より具体的には、パワー半導体モジュール内部の半導体チップの破壊、あるいはワイヤボンディングの溶断のような開放故障に至る前に、その引き金となる異常電流を早期に検知する。そして、後述する各実施形態においては、パワー半導体で消費されるエネルギーを瞬時に抑制してパワー半導体を高耐量化し、セルの開放故障を抑制する。
【0015】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図1は、第1実施形態による電力変換装置100の概略的な構成を示す回路図である。
図1において、電力変換装置100は、3相の交流系統120と直流系統130との間に接続されている。交流系統120は、例えば洋上風力発電システムなどの分散電源であってもよく、商用系統であってもよい。直流系統130は、例えば直流送電システムである。直流送電システムの一端に本実施形態の電力変換装置100を接続し、他端に電力変換装置100と同様の他の装置(図示せず)の直流側出力端子を接続してもよい。
【0016】
電力変換装置100は、U相,V相,W相の交流端子32U,32V,32Wと、正側の直流端子34Pと、負側の直流端子34Nと、制御装置20と、正側のアーム10U,10V,10Wと、負側のアーム10X,10Y,10Zと、リアクトル30LU,30LV,30LW,30LX,30LY,30LZと、を備えている。
【0017】
なお、以下の説明において、同一または同様の機能、意義を有する複数の構成要素や情報等を、例えば「リアクトル30LU,30LV」のように、同一の符号に英字を付して、表記する場合がある。但し、これら複数の構成要素等を区別する必要がない場合には、例えば「リアクトル30」のように、英字を省略して表記する場合がある。
【0018】
各アーム10は、直列接続された複数の単位変換器であるセル1を備えている。図1の例では、簡易的にセルの直列数を「3」としている。そして、各々のセル1の入出力端子T1,T2には、間には、バイパス装置2が並列に接続されている。
【0019】
交流端子32U,32V,32Wは、3相の交流系統120と電気的に接続される。正側の直流端子34Pと負側の直流端子34Nとは、直流系統130に電気的に接続される。
U相正側のアーム10Uの低電位側は、リアクトル30LUを介して交流端子32Uと電気的に接続されている。U相正側のアーム10Uの高電位側は、正側の直流端子34Pと電気的に接続されている。U相負側のアーム10Xの高電位側は、リアクトル30LXを介して交流端子32Uと電気的に接続されている。U相負側のアーム10Xの低電位側は、負側の直流端子34Nと電気的に接続されている。
【0020】
同様に、V相正側のアーム10Vの低電位側は、リアクトル30LVを介して交流端子32Vと電気的に接続されている。V相正側のアーム10Vの高電位側は、正側の直流端子34Pと電気的に接続されている。V相負側のアーム10Yの高電位側は、リアクトル30LYを介して交流端子32Vと電気的に接続されている。V相負側のアーム10Yの低電位側は、負側の直流端子34Nと電気的に接続されている。
【0021】
同様に、W相正側のアーム10Wの低電位側は、リアクトル30LWを介して交流端子32Wと電気的に接続されている。W相正側のアーム10Wの高電位側は、正側の直流端子34Pと電気的に接続されている。W相負側のアーム10Zの高電位側は、リアクトル30LZを介して交流端子32Wと電気的に接続されている。W相負側のアーム10Zの低電位側は、負側の直流端子34Nと電気的に接続されている。
【0022】
制御装置20は、外部から供給された指令値および電力変換装置100において検出された各種検出値に基づいて、電力変換装置100の動作を制御する。そのため、制御装置20には、各相アームのセルに含まれるセルコンデンサ(詳細は後述する)の電圧、各相アームに流れる電流、系統電圧など種々の検出値が入力される。そして、制御装置20は、各相のアーム10に含まれるセル1に対して、ゲート信号を出力する。
【0023】
図2は、コンピュータ980のブロック図である。図1に示した制御装置20は、図2に示すコンピュータ980を、1台または複数台備えている。
図2において、コンピュータ980は、CPU(Central Processing Unit)981と、記憶部982と、通信I/F(インタフェース)983と、入出力I/F984と、メディアI/F985と、を備える。ここで、記憶部982は、RAM(Random Access Memory)982aと、ROM(Read Only Memory)982bと、HDD(Hard Disk Drive)982cと、を備える。通信I/F983は、通信回路986に接続される。入出力I/F984は、入出力装置987に接続される。メディアI/F985は、記録媒体988からデータを読み書きする。ROM982bには、CPUによって実行される制御プログラム、各種データ等が格納されている。CPU981は、RAM982aに読み込んだアプリケーションプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。
【0024】
図3は、セル1の一構成例の回路図である。
図3においてセル1は、スイッチング素子Qa,Qbと、還流ダイオードDa,Dbと、セルコンデンサC1と、ゲートドライブ回路3a,3bと、を備えている。スイッチング素子Qa,Qbは直列に接続され、Qaのエミッタ(低電位側)は、Qbのコレクタ(高電位側)と電気的に接続されている。ゲートドライブ回路3a,3bは、スイッチング素子Qa,Qbを各々駆動する。Qaのコレクタは、セルコンデンサC1の高電位側と電気的に接続されている。また、Qbのエミッタは、セルコンデンサC1の低電位側と電気的に接続されている。
【0025】
スイッチング素子Qa,Qbには、それぞれ還流ダイオードDa,Dbが逆並列に接続されている。還流ダイオードDa,Dbは、順方向電圧を制御するためのゲート制御端子Gdを備えている。このような還流ダイオードDa,Dbとしては、例えば上述した特許文献3に記載されているものを適用することができる。
【0026】
制御装置20は、ゲートドライブ回路3a,3bに対して、スイッチング素子Qa,Qbおよび還流ダイオードDa,Dbを制御するためのゲート駆動指令信号(符号なし)を供給する。ゲートドライブ回路3a,3bは、このゲート駆動指令信号に従って、スイッチング素子Qa,Qbのゲート端子G、および還流ダイオードDa,Dbのゲート制御端子Gdの電圧を制御する。これにより、ゲートドライブ回路3a,3bは、スイッチング素子Qa,Qbに流れる電流や、還流ダイオードDa,Dbの順方向電圧等を制御する。なお、その詳細については後述する。
【0027】
スイッチング素子Qa,Qbの接続点は入出力端子T1に接続されている。また、セルコンデンサC1の低電位側には入出力端子T2が接続されている。また、上述したように、バイパス装置2は入出力端子T1,T2の間に接続されている。バイパス装置2は、例えば双方向に電流を流すことができるバイパスサイリスタであり、これは一対のサイリスタを逆並列接続して構成することができる。そこで、以下の説明では、バイパス装置2としてバイパスサイリスタを適用した場合の例を説明する。
【0028】
ゲートドライブ回路3a,3bは、それぞれ、二値信号である駆動指令SBa,SBbを出力する。そして、バイパス装置2は、駆動指令SBa,SBbのうち少なくとも一つが“1”であれば、入出力端子T1,T2の間を電気的に短絡し、セル1に有意な電圧が印加されないようにする。一方、全ての駆動指令SBa,SBbが共に“0”であれば、バイパス装置2はハイインピーダンス状態になり、バイパス装置2には有意な電流が流れなくなる。
【0029】
図4は、セル1の他の構成例の回路図である。すなわち、上述した図3はチョッパ回路によってセル1を構成した例であったが、図4はブリッジ回路によってセル1を構成した例である。
図4においてセル1は、スイッチング素子Qc,Qd,Qe,Qfと、還流ダイオードDc,Dd,De,Dfと、セルコンデンサC2と、ゲートドライブ回路3c,3d,3e,3fと、を備えている。
【0030】
ゲートドライブ回路3c,3d,3e,3fは、それぞれスイッチング素子Qc,Qd,Qe,Qfを駆動する。スイッチング素子Qc,Qdは直列接続され、同様にスイッチング素子Qe,Qfも直列接続されている。すなわち、スイッチング素子Qc,Qeのエミッタ(低電位側)は、それぞれスイッチング素子Qd,Qfのコレクタ(高電位側)に接続されている。
【0031】
また、スイッチング素子Qc,Qeのコレクタは、セルコンデンサC2の高電位側と電気的に接続されている。また、スイッチング素子Qd,Qfのエミッタは、セルコンデンサC2の低電位側と電気的に接続されている。スイッチング素子Qc,Qd,Qe,Qfには、それぞれ、還流ダイオードDc,Dd,De,Dfが、逆並列に接続されている。また、スイッチング素子Qc,Qdの接続点は入出力端子T1に電気的に接続され、スイッチング素子Qe,Qfの接続点は入出力端子T2に電気的に接続されている。
【0032】
ゲートドライブ回路3c,3d,3e,3fは、制御装置20から供給されるゲート駆動指令信号(符号なし)に基づいて、スイッチング素子Qc,Qd,Qe,Qfのゲート端子Gと、還流ダイオードDc,Dd,De,Dfのゲート制御端子Gdにそれぞれゲート駆動電圧を印加する。これにより、ゲートドライブ回路3c~3fは、スイッチング素子Qc~Qfに流れる電流や、還流ダイオードDc~Dfの順方向電圧を制御する。
【0033】
また、ゲートドライブ回路3c~3fは、それぞれ、二値信号である駆動指令SBc,SBd,SBe,SBfを出力する。バイパス装置2は、これら駆動指令SBc~SBfのうち少なくとも一つが“1”であれば入出力端子T1,T2の間を電気的に短絡し、セル1に有意な電圧が印加されないようにする。一方、全ての駆動指令SBc~SBfが“0”であれば、バイパス装置2はハイインピーダンス状態になり、バイパス装置2には有意な電流が流れなくなる。
【0034】
図5は、ゲートドライブ回路3およびその周辺の回路図である。図中のゲートドライブ回路3は、ゲートドライブ回路3a~3f(図3図4参照)の何れかである。同様に、スイッチング素子Q(スイッチング機能、半導体素子)はスイッチング素子Qa~Qfの何れかであり、還流ダイオードD(ダイオード機能)は還流ダイオードDa~Dfの何れかであり、駆動指令SBは駆動指令SBa~~SBfの何れかである。また、図5においては、スイッチング素子QとしてIGBTを適用した例を説明する。
【0035】
図5において、ゲートドライブ回路3は、駆動回路40と、短絡・サージ検知回路50(過電流判定部)と、サプレス回路60(保護部)と、電源部70と、OR回路72と、を備えている。電源部70は、ゲートドライブ回路3内の各部に対して、所定の正側電圧Vpおよび負側電圧Vmを印加する。
【0036】
また、上述したスイッチング素子Qおよび還流ダイオードDは、図示のパワー半導体モジュールJ1(半導体装置)に含まれている。ここで、スイッチング素子Qのエミッタ端子と、パワー半導体モジュールJ1の低電位側の出力端子Eとの間には、寄生インダクタンスLEが存在する。寄生インダクタンスLEは、例えば、スイッチング素子Qを構成するIGBTチップや還流ダイオードDを構成するダイオードチップと、それらを実装しているパワー半導体モジュールの出力端子Eとの間の配線インダクタンスであり、通常は数nHのインダクタンス値を有する。この寄生インダクタンスLEにおいて生じる逆起電力Vetは、パワー半導体モジュールJ1から出力される電流Icの微分結果に比例する。
【0037】
また、駆動回路40は、ゲート制御部48と、NMOSFET41,43と、PMOSFET42,44と、抵抗器45(第1の抵抗器)と、を備えている。ここで、NMOSFET41およびPMOSFET42は、スイッチング素子Qのゲート端子Gの電圧を制御するものである。また、NMOSFET43およびPMOSFET44は、還流ダイオードDのゲート制御端子Gdの電圧を制御するものである。以下、NMOSFET41,43およびPMOSFET42,44を単に「FET41~44」と称することがある。
【0038】
PMOSFET42,44のソース端子には正側電圧Vpが印加され、NMOSFET41,43のソース端子には負側電圧Vmが印加される。駆動回路40における抵抗器45とNMOSFET41との接続点46は、スイッチング素子Qのゲート端子Gに接続されている。また、PMOSFET44のドレイン端子はNMOSFET43のドレイン端子に接続されており、その接続点は還流ダイオードDのゲート制御端子Gdに接続されている。
【0039】
ゲート制御部48は、制御装置20と、各FET41~44のゲート端子と、の間に接続されている。ゲート制御部48は、制御装置20からのゲート駆動指令信号(符号なし)に基づいて、PMOSFET42とNMOSFET41とを相補的にオン・オフ駆動する。これにより、ゲート制御部48は、スイッチング素子Qの基準端子SSに対するゲート端子Gの電圧、すなわちゲート電圧VGEを制御する。ここで、ゲート電圧VGEが所定の閾値電圧Vth1(図示せず)を超えると、スイッチング素子Qがオン状態になる。一方、ゲート電圧VGEが閾値電圧Vth1以下になると、スイッチング素子Qはオフ状態になり、電流Icを遮断する。
【0040】
また、ゲート制御部48は、制御装置20からのゲート駆動指令信号(符号なし)に基づいて、PMOSFET44とNMOSFET43を相補的にオン・オフ駆動する。これにより、ゲート制御部48は、還流ダイオードDのゲート電圧VGdE(Qbの基準端子SSに対するゲート制御端子Gdの電圧)を制御する。これにより、ゲート制御部48は、還流ダイオードDの電流導通時における順方向電圧VFを制御する。
【0041】
還流ダイオードDの電流導通時においてゲート電圧VGdEが所定の閾値電圧Vth2(図示せず)を超えると、アノードからの少数キャリア(ホール)の注入量が減少して素子内部の伝導度変調が抑制される結果、順方向電圧VFが高くなる。また還流ダイオードDの電流導通時においてゲート電圧VGdEが閾値電圧Vth2以下になると、ホールの注入量が増加して素子内部の伝導度変調が促進される結果、順方向電圧VFが低くなる。
【0042】
また、短絡・サージ検知回路50は、分圧抵抗器51,52と、積分回路54(積分信号出力部)と、異常電流判定用のコンパレータ56,57(判定部)と、可変電圧源58,59と、を備えている。
【0043】
分圧抵抗器51,52は直列接続され、該直列回路は、スイッチング素子Qの基準端子SSと、パワー半導体モジュールJ1の出力端子Eと、に接続されている。また、分圧抵抗器51,52の接続点は、積分回路54の入力端子に接続されている。分圧抵抗器51,52は、各々抵抗値R1,R2を有し、パワー半導体モジュールJ1の寄生インダクタンスLEに生じる逆起電力Vetを分圧し、その結果を積分回路54に対する入力電圧Vinとして出力する。
【0044】
ところで、寄生インダクタンスLEに生じる逆起電力Vetは、下式(1)に示すようになる。

Vet = -LE × dIc/dt …(1)
【0045】
また、分圧抵抗器51,52の抵抗値R1,R2の比(R1/R2)を分圧比αとすると、積分回路54の入力電圧Vinは、下式(2)に示すようになる。

Vin = α × Vet …(2)
【0046】
積分回路54は、抵抗器542と、コンデンサ544と、オペアンプ546と、を備えている。抵抗器542は、分圧抵抗器51,52の接続点と、オペアンプ546の反転入力端子(-)と、に接続されている。また、オペアンプ546の非反転入力端子(+)は、スイッチング素子Qの基準端子SSに接続されている。これにより、積分回路54は、入力電圧Vinを時間積分し、その結果を出力電圧Vout(積分信号)として出力する。
【0047】
抵抗器542の抵抗値をRとし、コンデンサ544の容量をCとすると、出力電圧Voutは、下式(3)に示すようになる。入力電圧Vinは、パワー半導体モジュールJ1の電流Icの微分結果に比例するため、出力電圧Voutは、スイッチング素子Qまたは還流ダイオードDに流れる電流Icに比例する電圧になる。

Vout = - (1/RC) × ∫ Vin dt …(3)
【0048】
可変電圧源58,59の負極には、負側電圧Vmが印加されている。可変電圧源58の出力電圧と、負側電圧Vmとの合計は、正値である短絡判定電圧Vref1になる。また、可変電圧源59の出力電圧と、負側電圧Vmとの合計は、負値であるサージ判定電圧Vref2になる。短絡判定電圧Vref1はコンパレータ56の反転入力端子(-)に印加され、サージ判定電圧Vref2はコンパレータ57の非反転入力端子(+)に印加される。また、積分回路54の出力端子は、コンパレータ56の非反転入力端子(+)と、コンパレータ57の反転入力端子(-)と、に接続されている。
【0049】
これにより、コンパレータ56は、短絡判定電圧Vref1と出力電圧Voutとを比較し、「Vout≧Vref1」の場合に“1”になり、その他の場合に“0”になる比較信号CP1(第1の判定結果)を出力する。また、コンパレータ57は、サージ判定電圧Vref2と出力電圧Voutとを比較し、「Vref2≧Vout」の場合に“1”になり、その他の場合に“0”になる比較信号CP2(第2の判定結果)を出力する。
【0050】
比較信号CP1,CP2は、サプレス回路60と、OR回路72と、に供給される。OR回路72は、比較信号CP1,CP2の論理和を駆動指令SBとして、バイパス装置2に供給する。このように、短絡・サージ検知回路50は、スイッチング素子Qまたは還流ダイオードDに流れる電流Icの大きさと方向とを、寄生インダクタンスLEに生じる逆起電力Vetに基づいて検知し、これらに異常電流が流れているか否かを判定する。
【0051】
このように、本実施形態においては、寄生インダクタンスLEを用いて電流Icの大きさと方向とを判別する。この寄生インダクタンスLEは、パワー半導体モジュールJ1の配線インダクタンスとして寄生的に備わっているものである。従って、本実施形態によれば、電流モニタ用のIGBTやダイオードを設ける必要がなくなり、コストダウンを図れるという利点が生じる。
【0052】
図6は、図5における各部の電圧等の関係を示す図である。
図6においては、ケース#1~#4に場合分けして、各部の電圧等の関係を示している。ケース#1は、スイッチング素子Qに短絡が発生したケースである。この場合、スイッチング素子Qに、通常のターンオン動作(ケース#2)を超える電流Icが流れる。ここで、電流Icの増加率(di/dt)は、図5に示すIcの向きに電流が増加する場合を正と定義する。この電流Icは時間の経過とともに大きくなるため逆起電力Vetの極性は負になり、出力電圧Voutの極性は正になる。そして、出力電圧Voutが短絡判定電圧Vref1以上になるため、コンパレータ56によって異常が生じたと判定され、比較信号CP1が“1”になる。これにより、サプレス回路60が作動する。
【0053】
また、ケース#2は、スイッチング素子Qにターンオンが生じたケースである。この場合、スイッチング素子Qに流れる電流Icは、時間の経過とともに大きくなる。従って、逆起電力Vetの極性は負になり、出力電圧Voutの極性は正になる。しかし、通常のターンオン動作であれば、出力電圧Voutは短絡判定電圧Vref1未満になるため、正常であると判定され、比較信号CP1,CP2は共に“0”になる。従って、サプレス回路60は作動しない。
【0054】
また、ケース#3は、スイッチング素子Qにターンオフが生じたケースである。この場合、スイッチング素子Qに流れる電流Icは、時間の経過とともに小さくなる。従って、逆起電力Vetの極性は正になり、出力電圧Voutの極性は負になる。そして、出力電圧Voutがサージ判定電圧Vref2を超えるため(出力電圧Voutの絶対値がサージ判定電圧Vref2の絶対値よりも小さいため)、正常であると判定され、比較信号CP1,CP2は共に“0”になる。従って、サプレス回路60は作動しない。
【0055】
また、ケース#4は、還流ダイオードDにサージ電流が流入したケースである。このサージ電流は、例えば、図3においてセルコンデンサC1の高電位側と低電位側が電気的に短絡した場合等に発生する。すなわち、想定しているサージ電流は、還流ダイオードDに流れる、定格電流を超える過大な順方向電流である。この場合、電流Icは時間の経過とともに小さくなる(絶対値は大きくなる)ため、逆起電力Vetの極性は正になり、出力電圧Voutの極性は負になる。サージ電流が流れる場合には、通常のターンオフの範囲を超えて出力電圧Voutが変動するため、出力電圧Voutがサージ判定電圧Vref2以下になる(出力電圧Voutの絶対値がサージ判定電圧Vref2の絶対値以上になる)。これにより、コンパレータ57によって異常が生じたと判定され、比較信号CP2が“1”になり、サプレス回路60が作動する。
【0056】
図5に戻り、サプレス回路60は、NMOSFET63と、ゲート制御部64と、抵抗器66(第2の抵抗器)と、を備えている。
【0057】
NMOSFET63のソース端子には、負側電圧Vmが印加され、NMOSFET63のドレイン端子は、抵抗器66を介して、スイッチング素子Qのゲート端子Gに接続されている。ゲート制御部64には、コンパレータ56,57が出力する比較信号CP1,CP2が入力される。また、ゲート制御部64の出力端子は、NMOSFET43およびNMOSFET63のゲート端子にそれぞれ接続されている。
【0058】
ゲート制御部64は、比較信号CP1が“1”になると、NMOSFET63を所定の保持時間T11だけオン状態に保持する。このとき、スイッチング素子Qは導通状態であるため、ゲート端子Gを制御するPMOSFET42もオン状態になっている。従って、保持時間T11の期間は、PMOSFET42とNMOSFET63とは共にオン状態になる。比較信号CP1が“0”であった期間、ゲート電圧VGEは正側電圧Vpであったが、比較信号CP1が“1”に立ち上がると、ゲート電圧VGEは、下式(4)に示すサプレス電圧Vsupに低下する。
【0059】

Vsup = (Rsup/(Ron+Rsup))×(Vp-Vm)+Vm …(4)

但し、式(4)において抵抗値Rsupは抵抗器66の抵抗値であり、抵抗値Ronは抵抗器45の抵抗値である。なお、サプレス電圧Vsupは、スイッチング素子Qの閾値電圧Vth1(図示せず)よりも高くし、正側電圧Vpよりも低い値にする(すなわち「Vth1<Vsup<Vp」とする)と好ましい。
【0060】
また、ゲート制御部64は、比較信号CP2が“1”になると、NMOSFET43を、所定の保持時間T11だけオン状態に保持する。その結果、還流ダイオードDのゲート電圧VGdEを、所定の保持時間T12だけ閾値電圧Vth2よりも低い負側電圧Vmに保持する。これにより、還流ダイオードDにおいては、アノードからのホールの注入が増加して素子内部の伝導度変調が促進される結果、順方向電圧VFが低下する。
【0061】
順方向電圧VFが低下することにより、サージ電流が流れている還流ダイオードDにおいて発生する消費電力を大幅に低減することができる。これにより、還流ダイオードDの耐量が向上するため、パワー半導体モジュールJ1が開放故障に至る前にその可能性を検知して防爆し、セル1の信頼性を高めることができる。
【0062】
また、OR回路72は、比較信号CP1,CP2の論理和を駆動指令SBとしてバイパス装置2に供給する。上述したように、図5に示す駆動指令SBは、駆動指令SBa~~SBf(図3図4参照)の何れかである。バイパス装置2は、供給された全ての駆動指令SBが“0”であれば、非導通状態になる。一方、バイパス装置2は、何れかの駆動指令SBが“1”になると、入出力端子T1,T2を電気的に短絡し、パワー半導体モジュールJ1に有意な電圧が印加されないようにする。これにより、図1に示す電力変換装置100を構成するセル1のうち何れかに異常が発生した場合であっても、当該セル1に設けられたバイパス装置2にて入力と出力をバイパスさせることにより、MMCシステムである電力変換装置100としては運転を継続できる。
【0063】
図7は、スイッチング素子Qのゲート電圧VGEおよび電流Icの波形の例を示す図である。
図7の横軸は時刻tであり、縦軸は電圧および電流である。図7に示す実線の電圧波形PV1において、時刻t10以前にはゲート電圧VGEは閾値電圧Vth1以下である。従って、実線で示す電流波形PI1において、時刻t10以前には電流Icは「0」になっている。時刻t10においてゲート電圧VGEが閾値電圧Vth1を超えると、それ以降はゲート電圧VGEの上昇に伴って電流Icが増加する。そして、時刻t12においてゲート電圧VGEが正側電圧Vpに達すると、電流Icは飽和電流Ic1に達する。その後、ゲート電圧VGEを低下させてゆくと、これに伴って電流Icが低下してゆく。そして、時刻t14にゲート電圧VGEがサプレス電圧Vsupになると、電流Icは飽和電流Ic2になる。
【0064】
図7に示す破線の電圧波形PV2は、時刻t12以降もゲート電圧VGEを正側電圧Vpに維持した場合の電圧波形であり、電流波形PI2はその場合の電流波形である。スイッチング素子Qの飽和電流は(VGE-Vth1)2に比例し、図中の電流Icは、スイッチング素子Qの飽和電流である。従って、ゲート電圧VGEを正側電圧Vpからサプレス電圧Vsupに下げることにより、「Ic1-Ic2」だけ、スイッチング素子Qの飽和電流を低減させることができる。これにより、スイッチング素子Qにおける消費電力を大幅に低減することができ、スイッチング素子Qの耐量を向上できる。従って、パワー半導体モジュールJ1が開放故障に至る前にその可能性を検知して防爆し、セル1の信頼性を高めることができる。
【0065】
図8は、還流ダイオードDの順方向電圧/電流特性の例を示す図である。
図8の横軸は順方向電圧VFであり、縦軸は順方向電流IFである。図中の低注入特性PL(第1の順方向電圧・電流特性)は、還流ダイオードDのゲート電圧VGdEを正側電圧Vpに設定した場合、すなわち低注入モードにおける特性である。また、高注入特性PH(第2の順方向電圧・電流特性)は、ゲート電圧VGdEを負側電圧Vmに設定した場合、すなわち高注入モードにおける特性である。同図から明らかなように、高注入特性PHを採用すると、低注入特性PLと比較して、同一の順方向電流IFに対する順方向電圧VFを低くすることができる。還流ダイオードDにおける消費電力は順方向電圧VFの二乗に比例する。従って、例えば還流ダイオードDにサージ電流が発生している場合、高注入特性PHによれば、低注入特性PLと比較して、還流ダイオードDにて発生する消費電力を大幅に低減できる。
【0066】
図9は、スイッチング素子Qの短絡発生時における各部の波形図の一例である。
図9において実線で示す電圧波形PV22,PV26は、スイッチング素子Qにて短絡が発生した場合における逆起電力Vetおよび出力電圧Voutの波形である。また、破線で示す電圧波形PV24,PV28は、スイッチング素子Qにて短絡が発生していない通常動作時における逆起電力Vetおよび出力電圧Voutの波形である。
【0067】
図9の時刻t20において、スイッチング素子Q(図5参照)に短絡が発生したとする。すると、電圧波形PV22に示すように、寄生インダクタンスLEにおける逆起電力Vetが負方向に立ち下がる。(逆起電力Vetの絶対値は大きくなる)。これにより、図5の積分回路54の出力電圧Voutは、電圧波形PV26に示すように、時間の経過とともに上昇する。この出力電圧Voutは、電流Icに比例する値になる。時刻t22において、出力電圧Voutが短絡判定電圧Vref1を超えると、比較信号CP1(図5参照)が“1”になる。すると、サプレス回路60によってスイッチング素子Qのゲート電圧VGEが、正側電圧Vpからサプレス電圧Vsupに変更される。これにより、スイッチング素子Qで消費されるエネルギーを瞬時に抑制することができ、スイッチング素子Qを高耐量化することが可能である。
【0068】
また、比較信号CP1が“1”になると、バイパス装置2に供給される駆動指令SBも時刻t22に“1”になる。図9においてバイパス装置2の動作モードMDは、バイパス装置2をハイインピーダンス状態にするオープンモードMDO、またはバイパス装置2を短絡状態にする短絡モードMDSのうち何れかである。そして、通常は(図示の例では時刻t20以降は)、動作モードMDはオープンモードMDOである。しかし、時刻t22から動作遅延時間Tdが経過した時刻t24において、バイパス装置2の動作モードMDは短絡モードMDSになる。
【0069】
サプレス回路60が動作を開始するタイミング(図示の例では時刻t22)は、バイパス装置2が短絡モードMDSになるタイミング(図示の例では時刻t24)よりも早いほうが望ましい。図5に示す構成においては、バイパス装置2がオンするための動作遅延時間Tdが存在するため、この要請は通常は満たされる。これにより、スイッチング素子Qで消費されるエネルギーを早いタイミングで抑制することができ、パワー半導体モジュールJ1が開放故障に至る前にパワー半導体モジュールJ1を防爆できる可能性を高めることができる。
【0070】
バイパス装置2によってセル1の短絡モードが保障された後は、任意のタイミング(図示の例では時刻t26)においてゲート電圧VGEを負側電圧Vmに下げることにより、スイッチング素子Qを遮断するとよい。すなわち、図5のゲート制御部64においては、スイッチング素子Qをサプレスする保持時間T11を「Td<T11」となるように設定するとよい。換言すれば、図示のように、各時刻の関係は、「t22<t24<t26」にするとよい。
【0071】
また、図中の電圧波形PV28に示すように、通常動作時においても、スイッチング素子Qのターンオン時に、寄生インダクタンスLEにおいて基準端子SSから見て負極性の逆起電力Vetが発生する。但し、電圧波形PV28に示すように、通常動作時においては逆起電力Vetの積分結果である出力電圧Voutが短絡判定電圧Vref1未満になる。すなわち、図9の電圧波形PV28の特性が得られるように積分回路54(図5参照)における各定数が設定されている。従って通常動作時においてサプレス回路60およびバイパス装置2が作動することはなく、セル1は通常通り運転を継続する。
【0072】
図10は、還流ダイオードDにサージ電流(過大な電流)が流れた場合の各部の波形図の一例である。
図10において実線で示す電圧波形PV32,PV36は、サージ電流が発生した場合における逆起電力Vetおよび出力電圧Voutの波形である。また、破線で示す電圧波形PV34,PV38は、サージ電流が発生していない通常動作時における逆起電力Vetおよび出力電圧Voutの波形である。
【0073】
図10の時刻t30において、還流ダイオードDにサージ電流が流れたとする。すると、電圧波形PV32に示すように、寄生インダクタンスLEにおける逆起電力Vetが正方向に立ち上がる。これにより、電圧波形PV36に示すように、出力電圧Voutは、時間の経過とともに低下する。上述したように、この出力電圧Voutは、電流Icに比例する値になる。
【0074】
時刻t32において出力電圧Voutがサージ判定電圧Vref2未満になると(Voutの絶対値がVref2の絶対値を超えると)、比較信号CP2(図5参照)が“1”になる。すると、サプレス回路60によって還流ダイオードDのゲート電圧VGdEは、保持時間T12だけ、閾値電圧Vth2(図示せず)未満である負側電圧Vmに保持される。これにより、この保持時間T12だけ、還流ダイオードDの順方向電圧/電流特性は、低注入特性PL(図8参照)から高注入特性PHに変化する。すなわち、還流ダイオードDで消費されるエネルギーは瞬時に抑制され、還流ダイオードDが瞬時に高耐量化する。
【0075】
上述したように、バイパス装置2の動作モードMDは通常は(図示の例では時刻t30以降は)、オープンモードMDOである。しかし、時刻t32から動作遅延時間Tdが経過した時刻t34において、バイパス装置2の動作モードMDは短絡モードMDSになる。サプレス回路60が還流ダイオードDのゲート電圧VGdEを負側電圧Vmに変更するタイミング(図示の例では時刻t32)は、バイパス装置2が短絡モードMDSになるタイミング(図示の例では時刻t34)よりも早いほうが望ましい。図5に示す構成においては、バイパス装置2がオンするための動作遅延時間Tdが存在するため、この要請は通常は満たされる。
【0076】
バイパス装置2によってセル1の短絡モードが保障された後は、任意のタイミング(図示の例では時刻t36)において還流ダイオードDのゲート電圧VGdEを正側電圧Vpに戻し、還流ダイオードDの特性を低注入特性PLに戻すとよい。すなわち、図5のゲート制御部64においては、ゲート電圧VGdEを負側電圧Vmに保持する保持時間T12を「Td<T12」となるように設定するとよい。換言すれば、図示のように、各時刻の関係は、「t32<t34<t36」にするとよい。
【0077】
また、図10における破線の電圧波形PV34,PV38に示すように、通常動作時においても、還流ダイオードDに電流が還流する際、寄生インダクタンスLEにおいて基準端子SSから見て正極性の逆起電力Vetが発生する。但し、通常動作時においては、逆起電力Vetの積分結果である出力電圧Voutはサージ判定電圧Vref2を超えたままになる。すなわち、図示の電圧波形PV38が実現するように積分回路54の各定数が設定されている。従って通常動作時においてサプレス回路60およびバイパス装置2が作動することはなく、セル1は通常通り運転を継続する。
【0078】
図3図5に示した例においては、双方向に電流を流すことができるバイパスサイリスタをバイパス装置2として適用する例を説明した。しかし、バイパス装置2として、バイパスサイリスタ以外の回路を適用してもよい。すなわち、ゲートドライブ回路3から供給された駆動指令SBに応じて、入出力端子T1,T2間をバイパスできる回路であれば、任意の回路を適用することができる。
【0079】
例えば、十分な電流を流せる場合には、バイパス装置2にはリレースイッチ等の機械式スイッチを適用してもよい。一般に、機械式スイッチは、バイパスサイリスタ等の半導体スイッチと比較して、動作遅延時間Td(図9図10参照)が長いため、故障したセル1が開放故障に至る前に短絡(バイパス)処理を行うことが困難になる場合がある。これに対して、本実施形態によれば、バイパス装置2の動作に先行して、サプレス回路60によってスイッチング素子Qまたは還流ダイオードDを高耐量化できる。このため、動作遅延時間Tdが大きいバイパス装置2を適用したとしても、セル1が開放故障に至る前にパワー半導体モジュールJ1を防爆して、短絡モードを保障することが可能である。従って、安価な機械式スイッチを用いた場合であっても、信頼性の高い電力変換装置100を構成でき、その低コスト化を図ることができる。
【0080】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。第2実施形態による電力変換装置100の全体構成およびセル1の構成は第1実施形態のもの(図1図4)と同様である。但し、以下説明するように、ゲートドライブ回路3の構成は第1実施形態のものとは異なる。
【0081】
図11は、第2実施形態におけるゲートドライブ回路3およびその周辺の回路図である。
本実施形態においては、パワー半導体モジュールJ1(図5参照)に代えて、パワー半導体モジュールJ7(半導体装置)が適用される。パワー半導体モジュールJ7においては、スイッチング素子Q7(スイッチング機能、半導体素子)と、還流ダイオードDとが逆並列に接続されている。スイッチング素子Q7は、互いに独立に制御可能な2つのゲート端子を備えている。それらをゲート端子Gs(第1のゲート端子)および補助ゲート端子Gc(第2のゲート端子)と呼ぶ。
【0082】
従って、パワー半導体モジュールJ7は、還流ダイオードDのゲート制御端子Gdと、スイッチング素子Q7のゲート端子Gsと、スイッチング素子Q7の補助ゲート端子Gcと、を備えている。そして、ゲートドライブ回路3はこれら3つの端子に印加する電圧を制御するために、第1実施形態の駆動回路40に代えて、駆動回路80を備えている。駆動回路80は、ゲート制御部88と、NMOSFET81,83,85と、PMOSFET82,84,86と、を備えている。
【0083】
ここでNMOSFET81およびPMOSFET82は、基準端子SSに対するスイッチング素子Q7のゲート端子Gsの電圧、すなわちゲート電圧VGsEを制御するものである。また、NMOSFET83およびPMOSFET84は、基準端子SSに対するスイッチング素子Q7の補助ゲート端子Gcの電圧、すなわち補助ゲート電圧VGcEを制御するものである。また、NMOSFET85およびPMOSFET86は、基準端子SSに対する還流ダイオードDのゲート制御端子Gdの電圧、すなわちゲート電圧VGdEを制御するものである。以下、NMOSFET81,83,85およびPMOSFET82,84,86を単に「FET81~86」と称することがある。
【0084】
NMOSFET81,83,85のソース端子には負側電圧Vmが印加され、PMOSFET82,84,86のソース端子には正側電圧Vpが印加されている。また、NMOSFET81,83,85のドレイン端子と、PMOSFET82,84,86のドレイン端子と、は各々接続され、各接続点がスイッチング素子Q7のゲート端子Gs、スイッチング素子Q7の補助ゲート端子Gc、および還流ダイオードDのゲート制御端子Gdに、それぞれ接続されている。また、各FET81~86のゲート端子はゲート制御部88に接続されている。
【0085】
また、本実施形態においては、第1実施形態のサプレス回路60(図5参照)に代えてサプレス回路90が設けられており、サプレス回路90は、ゲート制御部98を備えている。ゲート制御部98は、駆動回路80内のゲート制御部88に優先して、NMOSFET81,83,85のゲート電圧を制御する。
【0086】
上述した以外のゲートドライブ回路3の構成は、第1実施形態のものと同様である。そして、第1実施形態のゲート制御部48(図5参照)と同様に、本実施形態のゲート制御部88は、制御装置20からのゲート駆動指令信号に基づいて、PMOSFET82とNMOSFET81とを相補的にオン・オフ駆動する。これにより、ゲート制御部88は、スイッチング素子Q7のゲート端子Gsの基準端子SSに対するゲート電圧VGsEを制御し、スイッチング素子Q7の電流の導通状態をオンまたはオフに制御する。還流ダイオードDのゲート制御端子Gdの制御方法は、第1実施形態のものと同様である。
【0087】
図12は、スイッチング素子Q7のゲート電圧VGsE、補助ゲート電圧VGcE、および電流Icの波形の例を示す図である。
図12の横軸は時刻tであり、縦軸は電圧および電流である。図12のゲート電圧VGsEは、時刻t40以前には閾値電圧Vth1以下である。同様に、実線の電圧波形PV41において、補助ゲート電圧VGcEは、時刻t40以前には閾値電圧Vth1以下である。従って、実線で示す電流波形PI41において、時刻t40以前には電流Icは「0」になっている。
【0088】
時刻t40においてゲート電圧VGsEおよび補助ゲート電圧VGcEが閾値電圧Vth1を超えると、それ以降はゲート電圧VGsEおよび補助ゲート電圧VGcEの上昇に伴って電流Icが増加する。そして、時刻t42においてゲート電圧VGsEおよび補助ゲート電圧VGcEが正側電圧Vpに達すると、電流Icは飽和電流Ic41に達する。その後、補助ゲート電圧VGcEを正側電圧Vpに維持しつつ補助ゲート電圧VGcEを低下させてゆくと、電流Icが低下してゆく。そして、時刻t44に補助ゲート電圧VGcEが負側電圧Vmになると、電流Icは飽和電流Ic42になる。
【0089】
図12に示す破線の電圧波形PV42は、時刻t42以降も補助ゲート電圧VGcEを正側電圧Vpに維持した場合の電圧波形であり、電流波形PI42はその場合の電流波形である。従って、補助ゲート電圧VGcEを正側電圧Vpから負側電圧Vmに下げることにより、「Ic41-Ic42」だけ、スイッチング素子Q7の飽和電流を低減させることができる。これにより、スイッチング素子Q7における消費電力を大幅に低減することができ、スイッチング素子Q7の耐量を向上できる。従って、パワー半導体モジュールJ7が開放故障に至る前にその可能性を検知して防爆し、セル1の信頼性を高めることができる。
【0090】
図13は、スイッチング素子Q7の短絡発生時における各部の波形図の一例である。
図13において実線で示す電圧波形PV52,PV56は、スイッチング素子Qにて短絡が発生した場合における逆起電力Vetおよび出力電圧Voutの波形である。また、破線で示す電圧波形PV54,PV58は、スイッチング素子Qにて短絡が発生していない通常動作時における逆起電力Vetおよび出力電圧Voutの波形である。
【0091】
図13の時刻t50において、スイッチング素子Q7(図11参照)に短絡が発生したとする。すると、電圧波形PV52に示すように、寄生インダクタンスLEにおける逆起電力Vetが負方向に立ち下がる。これにより、図11の積分回路54の出力電圧Voutは、電圧波形PV56に示すように、時間の経過とともに上昇する。この出力電圧Voutは、電流Icに比例する値になる。時刻t52において、出力電圧Voutが短絡判定電圧Vref1を超えると、比較信号CP1(図11参照)が“1”になる。すると、時刻t52においては、サプレス回路90によってスイッチング素子Q7の補助ゲート端子Gcの電圧である補助ゲート電圧VGcEがVpからVmに低下する。
【0092】
このとき、スイッチング素子Q7の2つのゲート端子のうち、補助ゲート端子Gcがスイッチング素子Q7に供給していた電子電流がゼロになり、ゲート端子Gsのみがスイッチング素子Q7に電子電流を供給する状態になる。すると、図12に示したように、飽和電流をIc41からIc42に下げることができる。これにより、スイッチング素子Q7で消費されるエネルギーを瞬時に抑制して、スイッチング素子Q7が高耐量化される。また、比較信号CP1が“1”になると、バイパス装置2に供給される駆動指令SBも時刻t52に“1”になる。
【0093】
図13においてバイパス装置2の動作モードMDは、時刻t50以降はオープンモードMDOである。しかし、時刻t52から動作遅延時間Tdが経過した時刻t54において、バイパス装置2の動作モードMDは短絡モードMDSになる。バイパス装置2によってセル1の短絡モードが保障された後は、任意のタイミング(図示の例では時刻t56)においてゲート電圧VGsEを負側電圧Vmに下げることにより、スイッチング素子Qを遮断するとよい。すなわち、図11のゲート制御部98においては、スイッチング素子Q7をサプレスする保持時間T21を「Td<T21」となるように設定するとよい。換言すれば、図示のように、各時刻の関係は、「t52<t54<t56」にするとよい。なお、本実施形態において、還流ダイオードDのサージ電流に起因してセル1の開放故障を防止するための動作は、第1実施形態のもの(図10参照)と同様である。
【0094】
上述した第1実施形態においては、ゲート電圧VGE(図9参照)をサプレス電圧Vsupに設定してスイッチング素子Qの飽和電流を抑制した。しかし、スイッチング素子Qの飽和電流が(VGE-Vth1)2に比例するため、飽和電流Ic2(図7参照)はスイッチング素子Qの閾値電圧Vth1のばらつきの影響を受ける。これに対して、本実施形態によれば、閾値電圧Vth1のばらつきとは無関係に飽和電流Ic42(図12参照)を定めることができるため、一層堅牢な制御を実現することができる。
【0095】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上述した他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。第3実施形態による電力変換装置100の全体構成およびセル1の構成は第1実施形態のもの(図1図4)と同様である。但し、以下説明するように、ゲートドライブ回路3の周辺の構成は第1実施形態のものとは異なる。
【0096】
図14は、第3実施形態におけるゲートドライブ回路3およびその周辺の要部の回路図である。
第3実施形態においては、ゲートドライブ回路3が、制御装置20に対して駆動指令SBを供給する点が第1実施形態とは異なっている。また、制御装置20は、上述したようにコンピュータ980(図2参照)を備えている。図14において制御装置20の内部は、該コンピュータ980のアプリケーションプログラムによって実現される機能を示している。
【0097】
すなわち、本実施形態における制御装置20は、駆動指令集計部22と、セル電圧算出部24と、システム電圧設定部26と、を備えている。駆動指令集計部22は、各々のセル1(図1参照)から受信した駆動指令SBのうち、“1”である指令の数、すなわち異常電流を検知したセルの個数をアーム10毎に加算する。各アーム10に対する加算結果を、それぞれ異常セル数N1,N2,N3,N4,N5,N6(図15参照)とする。
【0098】
ここで、各アーム10におけるセルの直列数をNcellとし、直流系統130におけるシステム直流電圧をVsysとする。セル電圧算出部24は、各アーム10における正常セルの1個あたりの印加電圧V1,V2,V3,V4,V5,V6(図15参照)を、下式(5)に基づいて算出する。
【0099】
Vk=Vsys/(Ncell-Nk) …式(5)
(但し、k=1~6)
【0100】
図15は、各アーム10と、異常セル数Nk(k=1~6)と、印加電圧Vkと、の関係を示す図である。
図示のように、制御装置20は、異常セル数Nkおよび印加電圧Vkを、アーム10毎に求める。
【0101】
異常電流を検知したセル1においては、バイパス装置2(図14参照)によって入出力端子T1,T2がバイパスされ、当該セル1には有意な電圧が印加されない状態になる。このため、正常セル1個あたりの印加電圧Vkは高くなる。正常セル1個あたりの印加電圧Vkが、スイッチング素子Qや還流ダイオードDの定格耐圧を超えると、半導体素子が絶縁破壊を起こす等、正常セルの信頼性が低下する懸念が生じる。
【0102】
印加電圧Vk(k=1~6)のうち最大のものを最大印加電圧Vmaxと呼ぶ。システム電圧設定部26は、最大印加電圧Vmaxが所定の規定電圧Vcritを超えると、「Vmax≦Vcrit」が成立するように、システム直流電圧Vsysを低減させる。ここで、規定電圧Vcritは、スイッチング素子Qや還流ダイオードDの定格耐圧よりも低い値であることが好ましい。これにより、異常電流を検知したセル1が発生した場合であっても、正常セルの信頼性が低下することがないため、異常セルを正常セルに交換するメンテナンスのタイミングまでは、電力変換装置100を継続して運転できる。
【0103】
[実施形態の効果]
以上のように上述した実施形態によれば、電力変換装置100は、一対の入出力端子T1,T2の間に接続され、第1の方向(T1→T2)に流れる電流をスイッチングするスイッチング機能(Q,Q7)と、第1の方向(T1→T2)とは逆方向の第2の方向(T2→T1)を順方向とするダイオード機能(D)と、を有する半導体装置(J1,J7)と、スイッチング機能(Q,Q7)のオン/オフ状態を制御するとともに、ダイオード機能(D)に対して、第1の順方向電圧・電流特性(PL)、または、同一の順方向電流IFに対して第1の順方向電圧・電流特性(PL)よりも順方向電圧VFが低くなる第2の順方向電圧・電流特性(PH)のうち何れかを適用する駆動回路40,80と、第1の方向(T1→T2)に流れる電流が第1の過電流状態(Vout≧Vref1)であるか否かの第1の判定結果(CP1)と、第2の方向(T2→T1)に流れる電流が第2の過電流状態(Vref2≧Vout)であるか否かの第2の判定結果(CP2)と、を出力する過電流判定部(50)と、第1の判定結果(CP1)が肯定である場合に第1の方向(T1→T2)に流れる電流を減少させ、第2の判定結果(CP2)が肯定である場合にダイオード機能(D)に第2の順方向電圧・電流特性(PH)を適用する保護部(60,90)と、第1の判定結果(CP1)または第2の判定結果(CP2)が肯定になると、保護部(60,90)が動作した後に一対の入出力端子T1,T2の間をバイパスするバイパス装置2と、を備える。
【0104】
これにより、第1の方向(T1→T2)に流れる電流が第1の過電流状態(Vout≧Vref1)になった場合、および第2の方向(T2→T1)に流れる電流が第2の過電流状態(Vref2≧Vout)になった場合の何れにおいても、半導体装置(J1,J7)における消費電力を低減し、半導体装置(J1,J7)を適切に防爆できる。これにより、セル1および電力変換装置100の信頼性を高めることができる。
【0105】
また、スイッチング機能(Q)は、ゲート端子Gを有する電圧制御型の半導体素子(Q)によって実現され、保護部(60)は、第1の判定結果(CP1)が肯定である場合にゲート端子Gに印加するゲート電圧VGEを低下させることによって半導体素子(Q)に流れる電流を減少させると一層好ましい。これにより、第1の方向(T1→T2)に流れる電流が第1の過電流状態(Vout≧Vref1)になった場合に、ゲート電圧VGEを低下させることによって、半導体装置(J1,J7)における消費電力を低減させることができる。
【0106】
また、駆動回路40は、正側電圧Vpと負側電圧Vmとの間に順次直列接続されたPMOSFET(42)と、第1の抵抗器(45)と、第1のNMOSFET(41)と、を備え、第1の抵抗器(45)と第1のNMOSFET(41)との接続点46をゲート端子Gに接続したものであり、保護部(60)は、接続点46と負側電圧Vmとの間に順次直列接続された第2の抵抗器(66)と第2のNMOSFET(63)とを備え、PMOSFET(42)と第2のNMOSFET(63)とを所定時間だけ同時にオン状態にし、第1および第2の抵抗器(45,66)の各抵抗値に応じた電圧をゲート端子Gに印加することにより、ゲート電圧VGEを低下させると一層好ましい。これにより、簡単な回路でゲート電圧VGEを制御できる。
【0107】
また、第2実施形態のように、スイッチング機能(Q7)は、独立して制御可能な第1のゲート端子(Gs)と第2のゲート端子(Gc)とを有する電圧制御型の半導体素子(Q7)によって実現され、保護部(90)は、第1の判定結果(CP1)が肯定である場合に第2のゲート端子(Gc)を遮断することによって半導体素子(Q7)に流れる電流を減少させると一層好ましい。これにより、閾値電圧Vth1のばらつきによる影響を抑制して、一層堅牢なゲート電圧VGEの制御を実現することができる。
【0108】
また、過電流判定部(50)は、半導体装置(J1,J7)の低電位側に存在する寄生インダクタンスLEに生じる逆起電力Vetを時間積分した積分信号(Vout)を出力する積分信号出力部(54)と、積分信号(Vout)の極性と大きさとに基づいて第1および第2の判定結果(CP1,CP2)を出力する判定部(56,57)と、を備えると一層好ましい。これにより、半導体装置(J1,J7)に備わる寄生インダクタンスLEを用いて第1および第2の判定結果(CP1,CP2)を出力できるため、電力変換装置100のコストダウンを実現できる。
【0109】
また、バイパス装置2は、双方向に電流を流せるバイパスサイリスタまたは機械式スイッチを含むと一層好ましい。これにより、セル1を適切にバイパスできる。
【0110】
また、電力変換装置100は、直列接続された複数のセル1と、各々のセル1に接続された複数のバイパス装置2と、を各々が有する複数のアーム10と、複数のセル1を制御する制御装置20と、を備え、複数のセル1は、それぞれ、半導体装置(J1,J7)と、駆動回路40,80と、過電流判定部(50)と、保護部(60,90)と、を備えると一層好ましい。これにより、電力変換装置100をモジュラーマルチレベル変換器(MMC)として機能させることができる。
【0111】
また、制御装置20は、各々のアーム10におけるバイパス状態になったバイパス装置2の数に基づいて、各々のアーム10において正常なセル1の1個あたりの印加電圧Vkを算出するセル電圧算出部24と、印加電圧Vkが所定の規定電圧Vcrit以下になるように、各々のアーム10に印加されるシステム直流電圧Vsysを設定するシステム電圧設定部26と、を備えると一層好ましい。これにより、バイパス状態になったバイパス装置2の数に基づいて、適切なシステム直流電圧Vsysを設定できる。
【0112】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0113】
(1)上述の各実施形態において、電力変換装置100(図1参照)は、3相の交流系統120に対応するため、U相,V相,W相の合計3対のアーム10を備えるものであった。しかし、電力変換装置100は、単相の交流系統(図示せず)に対応する上下一対のアーム10を備えるものであってもよい。
【0114】
(2)また、上述の各実施形態において、「半導体装置」として、スイッチング素子と還流ダイオードとを一つのパッケージに含めたパワー半導体モジュールを適用した例を説明した。しかし、「半導体装置」はこれに限定されるものではなく、個別のパッケージに実装したスイッチング素子と還流ダイオードとを有する半導体装置として適用してもよい。
【0115】
(3)また、半導体装置を構成するスイッチング素子は、IGBTに限らずパワーMOSFETでもよい。また、半導体装置を構成する還流ダイオードは、制御端子によって順方向電圧を制御できる限り、pn接合ダイオード、ショットキーバリアダイオード、pn接合とショットキー接合を併用するダイオードなど、各種のダイオードを用いることができる。また、スイッチング素子や還流ダイオードを構成する半導体材料としては、シリコン(Si)を適用することができ、その他、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等のワイドバンドギャップ半導体を適用することもできる。
【0116】
(4)また、上述の各実施形態は、通常の(電流の導通方向が一方向である)スイッチング素子Q,Q7と、還流ダイオードDと、を組み合わせたものを適用した。換言すれば、上述の各実施形態においては、スイッチング素子Q,Q7によって「スイッチング機能」を実現し、還流ダイオードDによって「ダイオード機能」を実現するものであった。しかし、両者に代えて、逆導通IGBTを適用してもよい。換言すれば、この逆導通IGBTによって、「スイッチング機能」および「ダイオード機能」の双方を実現させてもよい。
【0117】
(5)また、上述の各実施形態におけるセル1は、パワー半導体モジュールJ1,J7とは別体のゲートドライブ回路3を備えていた。しかし、ゲートドライブ回路3はパワー半導体モジュールJ1,J7の内部に格納してもよい。
【0118】
(6)また、上述の各実施形態における還流ダイオードDは、ゲート制御端子Gd(図5参照)を備え、ここに印加されるゲート電圧VGdEによって高注入特性PHまたは低注入特性PL(図8参照)を選択するものであった。しかし、通常の(二端子の)ダイオードであっても、当該ダイオードの素子温度が高くなるほど、同一の順方向電流IFに対する順方向電圧VFが低くなる特徴を有する。そこで、この特徴を利用して高注入特性PHまたは低注入特性PLを選択するようにしてもよい。具体的には、上記各実施形態の還流ダイオードDに代えて通常の(二端子の)ダイオードを適用し、ヒーター等によって当該ダイオード加熱するか否かによって、高注入特性PHまたは低注入特性PLを選択するようにしてもよい。
【0119】
(7)上記実施形態における制御装置20のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した制御装置20の各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0120】
(8)制御装置20の上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0121】
(9)制御装置20において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1 セル
2 バイパス装置
10 アーム
20 制御装置
24 セル電圧算出部
26 システム電圧設定部
40,80 駆動回路
45 抵抗器(第1の抵抗器)
46 接続点
50 短絡・サージ検知回路(過電流判定部)
54 積分回路(積分信号出力部)
56,57 コンパレータ(判定部)
60,90 サプレス回路(保護部)
66 抵抗器(第2の抵抗器)
100 電力変換装置
D 還流ダイオード(ダイオード機能)
G ゲート端子
Gc 補助ゲート端子(第2のゲート端子)
Gs ゲート端子(第1のゲート端子)
IF 順方向電流
J1 パワー半導体モジュール(半導体装置)
J7 パワー半導体モジュール(半導体装置)
LE 寄生インダクタンス
PH 高注入特性(第2の順方向電圧・電流特性)
PL 低注入特性(第1の順方向電圧・電流特性)
VF 順方向電圧
Vk 印加電圧
Vm 負側電圧
Vp 正側電圧
CP1 比較信号(第1の判定結果)
CP2 比較信号(第2の判定結果)
VGE ゲート電圧
Vet 逆起電力
Q,Q7 スイッチング素子(スイッチング機能、半導体素子)
Vout 出力電圧(積分信号)
Vsys システム直流電圧
J1,J7 パワー半導体モジュール(半導体装置)
T1,T2 入出力端子
Vcrit 規定電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15