(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106027
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】透析装置及び透析システム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20230725BHJP
A61M 1/14 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
A61M1/16 117
A61M1/16 111
A61M1/14 100
A61M1/14 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007130
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新里 徹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真幹
(72)【発明者】
【氏名】内野 順司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
(72)【発明者】
【氏名】水野 亘
(72)【発明者】
【氏名】上田 満隆
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077HH02
4C077HH03
4C077HH10
4C077HH13
4C077HH15
4C077HH16
4C077HH21
4C077JJ07
4C077JJ20
4C077JJ24
4C077KK25
(57)【要約】
【課題】透析中に血圧低下が生じる細胞外液量を予め知るための技術を提供する。
【解決手段】透析装置は、透析中に透析患者から取得可能であり、透析中に細胞外液量と相関して変化する透析患者の体液量関連測定値を取得する第1取得部と、透析中に血圧低下に対する処置を実行したときに第1取得部で取得される体液量関連測定値から処置を実行したときの細胞外液量を算出する算出部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析中に透析患者から取得可能であり、透析中に細胞外液量と相関して変化する透析患者の体液量関連測定値を取得する第1取得部と、
透析中に血圧低下に対する処置を実行したときに前記第1取得部で取得される体液量関連測定値から処置を実行したときの細胞外液量を算出する算出部と、を備える、透析装置。
【請求項2】
過去の透析後の細胞外液量及びそのときの体重を記憶する記憶部をさらに備えており、
前記体液量関連測定値は、体重であり、
前記算出部は、前記記憶部に記憶される前記過去の透析後の細胞外液量及びそのときの体重と、前記処置を実行したときに前記第1取得部で取得される前記体液量関連測定値とに基づいて、前記処置を実行したときの細胞外液量を算出する、請求項1の透析装置。
【請求項3】
透析開始時の透析患者の体重を取得する第2取得部をさらに備えており、
前記体液量関連測定値は、透析による除水量であり、
前記算出部は、前記記憶部に記憶される前記過去の透析後の細胞外液量及びそのときの体重と、前記第2取得部で取得される透析開始時の透析患者の体重と、透析開始から透析中に血圧低下に対する処置を実行したときに前記第1取得部で取得された除水量から、前記処置を実行したときの細胞外液量を算出する、請求項1又は2に記載の透析装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記処置を実行したときの細胞外液量に基づいて前記体液量関連測定値の目標値をさらに算出し、
前記目標値は、透析中に血圧低下が発生することなく当該透析を終了可能な前記体液量関連測定値である、請求項1~4のいずれか一項に記載の透析装置。
【請求項5】
前記第1取得部で取得される前記透析関連測定値が前記目標値と一致したときにその旨を報知する報知部をさらに備える、請求項4に記載の透析装置。
【請求項6】
前記第1取得部で取得される前記透析関連測定値が前記目標値と一致したときに、血圧低下に対する処置を実行する作動部をさらに備える、請求項4又は5に記載の透析装置。
【請求項7】
複数の透析装置と、
ネットワークを介して前記複数の透析装置のそれぞれと通信可能に接続されるサーバと、を備えており、
前記透析装置は、前記サーバとの間でデータを送受信する透析側通信部を備えており、
前記サーバは、
複数の透析患者のそれぞれについて、当該透析患者に対応する、前記処置時を実行したときの細胞外液量を記憶する記憶部と、
前記透析側通信部とデータの送受信を行うサーバ側通信部と、を備えており、
前記目標細胞外液量は、透析中に血圧低下が生じることなく透析を終了可能な透析終了時の細胞外液量であり、
前記複数の透析装置のいずれかで透析患者に透析処理を行う場合に、
前記透析処理を行う透析装置の透析側通信部は、透析処理を行う透析患者を特定するID情報を前記サーバ側通信部に送信し、
前記サーバ側通信部は、前記サーバ側通信部で受信した前記ID情報に対応する前記目標細胞外液量を前記透析処理を行う透析装置の透析側通信部に送信する、透析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、透析装置及び透析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
透析患者は、腎機能が廃絶しているため、摂取した水はすべて体内に蓄積する。水が分布する体内の区画のうち、摂取した水が貯留するのは、細胞外区画である。細胞外区画に過剰に貯留した水は、透析によって除去される。透析によって細胞外区画に過剰に貯留した水を除去する際には、細胞外液量が正常腎機能の人の量よりもやや高い量になるまで水を除去する。非特許文献1に開示されるように、透析患者の細胞外液量が正常腎機能の人の細胞外液量よりもやや高い量であると推測されるまで水を除去した場合に、生命予後はもっとも良好となる。
【0003】
透析の際には、数時間で細胞外区画に貯留した水が正常腎機能の人の細胞外液量よりもやや多い量と思われる量に達するまで除去される。しかし、除水の目標量となる正常腎機能の人の細胞外液量よりもやや多い細胞外液量を決定することができないため、除水量が過剰となって透析中に血圧低下が生じることがある。透析中に血圧低下が生じた場合には、血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行う等の処置が取られる。しかし、非特許文献2に開示されるように、透析中の血圧低下は、心臓に損傷を与える。そして、透析中の血圧低下が繰り返されると、死亡のリスクが増大する。したがって、透析中の血圧低下が繰り返されないようにすることが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wizemann V, et al: The mortality risk of overhydration in haemodialysis patients. Nephrol Dial Transplant 24: 1574-1579, 2009.
【非特許文献2】Faucon A, et al: Extracellular fluid volume is associated with incident end-stage kidney disease and mortality in patients with chronic kidney disease. Kidney Int 96: 1020-1029, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
体内の細胞外液量を推定あるいは算出することは可能である。しかしながら、透析患者は健常人よりも心機能が低下していることが多く、自律神経機能が低下していることも多く、貧血が認められることも多い。そのため、細胞外液量が腎機能が正常な人の細胞外液量と等しくなるまで、透析中に除水を行おうとすると、細胞外液量が腎機能が正常な人の細胞外液量と等しくなる前に血圧が低下することが多い。そして、血圧が低下する細胞外液量は患者ごとに大きく異なる。そして、血圧が低下する細胞外液量を予め知ることはできなかった。
【0006】
本明細書は、透析中に血圧低下が生じる細胞外液量を予め知るための技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行ったときの患者の細胞外液量は、患者ごとには異なるが、同一患者ではほぼ同一であるという知見を得た。透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行うのは、患者の血圧が低下した場合である。したがって、この知見は、透析中に血圧が低下する際の細胞外液量は、患者ごとに異なるが、同一患者ではほぼ同一であることを意味している。かかる知見に基づけば、患者が透析中に血圧低下を生じたときの細胞外液量を記憶しておき、透析中の患者の細胞外液量がこの血圧低下を生じたときの細胞外液量にまで低下する直前に除水を終了することで、透析中の血圧低下を未然に回避することが可能となる。
【0008】
すなわち、本明細書に開示する透析装置は、透析中に透析患者から取得可能であり、透析中に細胞外液量と相関して変化する透析患者の体液量関連測定値を取得する第1取得部と、透析中に血圧低下に対して処置を実行したときに第1取得部で取得される体液量関連測定値から処置を実行したときの細胞外液量を算出する算出部と、を備える。
【0009】
上記の透析装置では、透析中に細胞外液量と相関して変化する透析患者の体液量関連測定値が取得され、透析中に透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行うという、血圧低下に対して処置を行った場合には、処置を行った時点における該体液量関連測定値から、その時点における細胞外液量が算出される。
【0010】
また、本明細書に開示する透析システムは、複数の透析装置と、ネットワークを介して複数の透析装置のそれぞれと通信可能に接続されるサーバと、を備えている。透析装置は、サーバとの間でデータを送受信する透析側通信部を備えている。サーバは、複数の透析患者のそれぞれについて、当該透析患者に対応する処置時細胞外液量を記憶する記憶部と、透析側通信部とデータの送受信を行うサーバ側通信部と、を備えている。処置時細胞外液量は、以前に透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行うという、血圧低下に対する処置を行った際の細胞外液量である。複数の透析装置のいずれかで透析患者に透析処理を行う場合に、透析処理を行う透析装置の透析側通信部は、透析処理を行う透析患者を特定するID情報をサーバ側通信部に送信し、サーバ側通信部は、サーバ側通信部で受信したID情報に対応する処置時細胞外液量を透析処理を行う透析装置の透析側通信部に送信する。
【0011】
上記の透析システムは、透析装置から透析患者のID情報をサーバに送信すると、サーバから処置時細胞外液量が送信される。このため、サーバに接続された透析装置であれば、どの透析装置で透析処理を受けても、透析患者毎に、細胞外液量が透析中に血圧低下が発生する可能性が高い細胞外液量(処置時細胞外液量)に至らないような除水量を設定できる。このため、サーバと通信可能な透析装置を設置する透析施設であれば、どの透析施設で透析処理を行っても透析中に血圧低下が生じることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る透析装置の概略構成を示すブロック図。
【
図2】処置時細胞外液量を算出する処理の一例を示すフローチャート。
【
図3】処置時細胞外液量を用いて目標除水量を算出する処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】実施例2に係る透析システムの概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。
【0014】
本明細書に開示する透析装置では、体液量関連測定値は、透析中の透析患者の体重であってもよい。透析中の体重は、透析中の除水量と同じ量だけ減少し、細胞外液量は、透析中の除水量と同じ量だけ減少する。すなわち、透析中の体重は、透析中の細胞外液量と同じ量だけ変化する。このため、血圧低下が生じ時点における体重と、透析患者が過去に測定した細胞外液量と、その時の体重とから、血圧低下が生じ時点における細胞外液量を算出することができる。
【0015】
本明細書に開示する透析装置は、過去の透析後の細胞外液量及びそのときの体重を記憶する記憶部をさらに備えていてもよい。体液量関連測定値は、体重であってもよい。算出部は、記憶部に記憶される過去の透析後の細胞外液量及びそのときの体重と、処置を実行したときに第1取得部で取得される体液量関連測定値とに基づいて、処置を実行したときの細胞外液量を算出してもよい。過去の透析後の細胞外液量は、測定や算出によって容易に取得可能であり、体重は容易に取得可能である。このため、容易に取得可能な値を用いて、処置を実行したときの細胞外液を算出することができる。
【0016】
本明細書に開示する透析装置では、透析開始時の透析患者の体重を取得する第2取得部をさらに備えていてもよい。体液量関連測定値は、透析による除水量であってもよい。算出部は、第2取得部で取得される透析開始時の透析患者の体重と、透析開始時から血圧低下に対して処置を実行したときまでの第1取得部で取得される除水量とから、処置時を実行したときの細胞外液量を算出してもよい。除水量は、容易に取得可能である。このため、容易に取得可能な値を用いて、処置を実行したときの細胞外液を算出することができる。
【0017】
本明細書に開示する透析装置では、算出部は、処置を実行したときの細胞外液量に基づいて目標除水量をさらに算出してもよい。目標除水量は、透析中に血圧低下が発生することなく当該透析を終了可能な除水量であってもよい。このような構成によると、目標除水量に従い除水することによって、血圧低下が発生しない無症状透析を施行することができる。
【0018】
本明細書に開示する透析装置は、第1取得部で取得される透析関連測定値が目標値と一致したときにその旨を報知する報知部をさらに備えていてもよい。このような構成によると、作業者は、血圧低下が発生する前に、透析中の透析患者の細胞外液量が、血圧低下を引き起こす可能性が高い状態に近づいている状態(すなわち、注意レベル)に達したことを知得することができる。
【0019】
本明細書に開示する透析装置は、第1取得部で取得される透析関連測定値が目標値と一致したときに、血圧低下に対する処置を実行する作動部をさらに備えていてもよい。このような構成によると、血圧低下が発生する前に、作動部により血圧低下に対する処置が実行される。このため、血圧低下を引き起こす可能性が高い状態に近づいている状態(すなわち、注意レベル)に達したときに、作業者が作業することなく、透析患者の血圧低下を回避することができる。
【実施例0020】
(実施例1)
図面を参照して、本実施例に係る透析装置10について説明する。透析装置10は、透析施設に設置される。
図1に示すように、透析装置10は、透析処理部12と、入力部14と、除水量測定部16と、演算部18と、報知部26を備えている。透析処理部12は、ダイヤライザにより透析患者に対して血液透析処理を実行するための構成を有している。なお、透析処理部12は、公知の透析装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
【0021】
入力部14は、例えば、タッチパネルであり、透析装置10を操作する作業者(例えば、透析医療スタッフ)からの情報の入力を受け付ける。作業者が入力する情報とは、例えば、血圧低下を回避するための処置が行われたことを示す情報、過去に測定した細胞外液量と体重、及び、透析開始時の体重である。
【0022】
除水量測定部16は、透析開始時からの透析患者の除水量をモニターする。除水量測定部16は、測定した透析患者の除水量を演算部18に出力する。
【0023】
演算部18は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。演算部18は、記憶部20及び算出部24を備えている。
【0024】
記憶部20は、除水量測定部16から取得した除水量、入力部14を介して入力された各種の測定値及び算出部24で算出された各種の値を記憶する。入力部14を介して入力される各種の測定値は、例えば、過去に測定した細胞外液量とその時の体重、等である。算出部24で算出される各種の値は、例えば、血圧低下に対する処置を行った時の体重(後に詳述)及び処置時の細胞外液量(後に詳述)である。
【0025】
また、演算部18は、コンピュータがプログラムを実行することで、
図1に示す算出部24として機能する。例えば、算出部24は、血圧低下に対応するために、透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行うという処置(以下、単に「血圧低下に対する処置」ともいう)を行った時点の細胞外液量を算出する。具体的には、算出部24は、除水量測定部16から取得した、透析開始時から血圧低下に対する処置を行った時点までの間の除水量と、透析開始時における体重とから、血圧低下に対する処置を行った時点における体重を算出する。さらに、算出部24は、この血圧低下に対する処置を行った時点における体重と、記憶部20に記憶されている、過去に測定した細胞外液量とその時の体重から、血圧低下に対する処置を行ったときの細胞外液量を算出する。血圧低下に対する処置を行ったときの細胞外液量は、処置時細胞外液量として記憶部20に記憶される。
【0026】
報知部26は、透析中の透析患者の細胞外液量が注意レベル(後述)に達したことを作業者(例えば、透析医療スタッフ)に報知する。本実施例では、報知部26は、ランプであり、透析中の透析患者の細胞外液量が注意レベルに達したときに点灯する。報知部26は、作業者が視認し易い位置に設置されており、例えば、透析装置10の上部に設置されている。なお、報知部26は、透析中の透析患者の細胞外液量が注意レベルに達したことを作業者が知得できる構成であればよく、透析中の透析患者の細胞外液量が注意レベルに達したときに、ランプが点滅するように構成されていてもよいし、音声(例えば、ブザー等)によって報知するように構成されていてもよい。
【0027】
注意レベルとは、血圧低下を引き起こす可能性が高い状態に近づいている状態である。すなわち、注意レベルとなる細胞外液量は、処置時細胞外液量より僅かに多い量である。例えば、処置時細胞外液量+0.5%を、注意レベルとなる細胞外液量とすることができる。透析中の細胞外液量が注意レベルとなる細胞外液量と一致すると、まだ血圧低下は生じないが、血圧低下が生じる細胞外液量に近い量まで細胞外液量が減少した状態となる。透析中の細胞外液量が注意レベルとなる細胞外液量と一致したときにその旨を報知すれば、適切なタイミングで血圧低下の発生を回避するための処置を施すことができる。
【0028】
ここで、処置時細胞外液量について説明する。透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行うという処置を行うのは、透析中に血圧が低下した時である。したがって、処置時細胞外液量とは、血圧低下時の細胞外液量に等しい。任意の透析において、処理時細胞外液量を特定し、その後の透析では、細胞外液量が、処置時細胞外液量以下にならないように除水量を設定する。これにより、透析中の血圧低下を回避することができる。
【0029】
次に、透析装置10が処置時細胞外液量を算出する処理について説明する。
図2に示すように、まず、演算部18は、同一の透析患者における直近の過去の透析終了時の細胞外液量と透析終了時の体重をそれぞれ取得する(S10)。透析終了時細胞外液量は、測定又は算出によって取得可能である。測定による取得方法としては、例えば、従来公知のインピーダンス法等を用いて外部装置(図示省略)等で測定することができる。また、算出による取得方法としては、国際公開第2019/138917号公報等に開示されている細胞外液量の算出方法を用いることができる。透析終了時細胞外液量及び体重は、作業者が入力部14から入力し、入力部14から演算部18に入力される。次に、演算部18は、透析開始時の体重を取得する(S12)。
【0030】
次いで、演算部18は、除水量測定部16から透析中の透析患者の除水量を取得する(S14)。次いで、演算部18は、入力部14から血圧低下を回避するための処置が行われたことを示す情報が入力されたか否かを判断する(S16)。血圧低下を回避するための処置が行われたことを示す情報が入力されていない場合(ステップS16でNO)、血圧低下に対する処理が実行されないため、演算部18は、処置時細胞外液量を算出することなく透析を終了する。
【0031】
血圧低下を回避するための処置が行われたことを示す情報が入力された場合(ステップS16でYES)、算出部24は、ステップS14で取得した透析開始時からの処置時までの除水量と、ステップS12で取得した透析開始時の体重とから、血圧低下に対する処置が行われた時点の体重を算出する(S18)。
【0032】
次いで、算出部24は、処置が行われた時点の細胞外液量(すなわち、処置時細胞外液量)を算出する。算出部24は、処理時細胞外液量を、以下のように算出する。記憶部20が記憶していた過去の透析終了時細胞外液量をECV0とし、そのときの体重をBW0とする。また、ステップS18で算出した処置時の体重をBWとし、処置時細胞外液量をECVとする。飲水や除水で変化するのは、体内の各区画に分布する水のうち、細胞外液である。したがって、以下の数1で表す式が成り立つ。
【0033】
【0034】
上記の数1で表す式から、処置時の細胞外液量を導く以下の数2で表す式が得られる。
【0035】
【0036】
上述したように、透析終了時の細胞外液量は、測定又は算出によって、実測値を取得可能である。また、透析患者の体重は容易に測定可能である。したがって、過去の透析終了時の細胞外液量ECV0も、過去の透析終了時の体重BW0も、容易に取得可能である。さらに、血圧低下に対する処置の際の体重も容易に算出できる。すなわち、任意の透析の開始時の体重も、当該透析の開始時から透析中の任意の時点までの除水量も容易に取得可能である。ゆえに、任意の透析の開始時の体重BWsと当該透析の開始時から処置時までの除水量から、血圧低下に対する処置の際の体重が容易に算出できる。すなわち、数2により、血圧低下に対する処置の際の細胞外液量である処置時細胞外液量は容易に算出可能である。算出部24は、算出された処置時細胞外液量を記憶部20に記憶させる。
【0037】
次に、処置時細胞外液量を用いて目標除水量を算出する方法について説明する。透析中に一旦、血圧低下が起こり、あるいは血圧低下が起こる直前の状態に至り、これに対して、透析医療スタッフが血流速度を低下させたり、除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液を行うという処置を行った場合には、記憶部20には、処置時細胞外液量が記憶されている。そこで、その後の透析では、処置時細胞外液量に基づいて目標除水量を算出し、算出された目標除水量だけ透析の際に除水する。
【0038】
図3に示すように、まず、演算部18は、同一の透析患者における直近の過去の透析終了時の細胞外液量と透析終了時の体重をそれぞれ取得する(S30)。次に、演算部18は、透析開始時の体重を取得する(S32)。なお、ステップS30及びステップS32の処理は、上記のステップS10及びステップS12の処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0039】
次いで、算出部24は、ステップS30で取得した直近の過去の透析終了時の細胞外液量と透析終了時の体重と、ステップS32で取得した透析開始時の体重とから、透析開始時の細胞外液量を算出する(S34)。なお、透析開始時の細胞外液量は、上記のステップS20の処置時細胞外液量と同様の方法で算出することができる。すなわち、上記の数2で表す式において、処置時細胞外液量ECVを透析開始時の細胞外液量に置き換え、処置時の体重BWをステップS32で取得した透析開始時の体重に置き換える。すると、数2で表す式を用いて、透析開始時の細胞外液量が算出される。
【0040】
次いで、演算部18は、記憶部20に記憶される処置時細胞外液量を取得する(S36)。さらに、算出部24は、ステップS34で算出した透析開始時の細胞外液量と、ステップS36で取得した処置時細胞外液量とから、透析中の目標除水量を算出する(S38)。算出部24は、処置時細胞外液量よりも所定量だけ多い量を算出し、透析開始時の細胞外液量から、処置時細胞外液量よりも所定量だけ多い量を差し引いた量を、目標除水量とする。これにより、血圧低下が発生しない無症状透析を施行することができる。本実施例では、所定量は、処置時細胞外液量の5%である。なお、所定量は、血圧低下が発生しない無症状透析を施行できるように目標除水量を設定できる量であればよく、例えば、処置時細胞外液量の5%より多くてもよいし、処置時細胞外液量の5%より少なくてもよい。
【0041】
透析の際には、除水量測定部16で除水量を監視しながら除水する。透析による除水量は、透析開始時の体重と除水量測定部16で取得される除水量から算出される。このとき、演算部18は、透析による除水量がステップS36で算出された目標除水量と一致したときに、報知部26にその旨を報知させる。例えば、報知部26がランプである場合には、演算部18は、報知部26のランプを点灯させる。これにより、作業者は、透析中の透析患者の細胞外液量が、血圧低下を引き起こす可能性が高い状態に近づいている状態(すなわち、注意レベル)に達したことを知得することができる。
【0042】
作業者は、報知部28により細胞外液量が注意レベルに達したことを知得すると、透析患者に対して血圧低下を回避するための処置を施す。例えば、透析による除水を停止させたり、透析による除水速度を低下させたり、補水したりする。あるいは、透析による除水速度は変更せず、透析患者の足を上げることによって血圧低下を回避する。血圧低下を回避するための処置は、作業者が透析患者の状態に応じて適切な処置を選択することができる。なお、本実施例では、除水量測定部16で透析中の除水量を監視していたが、このような構成に限定されない。透析中に細胞外液量と相関して変化する値であれば、除水量の代わりに用いることができる。例えば、透析患者の体重を監視してもよい。また、公知のインピーダンス法等を用いて、細胞外液量を直接監視してもよい。
【0043】
なお、本実施例では、細胞外液量が注意レベルに達すると、作業者が透析患者に対して血圧低下を回避するための処置を施したが、このような構成に限定されない。例えば、細胞外液量が注意レベルに達したときに、透析処理部12が血圧低下を回避するための処置を実行してもよい。具体的には、細胞外液量が注意レベルに達したときに、透析処理部12が備える血液ポンプ(図示省略)を作動して、血液流量を予め設定した値まで低下させてもよいし、除水速度を予め設定した速度まで低下させてもよい。
【0044】
(実施例2)
上記の実施例1では、算出された処置時細胞外液量は、記憶部20に記憶されたが、このような構成に限定されない。例えば、処置時細胞外液量は、透析装置10が設置される透析施設の外部で管理されてもよい。
【0045】
図4は、複数の透析装置10とサーバ50を備える透析システム100を示している。
図4では、図面を簡略化するために、2つの透析装置10のみを図示している。
【0046】
図4に示すように、透析装置10は、透析処理部12と、入力部14と、除水量測定部16と、通信部30と、演算部18を備えている。なお、透析処理部12、入力部14、除水量測定部16及び演算部18は、実施例1の透析装置10の透析処理部12、入力部14、除水量測定部16及び演算部18と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
通信部30は、インターネット60を介してサーバ50の通信部54と通信することができる。本実施例では、処置時細胞外液量は、上記の実施例1と同様に、演算部18で算出される。通信部30は、演算部18で算出された処置時細胞外液量と共に、その処置時細胞外液量に対応する透析患者のID情報を処置時細胞外液量に紐付けてサーバ50に送信する。処置時細胞外液量は、その透析患者のID情報を紐付けてサーバ50(詳細には、サーバ50の記憶部52)に記憶される。サーバ50に処置時細胞外液量が記憶されている透析患者が次回以降に血液透析を行う際には、通信部30は、サーバ50の通信部54にその透析患者のID情報を送信し、その後、通信部54から送信されたその透析患者のID情報を受信する。
【0048】
サーバ50は、透析装置10の製造元によって提供されるサーバであり、CPU及び記憶装置を備えるコンピュータを用いて構成されている。サーバ50は、記憶部52と、通信部54を備えている。記憶部52は、透析装置10の通信部30から送信された処置時細胞外液量を記憶している。記憶部52は、透析患者を識別するID情報に紐づけて対応する処置時細胞外液量を記憶している。通信部54は、複数の透析装置10の通信部30とそれぞれ通信することができる。通信部54は、透析装置10の通信部30から送信された透析患者のID情報を受信する。また、通信部54は、透析患者のID情報に対応する処置時細胞外液量を、そのID情報を送信した通信部30に送信する。
【0049】
透析装置10で血液透析を行う際には、まず、演算部18は、透析装置10で血液透析を行う透析患者のID情報を、通信部30を介してサーバ50の通信部54に送信する。通信部54が通信部30からID情報を受信すると、サーバ50は、記憶部52に記憶される基準値から、ID情報に対応する処置時細胞外液量を特定する。そして、サーバ50は、通信部54を介して特定した処置時細胞外液量を、その処置時細胞外液量に対応するID情報を送信した通信部30に送信する。通信部30は、受信した処置時細胞外液量を演算部18に出力する。すると、演算部18は、取得した処置時細胞外液量を用いて実施例1の
図2の処理を実行する。
【0050】
本実施例では、処置時細胞外液量は、その処置時細胞外液量に対応する透析患者のID情報に紐づけて、サーバ50の記憶部52に記憶されている。これにより、サーバ50と通信可能な透析装置10であれば、どの透析施設に設置される透析装置10であっても処置時細胞外液量を取得することができる。このため、透析患者は、サーバ50と通信可能な透析装置10を設置する透析施設であれば、どの透析施設で透析処理を行っても透析中に血圧低下が生じることを回避することができる。
【0051】
実施例で説明した透析装置10及び透析システム100に関する留意点を述べる。実施例の除水量測定部16は、「第1取得部」の一例であり、入力部14は、「第2取得部」の一例であり、透析処理部12は、「作動部」の一例であり、通信部30は、「透析側通信部」の一例であり、通信部54は、「サーバ側通信部」の一例である。
【0052】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。