(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106039
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】自動車のドアホールシール
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
B60J5/00 501E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007147
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】江盛 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 百合
(57)【要約】
【課題】ハーネス抜き出し時にスリット端部にかかる応力を低減し破れを防止しうるドアホールシールを提供する。
【解決手段】自動車ドアのインナーパネル1とドアトリム2との間に設けられ、その一部に、ハーネス100を車外側101から車内側102に抜き出すためのスリット機構31を設けたドアホールシール30で、スリット機構31は、水平方向に延びるスリット33,35と、スリット33,35の左右両端に形成された左右切り込み36~39を備え、左右切り込み36~39はそれぞれスリット33,35の端から外方に向けて膨出するように湾曲するとともに、左右切り込み36~39の先端36a~39aはスリット33,35の上方又は下方においてそれぞれ相対向する方向に向いて、左右切り込み36~39の先端間の距離Sを、スリット33,35の長さL以下にした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ドアのインナーパネルとドアトリムとの間に設けられ、その一部に、ハーネスを車外側から車内側あるいは車内側から車外側に抜き出すためのスリット機構を設けたドアホールシールであって、
前記スリット機構は、水平方向に延びるスリットと、前記スリットの左右両端に形成された左右切り込みを備え、
前記左右切り込みはそれぞれ前記スリットの端から外方に向けて膨出するように湾曲するとともに、前記左右切り込みの先端は前記スリットの上方又は下方においてそれぞれ相対向する方向に向いて、前記左右切り込みの先端間の距離を、前記スリットの長さ以下にしたことを特徴とする自動車のドアホールシール。
【請求項2】
前記左右切り込みを、前記スリットの上方及び下方の両方に形成したことを特徴とする請求項1に記載の自動車のドアホールシール。
【請求項3】
前記左右切り込みは、円弧状に湾曲し、半円形状又は半楕円形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のドアホールシール。
【請求項4】
前記左右切り込みの先端の前記スリットからの高さを前記ハーネスの直径よりも大きくしたことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の自動車のドアホールシール。
【請求項5】
前記左右切り込みの先端の前記スリットからの高さを前記スリットの長さよりも短くしたことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の自動車のドアホールシール。
【請求項6】
前記左右切り込みの先端は、前記スリットの端からの垂線よりも前記左右切り込みの先端が近接する内側方向に位置することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一つに記載の自動車のドアホールシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ドアのインナーパネルとドアトリムとの間に、防水性を確保するために設けられ、その一部に、例えば、ウインドレギュレータ用等のワイヤーハーネスを通すスリット機構を有する自動車のドアホールシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、一般に、自動車ドアのインナーパネル1と、その車内側に設けられたドアトリム2との間には、良好な防水性を確保するためにドアホールシール10,20が設けられている。このドアホールシール10,20には、
図6乃至
図8に示すように、例えば、ウインドレギュレータ4用等のハーネス100を車外側101から車内側102へ抜き出すためのスリット機構11,21が設けられたものがある(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。
【0003】
図6に示したドアホールシール10のスリット機構11は、メインシート12に形成された水平方向に延びる直線状の第一スリット13と、メインシート12の車外側に水密に重ねて取付けられたサブシート14に形成された同じく水平方向に延びる直線状の第二スリット15から構成されてなる。また、第一スリット13及び第二スリット15の各両端部には丸穴形状のスリット止め部16,17が形成されている。
また、
図7に示したドアホールシール10のスリット機構11は、第一スリット13を上側に開口する略U字状に形成すると共に、第二スリット15を下側に開口する略逆U字状に形成したものである。
【0004】
また、
図8に示したドアホールシール20のスリット機構21は、メインシート22に形成された第一スリット23とその第一スリット23に形成された丸孔24と、メインシート22の車外側に重ねられ溶着(符号SLは溶着ラインを示す)により取付けられたサブシート25に形成された第二スリット26から構成されてなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4146449号公報
【特許文献2】特許第6349342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来例で示したスリット機構11,21では、第一スリット13,23からワイヤーハーネス100を例えば、車外側から車内側に抜き出す場合、特にハーネス100の径が大きい場合や複数のハーネス100を抜き出す必要がある場合には、第一スリット13,23の端部に応力が集中して破れやすくなり、水漏れが発生する懸念があった。
これは、第一スリット13,23の端部に切り裂け防止用にスリット止め部16,17や丸孔24が形成されている場合であっても、また、
図6のように直線状の第一スリット13,第二スリット15を、
図7のように略U字状,略逆U字状に形成したとしても不十分で過度の力が加わると破れが発生するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、ハーネス抜き出し時にスリット端部にかかる応力を低減し破れを防止しうるドアホールシールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の自動車のドアホールシールは、自動車ドアのインナーパネル(1)とドアトリム(2)との間に設けられ、その一部に、ハーネス(100)を車外側(101)から車内側(102)あるいは車内側(102)から車外側(101)に抜き出すためのスリット機構(31)を設けたドアホールシール(30)であって、
前記スリット機構(31)は、水平方向に延びるスリット(33,35)と、前記スリット(33,35)の左右両端に形成された左右切り込み(36~39)を備え、
前記左右切り込み(36~39)はそれぞれ前記スリット(33,35)の端から外方に向けて膨出するように湾曲するとともに、前記左右切り込み(36~39)の先端(36a~39a)は前記スリット(33,35)の上方又は下方においてそれぞれ相対向する方向に向いて、前記左右切り込み(36~39)の先端(36a~39a)間の距離(S)を、前記スリット(33,35)の長さ(L)以下にしたことを特徴とする。
ここで、「上下」とは、車両が水平にある状態での方向を示す。
また、スリット(33,35)の延びる「水平方向」とは、ドアホールシールの面に対して直線的に延びることを意見するものであり、ドアホールシールの上下に対して左右方向に延びるものに限定されるものではなく斜め方向に延びるものも含まれる。
【0009】
また本発明は、前記左右切り込み(36~39)を、前記スリット(33,35)の上方及び下方の両方に形成したことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記左右切り込み(36~39)は、円弧状に湾曲し、半円形状又は半楕円形状であることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記左右切り込み(36~39)の先端(36a~39a)の前記スリット(33,35)からの高さ(T)を前記ハーネス(100)の直径(D)よりも大きくしたことを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記左右切り込み(36~39)の先端(36a~39a)の前記スリット(33,35)からの高さ(T)を前記スリット(33,35)の長さ(L)よりも短くしたことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記左右切り込み(36~39)の先端(36a~39a)は、前記スリット(33,35)の端からの垂線(PL)よりも前記左右切り込み(36~39)の先端(36a~39a)が近接する内側方向に位置することを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自動車ドアのインナーパネルとドアトリムとの間に設けられたドアホールシールにおいて、ハーネスを車外側から車内側あるいは車内側から車外側に抜き出すためのスリット機構は、水平方向に延びるスリットと、前記スリットの左右両端に形成された左右切り込みを備え、左右切り込みはそれぞれスリットの端から外方に向けて膨出するように湾曲するとともにそれら先端はスリットの上方又は下方においてそれぞれ相対向する方向に向いて、左右切り込みの先端間の距離をスリットの長さ以下にしたものであるので、ハーネスを抜き出すと左右切り込みの先端間が強制的に折れてスリットの両端にかかる応力が低減される。
これにより、ドアホールシールに破れが発生することが防止され、ドアホールシールから水漏れが発生する懸念もなくなった。
【0016】
左右切り込みはスリットの上方及び下方のうちいずれか一方に形成しても両方に形成してもよい。
また、左右切り込みは円弧状に湾曲し、半円形状又は半楕円形状であることが好ましい。
また、左右切り込みの先端のスリットからの高さを、ハーネスの直径よりも大きくし、スリットの長さよりも短くすることがより破れを防止する上で有効である。
また、左右切り込みの先端の位置を、スリットの端からの垂線よりも左右切り込みの先端が近接する内側方向に位置させることで、スリットの両端にかかる応力が低減される。
【0017】
本発明のように、スリットの両端に形成される左右切り込みの形状を厳密に特定してハーネス抜き出し時の応力を効果的に低減してドアホールシールの破れなどの損傷を防止するようにした技術は従来、存在するものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動車のドアホールシールを示す要部側面図である。
【
図2】
図1に示すドアホールシールのスリット機構を示す拡大側面図である。
【
図3】
図2のスリット機構においてスリットからハーネスが抜き出されるときの折れを示す斜視図である。
【
図4】
図1に示すドアホールシールのスリット機構の別態様を示す拡大側面図である。
【
図5】ドアホールシールを備えた自動車ドアの概略縦断面図である。
【
図6】従来例に係る自動車のドアホールシールを示す要部側面図である。
【
図7】従来例に係る別の自動車のドアホールシールを示す要部側面図である。
【
図8】従来例に係るさらに別の自動車のドアホールシールを示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至
図3及び
図5を参照して、本発明の実施形態に係る自動車のドアホールシール30について説明する。なお、従来例と同じ部分には同じ符号を付した。
この自動車のドアホールシール30は、
図5に示したように、自動車ドアのインナーパネル1とドアトリム2との間に設けられ、その上端部に、ドアガラス5を昇降させるためのウインドレギュレータ4用のハーネス(ワイヤーハーネス)100を車外側101から車内側102に抜き出すためのスリット機構31を形成したものである。ドアガラス5はインナーパネル1とインナーパネル1の車外側101に設けられたアウターパネル3の間に格納される。
【0020】
そして、スリット機構31は、
図1に示すように、メインシート32に形成された第一スリット33とその第一スリット33の左右両端に形成された左右切り込み36,37と、メインシート32の車外側に水密に重ねられたサブシート34に形成された第二スリット35とその第二スリット35の左右両端に形成された左右切り込み38,39から構成されてなる。
【0021】
メインシート32は、比重が0.05~0.4であり且つ軟らかい素材からなる遮音性シートで、ここではEPDM発泡体からなる(「NIシート」と呼ばれる場合もある)。
サブシート34は、ポリエチレン(PE)フィルムからなり、メインシート32に対して部分的に接着剤又は溶着により取付けられている。
【0022】
スリット機構31を成す第一スリット33は、
図1及び
図2に示すように、メインシート32に対して水平方向に直線状に延びている。ここで、スリット33の延びる「水平方向」とは、メインシート32の面に対して直線的に延びることを意見するものであり、メインシート32の上下に対して左右方向に延びるものに限定されるものではなく斜め方向に延びるものも含まれる。
第一スリット33の左端に形成された左切り込み36は、第一スリット33の左端から下方に向けて円弧状に、より具体的には半円形状に湾曲している。つまり、第一スリット33の左端から外方、すなわち左側かつ下方に向けて膨出し左切り込み36の先端36aが右側に向くように湾曲している。
第一スリット33の右端に形成された右切り込み37は、第一スリット33の右端から下方に向けて半円形状に湾曲している。つまり、第一スリット33の右端から外方、すなわち右側かつ下方に向けて膨出し右切り込み37の先端37aが左側に向くように湾曲している。
【0023】
そして、左右切り込み36,37の先端36a,37a間の距離Sを、第一スリット33の長さL以下にしている。
ここでは、左切り込み36の先端36aは、第一スリット33の左端からの垂線PLよりも左右切り込み36,37の先端36a,37aが近接する内側方向、すなわち右側に位置し、右切り込み37の先端37aは、第一スリット33の右端からの垂線PLよりも左右切り込み36,37の先端36a,37aが近接する内側方向、すなわち左側に位置するようにして、左右切り込み36,37の先端36a,37a間の距離Sを、第一スリット33の長さLよりも小さくしている。
【0024】
また左右切り込み36,37の先端36a,37aの第一スリット33からの高さTは、ハーネス100の直径Dよりも大きく、しかも第一スリット33の長さLよりも短くしている。
【0025】
次にスリット機構31を成す第二スリット35も、
図1に示すように、第一スリット33と同様にサブシート34に対して水平方向に直線状に延びている。ここで、スリット35の延びる「水平方向」とは、サブシート34の面に対して直線的に延びることを意見するものであり、サブシート34の上下に対して左右方向に延びるものに限定されるものではなく斜め方向に延びるものも含まれる。
第二スリット35の左右端に形成された左右切り込み38,39も、左右切り込み36,37と同様に、第二スリット35の左右端から下方に向けて半円形状に湾曲している。
また、左右切り込み38,39の先端38a,39a間の距離も、第二スリット35の長さよりも短く、左右切り込み38,39の先端38a,39aの第二スリット35からの高さは、ハーネス100の直径Dよりも大きく、しかも第二スリット35の長さよりも短くしている。
【0026】
以上のように構成されたドアホールシール30により、ハーネス100を車外側101から車内側102に抜き出すと、スリット機構31は、
図3に示すように、左右切り込み36,37の先端36a,37a間が強制的に折れて第一スリット33の両端にかかる応力が低減される。
図3では「折れ」の部分を点線で示し捲れあがった部分を斜線で示した。
これにより、メインシート32に破れが発生することが防止され、メインシート32から水漏れが発生する懸念もなくなった。
同様に、第二スリット35についてもハーネス100の抜き出し時には、左右切り込み38,39の先端38a,39a間が強制的に折れて第二スリット35の両端にかかる応力が低減され、サブシート34に破れが発生することが防止され、サブシート34から水漏れが発生する懸念もなくなった。
【0027】
実際、ハーネス100の束(ここでは4本)を第一スリット33から抜き出した場合、メインシート32に破れなどの損傷が発生することはなかった。
【0028】
なお、本実施形態では、メインシート32とサブシート34が設けられたドアホールシール30について説明したが、メインシート32だけからなるドアホールシールのスリット機構であっても適用可能である。
また、左右切り込み36,37を第一スリット33の下方に設けたが上方に設けることもできる。同様に、第二スリット35に設けた左右切り込み38,39についても第二スリット35の下方に設けたが上方に設けることもできる。
【0029】
また、
図4(a)に示すように、第一スリット33の上方と下方の両方に対して左右切り込み36,37を設けることもできる。ここでは、第一スリット33の長さLと左右切り込み36,37の先端36a,37a間の距離Sを同一にしたものを示した。
また、
図4(b)に示すように、左右切り込み36,37の大きさを変えるようにしてもよい。ここでは左右切り込み36,37の先端36a,37a間の距離Sより第一スリット33の長さLを大きくしたものである。
また、
図4(c)に示すように、左右切り込み36,37の円弧状の湾曲を半楕円形状にすることもできる。この場合も左右切り込み36,37の先端36a,37a間の距離Sより第一スリット33の長さLを大きくしたものである。
さらには、
図4(d)に示すように、左右切り込み36,37の円弧状の湾曲を上下方向で非対称とすることもできる。この場合も左右切り込み36,37の先端36a,37a間の距離Sより第一スリット33の長さLを大きくしたものである。
【0030】
なお、左右切り込み36,37の形状を円弧状の湾曲にするものではなく、例えば、L字状にするなど部分的に角部を設ける形状も考えられるが、湾曲部と比較して角部には応力が集中しやすいので一切角部のない湾曲にすることがより好ましい。
【0031】
また、本実施形態では、ハーネス100を車外側101から車内側102に抜き出すためのスリット機構31を設けたドアホールシール30について説明したが、ハーネス100を車内側102から車外側101に抜き出すためのスリット機構においても適用可能である。また、ここではドアガラス5を昇降させるためのウインドレギュレータ4用のハーネス100を用いて説明したが、ハーネスにはドアロックやドアミラー、そしてドアアウターハンドルのセンサーロックと言った様々な用途に用いられるものがあり、これらに関しても本実施形態では適用される。
【符号の説明】
【0032】
1 ドアインナーパネル
2 ドアトリム
3 ドアアウターパネル
4 ウインドレギュレータ
5 ドアガラス
10 ドアホールシール
11 スリット機構
12 メインシート
13 第一スリット
14 サブシート
15 第二スリット
16,17 スリット止め部
20 ドアホールシール
21 スリット機構
22 メインシート
23 第一スリット
24 丸孔
25 サブシート
26 第二スリット
30 ドアホールシール
31 スリット機構
32 メインシート
33 第一スリット
34 サブシート
35 第二スリット
36 左切り込み
36a 先端
37 右切り込み
37a 先端
38 左切り込み
38a 先端
39 右切り込み
39a 先端
100 ハーネス(ワイヤーハーネス)
101 車外側
102 車内側
D ハーネスの直径
L 第一スリットの長さ
PL 第一スリットの端からの垂線
S 左右切り込みの先端間の距離
SL 溶着ライン
T 左右切り込みの先端の第一スリットからの高さ