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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106052
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】射出装置および射出方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/47 20060101AFI20230725BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B29C45/47
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007168
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】入江 雄大
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AR02
4F206AR09
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM01
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP17
(57)【要約】
【課題】スクリュ回転数の設定が高すぎるのを避け、または、スクリュ背圧の設定が低すぎるのを避けることで、スクリュの外周面にカジリが発生できる射出装置を提供すること。
【解決手段】本発明の射出装置1は、筒状のシリンダ33と、シリンダ33に回転可能に配置されるスクリュ31と、を有する射出部30と、スクリュ31を回転駆動させる電動モータ23と、電動モータ23の動作を制御する制御部40と、を備える。
本発明の制御部40は、スクリュ回転数とスクリュ背圧を互いに対応させて、可塑化工程におけるスクリュ回転数およびスクリュ背圧の一方または双方の設定範囲を制限する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシリンダと、前記シリンダに回転可能に配置されるスクリュと、を有する射出部と、
前記スクリュを回転駆動させる回転機構と、
前記回転機構の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
スクリュ回転数とスクリュ背圧を互いに対応させて、可塑化工程におけるスクリュ回転数およびスクリュ背圧の一方または双方の設定範囲を制限する、
ことを特徴とする射出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記設定範囲として、
前記スクリュが受ける背圧の下限である背圧下限値および前記スクリュの回転数の上限である回転数上限値の一方または双方を特定する、
請求項1に記載の射出装置。
【請求項3】
前記制御部は、
入力される前記スクリュの設定回転数候補と予め前記制御部に記憶されている単数または複数のスクリュ回転数範囲とを比較し、
記憶されている前記スクリュ回転数範囲に入力される前記設定回転数候補が含まれる場合は、
当該スクリュ回転数範囲に対応づけられる前記背圧下限値を前記設定範囲の前記背圧下限値として特定し、当該下限値より小さい設定背圧候補の入力を受け付けない、
請求項2に記載の射出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
入力される前記スクリュの設定背圧候補と予め前記制御部に記憶されている単数または複数のスクリュ背圧値範囲とを比較し、
記憶されている前記スクリュ背圧値範囲に入力される前記設定背圧候補が含まれる場合は、
当該スクリュ背圧値範囲に対応づけられる前記回転数上限値を前記設定範囲の前記回転数上限値として特定し、当該上限値より大きい設定回転数候補の入力を受け付けない、
請求項2または請求項3に記載の射出装置。
【請求項5】
前記制御部は、
入力される前記スクリュの設定回転数候補と背圧下限値との相関を示す第1式、および、入力される前記スクリュの設定背圧候補と回転数上限値との相関を示す第2式の一方または双方により前記背圧下限値および前記回転数上限値の一方または双方を特定し、
前記背圧下限値より小さい前記設定背圧候補および前記回転数上限値よりも大きい前記設定回転数候補の一方または双方の入力を受け付けない、
請求項2に記載の射出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記背圧下限値より小さい前記設定背圧候補および前記回転数上限値よりも大きい前記設定回転数候補の一方または双方の入力を受け付けないこと、
当該設定背圧候補に替えて新たな設定背圧候補の入力を促すこと、および、
当該設定回転数候補に替えて新たな設定回転数候補の入力を促すこと、を表明する、
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の射出装置。
【請求項7】
射出装置の可塑化条件である、可塑化工程のスクリュ回転数とスクリュ背圧を互いに対応させてスクリュ回転数または背圧の設定範囲を制限する、
ことを特徴とする射出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化スクリュの動作制御に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な射出装置は、シリンダの後方側からペレット状の原料樹脂を供給し、シリンダ内で原料樹脂を加熱しながらスクリュの回転によりせん断力を加えることにより原料樹脂を溶融する。溶融樹脂はシリンダの内部で計量され、シリンダの前端に設けられる射出ノズルから金型の内部に形成されるキャビティに向けて射出される。
【0003】
特許文献1は、シリンダの温度プロファイルを成形品や成形サイクル時間に基づいて適切に調整できる射出装置を提供する。特許文献1によれば、シリンダにおける成形材料の加熱の程度を調整することができ、成形材料の加熱による変質を防止することができ、また、カジリを防止できる、とされる。
【0004】
特許文献1においては、成形品の寸法が大きいほど、あるいは成形サイクル時間が短いほど、シリンダ内での原料樹脂の移動速度が速くなり、シリンダから熱を受ける時間が短くなることに対し、その基部側、つまり原料樹脂の投入側からより大きな熱量を樹脂に与える。そのために、特許文献1には、シリンダの基部側の加熱ヒータの温度を高く自動設定することで、計量時間がばらついたり、スクリュの外周にカジリが生じたりするのを防止する例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/105646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可塑化工程時におけるスクリュの回転数およびスクリュが溶融樹脂から受ける背圧は、射出装置を扱う作業者が設定する。しかし、作業者が、スクリュ回転数を非常に高く設定してしまったり、スクリュ背圧を最低圧付近の低圧に設定してしまったりすることがあり得る。そうすると、さらにシリンダ内での樹脂の移動速度が速くなり、シリンダから樹脂が熱を受ける時間が短くなってしまう。この場合、シリンダにより樹脂を十分に加熱することができなくなり、溶融が進んでいない未だ固い原料樹脂の塊が、スクリュの圧縮部である溝深さが浅い領域に押し込まれることになる。そうすると、スクリュ溝の内部で固い樹脂の塊が楔作用をおこし、楔が入り込んだ反対側のシリンダの内周面にスクリュが強く押し付けられることになる。この状態でスクリュの回転が継続されると、スクリュの外周面にカジリが発生してしまうおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、スクリュ回転数の設定が高すぎるのを避け、または、スクリュ背圧の設定が低すぎるのを避けることで、スクリュの外周面にカジリが発生するのを防止できる射出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の射出装置は、筒状のシリンダと、シリンダに回転可能に配置されるスクリュと、を有する射出部と、スクリュを回転駆動させる回転機構と、回転機構の動作を制御する制御部と、を備える。
本発明の制御部は、スクリュ回転数とスクリュ背圧を互いに対応させて、可塑化工程におけるスクリュ回転数およびスクリュ背圧の一方または双方の設定範囲を制限する。
【0009】
本発明の制御部は、好ましくは、設定範囲として、スクリュが受ける背圧の下限である背圧下限値およびスクリュの回転数の上限である回転数上限値の一方または双方を特定する。
【0010】
本発明の制御部は、好ましくは、入力されるスクリュの設定回転数候補と予め制御部に記憶されている単数または複数のスクリュ回転数範囲を比較し、記憶されているスクリュ回転数範囲に入力される設定回転数候補が含まれる場合は、当該スクリュ回転数範囲に対応づけられる背圧下限値を設定範囲の背圧下限値として特定し、当該下限値より小さい設定背圧候補を受け付けない。
【0011】
本発明の制御部は、好ましくは、入力されるスクリュの設定背圧候補と予め制御部に記憶されている単数または複数のスクリュ背圧値範囲を比較し、記憶されているスクリュ背圧値範囲に入力される設定背圧候補が含まれる場合は、当該スクリュ背圧値範囲に対応づけられる回転数上限値を設定範囲の回転数上限値と特定し、当該上限値より大きい設定回転数候補を受け付けない。
【0012】
本発明の制御部は、好ましくは、入力されるスクリュの設定背圧候補と背圧下限値との相関を示す第1式、および、入力されるスクリュの設定背圧候補と回転数上限値との相関を示す第2式の一方または双方により背圧下限値および回転数上限値を特定し、背圧下限値より小さい設定背圧候補および回転数上限値よりも大きい設定回転数候補の一方または双方の入力を受け付けない。
【0013】
本発明の制御部は、好ましくは、背圧下限値より小さい設定背圧候補および回転数上限値よりも大きい設定回転候補の一方または双方の入力を受け付けないこと、当該設定背圧候補に替えて新たな設定背圧候補の入力を促すこと、および、当該設定回転数候補に替えて新たな設定回転数候補の入力を促すこと、を表明する。
【0014】
本発明は、射出装置の可塑化条件である、可塑化工程のスクリュ回転数とスクリュ背圧を互いに対応させてスクリュ回転数または背圧の設定範囲を制限する、射出方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の射出装置は、スクリュ回転数とスクリュ背圧を互いに対応させて、可塑化工程におけるスクリュ回転数およびスクリュ背圧の一方または双方の設定範囲を制限する。これにより、本発明の射出装置によれば、スクリュ回転数の設定が高すぎるのを避け、または、スクリュ背圧の設定が低すぎるのを避けることで、スクリュの外周面にカジリが発生するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る射出装置の概略構成を示す側面図である。
図2図1の射出装置の記憶部に記憶されているデータを示し、(a)は可塑化工程時のスクリュの回転数範囲と当該範囲に対応する背圧下限値とを示し、(b)は可塑化工程時の背圧の範囲と当該範囲に対応するスクリュ回転数の上限値とを示している。
図3図1の射出装置における設定回転数および設定背圧が確定し、スクリュの回転が開始し可塑化工程が始まるまでの手順の一例を示すフロー図である。
図4図3のフロー図における設定回転数候補(SR0)を確定する手順の一例を示すフロー図である。
図5図3のフロー図における設定背圧候補(BP0)を確定する手順の一例を示すフロー図である。
図6図1の制御部の表示部の表示例を示し、(a)は設定回転数候補(SR0)および設定背圧候補(BP0)の入力を促す表示画面の一例であり、(b)は入力された設定回転数候補(SR0)が不適切な場合の表示画面の一例である。
図7】インライン式の射出装置の可塑化工程における溶融樹脂によるスクリュを後端方向に押す様子を説明する図である。
図8】インライン式の射出装置の可塑化工程における溶融樹脂によるスクリュを後端方向に押す他の力を説明する図である。
図9】本実施形態について参照される射出装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
射出装置1は、図示を省略する型締装置と組み合わされることにより、射出成形機を構成する。射出装置1を用いて成形品を得るために、以下の工程が順に実行される。本実施形態に係る射出装置1は、以下の可塑化工程において、スクリュ回転数の設定範囲およびスクリュ背圧の設定範囲の一方または双方を制限する。
型締工程:型締工程を構成する可動金型と固定金型を閉じて高圧で型締めする。
可塑化工程:樹脂ペレットをシリンダの内部で加熱、溶融して可塑化させる。
射出工程:可塑化された溶融樹脂を可動金型と固定金型により形成されるキャビティ内に射出、充填する。
保圧工程:キャビティ内に充填された溶融樹脂が冷却固化するまで溶融樹脂への圧力付与を継続する。
型開工程:金型を開放する。
取り出し工程:キャビティ内で冷却固化された成形品を取り出す。
【0018】
[射出装置1の全体構成:図1
射出装置1は、図1に示すように、支持部10と、支持部10に支持され、スクリュ31の前後方向への移動およびスクリュ31の回転を担う駆動部20と、スクリュ31を含み、樹脂の射出に関わる射出部30と、を備える。また、射出装置1は射出装置1の動作を制御する制御部40を備える。射出装置1は、可塑化工程において、制御部40により、スクリュ回転数およびスクリュ背圧の一方または双方の設定範囲を制限することを通じて、スクリュ31の外周面31Sにカジリが発生するのを防止できる。
【0019】
射出装置1において、図1にFが記載されている側を前方、Bが記載されている側を後方と定義する。この前方Fおよび後方Bの定義は相対的な意味を含むものとする。
また、射出装置1について、幅方向W、長手方向Lおよび鉛直方向Hが図1に示すように定義される。
【0020】
[支持部10:図1
支持部10は、図1に示すように、前方Fから後方Bに向けて延びるベッド11と、ベッド11の上であってベッド11の後方Bの側に設けられる一対のガイドレール13と、を備える。
一対のガイドレール13は、幅方向Wに間隔をあけてベッド11の上に固定されている。ガイドレール13には、後述する駆動部20の移動ハウジング21が、前方Fから後方Bに向けて、および、後方Bから前方Fに向けて摺動可能に載せられている。なお、本実施形態において、移動ハウジング21の前後方向への往復移動を実現することができるのであれば、その手段はガイドレール13に限らない。一例として、ガイドレール13が設けられる位置にガイド溝またはガイド壁などを設け、移動ハウジング21にこのガイドに沿って走行するローラや摺動板を設けることができる。
【0021】
[駆動部20:図1
次に、駆動部20について説明する。
駆動部20は、図1に示すように、ガイドレール13に沿って前後方向に移動可能に支持される移動ハウジング21と、移動ハウジング21の後方Bに支持される電動モータ23と、を備える。
【0022】
移動ハウジング21は、図示を省略する例えばピストン・シリンダ機構により、ガイドレール13に沿って前方Fから後方Bに向けて、および、後方Bから前方Fに向けて移動可能とされる。
移動ハウジング21は、その内部に電動モータ23の回転動作をスクリュ31に伝達する歯車列、軸受などの伝達機構を収容する。スクリュ31のスクリュ軸31Bと移動ハウジング21の間には、図示を省略するロードセルが介在しており、スクリュ31が軸方向に受ける荷重を検知することができる。ロードセルで検知した荷重に基づいて、可塑化工程におけるスクリュ31の背圧が制御される。
電動モータ23は、制御部40からの指示により回転動作される。ここでは電動モータ23を用いているが、油圧モータなど回転駆動力を出力できる他の回転駆動源を用いることもできる。また、ここでは電動モータ23の回転動作をスクリュ31に伝達する歯車列を移動ハウジング21に内蔵するが、歯車列を移動ハウジング21に内蔵するのではなく、移動ハウジング21の外部に個別の減速機として備えることもできる。この場合、減速機はプーリとベルト、平行軸歯車減速機、ヘリカル減速機、べベルギア減速機、ハイポイド減速機などの公知の減速機とすることができる。
【0023】
[射出部30:図1
射出部30は、図1に示すように、スクリュ31と、スクリュ31の長手方向Lのほぼ全域を取り囲む筒状のシリンダ33と、シリンダ33の前端に設けられる射出ノズル35と、を備える。また、射出部30は、シリンダ33を後方Bにおいて支持する支持体36と、支持体36に支持される原料ホッパ38と、を備えている。
支持体36には、図1に示すように、鉛直方向Hに沿って射出成形の原料である固体状の樹脂が通過する通路37および通路37に連なる原料ホッパ38が設けられる。通路37は、支持体36の上面からシリンダ把持孔36Aまで貫通しており、後述するシリンダ33の投入口34と連なる。したがって、投入される原料樹脂は、通路37および投入口34を通って、シリンダ33の内部であってスクリュ101の周囲に供給される。
【0024】
スクリュ31は、外周にらせん状に溝が形成される本体31Aと、本体31Aの後端に連なるスクリュ軸31Bと、を備える。スクリュ31のスクリュ軸31Bは移動ハウジング21の内部において電動モータ23からの回転駆動力が伝達可能に支持されている。
スクリュ31において、らせん状の溝を構成するフライト山部の頂面が、スクリュ31の外周面31Sを構成する。
【0025】
シリンダ33は、支持体36のシリンダ把持孔36Aに嵌合されることで支持体36に固定される。
シリンダ33には、射出成形の原料である固体樹脂からなる原料を投入する投入口34が形成されている。投入口34は、シリンダ33の内外を貫通している。投入口34は、支持体36に形成される通路37と連通する。
また、シリンダ33は、その前端には、シリンダ33の内部でスクリュ31によって溶融された樹脂が外部に吐出される吐出口を備えている。
シリンダ33の内部に収容されるスクリュ31は、シリンダ33の内部において、前後方向に往復移動できるとともに回転できる。
シリンダ33の周囲にはバンドヒータやカートリッジヒータなどの図示を省略する電熱線ヒータが備えられており、図示を省略する電源から電熱線ヒータに電力を投入することにより、シリンダ33の内部の原料樹脂を加熱する。
【0026】
射出ノズル35は、シリンダ33の前端に固定される。シリンダ33の位置が固定されるので、射出ノズル35もその位置が固定される。
射出ノズル35は、その前端に設けられる射出孔35Aと、射出孔35Aに連なる樹脂通路35Bと、を備える。スクリュ31で可塑化されかつ計量された溶融樹脂は、樹脂通路35Bおよび射出孔35Aを通って、図示を省略される型締装置の金型キャビティに射出される。
【0027】
[制御部40:図1
制御部40は、電動モータ23などの駆動部20の要素の動作を制御する。
制御部40は、これに加えて、作業者により入力されるスクリュの設定回転数候補に応じる背圧下限値を特定するとともに、作業者により入力されるスクリュの設定背圧候補に応じるスクリュの回転数上限値を特定する。この背圧下限値および回転数上限値の特定は、詳しくは後述するが、予め記憶されているスクリュの背圧下限値データと設定回転数候補との比較、および、予め記憶されているスクリュの回転数上限値データと設定背圧候補との比較により行われる。
【0028】
制御部40は、信号の入出力を行う入出力部41と、演算処理を行う演算部43と、データを記憶する記憶部45と、設定画面などを表示する入力・表示部47と、を備えている。入出力部41~入力・表示部47について、背圧下限値の特定との関係および回転数上限値の特定との関係を以下説明する。
入出力部41は、入力・表示部47を介して作業者が入力する設定回転数候補および設定背圧候補を演算部43に提供する。また、入出力部41は、演算部43から受ける、背圧下限値データと設定回転数候補との比較、および、回転数上限値データと設定背圧候補との比較の結果を演算部43から受けるとともに、入力・表示部47に向けて提供する。
演算部43は、作業者が入力する設定回転数候補および設定背圧候補を入出力部41から受ける。演算部43は、背圧下限値データと設定回転数候補との比較、および、回転数上限値データと設定背圧候補との比較を行い、その結果を入出力部41に提供する。これらの比較について、詳しくは後述する。
【0029】
記憶部45は、背圧下限値データおよび回転数上限値データを記憶する。背圧下限値データおよび回転数上限値データの一例が図2に示されている。図2について詳しくは後述する。
入力・表示部47は、設定回転数および設定背圧を作業者が入力する画面を表示する。この画面の一例が図6(a)に示されている。また、入力・表示部47は、入出力部41から受ける背圧下限値データと設定回転数候補との比較結果、および、回転数上限値データと設定背圧候補との比較結果を表示する。比較結果の一例が図6(b)に示されている。図6(a),(b)について詳しくは後述する。
【0030】
[記憶部に記憶されているデータ:図2
図2は、図1の射出装置の記憶部45に記憶されているデータを示し、(a)は背圧下限値データを示し、(b)は回転数上限値データを示している。
図2(a)の背圧下限値データは、一例としてスクリュ回転数の範囲を4つに区分し、4つの範囲のそれぞれに背圧下限値が対応している。例えば、スクリュ回転数が0を超え、SR1以下の回転数であれば、背圧下限値は射出装置1の仕様における最低値(BPmin)が対応している。最低値(BPmin)は、例えば0(ゼロ)Paである。また、スクリュ回転数がSR2を超え、SR3以下の回転数であれば、背圧下限値はBPbが対応している。図2(a)において、BPmin<BPa<BPb<BPcである。
【0031】
ここで、図2(a)のSR4が射出装置1におけるスクリュ回転数の最大値(100%)とし、スクリュ回転数の最大値を4等分すれば、図2(a)は以下のように捉えることができる。図2(b)に示される回転数上限値データについても同様に当てはまる。
0%< 設定回転数候補 ≦ 25%の場合は、背圧下限値は仕様最低値が対応する。
25%< 設定回転数候補 ≦ 50%の場合は、背圧BPaが対応する。
50%< 設定回転数候補 ≦ 75%の場合は、背圧BPbが対応する。
75%< 設定回転数候補 ≦100%の場合は、背圧BPcが対応する。
【0032】
図2(a)および以上の4等分の例は、スクリュ31の設定回転数が高いほど、設定できる背圧下限値が高くなることを示している。これは、スクリュ回転数が高いほど設定できる背圧を低く設定できなくすることを意図している。4等分はあくまで一例であり、4等分より少ない区分または4等分より多い区分としてもよい、また、区分は4等分のように均等に限るものではなく、不均等に区分することもできる。これは図2(b)の回転数上限値データについても同様に当てはまる。
【0033】
図2(b)の回転数上限値データは、一例としてスクリュが受ける背圧の範囲を4つに区分し、4つの範囲のそれぞれにスクリュの回転数上限値が対応している。例えば、スクリュ背圧が0を超え、BP1以下の圧力であれば、回転数上限値は回転数SRxが対応している。また、スクリュ背圧がBP2を超え、BP3以下の圧力であれば、回転数SRbが対応している。図2(b)において、SRx<SRa<SRb<SRcである。このとき圧力BP4が射出装置1における背圧の最大値とすれば、回転数SRcは射出装置1におけるスクリュ回転数の最大値とすることができる。
【0034】
図2(b)の4等分の例は、スクリュ背圧が低いほど、設定できる回転数上限値が低くなることを示している。これは、スクリュ背圧が低いほど回転数を高く設定することができなくすることを意図している。
【0035】
[可塑化工程が始まるまでの手順:図3図4図5図6
次に、設定回転数および設定背圧が確定し、スクリュの回転が開始し可塑化工程が始まるまでの手順を、図3図6を参照して説明する。この手順は、作業者が入力・表示部47に設定回転数候補および設定背圧候補を入力したことを受けて、演算部43が記憶部45から背圧下限値データおよび回転数上限値データを読み出して実行される。
【0036】
[設定回転数および設定背圧の受付:図3図6
作業者が入力・表示部47に入力した設定回転数候補SR0および設定背圧候補BP0を演算部43が受け付けることにより、一連の手順が開始される(図3 S101)。
設定回転数候補SR0および設定背圧候補BP0の入力画面の一例が図6(a)に示されている。この入力画面は、入力・表示部47に表示される。この入力画面は、設定回転数候補SR0を作業者が入力する回転数入力欄47Aと、設定背圧候補BP0を作業者が入力する背圧入力欄47Bと、を備えており、図示が省略されるキーボードを介して、作業者が設定回転数候補をSR0と設定背圧候補BP0とを入力する。
この入力画面には、設定回転数および設定背圧の入力を促し、かつ、入力された設定回転数および設定背圧を評価する旨を表示するメッセージ欄47Cが設けられている。
【0037】
[背圧下限値および回転数上限値の特定:図3図4図5
演算部43は、設定回転数候補SR0および設定背圧候補PB0を受け付けると、予め記憶部45に記憶されている背圧下限値データと設定回転数候補SR0の大小を比較し、かつ、回転数上限値データと設定背圧候補PB0の大小を比較することにより、背圧下限値BPLLおよび回転数上限値SRULを特定する(図3 S103)。
背圧下限値データと設定回転数候補SR0の大小を比較する一連の手順および回転数上限値データと設定背圧候補PB0の大小を比較する一連の手順を、それぞれ図4および図5を参照して順に説明する。
【0038】
[背圧下限値データと設定回転数の比較:図4
図3のステップS101において設定回転数候補SR0が入力されると、演算部43は記憶部45から読み出した図2(a)に示される背圧下限値データと設定回転数候補SR0とを、図4に示され手順で比較する。
演算部43は、はじめに設定回転数候補SR0が0<SR0≦SR1(第1a範囲)を満たすか否かを判定する(S121)。設定回転数候補SR0が0<SR0≦SR1を満たせば(S121 Yes)、背圧下限値データに基づいて設定背圧BPとして背圧の最低値BPminが特定される(S123)。
設定回転数候補SR0が0<SR0≦SR1を満たさなければ(S121 No)、設定回転数候補SR0がSR1<SR0≦SR2(第2a範囲)を満たすか否かを判定する(S125)。設定回転数候補SR0がSR1<SR0≦SR2を満たせば(S125 Yes)、背圧下限値データに基づいて設定背圧BPとして背圧BPaが特定される(S127)。
【0039】
設定回転数候補SR0がSR1<SR0≦SR2を満たさなければ(S125 No)、設定回転数候補SR0がSR2<SR0≦SR3(第3a範囲)を満たすか否かを判定する(S129)。設定回転数候補SR0がSR2<SR0≦SR3を満たせば(S129 Yes)、背圧下限値データに基づいて設定背圧BPとして背圧BPbが特定される(S131)。設定回転数候補SR0がSR2<SR0≦SR3を満たさなければ(S129 No)、背圧下限値データに基づいて設定背圧BPとして背圧BPcが特定される(S133)。
【0040】
以上のように設定背圧BPとして特定された背圧BPmin、背圧BPa、背圧BPbおよび背圧BPcは、以下では背圧下限値BPLLと総称される。
また、以上で説明した手順においては、一例として第1a範囲、第2a範囲および第3a範囲の順で設定回転数候補SR0と比較したが、この順を変えてもよく、例えば、第3a範囲、第2a範囲および第1a範囲の順で設定回転数候補SR0と比較してもよい。次の回転数上限値データと設定背圧候補PB0の比較においても、第1b範囲、第2b範囲および第3b範囲の順に限定されるものではない。また、ここでは背圧下限値データと設定回転数候補の比較を先に説明し、その後に回転数上限値データと設定背圧候補の比較を説明しているが、この順番も任意であり、逆の順に比較をしてもよいし、同時に比較をしてもよい。
【0041】
[回転数上限値データと設定背圧の比較:図5
図3のステップS101において設定背圧候補BP0が入力されると、演算部43は記憶部45から読み出した回転数上限値データと設定背圧候補BP0とを、図5に示される手順で比較する。
演算部43は、はじめに設定背圧候補BP0が0<BP0≦BP1(第1b範囲)を満たすか否かを判定する(S141)。設定背圧候補BP0が0<BP0≦BP1を満たせば(S141 Yes)、回転数上限値データに基づいて設定回転数候補SRとして回転数SRxが特定される(S143)。
設定背圧候補BP0が0<BP0≦BP1を満たさなければ(S141 No)、設定背圧候補BP0がBP1<BP0≦BP2(第2b範囲)を満たすか否かを判定する(S145)。設定背圧候補BP0がBP1<BP0≦BP2を満たせば(S145 Yes)、回転数上限値データに基づいて設定回転数SRとして回転数SRaが特定される(S147)。
【0042】
設定背圧候補BP0がBP1<BP0≦BP2を満たさなければ(S145 No)、設定背圧候補BP0がBP2<BP0≦BP3(第3b範囲)を満たすか否かを判定する(S149)。設定背圧候補BP0がBP2<BP0≦BP3を満たせば(S149 Yes)、回転数上限値データに基づいて設定回転数SRとして回転数SRbが特定される(S151)。設定背圧候補BP0がBP2<BP0≦BP3を満たさなければ(S149 No)、回転数上限値データに基づいて設定回転数SRとして回転数SRcが特定される(S153)。
【0043】
以上のように設定回転数SRとして特定された回転数SRx、回転数SRa、回転数SRbおよび回転数SRcは、以下では回転数上限値SRULと総称される。
【0044】
[背圧下限値BPLL、回転数上限値SRULの評価:図3
背圧下限値BPLLおよび回転数上限値SRULが特定されると、以下のようにして背圧下限値BPLL、回転数上限値SRULに対する設定背圧候補BP0または設定回転数候補SR0の評価が行われる。
つまり、設定背圧候補BP0が背圧下限値BPLLを超えているか否かが判定され(S105)、また、設定回転数候補SR0が回転数上限値SRULよりも小さいか否かが判定される(S107)。
【0045】
設定背圧候補BP0が背圧下限値BPLLを超えていない、つまり設定背圧候補BP0が背圧下限値BPLL以下であれば(S105 No)、設定背圧候補BP0の入力を受け付けないことおよび背圧下限値BPLL以下の設定背圧候補BP0を再度入力しなおすことを作業者に対して督促する表示が入力・表示部47に行われる(S106)。
また、設定回転数候補SR0が回転数上限値SRULより小さくない、つまり設定回転数候補SR0が回転数上限値SRUL以上であれば(S107 No)、設定回転数候補SR0の入力を受け付けないことおよび回転数上限値SRUL以下の設定回転数候補SR0を再度入力しなおすことを作業者に対して督促する表示が入力・表示部47に行われる(S108)。図6(b)にはこの表示の一例が示されている。つまり、入力・表示部47のメッセージ欄47Cに入力された設定回転数候補SR0が不適切であるために、新たな設定回転数候補SR0の入力を促すメッセージが表示される。ここでは、入力・表示部47のメッセージ欄47Cにメッセージを視覚的に表明しているが、このメッセージは音声、その他の手段で表明することもできる。
【0046】
設定背圧候補BP0が背圧下限値BPLLを超えており(S105 Yes)、かつ、設定回転数候補SR0が回転数上限値SRULよりも小さければ(S107 Yes)、設定背圧候補BP0および設定回転数候補SR0は設定値として確定する(S109)。そうすると、制御部40は、確定した設定背圧候補BP0および設定回転数候補SR0に従ってスクリュ31を回転駆動するように制御することを通じて可塑化工程を実行する。
【0047】
[効 果]
以上で説明した射出装置1によると、以下説明するように、スクリュ31の外周面31Sのカジリの防止に有効である。
スクリュ31は最外周が螺旋状のネジ山31Tであり、スクリュ31とシリンダ33の接触部はネジ山31Tの外周面31Sとなるので、スクリュ31が回転すると、ネジ山31Tの外周面31Sとシリンダ33の内周面33Sが螺旋面で摺動することになる。このとき、可塑化工程には溶融樹脂が外周面31Sと内周面33Sの間に入り込んでいるため、摺動面である螺旋面に溶融樹脂の粘性により摺動抵抗(摩擦抵抗)が発生する。そうすると、スクリュ31のネジ山31Tは螺旋に沿って移動しようとする、つまり雄ネジが回転した時に雌ネジに対して回転軸方向に移動するのと同じように、スクリュ31は前後進する。
【0048】
インライン式の射出装置は、図7(a),(b)に示されるように、可塑化工程にスクリュ31の前方に押し込まれた溶融樹脂MPが、スクリュ31を後方Bに向けて押す力PRによってスクリュ31は後退する。
しかし、スクリュ31より前方Fに向けて押し込まれる溶融樹脂MPがスクリュ31を後方Bに向けて押す力の他にもスクリュ31の後方Bへの推力は発生する。具体的には、一般に射出装置のスクリュ31のネジ山31Tは右ネジであり、可塑化工程のスクリュ31回転時(スクリュ31が樹脂を先端方向に送るための回転時)は左回転(スクリュ31の後端側からみた時に反時計回り)であるため、通常のネジを外すとき(緩めるとき)と同じ状態となる。よって、図8(a),(b)に示されるように、スクリュ31は可塑化工程における外周面31Sと内周面33Sとの摺動による摩擦力が、スクリュ31の後方Bへの推力STになる。以下、この現象を「ネジ現象」と称する。
【0049】
このスクリュ31は可塑化工程のスクリュ回転による、ネジ山31Tの外周面31Sとシリンダ33の内周面33Sとの摺動による摩擦力は、溶融樹脂MPの粘性に起因するが、非ニュートン流体である溶融樹脂MPの粘性は溶融樹脂MPに加わる剪断による剪断速度(摺り速度)に比例する。このとき外周面31Sと内周面33Sの間にある溶融樹脂MPに加わる剪断速度はスクリュ回転数(スクリュ外周速度)であるので、スクリュ回転数が高いほどネジ山31T部における溶融樹脂MPの粘性が増大して摺動抵抗が大きくなる。これはスクリュ回転数が高くなるほどスクリュ31の回転力が溶融樹脂MPの変形で逃げずに軸方向の推力に変換されることを意味する。このためネジ現象によるスクリュの後方Bへの推力STが大きくなり、スクリュ31よりも前方Fに溶融樹脂MPが存在していなくてもスクリュ31が後退することがある。
【0050】
ネジ現象によりスクリュ31よりも前方Fに溶融樹脂MPが存在していなくてもスクリュ31が後退すると、スクリュ31よりも前方Fに空隙Gが発生するので、スクリュ31が溶融樹脂MPを吐出する流動抵抗が極めて小さくなる。これはスクリュ31の周囲を溶融樹脂MPが前方Fに送られるのに対する背圧が無い、あるいは小さいことを意味する。このため、スクリュ31の周囲の溶融樹脂が前方Fに送られる速度が高まり、シリンダ33から溶融樹脂MPが熱を受ける時間が短くなってしまう。
【0051】
射出装置1は、スクリュ回転数が高いほど背圧下限値を高くしてスクリュ31の後退を抑制するように制御するので、スクリュ回転数が高い場合でもネジ現象によってスクリュ31より前方Fに空隙Gが発生するのを防止あるいは抑制できる。これによりスクリュ31の周囲の溶融樹脂空隙MPが前方Fに送られる速度が過度に高くなって、シリンダ33から溶融樹脂MPが熱を受ける時間が短くなってしまう現象を防止することができるので、スクリュ31の圧縮部に送り込まれる樹脂は十分に軟らかく変形可能な状態となっている。これによりスクリュ溝の内部で固い樹脂の塊が楔作用を生じさせることがなくなるので、スクリュ31の外周面31Sのカジリ発生を防止することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態による射出装置1を説明したが、上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0053】
[多段切換]
射出装置1において、スクリュ31の位置を基準にして背圧を複数段階に切り替えができる機能を備えることができる。この射出装置1においては、各段階の設定背圧に対し背圧下限値を適用する。つまり、可塑化工程においてスクリュ回転数を複数段階に切り替えしなければ、スクリュ位置を基準にする複数段階の切り替えにおいて設定背圧の下限値を全て同一の値とすることができる。また、可塑化工程においてスクリュ回転数を異なる複数段階の回転数に切り替える場合は、スクリュ回転数のそれぞれの切り替え段階に対応する背圧下限値を適用することができる。
なお本発明は、設定背圧の下限値を規定するものであって、単に下限値以下の背圧を設定できなくするだけなので、作業者は、下限値を超える値ならば、複数段階に切り替えられる背圧の場合であっても同じ背圧下限値を設定することも可能であり、それぞれ異なる背圧下限値を設定することも可能である。
【0054】
[設定値変更]
射出成形運転を行っており既にスクリュ回転数と背圧が設定されている場合に、スクリュ回転数またはスクリュ背圧値を作業者が変更するように入力することがある。この場合は、上述したスクリュ回転数範囲と背圧下限値の両方を満足しているかを制御部40が判断し、満足していない場合は、図6(b)に示したようにメッセージを表示するとともに、射出装置1の動作を行わない、つまりインターロックを行うことができる。
作業者による変更の入力は、射出装置1が動いている間に設定されても、動作中の成形機の動作には反映されず、実際の運転条件として反映されるのは、次の成形サイクルである。よって、作業者による変更の入力は、射出装置1が運転される前の場合もあれば、運転の途中の場合を含む。
【0055】
[任意の数式による背圧下限値の特定]
スクリュ回転数と背圧下限値の対応は、以上説明したように予め記憶された背圧下限値データを用いる他に、スクリュ回転数を変数として任意の数式により背圧下限値を算定してもよい。
例えば、スクリュの設定回転数候補SR0(%)および背圧下限値をBPX(%)とし、背圧下限値PBXを設定回転数候補SR0に対し線形で求めることとした場合、以下の第1式を用いることができる。
BPX(%)=SR0(%) × C1 … 第1式
C1:任意の比例定数
【0056】
同様に、例えば、スクリュの背圧下限値候補BP0(%)および設定回転数SRX(%)とし、設定回転数SRXを背圧下限値候補BP0に対し線形で求めることとした場合、以下の第2式を用いることができる。
SRX(%)=BP0(%) × C2 … 第2式
C2:任意の比例定数
【0057】
[他の条件の考慮]
背圧下限値または回転数上限値を選定するにおいて、さらにシリンダ33のそれぞれの電熱線ヒータの設定状態や成形サイクルタイムを考慮することができる。
例えば、シリンダ33の基部側の電熱線ヒータの設定温度が高い場合や、成形サイクルタイムが長い場合、特に可塑化完了から次ショットの可塑化が開始するまでのスクリュが停止している時間が長い場合である。このように、樹脂がシリンダ33からの熱を受ける時間が十分ある場合は、背圧下限値を低くしたり、スクリュ回転数値上限値を高くしたりしてもよい。
【0058】
[AIの活用]
また、以上で説明した制御部40について、人工知能(artificial intelligence:AI)を活用してもよい。つまり、成形条件に対する成形不良の種類、発生率、成形不良の度合いなどを紐づけてデータ化する。そのデータをAIによって学習し、成形作業者が制御部40に入力するスクリュの設定回転数候補、設定背圧候補が成形不良を発生する可能性が高いとAIが判断すると、入力・表示部47にその旨のメッセージを表示する。加えて、AIが成形不良の発生する可能性が低いと判断したスクリュの設定回転数候補または設定背圧候補を表示し、さらに、設定・入力できるスクリュの回転数の範囲または背圧の範囲を制限してもよい。
【0059】
[押出成形機への適用]
また例えば、図9のようなプランジャバレル105に挿入される筒状のプランジャ103内に、スクリュ101を回転可能に配置し、スクリュ101の回転により溶融樹脂材料をプランジャバレル105内に供給・計量するとともに、プランジャバレル105に対してプランジャ103とスクリュ101を前進させてプランジャバレル105内の溶融樹脂材料を射出する射出装置が知られている。またこの場合、スクリュ101の回転に対する減速機107は、例えばプーリとベルト、平行軸歯車減速機、ヘリカル減速機、べベルギア減速機、ハイポイド減速機などの公知の減速機を介して電動モータあるいは油圧モータにより駆動する例が知られている。
【0060】
図9に示される射出装置において、スクリュ101がプランジャバレル105に対してスクリュ軸方向に固定されている押出成形機と同様の構造のため、スクリュ101のねじ効果によるスクリュ101よりも前方に空隙は発生しない。しかし、実際の押出成形機におけるスクリュは一般に射出成形機における射出装置のスクリュよりも高速回転を行う場合が多い。押出成形機における射出装置のスクリュを高速回転した場合、シリンダ内の樹脂の搬送速度は、ねじ現象発生時と同様に高くなる。したがって、本発明における背圧下限値の制限は、押出成形機の射出装置においても有効である。
【符号の説明】
【0061】
1 射出装置
10 支持部
11 ベッド
13 ガイドレール
20 駆動部
21 移動ハウジング
23 電動モータ
30 射出部
31 スクリュ
31A 本体
31B スクリュ軸
31S 外周面
31T ネジ山
33 シリンダ
33S 内周面
34 投入口
35 射出ノズル
35A 射出孔
35B 樹脂通路
36 支持体
36A シリンダ把持孔
37 通路
38 原料ホッパ38
40 制御部
41 入出力部
43 演算部
45 記憶部
47 入力・表示部
47A 回転数入力欄
47B 背圧入力欄
47C メッセージ欄
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9