(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106077
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】光送信器、および、空間光通信送信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 10/50 20130101AFI20230725BHJP
H04B 10/112 20130101ALI20230725BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H04B10/50
H04B10/112
G02F1/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007207
(22)【出願日】2022-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 学術変革領域「散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学」キックオフシンポジウム(Zoomウェビナーによる開催),2021年2月1日,高山佳久,玉川一郎,小林智尚,山下泰輝「空間光伝搬通信における散乱・揺らぎ計測と制御」 (2) Optics & Photonics Japan 2021講演予稿集(PDFのみ),2021年10月21日,高山佳久,玉川一郎,小林智尚,一般社団法人 日本光学会、https://opt-j.com/opj2021-2/download.html (3) Optics And Photonics Japan 2021講演会(オンライン講演),2021年10月28日,高山佳久,玉川一郎,小林智尚,「揺らぎ場を伝搬した光による受信面照射の安定化」
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 佳久
【テーマコード(参考)】
2K102
5K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA05
2K102BB04
2K102BB08
2K102BC04
2K102DB08
2K102DD02
2K102EB10
2K102EB11
2K102EB12
2K102EB20
5K102AA21
5K102AB07
5K102AH01
5K102AH02
5K102AH26
5K102PH01
5K102PH22
5K102PH24
5K102PH48
5K102PH49
5K102RB01
5K102RB02
(57)【要約】
【課題】光送信器、および、空間光通信送信装置について、充分な強度の光を安定して対象に照射する。
【解決手段】光送信器2は、お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段と、各レーザビームに、それぞれ空間的に異なる位相変調を行う波面制御器621,622と、波面制御器621,622にて位相変調された各レーザビームを単一のレーザビームに合波する合波器63と、合波器63が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系3と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段と、
各前記レーザビームに、それぞれ空間的に異なる位相変調を行う光位相変調器と、
前記光位相変調器にて位相変調された各前記レーザビームを単一のレーザビームに合波する合波器と、
前記合波器が合波した前記単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系と、
を有することを特徴とする光送信器。
【請求項2】
前記光位相変調器は、反射型波面制御器である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光送信器。
【請求項3】
前記光位相変調器は、透過型波面制御器である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光送信器。
【請求項4】
前記光位相変調器は、計測または推定した屈折率構造関数によって示される統計的な性質に従うように、ランダムな位相変調を動的に行う、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうち何れか1項に記載の光送信器。
【請求項5】
前記レーザビーム発生手段は、複数のレーザ発生器を含んで構成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうち何れか1項に記載の光送信器。
【請求項6】
前記レーザビーム発生手段は、単一のレーザ発生器と分波器と複数の偏光手段を含んで構成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうち何れか1項に記載の光送信器。
【請求項7】
前記レーザビーム発生手段は、単一のレーザ発生器と分波器と、前記分波器が分波した一方のレーザビームを遅延させる遅延手段とを含んで構成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうち何れか1項に記載の光送信器。
【請求項8】
請求項1から7のうち何れか1項に記載の光送信器と、
前記レーザビーム発生手段が発生した各前記レーザビームに同一の送信信号を変調する信号変調器と、
を備える空間光通信送信装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のうち何れか1項に記載の光送信器を含み、
前記レーザビーム発生手段は、同一の送信信号を変調したレーザビームを複数発生する、
ことを特徴とする空間光通信送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器、および、空間光通信送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星と地上局もしくは地上局間との通信において、大容量伝送が可能となるレーザビームを用いた空間光通信の利用が期待されている。
図20に示すように、光送信器2から送出されたレーザビーム61は、通信路である大気中の乱流のダイナミックに変化する吸収と散乱の影響を受ける。その結果、光受信器5にて、レーザの波形は空間的に歪んで拡がる。つまりレーザビーム71の強度の空間分布が拡がり、光強度の斑や変動、焦点の散在や移動などが発生する。空間光通信のレーザビーム71の強度の空間分布が拡がると、光受信器5の口径から空間的に外れ、光を十分に受信できなくなるという問題がある。更に光強度の斑や変動、焦点の散在や移動などにより光回線の瞬断などが発生して、通信品質が劣化する。また人工衛星との通信においては、受信光を人工衛星の追尾に利用しており、歪によりその性能も悪化する。
【0003】
この問題を解決するための既存技術としては、特許文献1に記載のマルチビーム法や、特許文献2に記載の波面操作法がある。
図21と
図22に示すように、マルチビーム法では、複数の光送信器2L,2Rを用意してレーザビームを複数に分割し、大気中の空間的に離れた経路を伝送路とする。各レーザビームの波形はランダムに空間的に歪む。それらを重ね合わせることにより光量が或る程度一様になり、受信側では、その口径内に十分な強度の光を受信することができる。
【0004】
波面操作法は、光受信器において、受信光の強度の空間分布情報を波面センサで検出し、光受信器の可変形鏡等で波面操作し、受信器の口径内に十分な強度の光を受信できるようにフィードバックをかける方式である。ここで可変形鏡とは、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)や空間光位相変調器などをいう。波面操作法の通信システムでは、双方向通信を行っている相手方からのレーザビームを受けて、送信側でその光の歪を検出し、空間光位相変調器を用い波面操作で補正し、受信デバイスの口径内に十分な強度の光を受信できるようにフィードバックを掛ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-354335号公報
【特許文献2】国際公開第2020/250308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波面操作法には、並行方式と交差方式とがある。
図21に示す光送信器2は、2つの光送信器2L,2Rによって並行にレーザビームの送出を行う並行方式である。これにより、光送信器2Lが送出したレーザビームと、光送信器2Rが送出したレーザビームとは異なる空間を通り、異なる大気揺らぎの影響を受ける。並行方式では、有効領域8が遠距離となるため、送信側と受信側が十分に離れている必要がある。送信側と受信側の距離は、数百キロメートル程度が想定される。
【0007】
図22に示す光送信器2は、2つの光送信器2L,2Rによってレーザビームが交差するように送出する交差方式である。これにより、光送信器2Lが送出したレーザビームと、光送信器2Rが送出したレーザビームとは異なる空間を通り、異なる大気揺らぎの影響を受ける。交差方式では、有効領域8の距離が固定となるため、移動体通信では使えないという制限がある。
また波面操作法では、空間的に経路を分けるために、各ビームの送出口を数十センチから数メートル離す必要があり、小型化ができないという制限がある。
【0008】
波面操作法では、受信系の波面センサで検知できる空間周波数が制限される。また波面操作法では、受信系の波面センサで検知した波面に基づいて可変形鏡を駆動するまでに時間を要する。この時間は、イメージセンサの読み出し速度と、計算速度と、空間位相変調デバイスの応答速度の和である。その結果、十分な波面操作ができないことがある。
【0009】
この問題に加え、波面操作法では、フィードバック時間の遅れによる受信時の経路と送信時の経路との角度差が問題となる。波面操作法は、特に衛星等の移動体通信への適用が難しい。
【0010】
そこで、本発明は、光送信器、および、空間光通信送信装置について、充分な強度の光を安定して対象に照射することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明に係る光送信器は、お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段と、各前記レーザビームに、それぞれ空間的に異なる位相変調を行う光位相変調器と、前記光位相変調器にて位相変調された各前記レーザビームを単一のレーザビームに合波する合波器と、前記合波器が合波した前記単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系と、を有する構成とする。
【0012】
空間光通信送信装置は、光送信器と、前記レーザビーム発生手段が発生した各前記レーザビームに同一の送信信号を変調する信号変調器と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光送信器、および、空間光通信送信装置について、充分な強度の光を安定して対象に照射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に於ける空間光通信システムの概略を示す構成図である。
【
図2】各レーザビームの輝度と正規化確率密度分布の関係を示すグラフである。
【
図3】空間光通信システムの有効領域を説明する図である。
【
図4】第1実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図5】第2実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図6】第3実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図7】第4実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図8】第5実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図9】第6実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図10】第7実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図11】第8実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図12】第9実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図13】第10実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図14】第11実施形態の光送信器を示す構成図である。
【
図15】空間位相変調制御処理を示すフローチャートである。
【
図16】伝送系から受光系までの計算領域を示す図である。
【
図17】各計算領域の入力面と出力面を示す図である。
【
図19A】光の伝搬シミュレーションを示すフローチャートである。
【
図19B】光の伝搬シミュレーションを示すフローチャートである。
【
図20】第1比較例の空間光通信システムの概略を示す構成図である。
【
図21】第2比較例の空間光通信システムの有効領域を説明する図である。
【
図22】第2比較例の空間光通信システムの有効領域を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。
図1を用いて、本実施形態の空間光通信システムの概略を説明する。
空間光通信システムは、光送信器2と光受信器5とを含んで構成される。光送信器2は、レーザダイオード201,202と、波面制御器621,622と、合波器63と、光学系3とを含んで構成される。
【0016】
レーザダイオード201,202は、お互いにインコヒーレントなレーザビーム611,612を発生するレーザビーム発生手段である。波面制御器621,622が、これらレーザビーム611,612に対し、それぞれ空間的に異なる位相変調を行い、合波器63が合波して光学的に重ね合わせる。そして光学系3は、合波器63が合波した単一のレーザビームを照射対象物である光受信器5に送出する。重ね合わせたレーザビームを同一経路で同時に伝送すると、異なる波面をもつレーザビームが重なり合って光受信器5に到達する。
【0017】
これにより、光受信器5の受光面の輝度分布は一様となる。波面制御器621,622は、波面操作により空間的に光位相を変調させる空間光位相変調器である。これら波面制御器621,622は、計測または推定した屈折率構造関数によって示される統計的な性質に従うように、ランダムな位相変調を動的に行う。
【0018】
異なる波面をもつレーザビームは、同じ経路における同じ大気揺らぎであっても、それぞれランダムに異なる影響を受ける。そのため、それらを重ね合わされた受信側での光強度の空間分布は一様に近くなり、光受信器の口径内に十分な強度の光を安定して受信することができる。受信は、既存の通常の光受信器で行える。なお、
図1では複数のレーザビーム発光手段としてのレーザダイオード201,202を示したが、単一のレーザビーム発生手段と分波器と複数の偏光手段を含むようにしてもよく、限定されない。
【0019】
図2のグラフに本発明の光受信器における受光強度の確率密度分布のシミュレーション結果を示す。グラフの縦軸は正規化した確率密度分布を示し、横軸は輝度を示している。グラフの実線は、4ビームの場合の確率密度分布を示している。グラフの破線は、2ビームの場合の確率密度分布を示している。グラフの一点鎖線は、1ビームの場合の確率密度分布を示している。
【0020】
一点鎖線で示した1ビームの場合、確率密度分布は受信強度が弱いところまで拡がっており、受信デバイスの受信性能以下になる確率が所定割合だけ存在する。これに対して実線で示した4ビームの場合、確率密度分布は平均強度周辺に集中し、受信性能以下になる確率が小さくなっている。破線で示した2ビームの場合の特性は、4ビームの場合の特性と1ビームの場合の特性の中間である。
【0021】
図3は、空間光通信システムの有効領域8を説明する図である。
このように、光送信器2では、波面制御器621,622で重ね合わせた光を同一経路で同時に送信する。よって有効領域8は、距離に依らずに一様に分布する。つまり、本実施形態の光送信器2は、距離に依らずに光受信器5に適切にレーザビームを照射することができる。
【0022】
図4を参照して、第1実施形態の光送信器2Aを説明する。第1実施形態の光送信器2Aは、レーザダイオード20と、偏光制御器22と、レンズ23L,23Rと、半波長板25L,25Rと、波面制御器24L,24Rと、鏡26と、偏光ビームスプリッタ27とを含んで構成される。
【0023】
図4などではレーザダイオード20のことを単に「LD」と省略して記載している。なお、光送信器2Aは、偏光ビームスプリッタ27が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0024】
レーザダイオード20は、入力された信号に応じてレーザビーム(レーザ光)を出射するレーザ光源である。偏光制御器22は、入射光を偏光4Lと偏光4Rに分波する分波器である。ここでレーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせは、お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段に相当する。レーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせは、同一の送信信号を変調した偏光4L,4Rを発生する。第1実施形態の光送信器2Aは、レーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせにより、送信信号を変調したレーザビームを複数発生する空間光通信送信装置である。
【0025】
レンズ23L,23Rは、入射した光の拡がり角を任意に調整可能である。
波面制御器24L,24Rは、透過型であり、波面操作により空間的に光位相を変調させる空間光位相変調器である。これら波面制御器24L,24Rは、計測または推定した屈折率構造関数によって示される統計的な性質に従うように、ランダムな位相変調を動的に行う。
【0026】
具体的にいうと、波面制御器24L,24Rの2次元的配列に従い、それぞれのビームに異なる2次元乱数を発生し、それを二次元フーリエ変換して空間周波数領域に変換する。そして、計測もしくは推定により、屈折率構造関数から導出される数値(定数)が与える空間周波数領域における強度と位相特性の統計的な性質に合わせるように操作して、逆フーリエ変換する。これにより、動的にそれぞれのビームに対する波面制御器24L,24Rの2次元的配列を与えることができる。
【0027】
半波長板25L,25Rは、入射光の2つの垂直偏光成分間にπ(=λ/2)の位相差を与える波長板である。ここで波面制御器24L,24Rと半波長板25L,25Rの組み合わせは、各レーザビームに、それぞれ空間的に異なる位相変調を行う光位相変調器に相当する。
鏡26は、入射光を反射する。偏光ビームスプリッタ27は、直角プリズムを合わせたキューブタイプであり、入射した2つの偏光を合波する合波器に相当する。
【0028】
レーザダイオード20から出射されたレーザビームは、入力信号に応じて変調されており、偏光制御器22により偏光4Lと偏光4Rに分波される。偏光4Lは、レンズ23Lで光の拡がり角が調整されたのち、波面制御器24Lの波面操作により空間的に光位相が変調され、半波長板25Lにより垂直偏光成分間にπの位相差が与えられる。そして、偏光4Lは、鏡26で反射されて偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0029】
偏光4Rは、レンズ23Rで光の拡がり角が調整されたのち、半波長板25Rにより垂直偏光成分間にπの位相差が与えられ、波面制御器24Rの波面操作により空間的に光位相が変調される。そして偏光4Rは、偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0030】
偏光ビームスプリッタ27に入射した偏光4Lと偏光4Rは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Aは、異なる波面をもつ2つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。
【0031】
図5を参照して、第2実施形態の光送信器2Bを説明する。なお、第2実施形態から第11実施形態において、既に説明した構成は、説明を省略するか、あるいは説明を簡略する。第2実施形態の光送信器2Bは、第1実施形態と同様な構成に加えて更に、信号変調器21を備えている。信号変調器21は、入力された信号に応じて入射光の強度を変調するものである。なお、光送信器2Bは、偏光ビームスプリッタ27が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0032】
レーザダイオード20から出射されたレーザビームは、信号変調器21にて変調されたのち、偏光制御器22により偏光4Lと偏光4Rに分波される。これ以降の動作は、第1実施形態と同様である。
第2実施形態の光送信器2Bは、信号変調器21を備える空間光通信送信装置である。
【0033】
図6を参照して、第3実施形態の光送信器2Cを説明する。第3実施形態の光送信器2Cは、第1実施形態と同様な構成に加えて更に、信号変調器21L,21Rとを備え、偏光制御器22の代わりに分波器221及び遅延器28とを備え、かつ半波長板25L,25Rを備えていない。分波器221は、1本のレーザビームを2本に分波するものである。遅延器28は、分波器221において分波されたレーザビーム41Bを遅延させ、レーザビーム41Aとお互いにインコヒーレントにするものである。信号変調器21L,21Rは、入力された信号に応じて入射光の強度を変調するものである。なお、光送信器2Cは、偏光ビームスプリッタ27が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0034】
ここでレーザダイオード20と分波器221と、分波器221が分波したレーザビーム41Bを遅延させる遅延器28は、お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段に相当する。第3実施形態の光送信器2Cは、信号変調器21L,21Rを備える空間光通信送信装置である。
【0035】
レーザダイオード20から出射されたレーザビームは、分波器221によりレーザビーム41A,41Bに分波される。レーザビーム41Aは、信号変調器21Lで変調され、レンズ23Lに入射して光の拡がり角が調整されたのち、透過型の波面制御器24Lの波面操作により空間的に光位相が変調される。そしてレーザビーム41Aは、鏡26で反射されて偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0036】
レーザビーム41Bは、遅延器28で遅延させられ、信号変調器21Rで変調されると、レンズ23Rに入射する。レーザビーム41Bは、レンズ23Rで光の拡がり角が調整されたのち、透過型の波面制御器24Rの波面操作により空間的に光位相が変調される。そしてレーザビーム41Bは、偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0037】
偏光ビームスプリッタ27に入射したレーザビーム41A,41Bは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Cは、異なる波面をもつ2つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。光送信器2Cは、信号変調器21L,21Rを備える空間光通信送信装置である。
【0038】
図7を参照して、第4実施形態の光送信器2Dを説明する。第4実施形態の光送信器2Dは、第1実施形態の透過型の波面制御器24L,24Rに代えて、反射型波面制御器24を備えている。反射型波面制御器24は、入射光を反射する反射型であると共に、異なる偏光をもつ偏光4L,4Rにより同時に異なる波面操作により空間的に光位相を変調させる空間光位相変調器である。なお、光送信器2Dは、偏光ビームスプリッタ27が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。空間的位相変調器である反射型波面制御器24は、例えば所定の広さを有する液晶パネルである。反射型波面制御器24を構成する液晶パネルのなかで偏光4Lが照射する領域と偏光4Rが照射する領域を異らせることにより、それぞれの照射領域が異なる位相変調を与えることができる。
【0039】
なお、反射型波面制御器24は、上下に分かれ、かつ上下で別々の位相変調がなされていてもよい。これら上下の領域にそれぞれ偏光4Lと偏光4Rを照射することで、同時に異なる波面操作を行い、空間的に光位相を変調させることができる。
【0040】
また、第4実施形態の反射型波面制御器24は、特定の偏光方向にのみ位相変調させる。そのため、偏光の方向を制御する半波長板25L,25Rを光路に挿入して、反射型波面制御器24と組み合わせている。しかし、これに限られず、異なる偏光を持つビームに対して同時に別々の空間的位相変調ができるデバイスを採用してもよい。
【0041】
ここでレーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせは、お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段に相当する。レーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせは、同一の送信信号を変調した偏光4L,4Rを発生する。第4実施形態の光送信器2Dは、レーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせにより、送信信号を変調したレーザビームを複数発生する空間光通信送信装置である。
【0042】
レーザダイオード20から出射されたレーザビームは、入力信号に応じて変調されており、偏光制御器22により偏光4Lと偏光4Rに分波される。偏光4Lは、レンズ23Lで光の拡がり角が調整されたのち、反射型波面制御器24で反射される。偏光4Lは、反射型波面制御器24の波面操作により空間的に光位相が変調され、半波長板25Lにより垂直偏光成分間にπの位相差が与えられる。そして偏光4Lは、偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0043】
偏光4Rは、レンズ23Rで光の拡がり角が調整されたのち、半波長板25Rにより垂直偏光成分間にπの位相差が与えられ、反射型波面制御器24で反射される。偏光4Rは、反射型波面制御器24の波面操作により空間的に光位相が変調される。そして偏光4Rは、鏡26で反射されて偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0044】
偏光ビームスプリッタ27に入射した偏光4Lと偏光4Rは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Dは、異なる波面をもつ2つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。
【0045】
図8を参照して、第5実施形態の光送信器2Eを説明する。第5実施形態の光送信器2Eは、第4実施形態と同様な構成に加えて更に、信号変調器21を備えている。信号変調器21は、入力された信号に応じて入射光の強度を変調するものである。なお、光送信器2Eは、偏光ビームスプリッタ27が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0046】
レーザダイオード20から出射されたレーザビームは、信号変調器21にて変調されたのち、偏光制御器22により偏光4Lと偏光4Rに分波される。これ以降の動作は、第4実施形態と同様である。第5実施形態の光送信器2Eは、信号変調器21を備える空間光通信送信装置である。
【0047】
図9を参照して、第6実施形態の光送信器2Fを説明する。第6実施形態の光送信器2Fは、第4実施形態と同様な構成に加えて更に、信号変調器21L,21Rとを備え、偏光制御器22の代わりに分波器221及び遅延器28とを備え、かつ半波長板25L,25Rを備えていない。分波器221は、1本のレーザビームを2本に分波するものである。遅延器28は、分波器221において分波されたレーザビーム41Bを遅延させ、レーザビーム41Aとお互いにインコヒーレントにするものである。
信号変調器21L,21Rは、入力された信号に応じて入射光の強度を変調するものであり、ここでは同一の送信信号を変調している。なお、光送信器2Fは、偏光ビームスプリッタ27が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
ここでレーザダイオード20と分波器221と、分波器221が分波したレーザビーム41Bを遅延させる遅延器28は、お互いにインコヒーレントなレーザビームを複数発生するレーザビーム発生手段に相当する。
【0048】
レーザダイオード20から出射されたレーザビームは、分波器221によりレーザビーム41A,41Bに分波される。レーザビーム41Aは、信号変調器21Lで変調され、レンズ23Lで光の拡がり角が調整されたのち、反射型波面制御器24で反射される。レーザビーム41Aは、反射型波面制御器24の波面操作により空間的に光位相が変調されると、偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0049】
レーザビーム41Bは、遅延器28で遅延させられ、信号変調器21Rで変調されると、レンズ23Rに入射する。レーザビーム41Bは、レンズ23Rで光の拡がり角が調整されたのち、反射型波面制御器24で反射され、かつ反射型波面制御器24の波面操作により空間的に光位相が変調される。そしてレーザビーム41Bは、鏡26で反射されて偏光ビームスプリッタ27に入射する。
【0050】
偏光ビームスプリッタ27に入射したレーザビーム41A,41Bは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Fは、異なる波面をもつ2つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。光送信器2Fは、信号変調器21L,21Rを備える空間光通信送信装置である。
【0051】
図10を参照して、第7実施形態の光送信器2Gを説明する。第7実施形態の光送信器2Gは、第1実施形態の光送信器2Aに相当するものが2台と、鏡263と、偏光ビームスプリッタ273とを備えている。これら2台の光送信器2Aのレーザダイオード20は、同一の送信信号を変調した2つのレーザビームを発生する。なお、光送信器2Gは、偏光ビームスプリッタ273が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0052】
上側の光送信器2Aから送出されたレーザビームは、偏光ビームスプリッタ273に入射する。下側の光送信器2Aから送出されたレーザビームは、鏡263で反射されたのちに偏光ビームスプリッタ273に入射する。
【0053】
偏光ビームスプリッタ273に入射した4つの異なるレーザビームは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Fは、異なる波面をもつ4つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。
第7実施形態の光送信器2Gは、レーザダイオード20と偏光制御器22の組み合わせにより、送信信号を変調したレーザビームを複数発生する空間光通信送信装置である。
【0054】
図11を参照して、第8実施形態の光送信器2Hを説明する。第8実施形態の光送信器2Hは、第2実施形態の光送信器2Bに相当するものが2台と、鏡263と、偏光ビームスプリッタ273とを備えている。これら2台の光送信器2Bは、レーザダイオード20が発生した各前記レーザビームに同一の送信信号を変調する信号変調器21をそれぞれ備える。なお、光送信器2Hは、偏光ビームスプリッタ273が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0055】
上側の光送信器2Bから送出されたレーザビームは、偏光ビームスプリッタ273に入射する。下側の光送信器2Bから送出されたレーザビームは、鏡263で反射されたのちに偏光ビームスプリッタ273に入射する。
【0056】
偏光ビームスプリッタ273に入射した4つの異なるレーザビームは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Gは、異なる波面をもつ4つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。第8実施形態の光送信器2Gは、信号変調器21を備える空間光通信送信装置である。
【0057】
図12を参照して、第9実施形態の光送信器2Iを説明する。第7実施形態の光送信器2は、第4実施形態の光送信器2Dに相当するものが2台と、鏡263と、偏光ビームスプリッタ273とを備えている。これら2台の光送信器2Dのレーザダイオード20は、同一の送信信号を変調した2つのレーザビームを発生する。なお、光送信器2Iは、偏光ビームスプリッタ273が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0058】
上側の光送信器2Dから送出されたレーザビームは、偏光ビームスプリッタ273に入射する。下側の光送信器2Dから送出されたレーザビームは、鏡263で反射されたのちに偏光ビームスプリッタ273に入射する。
【0059】
偏光ビームスプリッタ273に入射した4つの異なるレーザビームは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Iは、異なる波面をもつ4つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。
第9実施形態の光送信器2Iは、2台の光送信器2Dのレーザダイオード20によって同一の送信信号を変調したレーザビームを複数発生する空間光通信送信装置である。
【0060】
図13を参照して、第10実施形態の光送信器2Jを説明する。第10実施形態の光送信器2Jは、第5実施形態の光送信器2Eに相当するものが2台と、鏡263と、偏光ビームスプリッタ273とを備えている。これら2台の光送信器2Eのレーザダイオード20は、同一の送信信号を変調した2つのレーザビームを発生する。なお、光送信器2Jは、偏光ビームスプリッタ273が合波した単一のレーザビームを照射対象物に送出する光学系を備えているが、ここでは記載を省略している。
【0061】
上側の光送信器2Eから送出されたレーザビームは、偏光ビームスプリッタ273に入射する。下側の光送信器2Eから送出されたレーザビームは、鏡263で反射されたのちに偏光ビームスプリッタ273に入射する。
【0062】
偏光ビームスプリッタ273に入射した4つの異なるレーザビームは、合波して同一方向に同時に送出される。これにより光送信器2Jは、異なる波面をもつ4つのレーザビームに信号を重畳して、同一経路で同時に伝送することができる。第10実施形態の光送信器2Jは、信号変調器21を備える空間光通信送信装置である。
【0063】
図14を参照して、第11実施形態の光送信器2Kを説明する。第11実施形態の光送信器2Kは、複数のレーザダイオード20a~20nと、複数の信号変調器21a~21nと、空間的位相変調部29と、合波器63と、光学系3とを備えている。空間的位相変調部29は、複数の空間的位相変調器292a~292nと、これらを制御する空間的位相変調制御部291とを含んで構成される。
【0064】
光伝搬特性を考えて伝送光の電力をできるだけ効率的に受信側に伝えるため、第11実施形態の光送信器2Kは、位相変調を、計測または推定により、屈折率構造関数から導かれた数値(定数)によって示される統計的な性質に従うようにランダムな位相変調を動的に行う。計測または推定により、屈折率構造関数から数値を導く方法は、例えば以下文献に記載されている。
”移動体に対する光空間伝送実現に向けた大気揺らぎの計測技術”レーザ研究第47巻第12号p.688-692(2019)
なお、単に相互に空間的にランダムな位相変調にしても、光伝搬特性を考えると伝送光の電力効率的は落ちるが、同様の効果が得られる。
【0065】
以下に、第11実施形態の光送信器2Kの動作を説明する。複数のレーザダイオード20a~20nは、同一の送信信号を変調したお互いにインコヒーレントな複数のレーザビームを発生する。複数の信号変調器21a~21nは、各レーザビームに同一の送信信号を変調する。複数の空間的位相変調器292a~292nは、計測または推定した屈折率構造関数によって示される統計的な性質に従うように、ランダムな位相変調を動的に行う。つまり空間的位相変調制御部291は、複数の信号変調器21a~21nを制御して、計測または推定した屈折率構造関数によって示される統計的な性質に従うように、ランダムな位相変調を動的に行わせる。この動作について、
図15のフローチャートを参照して説明する。
【0066】
空間的位相変調制御部291は、最初、屈折率構造関数により導かれた数値の入力を受け付ける(ステップS30)。そして、空間的位相変調制御部291は、空間的位相変調部の二次元的配列に従い、各レーザビームに異なる乱数を対応させる(ステップS31)。
【0067】
空間的位相変調制御部291は、各レーザビームに対応させた乱数を、二次元的フーリエ変換により空間周波数領域に変換する(ステップS32)。そして、空間的位相変調制御部291は、変換した空間周波数領域のデータを、入力した屈折率構造関数が与える空間周波数領域における強度と位相特性の統計的な性質に合わせるように演算する(ステップS33)。この演算は、以下の文献に記載されている。
D. L. Fried, "Statistics of a geometric representation of wavefront distortion," Jourlanl of Optical Society of America, 55, 11, pp.1427-1435 (1965)
【0068】
空間的位相変調制御部291は、演算した空間周波数領域のデータを、逆フーリエ変換して、実空間のそれぞれ異なる二次元データに戻す(ステップS34)。更に空間的位相変調制御部291は、実空間のそれぞれ異なる二次元データを、各レーザビームに対する空間的位相変調器の変調データとすると(ステップS35)、
図15の処理を終了する。
【0069】
《光の伝搬シミュレーション》
図16と
図17に基づいて、レーザビームが1本の場合の光の伝搬シミュレーションについて説明する。伝送系の光送信器2から受光系の光受信器5までの間には、大気が存在する。ここでは、伝送系の光送信器2から受光系の光受信器5までの間を適切な距離で分けて小領域81a~81cとし、光の伝搬について逐次計算する。なお、小領域81b,81cのマークは、大気による光の散乱などが発生していることを示している。
【0070】
ここで発明者は、本来は連続量である空間を、計算機で処理するために離散化している。発明者は、光が回折する角度、回折した光が伝搬後に照射する領域の寸法などの諸条件に基づき、離散化の距離の上限値を求めた。そして発明者は、上限値未満の所定距離を選択して計算領域を設定し、シミュレーションを実行している。
【0071】
図17に基づいて小領域81aの計算について説明する。光の伝搬シミュレーションでは、この小領域81aを、入力面と出力面と、それらを繋ぐ中間領域の波面とに分けて計算する。このときコンピュータは、光軸をZ、重力の逆方向をY、水平方向をXとして、フラウンホーファー回折を計算する。
【0072】
ここでコンピュータは、波面の統計的な性質が屈折率構造関数によって示される統計的な性質に従うように計算する。コンピュータは、波面を二次元配列で構成し、配列の各要素に計算機で発生させた乱数を対応させる。コンピュータは、乱数で構成した二次元配列を二次元フーリエ変換し、空間周波数領域にて演算を実行する。コンピュータは、算出された空間周波数分布を逆フーリエ変換することで、波面の形状が得られる。
小領域81aの計算が終了すると、次の小領域81bについて計算する。なお、小領域81aの出力面は、小領域81bの入力面となる。
【0073】
図18に、各距離における計算例を示す。ここでは伝送系からの距離に応じた光の伝搬をシミュレーションしており、距離が離れるほどレーザビームが拡がってゆくことがわかる。ここでは伝送系の開口に、直径5cmのガウスビームのビームウェストがある場合を仮定している。そのため、開口での波面は、平面として計算している。ここでは伝搬距離、伝送する光の直径を5cm、開口1.5μmとし、大気の影響である屈折率構造関数Cnの二乗を10の-14乗として計算する。屈折率構造関数Cnは、大気中の屈折率の変化(=乱流)の大きさを定めるもので、値が大きくなると受信光の揺らぎは大きくなる。
【0074】
構造関数は、ランダムな量の特性を示す指標の一つで、二点間の量の差分の二乗の平均値として与えられる。この二点とは、対象とするランダムな量の性質に応じて、時間や位置(距離)で指定される。大気中の二点での温度の差分の二乗平均値には、二点間の距離の2/3乗に比例することが知られている。その比例係数をCTの二乗とした場合、距離の2/3乗の次元を有する。大気の屈折率の変化は、大気の温度に反比例する。このため、大気中の二点間の屈折率の差分の二乗平均値は、温度の差分の二乗平均値と同様に、二点間の距離の2/3乗に比例する。この比例係数をCnの二乗と表した場合、Cnの二乗は距離の2/3乗の次元を有する。
【0075】
なお、レーザビームが1本の場合の光の伝搬シミュレーションについては、以下の文献を参考にされたい。
今城勝治他、「大気擾乱中のレーザ光伝播シミュレータの開発」、第25回レーザセンシングシンポジウム予稿集、P159-160、(2007)
【0076】
図19Aと
図19Bを参照して、レーザビームが1本の場合の光の伝搬シミュレーションに基づいた、本発明であるお互いにインコヒーレントな複数のレーザビームに異なる空間的光位相変調を施し合波して伝送する場合の光の伝搬シミュレーションを示すフローチャートを説明する。この光の伝搬シミュレーションの処理は、コンピュータによって実施可能である。
最初、コンピュータに、計算条件として、計算条件としてビーム数、波長(1.5μm)、伝搬距離(1km)、初期の光の波面の形状(ウエストビームが5cmのガウシアン分布)、大気の影響である屈折率構造関数、および伝送領域を分割する小領域の長さを設定する(ステップS10)。これによりコンピュータは、以下のシミュレーションが実施可能となる。なお、ここで設定する値は上記のものに限定されない。
【0077】
ステップS11からS19に掛けて、コンピュータは、全てのビームついて受光波面の計算を繰り返す。
コンピュータは、この伝送ビームの波面を二次元配列で構成して、その配列に異なる乱数を対応させて初期の光の波面の形状に重畳し、ビーム毎に異なる伝送系の出力波面の形状を与える(ステップS12)。そしてコンピュータは、屈折率構造関数から大気が光波面に与える位相変化を算出する(ステップS13)。
【0078】
ステップS14からS19は、当該ビームでの全ての小領域の計算の繰り返しである。コンピュータは、当該ビームに対して当該小領域に伝送する光の波面に位相変化分を加える(ステップS14)。コンピュータは、二次元配列にランダムな数値を発生させて、その統計的な性質が屈折率構造関数によって示される統計的な性質と同等になるように、ランダムな数値による二次元配列の二次元周波数領域の演算を実施する。
【0079】
コンピュータは、当該小領域の光の伝搬をフラウンホーファー回折によって求める(ステップS15)。
【0080】
そしてコンピュータは、全ての小領域の計算が終了したか否かを判定する(ステップS16)。コンピュータは、全ての小領域の計算が終了したならば(Yes)、
図19BのステップS18に進む。コンピュータは、全ての小領域の計算が終了していないならば(No)、当該小領域の出力波面形状を次の小領域の入力波面とすると(ステップS17)、ステップS14に戻る。
【0081】
ステップS18にて、コンピュータは、当該ビームの受光波面形状を保存する。ステップS19にて、コンピュータは、全てのビームついて受光波面の計算を繰り返したか否かを判定する。コンピュータは、未だ受光波面の計算をしていないビームが有ったならば、ステップS11に戻る。
【0082】
コンピュータは、全てのビームついて受光波面の計算を繰り返したならば、ステップS20に進み、保存された各ビームの受光面での振幅と位相から各ビームの受光面での強度分布を算出する。コンピュータは、各ビームの受光面での強度分布を重ね合わせて、全てのビームを重ね合わせたときの受光面での強度分布を求める(ステップS21)。そして、コンピュータは、受光面での波形形状の平均値と分散値を求めて、全てのビームを重ね合わせたときの強度の確率密度分布を求めると(ステップS22)、
図19Bの処理を終了する。
【0083】
図2のグラフは、
図19Aと
図19Bに示したフローチャートに従い、波長(1.5μm)、伝搬距離(1km)、初期の光の波面の形状(ウエストビームが5cmのガウシアン分布)、大気の影響である屈折率構造関数(Cn
2=10
-14[m
-2/3])の条件で計算した、各ビーム数に対する本発明の光受信器における受光強度の確率密度分布のシミュレーション結果である。グラフの縦軸は正規化した確率密度分布を示し、横軸は輝度を示している。グラフの実線は、4ビームの場合の確率密度分布を示している。グラフの破線は、2ビームの場合の確率密度分布を示している。グラフの一点鎖線は、1ビームの場合の確率密度分布を示している。
【0084】
《変形例》
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更実施が可能であり、例えば、次の(a)~(d)のようなものがある。
(a) 光送信器の組み合わせは第6実施形態から第10実施形態に限られず、任意の形式の光送信器を組み合わせてもよく、限定されない。
【0085】
(b) レーザビームを発生される手段は、レーザダイオードに限定されず、気体レーザ、固体レーザ、液体レーザの媒質を用いてもよい。また、励起源として放電、フラッシュランプや化学反応を用いてもよい。
【0086】
(c) 複数のレーザビームを単一のレーザビームに合波する合波器は、偏光ビームスプリッタに限定されない。
(d) 光送信器は、信号が重畳されていなレーザビームを送出してもよい。これにより、例えば人工衛星に搭載の光送信器から送出された光によって、この人工衛星を追尾することができる。
【符号の説明】
【0087】
2,2A~2K,2L,2R 光送信器
20 レーザダイオード (レーザビーム発生手段)
21,21L,21R 信号変調器
22 偏光制御器 (分波器)
23L,23R レンズ (光学系)
24L,24R 波面制御器 (光位相変調器)
24 反射型波面制御器 (光位相変調器)
25L,25R 半波長板 (偏光手段)
26,263 鏡
27,273 偏光ビームスプリッタ (合波器)
28 遅延器 (光位相変調器)
3 光学系
4L,4R 偏光
41A,41B レーザビーム
5 光受信器
61,611,612 レーザビーム
621,622 波面制御器
63 合波器
71 レーザビーム
8 有効領域
81a~81c 小領域