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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106154
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】皮膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20230725BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230725BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230725BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20230725BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C23C28/00 A
B05D7/14 A
B05D7/24 303C
B05D7/24 302Y
B05D3/10 Z
B05D3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007312
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】312012760
【氏名又は名称】株式会社鈴木商店
(71)【出願人】
【識別番号】503121088
【氏名又は名称】株式会社ビー・ビー・エム
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137615
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 照夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘朗
(72)【発明者】
【氏名】合田 裕一
【テーマコード(参考)】
4D075
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075AE05
4D075BB16X
4D075BB61X
4D075BB65X
4D075BB74X
4D075BB77X
4D075BB79X
4D075BB87X
4D075BB91X
4D075BB95X
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB02
4D075DB05
4D075EB22
4D075EB33
4D075EB43
4D075EC07
4D075EC10
4D075EC30
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA14
4K044BA15
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044BC04
4K044CA04
4K044CA16
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】亜鉛または亜鉛合金皮膜と混合皮膜との密着性を向上させることが可能な皮膜形成方法を提供する。
【解決手段】皮膜形成方法は、下地材10上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面を、強アルカリ溶液に曝す処理を施す工程と、前記強アルカリ溶液に曝した前記亜鉛または亜鉛合金皮膜上に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜14を形成する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地材上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面に、強アルカリ溶液に曝す処理を施す工程と、
前記処理を施した前記亜鉛または亜鉛合金皮膜上に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、
を含む皮膜形成方法。
【請求項2】
下地材上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面に、前記表面の最大高さ粗さRzが処理を行う前における前記表面の最大高さ粗さRz2より小さい最大高さ粗さRz3になった後、前記Rzが前記Rz3より大きくなる処理を施す工程と、
前記処理を施した前記表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、
を含む皮膜形成方法。
【請求項3】
下地材上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面に、前記表面の凹凸の凹部に前記凹凸の幅より狭い線状の溝を形成する処理を施す工程と、
前記処理を施した前記表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、
を含む皮膜形成方法。
【請求項4】
前記処理は、前記表面の最大高さ粗さRzが前記処理を行う前における前記表面の最大高さ粗さRz2より小さい最大高さ粗さRz3になった後、前記Rzが前記Rz3より大きくなる処理である請求項1または3に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
前記処理は、前記亜鉛または亜鉛合金皮膜の前記表面に前記表面における凹凸の幅より幅の狭い線状の溝を形成する処理である請求項1または2に記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
前記処理は、前記表面の最大高さ粗さRzが前記亜鉛または亜鉛合金皮膜を形成する前の前記下地材の表面の最大高さ粗さRz1より小さくなった後、前記Rzが前記Rz1以上となる処理である請求項1から5のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項7】
前記強アルカリ溶液は、アルカリ金属の水酸化物の水溶液である請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項8】
前記亜鉛または亜鉛合金皮膜は、亜鉛ニッケル合金皮膜である請求項1または7に記載の皮膜形成方法。
【請求項9】
前記混合皮膜を形成する工程は、亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで前記混合皮膜を形成する工程である請求項1、7および8のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項10】
前記強アルカリ溶液に曝す工程の前に、前記亜鉛または亜鉛合金皮膜に三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を行う工程を含む請求項1および7から9のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項11】
前記混合皮膜上にシリカ皮膜を形成する工程を含む請求項1および7から10のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項12】
下地材上に、電気めっき法を用い亜鉛ニッケル合金皮膜を形成する工程と、
前記亜鉛ニッケル合金皮膜に三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を施す工程と、
前記クロメート処理を施した亜鉛ニッケル合金皮膜の表面に、アルカリ金属の水酸化物の水溶液である強アルカリ溶液に曝す処理を施す工程と、
前記処理を施した前記亜鉛ニッケル合金皮膜上に亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、
を含む皮膜形成方法。
【請求項13】
前記処理は、前記表面の最大高さ粗さRzが前記処理を行う前における前記表面の最大高さ粗さRz2より小さい最大高さ粗さRz3になった後、前記Rzが前記Rz3より大きくなる処理である請求項12に記載の皮膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜形成方法に関し、例えば亜鉛または亜鉛合金皮膜上に混合皮膜を形成する工程を有する皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛または亜鉛合金皮膜の耐食性向上のため、亜鉛または亜鉛合金皮膜上に、亜鉛、アルミニウムおよびシリカ化合物を含む混合皮膜を焼付塗装し、その上に多孔質シリカ皮膜を形成することが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-84510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、耐食性を高めることができる。しかしながら、過酷な条件下では亜鉛または亜鉛合金皮膜と混合皮膜とに剥がれが生じることがある。これにより、耐食性が低下することがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、亜鉛または亜鉛合金皮膜と混合皮膜との密着性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下地材上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面に、強アルカリ溶液に曝す処理を施す工程と、前記処理を施した前記亜鉛または亜鉛合金皮膜上に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、を含む皮膜形成方法である。
【0007】
本発明は、下地材上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面に、前記表面の最大高さ粗さRzが処理を行う前における前記表面の最大高さ粗さRz2より小さい最大高さ粗さRz3になった後、前記Rzが前記Rz3より大きくなる処理を施す工程と、前記処理を施した前記表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、を含む皮膜形成方法である。
【0008】
本発明は、下地材上に形成された亜鉛または亜鉛合金皮膜の表面に、前記表面の凹凸の凹部に前記凹凸の幅より狭い線状の溝を形成する処理を施す工程と、前記処理を施した前記表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、を含む皮膜形成方法である。
【0009】
上記構成において、前記処理は、前記表面の最大高さ粗さRzが前記処理を行う前における前記表面の最大高さ粗さRz2より小さい最大高さ粗さRz3になった後、前記Rzが前記Rz3より大きくなる処理である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記処理は、前記亜鉛または亜鉛合金皮膜の前記表面に前記表面における凹凸の幅より幅の狭い線状の溝を形成する処理である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記処理は、前記表面の最大高さ粗さRzが前記亜鉛または亜鉛合金皮膜を形成する前の前記下地材の表面の最大高さ粗さRz1より小さくなった後、前記Rzが前記Rz1以上となる処理である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記強アルカリ溶液は、アルカリ金属の水酸化物の水溶液である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記亜鉛または亜鉛合金皮膜は、亜鉛ニッケル合金皮膜である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記混合皮膜を形成する工程は、亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで前記混合皮膜を形成する工程である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記強アルカリ溶液に曝す工程の前に、前記亜鉛または亜鉛合金皮膜に三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を行う工程を含む構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記混合皮膜上にシリカ皮膜を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0017】
本発明は、下地材上に、電気めっき法を用い亜鉛ニッケル合金皮膜を形成する工程と、前記亜鉛ニッケル合金皮膜に三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を施す工程と、前記クロメート処理を施した亜鉛ニッケル合金皮膜の表面に、アルカリ金属の水酸化物の水溶液である強アルカリ溶液に曝す処理を施す工程と、前記処理を施した前記亜鉛ニッケル合金皮膜上に亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜を形成する工程と、を含む皮膜形成方法である。
【0018】
上記構成において、前記処理は、前記表面の最大高さ粗さRzが前記処理を行う前における前記表面の最大高さ粗さRz2より小さい最大高さ粗さRz3になった後、前記Rzが前記Rz3より大きくなる処理である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、亜鉛または亜鉛合金皮膜と混合皮膜との密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)から図1(e)は、実施形態1に係る皮膜形成方法を示す断面模式図である。
図2図2(a)および図2(b)は、アルカリ粗し処理時間tに対する工程5後の表面の最大高さ粗さRzおよび算術平均粗さRaを示す模式図である。
図3図3は、実験1における工程2後の亜鉛系皮膜12の表面の金属顕微鏡写真である。
図4図4は、実験4における工程3後の亜鉛系皮膜12の表面の金属顕微鏡写真である。
図5図5は、実験4における工程3後の亜鉛系皮膜12の表面の金属顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施形態1]
図1(a)から図1(e)は、実施形態1に係る皮膜形成方法を示す断面図である。
【0022】
[工程1:下地材の準備]
図1(a)に示すように、下地材10を準備する。下地材10は、例えば鉄(Fe)または鉄合金であり、例えばボルト、ナット等である。鉄合金は、鉄を50質量%以上含む。下地材10は鉄または鉄合金以外の部材でもよく、例えば銅、アルミニウムまたはこれらの合金等の金属材料または硬めの樹脂でもよい。
【0023】
[工程2:亜鉛系皮膜12の形成]
図1(b)に示すように、下地材10上に、亜鉛系皮膜12を形成する。亜鉛系皮膜12は、亜鉛または亜鉛合金皮膜である。亜鉛系皮膜12は、例えば亜鉛皮膜、亜鉛ニッケル合金皮膜、亜鉛鉄合金皮膜、亜鉛錫合金皮膜である。亜鉛皮膜は亜鉛以外の元素を意図的に含まない。亜鉛合金皮膜における亜鉛の含有量は例えば70~99質量%であり、亜鉛以外の意図的に含有する金属元素の含有量は例えば1~30質量%である。意図的に含有しない不回避金属元素の含有率は1質量%以下である。亜鉛系皮膜が亜鉛ニッケル合金皮膜のとき、亜鉛ニッケル合金皮膜における亜鉛の含有率は70質量%以上かつ99質量%以下でありニッケルの含有率は1質量%以上かつ30質量%以下であることが好ましく、亜鉛の含有率は85質量%以上かつ90質量%以下でありニッケルの含有率は10質量%以上かつ15質量%以下であることがより好ましい。亜鉛ニッケル合金皮膜は亜鉛およびニッケル以外の金属元素を意図的に含んでもよいし、意図的に含まなくてもよい。亜鉛ニッケル合金皮膜に含まれる亜鉛およびニッケル以外の金属元素の含有率(質量%)はニッケルの含有率(質量%)より小さい。亜鉛ニッケル合金皮膜に含まれる亜鉛およびニッケル以外の金属元素の含有率(質量%)はニッケルの含有率(質量%)の1/10以下がより好ましく、例えば5原子%以下であり、1原子%以下である。亜鉛系皮膜12の形成方法は電気めっき法を用い形成してもよいし、溶融めっき法を用い形成してもよい。膜厚の制御性および表面を滑らかに形成するため電気めっき法を用いることが好ましい。めっき液には光沢剤を含んでもよい。亜鉛系皮膜12の膜厚は例えば1μm~20μmであり、一例として6μmである。
【0024】
亜鉛ニッケル合金を形成した後クロメート処理を行ってもよい。これにより、亜鉛系皮膜12上にクロメート皮膜が形成される。クロメート処理としては、例えば三価または六価を含む処理液を用い、亜鉛系皮膜12の表面を処理する。処理液は例えばクロム酸を含む。環境負荷の大きい六価クロムを用いない観点から処理液は三価クロムを含み六価クロムをほとんど含まないことが好ましい。亜鉛系皮膜12が形成された下地材10を処理液に浸漬することで、亜鉛系皮膜12の表面にクロムを含む不動態皮膜(すなわちクロメート皮膜)が形成される。クロメート皮膜の膜厚は例えば0.05μm~1μmであり、一例として0.2μmである。
【0025】
[工程3:アルカリ粗し処理]
次に、図1(c)に示すように、亜鉛系皮膜12の表面にアルカリ粗し処理を行う。これにより、亜鉛系皮膜12の表面が粗面15となる。アルカリ粗し処理は、亜鉛系皮膜12の表面を強アルカリ溶液に曝すことで、亜鉛系皮膜12の表面を粗くする強アルカリ溶液処理である。強アルカリ溶液としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物の水溶液、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、またはテトラオルキルアンモニウムの水酸化物の水溶液を用いる。アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビシウムまたは水酸化セシウムである。アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムまたは水酸化バリウムである。テトラオルキルアンモニウムの水酸化物は、例えば水酸化テトラメチルアンモニウムまたは水酸化テトラエチルアンモニウムである。強アルカリ溶液の水酸化物の濃度は強アルカリ性(強塩基性)を保てる濃度である。例えば水酸化ナトリウム水溶液では、NaOHの濃度は1g/L~1000g/Lであり、一例として100g/Lである。
【0026】
亜鉛系皮膜12の表面を強アルカリ溶液に曝す方法としては、例えば亜鉛系皮膜12が形成された下地材10を強アルカリ溶液に浸漬させる方法、または強アルカリ溶液を亜鉛系皮膜12にスプレーする方法を用いることができる。処理温度は適宜設定できるが、例えば20℃~30℃である。亜鉛系皮膜12の表面を強アルカリ溶液に曝した後、水洗し乾燥させる。水洗は、例えば下地材を流水に浸漬させる方法、または水を亜鉛系皮膜12にスプレーする方法を用いる。乾燥は、例えば下地材10を加熱することにより行う。乾燥温度は例えば80℃~120℃であり、乾燥時間は例えば10分~30分である。
【0027】
[工程4:混合皮膜14の形成]
次に、図1(d)に示すように、強アルカリ溶液に曝した亜鉛系皮膜12上に混合皮膜14を形成する。混合皮膜14の形成は、亜鉛系皮膜12上に複合皮膜用溶剤を塗布し、加熱処理(焼付け処理)することで形成する。複合皮膜用溶剤は、亜鉛粉体、有機ケイ素化合物および溶媒を含む。複合皮膜用溶液は、亜鉛粉体に加え、アルミニウム粉体、ニッケル粉体、錫粉体、鉄粉体およびマグネシウム粉体の少なくとも1種類の金属粉体を含んでいてもよい。特に、複合皮膜用溶液は、亜鉛粉体とアルミニウム粉体を含むことが好ましい。亜鉛粉体および金属粉体の形状は、例えば球状でもよいし鱗片状でもよい。粉体の短径は例えば0.05μm~5μmであり、長径は例えば0.5μm~100μmである。亜鉛粉体は、例えば亜鉛を90質量%以上または99質量%以上含む。亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)は、例えば亜鉛以外の金属元素(例えばアルミニウム)を90質量%以上または99質量%以上含む。亜鉛粉体と亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)との合計の粉体質量に対する亜鉛粉体の質量の比は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。亜鉛粉体と亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)との合計の粉体質量に対する亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム)の質量の比は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
【0028】
有機ケイ素化合物は例えばアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む。アルコキシシランは、特に炭素数が3個以下のテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランが好ましい。複合皮膜用溶液の溶媒は、例えばアルコール類、エステル類、グリコール類またはエーテル類である。溶媒は、特にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、メトキシブタノール、メトキシメチルブタノール等のアルコール類が好ましい。複合皮膜用溶液内の亜鉛粉体および金属粉体の合計の含有量は例えば20~60質量%である。溶液内の有機シリコン化合物の含有量は例えば5~40質量%である。複合皮膜用溶液内の有機溶剤の含有量は例えば10~60質量%である。
【0029】
複合皮膜用溶液の亜鉛系皮膜12の表面への塗布は、例えば浸漬法、スプレー法またはスピンコート法を用いる。複合皮膜用溶液を塗布した後の加熱処理の温度は例えば100℃~400℃である。加熱処理の温度は複合皮膜用溶液内の溶媒が蒸発する温度以上である。加熱処理の時間は例えば10分~120分である。これにより、亜鉛系皮膜12の表面に混合皮膜14が形成される。混合皮膜14の膜厚は、例えば1μm~20μmであり、一例として8μmである。混合皮膜14内の亜鉛粉体および亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)の合計の含有量は例えば70質量%以上かつ95質量%以下であり、シリコン化合物の含有量は例えば5質量%以上かつ30質量%以下である。亜鉛粉体と亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)との合計の粉体質量に対する亜鉛粉体の質量の比は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。一例として混合皮膜14における亜鉛粉体の含有量は70質量%、アルミニウム粉体の含有量は15質量%、シリコン化合物の含有量は15質量%である。
【0030】
[工程5:多孔質シリカ皮膜16の形成]
次に、図1(e)に示すように、混合皮膜14上に多孔質シリカ皮膜16を形成する。多孔質シリカ皮膜16の形成は、混合皮膜14上にシリカ皮膜用溶液を塗布し、加熱処理(焼付け処理)することで形成する。シリカ皮膜用溶液は、シリコン化合物および溶媒を含む。シリコン化合物は例えばオルガノシロキサンおよびシランカップリング剤の少なくとも一方である。シリコン化合物は、ケイ酸アルカリ金属を含んでもよい。シリカ皮膜用溶液はチタン化合物を含んでもよい。チタン化合物は例えば有機チタネート化合物である。シリカ皮膜用溶液の溶媒は、例えば水、アルコール類、エステル類、グリコール類またはエーテル類である。シリカ皮膜用溶液内のシリコン化合物の含有量は例えば40質量%以上かつ90質量%以下であり、溶媒の含有量は例えば10質量%以上かつ60質量%以下である。シリカ皮膜用溶液を混合皮膜14の表面へ塗布することで、混合皮膜14の表面に例えばポリオルガノシロキサン薄膜が形成される。
【0031】
シリカ皮膜用溶液の混合皮膜14の表面への塗布は、例えば浸漬法、スプレー法またはスピンコート法を用いる。シリカ皮膜用溶液を塗布した後の加熱処理の温度は例えば100℃~400℃である。加熱処理の温度はシリカ皮膜用溶液内の溶媒が蒸発する温度以上である。加熱処理の時間は例えば10分~120分である。これにより、混合皮膜14の表面に多孔質シリカ皮膜16が形成される。多孔質シリカ皮膜16の膜厚は、例えば0.1μm~10μmであり、一例として1μmである。多孔質シリカ皮膜16がシリコン化合物とチタン化合物を含む場合、シリコン化合物の含有量は例えば50質量%以上かつ95質量%以下であり、チタン化合物の含有量は例えば5質量%以上かつ50質量%以下であり、一例としてシリコン化合物およびチタン化合物の含有量はそれぞれ75質量%および25質量%である。
【0032】
図2(a)および図2(b)は、アルカリ粗し処理時間tに対する工程5後の表面の最大高さ粗さRzおよび算術平均粗さRaを示す模式図である。最大高さ粗さRzはJISB601(ISO4287)に規定されており、輪郭曲線の最大山高さと輪郭曲線の最大山深さの和である。図2(a)において、Rz1は工程1後の下地材10の表面の最大高さ粗さRzを示す。Rz2は、工程2後かつ工程3前の亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzを示す。一般的に、Rz2はRz1より大きいが、Rz2はRz1より小さいこともある。アルカリ粗し処理の時間が短いとき、処理時間tが長くなると最大高さ粗さRzがRz2より小さくなる。処理時間tがt1となると、最大高さ粗さRzは最小のRz3になる。さらに処理時間tが長くなると、最大高さ粗さRzはRz3より大きくなる。処理時間tがt2のとき、最大高さ粗さRzはRz1となる。処理時間がt3のとき最大高さ粗さRzはRz2となる。
【0033】
図2(b)において、Ra1は工程1後の下地材10の表面の算術平均粗さRaを示す。Ra2は、工程2後かつ工程3前の亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRaを示す。Ra2はRa1より小さいが、Ra2はRa1より大きいこともある。アルカリ粗し処理の時間が短いとき、処理時間tが長くなると算術平均粗さRaがRa2より小さくなる。処理時間tがt1´となると、算術平均粗さRaは最小のRa3になる。さらに処理時間tが長くなると、算術平均粗さRaはRa3より大きくなる。処理時間tがt2´のとき、算術平均粗さRaはRa2となる。処理時間tがt3´のとき算術平均粗さRaはRa1となる。
【0034】
亜鉛系皮膜12の表面を金属顕微鏡を用い観察すると、処理時間がt1からt2、および/またはt1´からt2´付近において、亜鉛系皮膜12の表面の凹凸の幅より小さい幅の溝(クラック)が観察できる。
【0035】
実施形態1では、図1(c)のように、下地材10上に形成された亜鉛系皮膜12の表面を、強アルカリ溶液に曝す処理を施す。図1(d)のように、強アルカリ溶液に曝した亜鉛系皮膜12上に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜14を形成する。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が向上する。なお、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝すことで、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が向上する理由は明確ではないが、以下に説明する実施例のように、亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzが同じでも、強アルカリ溶液に曝すことにより亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が向上している。このことから、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝すことで、亜鉛系皮膜12の表面が粗くなることのみが理由ではないと考えられる。亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝すことにより、亜鉛系皮膜12の表面が変質することまたは表面にクラックが形成されることが密着性向上の一因ではないかと考えられる。
【0036】
アルカリ金属の水酸化物水溶液は水酸化ナトリウム水溶液と同様の化学的特性がある。よって、強アルカリ溶液として、アルカリ金属の水酸化物の水溶液を用いる。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が向上する。
【0037】
図2(a)において、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す処理は、亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzが亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す前における亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRz2より小さいRz3となった後、最大高さ粗さRzがRz3より大きくなる処理である。すなわち、図2(a)において処理時間tはt1より長い時間である。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が向上する。
【0038】
図2(a)において、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す処理は、亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzが亜鉛系皮膜12を形成する前の下地材10の表面の最大高さ粗さRz1より小さくなった後、最大高さ粗さRzがRz1以上となる処理である。すなわち、図2(a)において、処理時間tはt2より長い時間である。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性がより向上する。
【0039】
図2(a)において、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す処理は、亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzが亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す前における亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRz2より小さくなった後、最大高さ粗さRzがRz2以上となる処理である。すなわち、図2(a)において、処理時間t1はt3より長い時間である。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性がさらに向上する。
【0040】
図2(b)において、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す処理は、亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRaが亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す前における亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRa2より小さいRa3となった後、算術平均粗さRaがRa3より大きくなる処理である。すなわち、図2において処理時間tはt1´より長い時間である。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が向上する。
【0041】
図2(b)において、亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す処理は、亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRaが亜鉛系皮膜12を強アルカリ溶液に曝す前における亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRa2より小さくなった後、算術平均粗さRaがRa2以上となる処理である。すなわち、図2(b)において、処理時間tはt2´より長い時間である。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性がより向上する。
【0042】
処理は、アルカリ粗し処理以外であってもよく、亜鉛系皮膜12の表面に、RzがRz2より小さいRz3になった後、RzがRz3より大きくなる処理を施せばよい。また、処理は、RzがRz1より小さくなった後、RzがRz1以上となる処理でもよい。さらに、処理は、RaがRa2より小さいRa3になった後、RaがRa3より大きくなる処理でもよく、RaがRa2より小さくなった後、RaがRa2以上となる処理でもよい。処理は、亜鉛系皮膜の表面に凹凸の幅より幅の狭い線状の溝を形成する処理でもよい。
【0043】
アルカリ粗し処理後の亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzは1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。
【0044】
混合皮膜14を形成する工程は、亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで混合皮膜14を形成する工程である。亜鉛系皮膜12の表面にアルカリ粗し処理を施さず、上記方法を用い混合皮膜14を形成すると亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性が低下することがある。よって、亜鉛系皮膜12上に上記方法を用い混合皮膜14を形成する場合、亜鉛系皮膜12の表面にアルカリ粗し処理を施すことが好ましい。
【0045】
亜鉛系皮膜12が亜鉛ニッケル合金皮膜のとき、アルカリ粗し処理を行うことで、亜鉛ニッケル合金皮膜と混合皮膜14との密着性がより向上する。
【0046】
アルカリ粗し処理の前に、亜鉛系皮膜12に三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を行う。これにより、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との密着性がより向上する。
【0047】
また、図1(e)のように、混合皮膜14上に多孔質シリカ皮膜16(シリカ皮膜)を形成してもよい。これにより、亜鉛系皮膜12の耐食性がより向上する。
【実施例0048】
実施例および比較例として、以下の実験を行った。実験の工程は以下である。
工程1:下地材10としてSPCC-SD鋼材を準備した。
【0049】
工程2:下地材10に電気めっきを施し亜鉛系皮膜12として亜鉛ニッケル合金皮膜を形成した。亜鉛とニッケルとの質量比を20:3とし、水酸化ナトリウム水溶液に溶解させためっき液を用いた。亜鉛系皮膜12を形成後、亜鉛系皮膜12の表面を水洗した。亜鉛系皮膜12の膜厚は約6μmであり、亜鉛系皮膜12内の亜鉛の含有率は87~92質量%、ニッケルの含有量は8~13質量%である。その後、三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を行った。クロメート処理によりクロメート皮膜の膜厚は約0.2μmである。
【0050】
工程3:亜鉛系皮膜12の表面にアルカリ粗し処理を行った。強アルカリ溶液はNaOHの濃度が100g/Lの水溶液を用いた。処理温度は20℃~30℃であり、処理時間は30秒~10分の間で変化させた。
【0051】
工程4:アルカリ粗し処理した亜鉛系皮膜12の表面に混合皮膜14を形成した。複合皮膜用溶液として、ユケン工業株式会社製 メタス YC-B17Jとメタス YC-B3とを体積比25:3の比率で混合し、亜鉛系皮膜12の表面に塗布した。その後、250℃~290℃において30分以上の加熱処理を行った。以上の塗布および加熱処理を2回繰り返した。YC-B17Jには、亜鉛粉体、亜鉛以外の金属粉体としてアルミニウム粉体、有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシランが含まれている。混合皮膜14の膜厚は約8μmであり、混合皮膜14内の亜鉛、アルミニウムおよびシリコン化合物の含有率はそれぞれ70質量%、15質量%および15質量%である。
【0052】
工程5:混合皮膜14の表面に多孔質シリカ皮膜16を形成した。シリカ皮膜用溶液として、シリコン化合物および溶媒を有する薬液、エポキシ系樹脂および溶媒を有する薬液、並びにアクリル系樹脂および溶媒を有する薬液の3つの薬液を混合し、混合皮膜14の表面に塗布した。その後、110℃~160℃において10分以上の加熱処理を行った。多孔質シリカ皮膜16の膜厚は約1μmである。
【0053】
工程6:工程5の後、JIS-K5600-5-6(ISO2409)により規定されているクロスカット法を用い皮膜の付着性を評価した。皮膜に1mm間隔で格子状の11本×11本の切り込みを入れ、切り込みを入れた皮膜上に粘着テープを貼り付けはがす。切り込みを入れた領域の皮膜の剥がれの程度により皮膜の密着性を評価した。剥がれの程度はJIS-K5600-5-6の分類とした。分類0では、剥がれがほとんどなく、分類が大きくなると剥がれが大きいことを示している。
【0054】
以下の実験1および実験2を行った。実験1と実験2とは再現性を確認するため、同じ方法で実験を行った。実験1では、工程2の前、工程2の後および工程3の後に、表面の粗さを評価した。表面粗さとして算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzを測定した。算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzは、株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープ(VHX-8000)を用い測定した。また、亜鉛系皮膜12の膜厚およびNi組成を測定した。膜厚およびNi組成は、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製蛍光X線式膜厚測定器(FISCHERSCOPE X-RAY XAN252)を用い測定した。XAN252は、SDD(Silicon Drift Detector)を有するEDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)分析装置である。さらに、金属顕微鏡を用い亜鉛系皮膜12の表面観察を行った。表面観察では、VHX-8000を用い倍率150倍において顕微鏡写真を撮影し、撮影した写真から表面のクラックの有無を観察した。さらに、工程4~工程6を行ったサンプルの密着性を測定した。密着性の測定はクロスカット法を用いた。実験2では、算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzを測定、並びに密着性の測定を行った。
【0055】
表1は、実験1における各工程での算術平均粗さRa、最大高さ粗さRz、クラックの有無および密着性を示す表であり、表2は、実験1における各工程での膜厚、Ni組成を示す表である。表1および表2において、「工程2前」における「Ra」および「Rz」は、下地材10に亜鉛系皮膜12を形成する前の下地材10の算術平均粗さRa1および最大高さ粗さRz1を示している。「工程2後」における「Ra」、「Rz」および「クラック」は下地材10上に亜鉛系皮膜12を形成した後かつアルカリ粗し処理前における亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRa2、最大高さ粗さRz2および顕微鏡観察におけるクラックの有無をそれぞれ示している。「工程2後」における「密着性」は、工程3を行わず、工程2の後に工程4および工程5を行ったサンプルのクロスカット法の分類を示している。「工程3後」における「Ra」、「Rz」、「クラック」「膜厚」および「Ni組成」は、工程3におけるアルカリ粗し処理の処理時間を30秒~20分とした後、工程4および工程5の前における算術平均粗さRa、最大高さ粗さRz、顕微鏡観察におけるクラックの有無、亜鉛系皮膜12の表面の亜鉛系皮膜12の膜厚、およびNi組成をそれぞれ示している。「工程3後」における「密着性」は、工程3におけるアルカリ粗し処理の処理時間を30秒~20分とした後、工程4~工程6を行ったサンプルのクロスカット法の分類を示している。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1および表2に示すように、工程2前の算術平均粗さRa1および最大高さ粗さRz1はそれぞれ1.04μmおよび4.53μmである。工程2後の算術平均粗さRa2および最大高さ粗さRz2はそれぞれ0.92μmおよび4.98μmである。亜鉛系皮膜12を形成することで算術平均粗さRaは小さくなり、最大高さ粗さRzは大きくなる。工程3後、強アルカリ溶液処理を30秒行うと、算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzはそれぞれ0.48μmおよび3.70μmとなり、表面が滑らかになる。このRaおよびRzはそれぞれRa3およびRz3である。アルカリ粗し処理の時間を長くしていくと、RaおよびRzは徐々に大きくなる。アルカリ粗し処理の時間が1分のとき、RaおよびRzはそれぞれRa3およびRz3より大きくなる。アルカリ粗し処理の時間が3分のとき、RzはRz1より大きくなる。アルカリ粗し処理の時間が5分のとき、RaはRa2より大きくなる。アルカリ粗し処理時間が10分のとき、RzはRz2より大きくなる。アルカリ粗し処理時間が20分のとき、RaはRa1より大きくなる。アルカリ粗し処理の時間が長くなると、膜厚はあまり変わらず、Ni組成はやや大きくなる。
【0059】
図3は、実験1における工程2後の亜鉛系皮膜12の表面の金属顕微鏡写真である。図4および図5は、実験1における工程3後の亜鉛系皮膜12の表面の金属顕微鏡写真である。図4および図5において、アルカリ粗し処理の時間は5分である。図3図5において倍率は150倍である。図3に示すように、亜鉛系皮膜12の表面には凹凸が形成される。薄い領域は凸部であり濃い領域は凹部である。
【0060】
図3および図4に示すように、亜鉛系皮膜12の表面には凹凸が形成される。薄い領域は凸部であり濃い領域は凹部である。図4には、亜鉛系皮膜12の表面に形成されたクラックと考えられる白い線のクラックが形成されている。図5では、図4のクラックに相当する箇所に白線を示している。クラックは亜鉛系皮膜12の表面の溝と考えられる。クラックの幅は亜鉛系皮膜12の凸部および凹部の幅より小さく、長さは数十μm~200μmである。図3では、クラックは観察されない。表1の「クラック」では、亜鉛系皮膜12の表面にクラックが観察されないとき「なし」と記載し、クラックが観察されたとき「あり」と記載している。図4および図5ほどではないが少しクラックが観察されたとき「少しあり」と記載している。表1のように、工程2後およびアルカリ粗し処理の時間が1分以下ではクラックは観察されず、アルカリ粗し処理の時間が3分ではクラックは少し観察され、アルカリ粗し処理の時間が5分以上ではクラックが観察される。
【0061】
表3は実験2における各工程での算術平均粗さRa、最大高さ粗さRzおよび密着性を示す表である。
【表3】
【0062】
表3に示すように、工程2前の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzをRa1およびRz1、工程2後の算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzをRa2およびRz2とする。Ra2はRa1より小さく、Rz2はRz1より大きくなる。工程3後ではアルカリ粗し処理の時間が0.5分のとき、Raは最小のRa3となり、アルカリ粗し処理時間が1分のときRzは最小のRz3となる。算術平均粗さRaは、アルカリ粗し処理時間が1分においてRa3より大きくなり、アルカリ粗し処理時間が3分においてRa2より大きくなり、アルカリ粗し処理時間が20分においてRa1より大きくなる。最大高さ粗さRzは、時間が3分においてRz1~Rz3より大きくなる。
【0063】
実験1および実験2において、アルカリ粗し処理である工程3を行わないサンプルのクロスカット法の分類は4である。工程3におけるアルカリ粗し処理の時間が30秒のサンプルでは、分類は4である。工程3におけるアルカリ粗し処理の時間が1分となるとクロスカット法の分類は2となり、工程3におけるアルカリ粗し処理の時間が3分のサンプルではクロスカット法の分類は1となる。工程3におけるアルカリ粗し処理の時間が5分および10分のサンプルではクロスカット法の分類は0となる。
【0064】
表1および表3のように、アルカリ粗し処理の時間が長くなると分類が小さくなり、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との間の密着性が向上する。一般的に亜鉛系皮膜12の表面粗さが大きくなると亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との間の密着性が向上すると考えられる。しかし、工程3におけるアルカリ粗し処理の時間が1分のサンプルでは、RaおよびRzが工程3を行わないサンプルのRa2およびRz2より小さいにもかかわらず、亜鉛系皮膜12と混合皮膜14との間の密着性が向上している。この理由は明確ではないが、単にRaおよびRzが大きければ密着性がよいわけではないと考えられる。RaおよびRzがRa3およびRz3より大きくなる時間(1分または3分)以上となると密着性は「2」または「1」となる。また、RaではRa2より大きくなる時間(3分または5分)以上、RzではRz1より大きくなる時間(3分)以上となると密着性は「1」または「0」となる。さらに、密着性が向上するアルカリ粗し処理の時間が3分および5分では、金属顕微鏡写真によりクラックが観察され始める。密着性と膜厚およびNi組成とはあまり関係がないように考えられる。
【0065】
比較例として、工程3のアルカリ粗し処理の代わりに酸粗し処理を行った。強酸溶液としてHNOの濃度が5ml/Lの水溶液を用いた。その他の工程の条件は実施例1および実験2と同じである。酸粗し処理では、アルカリ粗し処理のような金属顕微鏡におけるクラックは観察されなかった。酸粗し処理時間を3分とすると、膜厚が8.61μm、Ni組成が17.82質量%、Raが1.05μm、Rzが5.71μmであり、密着性は0で良好であった。密着性はよいものの、膜厚が薄く、Ni組成が大きくなっている。その後、酸粗し処理の時間を長くすると、算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzが小さくなり密着性が悪化する。酸粗し処理では、亜鉛系皮膜12の表面が溶解することで表面が粗くなり密着性が向上していると考えられる。この場合、膜厚が薄くなり、表面のNi組成が大きくなってしまう。亜鉛系皮膜12が薄くなると、クロメート層が消失する可能性がある。また、Ni組成が変化すると、亜鉛系皮膜12の表面の化学的性質が変化してしまう。
【0066】
一方、アルカリ粗し処理では、膜厚およびNi組成の変化が小さく、亜鉛系皮膜12の表面状態を比較的保ったまま密着性を向上できる。この理由は明確ではないが、強アルカリ溶液により亜鉛系皮膜12の表面が変質しクラックが形成されたためと考えられる。特に、亜鉛系皮膜12が亜鉛ニッケル合金皮膜の場合、亜鉛ニッケル合金皮膜の表面が強アルカリ溶液により変質しクラックが形成され、密着性が向上すると考えられる。このように考えれば、アルカリ粗し処理する溶液は強アルカリの溶液であればよく、とくにアルカリ金属の水酸化物であれば水酸化ナトリウム水溶液と同様の効果があると考えられる。
【0067】
工程3におけるアルカリ粗し処理の時間が1分のサンプルでは、アルカリ粗し処理を行わないサンプルよりクロスカット法の分類が小さい。このことから、工程3におけるアルカリ粗し処理の時間は、亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzおよび算術表面粗さRaが極小のRz3およびRa3となった後に増加する時間以上であることが好ましい。
【0068】
また、アルカリ粗し処理の時間が3分のサンプルでは、亜鉛系皮膜12を形成する前の下地材10の最大高さ粗さRz1より最大高さ粗さRzが大きく、クロスカット法の分類は1以下となる。アルカリ粗し処理の時間が3分および5分のサンプルでは、アルカリ粗し処理を施す前の亜鉛系皮膜12の算術平均粗さRa2より算術平均粗さRaが大きく、クロスカット法の分類は1以下となる。このことから、工程3におけるアルカリ粗し処理の時間は、亜鉛系皮膜12の表面の最大高さ粗さRzが亜鉛系皮膜12を施す前の下地材10の最大高さ粗さRz1より大きくなる時間以上であることが好ましい。また、工程3におけるアルカリ粗し処理の時間は、亜鉛系皮膜12の表面の算術平均粗さRaがアルカリ粗し処理を施す前の亜鉛系皮膜12の算術平均粗さRa2より大きくなる時間以上であることが好ましい。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 下地材
12 亜鉛系皮膜
15 粗面
14 混合皮膜
16 多孔質シリカ皮膜
図1
図2
図3
図4
図5