(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106196
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】光パルス計測器、光パルス計測方法及び光パルス計測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 11/00 20060101AFI20230725BHJP
G01J 9/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
G01J11/00
G01J9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007380
(22)【出願日】2022-01-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「超小型光相関チップを用いた光パルスの振幅・位相再生技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 圭祐
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA12
2G065AA13
2G065AB14
2G065BA09
2G065BA33
2G065BB02
2G065BB04
2G065BB25
2G065BC03
2G065BC13
2G065BC28
2G065BC35
2G065BE01
2G065DA05
2G065DA13
(57)【要約】
【課題】測定時間を短縮できる光パルス計測器を提供する。
【解決手段】光パルス計測器100は、被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタ13と、波長可変フィルタ13を通過した第1被測定光と、被測定光から分岐され、波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流を出力する複数個の光検出器を前記領域に沿ってアレイ状に配置してなる光検出器アレイ14と、波長可変フィルタ13で設定された透過波長帯域と、領域の位置と、に応じた光電流に基づいてスペクトログラムを生成する生成部501と、生成部501が生成したスペクトログラムに基づいて被測定光の振幅及び位相を特定する特定部502と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタと、
前記波長可変フィルタを通過した前記第1被測定光と、被測定光から分岐され、前記波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、前記第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流を出力する複数個の光検出器を前記領域に沿ってアレイ状に配置してなる光検出部と、
前記波長可変フィルタで設定された前記透過波長帯域と前記領域の位置とに応じた前記光電流に基づいてスペクトログラムを生成する生成部と、
前記生成部が生成したスペクトログラムに基づいて前記被測定光の振幅及び位相を特定する特定部と、
を備える、光パルス計測器。
【請求項2】
前記波長可変フィルタは、温度に応じて前記透過波長帯域を連続的に変更可能である、請求項1に記載の光パルス計測器。
【請求項3】
前記光検出部は、一端から前記第1被測定光が入射され、他端から前記第2被測定光が入射され、両端から入射された前記第1被測定光及び前記第2被測定光を逆の光伝搬方向に重ね合わせることで光相関を行わせる、請求項1又は2に記載の光パルス計測器。
【請求項4】
被測定光を前記第1被測定光と前記第2被測定光とに分岐する分岐器をさらに備える、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の光パルス計測器。
【請求項5】
プロセッサが、
被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタの前記透過波長帯域を設定し、
前記波長可変フィルタを通過した前記第1被測定光と、被測定光から分岐され、前記波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、前記第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流に基づいてスペクトログラムを生成し、
生成したスペクトログラムに基づいて前記被測定光の振幅及び位相を特定する
処理を実行する、光パルス計測方法。
【請求項6】
コンピュータに、
被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタの前記透過波長帯域を設定し、
前記波長可変フィルタを通過した前記第1被測定光と、被測定光から分岐され、前記波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、前記第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流に基づいてスペクトログラムを生成し、
生成したスペクトログラムに基づいて前記被測定光の振幅及び位相を特定する
処理を実行させる、光パルス計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス計測器、光パルス計測方法及び光パルス計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信又は光計測の分野では高速な光パルス信号が扱われており、光パルスのパルス幅は100ps以下、高速なものでは10ps以下に達している。光通信又は光計測の高速化に伴い、10ps以下の光パルスの測定の要求が高まっている。特許文献1には、光相関計測の動作速度を高め、光パルスの単発パルスでの波形計測を可能とする光相関器に関する技術が開示されている。
【0003】
高速な短周期の光パルス信号の振幅形状(包絡線)と位相とを測定できると、搬送波の形状を把握できるので、光パルス信号の詳細な時間特性を明らかにすることができる。光パルス信号の振幅形状と位相とを測定する際には、測定対象の光パルス信号の所定の波長帯域を透過させた光パルス信号と、測定対象の光パルス信号を所定時間遅延させた光パルス信号とを合成した信号の特性を解析する方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、光パルスの測定に際して、測定対象の光パルス信号の所定の波長帯域を透過させた光パルス信号と、測定対象の光パルス信号を所定時間遅延させた光パルス信号とを合成する場合と比較して測定時間を短縮できる光パルス計測器、光パルス計測方法及び光パルス計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、光パルス計測器であって、被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタと、前記波長可変フィルタを通過した前記第1被測定光と、被測定光から分岐され、前記波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、前記第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流を出力する複数個の光検出器を前記領域に沿ってアレイ状に配置してなる光検出部と、前記波長可変フィルタで設定された前記透過波長帯域と前記領域の位置とに応じた前記光電流に基づいてスペクトログラムを生成する生成部と、前記生成部が生成したスペクトログラムに基づいて前記被測定光の振幅及び位相を特定する特定部と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様は、第1態様に係る光パルス計測器であって、前記波長可変フィルタは、温度に応じて前記透過波長帯域を連続的に変更可能である。
【0008】
本発明の第3態様は、第1態様又は第2態様に係る光パルス計測器であって、前記光検出部は、一端から前記第1被測定光が入射され、他端から前記第2被測定光が入射され、両端から入射された前記第1被測定光及び前記第2被測定光を逆の光伝搬方向に重ね合わせることで光相関を行わせる。
【0009】
本発明の第4態様は、第1態様~第3態様のいずれかに係る光パルス計測器であって、被測定光を前記第1被測定光と前記第2被測定光とに分岐する分岐器をさらに備える。
【0010】
本発明の第5態様は、光パルス計測方法であって、プロセッサが、被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタの前記透過波長帯域を設定し、前記波長可変フィルタを通過した前記第1被測定光と、被測定光から分岐され、前記波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、前記第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流に基づいてスペクトログラムを生成し、生成したスペクトログラムに基づいて前記被測定光の振幅及び位相を特定する処理を実行する。
【0011】
本発明の第5態様は、光パルス計測プログラムであって、コンピュータに、被測定光から分岐された第1被測定光の透過波長帯域を連続的に変更可能な波長可変フィルタの前記透過波長帯域を設定し、前記波長可変フィルタを通過した前記第1被測定光と、被測定光から分岐され、前記波長可変フィルタを通過していない第2被測定光とを入射し、前記第1被測定光と前記第2被測定光とが光学的に重なる領域の複数の位置において光のべき乗強度に基づいて得られる光電流に基づいてスペクトログラムを生成し、生成したスペクトログラムに基づいて前記被測定光の振幅及び位相を特定する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光パルスの測定に際して、測定対象の光パルス信号の所定の波長帯域を透過させた光パルス信号と、測定対象の光パルス信号を所定時間遅延させた光パルス信号とを合成する場合と比較して測定時間を短縮できる光パルス計測器、光パルス計測方法及び光パルス計測プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る光パルス計測器の概略構成を示す図である。
【
図2】波長可変フィルタの構成例を示す平面図である。
【
図3】情報処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】情報処理装置の機能構成の例を示すブロック図である。
【
図5】光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する図である。
【
図6】光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する図である。
【
図7】光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する図である。
【
図8】光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する図である。
【
図9】光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する図である。
【
図10】生成部が生成するスペクトログラムの例、及び特定部が特定する測定パルスの振幅及び位相から得られる測定パルスの形状の例を示す図である。
【
図11】スペクトログラムからの測定パルスの振幅及び位相の特定例を示す図である。
【
図12】スペクトログラムからの測定パルスの振幅及び位相の特定例を示す図である。
【
図13】情報処理装置による測定パルスの測定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
図1は、本実施形態に係る光パルス計測器の概略構成を示す図である。光パルス計測器100は、被測定光である測定対象の光パルス(測定パルス)が光ファイバケーブル1を通じて入力されるチップ10と、チップ10の出力を複数のアンプで増幅する増幅部20と、増幅部20の出力を合成するマルチプレクサ30と、マルチプレクサ30の出力をデジタル信号に変換するA/D変換器40と、A/D変換器40の出力を用いて測定パルスの特性を求める情報処理装置50と、を含む。
【0016】
チップ10は、測定パルスを2分岐する分岐器11と、測定パルスを伝搬させる光導波路12と、測定パルスを透過させる波長可変フィルタ13と、複数の光検出器がアレイ状に配置された光検出器アレイ14と、を備える。光導波路12は、例えばシリコン、窒化シリコン、リン化インジウムなどの半導体材料、SiOxなどの絶縁体材料で形成される。
【0017】
波長可変フィルタ13は、測定パルスの任意の波長を選択して透過させる。本実施形態では、波長可変フィルタ13として、温度によって選択される波長が連続的に変化する波長可変フィルタを用いる。
図2は、波長可変フィルタ13の構成例を示す平面図である。波長可変フィルタ13は、
図2に示したように光導波路12がループ状となっており、光導波路12を温めるためのヒータ62が光導波路12に接するように設けられている。ヒータ62の温度は電極61に流れる電流量に応じて設定される。ヒータ62によって光導波路12が温められることで、波長可変フィルタ13が選択して透過させる測定パルスの波長が変化する。
【0018】
なお、本実施形態では波長可変フィルタ13はチップ10に搭載できる大きさとするために、温度によって選択される波長が変化する波長可変フィルタを用いたが、本発明は係る例に限定されない。波長可変フィルタ13は、電気的に、又は手動で波長を変化させる波長可変フィルタが用いられてもよい。光パルス計測器100は、波長可変フィルタ13で選択される波長を変化させつつ測定パルスの特性を測定する。従って、光パルス計測器100は、温度を変化させることで波長を変化させることができる波長可変フィルタを用いることで、電気的に、又は手動で波長を変化させる波長可変フィルタを用いる場合と比べて測定時間を短縮させることができる。
【0019】
光検出器アレイ14は、本発明の光検出部の一例であり、分岐器11によって2分岐された測定パルスを入射して光相関を行わせて、アレイ状に配置した複数の光検出器で光のべき乗強度を検出する。光検出器は、光の強さのべき乗に応じた電流を出力するよう構成されたものを用いる。光検出器の数は、32個、64個、128個等、測定パルスの測定の精度に応じて任意の数とすることが出来る。光検出器は、nドープ領域とpドープ領域とを、両ドープ領域の隣接部が光導波路12上となるように形成し、nドープ領域側に直流電圧源15を接続し、pドープ領域側に電流検出器を接続した構成を有する。
【0020】
光検出器アレイ14には、例えば特開2017-32306号公報で開示されている光相関器を用いることができる。特開2017-32306号公報で開示されている光相関器は、光パルスの被測定光を空間領域に入射し、両方の光が重なる重なり領域を形成して自己相関又は相互相関による光相関を行わせ、この重なり領域を複数の光検出器で検出し、光のべき乗強度に応じた光電流を出力する。
【0021】
光相関で形成される光の重なり領域に対応して、複数の光検出器を配置すると、各光検出器から同時点で検出される光電流の空間的な分布は、各光相関で形成された光の重なり領域での分布を表し、また、各光検出器から順次に検出される光電流は、重なり領域の各位置における光相関の状態変化を表している。重なり領域の各位置において光相関で得られる光電流を累積して得られる光の重なり領域での光電流の分布は、被測定光の光相関波形に対応する各光検出器から同時に検出される光電流の空間的な分布の累積によって被測定光の光相関波形を求めることで、光相関波形から被測定光の波形を求めることができる。
【0022】
本実施形態では、光検出器アレイ14には、一端から波長可変フィルタ13を通過した測定パルス(第1被測定光の一例)が入射され、他端から波長可変フィルタ13を通過していない測定パルス(第2被測定光の一例)が入射される。すなわち、光検出器アレイ14は、波長可変フィルタ13を通過した測定パルス及び波長可変フィルタ13を通過していない測定パルスを、逆の光伝搬方向に重ね合わせることで光相関を行わせている。なお、光検出器アレイ14には、同じ端から波長可変フィルタ13を通過した測定パルスと波長可変フィルタ13を通過していない測定パルスとの両方が入射されてもよい。
【0023】
分岐器11、光導波路12、波長可変フィルタ13及び光検出器アレイ14は、例えば、SOI基板上に形成される。分岐器11は、例えばシリコンフォトニクスの細線導波路によって構成し、光導波路12は光導波路で構成し、光検出器アレイ14は光導波路に複数個のpnダイオードを集積して分布型二光子吸収フォトダイオードを構成することで形成された複数の光検出器から成る。
【0024】
増幅部20は、複数のアンプが並列に配置されている。各アンプは、1つの光検出器の出力を所定量増幅して出力する。
【0025】
マルチプレクサ30は、増幅部20の各アンプの出力を多重化して出力する。A/D変換器40は、アナログ信号であるマルチプレクサ30の出力をデジタル信号に変換する。
【0026】
情報処理装置50は、A/D変換器40の出力からスペクトログラムを生成し、生成したスペクトログラムに基づいて測定パルスの位相及び振幅を特定することで、測定パルスの特性を測定する。情報処理装置50による測定パルスの特性の測定方法については後に詳述する。
【0027】
本実施形態に係る光パルス計測器100は、チップ10に波長可変フィルタ13及び光検出器アレイ14を設けることで、小型で軽量であり、取り回しが良く、機械的に堅牢であり、光学的なアライメントが不要となるという特徴を有する。
【0028】
図3は、情報処理装置50のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0029】
図3に示すように、情報処理装置50は、CPU(Central Processing Unit)51、ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53、ストレージ54、入力部55、表示部16及び通信インタフェース(I/F)57を有する。各構成は、バス59を介して相互に通信可能に接続されている。
【0030】
CPU51は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU51は、ROM52またはストレージ54からプログラムを読み出し、RAM53を作業領域としてプログラムを実行する。CPU51は、ROM52またはストレージ54に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM52またはストレージ54には、測定パルスの特性を測定するための測定プログラムが格納されている。
【0031】
ROM52は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM53は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ54は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはフラッシュメモリ等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0032】
入力部55は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0033】
表示部56は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部56は、タッチパネル方式を採用して、入力部55として機能しても良い。
【0034】
通信インタフェース57は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0035】
上記の測定プログラムを実行する際に、情報処理装置50は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。情報処理装置50が実現する機能構成について説明する。
【0036】
図4は、情報処理装置50の機能構成の例を示すブロック図である。
【0037】
図4に示すように、情報処理装置50は、機能構成として、生成部501、特定部502、表示部503および設定部504を有する。各機能構成は、CPU51がROM52またはストレージ54に記憶された測定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0038】
生成部501は、A/D変換器40の出力からスペクトログラムを生成する。本実施形態では、生成部501は、横軸を光検出器アレイ14の各光検出器の位置、縦軸を波長可変フィルタ13で設定された波長の中心波長λnとした、測定パルスの強度を表すスペクトログラムを生成する。生成部501が生成するスペクトログラムは、A/D変換器40が出力する光電流の信号の強弱を表すスペクトログラムである。
【0039】
特定部502は、生成部501が生成したスペクトログラムに基づいて、測定パルスの振幅及び位相を特定する。具体的には、特定部502は、スペクトログラムを2重逆フーリエ変換して得られる特性関数と、事前に取得した波長可変フィルタのインパルス応答の曖昧度関数とを用いて、スペクトログラムに対して所定の演算処理を行うことで、測定パルスの振幅及び位相を逆算的に特定する。スペクトログラムに基づいて、測定パルスの振幅及び位相を特定する方法は、例えば、Kazuro Kikuchi and Kenji Taira, "Theory of sonogram characterization of optical pulses", IEEE Journal of Quantum Electronics, Volume 37, Issue 4, April 2001に開示されている方法を用いることができる。
【0040】
表示部503は、特定部502によって所定の演算処理が行われた結果、振幅及び位相が特定された測定パルスに関する情報を表示する。例えば、表示部503は、測定パルスに関する情報として測定パルスの振幅、位相、振幅及び位相から得られる波形の概形等を表示する。
【0041】
設定部504は、波長可変フィルタ13が選択する波長を設定する。光パルス計測器100による測定パルスの測定の際には、上述したように波長可変フィルタ13で設定波長を変更しつつ光電流を測定するが、その際の波長可変フィルタ13の設定波長の変更は、設定部504が行ってもよく、情報処理装置50とは別の装置が行ってもよい。
【0042】
続いて、本実施形態に係る光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する。
【0043】
図5~
図9は、本実施形態に係る光パルス計測器による測定パルスの測定方法を説明する図である。
図5~
図9では、波長可変フィルタ13で設定した波長をλ
1からλ
5まで順に変化させた場合において、光検出器アレイ14の各光検出器が検出した光電流の大きさのグラフの一例を、光パルス計測器の構成と併せて示している。
図5~
図9に示したグラフは、横軸が光検出器アレイ14の各光検出器の位置(単位m)、縦軸が各光検出器で検出された光電流の大きさ(単位A)を示す。
図5~
図9に示したグラフは、測定パルスの内部で搬送波の周波数が変調されている場合の例である。
【0044】
図5~
図9に示した例では、波長可変フィルタ13で設定した波長をλ
1からλ
5まで順に変化させると、光電流の大きさのピーク位置が順に変化する。そして、
図5~
図9に示した例では、波長可変フィルタ13で設定した波長をλ
1からλ
5まで順に変化させると、光電流のピークの大きさも変化する。
図5~
図9に示した例では、波長がλ
3の場合に、光電流の大きさのピーク位置が光検出器アレイ14の中央となり、光電流のピークの大きさも最も大きくなっている。
【0045】
このように、波長可変フィルタ13で波長を設定すると、設定波長に応じて光検出器アレイ14が検出した光電流のピーク位置とピーク位置における大きさとが変化する。情報処理装置50は、このように得られた光電流の大きさの測定結果を用いて、横軸を光検出器アレイ14の各光検出器の位置のまま、縦軸を波長可変フィルタ13に設定した波長としたスペクトログラムを生成部501で生成する。
【0046】
図10は、生成部501が生成するスペクトログラムの例、及び特定部502が特定する測定パルスの振幅及び位相から得られる測定パルスの形状の例を示す図である。
図10の上側に示したように、生成部501は光電流の大きさの測定結果からスペクトログラムを生成する。そして、特定部502は、生成部501が生成したスペクトログラムに対する計算処理により、測定パルスの振幅及び位相を特定し、測定パルスの搬送波の形状を特定することが出来る。
【0047】
図11は、スペクトログラムからの測定パルスの振幅及び位相の特定例を示す図である。
図11は、測定パルスのチャープ係数CがC=0の場合の例であり、
図11(a)は生成部501が生成したスペクトログラム、
図11(b)は、特定部502がスペクトログラムから求めた測定パルスの振幅、
図11(c)は、特定部502がスペクトログラムから求めた測定パルスの位相である。
図11(b)及び(c)には、特定部502による特定結果と、測定パルスの実際の振幅及び位相が示されている。
【0048】
図11(b)に示したように、特定部502による振幅の特定の結果、測定パルスの実際の振幅と、特定部502が特定した振幅とは、極めて精度よく一致していることが分かる。そして、
図11(c)に示したように、特定部502による位相の特定の結果、測定パルスの実際の位相と、特定部502が特定した位相とは、振幅が特定できている範囲においては極めて精度よく一致していることが分かる。
【0049】
図12は、スペクトログラムからの測定パルスの振幅及び位相の特定例を示す図である。
図12は、測定パルスのチャープ係数CがC=4×10
23の場合の例であり、
図12(a)は生成部501が生成したスペクトログラム、
図12(b)は、特定部502がスペクトログラムから求めた測定パルスの振幅、
図12(c)は、特定部502がスペクトログラムから求めた測定パルスの位相である。
図12(b)及び(c)には、特定部502による特定結果と、測定パルスの実際の振幅及び位相が示されている。
【0050】
図12(b)に示したように、特定部502による振幅の特定の結果、測定パルスの実際の振幅と、特定部502が特定した振幅とは、極めて精度よく一致していることが分かる。そして、
図12(c)に示したように、特定部502による位相の特定の結果、測定パルスの実際の位相と、特定部502が特定した位相とは、振幅が特定できている範囲においては極めて精度よく一致していることが分かる。
【0051】
次に、情報処理装置50の作用について説明する。
【0052】
図13は、情報処理装置50による測定パルスの測定処理の流れを示すフローチャートである。CPU51がROM52又はストレージ54から測定プログラムを読み出して、RAM53に展開して実行することにより、測定パルスの測定処理が行なわれる。
【0053】
CPU51は、まずステップS101において、波長可変フィルタ13が選択する波長を設定する。
【0054】
波長可変フィルタ13が選択する波長を設定すると、CPU51は、続いてステップS102において、光検出器アレイ14が検出した光電流の強度を取得する。
【0055】
光検出器アレイ14が検出した光電流の強度を取得すると、CPU51は、続いてステップS103において、測定パルスの測定処理において設定すべき波長がまだ残っているかどうかを判断する。ステップS103の判断の結果、設定すべき波長がまだ残っている場合は、CPU51は、ステップS101に戻り、波長可変フィルタ13が選択する波長を再度設定する。一方、ステップS103の判断の結果、設定すべき波長が残っていない場合は、CPU51は、続いてステップS104において、光検出器アレイ14が検出した光電流の強度のデータを用いてスペクトログラムを生成する。
【0056】
光電流の強度のデータを用いてスペクトログラムを生成すると、CPU51は、続いてステップS105において、生成したスペクトログラムから、測定パルスの振幅及び位相を特定する。
【0057】
スペクトログラムから、測定パルスの振幅及び位相を特定すると、CPU51は、続いてステップS106において、測定パルスに関する情報を表示する。例えば、CPU51は、測定パルスに関する情報として測定パルスの振幅、位相、振幅及び位相から得られる波形の概形等を表示する。
【0058】
パルス幅が100ps以下、特に10ps以下の高速な光パルスの測定の要求が高まっている。高速な短周期の光パルス信号の振幅形状(包絡線)と位相とを測定できると、搬送波の形状を把握できるので、光パルス信号の詳細な時間特性を明らかにすることができる。しかし、観測にオシロスコープを用いた場合、光パルス信号が短周期になると、包絡線の観測すら困難となる。従って、高速な光パルス信号の波形の観測には専用の装置が用いられる。
【0059】
従来、光パルス信号の波形の観測方法として、周波数分解光ゲート(FROG,Frequency Resolved Optical Gating)法、SPIDER(Spectral Phase Interferometry for Direct Electric-field Reconstrunction)法等がある。しかし、これらの方法を用いた測定装置は大型で鈍重であり、機械的に脆弱であり、測定の際には精密なアライメントが必要でありながら、感度が低いという問題があった。
【0060】
これに対して、本実施形態に係る光パルス計測器100は、従来の光パルス信号の測定装置とは異なり、チップ10に光検出器アレイ14が組み込まれているために小型かつ軽量であり、測定場所を選ばずに光パルスの測定が可能である。また、本実施形態に係る光パルス計測器100は、チップ10に光検出器アレイ14が組み込まれているためにソリッドステートであり、機械的に堅牢であり、光学的なアライメントも不要である。さらに、本実施形態に係る光パルス計測器100は、微小な領域に測定パルスが集中するため高感度での測定が可能である。そして、本実施形態に係る光パルス計測器100は、遅延走査が不要であるために、遅延走査を要する測定方法に比べて測定パルスの測定時間を短縮させることができる。
【0061】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した測定パルスの測定処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、測定パルスの測定処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0062】
また、上記各実施形態では、測定パルスの測定処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 光ファイバケーブル
10 チップ
11 分岐器
12 光導波路
13 波長可変フィルタ
14 光検出器アレイ
20 増幅部
30 マルチプレクサ
40 A/D変換器
50 情報処理装置
100 光パルス計測器