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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106204
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】磁気素子および磁気メモリ装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20230725BHJP
   H10N 52/85 20230101ALI20230725BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20230725BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H01L43/10
H01L27/105 447
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007392
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本多 周太
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA20
4M119BB20
4M119CC10
4M119DD17
4M119DD24
4M119DD25
5F092AC06
5F092AC11
5F092AC26
5F092BD04
5F092BD05
5F092BD19
5F092BD24
5F092CA02
(57)【要約】
【課題】磁気構造体が所定の移動方向から逸れることを抑制できる磁気素子を実現する。
【解決手段】磁気素子(1)は、磁性部材(11)と、磁性部材(11)に形成された第1重金属部材(12)および第2重金属部材(13)と、を備え、
磁性部材(11)において、第1重金属部材(12)が形成された部分と、第2重金属部材(13)が形成された部分とにまたがって、円形状の磁気構造体が存在可能となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性部材と、
前記磁性部材に形成された第1重金属部材および第2重金属部材と、を備え、
前記磁性部材において、前記第1重金属部材が形成された部分と、前記第2重金属部材が形成された部分とにまたがって、円形状または楕円形状の磁気構造体が存在可能となっている、
磁気素子。
【請求項2】
前記磁性部材における前記第1重金属部材と接する界面近傍の第1磁化と、前記磁性部材における前記第2重金属部材と接する界面近傍の第2磁化とのそれぞれには、界面ジャロシンスキー守谷相互作用(界面DMI)が働き、
前記界面DMIにより前記第1磁化が傾く向きと、前記界面DMIにより前記第2磁化が傾く向きとは、互いに異なる、
請求項1に記載の磁気素子。
【請求項3】
前記磁性部材における第1面に前記第1重金属部材が設けられ、前記磁性部材における前記第1面の反対側の第2面に前記第2重金属部材が設けられている、
請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項4】
前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは重金属の種類が同じである、
請求項3に記載の磁気素子。
【請求項5】
前記磁性部材と、前記第1重金属部材または前記第2重金属部材とが並ぶ方向から視た場合、前記第1重金属部材の一辺と前記第2重金属部材の一辺とは略同一直線状にある、
請求項3または4に記載の磁気素子。
【請求項6】
前記磁性部材と、前記第1重金属部材または前記第2重金属部材とが並ぶ方向から視た場合、前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは重なっている箇所が存在する、
請求項3または4に記載の磁気素子。
【請求項7】
前記磁性部材は、段状であり、一方の段に前記第1重金属部材が形成されており、他方の段に前記第2重金属部材が形成されている、
請求項3または4に記載の磁気素子。
【請求項8】
前記磁性部材の第1面に前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とが設けられている、
請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項9】
前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは、重金属の種類が異なる、
請求項8に記載の磁気素子。
【請求項10】
前記第1重金属部材の前記磁性部材に対する界面DMIの符号と、前記第2重金属部材の前記磁性部材に対する界面DMIの符号が互いに異なる、
請求項8に記載の磁気素子。
【請求項11】
前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは隣接している、
請求項8に記載の磁気素子。
【請求項12】
前記磁性部材は、前記第1重金属部材および前記第2重金属部材が形成される直方体の本体部を含み、
前記磁性部材は、前記本体部の側面の一部から突出する磁性突出部をさらに含み、
前記第1重金属部材または前記第2重金属部材は、前記磁性突出部と共に突出する重金属突出部をさらに含む、
請求項1から11の何れか1項に記載の磁気素子。
【請求項13】
前記磁性突出部は、前記本体部の側から外側に向かうにつれて幅が狭くなっている、
請求項12に記載の磁気素子。
【請求項14】
前記磁性突出部は、前記本体部の前記側面に接続する第1側面および第2側面を有し、
前記磁性突出部の前記第1側面と前記本体部の前記側面とによって形成される前記磁性突出部側の角度を第1角度とし、前記磁性突出部の前記第2側面と前記本体部の前記側面とによって形成される前記磁性突出部側の角度を第2角度とした場合、第1角度は第2角度よりも大きい、
請求項13に記載の磁気素子。
【請求項15】
請求項1から14の何れか1項に記載の磁気素子と、
前記磁気素子の前記磁性部材に磁気構造体を形成するか否かにより、情報を書き込むための書込デバイスと、
前記磁性部材に磁気構造体が存在するか否かを検出することにより、情報を読み出すための読出デバイスと、
を備える磁気メモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールの磁気構造体が存在可能な磁気素子および磁気メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気スキルミオン(以下、「スキルミオン」と略称する。)と呼ばれる磁気構造体が磁性体中で観測され注目を集めている。スキルミオンとは、中心部の磁気モーメントと縁部の磁気モーメントとが反平行であり、上記中心部から上記縁部に向かうにつれて磁気モーメントの方向が徐々に変化するナノスケールの円形状または楕円形状の磁気構造体をいう。上記スキルミオンは、磁性体中を流れる電流由来のスピン流で駆動することができるため、上記スキルミオンを情報担体として利用した磁気メモリ装置などが、高密度かつ低消費電力の磁気デバイスとして提案されている(特許文献1・2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-082122号公報
【特許文献2】特再WO2016/067744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記スキルミオンを利用した磁気デバイスでは、スキルミオンホール効果により、上記スキルミオンが電流の方向に沿って直進せず、上記電流の方向から逸れて消滅することが問題となる。
【0005】
本発明の一態様は、上記スキルミオン等の磁気構造体が所定の移動方向から逸れることを抑制できる磁気素子等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁気素子は、磁性部材と、前記磁性部材に形成された第1重金属部材および第2重金属部材と、を備え、前記磁性部材において、前記第1重金属部材が形成された部分と、前記第2重金属部材が形成された部分とにまたがって、円形状または楕円形状の磁気構造体が存在可能となっている。
【0007】
上記の構成の磁気素子の前記磁性部材において、前記第1重金属部材が形成された部分と、前記第2重金属部材が形成された部分とにまたがって形成される円状の磁気構造体のスキルミオンナンバーQは、±1から0に近い値となる。この場合、スキルミオンホール効果の影響は少なくなる。従って、前記磁気構造体は、磁区を移動させるための電流の方向から逸れることを抑制できる。
【0008】
本態様に係る磁気素子では、前記磁性部材における前記第1重金属部材と接する界面近傍の第1磁化と、前記磁性部材における前記第2重金属部材と接する界面近傍の第2磁化とのそれぞれには、界面ジャロシンスキー守谷相互作用(界面DMI)が働き、前記界面DMIにより前記第1磁化が傾く向きと、前記界面DMIにより前記第2磁化が傾く向きとは、互いに異なってもよい。
【0009】
この場合、前記磁性部材において前記円状の磁気構造体を形成するシミュレーションを行ったところ、当該磁気構造体は、スキルミオンナンバーQが0に近い値となった。従って、前記磁気構造体は、スキルミオンホール効果の影響が極めて少なくなるので、磁区を移動させるための電流の方向から逸れることを防止できる。
【0010】
本態様に係る磁気素子では、前記磁性部材の第1表面に前記第1重金属部材が設けられ、前記磁性部材の前記第1表面の反対側の第2表面に前記第2重金属部材が設けられていてもよい。
【0011】
さらに、前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは、重金属の種類が同じであってもよい。この場合、前記第1重金属部材および前記第2重金属部材の生成に利用する重金属を1種類とすることができる。
【0012】
また、前記磁性部材と、前記第1重金属部材または前記第2重金属部材とが並ぶ方向から視た場合、前記第1重金属部材の一辺と前記第2重金属部材の一辺とは略同一直線状にあってもよい。また、前記磁性部材と、前記第1重金属部材または前記第2重金属部材とが並ぶ方向から視た場合、前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは重なっている箇所が存在してもよい。
【0013】
また、前記磁性部材は、段状であり、一方の段に前記第1重金属部材が形成されており、他方の段に前記第2重金属部材が形成されていてもよい。
【0014】
この場合、まず、前記磁性部材の一方の段と前記第2重金属部材とを形成し、次に、前記第1重金属部材と前記磁性部材の他方の段とを形成することにより、前記磁気素子は2層構造となる。従って、前記磁気素子は、構造が安定すると共に、高さを抑えることができる。
【0015】
本態様に係る磁気素子では、前記磁性部材の第1表面に前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とが設けられていてもよい。この場合、前記磁気素子は2層構造となる。従って、磁気素子の高さを抑えることができる。
【0016】
さらに、前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは、重金属の種類が異なってもよい。
【0017】
また、前記第1重金属部材の前記磁性部材に対する界面DMIの符号と、前記第2重金属部材の前記磁性部材に対する界面DMIの符号が互いに異なってもよい。この場合、前記界面DMIが前記第1磁化を回転させる向きと、前記界面DMIが前記第2磁化を回転させる向きと、が互いに逆になる。
【0018】
また、前記第1重金属部材と前記第2重金属部材とは隣接していてもよい。
【0019】
本態様に係る磁気素子では、前記磁性部材は、前記第1重金属部材および前記第2重金属部材が形成される直方体の本体部を含み、前記磁性部材は、前記本体部の側面の一部から突出する磁性突出部をさらに含み、前記第1重金属部材または前記第2重金属部材は、前記磁性突出部と共に突出する重金属突出部をさらに含んでもよい。
【0020】
この場合、前記磁性突出部にてスキルミオンを形成することができる。従って、レーザ光の照射、磁場の印加など、スキルミオンの形成に必要な作業を、前記本体部にて実行する必要が無くなる。
【0021】
また、前記磁性突出部は、前記本体部の側から外側に向かうにつれて幅が狭くなっていてもよい。
【0022】
この場合、前記磁性突出部では、前記本体部の側から外側に向かうにつれて、エネルギーが高くなる。これにより、前記磁性突出部にて形成されたスキルミオンを、他の力を印加すること無しに、前記本体部へ移動させることができる。
【0023】
また、前記本体部へ移動したスキルミオンの挙動についてシミュレーションを行ったところ、前記スキルミオンは、前記電流が無くても、前記本体部の側面に沿う方向に移動した。この場合、前記電流が無いので、前記電流と前記スキルミオンの移動とによる前記スキルミオンホール効果は発生しない。従って、前記スキルミオンは、前記側面に沿う方向から逸れることを防止できる。
【0024】
また、前記磁性突出部は、前記本体部の前記側面に接続する第1側面および第2側面を有し、前記磁性突出部の前記第1側面と前記本体部の前記側面とによって形成される前記磁性突出部側の角度を第1角度とし、前記磁性突出部の前記第2側面と前記本体部の前記側面とによって形成される前記磁性突出部側の角度を第2角度とした場合、第1角度は第2角度よりも大きくてもよい。
【0025】
この場合、前記磁性突出部にて形成されたスキルミオンを、前記本体部にスムーズに移動させることができる。
【0026】
本発明の他の態様に係る磁気メモリ装置は、上記構成の磁気素子と、前記磁気素子の前記磁性部材に磁気構造体を形成するか否かにより、情報を書き込むための書込デバイスと、前記磁性部材に磁気構造体が存在するか否かを検出することにより、情報を読み出すための読出デバイスと、を備える。
【0027】
上記の構成によると、前記磁気素子内の前記磁気構造体が所定の移動方向から逸れることを防止できるので、前記磁気メモリ装置の信頼性を向上させることができる。さらに、前記磁性突出部にてスキルミオンを形成する場合、当該スキルミオンを移動させるために前記磁気素子に電流を流す必要が無いので、前記磁気メモリ装置の消費電力を低減することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、磁気構造体が所定の移動方向から逸れることを防止できる。また、磁気構造体を低消費電力で駆動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気素子の概要を示す斜視図である。
図2図1のA-A線の矢視断面図である。
図3】一参考例である磁気素子の概要を示す斜視図である。
図4図3のB-B線の矢視断面図である。
図5】上記参考例の磁気素子の強磁性薄膜にて形成されるスキルミオンの概要を示す平面図である。
図6】他の参考例である磁気素子の概要を示す斜視図である。
図7図6のC-C線の矢視断面図である。
図8】上記参考例の磁気素子の強磁性薄膜にて形成されるスキルミオンの概要を示す平面図である。
図9】上記実施形態の磁気素子において、強磁性薄膜における第1領域および第2領域の両方に広がる磁気構造体を示す平面図である。
図10】上記実施形態の一実施例である磁気素子において、シミュレーションの結果、強磁性薄膜にて安定した磁気構造体を示す平面図である。
図11】上記磁気構造体の移動状況を示すグラフである。
図12】上記実施形態の別の実施例である磁気素子において、シミュレーションの結果、強磁性薄膜にて安定した磁気構造体を示す平面図である。
図13】上記実施形態のさらに別の実施例である磁気素子において、シミュレーションの結果、強磁性薄膜にて安定した磁気構造体を示す平面図である。
図14】上記実施形態の磁気素子の一変形例を示す断面図である。
図15】上記実施形態の磁気素子の他の変形例を示す断面図である。
図16】本発明の別の実施形態に係る磁気素子の概要を示す断面図である。
図17】本発明のさらに別の実施形態に係る磁気素子の概要を示す断面図である。
図18】本発明のさらに別の実施形態に係る磁気素子の概要を示す斜視図である。
図19】上記磁気素子にて形成されるスキルミオンの挙動をシミュレーションした結果を示す平面図である。
図20】本発明のさらに別の実施形態に係る磁気メモリ装置の概要を示す平面図である。
図21】本発明の他の実施形態に係る磁気メモリ装置の概要を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。また、図面に記載のx、y、およびzを用いて方向を特定する。
【0031】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、図1図15を参照して説明する。
【0032】
(磁気素子の概要)
図1は、本実施形態に係る磁気素子の概要を示す斜視図である。図2は、図1のA-A線の矢視断面図である。図1および図2に示すように、本実施形態の磁気素子1は、磁性部材11、第1重金属部材12、および第2重金属部材13を備える構成である。
【0033】
磁性部材11は、磁性体である板状部材である。ここで、上記磁性体とは、強磁性体、フェリ磁性体、スペリ磁性体等を含むものである。
【0034】
また、磁性部材11は、一軸異方性を有し、その磁化容易軸が板面に対して略垂直な方向である垂直磁化部材である。上記磁性体のキュリー温度は、周囲温度(例えば室温)より高いことが望ましく、磁気素子1に通電したときに発生するジュール熱により上昇する磁性部材11の温度の上限値よりも高いことがさらに望ましい。また、上記垂直磁化部材は、上記磁性体の部材の格子構造を歪ませることにより容易に作成することができる。
【0035】
上記磁性体の一例としては、TbFeCo(テルビウム鉄コバルト、スペリ磁性)、CoFeB(コバルト鉄ボロン)、CoPt(コバルト白金)、CoCrPt(コバルトクロム白金)、CoFeSi(コバルト鉄ケイ素)、GeFeCo(ゲルマニウム鉄コバルト、フェリ磁性)、MnSi(シリコマンガン)などの合金が挙げられる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、上記キュリー温度を満たす種々の磁性体(強磁性体、フェリ磁性体、スペリ磁性体等)を利用することができる。
【0036】
磁性部材11は、短手方向(y方向)に互いに隣り合う長板状の第1領域21および長板状の第2領域22を含む。第1重金属部材12は、第1領域21上に設けられ、第2重金属部材13は、第2領域22上に設けられている。本実施形態では、第1重金属部材12は、磁性部材11の第1の側(+z方向)(第1面)に設けられている一方、第2重金属部材13は、磁性部材11の第1の側と反対側である第2の側(-z方向)(第2面)に設けられている。すなわち、磁性部材11と、第1重金属部材12または第2重金属部材13とが並ぶ方向(z方向)から視た場合(上面視の場合)、第1重金属部材12のy方向側の辺(一辺)と第2重金属部材13の-y方向側の辺(一辺)とは略同一直線状となる。
【0037】
これにより、第1重金属部材12と接する磁性部材11の界面近傍の磁化(第1磁化)には、界面ジャロシンスキー守谷相互作用(以下、「界面DMI」と略称する。)が働く。同様に、第2重金属部材13と接する磁性部材11の界面近傍の磁化(第2磁化)にも界面DMIが働く。界面DMIは磁性部材11の磁化を傾ける働きをする。磁性部材11と第1重金属部材12との界面DMIと、磁性部材11と第2重金属部材13との界面DMIとは、互いに磁化を傾ける向きが異なる。
【0038】
例えば、磁性部材11と第1重金属部材12との界面DMIにより傾く磁化の向きが外向きであれば、磁性部材11と第2重金属部材13との界面DMIにより傾く磁化の向きが内向きである。また、磁性部材11と第1重金属部材12との界面DMIにより傾く磁化の向きが時計回りであれば、磁性部材11と第2重金属部材13との界面DMIにより傾く磁化の向きが反時計回りである。
【0039】
第1重金属部材12および第2重金属部材13は、非磁性または常磁性の重金属の薄膜である。当該重金属の一例としては、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、磁性部材11、第1重金属部材12、および第2重金属部材13は、スパッタリング、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy)などによって形成することができる。
【0040】
本実施形態では、第1重金属部材12および第2重金属部材13は、同じ種類の重金属から生成されている。これにより、利用する重金属を1種類に減らすことができる。
【0041】
(参考例1)
上記構成の磁気素子1にて形成される磁気構造体について説明する前に、強磁性薄膜と重金属薄膜とを積層することにより形成可能なスキルミオンについて、図3図8を参考図として説明する。
【0042】
図3は、一参考例である磁気素子の概要を示す斜視図である。図4は、図3のB-B線の矢視断面図である。図3および図4に示す磁気素子100は、板状の磁性部材111に板状の重金属部材112を積層したものである。なお、磁性部材111は、磁性部材11と同様の材料によって構成されているため、その詳細を省略する。また、重金属部材112は、第1重金属部材12および第2重金属部材13と同様の材料によって構成されているため、その詳細を省略する。
【0043】
図3および図4に示す磁気素子100において、磁性部材111は、板面に略垂直な方向(±z方向)に磁化されているとする。この場合、磁性部材111と重金属部材112との境界にて界面DMIが作用する。これにより、磁性部材111では、スキルミオンが安定して存在可能(形成可能)となる。
【0044】
図5は、上記構成の磁気素子100の磁性部材111にて形成されるスキルミオンの概要を示す平面図である。図5の例では、磁性部材111は、重金属部材112が設けられている側とは反対側の向き(-z方向)に磁化されている。また、図5には、磁性部材111の各磁区における磁気モーメントの向きが示されている。当該磁気モーメントは、板面(xy平面)に略垂直な方向(+z方向および-z方向)が白く、板面に沿う方向の成分が増えるにつれて黒くなっている。後述するスキルミオン等の磁気構造体を示す図面も同様である。
【0045】
図5に示すスキルミオン120は、円形状であり、円周部の磁化(磁壁)はネール(Neel)型である。スキルミオン120の磁気モーメントは、中心部120aにて+z方向であり、中心部120aから縁部120bに向かうにつれて、+z方向の成分が徐々に減って0となる一方、縁部120bから中心部120aへの方向(内向き)の成分が増えていく。その後、上記磁気モーメントは、-z方向の成分が徐々に増えていく一方、上記内向きの成分が減っていき、縁部120bにて-z方向となる。
【0046】
一般的には、スキルミオン120の磁壁は、界面DMIの強さや磁性部材111の磁化の向きで、外向きのネール型、内向きのネール型、左回り(反時計回り)のブロッホ型、右回り(時計回り)のブロッホ型の何れかが形成される。そして、磁性部材11と第1重金属部材12との界面DMIと、磁性部材11と第2重金属部材13との界面DMIとは、互いに磁化を傾ける向きが、例えば、内向きおよび外向きであったり、外向きおよび内向きであったり、反時計回りおよび時計回りであったり、時計回りおよび反時計回りであったりする。
【0047】
図5に示すスキルミオン120を形成する方法は下記の通りである。すなわち、まず、磁性部材111の所定領域にレーザ光を照射する。これにより、上記所定領域における原子群の温度が上昇して、上記所定領域の飽和磁化が低下する。その結果、上記所定領域以外の領域よりも小さい外部磁場で、上記所定領域の磁気モーメントを制御することができる。
【0048】
上記レーザ光の照射範囲(またはビーム径)は、磁性部材111に形成するスキルミオン120の大きさに対応する。上記レーザ光の照射パラメータ(レーザ光の波長、照射時間など)は、上記所定領域における原子群が最大でもキュリー温度(強磁性体から常磁性体への転移温度)よりもわずかに高い目標温度となるように設定される。キュリー温度が約140℃であるTbFeCoの場合、上記目標温度の最大温度は、例えば150℃に設定される。これにより、上記所定領域のみ磁化の向きが容易に変わるようになる。
【0049】
次に、磁性部材111の磁化方向(-Z方向)と逆方向(+Z方向)の外部磁場を印加する。当該外部磁場の大きさは、温度が上昇している上記所定領域における磁気モーメントが反転する程度に大きく、上記所定領域以外の領域の磁気モーメントが反転しない程度に小さい。これにより、上記所定領域における磁気モーメントは上記外部磁場と同じ向き(+Z方向)に反転する一方、上記所定領域以外の領域における磁気モーメントは、上記磁化方向(-Z方向)を維持する。また、上記所定領域の外側の領域における磁気モーメントは、面内成分を有するように傾斜する。その結果、図5に示すスキルミオン120が形成される。なお、上記外部磁場の印加を開始するタイミングは、上記レーザ光の照射を開始するタイミングより前でもよい。また、上記外部磁場の印加時間は、例えば約10ns(ナノ秒)以下である。
【0050】
(参考例2)
図6は、他の参考例である磁気素子の概要を示す斜視図である。図7は、図6のC-C線の矢視断面図である。図6および図7に示す磁気素子101は、板状の重金属部材112に板状の磁性部材111を積層したものである。すなわち、図6および図7に示す磁気素子101は、図3および図4に示す磁気素子100に比べて、積層の順番が異なるのみである。
【0051】
図6および図7に示す磁気素子101において、磁性部材111は、板面に略垂直な方向(±z方向)に磁化されているとする。この場合、磁性部材111と重金属部材112との境界にて界面DMIが作用する。これにより、磁性部材111では、スキルミオンが安定して存在可能(形成可能)となる。
【0052】
図8は、上記構成の磁気素子101の磁性部材111にて形成されるスキルミオンの概要を示す平面図である。図8に示す磁性部材111は、図5に示す磁性部材111と同じ向き(-z方向)に磁化されている。
【0053】
図8に示すスキルミオン121は、円形状であり、ネール型である。スキルミオン121の磁気モーメントは、中心部121aにて+z方向であり、中心部121aから縁部121bに向かうにつれて、+z方向の成分が徐々に減って0となる一方、中心部121aから縁部121bへの方向(外向き)の成分が増えていく。その後、上記磁気モーメントは、-z方向の成分が徐々に増えていく一方、上記外向きの成分が減っていき、縁部120bにて-z方向となる。なお、図8に示すスキルミオン121を形成する方法は、参考例1と同様であるので、その説明を省略する。
【0054】
このように、スキルミオン120・121の磁化の向きは、重金属部材112の配置に依存する。また、磁性部材111における磁化の向きを逆向き(+z方向)とした場合、スキルミオン120・121の磁化の向きも逆向きとなる。
【0055】
(スキルミオンの電流駆動)
上記構成の磁気素子100・101における長手方向の一方から他方への向き(例えば-x方向)に電流を流すと、電子の流れる向き(電流とは逆向き)にスピンが流れることで、磁性部材111における磁区にスピントランスファートルク(STT)が作用して、上記電流の向きとは反対の向き(x方向)に上記磁区が移動する。これにより、スキルミオン120・121がx方向に移動する。なお、上記磁区が移動する向きが電流と反対向きになるか同じ向きになるかは、磁性部材111のスピン偏極率に依存する。上記スピン偏極率が正である場合にはスキルミオン120・121が電流と反対向きに移動する。上記スピン偏極率が負である場合にはスキルミオン120・121が電流と同じ向きに移動する。
【0056】
このとき、スキルミオンホール効果により、磁気素子100・101の短手方向(y方向)の力がスキルミオン120・121に働く。従って、x方向に移動するスキルミオン120・121は、x方向に沿って直進せず、y方向に逸れることになる。その結果、スキルミオン120・121は、磁性部材111の短手方向(y方向)の端部に到達して消滅したり、サイズが減少して消滅したりする可能性がある。
【0057】
この現象は、スキルミオンやバブル磁区などの磁気構造体の電流駆動を記述するThiele方程式によって説明することができる。上記Thiele方程式を次式(1)に示す。
【0058】
【数1】
【0059】
ここで、Gは磁気回転結合ベクトルであり、ベクトルG=(0,0,-4πQ)である。Qは、スキルミオンナンバーであり、中心部120aの磁化が上向き(+z方向)である場合にQ=+1となり、上記磁化が下向き(-z方向)である場合にQ=-1となる。
【0060】
ベクトルuはスピン流速度ベクトルであり、ベクトルu=(u,0,0)である。これは、速度の次元を有し、磁性部材111を流れる電流に比例する量である。ベクトルvは磁気構造のドリフト速度ベクトルであり、ベクトルv=(v,v,0)である。テンソルDは散逸力テンソルであり、パラメータαおよびβは、それぞれ、ギルバート緩和および非断熱効果の強さを示す無次元の定数である。ベクトルFは、現象論的に導入した不純物、欠陥などに由来するピン留め力、磁性部材11のエッジから受ける力のベクトルである。
【0061】
上記式(1)に対し、ベクトルF=0とすると、スキルミオン120の駆動速度(移動速度)の解析式として次式(2)が得られる。
【0062】
【数2】
【0063】
上記式(2)に対し、Dxx=Dyy=1とすると、次式(3)・(4)が得られる。
【0064】
Q=±1の場合、v=(1+αβ)u/(1+α)、v=±(α-β)u/(1+α) ・・・(3)
Q=0の場合、v=βu/α、v=0 ・・・(4)。
【0065】
上記式(3)を参照すると、Q=±1であるスキルミオン120・121は、短手方向(y方向)に逸れることが理解できる。また、Q=0である磁気構造体は、上記式(4)を参照すると、短手方向(y方向)に逸れず、長手方向(x方向)に直進することが理解できるが、上記式(2)を参照すると、緩和および散逸の影響を受けやすいことが理解できる。
【0066】
(磁気構造体の概要)
図9は、本実施形態の磁気素子1において、磁性部材11における第1領域21および第2領域22の両方に広がる磁気構造体を示す平面図である。すなわち、上記磁気構造体31は、磁性部材11において、第1重金属部材12が形成された部分と、第2重金属部材13が形成された部分とにまたがって形成されることになる。上記磁気構造体31は、磁性部材11を、板面に略垂直な方向(±z方向)に予め磁化しておき、図1に示すような、第1領域21および第2領域22の両方に広がるスポット領域SA1に、上述のようにレーザ光を照射したり、或いは、磁場または電場を印加したりすることにより形成することができる。
【0067】
図1および図2に示す第1領域21の上方には、図3および図4と同様に、第1重金属部材12が形成されている。また、図1および図2に示す第2領域22の下方には、図6および図7と同様に、第2重金属部材13が形成されている。すなわち、磁性部材11の第1表面に第1重金属部材12が設けられ、磁性部材11の第1表面の反対側の第2表面に第2重金属部材13が設けられていることになる。
【0068】
従って、磁性部材11のスポット領域SA1には、図9に示すように、図5に示すスキルミオン120の半体を第1領域21に含み、図8に示すスキルミオン121の半体を第2領域22に含む円形状の磁気構造体31が安定して存在可能(形成可能)となる。このような磁気構造体31は、スキルミオンナンバーQがQ=0となることから、上記式(4)に示すように、x方向から逸れることを防止できる。
【0069】
また、このことから、磁性部材11と第1重金属部材12との界面DMIと、磁性部材11と第2重金属部材13との界面DMIとが互いに異なるようにすることにより、第1領域21および第2領域22の両方に広がる磁気構造体は、スキルミオンナンバーQが±1から0に近づくと考えられる。その結果、上記磁気構造体は、x方向から逸れることを低減できると考えられる。
【0070】
(実施例1)
図1および図2に示す磁気素子1に関して、図1に示すスポット領域SA1にて形成される磁気構造体を、磁性体の磁化状態のシミュレーションによく利用されるマイクロマグネティクスシミュレーションを利用して算出した。
【0071】
磁性部材11は、長さ(x方向の長さ)が500nm、幅(y方向の長さ)が50nm、厚さ(z方向の長さ)が7.5nmとした。また、磁性部材11の磁気パラメータとして、TbFeCoのパラメータを利用した。第1重金属部材12および第2重金属部材13と磁性部材11との界面DMIは、TbFeCoとPt間の界面DMIのパラメータを利用した。上記の磁性部材11を、長さ2.5nm、幅2.5nm、厚さ2.5nmの微小なセルに分割し、ランダウ・リフシッツ・ギルバート方程式(LLG方程式)を用いて各セルの磁化の時間変化を計算した。
【0072】
図10は、上記シミュレーションの結果、磁性部材11にて安定した磁気構造体を示す平面図である。図10に示す磁気構造体32は、楕円形状であり、中心部32aから縁部32bに向かうにつれて、斜め方向(+x方向かつ-y方向)の成分を有している。この磁気構造体32のスキルミオンナンバーは、Q=-0.017となり、ゼロとはならなかった。なお、散逸力テンソルDなどの値により、上記楕円形状を円形状に近づけることができた。図10に示す磁気構造体32に対し、磁性部材11の-x方向に電流を流す上記シミュレーションを行ったところ、磁気構造体32はx方向に駆動され、x方向から逸れなかった。すなわち、v=0であった。
【0073】
図11は、図10に示す磁気構造体32の移動状況を示すグラフである。図11において、横軸は時間(単位:ns)であり、縦軸は距離(単位:nm)である。実線は、α=0.01、β=0.0の場合であり、一点鎖線は、α=0.1、β=0.0の場合である。なお、スピン流速度uは5.0m/sとした。
【0074】
図11を参照すると、実線で示す磁気構造体32は駆動速度がv=4.5m/sであり、すなわち、v=0.9uであった。また、一点鎖線で示す磁気構造体32は駆動速度がv=3.0m/sであり、すなわち、v=0.6uであった。従って、本実施例の磁気構造体32は、スキルミオンの場合と同様に、低消費電力で駆動できることが理解できる。
【0075】
ここで、上述の解析式を利用して、磁気構造体32の駆動速度を算出する。上記式(4)において、β=0.0の場合、v=0となる。従って、磁気構造体32が駆動されることは、Qがゼロではないことによることが理解できる。
【0076】
また、上記式(2)において、Q=-0.0167、Dxx=0.989、Dyy=2.004とすると、α=0.01、β=0.0の場合、v~0.6u、v≒-0.345uとなり、α=0.1、β=0.0の場合、v=0.013u、v≒-0.082uとなった。すなわち、図11に示す磁気構造体32は、上記解析式に基づく駆動速度よりもシミュレーション結果に基づく駆動速度の方が速かった。これは、解析値ではv≠0であるのに対し、シミュレーションの値ではv=0となる結果の成分(例えば、磁性部材11のエッジからの力ベクトルF)に起因する可能性が高い。
【0077】
(実施例2)
図1および図2に示す磁気素子1に関して、図1に示す第1領域21上のスポット領域SA2にて形成される磁気構造体を、上記マイクロマグネティクスシミュレーションを利用して調べた。なお、磁気素子1の各種パラメータは、実施例1と同様である。
【0078】
図12は、上記シミュレーションの結果、磁性部材11にて安定した磁気構造体を示す平面図である。図12に示す磁気構造体33(スキルミオン)は、板面(xy平面)に沿う方向の成分が左回り(反時計回り)であるブロッホ型のスキルミオンである。このスキルミオン33は、磁気素子1に電流を流さなくても、図面の左向き(-x方向)に20m/sで移動し続けた。この理由は、スキルミオン33が磁性部材11の中央ではなく、磁性部材11のエッジ側に位置しているために、磁性部材11のエッジからの力ベクトルFがスキルミオン33に作用したためである。
【0079】
また、スキルミオン33が磁性部材11のエッジ側に位置した理由は次の通りである。すなわち、スキルミオン33の-y側は、界面DMIが磁化を傾ける向きと逆向きに傾いた磁気構造をしており高エネルギーな状態である一方、スキルミオン33の+y側は、界面DMIが磁化を傾ける向きと同じ向きに傾いた磁気構造をしており低エネルギーな状態である。このため、低エネルギーの領域が大きい+y側にスキルミオン33の中心が寄った位置が、低エネルギーな安定位置になったためである。
【0080】
磁気素子1に電流を流していないので、スキルミオンホール効果が発生せず、従って、スキルミオン33は長手方向(x方向)から逸れることなく、移動し続けた。また、上記移動速度は、磁性部材11と第1重金属部材12との境界における界面DMIが弱いほど遅かった。界面DMIが強いほどスキルミオン33が磁性部材11のエッジに近づく距離が大きく、磁性部材11のエッジからの力ベクトルFの作用が大きくなるためである。
【0081】
(実施例3)
図1および図2に示す磁気素子1に関して、図1に示す第2領域22上のスポット領域SA3にて形成される磁気構造体を、上記マイクロマグネティクスシミュレーションを利用して調べた。なお、磁気素子1の各種パラメータは、実施例1と同様である。
【0082】
図13は、上記シミュレーションの結果、磁性部材11にて安定した磁気構造体を示す平面図である。図13に示す磁気構造体34(スキルミオン)は、板面(xy平面)に沿う方向の成分が右回り(時計回り)であるブロッホ型のスキルミオンである。本実施例においても、図12に示す実施例と同様に、スキルミオン34は、磁気素子1に電流を流さなくても、図面の右向き(x方向)に20m/sで移動し続けた。また、磁気素子1に電流を流していないので、スキルミオンホール効果が発生せず、従って、スキルミオン34は長手方向(x方向)から逸れることなく、移動し続けた。また、上記移動速度は、磁性部材11と第2重金属部材13との境界における界面DMIが弱いほど遅かった。
【0083】
(変形例1)
図14は、図1および図2に示す磁気素子1の一変形例を示す断面図である。図14に示す磁気素子1aは、図2に示す磁気素子1に比べて、磁性部材11の第1領域21の一部に第1重金属部材12が設けられ、磁性部材11の第2領域22の一部に第2重金属部材13が設けられている点が異なり、その他の構成は同様である。本変形例のように、第1重金属部材12および第2重金属部材13の無い領域が磁性部材11に存在してもよい。
【0084】
また、磁性部材11において、第1重金属部材12が設けられている領域と、第2重金属部材13が設けられている領域とが離間していてもよい。この離間の最大幅は、例えば20nm程度であるが、磁気パラメータに強く依存すると考えられる。
【0085】
(変形例2)
図15は、図1および図2に示す磁気素子1の他の変形例を示す断面図である。図15に示す磁気素子1bは、図2に示す磁気素子1に比べて、磁性部材11における第1領域21と第2領域22の一部とに第1重金属部材12が設けられ、磁性部材11における第2領域22の一部に第2重金属部材13が設けられている点が異なり、その他の構成は同様である。この場合、磁性部材11と、第1重金属部材12または第2重金属部材13とが並ぶ方向(z方向)から視た場合(上面視の場合)、第1重金属部材12と第2重金属部材13とは、重なっている箇所が存在することになる。
【0086】
本変形例のように、第1重金属部材12および第2重金属部材13の両方が設けられている領域が磁性部材11に存在してもよい。第1重金属部材12、磁性部材11および第2重金属部材13が重なっている領域の最大幅は、例えば20nm程度であるが、磁気パラメータに強く依存すると考えられる。
【0087】
(付記事項)
なお、図1および図2に示す磁気素子1に関して、第1領域21において第1重金属部材12が設けられた側とは反対側と、第2領域22において第2重金属部材13が設けられた側とは反対側とに、非磁性かつ電気絶縁性の薄膜を設けてもよい。この場合、磁気素子1は、3層の直方体形状となり、構造が安定する。
【0088】
また、磁性部材11は、第1領域21および第2領域22によって、全部が構成されてもよいし、一部が構成されてもよい。また、第1領域21および第2領域22は、サイズが同程度であってもよい。また、図12に示すスキルミオン33・34を形成する場合、第1領域21は、第2領域22に比べてサイズが大きくてもよい。同様に、図13に示すスキルミオン34を形成する場合、第2領域22は、第1領域21に比べてサイズが大きくてもよい。
【0089】
〔実施形態2〕
本発明の別の実施形態について、図16を参照して説明する。
【0090】
図16は、本実施形態の磁気素子の概要を示す断面図である。図16に示す磁気素子2は、図1および図2に示す磁気素子1に比べて、磁性部材11が段状となっており、下段が第1領域21であり、上段が第2領域22である点が異なり、その他の構成は同様である。すなわち、本実施形態では、磁性部材11の下段(一方の段)に第1重金属部材12が形成され、上段(他方の段)に第2重金属部材13が形成されることになる。このような示す磁気素子2は、まず、磁性部材11の下段と第2重金属部材13とを形成し、次に、第1重金属部材12と磁性部材11の上段とを形成することにより実現できる。
【0091】
本実施形態の磁気素子2は、図16に示すように2層の直方体形状となるので、図1および図2に示す磁気素子1に比べて安定な構造とすることができる。また、本実施形態の磁気素子2は、上記3層の直方体形状に比べて、厚さを低減することができる。
【0092】
〔実施形態3〕
本発明のさらに別の実施形態について、図17を参照して説明する。
【0093】
図17は、本実施形態の磁気素子の概要を示す断面図である。図17に示す磁気素子3は、図1および図2に示す磁気素子1に比べて、第1重金属部材12に代えて、第1重金属部材14が設けられている点が異なり、その他の構成は同様である。
【0094】
図17に示すように、第1重金属部材14は、磁性部材11に、図1および図2に示す第1重金属部材12が設けられている側とは反対側(-z方向)に設けられている。すなわち、磁性部材11の下面(第1表面)に第1重金属部材14と第2重金属部材13とが設けられることになる。また、第1重金属部材14は、第2重金属部材13に隣接して磁性部材11に設けられることになる。なお、第1重金属部材14が設けられている領域と、第2重金属部材13が設けられている領域とが(例えば20nm程度)離間していてもよい。
【0095】
また、第1重金属部材14と第2重金属部材13とは、重金属の種類が異なっている。具体的には、第1重金属部材14は、磁性部材11および第1重金属部材14による界面DMIの符号が、磁性部材11および第2重金属部材13(第1重金属部材12)による界面DMIの符号とは反対となるような重金属によって構成される。
【0096】
これにより、本実施形態の磁気素子3は、図9図10図12、および図13に示すような磁気構造体を形成することができる。また、本実施形態の磁気素子3は、図17に示すように2層の直方体形状となるので、図1および図2に示す磁気素子1に比べて安定な構造とすることができる。また、本実施形態の磁気素子2は、上記3層の直方体形状に比べて、厚さを低減することができる。
【0097】
〔実施形態4〕
本発明のさらに別の実施形態について、図18および図19を参照して説明する。
【0098】
図18は、本実施形態に係る磁気素子の概要を示す斜視図である。本実施形態の磁気素子4は、図1および図2に示す磁気素子1に比べて、第1領域21に第2重金属部材13が設けられ、第2領域22に第1重金属部材12が設けられている点と、供給部41(突出部)が新たに設けられている点とが異なり、その他の構成は同様である。
【0099】
以下では、磁性部材11において、第1領域21および第2領域22を含む部分を本体部23と称する。すなわち、本体部23は、第1重金属部材12および第2重金属部材13が形成される板状部分(直方体)である。また、本体部23は、第1重金属部材12および第2重金属部材13が並ぶ方向(y方向)に位置する側面23aを有する。
【0100】
第1領域21に第2重金属部材13が設けられていることから、第1領域21には図13に示すスキルミオン34が存在可能である。また、第2領域22に第1重金属部材12が設けられていることから、第2領域22には図12に示すスキルミオン33が存在可能である。
【0101】
供給部41は、磁気素子4の磁性部材11にスキルミオンを供給するためのものである。図18に示すように、供給部41は、磁性部材11の第1領域21の側面23aの一部から側方(-y方向)に突出した磁性突出部42と、磁性突出部42と共に突出する第2重金属突出部43と、を備える。
【0102】
従って、磁性部材11および磁性突出部42を-z方向に予め磁化しておき、供給部41にてレーザ光を照射したり、或いは、磁場または電場を印加したり、スピンを注入したりすることにより、図13に示すスキルミオン34を磁性突出部42にて形成することができる。従って、レーザ光の照射、磁場の印加など、スキルミオン34の形成に必要な作業を、第1領域21および第2領域22を含む本体部23にて実行する必要が無くなる。
【0103】
供給部41は、基端部41aの幅が広く、先端部41bの幅が狭くなっている。すなわち、磁性突出部42は、本体部23の側から外側に(-y方向に)向かうにつれて幅が狭くなっている。この場合、スキルミオンなどの磁気構造体が先端部41bよりも基端部41aに位置した方が、エネルギーが低くなる。その結果、磁性突出部42にて形成されたスキルミオン34は、供給部41に電流を流すことなく、基端部41aの方へ移動し、本体部23に移動することができる。
【0104】
また、供給部41は、先端部41bから基端部41aに向かうにつれて、スキルミオン34が移動する方向(x方向)に傾斜している。具体的には、磁性突出部42は、本体部23の側面23aに接続する第1側面42aおよび第2側面42bを有する(図18を参照)。第1側面42aは、第2側面42bに比べて、スキルミオン34の移動方向とは逆向き(-x方向)に位置する。また、磁性突出部42の第1側面42aと本体部23の側面23aとによって形成される角度であって、磁性突出部42側の角度を第1角度θ1とする。また、磁性突出部42の第2側面42bと本体部23の側面23aとによって形成される角度であって、磁性突出部42側の角度を第2角度θ2とする(図19を参照)。この場合、本実施形態では、第1角度θ1は第2角度θ2よりも大きくなる。
【0105】
これにより、磁性突出部42にて形成されたスキルミオン34を第1領域21(本体部23)にスムーズ移動させることができる。そして、第1領域21に移動したスキルミオン34は、磁気素子4に電流を流すことなく、x方向に移動する。
【0106】
(実施例4)
図18に示す磁気素子4に関して、供給部41にて形成されたスキルミオン34の挙動を、上記マイクロマグネティクスシミュレーションを利用して算出した。なお、磁性部材11のサイズは、長さ(x方向の長さ)が500nm、幅(y方向の長さ)が60nm、厚さ(z方向の長さ)が6.0nmとした。第1重金属部材12および第2重金属部材13のサイズは長さが500nm、幅が30nmとした。また、供給部41の長さを86nm,先端部の長さを60nm,先端部から基端部までのy方向の長さを60nmとした。磁性部材11および供給部41における磁気パラメータおよび界面DMI値として、TbFeCo/Pt多層膜のパラメータを利用した。上記の磁性部材11と供給部41とを、長さ2.0nm、幅2.0nm、厚さ2.0nmの微小なセルに分割し、供給部41にて形成されたスキルミオン34の挙動を計算した。
【0107】
図19は、上記シミュレーションにより算出された、スキルミオン34の挙動を示す平面図である。図19の参照番号1001に示すように、供給部41の磁性突出部42にてスキルミオン34を形成すると、図19の参照番号1002に示すように、スキルミオン34は、x成分およびy成分を有する方向へ、サイズを拡大しつつ移動する。スキルミオン34が磁性部材11に移動すると、スキルミオン34はサイズを縮小しつつx方向に移動する。そして、図19の参照番号1003に示すように、スキルミオン34は、適当なサイズを維持しつつ、中央から第1領域21側に寄った位置をx方向に移動する。
【0108】
〔実施形態5〕
本発明のさらに別の実施形態について、図20を参照して説明する。
【0109】
図20は、本実施形態に係る磁気メモリ装置の概要を示す平面図である。図20に示すように、本実施形態の磁気メモリ装置50は、図1および図2に示す磁気素子1と、電源51、書込デバイス52、および読出デバイス53とを備える。磁気素子1は、複数の磁区に分割されている。
【0110】
電源51は、磁気素子1の長手方向の両端部に接続し、当該両端部の一方から他方に、或いは他方から一方に、所定の電流を流すようになっている。これにより、磁気素子1の磁区を、電流の向きとは反対向きに移動させることができる。
【0111】
書込デバイス52は、磁気素子1における所定の書込位置に、例えば、図9に示す磁気構造体31を形成するようになっている。書込デバイス52は、図1に示すスポット領域SA1にレーザ光を照射するデバイスと、外部磁場を印加するデバイスとを含むが、これに限定されるものではなく、磁気構造体31を形成可能な任意のデバイスを利用することができる。
【0112】
読出デバイス53は、磁気素子1における所定の読出位置にて磁気構造体31の有無を検出するようになっている。具体的には、読出デバイス53は、磁気素子1の磁性部材11における所定領域の磁気モーメントを検出して電気信号に変換するものである。読出デバイス53は、例えば、GMR(巨大磁気抵抗効果)、TMR(トンネル磁気抵抗効果)、ホール効果等を利用した磁気センサであってもよい。
【0113】
上記構成の磁気メモリ装置50において、或るアドレスに1ビットデータ「1」を書き込む場合、上記アドレスに対応する磁区が上記書込位置に移動するように、電源51が電流を流す。次に、書込デバイス52が上記書込位置に磁気構造体31を形成する。上記アドレスに対応する磁区に磁気構造体31が形成される。なお、或るアドレスに1ビットデータ「0」を書き込む場合、特に何も行わない。
【0114】
また、或るアドレスの1ビットデータを読み出す場合、上記アドレスに対応する磁区が上記読出位置に移動するように、電源51が電流を流す。次に、読出デバイス53が上記読出位置における磁気モーメントを検出する。読出デバイス53は、磁気構造体31の磁気モーメントを検出した場合、1ビットデータ「1」を示す電気信号を外部に出力する。一方、磁気構造体31の磁気モーメントを検出しなかった場合、1ビットデータ「0」を示す電気信号を外部に出力する。
【0115】
磁気メモリ装置50に記憶された情報を消去する場合、全ての磁区が磁気素子1の両端部の一方に移動するように電源51が電流を流す。これにより、磁気構造体31は、磁気素子1の両端部の一方に接触して消滅する。
【0116】
従って、本実施形態の磁気メモリ装置50では、磁気構造体31が電流の流れる方向とは反対の向きに移動し、当該向きから逸れることを防止できる。その結果、磁気メモリ装置50の信頼性を向上させることができる。
【0117】
(付記事項)
なお、図20に示す磁気メモリ装置50の磁気素子1に対し、図18に示す供給部41を追加してもよい。この場合、スキルミオン34の形成に必要な作業を、電流に基づいてスキルミオン34が移動する本体部23にて実行する必要が無くなる。
【0118】
〔実施形態6〕
本発明の他の実施形態について、図21を参照して説明する。
【0119】
図21は、本実施形態に係る磁気メモリ装置の概要を示す平面図である。図21に示すように、本実施形態の磁気メモリ装置60は、図18に示す磁気素子4と、書込デバイス61、読出デバイス62および消去デバイス63とを備える。
【0120】
本実施形態では、磁気素子4の本体部は、閉経路形状となっている。また、書込デバイス61は、磁気素子4の供給部41における所定の書込位置に、図13に示すスキルミオン34を形成するようになっている。従って、供給部41にて形成されたスキルミオン34は、上記閉経路に移動して左回り(反時計回り)に周回することになる。なお、書込デバイス61は、図20に示す書込デバイス52と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0121】
読出デバイス62は、上記閉経路における所定の読出位置にて、スキルミオン34の有無を検出するようになっている。なお、読出デバイス62は、図20に示す読出デバイス53と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0122】
消去デバイス63は、上記閉経路における所定の消去位置にて、スキルミオン34を消去するにようになっている。具体的には、消去デバイス63は、上記消去位置にて、磁気素子4における磁性部材11の磁化方向(-z方向)に磁場を印加するものである。なお、消去デバイス63は、上記消去位置が上記キュリー温度よりも高い温度となるように、レーザ光を照射するようになっていてもよい。
【0123】
上記構成の磁気メモリ装置60において、或るアドレスに1ビットデータ「1」を書き込む場合、上記アドレスに対応する磁区が供給部41と上記閉経路との合流地点に到達したときに、供給部41から上記合流地点にスキルミオン34が移動するように、書込デバイス61を動作させればよい。
【0124】
一方、或るアドレスに1ビットデータ「0」を書き込む場合、或いは、或るアドレスの1ビットデータを消去する場合、上記アドレスに対応する磁区が上記消去位置に到達したときに、消去デバイス63を動作させればよい。
【0125】
従って、本実施形態の磁気メモリ装置60は、磁区を移動させるための電源が不要となるので、消費電力をさらに低減することができる。
【0126】
(付記事項)
なお、図21に示す磁気素子4を、図1および図2に示す磁気素子1に変更して、当該磁気素子1の本体部を閉経路形状としてもよい。この場合、磁気構造体31を移動させるために磁気素子1に電流を流す必要があるが、磁気構造体31を電流の方向に沿って移動させることができる。
【0127】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
1、1a、1b、2、3、4 磁気素子
11 磁性部材
12、14 第1重金属部材
13 第2重金属部材
21 第1領域
22 第2領域
23 本体部
23a 側面
31、32 磁気構造体
33 スキルミオン(磁気構造体)
34 スキルミオン(磁気構造体)
32a 中心部
32b 縁部
41 供給部
41a 基端部
41b 先端部
42 磁性突出部
42a 第1側面
42b 第2側面
43 第2重金属突出部
50、60 磁気メモリ装置
51 電源
52、61 書込デバイス
53、62 読出デバイス
63 消去デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21