(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106218
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】塗布装置及び塗布方法
(51)【国際特許分類】
B05B 12/12 20060101AFI20230725BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20230725BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B05B12/12
B05B12/00 A
B05D3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007423
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】中妻 啓
(72)【発明者】
【氏名】道内 大貴
(72)【発明者】
【氏名】宗像 瑞恵
(72)【発明者】
【氏名】小林 義典
(72)【発明者】
【氏名】宮地 計二
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA37
4D075AA76
4D075AA81
4D075AA85
4D075BB91Y
4D075BB95Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA23
4D075DC16
4F035AA03
4F035BA22
4F035BB02
4F035BB04
4F035BB06
4F035BB32
4F035BC02
(57)【要約】
【課題】 塗布対象物がステージに設置されていることを利用して、高い精度のコーティング処理を実現することに適した塗布装置等を提供する。
【解決手段】 塗布装置は、ステージに設置された塗布対象物に対してスキャニング処理を行って塗布対象物の形状を特定する形状データを得るスキャニング処理部と、形状データから得られたメッシュデータを用いて、塗布対象物に塗料を塗布するための軌跡を生成するための作業データを生成する軌跡生成部と、前記作業データを用いて前記塗布対象物に塗料を塗布するコーティング部を備える。軌跡生成部は、スキャニング処理によって得られた形状の平滑化後に、少なくともエッジの一部を含むメッシュが削除された形状によって前記軌跡を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージに設置された塗布対象物に塗料を塗布するコーティング部を備える塗布装置であって、
前記塗布対象物の形状を特定する形状データから得られたメッシュデータを用いて、前記塗布対象物に塗料を塗布するための軌跡を生成するための作業データを生成する軌跡生成部を備え、
前記コーティング部は、前記作業データを用いて前記塗布対象物に塗料を塗布する、塗布装置。
【請求項2】
前記塗布対象物に対してスキャニング処理を行って前記形状データを得るスキャニング処理部を備え、
前記軌跡生成部は、スキャニング処理によって得られた形状の平滑化後に、少なくともエッジの一部を含むメッシュが削除された形状によって前記軌跡を生成する、請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記軌跡生成部は、前記形状データにおける前記塗布対象物の位置座標と、実際に設置されている前記塗布対象物の位置情報の違いを補正して前記軌跡を生成する、請求項2記載の塗布装置。
【請求項4】
前記軌跡生成部は、前記塗布対象物に長手方向と短手方向がある場合に、長手方向に沿ったストロークを含む前記軌跡を生成する、請求項1から3のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項5】
ステージに設置された塗布対象物に塗料を塗布するコーティング部を備える塗布装置における塗布方法であって、
前記塗布装置が備える軌跡生成部が、前記塗布対象物の形状を特定する形状データから得られたメッシュデータを用いて、前記塗布対象物に塗料を塗布するための軌跡を生成するための作業データを生成する軌跡生成ステップと、
前記コーティング部が、前記作業データを用いて前記塗布対象物に塗料を塗布する塗布ステップを含む塗布方法。
【請求項6】
前記塗布装置が備えるスキャニング処理部が、前記塗布対象物に対してスキャニング処理を行って前記形状データを得るスキャニング処理ステップを含む請求項5記載の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置及び塗布方法に関し、特に、ステージに設置された塗布対象物に塗料を塗布するコーティング部を備える塗布装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にあるように、出願人は、平面での塗布条件を利用して、立体での塗布条件を生成して塗装するための軌跡を自動生成することを提案した。
【0003】
図14は、塗布装置51と、パソコンなどの情報処理装置53において特許文献1記載の自動軌跡生成処理を実現したものとを組み合わせたものである。
図15は、出願人の一人が提供する塗布装置51の具体的な一例を示す。
【0004】
情報処理装置53は、データ処理部61と、軌跡生成記憶部63を備える。データ処理部61は、CADデータ入力部67と、入力処理部69と、自動軌跡生成部71と、JOBファイル生成部73を備える。
【0005】
塗布装置51は、ステージ55と、コーティング部57を備える。コーティング部57は、スプレー部77と、コーティング処理部79と、コーティング記憶部81を備える。コーティング処理部79は、JOBファイル入力部83と、成膜処理部85を備える。
【0006】
塗布対象物75は、ステージ55に載せられている。
【0007】
CADデータ入力部67は、塗布対象物75の形状を特定する形状データ(CADデータなど)を入力する。
【0008】
入力処理部69は、作業者の指示により、塗装範囲と、初期線を設定する。
【0009】
自動軌跡生成部71は、平面での塗布条件を参照して、塗装範囲に対して初期線から塗布するための軌跡を生成する。
【0010】
JOBファイル生成部73は、軌跡に従った塗装を実現するためのJOBファイルを生成する。
【0011】
作業者は、生成されたJOBファイルをJOBファイル入力部83に入力する。
【0012】
成膜処理部85は、JOBファイルに従ってスプレー部77を制御して、塗布対象物75の塗装処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、
図14のシステムでは、塗布対象物75の形状データが予め得られていることを前提にする。さらに、この形状データは、仮想的なものであり、ステージ55に置かれた塗布対象物75の実際の状態を反映するものではない。そのため、実際に塗布作業を行うときに、例えばエッジの位置で微小な誤差が生じるなどで、塗装の精度がおちることがある。より高い精度のコーティング処理を実現することが望まれる。
【0015】
よって、本願発明は、塗布対象物がステージに設置されていることを利用して、高い精度のコーティング処理を実現することに適した塗布装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明の第1の側面は、ステージに設置された塗布対象物に塗料を塗布するコーティング部を備える塗布装置であって、前記塗布対象物の形状を特定する形状データから得られたメッシュデータを用いて、前記塗布対象物に塗料を塗布するための軌跡を生成するための作業データを生成する軌跡生成部を備え、前記コーティング部は、前記作業データを用いて前記塗布対象物に塗料を塗布する。
【0017】
本願発明の第2の側面は、第1の側面の塗布装置であって、前記塗布対象物に対してスキャニング処理を行って前記形状データを得るスキャニング処理部を備え、前記軌跡生成部は、スキャニング処理によって得られた形状の平滑化後に、少なくともエッジの一部を含むメッシュを削除された形状によって前記軌跡を生成する。
【0018】
本願発明の第3の側面は、第2の側面の塗布装置であって、前記軌跡生成部は、前記形状データにおける前記塗布対象物の位置座標と、実際に設置されている前記塗布対象物の位置情報の違いを補正して前記軌跡を生成する。
【0019】
本願発明の第4の側面は、第1から第3のいずれかの側面の塗布装置であって、前記軌跡生成部は、前記塗布対象物に長手方向と短手方向がある場合に、長手方向に沿ったストロークを含む前記軌跡を生成する。
【0020】
本願発明の第5の側面は、ステージに設置された塗布対象物に塗料を塗布するコーティング部を備える塗布装置における塗布方法であって、前記塗布装置が備える軌跡生成部が、前記塗布対象物の形状を特定する形状データから得られたメッシュデータを用いて、前記塗布対象物に塗料を塗布するための軌跡を生成するための作業データを生成する軌跡生成ステップと、前記コーティング部が、前記作業データを用いて前記塗布対象物に塗料を塗布する塗布ステップを含む。
【0021】
本願発明の第6の側面は、第5の側面の塗布方法であって、前記塗布装置が備えるスキャニング処理部が、前記塗布対象物に対してスキャニング処理を行って前記形状データを得るスキャニング処理ステップを含む。
【発明の効果】
【0022】
本願発明の各側面によれば、3次元スキャナなどを利用してステージに設置された塗布対象物の形状データを得て、自動的に軌跡を生成して塗料を塗布することにより、高い精度の塗布作業を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本願発明の実施の形態の一例に係る塗布装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1の塗布装置1の動作の一例を示すフロー図である。
【
図3】
図2における処理の具体的な一例を説明するための図である。
【
図4】ステージへの設置について説明するための図である。
【
図5】スキャンにより得られるメッシュデータを説明するための図である。
【
図7】前処理部25によるメッシュデータのスムージング処理などを説明するための図である。
【
図8】作業者が塗布範囲を選択した後のメッシュデータの一例を示す。
【
図9】塗布対象物の形状に応じた自動軌跡生成の一例を説明するための図である。
【
図10】成膜前に行われる試運転部による動作シミュレーション検証である。
【
図12】スプレー部(3D-rCoater)により塗布対象物を塗布している状況を撮影したものである。
【
図13】プロペラに発光塗料を成膜し、輝度(発光強度)の分布を調べたものである。
【
図14】従来の、塗布装置51と、情報処理装置53による自動軌跡生成処理を実現したものとを組み合わせたものの構成の一例を示すブロック図である。
【
図15】出願人の一人が提供する塗布装置51の具体的な一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0025】
図1は、本願発明の実施の形態の一例に係る塗布装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0026】
塗布装置1は、ステージ3と、スキャニング処理部5と、軌跡生成部7と、コーティング部9を備える。
【0027】
塗布装置1は、
図14の場合とは異なり、スキャニング処理部5及び軌跡生成部7を備える装置である。スキャニング処理部5により、ステージ3における塗布対象物11のスキャニング処理を行って把握された実際の状態を利用してコーティング処理を実現することにより、高精度な塗装処理を実現することができる。
【0028】
塗布対象物11は、ステージ3に載せられる。
【0029】
スキャニング処理部5は、スキャン部13と、メッシュデータ生成部15と、スキャン記憶部17を備える。
【0030】
スキャン部13は、例えば3次元スキャナであり、塗布対象物11をスキャンして形状データを生成する。メッシュデータ生成部15は、形状データからメッシュデータを生成する情報処理装置である。一般的に、ジオメトリデータ(CADデータ、スキャニングにより得られた形状データなど)からメッシュデータ(STL(Stereolithography)ファイルなど)を得ることは比較的簡単であるが、メッシュデータからジオメトリデータを得ることは難しい。メッシュデータ生成部15は、生成されたメッシュデータを軌跡生成部7に送信する。スキャン記憶部17は、形状データ及びメッシュデータを記憶する。
【0031】
軌跡生成部7は、データ処理部19と、軌跡生成記憶部21を備える。データ処理部19は、情報処理装置であり、メッシュデータ入力部23と、前処理部25と、入力処理部27と、自動軌跡生成部29と、JOBファイル生成部31を備える。
【0032】
メッシュデータ入力部23は、スキャニング処理部5からメッシュデータを受信する。
【0033】
前処理部25は、メッシュデータに対して前処理を行う。前処理では、例えば、メッシュデータのスムージング処理などを行う。
【0034】
入力処理部27は、塗布装置1の作業者の指示を入力する。作業者は、例えば、塗布範囲を指定したり、初期線を指定したりする。
【0035】
自動軌跡生成部29は、例えば特許文献1に記載の技術によって、塗布するための軌跡を自動的に生成する。
【0036】
JOBファイル生成部31は、自動軌跡生成部29が生成した軌跡によって塗布するために必要な情報を特定するJOBファイルを生成する。JOBファイル生成部31は、例えば特許文献1に記載の技術のように、平面を塗布するための平面塗布条件から、自動軌跡生成部29が生成した軌跡で塗布する立体塗布条件を生成して、この立体塗布条件に従って自動軌跡生成部29が生成した軌跡によって塗布するために必要な情報を生成してJOBファイルを生成する。JOBファイル生成部31は、生成したJOBファイルをコーティング部9に送信する。
【0037】
軌跡生成記憶部21は、メモリなどの記憶装置であり、平面を塗布するための平面塗布条件、受信したメッシュデータ、作業者による指示を特定する情報、自動軌跡生成部29が生成した軌跡、JOBファイルなどを記憶する。
【0038】
コーティング部9は、スプレー部33と、コーティング処理部35と、コーティング記憶部37を備える。コーティング処理部35は、JOBファイル入力部39と、試運転部41と、成膜処理部43を備える。
【0039】
スプレー部33は、成膜処理部43の制御によって、例えば塗料や機能性塗料などを塗布対象物11にスプレー塗布する。
【0040】
JOBファイル入力部39は、軌跡生成部7からJOBファイルを受信する。
【0041】
試運転部41は、シミュレーションなどによりJOBファイルによる塗布作業の試運転を行う。
【0042】
成膜処理部43は、スプレー部33を制御して、例えば塗料や機能性塗料などを塗布対象物11にスプレー塗布する。
【0043】
コーティング記憶部37は、記憶装置であり、JOBファイルなどを記憶する。
【0044】
図2は、
図1の塗布装置1の動作の一例を示すフロー図である。
【0045】
塗布装置1の作業者は、ステージ3に塗布対象物11を設置する(ステップST1)。
【0046】
スキャニング処理部5のスキャン部13は、塗布対象物11をスキャン処理して、形状データを生成する(ステップST2)。
【0047】
メッシュデータ生成部15は、形状データからメッシュデータを生成して、軌跡生成部7に送信する(ステップST3)。
【0048】
軌跡生成部7において、メッシュデータ入力部23は、メッシュデータを受信する(ステップST4)。
【0049】
前処理部25は、受信したメッシュデータに対してスムージング処理などの前処理を行う(ステップST5)。
【0050】
入力処理部27は、作業者による選択に従って、塗布範囲を設定する(ステップST6)。
【0051】
入力処理部27は、作業者による指示に従って、塗装初期線を設定する(ステップST7)。
【0052】
自動軌跡生成部29は、初期線からの測地線距離を計算する(ステップST8)(特許文献1参照)。
【0053】
自動軌跡生成部29は、塗布するための軌跡を自動的に生成する(ステップST9)(特許文献1参照)。
【0054】
JOBファイル生成部31は、自動軌跡生成部29が生成した軌跡を利用して、JOBファイルを生成してコーティング部9に送信する(ステップST10)。
【0055】
コーティング部9において、JOBファイル入力部39は、JOBファイルを受信する(ステップST11)。
【0056】
試運転部41は、JOBファイルに従ってシミュレーションなどによって試運転を行う(ステップST12)。
【0057】
成膜処理部43は、スプレー部33をJOBファイルに従って制御して、塗布対象物11に対する塗装作業を行う(ステップST13)。
【0058】
図3は、
図2における処理の具体的な一例を説明するための図である。
【0059】
図3(a)は、塗布対象物11の一例を示す(
図2のステップST1参照)。
【0060】
図3(b)は、
図3(a)をスキャン部13がスキャン処理することにより形状データを得て、メッシュデータ生成部15により形状データを変換して得られたメッシュデータを示す(
図2のステップST3参照)。
【0061】
図3(c)は、作業者が指定した初期線Lを示す(
図2のステップST7参照)。
【0062】
図3(d)は、自動軌跡生成部29が初期線から計算した測地線距離を示す(
図2のステップST8参照)。
【0063】
図3(e)は、自動軌跡生成部29が生成した軌跡を示す(
図2のステップST9参照)。
【0064】
図3(f)は、成膜処理部43の制御によってスプレー部33が軌跡に従ってスプレー塗布する作業を示す(
図2のステップST13参照)。
【0065】
図4~
図13は、プロペラにスプレー塗布する具体例を説明するための図である。
【0066】
図4は、ステージへの設置について説明するための図である。
【0067】
塗布対象物であるプロペラは、第1位置決め治具J1に固定されている。ステージにおいて、第2位置決め治具J2は、回転テーブルRに固定されている。第1位置決め治具J1は、第2位置決め治具J2に挿入して固定することができる。第2位置決め治具J2は、第1位置決め治具J1を挿入する側とは反対側に延びた形状である。塗布対象物は、塗布範囲が第2位置決め治具J2の延びた形状の位置に存在するように固定される。ロボットCは、ロボットアームでスプレーガンを移動させて塗布を行う。
【0068】
図5は、スキャンにより得られるメッシュデータを説明するための図である。
図5(a)は、プロペラ全体の形状データを示す。
図5(b)は、プロペラの片側について、スキャニング処理により得られたメッシュデータを示す。
【0069】
図5(c)にあるように、スキャニング処理に得られたメッシュデータにおける位置座標は、実際の塗布対象物(ワーク)の設置位置とは、位置のずれが生じたり、ねじれが生じたりする。
図6は、実際に生じた位置ずれ及びねじれを示す。ラインE
1はスキャニングで得られた形状データでの垂線を示し、ラインE
2は実際の塗布対象物の垂線を示す。ラインE
1とE
2の違いは、ねじれを示す。ラインE
3は、スキャニングで得られた塗布対象物の下面の位置を示し、ラインE
4は実際の塗布対象物の下面の位置を示す。ラインE
3とE
4の違いは、位置ずれを示す。一般的に、このずれは僅かなものではあるが、スプレー部による狙い角度や距離に大きく影響する。そのため、前処理(
図2のステップST5)や軌跡生成処理(
図2のステップST9)などにおいて、位置ずれ及びねじれを補正する処理を行う。ねじれ補正は、例えば、自動軌跡生成前の前処理の段階で作業者が補正を指定してもよく、予め位置関係が決められた位置決め治具を使用して作業者が塗布対象物をステージ上の治具に設置すれば自動的に位置ずれを防止するように補正するものでもよい。
【0070】
図7は、前処理部25によるメッシュデータのスムージング処理などを説明するための図である。スキャニング処理により得られた形状データは、通常、凹凸が存在する。そのため、法線方向が大きく変化する。法線方向が大きく変化すると、スプレー部の動作が大きくなり、膜厚などに大きな影響が生じる。これは、エッジ(例えば、空間的な広がりの最も外側に位置する端など)の近傍で特に顕著になる。そこで、前処理部は、法線方向の変化が、元のデータよりも緩やかに、かつ、変化が同じ向きになるようにスムージング処理を行って修正する。
図7(a)は、スムージング(平滑化)の前(平滑化なし)と、後(平滑化あり)を示す。平滑化により、基本的にはスプレー部の動きが一定の向きで、かつ、緩やかなものとなり、ムラが生じにくくなる。しかし、個所Fにあるように、特にエッジ近傍において、平滑化後も異常が存在する場合がある。そのため、エッジの近傍(例えば、少なくともエッジの一部を含む部分)についてソフトウェアマスク処理を行い、メッシュを切り取って削除する。このような修正後のデータに対して軌跡を生成する。
【0071】
図8は、作業者が塗布範囲を選択した後のメッシュデータの一例を示す。
【0072】
図9は、塗布対象物の形状に応じた自動軌跡生成の一例を説明するための図である。プロペラのように長手方向と短手方向がある形状では、ストローク方向離散化距離が短くなってしまうと、スプレー先端速度が指令値に到達する前に次の姿勢に移るため、指令値(指定したガン速度)どおりの動作にならない現象が発生する。そのため、軌跡によっては1ストロークの指定したガン速度を満たさない場合がある。長手方向を利用してストローク方向を設定することによりストローク方向離散化距離を長くでき、スプレー先端速度は指令値通りの動作が実現しやすくなる。
図9(a)は長手方向によって軌跡を生成したものであり、ストローク方向離散化距離は30mmであった。他方、
図9(b)は短手方向によって軌跡を生成したものであり、ストローク方向離散化距離は10mmである。
図10は、成膜前に行われる試運転部による動作シミュレーション検証である。
図10(a)は長手方向によるものであり、塗布対象物でのスプレー先端速度は、平面でのスプレー先端速度に近く、指定したガン速度に近い。他方、
図10(b)は短手方向によるものであり、塗布対象物でのスプレー先端速度は、平面でのスプレー先端速度よりも遅く、指定したガン速度よりも遅い。そのため、長手方向を基準とすることが望ましい。そこで、自動軌跡生成部は、ストローク長を考慮して軌跡を生成する。例えば、ストローク長が長手方向に近づくように、ストローク長が長手方向の長さに近いものを軌跡として優先的に生成することにより、形状に対する最適な塗布方法を選択して、液の無駄や動作のムラ、無理のない動きが可能になる。入力処理部は、例えば、作業者に対して、初期線が、塗布対象物の長手方向のエッジ又はそのエッジの近くに、エッジに沿ったものとなるように設定させるようにしてもよい。
【0073】
図11は、長手方向での具体的な処理の一例を示す。
図11(a)にあるように、初期線は、長手方向のエッジの一つに設定されている。そして、軌跡は、長手方向に沿って設定されている。
【0074】
図12は、スプレー部(3D-rCoater)により塗布対象物を塗布している状況を撮影したものである。
【0075】
図13は、(a)従来のハンドスプレーと(b)本願発明による三次元自動スプレーによってプロペラに発光塗料を成膜し、輝度(発光強度)の分布を調べたものである。各位置での輝度は、最大輝度で正規化されている。正規化された輝度(発光強度)は、
図13(a)では、平均が0.134、標準偏差が0.034で、標準偏差が平均の25.1%であったのに対し、
図13(b)では、平均が0.212、標準偏差が0.022で、標準偏差が平均の10.5%であった。このように、本願発明によれば、エッジの部分を含めて膜厚が均一で、ムラが生じていないものが得られている。