(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106225
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B08B 3/12 20060101AFI20230725BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B08B3/12 A
B08B3/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007430
(22)【出願日】2022-01-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】501358460
【氏名又は名称】星原 義彦
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】星原 義彦
【テーマコード(参考)】
3B201
【Fターム(参考)】
3B201AA48
3B201AB13
3B201BB04
3B201BB85
3B201BB89
3B201BB95
3B201BC05
3B201CB15
3B201CC11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡潔な構成であり、かつ、錆等の化学反応物質を生成しにくい、洗浄装置を提供する。
【解決手段】洗浄装置は、直列に連結された複数の水槽であって、最上流の水槽から順に越流して最下流の水槽まで洗浄剤が流下するようになっている、複数の水槽と、最下流の水槽の下流側と最上流の水槽の上流側の間に配置されて、洗浄剤が通過する純水装置と、を備えており、洗浄剤には、純水に純水装置に捕捉されない洗浄剤成分が添加されている。この純水装置に捕捉されない洗浄剤成分として、例えば、グリコールエーテルが使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ、又は、直列に連結された複数の水槽であって、最上流の水槽から順に越流して最下流の水槽まで洗浄剤が流下するようになっている、1つ、又は、複数の水槽と、
最下流の前記水槽の下流側と最上流の前記水槽の上流側の間に配置されて、前記洗浄剤が通過する純水装置と、を備え、
前記洗浄剤には、純水に前記純水装置に捕捉されない洗浄剤成分が添加される、洗浄装置。
【請求項2】
前記純水装置に捕捉されない前記洗浄剤成分として、グリコールエーテルが使用される、請求項1に記載された、洗浄装置。
【請求項3】
前記純水装置は、プレフィルタと、活性炭吸着装置と、イオン交換樹脂と、ファイナルフィルタと、から構成される、請求項1又は請求項2に記載された、洗浄装置。
【請求項4】
最下流の前記水槽のさらに下流側に、フィルタろ過による別系統の循環系、又は、蒸留による別系統の循環系を備えている、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された、洗浄装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された洗浄装置を用いた洗浄方法であって、
最下流の前記水槽から最上流の前記水槽まで、順に被洗浄物を通過させていくようになっている、洗浄方法。
【請求項6】
最上流の前記水槽まで前記被洗浄物を通過させた後に、温液低速引き上げ、フッ素系溶剤による置換乾燥、温風乾燥、又は、真空引き乾燥、による乾燥工程をさらに備える、請求項5に記載された、洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密光学ガラスレンズ、電子電気部品や精密加工部品などの被洗浄物(ワーク)を洗浄する洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(工業用精密洗浄の現状と課題)
1.洗浄剤の種類と機能
一般に、工業用精密洗浄における洗浄剤は、水系洗浄剤と非水系洗浄剤に分類される。このうち水系洗浄剤は、水に界面活性剤などを混合したもので、水は極性物質であり、水そのものも大変重要な働きをする。水系洗浄システムは、界面活性剤などによる乳化・ケン化・剥離・分散などの化学的作用及び超音波キャビテーションなどによる物理力、によって洗浄が行われる。油性・非油性を問わず全物質に対して有効な洗浄力を持ち、洗浄系の中では最もレベルの高い洗浄が可能であり、精密洗浄や半導体系洗浄で多く用いられている。
炭化水素系溶剤、塩素系溶剤、フッ素系溶剤などに代表される非水系洗浄剤は、主に溶解力によって加工油などの油分などの非水溶性汚れ成分を溶解洗浄することで洗浄する。そのため、非溶解性物質であるパーティクル除去等の精密洗浄には不向な部分がある。
【0003】
2.水系洗浄剤を用いる洗浄工程
水系洗浄剤を用いる洗浄方法は、洗浄精度は高いが洗浄工程が多く、管理指標が多岐に亘るなどの欠点がある。IPA置換法を乾燥に用いた多槽式水系洗浄工程の例を
図1に示す。仕上がり清浄度はかなり高い部類である。槽数は要求清浄度によってより多くなり、本図は最小の部類で、半導体洗浄のレベルになると、12~15工程にもなる。
(各工程の詳細)
・洗剤洗浄パート:界面活性剤などを用いて汚れ成分を乳化・分散させ、ワーク表面から離脱させる。
・すすぎパート:水道水又は井水を用いてワーク表面に微量残留した異物を除去するとともに、洗浄剤成分を除去する。溜め水では洗浄剤濃度が上昇するため、一定量の給水を行う。そのため排水が生じる。
・純水すすぎパート:水道水には微量の不純物が含まれており、また、ワークには微量の洗浄剤成分が残留しているため、そのまま乾燥させると乾きじみとなるため、純水で更にすすぎを行う。ここまでくるとワーク表面には H
2O しか存在しなくなる。
・乾燥パート:図にはIPA/純水置換乾燥が記されているが、この他、スロー引き上げ乾燥、ヘパフィルター付き温風乾燥、フッ素系溶剤水置換乾燥、などの乾燥方法があり、用途によって使い分けされる。
いずれにしても、洗浄すすぎ工程としては、1~5槽である。6槽以降は乾燥パ―トとなる。
【0004】
(参考)非水系洗浄剤を用いる洗浄工程
非水系洗浄剤は引火性物と非引火性物に分類される。非水系引火性洗浄剤としては、代表格として炭化水素系洗浄剤がある。非水系非引火性洗浄剤としては、フッ素系溶剤、トリクロールエチレンなどの塩素系洗浄剤、臭素系洗浄剤、などがある。何れも溶解洗浄が主たる洗浄機能である。何れも非極性物質であり、水系洗浄とは大きく異なる。
工程としては、洗浄⇒すすぎ⇒ベーパー洗浄(蒸留機能兼)・乾燥の3工程が標準であり、全工程を同一液種で処理する1液処理が基本である。ここは特徴となる。いずれの洗浄剤も概ね蒸留再生が可能であり、いわゆるベーパー洗浄も可能である(例えば、特許文献1参照)。
非水系洗浄は、溶解洗浄を基本とするため、溶解されない固形物やパーティクルなどの除去には適さない部分(洗浄力の限界)があり、ここに水系洗浄との根本的な違いがある。しかし、単純明快であり、3槽で効率よく洗浄が可能である。非水系非引火性洗浄剤による代表的洗浄工程を
図2に示す。引火性洗浄剤の場合は安全対策として、各工程が密閉・減圧構造となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
3.水系洗浄のもつ課題
しかしながら、「2.水系洗浄剤を用いる洗浄工程」で説明したように、水系洗浄剤を用いる洗浄方法は、洗浄精度は高いものの、洗浄工程が多い、給・排水が必要となる、管理指標が多岐に亘る、すすぎ水・すすぎ純水中の酸素とワークの化学反応による錆等の化学反応物質の生成、ワークがイオン化して溶出する、などの欠点がある。
【0007】
そこで、このような各課題を解決するため、本発明は、簡潔な構成であり、かつ、錆等の化学反応物質を生成しにくい、洗浄装置を開発することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の洗浄装置は、1つ、又は、直列に連結された複数の水槽であって、最上流の水槽から順に越流して最下流の水槽まで洗浄剤が流下するようになっている、1つ、又は、複数の水槽と、最下流の前記水槽の下流側と最上流の前記水槽の上流側の間に配置されて、前記洗浄剤が通過する純水装置と、を備え、前記洗浄剤には、純水に前記純水装置に捕捉されない洗浄剤成分が添加されるようになっている。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の洗浄装置は、1つ、又は、直列に連結された複数の水槽であって、最上流の水槽から順に越流して最下流の水槽まで洗浄剤が流下するようになっている、1つ、又は、複数の水槽と、最下流の水槽の下流側と最上流の水槽の上流側の間に配置されて、洗浄剤が通過する純水装置と、を備え、洗浄剤には、純水に純水装置に捕捉されない洗浄剤成分が添加されるようになっている。このような構成であれば、簡潔な構成であり、かつ、錆等の化学反応物質を生成しにくい、洗浄装置となる。
【0010】
ここにおいて、本発明では、水槽は、1つ、又は、複数あればよい。水槽が1つのみの場合には、「最下流の水槽」と「最上流の水槽」は同じ1つの水槽となる。したがって、純水装置は、1つの水槽の下流側と上流側の間に接続されることになる。
【0011】
すなわち、各課題を解決する手段として、純水装置に捕捉されない特定の添加物を純水に加え、洗浄剤、すすぎ剤、仕上げすすぎ剤、乾燥促進剤として機能させる。ここにおいて、この純水装置を使用した場合、水中に含まれる不純物をほぼ完全に除去するため、H2O以外は存在しなくなり、すすぎ・乾燥後のワーク表面には何も存在しない、純水装置を通過した水には何も含まれない、ということが従来の常識であった。
【0012】
ところが、本発明では、この常識を覆すこととなった。すなわち、特定の物質としてグリコールエーテル(例えばPM(プロピレングリコールモノメチルエーテル))が純水器に捕捉されないことを発見した。このため、すすぎ性能もさることながら、グリコールエーテル(例えばPM)を加えることで、水が元々備えていた極性物質としての特性と、洗浄・溶解能が与えられ、同時に水と水よりも乾燥速度が格段に速いPMが共存する事によって、乾燥速度を早くする効能も生じることがわかった(一種の共沸現象と考えられる)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の多槽式水系洗浄装置の構成の説明図である。
【
図2】従来の非水系非引火性洗浄剤による洗浄装置の構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例0015】
(洗浄装置の構成)
まず、
図3を用いて本実施例の洗浄装置1の全体構成を説明する。この洗浄装置1は、4槽式の洗浄装置1であり、洗浄機能・リンス機能・乾燥機能を兼ね備えている。具体的に言うと、洗浄装置1は、
図3に示すように、越流式の4つの水槽21~24と、最上流の水槽21と最下流の水槽24に接続される純水装置30と、から構成されている。そして、装置内を循環する洗浄剤には、水と、純水装置に捕捉されない洗浄剤成分と、が含まれている。加えて、洗浄装置1は、ポンプやフィルタ(ろ過装置)などを備えることができる(図示しない)。
【0016】
このように、本実施例の洗浄装置1は、単一の洗浄剤のみが装置内を循環する1液式(非水系洗浄と同じく1液処理)であり、従来の水系洗浄システムとは大きく異なる特徴である。このため、厳密な分類は困難であり、全槽が洗浄槽でもあり、全槽がすすぎ槽でもあるといえる。強いて表現すれば、前段(水槽24、23)は洗浄機能、後段(水槽22、21)はすすぎ機能(リンス機能)を有する。
【0017】
なお、水槽の数(工程数)は、ワーク(W)の汚れの付着量と要求清浄度に応じて変えることができる。具体的には、水槽21~24の数は、1つ以上であればよく、ここで説明した4つの水槽21~24に限定されるものではなく、1つでもよいし、2つでもよいし、3つでもよいし、5つ以上でもよい。
【0018】
さらに言えば、ワーク(W)への付着物質が少ない場合には、
図3の構成で十分であるが、付着物質が多い場合には、全体を2ブロックに分けて、前段はフィルタ濾過による循環又は蒸留循環(純水装置を具備させると純水器の劣化が早くなるため)、後段を純水装置(30)による循環とすることも可能である。この場合は、最下流の水槽24のさらに下流側に前段の循環式洗浄系を配置することになる。
【0019】
この他、洗浄装置1とは別構成として、ワーク(W;被洗浄物)を、最下流の水槽24から最上流の水槽21へと、順に移動させる送り装置を備えることができる。送り装置は、本発明とは直接関係しないため、ここでは詳細な説明を省略するが、一般的な送り装置を使用することができる。
【0020】
(水槽の構成)
水槽21~24は、最上流の水槽21から、順に越流して最下流の水槽24まで、洗浄剤が流下するようになっている。すなわち、上流側から1番目の水槽21の上縁には、2番目の水槽22の上縁よりも上にある越流路が形成され、2番目の水槽22の上縁には、3番目の水槽23の上縁よりも上にある越流路が形成され、3番目の水槽23の上縁には、4番目の水槽24の上縁よりも上にある越流路が形成される。したがって、最上流の水槽21に流れ込んだ洗浄剤は、重力によって自然に最下流の水槽24まで流れ込むことが、逆流することはない。
【0021】
さらに、各水槽21~24の例えば底部には、超音波発生装置51~54を設置することも可能である。この超音波発生装置51~54は、本発明に必須の構成ではないが、洗浄を促進するうえでは有用な構成となる。
【0022】
(純水装置の構成)
純水装置30は、最下流の水槽24の下流側と、最上流の水槽21の上流側の間に配置されて、洗浄剤が通過するようにされている。具体的には、純水装置30は、
図4に示すように、粒径の大きな固形物を除去するプレフィルタ31と、微粒子、分子レベルの異物を吸着する活性炭吸着装置32と、イオン化した物質を除去する陽イオン交換樹脂33a及び陰イオン交換樹脂33bと、微細微粒子及び活性炭・イオン交換樹脂から生じる微細異物を除去するファイナルフィルタ34と、から構成されている。
【0023】
この他、純水装置30は、任意(オプション)の構成として、U.V殺菌装置35や、電気伝導度計36、37や脱気装置38を備えることも好ましい。
【0024】
(乾燥工程)
そして、本実施例の洗浄装置1は、最上流の水槽21のさらに後工程として乾燥工程を備えることが好ましい。乾燥工程は、具体的に言うと、
・温液低速引き上げ
・フッ素系溶剤による置換乾燥
・温風乾燥
・真空引き乾燥
等であることが好ましい。
【0025】
(洗浄剤の構成)
洗浄剤は、純水に、純水装置30に捕捉されない洗浄剤成分が添加されて構成される。添加物としては、例えば、グリコールエーテルを使用することができる。より詳細に言うと、PM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を使用することが好ましい。添加物は、純水装置30に捕捉されない物質であればよいが、以下の条件を満たすことが好ましい。
【0026】
すなわち、添加物の条件として、水との100%相溶性、単一組成、乾燥後の不揮発残分ゼロ(単一組成であるため当然ではあるが)、乾燥シミなど一切無き事、速乾性、化学的安定性、分子量は大きい方が良い、イオン化しない事、などがある。
【0027】
今回選定したPMは分子量が比較的大きいためか、イオン交換の前段の活性炭で吸着されるが、ある程度の所で吸着が停止し、一定量以上の吸着は起こらない(※活性炭の外周に近い比較的大きな多孔質の部分で吸着されるためと推測される)。また、PMよりも分子量の小さな物質は、多孔質の内周に近いより微細な部分で吸着されると考えられる。分子量が次段のイオン交換パートでは、PMはイオン化しない物質であるため、そのまま通過することとなる。
【0028】
この様にして、PMを混合した洗浄水(液)は洗浄剤、すすぎ剤、乾燥促進剤、として働くことになり、1液で洗浄からすすぎまでの全工程をまかなうことになり、管理指標も少なく、給・排水不要の洗浄システムが構築可能となった。さらに、水系洗浄の様な精密洗浄機能を持ちながらも、非水系洗浄システムの様な簡易な構成でそれが実現出来る事となった。
【0029】
循環液の電気伝導度は0.2(μs)以下であり、電気伝導度1(μs)以下との純水の規定を十分満足しており、電気伝導度0.1(μs)以下の超純水に近いレベルである。本発明の基本的な部分は、純水装置30に捕捉されない物質を発見し、それを用いた純水レベルの純度を維持しながらも、洗浄力がありすすぎも行える1液洗浄システムを構築したことである。
【0030】
(効果)
次に、実施例の洗浄装置1の奏する効果を列挙して説明する。
【0031】
(1)前述してきたように、本実施例の洗浄装置1は、直列に連結された複数の水槽21~24であって、最上流の水槽21から順に越流して最下流の水槽24まで洗浄剤が流下するようになっている、複数の水槽21~24と、最下流の水槽24の下流側と最上流の水槽21の上流側の間に配置されて、洗浄剤が通過する純水装置30と、を備え、この洗浄剤には、純水に純水装置30に捕捉されない洗浄剤成分が添加されている。このような構成であれば、簡潔な構成であり、かつ、錆等の化学反応物質を生成しにくい、洗浄装置となる。
【0032】
さらに、洗浄剤は、純水装置30で循環使用されるため、無排水となり、連続した給水等も不要となる(蒸発やワークによる持ち出し分は、適時補填する必要がある)。これに対して、従来の水系洗浄システムは、高精度洗浄が可能であるが、液種が多い(最低3種、多いと6種)、給水と排水がある、管理に手間暇がかかる、といった欠点を有していた。
【0033】
そこで、純水装置30に捕捉されない液体(グリコールエーテル)を純水に添加し、洗浄性能とすすぎ性能を両立させ、完全循環型、無給水、無排水の洗浄装置1を実現したのである。
【0034】
(2)また、純水装置30に捕捉されない洗浄剤成分として、グリコールエーテルが使用されることが好ましい。特に、PM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を使用することが好ましい。そうすれば、ワーク表面をPMが覆うことになるため、ワークとすすぎ水中の酸素との接触が抑制され、錆等の化学反応物質生成の抑制、ワーク表面のイオン化防止などの効果があり、水系洗浄の大きな欠点であったワーク表面の変質抑制ができることとなった。これは大きな効果である。(すすぎ水はH2Oであるため、それよりも分子量の大きいPMは、いわゆる分子間引力(ファンデルワールス力)がより強く働き、選択的にワーク表面を覆うためと考えられる。)
【0035】
(3)さらに、純水装置30は、具体的には、プレフィルタ31と、活性炭吸着装置32と、イオン交換樹脂33a、33bと、ファイナルフィルタ34と、から構成されることが好ましい。また、ファイナルフィルタは膜分離方式であってもよく、液中の酸素濃度をより低くするため、脱気装置38が追加されてもよい。このような純水装置30を用いることで、さまざまな不純物を取り除いて、洗浄剤(純水+添加物)の清浄状態を純水レベルに維持することができる。
【0036】
(4)また、最下流の水槽24のさらに下流側に、フィルタろ過による別系統の循環系、又は、蒸留による別系統の循環系を備えていることが可能である。すなわち、全体を2ブロックに分けて、前段はフィルタ濾過による循環又は蒸留循環(純水装置を具備させると純水器の劣化が早くなるため)とし、後段を純水装置(30)による循環とすることで、ワーク(W)への付着物質が多い場合にも効率的に対応できる。
【0037】
(5)さらに、上述したいずれかの洗浄装置1を用いた洗浄方法であって、最下流の水槽24から最上流の水槽21まで、順に被洗浄物(ワーク(W))を通過させていくようになっていることが好ましい。このようにワークを移動させれば、比較的に汚染された最下流の水槽24や最下流から2番目の水槽23でワークの付着物を洗浄して除去し、比較的に清浄な最上流から2番目の水槽22や最上流の水槽21でワークをすすぐことが可能となる。
【0038】
(6)また、最上流の水槽21まで被洗浄物(W)を通過させた後に、温液低速引き上げ、フッ素系溶剤による置換乾燥、温風乾燥、又は、真空引き乾燥、による乾燥工程をさらに備えることが可能である。このように乾燥工程を備えても、全体を例えば5工程の少ない工程数に抑えることができる。また乾燥後において、速乾性が大きいうえ、不揮発残分がゼロとなり、乾燥シミ等もまったく発生しない、という利点もある。
【0039】
また、従来の水系洗浄装置が9槽式(
図1)であるのに対して、本発明の水系の洗浄装置1は5槽(
図3)となる。そのため、性能が同じであれば、マテリアル使用量と消費電力はそれぞれ5/9となり、サステナブルな社会により適応したものとなっている。また、IPAを使用しないため、VOCの排出を削減でき、消防法上も危険物に該当しなくなる、という利点もある(IPAを使用する場合は、引火性があるため、装置を防爆構造にしたり、消火器を取り付けたりする必要が生じる)。
【0040】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0041】
なお、IPAを用いた洗浄システム(
図1)と本発明との対比では、洗浄装置としての構成として9工程が5工程で済んでしまうことになる。このため、洗浄装置の製造原価は大きく引き下げられ、設置スペースも大幅に削減される。
最上流の前記水槽まで前記被洗浄物を通過させた後に、温液低速引き上げ、フッ素系溶剤による置換乾燥、温風乾燥、又は、真空引き乾燥、による乾燥工程をさらに備える、請求項4に記載された、洗浄方法。
最下流の前記水槽のさらに下流側に、フィルタろ過による別系統の循環系、又は、蒸留による別系統の循環系を備えている、請求項1又は請求項2に記載された、洗浄装置。
最上流の前記水槽まで前記被洗浄物を通過させた後に、温液低速引き上げ、フッ素系溶剤による置換乾燥、温風乾燥、又は、真空引き乾燥、による乾燥工程をさらに備える、請求項4に記載された、洗浄方法。