(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106241
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】白色アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20230725BHJP
C25D 11/14 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C25D11/04 313
C25D11/04 302
C25D11/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007455
(22)【出願日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000230607
【氏名又は名称】日本化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139206
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 朋之
(72)【発明者】
【氏名】針山 智
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和宣
(57)【要約】
【課題】簡易な電解条件を使用することにより、高い白色度を有しており、焼け不良が発生していない白色アルミニウム部材を提供すること。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材と、前記母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備えたアルミニウム部材であって、前記陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmであることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材と、前記母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備えたアルミニウム部材であって、
前記陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmであることを特徴とする白色アルミニウム部材。
【請求項2】
ASTM E313-73に定義される白色度が70以上であることを特徴とする請求項1に記載の白色アルミニウム部材。
【請求項3】
前記陽極酸化皮膜の厚さが1~20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の白色アルミニウム部材。
【請求項4】
前記ポーラス層は封孔処理が可能であるポーラスを有することを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の白色アルミニウム部材。
【請求項5】
アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備えたアルミニウム部材の製造方法であって、
アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材を準備する工程と、
硫酸水溶液中において前記母材の陽極酸化を行う陽極酸化処理工程と、を含み、
前記陽極酸化処理工程は、短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解を含むことを特徴とする白色アルミニウム部材の製造方法。
【請求項6】
前記陽極酸化処理工程は、前記第1電解の通電時間が0.1~15.0秒、電流密度が1.0~15.0A/dm2であり、前記第2電解の通電時間を300~7200秒、電流密度が0.1~1.0A/dm2であることを特徴とする請求項5に記載の白色アルミニウム部材の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の白色アルミニウム部材の製造方法によって製造された白色アルミニウム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色アルミニウム部材及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、高い白色度を示す白色アルミニウム酸化皮膜を備えたアルミニウム部材、並びに短時間の高電流密度の電流による電解と長時間の低電流密度の電流による電解とを組み合わせた陽極酸化処理を含む白色アルミニウム部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建材やスマートフォン等の電子機器、化粧品容器の筐体等の用途で意匠性の高い白色アルミニウム部材が求められている。アルミニウムは、電解することにより多孔性の皮膜を生成し、当該皮膜に染料等を入れることにより無数の色彩を表現できるという大きな特徴を備える。しかしながら、アルミニウム部材が有する色彩の中で白色は、染料等を用いても表現の難しい色彩である。このため、アルミニウム部材の表面を高度に白色することができる技術の開発が求められていた。
【0003】
しかしながら、アルミニウム部材に不透明白色を付与することは、一般的な染色及び着色方法によっても達成することが困難な色調である。このような観点から、不透明白色のアルミニウム部材の製造方法として様々な提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、白い外観を有するアルミニウムの陽極酸化膜を形成する方法が開示されている。係るアルミニウムの陽極酸化膜を形成する方法は、陽極酸化処理中に電流密度を変動させることによって形成された光拡散細孔壁を有する細孔を有する陽極酸化膜を形成するか、レーザクラッキング手順によって形成された光拡散マイクロクラックを有する陽極酸化膜を形成するか、陽極酸化膜の下に光拡散性アルミニウムのスパッタリング層が設けるか、又は陽極酸化層の開口部内に光拡散性粒子が注入する方法であることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、紙のような白色の外観を有するアルミニウム部材及びその製造方法が開示されている。係るアルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウムと、鉄とケイ素とを含有し、陽極酸化皮膜側における基材の表面の算術平均粗さ、最大高さ、粗さ、及び粗さ曲線要素の平均長さが所定の値を有する。さらに、特許文献2には、上記アルミニウム部材の製造方法が基材調整工程S1とブラスト処理工程S2とエッチング工程S3と陽極酸化処理工程S4と研磨工程S5とを備えていることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、アルミニウム成形体表面に陽極酸化処理により形成された細孔中に酸化チタン粒子を付着させてなる白色アルミニウム成形体が開示されている。特許文献3には、係る白色アルミニウム成形体は、アルミニウム成形体表面の陽極酸化皮膜に形成された細孔内の特に細孔の開口部付近から中程にかけて、顔料粒子を付着させてなる成形体であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-20114号公報
【特許文献2】特開2017-39060号公報
【特許文献3】特開2019-02049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。特許文献1に記載されたアルミニウムの陽極酸化膜を形成する方法は、陽極酸化処理後、レーザクラッキング手順によって形成された光拡散マイクロクラックを形成する方法である。すなわち、上記アルミニウムの陽極酸化膜を形成する方法は、電解後にレーザを用いてクラックを形成しなければならないため、高い製造コストとなる。さらに、特許文献1に記載されたアルミニウムの陽極酸化膜を形成する方法により形成されたアルミニウムの陽極酸化膜を有するアルミニウム部材は、レーザクラッキングの程度により白色度が変化するため、均一な白色度を有するアルミニウム部材となっていない。
【0009】
さらに、特許文献2に記載されたアルミニウム部材の製造方法は、特許文献2には、上記アルミニウム部材の製造方法が基材調整工程S1とブラスト処理工程S2とエッチング工程S3と陽極酸化処理工程S4と研磨工程S5とを備えているものであり、ブラスト処理工程が必須工程となっている。すなわち、上記アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム基材の表面をブラスト処理により粗い表面に加工した後、陽極酸化処理を施す工程を含むものであるため、高い製造コストとなる。さらに、特許文献2に記載されたアルミニウム部材の製造方法により製造されたアルミニウム部材は、ブラスト処理により形成されたアルミニウム基材の表面粗さに白色度が変化するため、均一な白色度を有しない。
【0010】
また、特許文献3に記載された白色アルミニウム成形体は、アルミニウム成形体表面に陽極酸化処理により形成された細孔中に酸化チタン粒子を付着させることにより白色を付与するものである。すなわち、特許文献3に開示された白色アルミニウム成形体は、アルミニウム成形体表面の陽極酸化皮膜に形成された細孔を着色する工程を必須工程とするものであり、簡易ではあるものの白色度・意匠性の観点から十分とはいえない。さらに、上記白色アルミニウム成形体の白色度は、酸化チタン等の白色化合物の白色度に依存するため、意匠性に優れたアルミニウム成形体となっていない。
【0011】
このように、従来技術として開発された白色アルミニウム部材及び白色アルミニウム部材の製造方法は、リン酸、リン酸に類する化合物を使用し電解することにより、母材であるアルミニウムの白色化を行ってきた。しかしながら、上記白色アルミニウム部材の製造方法は、工業的な条件で使用される硫酸に比べて高い電圧が必要となること、及びコスト高になるという課題を有している。しかも、高い電圧のみを使用して、白色アルミニウム部材を製造した場合には、白色度が十分でなく、電流が部材の特定個所に集中した場合には、いわゆる焼け不良が発生するという課題がある。すなわち、本発明は、簡易な電解条件を使用することにより、高い白色度を有しており、焼け不良が発生していない白色アルミニウム部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本件発明者らは、従来技術が抱えている前述した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、工業的に広く用いられている硫酸水溶液を用い、短時間の高電流密度の電流による電解と長時間の低電流密度の電流による電解とを組み合わせた陽極酸化処理を行うことにより、特殊な薬液や設備を用いることなく、高い白色度を示す白色アルミニウム酸化皮膜を備えたアルミニウム部材を提供できることを知見し、本発明を開発した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。すなわち、本発明は以下に掲げる(1)~(3)を提供する。
(1)本発明に係る白色アルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材と、前記母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備えたアルミニウム部材であって、前記陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmであることを特徴とする白色アルミニウム部材であることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明に係る白色アルミニウム部材は、(a)ASTM E313-73により定義された白色度が70以上であること、(b)前記陽極酸化皮膜の厚みが1~20μmであること、(c)前記ポーラス層は封孔処理が可能であるポーラスを有すること等が好ましい手段であると考えられる。
【0015】
(2)本発明に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備えたアルミニウム部材の製造方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材を準備する工程と、硫酸水溶液中において前記母材の陽極酸化を行う陽極酸化処理工程と、を含み、前記陽極酸化処理工程は、短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解を含むことを特徴とする白色アルミニウム部材の製造方法であることを特徴とする。
【0016】
なお、本発明に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、(e)前記陽極酸化処理工程は、前記第1電解の通電時間が0.1~15.0秒、電流密度が1.0~15.0A/dm2であり、前記第2電解の通電時間を300~7200秒、電流密度が0.1~1.0A/dm2であること等が好ましい手段であると考えられる。
【0017】
(3)本発明に白色アルミニウム部材は、前記いずれか1つの白色アルミニウム部材の製造方法により製造された白色アルミニウム部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが所定範囲にある陽極酸化皮膜を有することにより、高い白色度を示す白色アルミニウム部材を提供することが可能となった。さらに、本発明によれば、工業的に広く用いられている硫酸水溶液のみを用いて、高電圧の電解条件を設定することなく、コストを抑える高い白色度を示す白色アルミニウム部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るアルミニウム部材が有するアルミニウム酸化皮膜の表面構造を示した説明図である。
図1(a)は、陽極酸化処理する際に使用する電流とアルミニウム基材との関係を示した説明図である。
図1(b)は、陽極酸化処理後のアルミニウム基材の表面を示した説明図である。
図1(c)は、陽極酸化処理後のアルミニウム基材の表面と可視光との関係を示した説明図である。
【
図2】アルミニウム基材を高電流密度の電流により電解処理を行った場合に発生する焼け不良が発生するメカニズムを示した説明図である。
図3(a)は、アルミニウム基材を高電流密度の電流により電解処理を継続して行った場合を示す説明図である。
図3(b)は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した説明図である。
【
図3】
図3は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した写真である。
図3(a)は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した写真である。
図3(b)は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。
【
図4】本発明の実施例において製造したアルミニウム部材が有する陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきとアルミニウム部材の白色度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
本実施形態に係る白色アルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材と、母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備え、当該陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmであることを特徴とする。以下、本実施形態の白色アルミニウム部材の構成について説明する。
【0021】
<アルミニウム等を含むアルミニウム母材>
本実施形態の白色アルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材から構成され、当該母材の表面に陽極酸化皮膜を備えている。すなわち、本実施形態の白色アルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材を基礎材料とし、当該母材の表面に陽極酸化処理を施すことにより得られる陽極酸化皮膜を備えている。
【0022】
本実施形態の白色アルミニウム部材は、上記陽極酸化皮膜を備えていることにより、均一かつ高い白色度を実現している。白色アルミニウム部材の基礎材料となる母材は、アルミウム又はアルミニウム合金を含む。アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材の形状は、当該母材に陽極酸化処理を施すことができる形状であれば、特に制限されるものではないが、陽極酸化処理を施し易いように板状であることが好ましい。また、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム母材の形状は、本実施形態の白色アルミニウム部材を用いた最終製品の中間製品、又は最終製品の形状であってもよい。
【0023】
アルミニウム母材は、アルミニウムから構成されていてもよく、アルミニウム合金から構成されていてもよい。アルミニウムとしては、A1085(純アルミニウム素材)を例示することができる。アルミニウム母材の材質は、アルミニウム部材の用途に応じて適宜、選択することができる 。例えば、白色アルミニウム部材の強度を高くする観点から、5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、これらの合金を混合した合金をアルミニウム母材とすることが好ましい。一方、アルミニウム母材を陽極酸化処理した後に得られる白色アルミニウム部材の白色度をより高くする観点からは、陽極酸化処理による着色が起こりにくい1000系、アルミニウム合金又は6000系アルミニウム合金を母材とすることが好ましい。
【0024】
<陽極酸化皮膜>
本実施形態の白色アルミニウム部材を構成する上記アルミニウム母材の表面には、陽極酸化皮膜が形成されている。陽極酸化皮膜は、バリア層とポーラス層からなる。具体的には、陽極酸化皮膜は、アルミニウム母材の表面上に形成された5~50nmの厚さのバリア層と、当該バリア層上に形成された1~20μmの厚さのポーラス層と有する。
陽極酸化皮膜は、バリア層とポーラス層とを合わせて、陽極酸化皮膜全体として、20μm以下の厚さを有する。
陽極酸化皮膜の厚さが1~20μmの範囲であれば、陽極酸化処理工程における電解時間が長くなり生産性の低下を招くことがなく、陽極酸化の膜厚が不均一に成長することによるムラが発生し、白色アルミニウム部材の白色度が低下することがないため好ましい。
【0025】
陽極酸化皮膜は、陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmであることを特徴とする。すなわち、本実施形態の白色アルミニウム部材は、陽極酸化処理における不均一な電解条件を設定し、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきを制御することによって、均一かつ高度な白色度を有する。ここで、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきとは、形成された陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差をいう。具体的には陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきσは、以下の一般式(1)により算出される。
【0026】
【0027】
上記一般式(1)において、
は測定された陽極酸化皮膜の膜厚の平均値を示し、Xは測定された陽極酸化皮膜の膜厚を示し、nは陽極酸化皮膜の膜厚を測定した回数を示す。
【0028】
陽極酸化皮膜の平均膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)等の測定機器により測定することができる。陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきは、上記測定機器を用いて、陽極酸化皮膜の膜厚を36μmの範囲で250nmの間隔で基準点を含めて145点測定して、陽極酸化皮膜の平均膜厚を算出する。算出された陽極酸化皮膜の膜厚を用いて、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきαを算出することができる。なお、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきαを算出するために条件は、上記条件に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0029】
陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきαが0.05μm以上であれば、陽極酸化皮膜の膜厚差が大きくなることによって、アルミニウム部材の白色度を高くすることができるため好ましい。陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきαが0.2μm以下であれば、皮膜焼けなど外観不良が発生しないため好ましい。
【0030】
本実施形態に係る白色アルミニウム部材が有するアルミニウム酸化皮膜の表面構造を示した説明図である。
図1(a)は、陽極酸化処理する際に使用する電流とアルミニウム基材との関係を示した説明図である。
図1(a)に示されるように、本実施形態の白色アルミニウム部材の原料材料となるアルミニウム母材に不均一な電解による陽極酸化処理が施される。アルミニウム母材に施される陽極酸化処理は、アルミニウム母材の場所によって電解に必要な電圧及び電流を異なる状態に設定されることにより行われる。なお、不均一な電解による陽極酸化処理は、短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解により行われてもよい。
【0031】
図1(b)は、陽極酸化処理後のアルミニウム基材の表面を示した説明図である。
図1(b)に示されるように、白色アルミニウム部材の原料材料となるアルミニウム母材に不均一な電解による陽極酸化処理が施されることにより、陽極酸化皮膜の表面に凹部及び凸部から構成される膜厚の異なる皮膜が形成される。すなわち、アルミニウム母材に不均一な電解による陽極酸化処理が施されることにより、陽極酸化皮膜の表面に不均一な皮膜成長が進行し、陽極酸化皮膜の表面に凹部及び凸部が形成され、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが発生する。
【0032】
図1(c)は、陽極酸化処理後のアルミニウム基材の表面と可視光との関係を示した説明図である。
図1(c)に示されるように、陽極酸化皮膜の表面に凹部及び凸部に可視光が入射すると、当該可視光は、陽極酸化皮膜全体とアルミニウムの素地との界面で反射する。陽極酸化皮膜の表面には、凹部及び凸部が形成されている。このため、陽極酸化皮膜の膜厚にばらつきに起因する可視光の乱反射が増加する。その結果、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきを有するアルミニウム部材は、均一かつ高度な白色度を有する。
【0033】
このように、本実施形態のアルミニウム部材は、陽極酸化処理を施す際の電解条件として不均一な電解を採用することにより、陽極酸化皮膜の膜厚にばらつきを発生させ、係る膜厚のばらつきによる可視光の乱反射を増加させることにより、高い白色度を有する。
【0034】
図2は、アルミニウム基材を高電流密度の電流により電解処理を行った場合に発生する「焼け不良」が発生するメカニズムを示した説明図である。
図2(a)は、アルミニウム基材を高電流密度の電流により電解処理を継続して行った場合を示す説明図である。
図2(a)に示されるように、アルミニウム母材の表面に形成される陽極酸化皮膜は、アルミニウム母材に不均一な電解による陽極酸化処理が施されることにより形成される。ここで、不均一な電解は、短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解により行われる。係る不均一な電解処理において、短時間の高電流密度の電流による第1電解を長時間実施すると、白色アルミニウム部材の一部は白色化し、他の一部は、白色化が十分とならない、いわゆる「焼け不良」が発生する。
【0035】
図2(b)は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した説明図である。
図2(b)に示されるようにアルミニウム母材の表面に不均一な電解による陽極酸化処理が施されることにより凹部及び凸部が形成される。しかし、アルミニウム母材の表面に形成された凹部と凸部との膜厚差が過剰である場合には、上記膜厚差が小さい場合と比較して、白く見えなくなる。その結果、白色アルミニウム部材の表面には、陽極酸化皮膜の膜厚が過剰になることに起因する「焼け不良」が発生する。
【0036】
図3は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した写真である。
図3(a)は、アルミニウム基材に発生した「焼け不良」を示した写真である。
図3(a)に示されるように、アルミニウム部材は、高度に白色化された部分と過度な陽極酸化により焼けむらが発生している部分とを有しており、全体として外観不良を起こしている。
図3(b)は、アルミニウム基材に発生した焼け不良を示した走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。
図3(b)に示されるように、焼け不良が起きている箇所は、膜厚に大きな差がある部分が存在している。膜厚差が過剰である場合、上記膜厚差が小さい場合と比較して、白く見えなくなる。このように、アルミニウム基材に発生した焼け不良は、アルミニウム部材の外観不良の原因となる。
【0037】
さらに、本実施形態に係る白色アルミニウム部材は、ASTM E313-73により定義された白色度が70以上であることを特徴とする。白色アルミニウム部材のASTM E313-73により定義された白色度が70以上であれば、意匠性に優れたアルミニウム部材となるため好ましい。ASTM E313-73により定義された白色度は、以下の一般式により表される。
【0038】
白色度= 4(0.847×Z)-3Y
ここで、上記一般式において、Y、ZはXYZ表色系における三刺激値を示す。
【0039】
なお、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の白色度は、ASTM E313-73により測定された測定値に限定されない。例えば、L*a*b*表色系による測定値、ハンター白色度による測定値、CIE whitenessによる測定値のいずれか一つ、又はこれらを組み合わせた測定値を採択してもよい。これらの測定値は、互いに相関性を有しているためである。
【0040】
以上、第1実施形態に係る発明によれば、陽極酸化処理を施す際の電解条件として不均一な電解を採用し、アルミニウム部材に所定範囲の膜厚のばらつきを有する陽極酸化皮膜を形成させることにより、高い白色度を示す白色アルミニウム部材を提供することができる。
【0041】
[第2実施形態]
本実施形態に係る白色アルミニウム部材は、上記実施形態に係る白色アルミニウム部材において、封孔処理が可能であるポーラス層を有することを特徴とする。本実施形態に係る白色アルミニウム部材のポーラス層が封孔処理可能であることは、陽極酸化処理後に実施されるマジックテスト、染料浸漬テスト等により確認することができる。本実施形態に係る白色アルミニウム部材は、ポーラス層の封孔処理後であっても、当該ポーラス層が封孔されることに起因して白色アルミニウム部材の外観の変化及び退色が発生することがない。
【0042】
本実施形態に係る白色アルミニウム部材が備えている陽極酸化皮膜は、硫酸水溶液中でアルミニウム母材を陽極酸化処理して得られるものである。このため、白色アルミニウム部材のポーラス層が封孔処理可能となっている。例えば、白色アルミニウム部材をリン酸溶液中でアルミニウム母材を陽極酸化処理した場合には、陽極酸化処理に使用するリン酸水溶液中に存在するリン酸アニオンが皮膜中に取り込まれるため、ポーラス層は封孔されにくい。したがって、本実施形態に係る白色アルミニウム部材は、実用的にも有利である。
【0043】
以上、第2実施形態に係る発明によれば、アルミニウム部材のポーラス層が封孔可能である高い白色度を示す白色アルミニウム部材を提供することができる。
【0044】
[第3実施形態]
本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材の表面にバリア層とポーラス層からなる陽極酸化皮膜とを備えたアルミニウム部材の製造方法である。以下、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0045】
<アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材を準備する工程>
本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む母材を準備する工程を含む。この工程において、最初に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材を準備する。アルミニウム合金としては特に限定されないが、1000系アルミニウム合金、5000系アルミニウム合金、又は6000系アルミニウム合金を挙げることができる。
【0046】
<母材の陽極酸化を行う陽極酸化処理工程>
本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、母材の陽極酸化を行う陽極酸化処理工程する工程を含む。この工程において、上記工程において準備されたアルミニウム母材の陽極酸化処理を行う前にその前処理として、アルミニウム母材に対して脱脂処理や研磨処理等の下地処理を行ってもよい。例えば、アルミニウム母材の下地処理としてアルカリ脱脂処理を行うことにより、陽極酸化皮膜のグロス値を低くし、艶のない白色を呈する白色アルミニウム部材を得ることができる 。
【0047】
一方、アルミニウム母材の下地処理として化学研磨、機械研磨、電解研磨等の研磨処理を行うことにより、陽極酸化処理のグロス値を高くし、艶のある白色を呈する白色アルミニウム部材を得ることができる。アルミニウム部材の白色度及びグロス値をより高くする観点からは、陽極酸化処理を行う前に母材に電解研磨処理を行うことが好ましい。
【0048】
<短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解を行う工程>
本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解を行う工程を含む。すなわち、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、第1電解と第2電解との少なくとも2つの電解条件の異なる電解を実施することによって、アルミニウム部材に陽極酸化を施し白色アルミニウム部材を製造する。
【0049】
本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法が含んでいる上記工程における第1電解は、短時間の高電流密度の電流を通電することによる上記アルミニウム部材の陽極酸化処理である。第1電解は、上記アルミニウム母材を硫酸水溶液に浸し、通電することにより行うことができる。
【0050】
第1電解において、使用される硫酸水溶液の濃度は、0.5~25.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、5~20質量%、より好ましくは8.0~15.0質量%であることが好ましい。上記硫酸水溶液の濃度が0.5質量%以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が不良となることがないため好ましく、20質量%以下であれば、白色アルミニウム部材の製造コストが抑えることができるため好ましい。
【0051】
第1電解が実施される硫酸水溶液の浴温度は、通常の陽極酸化処理工程において採用される温度であれば特に制限されるものではないが、0~50℃であることが好ましく、さらに好ましくは、10~30℃であることが好ましく、より好ましくは15~25℃であることが好ましい。硫酸水溶液の浴温度が0℃以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が不良となることがないため好ましく、硫酸水溶液の浴温度が50℃以下であれば、白色アルミニウム部材の製造コストを抑えることができ、高度に白色化されたアルミニウム部材を製造することができるため好ましい。なお、上記硫酸水溶液には、本発明の目的を損なわない範囲で多価アルコール、有機酸、界面活性剤等の添加物を添加してもよい。
【0052】
第1電解で採用する電流密度は、1.0~15.0(A/dm2)であることが好ましく、より好ましくは1.5~10.0(A/dm2)、さらに好ましくは2.0~8.0(A/dm2)であることが好ましい。上記電流密度が1.0(A/dm2)以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の白色度を向上させることができるため好ましく、15.0(A/dm2)以下であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が良好となるため好ましい。
【0053】
第1電解を行う時間は、0.1~15秒であることが好ましく、より好ましくは1.5~10秒、さらに好ましくは2.0~8.0秒であることが好ましい。第1電解を行う時間が0.1秒以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の白色度を向上させることができるため好ましく、15秒以下であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が良好となるため好ましい。
【0054】
本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法が含んでいる上記工程における第2電解は、長時間の低電流密度の電流を通電することによる上記アルミニウム部材の陽極酸化処理である。第2電解は第1電解の後に実施される。なお、第1電解と第2電解との間に保持時間を設けてもよい。
【0055】
第2電解において使用される硫酸水溶液の濃度は、0.5~25.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、5~20質量%、より好ましくは8.0~15.0質量%であることが好ましい。上記硫酸水溶液の濃度が0.5質量%以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が不良となることがないため好ましく、20質量%以下であれば、白色アルミニウム部材の製造コストが抑えることができるため好ましい。第2電解において使用される硫酸水溶液の濃度は、第1段階で使用される硫酸水溶液の濃度と同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
第2電解が実施される硫酸水溶液の浴温度は、通常の陽極酸化処理工程において採用される温度であれば特に制限されるものではないが、0~50℃であることが好ましく、さらに好ましくは、10~30℃であることが好ましく、より好ましくは15~25℃であることが好ましい。硫酸水溶液の浴温度が0℃以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が不良となることがないため好ましく、硫酸水溶液の浴温度が50℃以下であれば、白色アルミニウム部材の製造コストを抑えることができ、高度に白色化されたアルミニウム部材を製造することができるため好ましい。
【0057】
第2電解で採用する電流密度は、0.05~1.0(A/dm2)であることが好ましく、より好ましくは0.1~0.8(A/dm2)、さらに好ましくは0.25~0.5(A/dm2)であることが好ましい。上記電流密度が0.05(A/dm2)以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の白色度を向上させることができるため好ましく、1.0(A/dm2)以下であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が良好となるため好ましい。
【0058】
第2電解を行う時間は、300~7200秒であることが好ましく、より好ましくは900~5400秒、さらに好ましくは1000~1500秒である。第1電解を行う時間が300秒以上であれば、製造される白色アルミニウム部材の白色度を向上させることができるため好ましく、7200秒以下であれば、製造される白色アルミニウム部材の外観が良好となるため好ましい。
【0059】
このように、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム母材の陽極酸化処理工程を少なくとも第1電解と第2電解の2つの異なる電解により行うことによって、白色アルミニウム部材が備える陽極酸化皮膜の膜厚にばらつきを付与することができる。その結果、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、高度の白色度を有し、かつムラが発生していない意匠性に優れた白色アルミニウム部材を得ることができる。
【0060】
ここで、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法において、第1電解が実施されるときの電流密度をI1、第1電解が実施されるときの通電時間をT1とし、第2電解が実施されるときの電流密度をI2、第2電解が実施されるときの通電時間をT2とする。本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法において、第1電解の積(I1・T1)が10.0~15.0の範囲が好ましい。第1電解の積(I1・T1)が10以上であれば白色化に十分な不均一電解を行うことができるため好ましく、15以下であれば表面に外観不良なく白色化できるため好ましい。第2電解の積(I2・T2)が300~1350の範囲が好ましい。第2電解の積(I2・T2)が300以上であれば外観不良なく白色化できるため好ましく、1350以下であれば十分な白色度を出すことができるため好ましい。
【0061】
以上、第3実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法によれば、陽極酸化処理を施す際の電解条件として不均一な電解を採用し、アルミニウム部材に所定範囲の膜厚のばらつきを有する陽極酸化皮膜を形成させることにより、高い白色度を示す白色アルミニウム部材を製造することができる。
【0062】
[第4実施形態]
第4実施形態は、上記実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法において、前記陽極酸化処理工程は、前記第1電解の通電時間が0.1~15.0秒、電流密度が1.0~15.0A/dm2であり、前記第2電解の通電時間を300~7200秒、電流密度が0.1~1.0A/dm2であることを特徴とする。すなわち、本実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム母材を陽極酸化処理する工程に含まれる第1電解の条件と第2電解の条件の最適化を図ったものである。
【0063】
本実施形態に係る白色アルミニウムの製造方法は、第1電解と第2電解の条件を上記範囲に設定することにより、陽極酸化処理の要する電圧を低くすることができ、しかも通電時間を最小とすることができる。そして、本実施形態に係る白色アルミニウムの製造方法は、高度の白色度を有し、かつ色ムラのない白色アルミニウム部材を製造することができる。
【0064】
以上、第4実施形態に係る白色アルミニウム部材の製造方法によれば、アルミニウム母材を陽極酸化処理する工程に含まれる第1電解の条件と第2電解の条件の最適化を図ることにより、アルミニウム部材に所定範囲の膜厚のばらつきを有する陽極酸化皮膜を形成させ、高電圧を要することなく、低コストで高い白色度を示す白色アルミニウム部材を製造することができる。
【0065】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【実施例0066】
以下に本発明を、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、この説明が本発明を制限するものではない。
【0067】
(実施例1)
<白色アルミニウム部材の製造>
アルミニウム母材となるアルミニウム素材として、アルミニウム1100を準備して、当該アルミニウム素材に第1電解及び第2電解による陽極酸化処理を施すことにより白色アルミニウム部材を製造した。陽極酸化処理には、質量パーセント濃度8.0%、浴温度16℃の硫酸水溶液を用いた。第1電解は、電流密度5A/dm2、通電時間2.5秒とし、第2電解は、電流密度0.25A/dm2、通電時間1200秒とした。陽極酸化処理を終了して、得られた白色アルミニウム部材を陽極電解槽から取り出して、乾燥した。実施例1で製造された白色アルミニウム部材の製造条件を表1に示す。
【0068】
<陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきの測定>
白色アルミニウム部材の陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきの算出は以下のように行った。
【0069】
【0070】
上記一般式(1)において、
は測定された陽極酸化皮膜の膜厚の平均値を示し、Xは測定された陽極酸化皮膜の膜厚を示し、nは陽極酸化皮膜の膜厚を測定した回数を示す。
【0071】
<アルミニウム部材の測定試料(サンプル)の準備>
実施例1で製造した白色アルミニウム部材の測定試料を以下の工程により作製した。
(1)乾燥したアルミニウム部材のサンプルを破断して電子顕微鏡で観察できるサイズに調整する。
(2)電子顕微鏡の台座に切断したアルミニウム部材のサンプルを固定する。
(3)必要に応じて切断したアルミニウム部材のサンプルの表面に導電性コーティングを行う。
【0072】
<陽極酸化皮膜の膜厚の測定条件及び測定機器>
実施例1で製造した白色アルミニウム部材の測定試料の陽極酸化皮膜の膜厚を以下のように測定した。
(4)電子顕微鏡(日本電子株式会社製;製品名「JSM-6700F」)にセットし、上記測定試料の破断面の観察を行う。
(5)電子顕微鏡の測長機能を用いて陽極酸化皮膜の膜厚の測定を行う。
(6)陽極酸化皮膜の膜厚36μmの範囲に対して、250nmの間隔で145点の陽極酸化皮膜の膜厚の測定を行う。
【0073】
<陽極酸化皮膜の膜厚平均値の算出>
上記測定したデータから陽極酸化皮膜の膜厚平均値を算出し、その平均値と各データから、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきαを上記一般式(1)に従って算出した。その結果、陽極酸化皮膜の膜厚平均値が1.17μmとなり、陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきαが0.09μmとなることが判明した。
【0074】
<白色度の測定>
白色アルミニウム部材の白色度は、ASTM E313-73に定義される。ASTM E313-73により定義された白色度は、以下の一般式により表される。
【0075】
白色度 = 4(0.847×Z)-3Y
ここで、上記一般式において、Y、ZはXYZ表色系における三刺激値を示す。具体的には、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製;商品名「CM-5」を用いて、白色アルミニウム部材の表面の白色度を測定した。なお、分光測色計の測定径は8.0mmとし、定法であるSCE方式に従って白色度を測定した。
【0076】
<白色アルミニウム部材の外観評価(色ムラ・皮膜焼け)>
白色アルミニウム部材の外観評価を目視によって行い、評価基準は以下のとおりとした。
〇: 均一に陽極酸化され、白色ムラがほとんどないもの。
△:白色ムラの程度が低いもの。
×: 多くの白色ムラが発生したもの、又は陽極酸化されていないもの。
以上、実施例1で製造された白色アルミニウム部材の膜厚のばらつき、白色度、外観評価の結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2~19)
実施例2~19においては、硫酸水溶液の質量パーセント濃度、浴温度、陽極酸化処理工程を構成する第1電解及び第2電解の条件を一部変えた以外は、実施例1と同様にして各比較例の白色アルミニウム部材を製造した。実施例2~19で製造した白色アルミニウム部材の製造条件を表1に示す。さらに、実施例2~19において製造した白色アルミニウム部材について、上記実施例1と同様に陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきを算出した。また、実施例1~19において製造した白色アルミニウム部材の外観を目視により観察して、以下のようにその評価を行った。実施例2~19において製造されたアルミニウム部材の評価結果を表1に示す。また、
図4に、実施例1~19において製造したアルミニウム部材が有する陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきとアルミニウム部材の白色度との関係をグラフに示した。
【0078】
【0079】
表1及び
図4からも明らかなように、白色アルミニウム部材の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmの範囲にあれば、当該白色アルミニウム部材は白色度が高く、外観上において意匠性に優れることが判明した。この結果は、白色アルミニウム部材の製造方法として、硫酸水溶液中において短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解を含む陽極酸化処理工程を採用したことに起因する。実施例6~7に示されるように、アルミニウム素材として、A5052、A6061といった合金素材であっても同様に白色化できた。陽極酸化皮膜は後処理として封孔処理することができ、熱水又は各種の封孔剤を使用することができる。封孔剤としてはNi系封孔剤「アルマイトシーラー」、Niフリー封孔剤「MLS238 SEALER」(どちらも日本化学産業製)を好適に用いることができる。処理時間や処理温度は適宜設定できるが、実施例中では80℃、10分で処理した。
【0080】
(比較例1~10)
一方、比較例1~10においては、陽極酸化処理工程を構成する第1電解及び第2電解の条件を一部変えた以外は、実施例1と同様にして各比較例の白色アルミニウム部材を製造した。比較例1~10で製造した白色アルミニウム部材の製造条件を表2に示す。さらに、比較例1~10において製造した白色アルミニウム部材について、上記実施例と同様に陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきを算出した。また、比較例1~10において製造した白色アルミニウム部材の外観を目視により観察して、以下のようにその評価を行った。比較例1~10において製造されたアルミニウム部材の評価結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
表2からも明らかなように、白色アルミニウム部材の膜厚のばらつきが0.05~0.2μmの範囲にない場合は、当該白色アルミニウム部材は白色度が十分ではなく、外観上において意匠性に優れていないことが判明した。この結果は、白色アルミニウム部材の製造方法として、硫酸水溶液中において短時間の高電流密度の電流による第1電解と長時間の低電流密度の電流による第2電解の両方を含む陽極酸化処理工程を採用していないこと、第1電解と第2電解との相対的な条件設定が適切でないことに起因する。
【0083】
以上、本発明は、高い白色度を示す白色アルミニウム陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム部材、並びに短時間の高電流密度の電流による電解と長時間の低電流密度の電流による電解とを組み合わせた陽極酸化処理を含む白色アルミニウム部材の製造方法である。
本発明の白色アルミニウム部材は、陽極酸化皮膜の平均膜厚に対する標準偏差である陽極酸化皮膜の膜厚のばらつきが所定範囲にある陽極酸化皮膜を有し、高い白色度を示す白色アルミニウム部材である。このため、本発明の白色アルミニウム部材、及びその製造方法は、アルミニウム製造業、金属加工産業、電子関連製造業等の産業の発達に寄与することができるのできわめて産業上有用である。