(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106317
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】伝動ベルト用ゴム組成物および伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/06 20060101AFI20230725BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20230725BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230725BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230725BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230725BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230725BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
F16G5/06 C
F16G5/20 A
F16G5/20 B
C08K3/013
C08K3/04
C08K3/34
C08K7/02
C08L23/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212385
(22)【出願日】2022-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022007213
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 利樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002AD012
4J002BB032
4J002BB051
4J002BB122
4J002BB151
4J002BE022
4J002BE062
4J002CF062
4J002CF082
4J002CL012
4J002CL032
4J002CL062
4J002CM022
4J002DA018
4J002DA036
4J002DJ037
4J002FA042
4J002FA048
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD018
4J002GM01
(57)【要約】
【課題】圧延が容易であって、伝動ベルトに用いた際に機械的特性、耐久性を向上できるゴム組成物を提供する。
【解決手段】エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分と、カーボンブラックと、pH5.5以上のクレーとを含む伝動ベルト用ゴム組成物を調製する。前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの125℃におけるムーニー粘度は25ML(1+4)125℃以下である。前記カーボンブラックおよび前記クレーの総量は、前記ポリマー成分100質量部に対して80~180質量部である。前記カーボンブラックと前記クレーとの質量比は、クレー/カーボンブラック=0.2/1~1.2/1である。この組成物の架橋物を含むローエッジコグドVベルトを作製してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分と、カーボンブラックと、クレーとを含む伝動ベルト用ゴム組成物であって、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの125℃におけるムーニー粘度が25ML(1+4)125℃以下であり、
前記クレーのpHが5.5以上であり、
前記カーボンブラックおよび前記クレーの総量が、前記ポリマー成分100質量部に対して80~180質量部であり、かつ
前記カーボンブラックと前記クレーとの質量比が、クレー/カーボンブラック=0.2/1~1.2/1であるゴム組成物。
【請求項2】
架橋物のゴム硬度Hs(タイプA)が88~96度である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
短繊維をさらに含み、架橋物において、短繊維直交方向の8%曲げ応力が6~8MPaである請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
短繊維をさらに含み、架橋物において、短繊維平行方向の8%曲げ応力が2~3MPaである請求項1~3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記短繊維がアラミド短繊維を含まない請求項3または4記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記クレーが焼成クレーを含む請求項1~5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラックがハードカーボンブラックを含む請求項1~6のいずれか一項に
記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のゴム組成物の架橋物を含む伝動ベルト。
【請求項9】
ローエッジコグドVベルトである請求項8記載の伝動ベルト。
【請求項10】
変速ベルトである請求項9記載の伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに用いられるゴム組成物およびこのゴム組成物を含む伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
動力を伝達する手段として、ギアやチェーンとならんで、伝動ベルトが汎用されている。環状に形成された伝動ベルトは、駆動軸に連結された駆動プーリと、従動軸に連結された従動プーリとに掛けまわされ、駆動軸から従動軸へと動力を伝達する。ギアやチェーンと比較して、伝動ベルトは、軽量、レイアウトの自由度が高い、給油が不要、静粛性に優れるといった多くのメリットがあり、自動車用途、農業機械用途をはじめ、多くの用途で賞用されている。
【0003】
伝動ベルトは、かみ合い伝動ベルトと摩擦伝動ベルトとに大別される。かみ合い伝動ベルトは、外周面に歯溝が形成された歯付プーリと、内周面に歯部が形成された歯付ベルトとが機械的に嵌合することにより動力が伝達される。機械的な嵌合により動力が伝達されるため、駆動プーリと従動プーリとの同期をとることが可能であり、同期伝動ベルトと呼ばれることもある。一方、摩擦伝動ベルトは、プーリとベルトの間の摩擦力により動力が伝達され、プーリとベルトの間には多少のスリップが許容される。そのため、過大な負荷が発生した場合には、一時的にベルトがスリップすることにより、装置の損傷を防ぐ機能を有する。摩擦伝動ベルトとしては、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどが知られている。このように、かみ合い伝動ベルトと摩擦伝動ベルトとは異なる特性を有する伝動ベルトとして区別されており、用途によって最適なベルトが選定される。
【0004】
Vベルトとしては、摩擦伝動面が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)と、摩擦伝動面(V字状側面)がカバー布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)とがあり、摩擦伝動面の表面性状(ゴム層とカバー布との摩擦係数)の違いから用途に応じて使い分けられている。また、ローエッジタイプのベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの下面(内周面)のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの下面(内周面)および上面(外周面)の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)がある。
【0005】
ローエッジVベルトやローエッジコグドVベルトは、主として、一般産業機械、農業機械の駆動、自動車エンジンでの補機駆動などに用いられる。また、他の用途として自動二輪車などのベルト式無段変速機に用いられる変速ベルトと呼ばれるローエッジコグドVベルトがある。
【0006】
図1に示すように、ベルト式無段変速機30は、駆動プーリ31と従動プーリ32にローエッジコグドVベルト1を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる装置である。各プーリ31,32は、軸方向への移動が規制または固定された固定シーブ31a,32aと、軸方向に移動可能な可動シーブ31b,32bとからなり、これらの固定シーブ31a,32aと可動シーブ31b,32bとで形成されるプーリ31,32のV溝の幅を連続的に変更できる構造を有している。前記ローエッジコグドVベルト1は幅方向の両端面が各プーリ31,32のV溝の対向面と傾斜が合致するテーパ面で形成され、変更されたV溝の幅に応じて、プーリ半径方向の任意の位置に嵌まり込む。例えば、駆動プーリ31のV溝の幅を狭く、従動プーリ32のV溝の幅を広くすることにより、
図1の(a)に示す状態から
図1の(b)に示す状態に変更すると、ローエッジコグドVベルト1は、駆動プーリ31側ではプーリ半径方向の外周側へ、従動プーリ32側ではプーリ半径方向の内周側へ移動し、各プーリ31,32への巻き掛け半径が連続的に変化して、変速比を無段階で変化できる。このような用途に用いる変速ベルトは、駆動プーリと従動プーリとの二軸間の巻き掛け回転走行だけでなく、プーリ半径方向への移動、巻き掛け半径の連続的変化による繰り返される屈曲動作など、高負荷環境での過酷な動きに耐用すべく特異的な設計がなされている。
【0007】
特に、近年では自動二輪車の高排気量化により伝達動力が増大するとともに、軽量化を目的として冷却機構が簡略化される傾向にある。そのため、伝動ベルトには機械的特性(例えば、硬度や耐側圧性)と耐熱性の向上が求められている。
【0008】
このような要求に対し、ゴム層を構成するポリマー成分として、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)をはじめとするエチレン-α-オレフィンエラストマーが使用されるケースが増加している。エチレン-α-オレフィンエラストマーは、主鎖に二重結合を有しないために耐熱性に優れるとともに、充填剤を多量に配合することが比較的容易であり、伝動ベルトの機械的特性を高めやすいといったメリットがある。また、エチレン成分とα-オレフィン成分との割合を変化させることで粘度や硬度を調整することが可能で、ゴム組成物の物性を用途に合わせて調整することも可能である。
【0009】
一方で、エチレン-α-オレフィンエラストマーは、従来用いられてきたクロロプレンゴムなどと比較して樹脂に近い性質を示し、脆くて粘りに欠けるために薄いシート状に圧延するのが難しいという問題がある。このような問題に対し、特許文献1では、分子量、エチレン含量、およびムーニー粘度が特定の範囲にあるエチレン-α-オレフィンエラストマーの混合物の使用が提案され、ムーニー粘度が高い場合は未加硫ゴム組成物のロール加工性が悪くなると記載されている。そして、実施例ではEPDMにカーボンブラック、ナイロン短繊維などを配合してロール加工性を評価するとともに、Vリブドベルトと歯付ベルトを作製して耐久性の評価を行っている。
【0010】
カーボンブラックや短繊維は、ゴム組成物の物性を向上させやすい一方で、ロール加工性(圧延性)を低下させやすいというデメリットも存在する。そのため、カーボンブラックや短繊維と合わせて、鉱物系充填剤が併用されるケースがある。例えば、特許文献2には、被水時の動力伝達性と耐発音性とを両立できる摩擦伝動ベルトとして、摩擦伝動部がエチレン-α-オレフィンエラストマーと鉱物系充填剤と界面活性剤とを含むゴム組成物で形成されている摩擦伝動ベルトが開示されている。そして、鉱物系充填剤としては金属ケイ酸塩(ケイ酸アルミニウム、クレーなど)が例示されており、架橋反応を阻害しないために鉱物系充填剤のpHは7以上が好ましいと記載されている。なお、該文献中には記載されていないが、実施例で用いられているEPDM(三井化学(株)製EPT2060M)の125℃におけるムーニー粘度は40ML(1+4)125℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-81506号公報
【特許文献2】特開2013-185678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献に記載された構成は、それぞれの課題に対して一定の効果を示すと考えられるが、ベルトを製造する上での課題に対して十分には対応できていない。特に、加工性に関しては、ゴムの物性を高めるために補強剤の配合量が増える傾向があるが、補強剤の配合量が増えると圧延が難しくなる傾向にあり、圧延性の向上が求められている。また、省エネのために架橋時間を短縮する要請があるが、架橋が進行しやすい配合はスコーチ(加工の途中で起こる好ましくない早期のゴム焼け)が発生しやすい配合でもあるため、長すぎず短すぎずといったスコーチタイムの厳密な制御が求められている。また、剥離、摩耗、亀裂といった、伝動ベルトの耐久性を低下させる現象を抑制して、伝動ベルトの耐久性を向上することも引き続き求められている。
【0013】
そこで、本発明の課題は、スコーチを生じにくく、圧延が容易であって、伝動ベルトの機械的特性、耐久性を向上できるゴム組成物およびこのゴム組成物を含む伝動ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、低ムーニー粘度のエチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分と、カーボンブラックと、pH5.5以上のクレーとを、特定の割合で組み合わせることにより、スコーチを生じにくく、圧延が容易であって、伝動ベルトに用いた際に機械的特性、耐久性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の態様[1]としてのゴム組成物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分と、カーボンブラックと、クレーとを含む伝動ベルト用ゴム組成物であって、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの125℃におけるムーニー粘度が25ML(1+4)125℃以下であり、
前記クレーのpHが5.5以上であり、
前記カーボンブラックおよび前記クレーの総量が、前記ポリマー成分100質量部に対して80~180質量部であり、かつ
前記カーボンブラックと前記クレーとの質量比が、クレー/カーボンブラック=0.2/1~1.2/1である。
【0016】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、前記ゴム組成物が、架橋物のゴム硬度Hs(タイプA)が88~96度である態様である。
【0017】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]において、前記ゴム組成物が、短繊維をさらに含み、架橋物において、短繊維直交方向の8%曲げ応力が6~8MPaである態様である。
【0018】
本発明の態様[4]は、前記態様[1]~[3]のいずれかの態様において、前記ゴム組成物が、短繊維をさらに含み、架橋物において、短繊維平行方向の8%曲げ応力が2~3MPaである態様である。
【0019】
本発明の態様[5]は、前記態様[3]または[4]において、前記短繊維がアラミド短繊維を含まない態様である。
【0020】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、前記クレーが焼成クレーを含む態様である。
【0021】
本発明の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様において、前記カーボンブラックがハードカーボンブラックを含む態様である。
【0022】
本発明には、態様[8]として、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様のゴム組成物の架橋物を含む伝動ベルトも含まれる。
【0023】
本発明の態様[9]は、前記態様[8]の伝動ベルトが、ローエッジコグドVベルトである態様である。
【0024】
本発明の態様[10]は、前記態様[9]のローエッジコグドVベルトが変速ベルトである態様である。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、低ムーニー粘度のエチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分と、カーボンブラックと、pH5.5以上のクレーとを、特定の割合で組み合わせているため、スコーチを生じにくく、圧延が容易であって、伝動ベルトに用いた際に機械的特性、耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、ベルト式無段変速機の変速機構を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のローエッジコグドVベルトの一例を示す概略部分断面斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のローエッジコグドVベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施例で得られた架橋ゴム成形体の8%曲げ応力(短繊維直交方向)の測定方法を説明するための概略斜視図である。
【
図5】
図5は、実施例で得られた架橋ゴム成形体の8%曲げ応力(短繊維平行方向)の測定方法を説明するための概略斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの耐久走行試験のレイアウトを示す概略図である。
【
図7】
図7は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの逆曲げ走行試験のレイアウトを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[ゴム組成物]
本発明の伝動ベルト用ゴム組成物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分と、カーボンブラックと、クレーとを含む。
【0028】
(ポリマー成分)
ポリマー成分は、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。
【0029】
エチレン-α-オレフィンエラストマーは、構成単位として、エチレン単位、α-オレフィン単位を含んでいればよく、ジエン単位をさらに含んでいてもよい。そのため、エチレン-α-オレフィンエラストマーには、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどが含まれる。
【0030】
α-オレフィン単位を形成するためのα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α-C3-12オレフィンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンのうち、プロピレンなどのα-C3-4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0031】
ジエン単位を形成するためのジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体が利用される。非共役ジエン系単量体としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0032】
代表的なエチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン-α-オレフィンゴム[エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、エチレン-オクテンゴム(EOM)など]、エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム[エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)]などが例示できる。
【0033】
これらのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-C3-4オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムが好ましく、EPDMが特に好ましい。そのため、EPDMの割合は、エチレン-α-オレフィンエラストマー全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に95質量%)であり、100質量%(EPDMのみ)であってもよい。
【0034】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60~90/10、好ましくは45/55~85/15(例えば50/50~80/20)、さらに好ましくは52/48~70/30である。特に、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体において、エチレンとプロピレンとの割合(質量比)は、前者/後者=35/65~90/10、好ましくは40/60~80/20、さらに好ましくは45/55~70/30、より好ましくは50/50~70/30(例えば50/50~60/40)、最も好ましくは55/45~70/30(特に55/45~65/35)であってもよい。
【0035】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴム)のジエン含量は15質量%以下(例えば0.1~15質量%)であってもよく、好ましくは10質量%以下(例えば0.3~10質量%)、さらに好ましくは7質量%以下(例えば0.5~7質量%)、より好ましくは5質量%以下(例えば1~5質量%)である。ジエン含量が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。
【0036】
なお、本願において、ジエン含量は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のジエンモノマー単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーに基づく割合であってもよい。
【0037】
ジエンモノマーを含むエチレン-α-オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば3~40、好ましくは5~30、さらに好ましくは10~20である。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の架橋が不十分になって摩耗や粘着が発生し易く、逆にヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明のゴム組成物は、未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度が低いことを特徴とする。ムーニー粘度は、キャビティ内において表面に溝が設けられたロータと接するようにゴム組成物を充填し、ロータを回転させるのに必要なトルクを測定することにより、ゴムの流動性(加工のしやすさ)を表す指標として用いられる。
【0039】
未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は25以下(特に20以下)であり、例えば5~25、好ましくは10~23、さらに好ましくは12~22、より好ましくは15~21、最も好ましくは18~20である。ムーニー粘度が高すぎると、圧延性が低下する。
【0040】
なお、本願において、ムーニー粘度は、JIS K 6300-1(2013)のムーニー粘度試験に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。
【0041】
ポリマー成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(エチレン-α-オレフィンエラストマーのみ)である。ポリマー成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が少なすぎると、耐熱性および耐寒性が低下する虞がある。
【0042】
ポリマー成分は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エチレン-α-オレフィンエラストマーに加えて、他のゴム成分、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム(ポリオクテニレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどを含んでいてもよい。
【0043】
他のゴム成分の割合は、ポリマー成分中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0044】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、一般的に、一次粒子径、ヨウ素吸着量、BET比表面積などの違いにより、いくつかのグレードに分類されている。一次粒子径の小さいカーボンブラックはゴムに対する補強効果が高い一方で、一次粒子径の大きいカーボンブラックは、ゴムに対する補強効果は低いという特徴を有している。
【0045】
カーボンブラックの分類について、ASTMでは、ヨウ素吸着量に基づいて、N0**~N9**に分類されるが、配合したゴム製品の性能などをベースとした従来の分類(SAF、HAF、GPF等)も利用されている。一次粒子径の小さいN110(SAF)、N220(ISAF)、N330(HAF)などはハードカーボンと称され、一次粒子径の大きいN550(FEF)、N660(GPF)、N762(SRF)などはソフトカーボンと称されることもある。ヨウ素吸着量と一次粒子径には緊密な関係があり、一次粒子径が小さいほど、ヨウ素吸着量が大きくなる。東海カーボン(株)製のシースト(登録商標)シリーズを例に分類、ヨウ素吸着量、平均一次粒子径をまとめると、表1のような関係となる。
【0046】
【0047】
本発明では、原料での分類ではなく、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックについて、一次粒子径が40nm未満のカーボンブラックをハードカーボンと称し、一次粒子径が40nm以上のカーボンブラックをソフトカーボンと称する。
【0048】
ハードカーボンの一次粒子径は、40nm未満(例えば15~35nm)であればよいが、最大一次粒子径は、例えば38nm以下、好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下であってもよい。ハードカーボンの最大一次粒子径が大きすぎると、ゴムの物性が低下する虞がある。最小一次粒子径は、例えば5nm以上、好ましくは8nm以上、さらに好ましくは10nm以上であってもよい。ハードカーボンの最小一次粒子径が小さすぎると、ハードカーボン自体の調製が困難となる虞がある。
【0049】
ハードカーボンの平均一次粒子径は、例えば10~35nm、好ましくは15~33nm、さらに好ましくは20~32nm(特に25~30nm)である。ハードカーボンの平均一次粒子径が小さすぎると、ハードカーボン自体の調製が困難となる虞があり、逆に大きすぎると、ゴムの物性が低下する虞がある。
【0050】
なお、本願において、カーボンブラックの一次粒子径、最大一次粒子径および平均一次粒子径の測定方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡などを用いて個数基準で測定できる。
【0051】
ハードカーボンのBET比表面積は、例えば60~160m2/g、好ましくは65~150m2/g、さらに好ましくは70~140m2/g、より好ましくは75~130m2/g、最も好ましくは75~100m2/gである。BET比表面積が小さすぎると、ゴム組成物が伸びにくくなる虞があり、逆に大きすぎると、ゴム組成物の硬度が高くなりすぎる虞がある。
【0052】
なお、本願において、BET比表面積とは、BET法により窒素ガスを用いて測定した比表面積を意味する。
【0053】
ハードカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg以上であってもよく、例えば60~150g/kg、好ましくは65~130g/kg、さらに好ましくは70~100g/kg、最も好ましくは75~90g/kgである。ヨウ素吸着量が少なすぎると、ゴムの物性が低下する虞があり、逆に多すぎると、ハードカーボン自体の調製が困難となる虞がある。
【0054】
なお、本願において、カーボンブラックのヨウ素吸着量の測定方法としては、ASTM D1510-17の標準試験法に準拠して測定できる。
【0055】
ソフトカーボンの一次粒子径は、40nm以上(例えば40~100nm)であればよいが、最大一次粒子径は、例えば300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下であってもよい。ソフトカーボンの最大一次粒子径が大きすぎると、カーボンブラックの補強性が低下し、ゴムの物性が低下する虞がある。
【0056】
ソフトカーボンの平均一次粒子径は、例えば45~100nm、好ましくは50~90nm(例えば55~80nm)、さらに好ましくは60~70nm(特に63~68nm)である。
【0057】
ソフトカーボンのBET法によるBET比表面積は、例えば10~60m2/g(例えば25~60m2/g)、好ましくは15~55m2/g、さらに好ましくは20~50m2/g、より好ましくは22~40m2/g、最も好ましくは23~30m2/gである。
【0058】
ソフトカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg未満であってもよく、例えば10g/kg以上60g/kg未満、好ましくは15~50g/kg、さらに好ましくは18~40g/kg、最も好ましくは20~30g/kgである。
【0059】
本発明のゴム組成物では、カーボンブラックは、一次粒子径40nm未満のハードカーボンを含むのが好ましい。ハードカーボンを含むと、ゴムの物性が向上し、ベルトの機械的特性、耐久性を向上できる。ハードカーボンを多量に配合すると加工性(圧延性)が低下しやすいが、本発明のゴム組成物では一定の割合以上でクレーを含むことにより加工性の低下を抑制できるため、より補強性の高いハードカーボンを含むのが好ましい。さらに、ハードカーボンは、ソフトカーボンと比べて、少量でゴムの物性を向上できるため、経済性も高い。
【0060】
カーボンブラック中のハードカーボンの割合は50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(ハードカーボンのみ)である。カーボンブラック中のハードカーボンの割合が少なすぎると、ゴムの物性が低下する虞がある。
【0061】
カーボンブラックの合計割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば50~150質量部、好ましくは55~120質量部、さらに好ましくは60~100質量部、より好ましくは65~90質量部、最も好ましくは70~80質量部である。カーボンブラックの合計割合が少なすぎると、ゴム組成物が柔らかすぎて耐久性が低下する虞があり、逆に多すぎると、ゴム組成物が硬すぎて耐久性および圧延性が低下する虞がある。
【0062】
(クレー)
本発明のゴム組成物においては、充填剤(フィラー)として、カーボンブラックと特定のクレーとを組み合わせることを特徴とする。
【0063】
EPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、耐熱性に優れる一方で、脆くて粘りに欠けるためにシート状に圧延するのが難しいという問題点を有している。特に、伝動ベルトでは、硬度や耐摩耗性を向上するために、カーボンブラックや短繊維を配合する必要があるが、カーボンブラックや短繊維の配合量を多くする程、圧延が困難になる。圧延を容易にするには、ムーニー粘度の低いエチレン-α-オレフィンエラストマーを用いるか、カーボンブラックや短繊維の配合量を少なくする方法が考えられるが、いずれの方法もゴム組成物の物性を低下させる方向に働くため、好ましくない方法である。すなわち、圧延性と、ゴム組成物の機械的特性とは、トレードオフの関係にある両立困難な課題である。
【0064】
これに対して、本発明のゴム組成物では、ムーニー粘度の低いエチレン-α-オレフィンエラストマーを用いることで圧延を容易にしながら、カーボンブラックおよびクレーを多量に配合することでゴム組成物の物性を高めることを基本的な設計思想としている。カーボンブラックは多量に配合すると圧延が困難となるため、カーボンブラックと比較するとマイルドな補強性を示すクレーを併用し、カーボンブラックとクレーとを特定の比率で配合することにより、困難な課題を解決したことが特徴である。
【0065】
クレーのpHは5.5以上(特に6以上)であり、例えば6~10(例えば6~7.5)、好ましくは6~8(例えば6.2~7.2)、さらに好ましくは6~7.3(例えば6~7)、より好ましくは6~6.7、最も好ましくは6~6.5である。クレーのpHが低いとスコーチが生じやすくなり、圧延性も低下する。特許文献2の段落[0026]などの記載からすると、ゴム組成物中の配合剤のpHが低い場合には架橋反応が阻害される場合があると解釈されるが、本願の実施例ではこれに反し、クレーのpHが低い場合には架橋反応が過剰に促進された状態であるスコーチを生じる結果となっている。クレーのpHと架橋反応の進行との関係は、特許文献2の開示とは正反対の結果となっており、意外な結果である。
【0066】
本願において、クレーのpHは、慣用の方法で測定でき、例えば、JIS K 5101-17-2(2004)に準拠した方法で測定でき、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0067】
クレーとしては、ケイ酸アルミニウムを含むクレーであればよく、特に限定されないが、カオリンクレー、ろう石クレー、焼成クレーが好ましい。
【0068】
カオリンクレーは、天然の粘土鉱物であるカオリナイトを粉砕することにより得られる含水ケイ酸アルミニウム(Al2O3・2SiO2・2H2O)である。また、カオリンクレーはシリカとアルミナの二層構造を繰り返し単位とした板状粒子を形成する。さらに、前記粒子の表面には、酸性活性基(OH基)が多数存在し、酸性を示すものが多い。
【0069】
ろう石クレーは、カタルポと称されることもあり、パイロフィライトを粉砕することにより得られる含水ケイ酸アルミニウム(Al2O3・4SiO2・H2O)である。また、ろう石クレーは、シリカ/アルミナ/シリカの三層構造を繰り返し単位とした板状粒子を形成する。ろう石クレーにおける粒子表面の酸性活性基は、カオリンクレーと比較して少なく、微酸性を示すものが多い。
【0070】
焼成クレーは、カオリンクレーを400℃~1000℃程度で加熱することにより構造水を除去した無水ケイ酸アルミニウム(Al2O3・2SiO2)である。また、焼成クレーは、構造水を失うことにより結晶構造が失われ、酸性活性基も減少していると考えられている。
【0071】
クレーの平均一次粒子径は、例えば0.1~20μm、好ましくは1~10μm、さらに好ましくは1.5~5μm程度である。クレー粒子は、小さい程補強性が高い傾向にある。補強性の高いクレーをハードクレー、補強性の低いクレーをソフトクレーと呼び区別する場合がある。表面活性基を利用して表面改質を行った表面改質クレーも存在する。精製および分級の方法により、湿式(湿式クレー、湿式カオリン)または乾式(乾式クレー、乾式カオリン)と区別される場合がある。
【0072】
なお、本願において、クレーの平均一次粒子径としては、例えば、レーザー回折法などを用いて測定できる。
【0073】
クレーの形状は、例えば、板状、粒状、棒状、不定形状などが挙げられる。これらのうち、板状(鱗片状)が好ましい。
【0074】
これらのクレーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、スコーチを抑制して圧延性を向上できる点から、ろう石クレーおよび焼成クレーが好ましく、伝動ベルトの機械的特性を向上できる点から、焼成クレーが特に好ましい。焼成クレーは、熱処理により粒子表面の酸性活性基が減少し、ゴム組成物中においてゴム成分などとの相互作用が低下するために、スコーチが抑制され、圧延性も向上できると推定できる。
【0075】
クレーの割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば5~100質量部、好ましくは10~80質量部、さらに好ましくは20~60質量部、より好ましくは30~50質量部、最も好ましくは35~45質量部である。クレーの割合が少なすぎると、圧延性が低下する虞があり、逆に多すぎると、伝動ベルトの機械的特性や耐摩耗性が低下する虞がある。
【0076】
本発明のゴム組成物では、カーボンブラックおよびクレーの総量(合計量)は、ポリマー成分100質量部に対して80~180質量部であり、好ましくは90~150質量部、さらに好ましくは100~130質量部、より好ましくは110~120質量部である。総量が少ない場合は、伝動ベルトの機械的特性、耐摩耗性および耐剥離性が低下し、逆に多い場合、圧延性が低下するとともに、伝動ベルトの耐亀裂性が低下する。
【0077】
クレーとカーボンブラックとの質量比は、クレー/カーボンブラック=0.2/1~1.2/1(特に0.25/1~1/1)であり、好ましくは0.3/1~0.9/1、さらに好ましくは0.4/1~0.8/1、より好ましくは0.45/1~0.7/1、最も好ましくは0.5/1~0.6/1である。クレーの質量比が小さい場合は、圧延性が低下し、逆に大きい場合は、伝動ベルトの機械的特性や耐摩耗性が低下する。
【0078】
(短繊維)
本発明のゴム組成物においては、短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0079】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックおよびクレーを比較的多量に含むことによりゴムの物性およびベルトの耐久性を向上できるため、高剛性な短繊維を使用する必要がない。綿、PET、脂肪族ポリアミド(ナイロン)などの安価な短繊維を使用してもベルトの耐久性を向上することができ、経済性を向上できる。
【0080】
そのため、本発明のゴム組成物は、高剛性の短繊維として汎用されているアラミド繊維を実質的に含まないのが好ましく、アラミド繊維を含まないのが特に好ましい。
【0081】
短繊維としては、前記短繊維のうち、PET繊維などのポリアルキレンアリレート系繊維、ポリアミド6繊維などのナイロン繊維、綿などのセルロース繊維が好ましく、ポリアルキレンアリレート系繊維および/またはナイロン繊維と、セルロース繊維との組み合わせがより好ましく、ポリアルキレンアリレート系繊維とセルロース繊維との組み合わせが最も好ましい。
【0082】
ポリアルキレンアリレート系繊維および/またはナイロン繊維と、セルロース繊維とを組み合わせる場合、両者の質量比は、前者/後者=99/1~10/90、好ましくは90/10~30/70、さらに好ましくは80/20~50/50、より好ましくは70/30~60/40である。
【0083】
短繊維の平均繊維径は、例えば1~1000μm、好ましくは3~100μm、さらに好ましくは5~50μm、より好ましくは10~30μmである。平均繊維径が大きすぎると、ゴム組成物の硬化物において、機械的特性が低下する虞があり、小さすぎると、均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0084】
短繊維の平均繊維長は、例えば1~20mm、好ましくは1.5~10mm、さらに好ましくは2~7mm、より好ましくは2.5~6mmである。短繊維の平均長さが短すぎると、伝動ベルトにおいて、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができない虞があり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の分散性が低下する虞がある。
【0085】
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、少なくとも短繊維は接着処理(または表面処理)することが好ましい。なお、全ての短繊維が接着処理されている必要はなく、接着処理した短繊維と、接着処理されていない短繊維(未処理短繊維)とが混在または併用されていてもよい。
【0086】
短繊維の接着処理では、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラックまたはレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(またはラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0087】
短繊維の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば5~100質量部、好ましくは10~50質量部、さらに好ましくは20~40質量部、より好ましくは25~35質量部である。短繊維の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物の機械的特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0088】
(架橋剤)
ゴム組成物は、架橋剤をさらに含んでいてもよい。架橋剤(または加硫剤)は、硫黄系架橋剤および/または有機過酸化物であってもよい。
【0089】
硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの硫黄系架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄が好ましく、粉末硫黄が最も好ましい。
【0090】
有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期を得る分解温度が150~250℃(例えば175~225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0091】
これらのうち、ベルトの耐摩耗性を向上できる点から、硫黄系架橋剤が好ましい。
【0092】
架橋剤の合計割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば1~10質量部、好ましくは1.5~8質量部、さらに好ましくは2~6質量部、より好ましくは2~5質量部である。架橋剤が硫黄系架橋剤である場合、架橋剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば0.5~5質量部、好ましくは1~3質量部、さらに好ましくは1.5~2.5質量部であってもよい。架橋剤の割合が少なすぎると、伝動ベルトの耐側圧性が低下する虞があり、多すぎると、耐スコーチ性、圧延性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0093】
(架橋促進剤)
前記ゴム組成物は、前記架橋剤(特に、硫黄系架橋促進剤)に加えて、架橋促進剤をさらに含んでいてもよい。
【0094】
架橋促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)など]、チオモルホリン系促進剤[例えば、4,4’-ジチオジモルホリン(DTDM)、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、チアゾ-ル系促進剤[例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル(MBT)、MBTの亜鉛塩、2-メルカプトベンゾチアゾールジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、ウレア系またはチオウレア系促進剤[例えば、エチレンチオウレア、トリメチルチオ尿素(TMU)、ジエチルチオ尿素(EDE)など]、グアニジン系促進剤(ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジンなど)、ジチオカルバミン酸系促進剤[例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(BZ)など]、キサントゲン酸塩系促進剤(イソプロピルキサントゲン酸亜鉛など)など)などが挙げられる。これらの架橋促進剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBS、MBTSなどが汎用される。
【0095】
架橋促進剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば0.2~10質量部、好ましくは0.5~7質量部、さらに好ましくは1~5質量部、より好ましくは1.5~4質量部、最も好ましくは2~3質量部である。架橋促進剤の割合が少なすぎると、伝動ベルトの耐側圧性が低下する虞があり、多すぎると、耐スコーチ性、圧延性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0096】
(共架橋剤)
ゴム組成物は、共架橋剤をさらに含んでいてもよい。共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co-agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸多価金属塩]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類[例えば、N,N’-1,2-エチレンジマレイミド、N,N′-ヘキサメチレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)シクロヘキサンなどのアルキレンビスマレイミド;N,N’-m-フェニレンジマレイミド(MPBM)、4-メチル-1,3-フェニレジマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンジマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニルなどのアレーンビスマレイミドなど]プロパン、4,4’-ジフェニルエーテルジマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンジマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど]などが挙げられる。
【0097】
これらの共架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐側圧性および耐摩耗性を向上できる点から、MPBMなどのビスマレイミド類が好ましい。
【0098】
共架橋剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば0.1~30質量部、好ましくは0.2~20質量部、さらに好ましくは0.3~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部、最も好ましくは1~3質量部である。架橋剤が硫黄系架橋剤である場合、共架橋剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば0.1~3質量部、好ましくは0.3~2質量部、さらに好ましくは0.5~1.5質量部であってもよい。共架橋剤の割合が少なすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、多すぎると、耐亀裂性が低下する虞がある。
【0099】
(フィラー)
ゴム組成物は、カーボンブラックおよびクレー以外のフィラー(他の無機充填剤)をさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック以外の炭素質材料(グラファイトなど)、金属化合物または合成セラミックス(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;ケイ酸カルシウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、クレー以外の鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪藻土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイトなど)などが挙げられる。酸化亜鉛などの金属酸化物は、架橋剤または架橋促進剤もしくは共架橋剤として作用させてもよい。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0100】
これらのフィラーのうち、酸化マグネシウムや酸化亜鉛などの金属酸化物が好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0101】
フィラーの割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは3~10質量部、より好ましくは4~8質量部である。
【0102】
(他の成分)
ゴム組成物は、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、軟化剤または可塑剤(パラフィンオイルやナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、滑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これら他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0103】
他の成分の合計割合は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは3~20質量部、より好ましくは4~10質量部である。
【0104】
(ゴム組成物の架橋物の特性)
前記ゴム組成物の架橋物(硬化物)のゴム硬度Hs(タイプA)は、ベルトの変形を抑制して、耐久性を向上できる点から、例えば88~96度、好ましくは90~96度、さらに好ましくは92~96度、より好ましくは93~95度である。ゴム硬度が低すぎると、ベルトの機械的特性や耐摩耗性が低下する虞があり、ゴム硬度が高すぎると、耐亀裂性の低下や剥離が生じやすくなる虞がある。
【0105】
なお、本願において、各ゴム層のゴム硬度は、JIS K 6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定された値Hs(タイプA)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0106】
前記ゴム組成物が短繊維を含む場合、通常、短繊維は所定の方向に配向している。例えば、前記ゴム組成物で伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成する場合、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に短繊維が埋設されることが好ましい。
【0107】
ゴム組成物が短繊維を含む場合、架橋物において、ベルトの変形を抑制して、耐久性を向上できる点から、短繊維直交方向の8%曲げ応力は6~8MPaが好ましい。短繊維直交方向の8%曲げ応力が小さすぎると、ベルトの耐側圧性が不足することにより耐久性が低下する虞があり、逆に高すぎると、屈曲性および耐亀裂性が低下することにより耐久性が低下する虞がある。
【0108】
ゴム組成物が短繊維を含む場合、架橋物において、ベルトの屈曲性を向上して、耐久性を向上できる点から、短繊維平行方向の8%曲げ応力は2~3MPaが好ましい。短繊維平行方向の8%曲げ応力が小さすぎると、ベルトの耐側圧性が不足することにより耐久性が低下する虞があり、逆に高すぎると、屈曲性および耐亀裂性が低下することにより耐久性が低下する虞がある。
【0109】
なお、本願において、8%曲げ応力は、短繊維直交方向の8%曲げ応力では、押さえ部材の長手方向を短繊維の配向方向(長手方向)と直角に交差する方向で配設し、短繊維平行方向の8%曲げ応力では、押さえ部材の長手方向を短繊維の配向方向(長手方向)で配設することにより測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0110】
また、本願において「短繊維平行方向」は、短繊維の長手方向のみならず、長手方向±5°の範囲の方向であってもよい。また「短繊維直交方向」は、短繊維の長手方向に直角に交差する方向(直角方向)のみならず、直角方向±5°の範囲の方向であってもよい。
【0111】
[伝動ベルト]
本発明の伝動ベルト(動力伝達用ベルト)の種類は、プーリと接触して動力を伝達するベルトであれば特に限定されず、摩擦伝動ベルトであってもよく、かみ合い伝動ベルトであってもよい。
【0112】
摩擦伝動ベルトとしては、例えば、平ベルト、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジVベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジVベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトなど)、Vリブドベルト、樹脂ブロックベルトなどが挙げられる。
【0113】
かみ合い伝動ベルトとしては、例えば、歯付ベルト、両面歯付ベルトなどが挙げられる。
【0114】
これらの伝動ベルトは、前記ゴム組成物の架橋物を含んでいればよいが、本発明の効果を効果的に発現できる点から、ベルト本体(特に圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層)が前記ゴム組成物の架橋物で形成されているのが好ましい。
【0115】
前記伝動ベルトのうち、伝達動力の増大やレイアウトのコンパクト化の要求が厳しいコグドVベルトや歯付ベルトなどの伝動ベルトが好ましく、コグドVベルトが特に好ましい。
【0116】
本発明のコグドVベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部(コグ部)を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えていればよい。このようなコグドVベルトには、圧縮ゴム層にのみ前記コグ部が形成されたコグドVベルト、圧縮ゴム層に加えて、伸張ゴム層の外周面にも同様のコグ部が形成されたダブルコグドVベルトが含まれる。コグドVベルトは、圧縮ゴム層の側面がプーリと接するVベルト(特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用される変速ベルト)が好ましい。コグドVベルトとしては、例えば、ローエッジベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトなどが挙げられる。これらのうち、CVT(無段変速機)駆動用として使用されるローエッジコグドVベルトが特に好ましい。
【0117】
図2は、本発明の伝動ベルト(ローエッジコグドVベルト)の一例を示す概略斜視図であり、
図3は、
図2の伝動ベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【0118】
この例では、ローエッジコグドVベルト1は、ベルト本体の内周面に、ベルトの長手方向(図中のA方向)に沿って所定の間隔をおいて形成された複数のコグ部1aを有しており、このコグ部1aの長手方向における断面形状は略半円状(湾曲状又は波形状)であり、長手方向に対して直交する方向(幅方向又は図中のB方向)における断面形状は台形状である。すなわち、各コグ部(コグ山部またはコグ頂部)1aは、ベルト厚み方向において、コグ底部(コグ谷部)1bからA方向の断面において略半円状に突出している。ローエッジコグドVベルト1は、積層構造を有しており、ベルト外周側から内周側(コグ部1aが形成された側)に向かって、補強布2、伸張ゴム層3、接着ゴム層4、圧縮ゴム層5、補強布6が順次積層されている。ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる台形状である。さらに、接着ゴム層4内には、芯体4aが埋設されており、前記コグ部1aは、コグ付き成形型により圧縮ゴム層5に形成されている。
【0119】
コグ部の高さやピッチは、慣用のコグドVベルトと同様である。圧縮ゴム層では、コグ部の高さは、圧縮ゴム層全体の厚みに対して50~95%(特に60~80%)であり、コグ部のピッチ(隣接するコグ部の中央部同士の距離)は、コグ部の高さに対して50~250%(特に80~200%)である。伸張ゴム層にコグ部を形成する場合も同様である。
【0120】
この例では、伸張ゴム層3および圧縮ゴム層5が、前記ゴム組成物の架橋物で形成されている。接着ゴム層、芯体、補強布については、慣用の接着ゴム層、芯体、補強布を利用でき、例えば、以下の接着ゴム層、芯体、補強布であってもよい。
【0121】
(接着ゴム層)
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物は、圧縮ゴム層および伸張ゴム層の架橋ゴム組成物と同様に、ポリマー成分、架橋剤(硫黄などの硫黄系加硫剤など)、共架橋剤または架橋助剤(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤など)、架橋促進剤(TMTD、CBS、MBTBSなど)、フィラー(カーボンブラック、シリカなど)、軟化剤(パラフィン系オイルなどのオイル類)、加工剤または加工助剤、老化防止剤、接着性改善剤[レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン-メラミン-ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、接着性改善剤において、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物及びアミノ樹脂は、レゾルシンおよび/またはメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
【0122】
なお、このゴム組成物において、ポリマー成分としては、前記圧縮ゴム層および伸張ゴム層のゴム組成物のポリマー成分と同系統または同種のポリマーを使用する場合が多い。また、架橋剤、共架橋剤または架橋助剤、架橋促進剤、軟化剤および老化防止剤の割合は、それぞれ、前記圧縮ゴム層および伸張ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。また、接着ゴム層のゴム組成物において、フィラーの合計割合は、ポリマー成分100質量部に対して10~100質量部、好ましくは20~80質量部、さらに好ましくは30~50質量部である。また、接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の合計割合は、ポリマー成分100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは2~8質量部である。
【0123】
(芯体)
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、ベルトの長手方向に延びて配設され、通常、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて配設されている。心線は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が心線を埋設する形態、接着ゴム層と伸張ゴム層との間(伸張層側)に心線を埋設する形態、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間(圧縮ゴム層側)に心線を埋設する形態のいずれの形態であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層が心線を埋設する形態が好ましい。
【0124】
心線を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、アラミド繊維が好ましい。これらの繊維は、複数のフィラメントを含むマルチフィラメント糸の形態で使用されてもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば200~5000dtex(特に500~2000dtex)である。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本、好ましくは500~4000本、さらに好ましくは1000~3000本のフィラメントを含んでいてもよい。
【0125】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線(撚りコード)の繊度は、例えば3000~30000dtex、好ましくは4000~15000dtex、さらに好ましくは5000~8000dtexである。心線(撚りコード)は、例えば1000~15000本、好ましくは2000~10000本、さらに好ましくは5000~7000本のフィラメントを含んでいてもよい。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mmである。
【0126】
心線は、ポリマー成分との接着性を改善するため、圧縮ゴム層および伸張ゴム層の短繊維と同様の方法で接着処理(または表面処理)されていてもよい。心線も短繊維と同様に、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0127】
(補強布)
摩擦伝動ベルトにおいて、補強布を使用する場合、圧縮ゴム層の表面に補強布を積層する形態に限定されず、例えば、伸張ゴム層の表面(接着ゴム層と反対側の面)に補強布を積層してもよく、圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層に補強層を埋設する形態(例えば、特開2010-230146号公報に記載の形態など)であってもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層した後、圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0128】
[伝動ベルトの製造方法]
本発明の伝動ベルトの製造方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。ローエッジコグドVベルトの場合、例えば、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)からなる積層体を、前記補強布を下にして歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、温度60~100℃(特に70~80℃)程度でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製した後、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断してもよい。さらに、円筒状の金型に歯部と溝部とを交互に配した内母型(架橋ゴムで形成された型)を被せ、この歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントし、この巻き付けたコグパッドの上に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、この上に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:前記接着ゴム層用シートと同じ)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)、補強布(上布)を順次巻き付けて成形体を作製してもよい。その後、ジャケット(架橋ゴムで形成されたジャケット)を被せて金型を加硫缶に設置し、温度120~200℃(特に150~180℃)で架橋してベルトスリーブを調製する架橋工程を経た後、カッターなどを用いて、V字状断面となるように切断加工して圧縮ゴム層を形成するカット工程を経てもよい。
【0129】
補強布を含まないローエッジコグドVベルトでは、圧縮ゴム層用シートと第1の接着ゴム層用シートとを予めプレス加圧した積層体を調製してもよい。
【0130】
なお、伸張ゴム層用シートおよび圧縮ゴム層用シートにおいて、短繊維の配向方向をベルト幅方向に配向させる方法としては、慣用の方法、例えば、所定の間隙を設けた一対のカレンダーロール間にゴムを通してシート状に圧延し、圧延方向に短繊維が配向した圧延シートの両側面を圧延方向と平行方向に切断するとともに、ベルト成形幅(ベルト幅方向の長さ)となるように圧延シートを圧延方向と直角方向に切断し、圧延方向と平行方向に切断した側面同士をジョイントする方法などが挙げられる。例えば、特開2003-14054号公報に記載の方法などを利用できる。このような方法で短繊維を配向させた未架橋シートは、前記方法において、短繊維の配向方向がベルトの幅方向となるように配置して架橋される。
【実施例0131】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、使用材料の詳細を以下に示す。
【0132】
[使用材料]
(ポリマー)
EPDM1:JSR(株)製「EP123」、エチレン含量58質量%、ジエン含量4.5質量%、ムーニー粘度19.5ML(1+4)125℃
EPDM2:JSR(株)製「EP24」、エチレン含量54質量%、ジエン含量4.5質量%、ムーニー粘度42ML(1+4)125℃。
【0133】
(短繊維)
綿短繊維:橋本(株)製「綿短繊維」、平均繊度(綿番手)8番手、平均繊維長6mm
PET短繊維:弘宇短繊維社製、平均繊維径17μm、平均繊維長3mm
ナイロン短繊維:旭化成(株)製「レオナ」、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
パラ系アラミド短繊維:帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、平均繊維径12μm、平均繊維長3mm。
【0134】
(フィラー)
カーボンブラックISAF(ハードカーボン):キャボット社製「ショウブラックN220」
カーボンブラックSRF(ソフトカーボン):キャボット社製「ショウブラックN762」
カーボンブラックFEF(ソフトカーボン):キャボット社製「ショウブラックN550」
クレーA(焼成クレー):Imerys Performance Minerals社製「PoleStar」、pH6.2
クレーB(カオリンクレー):Imerys Performance Minerals社製「Speswhite」、pH4.8
クレーC(カタルポ(ろう石クレー)):(株)エイワ・ライジング製「カタルポ」、pH6.3
クレーD(カオリンクレー):Global Minechem Corporation製「China Clay」、pH7.2
シリカ:エボニックデグサ社製「ウルトラシルVN3」、BET比表面積175m2/g
炭酸カルシウム:丸尾カルシウム(株)製「スーパー1500」。
【0135】
(クレーのpHの測定方法)
前記クレーA、B、CおよびDのpHは、JIS K 5101-17-2(2004)に規定される顔料のpH測定方法(常温抽出法)に準拠し、電極はガラス電極を使用して測定した。
【0136】
(他の成分)
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW90」
老化防止剤DCD(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン):大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」
老化防止剤ODPA(オクチルジフェニルアミン):精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
酸化亜鉛:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
架橋促進剤TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
架橋促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
架橋促進剤MBTS(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
共架橋剤MPBM(N,N’-m-フェニレンジマレイミド):大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
硫黄:美源化学製「MIDAS」
有機過酸化物:日油(株)製「パーブチルP-40MB」、有効成分40質量%
レゾルシン・ホルマリン共重合物:INDSPEC Chemical Corporation社製「Phenacolite Resin B-18-S」
ヘキサメトキシメチルメラミン:SINGH PLASTICISER & RESINS社製「POWERPLAST PP-1890S」。
【0137】
(心線)
1100dtexのアラミド繊維束(フィラメント数1000)を2本合わせて撚り係数3.0で下撚りした下撚り糸を3本合わせ、撚り係数3.0で上撚りした総繊度6600dtexの諸撚りコード(フィラメント数6000)に、接着処理を施した心線。
【0138】
(補強布)
20番手の綿糸を糸密度75本/50mmで平織りした帆布(目付け280g/m2)に表2に示す組成を有する接着ゴム層用組成物をすり込んだ処理帆布。
【0139】
【0140】
実施例1~9および比較例1~8
[ローエッジコグドVベルトの製造]
歯部と溝部とを交互に配したコグ付き金型の外周に、補強布、表3に示す組成を有する未架橋の圧縮ゴム層用シート、および表2に示す組成を有する未架橋の第1の接着ゴム層用シートをこの順に積層した積層体を、補強布を金型側にした状態で巻き付けた。積層体の外周に可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶内に設置し、可撓性ジャケットの周囲に蒸気を注入することにより加圧、加温(約75℃)して、前記補強布、未架橋の圧縮ゴム層用シート、および未架橋の接着ゴム層用シートの積層体を金型のコグ部に圧入した。その後、金型を加硫缶から取り出し、可撓性ジャケットを取り外した。そして、前記未架橋の接着ゴム層用シートの外周に心線を螺旋状に巻き付け、さらにその外周に表2に示す組成を有する未架橋の第2の接着ゴム層用シートと表3に示す組成を有する未架橋の伸張ゴム層用シートとを積層した積層体を、前記未架橋の第2の接着ゴム層用シートを心線側にした状態で巻き付けた。積層体の外周に可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶内に設置し、可撓性ジャケットの周囲および金型の内部に蒸気を注入することにより40分間加圧、加温(約170℃)して、ベルトスリーブを作製した。作製したベルトスリーブをカッターでV字状に切断して、ベルトの内周面にコグを有するローエッジコグドVベルト(上幅19mm、厚さ(コグ頂部での厚さ)9mm、外周長さ740mm)を作製した。
【0141】
【0142】
[スコーチタイム]
スコーチタイムは、ムーニー粘度と同様にロータを回転させるのに必要なトルクを測定するが、ムーニー粘度が最低値から5M(5ポイント)上昇するまでの時間を測定することにより、ゴム組成物の架橋の進行のしやすさを表す指標として用いられる。スコーチタイムは、JIS K 6300-1(2013)のムーニースコーチ試験に準拠し、ロータは、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱時間1分で、ムーニー粘度が最低値から5M上昇した際の試験時間を測定した。スコーチタイムは、5分以上を合格「〇」とし、5分未満を不合格「×」とした。結果を表4に示す。
【0143】
[圧延性]
オープンロールを用いて、表3に示す組成を有するゴム組成物を2mm厚のシートに圧延する際の作業性について評価した。問題なく圧延を行うことができる場合は〇(良好)、シートに穴あきが発生する場合は△(多少難あり)、シートに多数の穴あきが発生してシート切れを起こす場合は×(許容不可)と判断した。結果を表4に示す。
【0144】
[架橋ゴムのゴム硬度Hs]
表3に示す組成を有する未架橋のゴムシートを温度170℃、圧力2MPa、時間30分でプレス架橋し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて架橋ゴムシートのゴム硬度Hs(タイプA)を測定した。ゴム硬度は、88~96度を合格とした。結果を表4に示す。
【0145】
[引張強度]
架橋ゴムのゴム硬度Hs測定のために作製した架橋ゴムシートを試料とし、JIS K6251(2017)に準じ、ダンベル状(5号形)に打ち抜いた試験片を作製した。短繊維の配列方向(列理方向)が引張方向となるようにダンベル状試験片を採取した。試験片の両端をチャック(掴み具)で掴み、試験片を500mm/minの速度で切断するまで引っ張ったときに記録される最大引張力を試験片の初期断面積で除した値(引張強さT)を引張強度(引張強さ)とした。結果を表4に示す。
【0146】
[8%曲げ応力(短繊維直交方向)]
表3に示す組成を有する未架橋のゴム組成物を温度170℃、圧力2MPa、時間30分でプレス架橋し、架橋ゴム成形体(60mm×25mm×6.5mm厚み)を作製した。短繊維は架橋ゴム成形体の長手方向と平行に配向させた。
図4に示すように、この架橋ゴム成形体21を、20mmの間隔を空けて回転可能な一対のロール(直径6mm)22a,22b上に置いて支持し、架橋ゴム成形体の上面中央部において幅方向(短繊維の配向方向と直交する方向)に金属製の押さえ部材23を載せた。押さえ部材23の先端部は、直径10mmの半円状の形状を有しており、その先端部で架橋ゴム成形体21をスムーズに押圧可能である。また、押圧時には架橋ゴム成形体21の圧縮変形に伴って、架橋ゴム成形体21の下面とロール22a,22bとの間に摩擦力が作用するが、ロール22a,22bを回転可能とすることにより、摩擦による影響を小さくしている。押さえ部材23の先端部が架橋ゴム成形体21の上面に接触し、かつ押圧していない状態を初期位置とし、この状態から押さえ部材23を下方に100mm/分の速度で架橋ゴム成形体21の上面を押圧し、曲げ歪が8%となったときの応力を曲げ応力として測定した。測定温度は走行中のベルト温度を想定し、120℃とした。短繊維直交方向の8%曲げ応力が大きい場合はベルト走行中のディッシングと呼ばれる座屈変形に対する抵抗力が高いと判断でき、6~8MPaが良好と云える。結果を表4に示す。
【0147】
[8%曲げ応力(短繊維平行方向)]
上記の短繊維直交方向での8%曲げ応力の測定方法において、
図5に示すように、架橋ゴム成形体を作製する際に短繊維をゴム成形体の長手方向と直角に配向させた以外は同様にして測定した。つまり、金属製の押さえ部材23と短繊維の配向方向は平行であった。短繊維平行方向の8%曲げ応力が小さい場合はベルトの屈曲性が良好であると判断でき、2~3MPaが良好と云える。結果を表4に示す。
【0148】
[耐久走行試験]
耐久走行試験は、
図6に示すように、直径58mmの駆動(Dr.)プーリと、直径120mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行った。この2つのプーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、軸荷重を500N、駆動プーリの回転数を6000rpm、従動プーリの負荷を7N・mとし、60℃の雰囲気温度にてベルトを75時間走行させた。走行後のベルト側面を目視で観察し、接着ゴム層と心線との間における剥離の有無を調べ、剥離した場合、その長さを測定した。また、走行前後のベルトの上幅を測定し、上幅の変化量(摩耗減量)が0.3mm未満の場合を、耐摩耗性が良好と判断した。結果を表4に示す。
【0149】
[逆曲げ走行試験]
逆曲げ走行試験は、
図7に示すように、直径115mmの駆動(Dr.)プーリと、直径95mmの従動(Dn.)プーリと、直径90mmの背面アイドラ(Id.)プーリとからなる3軸走行試験機を用いて行った。各プーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、従動プーリに2つのロールを介して垂下した40kgfの錘(W)を作用させることによりベルトに張りを与えた上で、背面アイドラプーリにおける接触角(ベルトとプーリが接触している円弧に対する中心角)が15°となるように調節した。駆動プーリの回転数は3,600rpm、従動プーリおよび背面アイドラプーリは無負荷、雰囲気温度110℃にて60時間走行させた。走行後のベルト側面(コグ谷部)を目視で観察し、亀裂の有無を調べた。結果を表4に示す。
【0150】
【0151】
表4の結果から明らかなように、比較例ではゴム組成物の耐スコーチ性、圧延性、ベルトの耐久性のいずれかに問題があったのに対して、実施例1~9はゴム組成物の耐スコーチ性および圧延性が良好であって、実施例1~8はベルトの耐久性も優れていた。
【0152】
詳しくは、ムーニー粘度の高いEPDMを用いた比較例4は、圧延時にシート切れが発生し、シート状に圧延することができなかった。また、EPDM1とEPDM2とを混合して、ムーニー粘度を31に調整した比較例8も、粘度が高いため、シート状に圧延することができなかった。同様に、クレーとしてpHの低いカオリンクレーを使用した比較例5においてもシート状に圧延することができなかった。また、比較例5ではスコーチタイムも短くなっており、ゴム焼けが発生した可能性がある。
【0153】
クレーの代わりに炭酸カルシウムを使用した比較例3は補強性が低下するためか、ベルトの耐摩耗性が低下した。カーボンブラックに対するクレーの比率が高い比較例1では、ゴムの硬度が低下するためか、耐摩耗性が低下するとともに、接着ゴム層と心線との間で長さ1mmの剥離も発生した。カーボンブラックとクレーの総量が多い比較例2は短繊維平行方向の8%曲げ応力が高くなり、亀裂が発生し、圧延性も低かった。カーボンブラックとクレーの総量が少ない比較例7は短繊維直交方向の8%曲げ応力が低めであり、耐摩耗性が低下するとともに、接着ゴム層と心線との間で長さ1mmの剥離も発生した。比較例6はアラミド短繊維が配合されたローエッジコグドVベルト用の典型的な配合であるが、シートに穴あきが発生して圧延性が悪い上、接着ゴム層と心線との間で長さ1mmの剥離も発生した。
【0154】
実施例1~3はカーボンブラックに対するクレーの比率を変更した例であるが、実施例2が最も耐摩耗性に優れていた。実施例4、5はカーボンブラックとクレーの合計量を増減した例である。カーボンブラックとクレーの合計量が少ない実施例5では耐摩耗性が若干低下したが、多くの比較例よりは優れていた。実施例4はカーボンブラックとしてソフトカーボンを使用しているが、他の実施例と遜色ない結果となった。ただし、カーボンブラックの配合量が多いためにコスト面でのデメリットがあり、カーボンブラックはハードカーボンを使用するのが好ましいと云える。架橋剤として有機過酸化物を用いた実施例6、短繊維としてナイロンを用いた実施例7においても良好な結果が得られた。実施例8はクレーとしてろう石クレーを使用しており、ゴム物性が若干低めであったが、ベルトでの評価は良好であった。実施例9はクレーとしてpHが高めのクレーを使用しており、ベルトの評価は実施していないが、ゴム物性は実施例2と同等であった。本発明では、アラミドに代表される高剛性ながらも高価な短繊維を使用せずに、綿、PET、ナイロンといった安価な短繊維を使用した場合でもベルトの耐久性を高めることが可能となっており、コスト面でのメリットも存在するのみならず、繊維材料の設計の自由度も向上する。
本発明の伝動ベルトは、例えば、平ベルト、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトなど)、Vリブドベルト、樹脂ブロックベルトなどの摩擦伝動ベルト;歯付ベルト、両面歯付ベルトなどのかみ合い伝動ベルトなどに利用できる。なかでも、ローエッジVベルト、コグ部を有するローエッジコグドVベルトなどに好ましく適用でき、特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機(無段変速機)に使用されるVベルト(変速ベルト)、例えば、自動二輪車やATV(四輪バギー)、スノーモービルなどの無段変速機に使用されるローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトに特に好適に利用できる。