(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106320
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】飲料容器、発泡性表面、発泡性表面の形成方法及び泡の発生方法
(51)【国際特許分類】
A47G 19/22 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
A47G19/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000723
(22)【出願日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2022007462
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 高志
(72)【発明者】
【氏名】山本 勲
【テーマコード(参考)】
3B001
【Fターム(参考)】
3B001AA02
3B001BB10
3B001CC40
3B001DB20
(57)【要約】
【課題】細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能な飲料容器を提供する。
【解決手段】飲料容器Bは、内面の少なくとも一部に発泡性表面Mが形成されており、発泡性表面は、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層20を備えている。このとき、陽極酸化層20の表面20aにおける水接触角が10~90°であるとよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面の少なくとも一部に発泡性表面が形成されており、
前記発泡性表面は、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備えることを特徴とする飲料容器。
【請求項2】
前記陽極酸化層の表面における水接触角が10~90°であることを特徴とする請求項1に記載の飲料容器。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備えることを特徴とする発泡性表面。
【請求項4】
基材を用意する基材用意工程と、
前記基材の上にアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を形成する工程を行うことを特徴とする発泡性表面の形成方法。
【請求項5】
前記陽極酸化層を形成する工程では、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された前記基材を陽極酸化するか、又は、前記基材の上に下地層を形成してから該下地層の上にアルミニウム又はアルミニウム合金を積層した後に陽極酸化を行うことを特徴とする請求項4に記載の発泡性表面の形成方法。
【請求項6】
アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備える発泡性表面を用意する工程と、
前記発泡性表面にガス含有流体を接触させる工程と、を行うことを特徴とする泡の発生方法。
【請求項7】
前記ガス含有流体が、ビール又は発泡酒であることを特徴とする請求項6に記載の泡の発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料容器、発泡性表面、発泡性表面の形成方法及び泡の発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒などの炭酸含有飲料は、容器に注ぐことで炭酸ガスが泡となって発泡性を示す。このとき発生する泡が飲料の味に影響し、泡が液面を覆うことで空気との接触を抑制して風味が保たれることが知られている。また、泡は見た目や口当たりの観点からも重要であり、容器に注いだ際に生じる泡が適切に生じるようにする技術が開発されてきた。
【0003】
特許文献1には、少なくとも内側の側面に、波長が1μm以下の範囲において平均の波長対波高比が0.005以上の凹凸が形成されていることを特徴とする飲用容器が記載されている。
【0004】
特許文献2には、筒状の胴部と底部とを有し、少なくとも胴部内面の一部又は全部について、二乗平均平方根粗さが150~250nmとなり、および、水接触角が140~180°となるように、表面処理が施されていることを特徴とする発泡飲料用容器が記載されている。
【0005】
特許文献3には、粒状性の荒い素焼き粘土を基体とする陶磁器と複数の陶磁器脚部によって構成されることを特徴とする陶磁器製発泡促進具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6880361号公報
【特許文献2】特許第6336287号公報
【特許文献3】特開2012-180126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術では、塗布による粗面化や、陶磁器の表面によって発泡を促していた。しかし、そのようなメカニズムによる泡の発生は、表面粗さのランダム性が高く極端にサイズの違う凹凸が発生するため、容器の中に入れた発泡性飲料の泡の大きさにも、ばらつきが生じていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能な飲料容器、発泡性表面を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能な発泡性表面の形成方法を提供することにある。
また、本発明の更に別の目的は、細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能な泡の発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明の飲料容器によれば、内面の少なくとも一部に発泡性表面が形成されており、前記発泡性表面は、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備えること、により解決される。
上記構成によれば、タンブラーなどの飲料容器の内面に陽極酸化で粗面化を行うことで形成された微細で均一な凹凸により細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能となる。
このとき、前記陽極酸化層の表面における水接触角が10~90°であるとよい。
【0010】
前記課題は、本発明の発泡性表面によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備えること、により解決される。
上記構成によれば、陽極酸化で粗面化を行うことで形成された微細で均一な凹凸により細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能となる。
【0011】
前記課題は、本発明の発泡性表面の形成方法によれば、基材を用意する基材用意工程と、前記基材の上にアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を形成する工程を行うことにより解決される。
上記構成によれば、陽極酸化で粗面化を行うことで形成された微細で均一な凹凸により細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能な発泡性表面を提供することができる。
このとき、前記陽極酸化層を形成する工程では、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された前記基材を陽極酸化するか、又は、前記基材の上に下地層を形成してから該下地層の上にアルミニウム又はアルミニウム合金を積層した後に陽極酸化を行うとよい。
【0012】
前記課題は、本発明の泡の発生方法によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備える発泡性表面を用意する工程と、前記発泡性表面にガス含有流体を接触させる工程と、を行うことにより解決される。
上記構成によれば、陽極酸化で粗面化を行うことで形成された微細で均一な凹凸により細かくて均一なサイズの泡を発生させることが可能となる。
このとき、前記ガス含有流体が、ビール又は発泡酒であるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の飲料容器、発泡性表面、発泡性表面の形成方法及び泡の発生方法によれば、ビールや発泡酒などの発泡性を有する液体を注いだ場合に、細かくて均一なサイズの泡による良好な泡立ちを実現することができ、また、発生した泡が消滅するまでの時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る飲料容器の模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る発泡性表面の模式断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る発泡性表面の模式断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る発泡性表面の形成方法を示すフロー図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る泡の発生方法を示すフロー図である。
【
図6A】実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍、表面)である。
【
図6B】実施例1の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(5000倍、表面45°傾斜)である。
【
図7A】実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(20000倍、表面)である。
【
図7B】実施例1の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(20000倍、表面45°傾斜)である。
【
図8A】実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面)である。
【
図8B】実施例1の試料の断面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面45°傾斜)である。
【
図9A】比較例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面)である。
【
図9B】実施例2の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面)である。
【
図9C】実施例3の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面)である。
【
図9D】実施例4の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面)である。
【
図9E】実施例5の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍、表面)である。
【
図10A】比較例1の試料の表面から発生した泡の写真である。
【
図10B】実施例2の試料の表面から発生した泡の写真である。
【
図10C】実施例3の試料の表面から発生した泡の写真である。
【
図10D】実施例4の試料の表面から発生した泡の写真である。
【
図10E】実施例5の試料の表面から発生した泡の写真である。
【
図11】ビールを注いで10分後の泡の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る飲料容器、発泡性表面、発泡性表面の形成方法及び泡の発生方法について
図1乃至
図11を参照して説明する。
【0016】
<飲料容器B>
本実施形態の飲料容器Bは、内面の少なくとも一部に発泡性表面Mが形成されている(
図1)。飲料容器Bは、
図2に断面図を示すように、基材10と、該基材10の上に形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層20と、を備えている。なお、発泡性表面Mは、飲料容器Bの内面にガス含有流体が注がれる高さまで形成されていればよいが、飲料容器Bがビールなどのように飲料容器Bの高さいっぱいまで注いで使われる場合であれば、きめ細やかな泡の形成や泡持ち維持の点から内面全面に形成されていることが好ましい。なお、ガス含有流体は、後述するようにビール又は発泡酒などの炭酸含有飲料であることが好適であるが、ガス含有流体として食品を排除するものではない。
【0017】
(基材10)
基材10は、その素材や材質は特に限定されないが、例えば、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、樹脂、ゴム、ガラス、木材を含む群より選択される一種以上の物質を含有するものが挙げられる。その中でも、基材10の上に後述する下地層40及びアルミニウム又はアルミニウム合金の積層の形成が不要であり、後述する陽極酸化層20の形成がしやすくなることから、基材10としてはアルミニウム又はアルミニウム合金から構成されるものが好ましい。
【0018】
(陽極酸化層20)
陽極酸化層20は、アルミニウム又はアルミニウム合金を陽極酸化した層であり、基材10が備える基材表面10aの上に形成されている層である。陽極酸化層は20、表面から100nm以上1000nm以下を陽極酸化させ、直径が30nm以上300nm以下程度の微細な細孔を形成した状態とすることが好適である。さらには、陽極酸化層20は、表面から100nm以上300nm以下で陽極酸化させ、直径が30nm以上200nm以下程度の微細な細孔を形成した状態とすることがより好適である。
【0019】
(下地層40)
基材10がアルミニウム又はアルミニウム合金でない場合や、陽極酸化できない場合、基材10の上に下地層40を形成してから下地層40の上に陽極酸化可能なアルミニウム又はアルミニウム合金を積層した後に陽極酸化を行うことで陽極酸化層20を形成すればよい(
図3)。この場合、基材10と陽極酸化層20の間には、下地層40が設けられる。
【0020】
下地層40は、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、ケイ素(Si)を含む群より選択される一種以上の物質を含有する。下地層40が必要となる場合、その膜厚は、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0021】
(発泡性表面M)
発泡性表面Mは、飲料容器Bの内側の表面に形成されており、陽極酸化層20の上に形成された陽極酸化層20の表面20aに相当する。発泡性表面Mは、本実施形態に係る発泡性表面Mの形成方法(
図4)によって形成される。
【0022】
発泡性表面Mにおける水の接触角は、25℃で一般的な接触角計(例えば、協和界面化学社製、型番CA-X)を用いて測定したときに、10°以上90°以下、好ましくは30°以上60°以下であるとよい。
【0023】
本実施形態において泡発生の対象となるガス含有流体は、ビール又は発泡酒などの炭酸含有飲料であると好適である。
【0024】
発泡性表面Mにおける水の接触角が10°以上90°以下であるため、泡の発生が良好なものとなる。
【0025】
(その他)
飲料容器Bの外面には、印刷や着色などの加飾加工を行ってもよく、撥水塗料などの防汚加工を行ってもよい。特に基材10としてアルミニウム又はアルミニウム合金を用いた場合には、アルミニウムの熱伝導性の高さから飲料容器Bを手で持って喫飲する際に体温が伝わりやすいが、これらの加工を施すことで飲料容器Bの外面に断熱層としての機能を付与することができる。さらに、防汚加工を施した場合は、これに加えて飲料容器Bが洗浄しやすくなる、との機能も付与することが可能となる。
【0026】
また、発泡性表面Mは、前述のとおり、飲料容器Bの内面の少なくとも一部に形成されていればよく、飲料容器Bの外面にも形成したものを排除するものではないが、微細な細孔を有する発泡性表面Mを手で触れた際の触感を考慮すると内面のみとするのが好ましい。
また、喫飲時に唇が触れる部分である飲料容器Bの内面上方の僅かな範囲(1mm~10mm程度)には喫飲時の飲料容器Bの口当たりを良くするために発泡性表面Mを形成しないようにすることも選択できる。
【0027】
また、発泡性表面の適用対象の例としては、飲料容器を例示したが、それに限定されるものではなく、本実施形態の発泡性表面に接触させることでガス含有流体から細かくて均一なサイズの泡を発生させることができるようになるものであれば何でもよい。例えば、缶や瓶に入れられたビール又は発泡酒などの炭酸含有飲料を飲料容器に注ぐ際、きめ細やかな泡を発生させるために、別体の治具や部材として用いられるような注ぎ口(漏斗状、円筒状、半円状、ベロ状等、その形状は問わない)の炭酸含有飲料が接触する表面に本実施形態の発泡性表面を適用することもできる。この場合、本実施形態の発泡性表面を適用した注ぎ口を事前に準備し、この注ぎ口に炭酸含有飲料を接触させながら炭酸含有飲料を飲料容器に注ぐことで、簡易的なビールサーバーのように、飲料容器の炭酸含有飲料にきめ細やかな泡を形成させることができる。このような注ぎ口以外にも、泡発生の対象となるガス含有流体から泡を積極的に発生させる目的で用いられるものであれば、本実施形態の発泡性表面を種々の用途で用いることができる。
【0028】
<発泡性表面Mの形成方法>
本実施形態の発泡性表面Mは、
図4に示すように、以下の発泡性表面の形成方法よって形成される。
【0029】
具体的には、本実施形態の発泡性表面の形成方法は、基材10を用意する工程(ステップS1、基材用意工程)と、前記基材10の上に下地層及びアルミニウム層を形成する工程(ステップS2、下地層・アルミニウム層形成工程、必要に応じて行われる)と、前記基材10の上にアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層20を形成する工程(ステップS3、陽極酸化層形成工程)と、を行うことを特徴とする。
【0030】
陽極酸化層形成工程(ステップS3)は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された基材10を陽極酸化するか、又は、下地層・アルミニウム層形成工程(ステップS2)を行うことで基材10の上に下地層40を形成してから下地層40の上にアルミニウム又はアルミニウム合金を積層した後に陽極酸化を行うことで陽極酸化層20を形成する。
【0031】
以上のステップS1~S3で、発泡性表面Mを得ることができる。
以下、各ステップについて、詳細に説明をする。
【0032】
(基材用意工程)
基材用意工程(ステップS1)では、基材10を用意する。このとき、事前に、基材10の基材表面10aを洗浄したり、帯電処理をしたりするなど、陽極酸化を行いやすくしたり、下地層やアルミニウム層の成膜性(積層性)を向上させるような前処理を行ってもよい。
【0033】
(下地層・アルミニウム層形成工程)
下地層・アルミニウム層形成工程(ステップS2)では、前記基材10の上に下地層及びアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層を形成する。下地層・アルミニウム層形成工程は、基材10や下地層の材料などに応じて、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、化学蒸着法などの方法を用いて行うことが可能であるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0034】
(陽極酸化層形成工程)
陽極酸化層形成工程(ステップS3)では、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された基材10を陽極酸化するか、又は、下地層・アルミニウム層形成工程(ステップS2)で積層されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層を陽極酸化することで陽極酸化層20を形成する。
【0035】
<泡の発生方法>
本実施形態の発泡性表面Mを利用して、炭酸含有飲料などのガス含有流体から泡を発生させることができる。
【0036】
本実施形態の泡の発生方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化層を備える発泡性表面を用意する工程(ステップS11)と、前記発泡性表面にガス含有流体を接触させる工程(ステップS12)と、を行うことを特徴とする(
図5)。このとき、ガス含有流体が、ビール又は発泡酒であると好適である。
【0037】
本実施形態の泡の発生方法によれば、アルミニウムの陽極酸化およびエッチングにより微細孔を付加することで、発泡性表面Mの全ての面できめ細かな泡が発生する。
【0038】
本実施形態では、主として本発明に係る飲料容器、発泡性表面、発泡性表面の形成方法及び泡の発生方法について説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例0039】
以下、本発明の飲料容器、発泡性表面、発泡性表面の形成方法及び泡の発生方法の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0040】
<実施例1 飲料容器の内面への発泡性表面の形成>
まず、飲料容器としてAl(アルミニウム)を基材に用いてタンブラー(絞り加工)を作製した。
次に、タンブラーの内面に陽極酸化、エッチングを繰り返して狙いの微細孔を形成した。
このとき、タンブラー内面のAl表面から100nm以上1000nm以下を陽極酸化させ、直径が30nm以上300nm以下程度の微細な細孔を形成した状態が好適であり、表面から100~250nmを陽極酸化させ、30nm以上80nm以下程度の微細な細孔を形成した状態が最も良好であることが分かった。当該表面状態を作成する為の条件としては、電解液(0.3%シュウ酸、10℃)を用いて、Alの陽極酸化を実施(120V、120秒処理)し、タンブラー内面のAl表面のみアルマイト化した状態を作り出した。
エッチングは、1mol/L リン酸溶液、30℃で20分間浸漬して行った。
【0041】
Al製のタンブラーの外周(外面)に対して、NbO/Nbをスパッタ成膜にて誘電体成膜し加飾した。また、撥水塗料(オリジン電気製 プラネット PX-1 クリアGT)を加飾膜の上から塗工した。
【0042】
絞り加工後のAl製のタンブラーの表面には傷や凹凸が存在しているが、その凹凸のサイズは数μm~数mmのため、そのままの状態でタンブラー内面にガス含有流体を接触させてもきめ細かな泡は発生せず大きな泡の発生起因となっていた。その凹凸部分に対して、Alの陽極酸化およびエッチングにより微細孔を付加することで、タンブラーの内面の全ての面で、きめ細かな泡が発生する。
【0043】
発泡性表面を形成したタンブラーの内面の濡れ性について、接触角を測定した。接触角は、25℃で接触角計(協和界面化学社製、型番CA-X)を用いて測定した。水の接触角は30~60°(滴下量6μl)であり、親水性ではなかったが、タンブラー全体を濡らすと前面に水の膜が形成されることから濡れ性は良好であることが分かった。
【0044】
図6A~
図8Bは、実施例1の発泡性表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。実施例1の試料では、Alの陽極酸化層の厚みが200nmであった。
【0045】
<表面処理条件:電圧分流による陽極酸化層の微細形状及びビールの泡立ちの検討>
次に、処理条件として、電解液(0.3%シュウ酸、7℃)、電圧分流(90V(実施例2)、120(実施例3)、150V(実施例4)、180V(実施例5))、処理時間120秒×5回でAl製のタンブラーを陽極酸化した。エッチングは、30℃で1mol/L リン酸に20分浸漬×4回で行った。未処理の試料を比較例1とした。
【0046】
結果を
図9A~
図11に示す。
なお、
図9Aから
図9Eは、実施例2~実施例5及び比較例1の各試料(タンブラー)の表面の状態を示す電子顕微鏡写真であり、各図それぞれ以下のとおりである。全て倍率50000倍で観察した。
図9A:比較例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真
図9B:実施例2の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真
図9C:実施例3の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真
図9D:実施例4の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真
図9E:実施例5の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真
【0047】
また、
図10Aから
図10Eは、ガス含有流体としてビールを実施例2~実施例5及び比較例1の各試料に注いだ時に資料表面から発生した泡の大きさを示す写真であり、各図それぞれ以下のとおりである。
図10A:比較例1の試料の表面から発生した泡の写真
図10B:実施例2の試料の表面から発生した泡の写真
図10C:実施例3の試料の表面から発生した泡の写真
図10D:実施例4の試料の表面から発生した泡の写真
図10E:実施例5の試料の表面から発生した泡の写真
また、
図11は、ガス含有流体としてビールを実施例2~実施例5及び比較例1の各試料に注いで10分経過後の泡の状態を示す写真である。
【0048】
Al製タンブラーの表面に陽極酸化によるナノ構造(微細な細孔)付加することで比較例1と比較してビールの泡の大きさが1/2以下になりキメ細かな泡となることが確認できた。ビールの泡は100μm以上の大きさになると弾けて破壊されることが知られているが、比較例1の泡は直ぐに弾けて泡持ちが悪く風味も消えやすかった。他方で、実施例2~実施例5ではキメ細かな泡を形成することができ泡持ちが良く、風味も消えにくかった。また、陽極酸化層のナノ構造の大きさも泡持ちに影響があり、120Vで処理をした実施例3が最も泡持ちがよかった。
【0049】
以上のように、本発明では、飲料容器の表面においてアルミニウムを陽極酸化することで発泡性表面を作成し、表面の濡れ性を向上させている。実施例で示したビールに限らず、他の発泡性飲料に適した表面形状を作成する事で、様々な炭酸含有飲料などのガス含有流体に本発明の技術思想を適用することが可能である。