(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106330
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】銅合金板材、その製造方法および通電部品
(51)【国際特許分類】
C22C 9/06 20060101AFI20230725BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20230725BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20230725BHJP
C22C 9/01 20060101ALI20230725BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20230725BHJP
C22C 9/05 20060101ALI20230725BHJP
C22C 9/10 20060101ALI20230725BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20230725BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20230725BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20230725BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230725BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/00
C22C9/02
C22C9/01
C22C9/04
C22C9/05
C22C9/10
C22F1/08 B
H01B1/02 A
H01B5/02 Z
C22F1/00 623
C22F1/00 602
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003858
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022007496
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】笹井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】宮原 良輔
(72)【発明者】
【氏名】青山 智胤
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
【テーマコード(参考)】
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
5G301AA01
5G301AA03
5G301AA07
5G301AA08
5G301AA12
5G301AA13
5G301AA14
5G301AA19
5G301AA20
5G301AA21
5G301AA23
5G301AA24
5G301AD10
5G307CA07
5G307CB02
(57)【要約】
【課題】せん断加工によって形成される切口の寸法精度、導電性および強度に優れたCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材を提供する。
【解決手段】質量%で、Ni:0.05~1.55%、Co:0~0.55%、NiとCoの合計:0.30%以上、P:0.05~0.40%、Fe:0~0.08%、Si:0~0.25%、Sn:0~1.0%、Mg:0~1.0%、Al、Ag、B、Cr、In、Mn、Ti、ZnおよびZrの合計:0~0.5%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面に平行な観察面において、長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度が100個/mm
2以下、長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度が45個/μm
2以上であり、導電率が50%IACS以上である銅合金板材。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ni:0.05~1.55%、Co:0~0.55%、NiとCoの合計:0.30%以上、P:0.05~0.40%、Fe:0~0.08%、Si:0~0.25%、Sn:0~1.0%、Mg:0~1.0%、Al、Ag、B、Cr、In、Mn、Ti、ZnおよびZrの合計:0~0.5%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面に平行な観察面において、長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度が100個/mm2以下、長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度が45個/μm2以上であり、導電率が50%IACS以上である銅合金板材。
【請求項2】
前記の長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度が50個/μm2以上である、請求項1に記載の銅合金板材。
【請求項3】
圧延方向の引張強さが450N/mm2以上である、請求項1または2に記載の銅合金板材。
【請求項4】
前記化学組成において、P含有量が0.10~0.40%であり、かつFeとCoの合計含有量が0.20%未満である、請求項1または2に記載の銅合金板材。
【請求項5】
質量%で、Ni:0.05~1.55%、Co:0~0.55%、NiとCoの合計:0.30%以上、P:0.05~0.40%、Fe:0~0.08%、Si:0~0.25%、Sn:0~1.0%、Mg:0~1.0%、Al、Ag、B、Cr、In、Mn、Ti、ZnおよびZrの合計:0~0.5%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有する鋳片に熱間加工を施して得られた板材に由来し、前記熱間加工後に再結晶を伴う熱履歴を受けていない中間製品板材に対して、加熱温度が250~450℃、前記加熱温度での保持時間が0.5~10時間であり、下記(1)式に示す硬さ低下率ΔHabが10%以下となる条件で時効処理を施す時効処理工程、
を含む銅合金板材の製造方法。
ΔHab(%)=100×(Ha-Hb)/Ha …(1)
Ha:時効処理工程に供する中間製品板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
Hb:時効処理工程後の板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
【請求項6】
前記時効処理工程において、下記(2)式に示す導電率上昇ΔEが2%IACS以上となる条件で時効処理を施す、請求項5に記載の銅合金板材の製造方法。
ΔE(%IACS)=Eb-Ea …(2)
Ea:時効処理工程に供する中間製品板材の導電率(%IACS)
Eb:時効処理工程後の板材の導電率(%IACS)
【請求項7】
前記時効処理工程によって得られた板材に対して、冷間圧延を施す仕上冷間圧延工程と、
前記仕上冷間圧延工程によって得られた板材に対して、加熱温度が150~350℃であり、下記(3)式に示される硬さ低下率ΔHcdが10%以下となる条件で熱処理を施す低温熱処理工程と、
を更に含む、請求項5または6に記載の銅合金板材の製造方法。
ΔHcd(%)=100×(Hc-Hd)/Hc …(3)
Hc:低温熱処理工程に供する板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
Hd:低温熱処理工程後の板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
【請求項8】
請求項1または2に記載の銅合金板材を材料に用いた通電部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打抜き加工によって形成される通電部品の素材に適したCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材、およびその製造方法に関する。また、その板材を用いた通電部品に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu-Ni-(Co)-P系銅合金は、銅合金の中でも比較的高い導電率と強度を両立できることから、端子材料などの通電部品として有用である。この系の銅合金材料は、Ni-(Co)-P系析出物を形成することにより導電率および強度の向上を図ることができることから、時効処理を含む工程で製造されるのが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、Ni-Co-P系銅合金に、850℃以上の溶体化処理と、400~600℃での2回以上の時効処理を施す工程により、リードフレームに適した材料を製造する技術が記載されている。それにより引張強度58kgf/mm2以上、導電率40%以上を呈し、曲げ加工性の良好な板材が得られている(第1表)。
【0004】
特許文献2には、[Mg,Ni]-P系銅合金において、曲げ軸が圧延直角方向である場合の曲げ加工性と、圧延直角方向の強度とを改善する技術が記載されている。その材料の製造法として、溶体化処理(段落0048)を行い、その後、溶体化の徹底、再結晶組織化または軟化を目的とした熱処理(段落0050、0052)を複数回行う工程が開示されている。表1の銅合金のうち、本発明で対象とする成分組成のCu-Ni-P系銅合金としてNo.15、28の2例が挙げられる。これら2例の工程(表2)を見ると、850℃の熱処理と、550~610℃(No.15)あるいは600~660℃(No.28)での3回の熱処理が実施されている。
【0005】
特許文献3には、ベーパーチャンバー等の放熱部品に適した、高温強度が高く、高温での結晶粒粗大化が抑えられる銅合金板(段落0013)として、Fe,Ni,Coの1種以上を含むリン化合物を析出させた銅合金材料が記載されている。その材料は、溶体化を伴う再結晶処理と時効処理とを含む工程で製造できるとされる(段落0031)。実施例では、熱間圧延材に、850℃×30分加熱後に水冷する熱処理を施し(段落0041)、その後、500℃×2時間の時効処理を施す(段落0044)工程が採用されている。特許文献3の実施例には本発明で対象とする成分組成の銅合金は示されていない(表1、表2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-103736号公報
【特許文献2】特開2016-125094号公報
【特許文献3】特開2018-59198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅合金の板材から通電部品を作製する際には、プレス打抜き等の「せん断加工」を施すことが多い。せん断加工によって分離された金属板の切口には、よく知られているように、せん断面と破断面が現れる。このうち、せん断面は、板厚方向から見た設計上の切断端部位置(以下「設計端部位置」という。)をほぼ正しく反映した面となる。一方、破断面は、板材の上刃(パンチ)接触表面と下刃(ダイ)接触表面のそれぞれから生成したクラックが繋がって破断した部分であるから、えぐり取られたような形態を呈し、設計端部位置を正しく反映しない面となる。すなわち、せん断加工の切口において、せん断面の割合が少ない場合には切口の寸法精度が悪く、バスバーや端子をはじめとする通電部品の性能、信頼性を確保する観点からは好ましくない。特に、音叉端子など、端面(板厚方向にほぼ平行な表面)を導通のための接触面として利用するような部品では、せん断加工で形成される切口の寸法精度ができるだけ良好であることが望まれる。また、通電部品の小型化・高密度化の要求の高まりに伴い、それに用いる素材である板材にも薄板化の要求が高まっており、従来にも増して素材の高強度化が重要となっている。
【0008】
Cu-Ni-(Co)-P系銅合金は、導電性が良好であることから、バスバー、音叉端子、基板対基板コネクタなどの通電部品に好適な材料である。しかし、この合金系で、本来の良好な導電性を活かし、かつ高い強度を得ながら、プレス打抜きなどのせん断加工によって形成される切口の形態を改善する手法については、検討の余地が残されていた。本発明は、せん断加工によって形成される切口の寸法精度、導電性および強度に優れたCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本明細書では以下の発明を開示する。
[1]質量%で、Ni:0.05~1.55%、Co:0~0.55%、NiとCoの合計:0.30%以上、P:0.05~0.40%、Fe:0~0.08%、Si:0~0.25%、Sn:0~1.0%、Mg:0~1.0%、Al、Ag、B、Cr、In、Mn、Ti、ZnおよびZrの合計:0~0.5%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面に平行な観察面において、長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度が100個/mm2以下、長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度が45個/μm2以上であり、導電率が50%IACS以上である銅合金板材。
[2]前記の長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度が50個/μm2以上である、上記[1]に記載の銅合金板材。
[3]圧延方向の引張強さが450N/mm2以上である、上記[1]または[2]に記載の銅合金板材。
[4]前記化学組成において、P含有量が0.10~0.40%であり、かつFeとCoの合計含有量が0.20%未満である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の銅合金板材。
【0010】
上記[1]~[4]の銅合金板材は以下の手法によって製造することができる。
[5]質量%で、Ni:0.05~1.55%、Co:0~0.55%、NiとCoの合計:0.30%以上、P:0.05~0.40%、Fe:0~0.08%、Si:0~0.25%、Sn:0~1.0%、Mg:0~1.0%、Al、Ag、B、Cr、In、Mn、Ti、ZnおよびZrの合計:0~0.5%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有する鋳片に熱間加工を施して得られた板材に由来し、前記熱間加工後に再結晶を伴う熱履歴を受けていない中間製品板材に対して、加熱温度が250~450℃、前記加熱温度での保持時間が0.5~10時間であり、下記(1)式に示す硬さ低下率ΔHabが10%以下となる条件で時効処理を施す時効処理工程、
を含む銅合金板材の製造方法。
ΔHab(%)=100×(Ha-Hb)/Ha …(1)
Ha:時効処理工程に供する中間製品板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
Hb:時効処理工程後の板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
[6]前記時効処理工程において、下記(2)式に示す導電率上昇ΔEが2%IACS以上となる条件で時効処理を施す、上記[5]に記載の銅合金板材の製造方法。
ΔE(%IACS)=Eb-Ea …(2)
Ea:時効処理工程に供する中間製品板材の導電率(%IACS)
Eb:時効処理工程後の板材の導電率(%IACS)
[7]前記時効処理工程によって得られた板材に対して、冷間圧延を施す仕上冷間圧延工程と、
前記仕上冷間圧延工程によって得られた板材に対して、加熱温度が150~350℃であり、下記(3)式に示される硬さ低下率ΔHcdが10%以下となる条件で熱処理を施す低温熱処理工程と、
を更に含む、上記[5]または[6]に記載の銅合金板材の製造方法。
ΔHcd(%)=100×(Hc-Hd)/Hc …(3)
Hc:低温熱処理工程に供する板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
Hd:低温熱処理工程後の板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
【0011】
また、以下の発明を提供する。
[8]上記[1]~[4]のいずれかに記載の銅合金板材を材料に用いた通電部品。
【0012】
本明細書において「板面」とは、板材の板厚方向に対して垂直な表面である。「板面」は「圧延面」と呼ばれることもある。前記のビッカース硬さは、JIS Z2244-1:2020に準拠する試験方法で求める。粒子の「長径」は、粒子を取り囲む最小円の直径(μmまたはnm)として定義される。「長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度」および「長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度」は、それぞれ以下のようにして求めることができる。
【0013】
[粗大析出物粒子の個数密度の求め方]
板面を下記の電解研磨条件で電解研磨して銅合金板材のCu素地のみを溶解させることにより析出物粒子を露出させたのち超音波洗浄機によりエタノール中で20分間の超音波洗浄を施して得た観察面について、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)により加速電圧15kV、倍率2000倍で観察し、FE-SEM画像上に観測される長径1.0μm以上の析出物粒子の総個数を観察総面積(mm2)で除した値を、粗大析出物粒子の個数密度(個/mm2)とする。観察総面積は、無作為に設定した重複しない複数の観察視野により合計0.1mm2以上とする。観察視野から一部がはみ出している析出物粒子は、観察視野内に現れている部分が粒子全体であると仮定してその長径が1.0μm以上であればカウント対象とする。
(電解研磨条件)
・電解液:蒸留水、リン酸、エタノール、2-プロパノールを10:5:5:1の体積比で混合したもの
・液温:20℃
・電圧:15V
・電解時間:20秒
【0014】
[微細析出物粒子の個数密度の求め方]
板面を下記電解研磨条件で電解研磨したのち超音波洗浄機によりエタノール中で20分間の超音波洗浄を施して得た観察面について、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)により加速電圧15kV、倍率10万倍で観察し、長径1.0μm以上の粒子の一部または全部が視野中に含まれない観察視野を無作為に設定する。その観察視野について、粒子の輪郭全体が見えている粒子のうち長径が10~100nmである析出物粒子の数をカウントする。この操作を領域が重複しない複数の観察視野について観察総面積が合計10μm2以上となるように行い、観察した全視野での前記カウントによる合計数を観察視野の総面積で除した値を微細析出物粒子の個数密度(個/μm2)とする。
(電解研磨条件)
・電解液:蒸留水、リン酸、エタノール、2-プロパノールを10:5:5:1の体積比で混合したもの
・液温:20℃
・電圧:15V
・電解時間:20秒
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、せん断加工によって形成される切口の寸法精度、導電性および強度に優れたCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材が提供される。また、本発明の銅合金板材には、溶体化処理を省略したシンプルな工程で製造することができるというメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】せん断加工によって得られた切口の一例を示すレーザー顕微鏡写真。
【
図2A】
図1に示した切口の高さプロファイルをレーザー顕微鏡で測定した際のソフトウェアの画面表示において、切口の投影画像を例示した図。
【
図2B】
図1に示した切口の高さプロファイルをレーザー顕微鏡で測定した際のソフトウェアの画面表示において、
図2A内に示される1本の測定線について高さプロファイルを例示した図。
【
図3】本発明例No.2のせん断加工後の切口のレーザー顕微鏡写真。
【
図4】比較例No.36のせん断加工後の切口のレーザー顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[化学組成]
本発明では、Cu-Ni-(Co)-P系銅合金を対象とする。以下、合金成分に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0018】
Niは、Ni-P系析出物、Ni-Co-P系析出物を生成することにより強度向上に寄与する。またNiは、Pと共に固溶することによって応力緩和特性の改善にも有効である。これらの作用を十分に発揮させるために、Ni含有量を0.05%以上とし、かつNiとCoの合計含有量が0.30%以上となるようにNi含有量を調整する必要がある。強度向上と応力緩和特性の改善の観点から、Ni含有量を0.20%以上とすることがより好ましい。Ni含有量が高すぎると導電率の低下を招く要因となる。Ni含有量は1.55%以下に制限され、導電性を重視する場合は1.20%以下とすることが好ましく、1.00%以下とすることがより好ましい。
【0019】
Coは、Ni-Co-P系析出物を生成することにより強度向上に寄与する。また、P化合物を微細化させる効果がある。そのため、必要に応じてCoを含有させることができる。ただし、上述のようにNiとCoの合計含有量が0.30%以上となるように留意する必要がある。強度向上の観点からCo含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましい。Co含有量が高すぎると導電率の低下を招く要因となる。Co含有量は0.55%以下に制限され、0.40%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがより好ましい。
【0020】
Pは、Ni-P系析出物、Ni-Co-P系析出物を生成することにより強度向上に寄与する。また、Niと同様、応力緩和特性の改善にも有効である。これらの作用を十分に発揮させるために、P含有量は0.05%以上とする必要があり、0.10%以上とすることが好ましい。P含有量を0.21%以上と多くすると、析出物量が特に高まり強度向上作用も大きい。一方、P含有量が高すぎると導電率の低下や熱間加工割れを招く要因となる。P含有量は0.40%以下に制限され、0.35%以下とすることが好ましい。
【0021】
Feは、析出物を形成して強度に寄与するが、Fe含有量が多くなると析出物の量が多くなって、せん断加工の切口の寸法精度向上を阻害するようになる。Feを含有させる場合は0.08%以下の範囲に制限され、0.05%以下とすることが好ましく、0.02%以下とすることがより好ましい。また、FeおよびCoの合計が0.20%未満であり、かつP含有量が0.10%以上であると、強度向上に有利となる。強度および導電率の観点からは、FeおよびCoの合計が0.10%以上0.20%未満であり、かつP含有量が0.10%以上0.25%以下であることが特に好ましい。
【0022】
Siは、導電性を低下させる要因となる。Si含有量は0.25%以下に制限され、0.15%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。その他の元素として、Snは1.0%まで、Mgは1.0%までそれぞれ含有が許容される。また、Al、Ag、B、Cr、In、Mn、Ti、ZnおよびZrの合計含有量が0.5%以下となる範囲で、これらの元素の1種以上を含有させてもよい。
【0023】
以上の元素以外の残部はCuおよび不可避的不純物とする。不可避的不純物は、製造上不可避的に混入する元素であって、上記に挙げた元素以外のものをいう。
【0024】
[粗大析出物粒子の個数密度]
せん断加工によって形成された切口に占めるせん断面の割合を増加させるためには、長径1.0μm以上の粗大析出物の存在量を低減することが極めて有効であることがわかった。長径1.0μm以上の粗大析出物はせん断加工時にパンチ(上刃)とダイ(下刃)によって材料に応力が付与された部分でクラック発生の起点となりやすい。発生した個々のクラックが繋がることで破断が生じ、切口に破断面が形成される。クラック発生の起点となる個々の粗大析出物の間隔が小さいと、発生したクラックが比較的小さい段階で互いに繋がりやすい。そのため、パンチの先端が板厚に対して比較的浅い位置まで進行した段階でせん断面の形成から破断面の形成に移行し、せん断面の割合が小さい切口となる。すなわち、切口の寸法精度は悪くなる。逆に、クラック発生の起点となる個々の粗大析出物の間隔が大きいと、発生したクラックがある程度大きく成長しなければ互いに繋がることができない。そのため、パンチの先端が板厚に対して比較的深い位置まで進行した段階でせん断面の形成から破断面の形成に移行し、せん断面の割合が大きい切口となる。すなわち、切口の寸法精度は改善される。
【0025】
発明者らの研究によれば、本発明で対象とする組成の銅合金においては、長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度を100個/mm2以下に抑えた組織状態とすることで、せん断加工によって形成される切口におけるせん断面の顕著な増加が見られるようになる。したがって、本発明では長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度を100個/mm2以下に規定する。長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度を75個/mm2以下とすることが好ましく、60個/mm2以下とすることがより好ましい。ただし、粗大析出物粒子の存在量を過度に低減させることは製造工程での負荷を増加させる要因となる。通常、長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度は5個/mm2以上の範囲で管理すればよい。なお、本発明の銅合金板材に存在する粗大析出物のサイズは最大でも長径が数μm以下に収まることが通常である。したがって、例えば長径10μm以下の粗大析出物粒子を個数密度の管理対象とすれば十分である。
【0026】
[微細析出物粒子の個数密度]
長径10~100nmの微細析出物粒子は、強度向上に寄与する。本発明では、長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度を45個/μm2以上に規定する。高い強度レベルをより安定して得るためには長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度を50個/μm2以上とすることが好ましく、85個/μm2以上とすることがより好ましく、130個/μm2以上とすることが更に好ましい。ただし、微細析出物を過剰に存在させることは製造上の困難を伴うのでメリットが少ない。長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度は例えば1000個/μm2以下の範囲で調整すればよい。
【0027】
[平均せん断面率]
本発明の銅合金板材はせん断加工によって形成される切口の寸法精度に優れ、具体的には、後述する実施例の方法で測定した平均せん断面率が好ましくは35%以上であり、より好ましくは45~65%である。
【0028】
[導電率]
本発明で対象とする組成の銅合金板材の用途を考慮し、本発明では導電率が50%IACS以上である銅合金板材を対象とする。導電率は55%IACS以上であることがより好ましい。導電率の上限は特に制限されないが、例えば90%IACS以下の範囲で調整することができる。
【0029】
[引張強さ]
通電部品の小型化、薄肉化のニーズに対応するためには、強度レベルを高く維持することも重要となる。本発明で対象とする組成の銅合金板材の用途を考慮すると、圧延方向の引張強さが450N/mm2以上であることが好ましく、500N/mm2以上であることがより好ましい。引張強さの上限は特に制限されないが、例えば1000N/mm2以下の範囲で調整すればよい。
【0030】
[製造方法]
以上説明した銅合金板材は、例えば以下の製造工程により作ることができる。
溶解・鋳造→熱間加工→冷間圧延→時効処理→仕上冷間圧延→低温熱処理
なお、上記工程中には記載していないが、熱間加工後には必要に応じて面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、あるいは更に脱脂が行われる。以下、各工程について説明する。
【0031】
[溶解・鋳造]
連続鋳造、半連続鋳造等により本発明所定の化学組成を有する鋳片を製造すればよい。
【0032】
[熱間加工]
鋳片を加熱した後、熱間圧延、熱間鍛造などの熱間加工を施す。鋳片の加熱温度は700~1000℃とすることが好ましい。前記加熱温度での保持時間は0.3時間以上とすることが好ましく、0.5~10時間とすることがより好ましい。加熱保持後の鋳片を炉から取り出し、熱間加工を開始する。熱間圧延の場合は、最終圧延パスでの圧延温度を400~700℃とすることが好ましく、得られる熱間圧延材の板厚は例えば2~10mm程度とすればよい。
【0033】
[冷間圧延]
時効処理の前に、冷間圧延を施し、板厚を調整しておくことができる。この冷間圧延での圧延率は例えば30%以上とすることが好ましい。圧延率の上限は、ミルの能力に応じて、例えば99.5%以下の範囲で設定できるが、通常、95%以下の範囲とすればよい。
ここで、圧延率は下記(4)式により求まる。
圧延率(%)=[(t0-t1)/t0]×100 …(4)
t0:圧延前の板厚(mm)
t1:圧延後の板厚(mm)
以上のようにして、熱間加工後に再結晶を伴う熱履歴を受けていない「中間製品板材」を得る。熱間加工後にビッカース硬さの低下率が10%を超えるような熱履歴を受けている板材は、その加熱過程で再結晶を伴う組織変化が生じている可能性があるので、以下の時効処理に供する中間製品板材としては適用しないことが望ましい。
【0034】
[時効処理]
次いで、上記の中間製品板材に時効処理を施す。この時効処理では、粗大析出物の存在量を上述のように低く抑えるために、従来よりも低温域で行うことが重要である。一般的に、時効処理の前には溶体化処理を施すことが多い。溶体化処理は、材料を高温に保持して溶質原子を十分に固溶させる処理である。通常、そのような高温の熱処理では再結晶化が起こり、金属組織は言わばリセットされた状態となる。しかし、溶体化処理によってリセットされた、溶質原子がほとんど固溶した組織状態において、低温域での時効処理を施すと、強度向上に有効な微細析出物の量は十分に確保できるものの、溶質原子の固溶量低減化が十分に達成できず、導電性の良好な板材を安定して得ることが困難であることがわかった。そこで本発明では、熱間加工後に再結晶を伴う熱履歴を受けていない中間製品板材を時効処理に供する。すなわち、溶体化処理は行わない。そして、時効処理の後も再結晶を伴う熱履歴を与えない。
【0035】
時効処理の条件は、加熱温度250~450℃、前記加熱温度での保持時間0.5~10時間の範囲で設定する。加熱温度が低すぎる場合や保持時間が短すぎる場合は、析出反応を十分に進行させることが難しくなり、強度向上や導電性向上の効果が十分に得られない。加熱温度が高すぎると粗大析出物の量が多くなり、せん断加工で形成される切口の寸法精度が悪くなる。これら強度、導電性およびせん断加工の寸法精度の観点から、保持時間は最低限0.5時間は必要であり、一方、保持時間を過剰に長くすることは不経済となる。
【0036】
上記の加熱温度、保持時間の範囲内で、下記(1)式に示す硬さ低下率ΔHabが10%以下となる条件にて時効処理を行う。また、その時効処理では下記(2)式に示す導電率上昇ΔEが2%IACS以上となる条件を適用することがより好ましい。
ΔHab(%)=100×(Ha-Hb)/Ha …(1)
Ha:時効処理工程に供する中間製品板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
Hb:時効処理工程後の板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
ΔE(%IACS)=Eb-Ea …(2)
Ea:時効処理工程に供する中間製品板材の導電率(%IACS)
Eb:時効処理工程後の板材の導電率(%IACS)
【0037】
上記の硬さ低下率ΔHabを10%以下とする規定は、時効処理によって材料の硬さが大幅に低下しないことを特定するものであり、これによって、少なくとも再結晶が起こらない条件で時効処理が達成されることを担保する。再結晶が起こると、加工歪がキャンセルされるため強度が低下する。また、再結晶が起こる温度では析出物の粗大化も進行するため、粗大析出物の量が急激に増加する恐れがある。再結晶が起こり始める温度は、合金の化学組成や、材料の熱履歴、加工履歴によって変動し得る。したがって、上記の加熱温度、保持時間の範囲において、少なくとも再結晶が起こらない時効条件を設定する必要がある。なお、時効処理によって硬さが上昇する場合には、硬さ低下率ΔHabは負の値になる。ΔHabの下限(硬さ上昇の程度)は特に制限されないが、例えばΔHabが-20%以上となる時効条件を採用することができる。
【0038】
上記の導電率上昇ΔEを2%IACS以上とする規定は、導電率が上昇することにより析出反応が十分に進行していることを特定するものであり、これによって、強度向上に有効な微細析出物の生成が十分に生じることが担保される。析出が十分に進行し得る温度範囲も、合金の化学組成や、材料の熱履歴、加工履歴によって変動し得る。したがって、上記の加熱温度、保持時間の範囲において、析出反応が十分に進行する時効条件を設定する必要がある。ΔEの上限は特に限定されないが、例えばΔEが40%IACS以下となるようにすればよい。
【0039】
上記の加熱温度、保持時間の範囲において、硬さ低下率ΔHabが10%以下となる条件、あるいは更に導電率上昇ΔEが2%IACS以上となる条件は、時効処理に供する中間製品板材の組成や、熱履歴、加工履歴に応じて、予め予備実験により把握しておくことができ、その条件設定に特段の困難を伴うことはない。
【0040】
[仕上冷間圧延]
時効処理後に、最終的な目標板厚まで冷間圧延を行うことができる。この冷間圧延を本明細書では「仕上冷間圧延」と呼ぶ。仕上冷間圧延の圧延率は、例えば15~95%の範囲で設定すればよい。
【0041】
[低温熱処理]
上記の仕上冷間圧延を行った場合は、例えば応力緩和特性を向上させることを目的として、加熱温度150~350℃での低温熱処理を施すことが好ましい。ただし、その場合には、上記加熱温度範囲にて、下記(3)式に示される硬さ低下率ΔHcdが10%以下となる条件を設定する。
ΔHcd(%)=100×(Hc-Hd)/Hc …(3)
Hc:低温熱処理工程に供する板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
Hd:低温熱処理工程後の板材の板面におけるビッカース硬さ(HV)
【0042】
上記の硬さ低下率ΔHcdを10%以下とする規定は、低温熱処理によって材料の硬さが大幅に低下しないことを特定するものである。通常、350℃では再結晶は起こらないと考えられるが、仕上冷間圧延後の組織状態によっては350℃以下の温度で急激な軟化が生じる場合も想定されることから、この規定を採用した。上記の加熱温度での保持時間は例えば0.5分~10時間の範囲で設定することができる。短時間の低温熱処理であれば、連続式の熱処理炉を通板させる手法が適用できる。上記加熱温度範囲内での適正条件の設定は、仕上冷間圧延後の材料の組織状態に応じて、予め予備実験により把握しておくことができ、その条件設定に特段の困難を伴うことはない。
なお、1回の仕上冷間圧延工程で目標板厚に到達できない場合は、時効処理後に、中間冷間圧延と中間熱処理を含む工程を1回または複数回挿入してもよい。その場合の中間熱処理も、上述した低温熱処理の条件に従うことが望ましい。
【0043】
以上のようにして、せん断加工で形成される切口の寸法精度、強度および導電性に優れるCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材を得ることができる。その板材の板厚は、例えば0.02~2.0mmの範囲とすることができる。0.04~1.2mmとすることがより好ましく、0.06~0.8mmの範囲に管理してもよい。このCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材に対して例えば打ち抜き加工などのせん断加工を施すことで、通電部品を製造することができる。
【実施例0044】
表1に示す化学組成の銅合金を溶製し、縦型半連続鋳造機を用いて厚さ20mmの鋳片を得た。それらの鋳片を加熱温度950℃、その温度での保持時間30分の条件で加熱し、炉から抽出したのち、熱間圧延を施し、板厚5mmの熱延材とした。熱間圧延では、圧延パス数を5、各パスでの圧下量(板厚減少量)を3mm、最終パスの圧延温度を約700℃とし、最終パス終了後に水冷した。熱間圧延後、表層の酸化層を機械研磨により除去(面削)し、圧延率80%で冷間圧延し、板厚1mmの板材を得た。一部の例(比較例No.32)では、上記の冷間圧延後に、900℃で3分保持する溶体化処理を施した。このようにして板厚1mmの中間製品板材を用意した。
【0045】
各中間製品板材に対して、表2に示す条件で時効処理を施し、次いで圧延率60%で仕上冷間圧延を施し、次いで表2に示す条件で低温熱処理を施すことによって、板厚0.4mmの板材を得た。これらの板材を供試材として、以下の調査に供した。
【0046】
(長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度)
上掲の「粗大析出物粒子の個数密度の求め方」に従い、長径1.0μm以上の粗大析出物粒子の個数密度を求めた。超音波洗浄機はBRANSONIC M2800-J、電解研磨装置はBUEHLER社製のElectroMet4、FE-SEMは日本電子株式会社製のJSM-7200Fをそれぞれ使用した。
【0047】
(長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度)
上掲の「微細析出物粒子の個数密度の求め方」に従い、長径10~100nmの微細析出物粒子の個数密度を求めた。使用した超音波洗浄機、電解研磨装置およびFE-SEMは上記と同様である。
【0048】
(導電率)
JIS H0505に準拠してダブルブリッジ、平均断面積法により導電率を求めた。
【0049】
(引張強さ)
各供試材から圧延方向(LD)の引張試験片(JIS 5号)を採取し、試験数n=3でJIS Z2241に準拠した引張試験を行い、引張強さを測定した。n=3の平均値を当該供試材の成績値とした。
【0050】
(応力緩和率)
供試材から圧延方向(LD)の長さが60mm、圧延直角方向(TD)の幅が10mmの試験片を切り出し、これを日本電子材料工業会標準規格EMAS-1011に示される片持ち梁方式の応力緩和試験にかけることによって応力緩和率を求めた。試験片は、たわみ変位が板厚方向となるように、0.2%耐力の80%に相当する負荷応力を付与した状態でセットし、180℃で24h保持後の応力緩和率を測定した。
【0051】
(せん断加工で形成される切口におけるせん断面率)
ここでは、供試材の板厚方向から見た切断部の形状が直線状になる切口が得られるように、メカニカルシャー(相澤製作所製、AST-1313)を使用して、パンチに相当する切断刃の長手方向と、供試材の圧延方向(LD)とが平行になるように、クリアランス0.10mmにて、各供試材とも同じ条件でせん断加工(切断)を施した。せん断加工によって分離された材料のうち、ダイに相当するテーブル側に残った材料の切口をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-100)により観察した。
【0052】
図1に、せん断加工によって得られた切口のレーザー顕微鏡写真の一例を示す。これは比較例No.36の例である。
図1中に示すLDが圧延方向、PDがパンチに相当する切断刃の進行方向である。切口であるA-B間には、やや白く見えるC-D間の領域が観察される。このC-D間の領域は、材料が破断した後に、破断面の一部表面が切断刃との接触によって削られた部分である。したがって、C-D間の領域は破断面に属し、A-C間がせん断面となる。また、切口の下端B付近には「バリ」の部分が含まれている。バリの部分は一般的に破断面には含めないが、ここでは切口をほぼ正面から見た切口形態に基づいてせん断面の割合を評価するために、便宜上、バリの部分も破断面に含める。したがって、C-B間が破断面となる。なお、せん断面は供試材に対して切断刃が入り込んで形成された面であり、破断面は切断刃の側から生じたクラックと、ダイ(切断刃よりクリアランス分奥にある)の側から生じたクラックとがつながってできた面であるから、破断面はせん断面より奥にえぐれた形態である。
【0053】
図2A、
図2Bに、
図1に示した切口について、レーザー顕微鏡に付属の解析ソフトウェアによって高さプロファイルを解析した際の画面表示の一例を示す。
図2A、
図2B中に付記したA、B、C、Dは
図1との対応関係を示す記号である。
図2Aは切口の投影画像である。
図2Bは、
図2Aの記号A~Dを付した直線(測定線:PDに平行な直線である)に沿ってレーザーを照射して測定した高さプロファイルである。
図2Bには、
図2Aのせん断面の端部(記号A)位置から板厚の5%だけ下方向(記号Bに向かう方向)に移動した位置に相当する高さ曲線R上の点pと、
図2Aの破断面の端部(記号B)位置から板厚の5%だけ上方向(記号Aに向かう方向)に移動した位置に相当する高さ曲線R上の点qとを結ぶ直線を「基準線L」として表示してある。
図2Bにおいて、高さ曲線R上の任意の点についての切口表面高さは、基準線L上の任意の点1(
図2Bにおいて水平方向をx軸、垂直方向をy軸としたとき、座標を(x1、y1)と表現できる)と、高さ曲線R上の前記点1に対応する点2(x座標が同じ点であり、その座標は(x1、y2)である)の差、すなわちy2-y1として求められる。
図2Aの破断面の端部(記号A、B)位置に相当する基準線L上の点を、それぞれ
図2B中に点s、tとして表示してある。基準線Lを基準とした切口表面高さは、せん断面と破断面の境界位置(記号C)において最大となる。事実、ここで調べた各例の切口については、全ての例でそのようなプロファイルを呈していた。そこで、ここではレーザー顕微鏡で測定した切口の高さプロファイルに基づき、s-t間で高さ曲線Rが最大高さとなる基準線L上の位置を点m(対応する曲線R上の点とx座標が同一である)とし、下記(5)式により当該高さプロファイルにおけるせん断面率(%)を定めた。
せん断面率(%)=100×(線分smの長さ)/(線分stの長さ) …(5)
このような高さプロファイルの測定を、切口の投影画像内の無作為に設定した圧延方向(LD)位置における合計5本の測定線に沿って行い、それぞれの高さプロファイルについて求めたせん断面率(%)の相加平均値を算出し、その値を当該供試材の「平均せん断面率(%)」とした。
【0054】
以上の結果を表3に示す。
また、参考のため、
図3に本発明例No.2のせん断加工後の切口のレーザー顕微鏡写真を、
図4に比較例No.36のせん断加工後の切口のレーザー顕微鏡写真を、それぞれ例示する。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
本発明例のCu-Ni-(Co)-P系銅合金板材はいずれも、粗大析出物の個数密度が低く抑えられ平均せん断面率が高く、せん断加工によって生じる切口の寸法精度を向上させることができる性能に優れるものであった。また、強度および導電性にも優れ、耐応力緩和特性についても問題はなかった。
【0059】
これに対し、比較例No.31、36、37、38は、時効処理温度が高すぎたので、時効処理の熱処理で再結晶が起こり、粗大析出物の個数密度が高くなった。その結果、平均せん断面率が低く、せん断加工による切口の寸法精度が悪かった。
No.32は、溶体化処理を施したものである。この場合、本発明で規定する低温域での時効処理によって微細析出物は十分に生成したが、溶質元素の固溶量低減は不十分となり、導電性が悪かった。
No.33は、NiとCoの合計含有量が低かったので、強度が不足するとともに耐応力緩和特性が悪かった。
No.34は、NiとCoの含有量がそれぞれ高すぎたので、導電性が悪かった。
No.35は、P含有量が低すぎたので、強度が低く、また応力緩和特性も悪かった。