(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001064
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】ニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6553 20060101AFI20221222BHJP
C07H 19/048 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C07F9/6553
C07H19/048
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094949
(22)【出願日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】202110677769.7
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522233728
【氏名又は名称】邦泰生物工程(深▲セン▼)有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522235146
【氏名又は名称】中山市邦泰合盛生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】ジアン ジャン
(72)【発明者】
【氏名】チン ミン
【テーマコード(参考)】
4C057
4H050
【Fターム(参考)】
4C057AA04
4C057AA14
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057LL05
4C057LL18
4C057LL21
4H050AA02
4H050AD15
4H050BB25
4H050BB31
(57)【要約】
【課題】本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法を提供し、従来のニコチンアミドモノヌクレオチド結晶の流動性が低く、NMN医薬品またはヘルスケア製品の充填量/重量に大きな差があり、品質が不均一の技術的問題を解決することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として、イソニコチノイドを共結晶形成剤として使用し、溶液合成法を採用してニコチンアミドモノヌクレオチドをイソニコチンアミドと混合して結晶を析出し、操作が簡単で、適用範囲が広いという利点を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として、イソニコチノイドを共結晶形成剤として使用し、溶液合成法を使用して前記ニコチンアミドモノヌクレオチドと前記イソニコチンアミドを混合して結晶を析出し、前記混合および前記結晶の析出プロセスはいずれも、有機溶媒と水との混合系で行われ、前記有機溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトニトリルまたはアセトンであることを特徴とする、ニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【請求項2】
前記ニコチンアミドモノヌクレオチドと前記イソニコチンアミドとの混合比は、モル比に応じて1:1であることを特徴とする、請求項1に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【請求項3】
前記有機溶媒と水との混合系において、前記有機溶媒と前記水との体積比は1:1~5であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【請求項4】
前記混合プロセスにおいて、前記有機溶媒と水との混合系の温度は30~55℃に保たれることを特徴とする、請求項1又は2に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【請求項5】
前記有機溶媒と水との混合系は、前記有機溶媒を前記水に滴下して得られ、前記有機溶媒を滴下する前に、前記ニコチンアミドモノヌクレオチドおよび前記イソニコチンアミドを前記水に溶解することを特徴とする、請求項1又は2に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【請求項6】
前記有機溶媒を前記水に滴下する過程において、前記有機溶媒と水との混合系の温度は、30~55℃に保たれることを特徴とする、請求項5に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【請求項7】
前記結晶の析出プロセスは、前記有機溶媒と水との混合系の温度を4~8℃に下げて、静置した状態で行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物結晶の調製の技術分野に関し、特にニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドモノヌクレオチド(Nicotinamide mononucleotide、略してNMNという)は生体細胞内の固有な生化学物質の一種であり、細胞内にニコチンアミドヌクレオチドアデノシルトランスフェラーゼによってアデニル化されて生体細胞の生存にとって重要物質であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(略してNAD、補酵素Iともいい、すべての細胞に存在し、数千の生体触媒反応に関与し、生物学的細胞エネルギーの生成に重要な役割を果たす)に変換される。NMNはNADの直接的な前駆体であり、生体細胞内のNADの補充合成経路の重要な中間体として、その生体細胞内のレベルはNADの濃度に直接影響する。
【0003】
研究によると、NMNを体外から補充することは細胞内のNAD濃度を上げる最も理想的な方式であることがわかっている。さらに、NMNを体外から補充すると、老化の遅延、パーキンソン病などの老年病の治療、インスリン分泌の調節、mRNA発現への影響などのような多くの医療保健の効果を取得できることもわかっており、それにますます多くのNMNの新しい医学的使用が絶えず報告されている。さらに、李嘉誠がNMN「エリクサー」に投資したというニュースが速く広まり、NMNはしばらくの間人気が高くなり、多くの投資家から支持を集め、一般の人々もNMNの医薬品またはヘルスケア製品を追求するために急いでいる。市場には、NMN医薬品またはヘルスケア製品に対する需要量は日増しに増えている。
【0004】
NMNの安定性が十分でないため、NMNアモルファス粉末を使用して製造された医薬品またはヘルスケア製品は、保管および輸送中に薬剤活性を失いやすくなり、したがって、NMNの結晶が開発され、例えば、中国の特許出願CN108697722Aで開示された無水結晶(形態1)およびジメチルスルホキシド溶媒和物結晶(形態2)というβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの2つの結晶形態がある。現在、関連企業はNMNを結晶形態のNMNを使用して、医薬品またはヘルスケア製品を製造し、製品の安定性が大幅に向上されたが、NMNの流動性が低いなどの問題があり、製品の充填量/重量に大きな違いがあり、品質が不均一である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景技術に言及された欠点に鑑みて、本発明は、従来のニコチンアミドモノヌクレオチド結晶の流動性が低く、NMN医薬品またはヘルスケア製品の充填量/重量に大きな違いがあり、品質が不均一な技術的問題を解決するために、より流動性の高いニコチンアミドモノヌクレオチド結晶を得ることができるニコチンアミドモノヌクレオチドの調製方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として、イソニコチンアミドを共結晶形成剤として使用し、溶液合成法を使用してニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドを混合して結晶化することを含む、ニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶を調製する方法を提供する。
【0007】
FDAが公布した『薬物共結晶の規制上分類のためのガイドライン(2011)』の定義によると、いわゆる共結晶とは、同じ結晶格子内に2つ以上の異なる分子を含む結晶性物質を指し、共結晶成分は非イオン相互作用によって中性状態になる。共結晶成分には2つの種類があり、1つは有効成分(Active Pharmaceutical Ingredient、略してAPIという)で、もう1つは共結晶形成剤(Cocrystal Former、略してCCFという)であり、この2つの共結晶成分は、水素結合、π-πスタッキング、ファンデルワールス力、またはその他の非共有結合の作用下で一定の化学量論比で結合されて、新しい固体形態を形成する。
【0008】
共結晶を調製する一般的な方法は、調製時の各成分の形態に応じて、溶液合成法と固体合成法の2つの種類に分類できる。いわゆる溶液合成法とは、蒸発晶析、冷却晶析、懸濁法などを含む合成時にAPIとCCFの両方が流動状態であることを意味する。いわゆる固体合成法とは、昇華法、溶融法、粉砕法を含む合成時にAPIとCCFの両方が固体形態であることを意味する。
【0009】
溶液合成法を使用して共結晶を調製する場合、APIとCCFの計量比が共結晶の析出量に影響を及ぼし、計量比が適切でない場合、そのうちの1つの物質が個別析出されるおそれがあり、それによって共結晶の析出速度に影響を及ぼす。本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、好ましくは、ニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドをモル比1:1で混合させ、ニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶を最大限に析出させることができる。
【0010】
本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、混合および結晶化のプロセスはいずれも、有機溶媒と水との混合系において行われる。該方法における有機溶媒の種類は、結晶をうまく析出させることができるか否かに重要な役割を果たす。本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法における有機溶媒は、好ましくはテトラヒドロフラン、アセトニトリルまたはアセトンである。
【0011】
より好ましくは、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法における有機溶媒と水との混合系において、有機溶媒と水との体積比は1:1~5である。
【0012】
好ましくは、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、混合プロセス全体の間、有機溶媒と水との混合系の温度を、30~55℃に保ち、後続の冷却と結晶化の準備だけでなく、混合プロセスをスピードアップし、時間を節約することができる。
【0013】
本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、有機溶媒と水との混合系は、有機溶媒と水を直接混合するか、または有機溶媒を水に徐々に滴下することによって得ることができる。前者の方法では、有機溶媒を水と混合した後にニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドを加えることができる。後者の方法では、有機溶媒を水に滴下する前にニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチノイドを水に溶解する。
【0014】
好ましくは、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、上記の後者の方法を使用して、有機溶媒と水との混合系を調製し、即ち、まずニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドを水に溶解し、次に、有機溶媒を徐々に水に滴下する。該方法は、結晶のかさ密度をさらに高めることができ、それにより、より流動性の高い結晶を得る。
【0015】
より好ましくは、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、有機溶媒を徐々に水に滴下するプロセスに、有機溶媒と水との混合系の温度が、30~55℃に保たれ、この利点は、後続の冷却と結晶化の準備をするだけでなく、混合プロセスをスピードアップし、時間を節約できることである。
【0016】
好ましくは、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法において、結晶化プロセスは、有機溶媒と水との混合系の温度を4~8°Cに下げて静置した状態で行われる。
【0017】
本発明者らは、長期にわたって多くの実験模索および創造的労働を行って、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法を最終的に開発し、該方法は、共結晶の形態で示されるニコチンアミドモノヌクレオチドの新しい結晶形を成功に調製することができ、成功率が100%であることが繰り返しの実験によって確認された。
【0018】
本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法によって調製されたニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶に対して、Cu-Kα照射、2θ角で示されるX-線粉末回折を使用して、9.6±0.2°、約13.3±0.3°、約22.8±0.2°および約36.5±0.2°で回折ピークを有する。示差走査熱量測定分析図において、55.8±3°Cと151.9±3°Cで吸熱ピークを有する。
【0019】
さらに、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法によって調製されたニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶に対して、Cu-Kα照射、2θ角で示されるX-線粉末回折を使用し、約9.6±0.2°、約9.8±0.2°、約10.6±0.2°、約13.3±0.3°、約16.3±0.2°、約21.3±0.2°、約22.8±0.2°、約32.1±0.2°および約36.5±0.2°で回折ピークを有する。
【0020】
実験により、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法によって調製されたニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶は、ニコチンアミドモノヌクレオチド自体の薬物活性に影響を及ぼさなかっただけでなく、従来の結晶よりもより高いかさ密度を有し、ニコチンアミドモノヌクレオチドの流動性を大幅に向上させることがわかっている。かさ密度の大きさは、結晶の形態および粒度などの特性に関係し、結晶の形態および粒度などの特性は、調製プロセスにおけるステップ、溶媒の種類、温度などの制御条件によって決まる。したがって、より高いかさ密度を有する結晶の取得は、本発明によって提供される上記のニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法における特定のプロセス条件の選択および設定に完全に依存する。
【発明の効果】
【0021】
従来技術と比べると、本発明は、以下の利点を有する。
1、本発明は、共結晶の形態で示されるニコチンアミドモノヌクレオチドの新しい結晶を調製することができるニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法を提供し、ニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶のブランクを充填し、該方法は、操作が簡単で、適用範囲が広い。
2、実験により、本発明によって提供されるニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法によって調製されたニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶は、ニコチンアミドモノヌクレオチド自体の薬物活性に影響を及ぼさないだけでなく、従来の結晶よりもより高いかさ密度を有し、ニコチンアミドモノヌクレオチドの流動性を大幅に向上させ、企業の生産におけるNMN薬品またはヘルスケア製品の充填量/重量に大きな違いがあり、品質が不均一である技術的問題を解決できることがわかっている。
3、本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチド結晶のかさ密度を高めることができる調製方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明によって提供されるニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶のX-線粉末回折パターンである。
【
図2】本発明によって提供されるニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶の示差走査熱量測定分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について添付の図面および具体的な実施例を参照してさらに詳細に説明する。以下の実施例は本発明に対する説明であり、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。
【0024】
以下の実施例で使用される原料と試薬は、特記しない限り、市場から購入されるものである。
【0025】
中国特許出願CN108697722Aの実施例1に開示される方法を参照して、ニコチンアミドモノヌクレオチド無水結晶(形態1)を調製する。
【0026】
中国特許出願CN108697722Aの実施例4に開示される方法を参照して、ニコチンアミドモノヌクレオチドジメチルスルホキシド溶媒和物結晶(形態2)を調製する。
【0027】
具体的には、本発明によって提供されるニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法は、以下の2つの解決手段(そのうちの有機溶媒がテトラヒドロフラン、アセトニトリルまたはアセトンである)を含む。
【0028】
(解決手段一)
有機溶媒と水を1:1~5の体積比で混合し、有機溶媒と水との混合系を得、混合系の温度を30~55℃に調整し、ニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドをモル比1:1で、混合系に加えて均一に混合し、その後、混合系の温度を4~8°Cに下げ、結晶が析出するように静置する。
【0029】
(解決手段二)
ニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドをモル比1:1で、水に溶解し、水の体積の0.2~1倍を占める有機溶媒を、ニコチンアミドモノヌクレオチドとイソニコチンアミドが溶解された水に徐々に滴下して、有機溶媒と水との混合系を得、滴下過程において、有機溶媒と水との混合系の温度を30~55℃に保ち、滴下しながら攪拌を行い、滴下完了した後、混合系の温度を4~8℃に下げ、結晶が析出するように静置する。
【実施例0030】
本発明によって提供されるニコチンアミドモノヌクレオチド共結晶の調製方法を使用して、ニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶を調製する。
67gのβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドと24gのイソニコチンアミドを2Lの水に溶解し、2Lのテトラヒドロフランを徐々に滴下し、滴下しながら攪拌し、滴下過程において、溶液の温度を45℃に保ち、滴下完了した後、溶液の温度を6℃に下げ、結晶が析出するように静置して、結晶の析出が終わった後溶液を濾過して、ニコチンアミドモノヌクレオチド-イソニコチノイド共結晶を得る。