(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106414
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】真核宿主細胞において多量体タンパク質を産生する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230725BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230725BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230725BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230725BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230725BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230725BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230725BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230725BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C12N15/13
C12P21/02 C ZNA
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/20
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/68 100Z
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023072993
(22)【出願日】2023-04-27
(62)【分割の表示】P 2021541600の分割
【原出願日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】62/796,014
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ, ローラ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ タラバン, ノエリア
(57)【要約】 (修正有)
【課題】真核宿主細胞における多量体ポリペプチド(例えば、2つ以上のサブユニットを含み、各サブユニットが2つ以上のポリペプチド鎖を含むもの、例えば、多重特異性又は二重特異性抗体)の産生方法を提供する。
【解決手段】いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドの各ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームに作用可能に結合した翻訳開始配列を含むポリヌクレオチドを含む宿主細胞を使用して、真核宿主細胞において多量体ポリペプチドを産生するための方法が提供される。有利には、本開示は、各オープンリーディングフレームに結合した翻訳開始配列の強度を調整することにより、誤対合した副産物を少なくし、多量体ポリペプチドの産生量を高くすることができることを実証する。本開示は、これらに関する細胞、スクリーニング方法、及びキットをさらに提供する。
【選択図】
図20A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核宿主細胞において多量体ポリペプチドを産生するための方法であって、多量体ポリペプチドが、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含み、
以下:
(a)真核宿主細胞を用意することであって、
真核宿主細胞が、第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、
各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットが第2のサブユニットよりも低いレベルで発現され、
第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列の一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列の一方又は両方よりも弱い、
真核宿主細胞を用意することと、
(b)第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖の発現に適した条件下で真核宿主細胞を培養することであって、発現時に、第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖が多量体ポリペプチドを形成する、真核宿主細胞を培養することと、
(c)真核宿主細胞によって産生された多量体ポリペプチドを回収することと、
を含む、方法。
【請求項2】
すべてのサブユニットが同じ宿主細胞において発現されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖が、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも低いレベルで発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべてが、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列の一方又は両方が、配列番号8-10からなる群より選択される配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列の一方又は両方が、配列ACCATGG(配列番号3)又はGAAGTATGA(配列番号11)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1の翻訳開始配列が配列番号9の配列を含み、第2の翻訳開始配列が配列番号9の配列を含み、第3の翻訳開始配列が配列番号2の配列を含み、第4の翻訳開始配列が配列番号11の配列を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドのそれぞれが、プロモーターに作用可能に結合している、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとが同じプロモーターに作用可能に結合しており、第3のポリヌクレオチドと第4のポリヌクレオチドとが同じプロモーターに作用可能に結合している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1の翻訳開始配列が第3の翻訳開始配列よりも弱い、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第2の翻訳開始配列が第4の翻訳開始配列よりも弱い、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1の翻訳開始配列が第4の翻訳開始配列よりも弱い、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第2の翻訳開始配列が第3の翻訳開始配列よりも弱い、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1の翻訳開始配列が第2の翻訳開始配列と同じである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第3の翻訳開始配列が第4の翻訳開始配列と同じである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
多量体ポリペプチドが、一又は複数の標的抗原に特異的に結合する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
多量体ポリペプチドが、多重特異性抗原結合タンパク質である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
真核宿主細胞において二重特異性抗体を産生するための方法であって、二重特異性抗体が、第1の抗体重鎖及び第1の抗体軽鎖を含む第1の半抗体と、第2の抗体重鎖及び第2の抗体軽鎖を含む第2の半抗体とを含み、
以下:
(a)真核宿主細胞を用意することであって、
真核宿主細胞が、第1の抗体重鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第1の抗体軽鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第2の抗体重鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第2の抗体軽鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、
各半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1の半抗体が第2の半抗体よりも低いレベルで発現され、
第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い、
真核宿主細胞を用意することと、
(b)第1及び第2の抗体重鎖及び軽鎖の発現に適した条件下で真核宿主細胞を培養することであって、第1及び第2の抗体重鎖及び軽鎖が二重特異性抗体を形成し、ここで、第1の半抗体が第1の抗原に結合し、かつ第2の半抗体が第2の抗原に結合する、真核宿主細胞を培養することと、
(c)真核宿主細胞によって産生された二重特異性抗体を回収することと、
を含む、方法。
【請求項18】
第1の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み;かつ第2の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変され;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み;かつ第2の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変され;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ノブ変異が、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366Y、T366W、T394W、及びF405Wのうちの少なくとも一つを含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
ホール変異が、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、F405A、Y407T、Y407A、T366S、L368A、Y407V、及びT394Sのうちの少なくとも一つを含む、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ノブ変異がT366Wを含み、ここで、ホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366S、L368A、及びY407Vのうちの少なくとも一つ、少なくとも二つ、又は三つすべてを含む、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
第1の抗体軽鎖が第1の変異を含み、第1の抗体重鎖が第2の変異を含み、第1及び第2の変異が、第1の抗体軽鎖と第1の抗体重鎖との選択的会合を促進する、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
第1の変異がV133でのアミノ酸置換を含み、第2の変異がS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
S183置換が、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、V133置換が、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
S183でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらすか、又は、S183でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらす、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
第2の抗体軽鎖が第3の変異を含み、第2の抗体重鎖が第4の変異を含み、第3及び第4の変異が、第2の抗体軽鎖と第2の抗体重鎖との選択的会合を促進する、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
第3の変異がV133でのアミノ酸置換を含み、第4の変異がS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
S183置換が、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、V133置換が、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
S183でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらすか、又は、S183でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらす、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
第1の抗体軽鎖がV133K変異を含み、第1の抗体重鎖がS183E変異を含み、第2の抗体軽鎖がV133E変異を含み、第2の抗体重鎖がS183K変異を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
第1の抗体重鎖が、T366S、L368A、及びY407V変異をさらに含み、第2の抗体重鎖が、T366W変異をさらに含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
第2の抗体軽鎖がV133K変異を含み、第2の抗体重鎖がS183E変異を含み、第1の抗体軽鎖がV133E変異を含み、第1の抗体重鎖がS183K変異を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
第2の抗体重鎖が、T366S、L368A、及びY407V変異をさらに含み、第1の抗体重鎖が、T366W変異をさらに含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、真核宿主細胞の一又は複数の染色体に組み込まれる、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、真核宿主細胞の同じ染色体座に組み込まれる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、真核宿主細胞中の一又は複数の染色体外ポリヌクレオチドの一部である、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
真核宿主細胞が哺乳動物宿主細胞である、請求項1から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
哺乳動物宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
第1及び/又は第2の翻訳開始配列が、第3及び/又は第4の翻訳開始配列よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%弱い、請求項1から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
第1のサブユニット又は半抗体が、各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第2のサブユニット又は半抗体の発現レベルよりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%低いレベルで発現される、請求項1から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
複数の多量体ポリペプチドであって、複数の多量体ポリペプチドの各多量体ポリペプチドが、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法によって産生される、複数の多量体ポリペプチド。
【請求項43】
第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含む非天然多量体ポリペプチドの発現のための組み換え真核細胞であって、
(a)第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと;
(b)第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと;
(c)第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと;
(d)第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドと;
を含み、
各サブユニットが組み換え真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットが、第2のサブユニットよりも低いレベルで発現され、
第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い、
組み換え真核宿主細胞。
【請求項44】
すべてのサブユニットが同じ宿主細胞において発現されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖が、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも低いレベルで発現される、請求項43に記載の細胞。
【請求項45】
第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべてが、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である、請求項43又は44に記載の細胞。
【請求項46】
第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列の一方又は両方が、配列番号8-10からなる群より選択される配列を含む、請求項43から45のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項47】
第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列の一方又は両方が、配列ACCATGG(配列番号3)又はGAAGTATGA(配列番号11)を含む、請求項43から46のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項48】
第1の翻訳開始配列が配列番号9の配列を含み、第2の翻訳開始配列が配列番号9の配列を含み、第3の翻訳開始配列が配列番号2の配列を含み、第4の翻訳開始配列が配列番号11の配列を含む、請求項43から45のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項49】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドのそれぞれが、プロモーターに作用可能に結合している、請求項43から48のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項50】
第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとが同じプロモーターに作用可能に結合しており、第3のポリヌクレオチドと第4のポリヌクレオチドとが同じプロモーターに作用可能に結合している、請求項49に記載の細胞。
【請求項51】
第1の翻訳開始配列が第3の翻訳開始配列よりも弱い、請求項43から50のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項52】
第2の翻訳開始配列が第4の翻訳開始配列よりも弱い、請求項43から51のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項53】
第1の翻訳開始配列が第4の翻訳開始配列よりも弱い、請求項43から52のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項54】
第2の翻訳開始配列が第3の翻訳開始配列よりも弱い、請求項43から53のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項55】
第1の翻訳開始配列が第2の翻訳開始配列と同じである、請求項43から54のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項56】
第3の翻訳開始配列が第4の翻訳開始配列と同じである、請求項43から55のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項57】
折り畳まれ、組み立てられた多量体ポリペプチドが、一又は複数の標的抗原に特異的に結合する、請求項43から56のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項58】
多量体ポリペプチドが、多重特異性抗原結合タンパク質である、請求項43から57のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項59】
第1の抗体重鎖及び第1の抗体軽鎖を含む第1の半抗体と、第2の抗体重鎖及び第2の抗体軽鎖を含む第2の半抗体とを含む二重特異性抗体の発現のための組み換え真核宿主細胞であって、
(a)第1の抗体重鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと;
(b)第1の抗体軽鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと;
(c)第2の抗体重鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと;
(d)第2の抗体軽鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドと;
を含み、
各半抗体が組み換え真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1の半抗体が、第2の半抗体よりも低いレベルで発現され、
第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い、
組み換え真核宿主細胞。
【請求項60】
第1の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み;かつ第2の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変され;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変される、請求項59に記載の細胞。
【請求項61】
第1の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み;かつ第2の抗体重鎖が、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変され;かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインが改変される、請求項59に記載の細胞。
【請求項62】
ノブ変異が、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366Y、T366W、T394W、及びF405Wのうちの少なくとも一つを含む、請求項60又は61に記載の細胞。
【請求項63】
ホール変異が、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、F405A、Y407T、Y407A、T366S、L368A、Y407V、及びT394Sのうちの少なくとも一つを含む、請求項60から62のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項64】
ノブ変異がT366Wを含み、ここで、ホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366S、L368A、及びY407Vのうちの少なくとも一つ、少なくとも二つ、又は三つすべてを含む、請求項60から63のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項65】
第1の抗体軽鎖が第1の変異を含み、第1の抗体重鎖が第2の変異を含み、第1及び第2の変異が、第1の抗体軽鎖と第1の抗体重鎖との選択的会合を促進する、請求項59から64のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項66】
第1の変異がV133でのアミノ酸置換を含み、第2の変異がS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)、請求項65に記載の細胞。
【請求項67】
S183置換が、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、V133置換が、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される、請求項66に記載の細胞。
【請求項68】
S183でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらすか、又は、S183でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらす、請求項66又は67に記載の細胞。
【請求項69】
第2の抗体軽鎖が第3の変異を含み、第2の抗体重鎖が第4の変異を含み、第3及び第4の変異が、第2の抗体軽鎖と第2の抗体重鎖との選択的会合を促進する、請求項59から64のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項70】
第3の変異がV133でのアミノ酸置換を含み、第4の変異がS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)、請求項69に記載の細胞。
【請求項71】
S183置換が、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、V133置換が、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される、請求項70に記載の細胞。
【請求項72】
S183でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらすか、又は、S183でのアミノ酸置換が負電荷を帯びた残基をもたらし、かつV133でのアミノ酸置換が正電荷を帯びた残基をもたらす、請求項70又は71に記載の細胞。
【請求項73】
第1の抗体軽鎖がV133K変異を含み、第1の抗体重鎖がS183E変異を含み、第2の抗体軽鎖がV133E変異を含み、第2の抗体重鎖がS183K変異を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)、請求項59から64のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項74】
第1の抗体重鎖が、T366S、L368A、及びY407V変異をさらに含み、第2の抗体重鎖が、T366W変異をさらに含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)、請求項73に記載の細胞。
【請求項75】
第2の抗体軽鎖がV133K変異を含み、第2の抗体重鎖がS183E変異を含み、第1の抗体軽鎖がV133E変異を含み、第1の抗体重鎖がS183K変異を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)、請求項59から64のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項76】
第2の抗体重鎖が、T366S、L368A、及びY407V変異をさらに含み、第1の抗体重鎖が、T366W変異をさらに含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)、請求項75に記載の細胞。
【請求項77】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、真核宿主細胞の一又は複数の染色体に組み込まれる、請求項43から76のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項78】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、真核宿主細胞の同じ染色体座に組み込まれる、請求項77に記載の細胞。
【請求項79】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、真核宿主細胞中の一又は複数の染色体外ポリヌクレオチドの一部である、請求項43から76のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項80】
真核宿主細胞が哺乳動物宿主細胞である、請求項43から79のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項81】
方法が、真核宿主細胞において多量体ポリペプチドの産生をより高くする、請求項80に記載の細胞。
【請求項82】
真核宿主細胞において多量体ポリペプチドを発現するための翻訳開始配列の組み合わせを同定するための方法であって、多量体ポリペプチドが、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含み、
(a)複数の真核宿主細胞を含むライブラリを用意することであって、複数の真核宿主細胞の各真核宿主細胞が以下:
第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、
第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、
第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、
第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドと
を含み、
ここで、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列の複数の組み合わせが、複数の真核宿主細胞中に表されている、
ライブラリを用意することと、
(b)複数の真核宿主細胞による多量体ポリペプチドの発現に適した条件下で真核宿主細胞のライブラリを培養することと、
(c)複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンによって発現された多量体ポリペプチドの量を測定することと、
(d)多量体ポリペプチドを発現する、一又は複数の、複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンの、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列を同定することと、
を含む、
方法。
【請求項83】
複数の宿主細胞の各宿主細胞における第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべてが、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
多量体ポリペプチドが、一又は複数の標的抗原に特異的に結合する、請求項82又は83に記載の方法。
【請求項85】
多量体ポリペプチドが、多重特異性抗原結合タンパク質である、請求項82から84のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
多量体ポリペプチドが二重特異性抗体であり、第1及び第3のポリペプチド鎖が抗体重鎖であり、第2及び第4のポリペプチド鎖が抗体軽鎖であり、第1のサブユニットが、第1の抗原に結合する第1の半抗体であり、第2のサブユニットが、第2の抗原に結合する第2の半抗体である、請求項82から84のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、複数の真核宿主細胞の各真核宿主細胞の一又は複数の染色体に組み込まれる、請求項82から86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、複数の真核宿主細胞の各真核宿主細胞の同じ染色体座に組み込まれる、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、複数の真核宿主細胞の各真核宿主細胞中の一又は複数の染色体外ポリヌクレオチドの一部である、請求項82から86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
真核宿主細胞が哺乳動物宿主細胞である、請求項82から89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
哺乳動物宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含む多量体ポリペプチドの発現のためのポリヌクレオチドのキットであって、
(a)第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと;
(b)第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと;
(c)第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと;
(d)第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドと;
を含み、
第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のうちの一又は複数が、それぞれのオープンリーディングフレームが天然に存在する宿主細胞ゲノム中に存在する場合、そのそれぞれのオープンリーディングフレームに作用可能に結合していない、
キット。
【請求項93】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドが、一又は複数の発現ベクターの一部である、請求項92に記載のキット。
【請求項94】
第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべてが、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である、請求項92又は93に記載のキット。
【請求項95】
第1の翻訳開始配列が配列番号9の配列を含み、第2の翻訳開始配列が配列番号9の配列を含み、第3の翻訳開始配列が配列番号2の配列を含み、第4の翻訳開始配列が配列番号11の配列を含む、請求項92から94のいずれか一項に記載のキット。
【請求項96】
第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドのそれぞれが、プロモーターに作用可能に結合している、請求項92から95のいずれか一項に記載のキット。
【請求項97】
第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとが同じプロモーターに作用可能に結合しており、第3のポリヌクレオチドと第4のポリヌクレオチドとが同じプロモーターに作用可能に結合している、請求項96に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
[0001] 本出願は、2019年1月23日出願の米国仮出願第62/796,014号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
ASCIIテキストファイルでの配列表の提出
[0002] 以下のASCIIテキストファイルによる提出の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:配列表のコンピュータ可読形態(CRF)(ファイル名:146392045240SEQLIST.TXT、記録日::2020年1月22日、サイズ:5KB)。
【0003】
[0003] 本開示は、真核生物(例えば、哺乳動物)宿主細胞において多量体ポリペプチドを産生するための方法、並びにそれに関連する細胞、方法、及びキット又は製造品に関する。
【背景技術】
【0004】
[0004] 治療用抗体は、最も成功した生物学的薬物の代表である。過去30年の間に、40以上の治療用抗体が、がん、自己免疫、感染症、及び血管疾患を含む様々な適応症において臨床使用が承認されている。このように、治療用抗体は製薬業界で最も成長している分野の一つであり、その臨床的影響は顕著である。
【0005】
[0005] ほとんどの疾患は、複数の並行したシグナル伝達経路を有するため、受容体及びリガンドを複数回阻害することで、より優れた治療効果が得られる場合がある。したがって、2つの異なるエピトープに結合する能力を有する二重特異性抗体(bsAb)は、とりわけ、炎症性疾患及び自己免疫疾患(Chan AC, Carter PJ. Nat Rev Immunol. 2010;10(5):301-16)、がん(Kou G, Shi J, Chen L, Zhang D, Hou S, Zhao L, et al. Cancer Lett. 2010;299(2):130-6;Dong J, Sereno A, Aivazian D, Langley E, Miller BR, Snyder WB, et al. MAbs. 2011;3(3):273-88)、及び感染症疾患(De Bernardis F, Liu H, O’Mahony R, La Valle R, Bartollino S, Sandini S, et al. J Infect Dis. 2007;195(1):149-57;Laventie BJ, Rademaker HJ, Saleh M, de Boer E, Janssens R, Bourcier T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108(39):16404-9)などの多面的な疾患治療への応用が期待できるものとして浮上してきた(Kontermann RE. MAbs. 2012;4(2):182-97;Brinkmann U, Kontermann RE. MAbs. 2017;9(2):182-212;Carter PJ, Lazar GA. Nat Rev Drug Discov. 2018;17(3):197-223)。過去数十年の間に、遺伝子工学によって60種類以上の異なる二重特異性抗体のフォーマットがもたらされ、bsAbの免疫原性、薬物動態特性、及び分布が改善された(Spiess C, Zhai Q, Carter PJ. Mol Immunol. 2015;67(2 Pt A):95-106)。
【0006】
[0006] bsAbの用途にかかわらず、2つの異なる重鎖と2つの異なる軽鎖が乱雑に対になり、16の異なる組み合わせになるが、二重特異性であるのは1つだけであるため、前臨床及び臨床開発をサポートするために十分な量、品質、及びアセンブリを産生することが困難であることから、製造プロセスは困難であった。抗体工学は、重鎖又は軽鎖をそれぞれノブ-イントゥ-ホール及びcrossMab技術でヘテロ二量化することにより、鎖の誤対合の問題を軽減するために使用されてきた(Ridgway JB, Presta LG, Carter P. Protein Eng. 1996;9(7):617-21;Atwell S, Ridgway JB, Wells JA, Carter P. J Mol Biol. 1997;270(1):26-35;Merchant AM, Zhu Z, Yuan JQ, Goddard A, Adams CW, Presta LG, et al. Nat Biotechnol. 1998;16(7):677-81)。製造プロセスの解決策としては、半抗体の別個の発現と、その後のbsAbへのin vitro組立を採用している(Spiess C, Merchant M, Huang A, Zheng Z, Yang NY, Peng J, et al. Nat Biotechnol. 2013;31(8):753-8)。しかし、これは2つの異なる安定した細胞株を生成するため、製造プロセスに時間とコストがかかることと関連している。
【0007】
[0007] したがって、2つの抗体を単一の細胞内で共発現させることは、より簡単である可能性があるが、同時に、軽鎖をその同種重鎖に誘導し、望ましくない副産物の存在及び複雑な精製プロセスの必要性を回避して、適切な量の正しく組み立てられたbsAbを達成するために、発現系のより広範な最適化が頻繁に必要となる。
【0008】
[0008] 過去数十年にわたり、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞は、バイオ医薬品産業の主要な宿主として浮上してきた(Wurm FM. Nat Biotechnol. 2004;22(11):1393-8)。バイオプロセスの革新及び細胞工学の努力により、産生物力価が改善された(Ayyar BV, Arora S, Ravi SS. Methods. 2017;116:51-62;Kelley B, Kiss R, Laird M. Adv Biochem Eng Biotechnol. 2018. Epub 2018/05/04)。しかし、未解明の細胞プロセス及び遺伝子制御メカニズムは、依然として、細胞成長、特異的生産性、及びタンパク質の品質を妨げる要因となっている。現在、哺乳動物細胞内で組み換えタンパク質の翻訳レベルを正確に制御する体系的なアプローチはほとんど存在しない。
【0009】
[0009] 二重特異性抗体のような複雑な抗体フォーマットの工学は進歩してきたが、単一の哺乳動物発現系における製造可能性は低いパフォーマンスを示すことが多い。低い力価と不十分な産生物品質は、bsAbの安定した産生を困難にする要因の2つである。結果として、産生系における制限的な工程を同定し、例えば真核生物又は哺乳動物の宿主細胞系において、正しく組み立てられた多量体ポリペプチドの産生を改善することを可能にする方法を提供することが急務となっている。
【0010】
[0010] 特許出願、特許公報、非特許文献、及びUniProtKB/Swiss-Prot受託番号を含む、本明細書において引用されるすべての参考文献は、個々の参考文献がそれぞれ参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0011】
[0011] これら及び他の要求に応えるために、本明細書では真核生物(例えば、哺乳動物)宿主細胞において多量体ポリペプチドを産生するための方法が提供される。これらの多量体ポリペプチドは、2つ以上サブユニットを含み、各サブユニットは2つ以上のポリペプチド鎖を含む(例えば、多重特異性又は二重特異性抗体と同様)。有利には、これらの方法は、多量体ポリペプチドにおける各ポリペプチド鎖の翻訳レベルをより正確に操作し、正しく組み立てられた多量体ポリペプチドの産生の改善を可能にする。
【0012】
[0012] 本開示の特定の態様は、真核宿主細胞において多量体ポリペプチドを産生するための方法に関する。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含む。いくつかの実施態様では、方法は、真核宿主細胞を用意することと、第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖の発現に適した条件下で真核宿主細胞を培養することであって、発現時に、第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖が多量体ポリペプチドを形成する、真核宿主細胞を培養することと、真核宿主細胞よって産生された多量体ポリペプチドを回収することとを含む。いくつかの実施態様では、真核宿主細胞は、第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含む。いくつかの実施態様では、第1のサブユニットは、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第2のサブユニットよりも低いレベルで発現され、第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方は、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い。いくつかの実施態様では、第1のサブユニットは、すべてのサブユニットが同じ真核宿主細胞で一緒に発現されるとき、第2のサブユニットよりも低いレベルで発現され、第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方は、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは、二重特異性抗体である。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは二重特異性抗体であり、第1及び第3のポリペプチド鎖は抗体重鎖であり、第2及び第4のポリペプチド鎖は抗体軽鎖であり、第1のサブユニットは、第1の抗原に結合する第1の半抗体であり、第2のサブユニットは、第2の抗原に結合する第2の半抗体である。
【0013】
[0013] 本開示の他の態様は、真核宿主細胞において二重特異性抗体を産生するための方法であって、二重特異性抗体が、第1の抗体重鎖及び第1の抗体軽鎖を含む第1の半抗体と、第2の抗体重鎖及び第2の抗体軽鎖を含む第2の半抗体とを含み、(a)真核宿主細胞を用意することであって、真核宿主細胞が、第1の抗体重鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第1の抗体軽鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第2の抗体重鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第2の抗体軽鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、かつ各半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1の半抗体が第2の半抗体よりも低いレベルで発現され、かつ第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い、真核宿主細胞を用意することと、(b)第1及び第2の抗体重鎖及び軽鎖の発現に適した条件下で真核宿主細胞を培養することであって、第1及び第2の抗体重鎖及び軽鎖が二重特異性抗体を形成し、かつ、第1の半抗体が第1の抗原に結合し、第2の半抗体が第2の抗原に結合する、真核宿主細胞を培養することと、(c)真核宿主細胞によって産生された二重特異性抗体を回収することと、を含む、方法に関する。
【0014】
[0014] いくつかの実施態様では、第1の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み、ここで、第2の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変され、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変される。いくつかの実施態様では、第1の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み、ここで、第2の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変され、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変される。いくつかの実施態様では、ノブ変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366Y、T366W、T394W、及びF405Wのうちの少なくとも一つを含む。いくつかの実施態様では、ホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、F405A、Y407T、Y407A、T366S、L368A、Y407V、及びT394Sのうちの少なくとも一つを含む。いくつかの実施態様では、ノブ変異はT366Wを含み、ここで、ホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366S、L368A、及びY407Vのうちの少なくとも一つ、少なくとも二つ、又は三つすべてを含む。いくつかの実施態様では、第1の抗体軽鎖は第1の変異を含み、第1の抗体重鎖は第2の変異を含み、第1及び第2の変異は、第1の抗体軽鎖と第1の抗体重鎖との選択的会合を促進する。いくつかの実施態様では、第1の変異はV133でのアミノ酸置換を含み、かつ/又は、第2の変異はS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)。いくつかの実施態様では、S183置換は、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、かつ/又は、V133置換は、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、第2の抗体軽鎖は第3の変異を含み、第2の抗体重鎖は第4の変異を含み、第3及び第4の変異は、第2の抗体軽鎖と第2の抗体重鎖との選択的会合を促進する。いくつかの実施態様では、第3の変異はV133でのアミノ酸置換を含み、かつ/又は、第4の変異はS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)。いくつかの実施態様では、S183置換は、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、かつ/又は、V133置換は、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、S183でのアミノ酸置換は、正電荷を帯びた残基(例えば、S183K)をもたらし、V133でのアミノ酸置換は、負電荷を帯びた残基(例えば、V133E)をもたらす。いくつかの実施態様では、S183でのアミノ酸置換は、負電荷を帯びた残基(例えば、S183E)をもたらし、V133でのアミノ酸置換は、正電荷を帯びた残基(例えば、V133K)をもたらす。
【0015】
[0015] いくつかの実施態様では、方法は、例えば、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上、又は4つが、天然又は非修飾の翻訳開始配列に作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含む産生、又は多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれが、同じ翻訳開始配列を含む産生と比較して、真核宿主細胞においてより多くの多量体ポリペプチドを産生する。[0015] いくつかの実施態様では、方法は、例えば、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上、又は4つが、天然又は非修飾の翻訳開始配列に作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含む産生、又は多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれが、同じ翻訳開始配列を含む産生と比較して、真核宿主細胞における誤対合した副産物の数を少なくする。例えば、一過性のトランスフェクタント又は安定したトランスフェクタントを培養し、多量体のポリペプチドの産生を測定することができる。フェドバッチ培養又は灌流培養を行い、細胞培地中又は細胞表面上の産生物の力価を測定することができる。表面発現については、細胞を抗体で染色して、産生物を検出し、例えばフローサイトメトリーにより、分析することができる。産生物の品質及び/又は純度は、例えば電気泳動及び/又は質量分析などを用いて評価することができる。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも遅い速度で翻訳される。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりもゆっくりとかつ/又は効率的でなく折り畳まれる。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットは、第2のサブユニットよりも遅い速度で組み立てられる。いくつかの実施態様では、第1及び/又は第2の翻訳開始配列は、第3及び/又は第4の翻訳開始配列よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、5%から30%、5%から50%、5%から75%、10%から30%、10%から50%、10%から75%、25%から50%、25%から75%、25%から100%、50%から75%、50%から100%、又は75%から100%弱い。いくつかの実施態様では、第1及び/又は第2の翻訳開始配列は、第3及び/又は第4の翻訳開始配列よりも少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、1.3倍から3倍、1.5倍から3倍、2倍から10倍、2倍から5倍、3倍から5倍、3倍から10倍、5倍から10倍、又は7倍から10倍弱い。いくつかの実施態様では、例えば各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニット又は半抗体は、第2のサブユニット又は半抗体の発現レベルよりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、5%から30%、5%から50%、5%から75%、10%から30%、10%から50%、10%から75%、25%から50%、25%から75%、25%から100%、50%から75%、50%から100%、又は75%から100%低いレベルで発現される。いくつかの実施態様では、例えば各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニット又は半抗体は、第2のサブユニット又は半抗体の発現レベルよりも少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、1.3倍から3倍、1.5倍から3倍、2倍から10倍、2倍から5倍、3倍から5倍、3倍から10倍、5倍から10倍、又は7倍から10倍低いレベルで発現される。いくつかの実施態様では、例えば各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニット又は半抗体は、第2のサブユニット又は半抗体の発現レベルよりも0.2倍から0.8倍、0.8倍未満、0.5倍未満、又は0.3倍未満のレベルで発現される。
【0016】
[0016] 本開示の他の態様は、多量体ポリペプチド又は二重特異性抗体の複数の組成物に関し、ここで複数の組成物の各多量体ポリペプチド又は二重特異性抗体は、本明細書に記載の実施態様のいずれか一つの方法によって産生される。
【0017】
[0017] 本開示の他の態様は、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含む非天然の多量体ポリペプチドの発現のための組み換え真核宿主細胞であって、宿主細胞が、第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、かつ各サブユニットが組み換え真核宿主細胞において個別に発現されるとき又はすべてのサブユニットが同じ真核宿主細胞で一緒に発現されるとき、第1のサブユニットが第2のサブユニットよりも低いレベル発現され、かつ第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列の一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列の一方又は両方よりも弱い、組み換え真核宿主細胞に関する。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは二重特異性抗体であり、第1及び第3のポリペプチド鎖は抗体重鎖であり、第2及び第4のポリペプチド鎖は抗体軽鎖であり、第1のサブユニットは、第1の抗原に結合する第1の半抗体であり、第2のサブユニットは、第2の抗原に結合する第2の半抗体である。
【0018】
[0018] 本開示の他の態様は、第1の抗体重鎖及び第1の抗体軽鎖を含む第1の半抗体と、第2の抗体重鎖及び第2の抗体軽鎖を含む第2の半抗体とを含む二重特異性抗体の発現のための組み換え真核宿主細胞であって、(a)第1の抗体重鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、(b)第1の抗体軽鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、(c)第2の抗体重鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、(d)第2の抗体軽鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、ここで、各半抗体が組み換え真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1の半抗体が第2の半抗体よりも低いレベルで発現され、かつ第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方が、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い、組み換え真核宿主細胞に関する。いくつかの実施態様では、第1及び第2の抗体重鎖及び軽鎖は二重特異性抗体を形成し、第1の半抗体は第1の抗原に結合し、かつ第2の半抗体は第2の抗原に結合する。
【0019】
[0019] いくつかの実施態様では、第1の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み、ここで、第2の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変され、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変される。いくつかの実施態様では、第1の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第1の抗体Fc領域を含み、ここで、第2の抗体重鎖は、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む第2の抗体Fc領域を含み、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第2の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にホールを生成するように、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変され、かつCH3/CH3界面内で一又は複数のアミノ酸残基が、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2の抗体Fc領域のCH3ドメインと相互作用する第1の抗体Fc領域のCH3ドメインの表面上にノブを生成するように、第1の抗体Fc領域のCH3ドメインは改変される。いくつかの実施態様では、ノブ変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366Y、T366W、T394W、及びF405Wのうちの少なくとも一つを含む。いくつかの実施態様では、ホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、F405A、Y407T、Y407A、T366S、L368A、Y407V、及びT394Sのうちの少なくとも一つを含む。いくつかの実施態様では、ノブ変異はT366Wを含み、ここで、ホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366S、L368A、及びY407Vのうちの少なくとも一つ、少なくとも二つ、又は三つすべてを含む。いくつかの実施態様では、第1の抗体軽鎖は第1の変異を含み、第1の抗体重鎖は第2の変異を含み、第1及び第2の変異は、第1の抗体軽鎖と第1の抗体重鎖との選択的な会合を促進する。いくつかの実施態様では、第1の変異はV133でのアミノ酸置換を含み、かつ/又は、第2の変異はS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)。いくつかの実施態様では、S183置換は、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、かつ/又は、V133置換は、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、第2の抗体軽鎖は第3の変異を含み、第2の抗体重鎖は第4の変異を含み、第3及び第4の変異は、第2の抗体軽鎖と第2の抗体重鎖との選択的会合を促進する。いくつかの実施態様では、第3の変異はV133でのアミノ酸置換を含み、かつ/又は、第4の変異はS183でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいた番号付け)。いくつかの実施態様では、S183置換は、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択され、かつ/又は、V133置換は、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、S183でのアミノ酸置換は、正電荷を帯びた残基(例えば、S183K)をもたらし、V133でのアミノ酸置換は、負電荷を帯びた残基(例えば、V133E)をもたらす。いくつかの実施態様では、S183でのアミノ酸置換は、負電荷を帯びた残基(例えば、S183E)をもたらし、V133でのアミノ酸置換は、正電荷を帯びた残基(例えば、V133K)をもたらす。いくつかの実施態様では、第1の抗体軽鎖はV133K変異を含み、第1の抗体重鎖はS183E変異を含み、第2の抗体軽鎖はV133E変異を含み、第2の抗体重鎖はS183K変異を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)。いくつかの実施態様では、第1の抗体重鎖は、T366S、L368A、及びY407V変異をさらに含み、第2の抗体重鎖は、T366W変異をさらに含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)。いくつかの実施態様では、第2の抗体軽鎖はV133K変異を含み、第2の抗体重鎖はS183E変異を含み、第1の抗体軽鎖はV133E変異を含み、第1の抗体重鎖はS183K変異を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)。いくつかの実施態様では、第2の抗体重鎖は、T366S、L368A、及びY407V変異をさらに含み、第1の抗体重鎖は、T366W変異をさらに含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)。
【0020】
[0020] 本開示の他の態様は、真核宿主細胞において多量体ポリペプチドを発現するための翻訳開始配列の組み合わせを同定するための方法であって、多量体ポリペプチドが、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含む、方法に関する。いくつかの実施態様では、方法は、複数の真核宿主細胞を含むライブラリを用意することであって、複数のそれぞれの真核宿主細胞が、第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、かつ第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列の複数の組み合わせが複数の真核宿主細胞に表されている、ライブラリを用意することと、複数の真核宿主細胞による多量体ポリペプチドの発現に適した条件下で真核宿主細胞のライブラリを培養することと、複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンによって発現された多量体ポリペプチドの量を測定することと、多量体ポリペプチドを発現する、一又は複数の、複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンの、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列を同定することと、を含む。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドを発現する、一又は複数の、複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンの、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列は、例えば4つの翻訳開始配列の参照又は異なる組み合わせと比較して、多量体ポリペプチド産生量が多いこと及び/又は誤対合した副産物のレベルが低いことに基づいて同定される。いくつかの実施態様では、複数の宿主細胞の各宿主細胞における第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべては、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である。
【0021】
[0021] 本開示の他の態様は、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖を含む第1のサブユニットと、第3のポリペプチド鎖及び第4のポリペプチド鎖を含む第2のサブユニットとを含む多量体ポリペプチドの発現のためのポリヌクレオチドを含むキット又は製造品に関する。いくつかの実施態様では、キット又は製造品は、第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含み、ここで、それぞれのオープンリーディングフレームは天然に存在する宿主細胞ゲノムに存在する場合、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のうちの一又は複数はそのそれぞれのオープンリーディングフレームに作用可能に結合していない。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは二重特異性抗体であり、第1及び第3のポリペプチド鎖は抗体重鎖であり、第2及び第4のポリペプチド鎖は抗体軽鎖であり、第1のサブユニットは、第1の抗原に結合する第1の半抗体であり、第2のサブユニットは、第2の抗原に結合する第2の半抗体である。
【0022】
[0022] いくつかの実施態様では、各サブユニットが個別に産生されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも低いレベルで産生される。いくつかの実施態様では、すべてのサブユニットが同じ宿主細胞によって産生されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも低いレベルで産生される。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットは、第2のサブユニットよりもより誤対合した副産物と組み合わさる。いくつかの実施態様では、すべてのサブユニットが同じ真核宿主細胞において一緒に発現されるとき、第1のサブユニットは、第2のサブユニットよりもより誤対合した副産物と組み合わさる。
【0023】
[0023] 本明細書に記載される実施態様のいずれかのいくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべては、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列の一方又は両方は、配列番号8-10からなる群より選択される配列を含む。いくつかの実施態様では、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列の一方又は両方は、配列ACCATGG(配列番号3)又はGAAGTATGA(配列番号11)を含む。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は、配列番号8-10からなる群より選択される配列を含み、第2の翻訳開始配列は、配列番号8-10からなる群より選択される配列を含み、第3の翻訳開始配列は配列番号2の配列を含み、第4の翻訳開始配列は配列番号11の配列を含む。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は配列番号9の配列を含み、第2の翻訳開始配列は配列番号9の配列を含み、第3の翻訳開始配列は配列番号2の配列を含み、第4の翻訳開始配列は配列番号11の配列を含む。いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドのそれぞれは、プロモーターに作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、第1及び第2のポリヌクレオチドは同じプロモーターに作用可能に結合しており、第3及び第4のポリヌクレオチドは同じプロモーターに作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第3の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第2の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第2の翻訳開始配列は第3の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第2の翻訳開始配列と同じである。いくつかの実施態様では、第3の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列と同じである。本明細書に記載される実施態様のいずれかのいくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは、一又は複数の標的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは多重特異性抗原結合タンパク質である。
【0024】
[0024] 本明細書では、配列番号8-11からなる群より選択される翻訳開始配列に作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドも提供される。本明細書では、第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した配列番号8-10からなる群より選択される配列を含む第1の翻訳開始配列と、第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した配列番号8-10からなる群より選択される配列を含む第2の翻訳開始配列と、第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した配列番号2の配列を含む第3の翻訳開始配列と、第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した配列番号11の配列を含む第4の翻訳開始配列とを含む
ポリヌクレオチドのセットもさらに提供される。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は配列番号9の配列を含み、第2の翻訳開始配列は配列番号9の配列を含み、第3の翻訳開始配列は配列番号2の配列を含み、第4の翻訳開始配列は配列番号11の配列を含む。本明細書では、本明細書に記載される実施態様のいずれかによるポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドのセットを含む宿主細胞もまたさらに提供される。
【0025】
[0025] 本明細書に記載される実施態様のいずれかのいくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドは、真核宿主細胞の一又は複数の染色体に組み込まれる。いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドは、真核宿主細胞の同じ染色体座に組み込まれる。いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドは、真核宿主細胞中の一又は複数の染色体外ポリヌクレオチドの一部である。いくつかの実施態様では、真核宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞である。いくつかの実施態様では、哺乳動物宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0026】
[0026] 本明細書に記載の様々な実施態様の特性のうちの1つ、いくつか、又はすべてを組み合わせて、本発明の他の実施態様を形成することができることを理解されたい。本発明のこれら及び他の態様は、当業者に明らかであろう。本発明のこれら及び他の実施態様は、以下の発明を実施するための形態によってさらに説明される。
【0027】
[0027] 特許又は出願ファイルには、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれている。カラー図面(複数可)を含む本特許又は特許出願公開のコピーは、申請に応じて、必要な手数料を支払うことにより、米国特許庁から提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】[0028] 一過性トランスフェクションによって設計及び分析されたKozak(Kz)配列バリアントの名称及びヌクレオチド配列を示す。開始コドンは、グレーであり、下線が引かれている。示されている配列は、配列番号3-7(上から下)に対応する。
【
図2】[0029] Fc融合タンパク質A及びBの正規化された力価を、一過性トランスフェクションとそれに続く均一時間分解蛍光(HTRF)によって試験された異なるコザック配列バリアントで示す。データは平均値として示され、エラーバーは4つの独立したトランスフェクションの標準偏差(SD)を表す。コザックコンセンサス配列の変化は、Fc融合タンパク質の力価を調節した。
【
図3】[0030] コザックライブラリの設計、そのライブラリでの大腸菌細胞の形質転換、バリアントのヌクレオチド配列を決定するための配列決定、一過性トランスフェクションによるバリアントのスクリーニング、範囲内での分類及びバリアントの絞り込み、そして発現の範囲全体をカバーするバリアントの選択のためのプロセスを説明する。
【
図4】[0031] 上の行に野生型(WT)コザック配列を示す。下の行では、設計されたコザックライブラリが示されている。Nは、A、T、G、又はCのいずれかである。開始コドンは、グレーであり、下線が引かれている。開始コドンから-3及び+4の位置が示されている。示されている配列は、それぞれ、配列番号23及び1(上から下)に対応する。
【
図5】[0032] CHO細胞中に一過性トランスフェクトされた111のコザック配列バリアントの正規化された抗体力価を示す。データは平均値として示され、エラーバーは2つの独立したトランスフェクションの標準偏差(SD)を表す。0.05から1.54単位の正規化された力価のほぼ連続的な範囲の翻訳が観察された(1.0はWtコザック配列を使用して産生された力価に相当する)。
【
図6】[0033] コザックライブラリの108のコロニーのヌクレオチド分布を示す。各位置の各ヌクレオチドのパーセンテージが示されている。分析されたバリアントのヌクレオチド分布はランダムであり、位置ごとに多様であり、これはライブラリスクリーニングが歪曲されていないことを示した。
【
図7】[0034] コザックバリアントの数を減少させるために行われた、CHO細胞における一過性トランスフェクションによるスクリーニングプロセスを示す。バリアントをラウンドツーラウンドで選択するための基準は、一過性トランスフェクション間の再現性、DNA調製物間の安定性、及びヌクレオチド多様性の保存であった。
【
図8A-8B】[0035] コザック配列バリアントの最終パネルの正規化された力価及び配列を示す。
図8Aは、CHO細胞中に一過性トランスフェクトされた、示されたコザック配列バリアントの正規化された抗体力価を示す。データは平均値として示され、エラーバーは11の独立したトランスフェクションの標準偏差を表す。11のコザック配列バリアントは、Wtコザックの0.2から1.3倍の発現範囲を示し、これは、高精度で力価の調節を可能にする。星印は、一過性のトランスフェクションで観察された幅広い発現レベルをカバーしていたためWtコザックを含む5つのバリアントの代表的なパネルとして選択されたコザック配列バリアントを示す。
図8Bは、コザック配列バリアントの最終パネルの配列を示す。Wtコンセンサスコザック配列は、ボックスで囲まれている。
【
図9】[0036] 軽鎖の比(LC1:LC2)を操作することによって、高割合の正しく組み立てられたBsAbが得られることを示す。例えば、LC1:LC2比を1:2.5から1.5:1に修正することにより、正しく対合された軽鎖が40%増加する。
【
図10】[0037] Wtコザックに対する(1×)列記されたコザックバリアントの翻訳強度を示す。挙げられたコザックバリアントの配列を右に示す。一過性のトランスフェクションで観察された幅広い発現レベルをカバーしていたため、これらのコザック配列バリアントはWtコザックを含む5つのバリアントの代表的なパネルとして選択された。配列は、配列番号8、9、10、2、及び11(上から下)に対応する。
【
図11】[0038] Ab1/Ab2 BsAbの各群の25の組み込み発現ベクターを発生させるのに使用されるコザックバリアントの組み合わせを示す。50のプラスミドの混合物をCHO細胞中にトランスフェクトした。このアプローチで生成された多様性は、潜在的な625の異なる鎖比の組み合わせに達した。Ab1についての組み合わせのみが示されているが、Ab2群のベクターの生成に同じ組み合わせが使用された。
【
図12】[0039] 示されているコザック混合プールのトランスフェクション効率及びトランスフェクション数を示す。アロフィコシアニン(APC)標識抗hu IgG 抗体での細胞表面染色分析を実施すること及びフローサイトメトリーによって抗体-APC発現を測定することにより、トランスフェクション効率をモニタリングする。空の宿主を使用して、Ab発現陰性細胞及びGFP陽性細胞のゲートを設定した。X軸はGFP発現を示し、Y軸はAPC-抗体発現を示す。同様のトランスフェクション効率が、コザック混合プールとWtコザックプールの両方について観察された。
【
図13A-13B】[0040] 安定なプール回収の時間経過を示す。条件ごとに2つのプールが示されている。安定なプールを確立するための選択薬物の追加を矢印で示す。Y軸は生存率を示し、X軸は選択薬物の追加後の日数を示す。
【
図14A-14B】[0041] 各トランスフェクション及び条件から選択され、単一細胞クローニングを施された、コザック混合クローン又はWtコザッククローンの704の個別のクローンの絶対的力価を示す。HTRFによって力価を測定した。示されているようにトランスフェクション数に基づいてペアで示す。
【
図15A-15B】[0042] コザック混合クローン及びWt-コザッククローンの14日間の振盪フラスコフェッドバッチ産生の生存率を示す。X軸は日数を示し、Y軸は生存率を示す。トランスフェクション数が示されている。調査したすべてのクローンは、産生アッセイ全体で同等の生存率を示した。14日目の最終生存率は、74%の生存率の結果となった1つのコザック混合クローンを除き、両条件でおよそ80-95%であった。
【
図16A-16B】[0043] コザック混合クローン及びWt-コザッククローンの14日間の振盪フラスコフェッドバッチ産生の生細胞数を示す。X軸は日数を示し、Y軸は1ミリリットル/10
6あたりの生細胞を示す。トランスフェクション数が示されている。指数関数的成長率が7日目まで観察され、続いて、すべての個別のクローンについてプラトー期が達成された。
【
図17】[0044] 各トランスフェクションの上位11のコザック混合クローン及びWtコザッククローンの一般的な絶対的力価を示す。振盪フラスコフェッドバッチ産生の14日目に力価を測定した。個別のWtコザッククローンは、両トランスフェクションにおいて個別のコザック混合クローンよりも高い一般的な絶対的抗体力価を示した。力価は、正しく組み立てられた二重特異性抗体並びに半抗体及び他の望ましくない副産物を表したことに留意されたい。
【
図18】[0045] 各トランスフェクションの上位11のコザック混合及びWtコザックの組み立てられた抗体の品質を評価する。非還元キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)によってサンプルを分析して、2つの抗体フォーマット:正しく組み立てられたBsAbと正しく組み立てられていないBsAbのフォーマットの完全抗体(full-ab)と同等視されたメインピークと、異なる分子量の他の種を表すプレピークの合計とを区別及び定量化した。トランスフェクション数が示されている。上位22のクローン内では、Wtコザッククローンよりも、完全ab形成の割合が高いコザック混合クローンは少なかった。
【
図19A-19B】[0046] 中程度(Mで表す)のHCCF力価のコザック混合クローン及び低い(Lで表す)HCCF力価のコザック混合クローンの品質及び組み立て効率を示す。
図19Aは、14日目に振盪フラスコフェッドバッチ産生アッセイによって測定された、3つの中程度のコザック混合クローン及び4つの低いコザック混合クローンの一般的な絶対的力価を示す。これらのクローンの産生力価は、一次スクリーニングにおいて以前観察されたのと同様の挙動を示した。
図19Bは、中程度のコザック混合クローン及び低いコザック混合クローンの組み立てられた抗体の品質を評価する。非還元CE-SDSによってサンプルを分析して、誤対合した副産物と正しく組み立てられたBsAbの形態の完全抗体(full-ab)と同等視されたメインピークと、異なる分子量の他の種を表すプレピークの合計とを区別及び定量化した。一般的な力価と完全抗体の最高含有量との間に直接的な相関関係はなかった。例えば、上位11のクローンと比較してより穏やかな力価を有する一部のコザック混合クローンは、約50-60%の完全abの同様の割合を示した。
【
図20A-20B】[0047] 示されているWtコザック及びコザック混合クローンの品質及び効果定なBsAb力価を示す。
図20Aは、8つのコザック混合クローン及び8つのWtコザッククローンの質量分光光度法によって検出された種を定量化する。各種の構造が凡例に示されている。正しく組み立てられたBsAbは、白色でハイライトされている。最良の個別のコザック混合クローンは、正しく組み立てられたBsAbの約40%を示した。これは最良の個別のWtコザッククローン(約18%)の2倍超である。
図20Bは、二重特異性抗体及びさまざまな誤対合した副産物及び半抗体種の推定力価を示す。推定力価は、一般的な力価を乗じた各フォーマットの割合として計算された。二重特異性の効果的な力価は、白色でハイライトされている。一部のコザック混合クローンはWtコザッククローンよりもBsAbのアセンブリが高いという事実により、一部のコザック混合クローンは、
図17で先に示されている一般的な力価の不足を打開する。
【
図21A-21C】[0048] 示されているコザック混合クローンのコザック配列バリアント組み合わせ及び翻訳強度を示す。
図21Aは、コザック混合クローンのコザック配列バリアント組み合わせを示す。グレーでハイライトされているのは、得ることができなかった配列決定データである。各コザック配列バリアントの名称及び翻訳強度を右に示す。
図21Bは、最良の抗体産生コザック混合クローンのコザック配列バリアント組み合わせを示す。コザック混合クローンの名称及びトランスフェクション数が示されている。グレーでハイライトされているのは、得ることができなかった配列決定データである。
図21Cは、3つの中程度のコザック混合クローン(Mで表す)及び4つの低いコザック混合クローン(Lで表す)のコザック配列バリアント組み合わせを左に示す。各コザック配列バリアントの名称及び翻訳強度を右に示す。グレーでハイライトされているのは、得ることができなかった配列決定データである。
【
図22A】[0049] Wtコザッククローン50並びにコザック混合クローン69及び17Mの質量分析による、二重特異性抗体、誤対合した副産物、及び半抗体種の定量化を示す。正しく組み立てられた二重特異性抗体は、白色でハイライトされている。
【
図22B】[0050] 一般的な力価を乗じた各種の割合として計算された、二重特異性抗体、誤対合した副産物、半抗体種の効果的な力価を右に示す。正しく組み立てられた二重特異性抗体は、白色でハイライトされている。
【
図22C】[0051] クローン17Mの産生パフォーマンスを上に示す。このクローンのCE-SDSデータは、産生物品質が、完全abの約48%及び半abの約52%であることを示す。質量分析データは、約48%の完全abのうち、そのすべてが正しく組み立てられた二重特異性抗体を表すことを示した。一方、半ab種のほぼすべてはノブ 1/2 Ab2であった。これは、Ab2の重鎖及び軽鎖は、それぞれ、Wtコザック配列及び最強のコザック配列バリアント#228の下にあったという事実と一致している。各コザック配列バリアントの名称及び翻訳強度を下に示す。クローン17Mは、弱いコザック配列バリアント下でAb1の重鎖及び軽鎖の両方を保有した。
【
図22D】[0052] 示されている中程度及び低いコザック混合クローンの質量分光光度法により、二重特異性抗体、誤対合した副産物、及び半抗体フォーマットを定量化する。コザック混合クローン17を除き、BsAbアセンブリの割合は10%未満であった。各種の絶対的存在数は、各鎖の発現強度と相関した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
I.定義
[0053] 本開示を詳細に説明する前に、本開示は、特定の組成物又は生体系に限定されず、言うまでもなく多様であり得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語が特定の実施態様を説明することのみを目的としており、限定するようには意図されていないことも理解されたい。
【0030】
[0054] 本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「分子」への言及は、2つ以上のかかる分子の組み合わせを任意に含むといった具合である。
【0031】
[0055] 本明細書で使用される「約」という用語は、当業者であれば容易に理解するそれぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」値又はパラメータへの言及は、その値又はパラメータ自体を対象とする実施態様を含む(かつ説明する)。
【0032】
[0056] 本明細書に記載される本開示の態様及び実施態様は、態様及び実施態様を「含む」、態様及び実施態様「からなる」、及び態様及び実施態様「から本質的になる」を含むことを理解されたい。
【0033】
[0057] 「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、本明細書において、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すように交換可能に使用される。ポリマーは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されていてもよい。これらの用語は、自然に、又は介入、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は任意の他の操作若しくは修飾、例えば、標識成分若しくは毒素とのコンジュゲーションにより修飾された、アミノ酸ポリマーも包含する。例えば、アミノ酸(例えば、非天然アミノ酸等を含む)の一又は複数の類似体を含有するポリペプチド、及び当該技術分野で既知の他の修飾もまたこの定義に含まれる。本明細書で使用される「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、抗体及び抗原結合タンパク質を具体的に包含する。
【0034】
[0058] 本明細書で使用される「多量体」ポリペプチド又はタンパク質は、1を超えるポリペプチド又はタンパク質モノマー(例えばポリペプチド鎖)を含む任意の複合体を指す場合がある。例えば、多量体ポリペプチド又はタンパク質は、二つ以上のサブユニットを含む複合体を指すことがあり、各サブユニットは、1、2、又はそれ以上の異なるポリペプチド鎖を含む。「多量体」ポリペプチド又はタンパク質という用語は、抗体及び抗原結合タンパク質を具体的に包含する。特定の実施態様では、多量体ポリペプチドは、二重特異性抗体である。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、第1の重鎖、第1の軽鎖、第2の重鎖、及び第2の軽鎖を含む。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、IgG1、IgG2、又はIgG4アイソタイプである。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、IgG1又はIgG4アイソタイプである。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、IgG1アイソタイプである。
【0035】
[0059] 多量体ポリペプチド又はタンパク質の成分を参照して使用されるとき、本明細書で使用される「サブユニット」という用語は、1を超える異なるポリペプチド鎖を含有する任意のポリペプチドを指すことが意図される。いくつかの実施態様では、サブユニットは、一又は複数のジスルフィド結合を含むが、これに限定されない、一又は複数の分子間結合を介して共に結合する2つ以上のポリペプチドの高分子複合体を含み得る。特定の実施態様では、サブユニットは免疫グロブリン重鎖及び軽鎖を含む。特定の実施態様では、サブユニットは半抗体を含む。特定の実施態様では、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖又は半抗体は、IgG1、IgG2、又はIgG4アイソタイプである。特定の実施態様では、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖又は半抗体は、IgG1又はIgG4アイソタイプである。特定の実施態様では、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖又は半抗体は、IgG1アイソタイプである。
【0036】
[0060] 本明細書で使用される「誤対合した副産物」は、望ましくない配置での多量体ポリペプチドの一又は複数のポリペプチド鎖の構成要素のアセンブリを指す。例えば、多量体ポリペプチドがサブユニット軽鎖B/重鎖Bと会合したサブユニット軽鎖 A/重鎖Aを含む二重特異性抗体である場合、誤対合した副産物は、重鎖A二量体、重鎖B二量体の産生中の誤対合、及び/又は、軽鎖A/重鎖A及び軽鎖B/重鎖Bサブユニットのうちの一又は複数の誤対合から生じることがあり、正しく組み立てられた二重特異性抗体以外の任意の産生物を含むことがある。誤対合した副産物の具体例は、
図20A、20B、及び22A-22Dを参照して記載されており、それらの図面で説明されている。また、Differential Scanning Fluorometry、MSなどのタンパク質の折り畳みを評価するための他の方法、又はin silicoツールを用いて生産結果を予測するための方法も使用され得る。
【0037】
[0061] 本明細書で使用される「翻訳開始配列」という用語は、開始コドンと、オープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドの隣接塩基とを含む、ポリヌクレオチド配列を指す。翻訳走査モデルによれば、リボソーム開始前複合体は、ポリヌクレオチドの5’末端に結合し、停止コドンを探して3’方向に直線的に進む。翻訳開始配列は、翻訳開始の走査モデルを詳述するMarilyn Kozakの研究に基づく「コザック」配列(例えば、Kozak M. Nucleic Acids Res. 1981;9(20):5233-52;Kozak M. Nucleic Acids Res. 1987;15(20):8125-48;Kozak M. EMBO J. 1997;16(9):2482-92;Kozak M. J Mol Biol. 1987;196(4):947-50;Hamilton R, Watanabe CK, de Boer HA. Nucleic Acids Res. 1987;15(8):3581-93;Cavener DR. Nucleic Acids Res. 1987;15(4):1353-61;Kozak M. Nucleic Acids Res. 1984;12(2):857-72;Gupta P, Rangan L, Ramesh TV, Gupta M. J Theor Biol. 2016;404:303-11;Grzegorski SJ, Chiari EF, Robbins A, Kish PE, Kahana A. PLoS One. 2014;9(9):e108475;及びKozak M. Cell. 1986;44(2):283-92を参照)、及び本明細書に記載されるバリアントなコザック配列を含み得る。
【0038】
一又は複数の遺伝要素(例えば、ポリペプチド、プロモーター、翻訳単位、又はそれらの組み合わせをコードする)に関して本明細書で使用される「天然」及び「非天然」という用語は、自然界で発生する宿主細胞染色体中の遺伝要素のゲノム状況を指すことを意図している。例えば、ポリペプチド(例えば多量体ポリペプチド)は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノム中に天然に存在するとき、宿主細胞又は宿主細胞染色体に関して「天然」であり、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノム中に天然に存在しないとき、「非天然」である。翻訳開始配列又はオープンリーディングフレームは、翻訳開始配列又はオープンリーディングフレームが宿主細胞のゲノム中に天然に存在するとき、宿主細胞又は宿主細胞染色体に関して「天然」であり、翻訳開始配列又はオープンリーディングフレームが宿主細胞のゲノム中に天然に存在しないとき、「非天然」である。翻訳開始配列とオープンリーディングフレームの作用可能な組み合わせは、翻訳開始配列が宿主細胞のゲノム中にオープンリーディングフレームと同じ作用可能な結合で天然に存在しないとき、又はその逆であるとき、「非天然」である。例えば、翻訳開始配列:オープンリーディングフレームの組み合わせは、翻訳開始配列及びオープンリーディングフレームの一方又は両方が、宿主細胞ゲノム中に天然に存在しないとき、翻訳開始配列が、(たとえ、同じ翻訳開始配列が、宿主細胞ゲノム中のどこか他の場所に天然に存在する場合であっても)天然に存在する宿主細胞ゲノムにおいて作用可能に組み合わされていないオープンリーディングフレームと、作用可能に結合して宿主細胞ゲノム中に存在するとき、又はオープンリーディングフレームが、(たとえ、同じオープンリーディングフレーム配列が、宿主細胞ゲノム中のどこか他の場所に天然に存在する場合であっても)天然に存在する宿主細胞ゲノム中に作用可能に組み合わされていない翻訳開始配列と作用可能に結合して宿主細胞ゲノム中に存在するときに、宿主細胞又は宿主細胞染色体に関して「非天然」である。
【0039】
[0063] 本明細書で使用される「ベクター」という用語は、結合している別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を指すように意図される。ベクターの1つの種類は「プラスミド」であり、これは環状二本鎖DNAループを指し、これに追加のDNAセグメントがライゲーションされ得る。別の種類のベクターは、ファージベクターである。別の種類のベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲーションされ得る。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞中で自己複製することができる(例えば、複製起点を有するベクター及びエピソーム性哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ得、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが作用可能に結合する遺伝子の発現を誘導することができる。かかるベクターは、本明細書において「組み換え発現ベクター」(又は単純に「組み換えベクター」)と称される。一般に、組み換えDNA技法における利用される発現ベクターは、プラスミドの形態である場合が多い。本明細書では、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるため、同義に使用され得る。
【0040】
「作用可能に結合した」は、2つ以上の構成要素の並立を指し、そのように説明される構成要素は、それらがその意図される様式で機能することを可能する関係にある。一般的に、「作用可能に結合する」DNA配列は、必ずしも隣接しているわけではないが、2つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合、又は分泌リーダーの場合には、隣接し、かつリーディングフレーム内にある。しかしながら、作用可能に結合したプロモーターは、概して、コード配列又は翻訳単位の上流に位置するが、必ずしもそれと隣接していない。作用可能に結合されたエンハンサーは、プロモーターから相当な距離を置いて、コード配列/翻訳単位の上流、その中、又はその下流に位置し得る。結合は、当該技術分野で既知の組み換え方法によって、例えば、PCR法を使用して、アニールによって、又は都合の良い制限部位でのライゲーションによって、達成される。都合の良い制限部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが、慣行に従って使用される。
【0041】
[0065] 「プロモーター」は、遺伝子又はそれが作用可能に結合している配列の転写を制御するポリヌクレオチド配列を指す。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合及び転写の開始のためのシグナルを含む。使用されるプロモーターは、選択された配列の発現が企図される細胞型の宿主細胞において機能的となる。構成型プロモーター、誘導型プロモーター、抑制型プロモーターを含む数多くのプロモーターが当該技術分野で知られている(また、GenBankなどのデータベースで同定されている)。
【0042】
[0066] 「宿主細胞」(又は「組み換え宿主細胞」)という用語は、本明細書で使用される場合、遺伝的に改変されているか、又は組み換えプラスミド若しくはベクターなどの外因性若しくは非天然ポリヌクレオチドの導入よって遺伝的に改変されることができる細胞を指すように意図される。かかる用語は、特定の対象細胞だけでなく、かかる細胞の子孫も指すように意図されることを理解されたい。突然変異又は環境的影響のいずれかに起因して、後続の世代においてある特定の修飾が起こる場合があるため、かかる子孫は、実際には、親細胞と同一でない場合があるが、本明細書で使用される用語「宿主細胞」の範囲内に依然として含まれる。
【0043】
[0067] 本明細書の「抗原」という用語は、最も広義に使用され、限定されないが、低分子ペプチド抗原、完全長タンパク質抗原、炭水化物抗原、脂質抗原、及び核酸抗原を含む、ポリペプチド抗原と非ポリペプチド抗原の両方のさまざまな形態を包含する。
【0044】
[0068] 本明細書の「抗体」という用語は、最も広義に使用され、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、本明細書で抗体と交換可能に使用される。
【0045】
[0069] 「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定及び分離され、かつ/又は回収された抗体である。その自然環境の夾雑物成分は、抗体の試験的、診断的、又は治療的使用を妨害するであろう物質であり、それらとしては、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質が挙げられる。いくつかの実施態様では、抗体は、(1)例えば、ローリー法によって決定される、95重量%超、いくつかの実施態様では、99重量%超になるまで、(2)例えば、スピニング・カップ・シークエネーターを使用して、N末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、又は(3)例えば、クマシーブルー又は銀染色を使用して、還元又は非還元条件下でSDS-PAGEによって均質性が得られるまで精製される。単離された抗体は、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組み換え細胞内のin situ抗体を含む。しかしながら、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0046】
[0070] 「定常ドメイン」という用語は、抗原結合部位を含有する可変ドメインである免疫グロブリンの他の部分と比較して、より保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の部分を指す。定常ドメインは、重鎖CH1、CH2及びCH3(集合的に、CH)ドメイン、並びに軽鎖CHL(又はCL)ドメインを含有する。
【0047】
[0071] 抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖の可変ドメインは、「VH」と称され得る。軽鎖の可変ドメインは、「VL」と称され得る。これらのドメインは、一般に、抗体の最も可変性の高い部分であり、抗原結合部位を含む。
【0048】
[0072] 「可変」という用語は、可変ドメインのある特定の部分の配列が抗体間で広く異なり、かつ各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合及び特異性において使用されるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均等に分布していない。これは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方における超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、ベータ-シート構造を接続し、かついくつかの場合では、ベータ-シート構造の一部を形成するループを形成する3つのHVRによって接続されたベータシート立体配置を大いに採用する4つのFR領域を含む。各鎖内のHVRは、FR領域によって近接して互いに保持され、他方の鎖からのHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md.(1991)を参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与していないが、抗体の抗体依存性細胞毒性への関与等の様々なエフェクター機能を呈する。
【0049】
[0073] 任意の哺乳動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(「κ」)及びラムダ(「λ」)と呼ばれる2つの明らかに異なるタイプのうちの一方に割り当てられ得る。
【0050】
[0074] 本明細書で使用されるIgG「アイソタイプ」又は「サブクラス」という用語は、それらの定常領域の化学的及び抗原的特性によって定義される免疫グロブリンのサブクラスのうちのいずれかを意味する。
【0051】
[0075] それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)は、異なるクラスに割り当てられ得る。免疫グロブリンには5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、γ、ε、γ、及びμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元構成が周知であり、例えば、Abbasら、Cellular and Mol.Immunology、第4版(W.B.Saunders,Co.、2000)に一般的に記載されている。抗体は、抗体と一又は複数の他のタンパク質又はペプチドとの共有又は非共有会合によって形成されるより大きい融合分子の一部であり得る。
【0052】
[0076] 「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、以下に記載の抗体断片ではない、その実質的にインタクトな形態の抗体を指すために本明細書で同義に使用される。これらの用語は、具体的には、Fc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0053】
[0077] 「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。いくつかの実施態様では、本明細書に記載の抗体断片は、抗原結合断片である。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、並びに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0054】
[0078] 抗体のパパイン消化により、各々単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と、容易に結晶化するその能力を反映して命名された残りの「Fc」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片が産生される。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、かつ依然として抗原を架橋することができるF(ab’)2断片がもたらされる。
【0055】
[0079] 「Fv」とは、完全な抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。一実施態様では、二本鎖Fv種は、密接に非共有会合した1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種において、1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインは、軽鎖及び重鎖が二本鎖Fv種における構造に類似の「二量体」構造で会合し得るように、可動性ペプチドリンカーによって共有結合し得る。各可変ドメインの3つのHVRが相互作用してVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を定義するのは、この立体配置においてである。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、全結合部位よりも低い親和性であるが、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的なHVRを3つしか含まないFvの半分)でさえも、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0056】
[0080] Fab断片は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含有し、軽鎖定常ドメイン及び第1の重鎖定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の一又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基が付加されているという点でFab断片とは異なる。Fab’-SHとは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を持つFab’の本明細書における名称である。F(ab’)2抗体断片は、元来、間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として産生された。抗体断片の他の化学的カップリングも既知である。
【0057】
[0081] 「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、scFvが抗原結合に望ましい構造を形成することが可能になる。scFvに関するレビューについては、例えば、PluckthunのThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、Rosenburg及びMoore編、(Springer-Verlag、New York、1994)、269~315頁を参照されたい。
【0058】
[0082] 「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片を指し、これらの断片は、同じポリペプチド鎖内の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続した重鎖可変ドメイン(VH)(VH-VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、これらのドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合させられ、2つの抗原結合部位を作製する。ダイアボディは、二価又は二重特異性であり得る。ダイアボディは、例えば、EP404,097、WO1993/01161、Hudsonら、Nat.Med.9:129~134(2003)、及びHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444~6448(1993)において、より完全に記載されている。トリアボディ及びテトラボディはまた、Hudsonら、Nat.Med.9:129~134(2003)においても記載されている。
【0059】
[0083] 本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば、その集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る可能な変異、例えば、天然に存在する変異を除いて同一である。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。特定の実施態様では、このようなモノクローナル抗体は、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、該標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列の選択を含むプロセスによって得られたものである。例えば、この選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、又は組み換えDNAクローンのプール等の複数のクローンからの特有のクローンの選択であり得る。選択された標的結合配列が、例えば、標的への親和性を改善し、標的結合配列をヒト化し、細胞培養物におけるその産生を改善し、in vivoでのその免疫原性を低減し、多重特異性抗体を作製するなどのために、さらに改変されてもよく、改変された標的結合配列を含む抗体もまた、本開示のモノクローナル抗体でもあることを理解されたい。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基に対して指向する。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンによる混入がないという点で有利である。
【0060】
[0084] 「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の作製を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本開示に従って使用されるモノクローナル抗体は、例えば、原核宿主細胞における発現、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495-97(1975);Hongo et al., Hybridoma, 14(3):253-260(1995), Harlow et al., Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling et al., in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier, N.Y., 1981))、組み換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)、ファージディスプレイ技法(例えば、Clackson et al., Nature, 352:624-628(1991);Marks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597(1992);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2):299-310(2004);Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5):1073-1093(2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472(2004);及びLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2):119-132(2004)を参照)、及びヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座又は遺伝子の一部又は全てを有する動物においてヒト又はヒト様抗体を産生するための技法(例えば、国際公開第1998/24893号;同第1996/34096号;同第1996/33735号;同第1991/10741号;Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551(1993);Jakobovits et al., Nature 362:255-258(1993);Bruggemann et al., Year in Immunol. 7:33(1993);米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;及び同第5,661,016号;Marks et al., Bio/Technology 10:779-783(1992);Lonberg et al., Nature 368:856-859(1994);Morrison, Nature 368:812-813(1994);Fishwild et al., Nature Biotechnol. 14:845-851(1996);Neuberger, Nature Biotechnol. 14:826(1996);並びにLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93(1995)を参照)を含む多数の技法によって作製され得る。
【0061】
本明細書で使用されるとき、「超可変領域」、「HVR」、又は「HV」という用語は、配列が超可変性であり、かつ/又は構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は、6つのHVRを含み、3つがVH(H1、H2、H3)にあり、3つがVL(L1、L2、L3)にある。天然抗体では、H3及びL3が、6つのHVRのうちで最も高い多様性を示し、特にH3が抗体に優れた特異性を与える上で特有の役割を果たすと考えられている。例えば、Xu et al., Immunity 13:37-45(2000);Johnson and Wu, in Methods in Molecular Biology 248:1-25(Lo, ed., Human Press, Totowa, N.J., 2003)を参照されたい。実際に、重鎖のみからなる、天然に存在するラクダ抗体は、軽鎖の非存在下で機能的であり、安定している。例えば、Hamers-Castermanら、Nature363:446~448(1993)、Sheriffら、Nature Struct.Biol.3:733~736(1996)を参照されたい。
【0062】
[0086] いくつかのHVR描写が本明細書で使用され、本明細書に包含されている。Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列可変性に基づくものであり、最も一般的に使用されている(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991))。代わりに、Chothiaは、構造的ループの位置を指す(Chothia及びLesk J.Mol.Biol.196:901~917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造的ループとの間の妥協案を示し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用される。「接触」HVRは、利用可能な複合体結晶構造の解析に基づく。これらHVRの各々に由来する残基が、以下に示される。
【0063】
【0064】
[0087] HVRは、以下の「伸長HVR」を含み得る:VLにおいて、24~36又は24~34(L1)、46~56又は50~56(L2)、及び89~97又は89~96(L3)、並びにVHにおいて、26~35(H1)、50~65又は49~65(H2)、及び93~102、94~102、又は95~102(H3)。可変ドメイン残基は、これらの定義の各々について、Kabatら(上記参照)に従って番号付けされる。
【0065】
[0088] 「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書で定義されるHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0066】
[0089] 「Kabatにおけるような可変ドメイン残基番号付け」又は「Kabatにおけるようなアミノ酸位置番号付け」という用語、及びそれらの変形は、Kabatら(上記参照)における抗体の編集物の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを使用して、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR若しくはHVRの短縮、又はそれへの挿入に対応する、より少ないアミノ酸又は追加のアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入(Kabatに従う残基52a)を含み、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatに従う残基82a、82b、及び82c等)を含み得る。残基のKabat番号付けは、所与の抗体に対して、抗体の配列と「標準の」Kabatによって番号付けされた配列との相同領域での整列によって決定され得る。
【0067】
[0090] Kabat番号付けシステムは一般に、可変ドメイン(およそ軽鎖の残基1~107及び重鎖の残基1~113)内の残基に言及するときに使用される(例えば、Kabat et al., Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991))。「EU番号付けシステム」又は「EUインデックス」は、一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域における残基について言及するときに使用される(例えば、Kabatら(上記参照)で報告されるEUインデックス)。
【0068】
[0091] 「直鎖状抗体」という表現は、Zapataら(1995Protein Eng、8(10):1057~1062)に記載されている抗体を指す。簡潔には、これらの抗体は、相補的軽鎖ポリペプチドと一緒になって一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。直鎖状抗体は、二重特異性又は単一特異性であり得る。
【0069】
II.多量体ポリペプチドの産生及びスクリーニングの方法
[0092] 本明細書では、真核宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)において多量体ポリペプチドを産生する方法が提供される。いくつかの実施態様では、方法は、多量体ポリペプチドの第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、多量体ポリペプチドの第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、多量体ポリペプチドの第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、多量体ポリペプチドの第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含む真核宿主細胞を用意することと、第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖の発現に適した条件下で真核宿主細胞を培養することであって、第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖が多量体ポリペプチドを形成する、真核宿主細胞を培養することと、真核宿主細胞によって産生された多量体ポリペプチドを回収することとを含む。
【0070】
[0093] いくつかの実施態様では、各ポリペプチド鎖が真核宿主細胞において個別に産生されるとき、第1のサブユニットは第2のサブユニットよりも低いレベルで産生され、又は両方のポリペプチド鎖が同じ真核宿主細胞によって一緒に産生されるとき、第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列の一方又は両方は、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列の一方又は両方よりも弱い。いくつかの実施態様では、各サブユニットは、抗体重鎖及び抗体軽鎖を含む半抗体を含み、多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。
【0071】
[0094] 本明細書に記載される産生方法は、少なくとも部分的には、異なる翻訳開始配列を使用する翻訳強度の調整により、多量体ポリペプチド(例えば、二重特異性抗体)アセンブリを改善することができ、誤対合した副産物などの産生物関連不純物を減少させることができるという本明細書中の実証に基づく。驚くべきことに、選択されたポリペプチド鎖の翻訳の減少は、多量体ポリペプチドの他のポリペプチド鎖の翻訳レベルと比べて、多量体ポリペプチドアセンブリを効率的に増加させることができ、誤対合した副産物の蓄積を制限することによって全体的な産生物品質を改善できることがわかった。理論に縛られることを望むことなく、最強の翻訳開始配列の下でのいくつかのポリペプチド鎖の産生は、実際には、より正確に組み立てられた多量体ポリペプチドの代わりに、その鎖を含むより誤対合した副産物の生成を促したと考えられる。したがって、二重特異性抗体などの多量体ポリペプチドの組立を減速させ得る二重特異性抗体などの多量体ポリペプチドの一又は複数の鎖の翻訳の下方制御は、実際には、組み立て効率と、望ましくない誤対合した副産物の減少にプラスの影響を与え得る。そのため、本明細書に記載される方法は、高レベルの多量体ポリペプチド発現を可能にするだけでなく、それらの除去するためのコストのかかる精製方法の必要性などの負担を課す誤対合した副産物などの不純物の産生も減少させる。
【0072】
[0095] いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞で個別に産生されるとき、又はすべてのサブユニットが同じ真核宿主細胞で一緒に産生されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも低いレベルで翻訳される。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞で個別に産生されるとき、又はすべてのサブユニットが同じ真核宿主細胞で一緒に産生されるとき、第1のサブユニットは第2のサブユニットよりもより誤対合した副産物と組み合わさる。いくつかの実施態様では、第2のサブユニットのポリペプチド鎖の一又は複数(例えば、一方又は両方)と結合した翻訳開始配列と比較して、第1のサブユニット(例えば、宿主細胞においてより弱いか又はより困難なエクスプレッサーであるサブユニット)のポリペプチド鎖のうちの一又は複数(例えば、一方又は両方)と作用可能に連結した弱い翻訳開始配列を使用することにより、多量体ポリペプチドの産生量が多くなり、かつ/又は誤対合した副産物が少なくなる。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりも遅い速度で翻訳される。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖は、第2のサブユニットの一方又は両方のポリペプチド鎖よりもゆっくりとかつ/又は効率的でなく折り畳まれる。いくつかの実施態様では、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第1のサブユニットは、第2のサブユニットよりも遅い速度で組み立てられる。タンパク質の翻訳速度を測定するためのアッセイは、当該技術分野で知られており、限定されないが、35S メチオニン標識及びリボソームプロファイリングが含まれる(例えば、Ingolia, N.(2016)Cell 165:22-33を参照)。
【0073】
[0096] 本明細書に記載されるとおり、いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドは2つのサブユニットを含む。いくつかの実施態様では、本開示のサブユニットは、2本以上のポリペプチド鎖を含む。いくつかの実施態様では、本開示のサブユニットは、2本のポリペプチド鎖を含む。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードする各ポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレームに作用可能に結合した翻訳開始配列を含む。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドは2つのサブユニットを含み、各サブユニットは2本のポリペプチド鎖を含み、多量体ポリペプチドの第1のサブユニットは、各サブユニットが真核宿主細胞において個別に発現されるとき又はすべてのサブユニットが同じ真核宿主細胞で一緒に発現されるとき、第2のサブユニットよりも低いレベルで発現され、第1の翻訳開始配列(第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合)及び第2の翻訳開始配列(第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合)のうちの一方又は両方は、第3の翻訳開始配列(第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合)及び第4の翻訳開始配列(第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合)のうちの一方又は両方よりも弱い。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは、二重特異性抗体である。
【0074】
[0097] いくつかの実施態様では、本開示のサブユニット又は半抗体は、各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、別のサブユニット又は半抗体よりも低いレベルで発現される。いくつかの実施態様では、本開示のサブユニット又は半抗体は、例えば各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、別のサブユニット又は半抗体よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、5%から30%、5%から50%、5%から75%、10%から30%、10%から50%、10%から75%、25%から50%、25%から75%、25%から100%、50%から75%、50%から100%、又は75%から100%低いレベルで発現される。いくつかの実施態様では、本開示のサブユニット又は半抗体は、例えば各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、別のサブユニット又は半抗体よりも少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、1.3倍から3倍、1.5倍から3倍、2倍から10倍、2倍から5倍、3倍から5倍、3倍から10倍、5倍から10倍、又は7倍から10倍低いレベルで発現される。いくつかの実施態様では、本開示のサブユニット又は半抗体は、例えば各サブユニット又は半抗体が真核宿主細胞において個別に発現されるとき、別のサブユニット又は半抗体よりも0.2倍から0.8倍、0.8倍未満、0.5倍未満、又は0.3倍未満のレベルで発現される。
【0075】
[0098] いくつかの実施態様では、方法は、二重特異性抗体の第1の抗体重鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、二重特異性抗体の第1の抗体軽鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、二重特異性抗体の第2の抗体重鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、二重特異性抗体の第2の抗体軽鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含む真核宿主細胞を用意することと、第1、第2、第3、及び第4のポリペプチド鎖の発現に適した条件下で真核宿主細胞を培養することであって、第1、第2、第3、及び第4の抗体重鎖が二重特異性抗体を形成する、真核宿主細胞を培養することと、真核宿主細胞から二重特異性抗体を回収することとを含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗体は、2つの抗原に特異的に結合する(例えば、第1の抗体重鎖及び軽鎖は、第1の抗原に結合する抗原結合ドメインを形成し、第2の抗体重鎖及び軽鎖は、第2の抗原に結合する抗原結合ドメインを形成する)。
【0076】
[0099] いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの参照又は効率/発現と比較して、翻訳開始配列に作用可能に結合したオープンリーディングフレームの翻訳効率及び/又は発現が低くなるとき、別の翻訳開始配列よりも弱いと言われる。真核宿主細胞においてさまざまな翻訳開始配列の強度を比較するのに適した方法が、本明細書に記載及び例示される。例えば、一過性のトランスフェクタント又は安定したトランスフェクタントを培養し、多量体のポリペプチドの産生を測定することができる。フェドバッチ培養又は灌流培養を行い、細胞培地中又は細胞表面上の産生物の力価を測定することができる。表面発現については、細胞を抗体で染色して、産生物を検出し、例えばフローサイトメトリーにより、分析することができる。産生物の質及び/又は純度は、例えば電気泳動及び/又は質量分析などを用いて評価することができる。
【0077】
[0100] いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、5%から30%、5%から50%、5%から75%、10%から30%、10%から50%、10%から75%、25%から50%、25%から75%、25%から100%、50%から75%、50%から100%、又は75%から100%弱い。いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの参照又は効率と比較して(例えば、上に記載されるように測定したとき)、翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの翻訳効率が少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、5%から30%、5%から50%、5%から75%、10%から30%、10%から50%、10%から75%、25%から50%、25%から75%、25%から100%、50%から75%、50%から100%、又は75%から100%低くなるとき、別の翻訳開始配列よりも弱いと言われる。いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの参照又は発現レベルと比較して(例えば、上に記載されるように測定したとき)、翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの発現が少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、5%から30%、5%から50%、5%から75%、10%から30%、10%から50%、10%から75%、25%から50%、25%から75%、25%から100%、50%から75%、50%から100%、又は75%から100%低くなるとき、別の翻訳開始配列よりも弱いと言われる。
【0078】
[0101] いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列よりも少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、1.3倍から3倍、1.5倍から3倍、2倍から10倍、2倍から5倍、3倍から5倍、3倍から10倍、5倍から10倍、又は7倍から10倍弱い。いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの参照又は効率と比較して(例えば上に記載されるように測定したとき)、翻訳開始配列と作用可能に結合したオープンリーディングフレームの翻訳効率が少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、1.3倍から3倍、1.5倍から3倍、2倍から10倍、2倍から5倍、3倍から5倍、3倍から10倍、5倍から10倍、又は7倍から10倍低くなるとき、別の翻訳開始配列よりも弱いと言われる。いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの参照又は発現レベルと比較して(例えば、上に記載されるように測定したとき)、翻訳開始配列と作用可能に結合したオープンリーディングフレームの発現が少なくとも1.3倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、1.3倍から3倍、1.5倍から3倍、2倍から10倍、2倍から5倍、3倍から5倍、3倍から10倍、5倍から10倍、又は7倍から10倍低くなるとき、別の翻訳開始配列よりも弱いと言われる。いくつかの実施態様では、翻訳開始配列は、別の翻訳開始配列と作用可能に結合した同じオープンリーディングフレームの参照又は発現レベルと比較して(例えば、上に記載されるように測定したとき)、翻訳開始配列と作用可能に結合したオープンリーディングフレームの発現が0.2倍から0.8倍、0.8倍未満、0.5倍未満、0.3倍未満になるとき、別の翻訳開始配列よりも弱いと言われる。
【0079】
[0102] いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第3の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第2の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第2の翻訳開始配列は第3の翻訳開始配列よりも弱い。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第2の翻訳開始配列と同じである。いくつかの実施態様では、第1の翻訳開始配列は第2の翻訳開始配列とは異なる。いくつかの実施態様では、第3の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列と同じである。いくつかの実施態様では、第3の翻訳開始配列は第4の翻訳開始配列とは異なる。
【0080】
[0103] いくつかの実施態様では、本開示の方法は、例えば、既存の方法を使用する多量体ポリペプチドの産生と比較して、真核宿主細胞における多量体ポリペプチドの産生量をより高くする。いくつかの実施態様では、本開示の方法は、例えば、既存の方法を使用する多量体ポリペプチドの産生と比較して、真核宿主細胞における多量体ポリペプチドの産生量を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%高くする(例えば、より高レベルの、正しく組み立てられた、二重特異性抗体などの多量体ポリペプチド)。例えば、発現は、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上、又は4つが、天然又は非修飾の翻訳開始配列に作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含む発現、又は多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれが、同じ翻訳開始配列を含む発現と比較することができる。
【0081】
[0104] いくつかの実施態様では、本開示の方法は、例えば、既存の方法を使用する多量体ポリペプチドの産生と比較して、真核宿主細胞における多量体ポリペプチドの誤対合した副産物の量を少なくする。いくつかの実施態様では、本開示の方法は、例えば、既存の方法を使用する多量体ポリペプチドの産生と比較して、真核宿主細胞における多量体ポリペプチドの誤対合した副産物の量を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%少なくする。本開示の方法は、製造において下方制御精製を実施する点で有利であるが、これは、細胞培養上清中の不純物(例えば、誤って空気化された副産物)が少ないためである。いくつかの実施態様では、産生は、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上、又は4つが、天然又は非修飾の翻訳開始配列に作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含む産生、又は多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれが、同じ翻訳開始配列を含む産生と比較することができる。いくつかの実施態様では、誤対合した副産物の量は、一又は複数の特異的な誤対合した副産物の量を指す。いくつかの実施態様では、誤対合した副産物の量は、すべての誤対合した副産物の総量を指す。
【0082】
[0105] いくつかの実施態様では、本開示の方法は、1:1:1:1の鎖比で本開示の多量体ポリペプチドの4つのサブユニットを表すのに使用することができる。ただし、本明細書に記載される方法は、例えば、正しく対合した多量体ポリペプチドの発現及び/又は組立を改善するために、他の所望の鎖比で本開示の多量体ポリペプチドの4つのサブユニットの発現を調整するのに使用することもできる。例えば、抗体軽鎖が抗体重鎖のシャペロンとして機能し得ることは十分文書化されており(例えば、Lee, Y. K, et al.(1999)Mol. Biol. Cell 10:2209-2219を参照のこと)、軽鎖の発現が高いことは、製造中に有利になる可能性がある。このため、いくつかの実施態様では、本開示の方法は、重鎖の発現に対して、二重特異性抗体の一方又は両方の軽鎖の発現を増加させるのに使用される。さらに、本明細書で提供されるデータは、いくつかの場合、軽鎖1:軽鎖2の比率を操作することにより、正しく組み立てられた二重特異性抗体の産生量を高くすることができることを実証する。このため、いくつかの実施態様では、本開示の方法は、他の軽鎖の発現に対して、二重特異性抗体の一つの軽鎖の発現を増加させるのに使用される。いくつかの実施態様では、本明細書で決定され得る、二重特異性抗体の最適な産生方法に応じて、本開示の方法は、1:1:1:1の鎖比又は別の鎖比で二重特異性抗体の4本のポリペプチド鎖を発現するのに使用され得る。
【0083】
[0106] いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のうちの一又は複数は、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である。いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のすべては、配列(5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である。いくつかの実施態様では、第1のサブユニット(例えば、多量体ポリペプチドのより弱く発現するサブユニット)のポリペプチド鎖をコードするオープンリーディングフレームに作用可能に結合した一方又は両方の翻訳開始配列は、配列番号8-10からなる群より選択される配列を含む。いくつかの実施態様では、第2のサブユニット(例えば、多量体ポリペプチドのより強く発現するサブユニット)のポリペプチド鎖をコードするオープンリーディングフレームに作用可能に結合した一方又は両方の翻訳開始配列は、配列番号2、3、及び11からなる群より選択される配列を含む。
【0084】
[0107] 例示的な翻訳開始配列を表2に示す。例示的な翻訳開始配列の相対強度を
図10に示す。
【0085】
【0086】
[0108] いくつかの実施態様では、翻訳開始配列の翻訳効率(すなわち、強度)は、参照と比較される。いくつかの実施態様では、参照は、宿主細胞中野生型コザック配列を含む翻訳開始配列である。いくつかの実施態様では、参照配列は、配列番号2又は3のポリヌクレオチド配列を含む。翻訳開始配列の相対強度を決定するのに適した例示的なアッセイが本明細書で記載及び例示される(例えば、実施例1-3を参照)。いくつかの実施態様では、翻訳開始配列の強度は、オープンリーディングフレーム(例えば、本開示のポリペプチド、サブユニット、又は多量体ポリペプチド、例えば抗体又は半抗体をコードする)に作用可能に結合した翻訳開始配列を含むポリヌクレオチドを(例えば一過性のトランスフェクションの後に)宿主細胞において発現すること、及びポリペプチド産物の産生を測定することによって評価される。いくつかの実施態様では、ポリペプチド産物の産生レベル(例えば、産生物力価)は、オープンリーディングフレームが宿主細胞において活性な野生型コザック配列などの参照翻訳開始配列に作用可能に結合した同じ宿主細胞型の同じ産物の産生レベルなどの参照と比較される。例示的な翻訳開始配列の相対強度を
図10に示す。例えば、一過性のトランスフェクタント又は安定したトランスフェクタントを培養し、多量体のポリペプチドの産生を測定することができる。フェドバッチ培養又は灌流培養を行い、細胞培地中又は細胞表面上の産生物の力価を測定することができる。表面発現については、細胞を抗体で染色して、産生物を検出し、例えばフローサイトメトリーにより、分析することができる。産生物の質及び/又は純度は、例えば電気泳動及び/又は質量分析などを用いて評価することができる。
【0087】
[0109] いくつかの実施態様では、多量体タンパク質の第1のサブユニット(例えば、より弱く発現するサブユニット)の第1のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号9を含む翻訳開始配列に作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、多量体タンパク質の第1のサブユニット(例えば、より弱く発現するサブユニット)の第2のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号9を含む翻訳開始配列に作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、多量体タンパク質の第2のサブユニット(例えば、より強く発現するサブユニット)の第1のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号2又は11を含む翻訳開始配列に作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、多量体タンパク質の第2のサブユニット(例えば、より強く発現するサブユニット)の第2のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号2又は11を含む翻訳開始配列に作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、第1のサブユニット(例えば、より弱く発現するサブユニット)の第1のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号9を含む翻訳開始配列に作用可能に結合しており、第1のサブユニット(例えば、より弱く発現するサブユニット)の第2のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号9を含む翻訳開始配列に作用可能に結合しており、第2のサブユニット(例えば、より強く発現するサブユニット)の第1のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号2又は11を含む翻訳開始配列に作用可能に結合しており、第2のサブユニット(例えば、より強く発現するサブユニット)の第2のポリペプチド鎖のオープンリーディングフレームは、配列番号2又は11を含む翻訳開始配列に作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、多量体タンパク質は、二重特異性抗体である。いくつかの実施態様では、第1及び第2のサブユニットは半抗体を含む。いくつかの実施態様では、各サブユニットの2本のポリペプチド鎖は、それぞれ、抗体重鎖及び抗体軽鎖を表す。いくつかの実施態様では、第1の半抗体の重鎖をコードするオープンリーディングフレームは、配列番号9を含む翻訳開始配列に作用可能に結合しており、第1の半抗体の軽鎖をコードするオープンリーディングフレームは、配列番号9を含む翻訳開始配列に作用可能に結合しており、第2の半抗体の重鎖をコードするオープンリーディングフレームは、配列番号3を含む翻訳開始配列に作用可能に結合しており、第2の半抗体の軽鎖をコードするオープンリーディングフレームは、配列番号11を含む翻訳開始配列に作用可能に結合している。
【0088】
プロモーター
[0110] いくつかの実施態様では、本開示の翻訳開始配列及び/又はオープンリーディングフレームは、プロモーターに作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4のポリヌクレオチドのそれぞれは、プロモーターに作用可能に結合している。プロモーターは、その発現を調節するシストロンの上流(5’)に位置する非翻訳調節配列である。原核プロモーターは、典型的には、誘導型及び構成型の2つのクラスに分類される。誘導プロモーターは、培養条件の変化、例えば、栄養素の存在若しくは不在、又は温度の変化に応答してその制御下で増加したレベルのシストロンの転写を開始するプロモーターである。
【0089】
いくつかの実施態様では、プロモーターは、構成型プロモーターである。いくつかの実施態様では、プロモーターは、誘導型プロモーターである。真核宿主細胞における使用に適したさまざまなプロモーターが当該技術分野で知られている。いくつかの実施態様では、サブユニットの第1及び第2のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドは、同じプロモーターに作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、サブユニットの第1及び第2のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドは、異なるプロモーターに作用可能に結合している。
【0090】
[0112] さまざまな潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターが周知である。選択されたプロモーターは、制限酵素消化によりソースDNAからプロモーターを除去し、かつ単離されたプロモーター配列を本発明のベクターに挿入することによって、例えば、軽鎖又は重鎖をコードするシストロンDNAに作用可能に結合され得る。天然プロモーター配列も多くの異種プロモーターもいずれも、標的遺伝子の直接増幅及び/又は発現に使用することができる。いくつかの実施態様では、異種プロモーターが一般に天然標的ポリペプチドプロモーターと比較して、発現された標的遺伝子のより大きい転写及びより高い収率をもたらすため、異種プロモーターが利用される。
【0091】
発現ベクター及びクローニングベクターは通常、宿主生物によって認識され、所望のFc含有ポリペプチド(複数可)(例えば、抗体)核酸に作用可能に結合されるプロモーターを含有する。真核生物のプロモーター配列が既知である。実質的にすべての真核遺伝子が、転写が始まる部位からおよそ25~30塩基上流に位置するATに富んだ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始から70~80塩基上流に見られる別の配列は、Nが任意のヌクレオチドであり得るCNCAAT領域である。大半の真核遺伝子の3’末端は、コード配列の3’末端へのポリA尾部の付加のためのシグナルであり得るAATAAA配列である。これらの配列のすべてが真核細胞発現ベクターに好適に挿入される。
【0092】
[0114] Fc含有ポリペプチド(複数可)(例えば、抗体等)の産生の場合、哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2等)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びシミアンウイルス40(SV40)等のウイルスのゲノムから、異種哺乳動物プロモーター、例えば、アクチンプロモーター若しくは免疫グロブリンプロモーターから、又は熱ショックプロモーターから得られるプロモーターによって制御され得るが、かかるプロモーターが宿主細胞系と適合することを条件とする。いくつかの実施態様では、プロモーターは、CMVプロモーターである。
【0093】
SV40ウイルスの初期プロモーター及び後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点も含有するSV40制限断片として好都合に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、Hind 111E制限断片として好都合に得られる。ウシ乳頭腫ウイルスをベクターとして使用して哺乳動物宿主におけるDNAを発現させるための系は、米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の修飾は、米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルスからのチミジンキナーゼプロモーターの制御下でのマウス細胞におけるヒトβ-インターフェロンcDNAの発現に関して、Reyes et al.,Nature 297:598-601(1982)も参照されたい。代替として、ラウス肉腫ウイルス長末端反復がプロモーターとして使用され得る。
【0094】
[0116] より高次の真核生物による、抗原結合ポリペプチド(複数可)(例えば、抗体等)をコードするDNAの転写は、エンハンサー配列をベクターに挿入することによって増大され得る。哺乳動物遺伝子(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、a-フェトプロテイン、及びインスリン遺伝子)由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている。また、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを使用してもよい。例としては、複製起点の後半側のSV40エンハンサー(bp100~270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後半側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核プロモーターの活性化を強化するための要素の説明に関しては、Yaniv,Nature 297:17-18(1982)も参照されたい。エンハンサーは、強化が達成される限り、抗体ポリペプチドコード配列の5’位側でも3’位側でもベクターへとスプライシングされ得るが、一般には、プロモーターから5’部位に位置する。
【0095】
多重特異性多量体ポリペプチド
[0117] 本開示のある態様は、例えば、それぞれ2本以上のポリペプチド鎖を含む2つ以上のサブユニットを含む、多量体ポリペプチドに関する。いくつかの実施態様では、本開示の一又は複数のポリペプチド鎖、一又は複数のサブユニット、又は一又は複数の多量体ポリペプチドは、宿主細胞に対して非天然である。
【0096】
[0118] いくつかの実施態様では、本開示のサブユニットは、ヘテロ二量体のモノマーである。本明細書で使用されるとき、ヘテロ二量体は、作用可能に連結している2つの別個のポリペプチド又はポリペプチド複合体を含有する任意のポリペプチド複合体を指し得る。ヘテロ二量体の非限定的な例は、2つの別個の抗体モノマーで構成される二重特異性又は二価抗体(すなわち、作用可能に結合している軽鎖-重鎖対)である。この例では、第1の抗原を認識する第1の重鎖-軽鎖対の折り畳み及び組み立ては、第1の抗体モノマーを産生する。第2の抗原を認識する第2の重鎖-軽鎖対の折り畳み及び組み立ては、第2の抗体モノマーを産生する。これらのモノマーは、当該技術分野で既知である任意の手段(二重特異性抗体に関して以下でより詳細に記載される)によって組み立てられて、ヘテロ二量体を形成し得る。例示的なヘテロ二量体抗体形成に関するさらなる詳細については、Ridgway JBB et al. 1996 Protein Eng. 9(7):617-621を参照のこと。
【0097】
[0119] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチド又はサブユニットは、分泌タンパク質である。本明細書で使用される場合、分泌タンパク質は、宿主細胞によって宿主細胞ペリプラズム又は細胞外環境に分泌される任意のタンパク質を指し得る。分泌タンパク質は、宿主細胞によって内因的に分泌されるタンパク質であっても良く、又は分泌タンパク質は、宿主細胞によって内因的に分泌されないが、その分泌を促進するような方法で修飾されるタンパク質であっても良い。例えば、典型的にはポリペプチドのN末端で見られるシグナル配列の存在により、ポリペプチドが分泌のための分泌経路に導かれ得る。多数のシグナル配列が当該技術分野で知られており、分泌タンパク質の分泌を促進するため、又は宿主細胞によって自然に分泌されないタンパク質の分泌を可能にするために有用であり得る。例えば、Picken et al., Infect. Immun. 42:269-275(1983);Simmons and Yansura, Nature Biotechnology 14:629-634(1996);及びHumphreys DP et al. 2000 Protein Expr. Purif. 20(2):252を参照のこと。シグナル配列の1つの非限定的な例は、耐熱性エンテロトキシンII(STII)シグナル配列である。
【0098】
[0120] いくつかの実施態様では、本開示のサブユニットのポリペプチド鎖は、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに結合している。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットは、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに結合している。ジスルフィド結合は、2つのチオール基を結合している任意の共有結合を指し得る。ポリペプチドにおけるジスルフィド結合は、典型的には、システイン残基のチオール基の間で形成される。ポリペプチドジスルフィド結合は、本開示の2鎖タンパク質等の多くのポリペプチドの折り畳み及び組み立てに重要であることが当該技術分野で知られている。ポリペプチドジスルフィド結合は、単一のポリペプチド鎖におけるシステイン残基間のジスルフィド結合(すなわち、分子内又は鎖内ジスルフィド結合)を含み得る。ポリペプチドジスルフィド結合はまた、別個のポリペプチド鎖上で見出されるシステイン残基間のジスルフィド結合(すなわち、分子間又は鎖間ジスルフィド結合)を含み得る。
【0099】
[0121] ジスルフィド結合は、抗体及び抗体断片の折り畳み及び組み立てに重要であることが当該技術分野で知られている。異なる抗体同位体、及び同位体内の異なるサブクラスは、異なるパターンのジスルフィド結合を保有することが知られている。例えば、IgG抗体は、特定のIgGサブクラスに応じて、鎖内ジスルフィド結合を12個、各軽鎖とその対応する重鎖との間の鎖間ジスルフィド結合を1個、重鎖間の鎖間ジスルフィド結合を2~11個含有しても良い(より詳細な説明については、Liu H and May K 2012 MAbs. 4(1):17を参照のこと)。IgM(例えば、Wiersma EJ and Shulman MJ 1995 J. Immunol. 154(10):5265を参照)、IgE(例えば、Helm BA et al. 1991 Eur. J. Immunol. 21(6):1543を参照)、IgA(例えば、Chintalacharuvu KR et al. 2002 J. Immunol. 169(9):5072を参照)、及びIgD(例えば、Shin SU et al. 1992 Hum. Antibodies Hybridomas 3(2):65を参照)もまた、折り畳み及び組み立て中にジスルフィド結合を形成することが知られている。
【0100】
[0122] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドは、多重特異性抗原結合タンパク質を含む。いくつかの実施態様では、多重特異性抗原結合タンパク質は、1つ、2つ、又はそれ以上のポリペプチド又は他の抗原のうちの2つ以上のエピトープに結合する。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有し、これらのエピトープは、通常、異なる抗原由来である。かかる分子が通常2つの異なるエピトープ(すなわち、二重特異性抗体、BsAb)のみに結合する一方で、三重特異性抗体等のさらなる特異性を有する抗体は、本明細書で使用される場合、この表現に包含される。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製され得る。
【0101】
[0123] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドは抗体である。いくつかの実施態様では、本開示のサブユニットは半抗体である。いくつかの実施態様では、本明細書で提供される抗体は、キメラ、ヒト、又はヒト化抗体である。ヒト抗体ライブラリから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体断片と見なされる。以下に記載されるように、抗体は、抗体を産生するための当該技術分野で利用可能な技法を使用して調製され、その例示的な方法は、以下のセクションにより詳細に記載される。当業者は、以下に記載の方法の多くが、抗体以外の多量体ポリペプチドに適用され得ることを認識するであろう。
【0102】
[0124] いくつかの実施形態では、本開示のサブユニットは、第1の鎖及び第2の鎖が免疫グロブリン重鎖及び免疫グロブリン軽鎖に相当する一価抗体である。本明細書で使用される場合、一価抗体は、共に作用可能に結合して重鎖-軽鎖対を形成する抗体重鎖及び抗体軽鎖から作製される任意のポリペプチド複合体を指しても良く、これにおいて、重鎖-軽鎖対は第2の重鎖-軽鎖対に作用可能に結合しない。「半抗体(hAb)」という用語が本明細書では同義に使用され得る。
【0103】
[0125] いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは、一又は複数の標的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチド又はサブユニットは、抗原に特異的に結合することができる。本明細書で使用される場合、「結合する」、「特異的に結合する」、又は「~に特異的である」という用語は、標的と(すなわち、生体分子を含む不均一な分子集団の存在下での標的の存在を決定する抗体と)の間の結合などの測定可能かつ再現可能な相互作用を指す。例えば、標的(エピトープであり得る)に結合するか、又はそれに特異的に結合する抗体は、この標的に、他の標的に結合するよりも高い親和性で、結合力で、より容易に、かつ/又はより長期間結合する抗体である。一実施態様では、抗体が無関係の標的に結合する程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定される、抗体の標的への結合の約10%未満である。ある特定の実施態様では、標的に特異的に結合する抗体は、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、又は0.1nM以下の解離定数(Kd)を有する。ある特定の実施態様では、抗体は、異なる種由来のタンパク質間で保存されるタンパク質上のエピトープに特異的に結合する。別の実施態様では、特異的結合は、排他的結合を含み得るが、それを必要とするわけではない。特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、1μM以下、150nM以下、100nM以下、50nM以下、10nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下、又は0.001nM以下(例えば、10-8M以下、例えば、10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから10-13M)の解離定数(Kd)を有する。
【0104】
[0126] 一実施態様では、Kdは、以下のアッセイにより説明されるように、目的とする抗体のFabバージョン及びその抗原を用いて行われる放射標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。抗原に対するFabの溶液結合親和性は、非標識抗原の滴定系の存在下で、最小濃度の(125I)標識抗原によりFabを平衡化し、次いで、結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングしたプレートで捕捉することにより測定する(例えばChenら、J.Mol.Biol.293:865~881(1999)参照)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mLの捕捉用抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、PBS中の2%(w/v)ウシ血清アルブミンで2~5時間にわたって室温(およそ23℃)で遮断する。非吸着性プレート(Nunc番号269620)内で、100pM又は26pMの[125I]抗原を、目的とするFabの段階希釈液と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、インキュベーションをより長い期間(例えば、約65時間)続けて、平衡に達することを保証してもよい。その後、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために混合物を捕捉プレートに移す。次に、溶液を除去し、プレートを、PBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μL/ウェルのシンチラント(scintillant)(MICROSCINT-20TM、Packard)を付加し、プレートをTOPCOUNTTMガンマ計数器(Packard)上で10分間、計数する。最大結合の20%以下をもたらす各Fabの濃度を競合結合アッセイでの使用に選択する。
【0105】
[0127] 別の実施態様によると、Kdは、BIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore,Inc.、Piscataway、NJ)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用して、25℃で、約10の応答ユニット(RU)で固定化抗原CM5チップを用いて測定される。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE,Inc.)を、供給業者の指示に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を、pH4.8の10mMの酢酸ナトリウムによって、5μg/ml(約0.2μM)に希釈した後、5μl/分の流速でインジェクトし、カップリングされたタンパク質のおよそ10応答ユニット(RU)を達成する。抗原のインジェクション後、1Mのエタノールアミンをインジェクトして、未反応基をブロックする。動態測定のため、Fabの2倍段階希釈液(0.78nM~500nM)を、およそ25μL/分の流量にて25℃で0.05%のポリソルベート20(TWEEN-20TM)界面活性剤(PBST)を有するPBS中に注射する。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、単純な1対1Langmuir結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Software第3.2版)を使用して、会合センサグラム及び解離センサグラムを同時に適合することによって、算出する。平衡解離定数(Kd)は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999)を参照のこと。上述の表面プラズモン共鳴アッセイによりオン速度が106M-1 s-1を超える場合、オン速度を、ストップフローを装備した分光測色計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを有する8000シリーズSLM-AMINCOTM分光測色計(ThermoSpectronic)等の分光計で測定される抗原の増加した濃度の存在下でPBS(pH7.2)中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm、発光=340nm、16nm帯域通過)の増加又は減少を測定する蛍光クエンチ技法を使用することによって決定することができる。
【0106】
[0128] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドは、二重特異性抗体を含む。いくつかの実施態様では、第1及び第3のポリペプチド鎖は抗体重鎖であり、第2及び第4のポリペプチド鎖は抗体軽鎖である。いくつかの実施態様では、第1のサブユニットは、第1の抗原に結合する第1の半抗体であり、第2のサブユニットは、第2の抗原に結合する第2の半抗体である。いくつかの実施態様では、第1の抗原と第2の抗原は異なる。いくつかの実施態様では、第1及び第2の抗原は、同じ標的の異なるエピトープに相当する。三重特異性又は四価抗体などの他の抗体も企図される。
【0107】
[0129] 二重特異性抗体の作製方法は、当該技術分野で既知である。完全長二重特異性抗体の従来の産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づき、これらの2つの鎖は、異なる特異性を有する(Millsteinら、Nature、305:537~539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のランダムな分類のため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10個の異なる抗体分子を有する混合物を産生する可能性があり、これらのうちの1つのみが正しい二重特異性構造を有する。通常親和性クロマトグラフィーステップによって行われるこの正しい分子の精製は、幾分厄介であり、産生物収率は低い。同様の手順は、国際公開第93/08829号、及びTrauneckerら、EMBO J.、10:3655~3659(1991)に記載されている。
【0108】
[0130] ある特定の実施態様では、一又は複数のアミノ酸修飾が本明細書に提供される抗体のFc領域に導入され、それにより、Fc領域バリアントが生成され得る。Fc領域バリアントは、一又は複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含む、ヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4 Fc領域)を含み得る。
【0109】
[0131] ある特定の実施態様では、本開示は、すべてではないが、いくつかのエフェクター機能を有することにより、in vivoでの抗体の半減期は重要ではあるが、特定のエフェクター機能(補体及びADCCなど)が不要又は有害である用途に望ましい候補となる抗体バリアントを企図する。in vitro及び/又はin vivo細胞傷害性アッセイを行って、CDC及び/又はADCC活性の低減/枯渇を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを行って、抗体がFcγR結合を欠いている(そのため、ADCC活性を欠いている可能性が高い)が、FcRn結合能力を保持することを確実にすることができる。ADCCを媒介するための主要な細胞であるNK細胞は、Fc(RIIIのみを発現するが、一方で単球は、Fc(RI、Fc(RII、及びFc(RIIIを発現する。造血細胞でのFcR発現は、Ravetch及びKinet、Annu.Rev.Immunol.、9:457~492(1991)の464頁、表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom,I.らProc.Nat’l Acad.Sci.USA83:7059~7063(1986)を参照)、及びHellstrom,Iら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA82:1499~1502(1985);5,821,337(Bruggemann,M.ら、J.Exp.Med.166:1351~1361(1987)を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー(CellTechnology、Inc.Mountain View、CA)のためのACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ、及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI))。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。あるいは、又は加えて、目的のADCC活性は、例えば、Clynesら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 95:652~656(1998)に開示されるような動物モデルにおいて、in vivoで評価され得る。C1q結合アッセイを実行して、抗体がC1qに結合することができないためにCDC活性を欠くことを確認してもよい。例えば、国際公開第2006/029879号及び同第2005/100402号における、C1q及びC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoroら、J.Immunol.Methods202:163(1996)、Cragg,M.S.ら、Blood101:1045~1052(2003)、並びにCragg,M.S.及びM.J.Glennie、Blood103:2738~2743(2004)を参照されたい)、FcRn結合及びin vivoクリアランス/半減期の判定はまた、当該技術分野で公知の方法を使用して行うことができる(例えば、Petkova,S.B.ら、Int’l.Immunol.18(12):1759~1769(2006)を参照されたい)。
【0110】
[0132] エフェクター機能が低下した抗体としては、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327及び329の一又は複数の置換を有するものが挙げられる(米国特許第6,737,056号)。そのようなFc変異体には、アミノ酸位置265、269、270、297及び327のうちの2つ以上に置換を有するFc変異体が挙げられ、残基265及び297がアラニンに置換されている、いわゆる「DANA」Fc変異体が含まれる(米国特許第7,332,581号)。
【0111】
FcRに対する結合が改善又は減少したある特定の抗体バリアントが記載される(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/056312号、及びShields et al., J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604(2001)を参照)。
【0112】
[0134] ある特定の実施態様では、抗体バリアントは、ADCCを改善する一又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298、333、及び/又は334位(残基のEU番号付け)での置換を有するFc領域を含む。例示的な一実施態様では、抗体は、そのFc領域に以下のアミノ酸置換:S298A、E333A、及びK334Aを含む。
【0113】
[0135] いくつかの実施態様では、例えば、米国特許第6,194,551号、国際公開第99/51642号、及びIdusogie et al. J. Immunol. 164:4178-4184(2000)に記載されるように、変化した(すなわち、改善されたか又は減少したかのいずれか)C1q結合及び/又は補体依存性細胞毒性(CDC)をもたらす改変が、Fc領域において行われる。
【0114】
[0136] 半減期が増加し、母体のIgGの胎児への移行に関与する新生児Fc受容体(FcRn)への結合が改善された抗体(Guyerら、J.Immunol.117:587(1976)及びKimら、J.Immunol.24:249(1994))は、米国特許公開第2005/0014934号(Hintonら)に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する一又は複数の置換を有するFc領域を含む。このようなFcバリアントとしては、以下のFc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、又は434のうちの一又は複数での置換、例えば、Fc領域残基434での置換を有するバリアントが挙げられる(米国特許第7,371,826号)。Fc領域バリアントの他の例に関しては、Duncan&Winter、「Nature」、第322巻738~40頁(1988年)、米国特許第5,648,260号、米国特許第5,624,821号、及び国際公開第94/29351号も参照されたい。
【0115】
[0137] 本開示の抗体は、当該技術分野で既知であり、容易に入手可能な、追加の非タンパク質性部分を含有するように、さらに修飾され得る。ある特定の実施態様では、本抗体の誘導体化に好適なこれらの部分は、水溶性ポリマーである。
【0116】
ノブ-イントゥ-ホール アプローチ
[0138] 二重特異性抗体を作製するための当該技術分野で公知の1つのアプローチは、「ノブ・イントゥー・ホール」又は「プロチュバランス・イントゥー・キャビティ」アプローチである(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)。このアプローチでは、2つの免疫グロブリンポリペプチド(例えば、重鎖ポリペプチド)がそれぞれ、界面を含む。一方の免疫グロブリンポリペプチドの界面が他方の免疫グロブリンポリペプチドの対応する界面と相互作用し、それにより、2つの免疫グロブリンポリペプチドの会合を可能にする。これらの界面は、一方の免疫グロブリンポリペプチドの界面に位置する「ノブ」又は「プロチュバランス」(これらの用語は、本明細書で同義に使用され得る)は、他方の免疫グロブリンポリペプチドの界面に位置する「ホール」又は「キャビティ」(これらの用語は、本明細書で同義に使用され得る)に対応するように操作することができる。いくつかの実施態様では、ホールは、ノブと同一又は同様の大きさのものであり、2つの界面が相互作用するときに、一方の界面のノブが他方の界面の対応するホール内に位置付け可能であるように好適に位置付けられる。理論に拘束されることを望むことなく、これは、ヘテロ多量体を安定させ、かつ他の種、例えば、ホモ多量体よりもヘテロ多量体の形成を好むと考えられる。いくつかの実施態様では、このアプローチを使用して、2つの異なる免疫グロブリンポリペプチドのヘテロ多量体化を促進し、異なるエピトープに対する結合特異性を有する2つの免疫グロブリンポリペプチドを含む二重特異性抗体を作製することができる。
【0117】
[0139] いくつかの実施態様では、ノブは、小さいアミノ酸側鎖をより大きい側鎖で置き換えることによって構築され得る。いくつかの実施態様では、ホールは、大きいアミノ酸側鎖をより小さい側鎖で置き換えることによって構築され得る。ノブ又はホールは、元の界面に存在し得るか、又は合成的に導入され得る。例えば、ノブ又はホールは、界面をコードする核酸配列を改変し、少なくとも1つの「元の」アミノ酸残基を少なくとも1つの「移入」アミノ酸残基で置き換えることによって組み換え導入され得る。核酸配列を改変させるための方法としては、当該技術分野で既知の標準の分子生物学技法が挙げられ得る。様々なアミノ酸残基の側鎖体積は、以下の表に示される。いくつかの実施態様では、元の残基は、小さい側鎖体積(例えば、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グリシン、セリン、トレオニン、又はバリン)を有し、ノブを形成するための移入残基は、天然に存在するアミノ酸であり、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンを含み得る。いくつかの実施態様では、元の残基は、大きい側鎖体積(例えば、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン)を有し、ホールを形成するための移入残基は、天然に存在するアミノ酸であり、アラニン、セリン、トレオニン、及びバリンを含み得る。
【0118】
[0140] いくつかの実施態様では、ノブ又はホールを形成するための元の残基は、ヘテロ多量体の三次元構造に基づいて同定される。当該技術分野で既知の三次元構造を得るための技法としては、X線結晶学及びNMRが挙げられ得る。いくつかの実施態様では、界面は、免疫グロブリン定常ドメインのCH3ドメインである。これらの実施態様では、IgG1のCH3/CH3界面は、4つの逆平行β鎖上に位置する各ドメイン上に16個の残基を含む。理論に拘束されることを望むことなく、変異残基は、好ましくは、ノブがパートナーCH3ドメイン内の補償ホールではなく周囲の溶媒によって収容され得る危険性を最小限に抑えるように、これらの2つの中央逆平行β鎖上に位置する。いくつかの実施態様では、2つの免疫グロブリンポリペプチド内の対応するノブ及びホールを形成する変異は、以下の表に提供される一又は複数の対に対応する。
【0119】
[0141] ある特定の実施態様では、本開示の抗体のCH3及び/又はCH2ドメインは、IgG4サブタイプに由来する。いくつかの実施態様では、本開示の抗体のIgG4 CH3及び/又はCH2ドメインは、限定されないが、S228P変異(EU番号付け)を含む一又は複数の追加の変異を含み得る。
【0120】
aアミノ酸の分子量は、水の分子量を差し引いたものである。Handbook of Chemistry and Physics、第43版、Cleveland、Chemical Rubber Publishing Co.、1961からの値。
bA.A. Zamyatnin, Prog. Biophys. Mol. Biol. 24:107-123, 1972からの値。
cC. Chothia, J. Mol. Biol. 105:1-14, 1975からの値。アクセス可能な表面積は、この参考文献の
図6~20に定義されている。
【0121】
[0142] いくつかの実施態様では、一方のサブユニットのポリペプチド鎖は、少なくとも一つのホール変異を含み、他方のサブユニットのポリペプチド鎖は、少なくとも一つのノブ変異を含む。例えば、第1のサブユニットは少なくとも一つのホール変異を含む抗体Fc領域を含み、かつ第2のサブユニットは少なくとも一つのノブ変異を含む抗体Fc領域を含むか、又は第1のサブユニットは少なくとも一つのノブ変異を含む抗体Fc領域を含み、かつ第2のサブユニットは少なくとも一つのホール変異を含む抗体Fc領域を含む。
【0122】
[0143] いくつかの実施態様では、本開示の抗体のCH3ドメインは、IgG(例えば、IgG1サブタイプ、IgG2サブタイプ、IgG2Aサブタイプ、IgG2Bサブタイプ、IgG3サブタイプ、又はIgG4サブタイプ)に由来する。いくつかの実施態様では、本開示の抗体のCH3ドメインは、一又は複数のノブ変異又はホール変異(例えば、下記の表3に記載されている変異など)を含み得る。
【0123】
【0124】
[0144] いくつかの実施態様では、免疫グロブリンポリペプチドは、上の表2に列記される一又は複数のアミノ酸置換を含むCH3ドメインを含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗体は、表3の左側の欄に列記される一又は複数のアミノ酸置換を含むCH3ドメインを含む第1の免疫グロブリンポリペプチドと、表3の右側の欄に列記される一又は複数の対応するアミノ酸置換を含むCH3ドメインを含む第2の免疫グロブリンポリペプチドとを含む。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのあるサブユニットは、表3の列の左側の欄に列記される変異を含み、多量体ポリペプチドの別のサブユニットは、表3の同じ列の右側の欄に列記される変異を含む。ノブ及びホール対の非限定的な例として、いくつかの実施態様では、二重特異性抗体は、T366W変異を含むCH3ドメインを含む第1の免疫グロブリンポリペプチドと、T366S、L368A、及びY407V変異を含むCH3ドメインを含む第2の免疫グロブリンポリペプチドとを含む。いくつかの実施態様では、少なくとも一つのノブ変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、T366Y、T366W、T394W、及びF405Wからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、少なくとも一つのホール変異は、EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付けされた、F405A、Y407T、Y407A、T366S、L368A、Y407V、及びT394Sからなる群より選択される。特定の実施態様では、ノブ変異はT366W置換を含み、ホール変異は、T366S、L368A、及びY407V置換を含む(EUインデックスによるヒトIgG1に基づいて番号付け)。本明細書に記載される方法及び細胞において有用なノブ変異及びホール変異についての他の説明は、例えば、Ridgway JBB et al. 1996 Protein Eng. 9(7):617-621及びwww.imgt.org/IMGTbiotechnology/Knobs-into-holes_IgG.htmlに見つけられる。
【0125】
[0145] 上述のようにDNAを変異させた後、一又は複数の対応するノブ又はホール変異を有する修飾された免疫グロブリンポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当該技術分野で既知の標準の組み換え技法及び細胞系を使用して発現及び精製することができる。例えば、二重特異性抗体の4本すべてのポリペプチド鎖は、例えば以下の実施例に記載及び例示されるように、単一の宿主細胞において産生され組み立てられ得る。
【0126】
[0146] ロイシンジッパーを使用して二重特異性抗体が産生された。Kostelnyら、J.Immunol.、148(5):1547~1553(1992)。Fos及びJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab’部分に結合させた。抗体ホモ二量体をヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、その後、再酸化して抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法は、抗体ホモ二量体の産生にも利用することができる。Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:6444~6448(1993)により記載されている「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作製するための代替的機構を提供している。それらの断片は、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、ある断片のVHドメイン及びVLドメインが別の断片の相補的VLドメイン及びVHドメインと対合させられ、それにより、2つの抗原結合部位が形成される。一本鎖Fv(sFv)二量体を使用することによって二重特異性抗体断片を作製するための別の方法も報告されている。Gruberら、J.Immunol、152:5368(1994)を参照されたい。
【0127】
[0147] 二重特異性抗体断片を作製するための別の技法は、「二重特異性T細胞エンゲージャー」又はBiTE(登録商標)アプローチである(例えば、国際公開第2004/106381号、同第2005/061547号、同第2007/042261号、及び同第2008/119567号を参照されたい)。このアプローチは、単一のポリペプチド上に配列された2つの抗体可変ドメインを利用する。例えば、単一のポリペプチド鎖は、可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)ドメインを各々有する2つの一本鎖Fv(scFv)断片を含み、これらのドメインは、2つのドメイン間の分子内会合を可能にする十分な長さのポリペプチドリンカーにより分離される。この単一のポリペプチドは、2つのscFv断片間のポリペプチドスペーサー配列をさらに含む。各scFvは、異なるエピトープを認識し、2つの異なる細胞型の細胞が、各scFvがその同種のエピトープと係合するときに近接近するか又は係留されるように、これらのエピトープは、異なる細胞型に対して特異的であり得る。このアプローチの1つの特定の実施態様は、免疫細胞によって発現される細胞表面抗原を認識するscFv、例えば、T細胞上のCD3ポリペプチドを含み、これは、悪性又は腫瘍細胞などの標的細胞によって発現される細胞表面抗原を認識する別のscFvに結合される。
【0128】
[0148] 2を超える結合価を有する抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体が調製され得る。Tuftら、J.Immunol.147:60(1991)。
【0129】
[0149] いくつかの実施態様において、本開示の抗体は単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべて若しくは一部又は軽鎖可変ドメインのすべて若しくは一部を含む単一のポリペプチド鎖である。ある特定の実施形態では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc.、Waltham、Mass.、例えば、米国特許第6,248,516 B1号を参照されたい)。一実施態様では、単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべて又は一部からなる。
【0130】
選択的な軽鎖-重鎖対合を促進する変異
[0150] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドは、抗体軽鎖と抗体重鎖との選択的会合を促進する一又は複数の変異を含む。本明細書に記載される方法及び細胞において有用な抗体重鎖と抗体軽鎖との間の選択的会合を促進する例示的なアミノ酸置換は、国際公開第2016/172485号に見つけられる。いくつかの実施態様では、サブユニットの抗体重鎖は、選択的会合を促進する一又は複数の変異を含み、サブユニットの抗体軽鎖は、重鎖との組み合わせで選択的会合を促進する一又は複数の変異を含む。いくつかの実施態様では、二重特異性抗体の両方の半抗体は、抗体軽鎖と抗体重鎖との選択的会合を促進する一又は複数の変異を含む(例えば、ある重鎖は正電荷を帯びた変異を有し、その対応する軽鎖は負電荷を帯びた変異を有するのに対して、他の重鎖は負電荷を帯びた変異を有し、その対応する軽鎖は正電荷を帯びた変異を有する。又は、その逆の場合も同じである)。いくつかの実施態様では、二重特異性抗体の半抗体の一方のみが、抗体軽鎖と抗体重鎖との選択的会合を促進する一又は複数の変異を含む(例えば、ある重鎖は正電荷を帯びた変異を有し、その対応する軽鎖は負電荷を帯びた変異を有する。又は、その逆の場合も同じである)。
【0131】
[0151] いくつかの実施態様では、抗体重鎖(例えば、CH1ドメイン)はS183でのアミノ酸置換を含み、抗体軽鎖(例えば、CLドメイン)はV133でのアミノ酸置換を含む(EUインデックスに基づいて番号付け)。いくつかの実施態様では、S183置換は、S183A、S183T、S183V、S183Y、S183F、S183H、S183N、S183D、S183E、S183R、及びS183Kからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、V133置換は、V133E、V133S、V133L、V133W、V133K、V133R、及びV133Dからなる群より選択される。いくつかの実施態様では、S183でのアミノ酸置換は正電荷を帯びた残基をもたらし、V133でのアミノ酸置換は負電荷を帯びた残基をもたらす。いくつかの実施態様では、S183でのアミノ酸置換は負電荷を帯びた残基をもたらし、V133でのアミノ酸置換は正電荷を帯びた残基をもたらす。
【0132】
[0152] 重鎖/軽鎖対の選択的会合を促進する変異は、重鎖の選択的会合を促進する変異(例えば、ノブ変異及びホール変異)と組み合わせることができる。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチド(例えば、二重特異性抗体)は、ノブ変異及びホール変異のセットと、抗体軽鎖と抗体重鎖との選択的会合を促進する一又は複数の変異とを含む。有利には、これは、一方又は両方の半抗体における適切な重鎖/軽鎖会合と、二重特異性抗体の適切なアセンブリを(例えば、各半抗体の二量体を形成するのとは対照的に)促進し、誤対合した副産物を少なくする。いくつかの実施態様では、本開示のポリペプチド鎖(例えば、二重特異性抗体又は半抗体の抗体重鎖)は、一又は複数のノブ変異又はホール変異と、抗体軽鎖と抗体重鎖との選択的会合を促進する一又は複数の変異とを含む。例えば、いくつかの実施態様では、二重特異性抗体の第1の抗体重鎖は、負電荷をもたらす変異(例えば、S183E変異)とホール変異とを含み、第1の抗体軽鎖は、正電荷をもたらす変異(例えば、V133K変異)を含み、二重特異性抗体の第2の抗体重鎖は、正電荷をもたらす変異(例えば、S183K変異)とノブ変異とを含み、第2の抗体軽鎖は、負電荷をもたらす変異(例えば、V133E変異)を含む。
【0133】
複数の多量体ポリペプチド及び多量体ポリペプチドの組成物
[0153] 本明細書に記載される方法によって産生される、多量体ポリペプチド、及び複数の多量体ポリペプチド又は多量体ポリペプチドの組成物がさらに提供される。有利には、本開示は、本明細書に記載される方法が、所望の多量体ポリペプチドの産生量がより高くかつ/又は誤対合した副産物などの不純物がより少ない多量体ポリペプチドの改善された産生を可能にすることを実証している。このため、いくつかの実施態様では、本開示の方法によって産生された複数の多量体ポリペプチド及び多量体ポリペプチド組成物は、既存の技法によって産生された複数の多量体ポリペプチド及び多量体ポリペプチド組成物と比較して(例えば、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドの一又は複数、2つ以上、3つ以上、又は4つが、天然又は非修飾翻訳開始配列と作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含む発現、又は多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれが、同じ翻訳開始配列を含む発現と比較して)、より少ない数の誤対合した副産物を含む。いくつかの実施態様では、本開示の方法によって産生された複数の多量体ポリペプチド及び多量体ポリペプチド組成物は、既存の技法によって産生された複数の多量体ポリペプチド及び多量体ポリペプチド組成物と比較して(例えば、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドの一又は複数、2つ以上、3つ以上、又は4つが、天然又は非修飾翻訳開始配列と作用可能に結合したオープンリーディングフレームを含む発現、又は多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれが、同じ翻訳開始配列を含む発現と比較して)、誤対合した副産物に対してより高い比率の多量体ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖のすべては、単一の真核生物(例えば、哺乳動物)細胞から産生される。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。
【0134】
多量体タンパク質の産生
[0154] 宿主細胞(例えば、下記のセクションIIIに記載されるようなもの)は、一又は複数のポリヌクレオチド又はベクター(例えば、発現ベクター)で形質転換され、プロモーターを誘導する、形質転換体を選択する、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するのに適するように修飾された従来の栄養培地で培養される。
【0135】
[0155] 本開示の所望の多量体ポリペプチドを産生するのに使用される宿主細胞又はそのサブユニットは、さまざまな培地で培養され得る。ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ修飾イーグル培地((DMEM)、Sigma)等の市販の培地が、宿主細胞の培養に好適である。さらに、Ham et al., Meth. Enz. 58:44(1979)、Barnes et al., Anal. Biochem.102:255(1980)、米国特許第4,767,704号;同第4,657,866号;同第4,927,762号;同第4,560,655号;若しくは同第5,122,469号;国際公開第90/03430号;同第87/00195号;又は米国再特許第30,985号に記載される培地のいずれも、宿主細胞の培養培地として使用され得る。これらの培地のうちのいずれかには、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、又は上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩等)、緩衝液(HEPES等)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジン等)、抗生物質(GENTAMYCINTM薬物等)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終密度で存在する無機化合物と定義される)、並びにグルコース又は等価エネルギー源が補充され得る。任意の他の必要な補充物も当業者に既知の適切な濃度で含まれ得る。培養条件、例えば、温度、pH等は、発現のために選択された宿主細胞で既に使用したものであり、当業者に明らかであろう。
【0136】
[0156] 本開示の多量体ポリペプチドを回収するための方法が本明細書に記載される。組み換え技術を使用するとき、本開示の多量体ポリペプチド又はそのサブユニットは、細胞内で産生されるか、又は培地に直接分泌される。ポリペプチドが細胞内に産生される場合、第1のステップとして、粒子状残屑、宿主細胞、又は溶解された断片のいずれかが、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去される。ポリペプチドが培地に分泌される場合、かかる発現系由来の上清が、一般に、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、Amicon又はMillipore Pellicon限外濾過装置を使用して最初に濃縮される。タンパク質分解を阻害するために、PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤が前述のステップのいずれかに含まれてもよく、外来性混入物の増殖を防止するために、抗生物質が含まれてもよい。
【0137】
[0157] 細胞から調製されたポリペプチド組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及び親和性クロマトグラフィーを使用して精製され得、親和性クロマトグラフィーが好ましい精製技法である。タンパク質Aの親和性リガンドとしての好適性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用することができる(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62:1-13(1983))。タンパク質Gは、すべてのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に対して推奨される(Guss et al.,EMBO J.5:15671575(1986))。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御細孔ガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリックスにより、アガロースで達成され得るよりも速い流速及び短いプロセシング時間が可能になる。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J. T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。タンパク質精製のための他の技法、例えば、イオン交換カラム上での分別、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリン上でのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム等)上でのSEPHAROSETMクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿も、回収される抗体に応じて利用可能である。
【0138】
[0158] 任意の予備精製ステップ(複数可)の後、目的とするポリペプチド及び夾雑物を含む混合物が、約2.5~4.5のpHの溶出緩衝液を使用して、好ましくは、低塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で行われる、低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供され得る。抗原結合ポリペプチドの産生は、(上述の特定の方法のうちのいずれかに対して)代替的に又は追加的に、ポリペプチドの混合物を含む溶液を透析することを含む。
【0139】
[0159] 一実施態様では、本開示の多量体ポリペプチド又はここで産生されるそのサブユニットは、さらなるアッセイ及び使用のために、実質的に同種の調製物を得るようにさらに精製される。当該技術分野で既知の標準のタンパク質精製方法が用いられ得る。以下の手順は、適切な精製手順の例である:免疫親和性又はイオン交換カラム上での分別、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ又は陽イオン交換樹脂(DEAE等)上でのクロマトグラフィー、クロマト分画、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、及び例えばSephadex G-75を使用したゲル濾過。
【0140】
[0160] 多量体ポリペプチドの精製は、例えば、プロテインA又はプロテインGカラムクロマトグラフィーを含む、既知のクロマトグラフィー技法を用いて行うことができる。一実施態様では、目的とする多量体ポリペプチドは、カオトロピック剤又は中性洗剤を含有する溶液中への溶出によって、カラムの固相から回収されてもよい。例示的なカオトロピック剤及び中性洗剤には、グアニジン-HCI、尿素、過塩素酸リチウム(lithium perclorate)、アルギニン、ヒスチジン、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Tween、Triton、及びNP-40が含まれるが、これらに限定されず、これらのすべては市販されている。
【0141】
[0161] 一実施態様では、固相に固定化されたプロテインAが、例えば、本発明の抗原結合ポリペプチドの免疫親和性精製に使用される。プロテインAは、高親和性で抗原結合ポリペプチドのFc領域に結合する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の41kDの細胞壁タンパク質である。Lindmark et al.(1983)J. Immunol. Meth. 62:1 -13。タンパク質Aが固定化される固相は、好ましくは、ガラス又はシリカ表面を含むカラム、より好ましくは、制御細孔ガラスカラム又はケイ酸カラムである。いくつかの用途では、このカラムは、夾雑物の非特異的付着を阻止するために、グリセロール等の試薬でコーティングされている。
【0142】
[0162] 精製の第1のステップとして、上述のように細胞培養から得られた調製物がプロテインA固定化固相に適用されて、目的とする抗原結合ポリペプチドのプロテインAへの特異的結合を可能にする。その後、固相は洗浄され、固相に非特異的に結合した夾雑物が除去される。抗原結合ポリペプチド(例えば、抗体等)が、溶出により固相から回収される。
【0143】
スクリーニング方法
[0163] 本開示の真核宿主細胞において多量体ポリペプチドを発現するための翻訳開始配列の組み合わせを同定するための方法もまたさらに提供される。いくつかの実施態様では、この方法は、複数の真核宿主細胞を含むライブラリを用意することと、複数の真核宿主細胞による多量体ポリペプチドの発現に適した条件下で真核宿主細胞のライブラリを培養することと、複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンによって産生された多量体ポリペプチドの量を測定することと、多量体ポリペプチドを産生する、一又は複数の、複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞又は複数の真核宿主細胞の単一真核宿主細胞のクローンの、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列を同定することと、を含む。このような方法の例は、下記に記載及び例示される。
【0144】
[0164] いくつかの実施態様では、本開示のライブラリは、本開示の複数の宿主細胞を含む。いくつかの実施態様では、複数の宿主細胞の二つ以上、又はすべては、本明細書に記載されるサブユニット又は多量体ポリペプチドの各ポリペプチド鎖をコードするのに必要なポリヌクレオチドのセットを含む。例えば、いくつかの実施態様では、ライブラリ中の宿主細胞の複数又はすべては、本開示の多量体ポリペプチドの第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含む。いくつかの実施態様では、複数の宿主細胞又はライブラリは、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列の複数の組み合わせを含む。このため、ライブラリのスクリーニングは、目的の特性(例えば、高レベルの発現又は低レベルの誤対合した副産物などの多量体ポリペプチドの発現)を生じさせる翻訳開始配列の組み合わせを同定するのに使用することができる。本開示は、多量体ポリペプチドの発現が、構成ポリペプチド鎖の一又は複数をコードするポリヌクレオチドに作用可能に結合した翻訳開始配列の強度を調整することにより改善され得ることを実証している。
【0145】
[0165] いくつかの実施態様では、複数の宿主細胞の各宿主細胞におけるオープンリーディングフレームに作用可能に結合した翻訳開始配列の一又は複数は、配列5’から3’)NNNNNATGNGAを含み、ここで、Nは、C、G、A、又はT/U(配列番号1)である。
【0146】
[0166] 本明細書に記載されるさまざまな方法は、本開示の一又は複数の宿主細胞又は宿主細胞のクローン集団によって産生された多量体ポリペプチドの量を測定するのに使用することができる。例えば、一過性のトランスフェクタント又は安定したトランスフェクタントを培養し、多量体のポリペプチドの産生を測定することができる。フェドバッチ培養又は灌流培養を行い、細胞培地中又は細胞表面上の産生物の力価を測定することができる。表面発現については、細胞を抗体で染色して、産生物を検出し、例えばフローサイトメトリーにより、分析することができる。産生物の質及び/又は純度は、例えば電気泳動及び/又は質量分析などを用いて評価することができる。
【0147】
[0167] 本開示の抗体は、コンビナトリアルライブラリを所望される活性(複数可)を有する抗体についてスクリーニングすることによって、単離することができる。例えば、実施例3に記載の方法等のファージディスプレイライブラリを生成し、かつ所望の結合特性を有する抗体についてかかるライブラリをスクリーニングするための様々な方法が当該技術分野で既知である。追加の方法は、例えば、Hoogenboomら、Methods in Molecular Biology、178:1~37(O’Brienら編、Human Press、Totowa、NJ、2001)でレビューされ、例えば、McCaffertyら、Nature、348:552~554、Clacksonら、Nature、352:624~628(1991)、Marksら、J.Mol.Biol.、222:581~597(1992)、Marks及びBradbury、Methods in Molecular Biology、248:161~175(Lo編、Human Press、Totowa、NJ、2003)、Sidhuら、J.Mol.Biol.、338(2):299~310(2004)、Leeら、J.Mol.Biol.、340(5):1073~1093(2004)、Fellouse、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、101(34):12467~12472(2004)、並びにLeeら、J.Immunol.Methods、284(1~2):119~132(2004)でさらに説明されている。
【0148】
[0168] ある種のファージディスプレイ法では、VH及びVL遺伝子のレパートリはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)により別々にクローニングされ、ファージライブラリ内で無作為に再結合され、次いでWinterら、「Ann.Rev.Immunol.」、第12巻:第433~455頁(1994年)に記載されているような、抗原結合ファージに対してスクリーニングすることが可能である。ファージは、典型的には、一本鎖Fv(scFv)断片として、又はFab断片としてのいずれかで、抗体断片を提示する。免疫化源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築する必要なく、免疫原に対する高親和性抗体を与える。あるいは、ナイーブレパートリは、Griffithsら、EMBO J、12:725~734(1993)によって記載されているように、免疫化を行わずに、広範囲の非自己抗原及び自己抗原にも対する抗体の単一供給源を提供するために、(例えば、ヒトから)クローン化することができる。最後に、天然ライブラリはまた、Hoogenboom及びWinter、「J.Mol.Biol.」、第227巻第381~388頁(1992年)に記載されるように、幹細胞からの再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含有するPCRプライマーを使用して高度可変CDR3領域をコードし、in vitroで再配列を遂行することによって、合成的に作製することができる。ヒト抗体ファージライブラリを説明する特許刊行物には、例えば、以下が含まれる:米国特許第5,750,373号、並びに米国特許公開第2005/0079574号書、同第2005/0119455号、同第2005/0266000号、同第2007/0117126号、同第2007/0160598号、同第2007/0237764、同第2007/0292936号、及び同第2009/0002360号。
【0149】
III.細胞
[0169] 例えばセクションIIに記載される方法に従って、多量体ポリペプチドの産生に有用な組み換え真核宿主細胞も本明細書で提供される。いくつかの実施態様では、細胞は、本開示の多量体ポリペプチドの第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含む。いくつかの実施態様では、第1のサブユニットは、各サブユニットが組み換え真核宿主細胞において個別に発現されるとき、第2のサブユニットよりも低いレベルで発現され、第1の翻訳開始配列及び第2の翻訳開始配列のうちの一方又は両方は、第3の翻訳開始配列及び第4の翻訳開始配列のうちの一方又は両方よりも弱い。いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドは、組み換え真核宿主細胞に対して非天然である。いくつかの実施態様では、組み換え真核宿主細胞は、単離された組み換え真核宿主細胞である。
【0150】
[0170] いくつかの実施態様では、本開示の宿主細胞は真核細胞である。いくつかの実施態様では、本開示の宿主細胞は哺乳動物細胞である。
【0151】
[0171] 適切な宿主細胞には、脊椎動物宿主細胞を含む、本明細書に記載される高等真核生物細胞が含まれる。培養(組織培養)における脊椎動物細胞の繁殖が日常的な手技になっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胎児腎臓株(浮遊培養での増殖のためにサブクローン化された293又は293細胞、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59(1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 77:4216(10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO, Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TTM4, Mather, Biol. Reprod. 23:243-251(1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68(1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。
【0152】
[0172] いくつかの実施態様では、本開示の宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又は細胞株である。いくつかの実施態様では、本開示の宿主細胞は、CHO-K1細胞株である(例えば、ATCCカタログ番号CCL-61TM及びLewis, N.E. et al.(2013)Nat. Biotechnol. 31:759-765を参照)。いくつかの実施態様では、本開示の宿主細胞は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)活性が欠損したCHO細胞である(例えば、Urlaub, G. and Chasin, L.A.(1980)Proc. Natl. Acad. Sci. 77:4216-4220を参照)。
【0153】
[0173] いくつかの実施態様では、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖のすべては、単一の真核生物(例えば、哺乳動物)細胞から産生される。有利には、これにより、2つのサブユニット(例えば、半抗体)が産生後にin vitroで組み立てられる場合のように、多量体ポリペプチド(例えば、二重特異性抗体)の産生後の組み立てが不要になる。
【0154】
[0174] 本明細書に記載されるプロモーター及び/又は翻訳開始配列のいずれかは、本開示の宿主細胞において使用を見出すことができる。
【0155】
[0175] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードする一又は複数のポリヌクレオチドは、本開示の宿主細胞の染色体上に(例えば、組み込みを介して)存在する。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれは、本開示の宿主細胞の染色体上に(例えば、組み込みを介して)存在する。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれは、本開示の宿主細胞の同じ染色体又は染色体座上に(例えば、組み込みを介して)存在する。
【0156】
[0176] 本開示のポリヌクレオチドの宿主細胞染色体上への安定な組み込み又は安定なトランスフェクションは、本開示の多量体ポリペプチドを産生するための安定な産生細胞株を提供し得る。ランダムな組み込み又は部位特異的な組み込みを含む、ポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに組み込むのに適した様々なアプローチが当該技術分野で知られている(例えば「ランディングパッド」手法)。例えば、Zhao, M. et al.(2018)Appl. Microbiol. Biotechnol. 102:6105-6117;Lee, J.S. et al.(2015)Sci. Rep. 5:8572;及びGaidukov, L. et al.(2018)Nucleic Acids Res. 46:4072-4086を参照のこと。
【0157】
[0177] いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードする一又は複数のポリヌクレオチドは、宿主細胞において染色体外ポリヌクレオチドとして維持される。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれは、宿主細胞において染色体外ポリヌクレオチドとして維持される。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードする一又は複数のポリヌクレオチドは、ベクター(例えば、発現ベクター)に存在する。いくつかの実施態様では、本開示の多量体ポリペプチドのサブユニットのポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドのそれぞれは、一又は複数のベクター(例えば、発現ベクター)に存在する。
【0158】
[0178] ベクター成分には、一般に、シグナル配列、複製起点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列のうちの一又は複数が含まれるが、これらに限定されない。
【0159】
[0179] 真核宿主細胞で使用するためのベクターは、目的とする成熟タンパク質又はポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有するシグナル配列又は他のポリペプチドも含有し得る。好ましく選択される異種シグナル配列は、宿主細胞によって認識及び処理される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)配列である。哺乳動物細胞発現において、哺乳動物シグナル配列及びウイルス分泌リーダー、例えば、単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。かかる前駆体領域のDNAは、リーディングフレームにおいて、所望の抗原結合ポリペプチド(複数可)(例えば、抗体)をコードするDNAに連結される。
【0160】
[0180] 一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターに必要ではない。例えば、SV40起点が典型的に使用され得るが、これは単に、SV40起点が初期プロモーターを含有するためである。
【0161】
[0181] 本明細書に記載されるプロモーター及び/又は翻訳開始配列のいずれかは、本開示のベクターにおいて使用を見出すことができる。
【0162】
[0182] 発現ベクター及びクローニングベクターは、選択遺伝子、別名、選択可能なマーカーを含有し得る。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又は他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、又はテトラサイクリンへの耐性を付与するタンパク質、(b)関連性がある場合、栄養要求性欠損を補足するタンパク質、又は(c)複合培地から入手不可能な重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0163】
[0183] 選択スキームの一例は、宿主細胞の成長を停止する薬物を利用する。異種遺伝子での形質転換に成功した細胞は、薬物耐性を与え、それ故に選択レジメンで生き残るタンパク質を産生する。かかる優性選択の例は、薬物ネオマイシン、ミコフェノール酸、及びハイグロマイシンを使用する。
【0164】
[0184] 哺乳動物細胞に好適な選択可能なマーカーの別の例は、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン-I及び-II、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等の、抗体核酸を取り込むための細胞成分の同定を可能にするものである。
【0165】
[0185] 例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、形質転換体のすべてを、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトレキサート(Mtx)を含有する培養培地中で培養することによって最初に同定される。野生型DHFRが用いられる場合、適切な宿主細胞は、DHFR活性が欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(例えば、ATCC CRL- 9096)である。
【0166】
[0186] あるいは、本開示のポリペプチド鎖をコードするDNA配列、野生型DHFRタンパク質、及び別の選択可能なマーカー、例えば、アミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ(APH)で形質転換又は共形質転換された宿主細胞(具体的には、内因性DHFRを含有する野生型宿主)は、アミノグリコシド抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、又はG418等の選択可能なマーカー用の選択剤を含有する培地中での細胞成長によって選択され得る。例えば、米国特許第4,965,199号を参照されたい。
【0167】
[0187] 真核宿主細胞で使用される発現ベクターは、典型的には、転写終結及びmRNAの安定化に必要な配列も含有する。かかる配列は一般的に、真核又はウイルスDNA又はcDNAの5’非翻訳領域、時折、3’非翻訳領域から入手可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分中のポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含有する。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号及びそこで開示される発現ベクターを参照されたい。
【0168】
[0188] 宿主細胞は、所望のポリペプチド(複数可)(例えば、多量体ポリペプチド等)の産生のために、上述の発現ベクター又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適宜改変された従来の栄養素培地中で培養される。
【0169】
IV.キット及び製造品
[0189] 例えば多量体ポリペプチドの発現に有用なキット又は製造品が本明細書でさらに提供される。
【0170】
[0190] いくつかの実施態様では、キットは、多量体ポリペプチドのポリペプチド鎖及び/又はサブユニットのそれぞれをコードするポリヌクレオチドのセットを含む。例えば、いくつかの実施態様では、キットは、本開示の多量体ポリペプチドの第1のポリペプチド鎖をコードする第1のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第1の翻訳開始配列を含む第1のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第2のポリペプチド鎖をコードする第2のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第2の翻訳開始配列を含む第2のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第3のポリペプチド鎖をコードする第3のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第3の翻訳開始配列を含む第3のポリヌクレオチドと、本開示の多量体ポリペプチドの第4のポリペプチド鎖をコードする第4のオープンリーディングフレームに作用可能に結合した第4の翻訳開始配列を含む第4のポリヌクレオチドとを含む。いくつかの実施態様では、第1、第2、第3、及び第4の翻訳開始配列のうちの一又は複数は、それぞれのオープンリーディングフレームが天然に存在する宿主細胞ゲノム中に存在する場合、そのそれぞれのオープンリーディングフレームに作用可能に結合していない。
【0171】
[0191] いくつかの実施態様では、本開示のキット中のポリヌクレオチドのそれぞれは、本開示の一又は複数の発現ベクターの一部である。
【0172】
[0192] いくつかの実施態様では、本開示のキット中のポリヌクレオチドのそれぞれは、本開示のプロモーターに作用可能に結合している。例えば、いくつかの実施態様では、ポリヌクレオチドのそれぞれは、異なるプロモーターに作用可能に結合している。いくつかの実施態様では、ポリヌクレオチドの2つ以上は、同じプロモーターに作用可能に結合している。例えば、多量体ポリペプチドが二重特異性抗体である場合、各抗体の重鎖及び軽鎖のオープンリーディングフレームをコードするポリヌクレオチドは、同じプロモーターに作用可能に結合することができる。いくつかの実施態様では、「同じプロモーター」は、同じ物理的ポリヌクレオチドを指す。いくつかの実施態様では、「同じプロモーター」は、同じプロモーター配列を共有する物理的に異なるポリヌクレオチドを指す。
【0173】
[0193] いくつかの実施態様では、キット又は製造品は、例えば、上のセクションIIに記載される方法のいずれかに従って、又は上のセクションIIIに記載される宿主細胞のいずれかを使用する、本開示のサブユニット又は多量体ポリペプチドの産生のためのポリヌクレオチドのセットの使用についての説明書をさらに含む。
【実施例0174】
[0194] 本開示は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解されることになる。しかしながら、実施例は、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に記載の実施例及び実施態様が例証のみを目的とするものであり、それを考慮に入れた様々な修正又は変更が当業者に提案されており、本明細書の趣旨及び範囲並びに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【0175】
実施例1:哺乳動物細胞の一過性トランスフェクションにおけるコザック配列バリアントによるタンパク質産生の調整
[0195] 現在、哺乳動物細胞内で組み換えタンパク質の翻訳レベルを正確に制御する体系的なアプローチはほとんど存在しない。翻訳がポリペプチドの合成を開始する領域は、翻訳開始部位(TIS)と呼ばれる。翻訳開始部位(TIS)は、開始コドンとその隣接する塩基からなる。真核生物では、翻訳開始は通常、走査機構モデルに従い(Kozak M. Cell. 1978;15(4):1109-23)、これは、小さな40Sリボソームサブユニット、Met-tRNA、eIF2-GTP、eIF1、eIF1A、eIF3、及びeIF5からなるリボソーム開始前複合体を前提とし、mRNAの5’末端で結合し、開始コドンを求めて3’方向に直線的に進む。小さな40Sリボソームサブユニットを開始コドン中に配置した後、開始因子は解離し、大きなサブユニットは小さな40Sリボソームサブユニットに結合してリボソーム複合体を形成し、翻訳が開始する(Nanda JS, Saini AK, Munoz AM, Hinnebusch AG, Lorsch JR. J Biol Chem. 2013;288(8):5316-29;Pestova TV, Kolupaeva VG. Genes Dev. 2002;16(22):2906-22)。開始は、必ずしも5’末端に最も近い開始コドン(AUG)に制限されるわけではない。第1のAUGコドンが最適な状況で生じる場合、リボソーム複合体は翻訳を開始するが、第1のAUGトリプレットの周りの翻訳開始部位(TIS)が準最適である場合、一部の40Sサブユニットは、その部位をバイパスし、さらに下流で開始する。したがって、細胞はTISを調整することによってタンパク質翻訳レベルを制御することができるため、開始コドンの周りの配列は、開始とそれに続く翻訳効率の強化において重要な役割を果たす(Kozak M. J Biol Chem. 1991;266(30):19867-70;Kozak M. J Cell Biol. 1991;115(4):887-903;Sonenberg N, Hinnebusch AG. Cell. 2009;136(4):731-45;Ivanov IP, Loughran G, Sachs MS, Atkins JF. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(42):18056-60)。
【0176】
[0196] コザックは、CCRCCAUGG(プリン、R=A又はG;開始コドンに下線)が非常に効率的な哺乳動物TISであることを報告した(Kozak M. Nucleic Acids Res. 1981;9(20):5233-52)。その配列内で、-3位のプリン(AUGコドンの3ヌクレオチド上流)は、脊椎動物のメッセンジャーRNAにおいて最も高度に保存されている(Kozak M. Nucleic Acids Res. 1987;15(20):8125-48)。点変異の研究は、最適な翻訳効率にとって重要であるとして、-3位のA又はG、及び+4位のG(AUGコドンの直後)の重要性の証拠を提供する(Kozak M. EMBO J. 1997;16(9):2482-92)。コザックコンセンサス配列は、種間で長さとヌクレオチド組成が異なるが、種内のほとんどの遺伝子で保存されている。驚くことではないが、コザック配列の点突然変異は、高等真核生物(Kozak M. Cell. 1986;44(2):283-92)と低等真核生物(Dvir S, Velten L, Sharon E, Zeevi D, Carey LB, Weinberger A, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013;110(30):E2792-801)の両方で翻訳開始に影響を及ぼし、がん及び代謝障害などのヒトの疾患の発症に関連してきた(Sonenberg N, Hinnebusch AG. Cell. 2009;136(4):731-45;Mohan RA, van Engelen K, Stefanovic S, Barnett P, Ilgun A, Baars MJ, et al. Am J Med Genet A. 2014;164A(11):2732-8)。
【0177】
[0197] コザック配列のバリアントが工業化された産生体細胞株におけるタンパク質産生を調整できるかどうかを調査するために、Fc融合タンパク質をコードするORFの開始コドンの上流の-3位と、-3位、-2位、-1位の組み合わせとを変化させた。
【0178】
方法
細胞株及び細胞培養
[0198] CHO細胞株を、プレートでの一過性トランスフェクションアッセイ、及び標的組み込みを介した構成的抗体産生細胞株に使用した。150rpm、37℃及び5% CO2の125mLの振盪フラスコ容器中のDMEM/F12系培地中でCHO細胞を培養した。3~4日毎に3×105細胞/mlの播種密度で細胞を継代した。
【0179】
一過性トランスフェクション
[0199] 製造業者の勧告に従って(Invitrogen, Carlsbad, CA)、リポフェクタミン2000 CDを使用して一過性トランスフェクションプラスミドでCHO細胞を形質転換した。内部対照として、高発現抗体及び低発現抗体のDNAも保有した。簡潔には、500μlの培地中のDNAベクター(2μg)プラス10μlのリポフェクタミンを室温で30分間インキュベートし、複合体の形成を促進させた。DMEM/F12系培地中で指数関数的に成長するCHO細胞プラス5% DFBSを含有する96ウェルプレート(FalconR)にトランスフェクション複合体を移し、総作業量がおよそ2.5mlになるようにした。形質転換された細胞を、37℃、5% CO2、湿度80%で培養した。トランスフェクションから24時間後、細胞培養培地を産生培地に交換し、その後、細胞を33℃で培養した。各トランスフェクションは2つの生物学的複製で実施した。抗体濃度の決定については、上清サンプルをトランスフェクションから48時間後に培養物から回収し、HTRF(均一時間分解FRET)アッセイによって複製でアッセイした。
【0180】
均一時間分解FRET(HTRF)アッセイ
[0200] HTRFアッセイについては、Degorce, F., et al.(2009)Curr Chem Genomics 3:22-32を参照のこと。
【0181】
コザック配列バリアントの設計及び構築
[0201] コザック(Kozak M. Nucleic Acids Res. 1987;15(20):8125-48)によって決定された、脊椎動物の翻訳開始部位周辺のヌクレオチド頻度に基づき、これらの位置で頻度が低い及び頻度が中程度のバリアントを、
図1に示すように設計した。Fc融合タンパク質A又はBのコザック配列バリアントのDNAは、Genewiz, Inc.によって合成された。バリアントを、CMVプロモーターの転写制御下でアンピシリン耐性マーカーを使用して、Genentechの一過性トランスフェクションベクター特性でクローン化した。ユニバーサルフォワードプライマー及びユニバーサルリバースプライマーを使用して配列の検証を行った。
【0182】
DNAライブラリ設計
[0202] Fc融合タンパク質Bを、コザック配列の合成DNAライブラリのための骨格として使用した。多様化する位置は、4つのヌクレオチドのいずれかに対する開始コドンの-5、-4、-3、-2、-1、及び+4であった。ライブラリはGenewiz, Inc.によって合成された。ライブラリを、CMVプロモーターの転写制御下でアンピシリン耐性マーカーを使用して一過性トランスフェクションベクターでクローン化した。ライブラリをMax Efficiency(登録商標)DH5αコンピテント細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)中に形質転換し、個別のコロニーの選択を最適化するために希釈を複数回行った。個別のコロニーのDNAの調製を、製造業者の勧告に従って行った(QIAGEN, Hilden, Germany)。ユニバーサルフォワードプライマー及びユニバーサルリバースプライマーを使用して配列決定を行った。
【0183】
安定なベクター構築
[0203] 2つの組み込み抗体発現ベクターを使用して、二重特異性の安定な細胞株を発生させた。発現ベクターは、2つの別個のユニットとして重鎖(HC)と軽鎖(LC)の両方の転写を指示する2つの別個のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含有する。Streptomyces alboniger ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ(PUR)( Vara JA, Portela A, Ortin J, Jimenez A. Nucleic Acids Res. 1986;14(11):4617-24)遺伝子を、一方のプラスミドにおける選択マーカーとして使用した。ハイグロマイシン耐性(Hyg R)をもたらす正負選択マーカーを含有する融合タンパク質をコードする遺伝子を、他方のプラスミドにおける選択可能マーカーとして使用した。異なるコザック配列バリアント下で5本の重鎖と5本の軽鎖の組み合わせをクローン化することによって1群当たり25の発現ベクターを生成して、コザック混合プールを生成した。2つの発現プラスミド(Wtコザック配列下で重鎖と軽鎖を有する各抗体に1つ)を使用して、Wt コザックプールを発生させた。
【0184】
安定な細胞株の発生
[0204] 製造業者の勧告に従ってMaxCyte STX Transfection Systemを使用して(MaxCyte, Gaithersburg, MD)、CHO細胞を形質転換した。形質転換した細胞を2つの別個のプールにプールし、ピューロマイシン5μg/ml及びFIAU 0.5μMを含有する選択的培地で選択した。回収後、0.5mm細孔サイズのIntegra Viafill滅菌8チャネル管(IntegrΛ)を備えたWellmate Microplateディスペンサ(Thermo Matrix)を使用して、1細胞/ウェルでの希釈を384ウェルの透明な平底組織培養処理プレート(Corning Inc, Corning, NY)に制限することにより、1つのプールに単一細胞クローニング(SCC)を施した。プレートを37℃及び5% CO2でインキュベートした。播種の3~4週間後、704の個別のコロニーを96ウェルプレート(Corning Inc, Corning, NY)中に採取し、約2日後に均一時間分解FRET(HTRF)を使用して抗体産生について評価した。上位48、続いて上位24の抗体発現クローンを、HTRFを介してアッセイした。上位11の単一細胞クローンを懸濁液の成長に適応させ、産生アッセイで評価した。上位のクローンと比較して中程度及び低いHCCF力価を示したさらに7つのクローンも、さらなる分析のために選択した。
【0185】
振盪フラスコフェッドバッチ産生アッセイ
[0205] 化学的に定義された基本培地を含む振盪フラスコ(Corning Inc, Corning, NY)中で、7日目及び10日目にボーラス投与を伴って、フェッドバッチ産生培養を実施した。1.0x106細胞/mlで細胞を播種した。37℃から35℃への温度変更が3日目に行われた。14日目の力価は、UV検出を伴うプロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して決定された。0日目、3日目、7日目、10日目、及び14日目に、Vi-Cell XR機器(Beckman Coulter)を使用して、生存率及び生細胞数を決定した。Bioprofile 400 Analyzer(Nova Biomedical)を使用して、7日目及び14日目にグルコース濃度及び乳酸濃度をモニターした。
【0186】
抗体表面染色プロトコル
[0206] 抗体表面染色について、約2百万個の細胞をペレット化し、PBSバッファーで2回洗浄した。その後、抗ヒトIgG(H+L)アロフィコシアニン(APC)コンジュゲート二次抗体(Jackson Immunoresearch, West Grove, PA)を1:100の希釈で含有する0.5mLのPBSに細胞を再懸濁し、振盪しながら37℃で20分間インキュベートした。非染色の対照サンプルを、抗体を含まないPBSに再懸濁した。空の宿主も染色してゲートを設定した。染色抗体で20分間インキュベートした後、細胞をPBSで1回洗浄し、400μlのPBSに再懸濁した。その後、細胞をFACscanフローサイトメーター(Attune NxT Flow Cytometer, Life Technologies)で分析した。各分析について、20000の事象を記録した。
【0187】
産生物品質分析
[0207] 総タンパク質A-精製抗体に非還元キャピラリー電気泳動キャピラリードデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)を施すことにより、標準的な産生物品質分析を行った。TECAN Evo200システムを使用して、サンプル調製を自動化した。すべてのサンプルを1mg/mlに希釈して、一貫した液体処理を確実にし、最適な色素対タンパク質比を維持した。調製した試料をlabChip GXIIシステムで直ちに分析し、Chromeleonソフトウェアを使用してデータ処理した。シグナル強度、ピークプロファイル、及び相対的なピーク面積の分布を評価した。
【0188】
質量分光光度法
[0208] タンパク質産生物関連バリアントを同定及び定量化するために、HPLC-Chip分離及びイオン源を使用して、Agilent 6230 Time-of-Flight質量分析計で、定性分析及び質量決定を実施した。MassHunterソフトウェアを使用してデータデコンボリューションを実施した。我々は、二重特異性並びにLC及びHCの化学量論が正しくない種のイオン存在量を決定した。
【0189】
ゲノムDNA抽出、PCR増幅、及び配列決定
[0209] 製造業者のマニュアルに従って、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN, Hilden, Germany)を使用して、ゲノムDNAの抽出を実施した。SimpliNano Microvolume Spectrophotometer(GE Lifesciences)を用いてゲノムDNAを定量化した。Q5(登録商標)Hot Start High-Fidelity 2X Master Mix(New England Biolabs)を使用して、PCR増幅を実施した。1μgのgDNAをテンプレートとして使用した。PCR条件を最適化した。64℃のアニール温度及び30サイクルを使用した。各鎖の可変領域の特異的なアニーリングプライマーは、分子間で同じ鎖を区別するように設計されている。以下のフォワードプライマー(F)及びリバースプライマー(R)を使用して、Ab1重鎖、Ab1軽鎖、Ab2重鎖、及びAb2軽鎖を増幅させた:HC-Ab1:F-5’-GATACCAGCACCAGCACCGCCT-3’(配列番号12)及びR-5’-ATGGGCGGTAGGCGTGTACGG-3’(配列番号13);LC-Ab1:F-5’-CTGAACAGCCGCACCCGCAA-3’(配列番号14)及びR-5’-ATGGGCGGTAGGCGTGTACGG-3’(配列番号15);HC-Ab2:5’-GTGATTTGGCGCGGCGGCA-3’(配列番号16)及びR-5’-ATGGGCGGTAGGCGTGTACGG-3’(配列番号17);及びLC-Ab2:5’-GTGCGCAACCTGGTGGTGTGG-3’(配列番号18)及びR-5’-ATGGGCGGTAGGCGTGTACGG-3’(配列番号19)。製造業者の指示に従ってPCR purification Kit(QIAGEN)を用いてPCR産生物を洗浄し、12ウェル、2%の予め作られたアガロースゲルで正しいサイズを分析した(Thermo Fisher Scientific)。以下のプライマーを使用して、配列決定を実施した:SEQ1:5’-AACGGTGCATTGGAACGCGG-3’(配列番号20)及びSEQ2:5’-TGGCTTCGTTAGAACGCAGC-3’(配列番号21)。各クローンの各鎖のコザック配列バリアントを少なくとも2回確認した。配列決定により、鎖のうちの一本が存在しないコザック混合クローンが明らかになった。Ab2-LC、Ab2-HC、Ab1-LC、Ab2-HC、及びAb1-LCについて、これらは、それぞれ、コザック混合クローン3、11、29、60、21Lであった。コザック混合クローン24は、Ab1のHC及びLCを有しない(
図23A-23C)。
【0190】
結果
[0210] コンセンサスコザック配列の変化が工業化された産生体細胞株におけるタンパク質産生を調整できるかどうかを調査するために、Fc融合タンパク質「A」をコードするORFの開始コドンの上流の-3位と、-3位、-2位、-1位の組み合わせとを変化させた(
図1)。CHO産生細胞株における一過性トランスフェクションによりコザック配列バリアントを試験し、HTRF(均一時間分解蛍光)アッセイによってFc融合タンパク質産生をトランスフェクションの48時間後に評価した。十分に発現する抗体及び十分に発現しない抗体もまた、内部アッセイ対照として含まれた。
【0191】
[0211]
図2に示すように、コンセンサスコザック配列の変化は、Fc融合タンパク質Aの力価を調節した。その結果、-3位でのプリンの存在により(GCCATGG及びACCATGG、それぞれ配列番号4及び3)、高レベルのFc融合タンパク質Aの力価が産生されたことを確認した。評価された最弱のコザック配列バリアント、TTTATGG(配列番号7)は、コザックコンセンサスの半分のレベルで力価を調節した。以下、野生型(Wt)コザックと称する。
【0192】
[0212] To determine ifコザック配列バリアントが分子に関係なくタンパク質産生を調節することができるかを決定するために、異なるFc融合タンパク質におけるこれらの組み合わせを試験した:Fc融合「B」(
図2)。Fc融合Aのコザック配列バリアントでトランスフェクトされた細胞と同様に、Fc融合Bのコザック配列バリアントでトランスフェクトされた細胞は、Wtコザックと比較して力価を変化を示し、同様のパターンがFc融合Bのバリアントについて観察された。これらの結果は、Wtコザック配列の変化を使用して抗体力価を調整することができることを示唆した。
【0193】
実施例2:発現レベルの範囲を広げるためのコザック配列のライブラリの設計及びスクリーニング
[0213] Wtコザックの0.1×から1.0×倍の包括的な範囲の発現レベルを達成するために、追加のコザック配列バリアントを試験した。正常に機能する分子の代表であるFc融合タンパク質BをコードするORFを使用するコザック配列のバリアントライブラリを設計及びスクリーニングした。ライブラリは、開始コドンの上流(位置-5、-4、-3、-2、及び-1)の5つの塩基及び下流(位置+4)の1つの塩基の4つのヌクレオチドのいずれかへのランダム化を包含した(
図4)。この構築物の予想される多様性は、コザック配列の約4100のバリアントである。位置+4のランダム化は、この位置がアデニン(A)又はシトシン(C)に占有されていたとき、シグナル配列の第2の位置に存在するグリシンからアルギニンへのアミノ酸変化を生み出した。ライブラリはコンピテントな大腸菌細胞に形質転換され、設計されていない変異、欠失、及びシグナル配列の第2のアミノ酸として終止コドンを含有するバリアントを示したものを除外するために個別のバリアントのスクリーニングがなされ、これは、位置+4がチミン(T)に占有されていたときに生じた。
【0194】
結果
[0214] CHO細胞中における一過性トランスフェクションによる初回のスクリーニングは111の正しいバリアントで実施され、これには、シグナル配列の第2のアミノ酸の変化の対照として、Wtコザック及び位置+4にC又はAを有するWtコザックが含まれた。
図5に示す通り、HTRFアッセイによる一過性トランスフェクションの48時間後に測定されたFc融合タンパク質力価は、広範な発現レベルを示した。0.05から1.54単位の正規化された力価のほぼ連続的な範囲の翻訳が観察された。ここで、1.0はWtコザックに相当する。これらのバリアントは、さらなるバリアントスクリーニングが停止されるように、所望の発現範囲の目標を満たした。概して、開始コドンの上流のコザック配列に関係なく、位置+4におけるA又はCの存在が、Wtコザックにわたる力価を増加させた。スクリーニングは繰り返され、2つの独立した一過性トランスフェクションのデータが表された(
図5)。
【0195】
[0215]
図6に示す通り、分析されたバリアントのヌクレオチド分布がランダム化され、ライブラリスクリーニングが歪曲しなかったことを示した。次に、バリアントをそれぞれの力価及びパフォーマンスに基づいて5つのグループに分類した。グループの範囲は以下の通りであった:グループI、0.05-0.3;グループII、0.31-0.6;グループIII、0.61-0.8;グループIV、0.81-1.00;及びグループV、1.01-1.34。最弱のグループのほとんどの位置でのアデニンとチミンの優先度、及び最強のグループのシグナル配列の第2のアミノ酸としてのアルギニンを除いて、抗体産生とコザック配列バリアントとの間の他の相関関係は検出されなかった。バリアントの数を減少させるために、一過性トランスフェクションを数回行った(
図7)。バリアントをラウンドツーラウンドで選択するための基準は、一過性トランスフェクション間の再現性、異なるDNA調製物間の安定性、及びヌクレオチド多様性の保存であった。
図8Aー8Bで示すように、このスクリーニングは、11のコザック配列バリアントを確立した。これは、Wtコザックの0.2から1.3倍の発現範囲を示し、高精度で力価の調節を可能にする。
【0196】
実施例3:コザック配列バリアントの混合下の二重特異性の安定なクローンの生成
[0216] 二重特異性抗体のような複雑な抗体フォーマットの工学は進歩してきたが、単一の哺乳動物発現系における製造可能性は低いパフォーマンスを示すことが多い。低い力価と不十分な産生物品質は、二重特異性抗体(BsAb)の安定した産生を困難にする要因の2つである。結果として、産生システムの制限ステップを同定する緊急の必要性がある。単一細胞での二重特異性及び他の多重鎖フォーマットの組み立ての効率を制限する1つのボトルネックは、個別の鎖レベルの制御が制限されることである。多重鎖フォーマットで個別の鎖の比を調整できるベクターを設計すると、翻訳開始領域(TIR)バリアントを使用して大腸菌で以前に実証されたように組み立て効率を向上させることができる(Simmons LC, Yansura DG. Nat Biotechnol. 1996;14(5):629-34。例えば、
図9に示すとおり、BsAbを構成する軽鎖の比(LC1:LC2)は、正しく組み立てられたBsAbの割合がより高くなるように操作され得る。
【0197】
[0217] 二重特異性抗体を生成するには、二重特異性フォーマットにマージするための固有の親抗体比を同定する必要があるため、単一細胞でBsAbのより高い組み立てと産生をもたらすコザック配列バリアントの能力を試験した。タンパク質発現を調節するための技術としてのコザック配列バリアントの上首尾の適用は、安定な宿主細胞株の確立において評価された。そうするためには、Wtコザックを含む5つのバリアントの代表的なパネルを選択した(
図10及び
図8A)。これらのバリアントの相対タンパク質産生強度は、それぞれ、コザック配列バリアント#3、#135、#148、Wt、及び#228のWtコザック配列の約0.3×倍、約0.5×倍、約0.8×倍、約1.0×倍、及び約1.3×倍であった。よって、バリアントのパネルは、一過性トランスフェクションで観察された広範な発現レベルをカバーした(
図10)。
【0198】
[0218] 二重特異性抗体Ab1/Ab2をモデルとして選択し、以下の基準に基づいて鎖比の調整に対するコザック配列の効果を評価した。第1に、産物の分析と特性評価を容易にする、十分に特性評価されたプロセス開発プラットフォームがAb1/Ab2で利用可能であった。第2に、Ab1は発現が不十分な分子であり、転写プロセスの下流にボトルネックがあるが、Ab2は十分機能する分子の例である。これは、首尾のよい鎖対合を作成するためのコザック配列バリアントの能力を試験するための適切なシナリオである。
【0199】
[0219] 重鎖ヘテロ二量体化を優先的に促進するために、Ab2とAb1の両方の重鎖(HC)はそれぞれノブ変異及びホール変異を保有していた。点変異を使用して、軽鎖(LC)誤対合を軽減した(Dillon M, Yin Y, Zhou J, McCarty L, Ellerman D, Slaga D, et al. MAbs. 2017;9(2):213-30)。5つのコザック配列バリアントの先述のパネル下での重鎖と軽鎖の組み合わせを使用して、25の組み込み発現ベクターを発生させた(
図11)。50のプラスミドの混合物をCHO細胞中にトランスフェクトした(以下、コザック混合と称する)。このアプローチで生成された多様性は、潜在的な625の異なる鎖比の組み合わせに達した。基準値として、4本の鎖を、Wtコザック配列下でBsAbのクローン化し、CHO細胞中にトランスフェクトし、並行して保有した(以下、Wtコザックと称する)。各条件について2の異なるトランスフェクションを実施した。
【0200】
結果
[0220] トランスフェクション効率を、総IgGの細胞表面染色によってモニタリングし、FACS分析によって測定した。
図12は、同様のトランスフェクション効率が、コザック混合プールとWtコザックプールの両方について観察されたことを示す。発現プラスミドのトランスフェクション後、安定な細胞プールを薬物選択によって確立した。
図13A及び13Bに示すとおり、選択薬物の追加後(黒の矢印で示す)、コザック混合プールとWtコザックプールの両方について同様の細胞生存率が観察された。次に、各条件の各トランスフェクションの1つの安定したプールを選択し、単一細胞のクローニングを行った。回収後、プレートをクローン回収速度について分析し、1プール及び条件ごとに704の回収されたクローンを96ウェルプレートに採取した。採取細胞培養液(HCCF)力価に基づく一次スクリーニングでは、条件間でプロファイル及び絶対力価に違いを示した。コザック混合クローンは、Wtコザッククローンよりも絶対力価が低く、力価のより顕著な減少を示した(
図14A及び14B)。この結果は、コザック混合クローンにおいて計画された鎖比の組み合わせの多様性と一致するが、Wtコザッククローンのプロファイルは、1つの鎖比の組み合わせのみを保有するクローンについて予想どおりであった。HCCF力価、懸濁液適応、及びスケールアップに基づく数ラウンドのスクリーニングを完了して、各トランスフェクションのプールごと及び各条件について上位11のクローンを決定し、各条件で合計22のクローンを作成した。各コザック混合クローンは異なるコザック配列バリアントの組み合わせを保有する可能性を有するという事実により、及び、組み合わせ間の違いを理解するために、上位のクローンと比較して中程度及び低いHCCF力価を示したさらに7つのクローンも、さらなる分析のために選択した。
【0201】
実施例4:コザック配列バリアントの混合に由来する二重特異性の安定なクローンの振盪フラッシュパフォーマンス
[0221] 14日間の振盪フラスコフェッドバッチ産生を使用して、上の実施例3から選択された各個別のクローンの産生性及び二重特異性アセンブリを評価した。調査したすべてのクローンは、産生アッセイ全体で同等の生存率を示した。14日目の最終生存率は、74%の結果となった1つのコザック混合クローンを除き、両条件でおよそ80-95%であった(
図15A&15B)。同様に、すべての個別のクローンについて、生細胞数は、7日目まで指数関数的な成長速度を示し、その後プラトー期に達した(
図16A及び16B)。各クローンの全体的な力価について、産生物品質及び組み立て効率を14日目に測定した。
【0202】
[0222]
図17に示すとおり、個別のWtコザッククローンは、両トランスフェクションにおいて個別のコザック混合クローンよりも高い一般的な絶対的抗体力価を示した。この力価では、正しく組み合わされた二重特異性抗体、半抗体、及び他の望ましくない副産物がすべて表されることに留意されたい。産生物品質を評価するために、非還元キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)によりサンプルを分析して、分子量形態及び他の不純物についての情報を提供した。この技法は、2つのフォーマット:正しく組み立てられたBsAbと正しく組み立てられていないBsAbのフォーマットの完全抗体(full-ab)と同等視されたメインピークと、異なる分子量の他の種を表すプレピークの合計とを区別及び定量化を可能にした。概して、上位22のクローン中、Wtコザッククローンと比較して、完全ab形成の割合が高いコザック混合クローンは少ないことが観察された(
図18)。この結果は、鎖比の組み合わせは条件間で異なったが(Wtコザッククローン及びコザック混合クローンについてそれぞれ1対625)、同数の個別のクローンが各条件についてスクリーニング及び選択され、これは、産生物品質の高いWtコザッククローンをより多く見つけるのに有利に働いたという事実と一致している。完全抗体の割合はクローンごとにさまざまである。トランスフェクション2の4つの個別のコザック混合クローンは、完全抗体のおよそ60%の範囲であったが、その後30%まで低下した。
【0203】
[0223] トランスフェクション1の個別のコザック混合クローンのすべては、メインピークのおよそ30%を示した(
図18)。この結果は、コザック混合プールの鎖比の組み合わせの多様性において、その一部は完全abの産生に関して弱かったという事実と一致している。加えて、コザック混合クローンでは最高の抗体産生クローンのすべて(全体的な力価)が完全abの最高含有量と関連しているわけではない。
【0204】
[0224] 概して、最良の単一Wtコザッククローンは、完全ab産生の80-90%の範囲であった。コザック混合クローンと同様に、個別のWtコザッククローンは、クローンに応じてメインピークの割合のばらつきを示した。また、これらのクローンの高い全体的な力価とメインピークの高い含有量との間の相関関係も観察された(
図18)。
【0205】
[0225] 並行して、上位クローンと比較して中程度及び低いHCCF力価を有する7つの追加のクローンの産生における性能の評価を行った。これらのクローンの産生力価は、一次スクリーニングにおいて以前観察されたのと同様の挙動を示した(
図19)。CE-SDSデータは、産生物品質がクローンごとにさまざまであったことを示した。同じく、一般的な力価と完全抗体の最高含有量との間に直接的な相関関係はなかった。このやり方では、上位11のクローンと比較してより穏やかな力価を有する一部のコザック混合クローンは、約50-60%の完全abの同様の割合を示した(
図19B)。
【0206】
実施例5:コザック配列バリアントは、安定なクローンにおいて二重特異性アセンブリを増強した
[0226] 条件及びトランスフェクションごとのCE-SDS分析から上位4つのクローンを分析して、HC及びLCの誤対合を同定及び定量化した。タンパク質A親和性クロマトグラフィーを使用して細胞培養培地からIgGを回収し、得られたプールをインタクトな液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)によって分析した。データデコンボリューションの後、半抗体(HC+LC)、ホモ二量体(同じHCの2つ)、及び誤対合LC-HC種を含む複数の産生物関連バリアントを同定した。方法のセクションで報告された計算を使用して、LC-MSデータを使用してCE-SDSの結果を直交的に重み付けし、同様の質量を有するためにCE-SDSで分析的に重複する種の割合を報告した。
【0207】
結果
[0227] 7つの異なる二重特異性抗体フォーマット及び3つの半抗体フォーマットを区別及び定量化した(
図20A)。最良の個別のコザック混合クローンは、正しく組み立てられたBsAbの約40%を示した。これは最良の個別のWtコザッククローンで観察されたもの(約18%)の2倍超である(
図20A)。一つ一つのコザック混合クローンがコザック配列バリアントの異なる組み合わせを潜在的に保有するため、すべてのクローンは異なる割合のBsAbアセンブリを示したが、同じ組み合わせを保有するWtコザッククローンは同様の量のBsAbアセンブリを示した。注目すべきは、正しく組み立てられていない二重特異性フォーマットAb1 -HC + Ab2 -HC + 2x Ab2 -LC(軽鎖の誤対合を有した)は、Wtコザッククローンによって産生された完全抗体の41%から64%の範囲であった(
図20A)。これらのデータは、単一細胞産生を使用するときにBsAbアセンブリを達成するために軽鎖の比を調整することの重要性を指摘している。CE-SDSによって測定された、最低の完全ab形成収率を有するコザック混合クローンの質量分析による分析は、それらのクローンの産生材料の大部分が半abであることを確認した。フォーマットは、Ab1 -HC + Ab2 -LC及び ホール半Ab1であった。これらのクローンによって示されたBsAbフォーマットは、ほとんどは正しく組み立てられていないBsAb 2x Ab1 -HC + 2x Ab2 -LCであり、少ない割合がBsAbフォーマット2xAb2 -HC + Ab1 -LC + Ab2 -LCであった(
図20A)。
【0208】
[0228] 各フォーマットのパーセンテージを理解して、有効な二重特異性力価を計算した(
図20B)。一部のコザック混合クローンはWtコザッククローンよりもBsAbの組み立てが高いという事実により、コザック混合クローンは、先に示されている一般的な力価の不足を打開する(
図17及び
図20A-20B)。効果的な二重特異性力価は、最良のWtコザッククローン及びコザック混合クローンについてそれぞれ0.7g/L及び0.6g/Lの条件ごとに最良のクローン間で同様であった。すべてのコザック混合クローンが異なるコザックバリアントの組み合わせを潜在的に保有するため、各クローンは、異なる割合のbsAbアセンブリを示したが、同じ組み合わせを保有するWTコザッククローンは、bsAb組み立てのはるかに狭い範囲を示した(
図20A)。注目すべきは、正しく組み立てられていない二重特異性フォーマットAb2 HC + Ab1 HC + 2x Ab2 LC(軽鎖の誤対合を有した)は、Wtコザッククローンによって産生された完全abの41-64%の範囲であった(
図20A)。これらのデータは、単一細胞産生を使用するときに正しいbsAbアセンブリを達成するために軽鎖の翻訳レベルを調整することの重要性を指摘している。
【0209】
[0229] しかしながら、
図20Bに示すとおり、コザッククローンは、Wtコザッククローンと比較して、精製中に除去されるべき少量の不純物を示す。一部のコザック混合クローンはWtコザッククローンよりもBsAbの組み立てが高いという事実により、一部のコザック混合クローンは、
図17で先に示されている一般的な力価の不足を打開する。重要なことに、コザック混合クローンはまた、WTコザッククローンよりも少量の産生物関連不純物を示した(
図20B)。多数にほぼ同一の潜在的な副産物からの正しく組み立てられたbsAbの精製は困難である。副産物の一部は標的bsAbと酷似しているため、下流でのそれらの除去は、多くの場合、収率又は産生物品質を犠牲にして行われる。目的の産生物とこれらの固有の不純物を差別化するために新しい分析方法が必要であったが、それらには高コストの製造及び複雑な技術が必要である。コザック混合クローンは、不純物及び産生物関連バリアント形成を最小限に抑え(
図20B及び22B)、このアプローチが単一細胞においてbsAbを産生する利益を実証した。
【0210】
[0230] これらのデータは、コザック配列バリアントを使用して翻訳強度を調整することによって、CHO細胞において、二重特異性抗体の組み立てが改善され、産生物関連不純物が減少することを示す。
【0211】
実施例6:コザック配列バリアントで鎖比を調整することにより高収率のBsAbが産生される
[0231] BsAbの組み立て効率及び産生物品質に関してコザック混合クローン間で観察された異質性及び多様性は、各クローンが異なるコザック配列バリアント下で鎖発現を有することを示唆した。各クローンが最良の組み合わせを有する及び決定するコザック組み合わせを同定するために、29のコザック混合クローンの配列決定を実施した。
【0212】
結果
[0232] データは、産生物の収率が低いコザック混合クローンが、最弱のコザック配列バリアントKz.135及びKz.3のどちらかの下でAb2の重鎖の発現を有し、鎖の残りがWt又は最強コザック配列バリアントのいずれかを有することを示した(
図21A-21B)。結果として、不十分な量のAb2の重鎖が生成された可能性が高く、結果的に、最終産生物は、優先的には、Ab1 -HC + Ab2 -LCのフォーマットの半ab、又はホール半Ab2であった(
図20A)。言い換えれば、完全abアセンブリを損なう前に重鎖の発現を減少させることができる範囲があった。
【0213】
[0233] あるいは、Wtコザックと最強のコザック配列バリアントの両方の組み合わせが4本の鎖の発現を調節するとき、コザック混合クローンは、高い力価を有する高いBsAb組み立てを示した(
図21A)。一方、WTコザックと最強のコザック配列バリアント(Kz.228;1.3の相対強度)との両方の組み合わせが4本の鎖の発現を調節するとき、コザック混合クローンは、高いbsAb組み立て及び効果的な力価を示した(
図20A及び21A、コザック混合クローン69、61、及び88)。興味深いことに、それぞれコザック混合クローン69及びコザック混合クローン61によって示される、Ab1の軽鎖の1.3x倍対Ab2の軽鎖の1.0x倍、又はその逆のわずかな軽鎖比は、WTコザッククローンで観察されたAb2軽鎖誤対合を著しく減少させた(
図20A;Ab2 HC + Ab1 HC + 2x Ab2 LC)。これらのデータは、選択された鎖の翻訳の減少が、他の鎖の翻訳レベルと比べて、bsAbアセンブリを効率的に増加させることができ、亜種の蓄積を制限することによって全体的な産生物の品質を改善できることを示唆した。しかしながら、最強のコザック配列バリアント下での軽鎖のいずれかの発現は、より正確に組み立てられたBsAbの代わりに、その鎖によって構成されるより多くの副産物の産生を促進した。例えば、最強のコザック配列下で軽鎖Ab1を有するコザッククローン69は、ホール 1/2 Ab1として産生物の約30%を示した(
図20A)。この観察結果は、BsAbの製造には、二重特異性フォーマットにマージするために化学量論的な鎖対合が必要であるという事実と一致していた。この点では、タンパク質産生系の飽和は、亜種の蓄積をもたらし得る。
【0214】
[0234] これを考慮すると、理論に拘束されることを望まないが、翻訳の減少は、亜種の蓄積を防止することができ、収率の上昇をもたらすことができると考えられる。この結論と一致して、上位クローンの力価の半分で実施され、弱いコザック配列、バリアント#135下でAb1の重鎖と軽鎖の両方を保有した1つの組み合わせは、検出された最高の二重特異性組み合わせを示した(
図22D)。このクローンのCE-SDSデータは、産生品質が、完全abの約48%及び半abの約52%であることを示した。MSデータは、完全abの100%が二重特異性フォーマットのみに対応することを示した。これは正しく組み立てられたBsAbの約50%である。一方、半ab種のほぼすべてはノブ1/2 Ab2であった(
図22A-22B)。これは、Ab2の重鎖及び軽鎖は、それぞれ、Wtコザック配列及び最強のコザック配列バリアント#228の下にあったという事実と一致している。したがって、特定の範囲内では、産生プロセス中に翻訳の下流でボトルネックを示す可能性が高い分子の両鎖の発現の下方制御は、組み立て効率に好影響を有した。
【0215】
[0235] 一次HCCF力価は中程度であったが、クローン17Mは先に進められた追加のクローンの1つであった。このクローンは、上位コザッククローンの効果的な力価のおよそ半分のみを有したが、約48%で最高の二重特異性アセンブリを示した。MSデータは、完全abの100%が正しい二重特異性フォーマットにのみ対応し、半ab種がほぼ独占的にノブ1/2 mAb2に限定されていることを示した(
図22A及び22B)。
【0216】
[0236] これらのデータは、配列決定の結果から説明することができる(
図22C)。Ab1の重鎖及び軽鎖の両方は弱いコザックバリアント(Kz.135)下にあったが、先に記載したとおり、Ab1は分子を発現するのが困難である。両鎖の下方制御は、およそ0.5の相対強度を有するKz.135を使用する場合、タンパク質の折り畳みなどの翻訳の下流のボトルネックを緩和することができ、組み立て効率に好影響をもたらした。Ab2に関して、重鎖及び軽鎖は、それぞれ、より強いコザック配列である、WTコザック及び最強のコザックバリアント(Kz.228)の下にあった(
図22C)。
【0217】
[0237] この組み合わせは、aAb1のより弱いコザック配列と併せて、他の種の有意な蓄積を制限しながら、Ab2半abの蓄積をもたらす。
【0218】
[0238] 同じやり方で、上位クローンと比較して中程度及び低いHCCF力価を有する7つの追加のクローンの配列決定を行った。概して、両方の分子のほとんどの鎖の発現は、これらのクローンの中で最弱のコザック配列バリアントによって制御されていることが観察された(
図21C)。この結果は、上位クローンと比較して、これらのクローンのパフォーマンスが低いことを裏付けている。
【0219】
[0239] Ab種及びBsAbフォーマットを解明するために、上位11のクローンとは大きく異なるコザック配列バリアントの組み合わせを保有するこれらのコザック混合クローンのうちの5つを質量分光光度法によって分析した。コザック混合クローン17を除き、BsAbアセンブリの割合は10%未満であった。各種の絶対的存在数は、各鎖の発現強度と相関した(
図22D)。
【0220】
[0240] 先述の開示を、理解を明確にする目的で、説明及び実施例によってある程度詳細に記載してきたが、その記載及び実施例は、本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではない。本明細書に引用されるすべての特許及び科学文献の開示は、その全体が参照により明示的に組み込まれる。