(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106424
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】固体電解質材料、および、電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20230725BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230725BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230725BHJP
C01G 35/00 20060101ALI20230725BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
C01G35/00 Z
C01G33/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074276
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019563946の分割
【原出願日】2018-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018000431
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
(72)【発明者】
【氏名】境田 真志
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供する。
【解決手段】固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表される。
Li3-3δ-2aY1+δ-aMaCl6-x-yBrxIy・・・式(1)
ここで、Mは、Ta、及びNbからなる群より選択される少なくとも1種であり、
-1<δ<1、
0<a<1.2、
0<(3-3δ-2a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、及び
(x+y)≦6、
を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の組成式(1)により表され、
Li3-3δ-2aY1+δ-aMaCl6-x-yBrxIy ・・・式(1)
ここで、Mは、Ta、及びNbからなる群より選択される少なくとも1種であり、
-1<δ<1、
0<a<1.2、
0<(3-3δ-2a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、及び
(x+y)≦6、
を満たす、
固体電解質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質材料、および、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫化物固体電解質を用いた全固体電池が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、Li3YCl6が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、Li3YBr6が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Z.Anorg.Allg.Chem.623(1997)、1067-1073.
【非特許文献2】Z.Anorg.Allg.Chem.623(1997)、1352-1356.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術においては、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一様態における固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表され、
Li3-3δ-2aY1+δ-aMaCl6-x-yBrxIy ・・・式(1)
ここで、Mは、Ta、及びNbからなる群より選択される少なくとも1種であり、
-1<δ<1、
0<a<1.2、
0<(3-3δ-2a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、及び
(x+y)≦6、
を満たす。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態2における電池の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、イオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ACインピーダンス測定によるイオン伝導度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1における固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表される固体電解質材料である。
Li3-3δ-2aY1+δ-aMaCl6-x-yBrxIy・・・式(1)
ここで、Mは、Ta、及びNbからなる群より選択される少なくとも1種である。
さらに、
-1<δ<1、
0<a<1.2、
0<(3-3δ-2a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、及び
(x+y)≦6、
が満たされる。
【0013】
以上の構成によれば、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料であるハロゲン化物固体電解質材料を実現できる。
【0014】
また、以上の構成によれば、実施の形態1の固体電解質材料を用いることで、充放電特性に優れた全固体二次電池を実現することができる。また、実施の形態1の固体電解質材料を用いることで、硫黄を含まない全固体二次電池を実現することができる。すなわち、実施の形態1の固体電解質材料は、大気に曝露された際に硫化水素が発生する構成(例えば、特許文献1の構成)ではない。このため、硫化水素の発生が無く、安全性に優れた全固体二次電池を実現することができる。
【0015】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、上記の組成式(1)において、0.025≦a≦0.7、を満たしてもよい。
【0016】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【0017】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、上記の組成式(1)において、0.05≦a≦0.5、を満たしてもよい。
【0018】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【0019】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、上記の組成式(1)において、-0.5≦δ≦0.5、を満たしてもよい。
【0020】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【0021】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、上記の組成式(1)において、-0.3≦δ≦0.2、を満たしてもよい。
【0022】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【0023】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、結晶質であっても、非晶質であってもよい。
【0024】
また、実施の形態1における固体電解質材料の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、針状、球状、楕円球状など、であってもよい。例えば、実施の形態1における固体電解質材料は、粒子であってもよい。複数の粒子を積層した後、加圧によりペレット状もしくは板状に成形してもよい。
【0025】
例えば、実施の形態1における固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)の場合、メジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。
【0026】
また、実施の形態1においては、メジアン径は0.5μm以上かつ10μm以下であってもよい。
【0027】
以上の構成によれば、イオン伝導性をより高めることができる。また、実施の形態1における固体電解質材料と活物質などとのより良好な分散状態を形成できる。
【0028】
また、実施の形態1においては、固体電解質材料は、活物質のメジアン径より小さくてもよい。
【0029】
以上の構成によれば、実施の形態1における固体電解質材料と活物質などとのより良好な分散状態を形成できる。
【0030】
<固体電解質材料の製造方法>
実施の形態1における固体電解質材料は、例えば、下記の方法により、製造されうる。
【0031】
目的とする組成の配合比となるような二元系ハロゲン化物の原料粉を用意する。例えば、Li2.8Y0.9Ta0.1Cl6を作製する場合には、LiClとYCl3とTaCl5を、2.8:0.9:0.1程度のモル比で用意する。合成プロセス過程における組成の変化を考慮して、変化分を相殺するようにあらかじめ配合比を調整してもよい。原料と配合比と合成プロセスを調整することで、上述の値「δ」、「a」、「x」、「y」を調整できる。
【0032】
原料粉をよく混合した後、メカノケミカルミリングの方法を用いて原料粉同士を混合・粉砕・反応させる。その後、真空中または不活性雰囲気中で焼成してもよい。
【0033】
もしくは、原料粉をよく混合した後、真空中または不活性雰囲気中で焼成してもよい。焼成条件は、例えば、100℃から650℃の範囲内で、1時間以上の焼成を行うことが好ましい。
【0034】
これにより、前述したような組成を含む固体電解質材料が得られる。
【0035】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0036】
実施の形態2における電池は、上述の実施の形態1で説明された固体電解質材料を用いて構成される。
【0037】
実施の形態2における電池は、正極と、負極と、電解質層と、を備える。
【0038】
電解質層は、正極と負極との間に設けられる層である。
【0039】
正極と電解質層と負極とのうちの少なくとも1つは、実施の形態1における固体電解質材料を含む。
【0040】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を向上させることができる。
【0041】
以下に、実施の形態2における電池の具体例が、説明される。
【0042】
図1は、実施の形態2における電池1000の概略構成を示す断面図である。
【0043】
実施の形態2における電池1000は、正極201と、負極203と、電解質層202とを備える。
【0044】
正極201は、正極活物質粒子204と固体電解質粒子100とを含む。
【0045】
電解質層202は、正極201と負極203との間に配置される。
【0046】
電解質層202は、電解質材料(例えば、固体電解質材料)を含む。
【0047】
負極203は、負極活物質粒子205と固体電解質粒子100とを含む。
【0048】
固体電解質粒子100は、実施の形態1における固体電解質材料からなる粒子、または、実施の形態1における固体電解質材料を主たる成分として含む粒子である。
【0049】
正極201は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出する特性を有する材料を含む。正極201は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子204)を含む。
【0050】
正極活物質には、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物(例えば、Li(NiCoAl)O2、LiCoO2、など)、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物、など、が用いられうる。
【0051】
正極活物質粒子204のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。正極活物質粒子204のメジアン径が0.1μm以上の場合、正極において、正極活物質粒子204とハロゲン化物固体電解質材料とが、良好な分散状態を形成し得る。この結果、電池の充放電特性が向上する。また、正極活物質粒子204のメジアン径が100μm以下の場合、正極活物質粒子204内のリチウム拡散が速くなる。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0052】
正極活物質粒子204のメジアン径は、ハロゲン化物固体電解質材料のメジアン径よりも、大きくてもよい。これにより、正極活物質粒子204とハロゲン化物固体電解質材料との良好な分散状態を形成できる。
【0053】
正極201に含まれる、正極活物質粒子204とハロゲン化物固体電解質材料の体積比率「v:100-v」について、30≦v≦95であってもよい。30≦vの場合、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。また、v≦95では、高出力での動作を実現し得る。
【0054】
正極201の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。なお、正極201の厚みが10μm以上の場合には、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。なお、正極201の厚みが500μm以下の場合には、高出力での動作を実現し得る。
【0055】
電解質層202は、電解質材料を含む層である。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。すなわち、電解質層202は、固体電解質層であってもよい。
【0056】
なお、固体電解質層は、上述の実施の形態1における固体電解質材料を、主成分として、含んでもよい。すなわち、固体電解質層は、上述の実施の形態1における固体電解質材料を、例えば、固体電解質層の全体に対する重量割合で50%以上(50重量%以上)、含んでもよい。
【0057】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0058】
また、固体電解質層は、上述の実施の形態1における固体電解質材料を、例えば、固体電解質層の全体に対する重量割合で70%以上(70重量%以上)、含んでもよい。
【0059】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0060】
なお、固体電解質層は、上述の実施の形態1における固体電解質材料を主成分として含みながら、さらに、不可避的な不純物、または、上述の固体電解質材料を合成する際に用いられる出発原料および副生成物および分解生成物など、を含んでいてもよい。
【0061】
また、固体電解質層は、実施の形態1における固体電解質材料を、例えば、混入が不可避的な不純物を除いて、固体電解質層の全体に対する重量割合で100%(100重量%)、含んでもよい。
【0062】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0063】
以上のように、固体電解質層は、実施の形態1における固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0064】
もしくは、実施の形態1における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。実施の形態1における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料として、例えば、Li2MgX4、Li2FeX4、Li(Al,Ga,In)X4、Li3(Al,Ga,In)X6、LiI、など(X:Cl,Br,I)、が用いられうる。
【0065】
固体電解質層は、実施の形態1における固体電解質材料と、上述の実施の形態1における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料とを、同時に含んでもよい。このとき、両者が均一に分散していてもよい。実施の形態1における固体電解質材料からなる層と、上述の実施の形態1における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料からなる層とが、電池の積層方向に対して、順に配置されていてもよい。
【0066】
固体電解質層の厚みは、1μm以上かつ100μm以下であってもよい。固体電解質層の厚みが1μm以上の場合には、正極201と負極203とを分離できる。また、固体電解質層の厚みが100μm以下の場合には、高出力での動作を実現し得る。
【0067】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出する特性を有する材料を含む。負極203は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子205)を含む。
【0068】
負極活物質には、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物、など、が使用されうる。金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金、など、が挙げられる。炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素、など、が挙げられる。容量密度の観点から、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、錫化合物、を使用してもよい。平均反応電圧が低い負極活物質を用いた場合に、実施の形態1における固体電解質材料による電気分解抑制の効果が、より良く発揮される。
【0069】
負極活物質粒子205のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。負極活物質粒子205のメジアン径が0.1μm以上の場合、負極において、負極活物質粒子205と固体電解質粒子100とが、良好な分散状態を形成し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。また、負極活物質粒子205のメジアン径が100μm以下の場合、負極活物質粒子205内のリチウム拡散が速くなる。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0070】
負極活物質粒子205のメジアン径は、固体電解質粒子100のメジアン径よりも、大きくてもよい。これにより、負極活物質粒子205とハロゲン化物固体電解質材料との良好な分散状態を形成できる。
【0071】
負極203に含まれる、負極活物質粒子205と固体電解質粒子100の体積比率「v:100-v」について、30≦v≦95であってもよい。30≦vでは、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。また、95≦vでは、高出力での動作を実現し得る。
【0072】
負極203の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。負極の厚みが10μm以上の場合には、十分な電池のエネルギー密度を確保し得る。また、負極の厚みが500μm以下の場合には、高出力での動作を実現し得る。
【0073】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、イオン伝導性または化学的安定性・電気化学的安定性を高める目的で、硫化物固体電解質または酸化物固体電解質が含まれてもよい。硫化物固体電解質として、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-B2S3、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li10GeP2S12、など、が用いられうる。酸化物固体電解質として、LiTi2(PO4)3およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe4O16、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr2O12およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3NおよびそのH置換体、Li3PO4およびそのN置換体、など、が用いられうる。
【0074】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、有機ポリマー固体電解質が含まれてもよい。有機ポリマー固体電解質として、例えば高分子化合物と、リチウム塩との化合物が用いられうる。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができ、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。
【0075】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、イオン液体が含まれてもよい。
【0076】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒、など、が使用されうる。環状炭酸エステル溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、など、が挙げられる。鎖状炭酸エステル溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、など、が挙げられる。環状エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、など、が挙げられる。鎖状エーテル溶媒の例としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、など、が挙げられる。環状エステル溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、など、が挙げられる。鎖状エステル溶媒の例としては、酢酸メチル、など、が挙げられる。フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネート、など、が挙げられる。非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒が含まれていてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5から2mol/リットルの範囲にある。
【0077】
ゲル電解質は、ポリマー材料に非水電解液を含ませたものを用いることができる。ポリマー材料として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、エチレンオキシド結合を有するポリマー、など、が用いられてもよい。
【0078】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級塩類、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6
-、BF4
-、SbF6-
-、AsF6
-、SO3CF3
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、N(SO2CF3)(SO2C4F9)-、C(SO2CF3)3
-などであってもよい。また、イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0079】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤が含まれてもよい。結着剤は、電極を構成する材料の結着性を向上するために、用いられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、など、が挙げられる。また、結着剤としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、およびヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体が用いられうる。また、これらのうちから選択された2種以上が混合されて、結着剤として用いられてもよい。
【0080】
また、正極201および負極203のうちの少なくとも一方は、必要に応じて、導電助剤を含んでもよい。
【0081】
導電助剤は、電極抵抗を低減するために、用いられる。導電助剤としては、天然黒鉛または人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維または金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛またはチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物、など、が挙げられる。なお、導電助剤として、炭素導電助剤を用いることで、低コスト化が図れる。
【0082】
なお、実施の形態2における電池は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型、など、種々の形状の電池として、構成されうる。
【実施例0083】
以下、実施例および比較例を用いて、本開示の詳細が説明される。
【0084】
≪実施例1≫
[固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、原料粉LiClとYCl3とTaCl5とを、モル比でLiCl:YCl3:TaCl5=2.9:0.95:0.05となるように、秤量した。これらを乳鉢で粉砕して混合した。その後、遊星型ボールミルを用い、25時間、600rpmでミリング処理した。
【0085】
以上により、Li2.9Y0.95Ta0.05Cl6の組成式で表される実施例1の固体電解質材料の粉末を得た。
【0086】
実施例1の固体電解質材料全体における単位重量あたりのLiの含有量を原子吸光分析法で測定し、Yの含有量をICP発光分光分析法で測定し、Li:Y:Taの含有量をモル比に換算した。Li:Y:Taの比は、仕込み通り、2.9:0.95:0.05であった。
【0087】
[リチウムイオン伝導度の評価]
図2は、イオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
【0088】
加圧成形用ダイス300は、電子的に絶縁性のポリカーボネート製の枠型301と、電子伝導性のステンレス製のパンチ上部303およびパンチ下部302とから構成される。
【0089】
図2に示す構成を用いて、下記の方法にて、イオン伝導度の評価を行った。
【0090】
露点-30℃以下のドライ雰囲気で、実施例1の固体電解質材料の粉末を加圧成形用ダイス300に充填し、400MPaで一軸加圧し、実施例1の伝導度測定セルを作製した。
【0091】
加圧状態のまま、パンチ上部303とパンチ下部302のそれぞれから導線を取り回し、周波数応答アナライザを搭載したポテンショスタット(Princeton Applied Research社 VersaSTAT4)に接続し、電気化学的インピーダンス測定法により、室温におけるイオン伝導度の測定を行った。
【0092】
インピーダンス測定結果のCole-Cole線図を
図3に示す。
【0093】
図3において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点(
図3中の矢印)のインピーダンスの実数値を実施例1の固体電解質のイオン伝導に対する抵抗値とみなした。
【0094】
電解質の抵抗値を用いて、下記式(2)より、イオン伝導度を算出した。
σ=(R
SE×S/t)
-1 ・・・(2)
ここで、σはイオン伝導度、Sは電解質面積(
図2中、枠型301の内径)、R
SEは上記のインピーダンス測定における固体電解質の抵抗値、tは電解質の厚み(
図2中、複数の固体電解質粒子100の圧縮体の厚み)である。
【0095】
25℃で測定された、実施例1の固体電解質材料のイオン伝導度は、4.7×10-4S/cmであった。
【0096】
[二次電池の作製]
アルゴングローブボックス内で、実施例1の固体電解質材料と、活物質であるLiCoO2を、70:30の体積比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、合剤を作製した。
【0097】
絶縁性外筒の中で、実施例1の固体電解質材料を700μm厚相当分、上述の合剤を9.6mg、Al粉末を14.7mgの順に積層した。これを300MPaの圧力で加圧成型することで、第1電極と固体電解質層を得た。
【0098】
次に、固体電解質層の第1電極と接する側とは反対側に、金属In(厚さ200μm)を積層した。これを80MPaの圧力で加圧成型することで、第1電極、固体電解質層、および第2電極からなる積層体を作製した。
【0099】
次に、積層体の上下にステンレス鋼集電体を配置し、集電体に集電リードを付設した。
【0100】
最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性外筒内部を外気雰囲気から遮断・密閉した。
【0101】
以上により、実施例1の二次電池を作製した。
【0102】
[充放電試験]
図4は、初期放電特性を示すグラフである。
【0103】
図4に示される結果は、下記の方法により、測定された。
【0104】
すなわち、実施例1の二次電池を、25℃の恒温槽に、配置した。
【0105】
電池の理論容量に対して0.05Cレート(20時間率)となる電流値で、定電流充電し、電圧3.6Vで充電を終了した。
【0106】
次に、同じく0.05Cレートとなる電流値で、放電し、電圧1.9Vで放電を終了した。
【0107】
以上の測定の結果、実施例1の二次電池の初期放電容量は、714μAhであった。
【0108】
≪実施例2から26≫
以下、Li3-3δ-2aY1+δ-aMaCl6-x-yBrxIyの合成および評価方法について説明する。
【0109】
[固体電解質材料の作製]
実施例2から26においては、露点-90℃以下、酸素値5ppm以下のドライ・低酸素雰囲気で保たれるグローブボックス内で、原料粉を秤量した。
【0110】
実施例2から21においては、原料粉LiClとYCl3とMCl5とを、モル比でLiCl:YCl3:MCl5=(3-3δ-2a):(1+δ-a):aとなるように、秤量した。
【0111】
実施例22においては、原料粉LiBrとYBr3とTaBr5とを、モル比でLiBr:YBr3:TaBr5=2.8:0.9:0.1となるように、秤量した。
【0112】
実施例23と24においては、原料粉LiBrとYCl3とYBr3とMCl5とを、モル比でLiBr:YCl3:YBr3:MCl5=(3-2a):(1-5/3a):2/3a:aとなるように、秤量した。
【0113】
実施例25と26においては、原料粉LiIとLiBrとYCl3とYBr3とMCl5とを、モル比でLiI:LiBr:YCl3:YBr3:MCl5=2:(1-2a):(2/3-5a/3):((1+2a)/3):aとなるように、秤量した。
【0114】
実施例2から26のそれぞれにおける「δの値」、「aの値」、「Mの元素種」は、後述の表1に示される。
【0115】
実施例11と12に関しては、ボールミルを行った後に、Ar雰囲気下で、150℃で1時間の熱処理を行った。
【0116】
これら以外は、上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から26のそれぞれの固体電解質材料を作製した。
【0117】
[リチウムイオン伝導度の評価]
露点-90℃以下、酸素値5ppm以下のドライ・低酸素雰囲気で保たれるグローブボックス内で、上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から26のそれぞれの伝導度測定セルを作製した。
【0118】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、イオン伝導度の測定を行った。
【0119】
上述の実施例2から26におけるイオン伝導度は、後述の表1に示される。
【0120】
[二次電池の作製]
露点-90℃以下、酸素値5ppm以下のドライ・低酸素雰囲気で保たれるグローブボックス内で、実施例2から26のそれぞれの固体電解質材料と、正極活物質であるLiCoO2を、30:70の体積比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、実施例2から26のそれぞれの正極合剤を作製した。
【0121】
これら以外は、上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から26のそれぞれの二次電池を作製した。
【0122】
[充放電試験]
上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から26のそれぞれの二次電池の充放電試験を行った。
【0123】
実施例2から26の初期放電特性は、それぞれ、実施例1と同様の特性を示し、良好な充放電特性を得た。
【0124】
≪比較例1≫
固体電解質の原料粉として、LiClとFeCl2とを用いて、LiCl:FeCl2=2:1のモル比で混合した。
【0125】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、それぞれの合成、評価および解析を、実施した。
【0126】
22℃で測定されたイオン伝導度は、9×10-6S/cmであった。
【0127】
また、合剤と固体電解質層に用いる固体電解質として、実施例2の固体電解質材料を用いた。
【0128】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、二次電池の作製および充放電試験を、実施した。
【0129】
比較例1の二次電池の初期放電容量は、1μAh以下で、充放電動作は、確認できなかった。
【0130】
上述の実施例1から26および比較例1における各構成と各評価結果とが、表1に示される。
【0131】
【0132】
≪考察≫
実施例1から26は、比較例1と比較して、室温近傍において、1×10-5S/cm以上の高いイオン伝導性を示すことがわかる。
【0133】
特に、式(1)で定義されるMの置換量aの値が0.025≦a≦0.7の範囲であれば、より高いイオン伝導性を示す。実施例1から6、13から17を比較すると、aの値が0.05≦a≦0.5の範囲であれば、より高いイオン伝導性を示す。
【0134】
又、化学量論比からのLi欠損量を示すδの値が-0.5≦δ≦0.5であれば、より高いイオン伝導性を示す。実施例7から10、18から21を比較すると、δの値が-0.3≦δ≦0.2の範囲であれば、より高いイオン伝導性を示す。
【0135】
また、実施例1から26においては、いずれも室温において電池の充放電動作を示した。一方で、比較例1においては、放電容量がほとんど取れず、電池動作の確認ができなかった。さらに、実施例1から26の材料は、構成元素に硫黄を含まないため、硫化水素の発生がない。
【0136】
以上により、本開示による固体電解質材料は、硫化水素の発生が無く、かつ、高いリチウムイオン伝導度を示し、良好な充放電動作をすることができる電解質材料であることが示される。